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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055249
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】イオン源およびイオン注入装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 27/08 20060101AFI20240411BHJP
   H01J 37/317 20060101ALI20240411BHJP
   H01J 37/08 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
H01J27/08
H01J37/317 Z
H01J37/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162020
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】302054866
【氏名又は名称】日新イオン機器株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西村 一平
(72)【発明者】
【氏名】井内 裕
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA25
5C101BB02
5C101BB03
5C101BB05
5C101CC01
5C101DD03
5C101DD16
5C101DD22
5C101DD23
5C101DD25
5C101DD26
5C101DD28
5C101DD40
5C101JJ09
5C101LL06
5C101LL07
(57)【要約】
【課題】イオン源の組立作業またはメンテナンス作業における作業時間を従来と比較して短縮できるイオン源およびイオン注入装置を提供する。
【解決手段】内部でプラズマが生成される第一筐体20と、電極31a~cを収容する第二筐体30とを備えるイオン源10Aにおいて、イオン源10Aが、第二筐体30に配置され、第一筐体20を第二筐体30に固定する固定装置40と、第一筐体20または第二筐体30に配置されたサージ対策部品50とをさらに備え、固定装置40が第一筐体20を第二筐体30に固定するのに伴って、第一筐体20と第二筐体30とが、固定装置40の少なくとも一部およびサージ対策部品50を介して電気的に接続される接続状態となる構成とする。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部でプラズマが生成される第一内部空間を有する第一筐体と、前記プラズマからイオンビームを引き出すための電極を収容する第二内部空間を有する第二筐体とを備え、前記第一筐体と前記第二筐体とが、前記第一内部空間と前記第二内部空間とを連通させつつ、互いに電気的に絶縁された状態で固定されるイオン源であって、
前記第二筐体に配置され、前記第一筐体を前記第二筐体に固定する固定装置と、
前記第一筐体または前記第二筐体に配置されたサージ対策部品と、
をさらに備え、
前記固定装置が前記第一筐体を前記第二筐体に固定するのに伴って、前記第一筐体と前記第二筐体とが、前記固定装置の少なくとも一部および前記サージ対策部品を介して電気的に接続される接続状態となるイオン源。
【請求項2】
前記固定装置が、
前記第一筐体に作用して前記第一筐体を前記第二筐体に固定する固定部材と、
遠隔操作により駆動され、前記固定部材を、前記第一筐体が前記第二筐体から離脱した離脱位置から、前記第一筐体を前記第二筐体に固定する固定位置に移動させる駆動機構部と、
を備え、
前記固定部材が前記固定位置にあるときに前記接続状態となる請求項1に記載のイオン源。
【請求項3】
前記固定部材が、
前記駆動機構部から電気的に絶縁された状態で、前記駆動機構部に連結されており、
前記固定位置にあるときに前記第一筐体に直接または間接的に電気的に接続される導電部を備える請求項2に記載のイオン源。
【請求項4】
前記第一筐体が、前記固定部材が前記固定位置にあるときに前記導電部に接触される被接触部を有し、
前記固定部材が前記固定位置にあるときに、前記導電部が前記駆動機構部から前記第一筐体に向けた押圧力を加えられた状態で前記被接触部に接触する請求項3に記載のイオン源。
【請求項5】
前記固定装置が、前記第二筐体から電気的に絶縁された状態で、前記第二筐体に配置されており、
前記固定装置が前記第二筐体に直接または前記サージ対策部品を介して電気的に接続されている請求項1に記載のイオン源。
【請求項6】
前記第一筐体が、前記第一内部空間を形成する長尺状の本体部を有し、
複数の前記固定装置および複数の前記サージ対策部品が、前記第一筐体が前記第二筐体に固定された状態において、前記本体部の長手方向に沿って前記第二筐体に配置されており、
前記長手方向を鉛直方向に一致させた状態でイオン注入装置のイオン源取付部に取り付けられる請求項1~5のいずれか一項に記載のイオン源。
【請求項7】
内部でプラズマが生成される第一内部空間を有する第一筐体と、前記プラズマからイオンビームを引き出すための電極を収容する第二内部空間を有する第二筐体とを備え、前記第一筐体と前記第二筐体とが、前記第一内部空間と前記第二内部空間とを連通させつつ、互いに電気的に絶縁された状態で固定されるイオン源を備えるイオン注入装置であって、
前記イオン源が、
前記第二筐体に配置され、前記第一筐体を前記第二筐体に固定する固定装置と、
前記第一筐体または前記第二筐体に配置されたサージ対策部品と、
をさらに備え、
前記固定装置が前記第一筐体を前記第二筐体に固定するのに伴って、前記第一筐体と前記第二筐体とが、前記固定装置の少なくとも一部および前記サージ対策部品を介して電気的に接続される接続状態となるイオン注入装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン源、および当該イオン源を備えるイオン注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイ製造工程や半導体製造工程において使用されるイオン注入装置に使用されるイオン源として、特許文献1に示されたイオン源がある。このイオン源は、プラズマが生成されるプラズマ生成室と、プラズマ生成室からイオンビームを引き出すための3または4枚の電極から構成される引出電極系を収容する第一のフランジおよび第二のフランジを有する。
【0003】
第一のフランジは、プラズマ生成室から電気的に絶縁された状態でプラズマ生成室に固定されており、第一のフランジの内部には、加速電極と引出電極の2枚の電極、およびこれらの電極を支持する電極支持枠が収容されている。また、第二のフランジは、第一のフランジから電気的に絶縁された状態で第一のフランジに固定されており、第二のフランジの内部には、抑制電極と接地電極の2枚の電極、およびこれらの電極を支持する電極支持枠が収容されている。
【0004】
プラズマ生成室の内部には、プラズマ生成室の内部空間に電子を供給するためのフィラメントが外側から差し込まれるようにして配置されている。また、プラズマ生成室は、その内部空間に、所定のイオンを含むプラズマを生成するための原料となる原料ガスがガスポートを通じて外部から導入されるように構成されている。プラズマ生成室の内部空間では、当該原料ガスがフィラメントから放出される熱電子によって電離され、所定のイオンを含むプラズマが生成する。プラズマ中に含まれるイオンは、第一のフランジおよび第二のフランジに収容された電極の作用によって、イオンビームとしてイオン源の外部に引き出される。
【0005】
プラズマ生成部は、外部に配置された電源に接続されており、接地電位に対して所定の電位が印加されるよう構成されている。第一のフランジおよび第二のフランジもまた、外部に配置された電源にそれぞれ接続されており、それぞれ接地電位に対して所定の電位が印加されるよう構成されている。
【0006】
このようなイオン源においては、イオン源の使用に伴い、例えば、プラズマ生成部内で生成された絶縁性生成物が電極または電極支持枠に堆積し、帯電していった結果、異常放電が発生する。このような場合、瞬間的にサージ電流が電源に流れてしまい、電源の故障を引き起こすなどの不具合が生じる恐れがある。
【0007】
このようなイオン源では、サージ電流の発生によって発生し得る例えば上述のような不具合を抑制するため、プラズマ生成容器と第一のフランジと間に、サージ電流から回路を保護する、セラミックコンデンサやサージアブソーバ等のサージ対策部品が電気的に接続される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016-91795
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のイオン源においては、作業者がプラズマ生成室と第一のフランジおよび第二のフランジとを互いに固定した後、電線等の配線部材を使用してプラズマ生成室および第一のフランジとサージ対策部品とを電気的に接続する作業を行っていた。
【0010】
また、メンテナンス作業時にプラズマ生成容器を第一フランジから離脱させる場合がある。このような場合においても、プラズマ生成容器を第一フランジから取り外す前に、作業者が手作業によって当該配線部材を取り外す必要があった。そして、メンテナンス作業後は、プラズマ生成容器を第一フランジに固定した後、作業者が再び配線部材を取り付ける作業を行う必要があった。このように、従来のイオン源においては、イオン源の組立作業時およびメンテナンス作業時に、プラズマ生成室とサージ対策部品とを電気的に接続する作業が必要であり、これによってイオン源の組立作業およびメンテナンス作業における作業効率が低下していた。
【0011】
本発明は、上記問題を解決するものであり、イオン源の組立作業またはメンテナンス作業における作業時間を従来と比較して短縮できるイオン源およびイオン注入装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のイオン源は、内部でプラズマが生成される第一内部空間を有する第一筐体と、前記プラズマからイオンビームを引き出すための電極を収容する第二内部空間を有する第二筐体とを備え、前記第一筐体と前記第二筐体とが、前記第一内部空間と前記第二内部空間とを連通させつつ、互いに電気的に絶縁された状態で固定されるイオン源であって、前記第二筐体に配置され、前記第一筐体を前記第二筐体に固定する固定装置と、前記第一筐体または前記第二筐体に配置されたサージ対策部品と、をさらに備え、前記固定装置が前記第一筐体を前記第二筐体に固定するのに伴って、前記第一筐体と前記第二筐体とが、前記固定装置の少なくとも一部および前記サージ対策部品を介して電気的に接続される接続状態となるように構成されている。
【0013】
この構成によれば、第一筐体と第二筐体とは互いに電気的に絶縁された状態で固定され、第二筐体には固定装置が配置され、第一筐体または第二筐体にはサージ対策部品が配置される。そして、固定装置が第一筐体を第二筐体に固定するのに伴って、第一筐体と第二筐体とが、固定装置の少なくとも一部およびサージ対策部品を介して電気的に接続される接続状態となる。つまり、イオン源が上記の接続状態にある状態においては、第一筐体と第二筐体がサージ対策部材を介して電気的に接続されることになる。
すなわち、この構成によれば、第一筐体と第二筐体を固定した後に、第一筐体とサージ対策部品とを電気的に接続する作業が不要となる。
なお、本発明において、第一筐体と第二筐体とが電気的に絶縁された状態で固定されることは、第一筐体と第二筐体とがサージ対策部品を介さずに電気的に接続されることがないことを指し、第一筐体と第二筐体とが所定の電位差を維持した状態で互いに固定されることを指すと捉えてもよい。
【0014】
また、前記固定装置はさらに、前記第一筐体の前記第二筐体に対する固定を解除するのに伴って、第一筐体と第二筐体との、固定装置の少なくとも一部およびサージ対策部品を介した電気的接続が解除される解除状態となるように構成されていてもよい。
この構成によれば、固定装置により第一筐体と第二筐体の固定が解除されると、第一筐体とサージ対策部品との電気的接続も解除されることになる。したがって、第一筐体とサージ対策部品の電気的接続を解除する作業も不要となる。
【0015】
また、本発明のイオン源は、前記固定装置が、前記第一筐体に作用して前記第一筐体を前記第二筐体に固定する固定部材と、
遠隔操作により駆動され、前記固定部材を、前記第一筐体が前記第二筐体から離脱した離脱位置から、前記第一筐体を前記第二筐体に固定する固定位置に移動させる駆動機構部と、を備え、前記固定部材が前記固定位置にあるときに前記接続状態となるように構成されていてもよい。
【0016】
この構成によれば、作業者等が遠隔操作するによって駆動機構部を駆動させ、固定部材を離脱位置から固定位置に移動させることにより、第一筐体を第二筐体に固定できると同時に、イオン源を上記の接続状態にすることができる。なお、固定部材が第一筐体に作用するとは、固定部材が第一筐体に何らかの力を加えることを指す。
【0017】
前記駆動機構部はさらに、前記固定部材を前記固定位置から前記離脱位置に移動させ得るよう構成されていてもよい。この構成によれば、作業者等が遠隔操作するによって駆動機構部を駆動させ、固定部材を固定位置から離脱位置に移動させることにより、第一筐体と第二筐体の固定を解除できると同時に、イオン源を上記の解除状態にすることができる。
【0018】
また、本発明のイオン源は、前記固定部材が、前記駆動機構部から電気的に絶縁された状態で、前記駆動機構部に連結されており、前記固定部材が前記固定位置にあるときに前記第一筐体に直接または間接的に電気的に接続される導電部を備える構成とされていてもよい。
【0019】
また、本発明のイオン源は、前記第一筐体が、前記固定部材が前記固定位置にあるときに前記導電部に接触される被接触部を有し、前記固定部材が前記固定位置にあるときに、前記導電部が前記駆動機構部から前記第一筐体に向けた押圧力を加えられた状態で前記被接触部に接触するよう構成されていてもよい。
【0020】
この構成によれば、固定部材が固定位置にあるときに、固定部材の導電部が、駆動機構部から第一筐体に向けた押圧力を加えられた状態で第一筐体の有する被接触部に接触することから、導線部と被接触部との接触がより確実なものとなる。したがって、第一筐体と導電部とをより確実に電気的に接続させることができる。
【0021】
また、本発明のイオン源は、前記固定装置が、前記第二筐体から電気的に絶縁された状態で、前記第二筐体に配置されており、前記固定装置が前記第二筐体に直接または前記サージ対策部品を介して電気的に接続されている構成とされていてもよい。
なお、固定装置が第二筐体に直接電気的に接続されているとは、固定装置がサージ対策部品を介することなく接続されていることを指す。
【0022】
また、本発明のイオン源は、前記第一筐体が、前記第一内部空間を形成する長尺状の本体部を有し、複数の前記固定装置および複数の前記サージ対策部品が、前記第一筐体が前記第二筐体に固定された状態において、前記本体部の長手方向に沿って前記第二筐体に配置されており、前記長手方向を鉛直方向に一致させた状態でイオン注入装置のイオン源取付部に取り付けられるよう構成されていてもよい。
【0023】
一般に、プラズマが生成される内部空間を有する長尺状の本体部を有するイオン源は、本体部の長手方向を鉛直方向に一致させた状態でイオン注入装置のイオン源取付部に取り付けられる。このようなイオン源において、複数のサージ対策部品が当該長手方向に沿って並ぶように配置されている場合、従来は、メンテナンス作業時等において、作業者が鉛直方向に並んだサージ対策部品と第一筐体とを電線等の配線部材により順次接続する作業が発生していた。そして、このような作業は、イオン源が大型化するにつれて、より高い位置で行う必要があり、作業性および作業効率がさらに低下していた。
これに対し、この構成によれば、メンテナンス作業等において従来必要であったサージ対策部品と第一筐体とを電気的に接続する作業が不要となる。すなわち、イオン源が本体部の長手方向を鉛直方向に一致させた状態でイオン注入装置のイオン源取付部に取り付けられる場合であっても、当該作業における作業時間が短縮される。
【0024】
また、固定装置が、第一筐体の第二筐体に対する固定を解除するのに伴って上記の解除状態となるように構成されている場合にはさらに、前記第一筐体を前記第二筐体から離脱させる際に従来必要であった、作業者が第一筐体とサージ対策部品との電気的接続を解除する作業も不要となる。
【0025】
また、本発明のイオン注入装置は、内部でプラズマが生成される第一内部空間を有する第一筐体と、前記プラズマからイオンビームを引き出すための電極を収容する第二内部空間を有する第二筐体とを備え、前記第一筐体と前記第二筐体とが、前記第一内部空間と前記第二内部空間とを連通させつつ、互いに電気的に絶縁された状態で固定されるイオン源を備えるイオン注入装置であって、前記イオン源が、 前記第二筐体に配置され、前記第一筐体を前記第二筐体に着脱可能に固定する固定装置と、前記第一筐体または前記第二筐体に配置されたサージ対策部品と、をさらに備え、前記固定装置が前記第一筐体を前記第二筐体に固定するのに伴って、前記第一筐体と前記第二筐体とが、前記固定装置の少なくとも一部および前記サージ対策部品を介して電気的に接続される接続状態となるように構成されている。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、イオン源の組立作業またはメンテナンス作業における作業時間を従来と比較して短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の第一実施形態における第一のイオン源およびイオン注入装置を示す模式図。
図2】同実施形態における第一のイオン源を示す斜視図。
図3】同実施形態における第一のイオン源の図2中のX-X線における横断面図。
図4A】同実施形態における第一の固定部材が離脱位置にある状態を示す第一の固定装置の側面図。
図4B】同実施形態における第一の固定部材が途中位置にある状態を示す第一の固定装置の側面図。
図4C】同実施形態における第一の固定部材が固定位置にある状態を示す第一の固定装置の側面図。
図5】同実施形態における第一のイオン源の第一筐体が第二筐体から取り外された状態を示す斜視図。
図6】同実施形態における第一の固定装置の第一の変形例である第二の固定装置を示す側面図。
図7】同実施形態における第一の固定装置の第二の変形例である第三の固定装置を示す側面図
図8】本発明の第二実施形態におけるイオン源の一部を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の第一実施形態における第一のイオン源10A、および第一のイオン源10Aを備えるイオン注入装置1について説明する。なお、図1図8は本発明が理解されることを目的として作成されており、各図間における各構成要素の長さ寸法の比や縮尺の比率は必ずしも一致させられているものではない。
【0029】
まず、第一のイオン源10Aおよびイオン注入装置1の構成について説明する。
図1は本実施形態における第一のイオン源10Aおよび第一のイオン源10Aを備えるイオン注入装置1を示す模式図である。
本実施形態のイオン注入装置1は、フラットパネルディスプレイ製造工程において使用され、基板Sに所望のイオンを注入するために使用される装置である。なお、本実施形態における基板Sは矩形状のガラス基板であるが、基板Sの形状および材質は特定のものに限定されるものではない。
【0030】
図1に示すように、イオン注入装置1は、外部から供給される原料ガスからプラズマを生成し、当該プラズマに含まれるイオンをイオンビームIBとして取り出す第一のイオン源10Aを備えている。また、イオン注入装置1は、第一のイオン源10Aから引き出されたイオンを質量分離し、所望のイオンを含むイオンビームIBを輸送するイオン輸送部2と、イオン輸送部2からイオンビームIBが導入される処理室3をさらに備えている。
【0031】
処理室3の内部では、外部から搬入された基板Sに所望のイオンを含むイオンビームIBが照射されることによって基板Sに対するイオン注入処理が施される。第一のイオン源10A、イオン輸送部2、および処理室3は、それぞれの内部空間が連通するように連結されており、イオンビームIBは当該内部空間を通過して第一のイオン源10Aから基板Sに到達する。また、イオン注入装置1の運転時には、当該内部空間は真空排気されて高真空下に置かれている。
【0032】
図2は、第一のイオン源10Aがイオン注入装置1に搭載された状態を示す第一のイオン源10Aの斜視図である。図2では、第一のイオン源10Aに加え、イオン輸送部2の一部が示されている。
図1および図2に示すように、第一のイオン源10Aは互いに固定される第一筐体20および第二筐体30と、第一筐体20と第二筐体30を着脱可能に固定する複数の第一の固定装置40とを備えている。第一筐体20と第二筐体30はともにアルミニウム等の金属材料により形成されており、電気伝導性を有している。
【0033】
第一のイオン源10Aは、第一筐体20と第二筐体30とが互いに固定された状態で、後述する第二筐体30の第三フランジ部33が、イオン輸送部2のイオン源取付部2aにボルト等の締結部材(不図示)で固定されることによって、イオン輸送部2に連結されている。第一筐体20には、第一のイオン源10Aの外部に配置された図1に模式的に示す電源11が接続されている。第一のイオン源10Aは、第一のイオン源10Aの運転中、すなわちイオン注入装置1の運転中、電源11により、第一筐体20に接地電位に対して所定の電位が印加されるよう構成されている。
【0034】
図3は、図2中のX-X線における第一のイオン源10Aの横断面図であり、第一のイオン源10Aの内部構造を模式的に示している。
図3に示すように、第一筐体20は、プラズマが生成される第一内部空間A1を有する。また、第二筐体30は、第一内部空間A1に生成したプラズマからイオンビームIBを引き出すための引出電極群31を収容する第二内部空間A2を有する。
【0035】
第一筐体20と第二筐体30は、第一内部空間A1と第二内部空間A2を連通させつつ、第一筐体20と第二筐体30とを電気的に絶縁する筐体間絶縁部材25を介在させた状態で第一の固定装置40により固定される。筐体間絶縁部材25は、第一筐体20と第二筐体30との間に介在し、第一筐体20と第二筐体30とを絶縁するだけでなく、第一筐体20と第二筐体30との間を密封している。つまり、第一のイオン源10Aは、運転中、筐体間絶縁部材25によって、第一筐体20内と第二筐体30内は高真空状態が維持されるよう構成されている。
【0036】
なお、第一の固定装置40は、第一筐体20と第二筐体30との固定に寄与するものであればよい。つまり、第一のイオン源10Aは、第一筐体20と第二筐体30とが一または複数の第一の固定装置40のみによって固定されるものに限定されるものではない。例えば、第一のイオン源10Aは、第二筐体30に固定され、第一筐体20の下方を支持する筐体支持部材(不図示)をさらに備え、当該筐体支持部材と複数の第一の固定装置40によって第一筐体20が第二筐体30に固定される構成であってもよい。
【0037】
また、第一の固定装置40は、後述する第一の固定部材41と、第一の固定部材41を動作させる駆動機構部42を備えている。第一の固定部材41は、駆動機構部42から電気的に絶縁された状態で、駆動機構部42に連結されるようにして組み立てられている。第一の固定部材41と駆動機構部42が絶縁されていることにより、第一筐体20と第二筐体30とが、後述する第二筐体30に配置されたサージ対策部品50を介することなく第一の固定装置40を通じて電気的に接続されることが防止されている。
なお、本実施形態において、第一筐体20と第二筐体30とが電気的に絶縁されていることは、第一筐体20と第二筐体30とが後述するサージ対策部品50を介さずに電気的に接続されることがない、という意味を指し、第一筐体20と第二筐体30とが所定の電位差を維持した状態で互いに固定されることを指すと捉えてもよい。
【0038】
図2および図3に示すように、第一筐体20は、内壁面が第一内部空間A1を形成する長尺状の本体部21と、本体部21の側面から外方に張り出すように形成された第一フランジ部22を有している。図3に示すように、第一内部空間A1には、第一内部空間A1に電子を供給する複数のフィラメント23が配置されている。
【0039】
フィラメント23は、図2および図3に示す本体部21の二つの角部21aに、本体部21の長手方向Dに沿って複数形成された貫通部(不図示)に差し込むようにして配置されている。当該貫通部は一般的な構成であり、いずれの図においても図示が省略されている。また、図2および図5においてもフィラメント23の図示は省略されている。
【0040】
また、本体部21の外側には、第一のイオン源10Aの外部に配置されたフィラメント用電源(不図示)に接続され、第一筐体20に配置された各フィラメント23に電力を供給する回路部材24が配置されている。
【0041】
図3に示すように、第二筐体30は、第一筐体20と第二筐体30が固定された状態において、筐体間絶縁部材25を介して第一筐体20の第一フランジ部22に対向する第二フランジ部32を有する。また、図1および図2に示すように、第二筐体30は、イオン源取付部2aに固定される第三フランジ部33を有する。
【0042】
第二筐体30は、第二フランジ部32と第三フランジ部33を連結する筒状部30aを有する。本実施形態においては、第二フランジ部32、筒状部30a、および第三フランジ部33は一体に形成されている。なお、第二フランジ部32、筒状部30a、および第三フランジ部33は別個に形成され、ボルト等の締結部材によって一体にされることで第二筐体30を構成するものであってもよい。また、筒状部30aがさらに別個に構成された部材を連結することで構成されるものであってもよい。
【0043】
図3に示すように、第二筐体30の第二内部空間A2には、図示されない電源から接地電位に対して互いに異なる電位がそれぞれ印加される第一電極31a、第二電極31b、第三電極31cの三枚の電極から構成される引出電極群31が収容されている。本実施形態においては、第一筐体20に近いものから、第一電極31a、第二電極31b、第三電極31cの順に配置されおり、第一電極31aは特許文献1(特開2016-91795)における加速電極に相当する。
【0044】
また、第二内部空間A2には、引出電極群31に加え、引出電極群31を保持する電極保持部材34、および、引出電極群31と電極保持部材34を第二筐体30から絶縁させた状態で第二筐体30内に配置する絶縁保持部材35が収容されている。
【0045】
本実施形態においては、電極保持部材34は、第一電極31a、第二電極31b、および第三電極31cの幅方向両側の端部をそれぞれ保持する第一保持部34a、第二保持部34b、および第三保持部34cにより構成されている。
【0046】
また、絶縁保持部材35は、第一保持部34a、第二保持部34b、および第三保持部34cと第二筐体30の内周面とをそれぞれ絶縁する、第一絶縁保持部35a、第二絶縁保持部35b、および第三絶縁保持部35cにより構成されている。
【0047】
第一電極31a、第二電極31b、および第三電極31cは、電極保持部材34および絶縁保持部材35によって、互いに絶縁され、かつ互いに所定の間隔を維持した状態で第二内部空間A2に配置される。
【0048】
電極保持部材34および絶縁保持部材35は、本実施形態の構成に限定されるものではなく、第一電極31a、第二電極31b、および第三電極31cを所定位置に固定できるとともに互いに絶縁できる構成であればよい。すなわち、電極保持部材34および絶縁保持部材35は、第一電極31a、第二電極31b、および第三電極31cに所定の電位を印加できるように構成されていればどのような構成であってもよい。
【0049】
図2に示すように、第一筐体20の本体部21は、直方体形状に形成されている。そして、第一のイオン源10Aは本体部21の長手方向Dを鉛直方向(各図中のZ方向)に一致させた状態でイオン源取付部2aに取り付けられている。
【0050】
第二筐体30の第二フランジ部32には、図2に示す第一筐体20が第二筐体30に固定された状態において、本体部21を挟んだ幅方向両側のそれぞれに、長手方向Dに沿って5個の第一の固定装置40が並ぶよう、計10個の第一の固定装置40が配置されている。
なお、本実施形態における第一のイオン源10Aは、第一の固定装置40を10個備えているが、第一の固定装置40の数は適宜変更してよい。また、各第一の固定装置40が配置される位置も本実施形態の配置に限定されるものではない。第一の固定装置40の個数および配置位置は、第一筐体20を第二筐体30に固定できるものであれば、どのようなものであってもよい。
【0051】
第二フランジ部32にはさらに、後述する第一筐体20に発生するサージ電流から電源11や第一のイオン源10Aを構成する回路を保護するためのサージ対策部品50が複数配置されている。本実施形態におけるサージ対策部品50はセラミックコンデンサであるが、これに限定されるものではない。例えば、サージ対策部品50はサージアブソーバであってもよい。
【0052】
本実施形態においては、一つの第一の固定装置40に対して一つのサージ対策部品50が近接するように配置されている。すなわち、第一のイオン源10Aでは、第一筐体20が第二筐体30に固定された状態において、本体部21を挟んだ第二フランジ部32の幅方向両側のそれぞれに、長手方向Dに沿って5個のサージ対策部品50が並ぶように、計10個のサージ対策部品50が配置されている。
【0053】
本実施形態における第一の固定装置40は、エア式クランプであり、図3に示すように、第一筐体20の第一フランジ部22に接触して第一筐体20を第二筐体30に固定する第一の固定部材41を備える。また、第一の固定装置40は、第一の固定部材41を移動させる駆動機構部42をさらに備えている。後述するように、第一の固定部材41は、駆動機構部42によって、離脱位置P1から途中位置P2を経由して固定位置P3に至り、反対に、固定位置P3から途中位置P2を経由して離脱位置P1に至るように動作する。
【0054】
図4A~Cはそれぞれ、第一の固定部材41が離脱位置P1、途中位置P2、固定位置P3にある状態を示す第一の固定装置40の側面図である。図4A~Cには、第一の固定装置40に加え、第一筐体20の第一フランジ部22の一部、第二筐体30の第二フランジ部32の一部、サージ対策部品50、および、後述するサージ対策部品50を支持する支持部材52も示されている。また、図4A~Cには、駆動機構部42を動作させるコントローラ60が模式的に示されている。
【0055】
図4A~Cに示すように、第一の固定部材41は、第一の固定部材41と、第一の固定部材41を移動させる駆動機構部42を備えている。第一の固定部材41は、略直方体形状で絶縁体により形成された第一のブロック体41aと、第一のブロック体41aの底面および側面の一部を覆うよう断面コ字状の樋状に形成された第一の導電部41bにより構成されている。第一のブロック体41aと第一の導電部41bは螺子(不図示)によって固定されている。本実施形態においては、第一のブロック体41aはPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)等の絶縁性を有する合成樹脂により形成され、第一の導電部41bはステンレス等の金属により形成されているが、これに限定されるものではない。
【0056】
駆動機構部42は、第二フランジ部32に固定される台座部42aと、台座部42a内に配置されたエアシリンダ(不図示)によって昇降可能とされており、一端部が第一のブロック体41aを介して第一の固定部材41に固定される軸部42bと、を有している。
【0057】
本実施形態における第一の固定装置40は、所謂スイングタイプのクランプであり、軸部42bが軸部42bの軸方向Rに沿って昇降可能であるとともに、軸方向R中心に回転動作可能であるように構成されている。
【0058】
台座部42aと軸部42bはともに金属により形成され、電気伝導性を有しており、軸部42bと第一の固定部材41とは、絶縁体の第一のブロック体41aの内部でのみ接触している。つまり、第一の固定部材41は、第一の導電部41bと軸部42bとが接触することがない状態で、軸部42bに固定されている。また、第一の固定装置40は、駆動機構部42が動作する間においても、第一の導電部41bと軸部42b、および第一の導電部41bと台座部42aとが接触することがないよう構成されている。これによって第一の固定部材41と駆動機構部42との絶縁が確保されている。
【0059】
駆動機構部42は遠隔操作されることによって駆動する。より詳細には、駆動機構部42は、図4A~Cに模式的に示された第一のイオン源10Aから離れた位置に配置されたコントローラ60からの信号を受けて動作するよう構成されている。本実施形態におけるコントローラ60は、各第一の固定装置40の駆動機構部42が同時に同一の動作を行うよう、第一のイオン源10Aが有するすべての第一の固定装置40を制御する。これにより、作業者はひとつのコントローラ60を操作することで、すべての第一の固定装置40を同時に作動させることができる。
【0060】
本実施形態におけるサージ対策部品50は、一側端部50aと他側端部50bを有している。一側端部50aと他側端部50bは、電気回路におけるサージ対策部品50の両端部を指し、サージ対策部品50の形状に基づく両端部を指すものではない。本実施形態におけるサージ対策部品50の一側端部50aと他側端部50bはそれぞれ、セラミックコンデンサの一側の端子および他側の端子と捉えてよい。
【0061】
本実施形態においては、サージ対策部品50は、第二フランジ部32に固定された支持部材52に支持された状態で第二フランジ部32に配置されている。支持部材52は金属等の導電性材料により形成されている。サージ対策部品50は、一側端部50aが支持部材52に電気的に接続されている。サージ対策部品50と一側端部50aとの接続構造は限定されるものではないが、例えば、支持部材52に雌型端子を設け、一側端部50aを雄型端子として、雄雌嵌合させるように接続させてもよい。
【0062】
本第一実施形態におけるサージ対策部品50は、第二筐体30と直接または間接的に電気的に接続された状態で、直接第二フランジ部32に配置されていればよく、支持部材52を介して第二筐体30と電気的に接続される構成に限定されるものではない。
【0063】
サージ対策部品50の他側端部50bは、各サージ対策部品50の近傍に配置された第一の固定装置40の第一の導電部41bと接続部材51によって予め電気的に接続されている。なお、本実施形態における接続部材51は電線であるが、これに限定されるこのではない。
【0064】
したがって、サージ対策部品50の他側端部50bと第一筐体20とが電気的に接続されると、第一筐体20と第二筐体30とがサージ対策部品50を介して電気的に接続されることになる。
【0065】
また、図4Cに示すように、第一の固定部材41が固定位置P3にあるときには、第一の導電部41bが第一筐体20の第一フランジ部22に接触し、第一の導電部41bと第一筐体20とが電気的に接続されることになる。
【0066】
したがって、第一のイオン源10Aは、第一の固定部材41が固定位置P3にあるときには、他側端部50bが、第一の導電部41bおよび接続部材51を介して第一筐体20に電気的に接続される接続状態となる。これにより、第一筐体20にサージ電流が発生した場合、サージ電流は第一筐体20から、サージ対策部品50を介して第二筐体30に流れるようになる。つまり、当該異常電はサージ対策部品50によって所定の回路に流されることから、例えば、電源11にサージ電流が流れることによって電源11が故障する等の不具合の発生が回避される。
【0067】
接続部材51は、第一の固定装置40が動作する間に第一の固定部材41および駆動機構部42の動作に追従し、第一の導電部41bとサージ対策部品50との電気的接続を維持できるよう、余長を有して配線されている。
【0068】
本実施形態における第一の固定装置40は、エア式クランプに限定されず、例えば、油圧式クランプであってもよい。また、本実施形態における第一の固定装置40は、所謂スイングタイプの動作を行うクランプ装置であるが、これに限定されず、例えば、所謂リンクタイプの動作を行うクランプ装置であってもよい。第一の固定装置40は、第一のイオン源10Aの構成や大きさ、重量等に応じて適切な構成を採用すればよい。
【0069】
次に、第一の固定装置40の動作、および、第一筐体20を第二筐体30に対して固定および着脱させる作業について説明する。
第一筐体20を第二筐体30に固定する場合には、作業者はまず、第一フランジ部22を、第二フランジ部32の図5に破線で示す載置領域Bに合わせるように、第二筐体30上に載置する。このとき、図4Aに示すように、第一の固定部材41は離脱位置P1にあり、第一筐体20は第一の固定部材41に干渉することなく第二筐体30に載置される。
【0070】
続いて、作業者はコントローラ60を操作して、第一の固定部材41を図4Bに示す途中位置P2に移動させる。この間、第一の固定部材41は、軸部42bが軸方向Rに沿って回転動作するのに伴って回転動作し、第一の固定部材41が第一フランジ部22の上方に位置する途中位置P2に移動する。
【0071】
その後、第一の固定部材41は、軸部42bが軸方向Rに沿って下降するのに伴って第一フランジ部22に向かって下降し、第一筐体20を第二筐体30に固定する図4Cに示す固定位置P3に移動する。第一の固定部材41が固定位置P3にある状態では、第一の固定部材41が第一フランジ部22の被接触部22aを第二フランジ部32に向けて押圧することで第一筐体20を第二筐体30に固定する。
【0072】
この動作に伴い、第一のイオン源10Aは、第一筐体20とサージ対策部品50の他側端部50bとが、第一の固定装置40の一部である第一の導電部41b、および接続部材51を介して電気的に接続された接続状態となる。
【0073】
また、第一の固定部材41が固定位置P3にあるときに、第一の固定部材41は第一筐体20に押圧力を加えているが、これは、駆動機構部42が、第一の固定部材41を介して第一筐体20に当該押圧力を加えていると捉えてもよい。
【0074】
本実施形態においては、第一の固定部材41は、第一のブロック体41aの底面に配置された第一の導電部41bを介して第一筐体20の被接触部22aを押圧している。すなわち、第一の固定部材41が固定位置P3にあるときには、第一の導電部41bは、駆動機構部42から第一筐体20に向けた押圧力を加えられた状態で第一筐体20に接触している。したがって、第一の導電部41bと第一筐体20との接触がより確実なものとなり、第一筐体20とサージ対策部品50とをより確実に電気的に接続させることができる。
【0075】
図5は、第一筐体20が第二筐体30から取り外された状態を示す第一のイオン源10Aの斜視図である。
イオン注入装置1を運転するのに伴って、作業者は、フィラメント23の交換作業や第一筐体20内部の清掃作業等のメンテナンス作業を行う必要がある。この場合、第一のイオン源10A全体をイオン輸送部2から取り外すと大掛かりな作業となる。そこで、第二筐体30がイオン輸送部2に固定された状態で、第一筐体20を第二筐体30から取り外し、メンテナンス作業を行う場合がある。
【0076】
このようなメンテナンス作業を行う場合には、作業者は、イオン注入装置1の運転を停止させた後、まず、コントローラ60を操作して、第一の固定部材41を固定位置P3から離脱位置P1に移動させる。これによって、第一筐体20は第二筐体30から離脱し得る状態となる。この動作に伴い、第一のイオン源10Aは、第一筐体20とサージ対策部品50の他側端部50bとの、第一の固定装置40の一部である第一の導電部41b、および接続部材51を介した電気的接続が解除された解除状態となる。
この間の第一の固定装置40の動作は、前述の第一の固定部材41が離脱位置P1から固定位置P3に至る動作と単に反対の動作をするのみであるため、その説明は省略する。
【0077】
その後、クレーン(不図示)等を使用して第一筐体20を支持しつつ、図5に示すように第一筐体20を第二筐体30から離脱させる。そして、メンテナンス作業を行った後、先ほどとは反対の動作を行って第一筐体20を第二筐体30に固定させる。
【0078】
本実施形態における第一のイオン源10Aおよびイオン注入装置1においては、第一筐体20と第二筐体30とは互いに絶縁保持部材35により電気的に絶縁された状態で第一の固定装置40により固定されている。さらに、第二筐体30の第二フランジ部32には、複数の第一の固定装置40と複数のサージ対策部品50が配置されている。
【0079】
そして、サージ対策部品50の一側端部50aが第二筐体30に電気的に接続されており、第一の固定装置40が第一筐体20を第二筐体30に固定するのに伴って、第一筐体20とサージ対策部品50の他側端部50bとが第一の固定装置40の第一の導電部41bおよび接続部材51を介して電気的に接続される。
【0080】
ここで、第一のイオン源10Aの運転中、すなわちイオン注入装置1の運転中には、第一筐体20の本体部21の内壁や第二筐体30内に、図3に模式的に示す導電性を有する絶縁性の生成物70が経時的に堆積する。生成物70は、例えば、第一筐体20内でプラズマが生成するのに伴って生成する物質や、イオンビームIBが第一のイオン源10A内の引出電極群31や電極保持部材34等をスパッタリングすることによって発生する物質を含んでいてよく、特定の物質に限定されない
【0081】
この絶縁性の生成物70が引出電極群31やその周囲に堆積し、帯電していった結果、異常放電が発生する。このような場合、引出電極群31に放電が発生し、瞬間的にサージ電流が電源に流れてしまい、電源の故障を引き起こすなどの不具合が生じる恐れがある。これに対し、第一のイオン源10Aにおいては、瞬間的に発生するサージ電流を第一筐体20からサージ対策部品50および第一の固定装置40の一部である第一の導電部41bを介して第二筐体30側に流すようにしている。また、第一のイオン源10Aにおいては、サージ対策部品50が所定の位置に複数配置されていることにより、第一筐体20に発生したサージ電流が意図しない回路に流れることや電源11に流れることがより確実に防止されている。
【0082】
本実施形態においては、第一の固定装置40によって第一筐体20を第二筐体30に固定すると、第一筐体20と第二筐体30とがサージ対策部品50を介して電気的に接続されることになる。また、第一の固定装置40が第一筐体20の第二筐体30に対する固定を解除するのに伴って、第一筐体20とサージ対策部品50の他側端部50bとの第一の固定装置40を介した電気的接続が解除される。したがって、第一の固定装置40により第一筐体20と第二筐体30の固定が解除されると、第一筐体20とサージ対策部品50との電気的接続も解除されることになる。
【0083】
すなわち、本実施形態によれば、従来は必要であった、第一筐体20と第二筐体30を固定した後に、第一筐体20とサージ対策部品50とを配線部材によって電気的に接続する作業が不要となる。また、従来は必要であった、第一筐体20を第二筐体30から離脱させる前に、第一筐体20とサージ対策部品50の電気的接続を解除する作業も不要となる。
【0084】
本実施形態によれば、従来必要であった第一筐体20とサージ対策部品50とを接続する作業、および当該接続を解除する作業が不要となることから、第一のイオン源10Aの組立作業またはメンテナンス作業における作業時間を短縮できる。特に、メンテナンス作業にかかる作業時間が短縮されると、イオン注入装置1を停止する期間が短縮されることになり、イオン注入装置1の基板Sを処理する処理効率も向上することになる。
【0085】
また、本実施形態によれば、第一筐体20を第二筐体30に固定した後、サージ対策部品50と第一筐体20とを接続し忘れてしまうことや、第一筐体20を第二筐体30から離脱させる前にサージ対策部品50を第一筐体20から外し忘れるという作業ミスの発生を防止できる。
【0086】
図6は、本実施形態における第一の固定装置40の第一の変形例である第二の固定装置80を示す側面図である。
第二の固定装置80は、第二の固定部材81、および第一の固定装置40と共通する駆動機構部42とを備えている。第二の固定装置80は、第一の固定装置40から第一の固定部材41を第二の固定部材81に置き換えたものと捉えてよい。
【0087】
第二の固定装置80は、駆動機構部42が駆動することによって、第一の固定装置40と同様に、第二の固定部材81が離脱位置P1と固定位置P3の間を、途中位置P2を経由して移動するように構成されている。図6は、第二の固定部材81が固定位置P3にある状態を示している。
【0088】
図6に示すように、第二の固定装置80における第二の固定部材81は、ステンレス等の金属材料で形成あれた第二のブロック体81aと、側面視L字状の第二の導電部81b、第二のブロック体81aと第二の導電部81bの間に介在し、第二のブロック体81aと第二の導電部81bを絶縁する絶縁部81cを有している。また、第二の固定部材81は、第二の導電部81bの端部に取り付けられた端子部81dをさらに有している。
【0089】
また、第一フランジ部22には、第二の固定部材81が固定位置P3にあるときに、第二のブロック体81aに押圧される被押圧部26が形成されている。被押圧部26は、PEEK材等の絶縁性材料により形成されており、第二の固定部材81が固定位置P3にあるときに、第一フランジ部22と第二のブロック体81aは電気的に絶縁されている。
なお、第一フランジ部22に被押圧部26を形成する代わりに、第二のブロック体81aの底面に絶縁材料により形成された部材を配置することによって、第一フランジ部22と第二のブロック体81aとの絶縁を確保してもよい。
【0090】
第二の固定装置80においても、駆動機構部42の軸部42bと第二の導電部81bとが電気的に絶縁されるように、第二の固定部材81は軸部42bに取り付けられている。また、第二の固定装置80においても、第二の導電部81bと他側端部50bとが接続部材51により電気的に接続されている。なお、本実施形態においても接続部材51は電線であるが、これに限定されるものではない。
【0091】
本変形例における端子部81dは弾性を有する例えば板状の弾性接触端子であり、第一フランジ部22に形成された接点部27と弾性接触するように構成されている。なお、端子部81dは板状端子に限定されず、例えば、コイルスプリング状でもよく、弾性を有することにも限定されない。端子部81dは、接点部27と確実に電気的に接続される構成であればよい。
【0092】
また、本変形例における接点部27は第一フランジ部22に取り付けられた金属等の導電性材により形成された部材により形成されているが、第一フランジ部22の一部分であってもよい。また、第二の導電部81bに端子部81dを設ける代わりに、第一フランジ部22に弾性接触端子(不図示)を配置し、当該弾性接触端子と第二の導電部81bとを電気的に接続するように構成としてもよい。
【0093】
図7は、本実施形態における第一の固定装置40の第二の変形例である第三の固定装置90を示す側面図である。
第三の固定装置90は、第三の固定部材91、および第一の固定装置40と共通する駆動機構部42とを備えている。第三の固定装置90は、第一の固定装置40から第一の固定部材41を第二の固定部材81に置き換えたものと捉えてよい。
【0094】
第三の固定装置90は、駆動機構部42が駆動することによって、第一の固定装置40と同様に、第二の固定部材81が離脱位置P1と固定位置P3の間を、途中位置P2を経由して移動するように構成されている。図7は、第三の固定部材91が固定位置P3にある状態を示している。
【0095】
第三の固定装置90は、第二フランジ部32に配置された絶縁固定部材28を介して、第二フランジ部32に固定される。絶縁固定部材28は、PEEK等の絶縁材料により構成されており、絶縁固定部材28によって、第三の固定装置90と第二フランジ部32とが絶縁されている。つまり、第三の固定部材91は、第三の固定部材91の全体が第二筐体30から電気的に絶縁された状態で、第二筐体30に配置されている。
【0096】
第三の固定装置90において、第三の固定部材91は、ステンレス等の金属材料により形成された第三のブロック体91aにより構成されている。また、第三のブロック体91aは電気的に接続された状態で駆動機構部42に取り付けられている。
【0097】
本変形例においては、サージ対策部品50の他側端部50bと、駆動機構部42が有する台座部42aとが接続部材51により電気的に接続されている。本実施形態においても接続部材51は電線であるが、これに限定されるものではない。
【0098】
本変形例は、第一筐体20とサージ対策部品50を第三の固定装置90を介して接続するものであり、サージ対策部品50の他側端部50bは台座部42aと電気的に接続されている形態に限らず、例えば第三のブロック体91aに接続されていてもよい。
【0099】
本変形例においては、第三のブロック体91aがステンレス等の金属により形成されていることによって、より確実に第一筐体20を第二筐体30に固定させることができる。
【0100】
また、本実施形態の第一のイオン源10Aは、本体部21の長手方向Dを鉛直方向に一致させた状態でイオン注入装置1のイオン源取付部2aに取り付けられるよう構成される。また、第一のイオン源10Aにおいては、複数の第一の固定装置40および複数のサージ対策部品50が、長手方向Dに沿って配置されている。
【0101】
このような構成の場合、従来では、メンテナンス作業時等において、作業者が鉛直方向に並んで配置されたサージ対策部品50と第一筐体20とを電線等の配線部材により順次接続する作業が発生していた。この作業は、装置が大型化するにつれて、当該作業をより高い位置で行う必要があり、作業効率がさらに低下していた。
【0102】
これに対し、本実施形態の構成によれば、第一の固定装置40の駆動機構部42が遠隔操作されることによって駆動されることから、作業者は第一のイオン源10Aから離れた位置においてコントローラ60を操作することによって、第一筐体20の第二筐体30に対する固定および当該固定の解除を行うことができる。これにより、前述の作業効率が向上するのに加え、作業の安全性も確保されることになる。
【0103】
本実施形態においては、サージ対策部品50は支持部材52に支持された状態で、第一の固定部材41とは別個に配置されているが、サージ対策部品50は、第一の固定部材41に固定されている構成であってもよい。例えば、サージ対策部品50を台座部42aに固定させるともに、サージ対策部品50の一側端部50aと台座部42aとを電気的に接続させる構成であってもよい。この場合、第一筐体20とサージ対策部品50とは、台座部42aを介して電気的に接続されることになる。
【0104】
次に、本発明の第二実施形態である第二のイオン源10Bについて説明する。
第二のイオン源10Bは、イオン注入装置1において第一のイオン源10Aと置き換えて使用可能である。また、第一実施形態の第一のイオン源10Aと共通する構成要素については第一実施形態と共通する符号を付与し、その説明を省略する。
【0105】
第二のイオン源10Bは、図2に示された位置と同じ位置に配置された複数の第一の固定装置40を備え、各第一の固定装置40は第一実施形態と同一の動作を行う。また、第二のイオン源10Bにおいては、図2に示された各サージ対策部品50が、第一筐体20の第一フランジ部22に配置されており、この点が第一のイオン源10Aとの主な違いである。
【0106】
図8は、第二のイオン源10Bの一部を示す側面図であり、より詳細には、第二のイオン源10Bが備える第一の固定装置40が固定位置P3にある状態を示している。
図8に示すように、第二のイオン源10Bは、第一フランジ部22上に固定され、絶縁体により形成された板状の第二支持部材29と、第二支持部材29の上面に配置された導電性材料により形成された第二被接触部22bを有する。
【0107】
また、第二支持部材29にはサージ対策部品50が支持されており、サージ対策部品50は、一側端部50aが第一フランジ部22に、他側端部50bが第二被接触部22bに電気的に接続されている。
【0108】
第二のイオン源10Bにおいては、第一の固定装置40の第一の導電部41bは、第一実施形態と異なり、電線である接続部材51によって第二フランジ部32に、サージ対策部品50を介することなく、直接接続されている。
【0109】
第二のイオン源10Bにおいては、第一筐体20の第一フランジ部22と第二被接触部22bとが、サージ対策部品50を介して電気的に接続されている。また、第一の固定装置40の第一の導電部41bと第二筐体30の第二フランジ部32とが電気的に接続されている。つまり、第一の導電部41bが第二被接触部22bに接触すると、第一筐体20と第二筐体30とが、サージ対策部品50および第二被接触部22bを介して、電気的に接続されることになる。
【0110】
したがって、第二のイオン源10Bにおいては、第一の固定装置40が固定位置P3にあるときには、第一筐体20と第二筐体30とが、サージ対策部品50および第二被接触部22bを介して、電気的に接続される。また、第一の固定装置40が離脱位置P1にあるときには、第一筐体20と第二筐体30との電気的接続が解除される。
【0111】
このように、サージ対策部品50は、第一実施形態のように第二筐体30に配置されていること限らず、第二実施形態のように第一筐体20に配置することができる。また、第二のイオン源10Bは、第一のイオン源10Aが奏する作用効果を同様に奏することは明らかであるから、その説明は省略する。
【0112】
また、本発明は前記実施形態および前記変形例に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0113】
S 基板
IB イオンビーム
A1 第一内部空間
A2 第二内部空間
1 イオン注入装置
10A 第一のイオン源
10B 第二のイオン源
20 第一筐体
21 本体部
22 第一フランジ部
30 第二筐体
31 引出電極群
34 保持部材
40 第一位の固定装置
41 第一の固定部材
41a 第一のブロック体
41b 第一の導電部
42 第一の駆動機構部
42a 第一の台座部
42b 第一の軸部
50 サージ対策部品
50a 一側端部
50b 他側端部
51 電線
60 コントローラ
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8