IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ニチコン株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-電源装置 図1
  • 特開-電源装置 図2
  • 特開-電源装置 図3
  • 特開-電源装置 図4
  • 特開-電源装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055468
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】電源装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240411BHJP
【FI】
H02M7/48 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162418
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】植村 仁
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770BA20
5H770CA01
5H770DA01
5H770DA10
5H770DA41
5H770EA01
5H770JA06W
5H770JA06Z
5H770JA07W
5H770JA07Z
5H770JA11W
5H770JA11Z
5H770JA14W
5H770JA14Z
5H770KA05W
5H770LA01W
5H770LA01Z
5H770LA02Z
(57)【要約】
【課題】発熱や効率低下を抑えつつ突入電流を抑制する。
【解決手段】DC-DCコンバータ3と、DC-DCコンバータ3からの入力直流電圧をスイッチングするスイッチ回路4と、DC-DCコンバータ3とスイッチ回路4との間に接続された突入電流抑制回路6と、を備える。突入電流抑制回路6は、高電位ライン61に介装されており、アノード側がDC-DCコンバータ3に接続されたダイオードD5と、ダイオードD5のカソード側で高電位ライン61に一端が接続された抵抗素子R1と、抵抗素子R1の他端に一端が接続され、低電位ライン62に他端が接続されたコンデンサC1と、抵抗素子R1を短絡させるトランジスタQと、を備える。トランジスタQは、ダイオードD5のカソード側の電圧V2からアノード側の電圧V1を減算した電圧差が所定値(≧0V)を超えた場合に抵抗素子R1を短絡させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導性負荷に直流電圧を供給する電源装置であって、
直流源と、
複数のスイッチ素子を有し、当該複数のスイッチ素子により前記直流源からの入力直流電圧をスイッチングするスイッチ回路と、
前記スイッチ回路からの出力電圧を直流化して前記誘導性負荷に供給する直流化回路と、
前記直流源と前記スイッチ回路との間に接続された突入電流抑制回路と、
を備え、
前記突入電流抑制回路は、
前記直流源の高電位出力端子と前記スイッチ回路の高電位入力端子とを結ぶ高電位ラインに介装され、アノード側が前記直流源の前記高電位出力端子に接続された第1ダイオードと、
前記第1ダイオードのカソード側で前記高電位ラインに一端が接続された抵抗素子と、
前記抵抗素子の他端に一端が接続され、前記直流源の低電位出力端子と前記スイッチ回路の低電位入力端子とを結ぶ低電位ラインに他端が接続されたコンデンサと、
前記第1ダイオードのカソード側の電圧からアノード側の電圧を減算した電圧差が0V以上である所定値を超えた場合に前記抵抗素子を短絡させる短絡手段と、を有することを特徴とする電源装置。
【請求項2】
前記短絡手段は、前記抵抗素子と並列に接続されたトランジスタであって、
前記トランジスタは、第1主電極が前記第1ダイオードのカソード側に接続されており、第2主電極が前記抵抗素子と前記コンデンサとの間に接続されており、制御電極が前記第1ダイオードのアノード側に導通接続されていることを特徴とする請求項1に記載の電源装置。
【請求項3】
前記突入電流抑制回路は、
前記制御電極と前記直流源の前記高電位出力端子との間に、カソード側が前記直流源の前記高電位出力端子に導通接続された第2ダイオードをさらに有することを特徴とする請求項2に記載の電源装置。
【請求項4】
前記突入電流抑制回路は、
前記制御電極と前記第1ダイオードのアノード側との間に、カソード側が前記制御電極に導通接続された定電圧ダイオードをさらに有することを特徴とする請求項2に記載の電源装置。
【請求項5】
前記突入電流抑制回路は、
前記抵抗素子と並列に、アノード側が前記コンデンサの前記一端に接続された第3ダイオードをさらに有することを特徴とする請求項1に記載の電源装置。
【請求項6】
前記スイッチ回路は、前記誘導性負荷へ供給する直流電圧の極性を切り替え可能に構成されていることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導性負荷に直流電圧を供給する電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、加速器等から射出される荷電粒子のビームを偏向走査するための電磁石(誘導性負荷)に直流電圧を供給する電源装置が開示されている。かかる電源装置は、整流器(直流源)からの直流電圧が入力され、電磁石に供給する直流電圧を出力するフルブリッジ回路(スイッチ回路)を備えている。フルブリッジ回路を制御することにより、電磁石に出力する電流量の調整および電流の極性の切り替えを行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-137243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている電源装置のように、負荷が電磁石のような誘導性負荷である場合は、異常発生時に保護回路が作動することによりスイッチ回路の動作が停止したときに、負荷に蓄積されたエネルギーが誘導起電力として回生される。そして、スイッチ回路に回生電流が流れ込む。
【0005】
そこで、スイッチ回路に直流電圧を供給する直流源とスイッチ回路との間に、負荷の容量の応じた静電容量を有するコンデンサを設け、回生電流がコンデンサに流れ込むようにすることが考えられる。しかしながら、かかるコンデンサの静電容量を大きくすると、直流源起動時に、コンデンサへの充電電流が突入電流となるおそれがある。
【0006】
したがって、直流源起動時の突入電流を抑制するための抵抗素子を配置することが必要となる。かかる抵抗素子は、直流源とコンデンサとの間において直流源と直列に配置される。また、かかる抵抗素子と並列にスイッチ素子を配置することで、コンデンサへの充電か完了した後の通常運転時に抵抗素子での電力損失を避けることができる。すなわち、通常運転時にはスイッチ素子をONとして抵抗素子を短絡することで、抵抗素子での電力損失を避けることができる。しかしながら、かかるスイッチ素子は、通常運転を行っている間はON状態に維持しておく必要がある。よって、発熱によりスイッチ素子が高温となる。また、スイッチ素子での消費電力の増大により効率が低下する。
【0007】
本発明の目的は、異常発生時に保護回路が作動することによりスイッチ回路の動作が停止したときに発生する誘導性負荷からの回生電流を吸収する機能を保有し、かつ通常運転時の発熱や効率低下を抑えつつ突入電流を抑制することができる電源装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電源装置は、誘導性負荷に直流電圧を供給する電源装置であって、直流源と、複数のスイッチ素子を有し、当該複数のスイッチ素子により前記直流源からの入力直流電圧をスイッチングするスイッチ回路と、前記スイッチ回路からの出力電圧を直流化して前記誘導性負荷に供給する直流化回路と、前記直流源と前記スイッチ回路との間に接続された突入電流抑制回路と、を備え、前記突入電流抑制回路は、前記直流源の高電位出力端子と前記スイッチ回路の高電位入力端子とを結ぶ高電位ラインに介装され、アノード側が前記直流源の前記高電位出力端子に接続された第1ダイオードと、前記第1ダイオードのカソード側で前記高電位ラインに一端が接続された抵抗素子と、前記抵抗素子の他端に一端が接続され、前記直流源の低電位出力端子と前記スイッチ回路の低電位入力端子とを結ぶ低電位ラインに他端が接続されたコンデンサと、前記第1ダイオードのカソード側の電圧からアノード側の電圧を減算した電圧差が0V以上である所定値を超えた場合に前記抵抗素子を短絡させる短絡手段と、を有している。
【0009】
直流源からの入力直流電圧をスイッチ回路および直流化回路を介して誘導性負荷に供給する給電時においては、第1ダイオードの順方向電流が流れるので、第1ダイオードのカソード側の電圧は順方向電圧分だけアノード側の電圧より低くなる。すなわち、第1ダイオードのカソード側の電圧からアノード側の電圧を減算した電圧差は0Vよりも小さく、所定値未満である。よって、給電時は、短絡手段は抵抗素子を短絡しない。したがって、直流源起動時には、コンデンサへの充電電流は抵抗素子によって制限されながら流れるので、突入電流を抑制することができる。抵抗素子はコンデンサと直列に接続されているので、コンデンサへの充電が完了した後の通常運転時は抵抗素子に電流が流れることがない。よって、抵抗素子での通常運転時の電力損失を避けることができる。
【0010】
また、異常発生時に保護回路が作動することによりスイッチ回路の動作が停止した時には、誘導性負荷に蓄積されたエネルギーが誘導起電力として回生され、スイッチ回路の出力側から入力側に向かって回生電流が流れる。かかる回生電流は、第1ダイオードに対して逆方向となるので第1ダイオードには流れず、抵抗素子を介してコンデンサに流れ込む。これにより、第1ダイオードのカソード側の電圧が上昇する。そして、第1ダイオードのカソード側の電圧からアノード側の電圧を減算した電圧差が所定値を超えたとき、短絡手段により抵抗素子が短絡される。抵抗素子が短絡されることで、抵抗素子によってコンデンサへの回生エネルギーの吸収効果が阻害されるのを避けることができる。このように、短絡手段は、異常発生によりスイッチ回路の動作が停止した時のみ抵抗素子を短絡する。よって、通常運転時に抵抗素子を短絡状態に維持する場合に比べて、発熱や効率低下を抑えつつ突入電流を抑制することができる。
【0011】
また、上述の電源装置においては、前記短絡手段は、前記抵抗素子と並列に接続されたトランジスタであって、前記トランジスタは、第1主電極が前記第1ダイオードのカソード側に接続されており、第2主電極が前記抵抗素子と前記コンデンサとの間に接続されており、制御電極が前記第1ダイオードのアノード側に導通接続されている。
【0012】
この構成によると、簡素な構成により、異常発生によりスイッチ回路の動作が停止した時のみ抵抗素子を短絡する短絡手段を実現することができる。
【0013】
さらに、上述の電源装置においては、前記突入電流抑制回路は、前記制御電極と前記直流源の前記高電位出力端子との間に、カソード側が前記直流源の前記高電位出力端子に導通接続された第2ダイオードをさらに有している。
【0014】
この構成によると、直流源の高電位出力端からトランジスタの制御電極に電流が流れるのを防ぐことができる。
【0015】
加えて、上述の電源装置では、前記突入電流抑制回路は、前記制御電極と前記第1ダイオードのアノード側との間に、カソード側が前記制御電極に導通接続された定電圧ダイオードをさらに有している。
【0016】
この構成によると、第1ダイオードのカソード側の電圧からアノード側の電圧を減算した電圧差が定電圧ダイオードのツェナー電圧を超えるまでは短絡手段により抵抗素子が短絡されないようにすることができるので、短絡手段の誤作動を抑制することができる。
【0017】
さらに、上述の電源装置では、前記突入電流抑制回路は、前記抵抗素子と並列に、アノード側が前記コンデンサの前記一端に接続された第3ダイオードをさらに有している。
【0018】
この構成によると、回生電流が流れ終えた後、異常発生がなくなり、前記スイッチ回路が動作再開して誘導性負荷へ給電出力する通常運転時、第3ダイオードを介してコンデンサに溜まった電力をスムーズに放電することができる。
【0019】
また、上述の電源装置においては、前記スイッチ回路は、出力する直流電圧の極性を切り替え可能に構成されている。
【0020】
この構成によると、例えばステアリング電磁石のように、供給する直流電圧の極性を切り替え可能であることが必要である誘導性負荷に直流電圧を供給する場合に好適である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、異常発生時に保護回路が作動することによりスイッチ回路の動作が停止したときに発生する誘導性負荷からの回生電流を吸収する機能を保有し、かつ通常運転時の発熱や効率低下を抑えつつ突入電流を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態にかかる電源装置の構成を示す回路図である。
図2図1のスイッチ回路を示す図であり、(a)はPWM制御における第1状態での電流の流れを示し、(b)はPWM制御における第2状態での電流の流れを示す。
図3図1のスイッチ回路を示す図であり、誘導性負荷からの回生電流が流れ込んだ状態を示す。
図4】第1変形例にかかる電源装置のスイッチ回路を示す図である。
図5】第2変形例にかかる電源装置の突入電流抑制回路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な一実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0024】
(電源装置1の回路構成)
まず、図1図3を参照しつつ、本実施形態にかかる電源装置1の回路構成について説明する。本実施形態の電源装置1は、シンクロトロン(円形加速器)において荷電粒子のビームの軌道補正を行うステアリング電磁石2に直流電圧を供給する。電源装置1は、誘導性負荷であるステアリング電磁石2が接続される一対の出力端子T13、T14を有している。また、電源装置1は、DC-DCコンバータ3、スイッチ回路4、直流化回路5、突入電流抑制回路6および制御回路9を主に備えている。
【0025】
DC-DCコンバータ3は、直流電圧を出力する。すなわち、DC-DCコンバータ3は、本発明の直流源に相当する。本実施形態のDC-DCコンバータ3は、絶縁形である。DC-DCコンバータ3の高電位入力端子T31は入力端子T11に接続されており、低電位入力端子T32はGND端子T12に接続されている。DC-DCコンバータ3には、入力端子T11とGND端子T12との間に印加される直流電圧が入力される。DC-DCコンバータ3、入力された直流電圧を昇圧または降圧して出力する。
【0026】
スイッチ回路4は、DC-DCコンバータ3から出力された直流電圧が入力される。スイッチ回路4の高電位入力端子T41は、高電位ライン61によってDC-DCコンバータ3の高電位出力端子T33と接続されている。スイッチ回路4の低電位入力端子T42は、低電位ライン62によってDC-DCコンバータ3の低電位出力端子T34と接続されている。
【0027】
スイッチ回路4の高電位出力端子T43は、配線81によって出力端子T13と接続されている。配線81にはコイルL1が介装されている。スイッチ回路4の低電位出力端子T44は、配線82によって出力端子T14と接続されている。なお、出力端子T43、T44と出力端子T13、T14との間には、直流化回路5が接続されている。
【0028】
図2に示すように、スイッチ回路4は、4つのスイッチ素子S1~S4をブリッジ接続したフルブリッジ回路である。スイッチ回路4は、これらスイッチ素子S1~S4によりDC-DCコンバータ3からの入力直流電圧をスイッチングする。スイッチ回路4は、出力する直流電圧の極性を切り替え可能に構成されている。スイッチ素子S1~S4は、IGBTやFET等の半導体デバイスで構成されている。本実施形態のスイッチ素子S1~S4は、Nチャンネル形のIGBTである。4つのスイッチ素子S1~S4には、それぞれ還流ダイオードD1~D4が設けられている。なお、スイッチ素子がFETである場合、内部ボディダイオードが還流ダイオードとして利用可能である。
【0029】
一端が高電位入力端子T41に接続された配線71は、その他端において配線73、74に分岐している。配線73の配線71側とは反対側の端は、スイッチ素子S1のコレクタに接続されている。配線74の配線71側とは反端側の端は、スイッチ素子S3のコレクタに接続されている。
【0030】
一端が低電位入力端子T42に接続された配線72は、その他端において配線75、76に分岐している。配線75の配線72側とは反対側の端は、スイッチ素子S2のエミッタに接続されている。配線76の配線72側とは反端側の端は、スイッチ素子S4のエミッタに接続されている。
【0031】
スイッチ素子S1のエミッタとスイッチ素子S2のコレクタとは、配線77によって接続されている。すなわち、スイッチ素子S1とスイッチ素子S2とは直列に接続されている。配線77の途中には、配線79の一端が接続されている。配線79の他端は、高電位出力端子T43に接続されている。
【0032】
スイッチ素子S3のエミッタとスイッチ素子S4のコレクタとは、配線78によって接続されている。すなわち、スイッチ素子S3とスイッチ素子S4とは直列に接続されている。配線78の途中には、配線80の一端が接続されている。配線80の他端は、低電位出力端子T44に接続されている。
【0033】
図1に示すように、スイッチ回路4の一対の出力端子T43、T44と、ステアリング電磁石2が接続された出力端子T13、14との間には、直流化回路5が接続されている。直流化回路5は、スイッチ回路4からの出力電圧を直流化してステアリング電磁石2に供給する。直流化回路5は、コイルL1およびコンデンサC2からなるLC高周波フィルタである。直流化回路5は、スイッチ素子S1~S4のスイッチングによる電流リプルを減衰する。なお、図1においては、直流化回路5を構成するコイルL1は、出力端子T43と出力端子T13との間に設けられている。しかしながら、コイルL1は、出力端子T44と出力端子T14を結ぶ配線82に介装して設けても良い。
【0034】
高電位ライン61と低電位ライン62の間には、コンデンサC3が配置されている。一端が高電位ライン61に接続された配線83の他端が、コンデンサC3の一端に接続されている。一端が低電位ライン62に接続された配線84の他端が、コンデンサC3の他端に接続されている。コンデンサC3は、スイッチ回路4からのノイズを安定化させることができる。
【0035】
スイッチ回路4は、制御回路9によって制御される。制御回路9は、スイッチ素子S1、S2に対してPWM制御を行い、スイッチ回路4から出力する電流量を調整する。また、制御回路9は、スイッチ素子S3、S4に対してオン/オフ制御を行い、スイッチ回路4から出力する電流の極性の切り替えを行う。
【0036】
図2(a)および図2(b)においては、スイッチ素子S3はOFF、スイッチ素子S4はONとなっている。このとき、スイッチ回路4から出力する電流の極性は正となる。PWM制御においては、図2(a)に示すON状態(第1状態)と、図2(b)に示すOFF状態(第2状態)と、を切り替える。図2(a)、(b)においては、電流の流れる方向を二点鎖線矢印で示している。図2(a)に示すように、ON状態のときは、スイッチ素子S1はON、スイッチ素子S2はOFFとなっている。図2(b)に示すように、OFF状態のときは、スイッチ素子S1はOFF、スイッチ素子S2はONとなっている。PWM制御においては、ON状態の時間幅(デューティー)を変化させることで、スイッチ回路4から出力する電流量を調整する。
【0037】
また、スイッチ素子S3をON、スイッチ素子S4をOFFとすることで、スイッチ回路4から出力する電流の極性を負とすることができる。このときは、PWM制御においては、スイッチ素子S1をOFFとしスイッチ素子S2をONとすることでON状態(第1状態)となり、スイッチ素子S1をONとしスイッチ素子S2をOFFとすることでOFF状態(第2状態)となる。
【0038】
ここで、図3を参照しつつ、異常発生時にスイッチ回路4の出力過電流保護回路や過電圧保護回路などの保護回路が作動し、スイッチ回路4の動作が停止した場合について説明する。図3においては、電流の流れる方向を二点鎖線矢印で示している。保護回路が作動すると、スイッチ素子S1~S4は全てOFFとなる。ことのき、ステアリング電磁石2に蓄積されたエネルギーが誘導起電力として回生される。回生電流は、スイッチ回路4の還流ダイオードD2、D3を介してスイッチ回路4の出力側から入力側に向かって流れ、後で詳述するコンデンサC1に流れ込む。
【0039】
図1に戻って、突入電流抑制回路6は、DC-DCコンバータ3とスイッチ回路4との間に接続されている。突入電流抑制回路6は、ダイオードD5、抵抗素子R1、コンデンサC1、トランジスタQ、定電圧ダイオードZD、ダイオードD6およびダイオードD7を主に有している。
【0040】
ダイオードD5は、DC-DCコンバータ3の高電位出力端子T33とスイッチ回路4の高電位入力端子T41とを結ぶ高電位ライン61に介装されている。ダイオードD5は、アノード側がDC-DCコンバータ3の高電位出力端子T33に接続されている。ダイオードD5は、DC-DCコンバータ3の高電位出力端子T33に前記回生電流が流れ込むのを防ぐ。
【0041】
抵抗素子R1の一端は、ダイオードD5のカソード側で高電位ライン61に接続されている。より具体的には、高電位ライン61において配線83との接続部分とダイオードD5との間で分岐した配線92の他端に抵抗素子R1の一端が接続されている。
【0042】
コンデンサC1の正極は、配線93により抵抗素子R1の他端に接続されている。コンデンサC1の負極は、低電位ライン62に接続されている。
【0043】
コンデンサC1は、ステアリング電磁石2の容量に応じた静電容量を有している。異常発生によりスイッチ回路4の動作が停止したときに、ステアリング電磁石2からの回生エネルギーをコンデンサC1に蓄積することができる。なお、回生エネルギーは、コンデンサC3にも蓄積される。しかしながら、コンデンサC1の静電容量は、コンデンサC3に比べて十分に大きく、回生エネルギーは主にコンデンサC1に蓄えられる。
【0044】
コンデンサC1の静電容量が大きい場合には、DC-DCコンバータ3起動時に、コンデンサC1への充電電流が突入電流となり、DC-DCコンバータ3の過電流保護回路が作動するおそれがある。過電流保護動作の方式が、出力シャットダウン停止動作や間欠停止動作などの停止動作である場合は、うまく起動できなくなる可能性がある。突入電流抑制回路6は、この突入電流を抑制する回路である。
【0045】
トランジスタQは、抵抗素子R1と並列に接続されたPNP形トランジスタである。トランジスタQは、抵抗素子R1を短絡可能である。トランジスタQのエミッタ(本発明の「第1主電極」に相当する)は、ダイオードD5のカソード側に接続されている。トランジスタQのコレクタ(本発明の「第2主電極」に相当する)は抵抗素子R1とコンデンサC1との間に接続されている。トランジスタQのベース(本発明の「制御電極」に相当する)は、ベース抵抗R2、定電圧ダイオードZDおよびダイオードD6を介してダイオードD5のアノード側に導通接続されている。
【0046】
一端が配線92の途中に接続された配線94の他端が、トランジスタQのエミッタに接続されている。一端が配線93の途中に接続された配線95の他端が、トランジスタQのコレクタに接続されている。一端が高電位ライン61におけるDC-DCコンバータ3の高電位出力端子T33とダイオードD5との間の部分に接続された配線96の他端が、トランジスタQのベースに接続されている。
【0047】
配線96には、トランジスタQのベース抵抗R2が介装されている。一端が配線96におけるトランジスタQのベースとベース抵抗R2との間の部分に接続され、かつ、他端が配線94の途中に接続された配線97には、トランジスタQのベース-エミッタ間抵抗R3が介装されている。
【0048】
ダイオードD6は、トランジスタQのベースとDC-DCコンバータ3の高電位出力端子T33との間に配置されている。ダイオードD6は、配線96における高電位ライン61との接続部分とベース抵抗R2との間の部分に配置されている。ダイオードD6は、カソード側がDC-DCコンバータ3の高電位出力端子T33に導通接続されている。
【0049】
定電圧ダイオードZDは、トランジスタQのベースとダイオードD5のアノード側との間に配置されている。定電圧ダイオードZDは、配線96におけるダイオードD6とベース抵抗R2との間の部分に配置されている。定電圧ダイオードZDは、カソード側がベース抵抗R2を介してトランジスタQのベースに導通接続されている。
【0050】
ダイオードD7は、抵抗素子R1と並列に接続されている。ダイオードD7は、一端が配線92の途中に接続されており、かつ、他端が配線93の途中に接続された配線98に配置されている。ダイオードD7は、アノード側がコンデンサC1の正極に接続されている。
【0051】
(突入電流抑制回路6の動作)
次に、突入電流抑制回路6の動作について説明する。最初に、DC-DCコンバータ3からの直流電圧をスイッチ回路4および直流化回路5を介してステアリング電磁石2に出力する給電時について考える。給電時は、ダイオードD5の順方向電流が流れるので、ダイオードD5のカソード側~GND間の電圧V2は、順方向電圧分だけダイオードD5のアノード側の電圧V1より低くなる。すなわち、トランジスタQのベースへの印加電圧は、エミッタに対して正電圧となる。したがって、給電時は、トランジスタQはOFF状態であり、抵抗素子R1はトランジスタQによって短絡されない。
【0052】
よって、DC-DCコンバータ3起動時には、コンデンサC1への充電電流は抵抗素子R1によって制限されながら流れるので、突入電流を抑制することができる。抵抗素子R1はコンデンサC1と直列に接続されているので、コンデンサC1への充電が完了した後の通常運転時は抵抗素子R1に電流が流れることがない。したがって、抵抗素子R1での通常運転時の電力損失を避けることができる。
【0053】
次に、異常発生によりスイッチ回路の動作が停止した場合について考える。このときステアリング電磁石2からの回生電流がスイッチ回路4の出力側から入力側に向かって流れる。かかる回生電流は、ダイオードD5に対して逆方向となるのでダイオードD5には流れず、抵抗素子R1を介してコンデンサC1に流れ込む。これにより、ダイオードD5のカソード側の電圧V2が上昇する。そして、ダイオードD5のカソード側の電圧V2からアノード側の電圧V1を減算した電圧差が定電圧ダイオードZDのツェナー電圧Vzを超えたとき、トランジスタQはOFFからONに切り替わる。トランジスタQがON状態となることで、抵抗素子R1はトランジスタQによって短絡される。
【0054】
すなわち、トランジスタQは、ダイオードD5のアノード側の電圧V1、ダイオードD5のカソード側の電圧V2および定電圧ダイオードZDのツェナー電圧Vz(0<Vz)が、V2‐V1>Vzの関係を満たすときは、ON状態となり、抵抗素子R1を短絡する。
【0055】
トランジスタQがOFFからONに切り替わることで抵抗素子R1が短絡されるので、抵抗素子R1によってコンデンサC1への回生エネルギーの吸収効果が阻害されるのを避けることができる。
【0056】
ステアリング電磁石2からの回生電流が流れ終えた後は、コンデンサC1に溜まった電荷は、スイッチ回路4が動作再開してステアリング電磁石2へ給電出力する通常運転時にダイオードD7を介してスムーズに放電される。
【0057】
(実施形態の特徴)
以上のように、本実施形態の電源装置1は、誘導性負荷であるステアリング電磁石2に直流電圧を供給する電源装置1であり、DC-DCコンバータ3と、複数のスイッチ素子S1~S4を有し、スイッチ素子S1~S4によりDC-DCコンバータ3からの入力直流電圧をスイッチングするスイッチ回路4と、スイッチ回路4からの出力電圧を直流化してステアリング電磁石2に供給する直流化回路5と、DC-DCコンバータ3とスイッチ回路4との間に接続された突入電流抑制回路6と、を備えている。突入電流抑制回路6は、DC-DCコンバータ3の高電位出力端子T33とスイッチ回路4の高電位入力端子T41とを結ぶ高電位ライン61に介装されており、アノード側がDC-DCコンバータ3の高電位出力端子T33に接続されたダイオードD5と、ダイオードD5のカソード側で高電位ライン61に一端が接続された抵抗素子R1と、抵抗素子R1の他端に一端が接続され、DC-DCコンバータ3の低電位出力端子T34とスイッチ回路4の低電位入力端子T42とを結ぶ低電位ライン62に他端が接続されたコンデンサC1と、ダイオードD5のカソード側の電圧V2からアノード側の電圧V1を減算した電圧差が0V以上である所定値(ツェナー電圧Vz)を超えた場合に抵抗素子R1を短絡させるトランジスタQと、を有している。
【0058】
給電時においては、ダイオードD5のカソード側の電圧V2からアノード側の電圧V1を減算した電圧差は、所定値(ツェナー電圧Vz)未満となる。よって、給電時は、トランジスタQは抵抗素子R1を短絡しない。したがって、DC-DCコンバータ3起動時には、コンデンサC1への充電電流は抵抗素子R1によって制限されながら流れるので、突入電流を抑制することができる。抵抗素子R1はコンデンサC1と直列に接続されているので、コンデンサC1への充電が完了した後の通常運転時は抵抗素子R1に電流が流れることがない。よって、抵抗素子R1での通常運転時の電力損失を避けることができる。
【0059】
また、異常発生時に保護回路が作動することによりスイッチ回路4の動作が停止した際に生じるステアリング電磁石2からの回生電流は、ダイオードD5に対して逆方向となるのでD5ダイオードには流れず、抵抗素子R1を介してコンデンサC1に流れ込む。これにより、ダイオードD5のカソード側の電圧V2が上昇する。そして、ダイオードD5のカソード側の電圧V2からアノード側の電圧V1を減算した電圧差が所定値(ツェナー電圧Vz)を超えたとき、トランジスタQにより抵抗素子R1が短絡される。抵抗素子R1が短絡されることで、抵抗素子R1によってコンデンサC1への回生エネルギーの吸収効果が阻害されるのを避けることができる。このように、トランジスタQは、異常発生によりスイッチ回路の動作が停止した時のみ抵抗素子R1を短絡する。よって、通常運転時に抵抗素子R1を短絡状態に維持する場合に比べて、発熱や効率低下を抑えつつ突入電流を抑制することができる。
【0060】
本実施形態の電源装置1では、トランジスタQは、抵抗素子R1と並列に接続されたPNP形トランジスタであって、エミッタがダイオードD5のカソード側に接続されており、コレクタが抵抗素子R1とコンデンサC1との間に接続されており、ベースがダイオードD5のアノード側に導通接続されている。この構成によると、簡素な構成により、異常発生によりスイッチ回路4の動作が停止した時のみ抵抗素子R1を短絡する短絡手段を実現することができる。
【0061】
本実施形態の電源装置1においては、突入電流抑制回路6は、トランジスタQのベースとDC-DCコンバータ3の高電位出力端子T33との間に、カソード側がDC-DCコンバータ3の高電位出力端子T33に導通接続されたダイオードD6をさらに有している。この構成によると、DC-DCコンバータ3の高電位出力端子T33からトランジスタQのベースに向かって電流が流れるのを防ぐことができる。
【0062】
本実施形態の電源装置1では、突入電流抑制回路6は、トランジスタQのベースとダイオードD5のアノード側との間に、カソード側がトランジスタQのベースに導通接続された定電圧ダイオードZDをさらに有している。この構成によると、ダイオードD5のカソード側の電圧V2からアノード側の電圧V1を減算した電圧差が定電圧ダイオードZDのツェナー電圧Vzを超えるまではトランジスタQにより抵抗素子R1が短絡されないようにすることができるので、トランジスタQの誤作動を抑制することができる。
【0063】
本実施形態の電源装置1では、突入電流抑制回路6は、抵抗素子R1と並列に、アノード側がコンデンサC1の正極に接続されたダイオードD7をさらに有している。この構成によると、回生電流が流れ終えた後、異常発生がなくなり、スイッチ回路4が動作再開してステアリング電磁石2へ給電出力する通常運転時にダイオードD7を介してコンデンサC1に溜まった電力をスムーズに放電することができる。
【0064】
本実施形態の電源装置1では、スイッチ回路4は、出力する直流電圧の極性を切り替え可能に構成されている。この構成によると、例えばステアリング電磁石2のように、供給する直流電圧の極性を切り替え可能であることが必要である誘導性負荷に直流電圧を供給する場合に好適である。
【0065】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでない。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0066】
上述の実施形態では、スイッチ回路4が出力する直流電圧の極性を切り替え可能に構成されている場合について説明したが、これには限定されない。すなわち、図4に示すように、本実施形態の第1変形例にかかる電源装置のスイッチ回路4Aは、スイッチ回路4と同様のスイッチ素子S1、S2、S4および還流ダイオードD1、D2、D4を有している。スイッチ回路4Aにおいては、配線74の配線71側とは反対側の端は、スイッチ素子S4のコレクタに接続されている。そして、配線74にダイオードD13が介装されている。ダイオードD13のカソードは、高電位入力端子T41に接続されている。
【0067】
スイッチ回路4Aにおいても、制御回路9によりスイッチ素子S1、S2に対してPWM制御を行い、スイッチ回路4Aから出力する電流量を調整することができる。また、スイッチ回路4Aにおいても、ステアリング電磁石2からの回生電流は、スイッチ回路4Aの還流ダイオードD2およびダイオードD13を介してスイッチ回路4Aの出力側から入力側に向かって流れ、コンデンサC1に流れ込む。
【0068】
また、上述の実施形態では、抵抗素子R1を短絡させる短絡手段として抵抗素子R1と並列に接続されたPNP形のトランジスタQを採用する場合について説明したが、これには限定されない。すなわち、図5に示すように、本実施形態の第2変形例にかかる電源装置の突入電流抑制回路6Aにおいては、抵抗素子R1と並列に接続されたPch FETのトランジスタQ0が短絡手段として採用されている。
【0069】
トランジスタQ0は、第1主電極であるソースがダイオードD5のカソード側に接続されており、第2主電極であるドレインが抵抗素子R1とコンデンサC1との間に接続されており、制御電極であるゲートがダイオードD5のアノード側に導通接続されている。
【0070】
トランジスタQ0を短絡手段として採用した場合も、トランジスタQと同様に、ダイオードD5のカソード側の電圧V2からアノード側の電圧V1を減算した電圧差が0V以上である所定値(ツェナー電圧Vz)を超えた場合に抵抗素子R1を短絡させることができる。したがって、簡素な構成により、異常発生によりスイッチ回路4の動作が停止した時のみ抵抗素子R1を短絡する短絡手段を実現することができる。
【0071】
また、上述の実施形態では、トランジスタQのベースとDC-DCコンバータ3の高電位出力端子T33との間にダイオードD6が配置されている場合について説明したが、ダイオードD6はなくてもよい。
【0072】
加えて、上述の実施形態では、ダイオードD6とベース抵抗R2との間に定電圧ダイオードZDが配置されている場合について説明したが、これには限定されない。定電圧ダイオードZDは、トランジスタQのベースとダイオードD5のアノード側との間に配置されていればよい。また、定電圧ダイオードZDはなくてもよい。定電圧ダイオードZDが配置されていない場合は、トランジスタQは、ダイオードD5のカソード側の電圧V2からアノード側の電圧V1を減算した電圧差が0Vを超えた場合、すなわちV2>V1となった場合に、抵抗素子R1を短絡させる。
【0073】
加えて、上述の実施形態では、抵抗素子R1と並列に接続されたダイオードD7が配置されている場合について説明したが、ダイオードD7はなくてもよい。
【0074】
また、上述の実施形態では、直流電圧を出力する直流源が絶縁形のDC-DCコンバータ3である場合について説明したが、これには限定されない。すなわち、直流源は、非絶縁形のDC-DCコンバータであってもよい。さらに、直流源としては、電池(リチウムイオン電池、ニッケル水素電池など)、バッテリ(蓄電池)、太陽電池、燃料電池、AC-DCコンバータなどを採用することもできる。
【0075】
さらに、上述の実施形態では、負荷がステアリング電磁石2である場合について説明したが、これには限定されない。本発明は、誘導性負荷に直流電圧を供給する電源装置全般に適用可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 電源装置
2 ステアリング電磁石(誘導性負荷)
3 DC-DCコンバータ(直流源)
4 スイッチ回路
5 直流化回路
6 突入電流抑制回路
61 高電位ライン
62 低電位ライン
C1 コンデンサ
D1~D4 還流ダイオード
D5 ダイオード(第1ダイオード)
D6 ダイオード(第2ダイオード)
D7 ダイオード(第3ダイオード)
Q トランジスタ(短絡手段、PNP形トランジスタ)
Q0 トランジスタ(短絡手段、Pch FET)
R1 抵抗素子
S1~S4 スイッチ素子
T33 高電位出力端
T34 低電位出力端
T41 高電位入力端
T42 低電位入力端
ZD 定電圧ダイオード
図1
図2
図3
図4
図5