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特開2024-55618シミ及び色むら評価方法及びこれを用いた美白外用剤有効成分選定方法、美白方法、並びに、美白外用剤
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  • 特開-シミ及び色むら評価方法及びこれを用いた美白外用剤有効成分選定方法、美白方法、並びに、美白外用剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055618
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】シミ及び色むら評価方法及びこれを用いた美白外用剤有効成分選定方法、美白方法、並びに、美白外用剤
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20240411BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20240411BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240411BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C12Q1/02
A61K8/9789
A61Q19/00
G01N33/50 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162697
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000145862
【氏名又は名称】株式会社コーセー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】岸田 さくら
(72)【発明者】
【氏名】岡田 知也
(72)【発明者】
【氏名】鷲頭 加歩
(72)【発明者】
【氏名】畑 友紀
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4C083
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045BB24
2G045CB09
2G045DA36
2G045FA16
2G045FB03
2G045FB12
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QS36
4C083AA111
4C083AA112
4C083CC01
4C083EE16
(57)【要約】
【課題】表皮細胞における分裂様式の観察結果に基づいて、シミ及び色むらを評価する評価方法を提供する。
【解決手段】評価対象とする表皮細胞における分裂を観察して対称分裂及び非対称分裂を判定し、判定結果に基づき、表皮細胞における対称分裂の減少又は非対称分裂の増加を把握する、シミ及び色むら評価方法である。
【選択図】図3B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象とする表皮細胞における分裂を観察して対称分裂及び非対称分裂を判定し、判定結果に基づき、表皮細胞における対称分裂の減少又は非対称分裂の増加を把握する分裂評価ステップを含む、シミ及び色むら評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載したシミ及び色むら評価方法を用いて、美白外用剤有効成分を選定する美白外用剤有効成分選定方法であり、
前記分裂評価ステップの前段に、前記評価対象とする表皮細胞に対して美白外用剤候補成分を適用するステップを実施し、
前記分裂評価ステップにて得られた評価結果に基づいて、美白外用剤有効成分を選定する、
美白外用剤有効成分選定方法。
【請求項3】
対称分裂が生じた表皮細胞に対して、ナツシロギク抽出物を有効成分とする美白外用剤を塗布することで、前記表皮細胞にて、対称分裂を減少させるか、又は、非対称分裂を増加させる、美白方法。
【請求項4】
表皮細胞における対称分裂を減少させるか、又は、非対称分裂を増加させる、ナツシロギク抽出物を有効成分とする美白外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミ及び色むら評価方法、当該シミ及び色むら評価方法を用いた美白外用剤有効成分選定方法、美白方法、並びに、美白外用剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メラニンはアミノ酸の一種であるチロシンから酵素により生成される褐色ないし黒色の色素である。メラニンは、ヒトにおいては、肌色を決定する因子の1つであるとともに、紫外線の悪影響から体を守る重要な役割を担っているといわれている。しかし、メラニンの過剰生成により、肌において不均一なメラニン分布が生じ、シミ、ソバカス、及び色むらなど美容上の肌悩みが生じる。
【0003】
メラニン生成メカニズムとして以下のプロセス(a)~(d)が解明されている。(a)紫外線やストレスによってケラチノサイトからメラノサイト活性化因子が産生され、これらの因子が、皮膚の基底層に存在するメラノサイトを刺激する。(b)活性化されたメラノサイト内において、メラニン生成酵素であるチロシナーゼが過剰に生成され、細胞内小器官メラノソームにおいてメラニンが生成される。(c)このメラノソームはメラノサイトの樹状突起の末端へ移動し、ケラチノサイト(角化細胞)に渡される。(d)メラノソームがこれらの細胞内に移送され、蓄積されて、最終的に肌を黒く変化させる。
【0004】
従来から、シミ、ソバカス、及び色むらの対策として、メラニンの生成抑制作用を有する物質、及び、メラノソーム分解促進作用を有する物質などの探索が多く行われてきた。また、皮膚の構造に関しても、様々な側面から解析がなされてきた。
【0005】
例えば非特許文献1では、ヒトの皮膚のシミ部位では未分化なケラチノサイトがシミの無い健常部位よりも多く観察されることが報告されている。しかしながら、その詳細メカニズムは研究されておらず、解決する手法も見出されていなかった。
【0006】
ここで、皮膚を構成する表皮と真皮との間には、「基底膜」と称される構造部が存在する。基底膜上で生じるケラチノサイトの分裂には、2種類の方式が存在することが知られている。一つは基底膜に対して横方向に分裂し、2つの未分化なケラチノサイトが生じる対称分裂である。もう一つの分裂は、基底膜に対して縦方向に分裂し、未分化ケラチノサイトと分化ケラチノサイトが1つずつ生じる非対称分裂である。非特許文献2では、テープストリッピングによる角層剥離刺激を皮膚に加えたときにケラチノサイトの対称分裂が生じ、ケラチノサイトに含まれるメラニンが分裂したケラチノサイトに均等に分配されていることを見出している。一方、非対称分裂のケラチノサイトでは、ケラチノサイトに含まれるメラニンは分化ケラチノサイトと未分化ケラチノサイトに不均等に分配されることを報告している。しかし、非特許文献2にも、シミ、そばかすや色ムラにおける分裂方式に関する記述はない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J Dermatol Sci. (2010) 59(2):91-7
【非特許文献2】Br JDermatol. (2018) 179(5):1115-1126
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来からのアプローチにもかかわらず、依然として、シミ、ソバカス、及び色むらの悩みを十分に解消することはできなかった。そのため、更なる美白メカニズムの解明、及び美白剤の提供が求められてきた。
【0009】
そこで、本発明は、表皮細胞における分裂様式の観察結果に基づいて、シミ及び色むらを評価する評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、シミ、ソバカス、及び色むらが生じる皮膚に見られる特有の構造に着目し、メラニンが表皮内に過剰蓄積しやすい皮膚構造を作り出す分裂方式に関して検討を行った。ヒト皮膚のシミ部および健常部を用いて、基底膜上のケラチノサイトの分裂方向を解析したところ、シミ部位では基底膜に対して横方向の分裂つまり対称分裂が増加していることを見出した。そして、本発明者は、かかる新たな知見に基づき、本発明を完成させた。
【0011】
〔1〕上記目的を達成する本発明に係るシミ及び色むら評価方法は、評価対象とする表皮細胞における分裂を観察して対称分裂及び非対称分裂を判定し、判定結果に基づき、表皮細胞における対称分裂の減少又は非対称分裂の増加を把握する分裂評価ステップを含む、ことを特徴とする。なお、以下において「シミ」とは、「メラニンに起因する色素斑」を意味し、狭義に「しみ」と称される老人性色素斑、及び「そばかす」と称される雀卵斑などを含む用語である。また、「対称分裂」とは基底膜に対して横方向の分裂を意味し、「非対称分裂」とは基底膜に対して縦方向の分裂を意味する。詳細な判定方法は、本明細書の実施例に記載するが、「基底膜に対して縦方向」とは、分裂方向が基底膜に対して60°以上90°以下であることを意味し、「基底膜に対して横方向」とは、分裂方向が基底膜に対して0°以上30°以下であることを意味する。
【0012】
〔2〕また、本発明にかかる美白外用剤有効成分選定方法は、上記〔1〕の評価方法を用いて、美白外用剤有効成分を選定する美白外用剤有効成分選定方法であり、前記分裂評価ステップの前段に、前記評価対象とする表皮細胞に対して美白外用剤候補成分を適用するステップを実施し、前記シミ及び色むら評価ステップにて得られた評価結果に基づいて、美白外用剤有効成分を選定することを特徴とする。
【0013】
〔3〕さらに、本発明の美白方法は、対称分裂が生じた表皮細胞に対して、ナツシロギク抽出物を有効成分とする美白外用剤を塗布することで、前記表皮細胞にて、対称分裂を減少させるか、又は、非対称分裂を増加させることを特徴とする。
【0014】
〔4〕そして、本発明の美白外用剤は、表皮細胞における対称分裂を減少させるか、又は、非対称分裂を増加させる、ナツシロギク抽出物を有効成分とすることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、表皮細胞における分裂様式の観察結果に基づいて、シミ及び色むらを評価する評価方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】健常部位とシミ部位との比較により、シミ部位における未分化細胞の増加及び未分化細胞におけるメラニンの蓄積を示す画像である。
図2】健常部位とシミ部位との比較により、シミ部位における対称分裂の増加(非対称分裂の減少)を示す画像である。
図3A】本発明の一例にかかる評価方法を実施して得られた、美白外用剤候補成分(被験物質)を添加しなかった場合の評価結果を示す画像である。
図3B】本発明の一例にかかる評価方法を実施して得られた、美白外用剤候補成分(被験物質)を添加した場合の評価結果を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一例にかかるシミ及び色むらの評価方法などについて説明する。以下、本明細書において、評価対象である、皮膚の構造については、下記の通りであるものとして説明する。まず皮膚は、最表層側からこの順に、表皮、真皮、及び皮下組織を有する。さらに、表皮は最表層側からこの順で、角層、顆粒層、有棘層、及び基底層を有する。そして、表皮を構成する細胞は「表皮細胞」と呼ばれるが、表皮細胞は、一般的にケラチノサイト(角化細胞)を示すことが多い。ここで、ケラチノサイトは、表皮の一番深い層である基底層において細胞分裂によって産生する。ケラチノサイトは、細胞の分化の進行に応じて、異なる種類のケラチン遺伝子を発現する。例えば、基底層においては、ケラチノサイトはK5及びK14などのケラチン遺伝子が発現し、表皮細胞が分化した有棘層の段階ではK1及びK10などのケラチン遺伝子が発現する。そして、ケラチノサイトが分化を繰り返し徐々に表皮の最表層に向かって押し上げられて、やがて角層となり、最後は垢となって剥離・脱落するというサイクルを経て、皮膚がターンオーバーする。上記したように、表皮と真皮との間に存在する基底膜上で生じるケラチノサイトの分裂が正常に行われることで、表皮細胞におけるメラニンの偏在化が抑制され、シミ及び色むらの生成を抑制することができると考えられる。
【0018】
実際に本発明者らは、実験により、皮膚においてシミの生じた部分(以下、「シミ部」とも称することがある。)では、未分化ケラチノサイトに過剰なメラニンが蓄積していることを確認した(図1参照;実験1として後述する。)。また、本発明者らの実験の結果、シミ部では健常部と比較して横方向の分裂(対称分裂)が増加していることも確認された(図2参照;実験2として後述する。)。これらの実験結果から、シミ部では基底膜に対して横方向の分裂(対称分裂)が過剰に起こり、未分化なケラチノサイトが増加し、シミ形成の一因になっていると考えられる。
【0019】
(シミ及び色むら評価方法)
そこで、本発明によるシミ及び色むら評価方法は、評価対象とする表皮細胞における分裂を観察して対称分裂及び非対称分裂を判定し、判定結果に基づき、表皮細胞における対称分裂の減少又は非対称分裂の増加を把握する分裂評価ステップを含むことを特徴とする。かかる評価方法によれば、シミ及び色むらを皮膚構造面から評価することができる。
【0020】
ここで、「対称分裂の減少又は非対称分裂の増加」とは、評価対象とする表皮細胞と、基準(コントロール)となる表皮細胞との比較に基づいて把握可能な「増減」を意味する。具体的には、基準となる表皮細胞における対称分裂の数よりも、評価対象の表皮細胞における対称分裂の数が少ない場合に「対称分裂が減少した」と表現する。また、例えば、基準となる表皮細胞における非対称分裂の数よりも、評価対象の表皮細胞における非対称分裂の数が多い場合に「非対称分裂が増加した」と表現する。言い換えると、上記表現において意味するところの「増加」又は「減少」は、同じ対象について経時的な変化を追跡することで把握しうる現象ではなく、基準となる別個のサンプルとの対比により把握しうる現象である。
【0021】
評価対象とする表皮細胞としては、二次元培養であっても、三次元培養であってもよいが、遺伝子発現量、タンパク質産生量などの定量評価に加え、構造学的な解析の観点から、三次元培養を用いることが好ましい。
【0022】
分裂評価ステップでは、評価対象とする皮膚を定法に従って固定し、染色する。細胞分裂時の紡錘体形成に関与するタンパク質である、Survivin、Tubulinを標識することが好ましい。また、対称分裂(横分裂)、非対称分裂(縦分裂)の識別には、Notch、NuMA、Numb、LGN、Keratin 1(K1)、Keratin 10(K10)、Keratin 5(K5)、Keratin 14(K14)等を標識することが好ましい。分裂の方向性を確認するために、基底膜のマーカーとしてCollagen 17、Integrin、ケラチノサイトの識別マーカーとしてDesmoplakin、Desmoglein、CadherinやClaudinなどで標識することが好ましい。
【0023】
そして、分裂評価ステップでは、染色したサンプルを顕微鏡観察する。顕微鏡観察は蛍光顕微鏡を用いて実施することが好ましく、観察倍率は任意に決定することができる。そして、分裂方向を判定する際には、基底膜の方向を零度として設定する。そして、中心体又は紡錘糸の位置から分裂方向を得て、基底膜の方向に対して分裂方向がなす角(鋭角側)を取得する。そして、得られた角度に基づいて、観察した分裂が、対称分裂及び非対称分裂のいずれであったかを判定する。具体的には、分裂方向が基底膜に対して60°以上90°以下である場合に、非対称分裂が起きたことを意味し、分裂方向が基底膜に対して0°以上30°以下である場合には、対称分裂が起きたことを意味するものとする。
【0024】
そして、対称分裂及び非対称分裂の判定結果に基づいて、表皮細胞における対称分裂の減少又は非対称分裂の増加を把握する。基準と比較して、対称分裂の減少又は非対称分裂の増加が確認されたということは、ケラチノサイトの分化(非対称分裂)が促進され、メラニンが蓄積しやすい未分化ケラチノサイトの生成が抑制されたことを意味する。すなわち、表皮細胞において対称分裂の減少又は非対称分裂の増加が確認されたサンプルにおいては、シミ又は色むらが改善されている蓋然性が高い。
【0025】
このように、本発明の評価方法によれば、評価対象にて生じた分裂が、対称分裂か非対称分裂かを判定することに基づいて、シミ及び色むらの改善を把握することができる。したがって、本発明の評価方法は、美白外用剤に配合する有効成分の選定に好適に用いることができる。
【0026】
(美白外用剤有効成分選定方法)
本発明の美白外用剤有効成分選定方法は、上述した本発明のシミ及び色むら評価方法を用いて、美白外用剤有効成分を選定する美白外用剤有効成分選定方法である。そして、本発明の選定方法は、分裂評価ステップの前段に、評価対象とする表皮細胞に対して美白外用剤候補成分を適用するステップを実施し、分裂評価ステップにて得られた評価結果に基づいて、美白外用剤有効成分を選定することを特徴とする。かかる選定方法によれば、美白外用剤有効成分を高精度且つ高効率で選定することができる。
【0027】
美白外用剤候補成分の表皮細胞への適用方法は、特に限定されない。中でも、選定精度を高める観点から、三次元培養した培養細胞に対して、所望の濃度で有効成分を添加することが好ましい。
【0028】
そして、上記と同様の分裂評価ステップを実施し、美白外用剤候補成分について、対称分裂の減少又は非対称分裂の増加を促進する作用が認められたか、及び、作用が認められた場合にはその強度を、対称分裂の減少数又は非対称分裂の増加数に基づいて把握し、美白外用成剤候補成分について、その美白効果を評価する。
【0029】
そして、得られた美白効果の評価結果に基づいて、所望の効能を呈しうる美白外用剤有効成分を選定することができる。なお、美白外用剤有効成分の選定にとどまらず、ある美白外用剤有効成分について、皮膚への適用時の有効濃度の好適範囲を決定する用途に、上記と同様の方途、すなわち、本発明のシミ及び色むら評価方法を活用することができる。例えば、上記した分裂評価ステップの前段に、濃度を違えた美白外用剤をそれぞれ、サンプルに適用するステップを実施し、各濃度に対応するサンプルについて分裂評価ステップを実施することで、各濃度における美白効果を評価することができる。そして、得られた評価に基づいて、美白剤有効成分の適用時の有効濃度の好適範囲を決定することができる。
【0030】
(美白方法及び美白外用剤)
本発明の美白方法は、対称分裂が生じた表皮細胞に対して、ナツシロギク抽出物を有効成分とする美白外用剤を塗布することで、表皮細胞にて、対称分裂を減少させるか、又は、非対称分裂を増加させることを特徴とする。かかる美白方法によれば、良好な美白効果が得られる。なお、本発明の美白方法は、ヒトの皮膚の治療目的で実施する方法は含まない。また、本発明の美白外用剤は、表皮細胞における対称分裂を減少させるか、又は、非対称分裂を増加させる、ナツシロギク抽出物を有効成分とすることを特徴とする。
【0031】
本発明者らは数多ある候補物質の中でも、美白外用剤の有効成分として、キク科ヨモギギク属のナツシロギク(英名:Feverfew、学名:Tanacetum parthenium、学名シノニム:Chrysanthemum Parthenium)の植物又はその抽出物に着目した。ここで、ナツシロギクは、古くから、薬草として知られている。ナツシロギクの薬草としての使用目的としては、例えば、発熱、頭痛、便秘、下痢、分娩困難、及びめまい等が挙げられる。
【0032】
本発明の美白外用剤の有効成分であるナツシロギク抽出物は、(英名:Feverfew、学名:Tanacetum parthenium、学名シノニム:Chrysanthemum Parthenium)で表されるナツシロギクの抽出物である。ナツシロギク抽出物の原料としては、ナツシロギクの花、葉、茎、種子、及び根等であり、特にすべてを含む全草が好ましい。なお、原料は、生物自体、凍結物、乾燥物、及び凍結乾燥物などのいずれでもよい。また、ナツシロギク抽出物の製造方法は特に限定されず、常法に従って製造することができる。中でも、抽出溶媒として水などの水性溶媒を用いて製造したナツシロギク抽出物が好ましい。
【0033】
美白外用剤は、本発明の効果を阻害しない限り、水などの溶媒、ナツシロギク抽出物以外に、化粧品、医薬品、及び医薬部外品に汎用される水性成分、油性成分、植物抽出物、動物抽出物、粉末、界面活性剤、油剤、アルコール、PH調整剤、防腐剤、酸化防止剤、増粘剤、色素、及び香料等の添加成分を必要に応じて配合して用いることができる。なお、水性成分の一例としてはヒドロキシプロリンが挙げられる。そして、本発明の美白外用剤及びこれを用いた化粧品、医薬品、及び医薬部外品の剤形は特に限定されず、化粧水、乳液、クリーム、パック、パウダー、スプレー、軟膏、分散液、洗浄料等種々の剤形でありうる。
【0034】
また、本発明の美白外用剤を含む化粧品、医薬品、及び医薬部外品は、ナツシロギク抽出物の含有量が乾燥固形物換算の質量対容量比濃度が、0.0001w/v%以上であることが好ましく、0.0004w/v%以上であることがより好ましく、0.001w/v%以上であることが更に好ましく、0.005w/v%以上であることが更に好ましい。美白外用剤を含む化粧品、医薬品、及び医薬部外品におけるナツシロギク抽出物の含有量が上記下限値以上であれば、美白効果に優れる。より具体的には、美白外用剤を含む化粧品等におけるナツシロギク抽出物の含有量が上記下限値以上である場合には、後述する、対称分裂の減少又は非対称分裂促進効果を得ることができ、これにより、皮膚のシミ又は色むらの低減効果を高めることができる。なお、美白外用剤を含む化粧品、医薬品、及び医薬部外品におけるナツシロギク抽出物の含有量の上限は特に限定されないが、例えば、乾燥固形物換算量で、0.02w/v%以下でありうる。
【0035】
そして、ナツシロギク抽出物を有効成分とする美白外用剤は、過剰に対称分裂をしているケラチノサイトを非対称分裂へと促し、メラニンを過剰に蓄積したケラチノサイトの重層化の形成抑制並びに解消することで、シミ及び色むらを軽減することができる。
【実施例0036】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。本発明者らは、本発明のシミ及び色むら評価方法及び美白外用剤有効成分選定方法などの根幹となる現象である、シミ及び色むら発生部分における非対称分裂の減少及び対称分裂の増加、並びにメラニン分布等に関して、実験1~2により確認した。そして、実施例1として、本願発明の一例にかかる評価方法及び選定方法を実施した。
【0037】
(実験1:ヒト皮膚の健常部及びシミ部における表皮構造及びメラニン分布の確認)
(1)ヒト皮膚組織の固定
被験者より同意の上採取した、ヒト皮膚の健常部およびシミ部を包埋し、10μmの薄切切片にしてMASコートスライドガラスに貼付し、4%パラホルムアルデヒドで固定した後、アセトンで透過処理をした。
(2)ヒト皮膚組織の染色
固定及び透過処理した皮膚切片に対し、一次抗体としてAnti-Human Cytokeratin 10,Anti-Human Cytokeratin 14、二次抗体として、Alexa Fluor 488 antibody,Alexa Fluor 647 antibodyにて処理を行った。
(3)ヒト皮膚組織の観察
スライドガラスに付着している抗体処理後の切片を、蛍光観察顕微鏡にて画像を取得した。健常部およびシミ部の蛍光観察顕微鏡の写真を図1に示す。図1の上側の二画像は蛍光顕微鏡画像を示し、下側の二画像は、明視野画像を示す。図1において、左側に示す健常部では、点線で示す基底膜に最も近い一層の角化細胞がKeratin14(K14)陽性である未分化な角化細胞であり、右側に示すシミ部では、基底膜に近い2~4層の角化細胞がKeratin14(K14)陽性である未分化な角化細胞であった。
この結果から、シミ部では健常部と比較して、Keratin14(K14)陽性である未分化な角化細胞が過剰に増加していることが分かる。さらに、明視野の画像より、K14陽性である未分化な角化細胞はメラニンを多く含有していることが分かる。
【0038】
(実験2:ヒト皮膚の健常部およびシミ部の分裂方向の確認)
被験者より同意の上採取した、ヒト皮膚の健常部およびシミ部を包埋し、20μmの切片にしてMASコートスライドガラスに貼付し、4%パラホルムアルデヒドで固定した後、アセトンで透過処理をした。
(2)ヒト皮膚組織の染色
固定・透過処理した皮膚切片に対し、一次抗体としてAnti-Human Survivn,Anti-Human Claudin 1、二次抗体として、Alexa Fluor 488 antibody,Alexa Fluor 568 antibodyにて処理を行った。
(3)画像解析
スライドガラスに付着している抗体処理後の切片を、蛍光観察顕微鏡にて画像を取得し、画像解析ソフトIMARIS(ZEISS社製)にて表皮細胞の分裂方向を解析した。観察した際、基底膜に対してSurvivinの方向がなす角度(鋭角側)が0℃以上30°以下であるものを横分裂(対称分裂)、60℃以上90°以下であるものを縦分裂(非対称分裂)と判断した。「Survivinの方向」は、同一細胞内に存在する2つの明度の高い点を結ぶ直線の方向として決定した。また、「基底膜の方向」は、2つの明度の高い点を結ぶ直線を基底膜側に延長した場合に、かかる直線と基底膜とが交差する位置における基底膜の傾きとした。健常部およびシミ部の蛍光観察顕微鏡の写真の代表例を図2に示す。解析の結果、シミ部では健常部と比較して、縦方向の分裂(図2の左から3枚の画像)とは異なる、横方向の分裂(図2の右端の画像)が増加していることが判明した。なお図2において、双方向矢印により細胞の分裂方向を示す。また、基底膜の方向は点線にて示す。また、図2において、明度の高い領域は、Survivin陽性の領域を意味する。なお、図2において、Survivin陽性の領域以外に標識されている領域は、Claudin陽性の領域である。
【0039】
以上の実験1~2の確認結果から、シミ部位では横方向の分裂(対称分裂)の増加により、未分化な角化細胞が増加し、そこにメラニンが蓄積されることで、シミ形成の一因となっていると推察される。
【0040】
(実施例1)
培養細胞を用いて三次元皮膚モデルを作成し、本発明の一例にかかる、シミ及び色むら評価方法及びこれを用いた美白外用剤有効成分選定方法を実施した。
【0041】
(1)三次元皮膚モデルの作製
マルチプレートに皮膚組織培養用セルカルチャーインサートを設置し、角化細胞を2×10cells播種し、三次元培養した。美白外用剤候補成分(以下、「被験物質」と称する。)としては、ナツシロギク抽出物(ナツシロギク全草を原料とするナツシロギクエキス)を用いた。
インサートに対し、ナツシロギク抽出物を終濃度0.01w/v%、ヒドロキシプロリンを10mMとなるように添加した。濃度調整の際に、溶媒としてナツシロギク抽出物は25v/v%エタノール、ヒドロキシプロリンは水を使用した。16~20時間経過後、角化細胞を空気暴露した。以降は毎日インサート外部の培地を交換した。これを「被験物質添加(あり)」試験とした。「被験物質添加(あり)」試験は、後述する(2)三次元皮膚モデルの固定、(3)三次元皮膚モデルの染色及び(4)画像解析を行った。
「被験物質添加(なし)」試験は、「ナツシロギク抽出物」を「溶媒:25v/v%エタノール」、「ヒドロキシプロリン」を「溶媒:水」に変更した以外は、「被験物質添加(あり)」試験と同様に培養を行い、次いで(2)三次元皮膚モデルの固定、(3)三次元皮膚モデルの染色及び(4)画像解析を行った。
(2)三次元皮膚モデルの固定
角化細胞の空気暴露から1~2日経過後、インサートのメンブレンを切り出し、95v/v%エタノールで固定をした。
(3)三次元皮膚モデルの染色
固定した三次元皮膚モデルに対し、一次抗体としてAnti-Human Cytokeratin 10、Anti-Human Cytokeratin 5、二次抗体として、Alexa Fluor 88 antibody,Alexa Fluor 647 antibodyにて処理を行った。
(4)画像解析
抗体処理後の切片をスライドガラスに貼付し、蛍光観察顕微鏡にて画像を取得した。蛍光観察顕微鏡の写真を図3A及び図3Bに示す。図3Aは、被験物質添加なし試験(比較例相当)の結果を示し、図3Bは被験物質添加有り試験(実施例相当)の結果を示す。図3Aでは、Keratin 10(K10)陽性の角化細胞はほとんど認められなかった。図3Bでは、図上で明度の高い領域として認められる4つの細胞がKeratin 10(K10)陽性の角化細胞として認められた。ナツシロギク抽出物の添加により、縦方向の分裂(非対称分裂)すなわち分化が促進され、Keratin10(K10)陽性の角化細胞が増加していることが考えられる。
【0042】
本実施例での検証の結果、ナツシロギク抽出物によりシミ及び色むらの低減効果が得られることが示唆され、ナツシロギク抽出物の美白外用剤としての有効性が示された。よって、本実施例で検証した選定方法に従い、ナツシロギク抽出物を美白外用剤の有効成分として選定することができる。このように、本発明にかかるシミ及び色むら評価方法及びこれを用いた美白外用剤有効成分選定方法は、有用である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、表皮細胞における分裂様式の観察結果に基づいて、シミ及び色むらを評価する評価方法を提供することができる。
図1
図2
図3A
図3B