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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055907
(43)【公開日】2024-04-19
(54)【発明の名称】冷凍海産物
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/00 20160101AFI20240412BHJP
   A23L 3/36 20060101ALI20240412BHJP
   A23L 17/40 20160101ALI20240412BHJP
   A23L 17/50 20160101ALI20240412BHJP
【FI】
A23L17/00 A
A23L17/00 Z
A23L3/36 A
A23L17/00 F
A23L17/40 C
A23L17/00 H
A23L17/50
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024022981
(22)【出願日】2024-02-19
(62)【分割の表示】P 2022018794の分割
【原出願日】2022-02-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)株式会社ハイブリッドラボは、令和4年2月4日~2月5日にメーリングリストを利用して、望月圭一郎が発明した冷凍海産物製造方法、冷凍海産物製造システム及び冷凍海産物を公開した。 (2)株式会社ラックランドが、令和4年2月8日に株式会社ラックランドのウェブサイトhttps://www.luckland.co.jp/company/news/index.html、https://www.luckland.co.jp/company/news/2022/0208_line.html、https://www.luckland.co.jp/company/news/files/20220208.pdf及びhttps://ssl4.eir-parts.net/doc/9612/tdnet/2079128/00.pdfにて、望月圭一郎が発明した冷凍海産物製造方法、冷凍海産物製造システム及び冷凍海産物について公開した。 (3)株式会社PR TIMESが、令和4年2月8日に株式会社PR TIMESのウェブサイトhttps://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000198.000000669.htmlにて、望月圭一郎が発明した冷凍海産物製造方法、冷凍海産物製造システム及び冷凍海産物について公開した。 (4)株式会社日本取引所グループが、令和4年2月8日に株式会社日本取引所グループのウェブサイトhttps://www.jpx.co.jp/listing/co-search/index.html及びhttps://www2.jpx.co.jp/disc/96120/140120220208583133.pdfにて、望月圭一郎が発明した冷凍海産物製造方法、冷凍海産物製造システム及び冷凍海産物について公開した。
(71)【出願人】
【識別番号】521080831
【氏名又は名称】株式会社ハイブリッドラボ
(74)【代理人】
【識別番号】100144749
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正英
(74)【代理人】
【識別番号】100076369
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正治
(72)【発明者】
【氏名】望月 圭一郎
(57)【要約】
【課題】 来の冷凍海産物に比べて鮮度に優れる冷凍海産物を提供する。
【解決手段】 本願における冷凍海産物製造方法は、海産物を畜養する工程と、畜養後の海産物の可食部を包装する工程と、包装された可食部を飽和塩水を用いて包装材ごと冷凍する工程を含む方法である。本願における冷凍海産物製造システムは、海産物を畜養する畜養槽と、養後の海産物を包装する包装機と、包装された海産物を包装材ごと冷凍する冷凍機を備えたものである。本発明の冷凍海産物は、海産物の可食部が冷凍されたものであって、高速液体クロマトグラフ法により測定される解凍後の可食部のK値が20%以下のものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海産物の可食部が冷凍された冷凍海産物において、
高速液体クロマトグラフ法により測定される解凍後の可食部のK値が20%以下である、
ことを特徴とする冷凍海産物。
【請求項2】
請求項記載の冷凍海産物において、
解凍後の可食部の降伏応力が0.003kgf/mm以上である、
ことを特徴とする冷凍海産物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍海産物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冷凍海産物の製造方法として、冷凍帆立貝の製造方法(特許文献1)が知られている。この方法では、帆立貝の一方の片貝殻を廃棄する工程、他方の片貝殻に付着する身肉からウロを除去する工程、片貝殻から身肉を切り離す工程、剥身を洗浄し海水に数時間浸漬する工程、片貝殻を塩素水に浸漬した後流水洗浄し水切りする工程、剥身と片貝殻とを塩素水に浸漬して再殺菌したうえ、片貝殻の上に剥身を乗せて一体化する工程、液体窒素などの冷媒により瞬間冷凍した後、グレース掛けして-30℃以下で冷凍保存する工程を経て冷凍帆立貝が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3-254632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記特許文献1の方法は、剥身と片貝殻を別々に洗浄したのち片貝殻の上に剥身を載せて一体化する等、冷凍までの工程が多いため、その過程での鮮度維持が難しいとう難点がある。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、従来の冷凍海産物に比べて鮮度に優れる冷凍海産物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[冷凍海産物製造方法]
願における冷凍海産物製造方法は、海産物を冷凍して冷凍海産物を製造する冷凍海産物製造方法であって、海産物を畜養する工程と、畜養後の海産物の可食部を包装する工程と、包装された可食部を飽和塩水を用いて包装材ごと冷凍する工程を含む方法である。
【0007】
本願において、「海産物」とは海中に産する動植物を意味し、貝類や魚類のほか、海藻類が含まれる。また、「畜養」とは、水揚げされた海産物を生簀などの槽内(畜養槽)で短期間育てることを意味する。
【0008】
[冷凍海産物製造システム]
願における冷凍海産物製造システムは、冷凍海産物を製造する冷凍海産物製造システムであって、海産物を畜養する畜養槽と、畜養後の海産物を包装する包装機と、包装された海産物を包装材ごと冷凍する冷凍機を備えたものである。
【0009】
[冷凍海産物]
本発明の冷凍海産物は、海産物の可食部が冷凍されたものであって、高速液体クロマトグラフ法により測定される解凍後の可食部のK値が20%以下のものである。
【発明の効果】
【0010】
願における冷凍海産物製造方法及び冷凍海産物製造システムは、海産物を畜養することで海産物の鮮度に影響するATPを再生産することができ、飽和塩水を用いて冷凍を行うことで海産物の細胞を壊さずに冷凍することができるため、鮮度の高い冷凍海産物を製造することができる。また、本発明の冷凍海産物は、従来の冷凍海産物に比べて鮮度に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本願における冷凍海産物製造方法の一例を示すフローチャート。
図2】本願における冷凍海産物製造システムの一例を示す概要構成図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(冷凍海産物製造方法の実施形態)
願における冷凍海産物製造方法の実施形態の一例を、図面を参照して説明する。説明の便宜上、以下では、海産物が帆立貝であり、可食部がその貝柱の場合を一例とする。以下の説明では図2に示す符号を用いるが、これは便宜上用いるものであり、本願における冷凍海産物製造方法を実施するシステムが、図2に示す冷凍海産物製造システムに限定されることを意味するものではない。
【0013】
図1に示すように、この実施形態の冷凍海産物製造方法は、主要工程として、帆立貝を畜養する工程(畜養工程)S001と、畜養した帆立貝の殻を剥く工程(殻剥き工程)S002と、殻剥き後の帆立貝の貝柱(可食部)を真空包装する工程(真空包装工程)S006と、真空包装した貝柱を包装材ごと冷凍する工程(冷凍工程)S007を備えている。
【0014】
殻剥き工程S002と真空包装工程S006の間では、貝柱を洗浄する工程(第一洗浄工程)S003、貝柱の大きさ等選別する工程(選別工程)S004、貝柱に付着した水を切る工程(水切り工程)S005が行われる。
【0015】
また、冷凍工程S007の後には、貝柱に付着している塩水を除去する工程(第二洗浄工程)S008、貝柱に付着している水滴を除去する工程(除水工程)S009、冷凍状態や包装仕上がりを確認する工程(検品工程)S010、包装にラベルを貼る工程(ラベル貼り工程)S011、包装済みの貝柱(以下「包装済み貝柱」という)を冷凍して保管する工程(冷凍保管工程)S012が行われる。以下、前記各工程について説明する。
【0016】
[畜養工程]
前記畜養工程S1は、水揚げ後、付着物が除去された殻付きの帆立貝を畜養槽11内で畜養する工程である。畜養は、帆立貝が収容されたカゴを畜養槽11に入れて行われる。
【0017】
畜養に際しては、漁港等から輸送される際に使われるカゴをそのまま利用することができる。このようにすることで、畜養専用のカゴへの入替えの手間を省略するとともに、入替え時の帆立貝の傷つき等を防止することができる。
【0018】
畜養槽11のサイズに特に制限はないが、縦横方向に並べて複数のカゴが収まるサイズの容器を用いるのが好ましい。この場合、カゴを上限に複数段(たとえば、二段)に重ねられるようなサイズの畜養槽11を用いることで、一度に畜養できる量を増やすことができる。
【0019】
この実施形態では、畜養に海水を用いている。海水には、畜養する帆立貝の生息地の海水を冷却したものを用いることができる。畜養に際しては、その海水温が、畜養に適する水温として予め設定された温度範囲(以下「畜養温度範囲」という)内に収まるようにしてある。
【0020】
海水は畜養槽11の近傍に設置された貯水タンク15内に貯留しておき、その海水を供給ホース(供給手段)18を用いて畜養槽11内に供給できるようにすることができる。
【0021】
この実施形態では、供給ホース18の先端に取り付けられたバブル発生機12を畜養槽11内に沈め、このバブル発生機12で生成されたバブルによって海水中の溶存酸素量が予め設定された閾値(以下「溶存酸素量基準値」という)以上となるようにしてある。
【0022】
この実施形態では、バブル発生機12としてマイクロバブルを生成する装置を用いている。バブル発生機12には、マイクロバブルを生成する装置のほか、ナノバブルやウルトラファインバブル等の各種バブルを生成するものを用いることもできる。バブル発生機12は、畜養槽11の容量等に応じて、一台又は複数台設置することができる。
【0023】
この実施形態では、マイクロバブルの作用によって水面に浮上した、帆立貝の付着物や帆立貝から排出される排出物を畜養槽11外に排出できるようにしてある。具体的には、畜養槽11内の海水量を増やし、畜養槽11からオーバーフローさせることによって付着物や排出物を畜養槽11外に排出している。付着物や排出物はワイパー等で畜養槽11外に排出するほか、網などで回収して畜養槽11外に排出することもできる。
【0024】
[殻剥き工程]
前記殻剥き工程S002は、帆立貝の殻を取り除く工程である。この実施形態では、畜養後の帆立貝の殻を手作業で剥き、貝柱、ウロ、ヒモ、殻に分離する。殻剥きには、既存の又は新規のヘラを用いることができる。
【0025】
[第一洗浄工程]
前記第一洗浄工程S003は、殻剥き工程S002で取り出された貝柱に付着した海水を洗浄液で洗浄し、小さな殻等の異物を取り除く工程である。洗浄液には、たとえば、滅菌して冷却した海水(滅菌冷却海水)やその他の液体等を用いることができる。
【0026】
洗浄は、洗浄液を貝柱に吹き付けるほか、貝柱を洗浄液中に浸漬するなどの方法で行うことができる。洗浄液を貝柱に吹き付ける場合、貝柱が欠損しない程度の水圧で洗浄液を噴霧するのが好ましい。
【0027】
[選別工程]
前記選別工程S004は、貝柱の大きさを選別するとともに、欠損品を除外する工程である。この実施形態では、洗浄された貝柱の大きさを作業者が目視で確認し、手作業でサイズ別に選別する。このとき、欠損品が含まれている場合には、その欠損品を除外する。
【0028】
[水切り工程]
前記水切り工程S005は、貝柱に付着した水を取り除く工程である。この工程は、たとえば、カゴ内に入れた洗浄後の貝柱にエアを吹き付ける方法や洗浄後の貝柱が入ったカゴを回転させる方法、その他の方法で行うことができる。
【0029】
[真空包装工程]
前記真空包装工程S006は、前記工程を経た貝柱を真空包装する工程である。この実施形態では、フィルムと貝柱の間に隙間が生じないように熱圧着する、いわゆるスキンパック包装によって貝柱を真空密着包装している。
【0030】
このように真空密着包装することで、貝柱から水分が出るのを抑制し、貝柱の鮮度を保持することができる。ただし、ここで示した包装方法は一例であり、貝柱はこれ以外の方法で包装することもできる。
【0031】
この実施形態では、フィルム間に複数の貝柱を等間隔で並べた状態で真空包装するようにしてある。フィルムには厚さ0.1mm~0.5mm程度の樹脂フィルムを用いることができる。フィルムの厚さや素材は一例であり、これ以外の厚さ、これ以外の素材であってもよい。
【0032】
[冷凍工程]
前記冷凍工程S007は、包装済み貝柱を包装材ごと冷凍する工程である。この実施形態では、温度-21.3℃、塩分濃度23.5%の高濃度食塩水(飽和塩水)を用いた、いわゆるハイブリッドアイス法によって包装済み貝柱を冷凍している。
【0033】
ハイブリッドアイス法による冷凍には、既存の冷凍機17、たとえば、ハイブリッドアイス冷凍機等を用いることができる。ハイブリッドアイス冷凍機を用いる場合、所定の流速で流れる泥状アイスに包装済み貝柱を所定時間浸漬し、包装済み貝柱を冷凍する。
【0034】
泥状アイスに浸漬する時間に特に限定はないが、貝柱の芯部温度が最大氷結晶生成帯の下限値である-5℃以下となるまで浸漬を行うのが好ましい。
【0035】
ハイブリッドアイス法によって冷凍することで、最大氷結晶生成帯である-1℃~-5℃を短時間で通過できるため、貝柱の細胞が壊れにくく、貝柱に含まれる旨味成分やATP(アデノシン三リン酸)を維持しやすいというメリットがある。
【0036】
本実施形態では、-21.3℃の高濃度食塩水を用いているが、高濃度食塩水の温度はこれ以外であってもよく、たとえば、-21.3℃~-20.0℃程度の範囲で適宜設定することができる。
【0037】
[第二洗浄工程]
前記第二洗浄工程S008は、冷凍工程S007での冷凍に際してフィルム(包装材)に付着した塩分を洗い流す工程である。この工程は、たとえば、コンテナに溜めた真水に包装済み貝柱を浸漬する方法や包装済み貝柱に真水を吹き付ける方法、その他の方法で行うことができる。
【0038】
[除水工程]
前記除水工程S009は、包装材の表面に付着した水分を取り除く工程である。この工程は、たとえば、包装済み貝柱にジェットエアを吹き付ける方法やその他の方法で行うことができる。除水には既存の除水機を用いることができる。
【0039】
[検品工程]
前記検品工程S010は、包装済み貝柱の冷凍状態や包装の仕上がりに問題がないか(所定の基準を満たしているか否か)の検査を行う工程である。所定基準を満たさない包装済み貝柱はこの工程で除外する。
【0040】
[ラベル貼り工程]
前記ラベル貼り工程S011は、包装済み貝柱に商品ラベル等を貼付する工程である。ラベル貼り工程には既存の装置を用いることができる。ラベル貼り工程S011は手作業で行うこともできる。
【0041】
[冷凍保管工程]
前記冷凍保管工程S012は、商品ラベル等を貼付した包装済み貝柱を包装ごと冷凍状態のまま保管する工程である。冷凍保管には、既存の冷凍庫などを用いることができる。
【0042】
本実施形態の畜養工程S001、殻剥き工程S002、真空包装工程S006、冷凍工程S007を経て製造された冷凍貝柱(冷凍海産物)は、高速液体クロマトグラフ法(HPLC法)での測定でK値20%以下、且つ、降伏応力0.003kgf/mm以上であった。
【0043】
前記K値は海産物(特に、魚類や貝類などの魚介類)の新鮮度を表す数値であり、値が低いほど鮮度が高いことを意味する。K値20%以下というのは、従来の一般的な製造方法で製造された冷凍貝柱の1/3程度の値である。後述の表1に示すように、K値20%以下の海産物は、刺身として生食可能であると評価される。
【0044】
また、前記降伏応力は海産物の弾性を表す指標となる数値であり、値が高いほど弾性が高い(歯ごたえがある)ことを意味する。降伏応力0.003kgf/mm以上というのは、従来の一般的な製造方法で製造された冷凍貝柱の1.4倍程度の値である。
【0045】
(冷凍海産物製造方法のその他の実施形態)
前記実施形態では、海産物が帆立貝の場合を一例としているが、本願における冷凍海産物製造方法は、帆立貝以外の海産物、たとえば、牡蛎やホッキガイ、ハマグリ、アサリ等の各種二枚貝、イカやタコ、食用クラゲといった各種海産物を用いた冷凍海産物の製造方法として用いることができる。
【0046】
前記実施形態では、畜養槽11の近傍に設置された貯水タンク15内の海水を供給ホース18で畜養槽11内に供給する場合を一例としているが、海水は給水車等から直接畜養槽11内に供給することもできる。また、加工施設が漁港や養殖場の近く場合にある場合には、海水をポンプなどで畜養槽11に直接供給することもできる。
【0047】
前記実施形態では、海産物の畜養を海水中で行う場合を一例としているが、畜養は海水以外の液体中で行うこともできる。たとえば、水や食塩を用いて人工的につくられた海水成分に近い液体等を用いることもできる。
【0048】
前記実施形態では説明を省略しているが、本願における冷凍海産物製造方法は、天然の海産物に限らず、養殖の海産物から冷凍海産物を製造する方法として用いることもできる。
【0049】
前記実施形態では、畜養工程S001から冷凍保管工程S012までの全工程を一連の工程として実施する場合を一例としているが、前記実施形態の各工程はすべてが必須の工程というわけではなく、不要な工程は適宜省略することができる。
【0050】
前記実施形態では、畜養工程S001から冷凍保管工程S012までの各工程を当該順番で実施する場合を一例としているが、前記実施形態の各工程は常にその順番で実施しなければならないというわけではなく、必要に応じて順番を入れ替えることができる。
【0051】
前記実施形態の構成は一例であり、本願における冷凍海産物製造方法はこの構成に限定されるものではない。本願における冷凍海産物製造方法は、所期の目的を達成できる範囲内で、構成の追加や省略、入替え等の変更を加えることができる。
【0052】
願における冷凍海産物製造方法は、たとえば、後述する冷凍海産物製造システムやその他のシステムを用いて実施することができる。
【0053】
(冷凍海産物製造システムの実施形態)
願における冷凍海産物製造システムの実施形態の一例を、図面を参照して説明する。一例として図2に示す冷凍海産物製造システムは、畜養槽11と、バブル発生機12と、計測器13と、制御手段14と、貯水タンク15と、包装機16と、冷凍機17を備えている。
【0054】
前記畜養槽11は海産物を畜養する槽である。畜養槽11には既存の生簀などを用いることができる。生簀の大きさや形状は、畜養する海産物の大きさや形状、数量などに応じて適宜決定することができる。この実施形態では、海産物を収容したカゴを二段に重ねて収容できる容量のものを用いている。
【0055】
この実施形態では、畜養槽11として温度調整機能を備えたものを用いており、畜養槽11内の海水温が畜養温度範囲内に維持されるようにしてある。
【0056】
前記バブル発生機12は、畜養槽11内にバブルを供給するための装置である。この実施形態では、バブル発生機12として、マイクロバブルを生成するマイクロバブル発生機12を用いている。バブル発生機12には、ナノバブルを生成するナノバブル発生機12等、マイクロバブル発生機以外のものを用いることもできる。
【0057】
この実施形態では、貯水タンク15に貯留された海水を供給ホース18を用いて畜養槽11に供給できるようにしてあり、当該供給ホース18の先端にマイクロバブル発生機を取り付けてある。マイクロバブル発生機は畜養槽11内の海水中に沈められ、海水中にマイクロバブルが供給されるようにしてある。
【0058】
前記計測器13は、畜養槽11内の海水の溶存酸素量を測定するための機器である。計測器13には、既存の溶存酸素計を用いることができる。計測器13は必要に応じて設ければよく、不要な場合には省略することができる。計測器13を設ける場合、計測器13での計測結果が制御手段14に送信されるようにすることができる。
【0059】
この場合、制御手段14では、送信された数値から畜養槽11内の海水の溶存酸素量が溶存酸素量基準値以上か否かが判定され、当該溶存酸素量基準値に満たない場合には、海水の溶存酸素量が溶存酸素量基準値以上となるようにバブル発生機12の出力が制御されるようにすることができる。
【0060】
計測器13での計測と制御手段14でのバブル発生機12の制御は繰り返し行い、畜養槽11内の海水の溶存酸素量が、常時、溶存酸素量基準値以上になるようすることができる。この制御は必要に応じて行えばよく、不要な場合には省略することができる。
【0061】
制御手段14では、図示しないスイッチからの制御信号に基づいて海水の供給の開始や停止を行うほか、図示しない温度調整器の制御信号に基づいて畜養槽11内の海水温度の調整を行う。また、制御手段14ではバルブ発生機12の作動などの制御が行われる。
【0062】
前記貯水タンク15は、畜養に用いる海水を貯留しておくための槽である。この実施形態では、貯水タンク15として、貯留された海水を一定温度に保つ保冷手段15a及び貯留された海水を撹拌する撹拌手段15b等を備えたタンクを用いている。貯水タンク15の容量は、畜養する海産物の大きさや形状、数量などに応じて適宜決定することができる。
【0063】
この実施形態では、貯水タンク15内に貯留される海水温が畜養槽11内の海水温度と同じ又はそれよりも低くなるようにしてある。このようにした場合、畜養の過程で畜養槽11内の海水温が上がった際に、貯水タンク15内の海水を畜養槽11内に供給することで畜養槽11内の海水温を下げられるというメリットがある。
【0064】
貯水タンク15には、貯留された海水を畜養槽11内に供給する供給ホース18が設けられている。前述のとおり、供給ホース18の先端にはバブル発生機12が取り付けられている。バブル発生機12が取り付けられた供給ホース18の先端は、畜養槽11内の液体中に沈められている。
【0065】
前記包装機16は、畜養後の海産物を包装するための装置である。この実施形態では、包装機16として、海産物にフィルムに密着させて真空包装する真空密着包装機を用いている。真空密着包装機を用いることで、包装対象である貝柱の細胞が破壊されず、鮮度を維持しやすいというメリットがある。
【0066】
前記冷凍機17は包装された海産物を包装材ごと冷凍するための装置である。この実施形態では、冷凍機17として、飽和塩水が収容される冷凍槽17aと冷凍槽17a内の飽和塩水を流動させる流動手段17bを備えたハイブリッドアイス冷凍機を用いている。
【0067】
この実施形態のハイブリッドアイス冷凍機は、冷凍槽17a内の飽和塩水の温度を-21.3℃程度に保つ保冷手段17cと、冷凍槽17a内の飽和塩水の流速を制御するための速度制御手段17dを備えている。
【0068】
海産物の細胞は最大氷結晶生成帯である-1℃~-5℃を通過するときに破壊されやすいが、この実施形態のように、包装された海産物を包装材ごと-21.3℃程度に保たれた飽和塩水に浸漬することで、最大氷結晶生成帯を短時間で通過させることができる。この結果、貝柱の細胞は破壊されにくくなり、貝柱に含まれる旨味成分やATP(アデノシン三リン酸)を維持することができる。
【0069】
(冷凍海産物製造システムのその他の実施形態)
前記実施形態では、貯水タンク15を一つ設ける場合を一例としているが、貯水タンク15は二つ以上設けることもできる。たとえば、貯水タンク15を二つ設ける場合、一方には畜養槽11内の海水よりも高い温度の海水を貯留しておき、他方には畜養槽11内の海水よりも低い温度の海水を貯留しておくことができる。
【0070】
このようにすることで、畜養の過程で畜養槽11内の海水温が上がった場合には、畜養槽11内の海水よりも低い温度の海水を供給するだけで畜養槽11内の海水温を下げられるというメリットがある。
【0071】
一方、畜養の過程で畜養槽11内の海水温が下がった場合には、畜養槽11内の海水よりも高い温度の海水を供給するだけで畜養槽11内の海水温を上げられるというメリットがある。いずれのケースでも畜養槽11内の海水温の調整が容易である。
【0072】
前記実施形態の冷凍海産物製造システムには、前記冷凍海産物製造方法に含まれる工程のうち、殻剥き工程や選別工程などの手作業で行う工程に用いるものは含まれていないが、これらの工程を装置を用いて実行できる場合は、これら装置を含めた構成とすることもできる。
【0073】
前記実施形態の構成は一例であり、本願における冷凍海産物製造システムは前記構成に限定されるものではない。本願における冷凍海産物製造システムは、所期の目的を達成できる範囲で、適宜構成の追加や省略、入替え等の変更を加えることができる。
【0074】
(成分分析)
本件出願人は、本願の冷凍海産物製造方法の効果を実証するため、本願における冷凍海産物製造方法によって加工した帆立貝の貝柱について成分分析を行った。
【0075】
成分分析ではK値及びK値の算出に用いられるATP(アデノシン三リン酸)、ADP(アデノシン二リン酸)、AMP(アデノシン一リン酸)、IMP(イノシン酸)、HxR(イノシン)、Hx(ヒポキサンチン)の分析を行った。
【0076】
前述のとおり、K値は海産物の新鮮度を表す指標であり、次の式1で算出される。
[式1]
【0077】
海産物の死後はATPは再生されず、ADP→AMP→HxR→Hxに変化する。殻剥き直後の貝柱のATPがK値に影響し、ATP、ADP、AMPの量が多いほどK値の数値は好結果となる。
【0078】
海産物の種類によって差はあるものの、一般に、K値が低いほど鮮度が高いとされ、次の表1に示すように評価される(日本水産学会誌Vol.24(9)(斎藤 恒行、榎本 則行、松吉実、日本水産学会、1959、p749-750)。
【表1】
【0079】
本成分分析の結果は表2のとおりである。
【表2】
【0080】
本成分分析により、本願における冷凍海産物製造方法によれば、K値20%以下の冷凍帆立貝柱を得られることが確認できた。
【0081】
(圧縮試験)
本件出願人は、本願の冷凍海産物製造方法で得られた冷凍海産物の弾力を測定するため圧縮試験を行った。本圧縮試験では、貝柱を10mm潰すのにどの程度の力を要するか測定した。圧縮試験は、前記成分分析で用いた貝柱について行った。圧縮試験には既存のレオメータを用いた。
【0082】
本圧縮試験の結果は表3のとおりである。
【表3】
【0083】
本圧縮試験により、本願における冷凍海産物製造方法によれば、降伏応力0.003kgf/mm以上の冷凍帆立貝柱を得られることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0084】
願における冷凍海産物製造方法及び冷凍海産物製造システムは、各種海産物から冷凍海産物を製造する方法及びシステムとして利用することができる。また、本発明の冷凍海産物はそれ自体を独立した商取引の対象として製造販売することができる。
【符号の説明】
【0085】
11 畜養槽
12 バブル発生機
13 計測器
14 制御手段
15 貯水タンク
15a 保冷手段
15b 撹拌手段
16 包装機
17 冷凍機
17a 冷凍槽
17b 流動手段
17c 保冷手段
17d 速度制御手段
18 供給ホース(供給手段)
図1
図2