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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055789
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】建設機械
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/00 20060101AFI20240411BHJP
   F15B 21/041 20190101ALI20240411BHJP
【FI】
E02F9/00 Q
F15B21/041
E02F9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023163015
(22)【出願日】2023-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2022161981
(32)【優先日】2022-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】嘉本 大五郎
(72)【発明者】
【氏名】太田 亮
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 茂行
(72)【発明者】
【氏名】川崎 健司
【テーマコード(参考)】
2D015
3H082
【Fターム(参考)】
2D015CA00
3H082AA15
3H082CC02
3H082DB20
3H082DB26
3H082DB28
3H082DB38
3H082EE02
(57)【要約】
【課題】作動油の交換インターバルの長期化を図ることができる建設機械を提供する。
【解決手段】油圧ショベルは、添加剤を貯える添加剤タンク23と、添加剤タンク23から作動油タンク14へ添加剤を供給する添加剤供給ライン24と、添加剤供給ライン24に配置され、閉状態と開状態とで切換えられる開閉弁25と、作動油の酸化度を検出する酸化度センサ27と、コントローラ28とを備える。コントローラ28は、作動油の酸化度の変化率が所定値以上であるとき、開閉弁25を開状態に切換える旨を報知する制御、または開閉弁25を開状態に切換える制御を実行する。コントローラ28は、作動油を交換した時からの機械運転時間、もしくは開閉弁25を開状態から閉状態に切換えてからの機械運転時間が所定値以上であるとき、開閉弁25を開状態に切換える旨を報知する制御、または開閉弁25を開状態に切換える制御を実行する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動油を貯える作動油タンクと、前記作動油タンクの作動油を加圧する油圧ポンプと、油圧アクチュエータと、前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータへの作動油の供給と前記油圧アクチュエータから前記作動油タンクへの作動油の排出を制御する制御弁と、を備えた建設機械において、
添加剤を貯える添加剤タンクと、
前記添加剤タンクから前記作動油タンクへ添加剤を供給する添加剤供給ラインと、
前記添加剤供給ラインに配置され、閉状態と開状態とで切換えられ、前記閉状態で前記添加剤タンクから前記作動油タンクへの添加剤の供給を遮断し、前記開状態で前記添加剤タンクから前記作動油タンクへの添加剤の供給を行う開閉弁と、
前記作動油の酸化進行の度合いを検出する酸化度センサと、
コントローラとを備え、
前記コントローラは、
前記酸化度センサの検出結果に基づいて前記作動油の酸化進行の度合いの変化率を演算し、前記作動油の酸化進行の度合いの変化率が所定値以上であるとき、前記開閉弁を前記開状態に切換える旨を報知する制御、または前記開閉弁を前記開状態に切換える制御を実行し、
前記作動油の酸化進行の度合いの変化率が所定値未満であり、且つ、前記作動油を交換した時からの機械運転時間、もしくは前記開閉弁を前記開状態から前記閉状態に切換えてからの機械運転時間が所定値以上であるとき、前記開閉弁を前記開状態に切換える旨を報知する制御、または前記開閉弁を前記開状態に切換える制御を実行することを特徴とする建設機械。
【請求項2】
請求項1に記載の建設機械において、
前記添加剤は、酸化防止剤であることを特徴とする建設機械。
【請求項3】
請求項1に記載の建設機械において、
前記添加剤は、酸化防止剤と極圧剤であることを特徴とする建設機械。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の建設機械において、
前記酸化防止剤は、ジフェニルアミン又は/及び2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールであり、その添加濃度は、0.1~0.3wt%の範囲内であることを特徴とする建設機械。
【請求項5】
請求項3に記載の建設機械において、
前記極圧剤は、トリクレジルホスフェートであり、その添加濃度は、0.5~1.5wt%の範囲内であることを特徴とする建設機械。
【請求項6】
請求項3に記載の建設機械において、
前記極圧剤は、ジオレイルハイドロゲンホスファイトであり、その添加濃度は、0.1~1.0wt%の範囲内であることを特徴とする建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベルやホイールローダ等の建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
建設機械は、作動油を貯える作動油タンクと、エンジン又は電動モータ等によって駆動され、作動油タンクの作動油を加圧する油圧ポンプと、作業用又は走行用の油圧アクチュエータと、油圧ポンプから油圧アクチュエータへの作動油の供給と油圧アクチュエータから作動油タンクへの作動油の排出を制御する制御弁とを備える。そして、例えば運転者による操作レバーの操作に応じて制御弁が作動し、油圧アクチュエータが駆動する。
【0003】
建設機械の作動油は、基油と添加剤で構成されている。基油は、原油を精製して得られたものであり、主に鉱物油が用いられる。添加剤は、作動油の品質を改善するものであり、酸化防止剤などである。
【0004】
ところで、特許文献1は、自動車の内燃機関の燃料の品質を改善するため、内燃機関の燃料循環回路へ添加剤を分配する分配装置を開示する。この分配装置は、添加剤を貯える添加剤タンクと、添加剤タンクから燃料循環回路へ添加剤を分配する添加剤分配チャンネルと、添加剤分配チャンネルを閉鎖可能なアクチュエータとを備える。そして、例えば、内燃機関が停止したとき、又は添加剤の粘度が高くなって添加剤分配チャンネルが詰まる可能性があるとき、添加剤分配チャンネルを閉鎖するようになっている。また、例えば、内燃機関の動作中、添加剤分配チャンネルの開放頻度又は開放時間を可変することにより、燃料に対する添加剤の濃度を調整するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2014-524534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
建設機械の作動油は、圧力や流れの変動により生じる熱の影響を受けることで、酸化劣化が進む。この酸化劣化は、作動油中の酸化防止剤などが消耗して基油が劣化することで、作動油の潤滑性能を低下させる。そして、作動油の潤滑性能の低下は、内部重要機器の破損や機能損失に至る恐れがあるため、作動油を定期的に交換する必要がある。
【0007】
本願発明者らは、作動油の交換インターバルの長期化を図るための構成として、酸化防止剤などの添加剤を貯える添加剤タンクと、添加剤タンクから作動油タンクへ添加剤を供給する添加剤供給ラインと、添加剤供給ラインに配置された開閉弁とを設けることを考案した。開閉弁を閉状態から開状態に切換えることにより、添加剤供給ラインを介し添加剤タンクから作動油タンクへ添加剤を供給する。これにより、作動油中の添加剤の濃度の低下を抑制し、作動油の劣化を抑制することが可能である。
【0008】
ここで、添加剤の供給タイミングが遅すぎれば、作動油の劣化が進んでしまい、添加剤の供給タイミングが早すぎれば、添加剤の消費を早めて、添加剤の補給インターバルが短縮されてしまう。そのため、添加剤の供給タイミング、すなわち、開閉弁を開くタイミングを適切に報知又は制御することが好ましい。
【0009】
本発明は、上記事柄に鑑みてなされたものであり、その目的は、作動油の交換インターバルの長期化を図ることができる建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、作動油を貯える作動油タンクと、前記作動油タンクの作動油を加圧する油圧ポンプと、油圧アクチュエータと、前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータへの作動油の供給と前記油圧アクチュエータから前記作動油タンクへの作動油の排出を制御する制御弁と、を備えた建設機械において、添加剤を貯える添加剤タンクと、前記添加剤タンクから前記作動油タンクへ添加剤を供給する添加剤供給ラインと、前記添加剤供給ラインに配置され、閉状態と開状態とで切換えられ、前記閉状態で前記添加剤タンクから前記作動油タンクへの添加剤の供給を遮断し、前記開状態で前記添加剤タンクから前記作動油タンクへの添加剤の供給を行う開閉弁と、前記作動油の酸化進行の度合いを検出する酸化度センサと、コントローラとを備え、前記コントローラは、前記酸化度センサの検出結果に基づいて前記作動油の酸化進行の度合いの変化率を演算し、前記作動油の酸化進行の度合いの変化率が所定値以上であるとき、前記開閉弁を前記開状態に切換える旨を報知する制御、または前記開閉弁を開状態に切換える制御を実行し、前記作動油の酸化進行の度合いの変化率が所定値未満であり、且つ、前記作動油を交換した時からの機械運転時間、もしくは前記開閉弁を前記開状態から前記閉状態に切換えてからの機械運転時間が所定値以上であるとき、前記開閉弁を前記開状態に切換える旨を報知する制御、または前記開閉弁を前記開状態に切換える制御を実行する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、作動油の交換インターバルの長期化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施形態における油圧ショベルの構造を表す側面図である。
図2】本発明の第1の実施形態における油圧ショベルの駆動装置の構成を関連機器と共に表す図である。
図3】本発明の第1の実施形態におけるコントローラの処理内容を表すフローチャートである。
図4】本発明の第1の実施形態における作動油の密度と全酸価の関係を表す図である。
図5】本発明の第1の実施形態における添加剤の実施例及びそれらの効果を表す図である。
図6】本発明の第1の実施形態及び従来技術における作動油の全酸価の変化を表す図である。
図7】本発明の第2の実施形態における酸化防止剤の添加濃度と劣化抑制効果の関係、及び酸化防止剤の添加濃度と摺動部の摩耗量の関係を表す図である。
図8】本発明の第2の実施形態におけるトリクレジルホスフェートの添加濃度と摺動部の摩耗量の関係、及びトリクレジルホスフェートの添加濃度と摺動部の腐食量の関係を表す図である。
図9】本発明の第2の実施形態におけるジオレイルハイドロゲンホスファイトの添加濃度と摺動部の摩耗量の関係、及びジオレイルハイドロゲンホスファイトの添加濃度と摺動部の腐食量の関係を表す図である。
図10】本発明の第2の実施形態における添加剤の実施例及びそれらの効果を表す図である。
図11】本発明の第2の実施形態における添加剤の実施例及びそれらの効果を表す図である。
図12】本発明の一変形例における油圧ショベルの駆動装置の構成を関連機器と共に表す図である。
図13】本発明の他の変形例における作動油の誘電率と全酸価の関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の適用対象として油圧ショベルを例にとり、本発明の第1の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0014】
図1は、本実施形態における油圧ショベルの構造を表す側面図である。
【0015】
本実施形態の油圧ショベルは、走行可能な走行体1と、走行体1の上側に旋回可能に設けられた旋回体2と、旋回体2の前側(図1の左側)に連結された作業装置3とを備える。走行体1及び旋回体2は車体を構成する。走行体1は、走行モータ4の回転によって走行し、旋回体2は、旋回モータ(図示せず)の回転によって旋回する。
【0016】
作業装置3は、旋回体2の前側に回動可能に連結されたブーム5と、ブーム5の先端部に回動可能に連結されたアーム6と、アーム6の先端部に回動可能に連結されたバケット7とを備える。ブーム5は、ブームシリンダ8の伸縮によって回動し、アーム6は、アームシリンダ9の伸縮によって回動し、バケット7は、バケットシリンダ10の伸縮によって回動する。
【0017】
旋回体2は、運転者が搭乗可能な運転室11と、運転室11以外の部分に形成された機械室12とを備える。運転室11には、運転者が操作可能な複数の操作装置(図示せず)と、モニタ13(後述の図2参照)とが設けられている。モニタ13は、例えば、メッセージ等を表示するディスプレイと、数値等を入力するボタンとを有するものである。
【0018】
本実施形態の油圧ショベルは、複数の操作装置の操作に応じて複数の油圧アクチュエータ(詳細には、上述した走行モータ4、旋回モータ、ブームシリンダ8、アームシリンダ9、及びバケットシリンダ10)を駆動する駆動装置を備える。図2は、本実施形態における油圧ショベルの駆動装置の構成を関連機器と共に表す図である。なお、図2においては、便宜上、駆動装置の構成のうち、ブームシリンダ8に係わる構成のみを表す。
【0019】
本実施形態の駆動装置は、作動油を貯える作動油タンク14と、エンジン15によって駆動され、作動油タンク14の作動油を加圧する油圧ポンプ16と、操作装置の操作に応じて作動し、油圧ポンプ16からブームシリンダ8への作動油の供給とブームシリンダ8から作動油タンク14への作動油の排出を制御する制御弁17と、制御弁17から作動油タンク14へ作動油を排出する排出ライン18に配置され、作動油を冷却する空冷式又は水冷式の冷却器19とを備える。前述した機器は、旋回体2の機械室12に配置されている。
【0020】
作動油タンク14は、タンク内に外気を取り入れ、タンク内の圧力を外気圧に調整するエアブリーザ20と、エアブリーザ20に接続され、外気から異物を取り除くエアフィルタ21と、油圧ポンプ16及び冷却器19に接続され、作動油からスラッジ等の異物を取り除くオイルフィルタ22とを有する。作動油タンク14の容量は、例えば200Lである。
【0021】
作動油タンク14で貯えられた作動油は、基油と添加剤で構成されている。基油は、鉱油である。作動油の粘度グレードは、例えばVG46である。
【0022】
作動油に含まれた添加剤は、例えば酸化防止剤、極圧剤(耐荷重添加剤)、清浄分散剤、粘度指数向上剤、消泡剤、及び抗乳化剤である。酸化防止剤としては、ジチオリン酸亜鉛、有機硫黄化合物、ヒンダードフェノール、又は芳香族アミン等が用いられる。極圧剤としては、高級脂肪酸、高級アルコール、リン酸エステル、亜リン酸エステル、又はチオリン酸塩等が用いられる。清浄分散剤としては、有機酸金属化合物、中性・過塩基性金属、過塩基性金属スルホネート、過塩基性金属フェネート、過塩基性金属スルホネート、コハク酸イミド、コハク酸エステル、又はベンジルアミン等が用いられる。粘度指数向上剤としては、ポリメタクリレート、オレフィンコポリマー、スチレンオレフィンコポリマー、又はポリイソブチレン等が用いられる。消泡剤としては、ポリメチルシロキサン、シリケート、有機フッ素化合物、金属石けん、脂肪酸エステル、リン酸エステル、高級アルコール、又はポリアルキレングリコール等が用いられる。抗乳化剤としては、エチレンオキサイド付加物、エチレンオキサイド・プロピレンオキサイドブロックポリマー、又は4級アンモニウム塩等が用いられる。
【0023】
作動油は、圧力が加えられる際や圧力が開放される際に発生する熱により、酸化劣化が進む。詳しく説明すると、作動油を構成する基油は炭化水素を主成分としており、炭化水素の熱分解によって炭化水素ラジカルが発生し、炭化水素ラジカルが酸素と結合してパーオキシラジカルとなる。その後、パーオキシラジカルは、分解していない基油や水酸基ラジカルなどと結びつき、アルコールやアルデヒドを経て、最終的にカルボン酸に変化する。そして、カルボン酸が増加して作動油の全酸価が高くなると、すなわち、作動油の酸化劣化が進むと、作動油に含まれた酸化防止剤などが消耗すると共に、油圧機器及び配管の腐食や溶出を引き起こす恐れがある。そのため、作動油タンク14で貯えられた作動油を定期的に交換する必要がある。
【0024】
本実施形態の油圧ショベルは、作動油の交換インターバルの長期化を図るための構成として、作動油タンク14の近傍に配置され、添加剤を貯える添加剤タンク23と、添加剤タンク23から作動油タンク14へ添加剤を供給する添加剤供給ライン24と、添加剤供給ライン24に配置され、閉状態と開状態とで切換えられる開閉弁25と、添加剤供給ライン24に配置され、添加剤の流量を検出して表示する流量計26と、上述した排出ライン18における冷却器19の下流側に配置され、作動油の酸化進行の度合い(酸化度)を検出する酸化度センサ27と、コントローラ28とを備える。
【0025】
開閉弁25は、通常、開状態であって、添加剤タンク23から作動油タンク14への添加剤の供給を遮断する。そして、電動又は手動によって閉状態に切換えられて、添加剤タンク23から作動油タンク14への添加剤の供給を行う。
【0026】
添加剤タンク23は、例えば粘度グレードがVG46である基油に添加剤を10重量%の濃度で溶解した形で、添加剤を貯える。この添加剤は、酸化防止剤であって、例えば、ジチオリン酸亜鉛、有機硫黄化合物、ヒンダードフェノール、又は芳香族アミン等が用いられる。特に、ジフェニルアミン又は/及び2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールであることが好ましい。添加剤タンク23の容量は、例えば10Lである。
【0027】
コントローラ28は、図示しないものの、プログラムに従って処理を実行するプロセッサと、プログラムやデータを記憶するメモリ等を有するものである。コントローラ28は、酸化度センサ27の検出結果などに基づいて、モニタ13及び開閉弁25を制御する。コントローラ28の処理内容について、図3を用いて説明する。図3は、本実施形態におけるコントローラの処理内容を表すフローチャートである。
【0028】
ステップS1にて、コントローラ28は、酸化度センサ27の検出結果に基づいて作動油の酸化度の変化率を演算する。詳しく説明すると、本実施形態の酸化度センサ27は、作動油の密度を検出する密度センサである。コントローラ28は、例えば、今回の密度の検出値と前回の密度の検出値との差分を演算し、この差分を前回の密度の検出値で割ることにより、密度の変化率を演算する。
【0029】
ここで、作動油の密度を検出し、その変化率を演算した理由について説明する。作動油の酸化度を示す指標として、作動油の全酸価があるものの、これを測定することは困難である。しかし、作動油は、酸化劣化によって分子構造中に酸素を取り込み、密度が増加することが知られている。すなわち、図4で示すように、作動油の密度と全酸価は比例関係にある。そのため、作動油の全酸価に対応する作動油の密度を検出し、その変化率を演算する。作動油の密度の変化率は、作動油の酸化度の変化率を意味する。
【0030】
ステップS2にて、コントローラ28は、作動油の酸化度の変化率が所定値(例えば0.05%)以上であるかどうかを判定する。これにより、作動油の酸化劣化の進行速度が想定値以上であるかどうかを判定する。
【0031】
ステップS2にて作動油の酸化度の変化率が所定値以上である場合、ステップS3に移る。ステップS3にて、コントローラ28は、開閉弁25を開くべき(すなわち、開状態に切換える)旨のメッセージと、開閉弁25を自動で開くかどうかの入力を促すメッセージをモニタ13に表示させる。その後、ステップS4に進み、コントローラ28は、開閉弁25を自動で開く旨の入力がモニタ13で行われたかどうかを判定する。
【0032】
ステップS4にて開閉弁25を自動で開かない旨の入力がモニタ13で行われた場合、処理が終了する。運転者は、開閉弁25を手動で閉状態から開状態に切換える。これにより、添加剤供給ライン24を介し添加剤タンク23から作動油タンク14へ添加剤を供給する。運転者は、流量計26で表示された添加剤の流量に基づいて添加剤の供給量を確認する。そして、添加剤の供給量が所望値に達すれば、運転者は、開閉弁25を手動で開状態から閉状態に切換える。
【0033】
一方、ステップS4にて開閉弁25を自動で開く旨の入力がモニタ13で行われた場合、ステップS5に移る。ステップS5にて、コントローラ28は、添加剤の供給量を変更するかどうかの入力を促すメッセージをモニタ13に表示させる。そして、添加剤の供給量を変更する旨の入力がモニタ13で行われたかどうかを判定する。
【0034】
ステップS5にて添加剤の供給量を変更しない旨の入力がモニタ13で行われた場合、ステップS6に移る。ステップS6にて、コントローラ28は、開閉弁25を閉状態から開状態に切換える。これにより、添加剤供給ライン24を介し添加剤タンク23から作動油タンク14へ添加剤を供給する。その後、コントローラ28は、流量計26の検出結果に基づいて添加剤の供給量を演算し、添加剤の供給量が設定値に達したら、開閉弁25を開状態から閉状態に切換える。
【0035】
一方、ステップS5にて添加剤の供給量を変更する旨の入力とともに、添加剤の供給量の変更値の入力がモニタ13で行われた場合、ステップS7に移る。ステップS7にて、コントローラ28は、開閉弁25を閉状態から開状態に切換える。これにより、添加剤供給ライン24を介し添加剤タンク23から作動油タンク14へ添加剤を供給する。その後、コントローラ28は、流量計26の検出結果に基づいて添加剤の供給量を演算し、添加剤の供給量が変更値に達したら、開閉弁25を開状態から閉状態に切換える。
【0036】
ステップS2にて作動油の酸化度の変化率が所定値未満である場合、ステップS8に移る。ステップS8にて、コントローラ28は、作動油を交換した時からの機械運転時間、もしくは開閉弁25を開状態から閉状態に切換えてからの機械運転時間(言い換えれば、エンジン15の累積駆動時間)が所定値(例えば2000時間)以上であるかどうかを判定する。
【0037】
ステップS8にて機械運転時間が所定値未満である場合、処理が終了する。一方、機械運転時間が所定値以上である場合、ステップS3に移る。その後、上述した処理を行う。
【0038】
以上のように本実施形態においては、添加剤供給ライン24を介し添加剤タンク23から作動油タンク14へ添加剤を供給することにより、作動油中の添加剤の濃度の低下を抑制し、作動油の劣化を抑制することができる。したがって、作動油の交換インターバルの長期化を図ることができる。
【0039】
また、本実施形態においては、作動油の酸化度の変化率が所定値以上である場合、添加剤の供給タイミングを報知又は制御する。また、作動油の酸化度の変化率が所定値未満である場合、機械運転時間が所定値に達すれば、添加剤の供給タイミングを報知又は制御する。そのため、作動油の劣化を抑制すると共に、添加剤の補給インターバルの長期化を図ることができる。
【0040】
添加剤タンク23で貯えられた添加剤の実施例及びその効果について、図5及び図6を用いて説明する。図5で示すように、添加剤の実施例1は、ジフェニルアミンであり、添加剤の実施例2は、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールであり、添加剤の実施例3は、ジフェニルアミン及び2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールである。図6で示すように、従来技術(言い換えれば、作動油タンク14に添加剤を供給しない場合)では、機械運転時間が長くなると、作動油の全酸価が著しく増加する。一方、本実施形態では、機械運転時間が長くなっても、作動油の全酸価の増加を抑制することができる。そのため、作動油の交換インターバルは、従来技術と比べて2.1~2.3倍にすることができる。なお、作動油に対する酸化防止剤の添加濃度は、例えば0.1~0.3wt%の範囲内である。
【0041】
本発明の第2の実施形態を説明する。なお、本実施形態において、第1の実施形態と同等の部分は、同一の符号を付し、適宜、説明を省略する。
【0042】
作動油に含まれた極圧剤は、油圧機器の摺動部(金属)の表面で反応して被膜を形成することにより、摺動部の摩耗を抑制する。しかし、作動油の長期使用によって極圧剤などが消耗する。また、第1の実施形態のように作動油タンク14へ酸化防止剤を供給すれば、酸化防止剤との反応によって極圧剤の摩耗抑制効果が低下する。そのため、本実施形態では、添加剤タンク23で貯えられた添加剤が酸化防止剤と極圧剤であり、作動油タンク14へ酸化防止剤と極圧剤を供給する。
【0043】
酸化防止剤は、例えば、ジチオリン酸亜鉛、有機硫黄化合物、ヒンダードフェノール、又は芳香族アミン等が用いられる。特に、ジフェニルアミン又は/及び2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールであることが好ましい。
【0044】
作動油に対する酸化防止剤の添加濃度は、0.1~0.3wt%の範囲内であることが好ましい。その理由を、図7を参照しつつ説明する。酸化防止剤の添加濃度が0.3wt%未満であれば、酸化防止剤の添加濃度の増加に応じて劣化抑制効果が増加するものの、酸化防止剤の添加濃度が0.3wt%以上であれば、酸化防止剤の添加濃度の増加にかかわらず劣化抑制効果がほぼ一定となる。一方、酸化防止剤の添加濃度の増加に応じて、摩耗抑制効果が減少し、摺動部の摩耗量が増加する。劣化抑制効果を所定の要求値以上に高めつつ、摺動部の摩耗量を所定の要求値以下に抑えるため、作動油に対する酸化防止剤の添加濃度は、0.1~0.3wt%の範囲内であることが好ましい。
【0045】
極圧剤は、例えば、リン酸エステル、亜リン酸エステル、又はチオリン酸塩等が用いられる。特に、トリクレジルホスフェート又は/及びジオレイルハイドロゲンホスファイトであることが好ましい。
【0046】
極圧剤としてトリクレジルホスフェートのみを供給する場合、作動油に対するトリクレジルホスフェートの添加濃度は、0.5~1.5wt%の範囲内であることが好ましい。その理由を、図8を参照しつつ説明する。トリクレジルホスフェートの添加濃度が0.5wt%未満であれば、トリクレジルホスフェートの添加濃度の増加に応じて摺動部の摩耗量が急激に減少するものの、トリクレジルホスフェートの添加濃度が0.5wt%以上であれば、トリクレジルホスフェートの添加濃度の増加に応じて摺動部の摩耗量が緩やかに減少する。一方、トリクレジルホスフェートの添加濃度の増加に応じて、摺動部の腐食量が増加する。摺動部の摩耗量を所定の要求値以下に抑えつつ、摺動部の腐食量を所定の要求値以下に抑えるため、作動油に対するトリクレジルホスフェートの添加濃度は、0.5~1.5wt%の範囲内であることが好ましい。
【0047】
極圧剤としてジオレイルハイドロゲンホスファイトのみを供給する場合、作動油に対するジオレイルハイドロゲンホスファイトの添加濃度は、0.1~1.0wt%の範囲内であることが好ましい。その理由を、図9を参照しつつ説明する。ジオレイルハイドロゲンホスファイトの添加濃度が0.1wt%未満であれば、ジオレイルハイドロゲンホスファイトの添加濃度の増加に応じて摺動部の摩耗量が急激に減少するものの、ジオレイルハイドロゲンホスファイトの添加濃度が0.1wt%以上であれば、ジオレイルハイドロゲンホスファイトの添加濃度の増加に応じて摺動部の摩耗量が緩やかに減少する。一方、ジオレイルハイドロゲンホスファイトの添加濃度の増加に応じて、摺動部の腐食量が増加する。摺動部の摩耗量を所定の要求値以下に抑えつつ、摺動部の腐食量を所定の要求値以下に抑えるため、作動油に対するジオレイルハイドロゲンホスファイトの添加濃度は、0.1~1.0wt%の範囲内であることが好ましい。
【0048】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様、添加剤供給ライン24を介し添加剤タンク23から作動油タンク14へ添加剤を供給することにより、作動油中の添加剤の濃度の低下を抑制し、作動油の劣化を抑制することができる。したがって、作動油の交換インターバルの長期化を図ることができる。また、添加剤の補給インターバルの長期化を図ることができる。
【0049】
添加剤タンク23で貯えられた添加剤の実施例及びその効果について、図10及び図11を用いて説明する。図10及び図11で示すように、添加剤の実施例4は、ジフェニルアミンとトリクレジルホスフェートであり、添加剤の実施例5は、ジフェニルアミンと2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールとトリクレジルホスフェートであり、添加剤の実施例6は、ジフェニルアミンとジオレイルハイドロゲンホスファイトであり、添加剤の実施例7は、ジフェニルアミンと2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールとジオレイルハイドロゲンホスファイトである。作動油の交換インターバルは、従来技術と比べて2.1~2.3倍にすることができる。また、油圧機器の摺動部の摩耗量及び腐食量を抑えることができる。
【0050】
なお、第2の実施形態において、油圧ショベルは、酸化防止剤と極圧剤を貯える添加剤タンク23を備えた場合を例にとって説明したが、これに限られない。図12で示す変形例のように、油圧ショベルは、酸化防止剤を貯える添加剤タンク23と、極圧剤を貯える添加剤タンク23Aとを備えてもよい。本変形例の油圧ショベルは、添加剤タンク23Aから作動油タンク14へ極圧剤を供給する添加剤供給ライン24Aと、添加剤供給ライン24Aに配置され、閉状態と開状態とで切換えられる開閉弁25Aと、添加剤供給ライン24Aに配置され、極圧剤の流量を検出して表示する流量計26Aとを更に備える。コントローラ28は、開閉弁25,25Aを開くべき(すなわち、開状態に切換える)旨のメッセージと、開閉弁25,25Aを自動で開くかどうかの入力を促すメッセージをモニタ13に表示させる。そして、開閉弁25,25Aを自動で開く旨の入力がモニタ13で行われた場合、開閉弁25,25Aを一時的に開く(すなわち、開状態に切換える)。本変形例では、酸化防止剤の添加濃度と極圧剤の添加濃度を個別に変更することが可能である。
【0051】
また、第1の実施形態と第2の実施形態及びその変形例において、酸化度センサ27は、作動油の密度を検出する密度センサである場合を例にとって説明したが、これに限られない。作動油は、酸化劣化によって分子構造中に酸素を取り込み、誘電率が増加することが知られている。すなわち、図13で示すように、作動油の誘電率と全酸価は比例関係にある。そのため、酸化度センサ27は、作動油の誘電率を検出する誘電率センサであってもよい。この場合、コントローラ28は、作動油の酸化度の変化率として、作動油の誘電率の変化率を演算すればよい。
【0052】
また、第1の実施形態と第2の実施形態及びその変形例において、コントローラ28は、開閉弁を開くべき(すなわち、開状態に切換える)旨のメッセージをモニタ13で表示させて報知する場合を例にとって説明したが、これに限られない。コントローラ28は、例えば、開閉弁を開くべき(すなわち、開状態に切換える)旨の音声をスピーカで出力させて報知してもよい。
【0053】
また、第1の実施形態と第2の実施形態及びその変形例において、コントローラ28は、開閉弁を開くべき(すなわち、開状態に切換える)旨を報知する制御と開閉弁を一時的に開く(すなわち、開状態に切換える)制御との両方を実行する場合を例にとって説明したが、これに限られない。コントローラ28は、開閉弁を開くべき(すなわち、開状態に切換える)旨を報知する制御と開閉弁を一時的に開く(すなわち、開状態に切換える)制御とのうちの一方だけを実行してもよい。
【0054】
なお、以上においては、本発明を油圧ショベルに適用した場合を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、本発明を他の建設機械(例えばホイールローダ等)に適用してもよい。
【符号の説明】
【0055】
4 走行モータ
8 ブームシリンダ
9 アームシリンダ
10 バケットシリンダ
14 作動油タンク
16 油圧ポンプ
17 制御弁
23,23A 添加剤タンク
24,24A 添加剤供給ライン
25,25A 開閉弁
27 酸化度センサ
28 コントローラ
図1
図2
図3
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図5
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図10
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図13