(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055265
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】操作用ロープ
(51)【国際特許分類】
D07B 1/06 20060101AFI20240411BHJP
D07B 1/08 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
D07B1/06 Z
D07B1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162050
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000110147
【氏名又は名称】トクセン工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】住本 伸
【テーマコード(参考)】
3B153
【Fターム(参考)】
3B153AA10
3B153AA32
3B153BB07
3B153CC52
3B153DD34
3B153EE13
3B153FF11
(57)【要約】
【課題】トルク伝達性に極めて優れた、医療機器の操作用ロープ2の提供。
【解決手段】操作用ロープ1は、1本のコア素線4と、 6本の側素線6とを有している。それぞれの側素線6は 、コア素線4の周りを螺旋状に巻かれている。この操作用ロープ2は、「1+6」の層撚り構造を有する。コア素線は、断面が多角形状を有する。コア素線の多角形状は、n角形状であり、nは3以上の自然数であるのが好ましく、nは5、6、7、8がさらに好ましい。コア素線4は、ネジレを有してもよく、有さなくてもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア素線と、このコア素線の外側において螺旋状に撚られた側素線とを有する層撚り構造を備えており、上記コア素線の断面が多角形状を有している、医療機器の操作用ロープ。
【請求項2】
上記コア素線の多角形状は、n角形状であり、nは3以上の自然数である請求項1に記載の操作用ロープ。
【請求項3】
nは5,6,7,8である請求項2に記載の操作用ロープ
【請求項4】
上記側素線の本数が、断面がn角形状のコア素線のnと同数のn本である請求項2又は3に記載の撚り線。
【請求項5】
上記コア素線がネジレを有している請求項1から4のいずれかに記載の撚り線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療機器に適した操作用ロープに関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡用処置具において、手元の操作を先端の処置部に伝達するために、操作用ロープが用いられている。特開平8-126648号公報には、内視鏡用処置具が開示されている。上記処置具において、処置部を患者の体腔内に挿入し、操作用ワイヤロープが手元の操作部からの押し引き力や、回転力(トルク)を、先端の処置部に伝達する。伝達された力により、処置部が治療対象部位に到達し、医療措置が施される。操作用ロープには、手元の操作を遅れなく伝達することが求められる。特に、手元の回転操作を遅れなく伝達するトルク伝達性(回転追随性)が求められる。さらに、内視鏡が体内の屈曲部へ挿入される際には、しなやかさが求められる。
【0003】
特開2019-44305公報には、側素線にネジレを有している操作用ロープが開示されている。この操作用ロープは、トルク伝達性が優れるとともに、しなやかである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-126648号公報
【特許文献2】特開2019-44305公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
医療機器の発達に伴い、操作用ロープには、さらに優れたトルク伝達性が望まれている。本発明は、さらなるトルク伝達性に優れた、医療機器の操作用ロープを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る医療機器の操作用ロープは、横断面が多角形状であるコア素線と、このコア素線の外側において螺旋状に撚られた側素線とを有する層撚り構造を備える。
【0007】
好ましくは、上記コア素線の多角形状は、n角形状であり、nは自然数であり、3以上である。
【0008】
好ましくは、上記nが5,6,7,8である。
【0009】
好ましくは、上記側素線の本数が、断面がn角形状のコア素線のnと同数のn本である。
【0010】
好ましくは、上記コア素線がネジレを有している。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る操作用ロープは、トルク伝達性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明に係る操作用ロープの一実施形態を示す横断面図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る操作用ロープの他の実施形態を示す横断面図である。
【
図3】
図3は、本発明に係る操作用ロープのさらに他の実施形態を示す横断面図である。
【
図4】
図4は、本発明に係る操作用ロープのさらに他の実施形態を示す横断面図である。
【
図5】
図5は、従来の操作用ロープの横断面図である。
【
図6】
図6は、操作用ロープのコア素線の横断面図である。(a)は、本発明に係る操作用ロープのコア素線の一実施例を示す横断面図である。(b)は、従来の操作用ロープのコア素線を示す横断面図である。
【
図7】
図7は、本発明に係る操作用ロープのコア素線の一実施例を示す斜視図である。
【
図8】
図8は、本発明に係る操作用ロープのコア素線の他の実施例を示す斜視図である。
【
図9】
図9は、本発明に係る操作用ロープの一製造工程の一部を示す図である。
【
図10】
図10は、
図1の操作用ロープのトルク伝達性の測定方法が示された説明図である 。
【
図11】
図11は、
図10の方法で測定された操作用ロープのトルク伝達性の評価結果が示されたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0014】
図1から
図4には、本発明に係る操作用ワイヤロープ(以下、単にロープとも言う)の複数の実施例が拡大断面図で例示されている。いずれも、操作用ロープの長さ方向に対して垂直な断面である横断面が示されている。いずれのロープ1、4、7、12も、複数本の素線を撚り合わせたストランドから構成されている。素線は金属材料から形成されている。本発明は、
図1から
図4に示された実施形態に係る構成には限定されない。
【0015】
この操作用ロープが所定長さに切断され、医療機器の部材として用いられる。例えば、その一端部が医療機器の手元操作部に連結され、その他端部が先端部として処置部に連結される。手元部に加えられた押し力、引き力及びトルクが、操作用ロープを介して先端部に伝わる。これにより、処置部が治療対象部位に配置され、処置を施す。操作用ロープの一般的な直径Dは、0.3mmから5mmである。
図5には、従来のワイヤロープが例示されている。コアワイヤの断面は円形状である。
【0016】
図1に示されたロープ1は、1本のコア素線(芯線)2と、最外層の6本の素線(側素線ともいう)3とから構成された1+6の層撚りによって構成されている。コア素線は断面が多角形状であり、6角形である。
図2に示されたロープ4は、1本のコア素線(芯線)5と、最外層の8本の側素線6とから構成された1+8の層撚りによって構成されている。コア素線は断面が多角形状であり、8角形である。本発明のコア素線はn角形である。nは自然数であり、nは3以上でよい。好ましくは、nは5、6、7、8のいずれかである。コア素線の断面が多角形状であるため、ロープが回転を伝達する際に、側素線がコア素線の断面多角形の直線部または頂点部での摩擦力が大きくなる。この作用のため、基端から先端への回転力がより強く伝わり、トルク伝達性が向上することが判明した。n角形状のnが4以下であると、すべての側素線がコア素線の多角形状断面の直線部に当接し、かつロープ断面がバランスよく円を形成することが難しい。nが9以上となると、円に近づくため、従来のコア素線の断面が円形のロープのトルク伝達との差異が少なくなる。かかる観点から、nは5,6,7,8のいずれかであるのが好ましい。
【0017】
図3に示されたロープ7は、1+6の層撚りの下層であるコアストランド11と、12本の側素線10とからなる1+6+12の 層撚りによって構成されている。このロープ7では、その横断面形状を円形に近づけるため、下層とは径の異なる側素線10が用いられているが、全側素線10が同一径であってもよい。
図4は側素線が下層の側素線と同一径であり密に撚り合わされている。いずれも操作用ロープの撚り構成として相応しいものであるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
コア素線の多角形断面の各頂点部には丸みがついていてもよい。コア素線は、断面多角形の穴を有するダイスによる伸線、ローラーによる圧延などで製造されうる。製造においては、断面の多角形状の頂点部に丸みが生じるのは必須であり、多角形の各頂点である角部に丸みを帯びる。丸みは曲率半径Rを有してもよい。Rは小さいほうが好ましく、多角形の辺の直線部長さは長い方が好ましい。辺の長さの1/2以上の直線部があることが好ましい。
【0019】
図6にはコア素線の例の断面図が示される。
図6(a)は、本発明に係るコア素線であり、
図6(b)は、従来のコア素線である円形状である。同じ構成の操作用ロープに用いる際には、D1とD2は同じでありうる。D1とD2が同じであれば、コア素線16の断面積はコア素線17の断面積より広い。よって、同じ引張強さの素線であれば、コア素線16の強度はコア素線17より高い。そのため操作用ロープに用いた際の押し引きの際の力の伝達が良好となる。
【0020】
図7にはコア素線の例の斜視図が示される。コア素線の断面は6角形である。コア素線の周りに側線が撚り合わされる。撚線の一端がねじられる際に、側線とコア線の辺面あるいは角部とに大きな摩擦力が生じる。この作用により、手元部から先端部への回転力がより強く伝わり、トルク伝達性が向上することが判明した。
【0021】
側素線の本数が、断面がn角形状のコア素線のnと同数のn本であるのが好ましい。コア素線のn角形状の各辺上に各側線が配されやすく、トルクの伝達に優れる。
【0022】
図8に示されるように、コア素線自体にネジレを有するのが好ましい。コア素線のネジレに合わせて素線が撚り合わされるのが好ましい。側素線がコア素線の側面のそれぞれの一平面上にあるため、さらにトルク伝達力が増す。
【0023】
この操作用ロープ1、4、7、12の製造には、撚線機が使用される。例としてチューブラータイプの撚り線機及びバンチャータイプの撚り線機が挙げられる。撚線機にて製造されたロープは、次に熱処理が施され真直矯正される。また、
図9に示すように、所定の長さのコア素線の周囲に側素線を配置し、両端を固定したまま捻じった後、熱処理炉での加熱または両端部からの通電による抵抗加熱により撚線を作製することができる。この場合、捻じれを有するコア素線のそれぞれの一平面上にそれぞれ側線が配置されうる。
【0024】
この操作用ロープ1、4、7、12は金属材料から形成されている。好ましい金属材料として、オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304及びSUS316、ニッケル-チタン合金が挙げられる。もちろん、これらの材料には限定されない。
【0025】
側素線の材質が、コア素線の材質と同一であってもよく、異なってもよい。さらに、それぞれの側素線の材質が同一であってもよく、異なっていてもよい。コア素線、側素線の引張強さは2000MPa以上が好ましく、2500MPa以上がより好ましく、2800MPa以上が特に好ましい。
【0026】
操作用ロープの撚り角度は5°以上が好ましく、8°以上がより好ましく、10°以上が特に好ましい。撚り角が5°以上の操作用ロープはしなやかである。撚り角度は30°以下が好ましく、25°以下がより好ましく、15°以下が特に好ましい。撚り角が30°以下の操作用ロープは、製造が容易である。
【実施例0027】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて 本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0028】
[実施例1]
その材質がSUS304である鋼材に孔形状が円形状のダイスを使用し、伸線加工を施した後、6角形状の対辺の長さ(
図6のD1)が、0.25mmの異形ダイスを使用して伸線加工を施した。この素線の引張強さは、2800MPaであった。チューブラータイプの撚り線機に、上記断面が6角形状の素線をコア素線として、1本のコア素線と線径が0.23mm、引張強さが2830MPaの断面が円形状の6本の側素線とを供給し、
図1に示された構造を有する撚り線を得た。この撚り線の撚りピッチは、5.5mmであった。この撚り線を、500℃の温度の連続熱処理炉に供して真直矯正し、実施例1の操作用ロープを得た。
【0029】
[実施例2]
実施例1と同様に、最終のダイス伸線加工に、対辺の長さが、0.34mmの孔形状が8角形である異形ダイスを使用して伸線加工を施した。この引張強さは、2790MPaであった。バンチャータイプの撚り線機に、1本のコア素線と線径が0.20mm。引張強さが2850MPaの断面が円形状の8本の側素線とを供給し、
図2に示された構造を有する撚り線を得た。この撚り線の撚りピッチは、5.5mmであった。この撚り線を、500℃の温度における連続熱処理に供して真直矯正し、実施例2の操作用ロープを得た。
【0030】
[実施例3]
実施例1と同様のコア素線と側線を用い、断面6角形状のコア素線の周囲に6本の側素線を配した後、両端を溶接した。両端をロープが真直になるよう引張りの力を加えながら捻じった状態で通電加熱し、実施例3の操作用ロープを得た。この操作用ロープの撚りピッチは、5.5mmであった。
【0031】
[比較例1]
コア素線を断面が円形状であり引張強さ2800MPaとした他は実施例1と同様にして、比較例1の操作用ロープを得た。
【0032】
[トルク伝達性の評価] トルク伝達性は、
図10に示されるように、スパイラルにおける手元側を回転させた際の、先端部の回転角との差によって評価される。
図9に示される21が二重となっている二重スパイラルを有する硬質パイプ24が使用される。二重スパイラル21は二重でなく単一周回のものでもよい。二重スパイラルの方が評価の差が明確となるため好ましい。二重スパイラル部21の直径は、200mmである。この硬質パイプに通されたロープ1の手元側22に矢印R1で示される方向に、回転力が負荷される。これにより、操作用ロープ1の先端側23は、矢印R2で示されるように回転する。手元側22の回転角と先端側23の回転角とが、同時に測定される 。
【0033】
図11は、
図10の方法で測定されたトルク伝達性の結果が示されたグラフである。
図10では、同時点における操作用ロープの手元側の回転角と、先端側の回転角とが、対応付けて表されている。グラフの中の破線は、手元側の回転角と先端側の回転角との差がゼロであることを示す直線である。グラフの中の実線の曲線は、測定された操作用ロープの例が示されている。手元側の回転角と先端側の回転角の差は、破線と実線との縦軸における差である。手元側の回転角の0°から360°の範囲において測定された回転角度差の最大値の小さいものが、トルク伝達性に優れる。
【0034】
下記表1に、実施例1-3の各ロープの最大角度差が、比較例1の最大角度差が100とされたときの数として示される。この指数が小さい操作用ロープは、トルク伝達性に優れる。
【0035】
表1に示されるように、この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【0036】