(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055388
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】保護ウィンドウ汚れ評価方法、レーザ加工装置、及びその制御装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/00 20140101AFI20240411BHJP
B23K 26/064 20140101ALI20240411BHJP
【FI】
B23K26/00 M
B23K26/064 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162265
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】田中 研太
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD07
4E168BA00
4E168CA03
4E168CA05
4E168CB04
4E168CB08
4E168DA02
4E168DA28
4E168DA43
4E168EA15
4E168EA17
4E168EA24
4E168KA15
(57)【要約】
【課題】保護ウィンドウの汚れを感度よく評価することが可能な保護ウィンドウ汚れ評価方法を提供する。
【解決手段】保護ウィンドウを含むレーザ加工ヘッドから、保護ウィンドウを通してビーム終端器にレーザビームを入射させている期間に、保護ウィンドウで散乱された光の強度を反射光センサで測定する。反射光センサで測定された光の強度に基づいて、保護ウィンドウの汚れの程度を評価する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護ウィンドウを含むレーザ加工ヘッドから、前記保護ウィンドウを通してビーム終端器にレーザビームを入射させている期間に、前記保護ウィンドウで散乱された光の強度を反射光センサで測定し、
前記反射光センサで測定された光の強度に基づいて、前記保護ウィンドウの汚れの程度を評価する保護ウィンドウ汚れ評価方法。
【請求項2】
レーザビームを前記ビーム終端器に入射させる際に、前記ビーム終端器からの反射光の強度が最大になる方向に進む光が、前記保護ウィンドウに入射しないように、前記ビーム終端器にレーザビームを入射させる請求項1に記載の保護ウィンドウ汚れ評価方法。
【請求項3】
レーザビームを出力するレーザ加工ヘッドと、
前記レーザ加工ヘッドから出力されたレーザビームがワークに入射するように、前記レーザ加工ヘッドと前記ワークとの位置関係を変化させる移動機構と
を備えたレーザ加工装置の制御装置であって、
前記レーザ加工ヘッドは、
前記レーザ加工ヘッドから出力されるレーザビームが通過する保護ウィンドウと、
前記レーザ加工ヘッドから前記保護ウィンドウを通って前記ワークに入射し、前記ワークから反射し、前記保護ウィンドウを通って前記レーザ加工ヘッドの内部に戻った光の強度を測定する反射光センサと
を有しており、
前記移動機構を制御して、前記レーザ加工ヘッドから出力したレーザビームをビーム終端器に入射させる機能と、
前記レーザ加工ヘッドから出力したレーザビームを前記ビーム終端器に入射させている期間に、前記反射光センサで光の強度を測定する機能と、
前記反射光センサで測定された光の強度に基づいて、前記保護ウィンドウの汚れの程度を評価する機能と
を備えた制御装置。
【請求項4】
前記ビーム終端器は、レーザビームが入射する表面を有するビームダンパであり、
前記レーザ加工ヘッドから出力したレーザビームを前記ビーム終端器に入射させる際に、前記ビームダンパに斜め入射させる請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
レーザビームを出力するレーザ加工ヘッドと、
前記レーザ加工ヘッドから出力されたレーザビームがワークに入射するように、前記レーザ加工ヘッドと前記ワークとの位置関係を変化させる移動機構と、
前記移動機構を動作させることによって、前記レーザ加工ヘッドから出力されたレーザビームを入射させることができる位置に配置されたビーム終端器と、
前記レーザ加工ヘッドからのレーザビームの出力の制御、及び前記移動機構の制御を行う制御装置と
を備え、
前記レーザ加工ヘッドは、
前記レーザ加工ヘッドから出力されるレーザビームが通過する保護ウィンドウと、
前記レーザ加工ヘッドから前記保護ウィンドウを通って前記ワークに入射し、前記ワークから反射し、前記保護ウィンドウを通って前記レーザ加工ヘッドの内部に戻った光の強度を測定する反射光センサと
を有しており、
前記制御装置は、
前記移動機構を制御して、前記レーザ加工ヘッドから出力したレーザビームを前記ビーム終端器に入射させる機能と、
前記レーザ加工ヘッドから出力したレーザビームを前記ビーム終端器に入射させている期間に、前記反射光センサで光の強度を測定する機能と、
前記反射光センサで測定された光の強度に基づいて、前記保護ウィンドウの汚れの程度を評価する機能と
を有するレーザ加工装置。
【請求項6】
前記ビーム終端器は、レーザビームが入射する表面を有するビームダンパであり、
前記制御装置は、前記レーザ加工ヘッドから出力したレーザビームを前記ビーム終端器に入射させる際に、前記ビームダンパに斜め入射させる請求項5に記載のレーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護ウィンドウ汚れ評価方法、レーザ加工装置、及びその制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高出力のレーザビームをワークに入射させてレーザ加工を行うと、被加工箇所でスパッタが発生し、周囲に飛散する。レーザビームを出力するレーザ加工ヘッドには、飛散したスパッタからレンズ等の光学部品を保護するための保護ウィンドウ(保護ガラス)が取り付けられている。保護ウィンドウがスパッタ等で汚れたら、新しいものに交換する必要がある。保護ウィンドウのコスト、及び交換作業の手間を減らすために、使用可能な限界まで保護ウィンドウを使用することが好ましい。保護ウィンドウが使用可能な限界に達したか否かを判定するために、保護ウィンドウの汚れの程度を高精度に評価する技術が望まれる。
【0003】
保護ウィンドウを透過したレーザビームの強度を、出力測定手段で測定し、測定結果に基づいて保護ウィンドウの汚れの程度を評価する方法が特許文献1に開示されている。この方法では、レーザ光源から所定のレーザパワーでレーザビームを出力し、出力測定手段による測定値から、保護ウィンドウの透過率を計算する。求められた透過率から、保護ウィンドウの汚れの程度を求める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レーザ発振器の出力は、通常±2%程度の範囲で変動する。さらに、測定器の誤差等を考慮すると、保護ウィンドウの透過率の測定値には、±3%程度の誤差が含まれると考えられる。保護ウィンドウの透過率の低下を検出するには、測定値に含まれる誤差に比べて十分大きな低下量である必要がある。ところが、スパッタの付着に起因する透過率の低下量は、透過率の測定値に含まれる誤差に比べて十分大きいとはいえない。
【0006】
本発明の目的は、保護ウィンドウの汚れを感度よく評価することが可能な保護ウィンドウ汚れ評価方法を提供することである。本発明の他の目的は、この保護ウィンドウ汚れ評価方法により汚れを評価することができるレーザ加工装置及びその制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によると、
保護ウィンドウを含むレーザ加工ヘッドから、前記保護ウィンドウを通してビーム終端器にレーザビームを入射させている期間に、前記保護ウィンドウで散乱された光の強度を反射光センサで測定し、
前記反射光センサで測定された光の強度に基づいて、前記保護ウィンドウの汚れの程度を評価する保護ウィンドウ汚れ評価方法が提供される。
【0008】
本発明の他の観点によると、
レーザビームを出力するレーザ加工ヘッドと、
前記レーザ加工ヘッドから出力されたレーザビームがワークに入射するように、前記レーザ加工ヘッドと前記ワークとの位置関係を変化させる移動機構と
を備えたレーザ加工装置の制御装置であって、
前記レーザ加工ヘッドは、
前記レーザ加工ヘッドから出力されるレーザビームが通過する保護ウィンドウと、
前記レーザ加工ヘッドから前記保護ウィンドウを通って前記ワークに入射し、前記ワークから反射し、前記保護ウィンドウを通って前記レーザ加工ヘッドの内部に戻った光の強度を測定する反射光センサと
を有しており、
前記移動機構を制御して、前記レーザ加工ヘッドから出力したレーザビームをビーム終端器に入射させる機能と、
前記レーザ加工ヘッドから出力したレーザビームを前記ビーム終端器に入射させている期間に、前記反射光センサで光の強度を測定する機能と、
前記反射光センサで測定された光の強度に基づいて、前記保護ウィンドウの汚れの程度を評価する機能と
を備えた制御装置が提供される。
【0009】
本発明のさらに他の観点によると、
レーザビームを出力するレーザ加工ヘッドと、
前記レーザ加工ヘッドから出力されたレーザビームがワークに入射するように、前記レーザ加工ヘッドと前記ワークとの位置関係を変化させる移動機構と、
前記移動機構を動作させることによって、前記レーザ加工ヘッドから出力されたレーザビームを入射させることができる位置に配置されたビーム終端器と、
前記レーザ加工ヘッドからのレーザビームの出力の制御、及び前記移動機構の制御を行う制御装置と
を備え、
前記レーザ加工ヘッドは、
前記レーザ加工ヘッドから出力されるレーザビームが通過する保護ウィンドウと、
前記レーザ加工ヘッドから前記保護ウィンドウを通って前記ワークに入射し、前記ワークから反射し、前記保護ウィンドウを通って前記レーザ加工ヘッドの内部に戻った光の強度を測定する反射光センサと
を有しており、
前記制御装置は、
前記移動機構を制御して、前記レーザ加工ヘッドから出力したレーザビームを前記ビーム終端器に入射させる機能と、
前記レーザ加工ヘッドから出力したレーザビームを前記ビーム終端器に入射させている期間に、前記反射光センサで光の強度を測定する機能と、
前記反射光センサで測定された光の強度に基づいて、前記保護ウィンドウの汚れの程度を評価する機能と
を有するレーザ加工装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
保護ウィンドウの汚れの程度が大きいと、汚れに起因する散乱光が反射光センサに入射する。レーザビームをビーム終端器に入射させている状態では、ビーム終端器からの反射光の強度は十分小さい。このため、ビーム終端器からの反射光の影響をほぼ受けることなく、保護ウィンドウの汚れに起因する反射光の強度の変化を高感度に測定することができる。これにより、保護ウィンドウの汚れの程度を評価することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、一実施例によるレーザ加工装置の斜視図である。
【
図2】
図2は、レーザ加工ヘッドの概略断面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示した実施例によるレーザ加工装置を用いてレーザ加工を行う手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、レーザ加工ヘッドから出力されたレーザビームがビーム終端器に入射しているときのレーザ加工ヘッド及びビーム終端器の位置関係を示す概略断面図である。
【
図5】
図5A及び
図5Bは、反射光センサの出力レベルの時間変化の一例を示すグラフである
【
図6】
図6は、上記実施例の変形例によるレーザ加工ヘッドの斜視図である。
【
図7】
図7は、他の実施例によるレーザ加工装置の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1~
図5Bを参照して、一実施例によるレーザ加工装置について説明する。
図1は、本実施例によるレーザ加工装置の斜視図である。多関節ロボット10のアームの先端に、直動機構11を介してレーザ加工ヘッド12が支持されている。多関節ロボット10には、例えば6軸ロボットが用いられる。多関節ロボット10は、レーザ加工ヘッド12を移動させる移動機構ということができる。
【0013】
レーザ発振器60から出力された加工用のレーザビームが、レーザ伝送ファイバ61を経由してレーザ加工ヘッド12まで伝送される。レーザ発振器60として、例えば波長約1070nmのパルスレーザビームを出力するファイバレーザ発振器が用いられる。レーザ加工ヘッド12まで伝送された加工用のレーザビームは、レーザ加工ヘッド12の先端から出力される。直動機構11は、相互に直交する3軸の並進自由度を持ち、レーザ加工ヘッド12の位置を微調整する。多関節ロボット10、直動機構11、レーザ発振器60は、制御装置30によって制御される。
【0014】
多関節ロボット10の可動範囲内に、ワーク40及びビーム終端器50が配置されている。レーザ加工ヘッド12から出力されるレーザビームにより、ワーク40に対して切断、溶接等の加工が行われる。レーザ加工ヘッド12から出力されたレーザビームをビーム終端器50に入射させることにより、レーザビームを終端することができる。ビーム終端器50は、ビームダンパ、ビームトラップ、ビームディフューザ、ビームポケット等と呼ばれる場合もある。
【0015】
図2は、レーザ加工ヘッド12の概略断面図である。レーザ伝送ファイバ61を伝送されて出力端から出力されたれたレーザビームが、分岐光学素子14に入射する。分岐光学素子14は、レーザビームの波長域における反射率が95%以上のミラーであり、レーザ伝送ファイバ61から出力されたレーザビームの大部分を、コリメートレンズ15に向けて反射する。その他の波長域においては、大部分の光を透過させる。コリメートレンズ15でコリメートされたレーザビームが加工レンズ16で収束ビームにされる。
【0016】
加工レンズ16で収束されたレーザビームが、保護ウィンドウ17を透過してレーザ加工ヘッド12の外部に出力される。保護ウィンドウ17は、例えば加工用のレーザビームの波長域及び可視光の波長域で透明な平板ガラスである。レーザ加工ヘッド12から出力されたレーザビームがワーク40に入射する。レーザ加工を行う際には、加工レンズ16の焦点位置にワーク40の表面が位置するように、ワーク40とレーザ加工ヘッド12との位置関係が調整される。
【0017】
ワーク40で反射した反射光が、保護ウィンドウ17を通ってレーザ加工ヘッド12内に入射する。レーザ加工ヘッド12内に入射した反射光は、加工レンズ16でコリメートされる。ここで、「反射光」は、レーザビームがワーク40の表面で乱反射した拡散反射光を意味する。加工レンズ16でコリメートされた反射光が、コリメートレンズ15で収束ビームになり、分岐光学素子14で反射される経路と、分岐光学素子14を透過する経路とに分岐される。分岐光学素子14を透過した反射光が、レンズ22によりコリメートされる。
【0018】
レンズ22でコリメートされた反射光は、ダイクロイックミラー26で反射され、集光レンズ23により集光されたのち、反射光センサ31に入射する。反射光センサ31は、保護ウィンドウ17を透過してレーザ加工ヘッド12内に入射した反射光の強度を測定する。
【0019】
ワーク40へのレーザビームの入射による切断または溶接の過程でプラズマ光が発生する。このプラズマ光も、保護ウィンドウ17を透過してレーザ加工ヘッド12内に入射する。レーザ加工ヘッド12内に入射したプラズマ光は、加工レンズ16、コリメートレンズ15、分岐光学素子14、レンズ22を透過して、ダイクロイックミラー26に入射する。ダイクロイックミラー26は、加工用のレーザビームの波長域の光を反射し、プラズマ光の主成分である波長約660nmの光、及び他の可視光の波長域の光、例えば波長400nm~550nmの光を透過させる。
【0020】
ダイクロイックミラー26を透過したプラズマ光は、ダイクロイックミラー27で反射され、集光レンズ24で集光されてプラズマ光センサ32に入射する。ダイクロイックミラー27は、プラズマ光の主成分である波長約660nmの光を反射し、他の可視光の波長域の光、例えば波長400nm~550nmの光を透過させる。プラズマ光センサ32は、加工用のレーザビームの入射によってワーク40の表面で発生したプラズマ光の強度を測定する。
【0021】
ワーク40の表面で反射した可視光が、保護ウィンドウ17、加工レンズ16、分岐光学素子14、レンズ22、ダイクロイックミラー26、27、及び集光レンズ25を透過して二次元イメージセンサ33に入射する。二次元イメージセンサ33は、ワーク40の表面の二次元画像データを生成する。
【0022】
反射光センサ31、プラズマ光センサ32、及び二次元イメージセンサ33の測定結果が制御装置30に入力される。
【0023】
制御装置30は、反射光センサ31による反射光強度の測定結果に基づいて、溶接欠陥の有無を判定する。例えば、反射光の強度が所定の許容範囲から外れた場合に、溶接欠陥が発生したと判定する。さらに、反射光の強度の時間波形に対してローパスフィルタを適用して高周波成分を除去し、高周波成分を除去した波形を微分し、この微分波形の値が所定の許容範囲から外れた場合に、溶接欠陥が発生したと判定する。
【0024】
プラズマ光センサ32によるプラズマ光の強度の測定結果についても同様の処理を行い、反射光に代えてプラズマ光を用いて、または反射光とプラズマ光とを併用して、溶接欠陥の発生の有無を判定するようにしてもよい。さらに、二次元イメージセンサ33で取得された二次元画像データを画像解析することによって、溶接欠陥の発生の有無を判定するようにしてもよい。
【0025】
図3は、本実施例によるレーザ加工装置を用いてレーザ加工を行う手順を示すフローチャートである。まず、制御装置30が多関節ロボット10を制御して、レーザ加工ヘッド12から出力されたレーザビームがビーム終端器50(
図1)に入射するようにレーザ加工ヘッド12の位置及び姿勢を調整する(ステップS1)。この状態で、制御装置30はレーザ発振器60(
図1、
図2)を制御してレーザビームを出力させる(ステップS2)。
【0026】
レーザビームがビーム終端器50に入射している期間に、反射光センサ31で受光した光の強度を測定する(ステップS3)。
【0027】
図4は、レーザ加工ヘッド12から出力されたレーザビームがビーム終端器50に入射しているときのレーザ加工ヘッド12及びビーム終端器50の位置関係を示す概略断面図である。ビーム終端器50からの反射光の強度が最大になる方向51に進む反射光が保護ウィンドウ17に入射しないように、ビーム終端器50とレーザ加工ヘッド12との位置関係が調整される。
【0028】
保護ウィンドウ17にスパッタ55等が付着している場合は、レーザビームがスパッタ55等によって散乱され、散乱された光の一部が反射光センサ31に入射する。
【0029】
制御装置30(
図1、
図2)は、反射光センサ31による光の強度の測定値が許容範囲内か否かを判定する(ステップS4)。例えば、反射光センサ31による光の強度の測定値の許容上限値が予め決められている。光の強度の測定値が許容範囲内である場合、実際のレーザ加工を実行する(ステップS5)。光の測定値が許容範囲外である場合、制御装置30は、保護ウィンドウ17を交換するようにオペレータに通知する(ステップS6)。
【0030】
ステップS1からステップS3までの手順は、例えば、加工済のワーク40を、未加工のワーク40に交換する期間に実行するとよい。または、一定の期間、例えば1日または1週間が経過するごとに実行するようにしてもよい。
【0031】
次に、
図5A及び
図5Bを参照して、本実施例の優れた効果について説明する。
図5A及び
図5Bは、反射光センサ31の出力レベルの時間変化の一例を示すグラフである。横軸は経過時間を単位[s]で表し、縦軸は反射光センサ31の出力レベルを単位[V]で表す。反射光センサ31の出力レベルは、反射光センサ31に入射する光の強度にほぼ比例する。
図5Bは
図5Aの縦軸のスケールを拡大したものである。
【0032】
図5Aに示した波形aは、実際にワーク40を加工しているとき(
図2)の反射光センサ31の出力レベルを示す。
図5A及び
図5Bに示した波形b及びcは、レーザビームをビーム終端器50に入射させているとき(
図4)の反射光センサの出力レベルを示す。波形bは、保護ウィンドウ17にほとんどスパッタが付着していない状態のときに測定されたものであり、波形cは、保護ウィンドウ17にある程度のスパッタ55(
図4)が付着している状態のときに測定されたものである。
【0033】
図5Aに示した波形aにおいて、出力レベルが瞬間的に4Vを超えている時間帯は、溶接不良が発生していると考えられる。正常に溶接が行われている期間にも、2V~2.5V程度の出力レベルが観測される。これは、ワーク40(
図2)からある程度の強度の反射光が保護ウィンドウ17を通過してレーザ加工ヘッド12に戻って来ているためである。
【0034】
レーザビームをビーム終端器50(
図4)に入射させている状態では、ビーム終端器50からの反射光がほとんど無いため、
図5A及び
図5Bにおいて波形bで示すように、反射光センサ31の出力レベルは非常に低く、0.2V以下である。保護ウィンドウ17にある程度のスパッタ55が付着している場合には、波形cで示すように、反射光センサ31の出力レベルは0.4V~0.45V程度まで上昇する。反射光センサ31の出力レベルが上昇するのは、保護ウィンドウ17に付着したスパッタ55によって散乱された光の一部が反射光センサ31に入射するためである。
【0035】
一例として、保護ウィンドウ17がほぼ清浄であるときの反射光センサ31の出力レベルと、ある程度スパッタ55が付着しているときの反射光センサ31の出力レベルとの差は、0.25V程度である。
図5Aの波形aで示すように、ワーク40(
図2)にレーザビームを入射させ、溶接が正常に行われているときには、反射光センサ31の出力レベルが0.5V程度の振幅で変動している。したがって、加工中の反射光の強度から、スパッタ55の付着の有無による0.25V程度の出力レベルの違いを検出することはできない。
【0036】
上記実施例のように、レーザビームをビーム終端器50に入射させて、反射光の強度を極端に小さくすることにより、スパッタ55の付着に起因する出力レベルの僅かな変化を検出することができる。また、反射光センサ31の出力レベルに応じて、スパッタ55の付着量を推定することも可能である。このため、反射光センサ31の出力レベルから、ステップS4(
図3)において保護ウィンドウ17を交換すべきか否かを精度よく判定することができる。保護ウィンドウ17を交換するか否かを判定する基準となる許容範囲の上限値は、例えば、経験則に基づいて決定するとよい。
【0037】
また、レーザ発振器60の出力レベルが±2%程度変動し得ること、及び反射光センサ31の測定誤差が±1%程度生じ得ることを考慮すると、反射光センサ31の出力レベルが±3%程度変動する。
図5Bに示す波形bと波形cの出力レベルが±3%程度変動しても、充分な感度で保護ウィンドウ17の汚れを検出することができる。
【0038】
判定精度を高めるために、保護ウィンドウ17にスパッタ55が付着していない状態でレーザビームをビーム終端器50に入射させたときの反射光センサ31の出力レベルをなるべく低くすることが好ましい。この好適条件を満たすために、ビーム終端器50からの反射光の強度が最大になる方向51(
図4)に進む光が、保護ウィンドウ17に入射しないように、レーザ加工ヘッド12とビーム終端器50との位置関係を調整することが好ましい。例えば、ビーム終端器50にレーザビームを斜め入射させるとよい。
【0039】
また、上記実施例では、レーザ加工の良否を判定するために用いられる反射光センサ31(
図2)を、保護ウィンドウ17の汚れの程度を評価するために用いている。このため、保護ウィンドウ17の汚れの程度を評価するための専用のセンサを新たに設ける必要がない。
【0040】
次に、
図6を参照して上記実施例の変形例について説明する。
図6は、上記実施例の変形例によるレーザ加工ヘッド12の斜視図である。
図2に示した実施例によるレーザ加工ヘッド12においては、レーザ加工中のレーザビームの経路は保護ウィンドウ17に対して固定されている。これに対して
図6に示したレーザ加工ヘッド12は、ウォブル機能を有している。すなわち、レーザ加工中にレーザビームをウォブリングさせる機能を有する。
【0041】
図6に示した変形例によるレーザ加工ヘッド12は、レーザビームをウォブリングさせるための一対のガルバノミラー18X、18Yを含む。ガルバノミラー18X、18Yは、それぞれガルバノモータ19X、19Yによって揺動される。レーザ伝送ファイバ61を通ってレーザ加工ヘッド12内に導入されたレーザビームは、コリメートレンズ15Aでコリメートされた後、一対のガルバノミラー18X、18Yを経由して分岐光学素子14に入射する。分岐光学素子14で反射したレーザビームが、加工レンズ16及び保護ウィンドウ17を通ってワーク40に入射する。
【0042】
図2に示した実施例では、分岐光学素子14と加工レンズ16との間にコリメートレンズ15が配置されているが、
図6に示した変形例では、コリメートレンズ15に代えて、ガルバノミラー18X、18Yとレーザ伝送ファイバ61の出射端との間に、コリメートレンズ15Aが配置されている。さらに、分岐光学素子14とレンズ22との間に、コリメートレンズ15Bが配置されている。
【0043】
レーザ加工中は、ガルバノミラー18X、18Yを揺動させてレーザビームをウォブリングさせる。レーザビームをビーム終端器50に入射させるときは、ガルバノミラー18X、18Yを揺動させない。したがって、保護ウィンドウ17の面内において、レーザ加工中にレーザビームが通過する範囲と、ビーム終端器50にレーザビームを入射させているときにレーザビームが通過する範囲とは、厳密には一致しない。ただし、保護ウィンドウ17の位置におけるレーザビームのビーム径は、円周に沿ってレーザビームをウォブリングする場合の円周の直径に比べて十分大きい。例えば、ウォブリング加工を行っているときに、保護ウィンドウ17をレーザビームが通過する領域の直径は、レーザビームのビーム断面の直径の高々2%~3%増しである。
【0044】
このため、ビーム終端器50にレーザビームを入射させている期間にレーザビームをウォブリングさせなくても、レーザ加工に用いるレーザビームが通過する保護ウィンドウ17の領域のほぼ全域において、スパッタ55の付着の状態を評価することができる。
【0045】
次に、
図7を参照して他の実施例によるレーザ加工装置について説明する。
図7は、他の実施例によるレーザ加工装置の概略側面図である。
図1に示した実施例では、レーザ加工ヘッド12を多関節ロボット10によって移動させることにより、ワーク40の所望の箇所やビーム終端器50にレーザビームを入射させる。これに対して
図7に示した実施例では、レーザ加工ヘッド12を静止させ、ワーク40及びビーム終端器50を移動させる。
【0046】
図7に示すように、架台70に、XY移動機構71によって可動テーブル72が支持されている。可動テーブル72に、ワーク40及びビーム終端器50が保持される。XY移動機構71を動作させると、可動テーブル72がワーク40及びビーム終端器50とともに水平面内で移動する。
【0047】
架台70に鉛直方向に延びる支柱75が固定されている。レーザ加工ヘッド12が昇降機構76を介して支柱75に昇降可能に支持されている。この状態で、レーザ加工ヘッド12の保護ウィンドウ17が可動テーブル72に対向する。レーザ加工ヘッド12を昇降させることによりレーザビームのビームウエストの高さを調整することができる。可動テーブル72を移動させることにより、ワーク40の所望の位置、及びビーム終端器50にレーザビームを入射させることができる。制御装置30が、XY移動機構71、昇降機構76、及びレーザ発振器60を制御する。
【0048】
図7に示した実施例によるレーザ加工装置においても、レーザ加工ヘッド12から出力したレーザビームをビーム終端器50に入射させ、反射光センサ31(
図4)で光強度を測定することにより、保護ウィンドウ17の汚れの程度を評価することができる。
【0049】
図1に示した実施例のように、ワーク40及びビーム終端器50を静止させ、レーザ加工ヘッド12を多関節ロボット10(移動機構)によって移動させてもよいし、
図7に示した実施例のように、レーザ加工ヘッド12を静止させ、ワーク40及びビーム終端器50をXY移動機構71によって移動させてもよい。
【0050】
各実施例は例示であり、異なる実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。複数の実施例の同様の構成による同様の作用効果については実施例ごとには逐次言及しない。さらに、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0051】
10 多関節ロボット
11 直動機構
12 レーザ加工ヘッド
14 分岐光学素子
15、15A、15B コリメートレンズ
16 加工レンズ
17 保護ウィンドウ
18X、18Y ガルバノミラー
19X、19Y ガルバノモータ
22 レンズ
23、24、25 集光レンズ
26、27 ダイクロイックミラー
30 制御装置
31 反射光センサ
32 プラズマ光センサ
33 二次元イメージセンサ
40 ワーク
50 ビーム終端器
51 ビーム終端器からの反射光の強度が最大になる方向
55 保護ウィンドウに付着したスパッタ
60 レーザ発振器
61 レーザ伝送ファイバ
70 架台
71 XY移動機構
72 可動テーブル
75 支柱
76 昇降機構