(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055299
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】遊星歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 48/285 20120101AFI20240411BHJP
【FI】
F16H48/285
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162114
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 拓宏
(72)【発明者】
【氏名】坂田 翔平
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FA37
3J027FB01
3J027HB03
3J027HC02
3J027HC19
3J027HE01
(57)【要約】
【課題】プラネタリギヤに作用する遠心力に起因するプラネタリキャリアの摩耗の発生を抑制することが可能な遊星歯車装置を提供する。
【解決手段】遊星歯車装置1は、大径部21及び小径部22のそれぞれの外周にヘリカルギヤ210,220が形成された複数のプラネタリギヤ2と、複数のプラネタリギヤ2をそれぞれ収容する複数の収容孔30が形成されたプラネタリキャリア3と、複数のプラネタリギヤ2の大径部21に形成されたヘリカルギヤ210に噛み合う外歯41を有するサンギヤ4と、小径部22に形成されたヘリカルギヤ220に噛み合う内歯511を有するインターナルギヤ5とを備える。収容孔30は、大径部21を収容する大径円弧孔301と、小径部22を収容する小径円弧孔302とを有する。プラネタリキャリア3は、小径部22の軸方向の一部を回転軸線O
1に対して垂直な径方向の外周側から支持する小径部外周支持部33を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に並ぶ大径部及び小径部のそれぞれの外周にヘリカルギヤが形成された複数のプラネタリギヤと、
前記複数のプラネタリギヤをそれぞれ収容する複数の収容孔が形成されたプラネタリキャリアと、
前記プラネタリキャリアの内側に配置され、前記複数のプラネタリギヤの前記大径部に形成された前記ヘリカルギヤに噛み合う外歯を有するサンギヤと、
前記プラネタリキャリアの外側に配置され、前記複数のプラネタリギヤの前記小径部に形成された前記ヘリカルギヤに噛み合う内歯を有するインターナルギヤと、を備え、
前記プラネタリキャリア、前記サンギヤ、及び前記インターナルギヤが共通の回転軸線を中心として相対回転可能であり、
前記複数の収容孔のそれぞれは、前記大径部における前記ヘリカルギヤの刃先面が摺動する円弧状の内面を有する大径円弧孔と、前記小径部における前記ヘリカルギヤの刃先面が摺動する円弧状の内面を有する小径円弧孔と、を有し、
前記プラネタリキャリアは、前記小径部の軸方向の一部を前記回転軸線に対して垂直な径方向の外周側から支持する小径部外周支持部を有する、
遊星歯車装置。
【請求項2】
前記複数の収容孔のそれぞれは、前記小径部外周支持部に支持される前記小径部の一部を収容する円筒孔を有する、
請求項1に記載の遊星歯車装置。
【請求項3】
前記小径部は、軸方向の一部において前記インターナルギヤの前記内歯と噛み合い、
前記円筒孔は、前記小径部における前記インターナルギヤの前記内歯と噛み合わない部位を囲むように形成されている、
請求項2に記載の遊星歯車装置。
【請求項4】
前記小径部は、前記インターナルギヤの前記内歯と噛み合わない非噛み合い部を前記大径部側の端部に有し、
前記小径部外周支持部は、前記非噛み合い部を支持する、
請求項1に記載の遊星歯車装置。
【請求項5】
前記複数のプラネタリギヤは、それぞれの重心が前記非噛み合い部に含まれる、
請求項4に記載の遊星歯車装置。
【請求項6】
前記プラネタリキャリアは、前記大径円弧孔と前記小径円弧孔との間に、前記小径部における前記大径部側の端部の外周を囲む壁部を有し、
前記壁部に前記小径部外周支持部が形成されている、
請求項1乃至5の何れか1項に記載の遊星歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊星歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば車両の駆動源の駆動力を一対の車軸に配分する差動装置として、遊星歯車装置が用いられたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の遊星歯車装置は、ピッチ円直径が異なる大径ギヤ部及び小径ギヤ部を有するプラネタリギヤ(遊星歯車)と、プラネタリギヤを自転可能に支持する収容支持部を有するプラネタリキャリアと、プラネタリギヤの大径ギヤ部に噛合する外歯を有するサンギヤ(太陽歯車)と、プラネタリギヤの小径ギヤ部に噛合する内歯を有するインターナルギヤ(内歯車)と備えている。プラネタリキャリア、サンギヤ、及びインターナルギヤは、共通の回転軸線を中心として回転し、プラネタリギヤがプラネタリキャリアと共に公転しながら自転する。プラネタリギヤは、大径ギヤ部及び小径ギヤ部の機械的強度のバランスをとるため、小径ギヤ部が大径ギヤ部よりも長く形成されている。
【0004】
プラネタリキャリアの収容支持部は、大径ギヤ部を収容する第1収容孔、及び小径ギヤ部を収容する第2収容孔からなる。第1収容孔の内周面は、大径ギヤ部の歯先面を摺動可能に支持する第1支持面で形成され、第2収容孔の内周面は、小径ギヤ部の歯先面を摺動可能に支持する第2支持面で形成されている。第1収容孔は、サンギヤに向かってプラネタリキャリアの内方に開口し、第2収容孔は、インターナルギヤに向かってプラネタリキャリアの外方に開口している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように構成された遊星歯車装置では、第1収容孔の第1支持面がプラネタリギヤの大径ギヤ部におけるサンギヤの外歯との噛み合い反力を受けると共に、第2収容孔の第2支持面がプラネタリギヤの小径ギヤ部におけるインターナルギヤの内歯との噛み合い反力を受けることにより、プラネタリギヤの自転軸がプラネタリキャリアの回転軸線に対して平行となる。しかし、例えば車両が高速道路を一定の速度で走行するような低トルクでの高速定常走行時には、プラネタリギヤの公転によって発生する遠心力によってプラネタリギヤの小径ギヤ部に作用するインターナルギヤ側への押し付け力がプラネタリギヤの小径ギヤ部とインターナルギヤの内歯との噛み合いによる反力よりも大きくなり、プラネタリギヤの小径ギヤ部が第2収容孔の開口端におけるエッジ部に当接する場合がある。そして、この当接状態でプラネタリギヤが自転する状態が長く続くと、第2収容孔のエッジ部の摩耗が促進され、プラネタリキャリアに対するプラネタリギヤのガタつきが大きくなってしまうおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、プラネタリギヤに作用する遠心力に起因するプラネタリキャリアの摩耗の発生を抑制することが可能な遊星歯車装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の目的を達成するため、軸方向に並ぶ大径部及び小径部のそれぞれの外周にヘリカルギヤが形成された複数のプラネタリギヤと、前記複数のプラネタリギヤをそれぞれ収容する複数の収容孔が形成されたプラネタリキャリアと、前記プラネタリキャリアの内側に配置され、前記複数のプラネタリギヤの前記大径部に形成された前記ヘリカルギヤに噛み合う外歯を有するサンギヤと、前記プラネタリキャリアの外側に配置され、前記複数のプラネタリギヤの前記小径部に形成された前記ヘリカルギヤに噛み合う内歯を有するインターナルギヤと、を備え、前記プラネタリキャリア、前記サンギヤ、及び前記インターナルギヤが共通の回転軸線を中心として相対回転可能であり、前記複数の収容孔のそれぞれは、前記大径部における前記ヘリカルギヤの刃先面が摺動する円弧状の内面を有する大径円弧孔と、前記小径部における前記ヘリカルギヤの刃先面が摺動する円弧状の内面を有する小径円弧孔と、を有し、前記プラネタリキャリアは、前記小径部の軸方向の一部を前記回転軸線に対して垂直な径方向の外周側から支持する小径部外周支持部を有する、遊星歯車装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る遊星歯車装置によれば、プラネタリギヤに作用する遠心力に起因するプラネタリキャリアの摩耗の発生を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態に係る遊星歯車装置を示す断面図である。
【
図2】複数のプラネタリギヤ、プラネタリキャリア、インターナルギヤ、第2の軸受、及び第4の軸受を示す斜視図である。
【
図3】第3の軸受、抜け止め部材、閉塞部材、第5の軸受、サイドワッシャ、サンギヤ、及びセンタワッシャを示す斜視図である。
【
図4A】軸方向に対して垂直な
図1のA-A線断面図である。
【
図4B】軸方向に対して垂直な
図1のB-B線断面図である。
【
図4C】軸方向に対して垂直な
図1のC-C線断面図である。
【
図8】(a)乃至(c)は、
図7のD-D線、E-E線、及びF-F線におけるプラネタリギヤの断面図である。
【
図10】比較例に係るプラネタリキャリアを有する遊星歯車装置の構成例を示す部分断面図である。
【
図11】比較例に係る遊星歯車装置の一部の外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、
図1乃至
図9を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係る遊星歯車装置1を示す断面図である。遊星歯車装置1は、複数のプラネタリギヤ2と、プラネタリキャリア3と、サンギヤ4と、インターナルギヤ5と、インターナルギヤ5の開口部を閉塞する閉塞部材6と、を主な構成要素として備えている。サンギヤ4は、プラネタリキャリア3の内側に配置され、インターナルギヤ5は、プラネタリキャリア3の外側に配置されている。プラネタリキャリア3、サンギヤ4、及びインターナルギヤ5は、共通の回転軸線O
1を中心として相対回転可能である。以下、回転軸線O
1に平行な方向を軸方向という。
【0013】
プラネタリキャリア3には、第1のシャフト71が相対回転不能に連結される。サンギヤ4には、第2のシャフト72が相対回転不能に連結される。インターナルギヤ5には、第3のシャフト73が相対回転不能に連結される。
図1では、第1乃至第3のシャフト71~73を仮想線(二点鎖線)で示している。第2のシャフト72は、中心部に第1のシャフト71が挿通された円筒状である。
【0014】
遊星歯車装置1が車両用の差動装置として用いられる場合、例えば入力軸としての第1のシャフト71から遊星歯車装置1に入力された駆動源の駆動力が、一対の出力軸である第2のシャフト72及び第3のシャフト73に配分して出力される。第2のシャフト72は、例えば4輪駆動車両の前輪に駆動力を伝達する前輪側のプロペラシャフトである。第3のシャフト73は、例えば4輪駆動車両の後輪に駆動力を伝達する後輪側のプロペラシャフトである。
【0015】
また、遊星歯車装置1は、インターナルギヤ5に外嵌された第1の軸受11と、インターナルギヤ5に内嵌されて第1のシャフト71を支持する第2の軸受12と、閉塞部材6に内嵌されて第2のシャフト72を支持する第3の軸受13と、インターナルギヤ5とプラネタリキャリア3との間に配置された第4の軸受14と、複数のプラネタリギヤ2と閉塞部材6との間に配置された第5の軸受15及びサイドワッシャ16と、プラネタリキャリア3とサンギヤ4との間に配置されたセンタワッシャ17と、閉塞部材6を抜け止めする抜け止め部材18と、を有している。本実施の形態では、一例として、第1の軸受11が滑り軸受であり、第2の軸受12及び第3の軸受13が針状ラジアルころ軸受である。第4の軸受14及び第5の軸受15は、針状スラストころ軸受である。次に、遊星歯車装置1の各構成部材について、
図2乃至
図9を参照して詳細に説明する。
【0016】
図2は、複数のプラネタリギヤ2、プラネタリキャリア3、インターナルギヤ5、第2の軸受12、及び第4の軸受14を示す斜視図である。
図3は、第3の軸受13、抜け止め部材18、閉塞部材6、第5の軸受15、サイドワッシャ16、サンギヤ4、及びセンタワッシャ17を示す斜視図である。
図4Aは、軸方向に対して垂直な
図1のA-A線断面図である。
図4Bは、軸方向に対して垂直な
図1のB-B線断面図である。
図4Cは、軸方向に対して垂直な
図1のC-C線断面図である。
図5は、プラネタリキャリア3の斜視断面図である。
図6は、インターナルギヤ5の斜視図である。
図7は、プラネタリギヤ2の側面図である。
図8(a)乃至(c)は、
図7のD-D線、E-E線、及びF-F線におけるプラネタリギヤ2の断面図である。
図9は、遊星歯車装置1の一部の外観斜視図である。
【0017】
サンギヤ4には、その外周に外歯41が軸方向に対して傾斜して形成されている。
図1に示すように、サンギヤ4の内周には、軸方向に延びる複数のスプライン歯421からなるスプライン嵌合部42が形成されている。第2のシャフト72は、スプライン嵌合部42にスプライン嵌合することにより、サンギヤ4に相対回転不能に連結される。
【0018】
インターナルギヤ5は、プラネタリキャリア3を複数のプラネタリギヤ2と共に収容する円筒部51と、円筒部51の軸方向一端部を閉塞する底部52と、底部52の中心部から軸方向に延びる軸部53とを一体に有している。なお、円筒部51と底部52及び軸部53とが別体であってもよい。円筒部51の内周には、内歯511が軸方向に対して傾斜して形成されている。円筒部51における底部52と反対側の開口部は、閉塞部材6によって閉塞されている。軸部53の外周には、軸方向に延びる複数のスプライン歯531からなるスプライン嵌合部530が形成されている。第3のシャフト73は、スプライン嵌合部530にスプライン嵌合することにより、インターナルギヤ5に相対回転不能に連結される。
【0019】
プラネタリギヤ2は、
図7に示すように、大径部21と、大径部21よりも外径が小さい小径部22とを一体に有している。プラネタリギヤ2は、自転軸O
2を中心として自転可能にプラネタリキャリア3に保持される。自転軸O
2は、回転軸線O
1と平行である。大径部21と小径部22とは、自転軸O
2及び回転軸線O
1と平行な軸方向に並んでいる。小径部22の軸方向の長さL
2は、大径部21の軸方向の長さL
1よりも長く、プラネタリギヤ2の重心Gが小径部22に含まれている。プラネタリギヤ2は、大径部21が閉塞部材6側となり、小径部22がインターナルギヤ5の底部52側となるように配置される。
【0020】
サイドワッシャ16は、
図3に示すように、複数のプラネタリギヤ2のそれぞれの大径部21の端面21aが当接する複数の当接部161と、複数の当接部161を周方向に接続する円環板状の環状部162とを一体に有している。当接部161は、一部が環状部162から径方向外方に突出している。サイドワッシャ16は、複数の当接部161がプラネタリキャリア3に係合し、プラネタリキャリア3と一体に回転する。第5の軸受15は、サイドワッシャ16と閉塞部材6との間に配置されている。
【0021】
プラネタリギヤ2の大径部21には、その全体にサンギヤ4の外歯41と噛み合うヘリカルギヤ210が形成されている。小径部22は、インターナルギヤ5の内歯511に噛み合う噛み合い部221と、インターナルギヤ5の内歯511に噛み合わない非噛み合い部222とを有している。噛み合い部221には、その全体にヘリカルギヤ220が形成されている。非噛み合い部222は、小径部22における大径部21側の端部に形成されている。すなわち、小径部22は、軸方向の一部においてインターナルギヤ5の内歯511と噛み合い、インターナルギヤ5の内歯511と噛み合わない非噛み合い部222を大径部21側の端部に有している。非噛み合い部222は、プラネタリギヤ2の重心Gを含んでいる。
【0022】
図8(a)は、プラネタリギヤ2の大径部21の断面を示している。
図8(a)では、プラネタリギヤ2の大径部21に形成されたヘリカルギヤ210の歯先円直径をD
1Tで、歯底円直径をD
1Bで、ピッチ円径をD
1Pで、それぞれ示している。ヘリカルギヤ210の歯先円直径D
1Tは、大径部21の外径に相当する。
【0023】
図8(c)は、プラネタリギヤ2の小径部22における噛み合い部221の断面を示している。
図8(c)では、プラネタリギヤ2の小径部22に形成されたヘリカルギヤ220の歯先円直径をD
21Tで、歯底円直径をD
21Bで、ピッチ円径をD
21Pで、それぞれ示している。ヘリカルギヤ220の歯先円直径D
21Tは、小径部22の外径に相当する。小径部22の歯先円直径D
21Tは、大径部21の歯先円直径D
1Tよりも小さく、小径部22の歯底円直径D
21Bは、大径部21の歯底円直径D
1Bよりも小さい。また、小径部22のピッチ円径D
21Pは、大径部21のピッチ円径D
1Pよりも小さい。なお、噛み合い部221では、歯先円直径D
21T、歯底円直径D
21B、及びピッチ円径D
21Pが軸方向の全体にわたって一定である。
【0024】
図8(b)は、プラネタリギヤ2の小径部22における非噛み合い部222の断面を示している。
図8(c)では、非噛み合い部222におけるヘリカルギヤ220の歯先円直径をD
22Tで、歯底円直径をD
22Bで、それぞれ示している。小径部22のヘリカルギヤ220は、非噛み合い部222の一部にも形成されているが、非噛み合い部222におけるヘリカルギヤ220は、歯先円直径D
22Tと歯底円直径D
22Bとの差である歯丈が大径部21側ほど徐々に短くなる不完全ギヤ部となっている。
【0025】
本実施の形態では、噛み合い部221における歯先円直径D21Tと非噛み合い部222における歯先円直径D22Tとが同じであり、非噛み合い部222において歯底円直径D22Bが大径部21側ほど徐々に大きくなっている。この不完全ギヤ部の形状は、小径部22にヘリカルギヤ220を例えばホブカッターを用いたホブ切りにより形成する際に、大径部21と小径部22との径差ならびにホブカッターの直径等に応じて不可避的に発生するものである。
【0026】
プラネタリキャリア3には、軸方向に延びる複数のスプライン歯311からなるスプライン嵌合部31が形成されている。第1のシャフト71は、スプライン嵌合部31にスプライン嵌合することにより、プラネタリキャリア3に相対回転不能に連結される。また、プラネタリキャリア3には、複数のプラネタリギヤ2をそれぞれ収容する複数の収容孔30が形成されている。本実施の形態では、遊星歯車装置1が5個のプラネタリギヤ2を有し、プラネタリキャリア3には、5個の収容孔30が回転軸線O1を中心として周方向等間隔に形成されている。
【0027】
複数の収容孔30のそれぞれは、プラネタリギヤ2の大径部21におけるヘリカルギヤ210の刃先面210aが摺動する円弧状の内面301aを有する大径円弧孔301と、プラネタリギヤ2の小径部22におけるヘリカルギヤ220の刃先面220aが摺動する円弧状の内面302aを有する小径円弧孔302と、プラネタリギヤ2の小径部22におけるインターナルギヤ5の内歯511と噛み合わない軸方向の一部の部位である非噛み合い部222を全周にわたって囲む内面303aを有する円筒孔303と、を有している。
【0028】
大径円弧孔301は、
図4Aに示すように、サンギヤ4に向かってプラネタリキャリア3の内方に開口しており、
図4Aに示す断面における内面301aが円弧角180°以上の円弧状である。プラネタリギヤ2の大径部21におけるヘリカルギヤ210は、大径円弧孔301の開口部301bからプラネタリキャリア3の内方に突出した部分がサンギヤ4の外歯41と噛み合っている。
【0029】
小径円弧孔302は、
図4Cに示すように、インターナルギヤ5の円筒部51に向かってプラネタリキャリア3の外方に開口しており、
図4Cに示す断面における内面302aが円弧角180°以上の円弧状である。プラネタリギヤ2の小径部22におけるヘリカルギヤ220は、小径円弧孔302の開口部302bからプラネタリキャリア3の外方に突出した部分がインターナルギヤ5の内歯511と噛み合っている。
【0030】
円筒孔303は、
図4Bに示すように、プラネタリギヤ2の自転軸O
2を中心とする円筒状の孔である。円筒孔303の内径D
3は、プラネタリギヤ2の小径部22における非噛み合い部222の外径である歯先円直径D
22Tよりも僅かに大きく形成されている。円筒孔303の内径D
3と非噛み合い部222の歯先円直径D
22Tとの差は、0.5mm以下であり、より具体的には0.1mm以上0.3mm以下であることが望ましい。プラネタリギヤ2の重心Gは、円筒孔303の内部に位置している。
【0031】
また、プラネタリキャリア3は、大径円弧孔301と小径円弧孔302との間に、プラネタリギヤ2の小径部22における大径部21側の端部を全周にわたって囲む壁部32を有しており、この壁部32に円筒孔303が形成されている。壁部32は、
図9に示すように、小径円弧孔302の開口部302bの周辺におけるプラネタリキャリア3の外周面3aから径方向外方に突出してアーチ状に形成されている。
【0032】
図1及び
図4Bに示すように、壁部32の一部は、プラネタリギヤ2の小径部22の軸方向の一部を回転軸線O
1に対して垂直な径方向の外周側から支持する小径部外周支持部33となっている。小径部外周支持部33は、プラネタリギヤ2が回転軸線O
1を中心として回転(公転)することによりプラネタリギヤ2に発生する遠心力を受ける部位に設けられている。つまり、小径部外周支持部33は、プラネタリギヤ2の重心Gを通り、かつ回転軸線O
1に対して垂直な直線と交差する部位に設けられている。
図1では、この直線Lを一点鎖線で示している。小径部外周支持部33は、小径部22の一部である非噛み合い部222を、この直線Lに沿ってプラネタリキャリア3の径方向の外周側から支持する。
【0033】
(実施の形態の作用及び効果)
上記のように構成された遊星歯車装置1は、車両の前進走行時において第1のシャフト71から入力された駆動力を第2のシャフト72及び第3のシャフト73に配分して出力するとき、プラネタリギヤ2の大径部21がサンギヤ4の外歯41と噛み合って噛み合い反力が発生し、プラネタリギヤ2の小径部22における噛み合い部221がインターナルギヤ5の内歯511に噛み合って噛み合い反力が発生する。
図4A及び
図4Cでは、これらの噛み合い反力をF
1,F
2で示している。
【0034】
プラネタリギヤ2の大径部21が受ける噛み合い反力F1は、回転軸線O1から遠ざかる方向であり、プラネタリギヤ2の噛み合い部221が受ける噛み合い反力F2は、回転軸線O1に向かう方向である。プラネタリギヤ2の大径部21が受ける噛み合い反力F1は、大径円弧孔301の内面301aで受け止められ、プラネタリギヤ2の噛み合い部221が受ける噛み合い反力F2は、小径円弧孔302の内面302aで受け止められる。これにより、プラネタリギヤ2は、自転軸O2が回転軸線O1と平行な状態に保たれる。
【0035】
また、車両が例えば高速道路を一定の速度で走行するような低トルクでの高速定常走行時には、プラネタリギヤ2の公転によってプラネタリギヤ2に発生する遠心力がインターナルギヤ5との噛み合い反力F2よりも大きくなる場合があるが、本実施の形態では、プラネタリギヤ2の小径部22における非噛み合い部222がプラネタリキャリア3の円筒孔303に収容されて小径部外周支持部33に支持されるので、プラネタリギヤ2に発生する遠心力によってプラネタリギヤ2の自転軸O2が回転軸線O1に対して傾斜してしまうことが抑制される。
【0036】
図10は、壁部32及び円筒孔303を有していない比較例に係るプラネタリキャリア3Aを有する遊星歯車装置1Aの構成例を示す部分断面図である。
図11は、遊星歯車装置1Aの一部の外観斜視図である。遊星歯車装置1Aのその他の構成は上記の実施の形態と同様であるので、遊星歯車装置1Aの構成部材のうち上記の実施の形態に係る遊星歯車装置1と共通するものについては、上記の実施の形態の説明で用いたものと同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0037】
この比較例に係る遊星歯車装置1Aにおいて、プラネタリギヤ2の公転によってプラネタリギヤ2に発生する遠心力がインターナルギヤ5との噛み合い反力よりも大きくなると、プラネタリギヤ2の自転軸O
2が回転軸線O
1に対して傾き、小径部22における大径部21と反対側の端部が小径円弧孔302の内面302aにおける開口部302b側の角部302cに押し付けられる。そして、この状態でプラネタリギヤ2が自転すると、角部302cの摩耗が促進されてしまう。なお、
図10では、説明の明確化のため、プラネタリギヤ2の傾きを誇張して示している。
【0038】
これに対し、上記の実施の形態に係る遊星歯車装置1では、プラネタリギヤ2の小径部22における軸方向の一部が円筒孔303の内面303aに囲まれ、プラネタリキャリア3の小径部外周支持部33に支持されるので、プラネタリギヤ2の公転によって発生する遠心力に起因するプラネタリギヤ2のプラネタリキャリア3に対する傾きが抑制される。
【0039】
また、上記の実施の形態では、プラネタリギヤ2の重心Gを含む小径部22の非噛み合い部222が小径部外周支持部33に支持されるので、遠心力に起因するプラネタリギヤ2の傾きをより確実に抑制することができる。またさらに、小径部外周支持部33は、小径部22におけるヘリカルギヤ220の歯切り時に発生する不完全ギヤ部である非噛み合い部222を支持するので、小径部外周支持部33によって支持される部分をプラネタリギヤ2に追加的に設ける必要がなく、プラネタリギヤ2の長さが長くなってしまうことを抑制できる。
【0040】
(付記)
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、この実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、一部の構成を省略し、あるいは構成を追加もしくは置換して、適宜変形して実施することが可能である。またさらに、例えば下記のように変形することも可能である。
【0041】
上記の実施の形態では、プラネタリキャリア3の小径部外周支持部33が、小径部22における大径部21側の端部にあたる非噛み合い部222を支持する場合について説明したが、これに限らず、たとえば小径部22における大径部21と反対側の端部に被支持部を設け、この被支持部をプラネタリキャリアの小径部外周支持部によってプラネタリキャリアの径方向における外周側から支持してもよい。この構成によっても、プラネタリギヤ2の公転によって発生する遠心力に起因するプラネタリギヤ2の傾きを抑制することが可能である。
【符号の説明】
【0042】
1…遊星歯車装置 2…プラネタリギヤ
21…大径部 210…ヘリカルギヤ
210a…刃先面 22…小径部
220…ヘリカルギヤ 220a…刃先面
221…噛み合い部 222…非噛み合い部
3…プラネタリキャリア 30…収容孔
301…大径円弧孔 301a…内面
302…小径円弧孔 302a…内面
303…円筒孔 303a…内面
31…壁部 32…小径部外周支持部
4…サンギヤ 41…外歯
5…インターナルギヤ 511…内歯