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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055264
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】プラズマ水処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/48 20230101AFI20240411BHJP
【FI】
C02F1/48 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162046
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安井 祐之
(72)【発明者】
【氏名】スパダベッキャ ウルデリコ クラウディオ アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】村山 清一
(72)【発明者】
【氏名】森谷 可南子
(72)【発明者】
【氏名】牧瀬 竜太郎
【テーマコード(参考)】
4D061
【Fターム(参考)】
4D061DA08
4D061DB19
4D061DC09
4D061EA13
4D061EB09
4D061EB16
4D061EB18
4D061EB19
4D061EB20
4D061GC11
4D061GC15
(57)【要約】
【課題】複数のプラズマ生成部を備えるプラズマ水処理装置において、被処理水中の有害物質に作用するOHラジカルの作用効率を向上させる。
【解決手段】実施形態のプラズマ水処理装置では、プラズマ生成用電源によって高電圧電極と接地電極の間に交流電圧が印加されることによって高電圧電極と接地電極の間の希ガス中でプラズマを点弧し、プラズマがプラズマ進展部の開口部から放出され、放出されたプラズマが被処理水の液面に接触することによって被処理水中にOHラジカルが生成され、OHラジカルによって被処理水中に含まれる有害物質の処理が行われる。プラズマ生成部を複数有し、制御部は、プラズマ生成用電源によってプラズマ生成部に交流電圧を印加するON時間と、プラズマ生成部に交流電圧を印加しないOFF時間と、を繰り返し、さらに、互いに隣接するプラズマ生成部が同時にON時間とならないように制御する。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマを点弧する高電圧電極、接地電極、および前記高電圧電極と前記接地電極の間に設けられた誘電体とを有する放電部と、前記放電部に連結され開口部を有するプラズマ進展部と、を有するプラズマ生成部と、
前記高電圧電極と前記接地電極の間に交流電圧を印加するプラズマ生成用電源と、
制御部と、を備え、
前記プラズマ生成用電源によって前記高電圧電極と前記接地電極の間に交流電圧が印加されることによって前記高電圧電極と前記接地電極の間の希ガス中でプラズマを点弧し、前記プラズマが前記プラズマ進展部の前記開口部から放出され、放出された前記プラズマが被処理水の液面に接触することによって前記被処理水中にOHラジカルが生成され、前記OHラジカルによって前記被処理水中に含まれる有害物質の処理が行われるプラズマ水処理装置において、
前記プラズマ生成部を複数有し、
前記制御部は、前記プラズマ生成用電源によって前記プラズマ生成部に交流電圧を印加するON時間と、前記プラズマ生成部に交流電圧を印加しないOFF時間と、を繰り返し、さらに、互いに隣接する前記プラズマ生成部が同時に前記ON時間とならないように制御する、
プラズマ水処理装置。
【請求項2】
互いに隣接する前記プラズマ生成部が同時に前記ON時間とならないように、前記プラズマ生成用電源からそれぞれの前記プラズマ生成部への電圧出力を切り替える切替機構を備え、
前記制御部は、前記切替機構を制御する、
請求項1に記載のプラズマ水処理装置。
【請求項3】
前記プラズマ生成用電源は、前記複数のプラズマ生成部に対応して複数あり、
前記制御部は、互いに隣接する前記プラズマ生成部が同時に前記ON時間とならないように、それぞれの前記プラズマ生成用電源の電圧出力のタイミングを制御する、
請求項1に記載のプラズマ水処理装置。
【請求項4】
前記OFF時間は、100μsec以上である、請求項1に記載のプラズマ水処理装置。
【請求項5】
電源周波数の周期がOHラジカルの寿命より短い場合、前記ON時間は、電源周波数の1周期分の時間である、請求項1に記載のプラズマ水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、プラズマ水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、上下水の処理については、オゾン処理や塩素処理が一般的に知られている。しかし、産業用排水等の被処理水には、オゾン処理や塩素処理では分解できないダイオキシン類やジオキサン等の難分解性物質が含まれる場合がある。その対策として、オゾン、過酸化水素、紫外線等を併用した促進酸化処理法で、オゾン処理や塩素処理よりも反応性の高いOHラジカル(ヒドロキシルラジカル)を被処理水中で発生させ、OHラジカルによる難分解性物質の分解を行う方法がある。しかし、この方法は、装置コストや運転コストが非常に高いという問題がある。
【0003】
そこで、プラズマの作用で直接的にOHラジカルを生成し、高効率に被処理水中の難分解性物質を分解する方法が提案されている。
【0004】
また、その方法を実現するためのプラズマ水処理装置の大型化を考える場合、プラズマ生成部を複数配列させることで、大型化を実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5819031号公報
【特許文献2】特開2019-155294号公報
【特許文献3】国際公開第2016/117259号
【特許文献4】特開2010-137212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、プラズマ生成部を複数配列したプラズマ水処理装置では、互いに隣接したプラズマ生成部から放出したプラズマの作用により被処理水中に生成されたOHラジカル同士や、同じプラズマ生成部から放出したプラズマの作用により被処理水中に生成されたOHラジカル同士が再結合反応で消滅するため、被処理水中の有害物質に作用するOHラジカルの作用効率が低くなってしまうという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、複数のプラズマ生成部を備えるプラズマ水処理装置において、被処理水中の有害物質に作用するOHラジカルの作用効率を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態のプラズマ水処理装置は、プラズマを点弧する高電圧電極、接地電極、および前記高電圧電極と前記接地電極の間に設けられた誘電体とを有する放電部と、前記放電部に連結され開口部を有するプラズマ進展部と、を有するプラズマ生成部と、前記高電圧電極と前記接地電極の間に交流電圧を印加するプラズマ生成用電源と、制御部と、を備える。前記プラズマ生成用電源によって前記高電圧電極と前記接地電極の間に交流電圧が印加されることによって前記高電圧電極と前記接地電極の間の希ガス中でプラズマを点弧し、前記プラズマが前記プラズマ進展部の前記開口部から放出され、放出された前記プラズマが被処理水の液面に接触することによって前記被処理水中にOHラジカルが生成され、前記OHラジカルによって前記被処理水中に含まれる有害物質の処理が行われる。前記プラズマ生成部を複数有し、前記制御部は、前記プラズマ生成用電源によって前記プラズマ生成部に交流電圧を印加するON時間と、前記プラズマ生成部に交流電圧を印加しないOFF時間と、を繰り返し、さらに、互いに隣接する前記プラズマ生成部が同時に前記ON時間とならないように制御する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、従来技術のプラズマ水処理装置の構成の一例を示す図である。
図2図2は、従来技術の複数のプラズマ生成部を備えるプラズマ水処理装置の構成の一例を示す図である。
図3A図3Aは、従来技術のプラズマ水処理装置におけるプラズマ生成部に対する交流電圧の印加処理の一例を説明するための図である。
図3B図3Bは、第1実施形態のプラズマ水処理装置におけるプラズマ生成用電源による交流電圧の出力処理の一例を説明するための図である。
図4図4は、第1実施形態のプラズマ水処理装置の構成の一例を示す図である。
図5図5は、第1実施形態のプラズマ水処理装置におけるプラズマ生成部に対する交流電圧の印加処理の一例を説明するための図である。
図6図6は、第1実施形態のプラズマ水処理装置におけるデューティー運転の一例を説明するための図である。
図7図7は、第2実施形態のプラズマ水処理装置の構成の一例を示す図である。
図8図8は、第2実施形態のプラズマ水処理装置におけるプラズマ生成部に対する交流電圧の印加処理の一例を説明するための図である。
図9図9は、実施例のプラズマ水処理装置の構成の一例を示す図である。
図10図10は、実施例のプラズマ水処理装置におけるデューティー運転での酢酸分解の実験結果を示す図である。
図11図11は、変形例のプラズマ水処理装置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本実施形態のプラズマ水処理装置について説明する。
【0011】
図1は、1つのプラズマ生成部5を有するプラズマ水処理装置の概要を示す図である。このプラズマ水処理装置では、放電部1で生成されたプラズマ4がプラズマ進展部2を介して被処理水10へ照射されるため、放電部1内に被処理水を導入しない構成になっている。したがって、放電部1が、被処理水10が流れる領域とは電気的に絶縁されるよう離間している。よって、放電部1内でのプラズマ4は被処理水10の形状、被処理水10の導電率や誘電率といった電気的な性質の影響を受けることがないので、放電の不安定性や異常放電はなくなり、安定したプラズマ生成が可能となる。したがって、プラズマ生成用電源3も安価で汎用的な交流電源を使用することができる。
【0012】
また、上記したプラズマ水処理装置を大規模な水処理施設で用いる場合は、図2に示すようにプラズマ生成部5を複数配列させる必要がある。そして、この場合、放電部1内の高電圧電極1A(図1)と接地電極1B(図1)の間に電圧を印加するプラズマ生成用電源3の運転方法は、交流電圧を高電圧電極1Aと接地電極1Bの間に連続して印加する運転方法であった(図3A)。
【0013】
しかしながら、装置の大型化のためにプラズマ生成部5を複数配列した構成における運転において、互いに隣接したプラズマ生成部5から放出したプラズマの作用により被処理水10中に生成されたOHラジカル同士や、同じプラズマ生成部5から放出したプラズマの作用により被処理水中に生成されたOHラジカル同士が、以下の(1)式の再結合反応で消滅する。このため、被処理水10中の有害物質に作用するOHラジカルの作用効率が低くなってしまっていた。
OH+OH→ H ・・・(1)
【0014】
そこで、以下では、複数のプラズマ生成部を備えるプラズマ水処理装置において、被処理水中の有害物質に作用するOHラジカルの作用効率を向上させることができる技術について説明する。
【0015】
(第1実施形態)
第1実施形態について説明する。第1実施形態のプラズマ水処理装置で用いるプラズマ生成部は、図1に示したプラズマ生成部5と同様なので、まず、図1を用いて説明する。プラズマ水処理装置は、図1に示すように、放電部1とプラズマ進展部2からなるプラズマ生成部5と、プラズマ生成用電源3と、を有する。
【0016】
放電部1は、高電圧電極1Aと、接地電極1Bと、誘電体1Cと、を有する。誘電体1Cは、高電圧電極1Aと接地電極1Bの間に設けられる。本実施形態では、接地電極1Bと誘電体1Cは、同軸円筒構造を有している。また、高電圧電極1Aと接地電極1Bの間には、希ガスが充填されている(詳細は後述)。また、高電圧電極1Aおよび接地電極1Bは、プラズマ生成用電源3に接続されている。
【0017】
プラズマ生成用電源3は、高電圧電極1Aと接地電極1Bの間に交流電圧を印加して、高電圧電極1Aと接地電極1Bの間の希ガス中でプラズマ4を点弧させる。例えば、プラズマ生成用電源3は、高電圧電極1Aと接地電極1Bの間に、周波数が15kHzであり、高圧波高値が4kV程度の交流電圧を印加する。
【0018】
プラズマ進展部2は、筒状の絶縁体で構成され、放電部1に接続される。
【0019】
本実施形態のプラズマ水処理装置では、放電部1およびプラズマ進展部2の内部は、希ガスを含むプラズマ生成ガスで満たされている。プラズマ生成ガスに含有される希ガスとしては、プラズマ発生のために投入するエネルギーを効率良くプラズマの生成に変換できる希ガスが好ましく、例えば、ArガスやHeガスである。
【0020】
そして、プラズマ生成用電源3によって高電圧電極1Aと接地電極1Bの間に交流電圧が印加されることによって、高電圧電極1Aと接地電極1Bの間の希ガス中でプラズマ4を点弧し、プラズマ4がプラズマ進展部2の開口部2Aから放出される。そして、放出されたプラズマ4が被処理水10の液面に接触することによって被処理水10中にOHラジカルが生成され、OHラジカルによって被処理水10中に含まれる有害物質の処理が行われる。
【0021】
また、本実施形態のプラズマ水処理装置では、プラズマ生成用電源3によってプラズマ生成部5に交流電圧を印加するON時間と、プラズマ生成部5に交流電圧を印加しないOFF時間と、を繰り返すデューティー運転を実行する。
【0022】
図3Bは、第1実施形態のプラズマ水処理装置におけるプラズマ生成用電源3による交流電圧の出力処理の一例を説明するための図である。図3Bにおいて、縦軸は、プラズマ生成用電源3から印加する交流電圧(印加電圧)を表し、横軸は、時間を表す。
【0023】
プラズマ生成用電源3は、図3Bに示すように、高電圧電極1Aと接地電極1Bの間に対する交流電圧の出力(印加)(ON時間)に対して、OFF時間を設ける。
【0024】
これにより、同じプラズマ生成部5から放出したプラズマの作用により被処理水10中に生成されたOHラジカル同士が再結合反応で消滅することは抑制できる。しかし、プラズマ生成部5を複数配列した構成では、互いに隣接したプラズマ生成部5を同時にON時間としてしまうと、互いに隣接したプラズマ生成部5から放出したプラズマの作用により被処理水10中に生成されたOHラジカル同士が再結合反応で消滅してしまう。そこで、その対策について以下で詳述する。
【0025】
図4は、第1実施形態のプラズマ水処理装置の構成の一例を示す図である。図4のプラズマ水処理装置では、複数のプラズマ生成部5が一列に設けられている。それぞれのプラズマ生成部5の放電部1内の高電圧電極1Aと接地電極1Bは、出力先切替機構6(切替機構)を介してプラズマ生成用電源3に接続されている。
【0026】
複数のプラズマ生成部5は、2つおきのプラズマ生成部5が同じグループに属するものとして、3つのグループに分けられている。そして、出力先切替機構6から、それぞれのグループごとに、経路1、経路2、経路3の配線が設けられている。
【0027】
各グループのプラズマ生成部5には、交流電圧が、図5に示すように、印加される。つまり、出力先切替機構6で交流電圧の出力先を切り替えることで、各グループごとに、ON時間とOFF時間を繰り返し行うデューティー運転が行われる。以下では、経路1、2、3の配下のプラズマ生成部5のグループを、それぞれ、グループ1、2、3と称する場合がある。
【0028】
ここでは、互いに隣接するプラズマ生成部5が同時にON時間とならないように、つまり、2つ以上のグループが同時にON時間になることがないように、出力先切替機構6は、制御部7からの切替制御信号により、プラズマ生成用電源3からの電圧出力を切り替える。この高電圧の経路の切替は、例えば、出力先切替機構6内に内蔵されたスイッチイング素子によって行われる。
【0029】
電圧が印加されたプラズマ生成部5内の放電部1の高電圧電極1Aと接地電極1Bの間において誘電体1Cを介して印加電圧の周波数に対応した周期で放電が発生し、放電部1内にプラズマが生成される。
【0030】
このプラズマ自体で形成する空間中の電界が起点となって、放電部1に連結されたプラズマ生成ガスで満たされたプラズマ進展部2内にプラズマが放電部1側から進展して形成される。そして、さらにこのプラズマ自体で形成する空間中の電界が起点となって、プラズマ進展部2に設けられた開口部2Aから被処理水10に向かってプラズマが形成され、放出される。
【0031】
この放出したプラズマが、被処理水10の液面に接触し、プラズマ照射される。このプラズマ照射により被処理水10中に以下に説明する反応により化学的活性種である非常に反応性に富んだOHラジカルが生成される。プラズマ照射によるOH生成過程は、以下の1)~3)の3つの反応が主である。
【0032】
1)気相中のプラズマで生成されたOHラジカルが、被処理水10中へ溶け込む反応:
この反応は、以下の(2)式に示す気相中のプラズマ中の電子衝突による水分子(HO)の解離反応を経て、気相中でOHラジカルが生成し、被処理水10中へOHラジカルが溶け込む反応である。この反応は、被処理水10と気相の界面での蒸発HOがOH生成量を飛躍的に増加させる。
【0033】
気相反応:HO+e→OH+H+e ・・・(2)
(このOHが液相(被処理水10)へ溶け込む)
【0034】
2)プラズマ中のイオンが被処理水10中の水分子(HO)と反応してOHラジカルが生成する反応:
この反応は、気相中のプラズマで生成された正イオンが被処理水10中に溶け込み、以下の(3)、(4)式に示す水分子との電荷交換を通して、被処理水10中にOHラジカルが生成する反応である。
【0035】
液相反応:正イオン(N ,O etc)+HO→H ・・・(3)
+HO→H+OH ・・・(4)
【0036】
3)プラズマ光が被処理水10中の水分子(HO)に作用してOHラジカルが生成する反応:
この反応は、以下の(5)式に示す気相中のプラズマによって発生するUV(Ultra Violet:紫外線)やVUV(Vacuum Ultra Violet:真空紫外線)による被処理水10中の水分子(HO)の光解離によりOHラジカルが生成する反応である。通常、この発光による光の水中への平均自由工程は数十μm程度である。
【0037】
液相反応:プラズマ発光(hν)+HO→OH+H ・・・(5)
【0038】
こうして生成されたOHラジカルの作用により、被処理水10に含まれる難分解性物質の分解が行われる。
【0039】
一方、前述のOH生成反応に対して、生成したOHラジカルが以下の(6)式の反応で消滅する反応がある。この反応は、生成されたOHラジカル同士の再結合反応により、安定なH(過酸化水素)を生成する反応である。
【0040】
気相、液相反応:OH+OH→H ・・・(6)
【0041】
そこで、(6)式によるOHラジカル同士の再結合反応による消滅を抑制するために、本実施形態のプラズマ水処理装置の運転では、図5に示すような電圧印加方法を行う。
【0042】
すなわち、互いに隣接するプラズマ生成部5内の放電部1が同時にプラズマ点弧(ON)しないようにしている。つまり、隣接したプラズマ生成部5からの放出プラズマで生成された各々のOHラジカルが再結合しないように、ON時間のプラズマ生成部5に隣接したプラズマ生成部5はOFF時間になっている。
【0043】
さらに、プラズマ生成用電源3からの電圧出力は、図5に示すようにOFF時間を設け、電圧出力のON/OFFを繰り返し行うデューティー運転となっている。一般に、OHラジカル同士の再結合反応によるOHラジカルが消滅する時間(OHラジカルの寿命)は、数百μsec(マイクロ秒)程と試算されている。そして、電圧出力のOFF時間は、OHラジカル同士の再結合反応の低減だけを考えればOHラジカルの寿命より少し長いのが好ましいが、OHラジカルの寿命より少し短くてもOHラジカル同士の再結合反応の低減の効果がある程度期待できることやその他の事情などから、例えば、100μsec以上に設定することが好ましい。
【0044】
また、電圧出力のON時間において、電源周波数に対応した周期でプラズマ発生するため、その結果、OHラジカルも電源周波数に対応した周期で生成する。例えば電源周波数15kHz運転の場合、67μsec毎の周期でOHラジカルが生成される。
【0045】
したがって、例えば、電源周波数の周期がOHラジカルの寿命よりも短い場合には、ある瞬間に生成されたOHラジカルと次の周期で生成されたOHラジカルとの再結合反応が発生する。よって、電源周波数の周期がOHラジカルの寿命よりも短い場合には、図6に示すように、電圧出力のON時間を電源周波数の1周期の時間にし、その後、電圧出力のOFF時間を設けた運転が好ましい。
【0046】
図6は、第1実施形態のプラズマ水処理装置におけるデューティー運転の一例を説明するための図である。図6において、縦軸は、高電圧電極1Aと接地電極1B間に印加する交流電圧(印加電圧)を表し、横軸は、時間を表す。
【0047】
このようなデューティー運転により、プラズマ生成用電源3の電源周波数の周期がOHラジカルの寿命より短い場合に、OHラジカル同士の再結合反応を抑制できるので、被処理水10の有害物質の分解効率を向上させることができる。また、プラズマ生成用電源3の電源周波数が高いことで、プラズマ生成用電源3自体を小型化することができる。
【0048】
なお、電源周波数の周期がOHラジカルの寿命より長い場合は、ON時間を電源周波数の1周期の時間にする必要性は低い。
【0049】
このように、第1実施形態によれば、複数のプラズマ生成部5を備えるプラズマ水処理装置において、上述のデューティー運転を実行するとともに、互いに隣接するプラズマ生成部5が同時にON時間とならないように制御する。これにより、OHラジカル同士の再結合反応を抑制し、被処理水10中の有害物質に作用するOHラジカルの作用効率を向上させることができる。したがって、装置を大型化した場合でも、消費電力(運転コスト)を低く抑えることができる。
【0050】
また、OFF時間を100μsec以上とすることで、OHラジカル同士の再結合反応の抑制効果をさらに向上できる。
【0051】
また、電源周波数の周期がOHラジカルの寿命より短い場合、ON時間を電源周波数の1周期の時間とすることで、OHラジカル同士の再結合反応の抑制効果をさらに向上できる。
【0052】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。第1実施形態と同様の事項については、説明を適宜省略する。図7は、第2実施形態のプラズマ水処理装置の構成の一例を示す図である。
【0053】
第1実施形態ではプラズマ生成用電源3が1つであったが、第2実施形態ではプラズマ生成用電源3は複数のプラズマ生成部5に対応して複数ある。具体的には、プラズマ生成用電源3をプラズマ生成部5のグループの数と同じだけ設ける。つまり、プラズマ生成部5のグループ1、2、3に対応するプラズマ生成用電源#1、#2、#3(以下、区別しないときは、「プラズマ生成用電源3」と称する。)を設ける。
【0054】
そして、互いに隣接するプラズマ生成部5が同時にON時間とならないようにプラズマ生成用電源#1、#2、#3の電圧出力のタイミングを制御する制御部7を備える。制御部7は、制御信号を用いてプラズマ生成用電源#1、#2、#3の電圧出力のタイミングを制御する。
【0055】
図8は、第2実施形態のプラズマ水処理装置におけるプラズマ生成部5に対する交流電圧の印加処理の一例を説明するための図である。制御部7による制御によって、図8に示すように、グループ1がON時間のときはグループ2、3はOFF時間、グループ2がON時間のときはグループ1、3はOFF時間、グループ3がON時間のときはグループ1、2はOFF時間、となる。
【0056】
このように、第2実施形態によれば、出力先切替機構6(図4)を用いる代わりに、複数のプラズマ生成用電源3および制御部7を用いることで、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0057】
(実施例)
発明者らは、このデューティー運転の有効性を示す有害物質(指標物質として、OHラジカルで分解する酢酸を使用)の分解実験を実施した。以下、その実験の概要を説明する。
【0058】
実施例では、ON時間とOFF時間とを繰り返すデューティー運転を行う際に、OFF時間を100μsec以上とする例である。以下の説明では、第1実施形態と同様の事項については説明を適宜省略する。
【0059】
図9は、実施例のプラズマ水処理装置の構成の一例を示す図である。実施例のプラズマ水処理装置は、放電部1と、プラズマ進展部2と、プラズマ生成用電源3と、を有する。
【0060】
放電部1は、直径が2mmの高電圧電極1A、接地電極1B、外径が6.15mmの石英ガラス管である誘電体1Cを有する。プラズマ進展部2は、絶縁体のシリコンチューブで構成される。
【0061】
プラズマ生成用電源3は、15kHzの電源であり、外部の制御装置等から入力されるON/OFF指令信号にしたがって、4kVの交流電圧を、高電圧電極1Aと接地電極1Bの間に印加して、高電圧電極1Aと接地電極1Bの間の希ガスの一例であるHe中でプラズマ4を点弧させる。実施例では、プラズマ生成用ガス(希ガス)には、Heを用いて、流量計401を介して、放電部1の高電圧電極1Aと接地電極1Bの間に導入される。
【0062】
また、本実施例では、プラズマ生成用電源3は、10msec周期で、OFF時間を設けるデューティー運転を実施する。デューティー運転におけるデューティー比は、下記の式(7)により定義される。
デューティー比(%)=(ON時間/(ON時間+OFF時間))×100・・(7)
【0063】
放電部1で生成されるプラズマ4自体で形成する空間電界が起点となって、放電部1に接続されたプラズマ進展部2内に、プラズマ4が、放電部1側から進展して形成される。次いで、プラズマ進展部2内で、プラズマ4自体で形成する空間電界が起点となって、プラズマ進展部2に設けられる開口2Aから被処理水10の液面に向かってプラズマ4が放出される。実施例では、被処理水10は、酢酸を含む被処理溶液404である。具体的には、被処理溶液404は、酢酸ナトリウムと純水とを混合した0.33ミリmоl/Lの酢酸ナトリウム溶液(40mL)である。被処理溶液404に含まれる酢酸の初期濃度は、19.7mg/Lである。
【0064】
本実施例では、プラズマ水処理装置は、デューティー運転によって酢酸の分解の実験を実施した例である。また、本実施例では、被処理溶液404は、ターンテーブル402上に設置されたガラス容器403(例えば、内径80mmのガラス容器)に入っている。また、実施例では、ターンテーブル402は、80rpmで回転しているものとする。
【0065】
次に、図10を用いて、本実施例におけるプラズマ水処理装置におけるデューティー運転での酢酸分解の実験結果の一例について説明する。図10は、実施例のプラズマ水処理装置におけるデューティー運転での酢酸分解の実験結果を示す図である。
【0066】
図10において、縦軸は、デューティー比:100%のデューティー運転時における酢酸の分解効率に対する各デューティー比のデューティー運転時における酢酸の分解効率を表す。また、図10において、横軸は、デューティー比が異なるデューティー運転を表す。なお、酢酸の分解効率は、酢酸の低減量(g)を、投入プラズマ電力量(Wh)で除算した値である。
【0067】
デューティー運転(1)は、OFF時間を設けないデューティー比:100%のデューティー運転である。
【0068】
デューティー運転(2)は、デューティー比:10%のデューティー運転であり、OFF時間:9msec、ON時間:1msecである。
【0069】
デューティー運転(3)は、デューティー比:1%のデューティー運転であり、OFF時間:9.9msec、ON時間:0.1msecである。
【0070】
図10に示すように、デューティー運転(2),(3)に示すOFF時間を設けたデューティー運転は、OFF時間が無いデューティー運転(1)と比較して、酢酸の分解効率が向上する。これは、上述したように、OFF時間を設けることにより、高電圧電極1Aと接地電極1B間に交流電圧を印加するON時間において、プラズマ4の作用により生成されるOHラジカル同士の再結合反応が抑制された結果と考えられる。
【0071】
また、OFF時間を100μsec以上とすることにより、上述の理由からOHラジカルの再結合反応をより抑制することができ、被処理水10の有害物質の分解効率を向上させることができる。
【0072】
(変形例)
次に、変形例について説明する。第1実施形態、第2実施形態では、複数のプラズマ生成部5が一列に並んでいるものとした。変形例では、複数のプラズマ生成部5が複数列に並んでいる場合について説明する。
【0073】
図11は、変形例のプラズマ水処理装置を説明するための図である。(a)に示すように、複数のプラズマ生成部5が格子状に並んでいる。この場合、縦や横の隣は「隣接」に該当するが、対角方向の隣については「隣接」に2つの定義がありえる。
【0074】
定義1は、対角方向の隣も「隣接」とするものである。例えば、(b)では、中央のプラズマ生成部5を基準にした場合、縦、横、対角方向の隣の8つのプラズマ生成部5は「隣接」していることになる。
【0075】
また、定義2は、対角方向の隣は「隣接」としないものである。例えば、(c)では、中央のプラズマ生成部5を基準にした場合、縦、横の4つのプラズマ生成部5が「隣接」していることになり、対角方向の隣の4つのプラズマ生成部5は「隣接」していないことになる。
【0076】
対角方向の隣の2つのプラズマ生成部5の距離は、縦や横の隣の2つのプラズマ生成部5の距離の約1.4倍になる。距離が大きくなるほど、(1)式によるOHラジカル同士の反応によるH生成の程度も小さくなる。この点を考慮し、実情に合わせて、同時にON時間にしないプラズマ生成部5の組み合わせを選ぶとよい。
【0077】
定義1の場合に同時にON時間にするプラズマ生成部5は、(d)の着色したものである。また、定義2の場合に同時にON時間にするプラズマ生成部5は、(e)の着色したものである。
【0078】
このようにして、変形例によれば、複数のプラズマ生成部5が、上面視で格子状などの二次元状に配置されている場合でも、定義1や定義2などにおける「隣接」の状態となっているプラズマ生成部5が同時にON時間とならないように制御する。これにより、OHラジカル同士の再結合反応を抑制し、被処理水10中の有害物質に作用するOHラジカルの作用効率を向上させることができる。
【0079】
本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0080】
例えば、上述の各実施形態では、プラズマ生成部5のグループ数を3としたが、これに限定されず。グループ数は2や4以上であってもよい。
【符号の説明】
【0081】
1 放電部
1A 高電圧電極
1B 接地電極
1C 誘電体
2 プラズマ進展部
2A,2B 開口
3 プラズマ生成用電源
4 プラズマ
5 プラズマ生成部
10 被処理水
401 流量計
402 ターンテーブル
403 ガラス容器
404 被処理溶液
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11