(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055529
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】車両用衝撃吸収構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20240411BHJP
【FI】
B62D25/20 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162544
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000241496
【氏名又は名称】豊田鉄工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栃木 祐介
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA02
3D203AA31
3D203BB06
3D203BB12
3D203CA25
3D203CA33
3D203CA37
3D203CA52
3D203CA62
3D203DB05
(57)【要約】
【課題】衝撃吸収部材の波板形状の稜線間の強度を補強することにより、波板の稜線の車幅方向からの倒れ変形を阻止ないし抑制して、側突時のエネルギ吸収作用を確実に行わせる。
【解決手段】車両用衝撃吸収構造は、車両前後方向に中空形状に形成されるサイドシル部材内に衝撃吸収部材22が、車両の側突時にエネルギ吸収作用をする構成として配設されている。衝撃吸収部材22は車両前後方向に波板形状に形成されて配設されている。波板形状は車両前後方向に配設される稜線24aと24b間、及び稜線24cと24d間に当該稜線24a、24b、24c、24dが車両前後方向へ倒れ変形するのを阻止ないし抑制する補強手段(第1のビード36)が設けられている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に中空形状に形成されるサイドシル部材内に、車両の側突時にエネルギ吸収作用をする衝撃吸収部材が配設された構成の車両用衝撃吸収構造であって、
前記衝撃吸収部材は車両前後方向に波板形状に形成されて配設されており、前記波板形状の車両前後方向に配設される稜線間に稜線の車両前後方向への倒れ変形を阻止ないし抑制する補強手段が設けられている、車両用衝撃吸収構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用衝撃吸収構造であって、
前記補強手段はビード形状である、車両用衝撃吸収構造。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用衝撃吸収構造であって、
前記ビード形状は波板形成面から下方への凹形状である、車両用衝撃吸収構造。
【請求項4】
請求項2に記載の車両用衝撃吸収構造であって、
前記ビード形状は波板形成面から上方への凸形状である、車両用衝撃吸収構造。
【請求項5】
請求項4に記載の車両用衝撃吸収構造であって、
前記凸形状は前記波板形状の波板面に車両前後方向に連続して通しで形成されている、車両用衝撃吸収構造。
【請求項6】
請求項3に記載の車両用衝撃吸収構造であって、
前記凹形状は前記波板形状の波板面に車両前後方向に連続して通しで形成されている、車両用衝撃吸収構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用衝撃吸収構造に関する。詳細には、車両の側面衝突(側突)時における衝撃荷重を効果的に吸収するための車両用衝撃吸収構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両、特に電気自動車においては、車両のフロア下に電池を格納する構成がとられる。そして、この電池を車両衝突時における衝撃作用から保護するための衝撃吸収構造がとられる。特に、衝撃吸収構造は、電池が車両中央部のフロア下に配置されることから、車両の側部からの衝突衝撃作用に対する衝撃吸収構造が重要となっている。
【0003】
車両の側部からの衝突衝撃作用に対する衝撃吸収構造は、通常、電池が下部に配置されるフロアと、自動車の側面ドアとの間に配設される車両骨格部材のサイドシル部材(「ロッカー部材」とも称される)で行われる構成となっている。サイドシル部材は車両の前後方向に中空形状に形成された構成となっており、内部に衝撃吸収部材が配設されて、側突時におけるエネルギ吸収作用を強力に行うようになっている。
【0004】
サイドシル部材内に配設される衝撃吸収部材は、車両前後方向に長尺形状に形成されて配設されている。長尺形状は、詳細には、車両前後方向の断面形状で見て波板形状の部材が延設して配設された形態となっている。この波板形状により車両幅方向から作用する衝撃荷重に対して強度を強化させて、衝撃吸収部材の変形に伴うエネルギ吸収作用を強力に行うようにしている(特許文献1参照)。
【0005】
なお、車両の側部からの衝撃作用に対する衝撃吸収構造におけるエネルギ吸収作用の評価試験は、一般的に、自動車等車両の側面部と、この側面部に対して立設させた円柱状のポールとを衝突させることにより行っている。これを通常「ポール側突試験」と称している。そして、このポール側突試験において所定の評価を得ることが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述した衝撃吸収構造における波板形状の衝撃吸収部材にあっては、波板形状を形成する稜線方向が車幅方向となっている。これにより、車両の側突時、特に、ポール側突時には、衝撃吸収部材の車幅方向に形成される稜線に対する側突荷重作用方向が斜め方向から入力する。このため、側突荷重の作用により稜線の倒れが生じて、波板形状の軸圧壊の変形によるエネルギ吸収作用が不十分となる場合がある。
【0008】
而して、本発明は上述した点に鑑みて創案されたものであって、本発明が解決しようとする課題は、衝撃吸収部材の波板形状の稜線間の強度を補強することにより、波板の稜線の車幅方向からの倒れ変形を阻止ないし抑制して、側突時におけるエネルギ吸収作用を確実に行わせることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明に係る車両用衝撃吸収構造は、次の手段をとる。
【0010】
本発明の第1の発明は、車両前後方向に中空形状に形成されるサイドシル部材内に、車両の側突時にエネルギ吸収作用をする衝撃吸収部材が配設された構成の車両用衝撃吸収構造であって、前記衝撃吸収部材は車両前後方向に波板形状に形成されて配設されており、前記波板形状の車両前後方向に配設される稜線間に稜線の車両前後方向への倒れ変形を阻止ないし抑制する補強手段が設けられている、車両用衝撃吸収構造である。
【0011】
本発明の第2の発明は、上述した第1の発明の車両用衝撃吸収構造であって、前記補強手段はビード形状である、車両用衝撃吸収構造である。
【0012】
本発明の第3の発明は、上述した第2の発明の車両用衝撃吸収構造であって、前記ビード形状は波板形成面から下方への凹形状である、車両用衝撃吸収構造である。
【0013】
本発明の第4の発明は、上述した第2の発明の車両用衝撃吸収構造であって、前記ビード形状は波板形成面から上方への凸形状である、車両用衝撃吸収構造である。
【0014】
本発明の第5の発明は、上述した第4の発明の車両用衝撃吸収構造であって、前記凸形状は前記波板形状の波板面に車両前後方向に連続して通しで形成されている、車両用衝撃吸収構造である。
【0015】
本発明の第6の発明は、上述した第3の発明の車両用衝撃吸収構造であって、前記凹形状は前記波板形状の波板面に車両前後方向に連続して通しで形成されている、車両用衝撃吸収構造である。
【発明の効果】
【0016】
上述した本発明の手段によれば、衝撃吸収部材の波板形状の稜線間の強度を補強することにより、波板の稜線の車幅方向からの倒れ変形が阻止ないし抑制されて、側突時におけるエネルギ吸収作用が確実に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態の車両用衝撃吸収構造の断面構成を模式的に示し、ポールが配置されたポール側突試験状態を示す配置図である。
【
図2】衝撃吸収部材を内部に配設するサイドシル部材を車両幅方向に分解して示す分解斜視図である。
【
図3】第1実施形態の波板形状の衝撃吸収部材を示す斜視図である。
【
図4】第2実施形態の波板形状の衝撃吸収部材を示す斜視図である。
【
図5】第3実施形態の波板形状の衝撃吸収部材を示す斜視図である。
【
図6】第4実施形態の波板形状の衝撃吸収部材を示す斜視図である。
【
図7】本実施形態に係る衝撃吸収作用を説明するために衝撃吸収部材の波板形状を線図で示す縦断面図である。
【
図8】
図7の衝撃吸収部材を平面図で示し、ポールと衝突した状態を示す図である。
【
図9】ポール側突試験において、本実施形態に係る衝撃吸収部材の波板形状の稜線の変形状態を示す平面図である。
【
図10】ポール側突試験において、
図9の本実施形態に対比して示す、従来構造に係る衝撃吸収部材の稜線の変形状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明にかかる車両用衝撃吸収構造の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、電気自動車の電池に対する側突時の車両用衝撃吸収構造である。なお、図の説明の方向表示におけるUPRは上方向を示し、OUTは自動車の室内から見た外方向を示し、FRは自動車の前方向を示す。したがって、UPRで示される方向が車両上下方向、OUTで示される方向が車両幅方向、FRで示される方向が車両前後方向である。
【0019】
〔車両用衝撃吸収構造の全体構成〕
図1は本実施形態が適用される車両用衝撃吸収構造10の全体構成の主要部の断面構成を模式的に示したものであり、ポール12が配置されたポール側突試験状態として示したものである。本実施形態は、電気自動車の電池14が電気自動車のフロア16の下部に配置された構成である。
図1で見て、フロア16の右側の側部には、自動車の車体の骨格を形成するサイドシル部材18が配設されており、更に、その右側には側部ドア20(通常フロントドア)が配置されている。ポール側突試験におけるポール12は、更に、その右側位置に配置される。本実施形態では、ポール12に側部ドア20が衝突した場合に、側部ドア20と電池14との間の範囲S内で、衝突におけるエネルギ吸収作用がなされて、電池14を保護するようになっている。特に、サイドシル部材18においてエネルギ吸収作用がなされるようになっている。
【0020】
本実施形態では、サイドシル部材18内に衝撃吸収部材22を配設して、サイドシル部材18の位置において、強力に側突の衝撃吸収作用がなされる構成がとられている。サイドシル部材18は、
図1で見て、右側に配置される外側サイドシル部材18Aと、左側に配置される内側サイドシル部材18Bが、いわゆるハット型断面形状に形成されており、両部材18A、18Bが重ね組合わされて構成されている。その結果、サイドシル部材18は中空形状に形成されており、この中空形状は車両の前後方向に配置される形態となっている。なお、衝撃吸収部材22の材質は、軸圧壊による変形によりエネルギ吸収作用を行うに適する鋼材とされる。
【0021】
図2は、サイドシル部材18内に配設される衝撃吸収部材22の配設形態を、外側と内側のサイドシル部材18A、18Bを分解して示す。衝撃吸収部材22は車両前後方向の断面で見て波板形状に形成されており、車両前後方向に長尺状に配設されている。衝撃吸収部材22は側突時の車両幅方向からの衝撃作用により車両幅方向に変形して衝撃吸収作用のエネルギ吸収作用をなす。この際、衝撃吸収部材22が波板形状に形成されて強度向上が図られていることから、衝撃吸収部材22によるエネルギ吸収作用は強力に行われる形態となっている。
【0022】
なお、衝撃吸収部材22の波板形状は、車両前後方向に長尺形状に配設されることから、複数の部材を連接して形成されている。可能であれば、一枚で形成しても良い。
図2に示されるように、衝撃吸収部材22の内側端は、その上面と下面に配設された取付部材30により内側サイドシル部材18Bに位置決めされて固定されている。
【0023】
〔衝撃吸収部材22の第1実施形態〕
図3は波板形状の衝撃吸収部材22の第1実施形態を示す。
図3は斜視図して示されている。衝撃吸収部材22は車両前後方向に波板形状に形成されることから、車両幅方向に稜線24が形成される。説明の都合上、
図3で見て、波板形状の上面34Uに形成される2本の稜線を24a、24bとし、波板形状の下面34Lに形成される2本の稜線を24c、24dとする。なお、本実施形態の稜線24のエッジ部26は、波板形状の屈曲部が丸み形状で形成されていることから、所定の丸み幅を以って形成されている。
【0024】
図3に示されるように、衝撃吸収部材22の波板形状は、車両上下方向に配設される縦壁32と、車両前後方向に配設される平面壁34とが連接して配設されて形成される。本実施形態が特徴とする形態は、平面壁34に形成される第1のビード36である。第1のビード36は平面壁34の上面34Uと下面34Lに形成されている。上面34Uに形成される第1のビード36は稜線24aと稜線24bとの間に車両前後方向に亘って形成されている。下面34Lに形成される第1のビード36は稜線24cと稜線24dとの間に車両前後方向に亘って形成されている。
【0025】
第1のビード36の形成位置は、
図3で見て、波板形状の幅方向の中央部位置より内側方向の位置とされており、平面壁34の上面34Uと下面34Lのそれぞれの面に1カ所に形成されている。なお、上面34Uと下面34Lに形成される両第1のビード36、36の幅方向の形成位置関係は同じ幅方向の位置とされている。そして、第1のビード36は凸形状として形成されている。この第1のビード36が本発明の手段におけるビードであり、波板形状の稜線24a、24b、24c、24dの車両前後方向への倒れ変形を阻止ないし抑制する補強手段である。
【0026】
また、
図3に示されるように、本実施形態では、波板形状を形成する車両上下方向に配設される縦壁32には、第2のビード38が形成されている。第2のビード38は縦壁32に車両上下方向に形成されている。詳細には、第2のビード38は稜線24aと稜線24cとの間の縦壁32に設けられている。第2のビード38は
図3に示される実施形態では2本設けられており、
図3で見て、波板形状の外端のエッジ26から中央部位置までの間に等間隔配置で2本設けられている。そして、第2のビード38は凹形状として形成されている。
【0027】
更に、
図3に示されるように、本実施形態では、波板形状の稜線24における側突時に当接するエッジ部26の形状が次のように形成されている。すなわち、稜線24a、24b、24c、24dのエッジ部26a、26b、26c、26dの形状は、その端部形状が巻き込み形状のR形状に形成されており、エッジ部26における稜線24の方向が車幅方向から傾斜した方向として形成されている。
【0028】
上記のエッジ部26の構成により、第1実施形態では、衝撃吸収部材22の波板形状は車両前後方向の所定の長さ範囲、例えば波板形状の一山分の長さ範囲における波板形状のエッジ部26の車両前後方向の形成線長L1と、当該エッジ部26以外の部位、例えば中央部位置28における車両前後方向の形成線長L2とが異なる長さとして構成されている。第1実施形態では、波板形状のエッジ部26における車両前後方向の形成線長L1と、当該エッジ部26以外の部位、例えば中央部位置28における車両前後方向の形成線長L2の関係が、L1<L2とした構成に形成されている。
【0029】
〔第1実施形態以外の各種実施形態〕
以下、第1実施形態以外の各種実施形態を説明する。以下に説明する各実施形態おいては、上述した第1実施形態の構成内容と同じ個所には、同じ符号を付して示すことにより、その説明を省略する。
【0030】
〔衝撃吸収部材22の第2実施形態〕
先ず、第2実施形態について説明する。第2実施形態は
図4に示される。
図4は第1実施形態と同様の図示状態の斜視図として示されている。第2実施形態は、第1実施形態における第2のビード38が形成されていない構成である。同様に、第1実施形態における稜線24a、24b、24c、24dのエッジ部26a、26b、26c、26dの端部形状が巻き込み形状のR形状に形成されていない構成である。
【0031】
そして、第2実施形態の
図4に示される構成は、平面壁34の上面34Uと下面34Lに形成される第1のビード36が、波板形成面から下方への凹形状に形成されている構成である。なお、第2実施形態において、第1のビード36が形成されているのは、後述する
図7に示すポール側突試験においてポール12と衝突接触する範囲の平面壁34である。しかし、すべての平面壁34に第1のビード36を設けても良い。
【0032】
〔衝撃吸収部材22の第3実施形態〕
次に、第3実施形態について説明する。第3実施形態は
図5に示される。
図5は第1実施形態と同様の図示状態の斜視図として示されている。第3実施形態は、第1実施形態における稜線24a、24b、24c、24dのエッジ部26a、26b、26c、26dの端部形状が巻き込み形状のR形状に形成されていない構成である。
【0033】
そして、第3実施形態の
図5に示される構成は、平面壁34の上面34Uと下面34Lに形成される第1のビード36と、縦壁32に形成される第2のビード38とが、車両前後方向に連続した通しビードとして形成されている。なお、第3実施形態の第1のビード36と第2のビード38のビード形状は、波板形成面から上方への凸形状として形成されている。したがって、凸形状は波板形状の波板面に車輛前後方向に連続して通しで形成される。なお、第3実施形態において、第1のビード36及び第2のビード38が形成されている範囲は、前述の第2実施形態の場合と同様の範囲であるが、第2実施形態の場合と同様に、すべての平面壁34と縦壁32に設けても良い。
【0034】
第3実施形態において、縦壁32に形成される第2のビード38は1本のみであり、第2のビード38の形成位置は、第1のビード36の形成位置と同じ位置とされている。そして、この位置は、
図3に示す第1実施形態における第1のビード36と同じ位置とされている。
【0035】
〔衝撃吸収部材22の第4実施形態〕
次に、第4実施形態について説明する。第4実施形態は
図6に示される。
図6は前述の
図5に示される第3実施形態と同様の図示状態の斜視図として示されている。第4実施形態は、前述の第3実施形態と同様に、平面壁34の上面34Uと下面34Lに形成される第1のビード36と、縦壁32に形成される第2のビード38とが、車両前後方向に連続した通しビードとして形成されている。しかし、第4実施形態における第1のビード36と第2のビード38のビード形状は、波板形成面から下方への凹形状として形成されている点が第3実施形態と異なるのみで、その他の構成は第3実施形態と同じである。
【0036】
〔本実施形態の作用効果〕
次に、上述した本実施形態の作用効果を、従来の構成との比較において説明する。かつ、「ポール側突試験」における作用効果として説明する。
図7は側突時における衝撃吸収作用を説明するために衝撃吸収部材22の波板形状を線図で示した縦断面図であり、
図8は衝撃吸収部材22を平面図で示し、ポール12と衝突した状態を示す。
図7及び
図8に示すように、波板形状の衝撃吸収部材22の稜線24は、車両幅方向に配設されている。車両の側突時には、この波板形状の稜線24に対して、
図7に示すように、ポール12は衝撃吸収部材22のエッジ部26から矢印Pで示すように喰い込み変形し、衝撃吸収部材22の波形形状が軸圧壊してエネルギ吸収作用がなされる。
【0037】
従来の衝撃吸収部材22の波板形状の構成においては、側突時に、衝撃吸収部材22が軸圧壊して行われるエネルギ吸収作用は、
図8に示す波板形状の稜線24が、
図8に破線で示すような変形作用がなされて行われる。これは、「ポール側突試験」においては、衝突物であるポール12は円形であるため、衝撃吸収部材22の車幅方向に通る稜線24に対して斜め方向の入力となり、稜線24に矢印Wで示すような開きが生じ、稜線24に倒れ変形が生じるためである。その倒れ変形が破線で示されている。
【0038】
図10は従来の衝撃吸収部材22の構成における「ポール側突試験」の試験結果状態を示す。この試験結果状態からも分かるように、従来構成の衝撃吸収部材22の波板形状は、稜線24に倒れ変形が生じることから、側突時における軸圧壊において波板形状の波形が崩れてエネルギ吸収作用が行われる。このため、波板形状としたことによるエネルギ吸収作用を充分に発揮させることができてない。
【0039】
これに対して、本実施形態の衝撃吸収部材22の波板形状の構成においては、波板形状の平面壁34に第1のビード36が形成されている。この第1のビード36により、側突時におけるポール12の侵入による車幅方向の稜線24を車両前後方向に押す入力に対して、突っ張り作用をなして、稜線24間の強度の補強作用をなす。これにより、側突時における軸圧壊においても、波板の稜線24の車幅方向からの倒れ変形が阻止ないし抑制される。その結果、波板形状の波形が維持されてエネルギ吸収作用がなされる。
【0040】
図8は本実施形態の衝撃吸収部材22の構成における「ポール側突試験」の試験結果状態を、
図9に示す従来の場合と対比して示す。この
図8に示す試験結果状態からも分かるように、本実施形態においては、側突時の衝突入力であるポール12の侵入に対して平面壁34に形成された第1のビード36が波板形状の形態を維持する突っ張り作用をなして、波板形状の補強作用をなす。これにより、稜線24の車両前後方向への倒れ変形が阻止ないし抑制される。その結果、波板形状の形態が維持された状態で、エネルギ吸収作用がなされる。これにより、波板形状としたことによるエネルギ吸収作用を充分に発揮させることができる。
【0041】
更に、本実施形態によれば、車両用衝撃吸収構造10における同様のエネルギ吸収作用をなす構成部品との比較において、部品の軽量化と部品コストの低減を図ることが可能となる効果もある。
【0042】
なお、第1実施形態においては、衝撃吸収部材22の波板形状における稜線24のエッジ部26が巻き込み形状のR形状に形成されていること、及び、波板形状の縦壁32に形成される第2のビード38によっても、波板形状による効果的なエネルギ吸収作用がなされる。その内容を以下に説明する。
【0043】
先ず、衝撃吸収部材22の波板形状における稜線24のエッジ部26に形成される巻き込み形状のR形状に形成することによる作用効果を説明する。巻き込み形状のR形状に形成されることにより、エッジ部26における稜線24の方向が車幅方向から傾斜した方向として形成される。従来の通常の形態構成では、波板形状の稜線24におけるエッジ部26の形状はストレート形状となっている。この場合には、側突時の衝撃荷重は、エッジ部26に真正面から加えられる関係となり、側突時に、稜線24のエッジ部26が裂けて変形し、稜線24に破断が生じることがある。稜線24に破断が生じると、波板形状の縦壁32と平面壁34はそれぞれ独自に変形して、エネルギ吸収作用がなされることになる。縦壁32と平面壁34が別個に変形してエネルギ吸収作用がなされる場合には、波板形状としてのエネルギ吸収作用が良好に行われない。
【0044】
これに対して、第1実施形態のようにエッジ部26における稜線24の方向が車幅方向から傾斜した方向として形成されると、側突時における衝撃荷重がエッジ部26に真正面から加えられなく、ずらされた関係で加えられる。これにより、従来生じていた稜線24の破断が阻止ないし抑制されて、衝撃荷重による軸圧壊は蛇腹形状として変形して、エネルギ吸収作用が行われる。その結果、波板形状による、より良好なエネルギ吸収作用が行われる。
【0045】
次に、
図3に示される、衝撃吸収部材22の波板形状の縦壁32に第2のビード38を形成した作用効果について説明する。これは、第2のビード38の形成位置を上述したエネルギ吸収作用における蛇腹形状が形成される位置とすることにより、側突時における衝撃荷重の蛇腹形状の形成を確実に形成することができる。これにより、波板形状による、より一層良好なエネルギ吸収作用が行われる。なお、このエネルギ吸収作用における蛇腹形状の形成は、二山形成される場合もあるので、
図3に示される第2のビード38は2本形成されている。
【0046】
〔その他の実施形態〕
以上、本発明の特定の実施形態について説明したが、本発明は、その他各種の形態でも実施できる。
【0047】
例えば、上述した実施形態は、電気自動車の電池に対する側突時の車両用衝撃吸収構造10の場合であったが、電気自動車以外の車両用衝撃吸収構造10にも適用可能である。
【0048】
また、上述した第1実施形態では、衝撃吸収部材22の波板形状における稜線24のエッジ部26を巻き込み形状のR形状に形成した。しかし、かかる構成は必ずしも必要とする構成ではないが、かかる構成とすることにより、より良好なエネルギ吸収作用を確実に行わせることができる。
【0049】
また、上述した第1実施形態における衝撃吸収部材22の波板形状の縦壁32には第2のビード38が形成されている。しかし、かかる構成は必ずしも必要とする構成ではないが、かかる構成とすることにより、より一層良好なエネルギ吸収作用を確実に行わせることができる。
【0050】
〔「課題を解決するための手段」に記載した各発明の作用効果〕
なお、最後に上述の「課題を解決するための手段」における各発明に対応する上記実施形態の作用効果を付記しておく。
【0051】
先ず、第1の発明によれば、衝撃吸収部材の波板形状には、車両前後方向に配設される稜線間に当該稜線が車両前後方向へ倒れ変形するのが阻止ないし抑制される補強手段が設けられる。この補強手段により、側突時に波板形状に衝突荷重が作用した場合にも、稜線の車両前後方向への倒れ変形が阻止ないし抑制される。その結果、波板形状における軸圧壊の変形によるエネルギ吸収作用が適正に行われて、側突時における衝撃吸収部材の波板形状によるエネルギ吸収作用が確実に行われる。
【0052】
次に、第2の発明によれば、衝撃吸収部材の波板形状に設定される補強手段は、ビード形状である。このビード形状により、車両前後方向に配設される波板形状の稜線間の強度が補強される。その結果、衝撃吸収部材の波板形状によるエネルギ吸収作用が確実に行われる。
【0053】
次に、第3の発明によれば、補強手段のビード形状は、波板形成面から下方への凹形状である。この凹形状により波板形状の稜線間の強度の補強が確実に行われる。その結果、衝撃吸収部材の波板形状によるエネルギ吸収作用が確実に行われる。
【0054】
次に、第4の発明によれば、補強手段のビード形状は、波板形成面から上方への凸形状である。この凸形状により波板形状の稜線間の強度の補強が確実に行われる。その結果、衝撃吸収部材の波板形状によるエネルギ吸収作用が確実に行われる。
【0055】
次に、第5及び第6の発明によれば、補強手段のビード形状は波板形成面から上方への凸形状、又は下方への凹形状であり、当該凸形状または凹形状は波板形状の波板面に車両前後方向に連続して通しで形成された形態である。この形態により波板形状の稜線間の強度の補強が確実に行われる。その結果、衝撃吸収部材の波板形状によるエネルギ吸収作用が確実に行われる。
【符号の説明】
【0056】
10 車両用衝撃吸収構造
12 ポール
14 電池
16 フロア
18 サイドシル部材
18A 外側サイドシル部材
18B 内側サイドシル部材
20 側部ドア
22 衝撃吸収部材
24 稜線
26 エッジ部
28 中央部位置
30 取付部材
32 縦壁
34 平面壁
36 第1のビード
38 第2のビード