(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005567
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】姿勢矯正パッド
(51)【国際特許分類】
A61F 5/01 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
A61F5/01 E
A61F5/01 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105796
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】517250790
【氏名又は名称】株式会社からだクリエイト
(74)【代理人】
【識別番号】100152700
【弁理士】
【氏名又は名称】泉谷 透
(72)【発明者】
【氏名】森村 良和
【テーマコード(参考)】
4C098
【Fターム(参考)】
4C098AA02
4C098BB01
4C098BB02
4C098BB05
4C098BC02
4C098BC08
4C098BC37
4C098BC45
(57)【要約】
【課題】
人体に備わる体性反射という生理的作用を利用して特定の筋肉の無意識かつ自発的な収縮を促すことで身体姿勢のバランス安定を図る、着脱が容易で圧迫感もない、極めて簡易かつ低コストな姿勢矯正パッドを提供する。
【解決手段】
一対の横腕部と下方向きの垂直部を有する略Y字形の柔軟性を有する樹脂製板材からなり、前記一対の横腕部を使用者の両肩の背面に当接させた状態においては、前記垂直部が使用者の胸椎上部の背面に当接するとともに、前記一対の横腕部を使用者の胸椎下端の背面の両側に当接させた状態においては、前記垂直部が使用者の腰椎から仙骨上端部の背面に当接するように構成したことを特徴とする姿勢矯正パッド。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の横腕部と下方向きの垂直部を有する略Y字形の柔軟性を有する樹脂製板材からなる姿勢矯正パッドであって、
前記一対の横腕部を使用者の両肩の背面に当接させた状態においては、前記垂直部が使用者の胸椎上部の背面に当接するとともに、
前記一対の横腕部を使用者の胸椎下端の背面の両側に当接させた状態においては、前記垂直部が使用者の腰椎から仙骨上端部の背面に当接するように構成したことを特徴とする、
姿勢矯正パッド。
【請求項2】
前記一対の横腕部は、それぞれ上方に30~40°の角度で傾斜させて設けていることを特徴とする、請求項1に記載の姿勢矯正パッド。
【請求項3】
前記略T字形の樹脂製板材は、EVA(Ethylen‐Vinyl Acetate:エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂)からなることを特徴とする、
請求項1または請求項2のいずれかに記載の姿勢矯正パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の胸椎上部の背面及び腰椎から仙骨上端部の背面のいずれかに装着可能な姿勢矯正パッドに関する。より具体的には、パッドが脊椎の背面に当接することで惹起される体性反射の作用により所定の筋肉(背筋群、腸腰筋)の無意識の収縮を促すことで、身体の姿勢の安定化を図るものである。たとえば、リュックサックやランドセル等の両肩ベルトを有する背嚢式バッグを使用する際に胸椎上部の背面に装着することで、背筋群を無意識に働かせ、バッグの荷重による身体姿勢の不安定化を防ぐ。また、腰椎から仙骨上端部の背面に装着することで、腸腰筋を無意識に働かせ、特に椅子に座った姿勢における骨盤の安定化を図ることを目的とする。
【背景技術】
【0002】
子供が使用するランドセルは教材類の多様化により重量が増加する傾向にあるほか、大人が使用する鞄類も手提げ型から背嚢式バッグへの移行が進み、背中に荷重を背負って移動する機会が増えている。
【0003】
身体は本来、身体前面の屈筋群と背面の背筋群の作用のバランスにより姿勢を保持している。身体前面の屈筋群は大胸筋や腹直筋などであり、身体背面の背筋群は、
図1に示す僧帽筋や脊柱起立筋群である。身体の後ろ側に背負った荷物の荷重が掛かると、平衡を保つために身体は自然に前傾姿勢となり、頭・顔を前方に位置させることになる。この際、無意識のうちに身体前面の屈筋群のみが使用され、背筋群はほとんど使われない状態となっている。
【0004】
近年、特に高齢者が手ぶらで歩くために背嚢式バッグを使用することが増えている。一見両手が空いているため転倒時にも安全そうにも見えるが、筋力が衰えている高齢者にとって屈筋群と背筋群とのバランスが取れていない身体の安定性は低い。そのため、背負った背嚢式バッグに人がぶつかったり、何かがひっかかったりして荷重が乱れれば、容易に転倒につながる。この点は筋力が未発達の子供が思いランドセルを背負っている場合も同様である。
【0005】
身体の姿勢維持や歩行の安定化・疲労軽減に関しては骨盤の向きも重要である。骨盤の角度が不自然に前傾あるいは後傾した状態では身体全体の姿勢が安定せず、各部の筋肉も疲労し易いことが知られている。現代人は、椅子に座り背中を丸める姿勢が長いことから骨盤が後傾しがちとなり、逆に長時間の直立や歩行で疲労したときは無意識に腹を突き出して骨盤が前傾しがちとなって、いずれにせよ身体全体の姿勢が安定せず、転倒し易くなり疲労も蓄積する。骨盤を安定させるために重要な役割を果たしているのが一般にインナーマッスル(深層筋)と呼ばれる腸腰筋であるが、前述のように現代人は着座時間が長いため腸腰筋が働きにくく、衰えやすい傾向がある。
【0006】
腸腰筋は、主に
図2に示す大腰筋、腸骨筋の総称であり、大腰筋は腰椎と股関節を、腸骨筋は骨盤と股関節とを結び、上半身と下半身を繋ぎ重力に抗う唯一の筋肉群である。脊柱をS字型に維持し直立位(立ち姿勢)を保つほか、歩行・走行時には足や膝を持ち上げる(股関節の屈曲)働きがあり、下半身が固定されているときは体幹を起こすようにも働く。また、股関節を固定する働きがあるため、体幹のバランスを取る筋肉でもある。しかし、意識して動かし易い表層筋とは異なり、深層筋である腸腰筋は意識的に働かせたり鍛えたりしづらい筋肉である。
【0007】
体幹の姿勢を矯正して身体の安定を図るための先行技術はこれまでにも数多く提案されている。たとえば、特許文献1に開示されている「姿勢改善サポート衣類」は、上半身を覆う本体部と、本体部の胸椎から下腹部中央に延びる本体部の緊締力よりも強い緊締力を有する帯状の緊締部とから成り、帯状の緊締部の締め付けで腹圧を高めることで骨盤の安定化を図るものである。また、特許文献2に開示されている「肋骨矯正ベルト」は、肋骨を包囲するベルトにより背当て部を第5胸椎付近に押し付けて前方に押し出すことで猫背を矯正し、身体の姿勢の改善を図るものである。
【特許文献1】特開2010-26118号公開公報
【特許文献2】特開2018-64652号公開公報
【0008】
しかし、これら先行技術は身体の特定部位に圧迫や押圧といった機械的作用を加えることで強制的に姿勢の矯正を図るものであり、必要な筋肉を自発的に働かせて本来的な身体バランスの安定機能を発揮させるものではない。そのため、装着時には効果を発揮したとしても非装着時に効果は長続きせず、抜本的な矯正効果は期待できない。また、緊締部やベルトといった作用部材を身体に固定する以上、着脱が面倒、圧迫感が強いといった使用者の負担が大きいといった問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明は、人体に備わる体性反射という生理的作用を利用して特定の筋肉の無意識かつ自発的な収縮を促すという、前述の先行技術とは根本的に異なる発想で身体姿勢のバランス安定を図るものであり、着脱が容易で圧迫感もない、極めて簡易かつ低コストな姿勢矯正パッドを提供することを課題とする。
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に係る姿勢矯正パッドは、一対の横腕部と下方向きの垂直部を有する略Y字形の弾性を有する樹脂製板材からなり、前記一対の横腕部を使用者の両肩の背面に当接させた状態においては、前記垂直部が使用者の胸椎上部の背面に当接するとともに、前記一対の横腕部を使用者の胸椎下端の背面の両側に当接させた状態においては、前記垂直部が使用者の腰椎から仙骨上端部の背面に当接するように構成したこと、を特徴とする。
【0011】
姿勢矯正パッドの構成のうち、垂直部が胸椎上部あるいは腰椎から仙骨上端部の背面に当接して人体に体性反射を惹起させる作用部となり、一対の横腕部は、上半身の胸椎下端の背面に適用する場合には肩と背嚢式バッグの肩ベルトとの間に挟むことにより、また、下半身に適用する場合はズボンやスカートの胴囲背後に引っ掛けることにより垂直部を保持するための保持部となる。
【0012】
人体には多種の反射(生理反射)が備わっているが、その機能からは、自律神経系を介して内臓筋を収縮させたり腺の分泌を促進したりする内臓反射(自律神経反射)と、骨格筋を収縮させる体性反射とに大別される。木槌で膝蓋腱を叩くと下腿が跳ね上がる膝蓋腱反射は代表的な体性反射の一つであるが、皮膚や筋肉が一定の刺戟を受けると、刺戟を受けた部位を刺戟から遠ざけるように筋肉が収縮する反応も体性反射である。
【0013】
体性反射を惹起する刺戟は、いわゆるツボを押すといった強い押圧による刺戟ではなく、単に異物が皮膚に当接しているだけの弱い刺戟である。皮膚や筋肉の感覚受容器官(メカノレセプター)が異物の接触を検知することで、その部位の直下に存在する神経が支配する筋肉が無意識に活性化して収縮するのである。
【0014】
図3は人体骨格の背面図であるが、姿勢矯正パッドを上半身に適用した場合には、垂直部が胸椎上部(概ねT1~T5)の背面に当接する。この部分は、体幹を伸展させて脊柱のS字カーブを維持する脊柱起立筋群の中でも特に姿勢維持における役割が大きな頸最長筋、胸最長筋が起始する部分であり、これらの筋肉を支配する神経は頸椎(C1~C7)から胸椎上部(C1~T5)にかけての脊髄神経である。
【0015】
そのため、垂直部がこの部分の皮膚に当接することで惹起される体性反射により脊柱起立筋群が無意識に収縮し、背負った背嚢式バッグの荷重に対抗するために過剰に緊縮する身体前面の屈筋群の力とのバランスが図られて体幹の姿勢の安定性が向上する。また、胸椎上部は、肩峰や肩甲棘で停止する僧帽筋の中でも最も大きな力を発揮する中部繊維が起始する部分であり、ここに垂直部が当接して惹起される体性反射により僧帽筋が無意識に活性化される。これにより、背嚢式バッグの肩ベルトから掛かる荷重により肩甲骨が下垂するのを防ぐ働きをするとともに、肩ベルトにより後方に引っ張られる力に対抗して無意識に緊縮する大胸筋の力とのバランスが図られ、やはり体幹の姿勢の安定性が向上する。
【0016】
一方、姿勢矯正パッドを下半身に適用した場合には、垂直部が概ね腰椎(L1~L5)から仙骨上部の背面に当接する。この部分は、大腰筋を支配する腰神経叢の枝(L1~L4)、及び腸骨筋を支配する腰神経叢の枝(L2~L4)の直上に当たるため、垂直部がこの部分の皮膚に当接することで惹起される体性反射により大腰筋、腸骨筋といったインナーマッスルが無意識に収縮し、骨盤の安定性が高まる。
【0017】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の姿勢矯正パッドであって、前記一対の横腕部は、それぞれ上方に30~40°の角度で傾斜させて設けていること、を特徴とする。
【0018】
前述のとおり、横腕部は、姿勢矯正パッドを上半身に適用する場合には肩と背嚢式バッグの肩ベルトとの間に挟み、また、下半身に適用する場合はズボンやスカートの胴囲背後に引っ掛けることにより垂直部を保持するための保持部である。背嚢式バッグの肩ベルトの位置や衣服の形状は様々であるが、横腕部を上方に傾斜させて設けることで肩ベルトの位置に合わせやすくなるとともに、ズボンやスカートの胴囲背後に垂直物を挿し込んだ際に胴囲背後の上端に横腕部を引掛けやすくなる。
【0019】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2のいずれかに記載の姿勢矯正パッドであって、前記略Y字形の樹脂製板材は、EVA(Ethylen‐Vinyl Acetate:エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂)からなることを特徴とする。
【0020】
姿勢矯正パッドの材質は、柔軟性を有する樹脂製板材であれば特に限定されない。しかし、体性反射を惹起するためには垂直部が皮膚に直接、あるいはせいぜい薄手の下着類を介して身体に密着させることが望ましいため、柔軟性と弾力性を備え、温かみのある熱可塑性樹脂の発泡体が好適である。EVA素材は、柔軟性と弾力性を備え、低温下でも硬くなりにくく、発泡体は極めて軽量であり加工性も高い。また、水分、特に汗に対する耐久性が高く、有害物質を含まないため万一小さな子供が口に入れても安全である。さらに、塩素を含まないため焼却してもダイオキシンを発生させず、リサイクルも容易であるため特に好適である。
【発明の効果】
【0021】
本願発明に係る姿勢矯正パッドは、重い背嚢式バッグを背負って移動する際に上半身に適用すれば、荷重により身体の姿勢が不安定となることを防止あるいは軽減でき、特に高齢者やランドセルを背負った子供の転倒事故を減少させることができる。
【0022】
また、下半身に適用すれば、無意識のうちにインナーマッスルを働かせて骨盤の安定を促すことができるので、骨盤の前傾や後傾に起因する身体の不調を防止あるいは軽減し、特に椅子に長時間座り続けることによる疲労も軽減できる。しかも、本願発明に係る矯正パッドは、簡易かつ軽量、低コストであり、着脱も極めて容易なため、気軽に普及させ易いものである。
【0023】
特に、本願発明に係る姿勢矯正パッドは、従来技術のようにベルトや緊帯といった特段の装着手段・固定手段を必要とせず、着衣の上から、あるいは着衣の間に挿し込むだけで装着可能であり、姿勢矯正に係る使用者の負担を極小化できるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図を用いて説明する。
図4は本発明に係る姿勢矯正パッド1の一実施形態を示す図で、左側は側面図、右側は表面図であり、裏面は表面と対称に表れる。姿勢矯正パッド1はEVA素材の発泡体を一対の横腕部10と下方向きの垂直部11を有する略Y字形に成形してなり、縁部は丸めてある。一対の横腕部10は、それぞれ上方に30°の角度で傾斜させて設けている。
【0025】
姿勢矯正パッド1の大きさは使用者の体格に応じて任意に設定可能である。また、厚みも素材の硬度に応じて任意に設定可能であるが、一般的な発泡EVA素材を使用する場合は、10mm厚程度が好適である。
【0026】
図5は、姿勢矯正パッド1を装着する位置を示す図である。また、
図6は姿勢矯正パッド1を上半身に装着した状態を例示する図であり、
図7は下半身に装着した状態を例示する図である。
【0027】
重い荷物を入れた背嚢式バッグを背負って移動する際には、
図6に示すように、背中と肩ベルトの間に本願発明に係る姿勢矯正パッド1の横腕部10を挟んで垂直部11が胸椎上部の背面に当接するように装着する。この際、背嚢式バッグを背負う前に、予め上着の襟元の背中側から姿勢矯正パッド1を挿入し、皮膚に直接あるいは下着を介して垂直部11を胸椎上部の背面に当接させ、その後に背嚢式バッグを背負ってもよいが、背嚢式バッグを背負ってから背嚢式バッグの本体と背中の間に垂直部11を挿し込み、次いで肩ベルトと上着の間に横腕部10を挿し込めば肩ベルトに掛かる重量で姿勢矯正パッド1が固定されるので、より簡単である。
【0028】
また、姿勢矯正パッド1の片面に衣類を傷めることなく貼って剥がせる粘着剤からなる粘着層(図示せず)を設けておき、背嚢式バッグを背負う前に上着が薄手の場合は上着の上、上着が厚手の場合には下着の上の所定の位置に姿勢矯正パッド1を貼り付けて使用すれば、背嚢式バッグを下した後に再び背負う都度姿勢矯正パッド1を装着し直す必要がなくなるため便利である。
【0029】
姿勢矯正パッド1を下半身に装着する場合は、
図7に示すようにズボン又はスカートの胴囲後ろに、横腕部10が胴囲後ろの上端に当接するまで垂直部11を直接挿し込む。横腕部10が胴囲後ろの上端に引っ掛かることで姿勢矯正パッド1が所定の位置に固定され、外す場合は横腕部10を持って引き抜くだけでよい。
【0030】
以上、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明したが、本発明は、必ずしも上述した構成にのみ限定されるものではなく、本発明の目的を達成し、効果を有する範囲内において、適宜変更実施することが可能なものであり、本発明の技術的思想の範囲内に属する限り、それらは本発明の技術的範囲に属する。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係る姿勢矯正パッドは、特に筋力が衰えた高齢者や未発達の子供の転倒防止に有効であるが、一般成人の日常的な姿勢矯正具としても利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図4】実施形態に係る姿勢矯正パッドの側面図・表面図
【
図6】姿勢矯正パッドを上半身に装着した状態を例示する図
【
図7】姿勢矯正パッドを下半身に装着した状態を例示する図
【符号の説明】
【0033】
1 姿勢矯正パッド
10 横腕部
11 垂直部