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特開2024-55530塗料吐出装置及びこれを用いた自動車の塗装方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055530
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】塗料吐出装置及びこれを用いた自動車の塗装方法
(51)【国際特許分類】
   B05B 1/10 20060101AFI20240411BHJP
   B05B 7/04 20060101ALI20240411BHJP
   B05C 5/00 20060101ALI20240411BHJP
   B05D 1/26 20060101ALI20240411BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
B05B1/10
B05B7/04
B05C5/00 101
B05D1/26 Z
B05D3/00 D
B05D3/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162545
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福山 康弘
(72)【発明者】
【氏名】小瀬村 透
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 洋一
(72)【発明者】
【氏名】手塚 康介
(72)【発明者】
【氏名】上原 義貴
【テーマコード(参考)】
4D075
4F033
4F041
【Fターム(参考)】
4D075AC06
4D075AC09
4D075AC84
4D075AC88
4D075AC91
4D075BB01Y
4D075BB57Y
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA06
4D075DC11
4D075DC12
4D075DC13
4D075EA05
4D075EA06
4D075EB22
4D075EB35
4D075EB36
4D075EC11
4D075EC30
4F033AA01
4F033BA02
4F033BA03
4F033DA01
4F033EA01
4F033FA01
4F033GA11
4F033JA08
4F033KA03
4F033LA00
4F033LA13
4F033NA01
4F033QA01
4F033QB02Y
4F033QB03X
4F033QB12Y
4F033QB18
4F033QC08
4F033QD02
4F033QD14
4F033QE05
4F033QE09
4F033QE14
4F033QE23
4F033QF01X
4F033QF07Y
4F033QF08X
4F033QF11X
4F041AA07
4F041AB01
4F041BA05
4F041BA10
4F041BA17
4F041BA35
4F041BA43
(57)【要約】
【課題】音波の閉じ込め効率の低下が抑制できる塗料吐出装置及びこれを用いた自動車の塗装方法を提供する。
【解決手段】音波を生成する音源17と、前記音波が入口部181から入射して出口部182から出射する伝搬路184を有する音響管18と、基端側の導入部111から導入された塗料を先端側の吐出部112から吐出するノズル11と、を備え、少なくとも前記ノズルの吐出部が、前記伝搬路の入口部から出口部に沿って、前記先端側の前記吐出部が前記入口部と前記出口部との間の中間部183に位置するように挿入された塗料吐出装置1において、前記入口部における前記伝搬路の内周面と前記ノズルの外周面との半径方向の距離d1が、所定の共鳴条件を満たす距離とされ、前記出口部における前記伝搬路の内径d3が、前記所定の共鳴条件を満たす長さとされている。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音波を生成する音源と、
前記音波が入口部から入射して出口部から出射する伝搬路を有する音響管と、
基端側の導入部から導入された塗料を先端側の吐出部から吐出するノズルと、を備え、
少なくとも前記ノズルの吐出部が、前記伝搬路の入口部から出口部に沿って、前記先端側の前記吐出部が前記入口部と前記出口部との間の中間部に位置するように挿入された塗料吐出装置において、
前記入口部における前記伝搬路の内周面と前記ノズルの外周面との半径方向の距離が、所定の共鳴条件を満たす距離とされ、
前記出口部における前記伝搬路の内径が、前記所定の共鳴条件を満たす長さとされている塗料吐出装置。
【請求項2】
前記伝搬路は、管体の円形孔又はブロック体の円形孔からなる請求項1に記載の塗料吐出装置。
【請求項3】
前記伝搬路の前記入口部の内径は、前記出口部の内径より大きい請求項2に記載の塗料吐出装置。
【請求項4】
前記ノズルは、前記伝搬路の中心線に沿って挿入されている請求項3に記載の塗料吐出装置。
【請求項5】
前記伝搬路の前記出口部の内径は、前記伝搬路の軸方向に沿って第1の所定長だけ等しく形成されている請求項2に記載の塗料吐出装置。
【請求項6】
前記伝搬路の前記入口部の内径は、前記伝搬路の軸方向に沿って第2の所定長だけ等しく形成されている請求項5に記載の塗料吐出装置。
【請求項7】
前記伝搬路の前記中間部の内径は、前記伝搬路の前記入口部から前記出口部に向かって縮径するように形成されている請求項6に記載の塗料吐出装置。
【請求項8】
前記伝搬路の前記入口部から前記出口部に向かって気体を供給する気体供給器をさらに備える請求項1に記載の塗料吐出装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の塗料吐出装置を用い、自動車ボディ又は自動車部品に前記塗料を塗布する自動車の塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料吐出装置及びこれを用いた自動車の塗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
音源と、音源から大きくとも約λ/2離れた位置に設けられた音響管と、を備え、塗料を吐出するノズルの先端を音響管の内部に設けたプリンタ装置が知られている(特許文献1)。ノズルの先端から滴下する塗料粒子に音響放射力(以下、本明細書において音響力という。)を印加することで、塗料の微粒化が促進される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国公開2017/0001439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術によれば、音波の波長をλ、音響管の伝搬路の内径をdhとすると、dh=0.14λの関係が成立する場合に音波の閉じ込め効率が最も高いと報告されている。しかしながら、上記従来技術のように伝搬路にノズルを挿入すると、ノズルが挿入された部分の伝搬路についてはdh=0.14λが成立せず、音波の閉じ込め効率が低下するという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、音波の閉じ込め効率の低下が抑制できる塗料吐出装置及びこれを用いた自動車の塗装方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、音響管の入口部における伝搬路の壁面とノズルの外周面との半径方向の距離を、所定の共鳴条件を満たす距離に設定するとともに、音響管の出口部における伝搬路の内径を、前記所定の共鳴条件を満たす長さに設定することによって、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ノズルの一部を音響管の伝搬路に挿入しても、入口部及び出口部において所定の共鳴条件を満たす構造とされているので、音波の閉じ込め効率の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る塗料吐出装置の一実施の形態を示す構成図である。
図2】(A)は図1のIIA-IIA線、(B)はIIB-IIB線、(C)はIIC-IIC線に沿う断面図である。
図3A図1に示す本実施形態の比較例1に係る音響管を示す断面図である。
図3B図1に示す本実施形態の比較例2に係る音響管を示す断面図である。
図3C図1に示す本実施形態の比較例3に係る音響管を示す断面図である。
図4】本実施形態及び比較例に係る音響管の最大音圧の測定結果を示す図である。
図5】本実施形態及び比較例に係る音響管を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態例を説明する。図1は、本発明に係る塗料吐出装置1の一実施の形態を示す構成図である。本実施形態の塗料吐出装置1は、特に限定はされないが、たとえば自動車用塗料(アクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂などを基体樹脂とする熱硬化型塗料であり、水系塗料又は有機溶剤系塗料のいずれであってもよい。必要に応じて着色顔料や光輝性顔料を含んでよい。)を用いて自動車ボディの外板/内板やバンパなどの自動車部品を塗装する工程に適用することができる。自動車ボディの外板/内板やバンパなどの自動車部品を塗装する場合、サイドドアやフェンダなどの被塗装面がほぼ鉛直面になるため、比較的高粘度の塗料を使用する必要がある。その意味で、紙媒体への印刷に用いられるインクジェット記録装置の記録ヘッドなどは、低粘度のインクを使用することが前提であるため、自動車ボディの塗装用途には適していない。
【0010】
本実施形態の塗料吐出装置1は、基端側の導入部111から導入された塗料を先端側の吐出部112から吐出するノズル11と、当該ノズル11に塗料を供給する塗料供給系(塗料タンク12,塗料配管13、塗料ポンプ14及び開閉弁15の総称)と、音波を生成する音源17と、伝搬路184を有する音響管18と、音響管18に気体を供給する気体供給器19と、塗料ポンプ14、開閉弁15、音源17及び気体供給器19を制御する制御部16と、を備える。なお、気体供給器19は本発明の必須の構成要素ではなく、必要に応じて省略してもよい。以下の実施形態では、気体供給器19により音響管18に空気を供給し、音圧に加えて塗料に吐出力を印加するものとする。
【0011】
ノズル11は、金属材料、樹脂材料又はセラミックス材料からなる中空パイプであり、本例では先端側の吐出部112が先端に向かって徐々に縮径されている。内径は同一径であってもよく、先端に向かって縮径されていてもよい。ただし、本発明に係るノズル11の外径及び内径は特に限定されず、基端側から先端側に沿って同一外径及び同一内径であってもよい。塗料は、導入部111から導入され、塗料ポンプ14によって印加された塗料圧により、吐出部112から塗料粒子Pになって滴下する。
【0012】
本実施形態の塗料は、塗料タンク12に収容され、塗料配管13を介して塗料ポンプ14により加圧される。塗料配管13には開閉弁15が設けられ、塗料の吐出/停止に応じて開閉弁15を開閉することで、ノズル11から塗料が吐出される。本実施形態の塗料吐出装置1を自動車ボディやバンパなどの自動車部品の塗装用途に用いる場合には、自動車用塗料として、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂などを基体樹脂とし、必要に応じて着色顔料や光輝性顔料を含む熱硬化型塗料を用いることができる。本実施形態の塗料吐出装置1で用いられる塗料は、水系塗料又は有機溶剤系塗料のいずれであってもよく、溶剤により所望の粘度に調製して用いることができる。なお、ノズル11に導入した塗料を塗料タンク12に戻す塗料配管を設け、塗料を循環しながら供給してもよい。塗料ポンプ14のON/OFF及び開閉弁15の開閉動作は、制御部16からの指令信号により制御される。
【0013】
塗料の粘度が高いとノズル11の吐出部112から滴下する塗粒径が大きくなり、塗粒径が大きいと、塗膜の塗り肌、平滑性、鮮映性が低下する。そこで、本実施形態の塗料吐出装置1では、音源17と音響管18とを設け、ノズル11の吐出部112から滴下する塗粒に音響力(音圧)を印加することで、滴下塗粒の大径化を抑制して塗料の微粒化を促進する。音圧を印加することで塗料の微粒化を促進する作用の詳細は、後述する。
【0014】
音源17は、所定の波長及び所定の振幅を有する音波を生成する音波発生装置であり、生成した音波を音響管18の入口部181に向かって照射するように配置されている。音源17は、特に限定されないが、波長及び/又は振幅が可変とされた音波発生装置を用いることができる。また、音源17で生成される音波の波長/周波数は特に限定されず、20Hz~20kHzの可聴音波や20kHz以上の超音波のいずれも使用することができる。
【0015】
音響管18は、金属材料、樹脂材料又はセラミックス材料からなり、音波が入口部181から入射して出口部182から出射する伝搬路184を有する。音響管18は、内部が伝搬路184とされたパイプ状の部材から構成してもよいし、これに代えて、内部に伝搬路184が形成されたブロック状の部材から構成してもよい。ここで、音波が音響管18を通過する際の音響インピーダンスZは、音響管18の材料の密度ρと材料の音速cに比例する(Z=ρc)。そのため、密度が大きい材料で音響管18を構成すれば音響インピーダンスZが大きくなり、音響管18を透過する音波が少なくなるので音波の閉じ込め効率が高くなる。したがって、たとえば同じ密度の樹脂材料で音響管18を構成する場合でも、樹脂材料より密度が大きいガラス繊維などの充填材を含有する複合材料の方が、閉じ込め効率を高める観点から好ましいと言える。
【0016】
図2(A)は、図1のIIA-IIA線に沿う断面図、図2(B)は、図1のIIB-IIB線に沿う断面図、図2(C)は、図1のIIC-IIC線に沿う断面図であり、伝搬路184の断面の一例を示す。本例の音響管18の伝搬路184は、入口部181から中間部183を介して出口部182に至るまでの断面形状が、互いに異径な円形とされている。
【0017】
ここで、ファブリペロー共鳴(Fabry-Perot resonance)を利用した研究(米国特許公開2021/0154998A1の段落[0052])によれば、音源17で生成される音波の波長をλとすると、伝搬路184の直径dhが0.14λ、伝搬路184の長さHhが0.36λである場合に、最適な共鳴状態、すなわち音波の閉じ込め効率が最適となることが報告されている(本明細書において、この共鳴条件を所定の共鳴条件ともいう)。本実施形態のノズル11は、先端側の吐出部112が、伝搬路184の入口部181から出口部182に沿って、当該吐出部112が入口部181と出口部182との間の中間部183に位置するように伝搬路184の中心線に沿って挿入されている。換言すれば、吐出部112の先端が中間部183に位置するように挿入され、ノズル11の導入部111と吐出部112との間の胴体部113は入口部181に位置し、縮径された吐出部112は中間部183に位置する。
【0018】
そのため、本実施形態の伝搬路184のうち入口部181については、図2(A)に示すようにノズル11の胴体部113が伝搬路184の中心に沿って挿入されているので、伝搬路184の内周面とノズル11の外周面との半径方向の距離d1が0.14λという所定の共鳴条件を満たす距離とされている。すなわち、図2(A)に示す距離d1は、0.14λ×90%≦d1≦0.14λ×110%に設定することが好ましく、d1=0.14λに設定することが最も好ましい。さらに、本実施形態の伝搬路184のうち入口部181については、伝搬路184の軸方向に沿って所定の長さだけ内径が等しく形成されていることが好ましい。
【0019】
また、本実施形態の伝搬路184のうち中間部183については、図2(B)に示すようにノズル11の吐出部112が伝搬路184の中心に沿って挿入されているので、伝搬路184の内周面とノズル11の外周面との半径方向の距離d2が0.14λという所定の共鳴条件を満たす距離とされている。すなわち、図2(B)に示す距離d2は、0.14λ×90%≦d2≦0.14λ×110%に設定することが好ましく、d2=0.14λに設定することが最も好ましい。
【0020】
また、本実施形態の伝搬路184のうち出口部182については、図2(C)に示すようにノズル11の吐出部112は伝搬路184に挿入されていないので、伝搬路184の内径d3が0.14λという所定の共鳴条件を満たす長さとされている。すなわち、図2(C)に示す長さd3は、0.14λ×90%≦d3≦0.14λ×110%に設定することが好ましく、d3=0.14λに設定することが最も好ましい。さらに、本実施形態の伝搬路184のうち出口部182については、伝搬路184の軸方向に沿って所定の長さだけ内径が等しく形成されていることが好ましい。
【0021】
ちなみに、伝搬路184の長さHhは、0.36λ×90%≦Hh≦0.36λ×110%又はこれの自然数倍に設定することが好ましく、Hh=0.36λ又はこれの自然数倍に設定することが最も好ましい。伝搬路184をこのような横断面形状d1~d3及び長さHhとすることで、音源17からの音波を伝搬路184に効率的に閉じ込めることができ、閉じ込め効率を高めることができる。なお、伝搬路184の長さHhとは、伝搬路184が直線状である場合は入口部181と出口部182との間の直線距離を言い、伝搬路184が曲がっている場合には、入口部181と出口部182との間の曲がった伝搬路184に沿う長さを言い、たとえば伝搬路184の中心軸の長さをいうものとする。
【0022】
音響管18の伝搬路184の断面形状は、図2に示す円形のように360°方向のいずれにも対称な形状であることが音波の反射の観点から最も好ましいと言えるが、本発明の伝搬路184の断面形状は、円形のみに限定されず、楕円形、正方形、正五角形、正六角形などであってもよい。伝搬路184を楕円形、正方形、正五角形、正六角形などで構成した場合でも、伝搬路184の入口部181及び中間部183については、横断面の伝搬路184の内周面とノズル11の外周面との半径方向の距離のうちのいずれかがd=0.14λ、又は、0.14λ×90%≦d≦0.14λ×110%を満たす距離dであればよい。また、伝搬路184の出口部182については、横断面の伝搬路184の距離のうちのいずれかがd=0.14λ、又は、0.14λ×90%≦d≦0.14λ×110%を満たす距離dであればよい。
【0023】
図1に戻り、本実施形態の気体供給器19は、たとえばファンからなり、エアー配管191を介して、音響管18の伝搬路184の入口部181から出口部182に向かって空気などの気体を供給する。このように、ノズル11の吐出部112から滴下する塗料粒子Pに空気流(風圧)を印加することで、滴下塗粒の大径化を抑制して塗料の微粒化を促進することができる。気体供給器19のON/OFFは、制御部16により制御される。
【0024】
図3A図3Cは、図1に示す本実施形態の比較例に係る音響管18を示す断面図である。まず、図3Aに示す比較例1の音響管18は、伝搬路184が、本実施形態の出口部182の内径と同じ寸法の一様な断面円形とされて、これ以外はノズル11を含めて本実施形態と同じ構成とされている。これに対し、図3Bに示す比較例2の音響管18及び図3Cに示す比較例3の音響管18は、伝搬路184の入口部181が本実施形態の入口部181と同じ構造とされ、出口部182の先端の内径が本実施形態の出口部182の内径と同じ寸法に設定されているが、伝搬路184の中間部183の内周面と出口部182の内周面の傾斜角度が相違する。すなわち、図3Bに示す比較例2の音響管18の中間部183と出口部182の内周面は、出口部182に向かって一律に縮径する傾斜面とされている。また、図3Cに示す比較例3の音響管18の中間部183と出口部182の内周面は、出口部182に向かって二段階で縮径する傾斜面とされている。
【0025】
これら比較例1~3に加えて、比較例1の音響管18からノズル11を挿入しないものを比較例4として準備し、本実施形態とともに共鳴状態を検証した。図4は、本実施形態及び比較例1~4に係る音響管18に、音源17から同じ波長λの音波をそれぞれ照射し、伝搬路184にて計測された音圧のうちの最大音圧の測定結果を示す図である。なお、図4には、比較例4で測定された最大音圧(dB)を指数100とした場合の値を示す。
【0026】
この結果によると、比較例4に対し、比較例1と比較例2が同等であるのに対し、本実施形態が良好であり、比較例3が良好でないことが理解される。そうすると、音響管18の伝搬路184のうち入口部181の構造を、比較例1に対して比較例2又は3のように共鳴条件を満たすようにしても、得られる最大音圧は同等か又はそれ以下になる。これに対し、音響管18の伝搬路184のうち出口部182の構造を、本実施形態のように構成すると、比較例1~3に対して有意な最大音圧が得られる。
【0027】
図5は、本実施形態及び比較例2~3に係る音響管18の伝搬路184を示す断面図である。特に伝搬路184の出口部182の構造に注目すると、太枠線で囲った部分のうち音響管18の材料で構成された部分が最も多いのが本実施形態であり、次いで比較例2であり、比較例3が最も少ない。すなわち、本実施形態では、出口部182の軸方向の全部が音響管18の材料で構成されている。既述したとおり、音波が音響管18を通過する際の音響インピーダンスZは、音響管18の材料の密度ρと材料の音速cに比例する(Z=ρc)ので、音響管18の材料で構成された部分が多いほど音波の閉じ込め効率が高くなる結果と符合する。
【0028】
このようにして、ノズル11に音圧を印加すると、吐出部112から滴下する塗料粒子Pには、図5において上方向に向かう毛細管力(Fc)と、同図において下方向に向かう塗料粒子P自体の重力(Fg)と、同じく下方向に向かう音響力(Fz)と、気体供給器19からの空気力(Fa)が作用する。ノズル11の吐出部112から吐出する塗料粒子Pが充分に小さい場合は、塗料粒子Pの重力(Fg)が充分に小さいので、上方向に向かう毛細管力(Fc)に対し、下方向に向かう塗料粒子P自体の重力(Fg)と音響力(Fz)と空気力(Fa)との合力(Fg+Fz+Fa)がFc>Fg+Fz+Faの関係にある。そのため、吐出部112において塗料粒子Pは滴下することなく、拡大を続ける。
【0029】
そして、吐出部112にある塗料粒子Pが大径化すると、塗料粒子Pの自重(Fg)が大きくなり、上方向に向かう毛細管力(Fc)に対し、下方向に向かう塗料粒子P自体の重力(Fg)と音響力(Fz)と空気力(Fa)との合力(Fg+Fz+Fa)がFc=Fg+Fz+Faになったときに両者が釣り合い、次いで上方向に向かう毛細管力(Fc)に対し、下方向に向かう塗料粒子P自体の重力(Fg)と音響力(Fz)と空気力(Fa)との合力(Fg+Fz+Fa)が大きくなった(Fc<Fg+Fz+Fa)瞬間に、塗料粒子Pは、吐出部112から滴下する。
【0030】
このように、本実施形態の塗料吐出装置1では、ノズル11の吐出部112から滴下しようとする塗料粒子Pに、下方向に向かう音響力(Fz)と空気力(Fa)を印加するので、Fc=Fg+Fz+Faで示される滴下条件において、塗料粒子Pの自重Fgが小さいときに上方向に向かう毛細管力Fcと釣り合うことになる。これにより、塗料粒子Pの微粒化が促進され、その結果、塗膜の塗り肌、平滑性、鮮映性などの向上が期待できる。
【0031】
以上のとおり、本実施形態の塗料吐出装置によれば、音波を生成する音源17と、音波が入口部181から入射して出口部182から出射する伝搬路184を有する音響管18と、基端側の導入部111から導入された塗料を先端側の吐出部112から吐出するノズル11と、を備え、少なくともノズル11の吐出部112が、伝搬路184の入口部181から出口部182に沿って、先端側の吐出部112が入口部181と出口部182との間の中間部183に位置するように挿入された塗料吐出装置1において、入口部181における伝搬路184の内周面とノズル11の外周面との半径方向の距離d1が、所定の共鳴条件を満たす距離とされ、出口部182における伝搬路184の内径d3が、所定の共鳴条件を満たす長さとされている。これにより、ノズル11の一部を音響管18の伝搬路184に挿入しても、入口部181及び出口部182において所定の共鳴条件を満たす構造とされているので、図4に示すように最大音圧の低減が抑制され、音波の閉じ込め効率の低下を抑制することができる。
【0032】
また、本実施形態の塗料吐出装置によれば、伝搬路184は、管体の円形孔又はブロック体の円形孔からなるので、音波の閉じ込め効率の低下をより一層抑制することができる。
【0033】
また、本実施形態の塗料吐出装置によれば、伝搬路184の入口部181の内径は、出口部182の内径より大きいので、ノズル11の一部を音響管18の伝搬路184に挿入しても、入口部181及び出口部182において所定の共鳴条件を満たす構造とすることができる。
【0034】
また、本実施形態の塗料吐出装置によれば、ノズル11は伝搬路184の中心線に沿って挿入されているので、音波の閉じ込め効率の低下をより一層抑制することができる。
【0035】
また、本実施形態の塗料吐出装置によれば、伝搬路184の出口部182の内径は、伝搬路184の軸方向に沿って第1の所定長だけ等しく形成されているので、図4に示すように、第1の所定長だけ等しく形成されていない比較例2,3に比べ、音波の閉じ込め効率の低下をより一層抑制することができる。
【0036】
また、本実施形態の塗料吐出装置によれば、伝搬路184の入口部181の内径は、伝搬路184の軸方向に沿って第2の所定長だけ等しく形成されているので、音波の閉じ込め効率の低下をより一層抑制することができる。
【0037】
また、本実施形態の塗料吐出装置によれば、伝搬路184の中間部183の内径は、伝搬路184の入口部181から出口部182に向かって縮径するように形成されているので、音波の閉じ込め効率の低下をより一層抑制することができる。
【0038】
また、本実施形態の塗料吐出装置によれば、伝搬路184の入口部181から出口部182に向かって気体を供給する気体供給器19をさらに備えるので、塗料粒子Pの微粒化をより一層促進することができる。
【0039】
また、本実施形態の塗料吐出装置によれば、自動車ボディ又は自動車部品に塗料を塗布する自動車塗装用とするので、従来のベル型静電塗装装置に比べ、塗着効率が格段に向上し、静電塗装に必要なアース処理が不要となり、ツートーンなどの塗り分けもマスキングレスで行うことができる。また、塗着効率が100%に近いので、塗装設備としての塗料回収装置が不要となり、塗装ブースの数量も削減することができる。
【符号の説明】
【0040】
1…塗料吐出装置
11…ノズル
111…導入部
112…吐出部
113…胴体部
12…塗料タンク
13…塗料配管
14…塗料ポンプ
15…開閉弁
16…制御部
17…音源
18…音響管
181…入口部
182…出口部
183…中間部
184…伝搬路
19…気体供給器
191…エアー配管
Hh…伝搬路の長さ
d1,d2…伝搬路の内周面とノズルの外周面との半径方向の距離
d3…伝搬路の内径
λ…音波の波長
P…塗料粒子
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5