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特開2024-5571マイクロポーラス層形成用塗工ペースト及びその製造方法、並びに、燃料電池用ガス拡散層
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  • 特開-マイクロポーラス層形成用塗工ペースト及びその製造方法、並びに、燃料電池用ガス拡散層 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005571
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】マイクロポーラス層形成用塗工ペースト及びその製造方法、並びに、燃料電池用ガス拡散層
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/96 20060101AFI20240110BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20240110BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240110BHJP
【FI】
H01M4/96 B
H01M4/88 C
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105803
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000100780
【氏名又は名称】アイシン化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000615
【氏名又は名称】弁理士法人Vesta国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牧野 肇
(72)【発明者】
【氏名】坂口 久剛
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018AS01
5H018BB12
5H018EE08
5H018EE17
5H018HH00
5H018HH01
5H018HH05
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】空隙率の高いマイクロポーラス層の形成によりガス拡散層の性能向上を図ること。
【解決手段】マイクロポーラス層形成用塗工ペーストは、カーボンブラックと、撥水性樹脂と、分散剤と、溶媒とを含有し、カーボンブラックは、DBP吸収量が300ml/100g以上、500ml/100g以下の範囲内であるカーボンブラックが目開き34μm以上、154μm以下のメッシュ(100メッシュ以上、400メッシュ以下)を通過する2次凝集径のものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックと、撥水性樹脂と、分散剤と、溶媒とを含有するマイクロポーラス層形成用塗工ペーストであって、
前記カーボンブラックは、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックが目開き34~154μmの範囲内のメッシュを通過する2次凝集径のものであることを特徴とするマイクロポーラス層形成用塗工ペースト。
【請求項2】
前記カーボンブラックと前記撥水性樹脂は、重量比で9/1~5/5の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロポーラス層形成用塗工ペースト。
【請求項3】
前記マイクロポーラス層形成用塗工ペーストは、せん断速度50s-1における粘度が0.05Pa・s~1.0Pa・sの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロポーラス層形成用塗工ペースト。
【請求項4】
導電性多孔質基材と、前記導電性多孔質基材の表面に形成されたカーボンブラックと撥水性樹脂とからなるマイクロポーラス層とから構成された燃料電池用ガス拡散層であって、
前記マイクロポーラス層のカーボンブラックは、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックが目開き34~154μmの範囲内のメッシュを通過する2次凝集径のものであることを特徴とする燃料電池用ガス拡散層。
【請求項5】
前記カーボンブラックと前記撥水性樹脂は、重量比で9/1~5/5の範囲内であることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項6】
カーボンブラックと、撥水性樹脂と、分散剤と、溶媒とを含有するマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法であって、
分散剤が混合された溶媒に、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックと撥水性樹脂を混合して薄膜旋回法により攪拌することを特徴とするマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法。
【請求項7】
カーボンブラックと、撥水性樹脂と、分散剤と、溶媒とを含有するマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法であって、
分散剤が混合された溶媒に、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックと撥水性樹脂を混合して周速25m/s以上、周速60m/s以下で攪拌することを特徴とするマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法。
【請求項8】
前記攪拌後に、目開き34~154μmの範囲内のメッシュを通過させることを特徴とする請求項6または請求項7に記載のマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法。
【請求項9】
前記攪拌前に、ディスパまたはタービン・ステータ型の攪拌機でプレ攪拌することを特徴とする請求項6または請求項7に記載のマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法。
【請求項10】
前記攪拌前に、周速1m/s以上、周速20m/s以下でプレ攪拌することを特徴とする請求項6または請求項7に記載のマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法。
【請求項11】
前記カーボンブラックと前記撥水性樹脂は、重量比で9/1~5/5の範囲内であることを特徴とする請求項6または請求項7に記載のマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法。
【請求項12】
前記マイクロポーラス層形成用塗工ペーストは、せん断速度50s-1における粘度が0.05Pa・s~1.0Pa・sの範囲内であることを特徴とする請求項6または請求項7に記載のマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用ガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)を構成する導電性多孔質基材(ガス拡散層電極基材)の表面に塗布してマイクロポーラス層(MPL:Micro Porous Layer)を形成するマイクロポーラス層形成用塗工ペースト及びその製造方法、並びに、それを採用した燃料電池用ガス拡散層に関するもので、特に、高空隙率のマイクロポーラス層を形成できるマイクロポーラス層形成用塗工ペースト及びその製造方法、並びに、それを採用した燃料電池用ガス拡散層に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池、中でも、自動車用、家庭電源、家電等に広範囲な用途への適用可能性から固体高分子形燃料電池(PEFC)に大きな注目が集められている。
固体高分子形燃料電池は、イオン伝導性の高分子膜を電解質として用い、これに負極と正極を貼り合わせて1つの単セル(single cell)を形成し、セパレータを介して単セルを複数個積層することにより高電圧を得る構成(スタック)となっている。
【0003】
一般的に、固体高分子形燃料電池を構成する1つの単セル(single cell)は、特定イオンを選択的に透過する高分子電解質膜(イオン伝導性固体高分子電解質膜)の両面に、白金等の触媒を担持したカーボン等の導電材及びイオン交換樹脂からなる電極触媒層と、電極触媒層の外側に配置する多孔質のガス拡散層(GDL)とによって構成されるカソード(+)側電極及びアノード(-)側電極を配設し、膜/電極接合体(MEGA:Membrane-Electrode-Gas Diffusion Layer Assembly)を形成している。
そして、固体高分子形燃料電池では、この膜/電極接合体を構成するガス拡散層の外側に、燃料ガス(アノードガス)または酸化ガス(カソードガス)を供給したり生成ガス及び過剰ガスを排出したりするガス流路を形成したセパレータが配設され、膜/電極接合体をセパレータで挟持し複数個の単セルを積層する構成(スタック)により発電性を高めている。
【0004】
このような構成の固体高分子形燃料電池については、高効率でエネルギが得られ、環境負荷も低いことから、自動車用の動力源(駆動源)としての活用が進められ、自動車用燃料電池としての更なる普及に向けて燃料電池を構成する各部材の高性能化による電池の高出力化が望まれている。
【0005】
ところで、こうした固体高分子形燃料電池の構成では、上述したように、効率的に燃料ガス(アノードガス)及び酸化ガス(カソードガス)を反応させるために、白金等の触媒を担持し電気化学反応を行う触媒層にセパレータのガス流路から供給される燃料ガスまたは酸化ガスを導くガス拡散層を隣接させている。即ち、単セル電池の電極を構成するガス拡散層は、反応ガスの拡散性を高めるために形成されるものであり、セパレータのガス流路から供給される燃料ガスまたは酸化ガスを隣接する触媒層に拡散させる役目(ガス拡散性、ガス透過性)を担う。また、セパレータと触媒層の間にあるこのガス拡散層においては、電気化学反応のために必要な電子を効率的に移動させるための導電機能、集電機能が要求される。更に、発電性能の向上や安定した発電性能のためには、電極において高プロトン伝導性(導電性)を得る観点から高分子電解質膜を最適な湿潤状態に保つ一方で、触媒層の過剰な水分を速やかに排出してフラッディング現象(ガス拡散層の細孔が水で閉塞する現象)を抑制することが重要であるところ、水分の通り道でもあるガス拡散層においては、反応系内に必要な水分を適切に取り入れる一方で、発電時の水素及び酸素の電気化学的反応によって生成した過剰な反応生成水や結露水を排出する排水性(撥水性、水分透過性)が必要とされ、水分を適切に取り入れたり、排出したりする役割、即ち、拡散性による水分管理性も要求されている。
【0006】
そこで、近年では、このガス拡散層において、それを構成する、例えば、カーボンペーパ、カーボンクロス、カーボンフェルト等からなる導電性多孔質基材(ガス拡散層電極基材)に対して、PTFE等の撥水性樹脂及びカーボンブラック等の導電性材料を主成分とするマイクロポーラス層(MPL)と称されるコーティング薄膜(微細多孔質層、カーボン層、目止め層と呼ばれることもある)を形成することにより、隣接する触媒層との界面で液膜が生じるのを抑制し、水分排出や生成水の逆拡散を促進させ、固体高分子形燃料電池の水分管理性(水分量制御)を向上させることで、発電性能を向上させることが提案されている。なお、導電性多孔質基材に対してマイクロポーラス層を形成することにより、マイクロポーラス層は、触媒層と導電性多孔質基材との緩衝材や、導電性多孔質基材の表面を電解質膜に転写しないようにする化粧直し効果としても機能する。また、マイクロポーラス層形成用ペーストを導電性多孔質基材に塗布し、乾燥焼成してマイクロポーラス層を形成するものでは、ペースト成分の調製によりガス拡散層の細かな特性制御も容易に可能とする。
【0007】
ここで、この種の公知な技術として、例えば、特許文献1や特許文献2がある。
特許文献1においては、炭素シートとマイクロポーラス層とを有し、炭素シートは多孔質であって、マイクロポーラス層に含まれる炭素粉末のDBP吸油量が70~155ml/100gであり、マイクロポーラス層は、マイクロポーラス層の目付(W)とマイクロポーラス層の厚さ(L)から算出される染み込みの指標(L/W)が1.10~8.00であり、マイクロポーラス層の厚さ(L)が10~100μmであるガス拡散電極基材を開示している。
【0008】
また、特許文献2においては、カーボンブラックと、撥水性樹脂と、分散剤と、溶媒とを含有し、カーボンブラックとして、DBP吸収量が210ml/100g~262ml/100gの範囲内である第1カーボンブラックと、DBP吸収量が32ml/100g~48ml/100gの範囲内である第2カーボンブラックとを併用し、更に、第1カーボンブラックの沃素吸着量が85mg/g~97mg/gの範囲内であり、第2カーボンブラックの沃素吸着量が15mg/g~20mg/gの範囲内であるマイクロポーラス層形成用ペースト組成物を開示している。
【0009】
特許文献1の技術によれば、マイクロポーラス層(以下、「MPL」と略す場合がある)を形成するための炭素のDBP吸油量を高くすることにより、MPL塗工液の炭素シートへの浸み込みを抑制できるとされており、また、特許文献2の技術によれば、ストラクチャの発達度合に特定の差があるカーボンブラックを組み合わせカーボン粒子の連鎖構造、3次元構造を制御することで、MPLのクラックを抑制できるとしている。
【0010】
そして、特許文献1や特許文献2においては、MPLを形成するための塗工ペーストに配合するカーボンについて、ストラクチャの発達が小さくてDBP吸収量が小さいものでは、炭素シート等からなる導電性多孔質基材への塗布時に導電性多孔質基材に浸透して裏抜けしやすく、また、強度的にも弱くクラックが生じやすくなることから、DBP吸収量の高いカーボンの使用が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2016/076132号公報
【特許文献2】特開2019ー040791号公報(特許第6932447号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、DBP吸収量の高いカーボンは、ストラクチャ(アグリゲード)同士が絡み合いやすくストラクチャが過度に発達(その二次凝集径は数十μm以上)し、凝集物(凝集粒子)を発生させたり樹脂分や溶媒を多く吸着保持したりすることで、分散性が悪く、塗料の粘度上昇を招いて塗工性が低下することにより、ガス拡散電極の表面不良(表面平滑性の低下や塗工幅の縮小)が生じさせ、また、生産性を低下させる問題がある。
加えて、カーボン製品には異物(不純物)、例えば、硫黄、金属(カリウム、鉛、ナトリウム、鉄等)、カルシウム、塩素等が含まれていることが多く、それらの異物、特に、鉄異物は、ガス拡散層に隣接する触媒層の耐久性、寿命を低下させて電池性能や電池の寿命の低下を招きやすいところ、MPLを形成するための塗工ペーストにDBP吸収量の高いカーボンを配合すると、その凝集物が、カーボン製品中の異物、特に、鉄異物を除去するための異物除去フィルタとしての細かい目の濾過フィルタで目詰まりを生じることにより、濾過フィルタへの通過性が低下し、電池の耐久性、寿命を低下させる鉄異物等の除去が困難となる問題もある。
【0013】
したがって、DBP吸収量の高いカーボンの使用は、凝集を生じ、また、塗工ペーストの粘度を上昇させる問題があることから、従来、ストラクチャが高度に発達したカーボンの使用により空隙率(気孔率)を向上させてガス拡散層の拡散性等の性能を向上させるには限界があった。
【0014】
そこで、本発明は、空隙率の高いマイクロポーラス層の形成によりガス拡散層の性能向上を図ることができるマイクロポーラス層形成用塗工ペースト及びその製造方法、並びに燃料電池用ガス拡散層の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1の発明のマイクロポーラス層形成用塗工ペーストは、カーボンブラックと、撥水性樹脂と、分散剤と、溶媒とを含有し、前記カーボンブラックは、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックが目開き34~154μmの範囲内のメッシュを通過する2次凝集径のものであり、カーボン繊維シート等からなる導電性多孔質基材の表面に塗布され、乾燥・焼成されることにより燃料電池用ガス拡散層のマイクロポーラス層を形成するものである。
【0016】
上記カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等が使用できるが、ガス拡散性、強度、導電性等の高いマイクロポーラス層を形成できる点から、アセチレンブラックが好適である。
そして、上記DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックが目開き34~154μmの範囲内のメッシュを通過する2次凝集径のものとは、DBP吸収量が300ml/100g以上、500ml/100g以下の範囲内であるカーボンブラックの二次凝集体(数十μm)が高シェアの分散によって目開き34μm以上、154μm以下のメッシュ、即ち、100メッシュ以上、400メッシュ以下を通過できる2次凝集径(数μm)までに解砕(解凝集)されたものであることを意味する。即ち、DBP吸収量が300ml/100g以上、500ml/100g以下の範囲内であるカーボンブラックの二次凝集体が解砕されて、目開き34~154μmのメッシュ(100~400メッシュ)を通過できる2次凝集径を有するものであることを意味する。
【0017】
ここで、「DBP吸収量」はJIS K6217-4に準拠して測定したものである。DBPの吸収量(吸油量)は、カーボンブラックのアグリゲート間の空隙率がストラクチャと正の相関があることを利用し、その空隙にDBP(フタル酸ジブチル:Dibutyl Phthalate)を吸収させDBP吸収量によりストラクチャを間接的に定量するものであり、この数値が大きい(高い)ものほどカーボンブラックのストラクチャ構造が発達し、ストラクチャが高いものであることを示し、数値が小さい(低い)ものほど、ストラクチャ構造があまり発達せずにストラクチャが低いものであることを示している。なお、ストラクチャとは、カーボンブラックの数個または数十個からなる連鎖状の凝集体(アグリゲート)の発達度合、即ち、カーボンブラック粒子のつながりの発達度合を示している。凝集体を構成するカーボン粒子の個数が多かったり、複雑な形状をしていたりすると、DBP吸収量は高いものとなる。
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、メッシュの目開きはJIS G 3556規格における目開きである。
【0018】
請求項2の発明のマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの前記カーボンブラックと前記撥水性樹脂は、その固形分重量比で、9/1≦カーボンブラック/撥水性樹脂≦5/5であるものである。
【0019】
請求項3の発明のマイクロポーラス層形成用塗工ペーストは、せん断速度50[1/s]における粘度が0.05Pa・s以上、1.0Pa・s以下、より好ましくは、0.1Pa・s以上、0.9Pa・s以下、更に好ましくは、0.1Pa・s以上、0.5Pa・s以下の範囲内のものである。
【0020】
請求項4の発明の燃料電池用ガス拡散層は、導電性多孔質基材の表面に形成したカーボンブラックと撥水性樹脂からなるマイクロポーラス層のカーボンブラックが、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックが目開き34~154μmの範囲内のメッシュを通過する2次凝集径のものである。
【0021】
上記導電性多孔質基材は、ガス拡散層電極基材であり、導電性を有し、マイクロポーラス層よりも平均細孔径が大きい多孔質体のものであり、例えば、炭素繊維織物、炭素繊維抄紙体、炭素繊維不織布、カーボンフェルト、カーボンペーパ、カーボンクロス等の炭素繊維(例えば、黒鉛繊維等)からなる多孔質基材や、発泡焼結金属、金属メッシュ、エキスパンドメタルなどの金属多孔質基材が使用される。
上記マイクロポーラス層は、前記導電性多孔質基材の表面に、カーボンブラックと撥水性樹脂を含有したマイクロポーラス層形成用塗工ペーストを塗布し、乾燥・焼成することにより形成されカーボンブラックが撥水性樹脂で結着されたものであり、そのカーボンブラックは、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックが目開き34~154μmの範囲内のメッシュを通過する2次凝集径のものである。
【0022】
ここで、上記カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等が使用できるが、ガス拡散性、強度、導電性等の高いマイクロポーラス層を形成できる点から、アセチレンブラックが好適である。
そして、上記DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックが目開き34~154μmの範囲内のメッシュを通過する2次凝集径のものとは、DBP吸収量が300ml/100g以上、500ml/100g以下の範囲内であるカーボンブラックの二次凝集体(数十μm)が高シェアの分散によって目開き34μm以上、154μm以下のメッシュ、即ち、100メッシュ以上、400メッシュ以下を通過できる2次凝集径(数μm)までに解砕(解凝集)されたものであることを意味する。即ち、DBP吸収量が300ml/100g以上、500ml/100g以下の範囲内であるカーボンブラックの二次凝集体が解砕されて、目開き34~154μmのメッシュ(100~400メッシュ)を通過できる2次凝集径を有するものであることを意味する。
【0023】
請求項5の発明の燃料電池用ガス拡散層の前記マイクロポーラス層における前記カーボンブラックと前記撥水性樹脂は、その固形分重量比で、9/1≦カーボンブラック/撥水性樹脂≦5/5であるものである。
【0024】
請求項6の発明のマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法は、分散剤が混合されて分散剤が溶解・混和した溶媒に、DBP吸収量が300ml/100g以上、500ml/100g以下の範囲内であるカーボンブラックと撥水性樹脂を混合して薄膜旋回法により攪拌するものである。
【0025】
ここで、上記薄膜旋回法とは、処理物(配合材料)を遠心力により装置内壁面に薄膜円筒状に押し付けた状態で高速回転させて、遠心力と旋回流の装置内壁面との速度差により発生するせん断応力を分散処理物(配合材料)に作用させることにより、槽内全体を高エネルギの乱流状態にして、薄膜円筒状の処理物(配合材料)中の凝集粒子を分散させる分散方法である。こうした高速旋回薄膜流を利用した旋回薄膜型高速攪拌機としては、例えば、薄膜旋回型高速ミキサ「フィルミックス」(登録商標)シリーズ(プライミックス社製)を好適に用いることができる。このときの攪拌条件としては、好ましくは、攪拌翼先端部における周速を25m/s以上で攪拌するものであり、周速25m/s以上であり、その上限値は機械の性能限界からすれば、60m/s以下である。
また、上記カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等が使用できるが、ガス拡散性、強度、導電性等の高いマイクロポーラス層を形成できる点から、アセチレンブラックが好適である。
【0026】
請求項7の発明のマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法は、分散剤が混合されて分散剤が溶解・混和した溶媒に、DBP吸収量が300ml/100g以上、500ml/100g以下の範囲内であるカーボンブラックと撥水性樹脂を混合して周速25m/s以上、60m/s以下で攪拌するものである。
【0027】
ここで、上記周速25m/s以上で攪拌は、ホモミクサ、ホモディスパ、ネオカイザ(登録商標)、ネオミクサ(登録商標)、薄膜旋回型高速ミキサ、ホモミキサ等の高速攪拌機によって攪拌翼先端部における周速を25m/s以上で攪拌するものであり、その上限値は機械の性能限界からすれば、60m/s以下である。中でも、薄膜旋回型高速ミキサ「フィルミックス」(登録商標)シリーズ(プライミックス社製)を好適に用いることができる。
また、上記カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等が使用できるが、ガス拡散性、強度、導電性等の高いマイクロポーラス層を形成できる点から、アセチレンブラックが好適である。
【0028】
請求項8の発明のマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法は、更に、前記攪拌後に、目開き34~154μmのメッシュ(100~400メッシュ)、好ましくは、目開き45~154μmのメッシュ(100~300メッシュ)、より好ましくは、目開き45~150μmのメッシュ(100~300メッシュ)を通過させるものである。
【0029】
請求項9の発明のマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法は、分散剤が混合されて分散剤が溶解・混和した溶媒に、DBP吸収量が300ml/100g以上、500ml/100g以下の範囲内であるカーボンブラックと撥水性樹脂を混合してディスパまたはタービン・ステータ型の攪拌機でプレ攪拌してから薄膜旋回法によりまたは周速25m/s以上、60m/s以下で攪拌するものである。
【0030】
ここで、上記ディスパは、ディスクタービンやディゾルバ(ディスパ)等の攪拌翼の高速回転によりせん断を発生させて処理物(配合材料)を攪拌するものである。
また、上記攪タービン・ステータ型は、タービンとステータ間の隙間でせん断力を与え処理物(配合材料)を攪拌するものである。
【0031】
請求項10の発明のマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法は、分散剤が混合されて分散剤が溶解・混和した溶媒に、DBP吸収量が300ml/100g以上、500ml/100g以下の範囲内であるカーボンブラックと撥水性樹脂を混合して周速1m/s以上、周速20m/s以下でプレ攪拌してから薄膜旋回法によりまたは周速25m/s以上、60m/s以下で攪拌するものである。
【0032】
ここで、上記周速1m/s以上、周速20m/s以下の攪拌は、攪拌機によって攪拌翼先端部における周速を1m/s以上、周速20m/s以下、好ましくは、10m/s以上、周速20m/s以下で攪拌するものであり、例えば、ディスパまたはタービン・ステータ型の攪拌機が使用できる。
【0033】
請求項11の発明のマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法の前記カーボンブラックと前記撥水性樹脂は、その固形分重量比で、9/1≦カーボンブラック/撥水性樹脂≦5/5であるものである。
【0034】
請求項12の発明のマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法の前記マイクロポーラス層形成用塗工ペーストは、せん断速度50[1/s]における粘度が0.05Pa・s以上、1.0Pa・s以下、より好ましくは、0.1Pa・s以上、0.9Pa・s以下、更に好ましくは、0.1Pa・s以上、0.5Pa・s以下の範囲内ものである。
【発明の効果】
【0035】
請求項1の発明に係るマイクロポーラス層形成用塗工ペーストによれば、カーボンブラックと、撥水性樹脂と、分散剤と、溶媒とを含有し、前記カーボンブラックは、DBP吸収量が300ml/100g以上、500ml/100g以下の範囲内であるカーボンブラックが目開き34~154μmの範囲内のメッシュを通過する2次凝集径のものであり、高DBP吸収量のカーボンブラックの二次凝集体が解砕されたものであるから、ペーストの粘度上昇が抑えられて、導電性多孔質基材の表面に対し良好な塗工性で塗布でき、塗布されたペーストが乾燥・焼成されることにより形成されるマイクロポーラス層においては、高DBP吸収量のカーボンブラックが高ストラクチャによる高空隙率を有することで、空隙率(気孔率)が高いものとなる。
【0036】
特に、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックが目開き34~154μmの範囲内のメッシュを通過する2次凝集径のものでは、ペーストの良好な塗工性によりマイクロポーラス層において良好な表面平滑性を確保できるうえ、高空隙率とクラックが生じ難い塗膜強度とを両立できる。即ち、高空隙率で、かつ、表面平滑性が良くクラックも少なくて触媒層への密着性が良好となるマイクロポース層を形成できる。よって、係るマイクロポーラス層は、水分が溜り難くて排水性が高く、高いガス拡散性が良好に維持され、耐久性も良好なものとなる。
また、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックが目開き34~154μmの範囲内のメッシュを通過する2次凝集径のものでは、電池反応を行う触媒層の耐久性、寿命に影響を与える鉄分等の異物の除去を可能とする細かな目のメッシュフィルタを通過できるサイズのものであるから、電池の耐久性、寿命を低下させ難いものである。
こうして、請求項1の発明に係るマイクロポーラス層形成用塗工ペーストによれば、空隙率が高く、ガス拡散層のガス拡散性や水分管理性の性能向上を図ることができるマイクロポーラス層を形成できる。
【0037】
請求項2の発明に係るマイクロポーラス層形成用塗工ペーストによれば、前記カーボンブラックと撥水性樹脂は、重量比で9/1~5/5の範囲内であるから、形成するマイクロポーラス層の硬化塗膜において樹脂分による接着性(結着性、バインダ効果)が良好でクラックが生じ難く、かつ、過剰な樹脂分による空隙の閉塞が抑制される。よって、請求項1に記載の効果に加えて、塗膜強度とガスや水分の透過性とを両立できるマイクロポーラス層を形成できる。
【0038】
請求項3の発明に係るマイクロポーラス層形成用塗工ペーストによれば、せん断速度50s-1における粘度が0.05Pa・s~1.0Pa・sの範囲内であるから、ガス拡散層を構成する導電性多孔質基材への塗布時にペーストの裏抜け(ペーストの塗布面とは反対側の導電性多孔質基材の裏面側に抜ける現象)を抑制でき、かつ、所望の塗工幅で平滑性が良好なマイクロポーラス層の硬化塗膜を形成できて塗工性が良好なものとなる。よって、導電性多孔質基材の空隙率を低下させることなく、平滑なマイクロポーラス層が得られ触媒層への密着性を高めることができるから、請求項1に記載の効果に加えて、ガス拡散層の性能をより良好に発揮できるマイクロポーラス層を形成できる。
【0039】
請求項4の発明に係る燃料電池用ガス拡散層によれば、導電性繊維等からなる導電性多孔質基材表面に形成されたカーボンブラックと撥水性樹脂からなるマイクロポーラス層のカーボンブラックは、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックが目開き34μm以上、150μm以下のメッシュを通過する2次凝集径のものであり、高DBP吸収量のカーボンブラックの二次凝集体が解砕されたものであるから、マイクロポーラス層を形成するペーストの粘度上昇が抑えられて、マイクロポーラス層は導電性多孔質基材の表面に対し良好な塗工性で形成されたものであり、高DBP吸収量のカーボンブラックが高ストラクチャによる高空隙率を有することで、空隙率(気孔率)が高いものとなる。
【0040】
特に、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックが目開き34~154μmの範囲内のメッシュを通過する2次凝集径のものでは、ペーストの良好な塗工性によりマイクロポーラス層が良好な表面平滑性を有し、高空隙率とクラックが生じ難い塗膜強度とを両立できる。よって、高空隙率で、かつ、表面平滑性が良くクラックも少なくて触媒層への密着性が良好なマイクロポース層は、水分が溜り難くて排水性が高く、高いガス拡散性が良好に維持され、耐久性も良好なものとなる。
また、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックが目開き34μm以上、150μm以下のメッシュを通過する2次凝集径のものでは、電池反応を行う触媒層の耐久性、寿命に影響を与える鉄分等の異物の除去を可能とする細かな目のメッシュフィルタを通過できるサイズのものであるから、電池の耐久性、寿命を低下させ難いものである。
こうして、請求項4の発明に係る燃料電池用ガス拡散層によれば、空隙率の高いマイクロポーラス層を有するから、ガス拡散層のガスの拡散性や水分管理性の性能向上を図ることができるものである。
【0041】
請求項5の発明に係る燃料電池用ガス拡散層によれば、前記カーボンブラックと前記撥水性樹脂は、重量比で9/1~5/5の範囲内であるから、マイクロポーラス層の硬化塗膜において樹脂分による接着(結着、バインダ効果)性が良好でクラックがより生じ難く、かつ、過剰な樹脂分による空隙の閉塞が抑制される。よって、請求項4に記載の効果に加えて、マイクロポーラス層は塗膜強度とガスや水分の透過性とを両立できる。
【0042】
請求項6の発明に係るマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法によれば、分散剤が混合された溶媒に、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックと撥水性樹脂を混合して薄膜旋回法により攪拌するものであり、薄膜旋回法による高シェアで配合材料を分散することで、高DBP吸収量のカーボンブラックの二次凝集体を解砕することができ、ペーストの粘度上昇を抑えることができる。したがって、高DBP吸収量のカーボンブラックの二次凝集体が解砕され粘度上昇が抑えられたマイクロポーラス層形成用塗工ペーストによれば、導電性多孔質基材の表面に対し良好な塗工性で塗布でき、塗布されたペーストが乾燥・焼成されることにより形成されるマイクロポーラス層においては、高DBP吸収量のカーボンブラックが高ストラクチャによる高空隙率を有することで、空隙率(気孔率)が高いものとなる。
【0043】
特に、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックが目開き34~154μmの範囲内のメッシュを通過する2次凝集径のものでは、ペーストの良好な塗工性によりマイクロポーラス層が良好な表面平滑性を有し、高空隙率とクラックが生じ難い塗膜強度とを両立できる。即ち、高空隙率で、かつ、表面平滑性が良くクラックも少なくて触媒層への密着性が良好となるマイクロポース層を形成できる。よって、係るマイクロポーラス層は、水分が溜り難くて排水性が高く、高いガス拡散性が良好に維持され、耐久性も良好なものとなる。
したがって、請求項6の発明に係るマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法によれば、空隙率が高く、ガス拡散層の拡散性や水分管理性の性能向上を図ることができるマイクロポーラス層を形成できる塗工ペーストが得られる。
【0044】
請求項7の発明に係るマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法によれば、分散剤が混合された溶媒に、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックと撥水性樹脂を混合して周速25m/s以上、60m/s以下で攪拌するものであり、周速25m/s以上、60m/s以下の攪拌による高シェアで配合材料を分散することで、高DBP吸収量のカーボンブラックの二次凝集体を解砕することができ、ペーストの粘度上昇を抑えることができる。したがって、高DBP吸収量のカーボンブラックの二次凝集体が解砕され粘度上昇が抑えられたマイクロポーラス層形成用塗工ペーストによれば、導電性多孔質基材の表面に対し良好な塗工性で塗布でき、塗布されたペーストが乾燥・焼成されることにより形成されるマイクロポーラス層においては、高DBP吸収量のカーボンブラックが高ストラクチャによる高空隙率を有することで、空隙率(気孔率)が高いものとなる。
【0045】
特に、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックが目開き34~154μmの範囲内のメッシュを通過する2次凝集径のものでは、ペーストの良好な塗工性によりマイクロポーラス層が良好な表面平滑性を有し、高空隙率とクラックが生じ難い塗膜強度とを両立できる。即ち、高空隙率で、かつ、表面平滑性が良くクラックも少なくて触媒層への密着性が良好となるマイクロポース層を形成できる。よって、係るマイクロポーラス層は、水分が溜り難くて排水性が高く、高いガス拡散性が良好に維持され、耐久性も良好なものとなる。
したがって、請求項7の発明に係るマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法によれば、空隙率が高く、ガス拡散層の拡散性や水分管理性の性能向上を図ることができるマイクロポーラス層を形成できる塗工ペーストが得られる。
【0046】
請求項8の発明に係るマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法によれば、更に、前記攪拌後に、目開き34~154μmの範囲内のメッシュを通過させるものであるから、触媒層の耐久性、寿命に影響を与える鉄分等の異物が少ないものが得られる。よって、請求項6または請求項7に記載の効果に加えて、電池の耐久性、寿命を低下させることないマイクロポーラス層を形成できる塗工ペーストが得られる。
【0047】
請求項9の発明に係るマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法によれば、前記攪拌前に、分散剤、溶媒、カーボンブラック、及び撥水性樹脂の混合物をディスパまたはタービン・ステータ型攪拌式でプレ攪拌する。このように、ディスパまたはタービン・ステータ型攪拌式でプレ攪拌してから、薄膜旋回法または周速25m/s以上、60m/s以下で攪拌するものでは、プレ攪拌でカーボンブラックと溶媒との馴染みを良くでき、更に、攪拌脱泡できることにより、カーボンブラックの二次凝集径の分布のバラつきを抑えることが可能であり、また、気泡も少なくできる。したがって、請求項6または請求項7に記載の効果に加えて、空隙の分布のバラつきが抑制されたより均一なマイクロポーラス層を形成できる塗工ペーストが得られる。
【0048】
請求項10の発明に係るマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法によれば、前記攪拌前に、分散剤、溶媒、カーボンブラック、及び撥水性樹脂の混合物を周速1m/s以上、周速20m/s以下でプレ攪拌する。このように、低シェアでプレ攪拌したのち、高シェアで拡散するものでは、プレ攪拌でカーボンブラックと溶媒との馴染みを良くでき、カーボンブラックの二次凝集径の分布のバラつきを抑えることが可能である。したがって、請求項6または請求項7に記載の効果に加えて、空隙の分布のバラつきが抑制されたマイクロポーラス層を形成できる塗工ペーストが得られる。
【0049】
請求項11の発明に係るマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法によれば、前記カーボンブラックと前記撥水性樹脂は、重量比で9/1~5/5の範囲内であるから、形成するマイクロポーラス層の硬化塗膜において樹脂分による接着性(結着性、バインダ効果)が良好でクラックが生じ難く、かつ、過剰な樹脂分による空隙の閉塞が抑制される。よって、請求項6または請求項7に記載の効果に加えて、塗膜強度とガスや水分の透過性とを両立したマイクロポーラス層を形成できる塗工ペーストが得られる。
【0050】
請求項12の発明に係るマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造法によれば、せん断速度50s-1における粘度が0.05Pa・s~1.0Pa・sの範囲内であるから、ガス拡散層を構成する導電性多孔質基材への塗布時にペーストの裏抜け(ペーストの塗布面とは反対側の導電性多孔質基材の裏面側に抜ける現象)を抑制でき、かつ、所望の塗工幅で平滑性が良好なマイクロポーラス層の硬化塗膜を形成できて塗工性が良好なものとなる。よって、導電性多孔質基材の空隙率を低下させることなく、平滑なマイクロポーラス層が得られ触媒層への密着性を高めることができるから、請求項6または請求項7に記載の効果に加えて、ガス拡散層の性能をより良好に発揮できるマイクロポーラス層を形成できる塗工ペーストが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1図1は本発明の実施の形態に係るマイクロポーラス層形成用塗工ペーストを導電性多孔質基材に塗布して形成したガス拡散層を用いた固体高分子形燃料電池の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
なお、実施の形態において、同一の記号及び同一の符号は、実施の形態中の同一または相当する機能部分を意味するものであるから、ここでは重複する詳細な説明を省略する。
【0053】
[実施の形態]
まず、本実施の形態に係るマイクロポーラス層形成用塗工ペーストが塗布されマイクロポーラス層が形成された燃料電池用ガス拡散層が組み込まれる固体高分子形燃料電池(単セル)の構造について、図1の概略構成図を参照しながら説明する。なお、図中、アノード側をA、カソード側をKとする。
【0054】
図1に示すように、ガス拡散層14(カソード側ガス拡散層14K,アノード側ガス拡散層14A)は、白金、金、パラジウム等の貴金属触媒をカーボンで担持した触媒担持カーボン及びイオン交換樹脂からなり酸化ガスまたは燃料ガスが反応する触媒層13(カソード側触媒層13K,アノード側触媒層13A)と接合し、一体となって電極12(カソード電極12K,アノード電極12A)を構成する。そして、ガス拡散層14は、特定イオンを選択的に透過する高分子電解質膜11(単セルの芯)の両面に触媒層13と共に配設されて、膜/電極接合体(MEGA)10を構成する。
この膜/電極接合体10は、カソード側ガス拡散層14Kの外側において酸化剤となる酸化ガスを供給する酸化ガス流路21Kを設けたカソード側セパレータ20K、また、アノード側ガス拡散層14Aの外側において燃料ガスを供給する燃料ガス流路21Aを設けたアノード側セパレータ20Aに挟持され、燃料電池1の単セル(single cell)を形成している。
【0055】
即ち、本実施の形態に係るマイクロポーラス層形成用塗工ペーストを適用するガス拡散層14が使用される燃料電池1は、高分子電解質膜11の一方の表面に、酸素ガス等の酸化ガスが反応するカソード側触媒層13K及びカソード側ガス拡散層14Kにより構成されるカソード電極12Kを配設し、他方の表面に、水素ガス等の燃料ガスが反応するアノード側触媒層13A及びアノード側ガス拡散層14Aにより構成されるアノード電極12Aを配設して、発電部を構成する膜/電極接合体10と、膜/電極接合体10のカソード電極12Kの表面に配置されるカソード側セパレータ20K及び膜/電極接合体10のアノード電極12Aの表面に配置されるアノード側セパレータ20Aとから構成される。
【0056】
ここで、本実施の形態に係るガス拡散層14(カソード側ガス拡散層14K,アノード側ガス拡散層14A)は、後述するマイクロポーラス層形成用塗工ペーストを導電性多孔質基材16(カソード側導電性多孔質基材16K,アノード側導電性多孔質基材16A)の表面に塗布して乾燥・焼成することにより、マイクロポーラス層(微多孔質層)15(カソード側マイクロポーラス層15K,アノード側マイクロポーラス層15A)が導電性多孔質基材16(カソード側導電性多孔質基材16K,アノード側導電性多孔質基材16A)の片面に形成されてなるものである。
そして、これらマイクロポーラス層15及び導電性多孔質基材16からなるガス拡散層14は、そのマイクロポーラス層15側が触媒層13に隣接し、導電性多孔質基材16側がセパレータ20に隣接して配設するように組み込まれ、燃料電池1を構成する。
【0057】
このようなセル構成により、外部から酸化ガスがカソード側セパレータ20Kの酸化ガス流路21Kに供給されると、酸化ガス流路21Kに沿って流れる酸化ガスのうち、一部がカソード側ガス拡散層14Kの導電性多孔質基材16K側表面より内部へ浸入する。なお、その他の未反応の酸化ガスは、酸化ガス流路21Kに沿って流れ、燃料電池1の外部へ排出される。同様に、外部から燃料ガスがアノード側セパレータ20Aの燃料ガス流路21Aに供給されると、燃料ガス流路21Aに沿って流れる燃料ガスのうち、一部がアノード側ガス拡散層14Aの導電性多孔質基材16A側表面より内部へ浸入する。その他の未反応の燃料ガスは、そのまま燃料ガス流路21Aに沿って流れ、燃料電池1の外部へ排出される。そして、酸化ガス及び燃料ガスが反応することにより、カソード側セパレータ20Kとアノード側セパレータ20Aとの間で電力が取り出されることになる。なお、導電性多孔質基材16の表裏の両面に、マイクロポーラス層15を形成してもよい。
【0058】
次に、このような構成の燃料電池1に組み込まれる燃料電池用ガス拡散層14(カソード側ガス拡散層14K,アノード側ガス拡散層14A)に適用されるマイクポーラス層15を形成するためのマイクロポーラス層形成用塗工ペーストについて説明する。
【0059】
本実施の形態のマイクロポーラス層形成用塗工ペースト(以下、『MPL塗工ペースト』と略記する場合がある)は、導電性材料であるカーボンブラック、撥水性樹脂、溶媒、カーボンブラックや撥水性樹脂を分散させる分散剤等を含有するものである。
【0060】
本実施の形態のMPL塗工ペーストに配合されるカーボンブラックは、DBP吸収量が300ml/100g以上、500ml/100g以下の範囲内、好ましくは、300ml/100g以上、480ml/100g以下の範囲内、より好ましくは、300ml/100g以上、450ml/100g以下の範囲内であるものである。こうした高DBP吸収量のカーボンブラックでは、その平均一次粒子径が、約25nm~45nmの範囲内であり、好ましくは、30nm~45nmの範囲内のものである。
【0061】
カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が使用できるが、好ましくは、アセチレンブラックである。アセチレンブラックは、高ストラクチャのものが得られるうえ、高純度で金属等の不純物が少なく、また、表面官能基が少なく、更に、高結晶であることで、ガス拡散性や強度や導電性の高いマイクロポーラス層15(以下、『MPL15』と略記する場合がある)を形成できる。
なお、こうしたカーボンブラックは、一次粒子が鎖状に繋がったストラクチャ構造、即ち、一次粒子が融着したアグリゲート(一次凝集体)構造を形成しており、更に、アグリゲート同士がファンデルワールス力により結合したアグロメレート(二次凝集体)が凝集して、粉状または粒状の凝集体の構造として存在するものである。因みに、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラックは、縮合ベンゼン環のπ電子の移動により導電性を発現するものである。
そして、カーボンブラックであれば、他のカーボンと比較しても低価格であるため、材料コストも低コストで済む。
【0062】
また、MPL塗工ペーストに配合される撥水性樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素系樹脂や、シリコーン樹脂等を使用できる。これらは1種を単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて使用することが可能である。
【0063】
これらの中でも、撥水性及び電極反応時の耐食性等に優れるフッ素系の高分子材料が好ましく、特に、高い撥水性が得られるフッ素樹脂のPTFEが好ましい。撥水性樹脂としてのPTFEは、テトラフルオロエチレンの単独重合体であってもよく、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等のハロゲン化オレフィン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)等の他のフッ素系単量体に由来する単位を含む変性PTFEであってもよい。
【0064】
また、撥水性樹脂は、平均分子量が5万~100万の範囲内であるものが好ましい。平均分子量が低すぎるものを使用した場合には、カーボンブラックの粒子を結合させるバインダとしての結着性が小さく、形成されるMPL15にクラックが発生しやすくなる。一方で、平均分子量の大きすぎるもの使用した場合には、他の原料と混合したときに繊維化して分散不良になり易くペーストの安定性が低下したり、攪拌時の剪断力により繊維化して固まり、濃度変化が生じたり、配管やポンプ、異物除去フィルタ等の目詰まりや塗膜の付着不良、表面不良を起こしたりする原因となる。なお、撥水性樹脂がフッ素系重合体である場合、フッ素系重合体は溶媒に溶解しにくいため、溶融粘度では平均分子量を測定しにくい。このため、比重と数平均分子量との関係から平均分子量を求める比重法が適用される。
【0065】
そして、通常、フッ素系樹脂等の撥水性樹脂は、そのままでは水には分散しないため、適当な分散剤(界面活性剤)によって水中に分散させたもの、例えば、PTFEエマルジョン等のフッ素系樹脂等の撥水性樹脂が乳化されたエマルジョンや、フッ素系樹脂等の撥水性樹脂が分散されたディスパージョン等の形態で配合される。即ち、組成物原料として混合する撥水性樹脂のエマルジョン等に予め分散剤が含まれている場合がある。
【0066】
因みに、エマルジョン(emulsion;「エマルション」ともいう。)とは、乳濁液ともいい、液体中に液体粒子がコロイド粒子或いはそれより粗大な粒子として乳状をなすもの(分散系)が本来の意味であるが(長倉三郎他編「岩波理化学辞典(第5版)」152頁,1998年2月20日株式会社岩波書店発行)、本明細書においては、より広い意味で一般的に用いられている「液体中に固体または液体の粒子が分散しているもの」として、ここでは「エマルジョン」という用語を用いるものとする。
【0067】
また、本実施の形態のMPL塗工ペーストでは、カーボンブラックや撥水性樹脂等の配合材料を溶媒中で分散、安定化等させるための分散剤が使用される。この分散剤としては、例えば、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(トリトンX-100等)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルエーテル等の非イオン系(ノニオン系)界面活性剤、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウムクロリド、アルキルピリジウムクロリド等のカチオン系界面活性剤、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、酸性基含有構造変性ポリアクリレート等のアニオン系界面活性剤といった界面活性剤や、ポリエチレンオキサイド系、メチルセルロース系、ヒドロキシエチルセルロース系、ポリエチレングリコール系(例えば、アルキルフェノールとポリエチレングリコールのエーテル類、高級脂肪族アルコールとポリエチレングリコールのエーテル類等)、ポリビニルアルコール系等の増粘剤を使用できる。
【0068】
これらの中でも、非イオン系(ノニオン系)の界面活性剤は、金属イオンの含有量が少ないため、短絡等による電池性能の低下を招く恐れが少なくて好ましく、特に、カーボンブラックと撥水性樹脂としてのPTFEエマルジョンを溶媒に分散させる場合には、これらカーボンブラック粒子やPTFE粒子の濡れ性を良くして分散性を高めるために、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(トリトンX-100)等が好適に用いられる。
なお、MPL15に要求される特性や配合材料に応じて界面活性剤または増粘剤といった分散剤の種類が選択され、分散剤が分散性及び増粘性の両方の機能を有することもある。
更に、必要に応じて、粘度調整のためのポリビニルアルコール系等の増粘剤が配合される場合もある。
【0069】
本実施の形態のMPL塗工ペーストの溶媒としては、イオン交換水等の水系の溶媒が使用される。イオン交換水等の水系の溶媒であれば、有機系溶剤を使用した場合よりも、PTFEエマルジョン等の撥水性樹脂の分散性が良くて撥水性樹脂が分離することもなく、良好な成膜性が得られる。また、塗工や焼成の際の作業性が良く、発火の恐れもない。更に、環境負荷にもならず、低コストである。
【0070】
こうした、本実施の形態のMPL塗工ペーストでは、固形分換算で、DBP吸収量が300ml/100g以上、500ml/100g以下の範囲内であるカーボンブラックが、好ましくは55~90質量%、より好ましくは、70~85質量%、更に好ましくは、75~80質量%の範囲内、撥水性樹脂が、好ましくは、10~45質量%、より好ましくは、15~30質量%の範囲内、更に好ましくは、20~25質量%の範囲内、分散剤が、カーボンを100質量部に対し、好ましくは、5~30質量部、より好ましくは、8~20質量部、更に好ましくは、10~15質量部の範囲内で配合される。
【0071】
そして、本実施の形態のMPL塗工ペーストは、溶媒と分散剤を混合し攪拌する分散剤混和・溶解工程と、分散剤が混和・溶解した溶媒に、DBP吸収量が300ml/100g以上、500ml/100g以下の範囲内であるカーボンブラック(通常、粉末または粒状)と、撥水性樹脂(通常、樹脂エマルジョンまたは樹脂ディスパージョン)とを混合し、それら混合物を薄膜旋回型攪拌機等により周速25m/s以上で攪拌する攪拌工程と、攪拌により配合材料が分散されたペーストを所定サイズのメッシュフィルタで濾過し、異物を取り除く濾過工程とを経て得られるものである。
【0072】
即ち、本実施の形態においては、まず、分散剤と溶媒を混合し攪拌することにより、溶媒に分散剤を混和・溶解させる分散剤混和・溶解工程を実施する。このときの攪拌手段及び攪拌条件は、分散剤を溶媒に均一に混和、溶解できれば特に限定されず、例えば、水に可溶な分散剤であればスターラによる攪拌(例えば、回転数:100~1500rpm(回転/分)、攪拌時間:1分~15分程度の攪拌条件)で均一な溶液にできる。
【0073】
次に、分散剤が混和・溶解された溶媒に対し、DBP吸収量が300ml/100g以上、500ml/100g以下の範囲内であるカーボンブラックと撥水性樹脂とを混合し、薄膜旋回型攪拌機等で周速25m/s以上で攪拌する攪拌工程を実施する。
上記周速25m/s以上での攪拌工程では、例えば、ホモミクサ、ホモディスパ、ネオカイザ(登録商標)、ネオミクサ(登録商標)、薄膜旋回型高速ミキサ、ホモミキサ等の高速攪拌機によって攪拌翼先端部における周速を25m/s以上で攪拌する。
特に、薄膜旋回型攪拌機による攪拌は、薄膜旋回法と呼ばれ、撹拌機の槽内全体を高エネルギ状態の乱流状態とするものである。このような攪拌方法によれば、乱流状態とする旋回流で凝集粒子が槽壁面に押し付けられて壁面に沿って旋回運動を行い、このとき、タービンの回転と溶媒の液流によって薄く引き伸ばされた旋回薄膜が形成され、壁面に押し付けられる遠心力と旋回流で移動しようとする力とのせん断応力でカーボンブラックの凝集体が解砕されることになる。更に、このような薄膜旋回法による攪拌では、液滴界面の安定化等により二次凝集体の再凝集(フロキュレーション)は防止され、二次凝集体の解砕状態が安定化されたものとなる。簡単な工程で時間をかけずに高DBP吸収量のカーボンブラックを高分散させ、また、分散安定化することできる。なお、分散剤によっても、こうした強大なシェアリングにより微分散された二次凝集体の再凝集(フロキュレーション)を防止し、二次凝集体の解砕状態を安定化することが可能である。
【0074】
薄膜旋回型攪拌機等での攪拌条件は、本発明者らの実験研究により、撹拌部の周速が遅過ぎる場合や攪拌時間が少なすぎる場合、カーボンブラックの凝集物が十分に解砕されないことで所定の目開きのメッシュフィルタを所定圧力条件下で通過させることが困難であることを確認したことから、攪拌部の周速を、25m/s以上とするのが好ましく、また、攪拌時間を、20秒以上とするのが好ましく、より好ましくは、25秒以上、更に好ましくは、30秒以上である。なお、周速の上限は、攪拌機の性能限界(最高周速)で有限値であり、60m/s程度であるが、本発明者らの実験研究によれば、周速50m/s以上でも所定の攪拌時間で所望とする粘度特性が得られることを確認している。特に、こうした薄膜旋回法による拡散では、周速や攪拌時間の条件によって、二次凝集径の制御も可能であり、MPL15の目的とする特性に応じて、カーボンブラックの二次凝集径を設計することも可能である。
【0075】
ここで、薄膜旋回型攪拌機等での攪拌時間が長すぎると、カーボンブラックの二次凝集径が細かくなってペーストの粘度の低下が大きくなり、ガス拡散層14を構成する導電性多孔質基材16へ塗布したときに、導電性多孔質基材16に浸透し厚みを通過する裏抜けが生じやすくなる。このため、多量の増粘剤の添加で粘度を上げる必要が生じる。しかし、多量の増粘剤を添加した場合には、ペースト塗布後の焼成・乾燥工程でその増粘剤を分解除去する負荷を増大させることになる。即ち、増粘剤は、焼成・乾燥工程の加熱で十分に分解されていないと、撥水性を悪くすることから、増粘剤を多量に添加した場合には、乾燥・焼成時間を長くとる必要が生じ、焼成・乾燥工程の負荷を増大させることになる。
攪拌部の周速を好ましくは、25m/s以上で、攪拌時間を、好ましくは、20秒~200秒、より好ましくは、25秒~150秒、更に好ましくは、30秒~100秒程度であれば、増粘剤の多量の添加を要することなく、せん断速度50S-1における粘度が0.05~1.0Pa・Sの範囲内の所望の粘度特性を得ることが可能である。
【0076】
そして、薄膜旋回法等により所定時間攪拌することによって、カーボンブラック製品に含まれる金属異物等を除去できる目開き154μm以下のメッシュ、即ち、100メッシュ以上をペーストが通過できるサイズにまでカーボンブラックの二次凝集体が解砕できればよい。但し、目の細かすぎるフィルタを通過させるサイズまで解砕しても、生産性が低下することから、上記攪拌によって、目開き34μm以上、目開き154μm以下のメッシュ、即ち、100メッシュ以上、400メッシュ以下、好ましくは、目開き45μm以上、目開き154μm以下のメッシュ、即ち、100メッシュ以上、300メッシュ以下、更に好ましくは、目開き45μm以上、目開き150μm以下のメッシュ、即ち、100メッシュ以上、300メッシュ以下を通過できるサイズに分散できればよい。
【0077】
ところで、本発明を実施する場合には、必要に応じ、薄膜旋回型攪拌機等で攪拌する前にディスパ型またはタービン・ステータ型等の撹拌機で攪拌するプレ攪拌(プレ分散)を行っても良い。
薄膜旋回型攪拌機等で攪拌する前に、ディスパ型またはタービン・ステータ型の撹拌機等で攪拌することで、配合材料が粗分散され、薄膜旋回型攪拌機等での攪拌後のカーボンブラックにおいて二次凝集径の分布のバラつきを抑えること(粒度分布をシャープに整えること)や分散の安定化が可能であり、安定性が高くなり、また、MPL15において空隙の分布のバラつきを抑制して安定した性能、均一な拡散性を得ることが可能となる。これは、薄膜旋回型攪拌機等による高シェアリングでの攪拌前に、ディスパ型またはタービン・ステータ型等の撹拌機による低シェアリングでの攪拌を行うことで、カーボンブラックの濡れ(湿潤)性、カーボンブラックと水溶媒との馴染みが向上し、高シェアな攪拌による分散性を高めることができるためと考えられる。そして、ストラクチャが高発達したカーボンブラックであれば、比表面積も大きいことで水分が吸着しやすく、濡れやすいものとも推測できる。なお、分散剤によってもカーボンブラックの濡れ(湿潤)性を向上させることが可能である。
【0078】
因みに、ディスパ型の撹拌機は、ディスクタービンやディゾルバと呼ばれる高速攪拌翼を高速回転させることで、剪断力を発生させるものである。また、タービン・ステータ型の撹拌機は、高速で回転するタービン羽根(ホモミキサ―)とその周囲を取り巻くように形成され回転しないステーター(固定環)とから構成され、それらの隙間(クリアランス)で剪断力を与えるものであり、例えば、ホモミクサ、櫛歯型タービン・ステータ、インライン型(ケーシング内にタービン・ステータ型が装着されたもの)の撹拌機が使用できる。なお、ディスパ型とタービン・ステータ側が組み合わされた複合の撹拌機を使用してもよい。これらは何れも局所的なエネルギの投入で剪断力を発生させるものである。
特に、ディスパ型またはタービン・ステータ型の撹拌機であれば、攪拌脱泡できることにより気泡の少ない均一な塗膜を形成できるペーストを作製できる。
【0079】
ディスパ型またはタービン・ステータ型の撹拌機等での攪拌条件は、周速1m/s以上、周速20m/s以下、好ましくは、周速10m/s以上、周速20m/s以下とする。このときの撹拌機の周速(回転数)が小さ過ぎる場合、カーボンブラック粒子の濡れ性を十分に向上させることができず、効果的にカーボンブラックの二次凝集径の分布のバラつきを抑制することができない。一方、撹拌機の回転数が所定以上では、周速(回転数)や攪拌時間を大きくしすぎしても、空運転(ボルテックス)が生じ、濡れ性、分散性の向上効果に影響がなく撹拌機の負荷、エネルギ消費を大きくさせるだけである。上記範囲内であれば、生産性良く低エネルギ量で効果的にカーボンブラックの二次凝集径の分布のバラつきを抑制することができる。
なお、これら攪拌によって泡が多量に発生する場合には、攪拌前または攪拌後に脱泡工程を設けてもよい。
【0080】
そして、本実施の形態において、薄膜旋回型攪拌機で攪拌した後は、その攪拌後のペーストを、所定の目開きのメッシュフィルタで濾過することにより鉄分等の異物の除去を行う濾過工程を実施する。
この濾過工程では、攪拌後のペーストを、ラムプレス(加圧式押出装置)等を使用して目開き154μm以下のメッシュ、即ち、100メッシュ以上のフィルタに通す。これにより、ペーストの配合材料中に含まれた異物、特に、カーボンブラック製品に含まれ短絡を生じさせることで触媒層13の耐久性、電池1の寿命に悪影響を及ぼす鉄分等の金属異物が除去される。目の細かすぎるフィルタであると生産性が低下することから、好ましくは、目開き34μm以上、目開き154μm以下のメッシュ、即ち、100メッシュ以上、400メッシュ以下、好ましくは、目開き45μm以上、目開き154μm以下のメッシュ、即ち、100メッシュ以上、300メッシュ以下、更に好ましくは、目開き45μm以上、目開き150μm以下のメッシュ、即ち、100メッシュ以上、300メッシュ以下のものであればよい。
【0081】
このとき、攪拌後のペーストのせん断速度50S-1における粘度が1.0Pa・Sを超えるものでは、異物を取り除くための細かいメッシュを通過させる際に圧力損失が大きくなり、生産性が低下する。このため、攪拌後のペーストのせん断速度50S-1における粘度が1.0Pa・Sを超えるものでは、所定のフィルタを通過させる前に、溶媒を添加してせん断速度50S-1における粘度が1.0Pa・S以下となるように減粘させる粘度調整を行うのが好ましい。より好ましくは、せん断速度50S-1における粘度が0.9Pa・S以下、更に好ましくは、0.5Pa・S以下に粘度調整する。
【0082】
更には、MPL塗工ペーストを導電性多孔質基材16に塗布した際のペーストの裏抜けを防止するために、導電性多孔質基材16に塗布するMPL塗工ペーストのせん断速度50S-1における粘度は、0.05Pa・S以上が好ましく、より好ましくは、0.1Pa・S以上である。
即ち、所定目開き(メッシュ)のフィルタを通過させたペーストについて、その粘度が低すぎると、ガス拡散層14を構成する導電性多孔質基材16へ塗布したときに、ペーストが導電性多孔質基材16に浸透し導電性多孔質基材16を通過して塗布面とは反対側の裏面に達する裏抜けが生じ、ペースト成分が導電性多孔質基材16の空隙を塞いでガスや水分の透過性を低下させることになる。
【0083】
このため、所定目開き(メッシュ)のフィルタによる濾過後のペーストのせん断速度50S-1における粘度が0.05Pa・S未満である場合には、増粘剤の添加により、せん断速度50S-1における粘度が好ましくは、0.05Pa・S以上、1.0Pa・S以下の範囲内となるように粘度調整する。増粘剤の添加によってせん断速度50S-1における粘度を上昇させすぎると、MPL塗工ペーストの塗工性が低下するうえ、上述したように、増粘剤を分解するための焼成・乾燥工程の負荷を増大させることになるから、導電性多孔質基材16に塗布するMPL塗工ペーストのせん断速度50S-1における粘度は、0.05Pa・S以上、1.0Pa・S以下の範囲内とするのが好ましく、より好ましくは、0.1Pa・S以上、0.9Pa・S以下、更に好ましくは、0.1Pa・S以上、1.0Pa・S以下の範囲内である。
【0084】
導電性多孔質基材16に塗布するMPL塗工ペーストのせん断速度50S-1における粘度が0.05Pa・S以上、1.0Pa・S以下の範囲内であれば、導電性多孔質基材16に塗布したときのペーストの裏抜けを防止して導電性多孔質基材16の良好な性能を発揮させることができ、かつ、焼成・乾燥工程の負荷を増大させることもなく、導電性多孔質基材16への塗工性(表面平滑性等)が良好であることで、触媒層13との密着性もよくてMPL15による良好な水分管理性、ガス拡散性が発揮される。なお、この目的とする粘度設定からすれば固形分率は変動することになる。
【0085】
このようにして調製されたMPL塗工ペーストは、燃料電池1用のガス拡散層14を構成する導電性多孔質基材16の表面に塗布したのち、乾燥・焼成することで、MPL15を構成する硬化塗膜となる。そして、図1に示すように、ガス拡散層電極基材としての導電性多孔質基材16と、その片面側または両面側に形成した硬化塗膜のMPL15とによって燃料電池用電極のガス拡散層14を構成する。
【0086】
ここで、本実施の形態のMPL塗工ペーストを塗布する導電性多孔質基材16としては、従来の燃料電池1(特に、固体高分子形燃料電池1)のガス拡散層14において一般的に用いられているもの、例えば、金属や黒鉛等の炭素材料(ナノカーボン材料を含む)が繊維状、粒子状、織布状、不織布状、メッシュ状、格子状、パンチング体、発泡体等の多孔質体の形態で構成されたものを用いることができ、ガス透過性と導電性を備える多孔質の基材が使用される。特に、ガス透過性等の観点から、カーボン繊維(炭素繊維、カーボン系繊維、カーボン系ファイバとも呼ばれる)が好ましく、黒鉛繊維等としてポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維等が使用される。基材の形態には、カーボンペーパ、カーボンクロス、カーボンフェルト(カーボン不織布)等のカーボン繊維シートが好適に使用される。これらは、燃料電池1の使用環境、運転条件等を考慮して選択される。こうした導電性多孔質基材16は、通常、10μm以上、100μm以下の範囲内に細孔径のピークを有する多孔体である。
【0087】
なお、必要に応じて、カーボンペーパ、カーボンクロス、カーボンフェルト等の導電性多孔質基材16には、ガス拡散層14の撥水性の向上等のために、撥水処理が施される。撥水処理する方法は、特に問われず、例えば、撥水剤を含むエマルション、ディスパージョン等に導電性多孔質基材16を浸漬したり、ダイコート、スプレーコート等によって導電性多孔質基材16に撥水剤を塗布する塗布したり、フッ素樹脂のスパッタリング等のドライプロセスにより加工したりすることで撥水処理を施すことができる。なお、撥水処理の後、必要に応じて乾燥、焼成を行っても良い。この撥水処理に使用する撥水剤としては、MPL塗工ペーストにも用いることができる上述した撥水性樹脂と同様のものが使用される。このときの撥水剤の量は特に限定されないが、撥水性と良好なガスの拡散経路、排水経路との両立の観点から、好ましくは、導電性多孔質基材16の全体100質量%中に0.1質量%~20質量%の範囲内とされる。
【0088】
燃料電池1用のガス拡散層14を構成する導電性多孔質基材16の厚さは、燃料電池1の運転条件等や求められる性能を考慮して設定されるが、導電性多孔質基材16が薄すぎると、強度が不足して安定的なガス拡散性、水分管理性、導電性等のガス拡散層14の性能が得られなくなったり、取扱い性(ハンドリング性)が悪く触媒層13との位置ずれが生じたりして、電池性能の低下を招く。また、導電性多孔質基材16が厚すぎても、抵抗の増大によりガス拡散性が低下し、高い電池性能を得ることができなくなる。このため、例えば、2μm以上、500μm以下、好ましくは、10μm以上、250μm以下、より好ましくは、70μm以上、150μm以下の厚みのものが使用される。
【0089】
また、本実施の形態のMPL塗工ペーストを導電性多孔質基材16に塗布する塗布手段としては、刷毛塗り、筆塗り、ロールコータ法、バーコータ法、ダイコータ法、ブレード法、ナイフコータ法、スピンコータ法、スクリーン印刷、ロータリースクリーン印刷、カーテンコーティング法、ディップコータ法、スプレーコータ法、グラビアコータ法、アプリケータ、スプレー噴霧等がある。特に、ダイコータ法は、導電性多孔質基材16の表面粗さによらず塗工量の定量化を図ることができるため、好適であるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0090】
そして、本実施の形態のMPL塗工ペーストは、導電性多孔質基材16の表面に塗布し、乾燥・焼成を行い、溶媒を乾燥除去することにより、導電性多孔質基材16の表面にMPL15を形成するが、このときの乾燥・焼成の温度は、界面活性剤等の分散剤や増粘剤を分解して除去でき、かつ、撥水性樹脂を熱分解させない温度であればよく、例えば、250~400℃の範囲内で、5~20分間加熱処理される。
このときの乾燥・焼成温度が低すぎると、乾燥・焼成時間を長くしても、分散剤等を十分に熱分解、揮発させて除去することができず、分散剤が残存してそれらの親水性基によって水分が捕捉されるため、形成するガス拡散層14において十分な撥水性を発現できない。一方で、乾燥・焼成温度が高すぎる場合、撥水性樹脂等の塗膜成分が熱分解されてMPL15の成分が劣化したり、大きな温度変化によりMPL15の変形が大きくなって平滑性が低下したり、亀裂が生じたりすることで、所望の要求性能を満たすMPL15の形成が困難となる。更に、乾燥・焼成工程での負荷や自然環境に与える負荷が増え、製造コストも高くなる。所定の温度範囲での乾燥焼成により、MPL塗工ペーストに含まれ界面活性剤等の分散剤や増粘剤を除去し界面活性剤等の分散剤や増粘剤による撥水性の阻害を防止でき、また、撥水剤の溶融によりカーボンブラックを結着させ、所望強度のMPL15を形成することができる。
【0091】
例えば、分散剤がポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(トリトンX-100)等であれば、乾燥・焼成温度は250~350℃の範囲に設定される。当該範囲内であれば、分散剤等が十分に分解・揮発することで、発電効率に大きく影響を与えるガス拡散層14の重要特性である撥水性を確保できて所望特性のMPL15を形成でき、また、導電性多孔質基材16との良好な接合性を確保することができる。なお、こうした熱処理を伴う乾燥・焼成工程において、乾燥と焼成の順序は特に問われず、乾燥と焼成が同時に行われることもある。また、主に分散剤の分解除去を行うための熱処理と、主に撥水性樹脂の溶融による結着を行うための熱処理とで温度や時間条件を変え、各熱処理を分けて行うことも可能である。
【0092】
本実施の形態のMPL塗工ペーストを導電性多孔質基材16に塗布するときの塗布膜厚は、燃料電池1の運転条件等やMPL15に要求される性能等を考慮して設定される。例えば、MPL塗工ペーストを導電性多孔質基材16に塗布して乾燥・焼成した後の硬化塗膜の厚み、即ち、乾燥膜厚であるMPL15の厚みが、1~300μmの範囲内、好ましくは、10~100μmの範囲内となるように設定される。
MPL15の厚み(硬化塗膜の乾燥膜厚)が薄すぎると、触媒層13との界面に液膜が生じるのを抑制する効果が少なく、また、導電性多孔質基材16の凹凸を吸収したり、導電性多孔質基材16の繊維が電解質膜11に突き刺さるのを阻止したりする効果が得られない。一方で、MPL塗工ペースの塗布膜厚が厚すぎると、乾燥・焼成による収縮によって表面平滑性が低下しやすく、触媒層13との接触抵抗が増大し密着性の低下による水分管理性の低下や導電性の低下を招く。また、乾燥膜厚が厚すぎると、厚さ方向の電気抵抗が高くなり、更に、ガス拡散抵抗も増す。
【0093】
MPL塗工ペーストを導電性多孔質基材16に塗布して乾燥・焼成した後の硬化塗膜の厚み、即ち、MPL15の乾燥膜厚が、1~300μmの範囲内であれば、表面平滑性の高いMPL15が得られ、良好なガスや水分の透過性、導電性の性能を確保できる。好ましくは、10~100μmの範囲内である。また、導電性多孔質基材16の厚みに対してMPL15の厚みが50%以下であるのが望ましい。厚みの差が適度な範囲内であれば、乾燥・焼成による導電性多孔質基材16とMPL15間における収縮応力が小さく、高い接合強度が得られる。また、ガス拡散層14全体の平滑性が高くなり触媒層13との接触抵抗が小さいものとなるから、触媒層13との良好な密着性により良好な水分管理性及び導電性が発揮される。
【0094】
このようにして導電性多孔質基材16にMPL塗工ペーストを塗布し、それらを乾燥・焼成することによって、MPL塗工ペースト中の分散剤や増粘剤及び溶媒(水分)が除去され、カーボンブラックが撥水性樹脂により結着されたMPL15としての硬化塗膜が導電性多孔質基材16上に形成される。このとき、MPL塗工ペーストが導電性多孔質基材16と共に乾燥焼成されることにより、MPL塗工ペースト中の撥水性樹脂の一部が溶融されてカーボンブラック同士を撥水性樹脂により結着すると共に、カーボンブラックと導電性多孔質基材16の炭素繊維等の導電性材料も結着することで、導電性多孔質基材16との接着性を良くし、形成されるMPL15を強固なものとする。
【0095】
こうして、カーボンブラックと、撥水性樹脂と、分散剤と、溶媒とを含有するMPL塗工ペーストを導電性多孔質基材16に塗布して乾燥・焼成することにより導電性多孔質基材16上に形成した硬化塗膜のMPL15は、カーボンブラック及び撥水性樹脂で構成され、細孔径が0.1~0.5μm程度の極微細な多孔質の層であり、カーボンブラックによる導電性を有し、また、撥水性樹脂による撥水性を有し、更に、細孔(空隙)により水分やガスの透過性を有するものである。
【0096】
そして、導電性多孔質基材16の表面にMPL塗工ペーストを塗布して、乾燥・焼成することにより、導電性多孔質基材16上にMPL15を形成してなる燃料電池用ガス拡散層14によれば、それが組み込まれた燃料電池1では、MPL15の存在によって隣接する触媒層13との境界で水分が溜り難くなり、ガス拡散性及び水分管理性が向上し発電性能が安定化する。また、MPL15の成分調節により、導電性多孔質基材16のみでは困難である電池の使用環境や運転条件等に応じた性能の細かな制御性を獲得できる。更に、MPL15によって導電性多孔質基材16の起伏を吸収して平滑な表面が得られる。即ち、導電性多孔質基材16の炭素繊維のほつれや毛羽立ちが触媒層13や高分子電解質膜11に突き刺さったり接触したりすることによる短絡(ショート)の発生をMPL15によって回避できる。
【0097】
特に、本実施の形態のMPL塗工ペーストによれば、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内である高DBP吸収量のカーボンブラックの二次凝集体が解砕されたものであるから、ペーストの粘度上昇が抑えられて、導電性多孔質基材16の表面に対し所望とする幅広な塗布幅で塗布できて塗工スジが生じ難く良好な塗工性が得られ、生産性もよい。更に、本実施の形態のMPL塗工ペーストから形成されたMPL15は、塗工スジ等の凹凸や起伏が少なくて表面平滑性が良く、触媒層13との密着性が良いものとなり、触媒層13への食い込みも少なくて機械的ストレスを与え難いものである。また、周速25m/s以上の薄膜旋回法等による高シェア分散で高DBP吸収量のカーボンブラックの二次凝集体が解砕されたものであることで、凝集体の再凝集が生じ難く保存安定性も良いものである。
【0098】
そして、高DBP吸収量のカーボンブラックが高ストラクチャによる高空隙率を有することで、形成されたMPL15は空隙率(気孔率)が高く、また、空隙を均一に分布でき、高ストラクチャによるガスや水分の通路の形成により、ガスや水分の拡散性や排水性を高めることができる。よって、フラッティング(MPL内に生成水の溜りが生じる現象)が生じ難くなり、フラッティングによるガス拡散性の阻害が防止され、また、触媒層13との境界で溜まった水分が凍結することによるガス拡散性の阻害やMPL15の劣化が防止され、電池出力の安定化を図ることができる。
【0099】
また、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックが目開き34μm以上、154μm以下のメッシュ(100メッシュ以上、400メッシュ以下)を通過する2次凝集径のものでは、ペーストの良好な塗工性によりMPL15において良好な表面平滑性を確保できるうえ、高空隙率とクラックが生じ難い塗膜強度とを両立できる。よって、高い空隙率であるも表面平滑性が良好でクラックが生じ難く触媒層13への密着性が良好なMPL15の形成により、そのMPL15は、水分が溜り難くて、即ち、フラッティングが生じ難くて、安定した排水性やガス拡散性が得られ、また、塗膜の欠落も生じが難く耐久性も良好なものとなる。触媒層13との密着性が良いことで、接触面での接触抵抗を少なくすることもでき、また、クラックが生じ難く導電性を良好に発揮できるから、発電効率も良くできる。更に、スタッキングのセパレータからの締圧力に耐え得るものであり、セパレータからの締圧力によっても空隙が潰れ難いものでもある。
したがって、空隙率の高いMPL15を形成でき、MPL15のガスや水分の透過性を向上させることが可能であり、MPL15が形成されるガス拡散層14のガス拡散性や水分管理性の性能向上を図ることが可能である。
【0100】
そして、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックが目開き34μm以上、154μm以下のメッシュ(100メッシュ以上、400メッシュ以下)を通過する2次凝集径のものでは、電池反応を行う触媒層13の耐久性、寿命に影響を与える鉄分等の異物の除去を可能とする細かな目のメッシュフィルタを通過できるサイズのものであるから、歩留まりもよく、目開き34μm以上、154μm以下のメッシュ(100メッシュ以上、400メッシュ以下)のフィルタによる濾過で鉄分等の異物の除去できることで、電池の耐久性、寿命を低下させ難いものとなる。
【0101】
次に、本実施の形態に係るMPL塗工ペーストの実施例、また、本実施の形態のMPL塗工ペーストを用いて作製した燃料電池用ガス拡散層(ガス拡散電極)14の実施例について、比較例と共に説明する。
本実施例及び比較例のMPL塗工ペーストは、カーボンブラック、撥水性樹脂、分散剤、及び溶媒を配合したものである。
【0102】
カーボンブラックとしては、アセチレンブラック(例えば、電気化学工業(株)製の「デンカブラック(登録商標)」)を用い、撥水性樹脂としては、フッ素樹脂であるPTFEのエマルジョン(ダイキン工業(株)製:POLYFLON PTFE D-210C[固形分(樹脂分)61%])を用い、分散剤としては、界面活性剤のトリトンX-100を用い(カーボン比で10%の配合)、溶媒としては、イオン交換水を用いた。なお、PTFEエマルジョンには、撥水性樹脂としてのPTFE微粒子を安定化させるための非イオン系界面活性剤(分散剤)も含まれているものである。
【0103】
【表1】
【0104】
各実施例及び比較例においては、まず、溶媒と分散剤を混合し、スターラを使用して攪拌速度300rpmで10分程度攪拌し、溶媒に分散剤を溶解させた(分散剤混和・溶解工程)。次に、分散剤が溶解した溶媒に、表1に示した所定のカーボンブラックと、PTFEのエマルジョンとを混合し、タービン・ステータ型の高速攪拌機であるホモミクサー(プライミクス株式会社製の「ホモミクサーMARK II 2.5型」)を使用して30
00rpmで30分程度攪拌した後、薄膜旋回式高速攪拌機であるフィルミックスR(プライミクス株式会社製の「フィルミックスR56-L型」)を使用して、表1に示した所定の条件で攪拌した(攪拌工程)。
【0105】
実施例1乃至実施例4、実施例7、比較例1及び比較例2では、薄膜旋回法による攪拌後のペーストの粘度を測定し、せん断速度50S-1における粘度が0.5Pa・s以下の範囲内であるペーストについては、そのまま粘度調整を行うことなく、ラムプレス機を使用して0.45MPaの圧力下(押圧力)で目開き45μmのメッシュ(300メッシュ)のフィルタを通過させることで鉄異物等を除去するためのフィルタ濾過を行った(濾過工程)。更に、フィルタ通過後のペースト粘度を測定して、せん断速度50S-1における粘度が0.1Pa・s以上、0.5Pa・s以下の範囲内のものについてはそれがそのまま仕上がり粘度のMPL塗工ペーストとされ、0.1Pa・s未満のものについては増粘剤を添加して、仕上がり粘度が0.1Pa・s以上、0.5Pa・s以下の範囲内となるように粘度調整し、仕上がり粘度が0.1Pa・s以上、0.5Pa・s以下の範囲内のMPL塗工ペーストを得た。
【0106】
一方、薄膜旋回法による攪拌後のペーストの粘度が、せん断速度50S-1における粘度で0.5Pa・sを超えたものについては、溶媒(イオン交換水)を添加して粘度が0.1Pa・s以上、0.5Pa・s以下の範囲内となるように粘度調整してから、ラムプレス機を使用して0.45MPaの圧力下(押圧力)で目開き45μmのメッシュ(300メッシュ)のフィルタを通過させることで鉄異物等を除去するためのフィルタ濾過を行った(濾過工程)。更に、フィルタ通過後のペースト粘度を測定して、上述と同様、せん断速度50S-1における粘度が0.1Pa・s以上、0.5Pa・s以下の範囲内のものについてはそれがそのまま仕上がり粘度のMPL塗工ペーストとされ、0.1Pa・s未満のものについては増粘剤を添加して、仕上がり粘度が0.1Pa・s以上、0.5Pa・s以下の範囲内となるように粘度調整し、仕上がり粘度が0.1Pa・s以上、0.5Pa・s以下の範囲内のMPL塗工ペーストを得た。
【0107】
実施例5については、薄膜旋回法による攪拌後、ラムプレス機を使用して0.45MPaの圧力下(押圧力)で目開き45μmのメッシュ(300メッシュ)のフィルタを通過させて鉄異物等を除去するためのフィルタ濾過を行った(濾過工程)後に、仕上がり粘度がせん断速度50S-1における粘度で0.05Pa・sとなるように溶媒を添加し、仕上がり粘度がせん断速度50S-1における粘度で0.05Pa・sとしたMPL塗工ペーストを得た。
実施例6については、薄膜旋回法による攪拌後、仕上がり粘度がせん断速度50S-1における粘度で1.0Pa・sとなるように増粘剤を添加してから、ラムプレス機を使用して0.45MPaの圧力下(押圧力)で目開き45μmのメッシュ(300メッシュ)のフィルタを通過させて鉄異物等を除去するためのフィルタ濾過を行い(濾過工程)、仕上がり粘度がせん断速度50S-1における粘度で1.0Pa・sとしたMPL塗工ペーストを得た。
【0108】
ここで、実施例1乃至実施例6では、DBP吸収量が315ml/100gのカーボンブラックA(電気化学工業(株)製の「デンカブラックLi-250」、平均一次粒子径:37nm、比表面積:58m2/g、ヨウ素吸着量:82mg/g)(以下、「カーボンA」と略記する)を使用してMPL塗工ペーストを作製した。
【0109】
実施例1は、DBP吸収量が315ml/100gのカーボンAを使用し、カーボン//フッ素樹脂(固形分)の配合比率を9/1とし、薄膜旋回法による攪拌では、周速25m/sで30秒間攪拌を行い、仕上がり粘度がせん断速度50S-1における粘度で0.5Pa・sであるMPL塗工ペーストである。なお、実施例1に係るMPL塗工ペーストにおいては、カーボンブラック、フッ素樹脂、分散剤等の固形分比率が15%のものである。
実施例2は、DBP吸収量が315ml/100gのカーボンAを使用し、カーボン/フッ素樹脂(固形分)の配合比率を9/1とし、薄膜旋回法による攪拌では、周速50m/sで30秒間攪拌を行い、仕上がり粘度がせん断速度50S-1における粘度で0.1Pa・sであるMPL塗工ペーストである。なお、実施例2に係るMPL塗工ペーストの固形分比率も15%である。
実施例3は、DBP吸収量が315ml/100gのカーボンAを使用し、カーボン/フッ素樹脂(固形分)の配合比率を5/5とし、薄膜旋回法による攪拌では、周速25m/sで100秒間攪拌を行い、仕上がり粘度がせん断速度50S-1における粘度で0.1Pa・sであるMPL塗工ペーストである。なお、実施例3に係るMPL塗工ペーストの固形分比率も15%である。
【0110】
実施例4は、DBP吸収量が315ml/100gのカーボンAを使用し、カーボン/フッ素樹脂(固形分)の配合比率を5/5とし、薄膜旋回法による攪拌では、周速25m/sで30秒間攪拌を行い、仕上がり粘度がせん断速度50S-1における粘度で0.5Pa・sであるMPL塗工ペーストである。なお、実施例4に係るMPL塗工ペーストの固形分比率は20%である。
【0111】
実施例5は、DBP吸収量が315ml/100gのカーボンAを使用し、カーボン/フッ素樹脂(固形分)の配合比率を9/1とし、薄膜旋回法による攪拌では、周速25m/sで30秒間攪拌を行い、仕上がり粘度をせん断速度50S-1における粘度で0.05Pa・sとしたMPL塗工ペーストである。なお、実施例5に係るMPL塗工ペーストの固形分比率は12%である。
実施例6は、DBP吸収量が315ml/100gのカーボンAを使用し、カーボン/フッ素樹脂(固形分)の配合比率を9/1とし、薄膜旋回法による攪拌では、周速25m/sで30秒間攪拌を行い、仕上がり粘度をせん断速度50S-1における粘度で1.0Pa・sとしたMPL塗工ペーストである。なお、実施例6に係るMPL塗工ペーストの固形分比率は15%である。
【0112】
更に、実施例7では、DBP吸収量が425ml/100gのカーボンブラックB(電気化学工業(株)製の「デンカブラックLi-100」、平均一次粒子径:35nm、比表面積:68m2/g、ヨウ素吸着量:92mg/g))(以下、「カーボンB」と略記する)を使用してMPL塗工ペーストを作製した。
実施例7は、DBP吸収量が425ml/100gのカーボンBを使用し、カーボン/フッ素樹脂(固形分)の配合比率を9/1とし、薄膜旋回法による攪拌では、周速25m/sで30秒間攪拌を行い、仕上がり粘度がせん断速度50S-1における粘度で0.5Pa・sであるMPL塗工ペーストである。なお、実施例7に係るMPL塗工ペーストの固形分比率は8%である。
【0113】
一方、比較例1においては、DBP吸収量が220ml/100gのカーボンブラックC(電気化学工業(株)製の「デンカブラックLi-400」、平均一次粒子径:48nm、比表面積:39m2/g、ヨウ素吸着量:52mg/g))(以下、「カーボンC」と略記する)を使用してMPL塗工ペーストを作製した。
比較例1は、DBP吸収量が220ml/100gのカーボンCを使用し、カーボン/フッ素樹脂(固形分)の配合比率を9/1とし、薄膜旋回法によるによる攪拌では、周速10m/sで30秒間攪拌を行い、仕上がり粘度がせん断速度50S-1における粘度で0.5Pa・sであるMPL塗工ペーストである。なお、比較例1に係るMPL塗工ペーストの固形分比率は13%である。
【0114】
また、比較例2においては、DBP吸収量が510ml/100gのカーボンD(電気化学工業(株)製の「デンカブラックLi-435」、平均一次粒子径:23nm、比表面積:133m2/g、ヨウ素吸着量:180mg/g))(以下、「カーボンD」と略記する)を使用してMPL塗工ペーストを作製した。
この比較例2は、DBP吸収量が510ml/100gのカーボンDを使用し、カーボン/フッ素樹脂(固形分)の配合比率を5/5とし、薄膜旋回法による攪拌では、周速10m/sで30秒間攪拌を行い、仕上がり粘度がせん断速度50S-1における粘度で0.5Pa・sであるMPL塗工ペーストである。なお、比較例2に係るMPL塗工ペーストの固形分比率は13%である。
【0115】
なお、上記カーボンブラックのDBP吸収量(ml/100g)は、JIS K 6217-4に準拠し、S-500吸収量測定装置(あさひ総研社製)を用いて、カーボンブラックにDBP(フタル酸ジブチル)を添加したときの粘度特性の変化によって発生するトルクを検出し、最大トルクの70%時のDBP添加量を試料100g当たりに換算して求めたものである。
また、上記粘度は、E型粘度計(東機産業製)を使用して測定したものである。
【0116】
ここで、各実施例及び比較例のMPL塗工ペーストについて、鉄異物等を除去するための所定のフィルタに対する通過性の評価を行った。各実施例及び比較例のMPL塗工ペーストは、上述したように、ラムプレス機を使用して目開き45μmの300メッシュのフィルタに対して0.45MPaの押圧力で押出して通過させたものであるが、そのときの0.45MPaの押出圧力で目開き45μmの300メッシュのフィルタを全く変形させることなく通過させることができたMPL塗工ペーストについては、カーボンブラックの凝集物(凝集粒子)によるフィルタの目詰まりが抑制されており、カーボンブラック製品に含有する鉄異物等を除去するための細かい目のフィルタを容易に通過できて生産性が良好であり、また、導電性多孔質基材16に塗布する際の粘度特性(流動特性)も良くて、平滑性が良好な塗工性が得られるものとして◎の評価とし、MPL塗工ペーストの押出の際に、フィルタがやや変形したものについては〇と評価し、フィルタが破れたものは、生産性の低下、鉄異物等の除去率が低下することから×と評価した。このときの評価結果は表1の下段に示した通りである。
【0117】
更に、各実施例及び比較例に係るMPL塗工ペーストは、薄膜塗布工具(ダイヘッド)を用いて移動速度1.0m/min、目付け3.5mg/cm2の条件で、導電性多孔質基材16として、フッ素樹脂溶液に含浸して撥水処理した不織布炭素繊維シートの片面に塗布し、300℃で10分間乾燥、焼成させた。これより、導電性多孔質基材16としての撥水処理された不織布炭素繊維シートの表面に塗布したMPL塗工ペーストからMPL15となる硬化塗膜を形成し、不織布炭素繊維シートからなる導電性多孔質基材16とMPL塗工ペーストから形成された硬化塗膜からなるMPL15とで構成されるガス拡散層14を作製した。
【0118】
このとき各実施例及び比較例に係るMPL塗工ペーストについて、導電性多孔質基材16としての撥水処理された不織布炭素繊維シートに塗布したときのぺーストの粘度特性を裏抜け(ペーストが塗布面とは反対側の導電性多孔質基材16の裏面側に抜ける現象)の様子から観察した。各実施例及び比較例のMPL塗工ペーストにおいて、撥水処理された不織布炭素繊維シートに塗布を行ったときに、撥水処理された不織布炭素繊維シートにMPL塗工ペーストが浸み込んでも不織布炭素繊維シートの塗布面とは反対側の面で、MPL塗工ペーストの浸み込み部分の外接円が6mm2/個以下であれば、MPL塗工ペーストの成分が導電性多孔質基材16の空隙(孔)を埋めることによる水分やガスの透過性低下が抑制されており、ペースト成分の裏抜けを抑制できる適度に高い粘度特性(流動特性)であるとして◎と評価し、外接円が6mm2/個を超える個数が3個/m2以下のものについては〇と評価した。
【0119】
更に、各実施例及び比較例のMPL塗工ペーストを撥水処理された不織布炭素繊維シートに塗布し、乾燥・焼成することにより不織布炭素繊維シート上に形成されたMPL15としての硬化塗膜について、光学顕微鏡を用いて表面クラックの有無を確認した。具体的には、不織布炭素繊維シート上に形成されたMPL15としての硬化塗膜の任意の10か所で10mm×10mmのサイズで光学顕微鏡写真を1枚ずつ撮影し、任意の10か所のうち、9か所以上で、長軸の長さ0.5mm以上のクラック(塗膜の亀裂)が2つ以下であれば、塗膜強度に優れると判断して◎と評価し、8か所以上で長軸の長さ0.5mm以上のクラックが3つ以上のものは、実用的でないと判断し×と評価した。
【0120】
また、各実施例及び比較例のMPL塗工ペーストを撥水処理された不織布炭素繊維シートに塗布し、乾燥・焼成することにより不織布炭素繊維シート上に硬化塗膜を形成して作製した、不織布炭素繊維シートからなる導電性多孔質基材16とMPL塗工ペーストから形成された硬化塗膜からなるMPL15とで構成されるガス拡散層14について、そのガス拡散抵抗を測定して、ガス拡散性を評価した。具体的には、作製したガス拡散層14から、直径4.7cmの円形サンプルを切り出し、そのガス拡散層サンプルのMPL15側の面から反対側の面に向かって、空気を58cc/min/cm2の流速で透過させたちときの、MPL15側の面とその反対側の面(不織布炭素繊維シートの面)との差圧を差圧計で測定することによりガス拡散抵抗を調べた。このときの差圧が小さいほどガス拡散抵抗が小さくガス拡散性(ガス透過性)が高いといえ、ガス拡散抵抗が25mmAq以下のものは、ガス拡散性に優れるものと判断して◎と評価し、25mmAqを超え50mmAq以下のものについては、×と評価した。
これらの評価結果は表1の下段に示した通りである。
【0121】
表1に示したように、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラック、詳細には、DBP吸収量が315ml/100gであるカーボンAやDBP吸収量が425ml/100gであるカーボンBを使用し、配合材料をタービン・ステータ型攪拌式で攪拌したのち、薄膜旋回法により周速25m/s以上の高シェアで攪拌して作製した実施例1乃至実施例7のMPL塗工ペーストでは、何れも、目開き45μmのメッシュ(300メッシュ)のフィルタに対し0.45MPaの押圧力でフィルタを大きく変形させることなく、即ち、目詰まりを生じさせることなく容易に通過できたものであった。
【0122】
また、実施例1乃至実施例7のMPL塗工ペーストでは、何れも、導電性多孔質基材16としての不織布炭素繊維シートに塗布した際にもペーストの裏抜けが少なく、適度な粘度特性で塗工性に優れるものであった。
更に、実施例1乃至実施例7のMPL塗工ペーストを撥水処理された不織布炭素繊維シートに塗布して、乾燥・焼成させることで形成したMPL15の硬化塗膜は表面のクラックが少なくて塗膜強度に優れるものであった。
【0123】
そして、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックを使用した実施例1乃至実施例7のMPL塗工ペーストによれば、ガス拡散性に優れるガス拡散層14を得ることができた。
即ち、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックを使用した実施例1乃至実施例7のMPL塗工ペーストを撥水処理された不織布炭素繊維シートに塗布して、乾燥・焼成させることで作製した硬化塗膜からなるMPL15と不織布炭素繊維シートからなる導電性多孔質基材16とで構成されたガス拡散層14については、DBP吸収量が220ml/100gであるカーボンブラックを使用した比較例1のものと比較して、差圧が小さくてガス透過性が向上し、ガス拡散性に優れるものであった。
これは、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックでは、ストラクチャ構造が発達していることで、高シェアで分散されていてもその一次凝集体では高空隙が維持されているため、MPL塗工ペーストの硬化塗膜として形成されたMPL15の空隙率を高めることができたためである。
【0124】
これに対し、DBP吸収量が300ml/100g未満であるカーボンブラック、詳細には、DBP吸収量が220ml/100gであるカーボンCを用いた比較例1のMPL塗工ペーストでは、せん断速度50S-1における粘度が0.5Pa・Sの仕上がり粘度であっても、得られたガス拡散層14はガス拡散性に劣るものであった。
【0125】
また、DBP吸収量が500ml/100gを超えるカーボンブラック、詳細には、DBP吸収量が510ml/100gであるカーボンDを用いた比較例2のMPL塗工ペーストから形成されたMPL15の硬化塗膜においては、クラックが多く見られ、塗膜強度に劣るものであった。
これは、DBP吸収量が500ml/100gを超えるカーボンブラックでは、ストラクチャ構造が大きく発達していることで、高シェアで分散され二次凝集体が解砕されてもその一次凝集体では高空隙率が維持されており、DBP吸収量が500ml/100gを超えるカーボンブラックではMPL15の空隙率が高くなりすぎることで、塗膜強度が低下しクラックが多く生じたものと推測できる。
【0126】
即ち、DBP吸収量が高すぎるものでは、空隙率が高くなり過ぎることでMPL15の硬化塗膜が脆くなるが、MPL15の硬化塗膜が脆いと、触媒層13との密着性も低下することで、MPL15内に生成水の溜りができるフラッティングが生じやすくなり、ガス拡散性及び排水性が低下して、電池性能が低下することになる。即ち、MPL15の表面クラックが多いと、燃料電池1に組み込まれた際に触媒層13とガス拡散層14の密着性が低下し、それらの層間に空隙が生じそこに液水が溜まることで水分管理性が低下することになる。一方、塗膜の厚みを増やすことで、所定の強度を得る対応も可能であるが、MPL15の厚みが増えるとガス拡散抵抗が増大しガス拡散性等を低下させることになり、電池性能の低下を招くことになる。
これに対し、実施例1乃至実施例7のMPL塗工ペーストによれば、MPL15のクラックが生じ難い塗膜強度が得られることで、触媒層13との密着性も良くてフラッティングを抑制できることでガスや水分の透過性、水分管理性が低下することなく安定した電池性能を得ることが可能となる。
【0127】
こうして、実施例1乃至実施例7のMPL塗工ペーストでは、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックを使用し、そのカーボンブラックと、撥水性樹脂としてのフッ素樹脂とを分散剤が溶解された水に混合し、それらを薄膜旋回型の高速攪拌機によって高シェアで攪拌することで、ストラクチャが高発達したカーボンブラックであってもその二次凝集体が数μmまで解砕されたことにより、0.45MPaの押圧力下で、金属分等の異物を取り除くことができる目開き45μmのメッシュ(300メッシュ)の目の細かいフィルタを目詰まりさせることなく通過させることができる。よって、生産性を低下させることなく、電池の耐久性、寿命の低下を招くカーボンブラック製品中の金属分等の異物を取り除くことが可能であり、電池の耐久性を良好なものとすることができる。
【0128】
そして、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックでは、その二次凝集体を数μmまで解砕しても、そのストラクチャ構造の空隙率が高いことで、それを含んだMPL塗工ペーストを導電性多孔質基材16に塗布し、乾燥・焼成することで形成した硬化塗膜のMPL15においては、高DBP吸収量のカーボンブラックによる高空隙率によって、ガスや水分の透過性に優れ、優れたガス拡散性や水分管理性が得られるものとなる。
【0129】
特に、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックであれば、高い空隙率と耐クラック性を両立できる。即ち、MPL15の空隙率が高すぎると、MPL15にクラックが生じやすくなり、MPL15にクラックがあると、耐久性も低く、MPL15の特性を十分に発揮させることができないばかりか、触媒層13との間に水分が溜まりやすいことから、水分制御性が低下し安定した電池性能が得られ難いものとなる。また、クラックと触媒層13の界面に溜まった水が氷点下時に凍結し、MPL15と触媒層13が剥離しそれらの一部が欠落してしまうことで、燃料電池1の性能に悪影響を与え、燃料電池1の寿命を短くする恐れもある。
【0130】
DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックであれば、高い空隙率と塗膜強度が両立し、塗膜強度が良好であることで触媒層13との密着性も良くて接触抵抗ムラを少なくでき均一な厚さにできることで、導電性も良く、また、クラックやMPL15内に生成水の溜りができるフラッティングも生じ難く、更にスタッキングの圧力に耐え得る圧縮強度や低圧縮クリープ性が得られることから、ガス拡散層14において安定して優れたガス拡散性や水分管理性が発揮され、安定した高い電池性能が得られるものとなる。更に、上述したように、生産性を低下させることなく金属分等の異物を取り除くことができる目の細かいフィルタを通過させることができ、そこで金属分等の異物を取り除くことができるから、電池の寿命、耐久性も良好にできる。更に、高DBP吸収量のカーボンブラックでは、高発達したストラクチャのネットワークによる導電性の向上効果が期待できる。
【0131】
ところで、本発明者らの実験研究によれば、カーボンブラックと撥水性樹脂(固形分)の比率は、重量比で9/1~5/5の範囲内であるのが好ましい。カーボンブラックに対する撥水性樹脂(固形分)の配合比率が低すぎると、樹脂分によるカーボンブラックの結着が弱く、MPL15の硬化塗膜にクラックが生じやすくなり、塗膜強度が低下する。更に、MPL15と導電性多孔質基材16との結着性も低下し、接触抵抗が高まる。一方で、カーボンブラックに対する撥水性樹脂(固形分)の配合比率が高すぎると、樹脂分が多くなり過ぎることで、樹脂分が空隙(カーボン粒子の間隙)を塞ぐことで空隙率、ガス拡散性が低下する。カーボンブラックと撥水性樹脂(固形分)の比率が、好ましくは、重量比で9/1~5/5の範囲内であれば、クラックが生じ難くて高い塗膜強度で、かつ、ガス拡散性の高いマイクロポーラス層の硬化塗膜が得られる。
【0132】
更に、本発明者らの実験研究によれば、MPL塗工ペーストの固形分比率は、5質量%以上、40質量%以下が好ましい。カーボン、撥水性樹脂等の固形分比率が小さすぎると、MPL成膜時の収縮応力が大きくなることもあって、MPL15の硬化塗膜にクラックが生じやすくなり、塗膜強度が低下する。一方で、固形分比率が大きすぎるものでは、空隙率が低下することでガス拡散性が低下する。MPL塗工ペーストの固形分比率が、好ましくは、5質量%以上、40質量%以下であれば、クラックが生じ難くて高い塗膜強度で、かつ、ガス拡散性の高いMPL15の硬化塗膜が得られる。より好ましくは、5質量%以上、30質量%以下、更に好ましくは、5質量%以上、25質量%以下である。
【0133】
また、本発明者らの実験研究によれば、薄膜旋回法による攪拌においては、その周速を25m/s以上とするのが好ましい。周速が遅すぎると、高DBP吸収量のカーボンの二次凝集体が十分に解砕されず、触媒層13の耐久性、即ち、電池の耐久性、寿命を損なうことになる鉄異物等を除去するための目開き34μm以上、154μm以下のメッシュ(100メッシュ以上、400メッシュ以下)の目の細かいフィルタを通過させるときに、目詰まりを生じさせ、生産性が低下したり、フィルタの通過が困難になったりすることで電池の耐久性、寿命を低下させることになる。また、塗工性が低下し、硬化塗膜が表面不良となり触媒層13との密着性が低下することでMPL15内に生成水が溜まりフラッティングが生じやすくなり排水性が低下する。一方、実施例2で示したように、周速を50m/sとしても、導電性多孔質基材16への塗布した際でもペーストの裏抜けが生じ難く、ガス拡散性にも優れるものである。特に、周速を高めることにより、二次凝集径の微小化が可能であり、また、二次凝集径の均一化が可能であり、硬化塗膜の均一化を可能とする。
【0134】
薄膜旋回法の高速撹拌機の性能限界を考慮すれば、薄膜旋回法による攪拌時の周速は25m/s以上、60m/s以下であれば、目開き34μm以上、154μm以下のメッシュ(100メッシュ以上、400メッシュ以下)の目の細かいフィルタを通過できる二次凝集径のサイズまで高DBP吸収量のカーボンの二次凝集体が十分に解砕されることで、良好な粘度特性(流動特性)で塗布時に表面不良が生じ難く十分な塗工幅が確保できる良好な塗工性が得られることにより、触媒層13との密着性もよく、安定した水分管理性の確保により安定した電池性能が得られ、また、電池の耐久性、寿命も良好に確保できるものとなる。
【0135】
更に、本発明者らの実験研究によれば、薄膜旋回法による上記周速の攪拌においては、その攪拌時間を20秒以上が好ましく、より好ましくは、25秒以上、更に好ましくは、30秒以上とするのが好ましい。攪拌時間が短すぎると、高DBP吸収量のカーボンの二次凝集体が十分に解砕されず、触媒層13の耐久性、即ち、電池の耐久性、寿命を損なうことになる鉄異物等を除去するための目開き34μm以上、154μm以下のメッシュ(100メッシュ以上、400メッシュ以下)の目の細かいフィルタを通過させるときに、目詰まりを生じさせ、生産性が低下したり、フィルタの通過が困難になったりすることで電池の耐久性、寿命を低下させることになる。一方、攪拌時間が過度に長時間であっては、粘度の過度な低下により導電性多孔質基材16への塗布時にペースト成分の裏抜けが生じてしまう。増粘剤の添加によって粘度を上げることもできるが、増粘剤の使用はそれを分解するための焼成時間を長くすることになり、増粘剤の使用及び焼成の高負荷による高コスト化及び生産性の低下を招くことになる。薄膜旋回法における攪拌時間が好ましくは、20秒以上、200秒以下、より好ましくは、25秒以上、150秒以下、更に好ましくは、30秒以上、100秒以下であれば、生産性の低下やコスト増を招くことなく、目開き34μm以上、154μm以下のメッシュ(100メッシュ以上、400メッシュ以下)の目の細かいフィルタを通過できる二次凝集径のサイズまで高DBP吸収量のカーボンの二次凝集体が十分に解砕されることで、良好な粘度特性(流動特性)で塗布時に表面不良が生じ難く十分な塗工幅が確保できる良好な塗工性が得られることにより、触媒層13との密着性もよく、安定した水分管理性の確保により安定した電池性能が得られ、また、電池の耐久性、寿命も良好に確保できるものとなる。
【0136】
加えて、本発明者らの実験研究によれば、MPL塗工ペーストのせん断速度50S-1における粘度は、好ましくは、0.05Pa・s以上、1.0Pa・s以下、より好ましくは、0.1Pa・s以上、0.9Pa・s以下、更に好ましくは、0.1Pa・s以上、0.5Pa・s以下である。粘度が低すぎると、導電性多孔質基材16への塗布時にペーストの裏抜けが生じ、導電性多孔質基材16の空隙を塞いでガスや水分の透過性を低下させることになる。一方で、粘度が高すぎると、導電性多孔質基材16に塗布するときの表面平滑性が低下し、また、所望の塗工幅での塗工が困難になり生産性が低下し、良好な塗工性が得られない。更に、触媒層13の耐久性を損なうことになる金属分等の異物を取り除くことができる目開き34μm以上、154μm以下のメッシュ(100メッシュ以上、400メッシュ以下)の目の細かいフィルタを通過させるときの圧力損失が大きくなりフィルタの通過も困難である。MPL塗工ペーストのせん断速度50S-1における粘度は、好ましくは、0.05Pa・s以上、1.0Pa・s以下、より好ましくは、0.1Pa・s以上、0.9Pa・s以下、更に好ましくは、0.1Pa・s以上、0.9Pa・s以下であれば、目開き34μm以上、154μm以下のメッシュ(100メッシュ以上、400メッシュ以下)の目の細かいフィルタを通過できる良好な粘度特性が得られ生産性も良好であり、また、塗布時に表面不良が生じ難く十分な塗工幅が確保できる良好な塗工性が得られ、触媒層13との密着性もよく安定した水分管理性の確保により安定した電池性能が得られ、更に、電池の耐久性、寿命も良好に確保できるものとなる。
【0137】
以上説明してきたように、上記実施の形態のマイクロポーラス層形成用塗工ペーストは、カーボンブラックと、撥水性樹脂と、分散剤と、溶媒とを含有するマイクロポーラス層形成用塗工ペーストであって、カーボンブラックは、DBP吸収量が300ml/100g以上、500ml/100g以下の範囲内であるカーボンブラックが目開き34μm以上、154μm以下のメッシュ(100メッシュ以上、400メッシュ以下)を通過する2次凝集径のものである。
【0138】
したがって、本実施の形態のマイクロポーラス層形成用塗工ペーストによれば、高DBP吸収量のカーボンブラックの二次凝集体が解砕されたものであるから、ペーストの粘度上昇が抑えられて、導電性多孔質基材16の表面に対し良好な塗工性でMPL15を形成でき、そのMPL15においては、高DBP吸収量のカーボンブラックが高ストラクチャによる高空隙率を有することで、空隙率(気孔率)が高く、また、空隙が均一に分布され、高ストラクチャ構造によるガスや水分の通路の形成によりガスや水分の拡散性や排水性を高めることができる。また、MPL15を良好な平滑性にできることで、触媒層13との良好な密着性が得られる。よって、フラッティングが生じ難くガス拡散層14のガス拡散性及び水分管理性を向上させることができ、電池出力、発電性能の安定化、電池性能の向上を図ることができる。
【0139】
特に、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックが目開き34μm以上、154μm以下のメッシュ(100メッシュ以上、400メッシュ以下)を通過する2次凝集径のものでは、ペーストの良好な塗工性によりMPL15において良好な表面平滑性を確保できるうえ、高空隙率とクラックが生じ難い塗膜強度とを両立できる。よって、高い空隙率であるも表面平滑性が良好でクラックが生じ難く触媒層13への密着性が良好なMPL15の形成により、そのMPL15においては、水分が溜り難くて排水性も高く、高いガス拡散性が維持され、更に、耐久性も良好なものとなる。
【0140】
また、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックが目開き34μm以上、154μm以下のメッシュ(100メッシュ以上、400メッシュ以下)を通過する2次凝集径のものでは、電池反応を行う触媒層13の耐久性、寿命に影響を与える鉄分等の異物の除去を可能とする細かな目のメッシュフィルタを通過できるサイズのものであるから、電池の耐久性、寿命を低下させ難いものである。
よって、空隙率の高いMPL15を形成でき、MPL15のガスや水分の透過性を向上させることが可能であり、MPL15が形成されるガス拡散層14のガス拡散性や水分管理性の性能向上を図ることが可能となる。
【0141】
更に、上記実施の形態のマイクロポーラス層形成用塗工ペーストにおいて、カーボンブラックと撥水性樹脂は、重量比で9/1~5/5の範囲内であれば、形成するMPL15の硬化塗膜において樹脂分による接着性(結着性)が良好でクラックが生じ難く、かつ、過剰な樹脂分による空隙の閉塞が抑制されるから、MPL15の塗膜強度とガスや水分の透過性を両立できることで、ガス拡散層14の高いガス拡散性や水分管理性をより良好に発揮できる。
【0142】
加えて、上記実施の形態のマイクロポーラス層形成用塗工ペーストにおいて、せん断速度50s-1における粘度が0.05Pa・s~1.0Pa・sの範囲内であれば、ガス拡散層14を構成する導電性多孔質基材16への塗布時にペーストの裏抜け(ペーストの塗布面とは反対側の導電性多孔質基材の裏面側に抜ける現象)を抑制でき、かつ、所望の塗工幅で平滑性が良好なMPL15の硬化塗膜を形成できて塗工性が良好なものとなる。よって、導電性多孔質基材16の空隙率を低下させることなく、平滑なMPL15が得られ触媒層13への密着性を高めることができるから、ガス拡散層14のガス拡散性や水分管理性がより安定化する。
【0143】
また、上記実施の形態は、カーボンブラックと、撥水性樹脂と、分散剤と、溶媒とを含有するマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法であって、分散剤が混合された溶媒に、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックと撥水性樹脂を混合して薄膜旋回法により攪拌するマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法の発明と捉えることができる。
【0144】
上記実施の形態のマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法によれば、薄膜旋回法による高シェアで配合材料を分散することで、高DBP吸収量のカーボンブラックの二次凝集体を解砕することができ、ペーストの粘度上昇を抑えることができる。好ましくは、周速25m/s~周速60m/sの攪拌で配合材料を分散することで、高DBP吸収量のカーボンブラックの二次凝集体を高効率で解砕することができる。
【0145】
したがって、高DBP吸収量のカーボンブラックの二次凝集体が解砕され粘度上昇が抑えられたマイクロポーラス層形成用塗工ペーストによれば、導電性多孔質基材16の表面に対し良好な塗工性で塗布でき、塗布されたペーストが乾燥・焼成されることにより形成されるMPL15においては、高DBP吸収量のカーボンブラックが高ストラクチャによる高空隙率を有することで、空隙率(気孔率)が高く、また、空隙が均一に分布されるものとなる。よって、高ストラクチャ構造によるガスや水分の通路の形成によりガスや水分の拡散性や排水性を高めることができる。また、MPL15を良好な平滑性にできることで、触媒層13との良好な密着性が得られる。故に、フラッティングが生じ難くガス拡散層14のガス拡散性及び水分管理性を向上させることができ、電池出力、発電性能の安定化を図ることができる。
【0146】
特に、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックが目開き34μm以上、154μm以下のメッシュ(100メッシュ以上、400メッシュ以下)を通過する2次凝集径のものでは、ペーストの良好な塗工性によりMPL15が良好な表面平滑性を有し、高空隙率とクラックが生じ難い塗膜強度とを両立できる。よって、高い空隙率であるも表面平滑性が良好でクラックが生じ難く触媒層13への密着性が良好なMPL15の形成により、そのMPL15においては、水分が溜り難くて排水性も高く、高いガス拡散性が維持され、更に、耐久性も良好なものとなる。
したがって、空隙率が高く、ガス拡散層14の拡散性や水分管理性の性能向上を図ることができるMPL15を形成できるMPL塗工ペーストとなる。
【0147】
また、上記実施の形態は、カーボンブラックと、撥水性樹脂と、分散剤と、溶媒とを含有するマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法であって、分散剤が混合された溶媒に、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックと撥水性樹脂を混合して周速25m/s以上、周速60m/s以下で攪拌するマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法の発明と捉えることもできる。
【0148】
上記実施の形態のマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法によれば、周速25m/s以上、周速60m/s以下の高シェアで配合材料を分散することで、高DBP吸収量のカーボンブラックの二次凝集体を解砕することができ、ペーストの粘度上昇を抑えることができる。好ましくは、周速25m/s~周速60m/sの攪拌で配合材料を分散することで、高DBP吸収量のカーボンブラックの二次凝集体を高効率で解砕することができる。
【0149】
したがって、高DBP吸収量のカーボンブラックの二次凝集体が解砕され粘度上昇が抑えられたマイクロポーラス層形成用塗工ペーストによれば、導電性多孔質基材16の表面に対し良好な塗工性で塗布でき、塗布されたペーストが乾燥・焼成されることにより形成されるMPL15においては、高DBP吸収量のカーボンブラックが高ストラクチャによる高空隙率を有することで、空隙率(気孔率)が高く、また、空隙が均一に分布されるものとなる。よって、高ストラクチャ構造によるガスや水分の通路の形成によりガスや水分の拡散性や排水性を高めることができる。また、MPL15を良好な平滑性にできることで、触媒層13との良好な密着性が得られる。故に、フラッティングが生じ難くガス拡散層14のガス拡散性及び水分管理性を向上させることができ、電池出力、発電性能の安定化を図ることができる。
【0150】
特に、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックが目開き34μm以上、154μm以下のメッシュ(100メッシュ以上、400メッシュ以下)を通過する2次凝集径のものでは、ペーストの良好な塗工性によりMPL15が良好な表面平滑性を有し、高空隙率とクラックが生じ難い塗膜強度とを両立できる。よって、高い空隙率であるも表面平滑性が良好でクラックが生じ難く触媒層13への密着性が良好なMPL15の形成により、そのMPL15においては、水分が溜り難くて排水性も高く、高いガス拡散性が維持され、更に、耐久性も良好なものとなる。
したがって、空隙率が高く、ガス拡散層14の拡散性や水分管理性の性能向上を図ることができるMPL15を形成できるMPL塗工ペーストとなる。
【0151】
更に、上記実施の形態のマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法において、薄膜旋回法等または周速25m/s~周速60m/sでの攪拌前に、分散剤、溶媒、カーボンブラック、及び撥水性樹脂の混合物をディスパまたはタービン・ステータ型攪拌式等の撹拌機によってまたは周速1m/s~周速20m/sでプレ攪拌すると、即ち、ディスパまたはタービン・ステータ型攪拌式等の撹拌機で周速1m/s~周速20m/sの低シェア分散してから、薄膜旋回法等で周速25m/s~周速60m/sの高シェア分散するものでは、カーボンブラックの二次凝集径の分布のバラつきを抑えることが可能であり、空隙の分布のバラつきを抑制して均質なMPL15を形成し、安定したガスや水分の透過性を得ることが可能となる。したがって、空隙の分布のバラつきを抑制して安定した性能を得ることが可能となるMPL15を形成できるMPL塗工ペーストとなる。特に、このときのプレ攪拌に、ディスパまたはタービン・ステータ型攪拌式等の撹拌機を使用すれば、攪拌脱泡により気泡の少ないペーストを得ることができる。
【0152】
加えて、上記実施の形態のマイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法によれば、更に、薄膜旋回法等による周速25m/s~周速60m/sでの攪拌後に、目開き34μm以上、154μm以下のメッシュ(100メッシュ以上、400メッシュ以下)を通過させるものであるから、触媒層13の耐久性、寿命に影響を与える鉄等の異物が少ないものが得られる。よって、燃料電池1の耐久性を良好に維持できる。即ち、燃料電池1の耐久性、寿命を低下させることないMPL15を形成できるMPL塗工ペーストとなる。
【0153】
また、上記マイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法において、カーボンブラックと撥水性樹脂が、重量比で9/1~5/5の範囲内であれば、形成するMPL15の硬化塗膜において樹脂分による接着性(結着性)が良好でクラックが生じ難く、かつ、過剰な樹脂分による空隙の閉塞が抑制される。よって、塗膜強度とガスや水分の透過性とを両立できるMPL15を形成できるMPL塗工ペーストとなる。
【0154】
加えて、上記マイクロポーラス層形成用塗工ペーストの製造方法において、せん断速度50s-1における粘度が0.05Pa・s~1.0Pa・sの範囲内であれば、ガス拡散層14を構成する導電性多孔質基材16への塗布時にペーストの裏抜けを抑制でき、かつ、所望の塗工幅で平滑性が良好なMPL15の硬化塗膜を形成できて塗工性が良好なものとなる。よって、導電性多孔質基材16の空隙率を低下させることなく、平滑なMPL15が得られ触媒層13への密着性を高めることができるから、安定した性能を確保できるMPL15を形成できるMPL塗工ペーストとなる。
【0155】
更に、上記実施の形態は、導電性繊維等からなる導電性多孔質基材16と、導電性多孔質基材16の表面に形成されたカーボンブラックと撥水性樹脂とからなるMPL15とから構成された燃料電池用ガス拡散層14であって、MPL15のカーボンブラックは、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックが目開き34μm以上、154μm以下のメッシュ(100メッシュ以上、400メッシュ以下)を通過する2次凝集径のものである燃料電池用ガス拡散層14の発明と捉えることもできる。
【0156】
本実施の形態の燃料電池用ガス拡散層14によれば、導電性繊維等からなる導電性多孔質基材16の表面に形成されたカーボンブラックと撥水性樹脂からなるMPL15のカーボンブラックは、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックが目開き34μm以上、154μm以下のメッシュ(100メッシュ以上、400メッシュ以下)を通過する2次凝集径のものであり、高DBP吸収量のカーボンブラックの二次凝集体が解砕されたものであるから、MPL15を形成するペーストの粘度上昇が抑えられて、導電性多孔質基材16の表面に対し良好な塗工性で形成されたMPL15においては、高DBP吸収量のカーボンブラックが高ストラクチャによる高空隙率を有することで、空隙率(気孔率)が高く、また、空隙が均一に分布されるものとなる。よって、高ストラクチャ構造によるガスや水分の通路の形成によりガスや水分の拡散性や排水性を高めることができる。また、MPL15を良好な平滑性にできることで、触媒層13との良好な密着性が得られる。故に、フラッティングが生じ難くガス拡散層14のガス拡散性及び水分管理性を向上させることができ、電池出力、発電性能の安定化を図ることができる。
【0157】
特に、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックが目開き34μm以上、154μm以下のメッシュ(100メッシュ以上、400メッシュ以下)を通過する2次凝集径のものでは、ペーストの良好な塗工性によりMPL15が良好な表面平滑性を有し、高空隙率とクラックが生じ難い塗膜強度とを両立できる。よって、高い空隙率であるも表面平滑性が良好でクラックが生じ難く触媒層13への密着性が良好なMPL15では、水分が溜り難くて排水性も高く、高いガス拡散性が維持され、更に、耐久性も良好なものとなる。
【0158】
また、DBP吸収量が300ml/100g~500ml/100gの範囲内であるカーボンブラックが目開き34μm以上、154μm以下のメッシュ(100メッシュ以上、400メッシュ以下)を通過する2次凝集径のものでは、電池反応を行う触媒層13の耐久性、寿命に影響を与える鉄分等の異物の除去を可能とする細かな目のメッシュフィルタを通過できるサイズのものであるから、電池1の耐久性、寿命を低下させ難いものである。
よって、上記実施の形態の燃料電池用ガス拡散層14によれば、空隙率の高いMPL15を有するから、ガスや水分の透過性を向上させることが可能であり、ガスの拡散性や水分管理性の性能向上を図ることができるものである。
【0159】
更に、上記実施の形態の燃料電池用ガス拡散層14において、MPL15のカーボンブラックと撥水性樹脂が重量比で9/1~5/5の範囲内であれば、MPL15の硬化塗膜において樹脂分による接着(結着)性が良好でクラックがより生じ難く、かつ、過剰な樹脂分による空隙の閉塞が抑制される。よって、ガス拡散層14の水分やガスの透過性が良好に発揮されるものである。
【0160】
なお、本実施の形態のMPL塗工ペースト及びそれを用いて作製した燃料電池用ガス拡散層14は固体高分子形燃料電池1に限らず、例えば、ダイレクトメタノール形燃料電池等のその他燃料電池にも適用可能である。
また、本発明を実施するに際しては、MPL塗工ペーストや燃料電池用ガス拡散層14のその他の部分の組成、成分、配合量、材質、その他の製造工程について、本実施の形態に限定されるものではない。
更に、上述した数値範囲は、厳格なものでなく、当然、測定等による誤差を含む概略値であり、数割の誤差を否定するものではない。また、本発明の実施の形態で挙げている数値は、臨界値を示すものではなく、実施に好適な適正値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。
【符号の説明】
【0161】
1 燃料電池
14 ガス拡散層
15 マイクロポーラス層
16 導電性多孔質基材
図1