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特開2024-55231相対位置検出システム、相対位置検出方法及び位相検出装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055231
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】相対位置検出システム、相対位置検出方法及び位相検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/46 20100101AFI20240411BHJP
【FI】
G01S19/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161995
(22)【出願日】2022-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】518212241
【氏名又は名称】公立大学法人公立諏訪東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】小林 誠司
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062CC07
5J062EE04
5J062FF01
(57)【要約】
【課題】GNSS衛星からの電波を使って、誤差数cm程度の高精度位置測位を可能とする、相対位置検出システム及び相対位置検出方法を提供する。また搬送位相検出を低消費電力で実現する位相検出装置を提供する。
【解決手段】本発明の相対位置検出システム及び相対位置検出方法は、所定のUTC時刻に正確に一致した時刻で搬送波位相の瞬時値を検出し、取り得る全ての組み合わせの衛星ペアに関して前記瞬時値を用いて評価指標を求めることによって高精度の測位を実現する。また本発明の位相検出装置は、搬送波位相のサンプリング時刻を補正して搬送波位相の瞬時値を得ることにより、低消費電力でありながらUTC時刻に一致した搬送波位相のサンプリングを実現する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナと、
前記複数のアンテナのそれぞれに接続され複数のGNSS衛星からの電波を受信して搬送波位相の瞬時値を検出する位相検出装置と、
前記搬送波位相の瞬時値を用いて前記複数のアンテナ間の相対位置ベクトルを測位する測位手段とを備え、
前記測位手段(4)は、
前記複数のGNSS衛星から抽出した2つの衛星からなる衛星ペアに関して前記搬送波位相の瞬時値の差分を演算して二重位相差を求める二重位相差演算手段と、
前記GNSS衛星の衛星位置を取得する衛星位置情報取得手段と、
前記二重位相差と前記衛星位置を用いて前記相対位置ベクトルの評価指標を求める評価手段と、
異なる前記衛星ペアに関する前記評価指標を統合して総合評価指標を演算する総合評価手段を含むことを特徴とする相対位置検出システム。
【請求項2】
前記評価手段は、
前記衛星ペアに関わる格子ベクトルを求める格子ベクトル演算手段と、
前記格子ベクトルと前記相対位置ベクトルとの内積を演算して理論二重位相差を求める理論二重差演算手段と、
前記理論二重位相差と前記二重位相差との差異を評価して前記評価指標を出力する位相差評価手段とを含むことを特徴とする請求項1に記載の相対位置検出システム。
【請求項3】
前記総合評価手段による総合評価は、取り得る衛星ペアの全ての組み合わせに対する評価指標を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の相対位置検出システム。
【請求項4】
前記搬送波位相の瞬時値は、変化幅が2πラジアンの範囲内にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の相対位置検出システム。
【請求項5】
複数のアンテナにそれぞれ接続した複数の位相検出装置を用いて複数のGNSS衛星からの電波を受信して搬送波位相の瞬時値を検出し、前記搬送波位相の瞬時値を用いてアンテナ間の相対位置ベクトルPを測位する相対位置検出方法(4)であって、
前記測位は、
衛星ペアに関する前記搬送波位相の瞬時値を用いて二重位相差を求め、
前記複数のGNSS衛星の衛星位置を取得し、
前記二重位相差と前記衛星位置を用いて前記相対位置ベクトルの評価指標を求め、
複数の前記衛星ペアに関する前記評価指標を総合的に評価して前記相対位置ベクトルを測位結果とすることを特徴とする相対位置検出方法。
【請求項6】
複数のGNSS衛星から送出される電波を受信するとともに、装置時刻における複数のGNSS衛星の搬送波位相、搬送波オフセット周波数、コード情報及び疑似距離を検出する衛星信号受信部と、
前記コード情報と前記疑似距離を用いて前記装置時刻の誤差を求める時刻誤差取得部、
前記複数の衛星信号受信部から得られた搬送波オフセット周波数及び前記装置時刻誤差を用いて、前記搬送波位相を補正して所定時刻における前記搬送波位相の瞬時値を計算する瞬時位相計算部と、
前記搬送波位相の瞬時値を伝送するデータ伝送部とを含むことを特徴とする位相検出装置。
【請求項7】
前記瞬時位相計算部は、前記搬送波位相の瞬時値を0~2πラジアンの範囲に限定することを特徴とする請求項6に記載の位相検出装置。
【請求項8】
前記データ伝送部は、前記搬送波位相の瞬時値に加えて前記コード情報から検出される位置情報(緯度・経度・高度)を伝送することを特徴とする前記請求項6又は7に記載の位相検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対位置検出システム、相対位置検出方法及び位相検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地滑り等の災害が発生しそうな危険地帯においては、地盤や構造物のわずかな変位を監視するためにGPS(Global Positioning System)、またはGNSS(Global Navigation Satellite System)を用いた地盤監視システムが提案されている。ここでGPSは米国が運営する人工衛星システムを表す用語であり、GNSSは米国を含めて日本、ヨーロッパ、中国などの国々が打ち上げた人工衛星システムを表す用語である。本発明ではGNSSに統一して説明するが、本発明がGPSに適用できることは言うまでもない。
【0003】
GNSSの位置検出方法は、コード情報を検出する方法と、搬送波位相を検出する方法の2通りに大別できる。カーナビゲーションなど、広く一般的に用いられているのはコード情報を検出する方法である。GNSS衛星から送られるコード情報は約1MHzで変化するので、数メートル~十メートル程度の精度で地球上の位置(緯度、経度及び高度)を知ることができる。
【0004】
コード情報により位置だけでなく正確な時刻(GPS時刻)も検出できる。例えば市販GNSS受信機はGPS時刻に同期したパルス(1PPS)を提供している場合が多い。1PPSはGNSS受信機が地球上のどこにあってもGPS時刻に誤差10ナノ秒程度の高精度で合致している時刻パルスである。
【0005】
GPS時刻に閏秒補正を施せば全世界共通のUTC(Coordinated Universal Time)に変換できる。またUTCに9時間を加えれば日本標準時(JST)に変換できる。以降ではGNSS受信機がUTCを検出するものとして説明するが、UTCをGPS時刻、あるいはJSTと読み替えても良い。
【0006】
コード情報よりも高い位置精度が必要な場合は、搬送波位相を検出する方法が用いられる。周波数の高い搬送波(約1.5GHz)を用いることにより、誤差数センチメートル以下の高精度で測位できることが知られている。搬送波位相を検出する方法として、RTK(Real-Time-Kinematic)、あるいはキャリア位相相対測位等の名称で呼ばれる方法があり、RTKを搭載した装置は市販されている。
【0007】

例えば特許文献1には、移動体上と固定位置とに複数のアンテナを設置し、複数のGNSS衛星からの電波をそれぞれ受信して二重位相差を求め、整数バイアスNを確定させてから移動体と固定位置間のベクトル(相対位置ベクトル)を推定するキャリア位相相対測位装置が開示されている。
【0008】
特許文献1に記載されているように、従来からの搬送波位相測位法(以降では従来法と呼ぶ)は、基準となる衛星(以降では基準衛星という)を一つ定めて二重位相差を求める測位方法である。この従来法には、次に述べる3つの問題(1)~(3)がある。(1)各衛星の電波から検出された搬送波位相の積算値(積算位相)が必要であるため、情報量が多く測位演算が難しい。(2)基準衛星からの電波を見失うと、整数バイアスNを求め直さなければならならず測位が途切れることがある。(3)基準衛星から検出された搬送波位相に雑音が混入すると、測位誤差が大きくなる。
【0009】
そこで特許文献2には、搬送波位相をUTCに同期した所定のサンプリングタイミングで瞬時値として取得し、測位する装置が開示されている。特許文献2に開示されている装置であれば、前述した(1)と(2)の問題を解決することができる。
【0010】
しかし特許文献2に記載された装置であっても、(3)の問題は解決できない。また特許文献2に記載された装置ではUTCに正確に一致して搬送波位相をサンプリングしなければならないため、GNSS受信装置の動作周波数を高くしなければならず消費電力が大きいという新たな問題を生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3532267号明細書
【特許文献2】特開2022-112022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで本発明では、搬送波位相を用いた測位方法であって、一部の衛星からの電波が途切れた場合、あるいは搬送波位相の雑音レベルが高い場合でも高精度で安定測位を実現することの可能な、相対位置検出システム及び相対位置検出方法を提供することを目的とする。また、そのような相対位置検出システムおよび相対位置検出方法を低消費電力で実現できる位相検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
[1]本発明の相対位置検出システムは、複数のアンテナ(2A,2B)と、前記複数のアンテナ(2A,2B)のそれぞれに接続され複数のGNSS衛星(Sat1, Sat2,Sat3,Sat4)からの電波を受信して搬送波位相の瞬時値(φA(1),φA(2),φA(3),φA(4))と(φB(1),φB(2),φB(3),φB(4))を検出する位相検出装置(3A,3B)と、前記搬送波位相の瞬時値を用いて前記複数のアンテナ(3Aと3B)間の相対位置ベクトルP'を測位する測位手段(4)とを備え、前記測位手段(4)は、前記複数のGNSS衛星から抽出した2つの衛星からなる衛星ペア(n,r)に関して前記搬送波位相の瞬時値の差分を演算して二重位相差θ(n,r)を求める二重位相差演算手段(44)と、前記GNSS衛星の衛星位置を取得する衛星位置情報取得手段(43)と、前記二重位相差θ(n,r)と前記衛星位置を用いて前記相対位置ベクトルP’の評価指標E(n,r,P')を求める評価手段(42)と、異なる前記衛星ペア(n,r)に関する前記評価指標E(n,r,P')を統合して総合評価指標Energy(P')を演算する総合評価手段(41)を含むことを特徴とする相対位置検出システム(1)である。
【0014】
[2]本発明の相対位置検出システムにおいて、前記評価手段(42)は、前記衛星ペア(n,r)に関わる格子ベクトルk(n,r)を求める格子ベクトル演算手段と、前記格子ベクトルk(n,r)と前記相対位置ベクトルP'との内積を演算して理論二重位相差Φ(n,r,P')を求める理論二重差演算手段と、前記理論二重位相差Φ(n,r,P')と前記二重位相差θ(n,r)との差異を評価して前記評価指標E(n,r,P')を出力する位相差評価手段(426)とを含むものであることが好ましい。
【0015】
[3]本発明の相対位置検出システムにおいて、前記総合評価手段(41)による総合評価は、取り得る衛星ペア(n,r)の全ての組み合わせに対する評価指標E(n,r,P’)を用いることが好ましい。
【0016】
[4]本発明の相対位置検出システムにおいて、前記搬送波位相の瞬時値は、変化幅が2πラジアンの範囲内にあることが好ましい。
【0017】
[5]本発明の相対位置検出方法は、複数のアンテナにそれぞれ接続した複数の位相検出装置を用いて複数のGNSS衛星からの電波を受信して搬送波位相の瞬時値を検出し、前記搬送波位相の瞬時値を用いてアンテナ間の相対位置ベクトルを測位する相対位置検出方法であって、前記測位は、衛星ペア(n,r)に関する前記搬送波位相の瞬時値を用いて二重位相差を求め、前記複数のGNSS衛星の衛星位置を取得し、前記二重位相差θ(n,r)と前記衛星位置を用いて前記相対位置ベクトルP'の評価指標を求め、複数の前記衛星ペアに関する前記評価指標を総合的に評価して前記相対位置ベクトルを測位結果とすることを特徴とする相対位置検出方法である。
【0018】
[6]本発明の位相検出装置(3)は、複数のGNSS衛星から送出される電波を受信するとともに、装置時刻(Tr)における複数のGNSS衛星(n)の搬送波位相θ(n)、搬送波オフセット周波数Dp(n)、コード情報及び疑似距離Pr(n)を検出する衛星信号受信部(31)と、
前記コード情報と前記疑似距離Pr(n)を用いて前記装置時刻の誤差(Δ(n))を求める時刻誤差取得部(32)と、
前記複数の衛星信号受信部から得られた搬送波オフセット周波数Dp(n)及び前記装置時刻誤差(Δ(n))を用いて、前記搬送波位相θ(n)を補正して所定時刻(Ts)における前記搬送波位相の瞬時値φ(n)を計算する瞬時位相計算部(33)と、
前記搬送波位相の瞬時値φ(n)を伝送するデータ伝送部(35)とを含むことを特徴とする位相検出装置(3)。
【0019】
[7]本発明の位相検出装置(3)において、前記瞬時位相計算部(33)は、前記搬送波位相の瞬時値φ(n)を0~2πラジアンの範囲に限定することが好ましい。
【0020】
[8]本発明の位相検出装置(3)において、前記データ伝送部(35)は、前記搬送波位相の瞬時値φ(n)に加えて前記コード情報から検出される位置情報(緯度・経度・高度)を伝送することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の相対位置検出システム及び相対位置検出方法は、位相検出装置から取得した搬送波位相を使って衛星ペア毎に評価指標を求め、多くの衛星ペアから得られた評価指標を統合して相対位置を検出する。従って一部の衛星からの電波が途切れた場合、あるいは搬送波位相の雑音レベルが高い場合においても高精度で安定測位を実現することの可能な、相対位置検出システム、相対位置検出方法を提供することが可能となる。
【0022】
また本発明の位相検出装置は、装置時刻における複数のGNSS衛星の搬送波位相、搬送波オフセット周波数、コード情報及び疑似距離を検出する衛星信号受信部と、前記複数の衛星信号受信部から得られた搬送波オフセット周波数、コード情報及び前記疑似距離を用いて、前記搬送波位相を補正して所定時刻における前記搬送波位相の瞬時値を計算する。この結果、衛星信号受信部の動作周波数を低く抑え、従来よりもさらに低消費電力の位相検出装置を実現することができる。
【0023】
本発明の位相検出装置を使って測位演算を行う場合、測位演算部へ伝送する情報量が少なくて良い。そこで本発明では位相検出装置からの情報伝送手段としてLPWA(Low Power Wide Area)等の長距離無線伝送システムを適用できる。このとき携帯電話が圏外となるような山中に本発明の位相検出装置を設置し、山中での崖崩れを検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】従来法による搬送波位相を用いた高精度測位のコンセプト説明図である。
図2】本発明の相対位置検出システム1Aの構成例である。
図3】本発明の測位手段4Aの測位演算を示すフローチャートである。
図4】本発明の評価手段42が評価指標を求める演算(ステップS6)のフローチャートである。
図5】相対位置検出システム1Aで使われる評価手段42の構成例である。
図6】本発明の位相検出装置3の構成例である。
図7】位相検出装置3を構成する瞬時位相計算部33の構成例である。
図8】瞬時位相計算部33の内部信号波形を模式的に表した図である。
図9】本発明の位相検出装置3が伝送するペイロードのフォーマット例である。
図10】本発明の相対位置検出方法をシミュレーションにより確認したシミュレーション結果である。
図11】本発明の相対位置検出方法をシミュレーションにより確認したシミュレーション結果である。
図12】本発明の相対位置検出方法を実験確認した実験結果である。
図13】実施形態2における相対位置検出システム1Bの構成例である。
図14】実施形態3における位相検出装置3の構成例である。
図15】実施形態4における位相検出装置3が伝送するペイロードのフォーマット例である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<本発明の相対位置検出方法の概要>
本発明の概要を従来法と対比しながら説明する。以降では衛星番号をカッコで囲んで表記する。例えば「衛星番号n」を「(n)」として表し、「基準衛星r」を「(r)」と表記する。また2台のアンテナ及び位相検出装置のそれぞれについて一方をAと表記し他方をBと表記する。例えば位相検出装置2Aで検出されたGNSS衛星Sat1の搬送波位相の瞬時値をφA(1)と表記する。また4つのGNSS衛星(Sat1~Sat4)を受信できた場合を例として説明するが、より多くのGNSS衛星からの電波を受信することもできる。以降では受信されたGNSS衛星の数をMと表記する。
【0026】
[従来法]
図1は、特許文献1に例示される搬送波位相を用いた高精度測位検出法を説明する図である。上空にある4つのGNSS衛星(Sat1~SAt4)からの電波が2つのアンテナ(2A及び2B)で受信され、電気信号に変換される。ここでアンテナ2Aは基準位置に設置される。2つのアンテナにはそれぞれ位相検出装置(3A及び3B)が接続され、位相検出装置によりGNSS受信が行われ、各衛星の搬送波位相(ΩA(1),ΩA(2),ΩA(3),ΩA(4))と(ΩB(1),ΩB(2),ΩB(3),ΩB(4))が検出される。測位手段4は、この搬送波位相を使って未知の場所に置かれたアンテナ2Bへの相対位置を測位して相対位置ベクトルP’を出力する。以降では2つのアンテナ間の距離Rを「基線長」と呼ぶこともある。
【0027】
測位手段4は、測位演算を行うRTK演算部49、二重位相差演算手段44及び通信手段46で構成される。
【0028】
二重位相差演算手段44は、基準衛星(r)と、他の衛星(n)から得られた搬送波位相から二重位相差θ(n,r)を出力する。この演算により電離層における伝搬遅延の変化等、様々な外乱が除去される。基準衛星(r = 1) としたとき、3組の二重位相差(θ(2,1),θ(3,1),θ(4,1))が得られる。この3組の二重位相差を使ってRTK演算部49が測位を行う。
【0029】
衛星(n)からアンテナ2A、2Bまでの距離をRA(n)、RB(n)、整数バイアスをN(n)、搬送波波長(約19cm)をλとすると、3組の二重位相差は下式1で表される。
【数1】
【0030】
従来法では、基準衛星を同一の衛星にすること(即ち式1で下線を引いた項を同一にすること)が必要である。このためM個の衛星からの電波を受信したとき、式1の連立方程式はM-1本になる。未知数が方程式の数を上回り、このままでは式1を解くことができない。
【0031】
そこで従来法では異なる時刻において搬送波位相を取得し、式1の連立方程式を複数組用意して測位演算を行う。異なる時間で取得した搬送波位相を使うため、搬送波位相を時間積算した「積算位相」が使われる。この積算位相は情報量が多く高速通信が必要になるという欠点があった。
【0032】
また従来法では、一つの基準衛星に対して整数バイアスを求めるため、基準衛星の信号に雑音が強く影響すると測位結果が大きく揺らいでしまう問題点があった。さらに従来法は、基準衛星が受信できなくなると、整数バイアスを求め直さなければならず、測位が途切れる問題点もあった。
【0033】
続いて、本発明の実施形態1について説明する。
【0034】
[実施形態1]
図2に本発明の相対位置検出システム1Aの構成例を示す。4つの衛星(Sat1~Sat4)からの電波を2つのアンテナ(2A及び2B)で電気信号に変換し、位相検出装置(3A及び3B)により搬送波位相を検出し、測位手段4がアンテナ(2A,2B)間の相対位置ベクトルP’を出力することは従来例と同じである。
【0035】
本発明において測位手段4は、総合評価手段41、評価手段42,衛星位置情報取得手段43,二重位相差演算手段44、システムコントローラ45及び通信手段46で構成される。各手段の動作は図3図4を使って後述する。
【0036】
2台の位相検出装置3Aと3Bはそれぞれ、UTCに同期したタイミングで搬送波位相をサンプリングし、搬送波位相の瞬時値φA(n)とφB(n)を出力する。(以降ではこのようにしてUTCに同期した搬送波位相の瞬時値を「瞬時位相」と表記する。)位相検出装置3Aと3Bはそれぞれ、通信手段46を介して瞬時位相を測位手段4に伝送する。多くの場合、通信手段46は無線通信装置で実現されるが、同軸ケーブルなど有線接続の通信装置を使うこともできる。
【0037】
二重位相差演算手段44は、瞬時位相φA(n)とφB(n)から二重位相差θ(n,r)を求め、衛星位置情報取得手段43は衛星位置を入手し、評価手段42はこれらの情報(二重位相差、衛星位置及び後述する推定相対位置ベクトルP')を用いて評価指標を求める。総合評価手段41は、測位ペア(n,r)に関して得られた評価指標を総合評価指標に加算する。総合評価指標を最も小さくする推定相対位置ベクトルP'が探索され、測位結果として出力される。
【0038】
図3は、システムコントローラ45により制御される測位演算のフローチャートである。以降は図3に従って測位演算の詳細を説明する。
【0039】
[ステップS0]
ステップS0においてシステムコントローラ45は、通信手段46から得られる搬送波位相の瞬時値φA(n)とφB(n)を入手する。
【0040】
[ステップS1]
ステップS1においてシステムコントローラ45は、探索の中心位置ベクトルP0をセットする。地滑り等の災害検出に用いる場合は、アンテナ2Aと2Bの設置位置がおよそ解っている。そこで2つのアンテナの位置座標を引き算することにより、中心位置ベクトルP0を定めることができる。本実施形態の測位は、この中心位置ベクトルP0を中心にして3次元に探索する。
【0041】
[ステップS2]
次にステップS2において、システムコントローラ45は中心位置ベクトルP0にオフセットベクトルを加えて推定相対位置ベクトルP'を仮決めする。
【0042】
以降の説明では、推定相対位置ベクトルP'を極座標(R,α,β)で表す。即ちアンテナ間距離R、南北線に対する方位角α、そして上下方向の仰角βである。
【0043】
推定相対位置ベクトルP'は下式2のように中心位置ベクトル(R0,α0,β0)とオフセットベクトル(ΔR,Δα,Δβ)の和である。
【数2】
システムコントローラ45は、オフセットベクトルを変化させながら後述する全体評価指標Energy(P')を求めることにより、推定相対位置ベクトルP'の最適値を探索する。
【0044】
[ステップS3]
ステップS3において、システムコントローラ45は、取り得る衛星ペアの全組み合わせを順次抽出する。例えば4つのGNSS衛星(Sat1~Sat4)が受信された場合、下式2に示す6通りの衛星ペアがあり得る。ステップS3では、これら6通りの衛星ペアが順次抽出される。
【数3】
【0045】
式1に示したように、従来法では(2,1),(3,1),(4,1)の3通りの組み合わせしか用いていない。このため従来法では基準衛星(r=1)から得られた搬送波位相が3つの方程式で評価される一方、衛星2,3,4から得られた搬送波位相は一回しか使われない。これに対して本方式では全ての組み合わせ(6通り)を用いるので、全衛星から得られた情報を同じだけ評価することにより高精度測位ができる。
【0046】
[ステップS4]
次にステップS4において、二重位相差演算手段44は衛星ペア(n,r)に対して式4の差分演算を行い、二重位相差θ(n,r)を求める。
【数4】
【0047】
[ステップS5]
次にステップS5において、衛星位置情報取得手段43は各衛星の位置(X(n),Y(n),Z(n))を入手する。具体的には、衛星軌道情報(エフェメリス)Epを使ってケプラー方程式を解くことで衛星位置(X(n),Y(n),Z(n))を求める。ここで衛星軌道情報Epは各衛星からコード情報として放送されているので、市販GNSS受信機を設置して衛星電波を受信すれば入手できる。あるいは国土地理院等が公開しているインターネットサーバから衛星軌道情報Epをダウンロードすることもできる。
【0048】
[ステップS6]
ステップS6において評価手段42は、これまで説明した3種類の情報(二重位相差、衛星位置及び推定相対位置ベクトルP')を用いて図5に示す評価指標演算を行い、評価指標E(n,r,P')を求める。評価指標は推定相対位置ベクトルP'の正しさを表す指標である。雑音が無い理想的な状態で、推定相対位置ベクトルP'が正しい値になったとき評価指標は「0」になる。
【0049】
[ステップS7]
ステップS7において総合評価手段41は、以上述べた評価指標E(n,r,P')を総合評価指標Ex(P')に加算する。
【0050】
[ステップS8]
ステップS8においてシステムコントローラ45は、可能性のある全ての測位ペア(n,r)についてステップS3~ステップS7の演算を行ったか否かを判断する。残りがあった場合に処理はステップS3に戻り、新たな測位ペアに関する評価指標演算が行われる。全ての測位ペア(n,r)に関する処理が終わったと判断すると、処理はステップS9に進む。このとき下式5で表される総合評価指標Ex(P')が得られたことになる。
【数5】
【0051】
[ステップS9]
ステップS9においてシステムコントローラ45は、可能性のある推定相対位置ベクトルP’の全てに関して総合評価指標Ex(P')を求めたか否かを判断する。総合評価指標を求めていないP’が残っていた場合、処理はステップS2に戻り、新たなオフセットベクトル(ΔR,Δα,Δβ)を中心位置ベクトルP0に加えて推定相対位置ベクトルP'を更新し、総合評価指標を求める処理が再スタートする。全ての推定相対位置ベクトルP'に関して総合評価指標Ex(P')を求めたとき、処理はステップS10に進む。
【0052】
[ステップS20]
ステップS10においてシステムコントローラ45は、総合評価指標Ex(P')を最も小さくした推定相対位置ベクトルP'を測位結果として出力し、測位演算が完了する。
【0053】
[評価指標の演算]
評価手段42が評価指標E(n,r,P')を求める評価指標演算は、図4のステップS61~S65で行う。以降は、このステップを順次説明する。
[ステップS61]
最初にステップS61としてアンテナ2Aが置かれた基準位置の座標(Xa,Ya,Za)を、基準位置の緯度経度を地心直交座標系に変換することで求める。
【0054】
[ステップS62]
ステップS61において基準位置(Xa,Ya,Za)から衛星(n)の座標(X(n),Y(n),Z(n))へ向かう方向ベクトルv(n)を下式6のように求める。基準衛星(r)に関しても同様にして方向ベクトルv(r)を求める。
【数6】
【0055】
ここで方向ベクトルv(n)の大きさは下式7で求めた距離r(n)により正規化されている。
【数7】
【0056】
[ステップS63]
ステップS63において下式8のように衛星(n)への方向ベクトルv(n)から、基準衛星(r)への方向ベクトルv(r)を差し引くことにより格子ベクトルk(n,r)を求める。
【数8】
格子ベクトルk(n,r)は2つの衛星(n,r)の電波が形成する干渉縞を表している。この干渉縞の間隔Λ(n,r)は、下式9で求めることができる。
【数9】
ここでη(n,r)は、衛星ペアとして抽出した衛星(n)と衛星(r)が作る角度である。本発明の測位方法では、ペアに選んだ衛星によって格子ベクトルの周期が異なることに注意されたい。例えばηが30度のとき、干渉縞の間隔Λは37cmとなって波長λよりも大きい。(従来法では周期が衛星に依らず一定値λであった。)
【0057】
[ステップS64]
ステップS64では、格子ベクトルと推定相対位置ベクトルP'との内積演算により、理論二重位相差Φ(n,r,P')を下式10で求める。
【数10】
【0058】
[ステップS65]
以上の処理により得られた理論二重位相差と実測された二重位相差は、両方ともに位相情報である。そこでステップS65においては下式11のように2つの位相情報の差異を評価する。即ち2つのフェーザとして差異を計算し評価指標E(n,r,P')を求める。
【数11】
【0059】
相対位置ベクトルPと推定相対位置ベクトルP'の距離が最も近いとき、上式の評価指標E(n,r,P’)は最小値を取るはずである。
【0060】
図5は、評価手段42の構成例である。評価手段42は、ステップS62において減算器420と除算器422により式6の演算を実施し、方向ベクトルv(n)を求める。同様にして減算器421と除算器423により方向ベクトルv(r)を求める。ステップS63において格子ベクトル演算器424により式8の演算が行われ、格子ベクトルk(n,r)が求められる。ステップS64において内積演算器425は式10に示した格子ベクトルk(n,r)と推定相対位置ベクトルP'との内積演算を行い、理論二重位相差Φ(n,r,P')を求める。ステップS65においてフェーザ差分演算器426が式11に示す二重位相差と理論二重位相差との差異を演算することにより評価指標E(n,r,P')を得るものである。
【0061】
以上説明したように本発明の相対位置検出方法は、従来法で求めていた整数バイアスを使わない。このため測位演算は1回の計測で完了する。また従来法で行われていた、位相を積算して積算位相を求めることも必要なく、瞬時位相の変化幅を0~2πまでに限定することが可能となる。この結果、本発明の位相検出装置3では、測位手段4に伝送する情報量を減らすことが出来る。
【0062】
[位相検出装置の構成]
図6に本発明の実施形態に関わる位相検出装置3の構成を示す。複数の計測地点に設置されている位相検出装置3は、受信アンテナ2により得られた衛星電波を受信し、予め定められた所定時刻Tsにおける搬送波の瞬時位相(φ(1),φ(2),φ(3),φ(M))を検出し、データ伝送部35によって測位手段4に瞬時位相を伝送する。
【0063】
位相検出装置3は、フロントエンド30、衛星信号受信部31、時刻誤差取得部32、瞬時位相計算部33、タイミング発生手段34、データ伝送部35及びアンテナ36で構成される。このうち衛星信号受信部31及び瞬時位相計算部33はいずれも衛星毎に設置される。図6においては衛星(n)だけを例示しているが、実際にはM個の衛星それぞれに対して同じ信号処理が施される。
【0064】
図6においてフロントエンド30はアンテナ2が捉えた微弱信号をフィルタで抽出し、増幅してから低周波数信号に変換し、複数の衛星信号受信部31に供給する。衛星信号受信部31は、各衛星(n)のコード情報(n)、疑似距離Pr(n)、搬送波位相Ω(n)、搬送波の周波数オフセットDp(n)を出力する。このうち周波数オフセットDp(n)は一般に、「ドップラー周波数」と呼ばれる。時刻誤差取得部32はコード情報(n)を使ってGNSS受信処理を行い、各衛星(n)の位置(X(n),Y(n),Z(n))と受信アンテナ2の位置(Xa,Ya,Za)を求める。時刻誤差取得部32は、これらの情報を使って各衛星(n)から受信した電波の時刻誤差Δ(n)を下式12で求めて出力する。
【数12】
ここでRange(n)は各衛星(n)から受信アンテナ2までの距離を表し、Cvは光速を表し、Satellite_Delay(n)は各衛星(n)の送信遅延時間を表す。Satellite_Delay(n)は各衛星(n)のコード情報から求めることができる。
【0065】
タイミング発生手段34は、水晶発振器とカウンター等で構成され、衛星信号受信部31の動作クロックを供給する。動作クロック周波数に比例して衛星信号受信部31の消費電力が増大するので、できるだけ低い周波数の動作クロックが望ましい。市販されているGNSS受信機では、例えば1kHzのような低い周波数が用いられている。タイミング発生手段34はまた、動作クロックをカウントして装置時刻Trを出力する。装置時刻Trには、動作クロックの周期(周波数の逆数)での時刻誤差が含まれる。(動作クロックが1kHzの場合、最大で1msの誤差が含まれる)。また装置時刻Trには、各衛星からの電波がアンテナ2まで到達するに要した時間により、さらに時刻誤差が含まれる。
【0066】
そこで複数の瞬時位相計算部33は、装置時刻Trにおいてサンプリングされた搬送波位相Ω(n)に含まれる時刻誤差の影響を補正し、所定時刻Tsにおける搬送波の位相(即ち瞬時位相φ(n))に補正して出力する。
【0067】
図7は、瞬時位相計算部33の構成を示すブロック図である。補正時間検出手段331は、UTCに合致している所定時刻Ts、装置時刻Trと時刻誤差Δ(n)から、下式13に従って位相補正時間δを算出して出力する。
【数13】
【0068】
以上により位相補正手段332は、下式14に従って瞬時位相φ(n)を得る。
【数14】
ここで関数modは2πを法とする剰余演算を表す。
【0069】
図8に瞬時位相計算部33の処理波形を模式的に示した。いま搬送波が(A)に示す波形であったとすると、衛星信号受信部31内部の(図示しない)位相検出回路からは(B)に示す搬送波位相φが検出される。この搬送波位相は0~2πの範囲に畳み込まれているので、2πから0に変化する毎に2πを加えることにより、(C)に示す積算位相Ωが得られる。積算位相Ωを所定時刻Tsでサンプリングすることが目標であるが、消費電力を低下させるために動作クロック周波数を高くできないので、実際のサンプリングには時間誤差が伴う。このように時間誤差を伴うサンプリング時刻をTrとして模式的に表している。ここで周波数オフセットDp(n)は、積算位相Ωの傾きを表している。
【0070】
式14の補正演算は、積算位相が傾きDp(n)で直線変化すると近似して補正し、所定時刻Tsにおける瞬時位相φ(n)を求めるものである。高次多項式で積算位相を近似することでさらに精度を上げることも、もちろん可能である。
【0071】
図6に示した位相検出装置3は、全衛星(Sat1~SatM)の瞬時位相(φ(1)~φ(M))をデータ伝送部35に出力する。データ伝送部35はアンテナ36を介して、瞬時位相を測位手段4に無線伝送し、測位手段4が前述した測位演算を行うように構成されている。
【0072】
図9は、位相検出装置3が伝送するペイロード情報の構成例である。この図で先頭2バイトはヘッダーであり、予め位相検出装置3に割り振られたID番号(8ビット)、電池残量(4ビット)及び受信に成功した衛星数M(4ビット)で構成される。
【0073】
ペイロード情報の後半は、各衛星から検出された瞬時位相である。即ち、衛星番号(6ビット)、CNR(2ビット)、瞬時位相(8ビット))の計16ビットが各衛星毎に割り振られる。ここでCNR(Carrier to Noise Ratio)は搬送波強度を表す指標で、衛星からの電波強度が強くて良好な瞬時位相が期待される場合に「11」、中程度の場合は「10」または「01」とする。衛星が受信できていない場合にCNRは「00」とされる。
【0074】
図9のペイロード情報の構成例では、最大で7つ(M=7)の衛星から得られた瞬時位相とヘッダーをまとめて128ビットのペイロードとすることができる。ここでLPWA無線通信としてELTRESを採用した場合、一回の送信で伝送できるペイロードは128ビットであるから図9のペイロード情報を一回で伝送できる。(ELTRESはソニー株式会社の登録商標である)。瞬時位相を伝送する本発明は、このように情報量が少ないのでLPWA無線を適用できる。
【0075】
[シミュレーションによる確認]
原理検証を目的としてシミュレーションを行ったので紹介する。このシミュレーションでは、基線長R=1.6mを仮定し、全部で7個(M=7)のGNSS衛星から瞬時位相を取得できた仮定した。衛星数M=7であるから、衛星ペアの組み合わせ総数は21通り(7C2)である。
【0076】
基線長Rを変化させて、3種類の衛星ペア(2,1),(3,1)と(3,2)による評価指標のプロットを図10に示す。3つの評価指標(A)(B)(C)のいずれもが、正しい基線長(R=1.6m)において最小値「0」を示していることが確認される。また衛星ペア(3,2)による評価指標E(3,2)は2mを超える周期となっている。この衛星ペアに関しては、評価指標の周期が長いのでアンテナ2Bの移動距離が大きくなっても正しく測位できる可能性がある。一方で評価指標E(3,2)は緩やかに変化するので、雑音による影響を受けて測位結果のバラつきが大きくなる可能性がある。
【0077】
そこで21通りの衛星ペアから得られた評価指標を全て加算し、総合評価指標Ex(R)をプロットした結果を図11に示す。正しい基線長(R=1.6m)においてのみ総合評価指標Ex(R)が0になることが解り、本発明の相対位置検出方法が正しいことが確認された。
【0078】
[実験確認]
建物の屋上にアンテナ2Aと2Bを9.55m離して設置し、本発明を適用して基線長Rを計測した結果を図12に示す。この実験では、全部で9個のGNSS衛星が受信できた(M=9)。衛星ペアの総組み合わせ数は36(=9C2)と大きくなっている。図12の結果を見ると、基線長が正しく9.55mになったところで総合評価指標Ex(R)が殆どゼロになり、正しく測位できている。このことから、本発明の測位方式が実験確認された。
【0079】
[実施形態2]
以上説明した実施形態1では、地滑り等の災害検出が想定用途であったので、アンテナ2Aと2Bの設置位置がおよそ解っているものとして中心位置ベクトルP0を定めることができた。しかし災害検出以外の応用例もあり、そのときアンテナ2Aと2Bの位置が予め解らない場合も想定される。そこでアンテナ2Aと2Bの位置をコード測位で求める例を実施形態2として以下に説明する。尚、実施形態1と同一の部分に関してはその説明を省略する。
【0080】
図13は、実施形態2に係る相対位置検出システム1Bの構成例である。位相検出装置(3A及び3B)により瞬時位相を検出し、測位手段4がアンテナ(2A,2B)間の相対位置ベクトルP’を出力することは実施形態1と同じである。実施形態2においては、2台の位相検出装置(3A及び3B)がコード測位を行い、アンテナ2Aと2Bの置かれた概略位置の座標(緯度、経度及び高度)を求めて測位手段4に伝送する。測位手段4はこの座標を地心直交座標系に変換し、2つのアンテナの相対位置から中心位置ベクトルP0を推定することができる。この結果アンテナ2Aと2Bの位置を事前に知る必要がなくなり、例えば移動体の測位などに適用することができる。
【0081】
図14は、実施形態2に係る位相検出装置3の構成例である。時刻誤差取得部32はコード測位を行い、アンテナ2の緯度、経度及び高度の情報をデータ伝送部35に送る。データ伝送部35から送られた緯度、経度及び高度の情報を使って、測位手段4は中心位置ベクトルP0を求めることができる。
【0082】
図15は、実施形態2に係る位相検出装置2が伝送するペイロード情報の構成例である。先頭の78ビットはヘッダーであり、ID番号(8ビット)に引き続いて、測位されたアンテナ2の緯度(24ビット)、経度(24ビット)及び高度(12ビット)の情報が追加されている。緯度、経度の情報に24ビットを使えば、地球上の全ての場所で数メートルの精度でアンテナ2の位置を指定することが出来る。
【0083】
図15のペイロードは、衛星数Mが4のとき全長が142ビットとなる。また衛星数M=11まで増えたとき、ペイロードの長さは254ビットとなる。ELTRESで一度に送信できるデータ量が128ビットであるから、2回に分けて送信する必要があるが、実用可能な情報量である。
【0084】
以上に本発明の構成を述べたが、上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能となるものである。例えば、下記に示すような変形実施も可能である。
【0085】
上述の実施形態においては、瞬時位相の単位をラジアンとして説明した。しかし瞬時位相を定数2πで除することにより、位相の一回転を単位とすることもできる。このとき瞬時位相は0~1までの範囲で変化する。
【0086】
上述の実施形態においては、全ての取り得る衛星ペアの組み合わせを用いるものとして説明した。例えば衛星数M = 9の時は、9個の衛星から2つの衛星を選んで衛星ペアを作るから、取り得る衛星ペアの組み合わせ総数は36通り(9C2)となる。ここで36通りの組み合わせを、「全て」用いることが必ずしも必要ではなく、そのうちの一部分を除外することもできる。例えば衛星ペアがなす角ηを調べ、ηが大きい衛星ペアだけを測位から除外することもできる。あるいは、雑音の大きい衛星だけをCNRから判定して除外することもできる。
【0087】
上述の実施形態においては、総合評価指標Ex(P')を最も小さくした推定相対位置ベクトルP’を測位結果として出力するものとした。しかし、例えば総合評価指標Ex(P')を最も小さくした推定相対位置ベクトルP1'と、総合評価指標Ex(P')を2番目に小さくした推定相対位置ベクトルP2'とを求めておき、アンテナ2Bの移動状況など他の情報を使ってP1'、P2'のいずれかを測位結果として出力することもできる。
【0088】
上述の実施形態においては、衛星から送られる搬送波周波数が約1.5GHzであるとして説明したが、1.2GHzの搬送波を使う衛星も存在する。1.5GHzと1.2GHzの2種類の搬送波を用いて本発明を適用することにより、さらに高精度の計測が可能になる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15