(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055343
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】排気浄化触媒の劣化診断方法及び排気浄化触媒の劣化診断装置
(51)【国際特許分類】
F01N 11/00 20060101AFI20240411BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20240411BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20240411BHJP
F01N 3/22 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
F01N11/00
F02D45/00 368F
F01N3/08 H
F01N3/22 321S
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162182
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】澤田 有花
(72)【発明者】
【氏名】糸山 浩之
【テーマコード(参考)】
3G091
3G384
【Fターム(参考)】
3G091AA17
3G091AB03
3G091BA14
3G091BA33
3G091DB10
3G091EA34
3G091FB09
3G091HA36
3G091HA37
3G384AA01
3G384BA31
3G384DA43
3G384ED07
3G384FA39
3G384FA43
(57)【要約】
【課題】触媒劣化診断を精度良く実施する。
【解決手段】排気空燃比に応じて三元触媒15の下流側における排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度の閾値である規定値Aを設定する。排気空燃比が理論空燃比よりもリッチとなる状態にあるときにアンモニアセンサ20で検出された排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度の瞬時値が規定値A以下になった場合、及び排気空燃比が理論空燃比よりもリーンとなる状態にあるときにアンモニアセンサ20で検出された排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度の瞬時値が規定値A以上になった場合に、三元触媒15が劣化していると診断する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路における排気浄化触媒の下流側に、排気ガス中のNOx濃度とアンモニア濃度に感度を有するアンモニアセンサを備え、このアンモニアセンサの検出信号を用いて上記排気浄化触媒の劣化診断を行う排気浄化触媒の劣化診断方法において、
上記排気浄化触媒の下流側もしくは上記排気浄化触媒内における排気空燃比に応じて上記排気浄化触媒の下流側における排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度の閾値を設定し、
上記排気空燃比が理論空燃比よりもリッチとなる状態にあるときに上記アンモニアセンサで検出された排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度が上記閾値以下になった場合、及び上記排気空燃比が理論空燃比よりもリーンとなる状態にあるときに上記アンモニアセンサで検出された排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度が上記閾値以上になった場合に、上記排気浄化触媒が劣化していると診断する、排気浄化触媒の劣化診断方法。
【請求項2】
上記排気空燃比が理論空燃比となる状態にあるときに上記アンモニアセンサで検出された排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度が上記閾値以上になった場合に、上記排気浄化触媒が劣化していると診断する、請求項1に記載の排気浄化触媒の劣化診断方法。
【請求項3】
上記排気空燃比が理論空燃比よりもリッチとなる状態とは、上記排気空燃比が理論空燃比より小さい所定の第1空燃比よりも小さくなる状態であり、
上記排気空燃比が理論空燃比よりもリーンとなる状態とは、上記排気空燃比が理論空燃比より大きい所定の第2空燃比よりも大きくなる状態であり、
上記排気空燃比が上記第1空燃比以上で上記第2空燃比以下となる状態にあるときに上記アンモニアセンサで検出された排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度が上記閾値以上になった場合に、上記排気浄化触媒が劣化していると診断する請求項2に記載の排気浄化触媒の劣化診断方法。
【請求項4】
上記閾値は、上記排気空燃比が理論空燃比よりもリッチとなる状態では、上記排気空燃比が小さくなるほど大きくなり、上記排気空燃比が理論空燃比よりもリーンとなる状態では、上記排気空燃比が大きくなるほど大きくなる請求項1に記載の排気浄化触媒の劣化診断方法。
【請求項5】
上記アンモニアセンサで検出された排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度は、瞬時値もしくは瞬時値の移動平均である請求項1に記載の排気浄化触媒の劣化診断方法。
【請求項6】
上記閾値は、上記排気浄化触媒の出口における排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度に影響を与える要因を考慮して補正する請求項1に記載の排気浄化触媒の劣化診断方法。
【請求項7】
内燃機関の排気通路に設けられた排気浄化触媒と、
上記排気浄化触媒の下流側に設けられ、排気ガス中のNOx濃度とアンモニア濃度に感度を有するアンモニアセンサと、
上記排気浄化触媒の下流側もしくは上記排気浄化触媒内における排気空燃比に応じて上記排気浄化触媒の下流側における排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度の閾値を設定する閾値設定部と、
上記排気空燃比が理論空燃比よりもリッチとなる状態にあるときに上記アンモニアセンサで検出された排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度が上記閾値以下になった場合、及び上記排気空燃比が理論空燃比よりもリーンとなる状態にあるときに上記アンモニアセンサで検出された排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度が上記閾値以上になった場合に、上記排気浄化触媒が劣化していると診断する診断部と、を有する排気浄化触媒の劣化診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気浄化触媒の劣化診断方法及び排気浄化触媒の劣化診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、三元触媒の下流側における排ガス中のNOxの濃度をNOx検出手段で測定し、測定されたNOx濃度を用いて三元触媒の劣化診断を行う技術が開示されている。
【0003】
特許文献1においては、内燃機関がリーン運転状態からリッチ運転状態に移行した後、再びリーン運転状態とされるまでの間に検出されるNOx濃度に基づいて、三元触媒の貴金属成分であるPd及びRhのNOx還元能にかかる劣化の度合いを診断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、NOxの濃度を検出するセンサは、一般的にアンモニアに対しても感度をもっている。従って、特許文献1におけるNOx検出手段で検出されたNOx濃度は、アンモニアを含んだ濃度と考えられる。
【0006】
つまり、特許文献1においては、排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分とを合わせた濃度を排気ガス中のNOx濃度として三元触媒の劣化診断に用いてしまうことになる。そのため、特許文献1における触媒劣化診断は、診断に用いる排気ガス中のNOx濃度の値の精度が悪くなる場合があり、触媒劣化診断を精度良く実施できない虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の排気浄化触媒の触媒劣化診断は、内燃機関の排気通路における排気浄化触媒の下流側に、排気ガス中のNOx濃度とアンモニア濃度に感度を有するアンモニアセンサを備えて診断するものであって、上記排気浄化触媒の下流側もしくは上記排気浄化触媒内における排気空燃比に応じて上記排気浄化触媒の下流側における排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度の閾値を設定し、上記排気空燃比が理論空燃比よりもリッチとなる状態にあるときに上記アンモニアセンサで検出された排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度が上記閾値以下になった場合、及び上記排気空燃比が理論空燃比よりもリーンとなる状態にあるときに上記アンモニアセンサで検出された排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度が上記閾値以上になった場合に、上記排気浄化触媒が劣化していると診断する。
【0008】
排気浄化触媒の内部が理論空燃比よりもリッチな環境下では、触媒反応により排気ガス中のNOx及び水素によってアンモニアが生成され、さらに生成されたアンモニアの一部が酸化反応により窒素等になり、残ったアンモニアが排気浄化触媒の下流側へと流出する。従って、排気浄化触媒が劣化している場合には、排気浄化触媒の内部が理論空燃比よりもリッチな環境下になっても十分な触媒反応が起こらず、排気浄化触媒の下流側へと流出するアンモニアの量も少なくなる。
【0009】
また、排気浄化触媒の内部が理論空燃比よりもリッチな環境下では、排気浄化触媒の酸素ストレージ能力が劣化していなければ、排気ガス中のNOxは、排気浄化触媒で還元されるため、排気ガス中のNOxが排気浄化触媒の下流側へ流出しにくくなる。
【0010】
一方、排気浄化触媒の内部が理論空燃比よりもリーンな環境下では、排気ガス中のNOxは、排気浄化触媒で還元されず排気浄化触媒の下流側へ流出しやすくなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、排気浄化触媒の排気空燃比に応じたNOx及びアンモニアに関する特性と、NOx濃度とアンモニア濃度に感度を有するアンモニアセンサの特性と、を利用することで、排気浄化触媒の触媒劣化診断を精度良く実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明が適用される内燃機関の概略構成を模式的に示した説明図。
【
図2】本発明の触媒劣化診断の概要を模式的に示した説明図。
【
図3】本発明に係る触媒劣化診断の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、この発明が適用される一実施例の内燃機関1の概略的な構成を示した説明図である。
【0014】
内燃機関1は、4ストロークサイクルの火花点火式内燃機関(いわゆるガソリン機関)であって、各気筒に、吸気弁2ならびに排気弁3及び点火プラグ4を備えている。また図示例は、筒内直接噴射式機関として構成されており、筒内に向けて燃料を噴射する燃料噴射弁5が、例えば吸気弁2側に配置されている。なお、内燃機関1は、吸気ポート6へ向けて燃料を噴射するポート噴射型の構成であってもよい。
【0015】
各気筒の吸気ポート6に接続された吸気通路7のコレクタ部8上流側には、エンジンコントローラ9からの制御信号によって開度が制御される電子制御型スロットルバルブ10が設けられている。吸気通路7のスロットルバルブ10の上流側には、吸入空気量を検出するエアフロメータ11が配置されている。吸気通路7のエアフロメータ11の上流側には、エアクリーナ12が配置されている。
【0016】
各気筒の排気ポート13は、1本の排気通路14として集合し、この排気通路14に、排気浄化のための排気浄化触媒としての三元触媒15が設けられている。三元触媒15は、例えば、微細な通路が形成されたモノリスセラミックス体の表面に触媒金属(貴金属)を含む触媒層をコーティングした、いわゆるモノリスセラミックス触媒である。なお、三元触媒15は、直列に配置された下流側の触媒(いわゆる、床下触媒)をさらに含む構成であってもよい。
【0017】
排気通路14の三元触媒15の入口側つまり三元触媒15よりも上流側の位置には、内燃機関1が排出する排気ガスの空燃比(換言すれば三元触媒15に流入する排気ガスの空燃比)を検出するための上流側空燃比センサ19が配置されている。この上流側空燃比センサ19は、排気空燃比に応じた出力が得られるいわゆる広域空燃比センサである。
【0018】
また、排気通路14の三元触媒15の出口側ないし下流側に、三元触媒15から流出する排気ガス中のアンモニア濃度に感度を有するアンモニアセンサ20が配置されている。一実施例のアンモニアセンサ20は、排気ガス中のNOxの検出が可能ないわゆるNOxセンサと呼ばれる形式のセンサである。つまり、アンモニア濃度及びNOx濃度の双方に感度を有し、両者が1つの検出信号として出力される。また、好ましい一実施例においては、アンモニアセンサ20は、三元触媒15から流出する排気ガスの排気空燃比に応じた出力信号を、アンモニア・NOxの検出信号とは別に出力する構成となっている。つまり、アンモニアセンサ20は、三元触媒15から流出する排気ガスの排気空燃比を検出する下流側空燃比センサとしての機能を有している。この三元触媒15から流出する排気ガスの排気空燃比は、三元触媒15内部の空燃比環境に相当するものとみなされる。 そして、三元触媒15から流出する排気ガスの排気空燃比がリーンであれば、アンモニアセンサ20が出力するアンモニア・NOx検出信号はNOx濃度を示すものとみなされ、三元触媒15から流出する排気ガスの排気空燃比がリッチであれば、アンモニアセンサ20が出力するアンモニア・NOx検出信号はアンモニア濃度を示すものとみなされる。
【0019】
なお、排気通路14には、アンモニアセンサ20とは別に独立した下流側空燃比センサを備える構成であってもよい。あるいは、三元触媒15の下流側での排気空燃比の検出を行わずに、三元触媒15に流入する排気ガスの排気空燃比(これは上流側空燃比センサ19によって検出される)に基づいて三元触媒15内部の空燃比環境を推定するようにしてもよい。
【0020】
さらに、三元触媒15は、当該三元触媒15の温度を検出するための触媒温度センサ25を備えている。一実施例においては、触媒温度センサ25は、三元触媒15の担体(モノリスセラミックス体)の温度を検出している。なお、このような担体温度を直接に検出する触媒温度センサ25に代えて、三元触媒15の上流側及び下流側の少なくとも一方に排気ガス温度を検出する排気温度センサを設け、排気ガス温度に基づいて三元触媒15の温度を推定する構成であってもよい。あるいは、内燃機関1から三元触媒15に与えられる投入熱量に基づいて三元触媒15の温度を推定することも可能である。
【0021】
上流側空燃比センサ19、アンモニアセンサ20、触媒温度センサ25、及びエアフロメータ11の検出信号は、エンジンコントローラ9に入力される。エンジンコントローラ9には、さらに、機関回転速度を検出するためのクランク角センサ21、冷却水温を検出する水温センサ22、運転者に操作されるアクセルペダルの踏込量を検出するアクセル開度センサ23、等の多数のセンサ類の検出信号が入力されている。エンジンコントローラ9は、これらの入力信号に基づき、燃料噴射弁5による燃料噴射量及び噴射時期、点火プラグ4による点火時期、スロットルバルブ10の開度、等を最適に制御している。
【0022】
エンジンコントローラ9は、内燃機関1の種々の制御の中の1つとして、三元触媒15による排気浄化性能を最適化するために三元触媒15の酸素ストレージ量を目標酸素ストレージ量(例えば40~60%付近に設定される)に保つための空燃比制御を行う。空燃比制御においては、上流側空燃比センサ19が検出する排気空燃比(以下、これを上流側排気空燃比と呼ぶ)が目標空燃比に沿うように燃料噴射量がフィードバック制御(例えばPID制御等)される。ここで、目標空燃比は、上流側排気空燃比から推定される三元触媒15の酸素ストレージ量が目標酸素ストレージ量に一致するように演算される。従って、基本的には、三元触媒15の酸素ストレージ量は目標酸素ストレージ量付近に維持される。酸素ストレージ量が目標酸素ストレージ量付近にあるときに、三元触媒15内部の空燃比環境は理論空燃比相当となる。これにより、排気ガス中のCOならびにHCの酸化及びNOxの還元が効果的になされる。
【0023】
酸素ストレージ量は、例えば、三元触媒15の上流側に配置された上流側空燃比センサ19の出力信号と排気流量とに基づいて推定可能である。排気流量は、例えばエアフロメータ11の出力信号から推定可能である。
【0024】
ここで、三元触媒15の内部が理論空燃比よりもリッチな環境下では、触媒反応により排気ガス中のNOx及び水素によってアンモニアが生成され、さらに生成されたアンモニアの一部が酸化反応により窒素等になり、残ったアンモニアが三元触媒15の下流側へと流出する。従って、三元触媒15が劣化している場合には、三元触媒15の内部が理論空燃比よりもリッチな環境下になっても十分な触媒反応が起こらず、三元触媒15の下流側へと流出するアンモニアの量も少なくなる。
【0025】
また、三元触媒15の内部が理論空燃比よりもリッチな環境下では、三元触媒15の酸素ストレージ能力が劣化していなければ、排気ガス中のNOxが三元触媒15内で還元されるため、排気ガス中のNOxが三元触媒15の下流側へ流出しにくくなる。
【0026】
一方、三元触媒15の内部が理論空燃比よりもリーンな環境下では、排気ガス中のNOxは、三元触媒15で還元されにくくなり、三元触媒15の下流側へ流出しやすくなる。また、三元触媒15の酸素ストレージ能力(酸素ストレージ量、酸素吸脱着速度)は、三元触媒15の劣化状態に応じて変化する。
【0027】
従って、三元触媒15の内部が理論空燃比よりもリーンな環境下では、三元触媒15の劣化している場合、三元触媒15で処理できるNOxの量が減少することに起因して、三元触媒15の下流側へと流出するNOxの量が増加する。
【0028】
そこで、このような排気空燃比(三元触媒15から流出する排気ガスの排気空燃比)に応じた三元触媒15におけるNOx処理特性及びアンモニア生成特性を利用して三元触媒15の触媒劣化診断を実施する。
【0029】
つまり、
図2に示すように、排気空燃比に応じて三元触媒15の下流側における排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度の閾値である規定値Aを設定し、排気空燃比が理論空燃比よりもリッチとなる状態にあるときにアンモニアセンサ20で検出された排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度の瞬時値が規定値A以下になった場合、及び排気空燃比が理論空燃比よりもリーンとなる状態にあるときにアンモニアセンサ20で検出された排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度の瞬時値が規定値A以上になった場合に、三元触媒15が劣化していると診断する。
【0030】
規定値Aは、アンモニアセンサ20で検出された排気空燃比に応じて設定される。規定値Aは、例えば、排気空燃比をパラメータとして規定値Aを割り付けたマップを予め作成しておき、このマップを用いることで求められる。
【0031】
規定値Aは、排気空燃比が理論空燃比よりもリッチとなる状態では、排気空燃比が小さくなるほど大きくなり、排気空燃比が理論空燃比よりもリーンとなる状態では、排気空燃比が大きくなるほど大きくなるよう設定される。
【0032】
三元触媒15の劣化診断は、エンジンコントローラ9内で行われる。つまり、エンジンコントローラ9は、閾値設定部及び診断部に相当するものである。
【0033】
図2は、三元触媒15の劣化診断の概要を模式的に示した説明図である。
図2に示すように、排気空燃比(三元触媒15から流出する排気ガスの排気空燃比)が理論空燃比よりもリッチとなる状態とは、例えば排気空燃比が理論空燃比より小さい(リッチとなる)所定の第1空燃比(空燃比14.6)よりも小さく(リッチと)なる状態である。なお、第1空燃比の値は、14.6に限定されるものではなく、理論空燃比14.7よりも小さい(リッチとなる)理論空燃比近傍の別に値に設定してもよい。
【0034】
排気空燃比(三元触媒15から流出する排気ガスの排気空燃比)が理論空燃比よりもリッチとなる状態にあるときに、アンモニアセンサ20で検出された排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度の瞬時値が規定値A未満になった場合には、三元触媒15が劣化していると診断する。
【0035】
排気空燃比が第1空燃比よりも小さい状態では、三元触媒15の劣化診断として、三元触媒15の触媒金属(貴金属)の劣化が診断される。
【0036】
排気空燃比が理論空燃比よりもリーンとなる状態とは、例えば排気空燃比が理論空燃比より大きい(リーンとなる)所定の第2空燃比(空燃比14.8)よりも大きく(リーンと)なる状態である。なお、第2空燃比の値は、14.8に限定されるものではなく、理論空燃比14.7よりも大きい(リーンとなる)理論空燃比近傍の別に値に設定してもよい。
【0037】
排気空燃比(三元触媒15から流出する排気ガスの排気空燃比)が理論空燃比よりもリーンとなる状態にあるときに、アンモニアセンサ20で検出された排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度の瞬時値が規定値Aよりも大きく場合には、三元触媒15が劣化していると診断する。
【0038】
排気空燃比が第2空燃比よりも大きい状態では、三元触媒15の劣化診断として、三元触媒15の触媒金属(貴金属)の劣化が診断される。なお、空燃比が第2空燃比よりも大きい状態では、三元触媒15の触媒金属(貴金属)の劣化にともなう三元触媒15の酸素ストレージ能力の劣化も診断されることになる。
【0039】
そして、排気空燃比が第1空燃比以上で第2空燃比以下となるストイキ領域にあるときには、排気空燃比がストイキ状態にあるとして、アンモニアセンサ20で検出された排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度の瞬時値が規定値Aよりも大きい場合に、三元触媒15が劣化していると診断する。
【0040】
つまり、排気空燃比が理論空燃比となる状態にあるときにアンモニアセンサ20で検出された排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度の瞬時値が規定値A以上になった場合には、三元触媒15の性能が劣化していると診断する。
【0041】
排気空燃比が第1空燃比以上で第2空燃比以下となる状態では、三元触媒15の劣化診断として、三元触媒15の触媒金属(貴金属)の劣化や、三元触媒15における酸素の吸脱着性能(吸脱着速度)の劣化が診断される。つまり、排気空燃比が第1空燃比以上で第2空燃比以下となる状態では、三元触媒15の触媒金属(貴金属)の劣化や三元触媒15における酸素の吸脱着性能(吸脱着速度)の劣化を含む三元触媒15の性能診断が行われることになる。
【0042】
図3は、上述した実施例における触媒劣化診断の流れを示すフローチャートである。
【0043】
ステップS1では、アンモニアセンサ20を用いて三元触媒15の下流側の排気空燃比を検出する。
【0044】
ステップS2では、ステップS2で検出された排気空燃比を用いて規定値Aを算出する。
【0045】
ステップS3では、アンモニアセンサ20を用いて、三元触媒15下流側における排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度を検出する。
【0046】
ステップS4では、ステップS1で検出した排気空燃比の値が第1空燃比(14.6)より小さいか否かを判定する。ステップS4において排気空燃比の値が第1空燃比(14.6)より小さい場合には、ステップS5へ進む。ステップS4において排気空燃比の値が第1空燃比(14.6)以上の場合には、ステップS6へ進む。
【0047】
ステップS5では、排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度が規定値Aより小さいか否かを判定する。ステップS5において排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度が規定値Aより小さい場合は、ステップS7へ進む。ステップS5において排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度が規定値A以上の場合は、ステップS1へ進む。
【0048】
ステップS6では、排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度が規定値Aより大きいか否かを判定する。ステップS6において排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度が規定値Aより大きい場合は、ステップS7へ進む。ステップS6において排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度が規定値A以下の場合は、ステップS1へ進む。
【0049】
ステップS7では、三元触媒15が劣化していると診断する。
【0050】
以上説明してきたように、上述した実施例では、アンモニアセンサ20を利用して、三元触媒15の劣化診断を精度良く実施することができる。
【0051】
また、上述した実施例では、内燃機関1の機関回転数が所定回転数以上の状態で内燃機関1への燃料供給を停止するいわゆる燃料カット時以外でも、三元触媒15の劣化診断が可能となる。そのため、このような燃料カットのシーンが少ないハイブリッド車両に内燃機関1が搭載されるような場合であっても、三元触媒15の劣化診断を行う機会を十分に確保できるとともに、三元触媒15の劣化診断の精度を向上させることができる。
【0052】
以上、本発明の具体的な実施例を説明してきたが、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0053】
例えば、三元触媒15の劣化診断を行う際には、アンモニアセンサ20で検出された排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度の移動平均値を用いてもよい。
【0054】
また、三元触媒15の劣化診断を行う際には、アンモニアセンサ20で検出された排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度の瞬時値と移動平均値とを運転状態に応じて使い分けるようにしてもよい。具体的には、内燃機関1の吸入空気量の変動が少ない場合は瞬時値を使用し、内燃機関1の吸入空気量の変動が大きい場合(加減速が激しい場合)は移動平均値を使用するようにしてもよい。
【0055】
また、規定値Aは、三元触媒15の出口における排気ガス中のNOx成分とアンモニア成分を合わせた濃度に影響を与える要因、例えばEGR率や触媒温度等を考慮して補正するようにしてもよい。例えば、規定値Aは、内燃機関1におけるEGR率が大きくなるほど小さくなるよう補正してもよい。ここで、EGR率とは、排気ガスの一部を吸気通路7へEGRガスとして導入する際の吸気側流量に対するEGRガスの比である。また、規定値Aは、例えば、三元触媒15が活性化した状態であれば、触媒温度が低くなるほど大きくなるよう補正してもよい。これらの補正により、三元触媒15の劣化診断の精度は、一層向上させることができる。
【0056】
上述した実施例は、排気浄化触媒の劣化診断方法及び排気浄化触媒の劣化診断装置に関するものである。
【符号の説明】
【0057】
1…内燃機関
9…エンジンコントローラ
10…スロットルバルブ
11…エアフロメータ
14…排気通路
15…三元触媒
19…上流側空燃比センサ
20…アンモニアセンサ
25…触媒温度センサ