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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055458
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】ゴム組成物及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20240411BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240411BHJP
   C08K 5/55 20060101ALI20240411BHJP
   C08L 93/00 20060101ALI20240411BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C08L21/00
C08K3/013
C08K5/55
C08L93/00
B60C1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162404
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】姜 嵐
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA02
3D131AA03
3D131AA04
3D131AA06
3D131AA08
3D131AA11
3D131AA12
3D131AA14
3D131AA15
3D131AA19
3D131BA05
3D131BA20
3D131BB01
3D131BB03
3D131BB06
3D131BB09
3D131BB11
3D131BC12
3D131BC19
4J002AC011
4J002AC031
4J002AC061
4J002AC081
4J002AF022
4J002BB151
4J002DA036
4J002DJ016
4J002DK007
4J002FD016
4J002FD020
4J002FD030
4J002FD140
4J002FD150
4J002FD202
4J002FD207
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】水により可逆的な物性変化を発揮するゴム組成物及びタイヤを提供する。
【解決手段】ホウ素、ゴム成分、及び充填剤を含み、下記式(1)~(2)を満たすゴム組成物に関する。
(1)Fc>40
(式中、Fcは、ゴム成分100質量部に対する充填剤の含有量(質量部)である。)
(2)水湿潤時のtanδ/乾燥時のtanδ>1.00
(式中、tanδは、温度30℃、初期歪10%、動歪2%、周波数10Hz、伸長モードの条件下で測定した損失正接である。)
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素、ゴム成分、及び充填剤を含み、下記式(1)~(2)を満たすゴム組成物。
(1)Fc>40
(式中、Fcは、ゴム成分100質量部に対する充填剤の含有量(質量部)である。)
(2)水湿潤時のtanδ/乾燥時のtanδ>1.00
(式中、tanδは、温度30℃、初期歪10%、動歪2%、周波数10Hz、伸長モードの条件下で測定した損失正接である。)
【請求項2】
下記式(i)で表されるフェニルボロン酸化合物で変性された変性樹脂を含む請求項1に記載のゴム組成物。
【化1】
(R11は、同一又は異なって、置換基を有してもよい1価炭化水素基であり、ヘテロ原子を含んでもよい。nは、1~5の整数である。)
【請求項3】
前記変性樹脂が、ロジン系樹脂を前記式(i)で表されるフェニルボロン酸化合物で変性した変性ロジン系樹脂である請求項2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
下記式を満たす請求項1又は2に記載のゴム組成物。
Fc>60
(式中、Fcは、ゴム成分100質量部に対する充填剤の含有量(質量部)である。)
【請求項5】
下記式を満たす請求項1又は2に記載のゴム組成物。
Fc>80
(式中、Fcは、ゴム成分100質量部に対する充填剤の含有量(質量部)である。)
【請求項6】
下記式を満たす請求項1又は2に記載のゴム組成物。
水湿潤時のtanδ/乾燥時のtanδ>1.20
(式中、tanδは、温度30℃、初期歪10%、動歪2%、周波数10Hz、伸長モードの条件下で測定した損失正接である。)
【請求項7】
下記式を満たす請求項1又は2に記載のゴム組成物。
水湿潤時のtanδ/乾燥時のtanδ>1.25
(式中、tanδは、温度30℃、初期歪10%、動歪2%、周波数10Hz、伸長モードの条件下で測定した損失正接である。)
【請求項8】
下記式を満たす請求項1又は2に記載のゴム組成物。
乾燥時のtanδ>0.120
(式中、tanδは、温度30℃、初期歪10%、動歪2%、周波数10Hz、伸長モードの条件下で測定した損失正接である。)
【請求項9】
下記式を満たす請求項1又は2に記載のゴム組成物。
水湿潤時のtanδ>0.180
(式中、tanδは、温度30℃、初期歪10%、動歪2%、周波数10Hz、伸長モードの条件下で測定した損失正接である。)
【請求項10】
請求項1又は2に記載のゴム組成物で構成されたトレッドを有するタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物及びタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤなどの製品には各種ポリマーが用いられ、ポリマーによる種々の性能の付与が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、前記課題を解決し、水により可逆的な物性変化を発揮するゴム組成物及びタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、ホウ素、ゴム成分、及び充填剤を含み、下記式(1)~(2)を満たすゴム組成物に関する。
(1)Fc>40
(式中、Fcは、ゴム成分100質量部に対する充填剤の含有量(質量部)である。)
(2)水湿潤時のtanδ/乾燥時のtanδ>1.00
(式中、tanδは、温度30℃、初期歪10%、動歪2%、周波数10Hz、伸長モードの条件下で測定した損失正接である。)
【発明の効果】
【0005】
本発明は、ホウ素、ゴム成分、及び充填剤を含み、前記式(1)~(2)を満たすゴム組成物であるので、水により可逆的な物性変化を発揮するゴム組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】式(i)で表されるフェニルボロン酸化合物が合成される合成例の一例である。
図2】合成物のH-NMRスペクトルの一例である。
図3】フェニルボロン酸化合物と樹脂とが反応し、変性樹脂が合成される経路を示す合成例の一例である。
図4】変性樹脂AのIRスペクトルの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<ゴム組成物>
本発明は、ホウ素、ゴム成分及び充填剤を含有し、下記式(1)~(2)を満たすゴム組成物である。
(1)Fc>40
(式中、Fcは、ゴム100質量部に対する充填剤の含有量(質量部)である。)
(2)水湿潤時のtanδ/乾燥時のtanδ>1.00
(式中、tanδは、温度30℃、初期歪10%、動歪2%、周波数10Hz、伸長モードの条件下で測定した損失正接である。)
【0008】
前記作用効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、以下のようなメカニズムによるものと推察される。
充填剤量Fcが40質量部を超えるゴム組成物において、例えば、ホウ素を含むボロン酸を配合すると、ボロン酸は、乾燥時に三量化によるボロキシン構造が形成し、また、水によりボロキシン構造が分解する可逆性がある。そのため、水により可逆な物性変化、すなわち、水湿潤時のtanδ/乾燥時のtanδ>1.00の物性が付与される。また、ボロン酸以外のホウ素を含む化合物を用いた場合も同様の作用機能が発揮され、水による可逆な物性変化が付与されると考えられる。
従って、ホウ素、ゴム成分、及び充填剤を含み、前記式(1)~(2)を満たすゴム組成物は、水により可逆的な物性変化を発揮すると推察される。
【0009】
このように、本発明は、ホウ素、ゴム成分及び充填剤を含有、かつ式(1)「Fc>40」、式(2)「水湿潤時のtanδ/乾燥時のtanδ>1.00」を満たすゴム組成物の構成にすることにより、水により可逆的な物性変化を発揮するという課題(目的)を解決するものである。すなわち、式(1)~(2)のパラメータは課題(目的)を規定したものではなく、本願の課題は、水により可逆的な物性変化を発揮することであり、そのための解決手段として前記パラメータを満たすような構成としたものである。
【0010】
上記ゴム組成物は、ゴム成分を含む。
本発明において、ゴム成分は、架橋に寄与する成分であり、一般的に、重量平均分子量(Mw)が1万以上のポリマーで、アセトンにより抽出されないポリマー成分である。
【0011】
ゴム成分の重量平均分子量は、好ましくは5万以上、より好ましくは15万以上、更に好ましくは20万以上であり、また、好ましくは200万以下、より好ましくは150万以下、更に好ましくは100万以下である。上記範囲内であると、タイヤ性能などの所望の性能を付与できる傾向がある。
【0012】
なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMULTIPORE HZ-M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0013】
上記ゴム成分としては、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などのジエン系ゴムが挙げられる。また、ブチル系ゴム、フッ素ゴムなどのポリマーも挙げられる。なかでも、タイヤ性能などの所望の性能を付与できる観点から、イソプレン系ゴム、BR、SBRが好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
上記ジエン系ゴムは、非変性ジエン系ゴムでもよいし、変性ジエン系ゴムでもよい。なかでも、変性ジエン系ゴムが望ましい。
【0015】
変性ジエン系ゴムとしては、シリカ等の充填剤と相互作用する官能基を有するジエン系ゴムであればよく、例えば、ジエン系ゴムの少なくとも一方の末端を、上記官能基を有する化合物(変性剤)で変性された末端変性ジエン系ゴム(末端に上記官能基を有する末端変性ジエン系ゴム)や、主鎖に上記官能基を有する主鎖変性ジエン系ゴムや、主鎖及び末端に上記官能基を有する主鎖末端変性ジエン系ゴム(例えば、主鎖に上記官能基を有し、少なくとも一方の末端を上記変性剤で変性された主鎖末端変性ジエン系ゴム)や、分子中に2個以上のエポキシ基を有する多官能化合物により変性(カップリング)され、水酸基やエポキシ基が導入された末端変性ジエン系ゴム等が挙げられる。
【0016】
上記官能基としては、例えば、アミノ基、アミド基、シリル基、アルコキシシリル基、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、エーテル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、メルカプト基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、カルボキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基、水酸基、オキシ基、エポキシ基等が挙げられる。なお、これらの官能基は、置換基を有していてもよい。
【0017】
イソプレン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、改質NR、変性NR、変性IR等が挙げられる。NRとしては、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、ゴム工業において一般的なものを使用できる。IRとしては、特に限定されず、例えば、IR2200等、ゴム工業において一般的なものを使用できる。改質NRとしては、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(UPNR)等、変性NRとしては、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等、変性IRとしては、エポキシ化イソプレンゴム、水素添加イソプレンゴム、グラフト化イソプレンゴム等が挙げられる。イソプレン系ゴムは、これらの例示のとおり、非変性イソプレン系ゴムでもよいし、変性イソプレン系ゴム(ENRなど)でもよい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
上記ゴム組成物がイソプレン系ゴムを含む場合、ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの含有量は、特に限定されないが、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上が更に好ましい。上限は特に限定されないが、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、45質量%以下が更に好ましい。上記範囲内であると、効果が好適に得られる傾向がある。
【0019】
BRは特に限定されず、例えば、高シス含量のハイシスBR、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR、希土類系触媒を用いて合成したBR(希土類BR)等を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、耐摩耗性が向上するという理由からは、シス含量が90質量%以上のハイシスBRが好ましい。BRは、非変性BRでもよいし、変性BR(カルボン酸変性BRなど)でもよい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
BRとしては、例えば、宇部興産(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等の製品を使用できる。
【0021】
上記ゴム組成物がBRを含む場合、ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、特に限定されないが、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、14質量%以上が更に好ましい。上限は特に限定されないが、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、50質量%以下が更に好ましい。上記範囲内であると、効果が好適に得られる傾向がある。
【0022】
SBRとしては特に限定されず、例えば、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E-SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR)等を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。SBRは、非変性SBRでもよいし、変性SBR(カルボン酸変性SBRなど)でもよい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
SBRのスチレン含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、特に好ましくは25質量%以上である。該スチレン含有量は、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。上記範囲内にすることで、より効果が得られる傾向がある。
なお、本明細書において、スチレン含有量は、H-NMR測定によって測定できる。
【0024】
SBRのビニル結合量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは41質量%以上、特に好ましくは50質量%以上である。該ビニル結合量は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは65質量%以下である。上記範囲内にすることで、より効果が得られる傾向がある。
なお、本明細書において、ビニル結合量(1,2-結合ブタジエン単位量)は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定できる。
【0025】
SBRとしては、例えば、住友化学(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等により製造・販売されているSBRを使用できる。
【0026】
上記ゴム組成物がSBRを含む場合、ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、特に限定されないが、20質量%以上が好ましく、41質量%以上がより好ましく、50質量%以上が更に好ましく、75質量%以上が特に好ましく、100質量%でもよい。上記範囲内であると、効果が好適に得られる傾向がある。
【0027】
上記ゴム組成物は、ホウ素を含有するものであるが、例えば、ホウ素含有化合物を用いることで、組成物中にホウ素を含有させることができる。
【0028】
上記ゴム組成物100質量%中のホウ素の含有量は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上である。上限は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.8質量%以下である。上記範囲内であると、効果が好適に得られる傾向がある。
【0029】
ホウ素含有化合物は、化合物中にホウ素を有するものであれば特に限定されないが、なかでも、下記式(i)で表されるフェニルボロン酸化合物を好適に使用できる。
【化1】
(R11は、同一又は異なって、置換基を有してもよい1価炭化水素基であり、ヘテロ原子を含んでもよい。nは、1~5の整数である。)
【0030】
式(i)において、R11の骨格を構成する1価炭化水素基としては、直鎖、環状若しくは分枝のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられ、特にアルキル基が好ましい。R11の炭素数は、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上であり、また、好ましくは30以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは10以下、特に好ましくは6以下である。具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、へキシル基、へプチル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。
【0031】
前記式(i)において、R11における置換基は、R11の骨格を構成する1価炭化水素基の骨格に付加しても、骨格中に導入してもよい。置換基としては特に限定されず、公知の基が挙げられる。例えば、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等の炭素数1~4のアルコキシ基、塩素、臭素、ヨウ素、フッ素等のハロゲン原子、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等の炭素数6~12のアリール基、オキソ基(=O)、ヒドロキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基、アセチル基、アミド基、イミド基などの極性基などが例示される。該置換基は、ポリマーとの反応性の観点からは、カルボキシル基、アミノ基、チオール基などが好ましい。
【0032】
該置換基は、水による可逆的な物性変化の機能がより得られる観点からは、窒素原子を有する基が好ましく、アミノ基がより好ましい。
【0033】
前記式(i)において、R11が窒素原子を有する場合、水による可逆的な物性変化の機能が得られる観点から、該窒素原子と、式(i)で表されるフェニルボロン酸化合物のホウ素原子とは、1~6個の炭素原子を介して結合していることが好ましい。介する炭素原子数は、好ましくは2~5個、より好ましくは2~4個、更に好ましくは2~3個である。例えば、後述の図1に示されているフェニルボロン酸化合物Cは、窒素原子とホウ素原子とが3個の炭素原子を介して結合している化合物である。
【0034】
11における置換基のアミノ基としては、例えば、第1級アミノ基(-NH)、第2級アミノ基(-NHR)、第3級アミノ基(-NR)が挙げられる。前記RとRは、アルキル基、フェニル基、アラルキル基等が例示され、該R、Rの炭素数は好ましくは1~8である。アミノ基は、アンモニウム塩基を形成したものでもよく、例えば、第3級アンモニウム塩基、第4級アンモニウム塩基等が例示される。また、アミノ基は、2価アミノ基も挙げられる。前記2価アミノ基としては、-N(H)-、-N(R)-が挙げられる。前記Rは、アルキル基、フェニル基、アラルキル基等が例示され、該Rの炭素数は好ましくは1~8である。2価アミノ基の場合、例えば、R11の骨格中に導入される。
【0035】
11におけるヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等が挙げられる。なかでも、より効果が得られる観点から、窒素原子が好ましい。
【0036】
式(i)において、nは、より効果が得られる観点から、1~4が好ましく、1~3がより好ましく、1~2が更に好ましく、1が特に好ましい。
【0037】
より効果が得られる観点から、前記式(i)で表されるフェニルボロン酸化合物のなかでも、下記式(i-1)で表される化合物が好適である。
【化2】
(R21及びR22は、同一又は異なって、置換基を有してもよい2価炭化水素基であり、ヘテロ原子を含んでもよい。R23~R25は、同一若しくは異なって、水素原子、又は置換基を有してもよい1価炭化水素基であり、ヘテロ原子を含んでもよい。mは、1~5の整数である。)
【0038】
式(i-1)において、R21及びR22の骨格を構成する2価炭化水素基としては、直鎖、環状若しくは分枝のいずれでもよく、例えば、アルキレン基、アルケニレン基、シクロアルキレン基、シクロアルキルアルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基等が挙げられる。R21及びR22の炭素数は、好ましくは1~30、より好ましくは1~15、更に好ましくは1~8、特に好ましくは1~5である。具体的には、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基などが挙げられる。
【0039】
21及びR22における置換基は、R21及びR22の骨格を構成する2価炭化水素基の骨格に付加しても、骨格中に導入してもよい。置換基としては特に限定されず、例えば、前記R11の置換基と同様のものが挙げられる。R21及びR22におけるヘテロ原子についても、例えば、前記R11のヘテロ原子と同様のものが挙げられる。
【0040】
23~R25の骨格を構成する1価炭化水素基としては、例えば、前記R11の骨格を構成する1価炭化水素基と同様のものが挙げられる。R23~R25における置換基は、R23~R25の骨格を構成する1価炭化水素基の骨格に付加しても、骨格中に導入してもよい。置換基としては特に限定されず、例えば、前記R11の置換基と同様のものが挙げられる。R23~R25におけるヘテロ原子についても、例えば、前記R11のヘテロ原子と同様のものが挙げられる。
【0041】
なかでも、R23は、より効果が得られる観点から、水素原子、1価炭化水素基が好ましく、水素原子がより好ましい。
24は、より効果が得られる観点から、水素原子、1価炭化水素基が好ましく、水素原子がより好ましい。
25は、より効果が得られる観点から、水素原子、1価炭化水素基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0042】
式(i-1)において、mは、より効果が得られる観点から、1~4が好ましく、1~3がより好ましく、1~2が更に好ましく、1が特に好ましい。
【0043】
前記式(i)で表されるフェニルボロン酸化合物は、公知の方法に準拠することで合成可能である。以下、前記フェニルボロン酸化合物の合成法の一例について説明するが、該フェニルボロン酸化合物は、このような合成法により得られるものに限定されるものではなく、合成が可能な任意の合成法により得られる化合物を含む。
【0044】
例えば、所定のフェニルボロン酸化合物と、前記R11で示される基の導入が可能な化合物とを反応させることで、式(i)で表されるフェニルボロン酸化合物を合成できる。
【0045】
前記反応は、通常溶媒中で行われる。
反応に用いられる溶媒としては特に限定されず、反応進行が可能なものを適宜選択すればよい。例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類、トルエン等の芳香族炭化水素類、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセタミド、N,N’-ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、水及びこれらの混合物が挙げられる。反応には、適宜、公知の触媒を使用でき、例えば、パラジウム触媒等があげられる。反応に用いられる触媒の量は、適宜選択すればよい。反応に用いられるフェニルボロン酸化合物と、前記R11で示される基の導入が可能な化合物との混合割合は、反応が進行な範囲で適宜選択すればよい。反応温度は、通常50~110℃の範囲であり、反応時間は、通常1~24時間の範囲である。反応終了後、適宜、反応混合物を有機溶媒抽出し、有機層を濃縮する等の後処理操作を行うことにより、目的物を単離でき、必要に応じて再結晶、クロマトグラフィー等により更に精製できる。
【0046】
具体的な化合物の合成例を説明すると、例えば、図1で示される合成経路により、フェニルボロン酸化合物Cを合成できる。
【0047】
図1に示されるように、例えば、溶媒(メタノール)中で、フェニルボロン酸化合物Bと、アミン化合物とを、室温で終夜反応させ、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)で還元させて、更に塩酸(HCl)でBoc(tert-ブトキシカルボニル基)脱保護させることで、フェニルボロン酸化合物Cが合成される。
【0048】
前記のとおり、上記ゴム組成物はホウ素を含むものであるが、なかでも、樹脂が上記ホウ素含有化合物で変性された変性樹脂を用いることが望ましい。
なお、本明細書において、「樹脂」とは、25℃で固体状態の樹脂を意味する。
【0049】
ゴム組成物において、上記変性樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは15質量部以上、特に好ましくは20質量部以上である。上限は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは40質量部以下である。上記範囲内であると、ウェットグリップ性能などのタイヤ性能がより良好に得られる傾向がある。なお、後述の変性ロジン系樹脂の含有量も同様の範囲が望ましい。
【0050】
上記変性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、50℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、100℃以上が更に好ましく、110℃以上が特に好ましい。上限は、160℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、145℃以下が更に好ましい。上記範囲内であると、ウェットグリップ性能などのタイヤ性能がより良好に得られる傾向がある。
なお、本明細書において、Tgは、tanδの温度分散曲線のピーク温度であり、実施例に記載の方法で測定できる。
【0051】
上記変性樹脂の骨格を形成する樹脂としては、天然樹脂、合成樹脂が挙げられる。
天然樹脂としては、ロジン、ロジン誘導体等のロジン系樹脂、テルペン樹脂などが挙げられる。合成樹脂としては、石油樹脂、フェノール樹脂、石炭系樹脂、テルペン系樹脂などが挙げられる。なかでも、より効果が得られる観点から、天然樹脂が好ましく、ロジン系樹脂がより好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
上記変性樹脂、特にロジン系樹脂に式(i)で表されるフェニルボロン酸化合物を反応させた変性樹脂を用いた場合にこのような作用効果が得られる理由は、明らかではないが、以下のようなメカニズムによると推察される。
ロジン系樹脂は、主成分が、共役二重結合、カルボキシル基を有するアビエチン酸とその異性体の混合物であり、反応性に富んだバルキーな構造を有し、式(i)で表されるフェニルボロン酸化合物との結合性を有する。そして、これらを反応して得られるフェニルボロン酸ロジンは、水により分子量調整が可能で、乾燥する時に3分子縮合して分子量が高くなり、Tgが高く、ゴムと相溶しにくい。一方、水が存在するときは、ボロキシンが分解し、分子量が低くなり、Tgが低く、ゴムと相溶しやすい。従って、ロジン系樹脂を用いた変性ロジン系樹脂は、水により可逆的な物性変化を発揮することができる。また、例えば、該変性ロジン系樹脂をタイヤに用いると、水接触時に弾性率が低下し、ウェット路面でのロスが増え、ウェットグリップ性能が向上すると推察される。
【0053】
ロジンとしては、ガムロジン、ウッドロジン及びトールロジン等の天然ロジン、天然ロジンを用いて不均化若しくは水素添加処理した安定化ロジンや重合ロジン、天然ロジンをマレイン酸、フマル酸及び(メタ)アクリル酸等の不飽和酸で変性した不飽和酸変性ロジン等が挙げられる。
【0054】
ロジン誘導体としては、前記ロジンから誘導されるものが挙げられる。
具体的には、前記ロジンのエステル化物、フェノール変性物及びそのエステル化物等が例示される。ここで、ロジンのエステル化物とは、前記ロジンと多価アルコールとをエステル化反応させて得たものをいう。多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール及びネオペンチルグリコール等の2価アルコール、グリセリン、トリメチロールエタン及びトリメチロールプロパン等の3価アルコール、ペンタエリスリトール及びジグリセリン等の4価アルコール、ジペンタエリスリトール等の6価アルコール等が挙げられる。
【0055】
石油樹脂としては、石油ナフサ等の熱分解により副生する不飽和炭化水素モノマーを含有する留分を重合したものが挙げられる。具体的には、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂肪族・芳香族系石油樹脂及び脂環族系石油樹脂(水添系石油樹脂)に分類される。
【0056】
脂肪族系石油樹脂としては、例えば、炭素数が4~5のオレフィンやジエン[ブテン-1、イソブチレン、ペンテン-1等のオレフィン;ブタジエン、ピペリレン(1,3-ペンタジエン)、イソプレン等のジエン]が1種のみ又は2種以上用いられた重合体等が挙げられる。なかでも、ブタジエン、ピペリレンやイソプレン等の留分(C4石油留分、C5石油留分)から得られる脂肪族系石油樹脂(C4系石油樹脂、C5系石油樹脂)などが望ましい。
【0057】
芳香族系石油樹脂としては、例えば、炭素数が8~10であるビニル基含有芳香族系炭化水素(スチレン、o-ビニルトルエン、m-ビニルトルエン、p-ビニルトルエン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、インデン、メチルインデン等)を1種又は2種以上用いた重合体等を挙げられる。なかでも、ビニルトルエンやインデン等の留分(C9石油留分)から得られる芳香族系石油樹脂(C9系石油樹脂)などが望ましい。
【0058】
脂肪族・芳香族系石油樹脂としては、前記C5石油留分とC9系石油留分とを共重合して得られる共重合系石油樹脂(C5/C9共重合樹脂)等が挙げられる。
【0059】
脂環族系石油樹脂としては、上記芳香族系石油樹脂又は脂肪族・芳香族系石油樹脂を水素添加して得られる水素添加石油樹脂及びC5留分から抽出されたジシクロペンタジエンを主原料に合成して得られた合成樹脂が挙げられる。なかでも、上記芳香族系石油樹脂又は脂肪族・芳香族系石油樹脂を水素添加して得られた水素添加石油樹脂などが望ましい。
【0060】
フェノール樹脂としては、各種のフェノール類とホルムアルデヒドとをアルカリ触媒の存在下で反応させて得られるレゾール型フェノール樹脂、酸触媒の存在下で反応させて得られるノボラツク型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂若しくはノボラツク型フェノール樹脂と天然ロジンとを反応させて得られるロジン変性フェノール樹脂等が挙げられる。
【0061】
石炭系樹脂としては、コールタール中のクマロン、インデン及びスチレン等の混合物を重合させたもの等が挙げられる。
【0062】
テルペン系樹脂は、通常、有機溶媒中でフリーデルクラフツ型触媒の存在下、テルペン単量体単独で又はテルペン単量体と芳香族単量体とを若しくはテルペン単量体とフェノール類とを共重合して得られたものであり、また、得られたテルペン系樹脂を水素添加処理して得られた水素添加テルペン系樹脂でもよい。テルペン系樹脂としては、例えば、α-ピネン樹脂、β-ピネン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂及び水素添加テルペン樹脂等のテルペン系樹脂などが挙げられる。
【0063】
テルペン単量体としては、イソプレン等の炭素数5のヘミテルペン類、α-ピネン、β-ピネン、ジペンテン、d-リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α-フェランドレン、α-テルピネン、γ-テルピネン、テルピノーレン、1,8-シネオール、1,4-シネオール、α-テルピネオール、β-テルピネオール、γ-テルピネオール、サビネン、パラメンタジエン類、カレン類等の炭素数10のモノテルペン類、カリオフィレン、ロンギフォレン等の炭素数15のセスキテルペン類、炭素数20のジテルペン類等が挙げられ、芳香族単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、イソプロペニルトルエン等が挙げられ、フェノール類としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、ビスフェノールA等が挙げられる。
【0064】
前述のホウ素含有化合物で変性された変性樹脂について、前記式(i)で表されるフェニルボロン酸化合物と、前記樹脂との反応過程は、特に限定されず、公知の方法を使用でき、水中有機溶媒中などの溶媒中で行ってもよいし、無溶媒で行ってもよい。溶媒としては、特に限定されないが、前記フェニルボロン酸化合物及び前記ポリマーが共に溶解し易いものであることが好ましい。溶媒の具体例としては、例えば、前述のものが挙げられる。反応温度、時間は、前記フェニルボロン酸化合物、前記ポリマーに応じて、反応が進行する温度、時間を適宜設定すればよい。
【0065】
具体的な化合物の合成例を説明すると、例えば、図3で示される合成経路により、変性樹脂Aを合成できる。
【0066】
具体的には、例えば、図3のガムロジンと、フェニルボロン酸化合物Cとを溶媒に溶解し、作製された溶液を適切な温度条件下で撹拌して反応させ、反応終了後、生成物を含む溶液を沈殿、乾燥し、目的物の反応物(式(i)で表されるフェニルボロン酸化合物で変性された変性ロジン系樹脂:フェニルボロン酸付加ロジン(変性樹脂A))を得る。
【0067】
前記ゴム組成物は、充填剤(フィラー)を含み、下記式(1)を満たす。
(1)Fc>40
(式中、Fcは、ゴム成分100質量部に対する充填剤の含有量(質量部)である。)
式(1)の右辺は、好ましくは60、より好ましくは80、更に好ましくは90である。また、Fcは、好ましくは200質量部以下、より好ましくは180質量部以下、更に好ましくは160質量部以下である。上記範囲内であると、ウェットグリップ性能などのタイヤ性能がより良好に得られる傾向がある。
【0068】
充填剤としては、シリカ、カーボンブラック、炭酸カルシウム、タルク、アルミナ、クレイ、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、マイカなどの無機フィラー;難分散性フィラー;等のゴム分野で公知のものを使用できる。タイヤ部材に適用した場合のタイヤ性能の観点からは、シリカ、カーボンブラックが好ましい。
【0069】
使用可能なシリカとしては、例えば、乾式法シリカ(無水シリカ)、湿式法シリカ(含水シリカ)などが挙げられる。なかでも、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。シリカとしては、例えば、デグッサ社、ローディア社、東ソー・シリカ(株)、ソルベイジャパン(株)、(株)トクヤマ等の製品を使用できる。
【0070】
シリカの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは10m/g以上、より好ましくは20m/g以上、更に好ましくは30m/g以上である。また、シリカのNSAの上限は特に限定されないが、好ましくは300m/g以下、より好ましくは275m/g以下、更に好ましくは250m/g以下である。上記範囲内であると、ウェットグリップ性能などのタイヤ性能がより良好に得られる傾向がある。
なお、本明細書において、シリカのNSAは、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される値である。
【0071】
前記ゴム組成物において、シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは40質量部以上、より好ましくは50質量部以上、更に好ましくは80質量部以上、特に好ましくは90質量部以上である。上限は、好ましくは200質量部以下、より好ましくは150質量部以下、更に好ましくは120質量部以下である。上記範囲内であると、ウェットグリップ性能などのタイヤ性能がより良好に得られる傾向がある。
【0072】
シリカを含有する場合、シリカとともにシランカップリング剤を配合してもよい。
使用可能なシランカップリング剤としては、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができ特に限定されず、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、などのスルフィド系、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、Momentive社製のNXT、NXT-Zなどのメルカプト系、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル系、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、などのグリシドキシ系、3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシランなどのクロロ系などが挙げられる。市販品としては、デグッサ社、Momentive社、信越シリコーン(株)、東京化成工業(株)、アヅマックス(株)、東レ・ダウコーニング(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スルフィド系、メルカプト系が好ましい。
【0073】
前記ゴム組成物において、シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、3質量部以上が好ましく、6質量部以上がより好ましい。また、上記含有量は、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましい。
【0074】
使用可能なカーボンブラックとしては、N134、N110、N220、N234、N219、N339、N330、N326、N351、N550、N762などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。市販品としては、例えば、旭カーボン(株)、キャボットジャパン(株)、東海カーボン(株)、三菱ケミカル(株)、ライオン(株)、新日化カーボン(株)、コロンビアカーボン社等の製品を使用できる。
【0075】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは10m/g以上、より好ましくは20m/g以上、更に好ましくは30m/g以上である。また、シリカのNSAの上限は特に限定されないが、好ましくは300m/g以下、より好ましくは275m/g以下、更に好ましくは250m/g以下である。上記範囲内であると、ウェットグリップ性能などのタイヤ性能がより良好に得られる傾向がある。
なお、本明細書において、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JIS K6217-2:2001によって求められる。
【0076】
前記ゴム組成物において、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは3質量部以上、より好ましくは5質量部以上、更に好ましくは6質量部以上である。上限は、好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部以下、更に好ましくは20質量部以下である。上記範囲内であると、ウェットグリップ性能などのタイヤ性能がより良好に得られる傾向がある。
【0077】
前記ゴム組成物は、可塑剤を含んでもよい。
ここで、可塑剤とは、ゴム成分に可塑性を付与する材料であり、例えば、液体可塑剤(常温(25℃)で液体状態の可塑剤)、樹脂(常温(25℃)で固体状態の樹脂)等が挙げられる。なお、本明細書において、前述の変性樹脂は、「樹脂」に該当する。
【0078】
ゴム組成物において、可塑剤の含有量(液体可塑剤、樹脂などの合計含有量)は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは15質量部以上、特に好ましくは20質量部以上である。上限は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは40質量部以下である。上記範囲内であると、ウェットグリップ性能などのタイヤ性能がより良好に得られる傾向がある。
【0079】
ゴム組成物に使用可能な液体可塑剤(常温(25℃)で液体状態の可塑剤)としては特に限定されず、オイル、液状ポリマー(液状樹脂、液状ジエン系ポリマー、液状ファルネセン系ポリマーなど)などが挙げられる。これらの液体可塑剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0080】
ゴム組成物が液体可塑剤を含む場合、液体可塑剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは15質量部以上、特に好ましくは20質量部以上である。上限は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは40質量部以下である。上記範囲内であると、ウェットグリップ性能などのタイヤ性能がより良好に得られる傾向がある。なお、液体可塑剤の含有量には、油展ゴムに含まれるオイルの量も含まれる。
【0081】
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油、又はその混合物が挙げられる。プロセスオイルとしては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどを用いることができる。植物油としては、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、ロジン、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、こめ油、べに花油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、桐油等が挙げられる。市販品としては、出光興産(株)、三共油化工業(株)、(株)ジャパンエナジー、オリソイ社、H&R社、豊国製油(株)、昭和シェル石油(株)、富士興産(株)、日清オイリオグループ(株)等の製品を使用できる。なかでも、プロセスオイル(パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル等)、植物油が好ましい。
【0082】
液状樹脂としては、テルペン系樹脂(テルペンフェノール樹脂、芳香族変性テルペン樹脂を含む)、ロジン樹脂、スチレン系樹脂、C5系樹脂、C9系樹脂、C5/C9系樹脂、ジシクロペンタジエン(DCPD)樹脂、クマロンインデン系樹脂(クマロン、インデン単体樹脂を含む)、フェノール樹脂、オレフィン系樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。また、これらの水素添加物も使用可能である。
【0083】
液状ジエン系ポリマーとしては、25℃で液体状態の液状スチレンブタジエン共重合体(液状SBR)、液状ブタジエン重合体(液状BR)、液状イソプレン重合体(液状IR)、液状スチレンイソプレン共重合体(液状SIR)、液状スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(液状SBSブロックポリマー)、液状スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体(液状SISブロックポリマー)、液状ファルネセン重合体、液状ファルネセンブタジエン共重合体等が挙げられる。これらは、末端や主鎖が極性基で変性されていても構わない。また、これらの水素添加物も使用可能である。
【0084】
液状ファルネセン系ポリマーとは、ファルネセンを重合することで得られる重合体であり、ファルネセンに基づく構成単位を有する。ファルネセンには、α-ファルネセン((3E,7E)-3,7,11-トリメチル-1,3,6,10-ドデカテトラエン)やβ-ファルネセン(7,11-ジメチル-3-メチレン-1,6,10-ドデカトリエン)などの異性体が存在するが、以下の構造を有する(E)-β-ファルネセンが好ましい。
【化3】
【0085】
液状ファルネセン系ポリマーは、ファルネセンの単独重合体(ファルネセン単独重合体)でも、ファルネセンとビニルモノマーとの共重合体(ファルネセン-ビニルモノマー共重合体)でもよい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、ファルネセンとビニルモノマーとの共重合体が好ましい。
【0086】
ビニルモノマーとしては、スチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、α-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、4-tert-ブチルスチレン、5-t-ブチル-2-メチルスチレン、ビニルエチルベンゼン、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、tert-ブトキシスチレン、ビニルベンジルジメチルアミン、(4-ビニルベンジル)ジメチルアミノエチルエーテル、N,N-ジメチルアミノエチルスチレン、N,N-ジメチルアミノメチルスチレン、2-エチルスチレン、3-エチルスチレン、4-エチルスチレン、2-t-ブチルスチレン、3-t-ブチルスチレン、4-t-ブチルスチレン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、ビニルトルエン、ビニルピリジン、ジフェニルエチレン、3級アミノ基含有ジフェニルエチレンなどの芳香族ビニル化合物や、ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエン化合物などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、ブタジエンが好ましい。すなわち、ファルネセン-ビニルモノマー共重合体としては、ファルネセンとブタジエンとの共重合体(ファルネセン-ブタジエン共重合体)が好ましい。
【0087】
ファルネセン-ビニルモノマー共重合体において、ファルネセンとビニルモノマーとの質量基準の共重合比(ファルネセン/ビニルモノマー)は、40/60~90/10が好ましい。
【0088】
液状ファルネセン系ポリマーは、重量平均分子量(Mw)が3000~30万のものを好適に使用できる。液状ファルネセン系ポリマーのMwは、好ましくは8000以上、より好ましくは10000以上であり、また、好ましくは10万以下、より好ましくは6万以下、更に好ましくは5万以下である。
【0089】
ゴム組成物に使用可能な上記樹脂(常温(25℃)で固体状態の樹脂)としては、前述の樹脂が上記ホウ素含有化合物で変性された変性樹脂以外に、該変性樹脂の骨格を形成する前述の樹脂も使用できる。
【0090】
ゴム組成物において、上記樹脂の含有量(前記変性樹脂、それ以外の樹脂の合計含有量)は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは15質量部以上、特に好ましくは20質量部以上である。上限は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは40質量部以下である。上記範囲内であると、ウェットグリップ性能などのタイヤ性能がより良好に得られる傾向がある。
【0091】
可塑剤としては、例えば、丸善石油化学(株)、住友ベークライト(株)、ヤスハラケミカル(株)、東ソー(株)、RutgersChemicals社、BASF社、アリゾナケミカル社、日塗化学(株)、(株)日本触媒、ENEOS(株)、荒川化学工業(株)、田岡化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0092】
前記ゴム組成物は、耐クラック性、耐オゾン性等の観点から、老化防止剤を含有することが好ましい。
【0093】
老化防止剤としては特に限定されないが、フェニル-α-ナフチルアミン等のナフチルアミン系老化防止剤;オクチル化ジフェニルアミン、4,4′-ビス(α,α′-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系老化防止剤;N-イソプロピル-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-(1,3-ジメチルブチル)-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N′-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン等のp-フェニレンジアミン系老化防止剤;2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合物等のキノリン系老化防止剤;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、スチレン化フェノール等のモノフェノール系老化防止剤;テトラキス-[メチレン-3-(3′,5′-ジ-t-ブチル-4′-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等のビス、トリス、ポリフェノール系老化防止剤などが挙げられる。なかでも、p-フェニレンジアミン系老化防止剤、キノリン系老化防止剤が好ましく、N-(1,3-ジメチルブチル)-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合物がより好ましい。市販品としては、例えば、精工化学(株)、住友化学(株)、大内新興化学工業(株)、フレクシス社等の製品を使用できる。
【0094】
前記ゴム組成物において、老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上である。該含有量は、好ましくは7.0質量部以下、より好ましくは4.0質量部以下である。
【0095】
前記ゴム組成物は、ステアリン酸を含んでもよい。
前記ゴム組成物において、ステアリン酸の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5~10質量部以上、より好ましくは0.5~5質量部である。
【0096】
なお、ステアリン酸としては、従来公知のものを使用でき、例えば、日油(株)、花王(株)、富士フイルム和光純薬(株)、千葉脂肪酸(株)等の製品を使用できる。
【0097】
前記ゴム組成物は、酸化亜鉛を含んでもよい。
前記ゴム組成物において、酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5~10質量部、より好ましくは1~5質量部である。
【0098】
なお、酸化亜鉛としては、従来公知のものを使用でき、例えば、三井金属鉱業(株)、東邦亜鉛(株)、ハクスイテック(株)、正同化学工業(株)、堺化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0099】
前記ゴム組成物には、ワックスを配合してもよい。
前記ゴム組成物において、ワックスの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5~10質量部、より好ましくは1~5質量部である。
【0100】
ワックスとしては特に限定されず、石油系ワックス、天然系ワックスなどが挙げられ、また、複数のワックスを精製又は化学処理した合成ワックスも使用可能である。これらのワックスは、単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0101】
石油系ワックスとしては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等が挙げられる。天然系ワックスとしては、石油外資源由来のワックスであれば特に限定されず、例えば、キャンデリラワックス、カルナバワックス、木ろう、ライスワックス、ホホバろうなどの植物系ワックス;ミツロウ、ラノリン、鯨ろうなどの動物系ワックス;オゾケライト、セレシン、ペトロラクタムなどの鉱物系ワックス;及びこれらの精製物などが挙げられる。市販品としては、例えば、大内新興化学工業(株)、日本精蝋(株)、精工化学(株)等の製品を使用できる。
【0102】
前記ゴム組成物には、硫黄を配合してもよい。
前記ゴム組成物において、硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは0.7質量部以上である。該含有量は、好ましくは6.0質量部以下、より好ましくは4.0質量部以下、更に好ましくは3.0質量部以下である。
【0103】
硫黄としては、ゴム工業において一般的に用いられる粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、可溶性硫黄などが挙げられる。市販品としては、鶴見化学工業(株)、軽井沢硫黄(株)、四国化成工業(株)、フレクシス社、日本乾溜工業(株)、細井化学工業(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0104】
前記ゴム組成物は、加硫促進剤を含んでもよい。
前記ゴム組成物において、加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、通常、0.3~10質量部、好ましくは0.5~7質量部である。
【0105】
加硫促進剤の種類は特に制限はなく、通常用いられているものを使用可能である。加硫促進剤としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド等のチアゾール系加硫促進剤;テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT-N)等のチウラム系加硫促進剤;N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N’-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤;ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤が好ましい。
【0106】
前記ゴム組成物には、上記成分以外にも、離型剤や顔料等の応用分野に従って、それらの使用に使われる通常の添加物を適宜配合してもよい。
【0107】
前記ゴム組成物は、下記式(2)を満たす。このように、該ゴム組成物は、水によって可逆的に損失正接(tanδ)が変化する。
(2)水湿潤時のtanδ/乾燥時のtanδ>1.00
(式中、tanδは、温度30℃、初期歪10%、動歪2%、周波数10Hz、伸長モードの条件下で測定した損失正接である。)
式(2)の右辺は、好ましくは1.15、より好ましくは1.20、更に好ましくは1.25、特に好ましくは1.28である。水湿潤時のtanδ/乾燥時のtanδの上限は特に限定されないが、好ましくは1.80以下、より好ましくは1.60以下、更に好ましくは1.50以下、特に好ましくは1.40以下である。上記範囲内であると、効果が好適に得られる傾向がある。
【0108】
前記ゴム組成物は、下記式を満たすことが望ましい。
乾燥時のtanδ>0.120
(式中、tanδは、温度30℃、初期歪10%、動歪2%、周波数10Hz、伸長モードの条件下で測定した損失正接である。)
式の右辺は、好ましくは0.130、より好ましくは0.150、更に好ましくは0.170である。乾燥時のtanδの上限は特に限定されないが、好ましくは0.350以下、より好ましくは0.280以下、更に好ましくは0.250以下である。上記範囲内であると、効果が好適に得られる。
【0109】
前記ゴム組成物は、下記式を満たすことが望ましい。
水湿潤時のtanδ>0.180
(式中、tanδは、温度30℃、初期歪10%、動歪2%、周波数10Hz、伸長モードの条件下で測定した損失正接である。)
式の右辺は、好ましくは0.200、より好ましくは0.210、更に好ましくは0.220である。水湿潤時のtanδの上限は特に限定されないが、好ましくは0.450以下、より好ましくは0.350以下、更に好ましくは0.280以下である。上記範囲内であると、効果が好適に得られる。
【0110】
なお、本明細書において、ゴム組成物のtanδは、ゴム組成物が架橋性である場合、架橋後のゴム組成物のtanδを意味し、例えば、ジエン系ゴム、硫黄等を含む架橋性のゴム組成物の場合、加硫後(架橋後)のゴム組成物のtanδを意味する。また、tanδは、架橋後のゴム組成物に対し、粘弾性試験を実施することで得られる値である。
【0111】
本明細書において、水によって可逆的に損失正接(tanδ)が変化するとは、水の存在によって、ゴム組成物(加硫後)のtanδが可逆的に大きくなったり、小さくなったりすることを意味する。なお、例えば、乾燥時→水湿潤時→乾燥時と変化した場合に、tanδが可逆的に変化すればよく、先の乾燥時と、後の乾燥時において、同一のtanδを有さなくてもよいし、先の乾燥時と、後の乾燥時において、同一のtanδを有していてもよい。
【0112】
本明細書において、乾燥時のtanδとは、乾燥している状態のゴム組成物のtanδを意味し、具体的には、実施例に記載の方法により乾燥したゴム組成物のtanδを意味する。
本明細書において、水湿潤時のtanδとは、水によって湿潤している状態のゴム組成物のtanδを意味し、具体的には、実施例に記載の方法により、水によって湿潤したゴム組成物のtanδを意味する。
【0113】
本明細書において、ゴム組成物のtanδは、温度30℃、初期歪10%、動歪2%、周波数10Hz、伸長モードの条件下で測定したtanδである。
【0114】
なお、ゴム組成物の上記式(2)で表される水による可逆的なtanδ変化は、例えば、ホウ素含有化合物及び/又は樹脂を配合すること、樹脂がホウ素含有化合物で変性された変性樹脂を配合すること、により、水の添加による結合の開裂、水の乾燥による結合の再結合が生じる結果、水湿潤時にはtanδ上昇、乾燥時にはtanδ低下が起きることにより実現できると考えられる。
【0115】
乾燥時のtanδは、ゴム組成物に配合される薬品(特に、ゴム成分、充填剤、軟化剤、樹脂、硫黄、加硫促進剤、シランカップリング剤)の種類や量によって調整することが可能であり、例えば、ゴム成分と相溶性の低い軟化剤(例えば、樹脂)を使用したり、非変性ゴムを使用したり、充填剤量を増量したり、可塑剤としてのオイルを増やしたり、硫黄を減らしたり、加硫促進剤を減らしたり、シランカップリング剤を減らしたりすることにより、乾燥時のtanδは大きくなる傾向がある。
【0116】
水湿潤時のtanδは、例えば、ホウ素含有化合物及び/又は樹脂を配合すること、樹脂がホウ素含有化合物で変性された変性樹脂を配合することにより、乾燥時に比べて、水湿潤時のtanδを上昇させることができ、乾燥時、水湿潤時のtanδの調整が可能となる。具体的には、ホウ素含有化合物及び/又は樹脂を配合すること、樹脂がホウ素含有化合物で変性された変性樹脂を配合することで、水の添加による結合の開裂、水の乾燥による結合の再結合が生じるゴム組成物となり、乾燥時に比べて、水湿潤時のtanδを上昇させることができる。また、水湿潤時のtanδは、ゴム組成物に配合される薬品の種類や量によって調整することが可能であり、例えば、前述の乾燥時のtanδの調整方法と同様の手法を用いることで、水湿潤時のtanδにおいても同様の傾向を得ることができる。
【0117】
そして、具体的には、乾燥時のtanδを所望の範囲内に調整した上で、ホウ素含有化合物及び/又は樹脂を配合すること、樹脂がホウ素含有化合物で変性された変性樹脂を配合すること、により、ゴム組成物において、上記式(2)で表される水による可逆的なtanδ変化を実現できる。
【0118】
前記ゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、各成分をオープンロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練装置を用いて混練し、必要に応じて架橋する方法などにより製造できる。なお、混練条件としては、混練温度は、通常50~200℃、好ましくは80~190℃であり、混練時間は、通常30秒~30分、好ましくは1分~30分である。
【0119】
前記ゴム組成物は、タイヤ、靴底、床材、防振材、免震材、ブチル枠材、ベルト、ホース、パッキン、薬栓、その他のゴム製工業製品等に用いることができる。特に、ウェットグリップ性能などのタイヤ性能に優れることから、タイヤ用ゴム組成物として用いることが好ましい。
【0120】
前記ゴム組成物を適用するタイヤ部材としては特に限定されず、トレッド(キャップトレッドともいう)、サイドウォール、ベーストレッド、ビードエイペックス、クリンチエイペックス、インナーライナー、アンダートレッド、ブレーカートッピング、プライトッピング等、任意のタイヤの各部材が挙げられる。なかでも、ウェットグリップ性能などに優れることから、トレッドに好適に適用できる。
【0121】
<タイヤ>
前記ゴム組成物は、タイヤに好適に使用できる。タイヤとしては、空気入りタイヤ、非空気入りタイヤなどが挙げられるが、なかでも、空気入りタイヤが好ましい。特に、夏用タイヤ(サマータイヤ)、冬用タイヤ(スタッドレスタイヤ、スノータイヤ、スタッドタイヤなど)、オールシーズンタイヤ、等として好適に使用できる。タイヤは、乗用車用タイヤ、大型乗用車用、大型SUV用タイヤ、トラック、バスなどの重荷重用タイヤ、ライトトラック用タイヤ、二輪自動車用タイヤ、レース用タイヤ(高性能タイヤ)などに使用可能である。なかでも、乗用車用タイヤ、ライトトラック用タイヤに好適に使用できる。
【0122】
タイヤは、前記ゴム組成物を用いて通常の方法により製造される。例えば、各種材料を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でトレッドなどのタイヤ部材の形状に合わせて押し出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造することができる。
【実施例0123】
以下では、実施をする際に好ましいと考えられる例(実施例)を示すが、本発明の範囲は実施例に限られない。
【0124】
<フェニルボロン酸化合物の合成>
図1に示されている合成経路により、フェニルボロン酸化合物C(式(1)で表されるフェニルボロン酸化合物)を合成する。
具体的には、以下の方法で合成する。
【0125】
メタノール中で、フェニルボロン酸化合物Bと、アミン化合物とを、室温で終夜反応させて、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)で還元させて、塩酸(HCl)でBoc(tert-ブトキシカルボニル基)脱保護させてフェニルボロン酸化合物Cを合成する。
【0126】
図2に示されている合成物のH-NMRスペクトルから、フェニルボロン酸化合物C(式(i)で表されるフェニルボロン酸化合物)が合成されていることが分かる。
【0127】
<変性樹脂の合成>
図3に示されている合成経路により、変性樹脂A(式(i)で表されるフェニルボロン酸化合物で変性された変性ロジン系樹脂)を合成する。
具体的には、以下の方法で合成する。
【0128】
(変性樹脂Aの合成)
ビーカーにガムロジン、DMFを加え、攪拌して溶解する。その溶液中に、1-ヒドロキシベンゾトリアゾールを加えて、攪拌して分散する。上記フェニルボロン酸化合物CをDMFに溶解し、溶液をガムロジンの混合溶液に加える。溶液にトリエタノールアミンを滴下して、終夜攪拌する。翌日に反応液を水に沈殿させて、固体を回収し、水洗し、凍結乾燥して変性樹脂Aが得られる。
【0129】
なお、図1、3のフェニルボロン酸化合物C、変性樹脂Aの合成に用いる材料は、以下のとおりである。
フェニルボロン酸化合物B:Boron Molecular Pty Limited製(図1の化合物B)
アミン化合物:Combi-Blocks製(図1のアミン化合物)
水素化ホウ素ナトリウム(NaBH):富士フイルム和光純薬(株)製
塩酸(HCl):富士フイルム和光純薬(株)製
ガムロジン:富士フイルム和光純薬(株)製(Tg40℃)
DMF:富士フイルム和光純薬(株)製
1-ヒドロキシベンゾトリアゾール:富士フイルム和光純薬(株)製
トリエタノールアミン:富士フイルム和光純薬(株)製
【0130】
図4に示されている変性樹脂AのIRスペクトルから、反応後、ガムロジンのCOOHピークが低くなり、新たにアミドピークが見られる。この結果から、変性樹脂A(式(i)で表されるフェニルボロン酸化合物で変性された変性ロジン系樹脂)が合成されていることが分かる。
【0131】
変性樹脂Aについて、常温、常圧の条件で恒量になるまで乾燥すること、水に浸漬して水湿潤させることを繰り返すと、可逆的に3分子で脱水縮合し、ボロキシン(ボロキシン架橋)が生成し、次いで、水に触れると、生成するボロキシン架橋点が分解すると考えられる。よって、変性樹脂Aが、水による可逆的な物性変化の機能を有していると考えられる。
【0132】
<試験用タイヤの製造>
表1の配合に従い、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を混練し混練物を得る。
前記混練物に、表1の配合に従い、硫黄及び加硫促進剤を投入して70℃で8分間混練し、未加硫ゴム組成物を得る。
前記未加硫ゴム組成物をキャップ層の形状に押出し成形し、タイヤ成形機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、170℃の条件下で20分間プレス加硫し、試験用タイヤ(サイズ195/65R15、仕様:表1)を得る。
【0133】
表1に従って配合、仕様を変化させた組成物により得られる試験用タイヤを想定して、下記評価方法に基づいて算出した結果を表1に示す。
基準比較例は、比較例1とする。
【0134】
SBR1:JSR(株)製のHPR850(変性SBR、スチレン含有量:27.5質量%、ビニル結合量:59.0質量%)
SBR2:JSR(株)製のHPR840(変性SBR、スチレン含有量:10質量%、ビニル結合量:41質量%)
NR:野村貿易(株)のSVR-L
BR:JSR(株)製のBR730
カーボンブラック:三菱ケミカル(株)製のダイアブラックI(N220、NSA114m/g)
シリカ:エボニック・デグサ社製のウルトラシルVN3(NSA175m/g)
シランカップリング剤:EVONIK社製のSi266(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
オイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスNH-70S(アロマ系プロセスオイル)
及びスチレンの共重合体、軟化点:85℃)
ガムロジン:富士フイルム和光純薬(株)製(Tg40℃)
変性樹脂A:上記で合成(Tg110℃)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄(5%オイル含有)
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(ジフェニルグアニジン)
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N-tert-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(TBBS))
【0135】
<粘弾性試験(30℃tanδ)>
各試験用タイヤのキャップトレッドのゴム層内部からタイヤ周方向が長辺となる様に長さ40mm×幅3mm×厚さ0.5mmの粘弾性測定サンプルを採取し、キャップトレッドのtanδを、TAインスツルメント社製のRSAシリーズを用いて、温度30℃、初期歪10%、動歪2%、周波数10Hz、伸長モード、測定時間10分の条件下で測定し、測定開始から10分後の測定値を得る。なお、サンプルの厚み方向をタイヤ半径方向とする。
【0136】
<乾燥時のtanδ>
上記粘弾性測定サンプル(長さ40mm×幅3mm×厚さ0.5mm)を常温、常圧の条件で恒量になるまで乾燥し、乾燥時の加硫ゴム組成物(ゴム片)の損失正接tanδを上記の方法で測定し、乾燥時のtanδとする。
【0137】
<水湿潤時のtanδ>
上記粘弾性測定サンプル(長さ40mm×幅3mm×厚さ0.5mm)を100mlの水に23℃で2時間浸漬させることにより、水湿潤時の加硫ポリマー組成物を作成し、水湿潤時の加硫ゴム組成物(ゴム片)の損失正接tanδを、RSAの浸漬測定治具を用いて、水中にて上記の方法で粘弾性を測定し、水湿潤時のtanδとする。なお、水温を30℃に設定する。
【0138】
<ウェットグリップ性能>
各試験用タイヤを車両(国産FF2000cc)の全輪に装着し、ウェット路面のコースを10周走行させ、その際のウェット路面領域でのブレーキ性能を20人のテストドライバーが1点から5点の5段階で評価する。評点が大きいほど、性能が優れている。20人の評点の合計点を算出し、基準比較例の合計点を100とし、指数化する。指数が大きいほど、ウェットグリップ性能に優れている。
【0139】
【表1】
【0140】
本発明(1)は、ホウ素、ゴム成分、及び充填剤を含み、下記式(1)~(2)を満たすゴム組成物である。
(1)Fc>40
(式中、Fcは、ゴム成分100質量部に対する充填剤の含有量(質量部)である。)
(2)水湿潤時のtanδ/乾燥時のtanδ>1.00
(式中、tanδは、温度30℃、初期歪10%、動歪2%、周波数10Hz、伸長モードの条件下で測定した損失正接である。)
【0141】
本発明(2)は、下記式(i)で表されるフェニルボロン酸化合物で変性された変性樹脂を含む本発明(1)記載のゴム組成物である。
【化4】
(R11は、同一又は異なって、置換基を有してもよい1価炭化水素基であり、ヘテロ原子を含んでもよいである。nは、1~5の整数である。)
【0142】
本発明(3)は、前記変性樹脂が、ロジン系樹脂を前記式(i)で表されるフェニルボロン酸化合物で変性した変性ロジン系樹脂である本発明(2)記載のゴム組成物である。
【0143】
本発明(4)は、下記式を満たす本発明(1)~(3)のいずれかとの任意の組合せのゴム組成物である。
Fc>60
(式中、Fcは、ゴム成分100質量部に対する充填剤の含有量(質量部)である。)
【0144】
本発明(5)は、下記式を満たす本発明(1)~(3)のいずれかとの任意の組合せのゴム組成物である。
Fc>80
(式中、Fcは、ゴム成分100質量部に対する充填剤の含有量(質量部)である。)
【0145】
本発明(6)は、下記式を満たす本発明(1)~(5)のいずれかとの任意の組合せのゴム組成物である。
水湿潤時のtanδ/乾燥時のtanδ>1.20
(式中、tanδは、温度30℃、初期歪10%、動歪2%、周波数10Hz、伸長モードの条件下で測定した損失正接である。)
【0146】
本発明(7)は、下記式を満たす本発明(1)~(5)のいずれかとの任意の組合せのゴム組成物である。
水湿潤時のtanδ/乾燥時のtanδ>1.25
(式中、tanδは、温度30℃、初期歪10%、動歪2%、周波数10Hz、伸長モードの条件下で測定した損失正接である。)
【0147】
本発明(8)は、下記式を満たす本発明(1)~(7)のいずれかとの任意の組合せのゴム組成物である。
乾燥時のtanδ>0.120
(式中、tanδは、温度30℃、初期歪10%、動歪2%、周波数10Hz、伸長モードの条件下で測定した損失正接である。)
【0148】
本発明(9)は下記式を満たす本発明(1)~(8)のいずれかとの任意の組合せのゴム組成物である。
水湿潤時のtanδ>0.180
(式中、tanδは、温度30℃、初期歪10%、動歪2%、周波数10Hz、伸長モードの条件下で測定した損失正接である。)
【0149】
本発明(10)は、本発明(1)~(9)のいずれかとの任意の組合せのゴム組成物で構成されたトレッドを有するタイヤである。

図1
図2
図3
図4