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特開2024-55809食用静菌剤、それを含む食品、及びそれを食品に添加することによる食品の静菌方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055809
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】食用静菌剤、それを含む食品、及びそれを食品に添加することによる食品の静菌方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 3/3544 20060101AFI20240411BHJP
   A23L 3/3526 20060101ALI20240411BHJP
   A23L 3/3508 20060101ALI20240411BHJP
   A23L 3/3517 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
A23L3/3544 501
A23L3/3526 501
A23L3/3508
A23L3/3517
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023171764
(22)【出願日】2023-10-03
(31)【優先権主張番号】P 2022161780
(32)【優先日】2022-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】矢木 一弘
【テーマコード(参考)】
4B021
【Fターム(参考)】
4B021LA05
4B021LA41
4B021LW05
4B021LW08
4B021MC01
4B021MK02
4B021MK20
4B021MK21
4B021MK23
4B021MK26
4B021MP01
4B021MQ01
4B021MQ04
(57)【要約】
【課題】ヒトに対して安全性があり、ラクトバチルス属等の特定の乳酸菌を有効に静菌させることができる食用静菌剤、それを含む食品、及び食品の静菌方法を提供すること。
【解決手段】L-アスコルビン酸パルミチン酸エステルを含有するラクトバチルス属、ラクチプランチバチルス属、ラクチカゼイバチルス属、レビラクトバチルス属、ロイコノストック属、エンテロコッカス属、テトラジェノコッカス属、ラチラクトバチルス属、又はワイセラ属の菌に対する食用静菌剤、それを含む食品、及びそれを食品に添加することによる食品の静菌方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
L-アスコルビン酸パルミチン酸エステルを含有する、ラクトバチルス属、ラクチプランチバチルス属、ラクチカゼイバチルス属、レビラクトバチルス属、ロイコノストック属、エンテロコッカス属、テトラジェノコッカス属、ラチラクトバチルス属、又はワイセラ属の菌に対する食用静菌剤。
【請求項2】
更に、グリシン及び/又は酢酸ナトリウムを含有する、請求項1に記載の食用静菌剤。
【請求項3】
菌がラクトバチルス属、ラクチプランチバチルス属、ラクチカゼイバチルス属、又はワイセラ属の菌である、請求項1又は2に記載の食用静菌剤。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の食用静菌剤を含む食品。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の食用静菌剤を食品に添加することによる、ラクトバチルス属、ラクチプランチバチルス属、ラクチカゼイバチルス属、レビラクトバチルス属、ロイコノストック属、エンテロコッカス属、テトラジェノコッカス属、ラチラクトバチルス属、又はワイセラ属の菌に対する食品の静菌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食用静菌剤及びそれを含む食品に関する。特に、ラクトバチルス属等の特定の乳酸菌に対する食用静菌剤、それを含む食品、及びそれを食品に添加することによる食品の静菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、単身世帯や共働き世帯の増加等を背景に、調理済みの惣菜を購入する人が増加している。また、飲食店で調理された料理のデリバリーも普及し、消費者の利便性が大いに高まっている。
【0003】
従来、野菜や肉等の腐敗の原因となる代表的な微生物は、グラム陰性菌のシュードモナス属であった。シュードモナス属は好気性菌であり、酸素が存在する環境では速い速度で増殖する。しかし、加工食品に関しては、加熱処理し、保存料、日持向上剤を添加し、真空包装し、低温流通することで、シュードモナス属による腐敗を回避されている。それに代わって、食品の変敗(風味の劣化等の品質低下)で問題となっているものは、乳酸菌、特にラクトバチルス属、ラクトコッカス属、ロイコノストック属、エンテロコッカス属、ペディオコッカス属の乳酸菌である。これらに代表される乳酸菌は、殺菌剤や防腐剤に抵抗性があるために、他の微生物が死滅してもそれを栄養源として増殖する他、低温(10℃以下)で保存されるチルド食品や低pH(約pH5以下)の食品においても増殖する傾向が強く、それぞれ独特の食品の変敗の様相を呈することが知られている。食品の変敗によって、例えば容器膨張、変色、着色、異臭、酸敗、粘質化等が生じるため、食品加工業界では大きな問題となっている。
【0004】
乳酸菌に関して、「食品の変敗微生物 再改訂増補」,内藤茂三著,幸書房刊,2018年9月3日の第36頁の「2.3 乳酸菌と食品変敗」に、以下の通り、記載されている。
乳酸菌とは、一般には糖類を発酵して乳酸を作ることによりエネルギーを得て生育する細菌群であり、近年では次のように定義される。“乳酸菌は乳酸を作る細菌であり、グラム陽性である。細胞の形態は桿菌と球菌があり、カタラーゼ反応は陰性であり、酸素要求性は全くなしかまたは極微量要求(通性嫌気性)である。また運動性は無であり、内生胞子を形成せず、ブドウ糖の代謝は50%以上乳酸に転換し、栄養要求は従属栄養に属する。”
【0005】
ラクトバチルス属等の乳酸菌は、ヒトに対して病原性は一般に無いが、食品、食品工場、動物腸内、動物糞、土壌等に生育し、二次汚染の原因となる。乳酸菌は、加熱処理しても容易に滅菌できず、真空包装やガス置換包装しても、低温貯蔵しても、増殖するという性質を有する。ラクトバチルス属等の乳酸菌による食品の変敗は、圧倒的に食品工場の床、器具、装置等からの二次汚染菌によるものが多い。そこで、食品工場等では、次亜塩素酸ナトリウム、オゾン、エタノール等を用いてクリーン化することが行われている。しかし、これらの菌は、薬剤耐性が極めて強く、長年にわたる多くの工場での殺菌剤の使用によって耐性菌も出現している。
そこで、ヒトに対して安全性があり、ラクトバチルス属等の乳酸菌を静菌させることができる食用静菌剤が求められている。
【0006】
特許文献1には、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステルが、耐熱性芽胞形成菌であるバチルス セレウス及びバチルス サブティリス亜種サブティリスに対して抗菌作用を示したこと(表1と表2)が記載されている。また、後述の通り、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステルによるバチルス セレウス及びバチルス サブティリスの抗菌活性は、本願発明に関するラクトバチルス属等の特定の乳酸菌の抗菌活性より劣る。
【0007】
しかし、これらの先行文献には、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステルがラクトバチルス属等の特定の乳酸菌に対して静菌作用を有することは記載されていない。また、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステルの抗菌スペクトルは単純に予測できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004-49113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、ヒトに対して安全性があり、ラクトバチルス属等の特定の乳酸菌を有効に静菌させることができる食用静菌剤、それを含む食品、及びそれを食品に添加することによる食品の静菌方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、上記の本願発明の課題を解決するべく鋭意検討した結果、ヒトに対する安全性が確認されている食品添加物であるL-アスコルビン酸パルミチン酸エステルが、意外にも、ラクトバチルス属、ラクチプランチバチルス属、ラクチカゼイバチルス属、レビラクトバチルス属、ロイコノストック属、エンテロコッカス属、テトラジェノコッカス属、ラチラクトバチルス属、又はワイセラ属の乳酸菌に対して強い静菌作用を有することを見出して、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1] L-アスコルビン酸パルミチン酸エステルを含有する、ラクトバチルス属、ラクチプランチバチルス属、ラクチカゼイバチルス属、レビラクトバチルス属、ロイコノストック属、エンテロコッカス属、テトラジェノコッカス属、ラチラクトバチルス属、又はワイセラ属の菌に対する食用静菌剤。
[2] 更に、グリシン及び/又は酢酸ナトリウムを含有する[1]に記載の食用静菌剤。好ましくは、更に、グリシン及び酢酸ナトリウムを含有する[1]に記載の食用静菌剤。
[3] 菌がラクトバチルス属、ラクチプランチバチルス属、ラクチカゼイバチルス属、又はワイセラ属の菌である、[1]又は[2]に記載の食用静菌剤。
[4] [1]~[3]のいずれかに記載の食用静菌剤を含む食品。
[5] [1]~[3]のいずれかに記載の食用静菌剤を食品に添加することによる、ラクトバチルス属、ラクチプランチバチルス属、ラクチカゼイバチルス属、レビラクトバチルス属、ロイコノストック属、エンテロコッカス属、テトラジェノコッカス属、ラチラクトバチルス属、又はワイセラ属の菌に対する食品の静菌方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の食用静菌剤及びそれを含む食品は、ヒトに対して安全性があり、ラクトバチルス属等の特定の乳酸菌を有効に静菌させることができる。本願発明の食用静菌剤は、例えば、従来技術で問題となっているチルド温度帯(0~10℃)又は低pH等の環境下でも、静菌効果を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.食用静菌剤
本発明の食用静菌剤は、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステルを含有する。
L-アスコルビン酸パルミチン酸エステルは、L-アスコルビン酸の6位の水酸基にパルミチン酸がエステル結合したものであり、食品添加物である。
実施例に記載の通り、ラクトバチルス属、ラクチプランチバチルス属、ラクチカゼイバチルス属、レビラクトバチルス属、ロイコノストック属、エンテロコッカス属、テトラジェノコッカス属、ラチラクトバチルス属、又はワイセラ属の菌に対する、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステルの静菌作用は、類似化合物であるL-アスコルビン酸ステアリン酸エステルよりも遥かに強い。この顕著な効果は、当業者には容易に予測できるものではない。
【0014】
本発明の食用静菌剤は、ラクトバチルス属、ラクチプランチバチルス属、ラクチカゼイバチルス属、レビラクトバチルス属、ロイコノストック属、エンテロコッカス属、テトラジェノコッカス属、ラチラクトバチルス属、又はワイセラ属の乳酸菌を対象とする。好ましくラクトバチルス属、ラクチプランチバチルス属、又はラクチカゼイバチルス属の乳酸菌を対象とする。
【0015】
ラクトバチルス属の乳酸菌としては、例えばラクトバチルス デルブリッキィ亜種デルブリッキィ、ラクトバチルス デルブリッキィ亜種ラクチス等が挙げられる。
ラクチプランチバチルス属の乳酸菌としては、ラクチプランチバチルス プランタルム、ラクトプランチバチルス アルジェントラテンシス、ラクトプランチバチルス モデチサリトレランス、ラクトプランチバチルス ムダンジャンエンシス、ラクトプランチバチルス パラプランタルム、ラクトプランチバチルス ペントーサス、ラクトプランチバチルス プラジョミ等が挙げられる。
ラクチカゼイバチルス属の乳酸菌としては、ラクチカゼイバチルス ラムノサス、ラクチカゼイバチルス パラカゼイ、ラクチカゼイバチルス パラカゼイ亜種パラカゼイ、ラクチカゼイバチルス カゼイ、ラクチカゼイバチルス キアイエンシス、ラクチカゼイバチルス パンテリス等が挙げられる。
レビラクトバチルス属の乳酸菌としては、レビラクトバチルス ブレビス、レビラクトバチルス アシディファリナエ、レビラクトバチルス スピシェリ、レビラクトバチルス スアンツァイ、レビラクトバチルス スアンツァイビタン、レビラクトバチルス ザイマエ等が挙げられる。
【0016】
ロイコノストック属の乳酸菌としては、ロイコノストック シトレウム、ロイコノストック メセンテロイデス、ロイコノストック ファラックス等が挙げられる。
エンテロコッカス属の乳酸菌としては、エンテロコッカス ファエカリス、エンテロコッカス カセリフラス、エンテロコッカス デュランス、エンテロコッカス フェシウム、エンテロコッカス マロドラトゥス、エンテロコッカス イタリカス等が挙げられる。
テトラジェノコッカス属の乳酸菌としては、テトラジェノコッカス ハロフィルス、テトラジェノコッカス ハロフィルス亜種ハロフィルス、テトラジェノコッカス ハロフィルス亜種フランドリエンシス、テトラジェノコッカス コレエンシス、テトラジェノコッカス ムリアティカス、テトラジェノコッカス オスモフィラス、テトラジェノコッカス ソリタリウス等が挙げられる。
ラチラクトバチルス属の乳酸菌としては、ラチラクトバチルス サケイ、ラチラクトバチルス サケイ亜種サケイ、ラチラクトバチルス サケイ亜種カルノサス、ラチラクトバチルス クルバトゥス等が挙げられる。
ワイセラ属の乳酸菌としては、ワイセラ ビリデッセンス、ワイセラ コンフューサ等が挙げられる。
【0017】
本発明の食用静菌剤中のL-アスコルビン酸パルミチン酸エステルの配合量は、例えば0.1重量%以上が挙げられ、好ましくは0.2重量%以上が挙げられ、より好ましくは0.3重量%以上が挙げられる。
【0018】
本発明の食用静菌剤は、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステルに加えて、更にグリシン及び/又は酢酸ナトリウムを含有することもできる。
グリシン及び酢酸ナトリウムは、ラクトバチルス属等の乳酸菌に対する静菌作用を有する。しかし、グリシンは、グリシンに由来する甘味やメイラード反応による褐変があり、食品中に多量に用いることは好ましくない場合が多い。酢酸ナトリウムは、酢酸ナトリウムに由来する塩味や酸味・酸臭、えぐ味があり、食品中に多量に用いることは好ましくない場合が多い。グリシンや酢酸ナトリウムを食品中に多量に用いると、それらに由来する特有の風味により食品本来の風味を損ねることから、静菌作用を有する範囲で、可能な限り食品中の量を抑えることが好ましい。
【0019】
L-アスコルビン酸パルミチン酸エステルに、グリシン及び/又は酢酸ナトリウムを組み合せることで、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステルによる静菌作用を相乗的に増強することができ、更にL-アスコルビン酸パルミチン酸エステルの溶解度における静菌作用を超える静菌作用を得ることができる。また、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステルに、グリシン及び/又は酢酸ナトリウムを組み合せることで、グリシン及び酢酸ナトリウムの配合量を、グリシン及び酢酸ナトリウムの上記の問題を生じない程度に抑えることができる。
【0020】
グリシンの配合量は、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステルの質量に対して、例えば5~300質量倍が挙げられ、好ましくは5~150質量倍、より好ましくは5~100質量倍、更により好ましくは5~50質量倍が挙げられる。
酢酸ナトリウムの配合量は、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステルの質量に対して、例えば5~300質量倍が挙げられ、好ましくは5~150質量倍、より好ましくは5~120質量倍、更により好ましくは5~100質量倍が挙げられる。
【0021】
本発明の食用静菌剤は、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステル、グリシン及び酢酸ナトリウムを含有することがより好ましい。グリシン及び酢酸ナトリウムは組み合わせることで、相乗的に静菌作用を増加させる。従って、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステル、グリシン及び酢酸ナトリウムを組合せることでより強力な静菌作用が得られる。
グリシンと酢酸ナトリウムの重量比としては、例えば0:1~10:1が挙げられ、好ましくは1:20~5:1が挙げられ、より好ましくは1:10~3:1が挙げられ、更に好ましくは1:9~1:1が挙げられ、より更に好ましくは1:8~1:2が挙げられ、なお更に好ましくは1:7.5~1:3が挙げられる。
L-アスコルビン酸パルミチン酸エステル、グリシン及び酢酸ナトリウムを含む製剤中のL-アスコルビン酸パルミチン酸エステルの配合量としては、例えば0.1~5重量%が挙げられ、好ましくは0.3~5重量%が挙げられ、より好ましくは0.5~2重量%が挙げられ、なお更に好ましくは0.6~1.5重量%が挙げられる。
【0022】
本発明の食用静菌剤には、本願発明の静菌作用を阻害しない限り、従来用いられる添加物を含むことができる。添加物としては、賦形剤、界面活性剤、分散剤、pH調整剤(例えば酢酸、リン酸、クエン酸、及び他の有機酸等)、抗酸化剤、安定剤、防腐剤、香料、着色料等が挙げられる。賦形剤、界面活性剤、分散剤等を加えることで、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステル、グリシン及び酢酸ナトリウム等を食品中に有効に分散させることができ、優れた静菌作用を得ることができる。
【0023】
賦形剤としては、例えば乳糖、デンプン、でん粉分解物、白糖、沈降シリカ等が挙げられる。
界面活性剤としては、例えば、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。陰イオン性界面活性剤としては、例えば脂肪酸ナトリウム、モノアルキル硫酸塩、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸塩等が挙げられる。陽イオン性界面活性剤としては、例えばアルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩等が挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ソルビタンエステル、アルキルポリグルコシド、脂肪酸ジエタノールアミド、アルキルモノグリセリルエーテル等が挙げられる。両性界面活性剤としては、例えばアルキルジメチルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタイン等が挙げられる。
【0024】
2.食用静菌剤を含む食品
本発明の食用静菌剤を配合する食品としては、ラクトバチルス属等の乳酸菌によって変敗する可能性がある食品が挙げられる。例えば長期間保存する必要のある加工食品、冷凍、冷蔵又は常温流通される調理加工品、半調理加工品を総称する食品が挙げられる。具体的には、炒め物(ピラフ、チャーハン、焼きそば、焼きうどん、スパゲティー)、肉類を原料とする弁当(牛カルビ、牛丼等の牛肉類、生姜焼き肉等の豚肉類、鶏の照り焼き、鶏の唐揚げ、鶏重等の鶏肉類)、山菜、たけのこ等を原料とする弁当(山菜まぜごはん等)、ピザパイ、キャベツサラダ、卵サラダ、マカロニサラダ、ポテトサラダ、白和え、ハンバーグ、ミートボール、焼売、グラタン、茶碗蒸し等の調理済み食品、ソーセージ、ハム、焼き豚、豚カツ、餃子等の惣菜、畜肉加工品、ごまだれ、ドレッシング、ソース、ホワイトソース、たれ等の調味料類、蒲鉾、竹輪、はんぺん等の水産練り製品、カスタードクリーム、小豆あん、フラワーペースト等の餡類、大判焼き、あんまん、肉まん、パン、ドーナツ、カステラ等の製菓類、卵焼き、厚焼き卵、伊達巻き、オムレツ、スクランブルエッグ等の卵製品、卵サンド、ハムサンド等のサンドイッチ類、調理パン(ハム、タマゴ、野菜、サラダ等を具材とするサンドもの)、赤飯むすび、鮭おむすび、梅入りおむすび等のおむすび類、米飯加工品、えびフライ、牡蠣フライ、コロッケ等のフライ揚げ物食品類、ドーナツ、スポンジケーキ、マドレーヌ、蒸しパン、あんパン、クリームパン、ホットケーキ、シュークリーム等の菓子類、プリン、ババロア、フルーツゼリー、コーヒーゼリー、杏仁豆腐等のデザート類、プロセスチーズ等の乳類が挙げられる。好ましい食品としては、パンフィリング(例えば、カレーフィリング、ホイップクリーム、卵フィリング、ホワイトソース、フラワーペースト等)、肉まん、餃子、焼売等の具材、ハンバーグ、卵焼き、から揚げ、ソーセージ等の畜肉加工品、米飯、生餃子、コロッケ、白和え、ポテトサラダ等の惣菜と称されるタンパク質やデンプンを多く含有する食品、みたらし団子、おはぎ、大福等の和菓子、ホイップクリーム等を含む洋菓子、フラワーペースト、カスタードプリン等のデンプンを多く含有する食品が挙げられる。
【0025】
本発明の食用静菌剤の食品への配合量としては、ラクトバチルス属等の乳酸菌による食品の変敗し易さに応じて、適切な配合量は変わり得る。食品の変敗し易さは、例えば、食品の保存期間、保存温度(例えば、5℃~40℃)、pH(例えば、4~9)、水分活性値(例えば、0.90以上)、及びラクトバチルス科、ストレプトコッカス科及びロイコノストック科のいずれの菌を対象とするかによって、変わり得る。
本発明の食用静菌剤の食品への配合量は、一般的には、例えば食品の質量に対してL-アスコルビン酸パルミチン酸エステルが20~600ppmとなる量が挙げられ、好ましくは25~550ppmとなる量が挙げられ、より好ましくは30~500ppmとなる量が挙げられ、更に好ましくは40~400ppmとなる量が挙げられる。
【0026】
L-アスコルビン酸パルミチン酸エステルとグリシン及び/又は酢酸ナトリウムを併用する場合、グリシン及び/又は酢酸ナトリウムの食品への配合量は、上限として例えば、20000ppm以下、15000ppm以下、10000ppm以下となる量が挙げられる。また、下限として例えば、1000ppm以上、2000ppm以上、3000ppm以上、5000ppm以上となる量が挙げられる。
【0027】
3.食品の静菌方法
本発明の食用静菌剤を食品に添加することで、ラクトバチルス属、ラクチプランチバチルス属、ラクチカゼイバチルス属、レビラクトバチルス属、ロイコノストック属、エンテロコッカス属、テトラジェノコッカス属、ラチラクトバチルス属、又はワイセラ属の菌に対して、食品を静菌することができる。
具体的な静菌方法は、上記の記載を参考にして、また従来技術を参照して、実施することができる。
【実施例0028】
以下に、本発明を実施例にて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例において、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステルを、化合物Aと略して呼ぶことがある。
【0029】
実施例1:L-アスコルビン酸パルミチン酸エステルとL-アスコルビン酸ステアリン酸エステルの静菌作用の比較
レビラクトバチルス ブレビスに対するL-アスコルビン酸パルミチン酸エステルとL-アスコルビン酸ステアリン酸エステルの最小発育阻止濃度(MIC)を求めて、静菌作用の比較を行った。
L-アスコルビン酸パルミチン酸エステル(DSM Nutritional Products,Ascorbyl Palmitate)、L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル(東京化成工業株式会社,6-O-Stearoyl-L-ascorbic Acid)、及びレビラクトバチルス ブレビス(NBRC3345)を、本試験に用いた。
【0030】
具体的には、-80℃で冷凍保存されたレビラクトバチルス ブレビスの15%グリセロール液を、MRS液体培地で前培養(30℃で18時間、静置培養)した。前培養後の培養液をOD6600.1になるように希釈し、希釈した液を更に滅菌水で1000倍に希釈した(この希釈液を菌液とした)。0、50、100、150、200、300、400及び500ppmの添加量になるように、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステル又はL-アスコルビン酸ステアリン酸エステルをシャーレ上に入れた。溶解したSTD寒天培地19ml、及び菌液1mlをシャーレに添加し、混合した。固化後、倒置して30℃で48時間、保存した。菌数を確認し、下記の評価基準で評価した。-判定となった添加量で最も少ない添加量を最小発育阻止濃度(MIC)とした。
<評価基準>
- :0cfu/シャーレ
+ :1~10cfu/シャーレ
++ :11~100cfu/シャーレ
+++:101~300cfu/シャーレ
【0031】
【表1】
【0032】
表1に記載の通り、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステルのMICは150ppmであるのに対して、L-アスコルビン酸ステアリン酸エステルのMICは>500ppmであり、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステルがL-アスコルビン酸ステアリン酸エステルよりも非常に高い静菌作用を有する。
【0033】
実施例2:様々な菌に対する静菌作用
様々な菌に対する化合物A(0~200ppm)のみ、グリシン(1%)との併用、酢酸ナトリウム(1%)との併用、及びグリシン(0.5%)と酢酸ナトリウム(0.5%)との併用の静菌作用を求めた。
試験を行った菌は、以下の通りである。
(1)ラクトバチルス属
ラクトバチルス デルブリッキィ亜種デルブリッキィ(NBRC3202)
(2)ラクチプランチバチルス属
ラクチプランチバチルス プランタルム(NBRC101973)
(3)ラクチカゼイバチルス属
ラクチカゼイバチルス ラムノサス(NBRC100910)
ラクチカゼイバチルス パラカゼイ亜種パラカゼイ(NBRC15889)
(4)レビラクトバチルス属
レビラクトバチルス ブレビス(NBRC3345)
(5)ロイコノストック属
ロイコノストック シトレウム(NBRC113243)
ロイコノストック メセンテロイデス亜種デキストランシウム(NBRC3349)
(6)エンテロコッカス属
エンテロコッカス ファエカリス(NBRC100480)
(7)テトラジェノコッカス属
テトラジェノコッカス ハロフィルス(NBRC12172)
(8)ラチラクトバチルス属
ラチラクトバチルス サケイ(NBRC107130)
(9)ワイセラ属
ワイセラ ビリデッセンス(食品単離菌)
【0034】
(10)その他の乳酸菌
・ペディオコッカス属
ペディオコッカス ペントサセウス(NBRC107768)
・カルノバクテリウム属
カルノバクテリウム マルタロマチカム(NBRC15684)
カルノバクテリウム ダイバージェンス(食品単離菌)
【0035】
(11)その他の菌
・バチルス属
バチルス セレウス(NBRC15305)
バチルス サブティリス亜種サブティリス(NBRC13719)
・酵母
サッカロマイセス セレビシエ(NBRC10217)
カンジダ アルビカンス(NBRC10108)
ウィッカーハモマイセス アノマルス(NBRC10213)
・カビ
アスペルギルス ツビンゲンシス(NBRC4407)
アスペルギルス ブラジリエンス(NCPF2275)
ペニシリウム シトレウム(食品単離菌)
・グラム陰性菌
エッシェリヒア コリ(NBRC102203)
シュードモナス エルギノーザ(NBRC3899)
【0036】
(菌液の調製)
具体的には、-80℃で冷凍保存された上記乳酸菌の15%グリセロール液をMRS液体培地で前培養(30℃で18時間、静置培養)した。-80℃で冷凍保存された上記酵母とカビの15%グリセロール液をMRS液体培地で前培養(25℃で18時間、振盪培養)した。また、-80℃で冷凍保存された上記バチルス属及びグラム陰性菌の15%グリセロール液をNB液体培地で前培養(30℃で18時間、静置培養)した。
前培養後の培養液をOD6600.1になるように希釈し、希釈した液を更に滅菌水で希釈した(乳酸菌、バチルス属及びグラム陰性菌は1000倍希釈、酵母及びカビは10倍希釈)。この希釈液を菌液とした。
【0037】
(最小発育阻止濃度の測定)
まず初めに、シャーレ中の濃度が0、50、100、150、200ppmになるように、化合物Aをシャーレ上に入れた(表2中「化合物Aのみ」)。
次に、酢酸ナトリウム又はグリシンを滅菌水に溶解し、それぞれ20%溶液を作製した。上記で調製した化合物Aを添加したシャーレに、当該20%酢酸ナトリウム溶液を1ml添加し、酢酸ナトリウム1%を含む試験区を調製した(表2中「+酢酸Na1%」)。また、上記で調製した化合物Aを添加したシャーレに、当該20%グリシン溶液を1ml添加し、グリシン1%を含む試験区を調製した(表2中「+グリシン1%」)。また、上記で調製した化合物Aを添加したシャーレに、当該20%酢酸ナトリウム溶液と当該20%グリシン溶液を0.5mlずつ添加し、酢酸Na0.5%とグリシン0.5%を含む試験区を調製した(表2中「酢酸Na0.5%+グリシン0.5%」)。
次に、化合物Aのみの試験区には、溶解したSTD寒天培地18ml、及び菌液1mlを更にシャーレに添加し、混合した。化合物Aとグリシン及び/又は酢酸ナトリウムを含む試験区には、溶解したSTD寒天培地19ml、及び菌液1mlを更にシャーレに添加し、混合した。固化後、倒置して30℃で48時間(カビ及び酵母は、25℃で3日間)、保存した。菌数を確認し、下記の評価基準で評価した。-判定となった添加量で最も少ない添加量を最小発育阻止濃度(MIC)とした。
<評価基準>
- :0cfu/シャーレ
+ :1~10cfu/シャーレ
++ :11~100cfu/シャーレ
+++:101~300cfu/シャーレ
【0038】
【表2】
【0039】
表2から分かる通り、本願発明が対象とする乳酸菌に対する化合物Aの静菌作用は、顕著に高いことが示された。
また、グリシン及び/又は酢酸ナトリウムと化合物Aと併用することで、静菌作用が顕著に増強された。
なお、化合物Aは、酵母、カビ、グラム陰性菌に対しては、静菌作用をほぼ示さなかった。また、その他の乳酸菌に対しても、静菌作用は劣っていた。
【0040】
表2に記載されたバチルス属は、特許文献1に具体的に記載された2つの菌である。表2の試験結果から分かるように、バチルス セレウスとバチルス サブティリス亜種サブティリスの静菌作用は、本願発明が対象とする乳酸菌に対する静菌作用よりも遥かに劣っていた。
【0041】
実施例3:ホイップクリームの保存試験及び官能評価試験
(1)保存試験
化合物A(0~500ppm)、及び/又はグリシン(0~0.75%)を配合したホイップクレームに、ラクチカゼイバチルス ラムノサス(NBRC100910)を添加して、10℃で10日間、保存して、評価した。
ホイップクリームとして、生クリーム(植物性脂肪40%)を100質量部用いた。
【0042】
具体的には、-80℃で冷凍保存されたラクチカゼイバチルス ラムノサスの15%グリセロール液をMRS液体培地で前培養(30℃で18時間、静置培養)した。前培養後の培養液をOD660 0.1になるように希釈し、希釈液を更に滅菌水にて1000倍希釈した(この希釈液を菌液とする)。
冷蔵庫で冷やしたホイップクリーム100gと化合物A、グリシンをボールに入れ、氷水で冷やしながらハンドミキサーでホイップ(2分間)した。ホイップ後、滅菌容器に入れた。
【0043】
滅菌容器中のホイップクリーム100gに上記菌液を0.1ml添加し、混合した(100cfu/g)。10℃で10日間保管した。ホイップクリームを混合後、10gサンプリングし、滅菌水にて100gに希釈した(10倍希釈)。1試験区ごとにシャーレを3枚用意し、ホイップクリーム希釈液を1g、0.1g、0.01gずつシャーレに入れた。それぞれのシャーレに溶解したBCP寒天培地を適量添加し、混合した。固化後、倒置して30℃、48時間、保存した。シャーレ1枚当たりの菌数をカウントし、ホイップクリーム1g当たりの菌数を算出、下記の基準に従って評価した。点数が高いほど静菌作用が優れていることを示す。
<静菌効果の評価基準>
1:10cfu/g以上
2:10cfu/g以上10cfu/g未満
3:10cfu/g以上10cfu/g未満
4:10cfu/g以上10cfu/g未満
5:10cfu/g未満
【0044】
(2)官能評価試験
上記の保存試験で調製した、化合物A及び/又はグリシンを含むホイップクリーム(菌液の添加前)について、官能評価試験を行った。
上記の試験区とは別に、点数評価基準用としてホイップクリームに、グリシンを0%、0.25%、0.5%、0.75%、1%添加した試験区を用意した。試験区番号を伏せた状態で、10人の官能パネラー(普段から風味評価を行っている者)で、下記の基準に従って評価し、評価者ごとの評価をすべて記録した。その平均値を求めた。
<官能評価の基準>
「甘味」のみで評価し、以下の5段階で点数を求めた。点数が高いほどホイップクリーム本来の風味を有していることを示す。
1:グリシン1%添加区
2:グリシン0.75%添加区
3:グリシン0.5%添加区
4:グリシン0.25%添加区
5:無添加
【0045】
(3)総合評価
上記の静菌効果と官能評価の数値に基づいて、以下の基準に従って、総合評価を行った。
<総合評価の基準>
◎:静菌効果が十分であり、且つホイップクリーム本来の風味を有している。(静菌効果=4以上、且つ官能評価=3以上)
○:静菌効果が十分であり、且つグリシン由来の甘味がほとんど気にならない。(静菌効果=4以上、且つ官能評価=2以上3未満)
△:静菌効果は十分であるが、グリシン由来の甘味を強く感じる、または、静菌効果は僅かであるが、グリシン由来の甘味がほとんどない。(静菌効果=4以上、且つ官能評価=2未満、又は静菌効果=3、且つ官能評価=2以上)
×:静菌効果がほとんどない、または、静菌効果は僅かであり、グリシン由来の甘味を強く感じる。(静菌効果=2以下、又は静菌効果=3、且つ官能評価=2未満)
以上の試験結果を表3に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
表3から分かる通り、化合物Aを単品で用いる場合、化合物Aの配合量は250~500ppmであれば、静菌作用が認められた。グリシンと併用する場合は、強力な静菌作用を示すことが認められた。その場合、化合物Aに対するグリシンの配合量は、5~300質量倍が好ましく、更に好ましくは5~100質量倍であった。
【0048】
実施例4:カレーフィリングの保存試験及び官能評価試験
(1)保存試験
化合物A(0~500ppm)、及び/又は酢酸ナトリウム(0~0.75%)を配合したカレーフィリングに、ラクチカゼイバチルス ラムノサス(NBRC100910)を添加して、15℃で7日間、保存して、評価した。
カレーフィリングとして、以下の処方のものを用いた。
<カレーフィリング>
精製ラード 7.4
ローストフラワーBF-B 4.4
トマトピューレ 2.0
カレー粉 3.0
食塩 0.7
パン粉 4.4
馬鈴薯澱粉 4.0
ソルビトール 6.7
水 67.4
(合計) 100.0
【0049】
具体的には、-80℃で冷凍保存されたラクチカゼイバチルス ラムノサスの15%グリセロール液をMRS液体培地で前培養(30℃で18時間、静置培養)した。前培養後の培養液をOD660 0.1になるように希釈し、希釈液を更に滅菌水にて1000倍希釈した(この希釈液を菌液とする)。
上記のカレーフィリングの処方に従って、原料を混合した。80℃で加熱しながら撹拌し、歩留まり95%まで煮詰めた。レトルトパウチに入れ、121℃で15分間、加熱した。流水冷却後、滅菌容器に100gずつ小分けした。表4に記載の各試験区の通り、化合物Aと酢酸ナトリウムを添加した。
【0050】
滅菌容器中のカレーフィリング100gに上記菌液を0.1ml添加し、混合した(100cfu/g)。15℃で7日間保管した。カレーフィリングを混合後、10gサンプリングし、滅菌水にて100gに希釈した(10倍希釈)。1試験区ごとシャーレを3枚用意し、カレーフィリング希釈液を1g、0.1g、0.01gずつシャーレに入れた。それぞれのシャーレに溶解したBCP寒天培地を適量添加し、混合した。固化後、倒置して30℃で48時間、保存した。シャーレ1枚当たりの菌数をカウントし、カレーフィリング1g当たりの菌数を算出、下記の基準に従って評価した。点数が高いほど静菌作用が優れていることを示す。
<静菌効果の評価基準>
1:10cfu/g以上
2:10cfu/g以上10cfu/g未満
3:10cfu/g以上10cfu/g未満
4:10cfu/g以上10cfu/g未満
5:10cfu/g未満
【0051】
(2)官能評価試験
上記の保存試験で調製した、化合物A及び/又は酢酸ナトリウムを含むカレーフィリング(菌液の添加前)について、官能評価試験を行った。
上記の試験区とは別に、点数評価基準用としてカレーフィリングに、酢酸ナトリウムを0%、0.25%、0.5%、0.75%、1%添加した試験区を用意した。試験区番号を伏せた状態で、10人の官能パネラー(普段から風味評価を行っている者)で、下記の基準に従って評価し、評価者ごとの評価をすべて記録した。その平均値を求めた。
<官能評価の基準>
「塩味」のみで評価し、以下の5段階で点数を求めた。点数が高いほどカレーフィリング本来の風味を有していることを示す。
1:酢酸ナトリウム1%添加区
2:酢酸ナトリウム0.75%添加区
3:酢酸ナトリウム0.5%添加区
4:酢酸ナトリウム0.25%添加区
5:無添加
【0052】
(3)総合評価
上記の静菌効果と官能評価の数値に基づいて、以下の基準に従って、総合評価を行った。
<総合評価の基準>
◎:静菌効果が十分であり、且つカレーフィリング本来の風味を有している。(静菌効果=4以上、且つ官能評価が3以上)
○:静菌効果が十分であり、且つ酢酸ナトリウム由来の塩味がほとんど気にならない。(静菌効果=4以上、且つ官能評価=2以上3未満)
△:静菌効果は十分であるが、酢酸ナトリウム由来の塩味を強く感じる、または、静菌効果は僅かであるが、酢酸ナトリウム由来の塩味がほとんどない。(静菌効果=4以上、且つ官能評価=2未満、又は静菌効果=3、且つ官能評価=2以上)。
×:静菌効果がほとんどない、または、静菌効果は僅かであり、酢酸ナトリウム由来の塩味を強く感じる。(静菌効果=2以下、又は静菌効果=3、且つ官能評価=2未満)。
以上の試験結果を表4に示す。
【0053】
【表4】
【0054】
表4から分かる通り、化合物Aを単品で用いる場合、化合物Aの配合量は50~500ppmであれば、高い静菌作用が認められた。酢酸ナトリウムと併用する場合は、強力な静菌作用を示すことが認められた。その場合、化合物Aに対する酢酸ナトリウムの配合量は、5~300質量倍が好ましく、更に好ましくは5~100質量倍であった。
【0055】
実施例5:ホワイトソースの保存試験及び官能評価試験
(1)保存試験
化合物Aの配合量を0~100ppmの範囲とし、グリシンと酢酸ナトリウムの配合比を変化させて、ホワイトソース100重量部に対して、化合物A、グリシン及び酢酸ナトリウムの合計が0.5重量部となるように配合したホワイトソースに、ラクチプランチバチルス プランタルム(NBRC101973)を添加して、15℃で2日間、保存して、評価した。
ホワイトソースとして、以下の処方のものを用いた。
<ホワイトソース>
牛乳 10
乳化油脂 3
バター(食塩不使用) 1
チェダーチーズ 1
食塩 1
スクラロース 0.0025
L-グルタミン酸ナトリウム 0.1
チキンパウダー 0.1
オニオンパウダー 0.1
加工でん粉 2.5
焙焼小麦粉 2.5
キサンタンガム 0.03
水 残量
(合計) 100.0
【0056】
具体的には、-80℃で冷凍保存されたラクチプランチバチルス プランタルムの15%グリセロール液をMRS液体培地で前培養(30℃で18時間、静置培養)した。前培養後の培養液をOD660 0.1になるように希釈し、希釈液を更に滅菌水にて10000倍希釈した(この希釈液を菌液とする)。
水に、上記の加工でん粉、焙焼小麦粉、及びキサンタンガムを入れて、80℃で10分間、加熱攪拌した。牛乳、乳化油脂、バター(食塩不使用)、チェダーチーズ、食塩、スクラロース、L-グルタミン酸ナトリウム、チキンパウダー、及びオニオンパウダーを加えて、歩留まり約84%まで加熱攪拌した。アルミパウチに入れ、沸騰水にて10分間、加熱した。流水冷却後、ホワイトソースを100gずつ小分けした。各試験区通りに化合物Aと、酢酸ナトリウムと、グリシンを添加した。
【0057】
滅菌容器中のホワイトソース100gに上記菌液を0.1ml添加し、混合した(100cfu/g)。15℃で2日間保管した。保管後のホワイトソースを混合後、10gサンプリングし、滅菌水にて100gに希釈した(10倍希釈)。1試験区ごとにシャーレを3枚用意し、ホワイトソース希釈液を1g、0.1g、0.01gずつシャーレに入れた。それぞれのシャーレに溶解したBCP寒天培地を適量添加し、混合した。BCP寒天培地が固化後、倒置して30℃、48時間、保存した。シャーレ1枚当たりの菌数をカウントし、ホワイトソース1g当たりの菌数を算出し、下記の基準に従って評価した。点数が高いほど静菌作用が優れていることを示す。
<静菌効果の評価基準>
1:10cfu/g以上
2:10cfu/g以上10cfu/g未満
3:10cfu/g以上10cfu/g未満
4:10cfu/g以上10cfu/g未満
5:10cfu/g未満
【0058】
(2)官能評価試験
上記の保存試験で調製した、化合物A、グリシン及び/又は酢酸ナトリウムを含むホワイトソース(菌液の添加前)について、官能評価試験を行った。
上記の試験区とは別に、点数評価基準用としてホワイトソースに、グリシンのみを0%、0.25%、0.5%、0.75%、1%添加した試験区、及びホワイトソースに、酢酸ナトリウムのみを0%、0.25%、0.5%、0.75%、1%添加した試験区をそれぞれ用意した。試験区番号を伏せた状態で、10人の官能パネラー(普段から風味評価を行っている者)で、下記の基準に従って評価し、評価者ごとの評価をすべて記録した。その平均値を求めた。
【0059】
<官能評価の基準>
「甘味」のみで評価し、以下の5段階で点数を求めた。点数が高いほどホワイトソース本来の風味を有していることを示す。
1:グリシン1%添加区
2:グリシン0.75%添加区
3:グリシン0.5%添加区
4:グリシン0.25%添加区
5:無添加
「塩味」のみで評価し、以下の5段階で点数を求めた。点数が高いほどホワイトソース本来の風味を有していることを示す。
1:酢酸ナトリウム1%添加区
2:酢酸ナトリウム0.75%添加区
3:酢酸ナトリウム0.5%添加区
4:酢酸ナトリウム0.25%添加区
5:無添加
【0060】
(3)総合評価
上記の静菌効果と官能評価の数値に基づいて、以下の基準に従って、総合評価を行った。
<総合評価の基準>
◎:静菌効果が十分であり、且つホワイトソース本来の風味を有している。(静菌効果=4以上、且つ官能評価の総合評価=4以上)
○:静菌効果が十分であり、且つグリシン由来の甘味又は酢酸ナトリウム由来の塩味がほとんど気にならない。(静菌効果=4以上、且つ官能評価の総合評価=3以上4未満、又は静菌効果=3、且つ官能試験の総合評価=4以上)
△:静菌効果は十分であるが、グリシン由来の甘味又は酢酸ナトリウム由来の塩味を強く感じる、又は、静菌効果は僅かであるが、グリシン由来の甘味又は酢酸ナトリウム由来の塩味がほとんどない。(静菌効果=4以上、且つ官能評価の総合評価=3未満、又は静菌効果=3、且つ官能評価の総合評価=2以上4未満、又は静菌効果=2、且つ官能評価の総合評価=4以上)
×:静菌効果がほとんどない、又は、静菌効果は僅かであり、グリシン由来の甘味又は酢酸ナトリウム由来の塩味を強く感じる。(静菌効果=3以下、且つ静菌効果の総合評価=2未満、又は静菌効果=2以下、且つ官能評価の総合評価=4未満、又は静菌効果=1)
以上の試験結果を表5及び表6に示す。
【0061】
【表5】
【0062】
【表6】
【0063】
表5及び表6から分かる通り、化合物A、グリシン及び酢酸ナトリウムを組合せて用いることが好ましく、この組合せによって相乗的に強力な静菌作用が示された。特にグリシン及び酢酸ナトリウムには相乗効果が示された。
グリシンと酢酸ナトリウムの好ましい重量比は、例えば0:1~10:1であり、好ましくは1:20~5:1であり、より好ましくは1:10~3:1であり、更に好ましくは1:9~1:1であり、より更に好ましくは1:8~1:2であり、なお更に好ましくは1:7.5~1:3であった。
L-アスコルビン酸パルミチン酸エステル、グリシン及び酢酸ナトリウムを含む製剤中のL-アスコルビン酸パルミチン酸エステルの好ましい配合量としては、例えば0.1~5重量%であり、好ましくは0.3~5重量%であり、より好ましくは0.5~2重量%であり、なお更に好ましくは0.6~1.5重量%であった。
【0064】
今回開示された実施の形態及び実施例はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によって、ヒトに対して安全性があり、ラクトバチルス属等の特定の乳酸菌を有効に静菌させることができる食用静菌剤、それを含む食品、及びそれを食品に添加することによる食品の静菌方法が提供される。