(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055567
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】移動速度算出システム及び移動速度算出方法
(51)【国際特許分類】
G16H 10/00 20180101AFI20240411BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
G16H10/00
A61B5/11 110
A61B5/11 120
A61B5/11 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162604
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐野 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】小村 勝人
(72)【発明者】
【氏名】須藤 祐美子
(72)【発明者】
【氏名】酒井 望
(72)【発明者】
【氏名】杉本 潤哉
(72)【発明者】
【氏名】難波 優紀
【テーマコード(参考)】
4C038
5L099
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VA12
4C038VB31
4C038VB35
5L099AA22
(57)【要約】
【課題】分析対象者の普段の生活において、体育館等で実施される運動テストの歩行速度を推測する。
【解決手段】本発明の移動速度算出システム1は、非接触のセンサ21で時系列に測定した複数の測定情報から算出した分析対象者の移動速度に基づいて、分析対象者の身体機能の運動テストにおける歩行速度を求めるようにした。詳しくは、分析対象者の歩行速度は、移動速度の略最大値、所定閾値以上の前記移動速度の値の平均値、または、所定閾値以上の移動速度を検知した期間を移動期間とし、移動期間の移動速度に基づいて求めるようにした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非接触センサで時系列に測定した複数の測定情報から算出した分析対象者の移動速度に基づいて、前記分析対象者の身体機能の運動テストにおける歩行速度を求める
ことを特徴とする移動速度算出システム。
【請求項2】
請求項1に記載の移動速度算出システムにおいて、
前記分析対象者の歩行速度は、前記移動速度の略最大値である
ことを特徴とする移動速度算出システム。
【請求項3】
請求項1に記載の移動速度算出システムにおいて、
前記分析対象者の歩行速度は、所定閾値以上の前記移動速度の値の平均値である
ことを特徴とする移動速度算出システム。
【請求項4】
請求項1に記載の移動速度算出システムにおいて、
前記分析対象者の歩行速度は、所定閾値以上の前記移動速度を検知した期間を移動期間とし、前記移動期間の前記移動速度に基づいて求める
ことを特徴とする移動速度算出システム。
【請求項5】
請求項1に記載の移動速度算出システムにおいて、
前記分析対象者の歩行速度は、一定期間毎の前記移動速度に基づいて求める
ことを特徴とする移動速度算出システム。
【請求項6】
請求項1に記載の移動速度算出システムにおいて、
前記分析対象者の歩行速度は、前記移動速度の変化の絶対値が所定の閾値以下となる期間における前記移動速度の平均値である
ことを特徴とする移動速度算出システム。
【請求項7】
請求項1に記載の移動速度算出システムにおいて、
前記測定情報により行動認識した前記分析対象者の行動の種類と、前記分析者対象者の前記歩行速度とを求める
ことを特徴とする移動速度算出システム。
【請求項8】
請求項1に記載の移動速度算出システムにおいて、
時間的に連続する少なくとも3点の前記測定情報を用いて前記分析対象者の直線移動を検知し、直線移動を検知した直線移動期間の移動速度に基づいて前記歩行速度を求める
ことを特徴とする移動速度算出システム。
【請求項9】
請求項1に記載の移動速度算出システムにおいて、
絶対値が所定の閾値以上となる前記移動速度を走行状態として除いて、前記歩行速度を求める
ことを特徴とする移動速度算出システム。
【請求項10】
請求項1に記載の移動速度算出システムにおいて、
前記歩行速度を含む身体状態を表示する表示部を備える
ことを特徴とする移動速度算出システム。
【請求項11】
非接触センサで時系列に測定した複数の測定情報から分析対象者の移動速度を算出し、
算出した前記移動速度に基づき前記分析対象者の身体機能の運動テストにおける歩行速度を求める
ことを特徴とする移動速度算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサを用いて人間の移動速度を検出する移動速度算出システム及び移動速度算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信技術およびセンサ技術が発達し、日常生活において、人間の動作や行動を測定することが可能となっている。特に移動速度は人間の運動機能との相関が知られており、簡易な測定手法が必要とされている。
【0003】
本技術分野の背景技術として、特許文献1がある。この特許文献1には、「運動テスト評価システムは、運動テストを行うユーザの足の加速度値を取得する加速度センサと、ユーザの心拍数を計測する心拍センサと、処理回路とを備える。処理回路は、加速度値に基づいて、第1の時間範囲における第1の最大加速度値と、第1の時間範囲よりも後の第2の時間範囲における第2の最大加速度値とを取得し、第1の最大加速度値及び第2の最大加速度値を用いて、運動テストの信頼スコアを算出する。処理回路は、信頼スコアが所定の閾値以上の場合、運動テスト中のユーザの歩行速度と、心拍数とを取得し、歩行速度と心拍数とを用いて、ユーザの最大酸素摂取量を推定し、信頼スコアが所定の閾値未満の場合、当該歩行速度を用いて、最大酸素摂取量を推定する。」と記載されている。
【0004】
この方式によれば、分析対象者の足に加速度センサを装着し、測定した最大加速度値をもとに運動テストの信頼性を評価することで、運動テスト中の歩行速度を適切に分析し最大酸素摂取量を推定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術よれば、分析対象者の足に加速度センサを装着し、測定した最大加速度値をもとに別途実施した運動テストの信頼性を評価することで、運動テスト中の歩行速度を適切に分析し最大酸素摂取量を推定することができる。
しかし、特許文献1は分析対象者の足に装着する加速度センサを前提としており、分析対象者が、普段の生活においてウェアラブルセンサを装着することに忌避感を覚える可能性がある。
【0007】
そこで本発明は、分析対象者の普段の生活において、体育館等で実施される運動テストの歩行速度を推測すること課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明の移動速度算出システムは、非接触センサで時系列に測定した複数の測定情報から算出した分析対象者の移動速度に基づいて、前記分析対象者の身体機能の運動テストにおける歩行速度を求めるようにした。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、非接触センサを用いて運動テストの歩行速度を推測するので、ウェアラブルセンサを装着することに忌避感が生じることがない。
また、本発明によれば、普段の生活において分析対象者の運動テストの歩行速度を推測できるので、特に運動テストを実施することなく、分析対象者の健康状態および身体機能を推測できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】移動速度算出システムの第一の構成を示すブロック図である。
【
図4】移動速度算出システムの動作を説明するフローチャートである。
【
図5】移動速度算出システムの第二の構成を示すブロック図である。
【
図7】事業者が保険業者である場合の、外部端末の表示例である。
【
図8】移動速度算出システム第三の構成を示すブロック図である。
【
図9】演算部が移動速度を算出する方法の例である。
【
図10】移動速度算出システムを活用した見守りサービスの外部端末における高齢の親を見守りたい個人に対する表示部の例である。
【
図11】移動速度算出システムを活用した見守りサービスの外部端末における高齢の親に対する表示部の例である。
【
図12】移動速度算出システムを活用した見守りサービスの外部端末のインターフェースの例である。
【
図13】移動速度算出システムの第四の構成を示すブロック図である。
【
図14】移動速度算出システムを活用した見守りサービスの外部端末における高齢の親に対する表示部の第二の例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例もその範囲に含む。
【0012】
図1は、移動速度算出システム1の第一の構成を示すブロック図である。移動速度算出システム1は、情報取得部11と、演算部12と、蓄積部13と、センサ21とで構成される。
【0013】
センサ21は分析対象者の移動速度またはその算出に必要な位置情報などを測定する機能を有し、代表的なものに電波センサ、GPSを用いたセンサ、画像センサおよび少なくとも2つのセンサから構成されるセンサ群などがある。
【0014】
電波センサは、本明細書中ではマイクロ波センサ、ミリ波センサ、TOFセンサなど、電波を利用し物体の存在、位置、移動を検知するセンサの総称と定義する。電波センサを用いることで、非接触で、分析対象者を点群として測定できる。この点群は各点が座標情報を有しているため、電波センサの周波数が大きくなり点数が増加すると、空間解像度を向上できる。また、これら座標情報の変化とそれに要する時間から、移動速度を算出することが可能である。さらに、電波センサはプライバシーを侵害しないため、宅内、施設内など人間が生活する空間などにも忌避感なく設置できる。
【0015】
GPSを用いたセンサは、本明細書中ではそれ単体で機能するものの他、スマートフォン、スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスに組み込まれ、座標情報と時刻を同時に取得できるものも含む。本センサは衛星による測位システムを利用し分析対象者の座標情報を取得する。本座標情報の変化とそれに要する時間から、移動速度を算出することが可能である。
【0016】
画像センサは、本明細書中では静止画を連続記録する機能を有するカメラ、動画を記録する機能を有するカメラ、Webカメラ、深度カメラ、魚眼カメラなどに加え、サーモビューア、プライバシーに配慮し人体を骨格などにモデル化し表示する処理を行ったカメラなども含む。これらの画像から画面内における分析対象者の座標情報を取得し、その変化とそれに要する時間から移動速度を算出することが可能である。
【0017】
なお、画像から分析対象者の座標情報を取得する方法としては、頭部、胸部、脚部など人体の一部を基準とし座標を定義する方法、分析対象者を表示する画素を点群とみなし点群の重心を算出し座標情報とする方法などがある。この重心は、点群の座標のみから算出してもよいし、質量を考慮した質量中心を用いても良い。
【0018】
情報取得部11は、センサ21の測定結果および分析対象者の情報41を取得する。分析対象者の情報41とは、例えば、身長、体重、生年月日、BMI、体脂肪率、内臓脂肪レベル、筋肉量、体水分率、体内年齢、別途実施された健康調査の結果などである。
【0019】
情報取得部11がセンサ21の測定結果を取得する方法として、例えば、イーサネット、無線通信等でセンサ21と直接通信する方法がある。別の例として、センサデータをゲートウェイ経由でローカルに設置したPCに収集する場合、情報取得部11はローカルネットワークまたはインターネットを経由し前記PCにアクセスすることで、センサデータを取得する。
【0020】
また、さらに別の例として、センサデータを直接またはゲートウェイ経由で、一般にレンタル可能なサーバに収集する場合、情報取得部11はインターネット経由で前記サーバにアクセスすることで、センサデータを取得する。あるいは、センサデータは外部業者のサーバに蓄積され、そのデータをcsvなどのファイル形式で取得しても良く、その場合、情報取得部11はPython(登録商標)やJava(登録商標)、c言語などによりcsv(Comma Separated Values)データを読み込む機能を実装し情報を取得してもよい。
【0021】
一方、分析対象者の情報41の取得方法も複数あり、例えば、分析対象者がサービス申し込み時に記載する申請書類を参照しシステム管理者が入力する方法、システム管理者が入力した情報を蓄積部13に蓄積し参照する方法などがある。
【0022】
さらに、情報取得部11は、センサ21から移動速度および位置情報などの測定値に加え、分析結果など測定値以外の情報を取得しても良い。例えば、センサ21は分析対象者の座標情報を測定すると同時に時刻も取得し、座標情報の時間変化から移動速度、加速度およびそれらの分散、標準偏差などもセンサ内部で算出し、それらを情報取得部11が取得してもよい。
【0023】
演算部12は、
図2に示すとおり、移動速度演算部12aと最大移動速度演算部12bから構成される。移動速度演算部12aは、情報取得部11から受信した情報を用いて分析対象者の移動速度を算出し、最大移動速度演算部12bは、過去一定期間の前記移動速度を用いて、身体機能の運動テストにおける歩行速度として、それらの略最大値を算出する。つまり、演算部12は、複数の測定情報から算出した分析対象者の移動速度に基づいて、分析対象者の身体機能の運動テストにおける歩行速度を求めるが、例えば、分析対象者の歩行速度は、移動速度の略最大値とする。
【0024】
移動速度の算出方法の概念図を、
図3に示す。例えば情報取得部11から分析対象者の座標情報を受信した場合、移動速度演算部12aは移動速度を以下の式(1)により算出する。
【数1】
【0025】
ここで、鉛直方向に直交した平面内において、直交する二軸をx軸、y軸とした。Vは移動速度、tは時刻であり、Vの上付きのxyはxy平面内の速度成分であることを、Vの下付きのtは時刻tの値であることを示す。また、xt、ytはそれぞれ時刻tにおけるx座標、y座標を表す。なお、式(1)はx軸またはy軸のどちらか一軸方向のみの計算式としてもよいし、鉛直方向をz軸とし、z軸方向の速度成分を考慮した移動速度を算出してもよい。
【0026】
次に、最大移動速度演算部12bは、過去一定期間の前記移動速度をもとに略最大値を算出する。ここで、過去一定期間の前記移動速度のデータは最大移動速度演算部12bの内部に蓄積し参照するほか、移動速度演算部12aが移動速度を算出するたびに蓄積部13に結果を送信し、最大移動速度演算部12bが必要に応じて、蓄積部13を参照してもよい。
【0027】
蓄積部13は、情報取得部11が取得した情報および演算部12が算出した移動速度の少なくとも一つを蓄積する。これらデータの蓄積は分析対象者ごとに行うほか、分析対象者の年齢、性別、居住地域、趣味嗜好などの属性で分類してもよい。また、演算部12に蓄積したデータを送信し、演算部12がこれらデータの時系列解析を行っても良い。
【0028】
ここで本明細書中では、時系列解析とは、各種のデータに対し、横軸に時間をとったグラフによる可視化、データの値に関する時間方向の最大値、最小値、平均値、変化率、移動平均、加重平均、分散、標準偏差などの算出および誤差解析、多項式近似などの操作を行うことと定義する。これらの時系列解析は、年齢、性別、居住地域、ライフスタイル、職業、既往歴などが同一カテゴリに属する人物との解析結果の比較を含んでもよい。
【0029】
図4は移動速度算出システム1の動作を説明するフローチャートである。移動速度算出システム1はシステムのオペレータの操作をきっかけとして処理を開始する(S1)。なお、前記オペレータは特に限定されず、システムの運営者、事業者、分析対象者、個人などが該当する。
【0030】
まず、情報取得部11がセンサ21のデータおよび分析対象者の情報41を取得し(S2)、取得した情報を演算部12および蓄積部13に送信する(S3)。演算部12は、情報取得部11または蓄積部13の少なくとも一方から受信した情報を用いて移動速度を算出し(S4)、算出した移動速度を蓄積部13に送信する(S5)。
【0031】
蓄積部13は、演算部12が算出した移動速度を、分析対象者または他者の過去の蓄積データと合わせて演算部12に送信する(S6)。演算部12は現時点の移動速度と過去の蓄積データを用い、最大移動速度を算出し(S7)、算出した最大移動速度を蓄積部13に送信する(S8)。移動速度算出システム1はそのまま終了(S9)してもよいし、予め設定することで、処理開始(S1)の直後に戻るループ処理を実装してもよい。
【実施例0032】
以下では
図5を用い、保険業者が移動速度算出システム1を活用すると仮定し、システムの動作を具体的に説明する。なお、本実施例はデイサービス業者や高齢者住宅の運営業者など、高齢者に対しサービスおよび商品を提供する事業者を想定としてもよい。
【0033】
図5は移動速度算出システムの第二の構成を示すブロック図である。
まず、事業者63はシステムの運営者が管理するサーバ53に格納された移動速度算出システム1を活用したサービスおよび商品を用意する。この活用方法には、移動速度およびその略最大値の活用に加え、それらの時系列解析結果を含めフレイル度、ロコモ度、サルコペニア、転倒の危険性など、身体機能に関する各種指標を推測することを含む。
【0034】
サービスおよび商品に加入申し込みがあった場合、センサ21を加入者64の自宅に送付する。センサ21は設置後、電源接続、電池、または太陽光や振動などの環境発電により電源を確保し、測定を開始する。センサデータは直接またはゲートウェイを経由して外部サーバ51に送信する。
【0035】
本実施例では、センサ21として電波センサの一種であるミリ波センサを用いる例を具体的に説明する。ミリ波センサは地上から1.8mの位置の壁面に設置し、電源コードをコンセントに接続し電源を確保する。測定範囲はセンサ本体を中心とし左右1.5m、奥行5mの範囲が目安であり、その範囲内で複数の日常行動が行われる位置に設置することが望ましい。例えばリビングダイニングにおいて、キッチン方向に向け設置することで、リラックス、食事、食事準備および料理を測定範囲内に収められる可能性がある。
【0036】
本実施例の様に、動作が比較的少ない行動(リラックス)と動作を伴う行動(食事準備、料理)の両方を測定することで、前者から人間が存在するだけで発生するノイズを推測し、後者からノイズを除去するといった操作が可能であり、測定精度を向上できる利点がある。
【0037】
また、ミリ波センサのデータを外部サーバ51に送信するため、別途専用のルータを設置してもよい。なお、サービスおよび商品の内容に応じ、使用するセンサの種類は変更可能であり、例えば、電波センサ、GPSを用いたセンサ、画像センサ、人感センサ、照度センサ、温湿度気圧センサ、ドア開閉センサ、複数の振動センサ、感圧センサおよびウェアラブルセンサなどを組み合わせて使用してもよい。
【0038】
ここで、人感センサ、照度センサ、温湿度気圧センサはそれらの一部または全てが環境センサとして1つにまとめられていてもよい。また、オンライン接続可能な体重計、体組成計など、他の市販の機器とのデータ連携を含んでもよい。
【0039】
外部サーバ51は、例えば、センサ21の製造メーカのサーバを用いる。この場合、センサデータをセンサ内部で暗号化した後送信し、外部サーバ51内で復号することでセキュリティを確保した情報通信が可能な利点がある。また、センサデータは測定時刻とともに外部サーバ51内に保存され、製造メーカの用意するAPIを介することで、移動速度算出システム1の情報取得部11に取得できる。
【0040】
なお、外部サーバ51の所有者も限定されることはなく、事業者の管理するサーバであってもよいし、センサメーカの管理するサーバであってもよいし、一般にレンタル可能なサーバでも良い。外部サーバ51が、事業者63の管理するサーバまたは一定のセキュリティが確保された一般にレンタル可能なサーバである場合は、移動速度算出システム1をその内部に格納してもよい。
【0041】
また、事業者とシステムの運営者が異なる環境でそれぞれデータを保管し、移動速度算出システム1にそれぞれ読み込ませ、システム内部で接続してもよい。ただし、これらのサーバは、システムの運営者の社内環境、事業者の社内環境、クラウド環境のいずれかに構築された移動速度算出システム1と通信可能である必要がある。
【0042】
移動速度算出システム1の情報取得部11は、センサ21のデータおよび分析対象者の情報41を移動速度算出システム1内に取得し、演算部12および蓄積部13に送信する。蓄積部13は情報取得部11から分析対象者の情報41(身体情報)を受信し、同一人物の過去の身体情報、移動速度などの履歴データを検索し、情報取得部11および演算部12に送信してもよい。これにより演算部12が時系列解析を行うことができる。
【0043】
分析対象者の情報41の取得方法は、例えばサービスおよび商品の加入申込書に記載する方法がある。本方法によれば、分析対象者の情報41を取得すると同時に、個人情報の取り扱いについて書面で同意を取得することが可能である。なお、これ以外にセンサ21に入力できるようにする、サービスおよび商品の加入申込書に記載する、事業者ホームページのマイページから追加で入力できるようにする、別途、握力計、体組成計などの測定器具を用意する、第三者である他の事業者、自治体、非営利団体などと連携し入手するなどの方法を用いてもよい。
【0044】
演算部12は、情報取得部11から受信したセンサ21の情報および分析対象者の情報41から移動速度およびその略最大値を算出する。具体的には、まず、移動速度演算部12aは情報取得部11から受信した分析対象者の座標情報と、前記式(1)とから移動速度を算出する。このとき、移動速度に閾値を設定し、閾値以上の値である場合に移動、閾値以下の値である場合に静止と判定し、移動期間を対象に移動速度を算出してもよい。つまり、分析対象者の歩行速度は、所定閾値以上の移動速度を検知した期間を移動期間とし、この移動期間の移動速度に基づいて求めることができる。
【0045】
この閾値の決定方法には、着席、睡眠など移動を伴わない行動をまず測定し、算出した移動速度をノイズとみなし、前記ノイズの最大、最小、平均、標準偏差およびそれらの倍数などを用いる方法がある。例えば、着席を対象に算出した移動速度の標準偏差が0.1m/sであれば、その2倍の0.2m/sを閾値とすることで、95%信頼区間でノイズを評価できると考えてもよい。本閾値を設定することで、センサのノイズを低減し移動速度の測定精度を向上できる。
【0046】
次に、最大移動速度演算部12bは、移動速度演算部12aの算出した移動速度をもとに、その略最大値を算出する。略最大値の算出方法には、時間、日、週、月、年などの期間で最大値を算出する方法があり、一例を
図6A、
図6B、
図6Cに示す。つまり、分析対象者の歩行速度は、一定期間毎の移動速度に基づいて求めることができる。
【0047】
図6Aは、月ごとに移動速度の略最大値を算出する例であり、各月の移動速度の略最大値が同程度もしくは上昇傾向であることから、分析対象者は健康であると判断しても良い。これにより、分析に必要な人的、時間的コストを抑制することができる。
【0048】
一方、
図6Bは、同様に月ごとに移動速度の略最大値を算出した例であるが、各月の移動速度の略最大値が下降傾向であることから、分析対象者の身体機能が低下している可能性を検知してもよい。この際、
図6Cに示すとおり、移動速度の略最大値が最も大きく低下した月に着目し、移動速度の略最大値を算出する期間を月ごとから週ごとに細分化しても良い。これにより移動速度の略最大値の変化を詳細に確認でき、身体機能の低下をより精度よく推測することができる。
【0049】
また、前記閾値によりまず移動を検知し、移動が検知されている期間ごとに一旦最大値を算出し、それら最大値を再度、時間、日、週、月、年などの期間ごとに平均してもよい。あるいは、略最大値は算出した移動速度の中で、上位10%など一定の割合以上の値を平均し算出してもよい。これらの平均値を用いて略最大値を算出する操作により、異常値や測定に由来するバラつき、分析対象者の日常行動のバラつきなどを平滑化し、身体機能をより適切に推測する略最大移動速度を算出できる。つまり、分析対象者の歩行速度は、所定閾値以上の移動速度の値の平均値とすることができる。
【0050】
なお、センサ21が異なる場所に設置される人感センサ、照度センサ、温湿度気圧センサ、ドア開閉センサおよび振動センサから少なくとも2つ以上を含む場合は、それらのセンサが反応した時刻の差をもとに分析対象者の移動速度を算出してもよい。例えば、リビングに人感センサ、トイレにドア開閉センサを設置していた場合、寝室で睡眠していた高齢者がリビングを通過しトイレに移動すると、まずリビングの人感センサが反応し、次にトイレのドア開閉センサが反応する。この時、リビング~トイレ間の距離を、リビングの人感センサの反応時刻とトイレのドア開閉センサの反応時刻の差で割ることで、移動速度を算出することができる。
【0051】
演算部12は、算出した移動速度、その略最大値およびそれらの時系列分析結果を、身体機能の運動テストにおける歩行速度として、蓄積部13および外部端末61の表示部14に送信する。つまり、測定情報から算出した分析対象者の移動速度に基づいて、分析対象者の身体機能の運動テストにおける歩行速度を求める。蓄積部13は、演算部12の算出した前記結果を、分析対象者ごとおよび分析対象者の年齢、性別、居住地域、ライフスタイル、職業、既往歴などのカテゴリごとに分類して蓄積する。
【0052】
表示部14は、受信した結果を事業者63またはシステムの運営者69に対し表示する。表示方法は、事業者63とシステムの運営者69とで異なってもよい。
【0053】
事業者63に対しては、例えば、現時点の分析対象者の移動速度、移動速度の略最大値およびそれらの時系列分析結果に加え、事業者ごとに特に必要とする情報に変換した結果を表示してもよい。事業者が保険業者である場合の、外部端末61の表示例を
図7に示す。保険業者に対しては、過去の他者の保険の適用実績と移動速度、移動速度の略最大値およびそれらの時系列分析結果を示すことで、現在の分析対象者について、保険の適用可能性を類推する材料を提供してもよい。
【0054】
具体的には、
図7に示すとおり、移動速度およびその時間変化量を横軸にとり、縦軸に保険の適用実績(件数)を表示しても良い。横軸は移動速度の平均値または略最大値を選択可能である。また、時間変化量についても、その算出期間を1日、1週間、1カ月、3カ月、半年、1年のいずれかを選択するか、または任意に設定してもよい。この情報をもとに、保険業者は、分析対象者の移動速度、移動速度の略最大値およびそれらの時系列分析結果を、保険の適用可能性が低くなる方向に修正するための介入手段を検討することができる。
【0055】
この介入手段には、例えば、「毎日30分程度散歩しましょう」「町内でバザーが開催されているので参加してみませんか?」などのレコメンドを行うことが含まれる。また、デイサービス業者であれば、同様にデイサービスを実施した日程と移動速度、移動速度の略最大値およびそれらの時系列分析結果を同時に示すことで、デイサービスの内容が分析対象者におよぼす影響を検討する材料を提供してもよい。
【0056】
この情報をもとに、デイサービス業者は、分析対象者ごとに最適なプログラムを検討することができる。あるいは、理学療法士など医学的な知見を持つ人材を有する業者であれば、分析対象者の移動速度、移動速度の略最大値およびそれらの時系列分析結果を人が介在した歩行試験の速度情報として出力しても良い。前記理学療法士など医学的な知見を持つ人材は、この情報をもとに、フレイル度、ロコモ度、サルコペニア、転倒の危険性など、身体機能に関する各種指標を推測しても良い。
【0057】
システムの運営者69に対しては、例えば、現時点の分析対象者の移動速度、移動速度の略最大値およびそれらの時系列分析結果に加え、センサ21の稼働状態に関する情報、センサ21のバッテリー状況に関する情報、演算部12の処理を介さないセンサの指示値、事業者がシステムを参照した日時、回数、時間および内容に関する情報などを表示してもよい。また、前記移動速度、移動速度の略最大値およびそれらの時系列分析結果を、人が介在した歩行試験の速度情報として表示し、フレイル度、ロコモ度、サルコペニア、転倒の危険性など、身体機能に関する各種指標を推測してもよい。
【0058】
事業者63は、表示内容についてシステム管理者にフィードバックを返すことができる。フィードバックの手段は、外部端末61のインターフェース62、口頭での伝達、メール、システムの運営者のホームページを介した投稿などである。システムの運営者は、事業者からのフィードバックにもとづき、表示内容を変更してもよい。
まず、高齢の親を見守りたい個人66は、システムの運営者が管理するサーバ53に格納された移動速度算出システム1を活用した見守りサービスに加入する。このサービスに加入すると、サービスプランに応じ様々な種類のセンサ21が高齢の親を見守りたい個人66に送付される。高齢の親を見守りたい個人66がセンサ21を高齢の親67の宅内に設置すると、センサ21は電源を確保し測定を開始し、データをサーバなどに送信および保存する。
また、外部サーバ51は行動認識部15を格納し、情報取得部11に行動認識結果を送信しても良い。さらに、分析対象者の情報41の取得方法は、サービスおよび商品の加入申込書に記載する他、高齢の親を見守りたい個人66または高齢の親67自身が外部端末61のインターフェース62から入力しても良い。
行動認識部15は、センサ21のデータをもとに宅内における分析対象者の日常行動を認識する機能を有する。ここで、日常行動には外出、睡眠、リラックス、食事、料理、掃除などの種類を含む。また、認識方法は例えば、人感センサ、ミリ波センサ、画像センサなど、人間が特定の場所に存在することを検知できるセンサを利用し、場所と行動を関連付けて認識する方法、少なくとも2種類以上のセンサ21のデータをクラスタリングし、各クラスタで反応するセンサの特徴と行動を関連付けて認識する方法、分析対象者が自己申告する行動とセンサデータの関連を機械学習などにより学習し、センサデータを行動に分類する分類器を作成する方法などがある。
前記クラスタリングによる行動認識方法については、具体的には、あるクラスタに所属するデータについて、人感センサの反応が無ければ外出、夜間に寝室で人感センサが反応し、かつ、照度センサの指示値が小さければ睡眠、などの認識方法がある。
まず、演算部は少なくとも時間方向に3点の座標情報を用い、直線移動を検知する。具体的には、時刻t1、t2およびt3の3点を用い、時刻t1、t2の座標を結ぶ直線L12と、時刻t2、t3の座標を結ぶ直線L23の成す角θを算出し、前記θの値が予め定められた範囲内であれば直線移動を検知する。
この値の範囲は任意に定めて良いが、例えば、少なくとも前進する成分を有することを条件に、90度以上270度以下と定めても良い。あるいは、進行方向が20度以上変化した場合をターンと定義し、前記θの値の範囲をターンと定義されない160度以上200度以下と定めても良い。
次に、この直線移動と検知された動作を対象とし、移動速度、移動速度の略最大値およびそれらの時系列分析結果を、身体機能の運動テストにおける歩行速度として算出する。これにより、特に分析対象者の直線移動に着目した移動速度の評価が可能となる。つまり、時間的に連続する少なくとも3点の前記測定情報を用いて分析対象者の直線移動を検知し、直線移動を検知した直線移動期間の移動速度に基づいて前記歩行速度を求める。
高齢者を対象とした身体測定試験において、身体機能の指標として用いられる5m歩行テストは直線移動を測定対象としているため、演算部12も直線移動を対象とすることで、分析対象者の身体機能をより適切に推測できる利点がある。なお、直線移動は時間方向に連続する4点以上を用いて検知しても良い。
蓄積部13は、移動速度算出システム1が設けられたサーバとは異なる外部サーバ52に設けられており、情報取得部11、演算部12、外部端末61に設けられた表示部14とデータを授受できる。この外部端末61は、例えばスマートフォンやタブレットなど、高齢の親を見守りたい個人66または高齢の親67が利用可能なスマートデバイスであっても良い。
ここで、移動速度の略最大値の時系列分析結果とは、1時間、1日、1週間、1カ月、3カ月、半年、1年など任意の一定期間ごとに移動速度の略最大値を算出し、それらの略最大値を対象に時系列分析を行った結果である。また、結果の表示方法は日常行動の種類ごとまたは日常行動全体のどちらかを選択しても良い。