(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055310
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物及びそれを含む光学部材
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20240411BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20240411BHJP
G02B 1/04 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C08L69/00
C08L67/02
G02B1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162131
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】真野 稜大
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CF051
4J002CF081
4J002CF091
4J002CF161
4J002CG011
4J002CG041
4J002EH046
4J002EH056
4J002EJ067
4J002EP027
4J002EU197
4J002EV067
4J002EW067
4J002EW087
4J002EW117
4J002EW127
4J002FD077
4J002FD166
4J002GP00
4J002GP01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、高屈折率及び低複屈折を有し、且つ、長期耐熱性に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。また、この熱可塑性樹脂組成物を使用することにより、優れた光学レンズを提供することを目的とする。
【解決手段】下記式(1)で表される構成単位を有する熱可塑性樹脂および離型剤を含む熱可塑性樹脂組成物であって、さらに熱可塑性樹脂組成物中の酸化防止剤の含有量が0~300ppmである熱可塑性樹脂組成物。
{式(1)中、環Zは芳香族炭化水素環を示し、L
1及びL
2はそれぞれ独立に2価の連結基を示し、o及びpはそれぞれ独立に0以上の整数を示し、R
1、R
2、R
3及びR
4はそれぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~20の炭化水素基を示し、Xは炭酸もしくはジカルボン酸から水酸基を除いた残基である。}
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構成単位を有する熱可塑性樹脂および離型剤を含む熱可塑性樹脂組成物であって、さらに熱可塑性樹脂組成物中の酸化防止剤の含有量が0~300ppmである熱可塑性樹脂組成物。
【化1】
{式(1)中、環Zは芳香族炭化水素環を示し、L
1及びL
2はそれぞれ独立に2価の連結基を示し、o及びpはそれぞれ独立に0以上の整数を示し、R
1、R
2、R
3及びR
4はそれぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~20の炭化水素基を示し、Xは下記式(2)又は(3)で表される群より選ばれる少なくとも1つである。}
【化2】
【化3】
{式中、Yは2価の連結基を示す。}
【請求項2】
前記離型剤が熱可塑性樹脂組成物中に1~4000ppmの量で含まれる、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂組成物中の酸化防止剤の含有量が0~50ppmである、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
乾熱黄変ΔYIが0.00~0.47である、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記式(1)中の環Zがベンゼン環である、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
式(1)で表される構成単位を有する熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂である請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
式(1)で表される構成単位を有する熱可塑性樹脂が、ポリエステルカーボネート樹脂である請求項6に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物を含む、光学部材。
【請求項9】
光学レンズである、請求項8に記載の光学部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物及びそれを含む光学部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学系材料として従来用いられていたガラスは光学特性や環境耐性に優れているが、加工性が悪いという問題があった。一方、光学用樹脂、中でも熱可塑性樹脂組成物は、ガラス材料に比べ安価であると共に、射出成形により成形品の大量生産が可能で、しかも非球面レンズの製造も容易であるという利点を有している。そのため、これまで主としてスマートフォンカメラを構成する光学レンズに使用され、普及してきた。近年では新たな用途として、車載センシングカメラや車載ビューイングカメラといったいわゆる車載カメラの光学レンズへの展開が期待されている。
【0003】
そのような中で光学用樹脂には、光学系の小型、薄型化の為、より高い屈折率が求められ、また光学レンズを介して結像をセンサーや人が認識する為、高度に低歪であること、つまり低複屈折であることが求められる。さらに車載カメラ用途では、その使用環境から高温下で長時間変色しないという長期耐熱性が重要である。
【0004】
特許文献1には、屈折率が1.635~1.650の高屈折率且つ配向複屈折が0~6×10-3の低複屈折に優れた、式(M)及び式(N)で示される構造単位を有するポリエステルカーボネート樹脂が得られることが記載されている。
【0005】
【0006】
【化2】
(式(N)中Wは、フェニレン基またはナフタレンジイル基である。)
【0007】
特許文献2には、アルミニウム化合物とリン化合物からなる触媒を用いたポリエステルカーボネート樹脂が一般的なチタン系触媒を用いた場合よりも色相が良好と記載されている。
【0008】
特許文献3には、高透明性、高Tg、高屈折率、低複屈折に優れる、式(O)で表される構造を有するポリカーボネート樹脂が得られることが記載されている。
【0009】
【化3】
(式(O)中T
1及びT
2は、それぞれ独立に水素原子あるいはメチル基である。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2011/010741号
【特許文献2】国際公開第2019/131841号
【特許文献3】特開2010-189508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した文献には、高屈折率、低複屈折、高透明性、高Tg、色相良好なポリカーボネート樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂の取得について記載されているが、押出、成形後の熱可塑性樹脂組成物としての特性、特に長期耐熱性について記載されておらず、改良の余地がある。
【0012】
上記のように、高屈折率、低複屈折に加え、長期耐熱性を有するポリカーボネート樹脂組成物及びポリエステルカーボネート樹脂組成物及び光学レンズは、未だ提供されていなかった。
【0013】
そこで本発明は、高屈折率及び低複屈折を有し、且つ、長期耐熱性に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。また、この熱可塑性樹脂組成物を使用することにより、優れた光学レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、以下の態様を有する本発明により、上記課題を解決できることを見出した。
【0015】
《態様1》
下記式(1)で表される構成単位を有する熱可塑性樹脂および離型剤を含む熱可塑性樹脂組成物であって、さらに熱可塑性樹脂組成物中の酸化防止剤の含有量が0~300ppmである熱可塑性樹脂組成物。
【0016】
【化4】
{式(1)中、環Zは芳香族炭化水素環を示し、L
1及びL
2はそれぞれ独立に2価の連結基を示し、o及びpはそれぞれ独立に0以上の整数を示し、R
1、R
2、R
3及びR
4はそれぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~20の炭化水素基を示し、Xは下記式(2)又は(3)で表される群より選ばれる少なくとも1つである。}
【0017】
【化5】
【化6】
{式中、Yは2価の連結基を示す。}
【0018】
《態様2》
前記離型剤が熱可塑性樹脂組成物中に1~4000ppmの量で含まれる、態様1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
《態様3》
前記熱可塑性樹脂組成物中の酸化防止剤の含有量が0~50ppmである、態様1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
《態様4》
乾熱黄変ΔYIが0.00~0.47である、態様1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
《態様5》
前記式(1)中の環Zがベンゼン環である、態様1~4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
《態様6》
式(1)で表される構成単位を有する熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂である態様1~5のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
《態様7》
式(1)で表される構成単位を有する熱可塑性樹脂が、ポリエステルカーボネート樹脂である態様6に記載の熱可塑性樹脂組成物。
《態様8》
態様1~7のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物を含む、光学部材。
《態様9》
光学レンズである、態様8に記載の光学部材。
【発明の効果】
【0019】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、高屈折率、低複屈折を有し、且つ、長期耐熱性に優れる。さらに、本発明の熱可塑性樹脂組成物を使用することにより、広範な環境に適応可能な優れた光学レンズを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0021】
(1)熱可塑性樹脂組成物
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、所定の構造を有する熱可塑性樹脂と離型剤を含み、さらに熱可塑性樹脂組成物中の酸化防止剤の含有量が0~300ppmの熱可塑性樹脂組成物である。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、このような構成により、高屈折率、低複屈折を有し、かつ、優れた長期耐熱性を有する。
【0022】
《熱可塑性樹脂》
本発明に用いる熱可塑性樹脂は上記式(1)で表される構造を有する。
上記式(1)中、Zは同一又は異なって芳香族炭化水素環を示し、ナフタレン環、ベンゼン環などが挙げられ、ベンゼン環が好ましい。
【0023】
上記式(1)中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~20の炭化水素基を示し、炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、及びアリール基を挙げることができる。
【0024】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基などが挙げられ、メチル基が好ましい。
【0025】
シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、及びビシクロ[1.1.1]ペンタニル基等が挙げられる。
【0026】
アリール基としては、フェニル基、トリル基、ナフチル基、キシリル基などが挙げられ、フェニル基が好ましい。
【0027】
R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、またはフェニル基のいずれかであることが好ましく、水素原子であることがさらに好ましい。
【0028】
上記式(1)中、L1及びL2は、それぞれ独立に、2価の連結基を示し、炭素数1~4のアルキレン基などが挙げられ、好ましくはエチレン基、またはプロピレン基を示し、より好ましくはエチレン基を示す。
【0029】
上記式(1)中、o及びpはそれぞれ独立に0以上の整数を示し、好ましくは0~2示し、より好ましくは1を示す。
【0030】
上記式(1)中、Xは上記式(2)又は(3)で表される群より選ばれる少なくとも1つである。
【0031】
上記式(3)中、Yは2価の連結基を示し、炭素原子数1~25の炭化水素基が挙げられ、炭化水素基としては、アルケン基、シクロアルケン基、アリーレン基を挙げることができる。
【0032】
アリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基などが好ましく挙げられ、フェニレン基が特に好ましい。
【0033】
上記式(1)において、芳香族炭化水素環を有するため屈折率を高める効果があり、またカルド構造を有するため複屈折を低減させる効果がある。
【0034】
本発明の熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート、ポリエステルカーボネート及びポリエステルを挙げることができ、ポリカーボネート、ポリエステルカーボネートであることが好ましく、ポリエステルカーボネートであることがより好ましい。
【0035】
《上記式(1)で表される構造を有する熱可塑性樹脂に使用するジオール成分》
本発明の熱可塑性樹脂の上記式(1)で表される構造単位に使用するジオール成分は、主に式(a)で表される化合物である。
【0036】
【0037】
ジオール成分の上記式(a)において、Z、L1、L2、o、p、R1、R2、R3及びR4は上記式(1)の各式と同様である。
以下、上記式(a)で表されるジオール成分の代表的具体例を示すが、本発明の上記式(a)に用いられる原料としては、それらによって限定されるものではない。
【0038】
具体的には、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキ-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(ヒドロキシメトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(ヒドロキシメトキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(ヒドロキシメトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(3-ヒドロキシプロポキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(3-ヒドロキシプロポキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(3-ヒドロキシプロポキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)-2,7-ジメチルフルオレン、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)-2,7-ジフェニルフルオレン、9,9-ビス(6-(2-ヒドロキシメトキシ)-2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(6-(2-ヒドロキシメトキシ)-2-ナフチル)-2,7-ジメチルフルオレン、9,9-ビス(6-(2-ヒドロキシメトキシ)-2-ナフチル)-2,7-ジフェニルフルオレン、9,9-ビス(6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル)-2,7-ジメチルフルオレン、9,9-ビス(6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル)-2,7-ジフェニルフルオレン、
9,9-ビス(6-(3-ヒドロキシプロポキシ)-2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(6-(3-ヒドロキシプロポキシ)-2-ナフチル)-2,7-ジメチルフルオレン、9,9-ビス(6-(3-ヒドロキシプロポキシ)-2-ナフチル)-2,7-ジフェニルフルオレンが挙げられる。
【0039】
これらは、1種を単独で使用しても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
なかでも9,9-ビス(4-(3-ヒドロキシメトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(3-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキプロポキシ)フェニル)フルオレンが好ましく、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンがより好ましい。9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンは、その構造が高屈折率及び低複屈折性に寄与することに加え、酸化に強い安定した構造を有しており、長期耐熱性発現においても有利である。
【0040】
《上記式(a)以外のジオール成分》
本発明における熱可塑性樹脂は、上記式(a)で表されるジオール成分由来の上記式(1)の構造を有するが、本発明による効果を損なわない範囲で他のジオール成分由来の構造を含んでも良い。本発明における熱可塑性樹脂では、上記式(a)で表されるジオール成分を全ジオール成分中70mol%以上占めることが好ましく、80mol%以上であることがより好ましい。
【0041】
他のジオール成分としては、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール、デカリン-2,6-ジメタノール、ノルボルナンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、シクロペンタン-1,3-ジメタノール、スピログリコール、イソソルビド、イソマンニド、イソイジド、ヒドロキノン、レゾルシノール、ジヒドロキシナフタレン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルフィド、ビフェノール、2,2’-ビス(1-ヒドロキシメトキシ)-1,1’-ビナフタレン、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビナフタレン、2,2’-ビス(3-ヒドロキシプロピルオキシ)-1,1’-ビナフタレン、2,2’-ビス(4-ヒドロキシブトキシ)-1,1’-ビナフタレン、1,1’-ビ-2-ナフトール等が例示され、これらは単独または二種類以上組み合わせて用いても良い。
【0042】
《上記式(1)で表される構造を有する熱可塑性樹脂に使用するジカルボン酸成分》
本発明の熱可塑性樹脂がポリエステルカーボネート、ポリエステルなどの場合に使用するジカルボン酸成分は、主に式(b)で表される化合物、またはそのエステル形成誘導体である。
【0043】
【0044】
上記式(b)において、Yは上記式(3)と同様である。
以下、上記式(b)で表されるジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体の代表的具体例を示すが、本発明の上記式(b)に用いられる原料としては、それらによって限定されるものではない。
【0045】
ジカルボン酸成分としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸成分、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の単環式芳香族ジカルボン酸成分、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、9,9-ビス(カルボキシメチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレン、9,9-ビス(1-カルボキシエチル)フルオレン、9,9-ビス(1-カルボキシプロピル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシ-1-メチルエチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシ-1-メチルプロピル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシブチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシ-1-メチルブチル)フルオレン、9,9-ビス(5-カルボキシペンチル)フルオレン、9,9-ビス(カルボキシシクロヘキシル)フルオレン等の多環式芳香族ジカルボン酸成分、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2,6-デカリンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸成分が挙げられ、2,6-ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。また、エステル形成性誘導体としては酸クロライドや、メチルエステル、エチルエステル、フェニルエステル等のエステル類を用いてもよく、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル、テレフタル酸ジメチルが好ましく、テレフタル酸ジメチルがより好ましい。テレフタル酸ジメチルは酸化に強い安定した構造を有しており、長期耐熱性発現に有利である。これらは、1種を単独で使用しても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
《ポリカーボネート樹脂の製造方法》
ポリカーボネート樹脂は、それ自体公知の反応手段、例えばジヒドロキシ化合物成分とカーボネート前駆物質を界面重合法または溶融重合法によって反応させて得られる。ポリカーボネート樹脂を製造するに当たっては、必要に応じて触媒、末端停止剤、酸化防止剤等を使用してもよい。国際公開第2017/078070号の記載を参考に製造することができる。
【0047】
溶融重合法においては重合速度を速めるために、重合触媒を用いることができ、かかる重合触媒としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、含窒素化合物、等が挙げられる。このような化合物としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の、有機酸塩、無機塩、酸化物、水酸化物、水素化物、アルコキシド、4級アンモニウムヒドロキシド等が好ましく用いられ、これらの化合物は単独もしくは組み合わせて用いることができる。
【0048】
アルカリ金属化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム、酢酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸セシウム、ステアリン酸リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸セシウム、安息香酸リチウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、フェニルリン酸2ナトリウム、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2セシウム塩、2リチウム塩、フェノールのナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、リチウム塩等が例示され、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸リチウムが好ましく、炭酸水素ナトリウムがより好ましい。
【0049】
《ポリエステルカーボネート樹脂の製造方法》
ポリエステルカーボネート樹脂は、それ自体公知の反応手段、例えばジヒドロキシ化合物成分およびジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ホスゲンやカーボネートエステルなどのカーボネート前駆物質とを反応させることにより製造することができる。特許文献1や2の記載を参考に製造することができる。
【0050】
溶融重合法においては重合速度を速めるために、重合触媒を用いることができ、かかる重合触媒として、アルミニウム又はその化合物とリン化合物とからなる触媒を用いてもよい。その場合、使用する全モノマー単位の合計1molに対して、80μmol以上、90μmol以上、100μmol以上であってもよく、1000μmol以下、800μmol以下、600μmol以下で使用することができる。
【0051】
アルミニウム塩としては、アルミニウムの有機酸塩及び無機酸塩を挙げることができる。アルミニウムの有機酸塩としては、例えば、アルミニウムのカルボン酸塩を挙げることができ、具体的にはギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、プロピオン酸アルミニウム、蓚酸アルミニウム、アクリル酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、安息香酸アルミニウム、トリクロロ酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、クエン酸アルミニウム、及びサリチル酸アルミニウムを挙げることができる。アルミニウムの無機酸塩としては、例えば、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、炭酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、及びホスホン酸アルミニウムを挙げることができる。アルミニウムキレート化合物としては、例えば、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムアセチルアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテート、及びアルミニウムエチルアセトアセテートジiso-プロポキシドを好ましく挙げることができ、アルミニウムアセチルアセトネートがさらに好ましい。
【0052】
リン化合物としては、例えば、ホスホン酸系化合物、ホスフィン酸系化合物、ホスフィンオキサイド系化合物、亜ホスホン酸系化合物、亜ホスフィン酸系化合物、及びホスフィン系化合物を挙げることができ、これらの中でも特に、ホスホン酸系化合物、ホスフィン酸系化合物、及びホスフィンオキサイド系化合物を好ましく挙げることができ、特にホスホン酸系化合物が好ましい。
【0053】
《ポリエステル樹脂の製造方法》
ポリエステル樹脂である場合はそれ自体公知の反応手段、例えばジヒドロキシ化合物成分とジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とをエステル化反応もしくはエステル交換反応させ、得られた反応生成物を重縮合反応させ、所望の分子量の高分子量体とすればよい。特開2016―69643号公報の記載を参考に製造することができる。
【0054】
《離型剤》
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、離型剤を含み、離型剤の含有量として、熱可塑性樹脂組成物中に1~4000ppm含むことが好ましく、10~3500ppm含むことがより好ましく、50~3000ppm含むことがさらに好ましく、80~2500ppm含むことがよりさらに好ましく、300~2000ppm含むことが特に好ましく、700ppm~2000ppm含むことが最も好ましい。発明者は離型剤を上記範囲内で添加することで、離型性を向上させることに加え、高い長期耐熱性を発揮させることができることを見出した。長期耐熱性は、酸化劣化を抑制することで向上すると考えられる。よって、離型剤が樹脂中に存在することで、樹脂混錬時及び成形加工時の摩擦等からポリマー鎖を保護し負荷を低減する効果が奏され、酸化劣化を進行させるラジカル・過酸化物等の不安定構造生成が抑えられる為、長期耐熱性が向上すると推測される。併せて、樹脂混錬時及び成形加工時の酸化劣化が抑制されることで初期色相も良化する効果が奏される。
さらに、上記範囲内であれば離型剤の量が多すぎることによる屈折率の低下、全光線透過率の低下、金型付着汚れを抑制することができる。なお本書において「ppm」は「質量ppm」を意味する。
【0055】
離型剤として、一種の離型剤を用いても良く複数種類の離型剤を組み合わせても良い。複数種類の離型剤を用いる場合は、離型剤の合計量が上記の数値範囲となるように調整すればよい。
【0056】
本発明に用いる離型剤としては、国際公開第2011/010741号に記載されたものが好ましく挙げられる。特に好ましい離型剤としては、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ステアリン酸トリグリセリドとステアリルステアレートの混合物が好ましく用いられる。また、離型剤中の前記エステルの量は、離型剤を100質量%とした時、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。
【0057】
《酸化防止剤》
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、熱可塑性樹脂組成物中に含まれる酸化防止剤の含有量は0~300ppmである。熱可塑性樹脂組成物中に含まれる酸化防止剤の量は0~200ppmであることが好ましく、0~100ppmであることがより好ましく、0~50ppmであることがさらに好ましく、0~10ppmであることがよりさらに好ましく、0~1ppmであることが特に好ましく、0ppmであることが最も好ましい。酸化防止剤が上記範囲内であることで、長期耐熱性に優れる。長期耐熱性は、酸化劣化を抑制することで向上するため、酸化防止剤のように容易に変化可能な構造を少なくし、酸化に強い安定な化学構造で熱可塑性樹脂組成物を構築することで長期耐熱性を向上させることができる。
【0058】
具体的な酸化防止剤としては、国際公開第2011/010741号に記載されたものが挙げられ、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤及びヒンダードフェノール系酸化防止剤等がある。
【0059】
また、リン系酸化防止剤としては、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、ジスステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、環状ネオペンタンテトライルビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニルホスファイト)、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが挙げられる。
【0060】
また、硫黄系酸化防止剤としては、ペンタエリスリトール-テトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)が挙げられる。
【0061】
また、ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトール-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-tert-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン
、N,N-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマイド)、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ベンジルホスホネート-ジエチルエステル、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、3,9-ビス{1,1-ジメチル-2-[β-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンが挙げられる。
酸化防止剤の合計量が上記の数値範囲であれば、複数種類の酸化防止剤を含んでも良い。
【0062】
《任意の添加剤》
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、充填剤、滑剤、界面活性剤、抗菌剤、重合金属不活性化剤、相溶化剤、着色剤などの添加剤を適宜添加して樹脂組成物として用いることができる。
【0063】
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、環状イミノエステル系紫外線吸収剤及びシアノアクリレート系からなる群より選ばれた少なくとも1種の紫外線吸収剤が好ましい。
【0064】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤において、より好ましくは、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]である。
【0065】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、2-ヒドロキシ-4-n-ドデシルオキシベンソフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-2’-カルボキシベンゾフェノンが挙げられる。
【0066】
トリアジン系紫外線吸収剤としては、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール、2-(4,6-ビス(2.4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(オクチル)オキシ]-フェノール等が挙げられる。
【0067】
環状イミノエステル系紫外線吸収剤としては、特に2,2’-p-フェニレンビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)が好適である。
【0068】
シアノアクリレート系紫外線吸収剤としては、1,3-ビス-[(2’-シアノ-3’,3’-ジフェニルアクリロイル)オキシ]-2,2-ビス[(2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリロイル)オキシ]メチル)プロパン、及び1,3-ビス-[(2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリロイル)オキシ]ベンゼン等が挙げられる。
【0069】
紫外線吸収剤の配合量は、熱可塑性樹脂組成物に対して好ましくは1000~30000ppmであり、かかる配合量の範囲であれば、用途に応じ、熱可塑性樹脂組成物の成形品に十分な耐候性を付与することが可能である。
【0070】
《熱可塑性樹脂組成物の製造方法》
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、式(1)で表される構造を有する熱可塑性樹脂に離型剤及びその他添加剤を添加し、溶融混錬することで製造される。
【0071】
各種添加剤の添加方法は特に限定されず、任意の方法で行ってよい。例えば、熱可塑性樹脂の重合段階で加えてもよいし、熱可塑性樹脂を重合した後に入れても良い。熱可塑性樹脂に各種添加剤を添加する場合、熱可塑性樹脂を入れた容器に後から添加剤を添加してもよいし、予め添加剤を入れた容器に後から熱可塑性樹脂を入れてもよいし、熱可塑性樹脂と添加剤を同時に一つの容器に入れてもよい。具体的には、ターンブルミキサー、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、スーパーミキサー、ロールミキサーまたはタンブラーミキサーを用いて、ペレット状の熱可塑性樹脂に添加剤を付着させてもよい。このような添加方法によれば、熱可塑性樹脂中に添加剤を均一に分散することができるため好ましい。またペレット状の熱可塑性樹脂と熱可塑性樹脂の一部へ高濃度で添加剤を溶融混錬したペレット同士を混合してもよい。熱可塑性樹脂へ各種添加剤を添加した後、これらを溶融混錬する方法は特に限定されず、任意の方法で行って良い。例えば、溶融混錬は一軸または二軸押出機、バンバリーミキサー、スタティックミキサー等の公知の混錬方法で行ってもよい。ペレット化の方法は特に限定されず、任意の方法を用いることができる。
【0072】
《熱可塑性樹脂組成物の特性》
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、優れた長期耐熱性を有する。本明細書において、「優れた長期耐熱性」とは射出成形物が長期にわたる高温暴露の前後で黄変が小さいことを示す。長期耐熱性は、熱可塑性樹脂組成物を射出成形し、得られた成形物に乾燥雰囲気下120℃で500時間暴露する乾熱試験を行い、試験前後での色の変化である乾熱黄変ΔYIを測定することで評価することができる。本発明の熱可塑性樹脂組成物の2mm厚成形物の乾熱黄変ΔYIは、0.00~0.47であることが好ましく、0.00~0.40であることがより好ましく、0.00~0.35であることがさらに好ましく、0.00~0.30であることがよりさらに好ましく、0.00~0.21であることがさらに好ましく、0.00~0.15であることが最も好ましい。乾熱黄変ΔYIが上記範囲内であると各種透明部材としての使用範囲が限定されず好ましい。
【0073】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、高い屈折率ndと低いアッベ数νdを有する。本発明の熱可塑性樹脂組成物の屈折率ndは、温度:20℃、波長:589nmで測定した場合に、1.600以上であり、1.610以上、1.620以上または1.630以上であってもよく、1.680以下、1.670以下、1.660以下、1.650以下であってもよい。例えば、本発明の熱可塑性樹脂の屈折率ndは、1.635~1.650であり、1.635~1.648が好ましく、1.635~1.646がより好ましく、1.636~1.644がさらに好ましく、1.636~1.642が特に好ましく、1.636~1.641が最も好ましい。屈折率が上記範囲内の場合、光学レンズの球面収差を低減でき、さらに光学レンズの焦点距離を短くすることができる。
【0074】
本発明の熱可塑性樹脂組成物のアッベ数νdは、17.0以上、18.0以上、19.0以上、20.0以上、又は21.0以上であってもよく、30.0以下、29.0以下、28.0以下、27.0以下、26.0以下、又は25.0以下であってもよい。例えば、本発明の熱可塑性樹脂組成物のアッベ数νdは、21.0~26.0、21.5~25.5、22.0~25.0であってもよい。
ここで、アッベ数νdは、温度:20℃、波長:486.13nm、587.56nm、656.27nmの屈折率から、下記式を用いて算出する:
νd=(nd-1)/(nF-nC)
nd:波長587.56nmでの屈折率、
nF:波長486.13nmでの屈折率、
nC:波長656.27nmでの屈折率を意味する。
【0075】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は低い配向複屈折|Δn|を有する。本発明の熱可塑性樹脂組成物の配向複屈折|Δn|の絶対値は、6.0×10-3以下であることが好ましく、5.0×10-3以下であることがより好ましく、4.0×10-3以下であることがさらに好ましく、3.0×10-3以下であることが最も好ましい。配向複屈折|Δn|が上記範囲内だと、色収差に大きな影響を与えないため、光学設計通りの性能を維持することができる。配向複屈折|Δn|は、その熱可塑性樹脂から得られる厚さ100μmのキャストフィルムをTg+10℃で2倍延伸した後に、波長589nmにおいて測定した位相差値とフィルム厚みから求める。
【0076】
本発明における熱可塑性樹脂組成物の粘度平均分子量Mvは、実施例に記載した方法によって測定した場合に、5,000以上、6,000以上、又は7,000以上であってもよく、25,000以下、20,000以下、又は15,000以下であってもよい。例えば、本発明の熱可塑性樹脂組成物の粘度平均分子量Mvは、6,000~20,000であってもよく、7,000~15,000であってもよい。
【0077】
初期色相YIは、熱可塑性樹脂組成物を射出成形し、得られた成形物のYIを測定することで評価することができる。本発明の熱可塑性樹脂組成物の2mm厚成形物の初期色相YIは、7.0以下であることが好ましく、6.0以下であることがより好ましく、5.5以下であることがさらに好ましく、5.0以下であることが特に好ましく、4.5以下であることが最も好ましい。初期色相YIが上記範囲内であると各種透明部材としての使用範囲が限定されず好ましい。
【0078】
(2)光学部材
本発明の光学部材は、上記の熱可塑性樹脂組成物を含む。そのような光学部材としては、上記の熱可塑性樹脂組成物が有用となる光学用途であれば、特に限定されないが、光ディスク、透明導電性基板、光カード、シート、フィルム、光ファイバー、レンズ、プリズム、光学膜、基盤、光学フィルター、ハードコート膜等を挙げることができる。
【0079】
また、本発明の光学部材には、上記の熱可塑性樹脂組成物を含む樹脂組成物から構成されていてもよく、その樹脂組成物には、必要に応じて熱安定剤、酸化防止剤、可塑剤、光安定剤、重合金属不活性化剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、離型剤等の添加剤を配合することができる。
【0080】
(3)光学レンズ
本発明の光学部材として、特に光学レンズを挙げることができる。このような光学レンズとしては、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末、パソコン、デジタルカメラ、ビデオカメラ、車載カメラ、監視カメラ等のための撮像レンズや、TOFカメラ等のセンシングカメラ、さらにAR/VR機器のためのレンズを挙げることができる。
【0081】
本発明の光学レンズを射出成型で製造する場合、シリンダー温度230~350℃、金型温度70~180℃の条件にて成形することが好ましい。さらに好ましくは、シリンダー温度250~300℃、金型温度80~170℃の条件にて成形することが好ましい。シリンダー温度が350℃より高い場合では、熱可塑性樹脂組成物が分解着色し、230℃より低い場合では、溶融粘度が高く成形が困難になりやすい。また金型温度が180℃より高い場合では、熱可塑性樹脂組成物から成る成形片が金型から取り出すことが困難になりやすい。他方、金型温度が、70℃未満では、成型時の金型内で樹脂が早く固まり過ぎて成形片の形状が制御しにくくなったり、金型に付された賦型を十分に転写することが困難になりやすい。
【0082】
本発明の光学レンズは、必要に応じて非球面レンズの形を用いることが好適に実施される。非球面レンズは、1枚のレンズで球面収差を実質的にゼロとすることが可能であるため、複数の球面レンズの組み合わせで球面収差を取り除く必要が無く、軽量化及び成形コストの低減化が可能になる。したがって、非球面レンズは、光学レンズの中でも特にカメラレンズとして有用である。
【0083】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成形流動性が高いため、薄肉小型で複雑な形状である光学レンズの材料として特に有用である。具体的なレンズサイズとして、中心部の厚みが0.05~10.0mm、より好ましくは0.05~8.0mm、さらに好ましくは0.1~6.0mmである。また、直径が1.0mm~100.0mm、より好ましくは1.0~80.0mm、さらに好ましくは、1.0~60.0mmである。また、その形状として片面が凸、片面が凹であるメニスカスレンズであることが好ましい。
【0084】
本発明の熱可塑性樹脂からなるレンズは、金型成形、切削、研磨、レーザー加工、放電加工、エッチングなど任意の方法により成形される。この中でも、製造コストの面から金型成形がより好ましい。
【実施例0085】
本発明を以下の実施例でさらに具体的に説明をするが、本発明はこれによって限定されるものではない。
《評価方法》
〈屈折率nd〉
各熱可塑性樹脂組成物の3mm厚板を作製し、切削、研磨した後、(株)島津製作所製のカルニュー精密屈折計KPR-2000を使用して、屈折率nd(587.56nm)を測定した。
【0086】
〈アッベ数νd〉
アッベ数の測定波長は、486.13nm、587.56nm、656.27nmの屈折率から下記の式を用いて算出した。
νd=(nd-1)/(nF-nC)
nd:波長587.56nmでの屈折率、
nF:波長486.13nmでの屈折率、
nC:波長656.27nmでの屈折率を意味する。
【0087】
〈初期色相YI〉
各熱可塑性樹脂組成物の2mm厚板を作製し、日本電色工業(株)製 色彩・濁度同時測定器COH 400(D65光源、10°視野)により、YIを測定した。
【0088】
〈乾熱黄変ΔYI〉
各熱可塑性樹脂組成物の2mm厚板を作製し、乾燥雰囲気下120℃に500時間暴露する乾熱試験を行い、試験前後でのYIを日本電色工業(株)製 色彩・濁度同時測定器COH 400(D65光源、10°視野)で測定した後、以下の式を用いて乾熱黄変ΔYIを算出した。
乾熱黄変ΔYI=乾熱試験後YI―乾熱試験前YI
【0089】
〈粘度平均分子量Mv〉
熱可塑性樹脂組成物の粘度平均分子量を、以下の方法で測定した。熱可塑性樹脂組成物0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液から、その溶液の20℃における比粘度(ηsp)を測定した。そして、下記式により算出されるMvを粘度平均分子量とした。
ηsp/c=[η]+0.45×[η]2c
[η]=1.23×10-4Mv0.83
ηsp:比粘度
η:極限粘度
c:定数(=0.7)
Mv:粘度平均分子量
【0090】
〈配向複屈折の絶対値|Δn|〉
熱可塑性樹脂組成物を塩化メチレンに溶解した後、ガラスシャーレ上にキャストし、十分乾燥することで厚さ100μmのキャストフィルムを作製した。該フィルムをTg+10℃で2倍延伸し、日本分光(株)製エリプソメーターM-220を用いて589nmにおける位相差(Re)を測定し、下記式より配向複屈折の絶対値(|Δn|)を求めた。
|Δn|=|Re/d|
Δn:配向複屈折
Re:位相差(nm)
d:厚さ(nm)
【0091】
〈合成例1〉(ポリエステルカーボネート樹脂(PEC1)の製造)
9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(以下、BPEFと省略することがある)82.0mol、テレフタル酸ジメチル(以下、DMTと省略することがある)18.0mol、ジフェニルカーボネート(以下、DPCと省略することがある)71.0mol、アルミニウムアセチルアセトネート(以下、Cat.Alと省略することがある)1.5×10-2mol及び3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチル(以下、Cat.Pと省略することがある)3.0×10-2molを攪拌機および留出装置付きの反応釜に入れ、窒素置換を3度行った後、ジャケットを200℃に加熱し、原料を溶融させた。
【0092】
完全溶解後、20分かけて40kPaまで減圧した。その後、260℃まで昇温、0.13kPa以下まで減圧し、所定の撹拌トルクに到達するまで重合反応を行った。反応終了後、生成した樹脂をペレタイズしながら抜き出し、ポリエステルカーボネート樹脂(PEC1)のペレットを得た。得られたポリエステルカーボネート樹脂(PEC1)のMvは10,100であった。
【0093】
〈合成例2〉(ポリエステルカーボネート樹脂(PEC2)の製造)
特許文献1の実施例4を参考に、BPEF90.0mol、DMT10.0mol、DPC84.0mol及びチタンテトラブトキシド(以下、Cat.Tiと省略することがある)1.0×10-2molを攪拌機および留出装置付きの反応釜に入れ、窒素置換を3度行った後、ジャケットを180℃に加熱し、原料を溶融させた。
【0094】
完全溶解後、20分かけて30kPaまで減圧した。その後、250℃まで昇温、0.13kPa以下まで減圧し、所定の撹拌トルクに到達するまで重合反応を行った。反応終了後、生成した樹脂をペレタイズしながら抜き出し、ポリエステルカーボネート樹脂(PEC2)のペレットを得た。得られたポリエステルカーボネート樹脂(PEC2)のMvは10,800であった。
【0095】
〈合成例3〉(ポリカーボネート樹脂(PC1)の製造)
BPEF100.0mol、DPC104.0mol及び炭酸水素ナトリウム(以下、Cat.Naと省略することがある)6.0×10-4mol(炭酸水素ナトリウムは0.1wt%水溶液の状態で添加した)を攪拌機および留出装置付きの反応釜に入れ、窒素置換を3度行った後、ジャケットを200℃に加熱し、原料を溶融させた。
【0096】
完全溶解後、20分かけて40kPaまで減圧した。その後、240℃まで昇温、0.13kPa以下まで減圧し、所定の撹拌トルクに到達するまで重合反応を行った。反応終了後、生成した樹脂をペレタイズしながら抜き出し、ポリカーボネート樹脂(PC1)のペレットを得た。得られたポリカーボネート樹脂(PC1)のMvは9,800であった。
【0097】
〈実施例1〉
合成例1で得られたポリエステルカーボネート樹脂(PEC1)と離型剤としてステアリン酸モノグリセリド[製品名:理研ビタミン株式会社製のリケマールS-100A]を表1に示す質量比で配合し、よく混合した後、押出機(日本製鋼所製 TEX30α 30mmφ二軸押出機)により270℃、ベント圧力30mmHgで溶融混練した。溶融混錬によって得られた熱可塑性樹脂組成物をストランド状に押出した後、ペレタイザーを用いてペレット化して、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。該ペレットのMvは9,800であった。該ペレットを280℃で射出成型して2mm厚及び3mm厚の板状成型片を得た。成型体は透明であった。評価結果を表1に示す。
【0098】
〈実施例2〉
合成例1で得られたポリエステルカーボネート樹脂(PEC1)と離型剤リケマールS-100Aを表1に示す質量比で配合し、よく混合した後、押出機(日本製鋼所製 TEX30α 30mmφ二軸押出機)により270℃、ベント圧力30mmHgで溶融混練した。溶融混錬によって得られた熱可塑性樹脂組成物をストランド状に押出した後、ペレタイザーを用いてペレット化して、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。該ペレットのMvは9,800であった。該ペレットを280℃で射出成型して2mm厚及び3mm厚の板状成型片を得た。成型体は透明であった。評価結果を表1に示す。
【0099】
〈実施例3〉
合成例1で得られたポリエステルカーボネート樹脂(PEC1)と離型剤リケマールS-100Aを表1に示す質量比で配合し、よく混合した後、押出機(日本製鋼所製 TEX30α 30mmφ二軸押出機)により270℃、ベント圧力30mmHgで溶融混練した。溶融混錬によって得られた熱可塑性樹脂組成物をストランド状に押出した後、ペレタイザーを用いてペレット化して、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。該ペレットのMvは9,900であった。該ペレットを280℃で射出成型して2mm厚及び3mm厚の板状成型片を得た。成型体は透明であった。評価結果を表1に示す。
【0100】
〈実施例4〉
合成例1で得られたポリエステルカーボネート樹脂(PEC1)と離型剤リケマールS-100Aを表1に示す質量比で配合し、よく混合した後、押出機(日本製鋼所製 TEX30α 30mmφ二軸押出機)により270℃、ベント圧力30mmHgで溶融混練した。溶融混錬によって得られた熱可塑性樹脂組成物をストランド状に押出した後、ペレタイザーを用いてペレット化して、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。該ペレットのMvは9,800であった。該ペレットを280℃で射出成型して2mm厚及び3mm厚の板状成型片を得た。成型体は透明であった。評価結果を表1に示す。
【0101】
〈実施例5〉
合成例3で得られたポリカーボネート樹脂(PC1)と離型剤リケマールS-100Aを表1に示す質量比で配合し、よく混合した後、押出機(日本製鋼所製 TEX30α 30mmφ二軸押出機)により270℃、ベント圧力30mmHgで溶融混練した。溶融混錬によって得られた熱可塑性樹脂組成物をストランド状に押出した後、ペレタイザーを用いてペレット化して、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。該ペレットのMvは9,600であった。該ペレットを280℃で射出成型して2mm厚及び3mm厚の板状成型片を得た。成型体は透明であった。評価結果を表1に示す。
【0102】
〈実施例6〉
合成例1で得られたポリエステルカーボネート樹脂(PEC1)と離型剤リケマールS-100A及び酸化防止剤として環状ネオペンタンテトライルビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニルホスファイト)[製品名:株式会社ADEKA製のアデカスタブPEP-36]を表1に示す質量比で配合し、よく混合した後、押出機(日本製鋼所製 TEX30α 30mmφ二軸押出機)により270℃、ベント圧力30mmHgで溶融混練した。溶融混錬によって得られた熱可塑性樹脂組成物をストランド状に押出した後、ペレタイザーを用いてペレット化して、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。該ペレットのMvは9,900であった。該ペレットを280℃で射出成型して2mm厚及び3mm厚の板状成型片を得た。成型体は透明であった。評価結果を表1に示す。
【0103】
〈比較例1〉
合成例1で得られたポリエステルカーボネート樹脂(PEC1)と離型剤リケマールS-100A及び酸化防止剤PEP-36を表1に示す質量比で配合し、よく混合した後、押出機(日本製鋼所製 TEX30α 30mmφ二軸押出機)により270℃、ベント圧力30mmHgで溶融混練した。溶融混錬によって得られた熱可塑性樹脂組成物をストランド状に押出した後、ペレタイザーを用いてペレット化して、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。該ペレットのMvは9,900であった。該ペレットを280℃で射出成型して2mm厚及び3mm厚の板状成型片を得た。成型体は透明であった。評価結果を表1に示す。
【0104】
〈比較例2〉
合成例3で得られたポリカーボネート樹脂(PC1)と離型剤リケマールS-100A及び酸化防止剤PEP-36を表1に示す質量比で配合し、よく混合した後、押出機(日本製鋼所製 TEX30α 30mmφ二軸押出機)により270℃、ベント圧力30mmHgで溶融混練した。溶融混錬によって得られた熱可塑性樹脂組成物をストランド状に押出した後、ペレタイザーを用いてペレット化して、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。該ペレットのMvは9,700であった。該ペレットを280℃で射出成型して2mm厚及び3mm厚の板状成型片を得た。成型体は透明であった。評価結果を表1に示す。
【0105】
〈比較例3〉
特許文献1の実施例4を参考に、合成例2で得られたポリエステルカーボネート樹脂(PEC2)と離型剤としてペンタエリスリトールテトラステアレート及び酸化防止剤としてビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトを表1に示す質量比で配合し、よく混合した後、押出機(日本製鋼所製 TEX30α 30mmφ二軸押出機)により270℃、ベント圧力30mmHgで溶融混練した。溶融混錬によって得られた熱可塑性樹脂組成物をストランド状に押出した後、ペレタイザーを用いてペレット化して、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。該ペレットのMvは10,600であった。該ペレットを280℃で射出成型して2mm厚及び3mm厚の板状成型片を得た。成型体は透明であった。評価結果を表1に示す。
【0106】
【0107】
表1に示す結果より、実施例1~6の熱可塑性樹脂組成物は高屈折率、低複屈折で光学特性に優れることに加え、比較例1~3の熱可塑性樹脂組成物に比べ、長期耐熱性に優れることが分かった。本発明の熱可塑性樹脂組成物は優れた光学特性であるため光学材料、中でも光学レンズの用途として極めて有用であり、さらに長期耐熱性に優れることから広範な環境下に応用展開できる。