(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055476
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/872 20060101AFI20240411BHJP
H01L 29/861 20060101ALI20240411BHJP
H01L 29/47 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
H01L29/86 301M
H01L29/86 301D
H01L29/91 F
H01L29/48 M
H01L29/48 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162428
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】520366927
【氏名又は名称】ウィル セミコンダクター (シャンハイ) カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】岡田 喜久雄
(72)【発明者】
【氏名】萩原 澪美
【テーマコード(参考)】
4M104
【Fターム(参考)】
4M104AA01
4M104AA03
4M104AA10
4M104BB02
4M104BB03
4M104CC03
4M104FF02
4M104GG02
4M104GG03
4M104HH17
(57)【要約】
【課題】ライフタイムキラーを用いることなく、電子の低注入+長ライフタイム構造を得る。
【解決手段】半導体装置10は、半導体基材12と、半導体基材12の一方側の表面上に形成されたアノード電極20と、半導体基材12の他方側の表面上に形成されたカソード電極22と、半導体基材12内の前記アノード電極20側に形成されたP層16と、半導体基材12内のカソード電極22側であって、前記P層16の他方側に形成されたN層14と、を含む。カソード電極22とN層14とは、ショットキ接合されており、カソード電極22は、仕事関数が4.2~4.3の範囲の金属であり、N層14のキャリア濃度は1×e
12~1×e
18/cm
3の範囲である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基材と、
前記半導体基材の一方側の表面上に形成されたアノード電極と、
前記半導体基材の他方側の表面上に形成されたカソード電極と、
前記半導体基材内の前記アノード電極側に形成されたP層と、
前記半導体基材内の前記カソード電極側であって、前記P層の他方側に形成されたN層と、
を含み、
前記カソード電極と前記N層とは、ショットキ接合されており、
前記カソード電極は、仕事関数が4.2~4.3の範囲の金属であり、
前記N層のキャリア濃度は1×e12~1×e18/cm3の範囲である、
半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置であって、
前記カソード電極の金属は、アルミニウムまたはアルミニウム・シリコン合金を主成分とする、
半導体装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の半導体装置であって、
前記半導体基材は、シリコンウエハから構成される、
半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体装置、特にリカバリー損失の低減に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置では、PN接合を用いた電流制御を利用する。ダイオードは、PN接合を有し、P側のアノードから、N側のカソードへの電流を許容し、反対方向の電流を遮断する。そして、導通時はアノードから正孔、カソードから電子というキャリアを大量に注入し、導通時の順方向電圧降下VFを下げている。
【0003】
一方、リカバリー時は、注入された正孔と電子(キャリア)をアノードとカソードにそれぞれ排出するため、大量のキャリアがあると、リカバリー損失Errが大きくなる。
【0004】
特許文献1では、ライフタイムキラーを設けて内部のキャリアを消滅させることで、キャリアの排出を速くすることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2017/146148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、ライフタイムキラーは、半導体の結晶欠陥を形成することにより設けられ、その処理のために大規模な装置と作業工程が必要になる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る半導体装置は、半導体基材と、前記半導体基材の一方側の表面上に形成されたアノード電極と、前記半導体基材の他方側の表面上に形成されたカソード電極と、前記半導体基材内の前記アノード電極側に形成されたP層と、前記半導体基材内の前記カソード電極側であって、前記P層の他方側に形成されたN層と、を含み、前記カソード電極と前記N層とは、ショットキ接合されており、前記カソード電極は、仕事関数が4.2~4.3の範囲の金属であり、前記N層のキャリア濃度は1×e12~1×e18/cm3の範囲である。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る半導体装置によれば、ライフタイムキラーを用いることなく、電子の低注入+長ライフタイム構造が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る半導体装置の構成を示す模式図である。
【
図2】一般的なダイオードのリカバリー時の電圧電流波形を示す。
【
図3】一般的なダイオードの仕事関数によるカバリー時におけるリカバリー損失Errと、順方向電圧降下VFの関係を示す図である。
【
図4】本実施形態の半導体装置10における正孔と電子の注入状態を示す模式図である。
【
図5】ショットキ接合のエネルギーレベルを示す図である。
【
図6】実施形態に係る半導体装置10のリカバリー時の電流波形を示す図である。
【
図7】導通時における半導体装置10における深さ方向の電子密度を示す図である。
【
図8】リカバリー損失Errおよび順方向電圧降下VFの金属の仕事関数への依存性を示す特性図である。
【
図9】リカバリー損失Errおよび順方向電圧降下VFのN層におけるNタイプキャリア(不純物)のドーピングキャリア濃度への依存性を示す特性図である。
【
図10】実施形態に係る半導体装置10のリカバリー時におけるリカバリー損失Errと、順方向電圧降下VFの関係を示す図である。
【
図11】実施形態に係る半導体装置の製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態について以下に説明する。なお、以下の実施形態は本開示を限定するものではなく、また複数の例示を選択的に組み合わせてなる構成も本開示に含まれる。
【0011】
「半導体装置の構成」
図1は、実施形態に係る半導体装置の構成を示す模式図である。半導体装置10は、半導体基材12を含む。半導体基材12は、例えばシリコン(Si)ウエハから構成されるが、SiCや、酸化ガリウムなど、他の半導体でもよい。また、本実施形態では、Nタイプのキャリア(不純物)がドープされたFZ(Floating Zone)法によるNタイプFZウエハが採用されている。
【0012】
半導体基材12として、Nタイプが採用されているため、半導体基材12の大部分はそのままN層14となる。N層14は、通常N-ドリフト層と呼ばれる。一方側の表面からPタイプのキャリア(不純物)をドープすることでN層14の一方側にP層16が形成されている。
【0013】
そして、半導体基材12の一方側の表面、すなわちP層16上にアノード電極20が形成されている。アノード電極20は、アルミニウムなど金属で構成するとよい。
【0014】
半導体基材12の他方側の表面(裏面)、すなわちN層14上に他方側表面(裏面)上には、カソード電極22が形成されている。カソード電極22もアノード電極20と同様に金属で形成することができる。
【0015】
このように、本実施形態では、カソード電極22がN層14に直接接しており、両者はショットキ接合されている。なお、このようなカソード電極22の金属は、Al(アルミニウム)またはAl-Si合金(アルミニウム・シリコン合金)とすることができ、これらを主成分として形成することができる。
【0016】
そして、カソード電極22の仕事関数は、4.2~4.3の範囲の金属、例えば上述のような金属を採用し、またN層14のキャリア濃度は1×e12~1×e18/cm3の範囲に設定してある。すなわち、半導体基材
12は、シリコンに限らず、SiCや酸化ガリウムなどでもよく、またカソード電極22はアルミニウムやアルミニウム合金に限らないが、両者の仕事関数差が4.2~4.3となるように選択される。
【0017】
これによって、カソード電極22側からN層14への電子注入量が適切に制御され、リカバリー損失を抑制しつつ、半導体装置10、この例ではダイオードとしての順方向電圧降下VFを比較的小さく維持することができる。
【0018】
本実施形態に係る半導体装置10は、そのままダイオードとして使用できるが、ダイオードを組み込んだ各種素子に利用することができる。
【0019】
「リカバリー波形」
図2は、一般的なダイオードのリカバリー時の電圧電流波形を示す図である。まず、導通時にはアノード電極20とカソード電極間の電圧は、順方向電圧降下VFであり、PタイプおよびNタイプのキャリアが十分ある状態において所定の小さな電圧となっており、所定の電流IFが流れる。この例では、電圧Vrrはカソード電圧となる。
【0020】
ここで、逆方向電圧をかけることで、電流IFは直線的に減少する。これはN層14から正孔がP層16を介しアノード電極20へ、電子がカソード電極22に引き抜かれることによって行われる。この際、電流Irrは一旦大きく負にふれた後0に近づき、カソード電圧Vrrは、大きく正にふれた後、印加電圧に落ち着く。
【0021】
リカバリー時のエネルギー損失は、Vrr*Irr*時間であり、Vrrが正になったときから、Irrが0になるまでの期間の損失がリカバリー損失Errとなる。
【0022】
図3は、一般的なダイオードのリカバリー時におけるリカバリー損失Errと、順方向電圧降下VFの関係を示す図である。このように、順方向電圧降下VFは、キャリア濃度が低くなると上昇する。一方、キャリア濃度が高いとリカバリー時に残留しているキャリアが多くなりリカバリー損失が大きくなるというトレードオフの関係がある。
【0023】
図4は、本実施形態の半導体装置10における正孔と電子の注入状態を示す模式図である。このように、カソード電極22とN層14のショットキ接合により、電子注入量が抑制される。これによって、ライフタイムキラーを使用することなく、電子の低注入化+長ライフタイム構造が得られる。
【0024】
図5は、ショットキ接合のエネルギーレベルを示す図である。このようにショットキ接合によって、エネルギー障壁が形成されるため、半導体側への電子の注入が抑制される。
【0025】
図6は、実施形態に係る半導体装置10のリカバリー時の電流波形を示す図である。実施形態に係る半導体装置10と、比較例として、カソード電極に隣接してNタイプの高濃度キャリアドープ層を設けオーミック接合(電子高注入)を示してある。このように、本実施形態では、リカバリー時の電流量(Irr)が減少でき、リカバリー損失が抑制できることがわかる。
【0026】
図7は、導通時における半導体装置10における深さ方向の電子密度を示す図である。なお、電荷中性の法則により電子と正孔の密度は一致するため、
図7は正孔の密度を示すものともいえる。このように、本実施形態では、カソード電極22からの電子注入が抑制されていることがわかる。なお、図中のキャリア濃度は、N層14のドーピングキャリア濃度を示す。
【0027】
図8は、リカバリー損失Errおよび順方向電圧降下VFの金属の仕事関数への依存性を示す特性図である。このように、仕事関数が大きくなるとリカバリー損失は小さくなるが、順方向電圧降下VFが大きくなる。仕事関数4.2~4.3の範囲でリカバリー損失Errおよび順方向電圧降下VFの両者が低くなっていることがわかる。
【0028】
図9は、リカバリー損失Errおよび順方向電圧降下VFのN層14におけるNタイプキャリア(不純物)のドーピングキャリア濃度への依存性を示す特性図である。キャリア濃度がある程度以上高くなると、順方向電圧降下VFは下がるが、リカバリー損失Errが上昇する。キャリア濃度が1×e
18/cm
3以下であれば、両者を安定した状態に維持できることがわかる。なお、ダイオードとしての機能を維持するためには、キャリア濃度を1×e
12~以上とすることが好ましく、従ってキャリア濃度は1×e
12~1×e
18/cm
3の範囲内とすることが好ましいことがわかる。
【0029】
図10は、実施形態に係る半導体装置10のリカバリー時におけるリカバリー損失Errと、順方向電圧降下VFの関係を示す図であって、比較例として一般的な電子の高注入+短ライフタイムの場合も示してある。このように、本実施形態に係る半導体装置10によれば、電子の低注入+長ライフタイム構造が得られ、順方向電圧降下VFおよびリカバリー損失を低減することができる。
【0030】
<製造工程>
図11は、実施形態に係る半導体装置10の製造工程を示す図である。まず、半導体基材12を用意する(S11)。半導体基材12としては、例えばFZ(浮遊帯(Floating Zone))シリコンウエハであって、Nタイプのものが利用される。
【0031】
表面側からのPタイプの不純物をドープ(インプランテーション)し(S12)、これを拡散して、P-のP層16を形成する(S12)。次に、コンタクトを形成し(S14)、表面上に表面電極、すなわちアノード電極20を形成する(S15)。
【0032】
次に、裏面側を研磨し(S16)、メタルの堆積によって、裏面電極、すなわちカソード電極22を形成する(S17)。
【0033】
すなわち、N層14の上に直接カソード電極22を形成し、ここにショットキ接合を形成する。
【0034】
このようにして、半導体装置10が形成され、次にこれについて各種検査を行い(S18)、製造工程を終了する。
【符号の説明】
【0035】
10 半導体装置、12 半導体基材、14 N層、16 P層、20 アノード電極、22 カソード電極。