(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005575
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】印刷配線板
(51)【国際特許分類】
H05K 1/02 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
H05K1/02 J
H05K1/02 N
H05K1/02 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105810
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】王 晨宇
【テーマコード(参考)】
5E338
【Fターム(参考)】
5E338AA02
5E338AA16
5E338BB75
5E338CC02
5E338CC06
5E338CD12
5E338CD13
5E338EE13
(57)【要約】
【課題】遠端クロストークを効果的に低減することができる印刷配線板を提供する。
【解決手段】印刷配線板は、絶縁体と、第1配線と、第2配線と、第3配線とを備える。第1配線は、絶縁体の第1面において第1方向に延在する。第2配線は、絶縁体の第1面において第1配線と並行するように第1方向に延在する。第3配線は、絶縁体の第1面において第1配線と第2配線との間に位置し、第1方向に延在する。また、第3配線は、周期的に蛇行するミアンダ状を成す。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体と、
前記絶縁体の第1面において第1方向に延在する第1配線と、
前記絶縁体の前記第1面において前記第1配線と並行するように前記第1方向に延在する第2配線と、
前記絶縁体の前記第1面において前記第1配線と前記第2配線との間に位置し、前記第1方向に延在する第3配線と、
を備え、
前記第3配線は、周期的に蛇行するミアンダ状を成す、
印刷配線板。
【請求項2】
前記第3配線は、前記第1方向に垂直な第2方向についての前記第1配線との距離が前記第2配線との距離よりも近い第1部分と、前記第2方向についての前記第2配線との距離が前記第1配線との距離よりも近い第2部分とが、前記第1方向に沿って周期的に交互に並ぶように接続された形状を成し、前記第1部分と前記第2部分とを繋ぐ、前記第2方向に延在する第3部分を有しており、
前記第1部分、前記第2部分および前記第3部分は、前記第1方向についての幅が互いに等しい、
請求項1に記載の印刷配線板。
【請求項3】
前記第1配線および前記第2配線は、前記第2方向について所定の配線幅を有し、
前記第2方向についての前記第1配線と前記第2配線との間隔は、前記配線幅の略3倍であり、
前記第2方向についての前記第3部分の幅は、前記配線幅の略2倍であり、
前記第2方向についての前記第1部分の幅および前記第2部分の幅は、前記配線幅の1/3よりも大きく、かつ前記配線幅未満である、
請求項2に記載の印刷配線板。
【請求項4】
前記第1配線および前記第2配線は、前記第2方向について所定の配線幅を有し、
前記第2方向についての前記第1配線と前記第2配線との間隔は、前記配線幅の略3倍であり、
前記第2方向についての前記第3部分の幅は、前記配線幅の略2.2倍であり、
前記第2方向についての前記第1部分の幅および前記第2部分の幅は、前記配線幅の1.2倍よりも大きく、かつ前記配線幅の1.6倍未満である、
請求項2に記載の印刷配線板。
【請求項5】
接地電位とされる接地導電体を備え、
前記第3配線は、前記接地導電体に電気的に接続されていない、
請求項1~4のいずれか一項に記載の印刷配線板。
【請求項6】
接地電位とされる接地導電体を備え、
前記第3配線の一方の端部が前記接地導電体に対して抵抗素子を介さずに電気的に接続されており、前記第3配線の他方の端部が、前記接地導電体に対して20Ω以上かつ300Ω以下の抵抗素子を介して電気的に接続されている、
請求項1~4のいずれか一項に記載の印刷配線板。
【請求項7】
接地電位とされる接地導電体を備え、
前記第3配線の一方の端部および他方の端部がそれぞれ、前記接地導電体に対して10Ω以上かつ300Ω以下の抵抗素子を介して電気的に接続されている、
請求項1~4のいずれか一項に記載の印刷配線板。
【請求項8】
接地電位とされる接地導電体を備え、
前記第3配線の一方の端部が前記接地導電体に電気的に接続されておらず、前記第3配線の他方の端部が、前記接地導電体に対して10Ω以上かつ300Ω以下の抵抗素子を介して電気的に接続されている、
請求項1~4のいずれか一項に記載の印刷配線板。
【請求項9】
接地電位とされる接地導電体を備え、
前記第3配線の一方の端部および他方の端部がそれぞれ、前記接地導電体に対して、前記第3配線の特性インピーダンス以上かつ100Ω以下の抵抗素子を介して電気的に接続されている、
請求項1~4のいずれか一項に記載の印刷配線板。
【請求項10】
接地電位とされる接地導電体を備え、
前記第3配線の一方の端部が前記接地導電体に対して抵抗素子を介さずに電気的に接続されており、前記第3配線の他方の端部が、前記接地導電体に対して、前記第3配線の特性インピーダンス以上かつ200Ω以下の抵抗素子を介して電気的に接続されている、
請求項1~4のいずれか一項に記載の印刷配線板。
【請求項11】
接地電位とされる接地導電体を備え、
前記第3配線の少なくとも一方の端部が、前記接地導電体に対して、前記第3配線の特性インピーダンスと略同一の抵抗値の抵抗素子を介して電気的に接続されている、
請求項1~4のいずれか一項に記載の印刷配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、印刷配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁体の表面に設けられたマイクロストリップ配線を用いて信号伝送を行う技術がある(例えば、特許文献1)。従来、この技術においては、並行する複数の配線を用いて信号伝送を行う場合において、2本の配線の間隔を大きくしたり、2本の配線の間に接地電位のガード配線を設けたりすることで、2本の配線間に生じる近端クロストークおよび遠端クロストークの低減が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、マイクロストリップ配線が設けられた印刷配線板は、数十GHzといった高周波帯域での信号伝送に用いられるようになっている。このような高周波帯域では、上記従来のクロストークの低減方法を適用しても、遠端クロストークを十分に低減することができないという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る印刷配線板は、絶縁体と、前記絶縁体の第1面において第1方向に延在する第1配線と、前記絶縁体の前記第1面において前記第1配線と並行するように前記第1方向に延在する第2配線と、前記絶縁体の前記第1面において前記第1配線と前記第2配線との間に位置し、前記第1方向に延在する第3配線と、を備える。前記第3配線は、周期的に蛇行するミアンダ状を成す。
【発明の効果】
【0006】
本開示の内容によれば、遠端クロストークを効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】
図1のA-A線における断面を示す図である。
【
図4】比較例1に係る印刷配線板の構成を示す図である。
【
図5】比較例2に係る印刷配線板の構成を示す図である。
【
図6】コモンモードにおいて生じる電気力線を示す図である。
【
図7】ディファレンシャルモードにおいて生じる電気力線を示す図である。
【
図8】ガード配線の周期構造に応じた比誘電率ε
re、ε
roの例を示す図である。
【
図9】シミュレーションで用いたパラメータを示す図である。
【
図10】シミュレーションで用いたパラメータおよび構成を示す図である。
【
図11】幅Wwを0.7mm、間隔G1を0.13mmとした場合の遠端クロストークのシミュレーション結果を示す図である。
【
図12】幅Wwを0.65mm、間隔G1を0.155mmとした場合の遠端クロストークのシミュレーション結果を示す図である。
【
図13】幅Wwを0.6mm、間隔G1を0.18mmとした場合の遠端クロストークのシミュレーション結果を示す図である。
【
図14】幅Wwを0.55mm、間隔G1を0.205mmとした場合の遠端クロストークのシミュレーション結果を示す図である。
【
図15】幅Wwを0.5mm、間隔G1を0.23mmとした場合の遠端クロストークのシミュレーション結果を示す図である。
【
図16】幅Wwを0.45mm、間隔G1を0.255mmとした場合の遠端クロストークのシミュレーション結果を示す図である。
【
図17】
図11~16のシミュレーションにおける各周期構造を採用した場合の遠端クロストークの低減効果を示す図である。
【
図18】ガード配線を用いた場合の遠端クロストークの低減効果を、比較例1および比較例2と対比して示す図である。
【
図19】ガード配線を用いた場合の比誘電率ε
re、ε
roを、比較例1、比較例2と対比して示す図である。
【
図20】ガード配線の両端における終端抵抗の接続態様が、遠端クロストークに与える影響を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下で参照する各図は、説明の便宜上、実施形態を説明する上で必要な主要部材のみを簡略化して示したものである。したがって、本開示の印刷配線板1は、参照する各図に示されていない任意の構成部材を備え得る。また、各図中の部材の寸法は、実際の構成部材の寸法および寸法比率などを忠実に表したものではない。
【0009】
〔印刷配線板の構成〕
図1および
図2を参照して、本実施形態に係る印刷配線板1の構成を説明する。
以下では、印刷配線板1の厚み方向をZ方向とするXYZ直交座標系により印刷配線板1の各部の向きを説明する。また、印刷配線板1に設けられた後述の第1配線10および第2配線20の延在方向をX方向とし、X方向およびZ方向に垂直な方向をY方向とする。
図1は、+Z方向から平面視した印刷配線板1の一部を示す。また、
図2は、
図1の印刷配線板1の、A-A線の位置でのY方向に垂直な断面の一部を示す。以下では、印刷配線板1を構成する各層の+Z方向を向く面を「上面」とも記し、-Z方向を向く面を「下面」とも記す。また、Z方向を「厚み方向」とも記す。また、印刷配線板1を、Z方向から、一部の構成要素を透過させて見ることを「平面透視」と記す。
【0010】
図1および
図2に示すように、印刷配線板1は、絶縁体40と、絶縁体40の第1面41(上面)に設けられた配線L1、配線L2、ガード配線30(第3配線)およびパッド電極60と、絶縁体40の第1面41とは反対側の第2面42(下面)に設けられたGND層50(接地導電体)と、第1面41上に実装された抵抗素子80などを備える。配線L1、配線L2およびGND層50は、マイクロストリップ線路型の信号伝送路を構成する。配線L1の配線端p1、p2、および配線L2の配線端p3、p4には、信号伝送のための他の配線または回路素子等が接続される。また、印刷配線板1は、
図2における絶縁体40の-Z方向側に、他の絶縁体や導体層をさらに有していてもよい。
【0011】
絶縁体40は、XY平面に平行な平板状の部材である。絶縁体40の材質は、絶縁性を有するものであれば、特には限定されない。絶縁体40の材質としては、例えば、エポキシ樹脂、ビスマレイミド-トリアジン樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、ポリイミド樹脂、液晶ポリマーなどの有機樹脂などが挙げられる。また、これらの有機樹脂中に、ガラスクロス等の補強材が含まれていてもよい。絶縁体40は、プリプレグ(ガラスクロス等の補強材に樹脂を含浸させて半硬化させた部材)を加圧および加熱して溶融させた後に硬化させることで形成されたものであってもよい。絶縁体40の厚さは、例えば数十μm~数百μm程度であってもよい。
【0012】
配線L1は、絶縁体40の第1面41においてX方向(第1方向)に延在する直線状の第1配線10と、第1配線10の両端から延びる引き回し配線11とを有する。
配線L2は、絶縁体40の第1面41において第1配線10と並行するようにX方向に延在する直線状の第2配線20と、第2配線20の両端から延びる引き回し配線21とを有する。第2配線20は、第1配線10と平行である。
【0013】
ガード配線30は、絶縁体40の第1面41において第1配線10と第2配線20との間に位置する。ガード配線30は、周期的に蛇行するミアンダ形状を呈しつつ(ミアンダ状を成しつつ)、X方向に延在している。X方向についてのガード配線30の延在範囲は、第1配線10および第2配線20の延在範囲に略等しい。ただし、これに限られず、ガード配線30は、X方向について第1配線10および第2配線20よりも長くてもよいし、第1配線10および第2配線20よりも短くてもよい。ガード配線30の-X方向側の端部は、端子34となっており、+X方向側の端部は、端子35となっている。
【0014】
パッド電極60は、絶縁体40の第1面41において、ガード配線30の端子34の-X方向側、および端子35の+X方向側に、1つずつ設けられている。端子34とパッド電極60との間、および端子35とパッド電極60との間には、抵抗素子80を実装することができる。また、端子34とパッド電極60との間、および端子35とパッド電極60との間は、抵抗素子80を介さずに電気的に接続する態様(短絡する態様)とてもよい。また、端子34とパッド電極60との間、および端子35とパッド電極60との間を、電気的に接続しない態様(開放する態様)としてもよい。
図1では、端子34とパッド電極60との間に抵抗素子80が実装され、端子35とパッド電極60とが電気的に接続されていない態様が例示されている。
【0015】
配線L1、配線L2、ガード配線30およびパッド電極60の材質は、導電性を有するものであれば特に限定されない。一例を挙げると、配線L1、配線L2、ガード配線30およびパッド電極60の材質は、銅であってもよい。銅は、無電解めっきまたは電解めっきにより形成されたものであってもよいし、圧延銅箔であってもよい。また、圧延銅箔に、めっきにより形成された銅が積層された構造であってもよい。配線L1、配線L2、ガード配線30およびパッド電極60の厚さは、例えば数μm~数十μm程度であってもよい。絶縁体40の第1面41に配線L1、配線L2、ガード配線30およびパッド電極60を形成する方法は、特には限定されないが、一例を挙げると、電解パネルめっきおよびサブトラクティブ法の組み合わせ、またはMSAP(Modified Semi-Additive Process)といった方法を用いてもよい。また、配線L1、配線L2、ガード配線30のうち端子34を除いた部分、および絶縁体40の第1面41の露出面は、絶縁性を有する膜(ソルダーレジスト等)により被覆されていてもよい。
【0016】
図2に示すように、絶縁体40の第2面42には、接地電位とされるGND層50が設けられている。GND層50は、平面透視で、配線L1、配線L2およびガード配線30と重なる範囲に設けられている。GND層50は、例えばベタ状であってもよい。GND層50の材質は、導電性を有するものであれば特に限定されず、例えば銅であってもよい。
【0017】
図2に示すように、パッド電極60は、絶縁体40を厚み方向に貫通するビア70を介してGND層50に電気的に接続されている。ビア70は、絶縁体40を貫通するビア下穴を埋める導体からなる。ビア70は、例えば、絶縁体40にビア下穴が空けられた状態で電解めっきを施すことにより形成される。ビア70の材質は、例えば銅であってもよい。パッド電極60が、抵抗素子80を介して、または抵抗素子80を介さずに直接、ガード配線30の端子34または端子35に電気的に接続されている場合には、該端子34または端子35は、パッド電極60およびビア70を介してGND層50に電気的に接続される。
【0018】
次に、
図3を参照して、ガード配線30の詳細な構成について説明する。
上述のとおり、ガード配線30は、周期的に蛇行するミアンダ形状を呈している。詳しくは、ガード配線30は、X方向について、第1部分31と第2部分32とが周期的に交互に並ぶように接続された形状を有する。このうち第1部分31は、Y方向(第2方向)についての第1配線10との距離が第2配線20との距離よりも近い。また、第2部分32は、Y方向についての第2配線20との距離が第1配線10との距離よりも近い。ガード配線30は、第1部分31と第2部分32とを繋ぐ、Y方向に延在する第3部分33を有する。第3部分33の+Y方向側の端部の位置は、第1部分31の+Y方向側の端部の位置と面一である。第3部分33の-Y方向側の端部の位置は、第2部分32の-Y方向側の端部の位置と面一である。
【0019】
本実施形態では、第1部分31、第2部分32および第3部分33は、各辺がX方向またはY方向に平行な矩形である。ただし、矩形の角部や、第1部分31または第2部分32と第3部分33との接続部の角部が丸みを帯びていてもよい。また、矩形の辺同士が、該辺に対して傾斜した辺(例えば45°の角度をなす辺)を挟んで接続された形状となっていてもよい。第1部分31の-X方向側の辺(Y方向に平行な辺)は、該第1部分31の-X方向側に位置する第3部分33のうち+X方向側の辺(Y方向に平行な辺)と繋がっている。第1部分31の+X方向側の辺(Y方向に平行な辺)は、該第1部分31の+X方向側に位置する第3部分33のうち-X方向側の辺(Y方向に平行な辺)と繋がっている。第2部分32の-X方向側の辺(Y方向に平行な辺)は、該第2部分32の-X方向側に位置する第3部分33のうち+X方向側の辺と繋がっている。第2部分32の+X方向側の辺(Y方向に平行な辺)は、該第2部分32の+X方向側に位置する第3部分33のうち-X方向側の辺と繋がっている。
図3では、第1部分31、第2部分32および第3部分33を区分して描いているが、実際には、第1部分31、第2部分32および第3部分33は一体的に繋がっている。
【0020】
ガード配線30は、X方向に隣接する一組の第3部分33、第1部分31、第3部分33、および第2部分32からなる単位構造Uが、X方向に繰り返し並ぶ形状を有する。単位構造UのX方向についての長さ(X方向についての繰り返し周期)を、以下では2Pとする。また、隣り合う第3部分33および第1部分31のX方向についての合計の長さはPであり、隣り合う第3部分33および第2部分32のX方向についての合計の長さはPである。また、本実施形態では、第1部分31、第2部分32および第3部分33のX方向についての長さは、いずれもP/2である。長さPをなるべく小さい値とすることで、ガード配線30が、配線L1および配線L2における高周波信号の伝送に与える影響を低減することができる。例えば、印刷配線板1における最小配線幅および最小配線間隔がいずれも0.1mmである場合には、第1部分31、第2部分32および第3部分33のX方向についての長さをいずれも0.1mmとし、長さPを0.2mmとしてもよい。
なお、X方向について、第1部分31および第2部分32の長さと、第3部分33の長さとは、必ずしも同一でなくてもよく、第3部分33の長さをaPとし、第1部分31および第2部分32の長さを(1-a)Pとしてもよい。ただし、aは、0<a<1/2、または1/2<a<1を満たす定数である。
【0021】
図3に示すように、第1配線10および第2配線20のY方向についての幅は、配線幅Wである。言い換えると、配線幅Wは、第1配線10、第2配線20、それぞれの短手方法の幅のことである。また、第1配線10と第2配線20とのY方向についての間隔は、間隔Gである。言い換えると、間隔Gは、第1配線10、第2配線20が並列に配置されていたときに、第1配線10の第2配線20側の縁と第2配線20の第1配線10側の縁との間の距離のことである。また、Y方向についての、第1配線10とガード配線30との間隔、および第2配線20とガード配線30との間隔は、互いに等しく間隔G1である。
図3では、間隔G1を2カ所に示している。一つ目の間隔G1は、第1配線10のガード配線30側の縁とガード配線30の第1部分31の第1配線10側の縁との間の距離のことである。第1配線10とガード配線30との間で最短距離を示す部分である。二つ目の間隔G1は、第2配線20のガード配線30側の縁とガード配線30の第2部分32の第2配線20側の縁との間の距離のことである。第2配線20とガード配線30との間で最短距離を示す部分である。配線幅Wについて所定の幅という表現を用いているが、配線幅Wは、間隔Gを1としたときに1/5以上1/2以下を例示することができる。また、Y方向についての第3部分33の幅(Y方向についてのガード配線30の幅)は、幅Wwである。幅Wwは、ガード配線30の第1配線10、第2配線20の短手方向に沿う長さのことである。ここで、短手方向に沿うとは、第1配線10、第2配線20の長手方向に垂直な方向の長さのことである。幅Wwは、第1配線10および第2配線20の配線幅Wよりも大きい。また、Y方向についての第1部分31の幅、および第2部分32の幅は、互いに等しく幅Wnである。幅Wnは、幅Wwよりも小さい。
【0022】
このように、第1配線10と第2配線20との間に、周期的なミアンダ形状を有するガード配線30を設けることで、第1配線10および第2配線20における遠端クロストークを効果的に低減することができる。ここで、遠端クロストークとは、並行する2つの第1配線10および第2配線20における信号の伝送方向が同一である場合に、第1配線10および第2配線20のうち一方を伝わる信号が、他方を伝わる信号と結合することをいう。以下では、第1配線10の-X方向側(配線端p1側)から入力される信号が、第2配線20の+X方向側(配線端p4側)における信号に結合する場合の遠端クロストークの大きさをS41とする。
【0023】
遠端クロストークS
41は、第1配線10および第2配線20の配線長をlとして、次式(1)で与えられる。
S
41=-jΔKl …(1)
ここで、ΔKは、次式(2)で与えられる。
【数1】
また、以下では、次式(3)で与えられるΔkを用いて説明する場合がある。Δkは、式(2)の右辺の分子の一部である。
【数2】
【0024】
式(2)中、εreは、コモンモードにおける、第1配線10および第2配線20の周囲の実効的な比誘電率、εroは、ディファレンシャルモードにおける、第1配線10および第2配線20の周囲の実効的な比誘電率、fは伝送信号の周波数、cは真空中の光速である。式(1)、(2)から分かるように、遠端クロストークS41は、εreの平方根と、εroの平方根との差分の絶対値((2)式のΔkの絶対値)に比例する。よって、コモンモードにおける実効的な比誘電率εreと、ディファレンシャルモードにおける実効的な比誘電率εroとを近付けることで(理想的には一致させることで)、遠端クロストークS41を低減することができる。
【0025】
本実施形態のように周期的なミアンダ形状を有するガード配線30を設けることで、
図4に示す比較例1に係る印刷配線板1a、および、
図5に示す比較例2に係る印刷配線板1bよりも、遠端クロストークS
41を低減することができる。
ここで、
図4に示す比較例1に係る印刷配線板1aは、X方向に延在する第1配線10および第2配線20との間にガード配線を有しない。また、第1配線10および第2配線20は、各配線のY方向の幅の3倍の間隔で配置されている。
図5に示す比較例2に係る印刷配線板1bは、
図4の印刷配線板1aにおいて、第1配線10および第2配線20の間に、GND層50に接続された直線状の(蛇行していない)通常配線90を設けたものである。
【0026】
上述したコモンモードは、第1配線10および第2配線20において、信号を遠端側(+X方向側)に伝搬するときの2種類の伝搬モードの1つであり、第1配線10および第2配線20を同位相の信号が流れ、第1配線10とGND層50との間に電気力線が発生するモードである。一方、ディファレンシャルモードは、上記の2種類の伝搬モードの1つであり、第1配線10および第2配線20を逆位相の信号が流れ、第1配線10と第2配線20、および、第1配線10とGND層50との間に電気力線が発生するモードである。
【0027】
図6は、コモンモードにおいて第1配線10および第2配線20の周囲に生じる電気力線を示す図である。
図7は、ディファレンシャルモードにおいて第1配線10および第2配線20の周囲に生じる電気力線を示す図である。
図6および
図7では、ガード配線30を省略した構造(比較例1の構造に相当)における電気力線を示している。
マイクロストリップ配線の場合、第1配線10および第2配線20は、絶縁体40(誘電体)と空気との境界に位置するため、第1配線10および第2配線20に対してGND層50側(-Z方向側)の比誘電率(絶縁体40の比誘電率:ここでは、3.35とする)が、GND層50とは反対側(+Z方向側)の比誘電率(空気の比誘電率:1)と異なる。
図6に示すように、コモンモードでは、主に、第1配線10および第2配線20と、GND層50との間に電気力線が生じるため、実効的な比誘電率ε
reは、絶縁体40の比誘電率である3.35に比較的近い値となる。一方、
図7に示すように、ディファレンシャルモードでは、第1配線10と第2配線20、第1配線10とGND層50、第2配線10とGND層50、との間に電気力線が生じ、コモンモードと比較して、空気中を通る電気力線の割合が多くなる。このため、ディファレンシャルモードにおける実効的な比誘電率ε
roは、コモンモードにおける実効的な比誘電率ε
reよりも小さくなる。
これにより、マイクロストリップ配線では、比誘電率ε
reと比誘電率ε
roとの間に差異が生じ、該差異に応じて、上記の式(1)、(2)に示した遠端クロストークS
41が生じる。
【0028】
なお、実効的な比誘電率の差異に応じて、信号の伝搬遅延時間に差異が生じる。このため、伝搬遅延時間から比誘電率を導出することができる。具体的には、コモンモードの伝搬遅延時間をtde、ディファレンシャルモードの伝搬遅延時間をtdoとして、次式(4)、(5)により比誘電率εreおよび比誘電率εroを導出することができる。
εre=(ctde/l)2 …(4)
εro=(ctdo/l)2 …(5)
【0029】
第1配線10および第2配線20の間にミアンダ形状のガード配線30を設けることで、コモンモードの実効的な比誘電率ε
reと、ディファレンシャルモードの実効的な比誘電率ε
roとが近付くように、
図6および
図7に示した電気力線の分布を変化させることができる。これは、コモンモードでは、
図6に示すように電気力線が主に絶縁体40の内部を通るために、電気力線の分布が変化しても実効的な比誘電率ε
reが変化しにくいのに対し、ディファレンシャルモードでは、
図7に示すように電気力線が空気の層をより多く通るために、電気力線の分布が変化することで、空気の層を通る電気力線の量と、絶縁体40の内部を通る電気力線の量との割合が変化しやすく、実効的な比誘電率ε
roが変化しやすいためである。加えて、電気力線の分布は、ガード配線30の幅Wwおよび幅Wnを調整することで、さらに制御することができる。比誘電率ε
reと、比誘電率ε
roとが近付くように幅Wwおよび幅Wnを調整することで、式(3)に示すΔk、つまり、式(2)のΔKをさらに低減でき、この結果、式(1)の遠端クロストークS
41をさらに低減できる。
【0030】
図8は、ガード配線30の周期構造に応じた比誘電率ε
re、ε
roの例を示す図である。
図8における「周期構造21」、「周期構造13」および「周期構造1」は、ガード配線30の或る周期構造を表す。詳しくは、これらの3つの周期構造は、幅Wwおよび幅Wnの組み合わせが互いに異なる。「周期構造21」、「周期構造13」および「周期構造1」の各々における幅Wwおよび幅Wnについては後述する。
【0031】
図8に示すように、ガード配線30の幅Wwおよび幅Wnの組み合わせを変更することにより、ディファレンシャルモードにおける実効的な比誘電率ε
ro(
図8の破線のグラフ)は、コモンモードにおける実効的な比誘電率ε
r(
図8の実線のグラフ)に近づけることができる。
【0032】
図8のグラフから、適切な幅Wwおよび幅Wnの組み合わせを選択した周期構造において、コモンモードにおける実効的な比誘電率ε
reと、ディファレンシャルモードにおける実効的な比誘電率ε
roを0にすることができる。よって、この適切な周期構造のガード配線30を設けることで、式(3)に示すΔk、つまり式(2)に示すΔKが0となり、式(1)に示す遠端クロストークS
41をなくすことができる。また、上記の理想的な周期構造とは完全に一致しなくても、幅Wwおよび幅Wnを理想的な配線構造に近付けることで、遠端クロストークS
41を効果的に低減することができる。
【0033】
図9~
図16を参照して、ガード配線30の周期構造(幅Wwおよび幅Wn)を変えた場合における遠端クロストークのシミュレーション結果を説明する。
図9および
図10は、シミュレーションで用いた前提条件を示す。シミュレーションでは、第1配線10および第2配線20の配線幅Wを0.32mmとし、第1配線10と第2配線20との間隔Gを0.96mmとした。よって、間隔Gは、配線幅Wの3倍である。また、間隔G1は、G1=(G-Ww)/2を満たす値とした。また、絶縁体40の第1面41側がソルダーレジストにより被覆されているものとし、ソルダーレジストおよび絶縁体40の比誘電率、誘電正接および厚さは、
図9および
図10に示す数値のとおりとした。また、第1配線10、第2配線20、ガード配線30およびGND層50の材質は銅とし、厚みは
図9および
図10に示す数値のとおりとした。また、ガード配線30の両端(端子34とパッド電極60との間、および端子35とパッド電極60との間)における抵抗素子80の抵抗値は、ガード配線30の特性インピーダンスZ
pと同一の値とした。
【0034】
図11に、幅Wwを0.7mm、間隔G1を0.13mmとした場合の遠端クロストークのシミュレーション結果を示す。シミュレーションは、ガード配線30の第1部分31および第2部分32の幅Wnを0.1mm~0.6mmまで0.05mm刻みで変えて行い、これらを順に「周期構造1」~「周期構造11」とした。また、幅Wnを0.7mmとした構成、すなわち、
図5の比較例2のように周期構造を有しない直線状の通常配線90を設けた構成についても、シミュレーションを行った(
図11において「通常配線」と記す)。
図11には、幅Wnの水準ごとに、ガード配線30の特性インピーダンスZ
p(Ω)、第1配線10および第2配線20の特性インピーダンスZ
0(Ω)、コモンモードにおける実効的な比誘電率ε
re、ディファレンシャルモードにおける実効的な比誘電率ε
ro、および式(3)のΔk(遠端クロストークS
41に比例する量)が示されている。
【0035】
図11に示すように、「周期構造1」~「周期構造11」について、いずれも「通常配線」よりもΔkの絶対値が小さくなり、遠端クロストークS
41を低減できるシミュレーション結果が得られた。このうち、Δkが0以上かつ0.009以下となる「周期構造7」~「周期構造9」(
図11における範囲R1)では、遠端クロストークS
41をほとんど0に近付けることができる。なお、Δkが負の値となる場合には、高周波側で遠端クロストークS
41の低減効果が得られにくいものの、低周波側では遠端クロストークS
41を効果的に低減することができる。
【0036】
図12に、幅Wwを0.65mm、間隔G1を0.155mmとした場合の遠端クロストークのシミュレーション結果を示す。シミュレーションは、ガード配線30の第1部分31および第2部分32の幅Wnを0.1mm~0.55mmまで0.05mm刻みで変えて行い、これらを順に「周期構造12」~「周期構造21」とした。また、幅Wnを0.65mmとした構成、すなわち、直線状の通常配線90を設けた構成についても、シミュレーションを行った(
図12において「通常配線」と記す)。
「周期構造12」~「周期構造21」について、いずれも「通常配線」よりもΔkの絶対値が小さくなり、遠端クロストークS
41を低減できるシミュレーション結果が得られた。このうち、Δkが0以上かつ0.009以下となる「周期構造12」~「周期構造16」(
図12における範囲R2)では、遠端クロストークS
41をほとんど0に近付けることができる。
【0037】
図13に、幅Wwを0.6mm、間隔G1を0.18mmとした場合の遠端クロストークのシミュレーション結果を示す。シミュレーションは、ガード配線30の第1部分31および第2部分32の幅Wnを0.1mm~0.5mmまで0.05mm刻みで変えて行い、これらを順に「周期構造22」~「周期構造30」とした。また、幅Wnを0.6mmとした構成、すなわち、直線状の通常配線90を設けた構成についても、シミュレーションを行った(
図13において「通常配線」と記す)。
「周期構造22」~「周期構造30」について、いずれも「通常配線」よりもΔkの絶対値が小さくなり、遠端クロストークS
41を低減できるシミュレーション結果が得られた。
【0038】
図14に、幅Wwを0.55mm、間隔G1を0.205mmとした場合の遠端クロストークのシミュレーション結果を示す。シミュレーションは、ガード配線30の第1部分31および第2部分32の幅Wnを0.1mm~0.45mmまで0.05mm刻みで変えて行い、これらを順に「周期構造31」~「周期構造38」とした。また、幅Wnを0.55mmとした構成、すなわち、直線状の通常配線90を設けた構成についても、シミュレーションを行った(
図14において「通常配線」と記す)。
「周期構造31」~「周期構造38」について、いずれも「通常配線」よりもΔkの絶対値が小さくなり、遠端クロストークS
41を低減できるシミュレーション結果が得られた。
【0039】
図15に、幅Wwを0.5mm、間隔G1を0.23mmとした場合の遠端クロストークのシミュレーション結果を示す。シミュレーションは、ガード配線30の第1部分31および第2部分32の幅Wnを0.1mm~0.4mmまで0.05mm刻みで変えて行い、これらを順に「周期構造39」~「周期構造45」とした。また、幅Wnを0.5mmとした構成、すなわち、直線状の通常配線90を設けた構成についても、シミュレーションを行った(
図15において「通常配線」と記す)。
「周期構造39」~「周期構造45」について、いずれも「通常配線」よりもΔkの絶対値が小さくなり、遠端クロストークS
41を低減できるシミュレーション結果が得られた。
【0040】
図16に、幅Wwを0.45mm、間隔G1を0.255mmとした場合の遠端クロストークのシミュレーション結果を示す。シミュレーションは、ガード配線30の第1部分31および第2部分32の幅Wnを0.1mm~0.35mmまで0.05mm刻みで変えて行い、これらを順に「周期構造46」~「周期構造51」とした。また、幅Wnを0.45mmとした構成、すなわち、直線状の通常配線90を設けた構成についても、シミュレーションを行った(
図16において「通常配線」と記す)。
「周期構造46」~「周期構造51」について、いずれも「通常配線」よりもΔkの絶対値が小さくなり、遠端クロストークS
41を低減できるシミュレーション結果が得られた。
【0041】
図17は、
図11~16のシミュレーションにおける各周期構造を採用した場合の遠端クロストークS
41の低減効果を示す図である。
図17の表の各行は、幅Ww=0.45mm~0.7mmのいずれかを表し、各列は、幅Wn=0.1mm~0.7mmのいずれかを表す。また、行と列との交点に対応する各セル(「-」と記されているセルを除く)は、周期構造1~45のいずれか、または通常配線を採用した1つの構成に対応し、該構成における遠端クロストークS
41の低減効果を表す。
図17中、「○」は、0(直流)~50GHzの周波数帯で、遠端クロストークS
41が-20dB未満に抑えられることを表す。
また、「□」は、0~45GHzの周波数帯で、遠端クロストークS
41が-20dB未満に抑えられ、45GHz~50GHzの周波数帯の一部で遠端クロストークS
41が-20dB以上となることを表す。
また、「△」は、0~45GHzの周波数帯の一部で遠端クロストークS
41が-20dB以上となるものの、「通常配線」の遠端クロストークS
41よりは改善されることを表す。
また、「×」は、「通常配線」の遠端クロストークS
41を表す。
【0042】
図17に示す範囲R1(Δkが0以上かつ0.009以下となる「周期構造7」~「周期構造9」)においては、遠端クロストークS
41の低減効果が特に高くなる結果が得られた。範囲R1は、間隔G(0.96mm)が配線幅W(0.32mm)の略3倍であり、Y方向についての第3部分33の幅Ww(0.7mm)が配線幅Wの略2.2倍であり、Y方向についての第1部分31および第2部分32の幅Wn(0.4mm~0.5mm)が、配線幅Wの1.2倍よりも大きく、かつ配線幅Wの1.6倍未満である範囲に相当する。
【0043】
また、
図17に示す範囲R2(Δkが0以上かつ0.009以下となる「周期構造12」~「周期構造16」)においても、遠端クロストークS
41の低減効果が特に高くなる結果が得られた。範囲R2は、間隔G(0.96mm)が配線幅W(0.32mm)の略3倍であり、Y方向についての第3部分33の幅Ww(0.65mm)が配線幅Wの略2倍であり、Y方向についての第1部分31および第2部分32の幅Wn(0.1mm~0.3mm)が、配線幅Wの1/3よりも大きく、かつ配線幅W未満である範囲に相当する。
【0044】
なお、本開示において、数値について「略」を付した場合には、その数値の0.9倍以上1.1倍以下の範囲を含むものとする。例えば、「間隔Gが配線幅Wの略3倍である」とは、「間隔Gが配線幅Wの2.7倍以上かつ3.3倍以下である」ことを示す。
【0045】
図18は、範囲R2に含まれる「周期構造13」のガード配線30を用いた場合の遠端クロストークS
41の低減効果を、比較例1および比較例2と対比して示す図である。「周期構造13」は、
図12に示すように、幅Ww=0.65mm、かつ幅Wn=0.15mmの周期構造である。
図18における横軸は、伝送信号の周波数を表し、縦軸は、各周波数における遠端クロストークS
41の大きさを表す。
図18の鎖線および破線のグラフに示すように、比較例1および比較例2では、15GHz以上の高周波数帯で遠端クロストークS
41が-20dB以上に悪化する。一方、
図18の実線のグラフに示すように、「周期構造13」のガード配線30を用いた場合には、DC(0Hz)~50GHzの全範囲に亘って遠端クロストークS
41が-20dB未満に低減される結果が得られた。
【0046】
図19は、「周期構造13」のガード配線30を用いた場合の、コモンモードにおける実効的な比誘電率ε
reと、ディファレンシャルモードにおける実効的な比誘電率ε
roとを、比較例1、比較例2と対比して示す図である。
図19から分かるように、「周期構造13」のガード配線30を用いることで、比誘電率ε
re、ε
ro(上述のとおり、主に比誘電率ε
ro)が調整され、比較例1および比較例2と比較して、比誘電率ε
reと比誘電率ε
roとの差分が効果的に低減している。これにより、遠端クロストークS
41が効果的に低減する。
【0047】
次に、
図20を参照して、ガード配線30の両端における抵抗素子80の有無、および抵抗素子80の抵抗値の大きさが、遠端クロストークS
41に与える影響について説明する。
【0048】
図20の各行は、
図1に示すガード配線30の近端側の端子34とパッド電極60との間の電気的な接続の態様(以下、「終端抵抗の接続態様」と記す)を示す。詳しくは、「短絡」は、端子34とパッド電極60とが抵抗素子80を介さずに直接電気的に接続されていることを表し、「10Ω」~「300Ω」の数値は、端子34とパッド電極60との間に、該数値の抵抗値を有する抵抗素子80が実装されていることを表し、「開放」は、端子34とパッド電極60とが電気的に接続されていないことを表す。
また、
図20の各列は、
図1に示すガード配線30の遠端側(端子35とパッド電極60との間)の終端抵抗の接続態様を示す。「短絡」、「10Ω」~「300Ω」の抵抗値、および「開放」がそれぞれ表す内容は、近端側と同様である。
また、
図20のシミュレーションでは、範囲R2に含まれる「周期構造16」のガード配線30を用い、近端側および遠端側の終端抵抗の接続態様のみを変更して行った。「周期構造16」は、
図12に示すように、幅Ww=0.65mm、かつ幅Wn=0.3mmの周期構造である。また、「周期構造16」のガード配線30の特性インピーダンスZ
pは、45Ωである。
【0049】
図20の行と列との交点に対応する各セルは、近端側および遠端側における各終端抵抗の接続態様の組み合わせとした構成における、遠端クロストークS
41の低減効果を表す。
詳しくは、「◎」は、0(直流)~50GHzの周波数帯で、遠端クロストークS
41が-22dB未満に抑えられることを表す。すなわち、「◎」は、
図17の「○」よりもさらに高い遠端クロストークS
41の低減効果が得られることを表す。
また、「○」は、
図17の「○」と同様、0~50GHzの周波数帯で、遠端クロストークS
41が-20dB未満に抑えられることを表す。
また、ハッチングを付した空欄は、0~50GHzの周波数帯の一部で遠端クロストークS
41が-20dB以上となることを表す。
【0050】
図20から分かるように、ガード配線30がGND層50に電気的に接続されていない構成とした場合(近端側および遠端側がいずれも「開放」である場合)であっても、「○」の結果となり、十分な遠端クロストークS
41の低減効果が得られる。
【0051】
また、ガード配線30の一方の端部がGND層50に対して抵抗素子80を介さずに電気的にされており、他方の端部が、GND層50に対して20Ω以上かつ300Ω以下の抵抗素子80を介して電気的に接続されている場合(近端側および遠端側の一方が「短絡」であり、他方が「20Ω」~「300Ω」のいずれかである場合)には、「○」または「◎」の結果となり、十分な遠端クロストークS41の低減効果が得られる。
【0052】
また、ガード配線30の一方の端部および他方の端部がそれぞれ、GND層50に対して10Ω以上かつ300Ω以下の抵抗素子80を介して電気的に接続されている場合(近端側および遠端側がそれぞれ「10Ω」~「300Ω」のいずれかである場合)には、「○」または「◎」の結果となり、十分な遠端クロストークS41の低減効果が得られる。
【0053】
また、ガード配線30の一方の端部がGND層50に電気的に接続されておらず、他方の端部が、GND層50に対して10Ω以上かつ300Ω以下の抵抗素子80を介して電気的に接続されている場合(近端側および遠端側の一方が「開放」であり、他方が「10Ω」~「300Ω」のいずれかである場合)には、「○」の結果となり、十分な遠端クロストークS41の低減効果が得られる。
【0054】
さらに、ガード配線30の一方の端部および他方の端部がそれぞれ、GND層50に対して、ガード配線30の特性インピーダンスZ
p(45Ω)以上かつ100Ω以下の抵抗素子80を介して電気的に接続されている場合(近端側および遠端側がそれぞれ「45Ω」~「100Ω」のいずれかである場合:
図20において鎖線で示す範囲r1に相当)には、「◎」の結果となり、0~50GHzの周波数帯に亘って遠端クロストークS
41を-22dB未満に低減することができる。
【0055】
また、ガード配線30の一方の端部がGND層50に対して抵抗素子80を介さずに電気的に接続されており、他方の端部が、GND層50に対して、ガード配線30の特性インピーダンスZ
p以上かつ200Ω以下の抵抗素子80を介して電気的に接続されている場合(近端側および遠端側の一方が「短絡」であり、他方が「45Ω」~「200Ω」のいずれかである場合:
図20において破線で示す範囲r2に相当)にも、「◎」の結果となり、0~50GHzの周波数帯に亘って遠端クロストークS
41を-22dB未満に低減することができる。
【0056】
また、ガード配線30の少なくとも一方の端部が、抵抗素子80に対して、ガード配線30の特性インピーダンスZ
pと略同一の抵抗値の抵抗素子80を介して電気的に接続されている場合、近端側および遠端側の少なくとも一方が「45Ω」である場合:
図20において実線で示す範囲r3に相当)にも、「◎」の結果となり、0~50GHzの周波数帯に亘って遠端クロストークS
41を-22dB未満に低減することができる。なお、他方の端部を「10Ω」~「200Ω」としてもよい。または、「短絡」としてもよい。
【0057】
〔効果〕
以上のように、本実施形態に係る印刷配線板1は、絶縁体40と、絶縁体40の第1面41においてX方向に延在する第1配線10と、絶縁体40の第1面41において第1配線10と並行するようにX方向に延在する第2配線20と、絶縁体40の第1面41において第1配線10と第2配線20との間に位置し、X方向に延在するガード配線30と、を備える。ガード配線30は、周期的に蛇行するミアンダ状を成す。このようなガード配線30を設けることにより、コモンモードにおける実効的な比誘電率εreと、ディファレンシャルモードにおける実効的な比誘電率εroとが近付くように、第1配線10および第2配線20の周囲の実効的な比誘電率(主に比誘電率εro)を調整することができる。これにより、遠端クロストークS41を効果的に低減することができる。
【0058】
また、ガード配線30は、Y方向についての第1配線10との距離が第2配線20との距離よりも近い第1部分31と、Y方向についての第2配線20との距離が第1配線10との距離よりも近い第2部分32とが、X方向に沿って周期的に交互に並ぶように接続された形状を成し、第1部分31と第2部分32とを繋ぐ、Y方向に延在する第3部分33を有しており、第1部分31、第2部分32および第3部分33は、X方向についての幅が互いに等しい。このような構成によれば、第1部分31、第3部分33、第2部分32、第3部分33を、X方向についてこの順に高密度で繰り返し配置することができる。これにより、ガード配線30が、配線L1および配線L2における高周波信号の伝送に与える影響を低減することができる。
【0059】
また、第1配線10および第2配線20は、Y方向について所定の配線幅Wを有し、Y方向についての第1配線10と第2配線20との間隔Gは、配線幅Wの略3倍であり、Y方向についての第3部分33の幅Wwは、配線幅Wの略2倍であり、Y方向についての第1部分31の幅Wnおよび第2部分32の幅Wnは、配線幅Wの1/3よりも大きく、かつ配線幅W未満であってもよい。このような構成とすることで、式(3)のΔkを特に小さく(上記実施形態では、0以上かつ0.009以下に)することができる。よって、より効果的に遠端クロストークS41を低減することができる。
【0060】
また、第1配線10および第2配線20は、Y方向について所定の配線幅Wを有し、Y方向についての第1配線10と第2配線20との間隔Gは、配線幅Wの略3倍であり、Y方向についての第3部分33の幅Wwは、配線幅Wの略2.2倍であり、Y方向についての第1部分31の幅および第2部分32の幅は、配線幅Wの1.2倍よりも大きく、かつ配線幅Wの1.6倍未満であってもよい。このような構成とすることで、式(3)のΔkを特に小さく(上記実施形態では、0以上かつ0.009以下に)することができる。よって、より効果的に遠端クロストークS41を低減することができる。
【0061】
また、印刷配線板1が、接地電位とされるGND層50を備えた構成において、ガード配線30は、GND層50に電気的に接続されていなくてもよい。このような簡易な構成であっても、十分な遠端クロストークS41の低減効果が得られる。
【0062】
また、印刷配線板1が、接地電位とされるGND層50を備えた構成において、ガード配線30の一方の端部がGND層50に対して抵抗素子80を介さずに電気的に接続されており、ガード配線30の他方の端部が、GND層50に対して20Ω以上かつ300Ω以下の抵抗素子80を介して電気的に接続されていてもよい。ガード配線30の近端側および遠端側の接続態様をこのようにすることによっても、十分な遠端クロストークS41の低減効果が得られる。
【0063】
また、印刷配線板1が、接地電位とされるGND層50を備えた構成において、ガード配線30の一方の端部および他方の端部がそれぞれ、GND層50に対して10Ω以上かつ300Ω以下の抵抗素子80を介して電気的に接続されていてもよい。ガード配線30の近端側および遠端側の接続態様をこのようにすることによっても、十分な遠端クロストークS41の低減効果が得られる。
【0064】
また、印刷配線板1が、接地電位とされるGND層50を備えた構成において、ガード配線30の一方の端部がGND層50に電気的に接続されておらず、ガード配線30の他方の端部が、GND層50に対して10Ω以上かつ300Ω以下の抵抗素子80を介して電気的に接続されていてもよい。ガード配線30の近端側および遠端側の接続態様をこのようにすることによっても、十分な遠端クロストークS41の低減効果が得られる。
【0065】
また、印刷配線板1が、接地電位とされるGND層50を備えた構成において、ガード配線30の一方の端部および他方の端部がそれぞれ、GND層50に対して、ガード配線30の特性インピーダンスZp以上かつ100Ω以下の抵抗素子80を介して電気的に接続されていてもよい。ガード配線30の近端側および遠端側の接続態様をこのようにすることにより、50GHz以下といった高周波帯域において、遠端クロストークS41を極めて小さい値(上記実施形態では、-22dB未満)に低減することができる。
【0066】
また、印刷配線板1が、接地電位とされるGND層50を備えた構成において、ガード配線30の一方の端部がGND層50に対して抵抗素子80を介さずに電気的に接続されており、ガード配線30の他方の端部が、GND層50に対して、ガード配線30の特性インピーダンスZp以上かつ200Ω以下の抵抗素子80を介して電気的に接続されていてもよい。ガード配線30の近端側および遠端側の接続態様をこのようにすることにより、50GHz以下といった高周波帯域において、遠端クロストークS41を極めて小さい値(上記実施形態では、-22dB未満)に低減することができる。
【0067】
また、印刷配線板1が、接地電位とされるGND層50を備えた構成において、ガード配線30の少なくとも一方の端部が、GND層50に対して、ガード配線30の特性インピーダンスZpと略同一の抵抗値の抵抗素子80を介して電気的に接続されていてもよい。一方の端部の抵抗素子80の抵抗値を特性インピーダンスZpと略同一とすることで、多重反射を小さくできるので、他方の端部に接続する抵抗素子80の抵抗値によらずに、50GHz以下といった高周波帯域において、遠端クロストークS41を極めて小さい値(上記実施形態では、-22dB未満)に低減することができる。なお、他方の端部の抵抗値は「10Ω」~「200Ω」としてもよい。さらには、他方の端部を「短絡」にしてもよい。
【0068】
〔その他〕
なお、上記実施の形態は例示であり、様々な変更が可能である。
例えば、第3配線としてのガード配線30の形状は、
図3に示したものに限られず、Y方向についての第1配線10との距離が第2配線20との距離よりも近い第1部分と、Y方向についての第2配線20との距離が第1配線10との距離よりも近い第2部分とが、X方向に沿って周期的に交互に並ぶように接続された任意の形状(周期的な任意のミアンダ形状)であってもよい。この場合において、第1部分および第2部分が直接接続され、第3部分を有しない構成であってもよい。また、第1部分は、Y方向についての第1配線10との距離および第2配線20との距離が均一でなくてもよく、第2部分は、Y方向についての第1配線10との距離および第2配線20との距離が均一でなくてもよい。一例を挙げると、第3配線は、サインカーブ形状、または三角波形状などであってもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、第1配線10および第2配線20が直線状である例を用いて説明したが、これに限られず、第1配線10および第2配線20は、互いに並行しつつ屈曲していてもよい。この場合にも、第1配線10および第2配線20と同様にガード配線30を屈曲させて、第1配線10および第2配線20の間にガード配線30を設けることで、上記実施形態と同様の遠端クロストークの低減効果が得られる。
【0070】
その他、上記実施の形態で示した構成、構造、位置関係および形状などの具体的な細部は、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態で示した構成、構造、位置関係および形状を適宜組み合わせ可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 印刷配線板
10 第1配線
11 引き回し配線
20 第2配線
21 引き回し配線
30 ガード配線(第3配線)
31 第1部分
32 第2部分
33 第3部分
34、35 端子
40 絶縁体
50 GND層(接地導電体)
60 パッド電極
70 ビア
80 抵抗素子
90 通常配線
L1、L2 配線
U 単位構造
p1~p4 配線端