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特開2024-5549タイムラプス画像判別器とタイムラプス画像判別器の学習方法と胚判別装置と胚判別方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005549
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】タイムラプス画像判別器とタイムラプス画像判別器の学習方法と胚判別装置と胚判別方法
(51)【国際特許分類】
   G06V 10/82 20220101AFI20240110BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240110BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240110BHJP
   G16H 50/20 20180101ALI20240110BHJP
   G06N 3/08 20230101ALI20240110BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20240110BHJP
【FI】
G06V10/82
C12M1/00 A
C12M1/34 A
G16H50/20
G06N3/08
G06T7/00 350C
G06T7/00 630
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105764
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】杉野 法広
(72)【発明者】
【氏名】前川 亮
(72)【発明者】
【氏名】浅井 義之
(72)【発明者】
【氏名】中津井 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】安部 武志
(72)【発明者】
【氏名】桐谷 太郎
【テーマコード(参考)】
4B029
5L096
5L099
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA27
4B029BB11
4B029CC01
4B029FA15
4B029GA08
4B029GB06
4B029GB10
5L096BA06
5L096BA13
5L096CA04
5L096HA11
5L096KA04
5L096KA15
5L099AA04
(57)【要約】
【課題】胚の判別精度を高めるタイムラプス画像判別器とタイムラプス画像判別器の学習方法と胚判別装置と胚判別方法とを提供する。
【解決手段】本発明に係るタイムラプス画像判別器は、判別対象の患者の胚が撮像されたタイムラプス画像が入力される入力層と、胚の判別結果が出力される出力層と、入力層に入力されたタイムラプス画像と、患者の母体に関連する母体情報と、を用いて、出力層に出力される判別結果を算出する中間層と、で構成される。中間層は、ニューラルネットワークで学習されていて、中間層の学習において、学習用患者の学習用胚の学習用タイムラプス画像が、入力層に入力されて、学習用患者の母体に関連する学習用母体情報が、中間層に入力される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
判別対象の患者の胚が撮像されたタイムラプス画像が入力される入力層と、
前記胚の判別結果が出力される出力層と、
前記入力層に入力された前記タイムラプス画像と、前記患者の母体に関連する母体情報と、を用いて、前記出力層に出力される前記判別結果を算出する中間層と、
で構成されるタイムラプス画像判別器であって、
前記中間層は、ニューラルネットワークで学習されていて、
前記中間層の学習において、
学習用患者の学習用胚の学習用タイムラプス画像が、前記入力層に入力されて、
前記学習用患者の母体に関連する学習用母体情報が、前記中間層に入力される、
ことを特徴とするタイムラプス画像判別器。
【請求項2】
前記母体情報は、前記患者の年齢に関する情報である、
請求項1記載のタイムラプス画像判別器。
【請求項3】
前記中間層は、複数の個別中間層、を含み、
前記中間層の学習において、前記学習用母体情報は、複数の前記個別中間層のうちの少なくとも1の前記個別中間層に入力される、
請求項1記載のタイムラプス画像判別器。
【請求項4】
複数の前記個別中間層のうち、前記判別対象の患者の前記母体情報が入力される前記個別中間層は、前記判別対象の前記患者の前記タイムラプス画像または前記母体情報に基づいて、選択される、
請求項3記載のタイムラプス画像判別器。
【請求項5】
前記中間層の学習において、前記学習用母体情報は、前記入力層に入力される、
請求項3記載のタイムラプス画像判別器。
【請求項6】
判別対象の患者の胚が撮像されたタイムラプス画像が入力される入力層と、
前記胚の判別結果が出力される出力層と、
前記入力層に入力された前記タイムラプス画像と、前記患者の母体に関連する母体情報と、を用いて、前記出力層に出力される前記判別結果を算出する中間層と、
で構成されるタイムラプス画像判別器の学習方法であって、
前記中間層は、ニューラルネットワークで学習されていて、
前記中間層の学習において、
学習用患者の学習用胚の学習用タイムラプス画像が、前記入力層に入力されるステップと、
前記学習用患者の母体に関連する学習用母体情報が、前記中間層に入力されるステップと、
を有してなる、
ことを特徴とするタイムラプス画像判別器の学習方法。
【請求項7】
学習用患者ごとの学習用タイムラプス画像と、前記学習用患者ごとの母体に関連する学習用母体情報と、に基づいて学習された判別器を記憶する記憶部と、
判別対象の患者の胚のタイムラプス画像と、前記患者の母体に関連する母体情報と、を取得する取得部と、
前記取得部に取得された前記タイムラプス画像と前記母体情報と、前記判別器と、に基づいて、前記胚を判別する判別部と、
前記判別部に判別された判別結果を出力する出力部と、
を有してなり、
前記判別器は、請求項1記載のタイムラプス画像判別器である、
ことを特徴とする胚判別装置。
【請求項8】
学習用患者ごとの学習用タイムラプス画像と、前記学習用患者ごとの母体に関連する学習用母体情報と、に基づいて学習された判別器を記憶する記憶部、
を備えた胚判別装置に実行される胚判別方法であって、
前記胚判別装置が、
判別対象の患者の胚のタイムラプス画像と、前記患者の母体に関連する母体情報と、を取得する取得ステップと、
前記取得ステップで取得された前記タイムラプス画像と前記母体情報と、前記判別器と、に基づいて、前記胚を判別する判別ステップと、
前記判別ステップで判別された判別結果を出力する出力ステップと、
を有してなり、
前記判別器は、請求項1記載のタイムラプス画像判別器である、
ことを特徴とする胚判別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイムラプス画像判別器と、タイムラプス画像判別器の学習方法と、胚判別装置と、胚判別方法と、に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国の生殖補助医療(Assisted Reproductive Technology:ART)による妊娠の分娩数は、近年増加している。2019年のARTによる分娩数は、年間分娩数の約7%に相当する6万件を超過している。ARTは、採卵された複数の卵を胚培養装置(インキュベータ)で胚盤胞まで培養して、培養された複数の胚(受精卵)の中から良好胚として選別された胚を子宮に移植する不妊症治療法である。
【0003】
良好胚の選別は、胚培養士が受精直後(初期胚)と受精5日後(胚盤胞)それぞれの胚を目視により観察して、行われる。胚培養士の目視による胚の選別の評価精度は、胚培養士の知識や経験に依存する。そのため、画一的で高精度な胚の評価法が求められている。
【0004】
一方、子宮に移植されて着床した良好胚が流産に至ることは、少なくない。流産の原因の多くは、染色体異常(核型異常)である。染色体異常の確率は、患者の年齢と共に高くなることが知られている。そのため、一定の年齢に達した患者に関しては、胚の質の評価(良好胚か否か)よりも、染色体異常を評価することが、胚の移植から生児獲得の成否に重要である。そこで、近年、習慣流産や反復ART不成功例を対象として、子宮に移植される前の胚の染色体数を調べる着床前遺伝学的検査(Preimplantation Genetic Testing for Aneuploidy:PGT-A)が行われている。ただし、PGT-Aは、胚への侵襲性や高額な検査費用などの課題を抱える。
【0005】
これまでにも、培養中の胚を所定間隔で撮像してタイムラプス画像を生成する胚培養装置(タイムラプスインキュベータ)に関する発明や、タイムラプス画像を用いて機械学習されたモデルによる胚の評価に関する発明が、提案されている(例えば、特許文献1,2、非特許文献1-3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6956302号明細書
【特許文献2】特許第6414310号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Jorgen Berntsen et.al., Robust and generalizable embryo selection based on artificial intelligence and time-lapse image sequences, PLOS ONE, 2022.
【非特許文献2】Tran et.al., Deep learning as a predictive tool for fetal heart pregnancy following time-lapse incubation and blastocyst transfer, Human Reproduction, 2018.
【非特許文献3】Khosravi et.al., Deep learning enables robust assessment and selection of human blastocyst after in vitro fertilization, NPJ Digital Medicine, 2019.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、胚の判別精度(予測精度)を高める、タイムラプス画像判別器とタイムラプス画像判別器の学習方法と胚判別装置と胚判別方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るタイムラプス画像判別器は、判別対象の患者の胚が撮像されたタイムラプス画像が入力される入力層と、胚の判別結果が出力される出力層と、入力層に入力されたタイムラプス画像と、患者の母体に関連する母体情報と、を用いて、出力層に出力される判別結果を算出する中間層と、で構成されるタイムラプス画像判別器であって、中間層は、ニューラルネットワークで学習されていて、中間層の学習において、学習用患者の学習用胚の学習用タイムラプス画像が、入力層に入力されて、学習用患者の母体に関連する学習用母体情報が、中間層に入力される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、胚の判別精度を高める。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る胚判別装置の実施の形態を示す機能ブロック図である。
図2】従来のニューラルネットワークのモデルの例を示す模式図である。
図3】従来のニューラルネットワークのモデルの別の例を示す模式図である。
図4】本発明に係るタイムラプス画像判別器として用いられるニューラルネットワークのモデルの例を示す模式図である。
図5】上記タイムラプス画像判別器として用いられるニューラルネットワークのモデルの別の例を示す模式図である。
図6】上記タイムラプス画像判別器として用いられるニューラルネットワークのモデルのさらに別の例を示す模式図である。
図7】上記タイムラプス画像判別器として用いられるニューラルネットワークのモデルのさらに別の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る、タイムラプス画像判別器と、タイムラプス画像判別器の学習方法と、胚判別装置と、胚判別方法と、の実施の形態は、以下に図面と共に説明される。
【0013】
●胚判別装置の構成●
図1は、本発明に係る胚判別装置(以下「本装置」という。)の実施の形態を示す機能ブロック図である。
【0014】
本装置1は、判別対象の患者の胚を培養しながら、胚のタイムラプス画像を撮像する胚培養装置(タイムラプスインキュベータ)である。本装置1は、本発明に係るタイムラプス画像判別器(以下「本判別器」という。)が動作するタイムラプス画像判別装置としても機能する。
【0015】
本判別器は、あらかじめ、本発明に係るタイムラプス画像判別器の学習方法(以下「本学習方法」という。)により、教師ありの学習用データを用いて機械学習された学習済みのニューラルネットワークのモデルである。本学習方法の詳細は、後述される。ニューラルネットワークは、例えば、画像の判別精度が高いとされる、畳み込みニューラルネットワークである。学習用データは、学習用患者ごとの胚のタイムラプス画像と母体情報、並びに、学習用患者ごとの胚の経過情報である。胚の経過情報は、本判別器の判別(予測)の対象となる情報であって、例えば、胚の着床の成否、染色体異常の有無(正倍数性胚か否か)、である。
【0016】
本判別器は、判別対象の患者、つまり、生殖補助医療を受けて出産を希望する患者の胚(受精卵)のタイムラプス画像と母体情報と、に基づいて、着床率の高い良好胚であるか否か、あるいは、流産率の高い染色体異常であるか否か、を判別する。
【0017】
以下の説明において、本判別器の判別の対象は、胚が良好胚であるか否かとする。
【0018】
なお、本判別器は、タイムラプスインキュベータで動作するのに代えて、パーソナルコンピュータなどの情報処理装置で動作してもよい。本判別器が動作する情報処理装置は、タイムラプス画像判別装置として機能する。本判別器は、本判別器が動作する情報処理装置のハードウェア資源と協働して、患者の胚を判別(胚の経過を予測)する。
【0019】
ここで、本判別器が動作する情報処理装置のハードウェア資源は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)などのプロセッサや記憶媒体である。この記憶媒体は、本判別器や、判別対象の患者のタイムラプス画像や母体情報などが記憶される。本判別器が動作するプロセッサは、本判別器が動作する情報処理装置が備える記憶媒体に記憶されている情報を用いて、本装置が備える後述の各手段(入力部、取得部、判別部、出力部)を実現する。
【0020】
本装置1は、記憶部2と、撮像部3と、入力部4と、取得部5と、判別部6と、出力部7と、を有してなる。
【0021】
記憶部2は、本判別器と、本装置1が本発明に係る胚判別方法(以下「本方法」という。)を実現するために用いる情報などを記憶する。本装置1が本方法を実現するために用いる情報の詳細は、後述される。
【0022】
本装置1の記憶部は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)やフラッシュメモリなどの可搬記憶媒体その他の非一時的な記録媒体や、RAM(Random Access Memory)その他の一時的な記録媒体、などである。
【0023】
撮像部3は、本装置1で培養されている胚(受精後から胚盤胞に至るまでの培養胚)のタイムラプス画像を撮像する。撮像部3は、所定の時間間隔(例えば、10分ごと)に、タイムラプス画像を撮像する。撮像されたタイムラプス画像は、記憶部2に記憶される。記憶部2に記憶された複数のタイムラプス画像は、本装置1のディスプレイ(不図示)に撮像順にあたかも動画のように表示される。本装置1の操作者(例えば、胚培養士)は、表示されたタイムラプス画像の経時変化を確認できる。
【0024】
入力部4は、判別対象の患者の母体情報を入力する。入力部4は、本装置1が備える情報入力手段であって、例えば、キーボードやマウスやタッチパネルなどである。入力部4は、本装置1の操作者に操作される。患者の母体情報は、例えば、患者の年齢に関する情報(年齢や年代を示す情報)や、患者の身体に関する情報(例えば、既往歴)である。入力部4から入力された母体情報は、記憶部2に記憶される。
【0025】
取得部5は、記憶部2に記憶されている、患者の胚のタイムラプス画像と、母体情報と、を取得する。
【0026】
判別部6は、取得部5が記憶部2から取得した患者の胚のタイムラプス画像と母体情報と、記憶部2に記憶されている判別器と、に基づいて、患者の胚を判別する。
【0027】
出力部7は、判別部6に判別された判別結果を出力する。出力部7による判別結果の出力の態様は、例えば、記憶部2に判別結果を記憶する、本装置1のディスプレイ(不図示)に判別結果を表示する、本装置1と通信ネットワークを介して接続する情報処理装置(不図示)に判別結果を送信する、などである。
【0028】
●従来のニューラルネットワークのモデル●
図2は、従来のニューラルネットワークのモデルの例を示す模式図である。
【0029】
ニューラルネットワークは、入力層と、中間層(隠れ層)と、出力層と、で構成される。ここでのニューラルネットワークは、判別対象の患者の胚のタイムラプス画像を用いて、胚が良好胚であるか否かを判別する判別器とする。すなわち、入力層は、タイムラプス画像が入力される層である。出力層は、判別結果(胚が良好胚であるか否か)が出力される層である。中間層は、入力層と出力層とを繋ぐ層である。中間層は、複数の個別中間層の集合である。個別中間層は、入力層から出力層に向けて、第1個別中間層,第2個別中間層,第3個別中間層,・・・,第n-1個別中間層,第n個別中間層のn個の個別中間層を含む。
【0030】
同図は、入力層を構成するニューロン(ユニット)を黒丸、中間層を構成するニューロンを白丸(実線)、出力層を構成するニューロンを白丸(破線)で示す。
【0031】
入力層を構成するニューロンの数は、タイムラプス画像の解像度に応じた数である。タイムラプス画像の解像度が1280×1024pxの場合、入力層を構成するニューロンの数は、1,310,720(=1280×1024)である。すなわち、入力層を構成するニューロンそれぞれは、タイムラプス画像を構成するピクセルごとの輝度値やRGBに関する情報を備える。
【0032】
なお、入力層を構成するニューロンは、いわゆるバイアスに対応するニューロンを含んでもよい。この場合、入力層を構成するニューロンの数は、タイムラプス画像の解像度に応じた数にバイアスの数を加算した数である。
【0033】
出力層のニューロンの数は、判別結果の数に対応する。ここでの判別結果は、良好胚であるか否かである。すなわち、出力層のニューロンの数は、2(「良好胚である」「良好胚でない」)である。
【0034】
中間層を構成する個別中間層の数、各個別中間層を構成するニューロンの数、あるいは、入力層から出力層までの各ニューロン間のエッジごとの重み、さらには、バイアスの値は、ニューラルネットワークの学習過程において、AUC(Area Under the Curve)などの評価値に基づいて、適宜設定される。
【0035】
図3は、従来のニューラルネットワークのモデルの別の例を示す模式図である。
同図は、図2に示されたモデルの入力層に、黒四角で示されるニューロンが追加されていることを示す。黒四角のニューロンは、判別対象の患者の母体情報を備える。すなわち、図3に示されたモデルと図2に示されたモデルとの相違は、入力層に母体情報が含まれる(図3のモデル)か、否(図2のモデル)か、である。つまり、図2に示されたモデルは、患者の胚が良好胚であるか否かを、患者の胚のタイムラプス画像のみで判別する。一方、図3に示されたモデルは、患者の胚が良好胚であるか否かの判別を、患者の胚のタイムラプス画像と母体情報とで判別する。
【0036】
図3に示されたモデルの入力層を構成するニューロンの数は、(バイアスを考慮しなければ、)タイムラプス画像の解像度に応じた数(黒丸の数)と、母体情報を備える1(黒四角の数)と、の総和である。ここで、前述のとおり、タイムラプス画像の解像度が1280×1024pxの場合、黒丸の数は、1,310,720である。一方、黒四角の数は、1である。
【0037】
このように、タイムラプス画像と母体情報とが入力層に入力されて判別が行われる場合、タイムラプス画像の情報量に比べて、母体情報の情報量は、圧倒的に少ない。そのため、ニューラルネットワークの学習過程において、母体情報は学習結果に反映されにくい。同様に、学習済みのニューラルネットワークを用いた判別過程において、母体情報は判別結果に反映されにくい。
【0038】
一方、胚の移植から生児獲得の成否において、胚の質(良好胚か否か)と共に、染色体異常の有無が重要である。胚の質や染色体異常の有無は、患者の年齢や既往歴など母体の状態の影響を受け得る。そのため、ニューラルネットワークを用いた胚の判別において、患者の母体に関連する情報は、加味されることが望ましい。
【0039】
●タイムラプス画像判別器の構成●
本判別器は、以下の説明のとおり、タイムラプス画像と共に、タイムラプス画像に比べて圧倒的に情報量の少ない母体情報を、学習結果や判別結果に反映させて、判別の精度を高める。
【0040】
図4は、本判別器として用いられるニューラルネットワークのモデルの例を示す模式図である。
同図は、図2に示されたモデルの中間層の一部の個別中間層(第n-1個別中間層)に、黒四角で示されるニューロンが追加されていることを示す。黒四角のニューロンは、図3に示された黒四角のニューロンと同じで、判別対象の患者の母体情報を備える。すなわち、図4に示されたモデルと図3に示されたモデルとの相違は、母体情報を備えるニューロンが入力層に含まれる(図3のモデル)か、中間層に含まれるか(図4のモデル)か、である。つまり、図3に示されたモデルは、患者の胚が良好胚であるか否かを、入力層に入力される患者の胚のタイムラプス画像と母体情報とで判別する。一方、図4に示されたモデルは、患者の胚が良好胚であるか否かを、入力層に入力される患者の胚のタイムラプス画像と、中間層(第n-1個別中間層)に入力される患者の母体情報と、で判別する。
【0041】
ここで、図4の本判別器として用いられるニューラルネットワークのモデルは、学習用データを用いた学習過程において、学習用患者ごとの胚のタイムラプス画像は入力層に入力されて、学習用患者ごとの母体情報は第n-1個別中間層に入力されて、学習される。
同様に、図4の本判別器として用いられるニューラルネットワークのモデルは、判別対象の患者のデータを用いた判別過程において、患者の胚のタイムラプス画像は入力層に入力されて、患者の母体情報は第n-1個別中間層に入力されて、判別される。
【0042】
このように、本判別器として用いられるニューラルネットワークのモデルの学習過程および判別過程において、タイムラプス画像に比べて圧倒的に情報量の少ない母体情報を、中間層に入力させることで、タイムラプス画像と共に母体情報を入力層に入力させる場合(図3のモデル)と比べて、母体情報は学習結果や判別結果に反映されやすい。これは、タイムラプス画像と共に母体情報を入力層に入力させる場合、母体情報の内容がタイムラプス画像の1ピクセル分と同程度に取り扱われてしまうためである。一方、本判別器のように、母体情報を中間層を構成する個別中間層、特に、入力層に入力されたタイムラプス画像の情報が集約される出力層に近い個別中間層に入力させる場合、母体情報の内容が強調されて学習結果や判別結果に反映される。すなわち、本判別器は、胚の移植から生児獲得の成否に影響を与える母体情報を反映した学習結果や判別結果を得る。つまり、本判別器は、胚の判別精度を高めることができる。
【0043】
なお、本判別器として用いられるニューラルネットワークのモデルにおいて、母体情報が入力されるのは、中間層を構成する複数の個別中間層のうちの少なくとも1の個別中間層である。
【0044】
図5-7は、本判別器として用いられるニューラルネットワークのモデルの別の例を示す模式図である。
【0045】
図5は、学習過程や判別過程において、2つの個別中間層(第n-1個別中間層、第n個別中間層)に、共通の母体情報が入力されることを示す。共通の母体情報が入力される複数の個別中間層や、母体情報が入力される個別中間層内の位置(個別中間層を構成するタイムラプス画像のニューロンと母体情報のニューロンとの配列:同図は、母体情報が各個別中間層の先頭(紙面上側)に入力されることを示す)は、学習過程において、適宜設定される。
【0046】
図6は、学習過程や判別過程において、共通の母体情報が、1つの個別中間層(第n-1個別中間層)の2箇所に入力されることを示す。1つの個別中間層に入力される母体情報の数や、母体情報が入力される個別中間層内の位置は、学習過程において、適宜設定される。
【0047】
図7は、学習過程や判別過程において、共通の母体情報が、中間層を構成するすべての個別中間層と、入力層と、に入力されることを示す。各個別中間層に入力される母体情報の数や、母体情報が入力される個別中間層内の位置は、学習過程において、適宜設定される。
【0048】
なお、本判別器として用いられるニューラルネットワークのモデルにおいて、中間層を構成する個別中間層のうち、母体情報が入力される個別中間層は、判別対象の患者のタイムラプス画像や母体情報に基づいて、本判別器に選択されてもよい。母体情報が入力される個別中間層の選択の方法は、学習用データを用いた学習過程で、適宜設定される。すなわち、例えば、学習過程において、若年者の場合には年齢が判別結果に対する影響は小さく、中高年者の場合には年齢が判別結果に対する影響は大きい、と評価されたとき、患者の年齢に応じて母体情報が入力される個別中間層が選択されてもよい。つまり、例えば、母体情報が入力される個別中間層は、患者の年齢が高くなるにつれて、より出力層に近い位置の個別中間層が選択されてもよい。
【0049】
●まとめ●
以上説明された実施の形態によれば、本判別器として用いられるニューラルネットワークのモデルの学習過程において、入力データである学習用患者ごとのタイムラプス画像と母体情報とのうち、タイムラプス画像に比べて情報量が圧倒的に少ない母体情報が、中間層を構成する複数の個別中間層のうちのいずれか1の個別中間層に入力される。そのため、タイムラプス画像と共に母体情報が入力層に入力される場合に比べて、母体情報は、学習結果や判別結果に反映されやすい。すなわち、本判別器や本装置は、胚の移植から生児獲得の成否に影響を与える母体情報を反映した学習結果や判別結果を得る。つまり、本判別器や本装置は、胚の判別精度(予測精度)を高めることができる。
【0050】
なお、本判別器や本装置は、前述のとおり、患者の胚のタイムラプス画像と母体情報とに基づいて、着床率の高い良好胚であるか否か、あるいは、流産率の高い染色体異常であるか否か、を判別(予測)することができる。特に、染色体異常であるか否かを判別できる本判別器や本装置は、これまで唯一の検査方法であったPGT-Aの代替手段となり得る。前述のとおり、PGT-Aは、胚への侵襲性や高額な検査費用などの課題を抱える。このようなPGT-Aの代替手段として本判別器や本装置による判別が用いられることで、PGT-Aに至る症例は、減少し得る。
【0051】
また、以上説明された実施の形態は、本判別器の学習用データとして、学習用患者ごとの胚のタイムラプス画像と母体情報、並びに、学習用患者ごとの胚の経過情報、が用いられた。これに代えて、本判別器の学習用データは、学習用患者ごとの胚のPGT-Aの検査結果(胚の染色体数)を含んでもよい。すなわち、本判別器は、学習用患者ごとの胚のタイムラプス画像と母体情報とPGT-Aの検査結果、並びに、学習用患者ごとの胚の経過情報、により学習されてもよい。この場合、本判別器は、判別対象の患者の胚のタイムラプス画像と母体情報とPGT-Aの検査結果と、に基づいて、良好胚であるか否か、あるいは、染色体異常であるか否か、を判別する。ここで、本判別器の学習過程あるいは判別過程において、PGT-Aの検査結果が入力される層は、母体情報が入力される中間層と同じ中間層(図7の入力層も含む)、あるいは、母体情報が入力される中間層とは別の中間層(図7の入力層も含む)である。PGT-Aの検査結果が入力される個別中間層内の位置は、前述の母体情報が入力される個別中間層内の位置の決定と同様、本判別器の学習過程において、適宜設定される。
【0052】
●本判別器と本学習方法と本装置と本方法との特徴●
これまでに説明された本判別器と本学習方法と本装置と本方法との特徴は、以下にまとめて記載される。
【0053】
●本判別器の特徴
本判別器は、
判別対象の患者の胚が撮像されたタイムラプス画像が入力される入力層と、
前記胚の判別結果が出力される出力層と、
前記入力層に入力された前記タイムラプス画像と、前記患者の母体に関連する母体情報と、を用いて、前記出力層に出力される前記判別結果を算出する中間層と、
で構成されるタイムラプス画像判別器であって、
前記中間層は、ニューラルネットワークで学習されていて、
前記中間層の学習において、
学習用患者の学習用胚の学習用タイムラプス画像が、前記入力層に入力されて、
前記学習用患者の母体に関連する学習用母体情報が、前記中間層に入力される、
ことを特徴とする。
【0054】
本判別器において、
前記母体情報は、前記患者の年齢に関する情報、
でもよい。
【0055】
本判別器において、
前記中間層は、複数の個別中間層、を含み、
前記中間層の学習において、前記学習用母体情報は、複数の前記個別中間層のうちの少なくとも1の前記個別中間層に入力される、
ものでもよい。
【0056】
本判別器において、
複数の前記個別中間層のうち、前記判別対象の患者の前記母体情報が入力される前記個別中間層は、前記判別対象の前記患者の前記タイムラプス画像または前記母体情報に基づいて、選択される、
ものでもよい。
【0057】
本判別器において、
前記中間層の学習において、前記学習用母体情報は、前記入力層に入力される、
ものでもよい。
【0058】
●本学習方法の特徴
本学習方法は、
判別対象の患者の胚が撮像されたタイムラプス画像が入力される入力層と、
前記胚の判別結果が出力される出力層と、
前記入力層に入力された前記タイムラプス画像と、前記患者の母体に関連する母体情報と、を用いて、前記出力層に出力される前記判別結果を算出する中間層と、
で構成されるタイムラプス画像判別器の学習方法であって、
前記中間層は、ニューラルネットワークで学習されていて、
前記中間層の学習において、
学習用患者の学習用胚の学習用タイムラプス画像が、前記入力層に入力されるステップと、
前記学習用患者の母体に関連する学習用母体情報が、前記中間層に入力されるステップと、
を有してなる、
ことを特徴とする。
【0059】
●本装置の特徴
本装置は、
学習用患者ごとの学習用タイムラプス画像と、前記学習用患者ごとの母体に関連する学習用母体情報と、に基づいて学習された判別器を記憶する記憶部と、
判別対象の患者の胚のタイムラプス画像と、前記患者の母体に関連する母体情報と、を取得する取得部と、
前記取得部に取得された前記タイムラプス画像と前記母体情報と、前記判別器と、に基づいて、前記胚を判別する判別部と、
前記判別部に判別された判別結果を出力する出力部と、
を有してなり、
前記判別器は、本判別器である、
ことを特徴とする。
【0060】
●本方法の特徴
本方法は、
学習用患者ごとの学習用タイムラプス画像と、前記学習用患者ごとの母体に関連する学習用母体情報と、に基づいて学習された判別器を記憶する記憶部、
を備えた胚判別装置に実行される胚判別方法であって、
前記胚判別装置が、
判別対象の患者の胚のタイムラプス画像と、前記患者の母体に関連する母体情報と、を取得する取得ステップと、
前記取得ステップで取得された前記タイムラプス画像と前記母体情報と、前記判別器と、に基づいて、前記胚を判別する判別ステップと、
前記判別ステップで判別された判別結果を出力する出力ステップと、
を有してなり、
前記判別器は、本判別器である、
ことを特徴とする。
【符号の説明】
【0061】
1 胚判別装置
2 記憶部
3 撮像部
4 入力部
5 取得部
6 判別部
7 出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7