(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055527
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】乗物用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/803 20180101AFI20240411BHJP
A47C 7/38 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
B60N2/803
A47C7/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162542
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【弁理士】
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 眞幸
(72)【発明者】
【氏名】田口 航平
【テーマコード(参考)】
3B084
3B087
【Fターム(参考)】
3B084DA02
3B084DD02
3B087DC05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】シートバックパッドに対するヘッドレストパッドの位置ずれが抑制された乗物用シートを提供する。
【解決手段】乗物用シートSは、シートバックパッド10とバックフレーム12とを有するシートバック1と、バックフレーム12に取り付けられるヘッドレストパッド30を有するヘッドレスト3と、を備え、ヘッドレストパッド30は、バックフレーム12又はシートバックパッド10に係合する係合部7を有する。ヘッドレストパッド30が係合部7を備えることで、シートバックパッド10に対するヘッドレストパッド30の位置が規制され、位置ズレを抑制することができる。
【選択図】
図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックフレームとシートバックパッドとを有するシートバックと、
前記バックフレームに取り付けられるヘッドレストパッドを有するヘッドレストと、を備え、
前記ヘッドレストパッドは、前記バックフレーム又は前記シートバックパッドに係合する係合部を有することを特徴とする乗物用シート。
【請求項2】
前記係合部は、前記ヘッドレストパッドに形成された凹部であり、
前記シートバックパッドには、前記ヘッドレストパッドの前記凹部と嵌合する凸部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の乗物用シート。
【請求項3】
前記シートバックパッドの前記凸部の上端に形成される角部の曲率半径は、前記ヘッドレストパッドの前記凹部の下端に形成される角部の曲率半径より大きいことを特徴とする請求項2に記載の乗物用シート。
【請求項4】
前記係合部は、前記ヘッドレストパッドに形成された凸部であり、
前記シートバックパッドには、前記ヘッドレストパッドの前記凸部と嵌合する凹部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の乗物用シート。
【請求項5】
前記ヘッドレストパッドの前記凸部の下端に形成される角部の曲率半径は、前記シートバックパッドの前記凹部の上端に形成される角部の曲率半径より大きいことを特徴とする請求項4に記載の乗物用シート。
【請求項6】
前記シートバックパッドは、上端部において、第一突起部と該第一突起部の前後に位置する第一窪み部とを有し、
前記ヘッドレストパッドは、下端部において、並列して形成される複数の第二突起部と、隣り合う前記第二突起部の間に前記係合部として形成される第二窪み部と、を有し、
前記第二窪み部が前記第一突起部に係合することを特徴とする請求項1に記載の乗物用シート。
【請求項7】
前記シートバックパッドの前記第一突起部のシート幅方向における両端部は、前記第一窪み部の両端部と接していることをと特徴とする請求項6に記載の乗物用シート。
【請求項8】
前記シートバックパッドの前記第一窪み部の上面と前記ヘッドレストパッドの前記下端部とが接触する部分のシート前後方向の長さは、前記第一突起部の上面と前記ヘッドレストパッドの前記下端部とが接触する部分のシート前後方向の長さより長いことを特徴とする請求項6に記載の乗物用シート。
【請求項9】
前記シートバックパッドの前記第一突起部は、前記バックフレームより前方に配置されていることを特徴とする請求項6に記載の乗物用シート。
【請求項10】
前記バックフレームより前方に位置する前記第一窪み部の上面と、前記ヘッドレストパッドの前記第二窪み部の下面とが接触する部分のシート前後方向の長さは、前記バックフレームより後方に位置する前記第一窪み部の上面と前記ヘッドレストパッドの前記第二窪み部の下面とが接触する部分のシート前後方向における長さより短いことを特徴とする請求項6に記載の乗物用シート。
【請求項11】
前記ヘッドレストパッドと前記シートバックパッドとの接触部分は、シート幅方向において外側の両端部が中央部分より高い凹状の湾曲面として形成されることを特徴とする請求項1に記載の乗物用シート。
【請求項12】
前記シートバックパッドを覆う第一表皮と、
前記ヘッドレストパッドを覆う第二表皮と、
前記第一表皮の上端と前記第二表皮の下端とを縫い合わせた縫合部と、を備え、
前記シートバックパッドと前記ヘッドレストパッドとの境界において、境界線に沿って延びて前記縫合部を収容する溝部が形成されることを特徴とする請求項1に記載の乗物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乗物用シートに係り、特にシートバックにヘッドレストが組付けられる乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、シートバックのシートバックパッドと、ヘッドレストパッドと、両パッドの表面を一体的にカバーするシートカバーと、を備える車両用シートが開示されている。シートバックとヘッドレストが一体化された車両シートは、ハイバックシートとも呼ばれ、特許文献1の車両用シートでは、両パッドの境界において、シートカバーの正面側の内面と背面側の内面とをテンションを掛けた状態で留め、シートカバーが両パッドの表面を一体的に覆うように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示される車両用シートでは、シートバックパッドとヘッドレストパッドとは別体となっており、ヘッドレストパッドは、シートバックから延びるバックフレームにより支持されている。しかしながら、シートバックパッドとヘッドレストパッドとの接触部分が平坦であるため、乗員の後頭部から荷重がかかったとき、シートバックパッドに対してヘッドレストパッドの位置がずれ、外観の意匠性の低下を招く可能性があった。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、シートバックパッドに対するヘッドレストパッドの位置ズレを抑制し、外観の意匠性の低下が抑制された乗物用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題は、本発明の乗物用シートによれば、バックフレームとシートバックパッドとを有するシートバックと、前記バックフレームに取り付けられるヘッドレストパッドを有するヘッドレストと、を備え、前記ヘッドレストパッドは、前記バックフレーム又は前記シートバックパッドに係合する係合部を有することにより解決される。
【0007】
ヘッドレストパッドがバックフレーム又はシートバックパッドに係合する係合部を有することにより、シートバックに対するヘッドレストの位置が規制され、ヘッドレストの位置ズレを抑制することができ、外観の意匠性の低下が抑制される。
【0008】
上記の乗物用シートにおいて、前記係合部は、前記ヘッドレストパッドに形成された凹部であり、前記シートバックパッドには、前記ヘッドレストパッドの前記凹部と嵌合する凸部が形成されるとよい。
係合部としてヘッドレストパッドに凹部を形成し、シートバックパッドに凹部と嵌合する凸部を形成することで、シートバックに対するヘッドレストの位置が規制され、ヘッドレストの位置ズレを抑制することができる。
【0009】
また、上記の乗物用シートにおいて、前記シートバックパッドの前記凸部の上端に形成される角部の曲率半径は、前記ヘッドレストパッドの前記凹部の下端に形成される角部の曲率半径より大きいとよい。
凸部上端の角部の曲率半径を、凹部下端の角部の曲率半径より大きくすることで、凸部が緩やかな形状となるため、凸部を凹部に挿入する際の引掛りが少なくなり、差し込みが容易になる。それによりパッド同士の組付け時における作業性を向上させることができる。また、凹部の角部が鋭い形状となるため、ヘッドレストパッドの凹部下端ではシートバックパッドとの密着性が向上する。
【0010】
また、上記の乗物用シートにおいて、前記係合部は、前記ヘッドレストパッドに形成された凸部であり、前記シートバックパッドには、前記ヘッドレストパッドの前記凸部と嵌合する凹部が形成されるとよい。
係合部としてヘッドレストパッドに凸部を形成し、シートバックパッドに、凸部と嵌合する凹部を形成することで、シートバックに対するヘッドレストの位置が規制され、ヘッドレストの位置ズレを抑制することができる。
【0011】
また、上記の乗物用シートにおいて、前記ヘッドレストパッドの前記凸部の下端に形成される角部の曲率半径は、前記シートバックパッドの前記凹部の上端に形成される角部の曲率半径より大きいとよい。
凸部下端の角部の曲率半径を、凹部上端の角部の曲率半径より大きくすることで、凸部が緩やかな形状となるため、凸部を凹部に挿入する際の引掛りが少なくなり、差し込みが容易になる。そのため、パッド同士の組付け時における作業性を向上させることができる。また、凹部の角部が鋭い形状となるため、シートバックパッドの凹部上端ではヘッドレストパッドとの密着性が向上する。
【0012】
また、上記の乗物用シートにおいて、前記シートバックパッドは、上端部において、第一突起部と該第一突起部の前後に位置する第一窪み部とを有し、前記ヘッドレストパッドは、下端部において、並列して形成される複数の第二突起部と、隣り合う前記第二突起部の間に前記係合部として形成される第二窪み部と、を有し、前記第二窪み部が前記第一突起部に係合するとよい。
第二窪み部が第一突起部に係合することで、シートバックに対するヘッドレストの位置が規制され、ヘッドレストの位置ズレを抑制することができる。
【0013】
また、上記の乗物用シートにおいて、前記シートバックパッドの前記第一突起部のシート幅方向における両端部は、前記第一窪み部の両端部と接しているとよい。
第一突起部の両端部が、第一窪み部の両端部と接していることで、シート幅方向のヘッドレストパッドの位置が規制され、ヘッドレストパッドの位置ズレを抑制することができる。
【0014】
また、上記の乗物用シートにおいて、前記シートバックパッドの前記第一窪み部の上面と前記ヘッドレストパッドの前記下端部とが接触する部分のシート前後方向の長さは、前記第一突起部の上面と前記ヘッドレストパッドの前記下端部とが接触する部分のシート前後方向の長さより長いとよい。
シート前後方向において、第一窪み部の上面とヘッドレストパッドの下端部との接触部分をより広くすることで、ヘッドレストパッドの安定性が維持され、前後方向の位置ズレを抑制することができる。
【0015】
また、上記の乗物用シートにおいて、前記シートバックパッドの前記第一突起部は、前記バックフレームより前方に配置されているとよい。
第一突起部をバックフレームより前方に配置することで、バックフレームより前方にあるヘッドレストパッドの部分を有効に活用して、ヘッドレストパッドの前後方向の位置を規制することができる
【0016】
また、上記の乗物用シートにおいて、前記バックフレームより後方に位置する前記第一窪み部の上面と前記ヘッドレストパッドの前記第二窪み部の下面とが接触する部分のシート前後方向における長さは、前記バックフレームより前方に位置する前記第一窪み部の上面と、前記ヘッドレストパッドの前記第二窪み部の下面とが接触する部分のシート前後方向の長さより長いとよい。
乗員の頭部を支持する際にヘッドレストにかかる荷重に対して、より背面側、すなわちバックフレームより後方に位置する接触部分の長さをより長くして接触面積を増やすことにより、背面側の位置ズレを抑制し、外観の意匠性の低下を抑制することができる。
【0017】
また、上記の乗物用シートにおいて、前記ヘッドレストパッドと前記シートバックパッドとの接触部分は、シート幅方向において外側の両端部が中央部分より高い凹状の湾曲面として形成されるとよい。
接触部分が、シート幅方向において外側の両端部が中央部分より高い凹状の湾曲面として形成されることにより、ヘッドレストの重心が中央に寄り、外観の意匠性が向上する。また、ヘッドレストパッドのシート幅方向の位置ズレが抑制され、外観の意匠性の低下を抑制することができる。
【0018】
また、上記の乗物用シートにおいて、前記シートバックパッドを覆う第一表皮と、前記ヘッドレストパッドを覆う第二表皮と、前記第一表皮の上端と前記第二表皮の下端とを縫い合わせた縫合部と、を備え、前記シートバックパッドと前記ヘッドレストパッドとの境界において、境界線に沿って延びて前記縫合部を収容する溝部が形成されるとよい。
縫合部がシートバックパッドとヘッドレストパッドとの境界線に沿って延びる溝部に収容されることで、ヘッドレストの移動より生じる表皮の皺の発生を抑制し、外観の意匠性の低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の乗物用シートによれば、ヘッドレストパッドがバックフレーム又はシートバックパッドに係合する係合部を有することにより、シートバックに対するヘッドレストの位置が規制され、ヘッドレストの位置ズレを抑制することができ、外観の意匠性の低下が抑制される。
また、本発明の乗物用シートによれば、係合部としてヘッドレストパッドに凹部を形成し、シートバックパッドに凹部と嵌合する凸部を形成することで、シートバックに対するヘッドレストの位置が規制され、ヘッドレストの位置ズレを抑制することができる。
また、凸部上端の角部の曲率半径を、凹部下端の角部の曲率半径より大きくすることで、凸部が緩やかな形状となるため、凸部を凹部に挿入する際の引掛りが少なくなり、差し込みが容易になる。それによりパッド同士の組付け時における作業性を向上させることができる。また、凹部の角部が鋭い形状となるため、ヘッドレストパッドの凹部下端ではシートバックパッドとの密着性が向上する。
また、本発明の乗物用シートによれば、係合部としてヘッドレストパッドに凸部を形成し、シートバックパッドに、凸部と嵌合する凹部を形成することで、シートバックに対するヘッドレストの位置が規制され、ヘッドレストの位置ズレを抑制することができる。
また、本発明の乗物用シートによれば、凸部下端の角部の曲率半径を、凹部上端の角部の曲率半径より大きくすることで、凸部が緩やかな形状となるため、凸部を凹部に挿入する際の引掛りが少なくなり、差し込みが容易になる。そのため、パッド同士の組付け時における作業性を向上させることができる。また、凹部の角部が鋭い形状となるため、シートバックパッドの凹部上端ではヘッドレストパッドとの密着性が向上する。
また、本発明の乗物用シートによれば、第二窪み部が第一突起部に係合することで、シートバックに対するヘッドレストの位置が規制され、ヘッドレストの位置ズレを抑制することができる。
また、本発明の乗物用シートによれば、第一突起部の両端部が、第一窪み部の両端部と接していることで、シート幅方向のヘッドレストパッドの位置が規制され、ヘッドレストパッドの位置ズレを抑制することができる。
また、本発明の乗物用シートによれば、シート前後方向において、第一窪み部の上面とヘッドレストパッドの下端部との接触部分をより広くすることで、ヘッドレストパッドの安定性が維持され、前後方向の位置ズレを抑制することができる。
また、本発明の乗物用シートによれば、第一突起部をバックフレームより前方に配置することで、バックフレームより前方にあるヘッドレストパッドの部分を有効に活用して、ヘッドレストパッドの前後方向の位置を規制することができる。
また、本発明の乗物用シートによれば、乗員の頭部を支持する際にヘッドレストにかかる荷重に対して、より背面側、すなわちバックフレームより後方に位置する接触部分の長さをより長くして接触面積を増やすことにより、背面側の位置ズレを抑制し、外観の意匠性の低下を抑制することができる。
また、本発明の乗物用シートによれば、接触部分が、シート幅方向において外側の両端部が中央部分より高い凹状の湾曲面として形成されることにより、ヘッドレストの重心が中央に寄り、外観の意匠性が向上する。また、ヘッドレストパッドのシート幅方向の位置ズレが抑制され、外観の意匠性の低下を抑制することができる。
また、本発明の乗物用シートによれば、縫合部がシートバックパッドとヘッドレストパッドとの境界線に沿って延びる溝部に収容されることで、ヘッドレストの移動より生じる表皮の皺の発生を抑制し、外観の意匠性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態に係る車両用シートの外観を示す斜視図である。
【
図2】ヘッドレストパッドとシートバックパッドとの位置関係を示す分解斜視図である。
【
図4】分解されたシートバックパッドの上側部分とヘッドレストパッドとを示す正面図である。
【
図5】シートバックパッドの上面を示す上面図である。
【
図6】ヘッドレストパッドの底面を示す底面図である。
【
図7】第二例を示す
図1のA-A線に沿った断面図である。
【
図8】第三例を示す
図1のA-A線に沿った断面図である。
【
図9】第四例を示す
図1のA-A線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態に係る乗物用シートの構成について図面を参照しながら説明する。ただし、以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。すなわち、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
また、以下の説明中、シート構成部品の材質、形状及び大きさに関する内容は、あくまでも具体例の一つに過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0022】
なお、以下では、乗物用シートの一例として車両に搭載される車両用シートを挙げ、その構成例について説明することとする。ただし、本発明は、自動車・鉄道など車輪を有する地上走行用乗物に搭載される車両用シートに限定されるものではなく、例えば、地上以外を移動する航空機や船舶などに搭載されるシートにも適用され得る。
【0023】
また、以下の説明中、「前後方向」とは、車両用シートの前後方向であり、車両走行時の進行方向と一致する方向である。また、「シート幅方向」とは、車両用シートの横幅方向(換言すると、シート本体の幅方向)であり、車両用シートに着座した乗員から見た左右方向と一致する方向である。シート幅方向を「左右方向」と称する場合がある。また、「上下方向」とは、車両用シートの上下方向であり、車両が水平面を走行しているときには鉛直方向と一致する方向である。
【0024】
<車両用シートの基本構成>
本実施形態の第一例である車両用シート(以下、車両用シートS)の基本構成について、
図1を参照しながら説明する。
図1は、車両用シートSの斜視図であり、
図1中車両用シートSの一部については、図示の都合上、表皮を外した構成にて図示している。
【0025】
車両用シートSは、車体フロアの上に載置され、車両の乗員が着座するシートである。本実施形態において、車両用シートSは、車両の前席に相当するフロントシートとして利用される。ただし、これに限定されるものではなく、車両用シートSは、後部座席のシートとしても利用可能であり、また、前後方向に三列のシートを備える車両において二列目のミドルシートや三列目のリアシートとしても利用可能である。
【0026】
車両用シートSは、
図1に示すように、着座者の背部を支える背もたれ部分となるシートバック1、着座者の臀部を支える着座部分となるシートクッション2、及び、シートバック1の上部に配され、着座者の頭部を支えるヘッドレスト3を主な構成要素とする。
また、シートバック1は、シートクッションの2とリクライニング機構5により接続されており、シートバック1は、シートクッション2に対して回動して、その後傾する角度を調整することができる。
車両用シートSの下部には、スライド機構6が設けられている。車両用シートSは、スライド機構6により前後方向にスライド移動可能な状態で車体フロアに取り付けられる。
【0027】
以下では、主な構成要素であるシートバック1、シートクッション2及びヘッドレスト3のうち、シートバック1及びヘッドレスト3の詳細な構成を説明していく。なお、シートクッション2は公知の構成でよいため、その詳細な説明は省略する。
【0028】
<シートバック1>
シートバック1は、シートバックパッド10、シートバック用表皮11(第一表皮)及びバックフレーム12と、から構成されている。
バックフレーム12は、シートバック1とヘッドレスト3との骨格を成しており、先端(上端)が先細りとなるように形成されている(
図4参照)。
シートバックパッド10は、シートクッション2に着座した乗員の背凭れ荷重を受け止め可能なパッド部材であり、バックフレーム12に対して包着状に形成されている。
また、シートバックパッド10は、例えばウレタン発泡材を用いて、発泡成型により成型されたウレタン基材である。シートバック用表皮11は、シートバックパッド10を覆うように取り付けられており、例えば、クロス、合成皮革又は本革等の表皮材からなる。
【0029】
<ヘッドレスト3>
ヘッドレスト3は、ヘッドレストパッド30と、ヘッドレストパッド30を覆うヘッドレスト用表皮31(第二表皮)とから構成されている。
ヘッドレストパッド30は乗員の後頭部からの荷重を受け止める部材であり、
図2に示すように、バックフレーム12の先細りした先端部分に差し込み可能に構成されている。
【0030】
より詳細に説明すると、ヘッドレストパッド30には、
図3に示すように、バックフレーム12の先端部分を受け入れる可能な差込穴32が形成されている。この差込穴32に、バックフレーム12の先端部分を挿入し、先端部分を差込穴32の上端部で保持することにより、ヘッドレストパッド30が取り付けられる。
【0031】
なお、シートバック用表皮11とヘッドレスト用表皮31とは、シートバック1とヘッドレスト3との境界部分で縫い合わせて縫合部40を形成することにより、シートカバー20として一体的に形成される。ヘッドレストパッド30をシートバックパッド10に組み合わせた後、シートカバー20を取り付けることで、
図1に示すように、シートバック1とヘッドレスト3とが一体となった車両用シートSが完成する。
【0032】
<係合部7>
以下では、本実施形態の特徴的な構成要素であるヘッドレストパッド30に設けられた係合部7について説明する。
従来のハイバックタイプの車両用シートでは、ヘッドレストパッドの差込穴にバックフレームを差し込み、シートバックパッドの上面とヘッドレストパッドの下面とを接触させることにより固定していた。しかながら、シートバックパッドの上面とヘッドレストパッドの下面との接触面が平坦であることから、乗員の後頭部からヘッドレストに荷重がかかった場合、ヘッドレストパッドの位置がずれる場合があり、外観の意匠性の低下を招いていた。
【0033】
本実施形態の車両用シートSでは、
図3Aに示すように、シートバックパッド10の上端部において、上方のヘッドレストパッド30に向けて突出する凸部(第一突起部13)が形成されている。また、ヘッドレストパッド30の下端部には、係合部7として機能し、上方に向けて窪む凹部(第二窪み部34)が形成されている。そして、ヘッドレストパッド30の差込穴32に、バックフレーム12の先端(上端)を挿入し、ヘッドレストパッド30の凹部をシートバックパッド10の凸部に嵌合することにより、ヘッドレストパッド30をシートバックパッド10に固定している。
【0034】
係合部7であるヘッドレストパッド30の凹部が、シートバックパッド10の凸部に嵌合することでヘッドレストパッド30の移動が制限される。すなわち、ヘッドレストパッド30が、シートバックパッド10に対して凹凸によって位置が規制される。そのため、ヘッドレストパッド30とシートバックパッド10との位置ズレが抑制され、外観の意匠性の低下を抑制することができる。
【0035】
より詳細に説明すると、
図3A及び
図5に示すように、シートバックパッド10の上端部には、凸部である第一突起部13と、第一突起部13の前後に位置する第一窪み部14a、14bが形成されている。
また、ヘッドレストパッド30の下端部には、
図3A及び
図6に示すように、複数の第二突起部33a、33bが並列して設けられており、第二突起部33a、33bの間に凹部である第二窪み部34が、係合部7として設けられている。
シートバックパッド10の第一突起部13に、ヘッドレストパッド30の第二窪み部34が嵌合することにより、ヘッドレストパッド30の位置が規制され、シートバックパッド10に対するヘッドレストパッド30の位置ズレが抑制される。
なお、第一突起部13を第二窪み部34に嵌合させた後、それらを接着してもよい。接着することで、ヘッドレストパッド30の位置がより規制されるようになる。
【0036】
また、
図3Bに示すように、第一突起部13(凸部)の上端の角部15と第二窪み部34(凹部)の下端の角部35にはアールが施されている。本実施形態において、角部15に形成されるアールの曲率半径R1は10mmで、角部35のアールの曲率半径R2は5mmである。
曲率半径R1、R2の大きさに制限はないが、第一突起部13の角部15の曲率半径R1を、第二窪み部34の角部35の曲率半径R2より大きくするのがよい。凸部側の角部15を緩やかな形状とすることで、ヘッドレストパッド30をシートバックパッド10に組み付ける際、引掛かりが少なくなり差し込みが容易になる。それにより、パッド同士の組立作業性が向上する。また、角部35の曲率半径R2を小さくすることで、凹部側の角部35が鋭い形状になるため、第一突起部13の根本部分と第二窪み部34の下端部の密着性が向上する。
【0037】
また、
図4及び
図5に示すように、第一突起部13のシート幅方向における両端部は、第一窪み部14a、14bの両端部と接しているとよい。このように、シートバックパッド10の凸部を構成することで、より強固にヘッドレストパッド30の第二窪み部34(凹部)を嵌合させることができ、シートバックパッド10に対するヘッドレストパッド30の位置ズレを抑制することができる。
【0038】
<接触部分16>
また、
図3Aに示すように、シートバックパッド10の上面とヘッドレストパッド30の下面とは、複数の接触部分16で接触している。より詳細に説明すると、バックフレーム12より前方にある第一窪み部14aの上面と第二突起部33aの下面とは、第一接触部分16aで接触している。また、第一突起部13の上面と第二窪み部34の下面とは第二接触部分16bで接触している。
そして、第一接触部分16aのシート前後方向の長さL1と、第二接触部分16bのシート前後方向の長さL2とを比較すると、第一接触部分16aの長さL1の方が、第二接触部分16bの長さL2より長くなるように構成されている。このように構成することで、第一接触部分16aの接触面積が大きくなり、ヘッドレストパッド30の位置ズレが抑制され、外観の意匠性の低下を抑制することができる。
【0039】
また、バックフレーム12より後方にある第一窪み部14bの上面と、第二突起部33bの下面とは、第三接触部分16cで接触している。
第一接触部分16aのシート前後方向の長さL1と、第三接触部分16cのシート前後方向の長さL3とを比較すると、第一接触部分16aの長さL1の方が、第三接触部分16cの長さL3が短くなるように構成されている。このように構成することで、第三接触部分16cの接触面積が増え、シート背面側の位置ズレが抑制され、シート後方側から見た外観の意匠性の低下を抑制することができる。
また、本実施形態において、バックフレーム12よりも前方にある第一接触部分16aの長さL1は、バックフレーム12の前後方向の大きさL4よりも短くなるように構成されている。
【0040】
また、シートバックパッド10の第一突起部13は、バックフレーム12よりも前方に配置されている。それにより、シートバックパッド10の前方部分を有効に活用することができる。
【0041】
ヘッドレストパッド30の下面と、シートバックパッド10の上面とが接触する接触部分16(第一接触部分16a~第三接触部分16c)は、
図4に示すように、シート幅方向において、外側の両端部が中央部分より高い凹状の湾曲面として形成されている。
接触部分16がこのような湾曲面として形成されるため、ヘッドレスト3の重心が中央に寄り、外観の意匠性が向上する。また、シート幅方向のヘッドレストパッド30の位置ズレも抑制され、外観の意匠性が低下することが抑制される。また、ヘッドレストパッド30をシートバックパッド10に組付ける際、引掛りが抑制されるためパッド同士の組付け時における作業性が向上する。
【0042】
<溝部41>
図3に示すように、シートバックパッド10の上面において最前部又は最後部に位置する角は切り欠かれ切欠部18が形成されている。また、ヘッドレストパッド30の下面においても最前部又は最後部に位置する角が切り欠かれ切欠部36が形成されている。
【0043】
切欠部18、36が形成されることで、ヘッドレストパッド30がシートバックパッド10に組付けられたとき、ヘッドレストパッド30とシートバックパッド10との境界において溝部41が形成される。溝部41はヘッドレストパッド30とシートバックパッド10との境界線に沿って延びており、シートバック用表皮11(第一表皮)とヘッドレスト用表皮31(第二表皮)とを縫い合わせた縫合部40が、溝部41に収容されるように構成されている。溝部41に縫合部40が収容されることで、縫合部40によるシートカバー20の浮き上がりが抑制される。また、ヘッドレスト3の移動により生じるシートカバー20の皺の発生も抑制することができる。
なお、バックフレーム12より前方にある溝部41の大きさと、後方にある溝部41の大きさとは異なっていてもよい。例えば、切欠部18、36の大きさを調整することにより、前方にある溝部41を後方の溝部41より小さくなるように構成してもよい。
【0044】
<第二例>
図7を用いて第二例の車両用シートSAについて説明する。
図7は、
図1のA-A線に沿った断面図であり、車両用シートSAのシートバック及びヘッドレストの構成を主に示す。
第一例の車両用シートSでは、シートバックパッド10の凸部(第一突起部13)と嵌合する凹部(第二窪み部34)が係合部7としてヘッドレストパッド30に形成されていたが、係合部が嵌合するものはこれに限定されない。
【0045】
例えば、
図7に示す車両用シートSAのように、バックフレーム12Aの上端に突起部13A(凸部)を設け、ヘッドレストパッド30Aの差込穴32の上端に、係合部7Aとして突起部13Aと嵌合する窪み部34A(凹部)を設けてもよい。この場合、
図7に示すように、シートバックパッド10Aとヘッドレストパッ30Aとの間に凹部がなくてもよい。
窪み部34Aが突起部13Aに嵌合することで、ヘッドレストパッド30Aが前後方向に移動又は回動することが抑制される。それにより、ヘッドレストパッド30Aの位置ズレが抑制され、外観の意匠性の低下を抑制することができる。
その他の構成については、上記第一例の車両用シートSと同様であるため、
図7中第一例に対応する部分に同一の参照符号を付して、重複する説明を省略する。
【0046】
<第三例>
次に、
図8を用いて第三例の車両用シートSBについて説明する。
図8は、
図1のA-A線に沿った断面図であり、第三例である車両用シートSBのシートバック及びヘッドレストの構成を主に示す。
第一例の車両用シートSでは、シートバックパッド10の凸部(第一突起部13)と嵌合する凹部(第二窪み部34)が係合部7としてヘッドレストパッド30に形成されていたが、ヘッドレストパッド30に設けられる係合部はこれに限定されない。
【0047】
例えば、
図8に示す車両用シートSBのように、シートバックパッド10Bの上端部に凹部19を設け、ヘッドレストパッド30Bの下端部に凹部19と嵌合する凸部37を係合部7Bとして設けてもよい。
【0048】
ヘッドレストパッド30Bの凸部37が、シートバックパッド10の凹部19に嵌合することにより、ヘッドレストパッド30Bの位置が規制され、シートバックパッド10に対するヘッドレストパッド30Bの位置ズレが抑制される。それにより、外観の意匠性の低下を抑制することができる。
【0049】
また、
図8に示すように、ヘッドレストパッド30Bの凸部37の下端の角部37aと、シートバックパッド10Bの凹部19の上端の角部19aにはアールが施されている。
第三例の車両用シートSBにおいて、角部19aの曲率半径R3は10mm、角部35の曲率半径R4は5mmで形成されている。曲率半径R3、R4の大きさに制限はないが、凸部37の角部37aの曲率半径R3を、凹部19の角部19aの曲率半径R4より大きくするのがよい。
【0050】
凸部37側の角部37aを緩やかな形状にすることで、ヘッドレストパッド30Bをシートバックパッド10Bに組み付ける際、引掛かりが少なくなり差し込みが容易になる。それにより、パッド同士の組立時における作業性が向上する。また、凹部19の角部19aの曲率半径R4を小さくすることで、凹部19側の角部19aが鋭い形状になるため、凸部37の根本部分と凹部19の上端部の密着性が向上する。
その他の構成については、上記第一例の車両用シートSと同様であるため、
図8中第一例に対応する部分に同一の参照符号を付して、重複する説明を省略する。
【0051】
<第四例>
次に、
図9を用いて第四例の車両用シートSCについて説明する。
図9は、
図1のA-A線に沿った断面図であり、第四例である車両用シートSCのシートバック及びヘッドレストの構成を主に示す。
第一例から第三例の車両用シートS~SBでは、シートバックパッド10~10Bに凸部又は凹部を形成し、係合部7~7Bとしてヘッドレストパッド30~30Bに凹部又は凸部を形成していたが、係合部の固定手段はこれに限定されない。
【0052】
例えば、
図9に示す車両用シートSCのように、シートバックパッド10Cの上端部に、板状の被係合プレート45を埋め込み、ヘッドレストパッド30Cの下端において被係合プレート45と機械的に結合する係合プレート42を係合部7Cとして設けてもよい。
より具体的に説明すると、被係合プレート45には上方に突出する突出部46が設けられており、ヘッドレストパッド30Cの係合プレート42には、突出部46が挿通される孔部43が形成されると共に孔部43の周囲に突出部46に引掛かる係止片44が設けられている。
【0053】
被係合プレート45の突出部46の側部には、係合プレート42の係止片44が引掛かるように切欠きが形成されており、突出部46が孔部43に挿入されることにより、プレート同士のスナップ結合が可能となっている。
【0054】
係合部7Cとして、シートバックパッド10Cの被係合プレート45に係合する係合プレート42を設けることにより、ヘッドレストパッド30Cの位置が規制され、ヘッドレストパッド30Cの位置ズレを抑制し、外観の意匠性の低下を抑制することができる
なお、突出部46の形状はこれに限定されず、その先端をフック状にしてもよい。また、係合プレート42に突出部46を設けて、被係合プレート45に孔部43を形成してもよい。
【符号の説明】
【0055】
S、SA、SB、SC 車両用シート
1 シートバック
2 シートクッション
3 ヘッドレスト
5 リクライニング機構
6 スライド機構
7、7A、7B、7C 係合部
10、10A、10B、10C シートバックパッド
11 シートバック用表皮(第一表皮)
12 バックフレーム
13 第一突起部(凸部)
13A 突起部(凸部)
14a、14b 第一窪み部
15 角部
16 接触部分
16a 第一接触部分
16b 第二接触部分
16c 第三接触部分
18 切欠部
19 凹部
19a 角部
20 シートカバー
30、30A、30B、30C ヘッドレストパッド
31 ヘッドレスト用表皮(第二表皮)
32 差込穴
33a、33b 第二突起部
34 第二窪み部(凹部)
34A 窪み部
35 角部
36 切欠部
37 凸部
37a 角部
40 縫合部
41 溝部
42 係合プレート
43 孔部
44 係止片
45 被係合プレート
46 突出部