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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055865
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】再生補強繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/16 20060101AFI20240411BHJP
   C08J 11/10 20060101ALI20240411BHJP
   D06M 11/00 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C08J11/16 ZAB
C08J11/10
D06M11/00 120
D06M11/00 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023192150
(22)【出願日】2023-11-10
(62)【分割の表示】P 2022161820の分割
【原出願日】2022-10-06
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ケブラー
2.KEVLAR
3.ダイニーマ
(71)【出願人】
【識別番号】520474783
【氏名又は名称】株式会社ミライ化成
(74)【代理人】
【識別番号】100119585
【弁理士】
【氏名又は名称】東田 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100168572
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 仁志
(72)【発明者】
【氏名】円子 春菜
(72)【発明者】
【氏名】掛端 康成
(72)【発明者】
【氏名】工藤 真明
【テーマコード(参考)】
4F401
4L031
【Fターム(参考)】
4F401AA21
4F401AB06
4F401AD08
4F401BA13
4F401CA68
4F401CA75
4F401CB01
4F401EA24
4F401EA25
4F401EA26
4F401EA27
4F401EA28
4F401EA40
4F401EA65
4F401FA01Z
4F401FA07Z
4L031AA12
4L031AA27
4L031AB01
4L031AB21
4L031BA12
4L031CA02
4L031CA06
4L031CA17
(57)【要約】
【課題】
比較的温和な条件にて繊維強化樹脂材料から効率的に補強繊維を回収することのできる、再生補強繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】
樹脂と補強繊維とを含む繊維強化樹脂材料を処理液により処理し、前記繊維強化樹脂材料の前記樹脂の少なくとも一部を前記処理液に溶解させる第1の工程と、前記繊維強化樹脂材料を150℃以上の気体雰囲気下で加熱する第2の工程と、を有する、再生補強繊維の製造方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と補強繊維とを含む繊維強化樹脂材料を処理液により処理し、前記繊維強化樹脂材料の前記樹脂の少なくとも一部を前記処理液に溶解させる第1の工程と、
前記繊維強化樹脂材料を150℃以上の気体雰囲気下で加熱する第2の工程と、を有する、再生補強繊維の製造方法。
【請求項2】
前記第1の工程は、前記繊維強化樹脂材料を酸化剤を含む酸化処理液により処理し、前記繊維強化樹脂材料の前記樹脂の少なくとも一部を前記酸化処理液に溶解させる処理を含む、請求項1に記載の再生補強繊維の製造方法。
【請求項3】
前記第1の工程は、前記繊維強化樹脂材料を酸を含む酸性溶液により処理する第1の処理と、前記繊維強化樹脂材料を酸化剤を含む酸化処理液により処理し、前記繊維強化樹脂材料の前記樹脂の少なくとも一部を前記酸化処理液に溶解させる第2の処理とを含む、請求項1に記載の再生補強繊維の製造方法。
【請求項4】
前記酸化剤は、酸化力を有する酸を含む、請求項2または3に記載の再生補強繊維の製造方法。
【請求項5】
前記酸化力を有する酸は、硝酸、硫酸と硝酸との混酸、硝酸と塩酸との混酸(王水)および過酸化水素と硫酸との混合溶液からなる群から選択される1種以上を含む、請求項4に記載の再生補強繊維の製造方法。
【請求項6】
前記酸化処理液は、さらに重合抑制剤を含む、請求項2または3に記載の再生補強繊維の製造方法。
【請求項7】
前記重合抑制剤は、亜硝酸塩および亜硝酸エステルからなる群から選択される1種以上を含む、請求項6に記載の再生補強繊維の製造方法。
【請求項8】
前記酸は、硫酸、塩酸、リン酸および酢酸からなる群から選択される1種以上を含む、請求項3に記載の再生補強繊維の製造方法。
【請求項9】
前記酸性溶液中における前記酸の濃度が、0.5mol/L以上である、請求項3に記載の再生補強繊維の製造方法。
【請求項10】
前記第2の工程において、前記繊維強化樹脂材料を150℃以上350℃以下の気体雰囲気下で加熱する、請求項1に記載の再生補強繊維の製造方法。
【請求項11】
前記第2の工程において、加熱時間が60分以上300分以下である、請求項1に記載の再生補強繊維の製造方法。
【請求項12】
前記樹脂は、エポキシ樹脂を含む、請求項2または3に記載の再生補強繊維の製造方法。
【請求項13】
前記樹脂は、アミン硬化エポキシ樹脂を含む、請求項3に記載の再生補強繊維の製造方法。
【請求項14】
前記補強繊維が、炭素繊維を含む、請求項1に記載の再生補強繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生補強繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維等の繊維を強化材として用いた繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics;FRP)は、軽量、高強度、かつ高弾性の材料であり、小型船舶、自動車、鉄道車両等の部材に幅広く使用されている。また、更なる軽量化、高強度化、及び高弾性化を目的として、炭素繊維を強化材として用いた炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastics;CFRP)が開発されており、航空機、自動車等の部材に使用されている。
【0003】
近年、使用済みの繊維強化プラスチックの廃棄量が増大傾向にあり、その再生利用技術の開発が検討されている。繊維強化プラスチックの補強繊維を回収する方法としては、主に、熱処理により樹脂成分を熱分解して除去し補強繊維を回収する熱分解法と、溶媒を用いて樹脂成分を溶解させて除去し補強繊維を回収する溶媒法とが挙げられる。このうち、溶媒法は、樹脂成分の回収が容易であり、資源リサイクルの観点から有利である。
【0004】
熱分解法としては、例えば、特許文献1には、積層された複数のチップ状またはシート状の炭素繊維基材およびマトリックス樹脂を含む、炭素繊維強化樹脂から前記炭素繊維基材を再生炭素繊維束として得る方法であり、前記炭素繊維強化樹脂を300~700℃で加熱することによって前記マトリックス樹脂を熱分解して加熱処理物を得て、前記積層された複数のチップ状またはシート状の炭素繊維基材が互いに剥離する方向に、前記加熱処理物を解砕することによって前記複数のチップ状またはシート状の炭素繊維基材を、チップ状またはシート状の形態のまま分離し、チップ状またはシート状の再生炭素繊維束を得る、再生炭素繊維束の製造方法が開示されている。
【0005】
溶媒法としては、例えば、特許文献2、3において提案される方法が挙げられる。特許文献2には、炭素繊維複合材料を、酸性水溶液に浸漬して、炭素繊維複合材料の樹脂分の少なくとも一部を溶出して略繊維状物を得る工程、及び略繊維状物をアルカリ性水溶液に浸漬して、略繊維状物の樹脂分の少なくとも一部を溶出して繊維状物を得る工程を含む、炭素繊維の製造方法が提案されている。また、特許文献3には、リン酸を含有する溶解液を用いて、炭素繊維強化プラスチック材の母材を溶解する工程を備え、前記溶解液のリン酸濃度は、110質量%以上であり、前記溶解する工程は、前記溶解液の温度が200℃以上300℃以下で行われる炭素繊維回収方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第開2018/212016号
【特許文献2】特開2019-136932号公報
【特許文献3】特開2020-50704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の熱分解法においては、比較的高い温度まで補強繊維樹脂材料の加熱を行うことから、回収すべき補強繊維自体も損傷する可能性がある。
【0008】
また、従来の溶媒法においては、樹脂成分を除去する効率が十分に高くなく、例えば特許文献1、2に記載される方法においては、溶媒を含む処理液の浸透を考慮して繊維強化樹脂材料を数センチ程度のチップ状に細かく裁断した上で樹脂成分を除去している。このように繊維強化樹脂材料を細かく裁断してしまうと、繊維強化樹脂材料から回収される再生補強繊維の長さが必然的に短くなり、回収前の繊維強化樹脂材料中に含まれる補強繊維の性能を維持することが困難となるとともに、回収される補強繊維の用途が、限定されてしまう。一方で、溶媒法により樹脂成分を効率除去するためには、高温等の過酷な条件で長時間処理することが要求される。
【0009】
したがって、本発明の目的は、比較的温和な条件にて繊維強化樹脂材料から効率的に補強繊維を回収することのできる、再生補強繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、繊維強化樹脂材料から補強繊維の回収を検討する中で、溶媒法と熱分解法とを組み合わせることにより、比較的温和な条件で繊維強化樹脂材料から樹脂を効率よく除去できることを見出した。そして、以上の知見に基づき、本発明者らはさらに検討を行い、本発明に至った。
【0011】
本発明の要旨は、以下の通りである。
(1) 樹脂と補強繊維とを含む繊維強化樹脂材料を処理液により処理し、前記繊維強化樹脂材料の前記樹脂の少なくとも一部を前記処理液に溶解させる第1の工程と、
前記繊維強化樹脂材料を150℃以上の気体雰囲気下で加熱する第2の工程と、を有する、再生補強繊維の製造方法。
(2) 前記第1の工程は、前記繊維強化樹脂材料を酸化剤を含む酸化処理液により処理し、前記繊維強化樹脂材料の前記樹脂の少なくとも一部を前記酸化処理液に溶解させる処理を含む、(1)に記載の再生補強繊維の製造方法。
(3) 前記第1の工程は、前記繊維強化樹脂材料を酸を含む酸性溶液により処理する第1の処理と、前記繊維強化樹脂材料を酸化剤を含む酸化処理液により処理し、前記繊維強化樹脂材料の前記樹脂の少なくとも一部を前記酸化処理液に溶解させる第2の処理とを含む、(1)に記載の再生補強繊維の製造方法。
(4) 前記酸化剤は、酸化力を有する酸を含む、(2)または(3)に記載の再生補強繊維の製造方法。
(5) 前記酸化力を有する酸は、硝酸、硫酸と硝酸との混酸、硝酸と塩酸との混酸(王水)および過酸化水素と硫酸との混合溶液からなる群から選択される1種以上を含む、(4)に記載の再生補強繊維の製造方法。
(6) 前記酸化処理液は、さらに重合抑制剤を含む、(2)~(5)のいずれか一項に記載の再生補強繊維の製造方法。
(7) 前記重合抑制剤は、亜硝酸塩および亜硝酸エステルからなる群から選択される1種以上を含む、(6)に記載の再生補強繊維の製造方法。
(8) 前記酸は、硫酸、塩酸、リン酸および酢酸からなる群から選択される1種以上を含む、(3)のいずれか一項に記載の再生補強繊維の製造方法。
(9) 前記酸性溶液中における前記酸の濃度が、0.5mol/L以上である、(3)または(8)に記載の再生補強繊維の製造方法。
(10) 前記第2の工程において、前記繊維強化樹脂材料を150℃以上350℃以下の気体雰囲気下で加熱する、(1)~(9)のいずれか一項に記載の再生補強繊維の製造方法。
(11) 前記第2の工程において、加熱時間が60分以上300分以下である、(1)~(10)のいずれか一項に記載の再生補強繊維の製造方法。
(12) 前記樹脂は、エポキシ樹脂を含む、(1)~(11)のいずれか一項に記載の再生補強繊維の製造方法。
(13) 前記樹脂は、アミン硬化エポキシ樹脂を含む、(1)~(12)のいずれか一項に記載の再生補強繊維の製造方法。
(14) 前記補強繊維が、炭素繊維を含む、(1)~(13)のいずれか一項に記載の再生補強繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
以上の構成により、本発明の目的は、比較的温和な条件にて繊維強化樹脂材料から効率的に補強繊維を回収することのできる、再生補強繊維の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態に係る再生補強繊維の製造方法のいくつかの例について説明する。
【0014】
1. 第1実施形態
以下、本発明の第1実施形態に係る再生補強繊維の製造方法について説明する。まず、本発明に係る再生補強繊維の製造方法は、樹脂と補強繊維とを含む繊維強化樹脂材料を処理液により処理し、前記繊維強化樹脂材料の前記樹脂の少なくとも一部を前記処理液に溶解させる第1の工程と、前記繊維強化樹脂材料を150℃以上の気体雰囲気下で加熱する第2の工程と、を有する。
【0015】
また、本実施形態に係る再生補強繊維の製造方法は、本実施形態に係る再生補強繊維の製造方法の第1工程は、繊維強化樹脂材料を酸を含む酸性溶液により処理する第1の処理と、繊維強化樹脂材料を酸化剤を含む前記酸化処理液により処理し、繊維強化樹脂材料の樹脂の少なくとも一部を前記酸化処理液に溶解させる第2の処理とを含む。さらに、本実施形態に係る再生補強繊維の製造方法は、第1の工程および第2の工程に先立ち、繊維強化樹脂材料を準備する工程(準備工程)とを含む。なお、本明細書においては、「樹脂が溶解する」とは、樹脂自体が直接処理液に溶解することのみならず、樹脂が分解して反応物を生成し、当該反応物が処理液に溶解することをも含む。以下、本実施形態に係る再生補強繊維の製造方法の各工程について順に説明する。
【0016】
1.1. 準備工程
まず、第1の工程に先立ち、繊維強化樹脂材料を準備する。繊維強化樹脂材料は、補強繊維がマトリックス樹脂(単に「樹脂」ともいう)に埋設されることにより強化された樹脂材料である。このような、繊維強化樹脂材料としては、特に限定されず、例えば、炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastics;CFRP)、ガラス繊維強化プラスチック(Glass Fiber Reinforced Plastics;GFRP)、ガラス長繊維マット強化熱可塑性プラスチック(Glass-Mat reinforced Thermoplastics;GMT)、アラミド繊維強化プラスチック(Aramid-Fiber-Reinforced Plastics;AFRP)、ケブラー繊維強化プラスチック(Kevlar Fiber Reinforced Plastics;KFRP)、ダイニーマ繊維強化プラスチック(Dyneema Fiber-Reinforced Plastics;DFRP)、バサルト繊維強化プラスチック、ボロン繊維強化プラスチック、およびこれらのプリプレグ等が挙げられる。上述した中でも、炭素繊維強化プラスチックは、使用量が比較的多く、また炭素繊維の製造時における消費エネルギー量が多大であるため、使用済みの炭素繊維強化プラスチックおよび/またはこのプリプレグ中の炭素繊維を回収し、再利用することが望ましい。
【0017】
また、繊維強化樹脂材料中の補強繊維は、複数の補強繊維を一方向に引き揃えた繊維束(トウ)、補強繊維の繊維束を経糸および緯糸に用いた織物または不織布の状態で存在してもよいし、各補強繊維がランダムな位置および方向に配置された状態で存在していてもよい。なお、補強繊維はチップ状であってもよく、この場合、例えば、繊維束を切断したチョップド繊維、チップ状の織物等が挙げられる。
【0018】
また、繊維強化樹脂材料中の樹脂は、特に限定されるものではなく、例えば、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂のいずれであってもよい。また、熱硬化性樹脂は、未硬化のものであってもよいし、硬化物であってもよい。
【0019】
熱硬化性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせで用いることができる。
【0020】
熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、アクリル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
また、繊維強化樹脂材料を構成する樹脂は、好ましくはエポキシ樹脂を含む。エポキシ樹脂は、後述する重合抑制剤用いた酸化工程において、効率よく分解され、処理液中に溶解することができる。
【0022】
フェノール骨格を有するエポキシ樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂肪族型エポキシ樹脂等が挙げられ、これらの1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
また、繊維強化樹脂材料中の樹脂におけるエポキシ樹脂の含有量は、特に限定されないが、例えば50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは樹脂は本質的エポキシ樹脂からなり、最も好ましくは樹脂はエポキシ樹脂からなる。これにより、酸化程を行った際に繊維強化樹脂材料からの樹脂の除去および補強繊維の回収がより一層容易となる。
【0024】
また、本実施形態において、繊維強化樹脂材料を構成する樹脂は、好ましくは、塩基性構造を有する樹脂を含む。塩基性構造を有する樹脂は、後述する第1の工程の第1の処理において、酸性溶液中の水素イオン(プロトン)を配位させ、膨潤することができる。膨潤した塩基性構造を有する樹脂に対しては後述する第2の処理において酸化剤が十分に浸透することができ、この結果樹脂の処理液への溶解が促進される。
【0025】
樹脂が有する塩基性構造としては、特に限定されないがアミド結合、イミド結合、アゾ基、ジアゾ基、ウレア結合、ウレタン結合、ペプチド結合、イソシアナート基、アジ基等、もしくはそれらから派生、類似した化学構造等が挙げられ、塩基性構造を有する樹脂はこれらのうち1種または2種以上を含むことができる。上述した中でも、本実施形態に係る方法は、塩基性構造として1、2または3級アミド結合を有する樹脂を膨潤、分解するのに好適に用いることができる。
【0026】
また、塩基性構造を有する樹脂は、好ましくは、その主鎖構造に塩基性をもつ化学結合を含む。これにより、第1の工程の第1の処理において、塩基性を有する化学構造と反応することをより一層膨潤させることができ、後述する酸化工程において、樹脂の分解およびこれに引き続く酸化処理液への溶解を促進させることができる。このような塩基性構造を有する樹脂としては、アミン硬化エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド、メラミン樹脂、アニリン樹脂、ウレア樹脂等が挙げられ、樹脂は、これらのうち1種をまたは2種以上を塩基性構造を有する樹脂として含むことができる。
【0027】
なお、塩基性構造を有する樹脂は、その側鎖に塩基性構造を含んでもよい。このような樹脂としては、後述する各種樹脂成分の側鎖に上述したような塩基性構造を有するものが挙げられる。
【0028】
また、繊維強化樹脂材料中の樹脂における塩基性構造を有する樹脂の含有量は、特に限定されないが、例えば20質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは樹脂は本質的に塩基性構造を有する樹脂からなり、最も好ましくは樹脂は塩基性構造を有する樹脂からなる。これにより、酸処理工程を行った際に繊維強化樹脂材料からの樹脂の除去および補強繊維の回収がより一層容易となる。
【0029】
また、繊維強化樹脂材料は、それ自身がシート状をなしていてもよいし、裁断されたチップ状をなしていてもよい。特に、本実施形態に係る方法は、樹脂の除去を比較的効率よく行うことができるため、従来補強繊維の回収が困難であったシート状の繊維強化樹脂材料についても好適に適用できる。
【0030】
また、繊維強化樹脂材料の大きさも特に限定されない。しかしながら、繊維強化樹脂材料中の補強繊維の方向を保持することを考慮すると、繊維強化樹脂材料の一片の長さは、例えば、100mm以上、好ましくは500mm以上3000mm以下であることができる。より具体的には、繊維強化樹脂材料として、例えば1000mm×500mmの広さの積層された厚さ300mm程度の繊維強化樹脂材料シートを利用することもできる。上述したような比較的大きな繊維強化樹脂材料は、処理液の浸透が進行しにくく、樹脂の除去および補強繊維の回収が困難であった。しかしながら、本実施形態に係る方法は、樹脂の除去を比較的効率よく行うことができるため、比較的大きな繊維強化樹脂材料についても適用可能である。
【0031】
1.2. 第1の工程
第1の工程においては、繊維強化樹脂材料を処理液により処理し、繊維強化樹脂材料の樹脂の少なくとも一部を前記処理液に溶解させる。本実施形態においては、具体的には、第1の工程は、繊維強化樹脂材料を酸を含む酸性溶液により処理する第1の処理(酸処理)と、繊維強化樹脂材料を酸化剤を含む酸化処理液により処理し、繊維強化樹脂材料の前記樹脂の少なくとも一部を前記酸化処理液に溶解させる第2の処理(酸化処理)とを含む。
(i) 第1の処理
第1の処理においては、準備した繊維強化樹脂材料を酸を含む酸性溶液により処理する。このように、繊維強化樹脂材料を酸を含む酸性溶液により処理することにより、繊維強化樹脂材料の樹脂中に含まれる酸に分解可能な成分の少なくとも一部が分解し、酸性溶液に溶解する。あるいは酸に溶解可能な成分の少なくとも一部が酸性溶液に溶解する。この結果、後述する第2の工程において、より酸化処理液が樹脂に浸透しやすくなり、より効率よく樹脂を酸化処理液に溶解させることができる。
【0032】
また、繊維強化樹脂材料が塩基性構造を有する樹脂を含む場合、繊維強化樹脂材料を酸を含む酸性溶液により処理することにより、塩基性構造を有する樹脂成分に酸性溶液中の水素イオンを配位させて塩を形成させ、この結果、塩基性構造を有する樹脂成分ひいては樹脂自体が膨潤する。これにより、後述する第2の処理において酸化剤が樹脂に浸透しやすくなり、第2の処理における樹脂の分解・溶出が促進される。
【0033】
本工程における酸性溶液は、少なくとも酸を含み、任意に溶媒を含む。酸としては、無機酸もしくは有機酸またはこれらの混合物を用いることができる。無機酸としては、例えば、硫酸、塩酸、リン酸等を挙げることができ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。リン酸としては、例えば、正リン酸、メタリン酸、次リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、ピロ亜リン酸等が挙げられる。有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、クエン酸、コハク酸、シュウ酸等が挙げられる。
【0034】
上述した中でも、樹脂成分を好適に膨潤させることができることから、酸は、無機酸、特に硫酸、塩酸、リン酸および酢酸からなる群から選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0035】
また、酸に含まれる成分のうち最もモル濃度の大きい成分の酸解離定数pKaは、特に限定されないが、好ましくは5.0以下、より好ましくは1.5以下である。このように酸に含まれる成分のうち最もモル濃度の大きい成分のpKaが十分に小さいことにより、酸性溶液中に水素イオンが放出されやすくなり、この結果、上述した効果をより一層得ることができる。なお、酸に含まれる成分のうち最もモル濃度の大きい成分が複数の酸解離定数を有する場合、1段目、すなわちより小さい酸解離定数が上記の値であることが好ましい。
【0036】
酸性溶液中に含まれる酸の濃度は特に限定されないが、例えば0.5mol/L以上、好ましくは1.0mol/L以上、より好ましくは3.5mol/L以上である。これにより、酸性溶液中に水素イオンが放出されやすくなり、この結果、上述した効果をより一層得ることができる。なお、酸の濃度の上限は、酸性溶液として存在し得る限り限定されるものではなく、酸の種類によって異なる。
【0037】
また、酸性溶液は、通常溶媒を含む。溶媒としては、上述した酸と混合可能であり、かつ当該酸に対して化学的に安定であれば、特に限定されず、例えば、水および/または各種有機溶媒を用いることができる。
【0038】
有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、芳香族炭化水素、ハロゲン化芳香族炭化水素、ハロゲン化脂肪族炭化水素等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
アルコール系溶媒としては、脂肪族アルコール系溶媒、芳香族アルコール系溶媒、グリコール系溶媒等や、グリセリン等のその他多価アルコールが挙げられる。
脂肪族アルコール系としては、例えば、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、2-エチルヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-エチル-1-ブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、ドデカノール、メタノール、エタノール等の非環式脂肪族アルコールや、シクロヘキサノール、1-メチルシクロヘキサノール、2-メチルシクロヘキサノール、3-メチルシクロヘキサノール、4-メチルシクロヘキサノール等の脂環式アルコールが挙げられる。
【0040】
芳香族アルコール系溶媒としては、例えば、フェノール、クレゾール、ベンジルアルコール、フェノキシエタノール等が挙げられる。
グリコール系溶媒としては、例えば、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール(分子量200~400)、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ジプロピレングリコール等が挙げられる。
【0041】
エーテル系溶媒としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル等の脂肪族エーテル、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、フラン等の環式エーテル、アニソール、フェネトール、ジフェニルエーテル、ベンゾフラン等の芳香族含有エーテル等が挙げられる。
【0042】
ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、2-ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、2-ヘプタノン、4-プタノン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、ホロン、イソホロン、アセチルアセトン、アセトフェノン、ジエチルケトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
【0043】
芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
ハロゲン化芳香族炭化水素としては、例えば、オルトクロロフェノール、オルト時クロロベンゼン等が挙げられる。
ハロゲン化脂肪族炭化水素としては、例えば、クロロホルム、塩化メチレン等が挙げられる。
【0044】
上述した中でも、酸との混合が容易であり、酸における水素イオンの解離を適切に行うために、溶媒が水を含むことが好ましい。なお、溶媒は、水および水と混和可能な有機溶媒の混合溶媒であってもよい。水と混和可能な有機溶媒としては、例えば、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒等が挙げられる。
【0045】
酸性溶液中に含まれる溶媒の含有量は、特に限定されず、酸等の他の成分の残部とすることができる。
【0046】
上述したような酸性溶液を用いて繊維強化樹脂材料を処理する。処理中における酸性溶液の温度は、特に限定されず、例えば0℃以上100℃以下、好ましくは50℃以上100℃以下である。
【0047】
酸性溶液による処理の時間は、特に限定されず、目的とする温度に達してから5分以上1200分以下、好ましくは10分以上120分以下である。
【0048】
また、酸性溶液による処理は、常圧下で行ってもよいし、減圧下で行ってもよいし、または加圧下で行ってもよい。酸性溶液による処理を加圧下で行う場合、例えば、0.11MPa以上7.0MPa以下、特に0.11MPa以上2.0MPa以下の雰囲気下で処理を行うことができる。なお、安全性および経済性を考慮すると、酸性溶液による処理は、常圧下で行うことが好ましい。
【0049】
なお、酸性溶液による繊維強化樹脂材料の処理は、特に限定されず、酸性溶液中に繊維強化樹脂材料を浸漬することにより行ってもよいし、スプレー等により酸性溶液を繊維強化樹脂材料に対し噴霧することにより行ってもよく、酸性溶液と繊維強化樹脂材料とが接触可能な任意の手段を採用することができる。また、酸性溶液による処理中において、酸性溶液を攪拌してもよい。また、繊維強化樹脂材料の繊維束が維持されるように繊維強化樹脂材料を固定具により固定してもよい。
【0050】
また、本工程において、第1の処理を省略してもよい。
【0051】
(ii) 第2の処理
第2の処理においては、繊維強化樹脂材料を酸化剤を含む酸化処理液により処理し、繊維強化樹脂材料の樹脂の少なくとも一部を酸化処理液に溶解させる。また、本工程における処理液は、少なくとも酸化剤を含み、任意に重合抑制剤および溶媒を含む。
【0052】
前述した第1の処理において酸性溶液により処理された繊維強化樹脂材料は、酸化剤が樹脂に浸透しやすくなり、この結果、第2の処理においては、酸化処理液による処理により樹脂が効率よく分解・溶出する。特に、樹脂が塩基性構造を有する樹脂を含む場合には、樹脂が酸処理により膨潤する結果、樹脂への酸化剤の浸透がより容易となっている。
【0053】
酸化剤としては、特に限定されず、硝酸、熱濃硫酸、硫酸と硝酸との混酸、硝酸と塩酸との混酸(王水)、過酸化水素と硫酸との混合溶液、過塩素酸、塩素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、過臭素酸、臭素酸、次亜臭素酸、亜臭素酸、過ヨウ素酸、ヨウ素酸、次亜ヨウ素酸、亜ヨウ素酸等の酸化力を有する酸、これらのアルカリ(土類)金属塩、酸素、オゾン、過酸化水素、過酸化アセトン(過酸化水素とアセトンとの反応物)等の酸素系酸化剤、塩素、二酸化塩素、臭素、フッ素、ヨウ素等のハロゲン系酸化剤等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、アルカリ金属元素としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムが挙げられ、アルカリ土類金属としては、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、およびラジウムが挙げられる。
【0054】
上述した中でも、比較的取り扱いやすくかつ酸化処理液の液性を安定させることができることから、酸化剤は、好ましくは酸化力を有する酸を含む。特に、樹脂の分解の効率の観点から、酸化剤は、より好ましくは硝酸、硫酸と硝酸との混酸、硝酸と塩酸との混酸(王水)および過酸化水素と硫酸との混合溶液からなる群から選択される1種以上を、特に好ましくは硝酸または過酸化水素と硫酸との混合溶液を含む。
【0055】
酸化処理液中における酸化剤の濃度は、特に限定されず、処理される繊維強化樹脂材料中の樹脂の量に応じて適宜設定できる。しかしながら、例えば、酸化剤が酸化力を有する酸である場合、酸化処理液における酸化剤の濃度は、例えば5質量%以上80質量%以下、好ましくは20質量%以上50質量%以下である。
【0056】
また、酸化処理液は、好ましくは重合抑制剤を含む。このように酸化処理液が酸化剤に加え重合抑制剤を含むことにより、樹脂をより効率よく分解し、処理液中に溶解させることができる。この処理中に生じる現象の詳細は定かではないが、本発明者は以下のように推測している。
【0057】
まず、繊維強化樹脂材料中の樹脂は、一般には、酸化剤により樹脂中の分子鎖が開裂することにより低分子化し得る。そして酸化反応により生じた水酸基、カルボキシ基や酸化剤に起因する極性基が樹脂に導入されることにより樹脂が酸化処理液に溶解しやすくなる。以上が相まって処理液中に樹脂が溶解する。
【0058】
一方で、本発明者は上述した酸化反応によっても処理後の補強繊維樹脂材料樹脂が依然として一部残存していることに着目した。そして、本発明者が鋭意検討した結果、酸化剤による樹脂の酸化反応においては、上記の分解反応と平行して再重合反応も生じている可能性を、本発明者は認識した。そして、酸化処理液中に酸化剤とともに重合抑制剤を含めることにより、重合抑制剤を未添加の場合と比較して大幅に樹脂を溶解させることができることを見出した。
【0059】
重合抑制剤としては、樹脂の分解物の再重合を抑制できれば特に限定されず、例えば、亜硝酸のアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩等の亜硝酸塩、亜硝酸エステル、ヒドロキノン、オキソキノン、4-tert-ブチルピロカテコール、tert-ブチルヒドロキノン、1,4-ベンゾキノン、ジブチルヒドロキシトルエン、1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジルフリーラジカル、メキノール、フェノチアジン等が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。アルカリ金属としては、例えばナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウム等を挙げることができる。アルカリ土類金属としては、例えばベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられる。また、亜硝酸エステルとしては、亜硝酸メチル、亜硝酸エチル、亜硝酸アミル、亜硝酸イソアミル、亜硝酸イソブチル、亜硝酸イソプロピル、亜硝酸t-ブチル、亜硝酸n-ブチル、亜硝酸n-プロピル等が挙げられる。
【0060】
上述した中でも重合抑制剤は、好ましくは亜硝酸塩および亜硝酸エステルからなる群から選択される1種または2種以上を、より好ましくは亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸エチルおよび亜硝酸アミルからなる群から選択される1種または2種以上を含む。これにより、より効率よく樹脂を酸化処理液中に溶解させることができる。
【0061】
酸化処理液中における重合抑制剤の濃度は、特に限定されず、処理される繊維強化樹脂材料中の樹脂の量に応じて適宜設定できる。しかしながら、例えば、処理液における重合抑制剤の濃度は、例えば0.010質量%以上20質量%以下、好ましくは0.20質量%以上5.0質量%以下である。これにより、酸化剤による樹脂の酸化反応を阻害することなく、低分子化した樹脂の再重合反応を十分に抑制することができる。
【0062】
また、酸化処理液は、通常溶媒を含む。溶媒としては、使用する酸化剤や重合抑制剤に対し安定であり、これらの成分と混和可能であれば特に限定されず、例えば上述した酸性溶液の溶媒に挙げられた水や各種有機溶媒を1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0063】
中でも、酸化処理液に含まれる溶媒は、上述した酸性溶液の溶媒に含まれる水または有機溶媒を含むことが好ましい。酸性溶液が複数種の溶媒を含む場合、酸化処理液は、これらの複数種の溶媒のうち1種以上を含むことが好ましい。これにより、酸化処理液を繊維強化樹脂材料に接触させた際に、不本意な副反応が生じたり、膨潤した繊維強化樹脂材料が不本意に収縮したりすることがより確実に抑制される。
【0064】
また、酸化処理液は、取り扱いの容易性および酸化剤による酸化反応を促進させる観点から、好ましくは水または水と混和可能な有機溶媒と水との混合溶媒、より好ましくは水を含む。
【0065】
酸化処理液中に含まれる溶媒の含有量は、特に限定されず、酸化剤等の他の成分の残部とすることができる。
【0066】
また、酸化処理液は、好ましくは中性または酸性、より好ましくは酸性を呈する。これにより、酸化処理液を繊維強化樹脂材料に接触させた際に、酸性溶液により処理された繊維強化樹脂材料が中和されて不本意に樹脂が固化・沈着することが防止される。
【0067】
具体的には、25℃の処理液のpHは、例えば、5.0以下、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.5以下である。
【0068】
酸化処理液は、酸を含んでいてもよい。これにより、酸化処理液のpHを調節することができるこのような酸としては、第2の処理において挙げた酸が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0069】
上述したような酸化処理液を用いて繊維強化樹脂材料を処理する。処理中における処理液の温度は、特に限定されず、例えば0℃以上100℃以下、好ましくは50℃以上100℃以下である。
【0070】
酸化処理液による処理の時間は、特に限定されず、目的とする温度に達してから5分以上1200分以下、好ましくは10分以上120分以下である。
【0071】
また、酸化処理液による処理は、常圧下で行ってもよいし、減圧下で行ってもよいし、または加圧下で行ってもよい。処理液による処理を加圧下で行う場合、例えば、0.11MPa以上7.0MPa以下、特に0.11MPa以上2.0MPa以下の雰囲気下で処理を行うことができる。なお、安全性および経済性を考慮すると、酸化処理液による処理は、常圧下で行うことが好ましい。
【0072】
なお、酸化処理液による繊維強化樹脂材料の処理は、特に限定されず、酸化処理液中に繊維強化樹脂材料を浸漬することにより行ってもよいし、スプレー等により酸化処理液を繊維強化樹脂材料に対し噴霧することにより行ってもよく、酸化処理液と繊維強化樹脂材料とが接触可能な任意の手段を採用することができる。また、酸化処理液による処理中において、酸化処理液を攪拌してもよい。また、繊維強化樹脂材料の繊維束が維持されるように繊維強化樹脂材料を固定具により固定してもよい。
【0073】
(iii) 洗浄処理
次に、必要に応じて洗浄を行う。洗浄は、洗浄液を繊維強化樹脂材料と接触させることにより行うことができる。具体的には、上記の第2の処理において、酸化処理液を洗浄液に置き換えることにより実施できる。ただし、洗浄時における洗浄液の温度や洗浄時間は、適宜設定できる。
【0074】
洗浄液としては、上述した酸性溶液の溶媒に挙げられた水や各種有機溶媒を1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、有機溶媒としては、上述した溶媒の他、以下のエステル系溶媒、アミド系溶媒を用いてもよい。
【0075】
エステル系溶媒としては、例えば、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、3-メトキシブチルアセタート、2-エチルブチルアセタート、2-エチルヘキシルアセタート、酢酸シクロヘキシル、酢酸ベンジル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソペンチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸ブチル、酪酸イソペンチル、イソ酪酸イソブチル、イソ吉草酸エチル、イソ吉草酸イソペンチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル、γ-ブチロラクトン、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジブチル、マロン酸ジエチル、サリチル酸メチル、エチレングリコールジアセタート、ホウ酸トリブチル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等が挙げられる。
【0076】
アミド系溶媒としては、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、カプロラクタム、カルバミド酸エステル等が挙げられる。
【0077】
また、洗浄液には、塩基性物質が含まれていてもよい。塩基性物質により中和を行って液性を調節することにより、繊維強化樹脂材料中の残存する樹脂成分やその反応物を除去することができる。これにより、強化繊維を含む繊維状物が得られる。
【0078】
塩基性物質としては、例えば、リチウム、アルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、亜硫酸塩、硝酸塩等の無機塩基性物質や、ジメチルアミン、ジエチルアミン等のアミン化合物が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。アルカリ金属としては、例えばナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウム等を挙げることができる。アルカリ土類金属としては、例えばベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられる。
【0079】
以上の第1の処理、第2の処理および洗浄処理は、必要に応じてそれぞれ複数回行うことができる。また、必要に応じて各処理の順序を変更してもよい。例えば、第1の処理、第2の処理を複数回繰り返したのちに洗浄工程を行ってもよい。また例えば、第1の処理を複数回行った後、第2の処理を行い、その後洗浄処理を必要な回数行ってもよい。あるいは、例えば、第1の処理、第2の処理および洗浄処理をこの順に必要な回数行ってもよい。
【0080】
なお、本実施形態においては、第1の処理の酸性溶液および第2の処理の酸化処理液が、本発明における処理液に相当するといえる。
【0081】
1.3. 第2の工程
第2の工程においては、繊維強化樹脂材料を150℃以上の気体雰囲気下で加熱する。第1の工程においては、繊維強化樹脂材料の樹脂の少なくとも一部を処理液に溶解させている。そして、第1の工程においては、繊維強化樹脂材料に含まれる樹脂は、分解等により低分子化するとともに、樹脂自体の溶出により樹脂が外気と接触する表面積が増大している。このような状態の繊維強化樹脂材料について、150℃以上の気体雰囲気下で加熱することにより、繊維強化樹脂材料中に残存する樹脂が容易に分解および/または溶融し、この結果、樹脂が十分に除去された再生補強繊維が得られる。
【0082】
一般に、熱分解法によって再生補強繊維を得る場合には、500℃以上の温度にて処理を行い、樹脂を除去する。このような場合には、繊維強化樹脂材料中に存在する補強繊維自体も熱による損傷が生じうる。さらには、熱分解法によって樹脂を除去する場合、硬化性樹脂等の樹脂は熱によって一旦硬化してその後分解する。このような樹脂の硬化は、樹脂の分解、ひいては除去を却って阻害する。
【0083】
これに対し、本実施形態においては、第1の工程において樹脂の少なくとも一部を分解することから、単に熱分解法を採用する場合と比較して、樹脂が硬化しにくい状態となっている。さらには、第1の工程において樹脂の少なくとも一部を分解することから、比較的低温であっても樹脂を分解、除去することができ、補強繊維の熱による損傷を抑制することができる。
【0084】
本工程における加熱温度としては、上述した範囲内であればよいが、好ましくは150℃以上600℃以下、より好ましくは150℃以上350℃以下、さらに好ましくは200℃以上300℃以下であることができる。これにより、得られる再生補強繊維の熱による損傷をより確実に抑制しつつ、より確実に樹脂を除去することができる。
【0085】
加熱時間は、特に限定されず、目的とする温度に達してから30分以上1500分以下、好ましくは60分以上300分以下である。これにより、得られる再生補強繊維の熱による損傷を抑制しつつ、より確実に樹脂を除去することができる。
【0086】
また、本工程における周囲雰囲気に存在する気体は、特に限定されないが、例えば、窒素、希ガス等の不活性ガス、空気および/または水蒸気を含むことができる。上述した中でも、周囲雰囲気に存在する気体は、好ましくは空気を含む。
【0087】
加熱処理は、常圧下で行ってもよいし、減圧下で行ってもよいし、または加圧下で行ってもよい。なお、安全性および経済性を考慮すると、加熱処理は、常圧下で行うことが好ましい。
【0088】
また、繊維強化樹脂材料を必要に応じて固定しつつ加熱処理を行ってもよい。これにより、繊維強化樹脂材料に含まれる補強繊維の形状や配向を維持したまま補強繊維を乾燥させることが可能である。
【0089】
以上により、再生補強繊維を得ることができる。本実施形態に係る再生補強繊維の製造方法では、第1の工程において繊維強化樹脂材料の樹脂の少なくとも一部を処理液に溶解させている。そして、第1の工程においては、繊維強化樹脂材料に含まれる樹脂は、分解等により低分子化するとともに、樹脂自体の溶出により樹脂が外気と接触する表面積が増大している。このような状態の繊維強化樹脂材料について、150℃以上350℃以下の気体雰囲気下で加熱することにより、繊維強化樹脂材料中に残存する樹脂が容易に分解および/または溶融し、この結果、樹脂が十分に除去された再生補強繊維が得られる。
【0090】
さらに、第1の工程や第2の工程は、従来の溶媒法および熱分解法と比較して比較的低温で、すなわち温和な条件でおこなうことができる。これにより、得られる再生補強繊維の損傷を防止するとともに、再生補強繊維の製造に必要なエネルギーを大幅に削減することができる。
【0091】
また、本実施形態においては、第1の工程は、繊維強化樹脂材料を酸を含む酸性溶液により処理する第1の処理と、繊維強化樹脂材料を酸化剤を含む前記酸化処理液により処理し、繊維強化樹脂材料の樹脂の少なくとも一部を前記酸化処理液に溶解させる第2の処理とを含む。
【0092】
このように、繊維強化樹脂材料を酸を含む酸性溶液により処理することにより、繊維強化樹脂材料の樹脂中に含まれる酸に分解可能な成分の少なくとも一部が分解し、酸性溶液に溶解する。あるいは酸に溶解可能な成分の少なくとも一部が酸性溶液に溶解する。この結果、後述する第2の工程において、より酸化処理液が樹脂に浸透しやすくなり、より効率よく樹脂を酸化処理液に溶解させることができる。
【0093】
さらには、本実施形態によれば、効率的な樹脂の除去が可能であることから、従来とは異なり、繊維強化樹脂材料を細かく裁断してから樹脂の溶解処理を行う必要がない。すなわち、比較的大きな繊維強化樹脂材料であっても、本実施形態に係る方法を採用することにより、均一かつ効率的な樹脂の除去が可能である。
【0094】
なお、各工程において溶解した樹脂については、回収してリサイクルすることも可能である。
【0095】
2. 第2実施形態
以下、本発明の第2実施形態に係る再生補強繊維の製造方法について説明する。以下の説明においては、本発明の第2実施形態に係る再生補強繊維の製造方法について、上述した第1実施形態と相違する事項を中心に説明し、同一の事項については説明を省略する。
【0096】
本実施形態に係る再生補強繊維の製造方法は、第1の工程において、溶媒を含み、任意に触媒を含む処理液を用いて繊維強化樹脂材料を処理し、繊維強化樹脂材料の樹脂の少なくとも一部を処理液に溶解させる点で、第1実施形態と異なっている。すなわち、第1実施形態においては、酸化剤を含む酸化処理液を主な処理液として用いたが、本発明においては必ずしも酸化剤を使用する必要はない。したがって、本実施形態においては、第1の実施形態の態様も含め、溶媒法として用い得る処理液を全般的に説明する。また、上述した準備工程および第2の工程については同様であるため、以下、第1の工程のみ説明する。
【0097】
まず、本実施形態においては、第1の工程においては、溶媒を含み、任意に触媒を含む処理液を用いて繊維強化樹脂材料を処理し、繊維強化樹脂材料の前記樹脂の少なくとも一部を処理液に溶解させる。
【0098】
溶媒は、処理液の主成分である。溶媒としては、繊維強化樹脂材料の樹脂またはその本工程における反応物を溶解可能であれば、特に限定されず、例えば、水および/または各種有機溶媒を用いることができる。各種有機溶媒としては、第1実施形態の第1の処理において例示した溶媒を1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0099】
処理液中に含まれる溶媒の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.01質量%以上100質量%以下、また、40質量%以上60質量%以下、80質量%以上100質量%以下であることができる。
【0100】
また、処理液は、触媒を含んでいてもよい。触媒としては、繊維強化樹脂材料中の樹脂の溶解を触媒する作用を有する限り特に限定されないが、例えば、酸性物質および塩基性物質が挙げられる。これらの物質は、例えば、水素イオンまたは水酸化物イオン等を樹脂成分の官能基に付加して、あるいは、樹脂を分解することにより、樹脂の溶媒への溶解性を向上させることができる。特に、溶媒が、プロトン性溶媒を含む場合、とりわけ水を含む場合、酸性物質や塩基性物質の触媒作用がより一層向上する。
【0101】
酸性物質としては、無機酸、有機酸もしくはこれらの塩またはこれらの混合物を用いることができる。無機酸としては、例えば、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸等を挙げることができ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。リン酸塩としては、例えば、正リン酸塩、メタリン酸塩、次リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、ピロリン酸塩、トリメタリン酸塩、テトラメタリン酸塩、ピロ亜リン酸塩等が挙げられる。有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、クエン酸、コハク酸、シュウ酸等が挙げられる。
【0102】
また、無機酸または有機酸の塩としては、上述した無機酸または有機酸のアルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウム等)および/またはアルカリ土類金属(例えばベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等)の塩が挙げられる。
【0103】
上述した中でも、無機酸、特に硝酸、硫酸、塩酸およびリン酸は、入手しやすく、かつ樹脂の溶解の促進に寄与しやすい点で好ましい。
【0104】
また、触媒として酸性物質が処理液に含まれる場合、酸性物質の含有量は、用いる酸性物質の種類、処理液中の溶媒の種類および対象となる繊維強化樹脂材料中の樹脂によって適宜選択できるが、処理液中の酸性物質の含有量は、例えば0.01質量%以上100質量%以下、特に、10質量%以上50質量%以下であることができる。
【0105】
塩基性物質としては、例えば、リチウム、アルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、亜硫酸塩、硝酸塩等の無機塩基性物質や、ジメチルアミン、ジエチルアミン等のアミン化合物が挙げられ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。アルカリ金属としては、例えばナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウム等を挙げることができる。アルカリ土類金属としては、例えばベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられる。
【0106】
上述した中でも、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩および炭酸水素塩は、入手しやすく、かつ樹脂成分の溶解の促進に寄与しやすい点で好ましい。より具体的には、塩基性物質が水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウムおよび炭酸カリウムからなる群から選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0107】
また、触媒として塩基性物質が処理液に含まれる場合、塩基性物質の含有量は、用いる塩基性物質の種類、処理液中の溶媒の種類および対象となる繊維強化樹脂材料中の樹脂成分によって適宜選択できるが、処理液200中の塩基性物質の含有量は、例えば0.01質量%以上100質量%以下、特に、10質量%以上50質量%以下であることができる。
【0108】
また、処理中における処理液の温度は、特に限定されず、処理液の種類によって異なるが、例えば30℃以上300℃以下、好ましくは50℃以上100℃以下である。
【0109】
処理液による処理の時間は、特に限定されず、目的とする温度に達してから1分以上1440分以下、好ましくは10分以上60分以下である。
【0110】
また、処理液による処理は、常圧下で行ってもよいし、減圧下で行ってもよいし、または加圧下で行ってもよい。処理液による処理を加圧下で行う場合、例えば、0.11MPa以上7.0MPa以下、特に0.11MPa以上2.0MPa以下の雰囲気下で処理を行うことができる。なお、安全性および経済性を考慮すると、処理液による処理は、常圧下で行うことが好ましい。
【0111】
なお、処理液による繊維強化樹脂材料の処理は、特に限定されず、処理液中に繊維強化樹脂材料を浸漬することにより行ってもよいし、スプレー等により処理液を繊維強化樹脂材料に対し噴霧することにより行ってもよく、処理液と繊維強化樹脂材料とが接触可能な任意の手段を採用することができる。また、処理液による処理中において、処理液を攪拌してもよい。また、繊維強化樹脂材料の繊維束が維持されるように繊維強化樹脂材料を固定具により固定してもよい。
【0112】
以上、説明した第1の工程としての処理液による繊維強化樹脂材料の処理後、第1の実施形態において説明したような洗浄処理を行ってもよい。
【0113】
また、以上の処理液による繊維強化樹脂材料の処理は、複数回行われるものであってもよい。この場合において、各処理に用いる処理液は異なる組成を有していてもよい。また、各処理の間に第1の実施形態において説明したような洗浄処理を行ってもよい。
【0114】
上述した第1の工程としての処理液による繊維強化樹脂材料の処理を経た繊維強化樹脂材料は、第1実施形態と同様に、第2の工程に供されて、再生補強繊維が得られる。
【0115】
以上説明した第2実施形態においても、第1の工程において繊維強化樹脂材料の樹脂の少なくとも一部を処理液に溶解させている。そして、第1の工程においては、繊維強化樹脂材料に含まれる樹脂は、分解等により低分子化するとともに、樹脂自体の溶出により樹脂が外気と接触する表面積が増大している。このような状態の繊維強化樹脂材料について、150℃以上の気体雰囲気下で加熱することにより、繊維強化樹脂材料中に残存する樹脂が容易に分解および/または溶融し、この結果、樹脂が十分に除去された再生補強繊維が得られる。
【0116】
さらに、第1実施形態と同様に、本実施形態において第1の工程や第2の工程は、従来の溶媒法および熱分解法と比較して比較的低温で、すなわち温和な条件でおこなうことができる。
【実施例0117】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0118】
1.再生補強繊維の製造
(実施例1)
(1)準備工程
まず、試料としての炭素繊維強化樹脂材料を用意した。用いた炭素繊維樹脂材料は、長さ約30cm、幅5cm、厚さ約1mmのシートであった。また、炭素繊維強化樹脂材料を構成する樹脂は、アミン硬化エポキシ樹脂であった。
【0119】
(2)第1の工程
(i)第1の処理(酸処理)
次に、炭素繊維強化樹脂材料を80℃に加熱しておいた40wt%(5.3mol/L)硫酸水溶液に1時間浸漬した。浸漬時において、硫酸水溶液の温度は80℃に維持した。
【0120】
(ii)第2の処理(酸化処理)
次に、40質量%(8.0mol/L)硝酸水溶液に対して、0.5質量%の亜硝酸ナトリウム添加し、酸化処理液を得た。酸化処理液中の硝酸の濃度は39.8質量%、亜硝酸ナトリウムの濃度は0.50質量%であった。炭素繊維強化樹脂材料を80℃に加熱しておいた処理液に60分間浸漬した。浸漬時において、酸化処理液の温度は80℃に維持した。
【0121】
(iii)洗浄処理
次に、反応生成物を10質量%炭酸水素ナトリウム水溶液で中和し、その後炭素繊維強化樹脂材料から得られる繊維状物(炭素繊維)を精製水で洗浄した。
【0122】
(3)第2の工程(加熱工程)
次に、洗浄して得られた繊維状物を、350℃で1時間加熱し、実施例1に係る再生補強繊維を得た。
【0123】
(実施例2)
第2の処理においては亜硝酸ナトリウムを酸化処理液に含めなかったこと以外は、実施例1と同様にして実施例2に係る再生補強繊維を得た。
【0124】
(実施例3)
洗浄工程において、反応生成物の10質量%炭酸水素ナトリウム水溶液による中和を省略した以外は、実施例2と同様にして実施例3に係る再生補強繊維を得た。
【0125】
(実施例4)
酸処理工程を省略した以外は、実施例3と同様にして実施例4に係る再生補強繊維を得た。
【0126】
(比較例1)
第2の工程に代えて、乾燥工程を行った以外は、実施例2と同様にして比較例1に係る再生補強繊維を得た。乾燥工程においては、洗浄して得られた繊維状物を、110℃で1時間乾燥した。
【0127】
(比較例2)
洗浄工程において、反応生成物の10質量%炭酸水素ナトリウム水溶液による中和を省略した以外は、比較例1と同様にして比較例2に係る再生補強繊維を得た。
【0128】
(比較例3)
酸処理工程を省略した以外は、比較例2と同様にして比較例3に係る再生補強繊維を得た。
【0129】
2.再生補強繊維の評価
得られた実施例1~4および比較例1~3にかかる再生炭素繊維および、参考例として炭素繊維強化樹脂材料に用いられたバージンの炭素繊維について、熱重量分析(TGA)により残存樹脂の量を評価した。
【0130】
具体的には、まず、200ml/minの流量で窒素を流しながら10℃/minの昇温速度で実施例1~4および比較例1~3にかかる再生炭素繊維を加熱し、試料の対流による重量変化が収まるのを待つために、200℃にて15分保持した。次いで、200℃から10℃/minの昇温速度で600℃まで加熱し、この間の再生炭素繊維の重量の減少分を測定した。なお、未処理の炭素繊維補強樹脂材料中の樹脂量は、体積含有率として50%であり、エポキシ樹脂の比重を1.1~1.4g/cmとした場合、おおよそ37~43質量%である。結果を実験条件とともに表1に示す。
【0131】
【表1】
【0132】
表1に示すように、実施例1~4においては炭素繊維強化樹脂材料から効率よく樹脂を除去できたことが確認できた。具体的には、実施例1、2に係る再生炭素繊維は比較例1に係る再生炭素繊維と比較して、実施例3に係る再生炭素繊維は比較例2に係る再生炭素繊維と比較して、実施例4に係る再生炭素繊維は比較例3に係る再生炭素繊維と比較して、優位に残存樹脂量が少なかった。これにより、溶液による処理である第1の工程に続き、加熱処理である第2の工程を順次行うことにより、効率よく炭素繊維強化樹脂材料から樹脂を除去できることがわかる。特に、実施例1、2においては、参考例として行ったバージンの炭素繊維の重量減少率に近い重量減少率が観察され、ほぼすべての樹脂が除去されたことが確認された。
【0133】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。