(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055321
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】ゴルフボールの製造方法
(51)【国際特許分類】
A63B 45/02 20060101AFI20240411BHJP
A63B 37/00 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
A63B45/02
A63B37/00 616
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162147
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】592014104
【氏名又は名称】ブリヂストンスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田北 翼
(57)【要約】
【課題】ボール表面に印刷されるマークが精細性に優れると共に、耐久性にも優れたゴルフボールを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、ゴルフボールの表面にマークを有するゴルフボールの製造方法において、下記の工程(1)~(3)、
(1)ゴルフボールの表面に対して、コロナ放電処理、紫外線照射処理、塩素処理及びプライマー塗布処理の群から選ばれる少なくとも1つの処理を実施する工程、
(2)上記工程(1)の処理が施されたゴルフボールの表面のうち、上記マークに対応する箇所に下地層を形成する工程、及び
(3)上記の下地層に、マークをインクジェット印刷により形成する工程
を含むことを特徴とするゴルフボールの製造方法を提供する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルフボールの表面にマークを有するゴルフボールの製造方法において、下記の工程(1)~(3)、
(1)ゴルフボールの表面に対して、コロナ放電処理、紫外線照射処理、塩素処理及びプライマー塗布処理の群から選ばれる少なくとも1つの処理を実施する工程、
(2)上記工程(1)の処理が施されたゴルフボールの表面のうち、上記マークに対応する箇所に下地層を形成する工程、及び
(3)上記の下地層に、マークをインクジェット印刷により形成する工程
を含むことを特徴とするゴルフボールの製造方法。
【請求項2】
上記工程(2)において、上記下地層をインクジェット印刷により形成する請求項1記載のゴルフボールの製造方法。
【請求項3】
上記の下地層の形成するためのインクと、上記工程(3)において使用されるインクとが同種である請求項2記載のゴルフボールの製造方法。
【請求項4】
上記工程(2)により形成された下地層が透明である請求項1又は2記載のゴルフボールの製造方法。
【請求項5】
上記工程(2)において、上記の下地層をマークの形状に沿って該マークの周縁部のみに形成するようにした請求項1又は2記載のゴルフボールの製造方法。
【請求項6】
上記工程(2)において、上記の下地層が形成される領域内の密度が0~100%である請求項2記載のゴルフボールの製造方法。
【請求項7】
上記工程(2)において、上記の下地層の液滴1個あたりの体積が1~15ピコリットル(pl)である請求項1又は2記載のゴルフボールの製造方法。
【請求項8】
上記ゴルフボールがコア及びカバーを具備し、該カバーがウレタン樹脂を主材として形成される請求項1又は2記載のゴルフボールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフボールの表面にマークを形成する工程を有するゴルフボールの製造方法に関し、更に詳述すると、マークが精細性及び耐久性に優れたマークを形成することができるゴルフボールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からゴルフボールのマークの印刷方法としては、転写フィルム方式、パット方式(刻印方式)などが採用されているが、それぞれ以下の課題を有していた。
転写フィルム方式は、高価であり、大きなサイズができない、小ロットに適さないなどの欠点がある。パット方式では、マークの色数と同数のインクや凹版が必要となり、凹版の製作やインクの調色に手間がかかるなどの欠点がある。
【0003】
また、インクジェット方式では、デザインの変更が容易(小ロット対応可能)であり、精細なデザインが可能、即ち、細いライン工程で対応可能)、大径化できる、調色/洗浄は不要であるなどの利点がある。しかしながら、実際にインクジェット方式でゴルフボールの表面にマークを印刷しようとした際には、滲みが生じて印刷品質が低下し、耐久性も低下するなどの欠点があった。
【0004】
特に、ゴルフボールのカバー樹脂材料としてウレタン樹脂を用いる場合には、インクがウレタン樹脂内に染み込むために滲みやすくなり、マークが精細なデザインとはならない。また、ゴルフボールのカバー樹脂材料としてアイオノマー樹脂を用いると、アイオノマー樹脂に樹脂が染み込むのではなく、はじきやすくなる。また、ゴルフボールを研磨した後にマークを印刷した場合には、印刷しようとするボールの表面、特にディンプルが形成されたボール表面の土手部が荒れるために滲みやすい。また、ゴルフボールは高速で打撃され大きく変形するため、変形に耐える耐久性が求められるところ、インクジェット方式で通常使用されるUV硬化用のインクは脆いものであり、そのインクで印刷されるマークの耐久性には問題がある。
【0005】
ゴルフボールの表面にマークを形成する方法としての先行技術文献として、例えば、特許文献1には、マークに対して、プライマー塗布処理も含めて前処理を施し、その後、インクジェットプリンタでマーキングを行った技術が提案されている。また、特許文献2には、酸処理後に放射性硬化インクでマークを印刷することにより、マークの密着性を強化した技術が提案されている。更に、特許文献3には、マークの下地層として、密着性を強化するための層を設ける技術が提案されている。しかしながら、これらの技術であっても、ゴルフボールの表面に形成されるマークの精細性と耐久性とを両立させるものではなかった。また、特許文献1のように、マークを形成するゴルフボールの表面に前処理としてプライマーを塗布しても、ボール打撃時のマーク耐久性やカバー色の再現性に問題があった。更に、上記のような従来より提案されているマークの形成方法については、特に、ウレタン樹脂によりカバーが形成されるゴルフボールにおいて、ボール表面を研磨した後にインクジェット印刷でマークを形成しようとするとインクが滲み出てしまい、印刷時のマークの精細性が十分でなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平08-322967号公報
【特許文献2】特開2019-199041号公報
【特許文献3】特開2004-215917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ボール表面に印刷されるマークが精細性に優れると共に、耐久性にも優れたゴルフボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、ゴルフボールの表面にマークを有するゴルフボールの製造方法において、下記の工程(1)~(3)、
(1)ゴルフボールの表面に対して、コロナ放電処理、紫外線照射処理、塩素処理及びプライマー塗布処理の群から選ばれる少なくとも1つの処理を実施する工程、
(2)上記工程(1)の処理が施されたゴルフボールの表面のうち、上記マークに対応する箇所に下地層を形成する工程、及び
(3)上記の下地層に、マークをインクジェット印刷により形成する工程
を含むことにより、ボール表面に印刷されるマークが精細性に優れると共に、マークの耐久性にも優れることを見出し、本発明をなすに至ったものである。特に、上記工程(2)では、ボール表面に形成されるマークに対応する箇所に下地層を形成するものであり、ボール表面にマーキングされたマークのインクが滲み出ることを防止し、マークの精細性を得るものである。
【0009】
従って、本発明は、下記のゴルフボールの製造方法を提供する。
1.ゴルフボールの表面にマークを有するゴルフボールの製造方法において、下記の工程(1)~(3)、
(1)ゴルフボールの表面に対して、コロナ放電処理、紫外線照射処理、塩素処理及びプライマー塗布処理の群から選ばれる少なくとも1つの処理を実施する工程、
(2)上記工程(1)の処理が施されたゴルフボールの表面のうち、上記マークに対応する箇所に下地層を形成する工程、及び
(3)上記の下地層に、マークをインクジェット印刷により形成する工程
を含むことを特徴とするゴルフボールの製造方法。
2.上記工程(2)において、上記下地層をインクジェット印刷により形成する上記1記載のゴルフボールの製造方法。
3.上記の下地層の形成するためのインクと、上記工程(3)において使用されるインクとが同種である上記2記載のゴルフボールの製造方法。
4.上記工程(2)により形成された下地層が透明である上記1又は2記載のゴルフボールの製造方法。
5.上記工程(2)において、上記の下地層をマークの形状に沿って該マークの周縁部のみに形成するようにした上記1又は2記載のゴルフボールの製造方法。
6.上記工程(2)において、上記の下地層が形成される領域内の密度が0~100%である上記2記載のゴルフボールの製造方法。
7.上記工程(2)において、上記の下地層の液滴1個あたりの体積が1~15ピコリットル(pl)である上記1又は2記載のゴルフボールの製造方法。
8.上記ゴルフボールがコア及びカバーを具備し、該カバーがウレタン樹脂を主材として形成される上記1又は2記載のゴルフボールの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のゴルフボールの製造方法は、ボール表面に印刷されるマークが精細性に優れると共に、耐久性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ゴルフボールの表面に下地層及びマークを印刷するために配備したパーソナルコンピューター及びインクジェットプリンターを示す概略図である。
【
図2】インクヘッド及びUV照射部により下地層及びマーク(印刷層)が連続的に形成される様子を示す概略説明図であり、(A)はボールの真上から見た図、(B)はボールの真横から見た図である。
【
図3】、下地層の形成する領域をT字マークの周縁部だけに形成した様子を示す概略図である。
【
図4】インクの液滴(大きさ)と間引き(ドット抜き)との関係を示す説明図である。
【0012】
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。
本発明のゴルフボールの製造方法は、ゴルフボールの表面にマークを有するための下記の工程(1)~(3)、
(1)ゴルフボールの表面に対して、コロナ放電処理、紫外線照射処理、塩素処理及びプライマー塗布処理の群から選ばれる少なくとも1つの処理を実施する工程、
(2)上記工程(1)の処理が施されたゴルフボールの表面のうち、上記マークに対応する箇所に下地層を形成する工程、及び
(3)上記の下地層に、マークをインクジェット印刷により形成する工程
を具備する。
【0013】
上記工程(1)は、ボール表面とマークのインクとの密着性が高まり、マーク耐久性が向上するために施される処理であり、その処理としては、コロナ放電処理、紫外線照射処理、塩素処理及びプライマー塗布処理の群から選ばれる。これらのボール表面の処理方法は、公知の技術であり、具体的には、先行技術1(特開平08-322967号公報)に記載された内容を参考にすることができる。
【0014】
上記工程(2)は、最終的にボール表面に形成されるマークに対応する箇所に下地層を形成する工程であり、マークのインクがボール表面に滲み出ることを防止し、マークの精細性を十分に付与するために設けられる工程である。この工程(2)においては、上記下地層をインクジェット印刷により形成することが好適である。その理由は、本発明では、マークをインクジェット印刷により形成する工程を必須としており、マークと同様に下地層をインクジェット印刷により形成されれば同じ機器を使用することができ、生産効率が上がるからである。また、上記下地層をインクジェット印刷により形成することで、印刷領域の間引き(ドット抜き)や液滴の体積(大きさ)を調整することが可能となり、下地層がボール表面を覆う領域(印刷密度)を調整することで、マークの精細性と耐久性とを優れたものに仕上げることができる。
【0015】
図1は、パーソナルコンピューター及びインクジェットプリンターを使用して、複数個のゴルフボールの表面に下地層及びマークを印刷する様子を示す模式図である。この場合、各ゴルフボール1の表面1aの真上が下地層の形成箇所及びマーク(印刷層)の印刷箇所に相当する。パーソナルコンピューター3は、インクジェットプリンターの設定項目をコントロールするために該インクジェットプリンター2と接続している。インクジェットプリンターとしては、コンティニュアス型(荷電制御方式、連続噴射型)、オンデマンド型(圧力パルス方式)、Intermittent型(電界制御方式、間欠噴射型)などのタイプが挙げられるが、いずれの型のものでも使用することができる。また、本発明では、UVインクジェットプリンターを採用することが好適であり、市販品を用いることができ、例えば、京セラ社製の「KJ4Aシリーズ」などを例示できる。
【0016】
図2は、ボールを移動させながら、インクヘッド及びUV照射部により下地層10が形成され、更に、当該ボールが、別のインクヘッド及びUV照射部によりマーク(印刷層)が形成される様子を示す概略説明図である。
図2(A)はボールの真上から見た図であり、
図2(B)はボールの真横から見た図である。このように
図2では、1台のUVインクジェットプリンターの中で、2か所のインクヘッド及びUV照射部の設置により、ボールをコンベアベルト等の移動手段により一方向に移動させながら、下地層とマーク(印刷層)とを連続して形成することができる。
図2中の矢印がボールの移動方向を示し、符号150は移動手段を示す。但し、本発明では、上記のようなUVインクジェットプリンターを用いることに限定されるものではなく、下地層とマーク(印刷層)との形成に際して、それぞれ別個のUVインクジェットプリンターを用いての中で、下地層とマーク(印刷層)と別々に形成してもよい。
【0017】
図2に示すように、下地層10は、ボール表面1aのうちマークに対応する箇所に形成される。即ち、インクジェットプリンターのインクヘッド100からインクがボール表面1aの所定位置に噴射され、その直後に、UV照射部200により、インク(インク組成物)をUV硬化させてインク層を形成するものである。インクの種類については特に制限はないが、UV硬化型のインク組成物、具体的には、(メタ)アクリル系モノマーの光重合性モノマーや光重合開始剤を含有したUV硬化型インクジェット用インク組成物を用いることが好ましい。
【0018】
また、マーク(印刷層)の表示をより一層鮮明にする点から、上記の下地層は透明であることが望ましい。この場合、下地層に使用するインク組成物には着色顔料を配合しないクリアーインク組成物とすることが好ましい。また、着色顔料を配合しない以外は、下地層で用いるUV硬化型のインク組成物とマーク(印刷層)で用いるインク組成物とは同種であることが好適である。
【0019】
ボール表面に形成された下地層は、後述するマークを形成する際、インクの滲む場所を埋める役割を果たす。
図2に示すように、ボール表面1aに形成される下地層10の領域はマーク20(印刷層)の領域より幅広であれば十分であり、あるいは、下地層10の領域はマークの相似形の縁部のみであってもよい。例えば、
図3に示すように、下地層の形成する領域をマーク(図ではT文字)の周縁部10bだけにすることにより、この周縁部10bが壁となってインクのボール表面への滲みや染み込みを抑制することができる。更に、下地層の形状をマークの周縁部だけに仕上げることは、インクジェットにより容易に形成することができ、耐久性やコスト的に良い。
【0020】
また、上記工程(2)において、上記の下地層が形成される領域内の密度(印刷密度)が0~100%であることが好適である。この下地層を形成するインクに対して間引き(ドット抜き)や液滴の体積を調整することにより、インクジェット印刷により形成されるマーク(印刷層)が下地層の領域内において間引きされて、これにより、インクが施されていない空間を通して、工程(1)により処理されたボール表面と直接接触することになり、ボール表面とマーク(印刷層)のインクとの密着性が上がり、マーク耐久性(密着性)が高くなる。もし、下地層の印刷密度が20%を下回ると、ボール表面とマークのインクとの密着性は上がるが、下地層によりインクの滲みを抑制する効果が小さくなってしまうおそれがある。一方、下地層の印刷密度が80%を上回ると、インクの滲みの抑制効果は多くなるが、ボール表面とマーク(印刷層)のインクとの密着性が低下してしまうおそれがある。従って、インクの滲み抑制効果とマーク耐久性との点から、下地層の印刷密度を適宜調整することが望ましい。
【0021】
図4は、インクの液滴(大きさ)と間引き(ドット抜き)との関係を示す説明図である。
図4に示すように、印刷密度は、インクの液滴体積と間引き(ドット抜き)により適宜調整されるものである。例えば、
図4の説明図を参照しつつ、印刷密度100%は、下地の領域において、インクの液滴が隙間なく配置される形態となる。この場合、インクの液滴が10ピコリットル(pl)と体積が大きいものを用いることにより、下地層の領域内の各ドット内に1個ずつ収めるようにすることにより、該領域内のインクの液滴を隙間がなく密集した状態で配置することができる。また、印刷密度60%は、即ち、10plのインクの液滴を用いる際、印刷密度100%の時に用いた10plのインクの液滴の個数の半分に調整すること(即ち、間引き率を50%とすること)により実現することができる。また、印刷密度78%は、5plのインクの液滴を用い、これを領域内の各ドット内に1個ずつ収めるようにすることにより実現することができる。また、印刷密度39%は、即ち、5plのインクの液滴を用いる際、印刷密度78%の時に用いた5plのインクの液滴の個数の半分に調整すること(即ち、間引き率を50%とすること)により実現することができる。印刷密度28%は、体積が3plと小さいインクの液滴を用い、これを領域内の各ドット内に1個ずつ収めるようにすることにより実現することができる。上述したように、インクの液滴は球状体積のため、間引き率を設定しなくても、その球状体積が小さければ、インクが印刷されない隙間が自然にできることとなる。従って、使用するインクの液滴の体積と間引き率とを適宜選定して所望の印刷密度を調整することがきる。
【0022】
上述したインクの液滴体積や間引き率の調整は、インクジェットプリンターの設定項目・条件により適宜選定することができ、インクジェットプリンターに直接内蔵されたコントローラやプリンターと接続したコンピュータのアプリケーションソフトを使用することにより可能となる。
【0023】
上記の下地層の印刷密度は、好ましくは20%以上、より好ましくは25%以上、さらに好ましくは30%以上であり、上限値としては、好ましくは100%以下、より好ましくは80%以下、さらに好ましくは70%以下である。なお、上記の印刷密度とは、下地層の領域面積100%のうち、マークの印刷が施される下地層の面積の比率を示す。
【0024】
また、上記の下地層の液滴1個あたりの体積は、好ましくは1ピコリットル(pl)以上であり、より好ましくは2pl以上、さらに好ましくは3pl以上であり、上限値としては、好ましくは15pl以下、より好ましくは10pl以下、さらに好ましくは6pl以下である。この下地層に使用するインクの液滴の体積が大きすぎると、滲み抑制効果があっても、インクの液滴の間での剥離が発生して液滴の割れが連鎖することで、マーク耐久性や下地層自体の耐久性がやや低下してしまうおそれがある。一方、インクの液滴が小さすぎると、風等の外部の影響により狙った位置にマークを確実に印刷できずマーク耐久性の悪化や滲みにつながることがある。
【0025】
上記工程(3)は、マークをインクジェット印刷により形成する工程であり、上記マーク(印刷層)は下地層が形成される領域内または下地層の形状に沿って形成される。
図2に示すように、インクジェットプリンターのインクヘッド101からインクがボール表面1aの所定位置に噴射されてマーク(印刷層)20が形成され、その直後に、UV照射部201により、インク(インク組成物)をUV硬化させるものである。インクの種類については特に制限はないが、UV硬化型のインク組成物、具体的には、所望の着色顔料と、(メタ)アクリル系モノマーの光重合性モノマーや光重合開始剤を含有したUV硬化型インクジェット用インク組成物を用いることが好ましい。
【0026】
上記マークの種類、位置及び数等については、特に制限はなく、文字、数字、商品名及びロゴマーク等のマーク類をボール表面の任意の位置に付けることができる。
【0027】
カバーは、ゴルフボールの最も外側に形成される層であり、その表面には通常、多数のディンプルが形成されている。以下、該カバーについて具体的に説明する。
【0028】
上記カバーを形成する材料には、基材樹脂として熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーを好適に用いることができる。熱可塑性樹脂の具体例としては、アイオノマー樹脂等を挙げることができる。上記アイオノマー樹脂は市販品を用いることができ、本発明では、ハイミラン(三井・ダウポリケミカル社製)、サーリン(米国デュポン社製)、アイオテック(エクソン社製)等を使用することができる。また、熱可塑性エラストマーの具体例としては、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリウレタン系、オレフィン系、スチレン系等の各種熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。上記熱可塑性エラストマーは、市販品を用いることができ、本発明では、ハイトレル(東レ・デュポン社製)、ペルプレン(東洋紡社製)、ペバックス(東レ社製)、パンデックス(ディーアイシーコベストロポリマー社製)、サントプレーン(モンサント社製)、タフテック(旭化成工業社製)、ダイナロン(JSR社製)等を使用することができる。本発明では、上記の上記熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーとしては、アイオノマー樹脂又は熱可塑性ポリウレタンエラストマーを採用することが好適である。
【0029】
なお、上記カバーを得るには、公知の方法を採用することができる。例えば、ボールの種類に応じて予め作製した単層又は2層以上の多層コアを金型内に配備し、カバー樹脂材料を射出成形することにより、コアの周囲に所望のカバーを被覆する方法等を採用できる。また、カバーの形成方法は、上記のほかに、例えば、本発明のカバー材により予め一対の半球状のハーフカップを成形し、このハーフカップでコアを包んで120~170℃、1~5分間、加圧成形する方法などを採用することもできる。
【0030】
本発明により製造されるゴルフボールの構造は、従来のゴルフボールと同様であり、特に制限されるものではない。例えば、コアの周囲にカバーを形成してツーピースソリッドゴルフボールにしたり、コアとカバーとの間に1層以上の中間層を形成してスリーピース構造以上のマルチピースソリッドゴルフボールとすることができる。
【0031】
上記コアは、ゴム材を主材とするゴム組成物を加硫することにより得られる。具体的には、ポリブタジエン等の基材ゴム、架橋開始剤、共架橋剤等を含有するゴム組成物を用いることができる。
【0032】
上述したように、上記コアと最外層であるカバーとの間には、1層または2層以上の中間層を成形してもよい。この場合、中間層材料としては、アイオノマー等の熱可塑性樹脂を用いることが好適である。
【0033】
カバー表面には塗料層が形成される。この塗料層を形成する塗料としては、2液硬化型ウレタン塗料を採用することが好適である。具体的には、この場合、上記2液硬化型ウレタン塗料は、ポリオール樹脂を主成分とする主剤と、ポリイソシアネートを主成分とする硬化剤とを含むものである。カバー表面に上記の塗料を塗装して塗料層を形成する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができ、エアガン塗装法や静電塗装法等、所望の方法を用いることができる。
【実施例0034】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0035】
〔実施例1~7,比較例1~3〕
ポリブタジエンを主成分とするゴム配合によりコア組成物を調整した後、加硫を行い、直径38.6mmのコアを作製した。
次に、コア表面の周囲に、アイオノマー樹脂を主材とする樹脂組成物により射出成形し、厚さ1.25mmの中間層を形成した。次いで、別の射出成形用金型を用いて、上記の中間層被覆球体の周囲に、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(ディーアイシーコベストロポリマー社製の商品名「パンデックス」、エーテルタイプ)を主材とする樹脂材料により射出成形し、厚さ0.8mmのカバーを形成し、直径42.7mmのスリーピースソリッドゴルフボールを作製した。
【0036】
〔実施例8~12,比較例4~9〕
ポリブタジエンを主成分とするゴム配合によりコア組成物を調整した後、加硫を行い、直径37.3mmのコアを作製した。
次に、コア表面の周囲に、アイオノマー樹脂を主材とする樹脂組成物により射出成形し、厚さ1.45mmの中間層を形成した。次いで、別の射出成形用金型を用いて、上記の中間層被覆球体の周囲に、アイオノマー樹脂(三井・ダウポリケミカル社製の商品名「ハイミラン」を主材とする樹脂材料により射出成形し、厚さ1.25mmのカバーを形成し、直径42.7mmのスリーピースソリッドゴルフボールを作製した。
【0037】
上記により作製したゴルフボールのカバー表面にマークを下記工程<1>~<3>により形成した。
【0038】
工程<1>
表1及び表2の各例により、「プライマー+コロナ」及び「コロナ」のいずれかの処理を実施した。条件により処理を実施した。「プライマー+コロナ処理」の場合は、プライマーの塗布後に乾燥してコロナ処理を実施した。プライマーは、(株)染めQテクノロジィ製の「ミッチャクロンマルチ」を使用した。また、コロナ処理は、ウェッジ社製の「PS-1200AW」を使用し、出力1000W、照射時間2秒で処理を実施した。
【0039】
工程<2>
UV硬化型インクを使用してインクジェット印刷により下地層を形成した。下地層を形成する領域は、マークより大きい範囲に設定し、当該下地層を印刷した。このインクジェット印刷に使用したプリンターは、京セラ製の「KJ4A-AA」であり、UV照射強度1800mW/cm2、照射時間2秒、波長385nmの条件で実施した。また、UV硬化型インクは、T&K TOKA社製の「UV IJインク」を使用した。インクジェット印刷時の条件(印刷密度、液滴の体積)は表1及び表2に示すとおりであり、専用のソフトを使用して印刷時の印刷密度や液滴の体積を設定した。
【0040】
工程<3>
UV硬化型インクを使用してインクジェット印刷によりマークを形成した。
インクジェット印刷時の条件(印刷密度、液滴の体積)は表1及び表2に示すとおりである。
UV硬化型インク及びUV硬化時の条件は、上記工程<2>で使用したUV硬化型インクと同じである。
【0041】
上記の工程<3>を行った後に、ボール表面全体に対して、エアースプレーガンにより2液硬化型のポリウレタン塗料組成物を塗装し、厚み15μmの塗料層を形成したゴルフボールを作製した。
【0042】
得られた各ゴルフボールにつき、下記の評価を行った。その結果を表1及び表2に示した。
【0043】
精細性(滲み)
塗装後のマークの精細性を下記の評点で判定した。判定者5人の平均値を表1及び表2に示す。
5点:滲みが全くない。
3点:滲むがわずかに見られる。
1点:滲みがはっきりと見える。
【0044】
耐久性
砂または砂水を用いて、摩耗試験後のマークの外観を評価した。外径210mmのポットミルに5mm前後の大きさの砂を約4kg及び水を投入し、次いで該ポットミルに15個のボールを投入した。そして、ボールミルを50~60rpmの回転数で120分間、撹拌した。その後、ポットミルからボールを取り出し、マークの外観を下記の評点で評価した。判定者5人の平均値を表1及び表2に示す。
5点:マークの剥離・欠けが全くない。
3点:マークの剥離または欠けがわずかに見られるが許容できるレベルである。
1点:マークの剥離・欠けが目立つ。
【0045】
【0046】
表1に示すように、ウレタン樹脂製のカバー表面にマークを形成する態様に関して、実施例1~7と比較例1~3とは耐久性はほぼ同程度であるが、マークの精細性の評点は実施例1~7の方が高いことが分かる。
【0047】
【0048】
表2に示すように、アイオノマー樹脂製のカバー表面にマークを形成する態様に関して、実施例8~12は比較例4~6に対して、マークの精細性及び耐久性の評点が十分に高いことが分かる。