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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055395
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/336 20060101AFI20240411BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
H01L29/78 658Z
H01L29/78 658A
H01L29/78 653C
H01L29/78 652J
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162283
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】小島 貴仁
(57)【要約】
【課題】炭化珪素半導体基板の反りを低減または緩和させ、製造装置内での搬送不良やステージチャック不良、パターニング不良等の発生を低減または抑制する。
【解決手段】炭化珪素半導体装置の製造方法は、第1導電型の出発基板のおもて面側に、第1導電型の第1半導体層が設けられた炭化珪素半導体基板30を用意する。第1半導体層内に、第2導電型の第1半導体領域5をイオン注入で形成する。第1半導体領域5を形成後、炭化珪素半導体基板30の反りを戻す処理を行う。第1半導体層内に、第2導電型の第2半導体層3をイオン注入で形成する。第2半導体層3の表面層に、第1導電型の第3半導体層7をイオン注入で形成する。イオン注入で形成した第1半導体領域5、第2半導体層3および第3半導体層7を活性化する。第3半導体層7および第2半導体層3を貫通して第1半導体層に達するトレンチ18を、第1半導体領域4と深さ方向に対向する位置に形成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の出発基板のおもて面側に、前記出発基板より低不純物濃度の第1導電型の第1半導体層が設けられた炭化珪素半導体基板を用意する第1工程と、
前記第1半導体層内に、第2導電型の第1半導体領域をイオン注入で形成する第2工程と、
前記第1半導体領域を形成後、前記炭化珪素半導体基板の反りを戻す処理を行う第3工程と、
前記第1半導体層内に、第2導電型の第2半導体層をイオン注入で形成する第4工程と、
前記第2半導体層の表面層に、第1導電型の第3半導体層をイオン注入で形成する第5工程と、
イオン注入で形成した前記第1半導体領域、前記第2半導体層および前記第3半導体層を活性化する第6工程と、
前記第3半導体層および前記第2半導体層を貫通して前記第1半導体層に達するトレンチを、前記第1半導体領域と深さ方向に対向する位置に形成する第7工程と、
前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成する第8工程と、
前記第3半導体層および前記第2半導体層に接する第1電極を形成する第9工程と、
前記出発基板の裏面に第2電極を形成する第10工程と、
を含むことを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記第5工程より後、前記第7工程より前に、
前記炭化珪素半導体基板の反りを戻す処理を行う第11工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記第2工程では、前記第1半導体層内の前記トレンチ間に、第2導電型の第2半導体領域をイオン注入でさらに形成することを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記反りを戻す処理は、前記炭化珪素半導体基板の裏面に破砕層を形成することを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記破砕層は、前記炭化珪素半導体基板の裏面を研削によって形成することを特徴とする請求項4に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記破砕層は、100nm以上500nm以下の厚みで形成することを特徴とする請求項4に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記反りを戻す処理は、前記炭化珪素半導体基板の反り量を100μm未満まで減少させることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項8】
イオン注入が行われる毎に、前記反りを戻す処理をイオン注入が行われた後に行うことを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭化珪素半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に代わる次世代の半導体材料として期待されている。炭化珪素を半導体材料に用いた半導体素子(以下、炭化珪素半導体装置とする)は、シリコンを半導体材料に用いた従来の半導体素子と比較して、オン状態における素子の抵抗を数百分の1に低減可能であることや、より高温(200℃以上)の環境下で使用可能なこと等、様々な利点がある。これは、炭化珪素のバンドギャップがシリコンに対して3倍程度大きく、シリコンよりも絶縁破壊電界強度が1桁近く大きいという材料自体の特長による。
【0003】
炭化珪素半導体装置としては、現在までに、ショットキーバリアダイオード(SBD:Schottky Barrier Diode)、プレーナゲート構造やトレンチゲート構造の縦型MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:絶縁ゲート型電界効果トランジスタ)が製品化されている。
【0004】
従来の炭化珪素半導体装置の構造について、トレンチ型MOSFETを例に説明する。トレンチ型MOSFETでは、n+型出発基板のおもて面にn+型バッファ層およびn型炭化珪素エピタキシャル層が堆積される。n型炭化珪素エピタキシャル層のn+型出発基板側に対して反対側の表面側は、n型高濃度領域が設けられている。また、n型高濃度領域のn+型出発基板側に対して反対側の表面層には、第1p+型ベース領域が選択的に設けられている。n型高濃度領域には、トレンチの底面全体を覆うように第2p+型ベース領域が選択的に設けられている。
【0005】
また、従来のトレンチ型MOSFETには、さらにp型ベース領域、n+型ソース領域、p++型コンタクト領域、ゲート絶縁膜、ゲート電極、層間絶縁膜、ソース電極、裏面電極、トレンチ、ソース電極パッドおよびドレイン電極パッドが設けられている。ソース電極は、n+型ソース領域、p++型コンタクト領域上に設けられ、ソース電極上にソース電極パッドが設けられている。
【0006】
SiCは、Siに比べ、SiC中の不純物の拡散係数が極めて小さいという問題がある。イオン注入にて不純物層を形成する場合、深さ方向に深く形成することが難しい。このため、トレンチ型MOSFETの様に基板の縦方向に構造を形成する場合に、イオン注入とエピタキシャル成長を組み合わせて不純物層を形成する。
【0007】
従来、トレンチ型MOSFETは、例えば、以下のように不純物層を形成している。まず、n+型出発基板のおもて面にn+型バッファ層およびn型炭化珪素エピタキシャル層を堆積する。次に、n型の不純物をイオン注入することにより、n型高濃度領域を形成する。次に、p型の不純物をイオン注入することにより、第1p+型ベース領域および第2p+型ベース領域を形成する。次に、n型炭化珪素層をエピタキシャル成長させる。次に、p型の不純物をイオン注入することにより、p型ベース領域を形成する。次に、n型の不純物をイオン注入することにより、n+型ソース領域を形成する。次に、p型の不純物をイオン注入することにより、p++型コンタクト領域を形成する。この後、活性化処理をして、トレンチを形成している。このように、イオン注入とエピタキシャル成長を組み合わせて不純物層を形成している。
【0008】
一方で、エピタキシャル成長は基板欠陥を形成してしまい、半導体装置の特性を悪化させてしまう。また、エピタキシャル成長装置はプロセス制御や、装置維持にコストがかかる。そのため、エピタキシャル成長は行わず、通常エネルギーでのイオン注入(~900KeV)に加え、より深い場所へ不純物を注入できる高加速度イオン注入(1MeV以上の加速度)を組み合わせ、イオン注入のみで不純物層を形成する炭化珪素半導体装置の開発も進んでいる。
【0009】
また、炭化珪素半導体素子作製工程に基板薄板化を導入した際、研削面に形成される加工変質層の少なくとも一部を除去することでウェハの反り量を制御し、その後の裏面及び表面の電極形成工程で発生するウェハの反り量を、製造プロセスに影響しない値まで軽減させる炭化珪素半導体素子の製造方法が公知である(下記、特許文献1参照)。
【0010】
また、厚みが50μm以上のSiCエピタキシャル成長層が配設されたSiCエピタキシャル基板に対して、SiCエピタキシャル基板の第2の主面に所定のイオンを注入して、SiCエピタキシャル基板の反りを制御するイオン注入領域を形成する工程を有する炭化珪素半導体素子の製造方法が公知である(下記、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許5550738号公報
【特許文献2】特許6272488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
半導体装置の製造において、イオン注入で不純物層を形成すると、半導体基板が反る問題が発生する。不純物の拡散係数が極めて小さい炭化珪素半導体装置では、高加速度、高濃度でイオンを注入するため、特に影響が大きく、数百μm以上の反りが発生してしまう場合がある。従来は、イオン注入と、エピタキシャル成長を組み合わせて半導体装置を製造したため、お互いの反り方向の違いで反りが打ち消しあい、数十μm程度の反りで収まっていた。しかし、イオン注入のみで不純物層を形成する場合、基板の反りが緩和されない。その場合、製造装置内での搬送不良やステージチャック不良、パターニング不良等を引き起こすという課題がある。
【0013】
本発明は、炭化珪素半導体基板の反りを低減または緩和させ、製造装置内での搬送不良やステージチャック不良、パターニング不良等の発生を低減または抑制することができる炭化珪素半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、次の特徴を有する。まず、第1導電型の出発基板のおもて面側に、前記出発基板より低不純物濃度の第1導電型の第1半導体層が設けられた炭化珪素半導体基板を用意する第1工程を行う。次に、前記第1半導体層内に、第2導電型の第1半導体領域をイオン注入で形成する第2工程を行う。次に、前記第1半導体領域を形成後、前記炭化珪素半導体基板の反りを戻す処理を行う第3工程を行う。次に、前記第1半導体層内に、第2導電型の第2半導体層をイオン注入で形成する第4工程を行う。次に、前記第2半導体層の表面層に、第1導電型の第3半導体層をイオン注入で形成する第5工程を行う。次に、イオン注入で形成した前記第1半導体領域、前記第2半導体層および前記第3半導体層を活性化する第6工程を行う。次に、前記第3半導体層および前記第2半導体層を貫通して前記第1半導体層に達するトレンチを、前記第1半導体領域と深さ方向に対向する位置に形成する第7工程を行う。次に、前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成する第8工程を行う。次に、前記第3半導体層および前記第2半導体層に接する第1電極を形成する第9工程を行う。次に、前記出発基板の裏面に第2電極を形成する第10工程を行う。
【0015】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第5工程より後、前記第7工程より前に、前記炭化珪素半導体基板の反りを戻す処理を行う第11工程をさらに含むことを特徴とする。
【0016】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第2工程では、前記第1半導体層内の前記トレンチ間に、第2導電型の第2半導体領域をイオン注入でさらに形成することを特徴とする。
【0017】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記反りを戻す処理は、前記炭化珪素半導体基板の裏面に破砕層を形成することを特徴とする。
【0018】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記破砕層は、前記炭化珪素半導体基板の裏面を研削によって形成することを特徴とする。
【0019】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記破砕層は、100nm以上500nm以下の厚みで形成することを特徴とする。
【0020】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記反りを戻す処理は、前記炭化珪素半導体基板の反り量を100μm未満まで減少させることを特徴とする。
【0021】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、イオン注入が行われる毎に、前記反りを戻す処理をイオン注入が行われた後に行うことを特徴とする。
【0022】
上述した発明によれば、炭化珪素半導体基板の第2主面の研削によって、破砕層を形成する。これにより、イオン注入により発生した炭化珪素半導体基板の反り量を減少させ、炭化珪素半導体基板の反り量を減少させることができる。このため、製造装置内での搬送不良やステージチャック不良、パターニング不良等の発生を低減または抑制することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法によれば、炭化珪素半導体基板の反りを低減または緩和させ、製造装置内での搬送不良やステージチャック不良、パターニング不良等の発生を低減または抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構成を示す断面図である。
図2】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法の概要を示すフローチャートである。
図3】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その1)。
図4】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その2)。
図5】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その3)。
図6】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その4)。
図7】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その5)。
図8】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その6)。
図9】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その7)。
図10】破砕層の深さとウェハ反り量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および-は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本明細書では、ミラー指数の表記において、“-”はその直後の指数につくバーを意味しており、指数の前に“-”を付けることで負の指数をあらわしている。そして、同じまたは同等との記載は製造におけるばらつきを考慮して5%以内まで含むとするのがよい。
【0026】
(実施の形態)
本発明にかかる半導体装置は、ワイドバンドギャップ半導体を用いて構成される。実施の形態においては、ワイドバンドギャップ半導体として例えば炭化珪素(SiC)を用いて作製(製造)された炭化珪素半導体装置について、トレンチ型MOSFET50を例に説明する。図1は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。図1では、トレンチ型MOSFET50の主電流が流れる活性領域のみを示している。
【0027】
図1に示すように、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置は、n+型出発基板1の第1主面(おもて面)、例えば(0001)面(Si面)に、n+型バッファ層16と、第1n-型炭化珪素エピタキシャル層2が堆積されている。
【0028】
+型出発基板1は、例えば窒素(N)がドーピングされた炭化珪素単結晶基板である。n+型バッファ層16は、例えば膜厚が1μm以上5μm以下で、窒素が1×1017/cm3以上1×1018/cm3以下の高濃度でドーピングされた高ドーピング層である。n+型バッファ層16は、第1n-型炭化珪素エピタキシャル層2からのホールの再結合を促し、n+型出発基板1に到達するホール濃度を制御して、積層欠陥の発生およびその面積拡大を抑制している。
【0029】
第1n-型炭化珪素エピタキシャル層2は、n+型出発基板1よりも低い不純物濃度で、例えば窒素がドーピングされている低濃度n-型ドリフト層である。第1n-型炭化珪素エピタキシャル層2の、n+型出発基板1側に対して反対側の表面側は、第2n-型炭化珪素層6が形成されている。第2n-型炭化珪素層6は、n+型出発基板1よりも低く第1n-型炭化珪素エピタキシャル層2よりも高い不純物濃度で、例えば窒素がドーピングされている高濃度n型ドリフト層である。以下、n+型出発基板1とn-型炭化珪素エピタキシャル層2と第2n-型炭化珪素層6と後述するp型ベース層3を併せて炭化珪素半導体基体とする。
【0030】
+型出発基板1の第2主面(裏面、すなわち炭化珪素半導体基体の裏面)には、裏面電極(ドレイン電極)が設けられている。裏面電極は、ドレイン電極を構成する。裏面電極の表面には、ドレイン電極パッド14が設けられている。
【0031】
炭化珪素半導体基体の第1主面側(p型ベース層3側)には、トレンチゲート構造が形成されている。具体的には、トレンチ18は、p型ベース層3のn+型出発基板1側に対して反対側の表面からp型ベース層3を貫通して第2n-型炭化珪素層6に達する。トレンチ18の内壁に沿って、トレンチ18の底部および側壁にゲート絶縁膜9が形成されており、トレンチ18内のゲート絶縁膜9の内側にゲート電極10が形成されている。ゲート絶縁膜9によりゲート電極10が、第1n-型炭化珪素エピタキシャル層2、第2n-型炭化珪素層6およびp型ベース層3と絶縁されている。ゲート電極10の一部は、トレンチ18の上方(ソース電極パッド15側)からソース電極パッド15側に突出していてもよい。
【0032】
第1n-型炭化珪素エピタキシャル層2および第2n-型炭化珪素層6の内部には、第1p+型領域4と第2p+型領域5が選択的に設けられている。第1p+型領域4は、トレンチ18の底部よりもドレイン側に深い位置にまで達している。第1p+型領域4の下端部(ドレイン側端部)は、トレンチ18の底部よりもドレイン側に位置する。第1p+型領域4は、トレンチ18間に設けられている。図1に記載のように、第1p+型領域4は、後述するp++型コンタクト領域8と接しているが、p++型コンタクト領域8と接していない形態も可能である。この場合、第1p+型領域4の上面は、第2n-型炭化珪素層6の表面層に設けられ、p型ベース層3の下面に接する。
【0033】
第2p+型領域5の下端部は、トレンチ18の底部よりもドレイン側に位置する。第2p+型領域5は、トレンチ18の底部と深さ方向zに対向する位置に形成される。第2p+型領域5の幅は、トレンチ18の幅よりも広い。トレンチ18の底部は、第2p+型領域5に達してもよいし、p型ベース層3と第2p+型領域5に挟まれた第2n-型炭化珪素層6内に位置し、第2p+型領域5と接触していなくてもよい。第2p+型領域5の上面は、トレンチ18の底部よりもドレイン側でもよいし、ソース側でもよい。第1p+型領域4と第2p+型領域5は、例えばアルミニウム(Al)がドーピングされている。
【0034】
第1p+型領域4の一部をトレンチ18側に延在させることで第2p+型領域5に接続した構造となっている。この場合、第1p+型領域4の一部は、第1p+型領域4と第2p+型領域5とが並ぶ方向(以下、第1方向とする)xと直交する方向(以下、第2方向とする)yに、第2n-型炭化珪素層6と交互に繰り返し配置された平面レイアウトを有していてもよい。つまり、直交する方向yで、第1p+型領域4の一部と第2p+型領域5の一部が少なくとも1か所以上接続されていればよい。これにより、第2p+型領域5と第1n-型炭化珪素エピタキシャル層2の接合部分でアバランシェ降伏が起こったときに発生するホールを効率よくソース電極13に退避させることができ、ゲート絶縁膜9への負担が軽減されるため、信頼性が向上する。
【0035】
第1n-型炭化珪素エピタキシャル層2の基体第1主面側には、p型ベース層3が設けられている。p型ベース層3の不純物濃度は、例えば第1p+型領域4の不純物濃度よりも低くてもよい。これにより、閾値電圧を下げるためにp型ベース層3の濃度を下げても、p型ベース層3の空乏層の広がりを抑えることでパンチスルーによる耐圧低下を回避することができる。p型ベース層3の内部には、基体第1主面側にn+型ソース領域7およびp++型コンタクト領域8が選択的に設けられている。また、n+型ソース領域7およびp++型コンタクト領域8は互いに接する。
【0036】
図1では、2つのトレンチMOS構造のみを図示しているが、さらに多くのトレンチ構造のMOSゲート(金属-酸化膜-半導体からなる絶縁ゲート)構造が並列に配置されていてもよい。
【0037】
層間絶縁膜11は、炭化珪素半導体基体の第1主面側の全面に、トレンチ18に埋め込まれたゲート電極10を覆うように設けられている。ソース電極13は、層間絶縁膜11に開口されたコンタクトホールを介して、n+型ソース領域7およびp++型コンタクト領域8に接する。ソース電極13は、層間絶縁膜11によって、ゲート電極10と電気的に絶縁されている。ソース電極13上には、ソース電極パッド15が設けられている。
【0038】
(実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法)
次に、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法について説明する。図2は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法の概要を示すフローチャートである。図3図9は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である。
【0039】
まず、図3に示すように、n型の炭化珪素でできたn+型出発基板(第1導電型の出発基板)1に、第1n-型炭化珪素エピタキシャル層(第1導電型の第1半導体層)2およびn+型バッファ層16が堆積された炭化珪素半導体基板30を用意する(第1工程)。今回用いたn+型出発基板の直径は150mmである。この炭化珪素半導体基板30を購入してもよいし、n+型出発基板1のみの基板を購入して、エピタキシャル成長でn+型バッファ層16および第1n-型炭化珪素エピタキシャル層2を形成して、上述の炭化珪素半導体基板30としてもよい。この場合、n+型出発基板1の第1主面上に、n型の不純物、例えば窒素原子(N)をドーピングしながら炭化珪素でできたn+型バッファ層16を、エピタキシャル成長させる。次に、n+型バッファ層16上にn型の不純物、例えば窒素原子をドーピングしながら炭化珪素でできた第1n-型炭化珪素エピタキシャル層2を成長させる。
【0040】
次に、第1n-型炭化珪素エピタキシャル層2の表面上に、フォトリソグラフィ技術によって所望の開口部を有する図示しないレジストマスクを形成する。そして、図4に示すように、イオン注入法によってp型の不純物、例えばアルミニウム原子をイオン注入することで、第1n-型炭化珪素エピタキシャル層2内に深さ0.6μm程度の第1p+型領域(第2導電型の第2半導体領域)4、第2p+型領域(第2導電型の第1半導体領域)5を例えば3×1018/cm3の不純物濃度で形成する(ステップS1:第2工程)。
【0041】
次に、炭化珪素半導体基板30の反りを戻す第1反り戻し処理を行う(ステップS2:第3工程)。ステップS1のイオン注入により、炭化珪素半導体基板30はおもて面に凸形状の山型に反り、例えば、約300μmの反りが発生する。第1p+型領域4、第2p+型領域5は、深い領域に形成されるため、高加速度(1MeV以上)のイオン注入を行っている。このため、炭化珪素半導体基板30は山型に反りが大きくなり、炭化珪素半導体基板30の反り量を減少させる反り戻し処理を行う必要がある。反り戻し処理では、例えば、炭化珪素半導体基板30のウェハ反り量を100μm未満まで減少させる。ウェハ反り量とは、炭化珪素半導体基板30の最も高い部分の高さと最も低い部分の高さとの差である。
【0042】
図10は、破砕層の深さとウェハ反り量との関係を示すグラフである。図10において、縦軸は、ウェハ反り量を示し、単位はμmである。横軸は破砕層の深さを示し、単位はnmである。破砕層とは、SiCの結晶性が崩れた層であり、破砕層の深さ(膜厚)は、炭化珪素半導体基板30の断面をTEM(Transmission Electron Microscope)で観察することで測定できる。
【0043】
図10によると、破砕層を形成するとウェハ反りが発生する。炭化珪素半導体基板30の裏面に破砕層を形成するとおもて面に凹形状のお椀型に炭化珪素半導体基板30の反りが発生する。このように、破砕層を形成すると、イオン注入により発生した炭化珪素半導体基板30の反り方向と逆方向に反りが発生するため、炭化珪素半導体基板30の反り戻しが可能になる。
【0044】
このため、実施の形態では、炭化珪素半導体基板30の第2主面の研削によって、破砕層を100nm以上500nm以下の厚みで形成する。図10によると、ウェハ反り量は、200μm以上450μm以下となり、イオン注入により発生した炭化珪素半導体基板30の反り量を減少させ、炭化珪素半導体基板30の反り量を100μm未満まで減少させることができる。例えば、300nm程度破砕層を形成すると、図10によると330μm程度お椀型に炭化珪素半導体基板30の反りが発生する。このため、炭化珪素半導体基板30の反り量は数十μmとなる。また、破砕層の形成には、炭化珪素半導体基板30の薄化に用いるBG(Back Grinding)を使用する。BGでは、炭化珪素半導体基板30の第2主面(裏面)側からグラインダ等で機械的に研削する。また、300nm程度破砕層を形成するためには、約10~14μm程度研削すればよく、実施の形態では、12μm研削する。
【0045】
ステップS1において、トレンチ18の底部を保護する第2p+型領域5の形成は必要であるが、トレンチ18間の第1p+型領域4は、形成しない形態も可能である。この場合は、第2p+型領域5を形成後にステップS2の第1反り戻し処理を行う。
【0046】
次に、第1n-型炭化珪素エピタキシャル層2の表面上に、フォトリソグラフィ技術によって所望の開口部を有する図示しないレジストマスクを形成する。そして、図5に示すように、イオン注入法によって窒素等のn型の不純物をドーピングした厚さ0.7μm程度の第2n-型炭化珪素層6を、例えば2×1017/cm3の不純物濃度で形成する(ステップS3)。
【0047】
次に、n-型炭化珪素エピタキシャル層2の表面上に、フォトリソグラフィ技術によって所望の開口部を有する図示しないレジストマスクを形成する。そして、図6に示すように、イオン注入法によって、厚さ0.5μm程度のp型ベース層(第2導電型の第2半導体層)3を例えば3×1017/cm3の不純物濃度で形成する(ステップS4:第4工程)。
【0048】
次に、p型ベース層3の表面上に、フォトリソグラフィ技術によって所望の開口部を有する図示しないレジストマスクを形成する。そして、図7に示すように、イオン注入法によって、厚さ0.5μm程度のn+型ソース層(第1導電型の第3半導体層)7を例えば1×1019/cm3の不純物濃度で形成する(ステップS5:第5工程)。
【0049】
次に、所定の開口部を有するイオン注入用マスクを形成し、n+型ソース層7の一部、p型ベース層3の一部にアルミニウム等のp型の不純物をイオン注入し、図8に示すように、p++型コンタクト領域8を例えば1×1020/cm3の不純物濃度で形成する(ステップS6)。
【0050】
次に、炭化珪素半導体基板30の反りを戻す第2反り戻し処理を行う(ステップS7)。イオン注入によりおもて面側だけにイオンが注入されるために、炭化珪素半導体基板30はおもて面に凸形状の山型に反り、例えば、約250μmの反りが発生する。このため、実施の形態では、炭化珪素半導体基板30の第2主面の研削によって、破砕層を100nm以上500nm以下の厚みで形成する。図10によると、ウェハ反り量は、200μm以上450μm以下となり、イオン注入により発生した炭化珪素半導体基板30の反り量を減少させ、炭化珪素半導体基板30の反り量を100μm未満まで減少させることができる。例えば、200nm程度破砕層を形成すると、図10によると260μm程度お椀型に炭化珪素半導体基板30の反りが発生する。このため、炭化珪素半導体基板30の反り量は数十μmとなる。また、200nm程度破砕層を形成するためには、約8~12μm程度研削すればよく、実施の形態では、10μm研削する。
【0051】
イオン注入により発生した炭化珪素半導体基板30の反り量が、次工程以降に影響しない場合は、ステップS7の第2反り戻し処理は実施しなくてもよい。ただし、第2n-型炭化珪素層6、p型ベース層3、n+型ソース層7およびp++型コンタクト領域8は、通常加速のイオン注入であるが、それぞれの工程で反りが発生するため、第2反り戻し処理を行うことが好ましい。
【0052】
実施の形態では、第1p+型領域4および第2p+型領域5を形成後に、第1反り戻し処理を行い、p++型コンタクト領域8を形成後に、第2反り戻し処理を行っているが、イオン注入毎に反り戻し処理を行ってもよい。また、イオン注入により発生した炭化珪素半導体基板30の反り量が、次工程以降に影響しない場合は、反り戻し処理を実施しなくてもよい。
【0053】
次に、1750℃程度の不活性ガス雰囲気で熱処理を行い、イオン注入で形成した不純物領域の活性化処理を実施する(ステップS8:第6工程)。なお、1回の熱処理によって各イオン注入領域をまとめて活性化させてもよいし、イオン注入を行うたびに熱処理を行って活性化させてもよい。また、ステップS8とステップS9の順序は逆でもよい。つまり、トレンチ18を形成したのち、活性化処理を実施してもよい。
【0054】
次に、n+型ソース領域7の表面上に、フォトリソグラフィによって所定の開口部を有するトレンチ形成用マスクを例えば酸化膜で形成する。次に、図9に示すように、ドライエッチングによってn+型ソース領域7およびp型ベース層3を貫通し、第2p+型領域5に達するトレンチ18を形成する(ステップS9:第7工程)。次に、トレンチ形成用マスクを除去する。
【0055】
トレンチ18の形成は、炭化珪素半導体基板30の反り量が少なく、炭化珪素半導体基板30のおもて面が平らであることが好ましいため、第2反り戻し処理は、トレンチ18の形成前に行っている。活性化処理で炭化珪素半導体基板30の反りが解消されるため、トレンチ18の形成前に活性化処理を実施するほうが好ましい。
【0056】
次に、n+型ソース領域7およびp++型コンタクト領域8の表面と、トレンチ18の底部および側壁と、に沿ってゲート絶縁膜9を形成する。このゲート絶縁膜9は、酸素を含むガス雰囲気中において1300℃程度の温度の熱酸化によって形成してもよい。また、このゲート絶縁膜11は高温酸化(High Temperature Oxide:HTO)等のような化学反応によって堆積する方法で形成してもよい。
【0057】
次に、ゲート絶縁膜9上に、例えばリン原子がドーピングされた多結晶シリコン層を設ける。この多結晶シリコン層はトレンチ18内を埋めるように形成してもよい。この多結晶シリコン層をフォトリソグラフィによりパターニングし、トレンチ18内部に残すことによって、ゲート電極10を形成する(第8工程)。
【0058】
次に、ゲート電極10の表面に絶縁膜を形成する。例えば1000℃の酸素雰囲気でアニールし熱酸化膜を形成する。次に、表面を保護膜で保護する、例えばフォト用のレジストにて形成する。次に、裏面に形成された絶縁膜、ゲート電極、ゲート絶縁膜をドライエッチングにて全て除去する。次に、灰化剥離工程にて表面に形成した保護膜を除去する。今回は酸素プラズマ中の灰化及びSPMでの剥離を実施した。
【0059】
次に、ゲート絶縁膜9およびゲート電極10を覆うように、例えばリンガラスを1μm程度の厚さで成膜し、層間絶縁膜11を形成する。次に、層間絶縁膜11およびゲート絶縁膜10をフォトリソグラフィによりパターニングしn+型ソース領域7およびp++型コンタクト領域8を露出させたコンタクトホールを形成する。次に、上記コンタクトホール内および層間絶縁膜11上にソース電極(第1電極)13となる導電性の膜、例えばニッケルを例えばスパッタ法により成膜する(第9工程)。次に700℃程度の熱処理を行って導電性の膜と炭化珪素を選択的に反応させた後、未反応部分の導電性の膜を選択的に除去してコンタクトホール内にのみソース電極13を残し、n+型ソース領域7およびp++型コンタクト領域8とソース電極13とを接触させる。
【0060】
次に、例えばスパッタ法によって、炭化珪素半導体基体のおもて面のソース電極13上および層間絶縁膜11上に、ソース電極パッド15となる金属膜を例えばスパッタ法により成膜する。このとき、チタンまたは窒化チタンからなるバリアメタル(不図示)を先に形成してもよい。電極パッドの層間絶縁膜11上の部分の厚さは、例えば5.5μmであってもよい。電極パッドは、例えば、1%の割合でシリコンを含んだアルミニウム(Al-Si)で形成してもよい。次に、金属膜を選択的に除去し、ソース電極パッド15を形成する。
【0061】
次に、n+型出発基板1のおもて面を保護膜(不図示)で覆って保護した後、n+型出発基板1を裏面側から研磨することで、n+型出発基板1を薄化して製品厚さとしてもよい。
【0062】
次に、n+型出発基板1の第2主面上に、ドレイン電極(不図示)となる導電性の膜、例えばモリブデン膜とニッケル膜を、例えばスパッタ法により続けて成膜する。その後、例えばレーザーアニールなどの熱処理を行って、n+型出発基板1と導電性の膜を反応させてオーミック接合を形成することで、ドレイン電極を形成する。
【0063】
次に、ドレイン電極の表面に、ドレイン電極パッド(第2電極)14として例えばチタン、ニッケルおよび金をこの順に成膜する(第10工程)。以上のようにして、図1に示す炭化珪素半導体装置が完成する。
【0064】
以上、説明したように、実施の形態によれば、炭化珪素半導体基板の第2主面の研削によって、破砕層を形成する。これにより、イオン注入により発生した炭化珪素半導体基板の反り量を減少させ、炭化珪素半導体基板の反り量を100μm未満まで減少させることができる。このため、製造装置内での搬送不良やステージチャック不良、パターニング不良等の発生を低減または抑制することができる。
【0065】
以上において本発明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であり、上述した各実施の形態において、例えば各部の寸法や不純物濃度等は要求される仕様等に応じて種々設定される。また、各実施の形態では第1導電型をn型とし、第2導電型をp型としたが、本発明は第1導電型をp型とし、第2導電型をn型としても同様に成り立つ。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上のように、本発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、インバータなどの電力変換装置や種々の産業用機械などの電源装置や自動車のイグナイタなどに使用されるパワー半導体装置に有用である。
【符号の説明】
【0067】
1 n+型出発基板
2 第1n-型炭化珪素エピタキシャル層
3 p型ベース層
4 第1p+型領域
5 第2p+型領域
6 第2n-型炭化珪素層
7 n+型ソース領域
8 p++型コンタクト領域
9 ゲート絶縁膜
10 ゲート電極
11 層間絶縁膜
13 ソース電極
14 ドレイン電極パッド
15 ソース電極パッド
16 n+型バッファ層
18 トレンチ
30 炭化珪素半導体基板
50 トレンチ型MOSFET
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10