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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055588
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】ワークの芯出し方法及び工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/22 20060101AFI20240411BHJP
   B23Q 3/18 20060101ALI20240411BHJP
   B24B 41/06 20120101ALI20240411BHJP
   B24B 49/10 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
B23Q17/22 A
B23Q3/18 C
B24B41/06 J
B24B49/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162645
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003458
【氏名又は名称】芝浦機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100141830
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 卓久
(72)【発明者】
【氏名】福田 将彦
(72)【発明者】
【氏名】児玉 尋太郎
(72)【発明者】
【氏名】秋山 貴信
【テーマコード(参考)】
3C016
3C029
3C034
【Fターム(参考)】
3C016EA00
3C016HB03
3C016HC02
3C029AA02
3C034AA01
3C034BB73
3C034BB92
3C034CA04
3C034CB20
3C034DD07
(57)【要約】
【課題】熟練技術を用いることなく、より高精度な芯出しをすることが可能な、ワークの芯出し方法及び工作機械を提供する。
【解決手段】主軸15の先端に設けられたワーク保持部25によりワークWを把持する。主軸15を回転させながら、ワークWの全周についてワークWの偏心量を測定する。ワークWの偏心量に基づいて、ワークWの最大偏心量に対応する回転角に衝撃付与部27が位置するよう主軸15を回転させる。衝撃付与部27がワークWに対して、1回あたり0.01秒以下の時間だけ衝撃を付与する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの芯出し方法において、
主軸の先端に設けられたワーク保持部によりワークを把持する工程と、
前記主軸を回転させながら、前記ワークの全周についてワークの偏心量を測定する工程と、
前記ワークの偏心量に基づいて、前記ワークの最大偏心量に対応する回転角に衝撃付与部が位置するよう前記主軸を回転させる工程と、
前記衝撃付与部が前記ワークに対して、1回あたり0.01秒以下の時間だけ衝撃を付与する工程と、を備えた、ワークの芯出し方法。
【請求項2】
前記衝撃付与部は、前記最大偏心量に応じた回数だけ前記ワークに衝撃を与える、請求項1に記載のワークの芯出し方法。
【請求項3】
前記衝撃付与部が前記ワークに対して衝撃を付与する工程の後、前記主軸を回転させながら、再度前記ワークの全周についてワークの偏心量を測定する工程が設けられる、請求項1に記載のワークの芯出し方法。
【請求項4】
主軸と、
前記主軸の先端に設けられ、ワークを把持するワーク保持部と、
前記主軸を回転させながら、前記ワークの全周について前記ワークの偏心量を測定する偏心量測定部と、
前記ワークに対して衝撃を付与する衝撃付与部と、
前記主軸の回転と、前記衝撃付与部とを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記偏心量測定部によって測定された前記ワークの偏心量に基づいて、前記ワークの最大偏心量に対応する回転角に前記衝撃付与部が位置するよう前記主軸を回転させ、
前記衝撃付与部が前記ワークに対して、1回あたり0.01秒以下の時間だけ衝撃を付与する、工作機械。
【請求項5】
前記衝撃付与部は、前記最大偏心量に応じた回数だけ前記ワークに衝撃を与える、請求項4に記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ワークの芯出し方法及び工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワークが回転しながら旋削加工又は研削加工を行う工作機械が知られている。このような工作機械において、とりわけ高精度な加工を行う場合、スピンドルへワークを取り付けた後、ワークの中心とスピンドルの回転中心とを一致させる芯出し作業が必要である。特に、サブミクロンの幾何学精度を必要とする加工では、1μm以下の芯出しが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-82242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
主な芯出し方法のひとつとして、高精度なワーク保持部を用いる方法がある。しかしながら、このような方法は、ワーク保持部の求心精度や把持部の状態に依存するため、量産時には数ミクロン程度の芯出し精度しか期待できない場合が多い。
【0005】
他方、ワークを把持した後、ダイヤルゲージ等を用いて、許容値内に入るまで手動で調芯させる方法も存在する。しかしながら、1ミクロン以下の調芯を行う場合、調芯手段である打撃のタイミングや強さについて高い熟練技術を必要とし、作業効率の低下を招きやすい。
【0006】
本開示は、熟練技術を用いることなく、より高精度な芯出しをすることが可能な、ワークの芯出し方法及び工作機械を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の実施の形態は、以下の[1]~[5]に関する。
【0008】
[1]ワークの芯出し方法において、主軸の先端に設けられたワーク保持部によりワークを把持する工程と、前記主軸を回転させながら、前記ワークの全周についてワークの偏心量を測定する工程と、前記ワークの偏心量に基づいて、前記ワークの最大偏心量に対応する回転角に衝撃付与部が位置するよう前記主軸を回転させる工程と、前記衝撃付与部が前記ワークに対して、1回あたり0.01秒以下の時間だけ衝撃を付与する工程と、を備えた、ワークの芯出し方法。
【0009】
[2]前記衝撃付与部は、前記最大偏心量に応じた回数だけ前記ワークに衝撃を与える、[1]に記載のワークの芯出し方法。
【0010】
[3]前記衝撃付与部が前記ワークに対して衝撃を付与する工程の後、前記主軸を回転させながら、再度前記ワークの全周についてワークの偏心量を測定する工程が設けられる、[1]又は[2]に記載のワークの芯出し方法。
【0011】
[4]主軸と、前記主軸の先端に設けられ、ワークを把持するワーク保持部と、前記主軸を回転させながら、前記ワークの全周について前記ワークの偏心量を測定する偏心量測定部と、前記ワークに対して衝撃を付与する衝撃付与部と、前記主軸の回転と、前記衝撃付与部とを制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記偏心量測定部によって測定された前記ワークの偏心量に基づいて、前記ワークの最大偏心量に対応する回転角に前記衝撃付与部が位置するよう前記主軸を回転させ、前記衝撃付与部が前記ワークに対して、1回あたり0.01秒以下の時間だけ衝撃を付与する、工作機械。
【0012】
[5]前記衝撃付与部は、前記最大偏心量に応じた回数だけ前記ワークに衝撃を与える、[4]に記載の工作機械。
【発明の効果】
【0013】
本実施の形態によれば、熟練技術を用いることなく、より高精度な芯出しをすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、一実施の形態による工作機械を示す断面図である。
図2図2は、一実施の形態による工作機械の一部を示す概略構成図である。
図3図3は、一実施の形態によるワークの芯出し方法を示すフローチャートである。
図4図4(a)は、一実施の形態によるワークの芯出し方法における、芯出し時の偏心量と荷重との関係を示すグラフであり、図4(b)は、比較例によるワークの芯出し方法における、芯出し時の偏心量と荷重との関係を示すグラフである。
図5図5(a)(b)は、一実施の形態によるワークの芯出し方法を実施したときの、ワークの最大偏心量の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら各実施の形態について具体的に説明する。以下に示す各図は、模式的に示したものである。そのため、各部の大きさ、形状は理解を容易にするために、適宜誇張している。また、技術思想を逸脱しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。なお、以下に示す各図において、同一部分には同一の符号を付しており、一部詳細な説明を省略する場合がある。また、本明細書中に記載する各部材の寸法等の数値及び材料名は、実施の形態としての一例であり、これに限定されるものではなく、適宜選択して使用できる。本明細書において、形状や幾何学的条件を特定する用語、例えば平行や直交、垂直等の用語については、厳密に意味するところに加え、実質的に同じ状態も含む。また、説明の便宜上、上方又は下方という語句を用いて説明する場合があるが、上下方向が逆転してもよい。
【0016】
また、本実施の形態において、「X軸」とは、鉛直方向に垂直かつ主軸の回転軸に垂直な軸であり、「Y軸」とは、鉛直方向に平行な軸である。「Z軸」とは、主軸の回転軸に平行な軸である。
【0017】
以下、一実施の形態による工作機械について、図面を参照しながら説明する。まず、本実施の形態による工作機械の構成について説明する。図1は、本実施の形態による工作機械を示す概略図である。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態による工作機械10は、工具21によってワークWを削る機械である。この工作機械10において、Z軸に平行な回転軸Azを中心にワークWが回転し、回転しているワークWに工具21が当接することによって、ワークWが切削される。工具21は、バイト等の旋削工具であっても良い。
【0019】
工作機械10は、主軸15と、ワーク保持部25と、偏心量測定部26と、衝撃付与部27と、制御部30と、を備える。ワーク保持部25は、主軸15の先端に設けられ、ワークWを把持する。偏心量測定部26は、主軸15を回転させながら、ワークWの全周についてワークWの偏心量を測定する。衝撃付与部27は、ワークWに対して衝撃を付与する。制御部30は、少なくとも主軸15の回転と、衝撃付与部27とを制御する。
【0020】
工作機械10はさらに、工具21及びワークWを保持する機械本体11を備える。機械本体11は、例えば、ワークWを回転軸Azを中心に回転させるとともに、工具21とワークWとを近接及び離反させるように相対移動させる。回転軸Azの向き、工具21及びワークWの相対移動の方向、並びに工具21及びワークWの移動の有無及びその方向等は、適宜設定されてもよい。
【0021】
本実施の形態では、ワークWは、上述したように、Z軸に平行な回転軸Azの回りに回転される。また、工具21及びワークWは、Z軸方向及びX軸方向に相対移動する。より詳細には、工具21がX軸方向に移動し、ワークWがZ軸方向に移動する。これにより、ワークWは、例えばZ軸方向プラス側の面及び/又はZ軸に平行な軸回りの外周面が切削される。
【0022】
機械本体11は、基台12と、Z軸移動台13と、主軸台14とを有する。Z軸移動台13は、エアスライド等によって基台12上をZ軸方向に高精度に直線移動(水平移動)可能である。主軸台14は、Z軸移動台13上に搭載されている。主軸台14には、主軸15と、主軸モータ16とが設けられている。主軸15は、Z軸に平行に配置されている。主軸モータ16は、主軸15を回転軸Azの回りに回転させる駆動力を生じる。主軸15の主軸端(加工が行われる側の端部)にはワーク保持部25が取り付けられている。ワーク保持部25は、主軸15の反対側の位置で、ワークWを把持する。Z軸移動台13は送りねじ17によってZ軸方向に駆動され、送りねじ17はZ軸モータ18によって回転駆動される。このような構成により、ワークWは、ワーク保持部25と共に主軸15によってZ軸に平行な軸の回りに回転される。また、ワークWは、ワーク保持部25とともにZ軸方向に移動する。
【0023】
ワーク保持部25が面する方向には、X軸方向に移動可能なX軸移動台19と、X軸移動台19上に搭載された刃物台22とが設けられている。刃物台22には工具21が取り付けられている。X軸移動台19は、Z軸移動台13と略同様に、送りねじ及び回転検出器を有するX軸モータによってX軸方向に駆動される。このような構成により、工具21は、刃物台22と共にX軸方向に移動する。
【0024】
制御部30は、少なくとも主軸15の回転と、衝撃付与部27とを制御する。制御部30は、例えば、図示しないNC装置及びドライバ(例えばサーボドライバ)を含んで構成されても良い。制御部30は、主軸15(主軸モータ16)の回転数を制御する。制御部30は、更に、Z軸移動台13(Z軸モータ18)の速度及び位置、X軸移動台19(X軸モータ)の速度及び位置を制御する。
【0025】
主軸15の制御は、例えば、主軸モータ16の回転を検出する図示しない回転検出器の検出値に基づくフィードバック制御であってもよく、フィードバック制御を行わないオープンループ制御であってもよい。Z軸移動台13及びX軸移動台19の制御は、例えば、これらの移動台の位置検出に基づくフィードバック制御を行うクローズドループ制御である。ただし、工作機械10の送り機構に要求される精度によっては、モータのエンコーダからの検出値に基づくフィードバック制御を行うセミクローズドループ制御であってもよく、フィードバック制御を行わないオープンループ制御であってもよい。
【0026】
工作機械10の加工精度は適宜に設定されてよい。例えば、工作機械10は、ナノレベルの加工を実現可能なものであってよい。例えば、Z軸移動台13及びX軸移動台19の位置決め精度は0.1nm以上1nm以下とされてよい。また、主軸15の回転数の精度は0.01rpmとされてよい。このような超精密加工装置によって切削されるワークWとしては、例えば、ガラス製若しくは樹脂製のレンズ、又はレンズを成形するための金型を挙げることができる。
【0027】
図2を参照して、工作機械10の主軸15及びワークWの周辺の構成について更に説明する。
【0028】
上述したように、工作機械10は、主軸15と、ワーク保持部25と、偏心量測定部26と、衝撃付与部27と、制御部30と、を備える。
【0029】
主軸15は、回転軸Azの回りに回転可能であるとともに、Z軸移動台13によってZ軸方向に移動可能である。主軸モータ16(図1)及びZ軸モータ18(図1)は、それぞれ第1制御信号線36により、CNC装置31を介して制御部30に接続されている。CNC装置31は、主軸15の移動量や移動速度等をコンピュータによって数値制御する装置である。制御部30と主軸モータ16との間には、回転指令及び回転位置情報が送受信されている。制御部30とZ軸モータ18との間には、位置指令及び位置情報が送受信されている。
【0030】
ワーク保持部25は、主軸15の先端に設けられており、主軸15と一体となって移動する。ワーク保持部25は、ワークWを把持する。ワーク保持部25は、ワークWを安定して把持できるようにするため、ワークW側に滑らかな吸着面25aを有することが望ましい。ワーク保持部25は、例えば、吸着面25aからその周囲の気体(例えば空気)を吸引することによってワークWを吸着保持する、真空チャック等のチャックであっても良い。ワーク保持部25は、図示しない真空装置によって気体を吸引することにより、ワークWを吸着面25aに吸着保持する。
【0031】
ワークWは、測定面Saと、作用面Sbと、被吸着面Scとを有する。測定面Saは、偏心量測定部26によって偏心量を測定するための面である。作用面Sbは、衝撃付与部27によって芯出しのための衝撃を与えることができる面である。被吸着面Scは、ワーク保持部25側を向く面である。被吸着面Scは、ワーク保持部25によってワークWを安定して把持できるようにするため、滑らかな面であることが望ましい。
【0032】
偏心量測定部26は、主軸15、ワーク保持部25、及びワークWが回転している状態で、ワークWの全周についてワークWの偏心量を測定する。偏心量測定部26は、ワークWの測定面Saに対向する位置に配置される。偏心量測定部26は、変位センサであっても良い。変位センサは、接触式のものであっても良く、非接触式のものであっても良い。変位センサは、電気式であってもよく、光学式であっても良い。変位センサは、ワークWの回転に伴い、時間遅れの少ない変位出力と、要求される調芯精度を確認できる十分な分解能を持っていることが望ましい。この場合、偏心量測定部26は、ワークWの鉛直方向上方に位置しているが、これに限らない。偏心量測定部26は、ワークWに対してX軸方向プラス側又はX軸方向マイナス側に位置していても良い。
【0033】
偏心量測定部26は、第2制御信号線37により、制御部30に電気的に接続されている。偏心量測定部26が測定したワークWの偏心量のデータは、第2制御信号線37によって制御部30に送られる。
【0034】
衝撃付与部27は、ワークWの作用面Sbに対して衝撃を付与する。衝撃付与部27は、例えばインパクトハンマであっても良い。衝撃付与部27は、0.01秒以下の短時間で衝撃を付与することができる性能をもつ。衝撃付与部27が衝撃を与える時間の下限は特に限定されないが、例えば0.001秒以上としても良い。また衝撃付与部27は、0.01μm以下の振幅で衝撃を与えることができる性能をもつことが望ましい。衝撃付与部27が衝撃を与える振幅の下限は特に限定されないが、例えば0.001μm以上としても良い。
【0035】
衝撃付与部27は、第3制御信号線38により、I/Oコントローラ32及びピエゾコントローラ33を介して制御部30に接続されている。I/Oコントローラ32は、制御部30からの入力信号を受信し、ピエゾコントローラ33に向けて制御信号を送信する。ピエゾコントローラ33は、衝撃付与部27を駆動制御するためのコントローラである。ピエゾコントローラ33は、I/Oコントローラ32から入力された制御信号に応じて衝撃付与部27を駆動制御する。ピエゾコントローラ33は、例えば、パルス信号に応じた波形やパルス幅の駆動電圧を、衝撃付与部27のピエゾ素子に印加しても良い。制御部30は、衝撃付与部27による打撃回数及び打撃振幅を設定し、衝撃付与部27へ向けて打撃開始信号を送る。
【0036】
次に、このような構成からなる本実施の形態の作用(ワークの芯出し方法)について説明する。
【0037】
まず、主軸15の先端に設けられたワーク保持部25によりワークWを把持する(図3のステップS1)。このとき、ワーク保持部25の吸着面25aがワークWの被吸着面Scと接し、ワークWが安定して把持される。
【0038】
次に、制御部30は、主軸15を回転させる(図3のステップS2)。この間、制御部30は、第1制御信号線36及びCNC装置31を介して主軸モータ16に対して回転指令を送信する。回転指令を受けることにより、主軸モータ16によって主軸15が回転し、ワーク保持部25に把持されたワークWも回転する。主軸15が回転している間、主軸モータ16からは、回転位置情報が制御部30に送受信される。回転位置情報は、現在の主軸15の回転角(主軸割り出し角度)を含む。制御部30は、主軸15の回転位置情報を受信する。
【0039】
続いて、制御部30は、主軸15を回転させながら、ワークWの全周についてワークWの偏心量を測定する(図3のステップS3)。この間、偏心量測定部26は、回転するワークWの偏心量を測定する。具体的には、偏心量測定部26は、回転するワークWの測定面Saを接触又は非接触で測定し、ワークWの偏心量を求める。ワークWの偏心量とは、主軸15の回転軸AzからワークWの各測定面Saまでの距離をいう。偏心量測定部26は、測定した偏心量を第2制御信号線37を介して制御部30に送信する。
【0040】
次いで、制御部30は、ワークWの偏心量に基づいて、ワークWの最大偏心量に対応する主軸15の回転角(主軸割り出し角度)に衝撃付与部27が位置するよう、主軸15を回転させる(図3のステップS4)。具体的には、制御部30は、第1制御信号線36及びCNC装置31を介して主軸モータ16に対して回転指令を送信する。この回転指令は、ワークWの偏心量が最大となる位置に衝撃付与部27が対向するようになる、主軸15の回転角を含む。なお、ワークWの最大偏心量とは、ワークWの測定面Saのうち、主軸15の回転軸Azから最も遠い部分と最も近い部分との距離の差をいう。
【0041】
次に、制御部30は、衝撃付与部27に対して衝撃を付与するよう指令を発する(図3のステップS5)。この間、制御部30は、衝撃付与部27による打撃回数及び打撃振幅を設定し、打撃開始信号を送信する。打撃開始信号は、第3制御信号線38により、I/Oコントローラ32及びピエゾコントローラ33を介して衝撃付与部27へ送信される。打撃開始信号を受信した場合、衝撃付与部27は、ワークWの作用面Sbに対して衝撃を付与する。衝撃付与部27は、ワークWの作用面Sbに1回又は複数回の所定回数だけ物理的に衝撃を与える。これにより、ワークWは、作用面Sbが主軸15の回転軸Azに近づく方向に微小距離移動する。このため、ワークWの最大偏心量が低下する。ワークWに衝撃を与える回数は、ワークWの最大偏心量に応じて制御部30が演算し、決定できる。
【0042】
衝撃付与部27が衝撃を与える時間は、0.01秒以下の短時間である。このように、衝撃付与部27が、0.01秒以下の短時間だけワークWの作用面Sbに衝撃を付与することにより、スティックスリップ現象による好ましくない影響を最小限に抑えられる。これにより、例えば1μm以下の精密な調芯が可能となる。
【0043】
その後、制御部30は、主軸15を回転させながら、再度、ワークWの全周についてワークWの偏心量を測定する(図3のステップS6)。この間、偏心量測定部26は、回転するワークWの偏心量を測定する。偏心量測定部26は、測定した偏心量を第2制御信号線37を介して制御部30に送信する。制御部30は、ワークWの最大偏心量を求める。ワークWの最大偏心量が目標値超であれば、制御部30は、再度、ワークの最大偏心量に対応する回転角に衝撃付与部27が位置するよう主軸15を回転させる(図3のステップS4に戻る)。ワークWの最大偏心量が目標値以下であれば、芯出し作業が完了する。
【0044】
次に、衝撃付与部27が、0.01秒以下の短時間だけワークWの作用面Sbに衝撃を付与することにより、微小な調芯が可能となる理由について説明する。
【0045】
一般に、静的な荷重により芯出しを行う場合、ワークWとワーク保持部25との間の摩擦力が最大静摩擦力以下となる場合には、ワークWに荷重を加えてもワークWが動かない。一方、ワークWに対する荷重を徐々に増加させ、上記荷重が最大静摩擦力を超えると、動摩擦領域になる。このとき、ワークWとワーク保持部25との間の摩擦抵抗が急激に減少するため、ワークWが必要以上に動作する(スティックスリップ現象)。これに対して本実施の形態においては、ワークWに対する荷重が最大静摩擦力を超え、かつ、十分短い時間の衝撃をワークWに対して加えることが可能である。これにより、ワークWを微小移動させ、微小な調芯が可能となる。
【0046】
図4(a)、(b)を参照して上記作用を更に説明する。
【0047】
図4(a)は、本実施の形態による芯出し時の偏心量と荷重との関係を示すグラフである。図4(a)において、時間T=t0からt1までの間は、芯出し作業を行う前の状態である。この間、制御部30は、主軸15を回転させながら、ワークWの全周についてワークWの偏心量を測定する。このときの最大偏心量をδ1とする。次いで、制御部30は、ワークWの最大偏心量δ1に対応する主軸15の回転角(主軸割り出し角度)に衝撃付与部27が位置するよう、主軸15を回転させる。
【0048】
次に、時間T=t1からt2までの間は、1回目の芯出し作業を行っている状態を示す。この間、制御部30は、衝撃付与部27に対して衝撃を付与するよう指令を発する。また衝撃付与部27は、ワークWの作用面Sbに所定回数(この例では4回)だけ衝撃を与える。衝撃付与部27が加える荷重は、ワークWとワーク保持部25との間の最大静摩擦力を超える。このとき衝撃付与部27が衝撃を与える時間は、0.01秒以下の短時間である。この場合、衝撃付与部27がワークWに衝撃を加える時間が十分短いため、衝撃付与部27が加える荷重が最大静摩擦力を超えても、ワークWが必要以上に動作することがない。
【0049】
続いて、時間T=t2からt3までの間、ワークWの偏心量を測定する。この間、制御部30は、主軸15を回転させながら、再度、ワークWの全周についてワークWの偏心量を測定する。このときの最大偏心量をδ2とする。最大偏心量δ2は、上記最大偏心量δ1よりも小さい(δ1>δ2)。次いで、制御部30は、ワークWの最大偏心量δ2に対応する主軸15の回転角(主軸割り出し角度)に衝撃付与部27が位置するよう、主軸15を回転させる。
【0050】
次いで、時間T=t3からt4までの間、2回目の芯出し作業を行う。この間、制御部30は、衝撃付与部27に対して衝撃を付与するよう指令を発する。また衝撃付与部27は、ワークWの作用面Sbに所定回数(この例では2回)だけ衝撃を与える。衝撃付与部27が加える荷重は、ワークWとワーク保持部25との間の最大静摩擦力を超える。このとき衝撃付与部27が衝撃を与える時間は、0.01秒以下の短時間である。この場合、衝撃付与部27がワークWに衝撃を加える時間が十分短いため、衝撃付与部27が加える荷重が最大静摩擦力を超えても、ワークWが必要以上に動作することがない。
【0051】
続いて、時間T=t4からt5までの間、ワークWの偏心量を測定する。この間、制御部30は、主軸15を回転させながら、再度、ワークWの全周についてワークWの偏心量を測定する。このときの最大偏心量をδ3とする。最大偏心量δ3は、上記最大偏心量δ2よりも小さい(δ2>δ3)。
【0052】
このように、本実施の形態によれば、衝撃付与部27が衝撃を与える時間を十分短くすることにより、ワークWをごくわずかずつ移動させる調芯が可能となる。このため、例えば1μm以下の調芯を容易に達成できる。
【0053】
図4(b)は、比較例による芯出し時の偏心量と荷重との関係を示すグラフである。図4(b)に示す比較例は、衝撃付与部27が衝撃を与える時間が本実施の形態の場合よりも長い(例えば0.1秒程度以上)こと、以外は、図4(a)に示す例と略同様である。
【0054】
図4(b)において、時間T=t1からt2までの間は、1回目の芯出し作業を行っている状態を示す。この間、衝撃付与部27は、ワークWの作用面Sbに1回だけ衝撃を与える。衝撃付与部27が加える荷重は、ワークWとワーク保持部25との間の最大静摩擦力を超える。このとき衝撃付与部27が衝撃を与える時間は、0.1秒以上の長時間である。この場合、衝撃を加える時間が長いため、衝撃付与部27の1回の衝撃でワークWが大きく動く。
【0055】
続いて、時間T=t2からt3までの間、ワークWの偏心量を測定する。このときの最大偏心量δ4は、上記最大偏心量δ1よりも小さい(δ1>δ4)。
【0056】
次いで、時間T=t3からt4までの間、2回目の芯出し作業を行う。この間、衝撃付与部27は、ワークWの作用面Sbに1回だけ衝撃を与える。衝撃付与部27が加える荷重は、ワークWとワーク保持部25との間の最大静摩擦力を超える。このとき衝撃付与部27が衝撃を与える時間は、0.1秒以上の長時間である。この場合、衝撃を加える時間が長いため、衝撃付与部27の1回の衝撃でワークWが大きく動く。
【0057】
続いて、時間T=t4からt5までの間、ワークWの偏心量を測定する。このときの最大偏心量をδ5は、上記最大偏心量δ4よりも大きい(δ4<δ5)。これは、上記2回目の芯出し作業の際、衝撃付与部27がワークWに衝撃を与える時間が長いため、ワークWが必要以上に動いたためである。
【0058】
このように、比較例によれば、衝撃付与部27が衝撃を与える時間が長いため、ワークWが一度の衝撃で大きく動く。このため、例えば1μm以下の調芯を行うことは困難であるか、又は調芯が完了するまで長い時間が必要となる。
【0059】
次に、図5(a)、(b)を参照して、本実施の形態による芯出し作業を実際に行った具体的な実施例を説明する。
【0060】
まず図5(a)に示すように、芯出し作業を行う前(N=0)、ワークWの最大偏心量(P-V)は、144.6μmであった。次に、本実施の形態による芯出し作業(粗芯出し作業)を2回行った(N=1、2)。この結果、ワークWの最大偏心量が、66.7μm(N=1)、24.0μm(N=2)と順次低下した。
【0061】
次いで、図5(b)に示すように、本実施の形態による芯出し作業(精芯出し作業)を5回行った(N=3、4、5、6、7)。この結果、ワークWの最大偏心量が、8.3μm(N=3)、6.9μm(N=4)、3.9μm(N=5)、2.4μm(N=6)、1.6μm(N=7)と徐々に低下した。
【0062】
以上説明したように、本実施の形態によれば、衝撃付与部27がワークWに対して、1回あたり0.01秒以下の時間だけ衝撃を付与する。このように、衝撃付与部27がワークWに衝撃を加える時間が十分短いため、衝撃付与部27が加える荷重が最大静摩擦力を超えても、ワークWが必要以上に動作することがない。この結果、ワークWをごくわずかずつ移動させる調芯が可能となり、高精度(例えば1μm以下)の調芯が容易に達成できる。この結果、熟練技術を用いることなく、自動でワークWの芯出しを行うことが可能となる。
【0063】
また本実施の形態によれば、衝撃付与部27は、ワークWの最大偏心量に応じた回数だけワークWに対して衝撃を与える。これにより、ワークWの移動量を小刻みに調整でき、衝撃付与部27が衝撃を与えるたびにワークWの偏心量が上下する現象(ハンチング)を抑制できる。
【0064】
また本実施の形態によれば、衝撃付与部27がワークWに対して衝撃を付与した後、主軸15を回転させながら、再度ワークWの全周についてワークWの偏心量を測定する。これにより、ワークWの最大偏心量が目標値以下に達したか否かを確認できる。
【0065】
上記実施の形態及び変形例に開示されている複数の構成要素を必要に応じて適宜組み合わせることも可能である。あるいは、上記実施の形態及び変形例に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0066】
10 工作機械
11 機械本体
12 基台
13 Z軸移動台
14 主軸台
15 主軸
16 主軸モータ
17 送りねじ
18 Z軸モータ
19 X軸移動台
21 工具
22 刃物台
25 ワーク保持部
26 偏心量測定部
27 衝撃付与部
30 制御部
図1
図2
図3
図4
図5