IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭化成株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055767
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】ポリオキシメチレン樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 59/00 20060101AFI20240411BHJP
   C08K 5/55 20060101ALI20240411BHJP
   C08G 2/00 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C08L59/00
C08K5/55
C08G2/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023133052
(22)【出願日】2023-08-17
(31)【優先権主張番号】P 2022162709
(32)【優先日】2022-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】浅川 智仁
【テーマコード(参考)】
4J002
4J032
【Fターム(参考)】
4J002CB001
4J002EY016
4J002FD036
4J002FD206
4J032AA05
4J032AA32
4J032AB02
4J032AB06
4J032AD28
4J032AD54
(57)【要約】
【課題】成形加工時の熱安定性と成形加工後の熱分解性のバランスとを兼ね備えたポリオキシメチレン樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】上記目的を達成するべく、本発明は、(a)ポリオキシメチレン重合体と、(b)フッ化アリールホウ素化合物(誘導体)と、を含み、前記(a)ポリオキシメチレン重合体のメトキシ末端量が、ポリオキシメチレン重合体1gあたり0.5×10―6mol以上であり、前記(b)フッ化アリールホウ素化合物(誘導体)の含有量が、ポリオキシメチレン樹脂組成物全体の質量に対して、10ppm以上1000ppm以下であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリオキシメチレン重合体と、(b)フッ化アリールホウ素化合物(誘導体)と、を含み、
前記(a)ポリオキシメチレン重合体のメトキシ末端量が、ポリオキシメチレン重合体1gあたり0.5×10-6mol以上であり、
前記(b)フッ化アリールホウ素化合物(誘導体)の含有量が、ポリオキシメチレン樹脂組成物全体の質量に対して、10ppm以上1000ppm以下であることを特徴とする、ポリオキシメチレン樹脂組成物。
【請求項2】
前記(a)ポリオキシメチレン重合体のメトキシ末端量が、ポリオキシメチレン重合体1gあたり0.75×10-6mol以上、10×10-6mol以下であることを特徴とする、請求項1に記載のポリオキシメチレン樹脂組成物。
【請求項3】
前記(b)フッ化アリールホウ素化合物の含有量が、ポリオキシメチレン樹脂組成物全体の質量に対して、100ppm以上1000ppm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリオキシメチレン樹脂組成物。
【請求項4】
前記フッ化アリールホウ素化合物が、式(1)、式(2)又は式(3)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種類の化合物であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリオキシメチレン樹脂組成物。
【化1】
(式(1)~(3)において、Ar~Arは、それぞれ独立した、少なくとも一つ以上の水素原子がフッ素原子に置き換わったアリール基(フッ化アリール基)からなる置換基である。)
【請求項5】
前記フッ化アリールホウ素化合物が、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、ビス(ペンタフルオロフェニル)フルオロボラン及びペンタフルオロフェニルジフルオロボランからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリオキシメチレン樹脂組成物。
【請求項6】
前記フッ化アリールホウ素化合物が、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランを少なくとも含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリオキシメチレン樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオキシメチレン樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオキシメチレン樹脂組成物は、優れた機械特性、成形加工性、摺動性を有することから、電気・電子材料分野、自動車分野、各種工業材料分野など幅広い分野で用いられているエンジニアリングプラスチックである。
ポリオキシメチレン樹脂組成物は、射出成型等の熱加工過程で分解、発泡を起こし臭気や外観性に悪影響を及ぼすことが知られており、これを解決するために共重合による安定構造の導入や重合後の末端安定化が施される。
【0003】
一方、近年では、ポリオキシメチレン樹脂は粉末射出成型のためのバインダーとしても用いられる。
このような用途では、成形加工後に熱分解によってポリオキシメチレン樹脂組成物を除去する工程を含むが、先述のとおり末端安定化されたポリオキシメチレン樹脂組成物の分解には、高温に加熱することが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2013―501148
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、ポリオキシメチレン樹脂組成物は、粉末射出成型のバインダーとして用いられた後、加熱分解除去されるが、この際に高温に加熱することが必要である。
従来の加熱分解工程では、ポリオキシメチレン樹脂組成物が完全に除去されるまでに時間を要するため、生産性の観点から、より低温での分解や分解速度の向上が求められていた。
また、このような加熱分解工程は、エネルギー使用量が多く、昨今求められている温室効果ガス排出量削減の観点からも、より低温で分解できることが望まれていた。
【0006】
そこで本発明は、成形加工時の熱安定性と成形加工後の熱分解性のバランスとを兼ね備えたポリオキシメチレン樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために検討を重ねた結果、フッ化アリールホウ素化合物及び/又はその誘導体を含み、一定量以上のメトキシ末端構造を持つポリオキシメチレン重合体からなる樹脂組成物において、フッ化アリールホウ素化合物及び/又はその誘導体の質量割合を特定の範囲とすることにより、成形加工時の熱安定性と成形加工後の熱分解性のバランスとを高いレベルで両立できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は以下の通りである。
[1](a)ポリオキシメチレン重合体と、(b)フッ化アリールホウ素化合物(誘導体)と、を含み、
前記(a)ポリオキシメチレン重合体のメトキシ末端量が、ポリオキシメチレン重合体1gあたり0.5×10-6mol以上であり、
前記(b)フッ化アリールホウ素化合物(誘導体)の含有量が、ポリオキシメチレン樹脂組成物全体の質量に対して、10ppm以上1000ppm以下であることを特徴とする、ポリオキシメチレン樹脂組成物。
[2]前記(a)ポリオキシメチレン重合体のメトキシ末端量が、ポリオキシメチレン重合体1gあたり0.75×10-6mol以上、10×10-6mol以下である、[1]に記載のポリオキシメチレン樹脂組成物。
[3]前記(b)フッ化アリールホウ素化合物の含有量が、ポリオキシメチレン樹脂組成物全体の質量に対して、100ppm以上1000ppm以下であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載のポリオキシメチレン樹脂組成物。
[4]前記フッ化アリールホウ素化合物が、式(1)、式(2)又は式(3)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種類の化合物であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれかに記載のポリオキシメチレン樹脂組成物。
【化1】
(式(1)~(3)において、Ar~Arは、それぞれ独立した、少なくとも一つ以上の水素原子がフッ素原子に置き換わったアリール基(フッ化アリール基)からなる置換基である。)
[5]前記フッ化アリールホウ素化合物が、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、ビス(ペンタフルオロフェニル)フルオロボラン及びペンタフルオロフェニルジフルオロボランからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれかに記載のポリオキシメチレン樹脂組成物。
及び
[6]前記フッ化アリールホウ素化合物が、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランを少なくとも含むことを特徴とする、[1]~[3]のいずれかに記載のポリオキシメチレン樹脂組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリオキシメチレン樹脂組成物は、成形加工時の熱安定性と成形加工後の熱分解性とのバランスに優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について、以下詳細に説明する。
なお、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
<ポリオキシメチレン樹脂組成物>
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物は、(a)ポリオキシメチレン重合体と、(b)フッ化アリールホウ素化合物(誘導体)を含む。
そして、前記(a)ポリオキシメチレン重合体のメトキシ末端量が、ポリオキシメチレン重合体1gあたり0.5×10-6mol以上であり、
前記(b)フッ化アリールホウ素化合物(誘導体)の含有量が、ポリオキシメチレン樹脂組成物全体の質量に対して、10ppm以上1000ppm以下である。
【0012】
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物は、(a)ポリオキシメチレン重合体及び(b)フッ化アリールホウ素化合物(誘導体)のみからなっていてもよいし、(a)ポリオキシメチレン重合体及び(b)フッ化アリールホウ素化合物(誘導体)に加えて、他の成分(例えば、後述の添加剤)を含んでいてもよい。
【0013】
なお、本明細書において、(a)ポリオキシメチレン重合体を、単に「(a)」と称する場合がある。また、(b)フッ化アリールホウ素化合物を、単に「(b)」と称する場合がある。
【0014】
((a)ポリオキシメチレン重合体)
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物における(a)ポリオキシメチレン重合体は、(-CHO-)で示されるオキシメチレン単位(アセタール構造)の繰り返しを主たる構成単位とするものであり、公知のものを用いてよい。
本実施形態における(a)ポリオキシメチレン重合体は、このオキシメチレン単位のみからなるポリオキシメチレンホモポリマー(以下、単に「ホモポリマー」と称する場合がある)であってもよく、オキシメチレン単位以外の構成単位を含むポリオキシメチレンコポリマーやターポリマー、多元共重合体(以下、単に「コポリマー」と称する場合がある)であってもよい。
【0015】
また、前記コポリマーにおいては、そのモノマー配列は制限されるものではなく、ランダム、ブロック、グラジエント等の任意の配列を有すものであってもよい。
本実施形態における(a)ポリオキシメチレン重合体は、線状構造のみならず環状、分岐、架橋構造を有すものであってもよい。
【0016】
本実施形態における(a)ポリオキシメチレン重合体のメトキシ末端の量は、ポリオキシメチレン重合体1gあたり0.5×10-6mol以上であり、0.75×10-6mol以上であることが好ましく、1×10-6mol以上であることがより好ましい。
上記範囲であることにより、(b)の分散性が高まり、ポリオキシメチレン樹脂組成物を用いた成形体の加熱分解速度が向上する。
【0017】
なお、前記メトキシ末端の量は、メチラールなどのメトキシエーテルを連鎖移動剤として重合工程中で導入する方法や、重合後にウィリアムソンエーテル合成法などにより高分子反応で導入する方法等により制御することができる。
また、メトキシ末端量の多い重合体と少ない重合体を混ぜ合わせることで上記の量としてもよい。
【0018】
前記(a)ポリオキシメチレン重合体は、1種類を単独用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
((b)フッ化アリールホウ素化合物(誘導体))
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物における(b)フッ化アリールホウ素化合物(誘導体)は、フッ化アリールホウ素化合物であってもよく、フッ化アリールホウ素化合物誘導体であってもよく、両者の混合物であってもよい。
【0020】
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物では、前記(b)フッ化アリールホウ素化合物(誘導体)の含有量が、ポリオキシメチレン樹脂組成物全体の質量に対して、10ppm以上であり、25ppm以上であることが好ましく、50ppm以上であることがより好ましい。
上記範囲であることにより、ポリオキシメチレン樹脂組成物の加熱分解速度が向上する。
【0021】
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物における前記(b)フッ化アリールホウ素化合物(誘導体)は、ポリオキシメチレン樹脂組成物全体の質量に対して、1000ppm以下であり、500ppm以下であることが好ましく、250ppm以下であることがより好ましい。上記範囲であることにより、成形加工時の熱安定性が向上する。
【0022】
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物における前記(b)フッ化アリールホウ素化合物(誘導体)は、重合触媒の残渣として含まれてもよく、ポリオキシメチレン重合体の末端安定化工程やペレタイズ工程において添加してもよい。
また、ポリオキシメチレン重合体に含まれた状態で例えば無水酢酸などで洗浄することで上記の含有量としてもよい。
【0023】
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物におけるフッ化アリールホウ素化合物の種類については、特に限定されない。
例えば、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、ビス(ペンタフルオロフェニル)フルオロボラン、ペンタフルオロフェニルジフルオロボラン、トリス(2,3,5,6-テトラフルオロフェニル)ボラン、ビス(2,3,5,6-テトラフルオロフェニル)フルオロボラン、2,3,5,6-テトラフルオロフェニルジフルオロボラン、トリス(2,3,5-トリフルオロフェニル)ボラン、ビス(2,3,5-トリフルオロフェニル)フルオロボラン、2,3,5-トリフルオロフェニルジフルオロボラン、トリス(2,4,6-トリフルオロフェニル)ボラン、ビス(2,4,6-トリフルオロフェニル)フルオロボラン、2,4,6-トリフルオロフェニルジフルオロボラン、トリス(3,5-ジフルオロフェニル)ボラン、ビス(3,5-ジフルオロフェニル)フルオロボラン、3,5-ジフルオロフェニルジフルオロボラン、トリス(2,3,5,6-テトラフルオロ-4-メチルフェニル)ボラン、ビス(2,3,5,6-テトラフルオロ-4-メチルフェニル)フルオロボラン、2,3,5,6-テトラフルオロ-4-メチルフェニルジフルオロボラン、トリス(2,3,5,6-テトラフルオロ-4-トリフルオロメチルフェニル)ボラン、ビス(2,3,5,6-テトラフルオロ-4-トリフルオロメチルフェニル)フルオロボラン、2,3,5,6-テトラフルオロ-4-トリフルオロメチルフェニルジフルオロボラン、トリス(2,6-ジフルオロ-4-トリフェニルメチルフェニル)ボラン、ビス(2,6-ジフルオロ-4-トリフェニルメチルフェニル)フルオロボラン、2,6-ジフルオロ-4-トリフェニルメチルフェニルジフルオロボラン、トリス(4-メトキシ-2,3,5,6-テトラフルオロフェニル)ボラン、ビス(4-メトキシ-2,3,5,6-テトラフルオロフェニル)フルオロボラン、4-メトキシ-2,3,5,6-テトラフルオロフェニルジフルオロボラン等が挙げられる。
【0024】
上述した中でも、前記フッ化アリールホウ素化合物は、式(1)、式(2)、又は式(3)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種類の化合物が好ましい。
【化2】
(式(1)~(3)においてAr~Arは、少なくとも一つ以上の水素原子がフッ素原子に置き換わったアリール基(フッ化アリール基)からなる置換基群からそれぞれ独立に選ばれる置換基を表す。)
上記のような化合物を用いることでポリオキシメチレン樹脂組成物の加熱分解効率が更に向上する。
【0025】
同様の観点から、前記フッ化アリールホウ素化合物は、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、ビス(ペンタフルオロフェニル)フルオロボラン及びペンタフルオロフェニルジフルオロボランからなる群より選択される少なくとも1種であること及びがより好ましく、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランを少なくとも含むことが、さらに好ましい。
【0026】
本実施形態におけるフッ化アリールホウ素化合物誘導体は、特に限定されるものではないが、例えば、フッ化アリールホウ素化合物の水素付加体、フッ化アリールホウ素化合物と水、アルコール、エーテル、エステル、アミンとの錯体などが挙げられる。
【0027】
(添加剤)
また、本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物には、必要に応じて従来公知の添加剤を配合することも可能である。前記添加剤としては、例えば、脂肪酸金属塩等のエージング性改良剤、摺動剤、耐候剤、耐光剤、離型剤、核剤、着色剤、有機・無機強化剤、各種熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。
前記添加剤の含有量は、特に限定はされないが、前記ポリオキシメチレン樹脂組成物100質量%に対して、40質量%以下であることが好ましい。
【0028】
<ポリオキシメチレン樹脂組成物の調製方法>
本実施形態のポリオキシメチレン樹脂組成物の調製方法は、特に限定されるものではなく、公知の溶融混錬方法によって製造することができる。
例えば、(a)ポリオキシメチレン重合体と(b)フッ化アリールホウ素化合物(誘導体)、必要に応じてその他の添加剤とをヘンシェル混合機等の撹拌機で混合し、単軸、若しくは二軸の溶融混錬装置(押出機)に供給して溶融混錬してもよい。また、単軸、若しくは二軸の押出機の上流から(a)ポリオキシメチレン重合体を供給し溶融状態にした後、下流で(b)フッ化アリールホウ素化合物(誘導体)、必要に応じてその他の添加剤を供給し溶融混錬してもよい。
【0029】
また、本実施形態の(a)ポリオキシメチレン重合体の調製方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法によって製造することができる。例えば、重合工程で粗ポリオキシメチレン重合体を調製し、粗ポリオキシメチレン重合体を洗浄、末端安定化することで(a)ポリオキシメチレン重合体を調製することができる。
【0030】
前記重合工程は、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。例えば、アニオン重合やカチオン重合などがあげられる。
【0031】
ここで、前記粗ポリオキシメチレン重合体をアニオン重合で得る方法について、以下に例を述べる。
例えば、ホルムアルデヒドガスを用いたスラリー法で重合することができる。モノマーであるホルムアルデヒド、連鎖移動剤(分子量調節剤)及び重合触媒を、重合溶媒を添加した重合反応器にフィードし、重合することができる。
ホルムアルデヒドガスは、通常、水、メタノール、ギ酸などの連鎖移動可能な成分(不純物)を含む。これら連鎖移動可能な成分が含まれていると、所望の分子量のポリオキシメチレン重合体が得られない場合がある。そのため、これら連鎖移動可能な成分(不純物)を、重合開始までに一定濃度まで精製除去することが好ましい。中でも水については、ホルムアルデヒドガス100質量%に対して、100質量ppm以下にすることが好ましく、さらには50質量ppm以下であることが好ましい。
【0032】
前記アニオン重合による粗ポリオキシメチレン重合体の調製では、場合により、分子量制御の目的で連鎖移動剤を用いることができる。
前記連鎖移動剤は、特に限定されないが、例えば、無水カルボン酸やカルボン酸、アルコール等を用いることができる。中でも無水プロピオン酸、無水酢酸、メタノールが好ましい。
これら連鎖移動剤は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0033】
前記重合触媒は、アニオン重合を起こす化合物であれば、特に限定されないが、例えば、オキソニウム塩やアンモニウム塩などのオニウム塩系重合触媒を用いることができる。また、上記オニウム塩系重合触媒の対アニオン構造は、特に限定されないが、例えば、アセテート、ハライドなどがあげられる。
これら重合触媒は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
前記オニウム塩系重合触媒は、テトラエチルホスホニウムイオダイド、トリブチルエチルホスホニウムイオダイドのような第4級ホスホニウム塩系化合物や、テトラメチルアンモニウムブロマイド、ジメチルジステアリルアンモニウムアセテートのような第4級アンモニウム塩系化合物が好ましい。
【0035】
前記オニウム塩系重合触媒の添加量は、ホルムアルデヒド1molに対して0.00001~0.01molであることが好ましく、より好ましくは0.00003~0.005molであり、さらに好ましくは0.00005~0.003molである。
【0036】
前記重合溶媒は、重合反応を阻害しない溶媒であれば、特に限定されないが、例えば、ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、へプタン、オクタン、ノナン、デカン、ベンゼンなどの溶媒が挙げられ、ヘキサンが特に好ましい。
これら重合溶媒は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
前記粗ポリオキシメチレン重合体をカチオン重合で得る方法について、以下に例を述べる。
例えば、ホルムアルデヒドの環状三量体であるトリオキサンを用いた塊状法で重合することができる。トリオキサンとコモノマー、連鎖移動剤、重合触媒を重合反応器に連続的にフィードすることで重合することができる。使用する重合反応機の形状(構造)としては、特に限定するものではないが、一般的には、ジャケットに熱媒を通すことのできる2軸のパドル式やスクリュー式の撹拌混合型重合反応機などを用いることができる。
【0038】
前記トリオキサンは、通常、水、ギ酸などの連鎖移動可能な成分(不純物)を含む。これら連鎖移動可能な成分が含まれていると、所望の分子量のポリオキシメチレン重合体が得られない場合がある。そのため、これら連鎖移動可能な成分(不純物)を、重合開始までに一定濃度まで精製除去することが好ましい。
【0039】
また、前記カチオン重合による粗ポリオキシメチレン重合体の調製では、場合により、コモノマーを用いることができる。
コモノマーは、特に限定されないが、例えば、環状エーテルや環状ホルマールなどを用いることもできる。
【0040】
前記環状エーテルとしては、オキシラン、オキセタン、オキサン、1,4―ジオキサン、テトラヒドロフラン、グリシジルエーテルなどが挙げられる。
前記環状ホルマールとしては、1,3-ジオキソラン、1,3-ジオキサン、1,3ジオキセパン、1,3-ジオキソカン、1,3ージオキソナン、1,3,6-トリオキソカンなどがあげられる。
これらコモノマーは、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらコモノマーは任意の量を用いることができ、トリオキサン1molに対して、例えば0.001~0.1molの範囲で使用することができる。
【0041】
前記カチオン重合による粗ポリオキシメチレン重合体の調製では、場合により、分子量制御及び末端構造制御の目的で連鎖移動剤を用いることができる。
連鎖移動剤は、特に限定されないが、例えば、低分子量アセタールやアルコールなどを用いることもできる。
【0042】
前記低分子量アセタールとしては、下記一般式で示されるものを用いることもできる。
RO-(CH-O)-R
(式中、Rは、水素、分岐状又は直鎖状のアルキル基からなる群より選ばれるいずれか1つを表す。nは1以上20以下の整数を表す。)特に、上記式中、Rがメチル基であるアセタールを用いることにより、最終的に得られるポリオキシメチレン重合体のメトキシ末端量を好適な範囲に調整することができる。これらは1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0043】
前記アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノールなどの低分子量アルコールなどがあげられる
【0044】
前記連鎖移動剤の添加量は、目的とするポリオキシメチレンの分子量を好適な範囲に制御する観点から、トリオキサン、環状エーテル及び環状ホルマールをそれぞれmolで表した量の合計に対して、0.1×10-5~0.2×10-2molの範囲が好ましく、0.1×10-5~0.2×10-3molの範囲がより好ましく、0.1×10-5~0.1×10-3molの範囲がさらに好ましい。
【0045】
前記重合触媒は、トリオキサンを重合させることができる化合物であれば特に限定されないが、例えば、フッ化アリールホウ素化合物や、周期表の第3周期から第6周期かつ第3族から第16族の金属元素を有する金属ハロゲン化物、三フッ化ホウ素(ジアルキルエーテル錯体であってもよい)などのルイス酸や、リンタングステン酸などのヘテロポリ酸、硫酸やトリフルオロメタンスルホン酸などのプロトン酸を使用することができる。
これらの中でも、三フッ化ホウ素ジアルキルエーテル錯体がより好ましく、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジ-n-ブチルエーテル錯体が特に好ましい。
【0046】
これらの重合触媒は、不活性な溶媒で所望の濃度に希釈して使用することができる。
重合触媒をそのまま使用すると、トリオキサンとが接触した部分のみで重合が開始しポリマーが析出する場合が多い。そのような場合は、不活性な溶媒で希釈することで重合反応を均一に行うことができ、高い収率で重合をおこなうことが可能となる。また、モノマーと触媒を合わせる工程で激しく攪拌することで局所的なポリマーの析出を抑制することもできる。
ここでいう「不活性」とは、重合に用いるトリオキサン、コモノマーと反応することがなく、重合触媒を失活させないことを意味する。
【0047】
このような溶媒としては、水酸基を有しない化合物が好ましく、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素化合物、n-ヘキサン、n-へプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素化合物、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、1,4-ジオキサン等のエーテル化合物等が挙げることができ、使用する重合触媒の溶解性等に応じて適宜選択することができる。
【0048】
前記重合工程の後に、得られた粗ポリオキシメチレン重合体から残モノマーの除去や触媒の除去、失活を目的に洗浄を行うこともできる。除去、失活には従来から提案されている方法を用いることができ、例えば、水のみ、あるいは触媒を効率よく失活する目的でアンモニア、トリエチルアミン、トリ-n-ブチルアミン等のアミン類、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、無機塩類、有機酸塩等の少なくとも1種以上の失活剤を含む水溶液に、重合反応機から排出された粗ポリオキシメチレン重合体を投入し、数分~数時間、室温~100℃以下の範囲で連続撹拌しながら、粗ポリオキシメチレン重合体中に残留したモノマー、触媒を除去失活することができる。触媒の洗浄除去効率を高める観点から、粗ポリオキシメチレン重合体が大きな塊状の場合、粗ポリオキシメチレン重合体を粉砕し、微細化することも好ましい。また、重合触媒として、フッ化アリールホウ素化合物を使用した場合には、最終的に得られるポリオキシメチレン樹脂組成物に含まれる(b)フッ化アリールホウ素化合物(誘導体)の量を調整することを目的に、上記洗浄条件を選択することができる。
【0049】
また、上述したような重合方法で得た粗ポリオキシメチレン重合体は、熱分解の起点となりやすいヒドロキシ基末端を有することが多く、そのような場合には、例えば有機酸無水物やアルコールとヒドロキシ基末端とを反応させて安定化したり、粗ポリオキシメチレン重合体を加熱して分解しやすい成分・部位を予め分解させておくことができる。
【0050】
例えば、有機酸無水物やアルコールとヒドロキシ末端とを反応させて安定化する場合を以下に示す。
有機酸無水物やアルコールは、ポリオキシメチレン重合体の不安定なヒドロキシ基末端と反応すれば、特に限定されない。例えば、具体的には、無水プロピオン酸、無水安息香酸、無水酢酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸、無水フタル酸、メタノールなどが挙げられる。これらの中でも、メタノールを使用することで、最終的に得られる(a)ポリオキシメチレン重合体のメトキシ末端量を調整することもできる。
本実施形態ポリオキシメチレン樹脂組成物は、金属粉末やセラミック粉末と混ぜ合わせ、成形後に熱分解除去して用いることができる。
【実施例0051】
以下、実施例及び比較例にて、本発明を具体的に説明する。本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0052】
<実施例1~3、比較例1~3>
80℃に設定した同方向回転の2軸型パドル式連続重合反応機(株式会社栗本鐵工所社製、径2B、L/D=14.8)に、トリオキサンを3.5kg/h、コモノマーとして1,3-ジオキソランを120g/h、連鎖移動剤としてメチラール及び/又はメタノール、重合触媒としてあらかじめトルエンに溶解させたトリス(ペンタフルオロフェニル)ボランを、表1に示す量でフィードし、重合を行った。
重合反応機より排出された粗ポリオキシメチレン重合体を水中に投入し、室温で1時間撹拌することで未反応のトリオキサン等の除去を行った後、遠心分離機でろ過し、100℃で10時間乾燥させることでポリオキシメチレン重合体を得た。
上記のようにして得られたポリオキシメチレン重合体にイルガノックス245を0.35phr添加してヘンシェルミキサーで混ぜ、押出しすることで、ポリオキシメチレン樹脂組成物を得た。
【0053】
<実施例4>
実施例3で得られたポリオキシメチレン樹脂組成物に、トリスペンタフルオロフェニルボランを0.4phr、イルガノックス245を0.35phr、添加してヘンシェルミキサーで混ぜ、押出しすることで、ポリオキシメチレン樹脂組成物を得た。
【0054】
<比較例4>
重合触媒として、トリフルオロホウ素ジブチルエーテル錯体を用いた以外は、実施例1と同様の条件でポリオキシメチレン樹脂組成物を得た。
【0055】
<評価>
各実施例及び各比較例で得られたポリオキシメチレン樹脂組成物について、以下の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0056】
(1)フッ化アリールホウ素化合物(誘導体)含有量
液体クロマトグラフィー/エレクトロスプレーイオン化質量分析(LC/MS(ESI-))により、最終的に得られる樹脂組成物中のフッ化アリールホウ素(誘導体)の含有量を定量した。具体的な方法は次の通りである。
ポリオキシメチレン樹脂組成物約3gを、205℃に加熱した熱プレス機を用いて、5MPaで5秒間プレスし、シート状に成形した。シート状のポリオキシメチレン樹脂組成物1gを約20mLの1,1,1,2,2,2ーヘキサフルオロー2-イソプロパノール(HFIP)に溶解した。溶け残りがある場合は50℃で1時間加熱した。それでも溶け残りがある場合は濾別し、ろ液を以下の操作に使用した。このように調製したHFIP溶液を約90mLのメタノール中に激しく撹拌しながら滴下し、得られた不溶分と可溶分を吸引ろ過により分別した。ろ液から、エバポレーターで溶媒を留去し、風乾したのち再度2mLのメタノールで希釈した。これをさらに2度、メタノールで10倍希釈し測定用試料とした。
上記の操作で得られた測定用試料を、液体クロマトグラフィー/エレクトロスプレーイオン化質量分析(LC/MS(ESI-))に供し、最終サンプル中のフッ化アリールホウ素化合物(誘導体)を定量した。液体クロマトグラフィー装置は、Waters製UPLCを使用した。また、カラムはImtakt Cadenza CXーC18HT(2mmI.D.×50mm,3μm)を40℃で使用した。また、移動相には10mmol/Lの酢酸アンモニウム水溶液とアセトニトリルを9:1に混合して使用した。流速は0.3mL/分で測定した。試料注入量は1μLとした。質量分析装置は、Waters製Synapt G2を使用した。
その結果、実施例1では、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランの水付加物(m/z 529)、フッ素付加物(m/z 531)、メタノール付加物(m/z 543)、HFIP付加物(m/z 679)が検出された。各付加物の感度は同等であると仮定し、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランの三水和物を標準試料として用いて作成した検量線で計算した。
定量の結果を、フッ化アリールホウ素化合物残渣量として表1に示す。
【0057】
(2)メトキシ末端量
プロトン核磁気共鳴(H NMR)により、最終的に得られるポリオキシメチレン樹脂組成物中のメトキシ末端量を定量した。
ポリオキシメチレン樹脂組成物約3gを、205℃に加熱した熱プレス機を用いて5MPaで5秒間プレスし、シート状に成形した。シート状のポリオキシメチレン樹脂組成物約2mgを1mLのHFIP―d2に溶解し、得られた溶液をH NMR測定に供した。
測定機器は、Bruker Biospin社製 AVANCE III 500HD Prodigyを使用した。2.5ppmのピークをメトキシ末端由来のピークとしてその物質量を定量し、サンプル重量で割り返すことで1gあたりのメトキシ末端量を定量した。定量の結果をメトキシ末端量として表1に示す。
【0058】
(3)熱分解性評価
熱重量分析(TGA)により、最終的に得られるポリオキシメチレン樹脂組成物の熱分解特性を評価した。
ポリオキシメチレン樹脂組成物10mgをそのまま評価分析に供した。
測定機器はリガク製のThermo plus EVO2を使用した。
測定は窒素雰囲気下で行った。200℃で30分間加熱した際の分解量により初期分解量を評価した。
評価については、初期分解量が20wt%未満であるものは「〇」、20wt%以上であるものは「×」として表1に示した。
また、5℃/minの速度で昇温した際、熱分解量が50wt%に達したときの温度を「Td50」として、表1に記載した。なお、比較例2は測定初期に全量分解したため、「Td50」を定義していない。
【0059】
【表1】
【0060】
表1から、比較例1は、実施例3に比べTd50が低いことがわかる。これはメトキシ末端量が適切な量でないためフッ化アリールホウ素化合物の分散が悪いため熱分解効率が落ちたことが推定される。
また、比較例2は、初期分解量が多く、安定して成形加工するのが困難であった。
さらに、比較例3,4は、フッ化アリールホウ素化合物が含まれない、もしくは量が少ないため、分解速度が遅かった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、成形加工時の熱安定性と成形加工後の熱分解性のバランスとを兼ね備えたポリオキシメチレン樹脂組成物を提供できる。