(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055765
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】リン酸塩ガラス、光学ガラス、及び光学素子
(51)【国際特許分類】
C03C 3/21 20060101AFI20240411BHJP
G02B 1/00 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C03C3/21
G02B1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130041
(22)【出願日】2023-08-09
(31)【優先権主張番号】P 2022161891
(32)【優先日】2022-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 菜那
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA04
4G062BB09
4G062DA01
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4G062NN33
(57)【要約】
【課題】熱処理前の透過率が良好であり、生産性が高く、短波長を含む広い可視域の透過率に優れた高屈折率領域のリン酸塩ガラス及び光学ガラスと、これを用いた光学素子を提供する。
【解決手段】屈折率(nd)が1.90000以上であり、分光透過率(λ5)が400nm以下であり、酸化物基準の質量%で、Li2O成分を0%超1.0%未満、含有し、質量和WO3+Bi2O3+Gd2O3が10.0%以下、である、リン酸塩ガラス。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率(nd)が1.90000以上であり、
分光透過率(λ5)が400nm以下であり、
酸化物基準の質量%で、
Li2O成分を0%超1.0%未満、
含有し、
質量和WO3+Bi2O3+Gd2O3が10.0%以下、
である、リン酸塩ガラス。
【請求項2】
質量比Li2O×100/BaOが30.0以下、
である請求項1に記載のリン酸塩ガラス。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
請求項3に記載のガラスからなる光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸塩ガラス、光学ガラス、及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光学系のレンズは、高輝度が求められる光学系は、光源の負担を低減するため、短波長側の透過率が良いことが求められる。使用される光学機器によって求められるものは変化するが、様々なジャンルのニーズを満たすガラスが望ましい。また、光学機器全体の重さを低減する観点から、レンズの軽量化は重要である。
【0003】
また、リン酸塩ガラスは白金と合金化し易いことが知られており、リン酸塩ガラスを熔解する場合は、まず原料を石英坩堝による粗熔解し、その後白金坩堝による熔解を行う製造方法がある。
特に、TiO2成分、Nb2O5成分、WO3成分、Bi2O3成分などの高屈折率成分は白金由来の着色、いわゆる還元色を引き起こしやすい成分である。
そのため、リン酸塩ガラス中に高屈折率成分を多量に含む場合はガラスを作製したあとに、還元色を低減させるための熱処理工程を行うことがある。
【0004】
さらに、還元色が強いリン酸塩ガラスは、ガラス内部がほとんど透過しない状態であるため、熱処理工程後でなければガラスの内部の失透、フシ等の確認ができないという問題があった。
【0005】
特許文献1には、高分散成分にLi2O成分を含有することによって、熱処理時間を短縮できることに着目したリン酸塩光学ガラスに関する発明が記載されているが、短波長側の透過率が十分であるとは言えず、レンズの軽量化の面でも十分であるとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、熱処理前の透過率が良好でありながら、生産性が高く、短波長を含む広い可視域の透過率に優れたリン酸塩ガラス及び光学ガラスと、これを用いた光学素子を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、ガラス成分の比率を調整することによって、熱処理前の透過率が良好でありながら、生産性が高く、短波長を含む広い可視域の透過率に優れた高屈折率領域のリン酸塩ガラスを得られることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0009】
(1) 屈折率(nd)が1.90000以上であり、
分光透過率(λ5)が400nm以下であり、
酸化物基準の質量%で、
Li2O成分を0%超1.0%未満、
含有し、
質量和WO3+Bi2O3+Gd2O3が10.0%以下、
である、リン酸塩ガラス。
【0010】
(2) 質量比Li2O×100/BaOが30.0以下、
である(1)に記載のリン酸塩ガラス。
【0011】
(3) (1)又は(2)に記載の光学ガラス。
【0012】
(4) (3)に記載のガラスからなる光学素子。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、広い可視域の透過率に優れ、熱処理前の透過率が良好でありながら、生産性が高く、短波長を含む広い可視域の透過率に優れた高屈折率領域のリン酸塩ガラス及び光学ガラスと、これを用いた光学素子を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のガラスの実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0015】
本発明においては、熱処理後の透過率については透過率、可視域の透過率、分光透過率などと表現することがある。
【0016】
[ガラス成分]
本発明のガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中で特に断りがない場合、各成分の含有量は、全て酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が熔融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0017】
本発明のリン酸塩ガラスとは、網目形成酸化物として知られているSiO2成分、B2O3成分、P2O5成分の中で、P2O5成分を最も多く含有したガラスとしている。
【0018】
P2O5成分は、ガラス形成成分であり、リヒートプレス成型性を良好にする成分である。従って、P2O5成分の含有量は、好ましくは15.0%以上、より好ましくは16.0%以上、さらに好ましくは18.0%以上、さらに好ましくは20.0%以上を下限とする。
他方で、P2O5成分の含有量を40.0%以下にすることで、所望の屈折率、アッベ数を得ることが出来る。従って、P2O5成分の含有量は、好ましくは40.0%以下とし、より好ましくは35.0%以下、最も好ましくは30.0%以下を上限とする。
【0019】
Nb2O5成分は、屈折率を高め、アッベ数を低くする成分である。従って、Nb2O5成分の含有量は、好ましくは25.0%以上、より好ましくは28.0%以上、さらに好ましくは30.0%以上を下限とする。
他方で、Nb2O5成分の含有量を60.0%以下にすることで、ガラスの材料コストを低減でき、且つ耐失透性を高められる。従って、Nb2O5成分の含有量は、好ましくは60.0%以下、より好ましくは58.0%以下、さらに好ましくは55.0%以下、さらに好ましくは53.0%以下、さらに好ましくは50.0%以下を上限とする。
【0020】
TiO2成分は、屈折率を高め、アッベ数を低くできる成分である。従って、TiO2成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは1.5%以上、さらに好ましくは3.0%以上、さらに好ましくは5.0%以上を下限とする。
他方で、TiO2成分の含有量を30.0%以下とすることで短波長側の透過率悪化を抑制することが出来る。従って、TiO2成分の含有量は、好ましくは30.0%以下、より好ましくは25.0%以下、より好ましくは23.0%以下、さらに好ましくは20.0%以下を上限とする。
【0021】
BaO成分は、白金の溶け込みを抑えることが可能な成分である。さらに、BaO成分は、他のアルカリ土類金属と異なり、P2O5成分と相性がよく、リヒートプレス成形性を良好にする成分である。従って、BaO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.2%以上、さらに好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは2.0%以上を下限とする。
他方で、BaO成分の含有量を25.0%以下にすることで、過剰な含有によるガラスの屈折率の低下や、失透を低減できる。従って、BaO成分の含有量は、好ましくは25.0%以下、より好ましくは23.0%以下、さらに好ましくは20.0%以下、さらに好ましくは18.0%以下、さらに好ましくは16.0%以下を上限とする。
【0022】
MgO成分、CaO成分及びSrO成分は、白金の溶け込みを抑えつつ、ガラスの屈折率や熔融性、耐失透性を調整できる成分である。
他方で、MgO成分、CaO成分及びSrO成分の含有量を5.0%以下にすることで、屈折率の低下を抑えることができ、かつこれらの成分の過剰な含有による失透を低減できる。従って、MgO成分、CaO成分及びSrO成分の含有量は、それぞれ好ましくは5.0%以下、より好ましくは4.0%以下、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0023】
ZnO成分の含有量を5.0%未満にすることで、屈折率の低下を抑えられ、かつ、過剰な粘性の低下による失透を低減できる。従って、ZnO成分の含有量は、好ましくは5.0%未満、より好ましくは4.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは2.0%以下を上限としてもよい。
【0024】
Li2O成分は、ガラス原料の熔解温度を下げつつ、高屈折化成分由来の着色を低減させ、かつ高屈折化成分由来の着色を低減するための熱処理前の透過率を向上することができる成分である。従って、Li2O成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.01%以上、さらに好ましくは0.03%以上、さらに好ましくは0.05%以上を下限とする。
他方で、Li2O成分の含有量は、好ましくは1.0%未満、より好ましくは0.8%以下、さらに好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下を上限とする。
【0025】
Na2O成分は、ガラス原料の熔融性を高められ、透過率を良好にできる成分である。従って、Na2O成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは1.5%以上、さらに好ましくは2.0%以上を下限とする。
他方で、Na2O成分の含有量を15.0%以下にすることで、過剰な含有によるガラスの屈折率の低下や、失透を低減でき、リヒートプレス時の失透を抑制できる。従って、Na2O成分の含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは12.0%以下、さらに好ましくは10.0%以下を上限とする。
【0026】
K2O成分は、熔融性を高め、透過率を良好にできる成分である。従って、K2O成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは1.0%超を下限としてもよい。
他方で、K2O成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの安定性を維持し、かつ屈折率の低下を抑えられる。従って、K2O成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下を上限とする。
【0027】
SiO2成分は、ガラス形成酸化物成分である。また、熔融ガラスの粘度を良好にし、化学的耐久性を高められる。従って、SiO2成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.3%以上を下限とする。
他方で、SiO2成分の含有量を5.0%以下にすることで、ガラス転移点の上昇を抑えられ、かつ屈折率の低下を抑えられる。従って、SiO2成分の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは4.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.8%以下、さらに好ましくは0.5%以下を上限とする。
【0028】
B2O3成分は、ガラス形成酸化物として用いられる成分である。従って、B2O3成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.2%以上、さらに好ましくは0.3%以上を下限とする。
他方で、B2O3成分の含有量を5.0%以下にすることで、リヒートプレス時の失透性の悪化を低減でき、かつ化学的耐久性の悪化を抑えられる。従って、B2O3成分の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは4.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下を上限とする。
【0029】
WO3成分は、屈折率及び耐失透性を高め、アッベ数を低くする成分である。
特に、WO3成分の含有量を10.0%以下にすることで、リヒートプレス成形性の悪化や、短波長側の透過率の低下を抑えられる。従って、WO3成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下を上限とする。
【0030】
Bi2O3成分の含有量を5.0%以下にすることで、耐失透性を高められ、短波長側の透過率の低下を抑えられる。従って、Bi2O3成分の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは4.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0031】
Al2O3成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラス原料の熔融性を高められ、ガラスの耐失透性を高められる。従って、Al2O3成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0032】
ZrO2成分は、屈折率及び可視光透過率を高め、且つ耐失透性を高める成分である。ZrO2成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは8.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0033】
La2O3成分、Y2O3成分、Gd2O3成分及びYb2O3成分は、屈折率及び可視光透過率を高め、且つ化学的耐久性を高める成分である。
他方で、La2O3成分、Y2O3成分、Gd2O3成分及びYb2O3成分の各々の含有量を10.0%以下にすることで、アッベ数の上昇を抑えられ、且つ耐失透性を高められる。従って、La2O3成分、Y2O3成分、Gd2O3成分及びYb2O3成分の含有量は、それぞれ好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは4.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0034】
GeO2成分の含有量は、好ましくは3.0%以下、より好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下を上限とし、最も好ましくは含有しない。
【0035】
TeO2成分の含有量は、好ましくは3.0%以下、より好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下を上限とし、最も好ましくは含有しない。
【0036】
Ta2O5成分の含有量は、好ましくは3.0%以下、より好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下を上限とする。
【0037】
Ga2O3成分の含有量は、好ましくは3.0%以下、より好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下を上限とし、最も好ましくは含有しない。
【0038】
SnO2成分の含有量は、好ましくは3.0%以下、より好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下、さらに好ましくは0.2%以下、さらに好ましくは0.1%以下を上限とする。
【0039】
Sb2O3成分は、熔解したガラスの脱泡を促進できる成分である。
他方で、Sb2O3成分の含有量が多いと、可視光透過率も低下し易くなり、さらに熔解設備(特にPt等の貴金属)との合金化が起こり易くなる。従って、Sb2O3成分の含有量は、好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.1%以下、さらに好ましくは0.05%以下を上限とする。
【0040】
なお、ガラスを清澄し脱泡する成分は、上記のSnO2成分やSb2O3成分に限定されるものではなく、ガラス製造の分野における公知の清澄剤、脱泡剤或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0041】
Rn2O成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の含有量の和は、0%超とする場合に、低温熔融性を向上させる効果がある。従って、Rn2O成分の含有量の和は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは2.0%以上、さらに好ましくは3.0%以上、さらに好ましくは4.0%以上を下限とする。
他方で、Rn2O成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の含有量の和は、耐失透性の悪化を抑制するために、20.0%以下が好ましい。
従って、Rn2O成分の含有量の和は、好ましくは20.0%以下、より好ましくは18.0%以下、さらに好ましくは15.0%以下、さらに好ましくは13.0%以下を上限とする。
【0042】
RO成分の合計含有量(式中、RはMgO、CaO、SrO又はBaOのいずれか1種以上)は、屈折率の低下を抑えることができ、かつこれらの成分の過剰な含有による失透を低減するため、25.0%以下が好ましい。従って、RO成分の質量和は、好ましくは25.0%以下、より好ましくは23.0%以下、さらに好ましくは20.0%以下、さらに好ましくは18.0%以下、さらに好ましくは16.0%以下を上限とする。
他方で、RO成分の合計含有量は白金の溶け込みを抑制する観点から、0%超とすることが好ましい。従って、RO成分の合計含有量は好ましくは0%超、より好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.2%以上、さらに好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは2.0%以上を下限とする。
【0043】
Ln2O3成分(式中、LnはLa、Y、Gd、Ybからなる群より選択される1種以上)は、10.0%以下にすることで、アッベ数の上昇を抑えられ、且つ耐失透性を高められる。従って、Ln2O3成分の含有量の和は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは4.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下を上限とする。
【0044】
BaO成分の合計含有量に対するLi2O成分を100倍した質量比Li2O×100/BaOは30.00以下とすることによって、熱処理前のガラスの透過率を向上することができる。従って、質量比Li2O×100/BaOは好ましくは30.00以下、より好ましくは25.00以下、さらに好ましくは20.00以下を上限する。
他方で、質量比Li2O×100/BaOは、リヒートプレス成型性を良好にし、かつ白金の溶け込みを抑える為、0超とすることが好ましい。従って、質量比Li2O×10/BaOは好ましくは0超え、より好ましくは0.0001以上、さらに好ましくは0.0005以上を下限とする。
【0045】
WO3成分及びBi2O3成分、Gd2O3成分は、屈折率を高める効果があるが、レンズの軽量化の観点から含有量を減らしたい成分である。従って、質量和WO3+Bi2O3+Gd2O3は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは7.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは4.5%以下、さらに好ましくは4.0%以下、さらに好ましくは3.5%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは2.5%以下、さらに好ましくは2.0%以下を上限とする。
【0046】
TiO2成分及びNb2O5成分、WO3成分、Bi2O3成分の合計含有量に対するNb2O5成分の質量比Nb2O5/(TiO2+Nb2O5+WO3+Bi2O3)は、0超とすることが好ましい。Nb2O5成分は、同様に高屈折率高分散成分であるTiO2成分、WO3成分、Bi2O3成分に比べたときに短波長側の透過率を最も良好にする成分である。従って、質量比Nb2O5/(TiO2+Nb2O5+WO3+Bi2O3)は、好ましくは0超、より好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.10以上、さらに好ましくは0.20以上、さらに好ましくは0.30以上、さらに好ましくは0.40以上、さらに好ましくは0.50以上、より好ましくは0.53以上、さらに好ましくは0.55以上、さらに好ましくは0.58以上を下限とする。
他方で、質量比Nb2O5/(TiO2+Nb2O5+WO3+Bi2O3)は、1.00以下とすることでガラスの安定性を維持することができる。従って、質量比Nb2O5/(TiO2+Nb2O5+WO3+Bi2O3)は、好ましくは1.00以下、より好ましくは0.95以下、さらに好ましくは0.90以下を上限とする
【0047】
BaO成分及びK2O成分の合計含有量に対するTiO2成分の含有量の質量比TiO2/(BaO+K2O)は0.15以上5.0以下とすることが好ましい。質量比TiO2/(BaO+K2O)を0.15以上5.0以下にすることによって、可視域の透過率を良好にすることが可能になる。従って、質量比TiO2/(BaO+K2O)は、好ましくは0.15以上、より好ましくは0.18以上、さらに好ましくは0.20以上、さらに好ましくは0.22以上を下限とする。他方で、質量比TiO2/(BaO+K2O)は、好ましくは5.00以下、より好ましくは4.80以下、さらに好ましくは4.50以下を上限とする。
【0048】
<含有すべきでない成分について>
次に、本発明のガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない成分について説明する。
【0049】
上述されていない他の成分を、本願発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。ただし、Ce、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じることで、本願発明の可視光透過率を高める効果を減殺する性質があるため、特に可視領域の波長を透過させるガラスでは、実質的に含まないことが好ましい。
【0050】
また、PbO等の鉛化合物及びAs2O3等の砒素化合物は、環境負荷が高い成分であるため、実質的に含有しないこと、すなわち、不可避な混入を除いて一切含有しないことが望ましい。
【0051】
さらに、Th、Cd、Tl、Os、Be、及びSeの各成分は、近年有害な化学物質として使用を控える傾向にあり、使用した場合には、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要になる。従って、環境上の影響を重視する場合には、これらを実質的に含有しないことが好ましい。
【0052】
[製造方法]
本発明のガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、上記原料を各成分が所定の含有量の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を白金坩堝、石英坩堝又はアルミナ坩堝に投入して粗熔融した後、白金坩堝、白金合金坩堝又はイリジウム坩堝に入れて1000~1350℃の温度範囲で1~10時間熔融し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1250℃以下の温度に下げてから仕上げ攪拌を行って脈理を除去し、金型に鋳込んで徐冷することにより作製される。そして、得られたガラスについては、組成に応じて550℃~700℃の範囲で1~50時間熱処理を行ってもよい。
【0053】
[物性]
本発明のガラスは、所望の屈折率を有することが好ましい。より具体的には、本発明のガラスの屈折率(nd)は、好ましくは1.90000以上、より好ましくは1.90300以上、さらに好ましくは1.90500以上を下限とする。これにより、光学設計の自由度が広がり、更に素子の薄型化を図っても大きな光の屈折量を得ることができる。なお、本発明のガラスの屈折率(nd)の上限は特に限定されないが、好ましくは2.00000以下、より好ましくは1.99000以下、さらに好ましくは1.98000以下、さらに好ましくは1.97000以下、さらに好ましくは1.96000以下を上限としてもよい。
【0054】
また、本発明のガラスは、所望の分散(アッベ数)を有する必要がある。特に、本発明のガラスのアッベ数(νd)は、好ましくは15.00以上、より好ましくは16.00以上、さらに好ましくは17.00以上を下限としてもよい。他方で、ガラスのアッベ数(νd)は、好ましくは25.00以下、より好ましくは22.50以下、さらに好ましくは22.00以下を上限とする。これにより、本発明のガラスを光学素子に用いたときの光学設計の自由度を大幅に広げることができる。
【0055】
また、本発明のガラスは、熱処理前の着色が少ないことが好ましい。特に、本発明のガラスは、ガラスの透過率で表すと、厚み10mmのサンプルで分光透過率70%を示す波長(LHλ70)は、好ましくは1060nm以下、より好ましくは1050nm以下、さらに好ましくは1040nm以下を上限とする。また、分光透過率5%を示す波長(LHλ5)は、好ましくは410nm以下であり、より好ましくは408nm以下であり、さらに好ましくは405nm以下を上限とする。これにより、熱処理前に失透、フシ等のガラスの内部品質を確認することができるため、内部品質の悪いガラスを予め見つけることが可能であり、生産性を向上することができる。
【0056】
また、本発明のガラスは、着色が少ないことが好ましい。特に、本発明のガラスは、ガラスの透過率で表すと、厚み10mmのサンプルで分光透過率70%を示す波長(λ70)は、好ましくは480nm以下、より好ましくは470nm以下、さらに好ましくは450nm以下を上限とする。また、分光透過率5%を示す波長(λ5)は、好ましくは400nm以下であり、より好ましくは398nm以下であり、さらに好ましくは395nm以下を上限とする。これにより、ガラスの吸収端が紫外領域又はその近傍に位置するようになり、可視域におけるガラスの透明性が高められるため、このガラスをレンズ等の光学素子の材料として好ましく用いることができる。
【0057】
[光学素子]
本発明のガラスは、様々な光学素子及び光学設計に有用であるが、その中でも特に、本発明のガラスから精密プレス成形等の手段を用いて、各種レンズやプリズム、ミラー、回折格子、回折格子用の基板等の光学素子を作製することが好ましい。これにより、カメラやプロジェクタ等のような光学素子に可視域の光を透過させる光学機器に用いたときに、高精細で高精度な結像特性を実現しつつ、これら光学機器における光学系の小型化を図ることができる。
【実施例0058】
本発明の実施例1~24及び比較例1~2のガラスの組成、屈折率(nd)、アッベ数(νd)、熱処理前の分光透過率が5%及び70%を示す波長(LHλ5、LHλ70)、熱処理後の分光透過率が5%及び70%を示す波長(λ5、λ70)を表1~4に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0059】
実施例及び比較例のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度原料を選定し、表に示した各実施例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、石英坩堝又は白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1000~1300℃の温度範囲で1~3時間熔融し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1200℃以下の温度に下げてから仕上げ攪拌を行って脈理を除去し、金型に鋳込み徐冷してガラスを作製した。そして、得られたガラスについて、組成に応じて550℃~700℃の範囲で1~30時間熱処理を行った。
【0060】
実施例及び比較例のガラスの屈折率及びアッベ数、部分分散比(θg,F)は、JIS B 7071-2:2018に規定されるVブロック法に準じて測定した。ここで、屈折率(nd)は、ヘリウムランプのd線(587.56nm)に対する測定値で示した。また、アッベ数(νd)は、ヘリウムランプのd線に対する屈折率(nd)と、水素ランプのF線(486.13nm)に対する屈折率(nF)、C線(656.27nm)に対する屈折率(nC)の値を用いて、アッベ数(νd)=[(nd-1)/(nF-nC)]の式から算出した。これらの屈折率(nd)、アッベ数(νd)は、徐冷降温速度を-25℃/hrにして得られたガラスについて測定を行うことで求めた。
【0061】
実施例及び比較例の熱処理前及び熱処理後のガラスの透過率は、日本光学硝子工業会規格(JOGIS02-2019 光学ガラスの着色度の測定方法)に準じて測定した。なお、本発明においては、ガラスの透過率を測定することで、ガラスの着色の有無と程度を求めた。具体的には、厚さ10±0.1mmの対面平行研磨品をJISZ8722に準じ、200~2500nmの分光透過率を測定し、λ70(透過率70%時の波長)とλ5(透過率5%時の波長)を求めた。
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
また、実施例2、9、10及び比較例1のガラスについて、再加熱試験の前後における失透及び乳白の有無を目視で確認した結果を、表5に示す。ここで、再加熱試験後の前後における失透及び乳白の確認は、15mm×15mm×30mmの試験片を、凹型耐火物上に載せて電気炉に入れて再加熱温度まで再加熱し、その温度で30分保温した後、常温まで冷却して炉外に取り出し、内部で観察できるように対向する2面を厚さ10mmに研磨した後、研磨したガラス試料における失透及び乳白の有無を目視で観察することで行った。このとき、再加熱温度で失透及び乳白が生じなかったガラスは「〇」とし、失透又は乳白が生じたガラスは「×」とした。なお、再加熱温度は(Tg+100℃~120℃)の範囲を基準としている。
【0067】
【0068】
本発明の実施例のリン酸塩ガラスは、(λ5)が400nm以下であり、所望の範囲内であった。
【0069】
本発明の実施例のリン酸塩ガラスは、熱処理前の透過率が良好であり、所望の範囲内であった。
【0070】
また、本発明の実施例のリン酸塩ガラスは、いずれも再加熱試験の前後における失透がないため、リヒートプレス成形性が良好であった。リヒートプレス成形性の高いガラスはリヒートプレスによる失透が少ないため、歩留まりが高く、生産性が高いガラスである。
【0071】
以上のことから、本発明の実施例のリン酸塩ガラスは、屈折率が高く広い可視域の透過率に優れ、熱処理前の透過率が良好でありながら、生産性が高いことが明らかになった。
【0072】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。