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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055539
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】エッチング液
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/308 20060101AFI20240411BHJP
   H01L 21/306 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
H01L21/308 E
H01L21/306 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162558
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寛司
【テーマコード(参考)】
5F043
【Fターム(参考)】
5F043AA35
5F043BB23
5F043DD07
5F043DD10
(57)【要約】
【課題】一態様において、シリコン窒化膜のエッチング速度を維持しつつ、ポリシリコン膜のエッチングを抑制可能なエッチング液を提供する。
【解決手段】本開示は、一態様において、シリコン窒化膜、シリコン酸化膜及びポリシリコン膜を有する基板からシリコン窒化膜を除去する工程用のエッチング液であって、ジケトン部位を有する化合物と、リン酸と、水とを含有する、エッチング液に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン窒化膜、シリコン酸化膜及びポリシリコン膜を有する基板からシリコン窒化膜を除去する工程用のエッチング液であって、
ジケトン部位を有する化合物と、リン酸と、水とを含有する、エッチング液。
【請求項2】
前記エッチング液は、ジケトン部位を有する化合物と、リン酸と、水とを配合してなる、請求項1に記載のエッチング液。
【請求項3】
前記ジケトン部位を有する化合物は、2個のケトン基が隣接する構造を有する化合物、及び、2個のケトン基が炭素原子1個を介して結合する構造を有する化合物から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のエッチング液。
【請求項4】
前記ジケトン部位を有する化合物の配合量は、0.01質量%以上0.5質量%以下である、請求項1から3のいずれかに記載のエッチング液。
【請求項5】
アルキレンオキシ基を有する化合物で修飾されたシロキサン化合物をさらに含有する、請求項1から4のいずれかに記載のエッチング液。
【請求項6】
前記エッチング液のpHは2以下である、請求項1から5のいずれかに記載のエッチング液。
【請求項7】
エッチング温度が110℃以上250℃以下であるエッチングに使用するための、請求項1から6のいずれかに記載のエッチング液。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載のエッチング液を用いて、シリコン窒化膜、シリコン酸化膜及びポリシリコン膜を有する基板からシリコン窒化膜を除去する工程を含む、エッチング方法。
【請求項9】
請求項1から7のいずれかに記載のエッチング液を用いて、シリコン窒化膜、シリコン酸化膜及びポリシリコン膜を有する基板からシリコン窒化膜を除去する工程を含み、
前記基板は、半導体に使用するための基板である、半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シリコン窒化膜用のエッチング液、これを用いたエッチング方法及び半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造過程において、シリコン窒化膜(以下、「SiN膜」ともいう)とシリコン酸化膜(以下、「SiO2膜」ともいう)とを有する基板から、前記SiN膜を選択的にエッチングして除去する工程が行われている。従来、SiN膜のエッチング方法としては、150℃以上の高温下でリン酸を使用してエッチングする方法が知られている。
【0003】
近年の半導体分野においては高集積化が進んでおり、配線の複雑化や微細化が求められており、SiO2膜に対するSiN膜のエッチング速度の比を高める方法が提案されている(例えば、特許文献1~2)。
【0004】
特許文献1では、水と、リン酸と、少なくとも1つの-COOH基を有するコロイダルシリカ成長阻害剤と、を含むエッチング用化学組成物が提案されている。
特許文献2では、リン酸と、2種又は3種のシラン化合物からなる複合シランと、水とを含む、シリコン窒化膜エッチング用組成物が提案されている。同文献には、マロン酸、シュウ酸等のカルボン酸化合物をさらに含有してもよいことが開示されている。
特許文献3では、含ヒドロキシ基有機化合物、含カルボニル基有機化合物、無機酸、及び無機酸塩から選ばれる少なくとも1つと、フッ化水素酸と、フッ化アンモニウムと、有機酸とを含む、エッチング液組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2019-511842号公報
【特許文献2】特開2018-182312号公報
【特許文献3】特開2013-51371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年の半導体分野においては高集積化が進んでおり、配線の複雑化や微細化が求められており、シリコン窒化膜(SiN膜)をより効率よく除去することが要求されている。特に、3次元NAND型フラッシュメモリ等のような3次元半導体装置の製造過程において、生産性、収率の観点より、SiN膜のエッチング速度のさらなる向上が求められている。さらに、シリコン窒化膜(SiN膜)とシリコン酸化膜(SiO2膜)とポリシリコン膜(以下、「Poly-Si膜」ともいう)を有する基板から、SiN膜を選択的にエッチングして除去する場合、SiO2膜のエッチングを抑制するだけでなく、Poly-Si膜のエッチングを抑制することも求められている。
【0007】
そこで、本開示は、シリコン窒化膜のエッチング速度を維持しつつ、ポリシリコン膜のエッチングを抑制可能なエッチング液、これを用いたエッチング方法及び半導体基板の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、一態様において、シリコン窒化膜、シリコン酸化膜及びポリシリコン膜を有する基板からシリコン窒化膜を除去する工程用のエッチング液であって、ジケトン部位を有する化合物と、リン酸と、水とを含有する、エッチング液に関する。
【0009】
本開示は、一態様において、本開示のエッチング液を用いて、シリコン窒化膜、シリコン酸化膜及びポリシリコン膜を有する基板からシリコン窒化膜を除去する工程を含む、エッチング方法に関する。
【0010】
本開示は、一態様において、本開示のエッチング液を用いて、シリコン窒化膜、シリコン酸化膜及びポリシリコン膜を有する基板からシリコン窒化膜を除去する工程を含み、前記基板は、半導体に使用するための基板である、半導体基板の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、一態様において、シリコン窒化膜のエッチング速度を維持しつつ、ポリシリコン膜のエッチングを抑制可能なエッチング液を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、一又は複数の実施形態において、シリコン窒化膜、シリコン酸化膜及びポリシリコン膜を有する基板からシリコン窒化膜を除去する工程用のエッチング液であって、ジケトン部位を有する化合物と、リン酸と、水とを含有する、エッチング液(以下、「本開示のエッチング液」ともいう)に関する。
本開示のエッチング液によれば、シリコン窒化膜のエッチング速度を維持しつつ、ポリシリコン膜のエッチングを抑制できる。
【0013】
本開示の効果発現のメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のように推察される。
ジケトン部位を有する化合物のジケトン部位がポリシリコンと結合・配位することで、ポリシリコン膜を保護し、シリコン窒化膜のエッチングを抑制していると推測される。
但し、本開示はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0014】
本開示のエッチング液は、一又は複数の実施形態において、ジケトン部位を有する化合物、リン酸、水、並びに必要に応じて任意成分を配合することにより調製できる。すなわち、本開示のエッチング液は、一又は複数の実施形態において、ジケトン部位を有する化合物と、リン酸と、水とを配合してなる。
本開示において、「配合してなる」とは、ジケトン部位を有する化合物、リン酸、及び水だけでなく、必要に応じて任意成分を配合できることを意味する。また、本開示において、エッチング液における各成分の配合量は、エッチング液中の含有量として読み替えることができる。
【0015】
[ジケトン部位を有する化合物]
本開示のエッチング液は、一又は複数の実施形態において、ジケトン部位を有する化合物を含有する。本開示のエッチング液には、一又は複数の実施形態において、ジケトン部位を有する化合物が配合されている。ジケトン部位を有する化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
前記ジケトン部位を有する化合物は、ジケトン部位を少なくとも1個有するものであり、ジケトン部位は複数個合ってもよい。
前記ジケトン部位は、一又は複数の実施形態において、シリコン窒化膜のエッチング速度を維持しつつ、ポリシリコン膜のエッチングを抑制する観点から、2個のケトン基(-CO-)が隣接する構造(-CO-CO-基)、又は、2個のケトン基が炭素原子1個を介して結合する構造(-CO-C-CO-基)であることが好ましい。本開示において、-CO-C-CO-基は、一又は複数の実施形態において、-CO-CH2-CO-、及び、-CO-CHR-CO-(ただし、Rは、炭素数1~24のアルキル基、炭素数1~24のアルケニル基、又は芳香族基を示す)を含む。
【0017】
前記ジケトン部位を有する化合物は、シリコン窒化膜のエッチング速度を維持しつつ、ポリシリコン膜のエッチングを抑制する観点から、2個のケトン基が隣接する構造を有する化合物、及び、2個のケトン基が炭素原子1個を介して結合する構造を有する化合物から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。例えば、前記ジケトン部位を有する化合物としては、2個のカルボキシ基が隣接する構造又は2個のカルボキシ基が炭素原子1個を介して結合した構造を有するジカルボン酸、α-ジケトン化合物(1,2-ジケトン)、β-ジケトン化合物(1,3-ジケトン)、及びこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
2個のカルボキシ基が隣接又は炭素原子1個を介して結合した構造を有するジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、フェニルマロン酸等が挙げられる。
α-ジケトン化合物(1,2-ジケトン)としては、例えば、1,2-シクロヘキサンジオン等が挙げられる。
β-ジケトン化合物(1,3-ジケトン)としては、例えば、アセチルアセトン等が挙げられる。
【0018】
本開示のエッチング液における前記ジケトン部位を有する化合物の配合量は、Poly-Si膜のエッチング抑制の観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.02質量%以上がより好ましく、0.03質量%以上が更に好ましく、そして、Poly-Si膜のエッチング抑制の観点から、0.5質量%以下が好ましく、0.3質量%以下がより好ましく、0.2質量%以下が更に好ましく、0.1質量%以下が更に好ましく、0.1質量%未満が更に好ましい。同様の観点から、本開示のエッチング液における前記ジケトン部位を有する化合物の配合量は、0.01質量%以上0.5質量%以下が好ましく、0.01質量%以上0.3質量%以下がより好ましく、0.02質量%以上0.2質量%以下が更に好ましく、0.03質量%以上0.1質量%以下が更に好ましく、0.03質量%以上0.1質量%未満が更に好ましい。前記ジケトン部位を有する化合物が2種以上の組合せの場合、前記ジケトン部位を有する化合物の配合量はそれらの合計配合量をいう。
【0019】
[リン酸]
本開示のエッチング液におけるリン酸の配合量は、シリコン窒化膜のエッチング速度を維持しつつ、ポリシリコン膜のエッチングを抑制する観点、及び、シリコン酸化膜に対するシリコン窒化膜のエッチング速度の比(以下、「SiN/SiO2選択速度比」ともいう)を向上する観点から、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示のエッチング液におけるリン酸の配合量は、50質量%以上95質量%以下が好ましく、70質量%以上90質量%以下がより好ましく、80質量%以上85質量%以下が更に好ましい。
【0020】
[水]
本開示のエッチング液に含まれる水としては、例えば、蒸留水、イオン交換水、純水及び超純水等が挙げられる。
本開示のエッチング液における水の配合量は、シリコン窒化膜のエッチング速度を維持しつつ、ポリシリコン膜のエッチングを抑制する観点から、2質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、7質量%以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示のエッチング液における水の配合量は、2質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上25質量%以下がより好ましく、7質量%以上20質量%以下が更に好ましい。
【0021】
[アルキレンオキシ基を有する化合物で修飾されたシロキサン化合物]
本開示のエッチング液は、一又は複数の実施形態において、シリコン窒化膜のエッチング速度を維持しつつ、ポリシリコン膜のエッチングを抑制する観点、及び/又は、シリカのSiO2膜への析出、付着抑制の観点から、アルキレンオキシ基を有する化合物で修飾されたシロキサン化合物をさらに含有する又は配合してなるものであってもよい。アルキレンオキシ基を有する化合物で修飾されたシロキサン化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよいが、シリコン窒化膜のエッチング速度を維持しつつ、ポリシリコン膜のエッチングを抑制する観点から、1種単独で用いることが好ましい。アルキレンオキシ基としては、例えば、エチレンオキシ基(EO)及びプロピレンオキシ基(PO)から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、シリカのSiO2膜への析出、付着抑制の観点から、EOが好ましい。
【0022】
本開示におけるアルキレンオキシ基を有する化合物で修飾されたシロキサン化合物は、シリカのSiO2膜への析出、付着抑制の観点から、下記式(I)で表される構造を有するシロキサン化合物であることが好ましく、下記式(II)で表されるシロキサン化合物であることがより好ましい。
【0023】
【化1】
前記式(I)中、Rは、炭素数1以上5以下のアルキル基、炭素数1以上5以下のヒドロキシアルキル基、炭素数1以上5以下のアルコキシ基、又はアニオン性基である。tは1以上50以下であり、rは1以上30以下である。
【0024】
【化2】
前記式(II)中、Rは、炭素数1以上5以下のアルキル基、炭素数1以上5以下のヒドロキシアルキル基、炭素数1以上5以下のアルコキシ基、又はアニオン性基である。t/(s+t)×100が4以上であり、rは1以上30以下である。
【0025】
前記式(I)及び式(II)中、アニオン性基としては、例えば、ホスホン酸基、スルフェート基、カルボン酸基又はリン酸基(-O-PO-(OH)2)が挙げられる。
前記式(I)及び式(II)中のRは、シリカのSiO2膜への析出、付着抑制の観点から、炭素数1以上5以下のアルキル基、炭素数1以上5以下のアルコキシ基又はアニオン性基が好ましく、メチル基、メトキシ基又はリン酸基がより好ましく、リン酸基が更に好ましい。
前記式(II)中、t/(s+t)×100は、シリカのSiO2膜への析出、付着抑制の観点から、4以上であって、7以上が好ましく、10以上がより好ましく、15以上が更に好ましく、20以上が更に好ましく、30以上が更に好ましく、40以上が更に好ましく、そして、100以下が好ましく、80以下がより好ましく、70以下が更に好ましく、60以下が更に好ましい。同様の観点から、t/(s+t)×100は、4以上100以下が好ましく、7以上100以下がより好ましい。
前記式(I)及び式(II)中、tは、同様の観点から、1以上50以下が好ましく、1以上30以下がより好ましい。
前記式(I)及び式(II)中、rは、1以上30以下であって、同様の観点から、1以上25以下が好ましく、3以上20以下がより好ましい。
本開示において、r、s、tは、例えば、H-NMR(核磁気共鳴装置)にて変性率とEO付加モル数rを算出し、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により平均分子量を測定し、それらの値からs、tを算出することができる。
【0026】
前記アルキレンオキシ基を有する化合物で修飾されたシロキサン化合物のHLBは、シリカのSiO2膜への析出、付着抑制の観点から、4以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上が更に好ましい。ここで、HLBとは、Davis, J. T.; Proc. Intern. Congr. Surface Activity, 2 nd, London, 1, 426 (1957)に記載の官能基によって決まる基数を用い、HLB値を「7+親水基の基数の総和-親油基の基数の総和」で定義する値である。
【0027】
前記アルキレンオキシ基を有する化合物で修飾されたシロキサン化合物としては、例えば、PEG-7ジメチコンリン酸(HLB:14.6)、PEG-3ジメチコン(HLB:4.5)、PEG-10ジメチコン(HLB:4.5又は14)、及びトリシロキサンエトキシレート(HLB:5.4)から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0028】
本開示のエッチング液における前記アルキレンオキシ基を有する化合物で修飾されたシロキサン化合物の配合量は、シリカのSiO2膜への析出、付着抑制の観点から、0.03質量%以上が好ましく、0.04質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、0.2質量%以下が好ましく、0.15質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示のエッチング液における前記アルキレンオキシ基を有する化合物で修飾されたシロキサン化合物の配合量は、0.03質量%以上0.2質量%以下が好ましく、0.04質量%以上0.15質量%以下がより好ましく、0.05質量%以上0.1質量%以下が更に好ましい。前記アルキレンオキシ基を有する化合物で修飾されたシロキサン化合物が2種以上の組合せの場合、前記アルキレンオキシ基を有する化合物で修飾されたシロキサン化合物の配合量はそれらの合計配合量をいう。
【0029】
[高温安定化剤]
本開示のエッチング液は、一又は複数の実施形態において、SiN/SiO2選択速度比を維持しつつ循環使用におけるフィルタの閉塞を抑制する観点から、高温安定化剤をさらに含有する又は配合してなるものであってもよい。高温安定化剤としては、スルホン酸化合物、マレイン酸及びシュウ酸から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。スルホン酸化合物としては、例えば、パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等が挙げられる。
【0030】
[有機ホスホン酸化合物]
本開示のエッチング液は、一又は複数の実施形態において、SiN/SiO2選択速度比を向上する観点、及び/又は、シリカのSiO2膜への析出、付着をさらに抑制する観点から、有機ホスホン酸化合物をさらに含有する又は配合してなるものであってもよい。有機ホスホン酸化合物としては、SiN/SiO2選択速度比の向上、及びシリカのSiO2膜への析出、付着抑制の観点から、例えば、ポリビニルホスホン酸(PVPA)等のリン酸系ポリマー、アルキルホスホン酸、アルケニルホスホン酸、アルキルエーテルホスホン酸等が挙げられる。
【0031】
[ノニオン性界面活性剤]
本開示のエッチング液は、一又は複数の実施形態において、シリカのSiO2膜への析出、付着をさらに抑制する観点から、ノニオン性界面活性剤をさらに含有する又は配合してなるものとすることができる。ノニオン性界面活性剤としては、シリカのSiO2膜への析出、付着抑制の観点から、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが挙げられ、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルミリスチルエーテルから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0032】
[その他の成分]
本開示のエッチング液は、本開示の効果が損なわれない範囲で、その他の成分をさらに含有する又は配合してなるものであってもよい。その他の成分としては、リン酸以外の酸、キレート剤、上述したノニオン性界面活性剤以外の界面活性剤、可溶化剤、防腐剤、防錆剤、殺菌剤、抗菌剤、酸化防止剤等が挙げられる。
【0033】
本開示のエッチング液は、一又は複数の実施形態において、フッ化水素酸を含有しないことが好ましい。例えば、本開示のエッチング液中のフッ化水素酸の配合量は、好ましくは0.5質量%未満、より好ましくは0.1質量%以下、更に好ましくは0質量%(すなわち、含まないこと)である。
本開示のエッチング液は、一又は複数の実施形態において、フッ化アンモニウムを含有しないことが好ましい。例えば、本開示のエッチング液中のフッ化アンモニウムの配合量は、好ましくは5質量%未満、より好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下、更に好ましくは0質量%(すなわち、含まないこと)である。
【0034】
[エッチング液の製造方法]
本開示は、一態様において、上記ジケトン部位を有する化合物、リン酸、水、並びに必要に応じて上述した任意成分を配合する工程(以下、「配合工程」ともいう)を含む、エッチング液の製造方法(以下、「本開示のエッチング液製造方法」ともいう)に関する。
本開示において「配合する」とは、上記ジケトン部位を有する化合物、リン酸、水、並びに必要に応じて上述した任意成分を同時に又は順に混合することを含む。混合する順序は、特に限定されなくてもよい。前記配合は、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波分散機及び湿式ボールミル等の混合器を用いて行うことができる。
【0035】
本開示のエッチング液のpHは、シリコン窒化膜のエッチング速度を維持しつつ、ポリシリコン膜のエッチングを抑制する観点、及び、SiN/SiO2選択速度比を向上する観点から、0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましく、0.3以上が更に好ましく、そして、2以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示のエッチング液のpHは、0.1以上2以下が好ましく、0.2以上1.5以下がより好ましく、0.3以上1以下が更に好ましい。本開示において、エッチング液のpHは、使用時のエッチング液の25℃における値であって、pHメータを用いて測定でき、具体的には、実施例に記載の方法で測定できる。
【0036】
本開示のエッチング液は、一又は複数の実施形態において、エッチング温度が110℃以上250℃以下であるエッチングに使用するためのものである。
【0037】
本開示のエッチング液は、その安定性が損なわれない範囲で濃縮された状態で保存および供給されてもよい。この場合、製造・輸送コストを低くできる点で好ましい。そしてこの濃縮液は、必要に応じて水やリン酸水溶液等を用いて適宜希釈してエッチング工程で使用することができる。希釈割合としては5~100倍が好ましい。
【0038】
[キット]
本開示は、一態様において、本開示のエッチング液を製造するためのキット(以下、「本開示のキット」ともいう)に関する。
本開示のキットとしては、例えば、ジケトン部位を有する化合物を含む溶液(第1液)と、リン酸を含む溶液(第2液)とを相互に混合されない状態で含み、これらが使用時に混合されるキット(2液型エッチング液)が挙げられる。前記第1液と前記第2液とが混合された後、必要に応じて水又はリン酸水溶液を用いて希釈されてもよい。前記第1液又は第2液には、エッチング液の調製に使用する水の全量又は一部が含まれていてもよい。第2液に含まれるリン酸は、エッチング液の調製に使用するリン酸の全量でもよいし、一部でもよい。前記第1液及び前記第2液にはそれぞれ必要に応じて、上述した任意成分が含まれていてもよい。
本開示のキットによれば、シリコン窒化膜のエッチング速度を維持しつつ、ポリシリコン膜のエッチングを抑制可能なエッチング液を得ることができる。
【0039】
[被処理基板]
本開示のエッチング液を用いてエッチング処理される被処理基板は、一又は複数の実施形態において、シリコン窒化膜、シリコン酸化膜及びポリシリコン膜を有する基板である。シリコン窒化膜、シリコン酸化膜及びポリシリコン膜を有する基板は、一又は複数の実施形態において、複数のシリコン窒化膜と複数のシリコン酸化膜とが交互に積層された3次元構造を有し、ポリシリコン膜をさらに有する基板であってもよい。前記ポリシリコン膜は、例えば、複数のシリコン窒化膜と複数のシリコン酸化膜とが交互に積層された基板にホールを開け、Poly-Siを流し込むことによりに形成されるものが挙げられる。
前記基板としては、例えば、半導体に使用するための基板、フラットパネルディスプレイに使用するための基板等が挙げられる。
前記シリコン窒化膜としては、例えば、低圧化学気相成長法(LPCVD法)、プラズマ化学気相成長法(PECVD法)、原子層堆積法(ALD法)等により形成された窒化膜が挙げられる。
前記シリコン酸化膜としては、例えば、熱酸化法、LPCVD法、PECVD法、ALD法等により形成された酸化膜が挙げられる。
前記ポリシリコン膜としては、例えば、低圧化学気相成長法(LPCVD法)、プラズマ化学気相成長法(PECVD法)、原子層堆積法(ALD法)等により形成されたポリシリコン膜が挙げられる。
本開示のエッチング液は、一又は複数の実施形態において、3次元NAND型フラッシュメモリ等の3次元半導体装置の製造に好適に使用できる。例えば、本開示のエッチング液は、一又は複数の実施形態において、複数のシリコン窒化膜と複数のシリコン酸化膜とが交互い積層された3次元構造を有する基板のエッチングに使用することができる。
【0040】
[エッチング方法]
本開示は、一態様において、本開示のエッチング液を用いて、シリコン窒化膜、シリコン酸化膜及びポリシリコン膜を有する基板からシリコン窒化膜を除去する工程(以下、「エッチング工程」ともいう)を含む、エッチング方法(以下、「本開示のエッチング方法」ともいう)に関する。
本開示のエッチング方法を使用することにより、シリコン窒化膜のエッチング速度を維持しつつ、ポリシリコン膜のエッチングを抑制可能であるため、品質が向上した半導体基板の生産性を向上できるという効果が奏されうる。前記エッチング工程におけるエッチングの方法及び条件は、後述する本開示の半導体基板の製造方法におけるエッチング工程と同じようにすることができる。
【0041】
[半導体基板の製造方法]
本開示は、一態様において、本開示のエッチング液を用いて、シリコン窒化膜、シリコン酸化膜及びポリシリコン膜を有する基板からシリコン窒化膜を除去する工程(エッチング工程)を含み、前記基板は、半導体に使用するための基板である、半導体基板の製造方法(以下、「本開示の半導体基板製造方法」ともいう)に関する。
本開示の半導体基板製造方法によれば、シリコン窒化膜のエッチング速度を維持しつつ、ポリシリコン膜のエッチングを抑制可能であるため、品質が向上した半導体基板を効率よく製造できるという効果が奏されうる。
【0042】
前記エッチング工程において、エッチング処理方法としては、例えば、浸漬式エッチング、枚葉式エッチング等が挙げられる。
【0043】
前記エッチング工程において、エッチング液のエッチング温度は、シリコン窒化膜のエッチング速度を維持しつつ、ポリシリコン膜のエッチングを抑制する観点、及び、SiN/SiO2選択速度比の向上の観点から、110℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、140℃以上が更に好ましく、150℃以上が更に好ましく、そして、250℃以下が好ましく、230℃以下がより好ましく、200℃以下が更に好ましく、180℃以下が更に好ましい。同様の観点から、エッチング液のエッチング温度は、110℃以上250℃以下が好ましく、120℃以上230℃以下がより好ましく、140℃以上200℃以下が更に好ましく、150℃以上180℃以下が更に好ましい。
【0044】
前記エッチング工程において、エッチング時間は、例えば、好ましくは30分以上、より好ましくは60分以上であり、そして、好ましくは270分以下、より好ましくは180分以下に設定できる。
【0045】
前記エッチング工程において、シリコン窒化膜のエッチング速度は、生産性向上の観点から、40Å/分以上が好ましく、50Å/分以上がより好ましく、60Å/分以上が更に好ましい。
【0046】
前記エッチング工程において、シリコン酸化膜のエッチング速度は、品質向上の観点から、1Å/分以下が好ましく、0.5Å/分以下がより好ましく、0.3Å/分以下が更に好ましい。
【0047】
前記エッチング工程において、SiN/SiO2選択速度比は、品質向上の観点から、150以上が好ましく、200以上がより好ましく、300以上が更に好ましい。
【実施例0048】
以下に、実施例により本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0049】
1.エッチング液の調製
(実施例1~10及び比較例1~3のエッチング液の調製)
表1に示すジケトン部位を有する化合物又は添加剤とリン酸水溶液と水とを配合して実施例1~10及び比較例1~3のエッチング液(pH:0.45)を得た。各エッチング液における各成分の配合量(質量%、有効分)を表1に示した。
(実施例11~16及び比較例4~7のエッチング液の調製)
表2に示すジケトン部位を有する化合物と表2に示すシロキサン化合物又は添加剤とリン酸水溶液と水とを配合して実施例11~16及び比較例4~7のエッチング液(pH:0.45)を得た。各エッチング液における各成分の配合量(質量%、有効分)を表2に示した。
【0050】
エッチング液の調製には、下記成分を用いた。
(ジケトン部位を有する化合物)
シュウ酸[富士フィルム和光純薬(株)社製]
マロン酸[富士フィルム和光純薬(株)社製]
アセチルアセトン[富士フィルム和光純薬(株)社製]
フェニルマロン酸[富士フィルム和光純薬(株)社製]
1,2‐シクロヘキサンジオン[富士フィルム和光純薬(株)社製]
(式(II)で表されるシロキサン化合物)
PEG-7ジメチコンリン酸[フェニックス・ケミカル社製の“PS-100”、HLB:14.6]
PEG-10ジメチコン[信越化学工業社製の“KF-6017”、HLB:4.5]
(添加剤)
エチレングリコール[富士フィルム和光純薬(株)社製]
グリコール酸[富士フィルム和光純薬(株)社製]
シリコンオルトホスフェート[sigma-Aldrich社製]
3-アミノプロピルトリエトキシシラン[sigma-Aldrich社製]
(リン酸)
リン酸水溶液[リン酸濃度85%、燐化学工業社製]
【0051】
2.パラメータの測定方法
[エッチング液のpH]
エッチング液の25℃におけるpH値は、pHメータ(東亜ディーケーケー社製)を用いて測定した値であり、pHメータの電極をエッチング液へ浸漬して1分後の数値である。
H-NMR(核磁気共鳴装置)にて変性率とEO付加モル数rを算出し、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により平均分子量を測定し、それらの値からs、tを算出した。
【0052】
3.実施例1~10及び比較例1~3のエッチング液の評価
[シリコン窒化膜のエッチング速度]
各組成に調製したエッチング液(実施例1~10及び比較例1~3)に、予めシリコン窒化膜(SiN膜)の厚みを測定した1cm×1cmのシリコン窒化膜ウエハを浸漬させ、165℃で90分間エッチングさせた。その後、冷却、水洗浄した後に再度、シリコン窒化膜の厚みを測定し、その差分をエッチング量とした。膜厚の測定には、光干渉式膜厚測定装置(SCREEN社、「ランダムエース VM-100」)を用いた。
そして、下記式により、シリコン窒化膜のエッチング速度を算出した。算出結果を表1に示した。
シリコン窒化膜(SiN膜)のエッチング速度(Å/分)=シリコン窒化膜エッチング量(Å)/90(分)
【0053】
[ポリシリコン膜のエッチング速度]
各組成に調製したエッチング液(実施例1~10及び比較例1~3)に、予めポリシリコン膜(Poly-Si膜)の厚みを測定した2cm×1cmのPoly-Si膜基板を浸漬させる。次に、0.5%濃度のフッ酸水溶液で120秒間浸漬させた後、165℃で60分間エッチングさせた。その後、冷却、水洗浄した後に再度、ポリシリコン膜の厚みを測定し、その差分をエッチング量とした。膜厚の測定には、光干渉式膜厚測定装置(SCREEN社、「ランダムエース VM-100」)を用いた。
そして、下記式により、ポリシリコン膜のエッチング速度を算出した。算出結果を表1に示した。
ポリシリコン膜(Poly-Si膜)のエッチング速度(Å/分)=ポリシリコン膜エッチング量(Å)/60(分)
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示されるように、ジケトン部位を有する化合物を含む実施例1~8のエッチング液は、ジケトン部位を有する化合物を含まない比較例1~3に比べて、シリコン窒化膜のエッチング速度を維持しつつ、ポリシリコン膜のエッチングを抑制できていた。
【0056】
4.実施例11~16及び比較例4~7のエッチング液の評価
[シリコン窒化膜及びシリコン酸化膜のエッチング速度]
各組成に調製したエッチング液(実施例11~16及び比較例4~7)に、コロイダルシリカ(PL-1、扶桑化学工業社製)をSi濃度200ppmとなるように添加し、予めシリコン窒化膜(SiN膜)の厚みを測定した1cm×1cmのシリコン窒化膜ウエハを浸漬させ、165℃で90分間エッチングさせた。その後、冷却、水洗浄した後に再度、シリコン窒化膜の厚みを測定し、その差分をエッチング量とした。膜厚の測定には、光干渉式膜厚測定装置(SCREEN社、「ランダムエース VM-100」)を用いた。
また、シリコン酸化膜(SiO2膜)としては1.5cm×1cmのLP-TEOSを使用し、シリコン窒化膜と同条件で実施し、シリコン酸化膜のエッチング量を求めた。
そして、下記式により、シリコン窒化膜のエッチング速度、シリコン酸化膜のエッチング速度、選択速度比を算出した。算出結果を表2に示した。
シリコン窒化膜(SiN膜)のエッチング速度(Å/分)=シリコン窒化膜エッチング量(Å)/90(分)
シリコン酸化膜(SiO2膜)のエッチング速度(Å/分)=シリコン酸化膜エッチング量(Å)/90(分)
【0057】
[ポリシリコン膜のエッチング速度]
各組成に調製したエッチング液(実施例11~16及び比較例4~7)に、コロイダルシリカ(PL-1、扶桑化学工業社製)をSi濃度200ppmとなるように添加し、予めポリシリコン膜(Poly-Si膜)の厚みを測定した2cm×1cmのPoly-Si膜基板を浸漬させる。次に、0.5%濃度のフッ酸水溶液で120秒間浸漬させた後、165℃で60分間エッチングさせた。その後、冷却、水洗浄した後に再度、ポリシリコン膜の厚みを測定し、その差分をエッチング量とした。膜厚の測定には、光干渉式膜厚測定装置(SCREEN社、「ランダムエース VM-100」)を用いた。
そして、下記式により、ポリシリコン膜のエッチング速度を算出した。算出結果を表2に示した。
ポリシリコン膜(Poly-Si膜)のエッチング速度(Å/分)=ポリシリコン膜エッチング量(Å)/60(分)
【0058】
[シリカのシリコン酸化膜への析出]
各組成に調製したエッチング液に、コロイダルシリカ(PL-1、扶桑化学工業社製)をSi濃度が200ppmとなるように添加し、予めシリコン酸化膜(SiO2膜)の厚みを測定した2cm×1cmの熱酸化膜ウエハを浸漬させ、165℃で90分間エッチングさせた。その後、冷却、水洗浄した後に再度、シリコン酸化膜の厚みを測定し、その差分を析出量とした。膜厚の測定には、光干渉式膜厚測定装置(SCREEN社、「ランダムエース VM-100」)を用いた。結果を表2に示した。
シリカ析出量(Å)=(シリコン酸化膜のエッチング液浸漬後の厚み)-(シリコン酸化膜のエッチング液浸漬前の厚み)
【0059】
【表2】
【0060】
表2に示されるように、ジケトン部位を有する化合物を含む実施例11~12、ジケトン部位を有する化合物と式(II)で表されるシロキサン化合物を含む実施例13~16のエッチング液は、ジケトン部位を有する化合物及び/又は式(II)で表されるシロキサン化合物を含まない比較例4~7に比べて、シリコン窒化膜のエッチング速度を維持しつつ、ポリシリコン膜のエッチングを抑制できていた。
また、式(II)で表されるシロキサン化合物を含む実施例13~16は、式(II)で表されるシロキサン化合物を含まない実施例11~12に比べて、シリカのSiO2膜への析出、付着が抑制されていた。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本開示のエッチング液は、高密度化又は高集積化用の半導体基板の製造方法において有用である。