(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055556
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】酸化ビスマス分散体、及び紫外線遮蔽用コーティング剤
(51)【国際特許分類】
C09D 17/00 20060101AFI20240411BHJP
C09C 1/00 20060101ALI20240411BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20240411BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240411BHJP
C01G 29/00 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C09D17/00
C09C1/00
C09D201/00
C09D7/61
C01G29/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162590
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】藤村 洸希
【テーマコード(参考)】
4G048
4J037
4J038
【Fターム(参考)】
4G048AA02
4G048AB03
4G048AC08
4G048AD04
4G048AD06
4J037AA08
4J037CC25
4J037EE08
4J037FF02
4J038DG191
4J038DG261
4J038HA216
4J038MA14
4J038NA19
4J038PB05
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】コーティング剤用途に使用される場合に適した塗膜中の酸化ビスマス濃度において、可視光に対する高い透過性と紫外線に対する高い遮蔽能を併有し、かつ十分な耐性をもつ酸化ビスマス分散体を提供する。また、その酸化ビスマス分散体を用いた紫外線遮蔽用コーティング剤を提供する。
【解決手段】分散媒と、分散剤と、前記分散媒中に分散している単斜晶系酸化ビスマスとを含有し、前記単斜晶系酸化ビスマスの平均粒子径が30~100nmである酸化ビスマス分散体を提供する。また、前記酸化ビスマス分散体と、バインダー樹脂とを含有する紫外線遮蔽用コーティング剤であって、前記単斜晶系酸化ビスマスの含有量が、前記紫外線遮蔽用コーティング剤の全固形分の質量に対して、5~20質量%である紫外線遮蔽用コーティング剤を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散媒と、分散剤と、前記分散媒中に分散している単斜晶系酸化ビスマスとを含有し、
前記単斜晶系酸化ビスマスの平均粒子径が30~100nmである酸化ビスマス分散体。
【請求項2】
前記分散媒は水を含む請求項1に記載の酸化ビスマス分散体。
【請求項3】
前記分散剤は、数平均分子量が1000~12000である高分子分散剤を含む請求項1に記載の酸化ビスマス分散体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の酸化ビスマス分散体と、バインダー樹脂とを含有する紫外線遮蔽用コーティング剤であって、
前記単斜晶系酸化ビスマスの含有量が、前記紫外線遮蔽用コーティング剤の全固形分の質量に対して、5~20質量%である紫外線遮蔽用コーティング剤。
【請求項5】
前記バインダー樹脂の数平均分子量が8000~30000である請求項4に記載の紫外線遮蔽用コーティング剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ビスマス分散体、及び紫外線遮蔽用コーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、紫外線遮蔽剤は建築用途や化粧品用途など、多岐に亘って使用されており、数種類の原材料がその用途に応じて使い分けられているが、大まかに有機系と無機系に分類される。
【0003】
有機系の紫外線遮蔽剤としては、例えば、p-アミノ安息香酸誘導体、サリチル酸誘導体、及びベンゾフェノンなどが挙げられ、これらは一般に紫外線遮蔽能が高いが、熱や光のエネルギーによる分解や、人体及び環境面での安全性といった問題も存在する。
【0004】
無機系の紫外線遮蔽剤は有機系と比べて安全性及び各種耐性が高く、酸化チタンや酸化亜鉛、酸化セリウムなどが該当する。このような顔料を微粒子化し、遮蔽剤に分散させることで高透明かつ紫外線を散乱させ、紫外線遮蔽剤として扱うことができる。
【0005】
これら無機系の各種紫外線遮蔽剤の問題点として、酸化チタンは透明性が低いこと、酸化セリウムは吸収波長の一部が可視光域を含んでいることから黄味がかってしまうことが挙げられる。また、共通の問題点として、無機物質の吸収・反射波長はd-d遷移とd-pバンドギャップによる吸収の2つが考えられるが、紫外線遮蔽剤は共通してバンドギャップによる吸収が原理として考えられている中でバンド間の距離やバンドの間隔から、紫外線の中でもUVA(315~400nm)の高波長部位の遮蔽能が弱い、というものがある。この問題を解決する無機系の紫外線遮蔽剤として、単斜晶系の酸化ビスマス(Bi2O3)が考えられる。
【0006】
酸化ビスマスは放射線不透過性能を持つ原材料として使用されており、医療系のデバイスに用いられていることから、紫外線よりもさらに波長の短い、高エネルギー電磁波の波長の遮蔽ができる白色の原材料であると推察できる(特許文献1)。また、酸化ビスマスを含有した、紫外線遮断膜(特許文献2)やコーティング組成物(特許文献3)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-185257号公報
【特許文献2】特開2005-162914号公報
【特許文献3】特許第5327848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、これまでの酸化ビスマスを用いた紫外線遮蔽剤を屋外使用前提の紫外線遮蔽の塗料として使用した場合に、可視光に対する高い透過性と紫外線に対する高い遮蔽能を併せ持つことと、実際の塗料としての耐性のバランスを兼ね備えているものはなかった。
【0009】
そこで本発明は、コーティング剤用途に使用される場合に適した塗膜中の酸化ビスマス濃度において、可視光に対する高い透過性と紫外線に対する高い遮蔽能を併有し、かつ十分な耐性をもつ酸化ビスマス分散体を提供しようとするものである。また、本発明は、その酸化ビスマス分散体を用いた紫外線遮蔽用コーティング剤を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、分散媒と、分散剤と、前記分散媒中に分散している単斜晶系酸化ビスマスとを含有し、前記単斜晶系酸化ビスマスの平均粒子径が30~100nmである酸化ビスマス分散体を提供する。
【0011】
また本発明は、前記酸化ビスマス分散体と、バインダー樹脂とを含有する紫外線遮蔽用コーティング剤であって、前記単斜晶系酸化ビスマスの含有量が、前記紫外線遮蔽用コーティング剤の全固形分の質量に対して、5~20質量%である紫外線遮蔽用コーティング剤を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、コーティング剤用途に使用される場合に適した塗膜中の酸化ビスマス濃度において、可視光に対する高い透過性と紫外線に対する高い遮蔽能を併有し、かつ十分な耐性をもつ酸化ビスマス分散体を提供することができる。また、本発明によれば、その酸化ビスマス分散体を用いた紫外線遮蔽用コーティング剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0015】
<酸化ビスマス分散体>
本発明の一実施形態の酸化ビスマス分散体(以下、単に「酸化ビスマス分散体」と記載することがある。)は、分散媒と、分散剤と、分散媒中に分散している単斜晶系酸化ビスマスとを含有する。この酸化ビスマス分散体では、単斜晶系酸化ビスマスは、平均粒子径が30~100nmのサイズで分散媒中に分散している。
【0016】
単斜晶系酸化ビスマスの粒子径が小さすぎると光により分解しやすくなり、耐光性が低下することから、平均粒子径が30nm以上の単斜晶系酸化ビスマスを用いる。一方、単斜晶系酸化ビスマスの粒子径が大きすぎると、可視光に対する透過性が低下することから、平均粒子径が100nm以下の単斜晶系酸化ビスマスを用いる。可視光に対する透過性を高める観点から、単斜晶系酸化ビスマスの平均粒子径は、90nm以下であることが好ましく、70nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがさらに好ましい。
【0017】
本明細書において、酸化ビスマス分散体における分散媒中に分散している単斜晶系酸化ビスマスの平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定することができる。具体的には、TEM(製品名「透過電子顕微鏡HT7800」、株式会社日立ハイテク製)を用いて単斜晶系酸化ビスマスを10000倍の倍率で撮影し、画像解析ソフト(製品名「画像解析式粒度分布測定ソフトウェアMac-View」、株式会社マウンテック製)を用いて粒子300個の粒子径の算術平均を算出することで平均粒子径を求めることができる。後記実施例で使用した単斜晶系酸化ビスマスの平均粒子径は上述のように測定した値である。
【0018】
単斜晶系酸化ビスマスとしては、市販品を用いることもできるし、公知の製造方法によって製造した単斜晶系酸化ビスマスを用いることも可能である。酸化ビスマスは、例えば、金属ビスマスを硝酸で溶解した水溶液又はビスマスの硝酸塩を溶解した水溶液に、水酸化ナトリウムやアンモニアなどのアルカリ溶液を加えることにより得られた沈殿を固液分離後、乾燥、又は乾燥及び焙焼することにより製造されうる。
【0019】
酸化ビスマス分散体中の単斜晶系酸化ビスマスの含有量は、酸化ビスマス分散体の全質量に対して、5~60質量%であることが好ましい。単斜晶系酸化ビスマスの凝集及び沈殿が生じ難い観点から、単斜晶系酸化ビスマスの含有量は、酸化ビスマス分散体の全質量に対して、50質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましく、30質量%以下であることが特に好ましい。
【0020】
酸化ビスマス分散体における分散媒は、酸化ビスマス分散体の液相であって、単斜晶系酸化ビスマスが分散している媒質である。分散媒としては、後述する酸化ビスマス分散体の製造方法において単斜晶系酸化ビスマスを微粒子化するに当たって行う湿式粉砕の際に用いる液体をそのまま使用してもよいし、別の液体を使用してもよい。
【0021】
分散媒としては、例えば、水、アルコール類、ケトン類、及びエステル類などが主として用いられる。それらのなかでも、水、メタノール、エタノール、プロパノール、及びイソプロピルアルコールなどの極性の高い液体が好ましく、水がより好ましい。水系の酸化ビスマス分散体(酸化ビスマス水分散体)を得る観点から、酸化ビスマス分散体中の水の含有量は、酸化ビスマス分散体中の分散媒の全質量に対して、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であってもよい。分散媒は1種が単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0022】
酸化ビスマス分散体中の分散媒の含有量は、酸化ビスマス分散体の全質量に対して、10~95質量%であることが好ましい。分散効率と分散系の安定性の観点から、分散媒の含有量は、酸化ビスマス分散体の全質量に対して、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましく、また、90質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることがさらに好ましい。
【0023】
酸化ビスマス分散体における分散剤は、単斜晶系酸化ビスマスの分散状態を安定させるために用いられる。分散剤には市販品を用いることができる。上述の通り、分散媒として水がより好ましいことから、分散剤としては水系用途で用いられる分散剤(水系分散剤)が好ましい。
【0024】
水系分散剤の市販品としては、例えば、BASFジャパン株式会社の商品名で、Dispex Ultra PA 4550、4560、PX 4575、4585、FA 4404、4431、4480、4483;ビックケミー・ジャパン株式会社の商品名で、DisperBYK-180、181、184、185、190、193、199、2012、2013、2055、2081、2096;サンノプコ株式会社の商品名で、ノプコスパース5600、6100、6130、44-C、ノプコサントR、RFA、SNディスパーサント5033、5034、5041;Borchers GmbH社の商品名で、Borchii Gen0851、SN95、DFN;楠本化成株式会社の商品名で、AQ-320、AQ-340、AQ-360、AQ-380;エボニックジャパン株式会社の商品名で、TEGO Dispers750W、755W、760W、765W;日本ルーブリゾール株式会社の商品名で、SOLESPERS-20000、27000、40000、44000;などを挙げることができる。分散剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
酸化ビスマス分散体における単斜晶系酸化ビスマスの分散安定性を高める観点から、比較的高分子量の分散剤を用いることが好ましく、高分子分散剤を用いることがより好ましい。高分子分散剤の数平均分子量(Mn)は、1000~12000であることが好ましく、2000~12000であることがより好ましい。高分子分散剤としては、例えば、アクリル系樹脂分散剤、及びウレタン系樹脂分散剤などを用いることが好ましい。本明細書において、高分子分散剤の数平均分子量(Mn)は、GPC測定(THF溶媒/ポリスチレン換算)にて得られた値とする。
【0026】
また、単斜晶系酸化ビスマスと樹脂分(例えば、高分子分散剤や、後述する紫外線遮蔽用コーティング剤の成分に用いうるバインダー樹脂など)とが馴染みやすいように、低分子分散剤を用いてもよく、上記高分子分散剤と併用してもよい。低分子分散剤としては、例えば、リン酸塩型分散剤、及びカルボン酸塩型分散剤などの酸塩型分散剤を用いることができる。
【0027】
酸化ビスマス分散体中の分散剤の含有量は、単斜晶系酸化ビスマスの分散状態をより安定させる観点から、酸化ビスマス分散体の全質量に対して、0.5~60質量%であることが好ましい。分散剤の上記含有量は、1質量%以上であることがより好ましく、1.5質量%以上であることがさらに好ましく、また、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。さらには、酸化ビスマス分散体中の分散剤の含有量(質量%)は、単斜晶系酸化ビスマスの含有量(質量%)に対して、0.1~1倍の範囲であることが好ましい。
【0028】
酸化ビスマス分散体は、上述した単斜晶系酸化ビスマス、分散媒、及び分散剤以外にも、他の添加剤を含有してもよい。他の添加剤としては、例えば、消泡剤、増粘剤、レオロジーコントロール剤、及び界面活性剤などを挙げることができ、それらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0029】
酸化ビスマス分散体は、単斜晶系酸化ビスマス、液体、分散剤などの添加剤、及び粉砕媒体を混合し、湿式粉砕を行うことによって、単斜晶系酸化ビスマスを平均粒子径が30~100nmに微粒子化することで製造することができる。
【0030】
単斜晶系酸化ビスマスは、湿式粉砕を行う前に、分散性などの向上や表面活性を抑制するため、無機酸化物や有機物による表面処理が施されていてもよい。湿式粉砕時に用いられる液体としては、上述した分散媒と好ましいものを含めて同様に説明されるものである。
【0031】
湿式粉砕により得られた平均粒子径30~100nmの単斜晶系酸化ビスマスを液体や粉砕媒体から単離し、それを分散媒となる別の液体中に分散させることによって、酸化ビスマス分散体を得ることができる。また、湿式粉砕により得られた平均粒子径30~100nmの単斜晶系酸化ビスマスを湿式粉砕処理した系内から単離せず、粉砕媒体のみを除くことで、湿式粉砕処理に用いた液体を分散媒とした酸化ビスマス分散体を得ることもでき、生産性の観点から、この方法が好ましい。
【0032】
湿式粉砕時に用いうる粉砕媒体としては、ガラスビーズ、チタニアビーズ、ジルコニアビーズ、ジルコンビーズ、及びアルミナビーズなどを挙げることができる。粉砕媒体の1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。湿式粉砕には、例えば、ビーズミル、サンドミル、及びペイントコンディショナーなどの湿式粉砕機を用いることができる。
【0033】
湿式粉砕により得られる単斜晶系酸化ビスマスの粒子径は、粉砕媒体の材質及び大きさ、分散流体の動き方、並びに分散時間によってコントロールされる。その際に、光散乱及びブラウン運動に基づく沈降防止の観点から、単斜晶系酸化ビスマスの平均粒子径は100nm以下にコントロールされる。
【0034】
本実施形態の酸化ビスマス分散体は、例えば、塗料、インキ、表面処理剤、及び化粧品(日焼け止めクリームなど)などの紫外線遮蔽用コーティング剤(以下、単に「コーティング剤」と記載することがある。)として好適に用いうる。酸化ビスマス分散体がコーティング剤用途に使用される場合に適した塗膜中の酸化ビスマス濃度において、可視光に対する高い透過性と紫外線に対する高い遮蔽能を併有し、かつ十分な耐性を有することが可能である。
【0035】
例えば、本実施形態の酸化ビスマス分散体を、乾燥塗膜中の顔料質量濃度(PWC;Pigment Weight Concentration)としての単斜晶系酸化ビスマスの質量濃度が5~20質量%となるように含有させたコーティング剤としての用途に使用することができる。本実施形態の酸化ビスマス分散体を用いることによって、上記コーティング剤を乾燥膜厚10~12μmで形成した塗膜の光透過率が、波長350nm以下の波長域で20%以下、400nmの波長で75%以下、450nm超の波長域で85%以上である性質をもたらすことが可能である。このように、従来の無機系紫外線遮蔽剤よりも高波長域UVAの遮蔽能が高く、かつ可視光域の透明性を維持しつつ、塗料向けのような長期的な使用を前提とした用途においても十分な耐性をもった酸化ビスマス分散体を提供することができる。
【0036】
なお、上記のPWCは、コーティング剤の全固形分の質量に対する顔料(単斜晶系酸化ビスマス)の固形分換算での含有量と同義である。PWCは、PWC(質量%)=コーティング剤中の顔料固形分の質量÷コーティング剤中の全固形分の質量×100により算出される。
【0037】
<紫外線遮蔽用コーティング剤>
本発明の一実施形態の紫外線遮蔽用コーティング剤は、前述の酸化ビスマス分散体と、バインダー樹脂とを含有する。本実施形態のコーティング剤中の単斜晶系酸化ビスマスの含有量は、コーティング剤の全固形分の質量に対して、5~20質量%である。
【0038】
前述の酸化ビスマス分散体とバインダー樹脂とを混合することで、紫外線遮蔽用塗料などの紫外線遮蔽用コーティング剤を得ることができる。ここでいうバインダー樹脂とは、顔料分散体中の顔料粒子を変形させることなく、塗膜が設けられる基材に顔料粒子を容易に付着させ、かつ、乾きや耐候性といった別の効果を新たに付与する樹脂のことを指す。このバインダー樹脂についても有機系と無機系のものが存在するが、本実施形態のコーティング剤においては特に限定されるものではない。
【0039】
バインダー樹脂としては、単斜晶系酸化ビスマス及び分散剤と馴染みやすいものや、コーティング剤(その塗膜)を屋外で好適に使用しうるように、塗膜の耐候性や耐酸性などの各種耐性を向上させることが可能なものを使用することが好ましい。そのようなバインダー樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ樹脂、及びウレタン系樹脂などを挙げることができる。また、反応してそれらの樹脂となるモノマー、オリゴマー、重合体、及び共重合体などを用いてもよく、例えば、ポリエステルポリール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びアクリルポリオールなどのポリオール、ポリイソシアネート、並びにポリアミンなどを挙げることもできる。バインダー樹脂のなかでも、数平均分子量(Mn)が8000~30000であるバインダー樹脂が好ましい。本明細書において、バインダー樹脂の数平均分子量(Mn)は、GPC測定(THF溶媒/ポリスチレン換算)にて得られた値とする。
【0040】
コーティング剤中のバインダー樹脂の固形分換算の含有量は、コーティング剤の全固形分の質量に対して、30~98質量%であることが好ましく、60~96質量%であることがより好ましく、70~95質量%であることがさらに好ましい。
【0041】
コーティング剤は、4~30μm程度の乾燥膜厚で塗布することができる。塗布方法は、コーティング剤の用途に適した公知の手法をとることができる。また、コーティング剤を塗布後、乾燥することにより、塗膜を得ることができる。塗布したコーティング剤を乾燥させる際は、バインダー樹脂の種類やコーティング剤の用途に応じて適当な温度にて加熱してもよい。
【0042】
コーティング剤は、上述した酸化ビスマス分散体及びバインダー樹脂以外にも、他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、顔料、レベリング剤、酸化防止剤、造膜助剤、及び乾燥剤などを挙げることができ、それらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0043】
以上詳述した通り、本発明の一実施形態の酸化ビスマス分散体や紫外線遮蔽用コーティング剤は、以下の構成をとることが可能である。
[1]分散媒と、分散剤と、前記分散媒中に分散している単斜晶系酸化ビスマスとを含有し、前記単斜晶系酸化ビスマスの平均粒子径が30~100nmである酸化ビスマス分散体。
[2]前記分散媒は水を含む上記[1]に記載の酸化ビスマス分散体。
[3]前記分散剤は、数平均分子量が1000~12000である高分子分散剤を含む上記[1]又は[2]に記載の酸化ビスマス分散体。
[4]上記[1]~[3]のいずれかに記載の酸化ビスマス分散体と、バインダー樹脂とを含有する紫外線遮蔽用コーティング剤であって、前記単斜晶系酸化ビスマスの含有量が、前記紫外線遮蔽用コーティング剤の全固形分の質量に対して、5~20質量%である紫外線遮蔽用コーティング剤。
[5]前記バインダー樹脂の数平均分子量が8000~30000である上記[4]に記載の紫外線遮蔽用コーティング剤。
【実施例0044】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0045】
(実施例1)
酸化ビスマス(単斜晶系微粒子型、平均粒子径1μm程度、表面処理なし)を15%、高分子分散剤(Mn2000~5000程度、ノニオン系、有効成分他は水)を有効成分として3%、低分子界面活性剤(ノニオン系)を1%、及びイオン交換水を配合し、混合物を得た。イオン交換水の配合量は、各成分の合計が100%となる量とした。この混合物を、直径0.1mmのジルコニアビーズを用いて、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)で3時間混合分散した。このようにして実施例1の酸化ビスマス分散体を得た。得られた酸化ビスマス分散体における単斜晶系酸化ビスマスの平均粒子径を、前述の透過型電子顕微鏡(製品名「透過電子顕微鏡HT7800」、株式会社日立ハイテク製)及び画像解析ソフト(製品名「画像解析式粒度分布測定ソフトウェアMac-View」、株式会社マウンテック製)を用いて求めた結果、単斜晶系酸化ビスマスの平均粒子径は32.7nmであった。
【0046】
実施例1の酸化ビスマス分散体と、市販の2液硬化型ウレタン系樹脂(市販のMn5000のアクリルポリオールと市販のMn13000のポリイソシアネート)とを使用し、単斜晶系酸化ビスマスの含有量が、塗料の全質量に対して5.2%、塗料の固形分に対して12.5%(PWC=12.5%)である、実施例1の紫外線遮蔽用塗料を調製した。この実施例1の紫外線遮蔽用塗料を#12のバーコーターを用いてガラス板に塗布後、30分静置させ、150℃の恒温槽に30分入れて塗膜を形成し、試験板(これを「試験板1A」と記載する。)を作製した。試験板1Aにおける塗膜の厚さは11.4μmであった。
【0047】
試験板1Aの塗膜について、分光光度計(製品名「U-4100」、株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いて、紫外光-可視光の分光透過率の測定を行った。結果として、分光透過率は、300nmの波長にて2.1%、350nmの波長にて13.5%、400nmの波長にて68.5%、450nmの波長にて92.7%、550nmの波長にて97.0%であった(
図1の実線グラフ参照)。
【0048】
次に、試験板1Aの塗膜に対して、UVテスターにてLight16時間(紫外線を当てている時間)-Dew8時間(紫外線を当てていない時間)を8サイクルの条件でUV照射試験を行った。その後、再度、上記分光光度計を用いて紫外光-可視光の分光透過率の測定を行った。結果として、分光透過率は、300nmの波長にて2.0%、350nmの波長にて13.9%、400nmの波長にて68.7%、450nmの波長にて91.8%、550nmの波長にて96.3%であり(
図1の破線グラフ参照)、わずかに白化した程度であった。
【0049】
また、アルミニウム板に、顔料分(ピグメントレッド170)4%、PWC8.4%の赤色塗料を、6ミルアプリケーターを用いて塗布してから室温で15分セット後、140℃で30分焼付を行い、厚さ75.7μmの赤色塗膜を設けた。次いで、その赤色塗膜上に実施例1の紫外線遮蔽用塗料を#12のバーコーターを用いて塗布し、上記と同様の条件で塗膜を形成し、試験板(これを「試験板1B」と記載する。)を作製した。試験板1Bにおける塗膜の厚さは上記同様11.4μmであった。試験板1Bの塗膜について、カラーコンピューターマッチングシステム(製品名「Spectro Lino」、コニカミノルタ社製)を用いて、CIELab表色系におけるL*、a*、b*の各値を測定した。その後、試験板1Bの塗膜に対して、上記同様のUV照射試験を行った後、再度、上記カラーコンピューターマッチングシステムを用いて、L*、a*、b*の各値の測定を行い、UV照射試験前後の色相差を確認した。その結果、ΔL*が-0.01、Δa*が-4.68、Δb*が-10.88であった。紫外線遮蔽用塗料を塗布していないブランクについても同様に色相差を測定したところ、ΔL*が-0.44、Δa*が-7.01、Δb*が-15.22であったため、紫外線遮蔽の効果が認められた。
【0050】
(比較例1)
実施例1で使用したものと同じ単斜晶系酸化ビスマスを15%、実施例1で使用したものと同じ高分子分散剤を有効成分として4.5%、実施例1で使用したものと同じ低分子界面活性剤を1%、及びイオン交換水を配合し、混合物を得た。イオン交換水の配合量は、各成分の合計が100%となる量とした。この混合物を、直径0.05mmのジルコニアビーズを用いて、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)で15時間混合分散した。このようにして比較例1の酸化ビスマス分散体を得た。得られた酸化ビスマス分散体における単斜晶系酸化ビスマスの平均粒子径を、実施例1と同様に測定した結果、単斜晶系酸化ビスマスの平均粒子径は20.5nmであった。
【0051】
比較例1の酸化ビスマス分散体と、実施例1で使用したものと同じ市販の2液硬化型ウレタン系樹脂とを使用し、単斜晶系酸化ビスマスの含有量が、塗料の全質量に対して5.2%、塗料の固形分に対して12.5%(PWC=12.5%)の比較塗料1を調製した。比較塗料1を#12のバーコーターを用いてガラス板に塗布後、30分静置させ、150℃の恒温槽に30分入れて塗膜を形成し、試験板(これを「比較試験板1A」と記載する。)を作製した。比較試験板1Aにおける塗膜の厚さは11.4μmであった。
【0052】
比較試験板1Aの塗膜について、実施例1と同様に、紫外光-可視光の分光透過率の測定を行った。結果として、分光透過率は、300nmの波長にて10.2%、350nmの波長にて53.5%、400nmの波長にて90.3%、450nmの波長にて97.6%、550nmの波長にて98.9%であった(
図2の実線グラフ参照)。
【0053】
比較例1では、
図1に示す実施例1の結果と比べると、単斜晶系酸化ビスマスの平均粒子径が小さくなった結果、可視光での透明性は向上しているものの、紫外域での紫外線遮蔽能力が大きく劣っていることが分かる。
【0054】
次に、比較試験板1Aの塗膜に対して、実施例1と同様に、UV照射試験を行った後、再度、紫外光-可視光の分光透過率の測定を行った。結果として、分光透過率は、300nmの波長にて9.3%、350nmの波長にて49.4%、400nmの波長にて83.4%、450nmの波長にて91.8%、550nmの波長にて94.9%であった(
図2の破線グラフ参照)。比較例1では、紫外線照射前と比較すると、塗膜が大きく白化してしまい、可視光透過が大きく損なわれてしまった。これは、単斜晶系酸化ビスマスの粒子径が小さいために顔料(単斜晶系酸化ビスマス)及びその分散体としての耐久性が弱いためであると考えられる。
【0055】
また、比較例1についても、実施例1と同様に、アルミニウム板に設けた赤色塗膜上に、比較塗料1を#12のバーコーターを用いて塗布し、上記と同様の条件で塗膜を形成し、試験板(これを「比較試験板1B」と記載する。)を作製した。比較試験板1Bにおける塗膜の厚さは上記同様11.4μmであった。比較試験板1Bの塗膜についても、実施例1と同様に、UV照射試験前後のL*、a*、b*の各値を測定した。その結果、色相差は、ΔL*が+19.16、Δa*が-30.01、Δb*が-47.08であった。この結果は、塗膜が紫外線により壊れてしまい、白化してしまったことによる。この結果からも、平均粒子径が小さな酸化ビスマス分散体は耐性が弱いことが分かる。