(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055439
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】摺動性熱可塑性樹脂組成物並びに摺動性改良剤
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20240411BHJP
C08L 55/02 20060101ALI20240411BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20240411BHJP
C08L 27/06 20060101ALI20240411BHJP
C08J 5/16 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L55/02
C08L83/04
C08L27/06
C08J5/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162367
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000010065
【氏名又は名称】フクビ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 祥孝
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA12X
4F071AA16
4F071AA20
4F071AA22X
4F071AA24
4F071AA34X
4F071AA67
4F071AA77
4F071AA88
4F071AF09Y
4F071AF28Y
4F071AF53
4F071AF57
4F071BA01
4F071BC01
4F071BC03
4F071BC12
4F071EA01
4J002AA011
4J002BB031
4J002BB051
4J002BB121
4J002BB141
4J002BC031
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4J002BC071
4J002BD041
4J002BD051
4J002BN152
4J002CB001
4J002CF061
4J002CF071
4J002CG011
4J002CK021
4J002CL001
4J002CP033
4J002FD172
4J002FD173
(57)【要約】
【課題】摺動性に優れる摺動性成形体、当該成形体の製造に供される摺動性熱可塑性樹脂組成物、更に当該樹脂組成物に好適に使用される摺動性改良剤を目的とする。
【解決手段】熱可塑性樹脂および摺動性改良剤を含む摺動性熱可塑性樹脂組成物であって、摺動性改良剤が、メルトフローレイト(MFR)が20g/10min以上のアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)とシリコーンパウダーとを含有してなり、熱可塑性樹脂100質量部に対して、MFRが20g/10min以上のABS樹脂を7.5~3.5質量部、シリコーンパウダーを2.5~0.5質量部含有することを特徴とする前記摺動性熱可塑性樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂および摺動性改良剤を含む摺動性熱可塑性樹脂組成物であって、
摺動性改良剤が、メルトフローレイト(MFR)が20g/10min以上のアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)とシリコーンパウダーとを含有してなり、
熱可塑性樹脂100質量部に対して、MFRが20g/10min以上のABS樹脂を3.5~7.5質量部、シリコーンパウダーを0.5~2.5質量部含有することを特徴とする前記摺動性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
熱可塑性樹脂が、軟質塩化ビニル樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の摺動性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の摺動性熱可塑性樹脂組成物を成形してなる摺動性成形体。
【請求項4】
MFRが20g/10min以上のアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)を70~90質量部、およびシリコーンパウダーを30~10質量部含有してなることを特徴とする摺動性改良剤。
【請求項5】
摺動性改良剤が、ペレット状溶融混錬物であることを特徴とする請求項4に記載の摺動性改良剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動性に優れた摺動性熱可塑性樹脂組成物、並びに当該樹脂組成物に使用される摺動性改良剤に係る。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等は多くの分野で幅広く用いられている熱可塑性樹脂であり、その用途や使用目的に応じて、耐擦傷性、耐候性、柔軟性、機械的強度、剛性、耐熱性、耐薬品性など様々な特性が必要とされる。
その特性の一つに摺動性がある。摺動性とは滑り性とも言われ、例えば、歯車や軸受けなどの摺動部品、プリンターフィーダなどの電気・電子機器、農業シートなどの農業資材、はめごろし部支持材などの建築部材等に必要とされる物性である。
【0003】
樹脂製の部材に摺動性を付与するために、従来二つの方法が採用されている。
一つは、樹脂部材の表面に摺動性に優れるポリエチレン樹脂の層を設ける方法である。当該方法は摺動性の点では優れるものの、長期間使用した場合にポリエチレン樹脂層が摩耗してしまい摺動性が失われるという欠点があり耐久性に問題があった。
他の方法は、樹脂部材中に摺動性改良剤を含有させる方法であり、摺動性改良剤としては、スチレン系樹脂に対してはシリコーンオイルやシリコーンパウダー、塩化ビニル樹脂に対してはオルガノポリシロキサンの共重合体、高級脂肪酸アミド、シリコーンオイル、シリコーン系界面活性剤などが使用されてきた(特許文献1、2、3)。当該方法においては、摺動性改良剤を樹脂中に均一に分散含有させる必要があり、分散性が十分でない場合は摺動性の低下や摺動性の経時変化が生じるという問題があった。また、摺動性改良剤によっては樹脂表面にブリードして、外観不良や成形不良、他の部材との接着不良、耐汚染性や防塵性の低下を引き起こすものがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-349757号
【特許文献2】特開2019-26716号
【特許文献3】特開平9-143326号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は摺動性改良剤について鋭意研究した結果、様々な摺動性改良剤の中でシリコーンパウダーが諸熱塑性樹脂に対してその効果が優れること、且つ、同時に特定物性のアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)を共存させることにより、シリコーンパウダーの分散性が向上して摺動性が顕著に向上すると共に他の物性も向上することを見出し、本発明を想到するに至った。
本発明は、摺動性に優れる摺動性成形体、当該成形体の製造に供される熱可塑性樹脂組成物、更に当該樹脂組成物に好適に使用される摺動性改良剤を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち本発明は、熱可塑性樹脂および摺動性改良剤を含む摺動性熱可塑性樹脂組成物であって、
摺動性改良剤が、メルトフローレイト(MFR)が20g/10min以上のアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)とシリコーンパウダーとを含有してなり、熱可塑性樹脂100質量部に対して、MFRが20g/10min以上のABS樹脂を3.5~7.5質量部、シリコーンパウダーを0.5~2.5質量部含有することを特徴とする前記摺動性熱可塑性樹脂組成物である。
上記摺動性熱可塑性樹脂組成物の発明において、熱可塑性樹脂が軟質塩化ビニル樹脂であることが好適である。
【0007】
また本発明は、上記摺動性熱可塑性樹脂組成物を成形してなる摺動性成形体に関する。
更にまた、本発明は、MFRが20g/10min以上のアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)を70~90質量部、およびシリコーンパウダーを30~10質量部含有してなることを特徴とする摺動性改良剤に関し、当該摺動性改良剤が、ペレット状溶融混錬物であることが好適である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により提供される摺動性改良剤は汎用性があり、種々の熱可塑性樹脂の摺動性を向上させることができる。特に、軟質塩化ビニル樹脂に対してはその効果が顕著である。
当該摺動性改良剤を配合して得られる熱可塑性樹脂組成物の成形体は、摺動性を必要とする部材として広範囲に使用される。例えば、スチレン系樹脂の成形体はプリンターのハウジング、各種電気・電子用部品、歯車や軸受けなどの摺動部材として使用される。ABS樹脂の成形体は熱膨張によって部材同士が干渉しあうことによって発生する異音が問題とされる浴室部材等に好適である。塩化ビニル樹脂の成型体は農業用フィルムやシート、内装材や建築部材に、特に軟質塩化ビニル樹脂の成形体はガスケット、シール材、パッキン材、導線挿入パイプなどの用途に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<摺動性改良剤>
本発明の摺動性改良剤は、シリコーンパウダーとMFRが20g/10min以上であるABS樹脂(以下、MFR20ABS樹脂ともいう)とを含有してなる。これら両成分が分散混合されている限りその存在形態に制限はない。両成分を溶融混錬後に造粒して作られるペレット状溶融混錬物、所謂マスターペレットは、後出の熱可塑性樹脂と極めて良く分散して顕著な摺動性の向上を発現するため大変好ましい。
シリコーンパウダーとMFR20ABS樹脂との配合比は、配合対象の熱可塑性樹脂によって異なるが、摺動性改良剤を予め溶融混錬後に造粒してペレット(マスターペレット)にする場合は、両成分の分散性および諸熱可塑性樹脂の何れにも適用できる汎用性の観点から、MFR20ABS樹脂:シリコーンパウダーが70~90質量部:30~10質量部(両成分の合計量を100質量部とする)であることが好ましい。
MFR20ABS樹脂が70質量部未満では、熱可塑性樹脂に配合した場合に、シリコーンパウダーが摺動性熱可塑性樹脂組成物内で均一に分散しにくくなり品質が安定しない。シリコーンパウダーが10質量部未満の場合は摺動性の向上は見られない。30質量部を超えると成分の分散不良を生じやすくなって成形不良や成形体の外観不良を引き起こすので好ましくない。成形性、成形体の表面性、物性、更にはコストを考慮し、80~90質量部:20~10質量部の配合比であることが好ましい。
なお、上記摺動性改良剤には、必要に応じて、後出の各種添加剤を含有させてもよいが、通常は上記二成分からなる。
【0010】
〔シリコーンパウダー〕
シリコーンパウダーは、熱可塑性樹脂中で均一に分散して顕著な摺動性を発現する、一般に平均粒径が1~30μmの球状の粉末である。
具体的なシリコーンパウダーとしては、オイル状のシリコーンを硬化したシリコーンゴムパウダー、シリコーンレジンパウダー、シリコーン複合パウダーなどがあげられる。これらの中で、シリコーンレジンパウダーが、分散性が良く摺動性の向上に優れるので特に好ましい。
【0011】
シリコーンゴムパウダーは、直鎖上のジメチルポリシロキサンを架橋した構造を有するシリコーンゴムの球状粉末である。
シリコーンレジンパウダーは、シランを加水分解、縮合して得られる3次元構造を持つものであり、代表的には、シロキサン結合が(CH3SiO3/2)で表される3次元網目状に架橋した構造を持つ、いわゆるポリメチルシルセスキオキサンの球状粉末である。
シリコーン複合パウダーは、シリコーンゴム球状粉末の表面をシリコーンレジンで被覆した複合構造の球状粉末である。
これらのシリコーンパウダーは、信越化学工業社から「KMP」シリーズとして種々の平均粒径、特性のものが市販されているので、配合対象となる熱可塑性樹脂の性状に応じて選択して利用できる。
【0012】
〔MFR20ABS樹脂〕
本発明の摺動改良剤において、摺動性向上に寄与する成分であり、MFRが20g/10min以上であることが重要である。20g/10min未満のABS樹脂は粘度が高いため、シリコーンパウダーがABS樹脂と均一に分散せず、良質な摺動性改良剤が得られない。
当該MFR20ABS樹脂は熱可塑性樹脂との相溶性に富むため、熱可塑性樹脂とMFR20ABS樹脂とが共存した系中においてはシリコーンパウダーが極めて良く分散し、その結果摺動性の向上が顕著となると推察される。更に、マスターペレット化する場合に、高混錬押出時のせん断発熱が抑制され焼けなどの問題が生じにくい。
ABS樹脂は、汎用のアクリロニトリルとブタジエンとスチレンの共重合体樹脂であり、日本エイアンドエル社から「クララスチック」シリーズとして、東レ社から「トヨラック」シリーズとして、デンカ社から「デンカABS」シリーズとして、テクノUMG社から「UMG ABS」シリーズとして市販されているので、市販品の中からMFRが20g/10min以上のものを選択して使用すればよい。
【0013】
〔摺動性改良剤の製法〕
前記シリコーンパウダーとMFR20ABS樹脂とを、タンブラーミキサーやヘンシェルミキサー等の混合機を用いて通常の方法でドライブレンドして摺動性改良剤とされる。
好適には、前記理由で、ペレット状溶融混錬物(マスターペレット)とされる。マスターペレットの製法は公知の方法が制限なく採用され、代表的にはドライブレンドした当該摺動性改良剤を、一軸または二軸の押出機で溶融混錬し次いで造粒して製造される。粒子の大きさは特に制限はないが、通常1~4mm程度の粒径とする。
【0014】
<摺動性熱可塑性樹脂組成物>
前記摺動性改良剤は、下記熱可塑性樹脂と、更に必要に応じて後記添加剤とをタンブラーミキサー、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、高速ミキサーなどを用いてドライブレンドして摺動性熱可塑性樹脂組成物とされる。
摺動性改良剤と熱可塑性樹脂との配合比は、摺動性熱可塑性樹脂組成物中のシリコーンパウダーの含有量が、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.5~2.5質量部になるように配合される。0.5質量部未満では摺動性の改良効果が発現しない。2.5質量部を超えると改良効果が飽和ししかもコスト高となる。
また、熱可塑性樹脂と摺動性改良剤との配合比は、シリコーンパウダーの配合量が上記範囲を満たすように決定されるが、通常、熱可塑性樹脂100質量部に対して摺動性改良剤1~10質量部の範囲から選択される。10質量部を超えると、摺動性改良剤中のABS樹脂の影響を受けて所定の熱可塑性樹脂の特性が失われる傾向にある。
当該摺動性熱可塑性樹脂組成物は、好適には、単軸または二軸の押出機で溶融混錬した後造粒してペレットとされる。
【0015】
〔熱可塑性樹脂〕
摺動性改良剤を配合して摺動性を向上させる対象樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂が制限なく使用できる。
具体的には、ポリエチレン樹脂、エチレンと他のα-オレフィンとの共重合樹脂、ポリプロピレン樹脂、プロピレンとエチレンとのブロック共重合樹脂などのポリオレフィン樹脂;硬質塩化ビニル樹脂、軟質塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー(TPVC)などの塩化ビニル樹脂;アクリロニトリル・エチレンプロピレンゴム・スチレン共重合樹脂(AES樹脂)、ABS樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂などのスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリアセタール樹脂等が挙げられる。
これらの熱可塑性樹脂の中で、塩化ビニル樹脂、特に軟質塩化ビニル樹脂は、本発明の摺動性改良剤の配合効果に優れ、動摩擦係数が約50%減少する。当該軟質塩化ビニル樹脂は、塩化ビニル樹脂に可塑剤を含有させた樹脂であり柔軟性がある。代表的な物性としては、比重が1.16~1.35で引張強さは6.9~25MPaであり、平均重合度は成形の容易性や物性の確保の観点から、通常、700~1500のものが使用される。
【0016】
〔添加剤〕
摺動性熱可塑性樹脂組成物中には、必要に応じて、滑剤、可塑剤、離型剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、充填剤などの従来公知の添加剤を配合することができる。当該添加剤は、摺動性熱可塑性樹脂組成物を調製する際に摺動性改良剤の配合時に別途添加してもよいが、予め熱可塑性樹脂と混合しておくことが好ましい。
【0017】
〔摺動性熱可塑性樹脂組成物の調製〕
本発明の摺動性熱可塑性樹脂組成物の調製方法については特に制限はない。例えば、熱可塑性樹脂、摺動性改良剤および所望に応じて用いられる各種添加剤を、それぞれ所定の割合でブレンダーやヘンシェルミキサー等を用いてドライブレンドして当該組成物とされる。更にこの組成物を単軸又は二軸押出機、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、コニーダーなどの溶融混練機を用いて均質に混練分散させる方法により目的の組成物とすることもできる。通常、当該摺動性熱可塑性樹脂組成物はペレット化され、次の成形加工に供される。
【0018】
<摺動性成形体の製造>
本発明の摺動性熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて各種添加剤を混練し、射出成形、押出成形、真空成形、ブロー成形などの公知の成形法で摺動性成形体を製造できる。成形機および成形条件などは、用いる熱可塑樹脂の種類や摺動性成形体の形状等に鑑みて従来公知の成形法の中から選択して決定すれば良い。
例えば、大量生産性、連続的且つ安定的製造性の観点から押出成形法が好ましく採用され、目的の断面形状に応じた成形体とされる。押出成形法による摺動性成形体は、押出機によって溶融した後T-ダイから押し出す方法、押出機よりシート状に押出した後テンター方式あるいはインフレーション方式により二軸延伸する方法等が採用される。延伸は一軸延伸、逐次二軸延伸、同次二軸延伸、或いはインフレーション法による二軸延伸でも良い。
射出成形摺動性成形体は通常の射出成形法により成形することができ、射出成形温度や射出成形圧力などは、目的とする摺動性成形体の形状や材質に応じて適宜選択される。
【実施例0019】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。また、実施例の中で説明されている特徴の組み合わせすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
以下の実施例及び比較例で用いた各種成分と略号、並びに試験方法は、次の通りである。
【0020】
〔ABS樹脂〕
nABS:「クララスチック GA-101」日本エイアンドエル社製、
MFR=26g/10min(220℃/10kg)
mABS:「トヨラック 100」東レ社製、
MFR=15g/10min(220℃/10kg)
〔シリコーンパウダー〕
シリコーンパウダー:「KMP-590」信越化学社製
〔熱可塑性樹脂〕
PVC :塩化ビニル樹脂 平均重合度=1000
TPVC :ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー
平均重合度=1300
ABS :ABS樹脂「クララスチック SR」日本エイアンドエル社製
PP :ポリプロピレン樹脂「プライプポリプロ E701」プライムポリマー社
製
PE :ポリエチレン樹脂「ハイゼックス 5100B」プライムポリマー社製
【0021】
<物性測定>
〔動的摩擦係数〕
東洋精機社製動的摩擦係数測定装置「HM-3」を使用して測定した。なお、摩擦子はステンレスであり、速度は100mm/minであり、荷重は200gの条件とした。
〔接触角〕
協和界面化学社製「DMs-401」を使用して表面の接触角を測定した。接触角(度)は防汚性の指標となる。
【0022】
〔防汚性〕
試験片を、カーボン分散水で汚染後60℃オーブンに入れて加熱し汚染物質を固着させた。次いで流水で洗浄し表面の汚染度を目視で観察し、以下の基準で評価した。
〇:僅かに汚れが残る
△:半分ほど汚れが残る
×:殆ど汚れが落ちない
【0023】
〔耐候性〕
JIS b 7753に基づいて、サンシャインカーボンアーク灯式耐候性試験にてBP63℃、湿度50%RH(相対湿度)、試験時間500時間で、耐侯性試験を行った。以下の基準で評価した。
〇:変化なし
△:僅かに変色する程度の軽微な変化がみられる
×:変色が目立つ、表面が脆くなる等の顕著な変化がみられる
〔外観〕
試験片表面を目視で確認し、以下の基準で評価した。
○:特に目立った不良はない
△:目視で確認できるブツが1点見られる
×:目視で確認できるブツが2点以上見られる
【0024】
[摺動性改良剤]
製造例1
nABS70kgと、シリコーンパウダー30kgとを、ヘンシェルミキサー機を用いて100℃で混合し、次いで同方向二軸押出機を用いて造粒し、摺動性改良剤(ペレット;MB1)を製造した。
製造例2
nABSを80kg、シリコーンパウダーを20kgとした以外は、実施例1と同様にして摺動性改良剤(ペレット;MB2)を製造した。
製造例3
nABSを90kg、シリコーンパウダーを10kgとした以外は、実施例1と同様にして摺動性改良剤(ペレット;MB3)を製造した。
製造例4
nABSを60kg、シリコーンパウダーを40kgとした以外は、実施例1と同様にして摺動性改良剤(ペレット;MB4)を製造した。
製造例5
nABSを95kg、シリコーンパウダーを5kgとした以外は、実施例1と同様にして摺動性改良剤(ペレット;MB5)を製造した。
製造例6
MFRが15g/10minのmABSを80kg、シリコーンパウダーを20kgとした以外は、実施例1と同様にして摺動性改良剤(ペレット;MB6)を製造した。
【0025】
[摺動性熱可塑性樹脂組成物と成形]
実施例1~15,比較例1~11
製造例1~6で調製された摺動性改良剤と表1、2に示す諸熱可塑性樹脂とを、表1、2に示す配合割合で混合して摺動性熱可塑性組成物を製造した。さらにこれらの摺動性熱可塑性樹脂組成物を東洋精機社製「ラボプラストミル 4C150」用いて溶融温度185℃の条件で成形加工し平板状試験片(30×50×2mm)を得た。
この試験片の動的摩擦係数、接触角、防汚性、耐候性、および外観を前記各試験方法に従い測定して表1,2に示した。
【0026】
【0027】
【0028】
比較例1、2、4、5は、摺動性熱可塑性樹脂組成物中のMFR20ABS樹脂の含有量が少ない場合であり、防汚性及び耐候性に劣り、しかも外観不良を起こした。
比較例3は、摺動性熱可塑性樹脂組成物中のシリコーンパウダーの含有量が多い場合であり、同様に防汚性及び耐候性に劣り、しかも外観不良を起こした。
比較例6、7、9、10は、摺動性熱可塑性樹脂組成物中のシリコーンパウダーの含有量が少ない場合であり、動摩擦係数が高くて摺動性の向上が認められず、しかも防汚性が大変悪い。
比較例8は、摺動性熱可塑性樹脂組成物中のMFR20ABS樹脂の含有量が多い場合であり、防汚性が大変悪く及び耐候性も劣る。
比較例11は、摺動性熱可塑性樹脂組成物中に配合したABS樹脂のMFRが20g/10min未満の場合であり、動摩擦係数が高くて摺動性の向上が認められず、しかも防汚性および耐候性に劣る。