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特開2024-55937消火材の製造方法及び消火材パッケージの製造方法
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  • 特開-消火材の製造方法及び消火材パッケージの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055937
(43)【公開日】2024-04-19
(54)【発明の名称】消火材の製造方法及び消火材パッケージの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A62D 1/00 20060101AFI20240412BHJP
   A62C 2/00 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
A62D1/00
A62C2/00 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024028464
(22)【出願日】2024-02-28
(62)【分割の表示】P 2022113812の分割
【原出願日】2022-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】椎根 康晴
(72)【発明者】
【氏名】掛川 駿太
(72)【発明者】
【氏名】黒川 真登
(72)【発明者】
【氏名】本庄 悠朔
(57)【要約】
【課題】消火性能に優れる消火材を提供すること。
【解決手段】消火剤及びバインダ樹脂を含む消火剤層を備え、消火剤が有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含み、消火剤層の断面における空隙率が37%以下である、消火材。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
消火剤及びバインダ樹脂を含む消火剤層を備え、
前記消火剤が有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含み、
前記消火剤層の断面における空隙率が37%以下である、消火材。
【請求項2】
前記消火剤層が、前記消火剤及び前記バインダ樹脂の全量を基準として、前記消火剤を70~97質量%含む、請求項1に記載の消火材。
【請求項3】
前記塩がカリウム塩を含む、請求項1又は2に記載の消火材。
【請求項4】
前記塩の平均粒子径が1~100μmである、請求項1又は2に記載の消火材。
【請求項5】
前記バインダ樹脂がポリビニルアセタール系樹脂を含む、請求項1又は2に記載の消火材。
【請求項6】
前記消火剤層の厚さが80~600μmである、請求項1又は2に記載の消火材。
【請求項7】
前記消火剤層が配置された樹脂基材を更に備える、請求項1又は2に記載の消火材。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の消火材と、前記消火材を封入する包装袋を備える、消火材パッケージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消火材及び消火材パッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
発火や火災の問題に対し、特許文献1では、消火液及び消火器を用いることが提案されている。特許文献2では、ヘリコプターから投下する自動消火装置が提案されている。特許文献3では、エアロゾル消火装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-276440号公報
【特許文献2】特開2015-6302号公報
【特許文献3】特開2017-080023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~3はいずれも、ある程度の時間が経過した後の火災への対処方法を提案するものである。一方、火災による被害を最小限に抑えるという観点からは、発火から間もない段階で何らかの消火作業、すなわち初期消火が行われることが望ましい。そこで、例えば先行技術に開示される消火剤成分(有機塩や無機塩)を含む消火材を、発火する虞のある対象物付近に予め存在させておくという方法が考えられる。そうすることで、対象物から発火したことを人間が感知する以前に、当該消火材により消火が完了することが期待される。
【0005】
ところで、消火剤成分をバインダ等と混合して適切な形状に加工することで、上記目的に適う固形の消火材を得ることができる。しかしながらそのような消火材は、消火性能の観点においてさらなる改良の余地がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、消火性能に優れる消火材を提供することを目的とする。また、本発明は、当該消火材を封入した消火材パッケージを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、消火剤及びバインダ樹脂を含む消火剤層を備え、消火剤が有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含み、消火剤層の断面における空隙率が37%以下である、消火材を提供する。
このような消火材においては、消火剤を適切に機能させることができ、すなわち初期消火を適切に実施することができる。このことにつき発明者らは、消火剤層中の空隙部を低減して空隙部による断熱効果を抑制することで、消火対象物の発火による熱が消火剤層内部に伝播し易くなるためであると推察している。
【0008】
一態様において、消火剤層が、消火剤及びバインダ樹脂の全量を基準として、消火剤を70~97質量%含んでよい。
【0009】
一態様において、塩がカリウム塩を含んでよい。
【0010】
一態様において、塩の平均粒子径D50が1~100μmであってよい。
【0011】
一態様において、バインダ樹脂がポリビニルアセタール系樹脂を含んでよい。
【0012】
一態様において、消火剤層の厚さが80~600μmであってよい。
【0013】
一態様において、消火材は、消火剤層が配置された樹脂基材を更に備えてよい。
【0014】
本発明の一側面は、上記消火材と、消火材を封入する包装袋を備える、消火材パッケージを提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、消火性能に優れる消火材を提供することができる。また、本発明によれば、当該消火材を封入した消火材パッケージを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、一実施形態に係る消火材の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本開示は以下の実施形態に限定されない。
【0018】
<消火材>
図1は、一実施形態に係る消火材の模式断面図である。消火材10は、消火剤層1と、消火剤層1が配置される樹脂基材2と、を備える。消火材10は、樹脂基材2と、樹脂基材2上に配置された消火剤層1と、を備えるということができる。
【0019】
消火材を所望の位置に設置する観点から、消火材は更に接着層や粘着層を備えていてもよい。接着層や粘着層は、消火剤層側に設けられていてもよく、樹脂基材側に設けられていてもよい。
【0020】
(消火剤層)
消火剤層は、消火剤及びバインダ樹脂を含む。
消火剤としては、いわゆる消火の4要素(除去作用、冷却作用、窒息作用、負触媒作用)を有するものを、消火対象に応じて適宜用いることができる。消火剤は、一般に消火性能を有する、有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む。有機塩及び無機塩は潮解性を有していてよい。
【0021】
消火剤として機能する有機塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。負触媒効果に対する有用性の観点から、有機塩としてカリウム塩を好適に用いることができる。有機カリウム塩としては、酢酸カリウム、クエン酸カリウム(クエン酸三カリウム)、酒石酸カリウム、乳酸カリウム、シュウ酸カリウム、マレイン酸カリウム等のカルボン酸カリウム塩が挙げられる。このうち特に燃焼の負触媒効果の反応効率の観点から、クエン酸カリウムを用いることができる。
【0022】
消火剤として機能する無機塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩等が挙げられる。負触媒効果に対する有用性の観点から、無機塩としてカリウム塩を好適に用いることができる。無機カリウム塩としては、四硼酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、燐酸二水素カリウム、燐酸水素二カリウム等が挙げられる。このうち特に燃焼の負触媒効果の反応効率の観点から、炭酸水素カリウムを用いることができる。
【0023】
有機塩及び無機塩は、それぞれ単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0024】
塩は粒状であってよい。塩の平均粒子径D50は1~100μmとすることができ、また3~40μmであってもよい。平均粒子径D50が上記下限以上であることで塗液中で分散し易く、また平均粒子径D50が上記上限以下であることで、塗液中での安定性が向上して塗膜の平滑性が向上する傾向がある。平均粒子径D50は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた湿式測定により算出することができる。
【0025】
消火剤の量は、消火剤及びバインダ樹脂の全量(消火剤層の全量であってもよい)を基準として、70~97質量%とすることができ、85~92質量%であってもよい。消火剤の量が上記上限以下であることで、塩の潮解を抑制し易くかつ均一な消火材を形成し易く、また消火剤の量が上記下限以上であることで、充分な消火性を維持し易い。
【0026】
消火剤は、上述した塩以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば塩の反応性を向上するための酸化剤が挙げられ、具体的には塩素酸カリウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸ストロンチウム、塩素酸アンモニウム、塩素酸マグネシウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸ストロンチウム、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸カリウム、塩基性硝酸銅、酸化銅(I)、酸化銅(II)、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、三酸化モリブデン等が挙げられる。なかでも、塩素酸カリウムを用いることが好ましい。
【0027】
他の成分としては、その他、着色剤、酸化防止剤、難燃剤、無機充填材、流動性付与剤、防湿剤、分散剤、UV吸収剤、柔軟性付与剤、触媒等が挙げられる。
【0028】
これらの他の成分は、塩の種類及びバインダ樹脂の種類により適宜選択することができる。消火剤に含まれる他の成分の量は、消火剤の全量を基準として40質量%以下とすることができ、10質量%以下であってもよく、0質量%であってもよい。
【0029】
バインダ樹脂は、樹脂として熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂の少なくともいずれかを含む。
熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ(1-)ブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル樹脂、エチレン-プロピレン樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアセタール系樹脂等が挙げられる。
熱硬化性樹脂として、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2-ポリブタジエンゴム(1,2-BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレンゴム(EPR、EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、アクリルゴム(ACM、ANM)、エピクロルヒドリンゴム(CO、ECO)、多加硫ゴム(T)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM、FZ)、ウレタンゴム(U)等のゴム類、ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネート樹脂、ポリイソシアヌレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルエーテル(PMVE)-無水マレイン樹脂、等が挙げられる。
【0030】
上記樹脂のうち、塗膜形成性の観点から、ポリビニルアセタール系樹脂を好適に用いることができる。ポリビニルアセタール系樹脂としては、ポリビニルブチラール(PVB)等が挙げられる。
【0031】
バインダ樹脂は、上述した樹脂(熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂)以外の他の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては硬化剤が挙げられ、その他、性状安定性の観点から、界面活性剤、シランカップリング剤、アンチブロッキング剤等が挙げられる。
【0032】
これらの他の成分は、樹脂の種類により適宜選択することができる。バインダ樹脂に含まれる他の成分の量は、バインダ樹脂の全量を基準として70質量%以下とすることができ、30質量%以下であってもよく、0質量%であってもよい。
【0033】
消火剤層の厚さは80~600μmとすることができ、150~300μmであってもよい。厚さが上記下限値以上であることで、消火性能を発揮し易く、上記上限値以下であることで、塗膜を形成し易く、耐屈曲性が良い。
【0034】
消火剤層の主面(あるいは消火剤層の積層方向に垂直な面ともいう)の面積は、その用途に応じ調整されるため特に制限されないが、側面の面積に対し充分に広く設定される。主面の面積は、例えば10~624cmとすることができる。
【0035】
消火剤層の断面における空隙率は37%以下であり、30%以下であってもよく、25%以下であってもよく、20%以下であってもよく、15%以下であってもよく、10%以下であってもよく、5%以下であってもよい。空隙率が37%以下であることで、消火対象物の発火による熱が消火剤層内部に伝播し易くなる。これにより消火剤を適切に機能させることができ、すなわち初期消火を適切に実施することができる。また、特に空隙率が15%以下であることで、この傾向がより顕著に現れる。空隙率の下限は特に制限されないが、耐屈曲性の観点から1%以上とすることができる。
【0036】
空隙率とは、消火剤層の断面積を基準としたときの、空隙の面積割合を意味する。空隙率の測定方法は以下のとおりである。
消火材を鋭利な刃物で切断して消火剤層の厚さ方向の切断面を得て、当該切断面をマイクロスコープ(例えば、VHX-1000、株式会社キーエンス製)にて観察する。観察倍率は1000倍とする。観察した切断面の画像を、画像解析ソフト(例えばImageJ)を用いて16-bit画像に変更する。変更後の画像に対し二値化処理を行い、消火剤層の断面積を基準としたときの空隙の占める面積割合を算出する。この作業を異なる5面の切断面について行い、その面積割合の平均を空隙率とする。
【0037】
(樹脂基材)
樹脂基材を構成する樹脂としては、ポリオレフィン(LLDPE、PP、COP、CPP等)、ポリエステル(PET等)、フッ素樹脂(PTFE、ETFE、EFEP、PFA、FEP、PCTFE等)、PVC、PVA、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド等が挙げられる。樹脂基材側が炎に対向するよう消火材が設置されていた場合でも、これらの樹脂であれば炎の熱(一般的に700~900℃程度)により融解し、消火剤層を露出させ易い。また、これら透明性のある材質を選択することで、消火剤層の外観検査や、消火剤層の交換時期の確認がし易くなる。樹脂基材には、上記消火剤が含まれていてもよい。
【0038】
水蒸気透過度の調整の観点から、樹脂基材には水蒸気バリア性を有する蒸着層(アルミナ蒸着層やシリカ蒸着層)が設けられていてもよい。蒸着層は、樹脂基材の一面に設けられていてもよく、両面に設けられていてもよい。
【0039】
樹脂基材の厚さは、想定される出火時の熱量、衝撃、許容される設置スペース等に応じて適宜調整することができる。例えば、厚い基材であれば消火材としての強度や剛性が得られ易く、ハンドリングが容易となる。また、薄い基材であれば狭いスペースに消火材を設けることができ、また炎により熱せられた際に短時間で融解するため初期消火性が向上する。樹脂基材の厚さは、例えば4.5~100μmとすることができ、12~50μmであってよい。樹脂基材は複数の樹脂の層を備える積層体であってもよい。
【0040】
<消火材の製造方法>
消火材は、消火剤層形成用組成物を用いて形成することができる。消火剤層形成用組成物は、消火剤、バインダ樹脂及び液状媒体を含む。消火材の製造方法を以下に例示する。
【0041】
消火剤及びバインダ樹脂を液状媒体と混合して消火剤層形成用組成物を調製する。液状媒体としては、有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、水溶性の溶媒が挙げられ、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類;N-メチルピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン、ブチルセロソルブ等のグリコールエーテル類等が挙げられる。有機塩及び無機塩が潮解性を有する観点から、液状媒体はアルコール系溶媒であってもよく、具体的にはエタノールであってもよい。
【0042】
消火剤及びバインダ樹脂の量は、消火剤層におけるそれらの量が上記所望の量となるように調整すればよい。液状媒体の量は、消火剤層形成用組成物の使用方法に応じて適宜に調整すればよいが、消火剤層形成用組成物の全量を基準として30~70質量%とすることができる。液状媒体を含む消火剤層形成用組成物を、消火剤層形成用塗液ということができる。
【0043】
消火材は、樹脂基材上に消火剤層形成用塗液を塗布し、これを乾燥することにより消火剤層を形成することで製造することができる。上述のとおり、消火剤層においては空隙を適切に管理する必要があるが、塗布法により消火剤層を形成することで空隙率を低減し易く、また空隙が消火剤層内に均一に(偏らずに)存在し易くなる。このような消火剤層を備える消火材は消火性能に優れると言える。これは、層形成時に強い外圧が掛からない塗布法ならではの利点であり、例えばプレス成型等の成型法では得られ難いものと推察している。
【0044】
塗布厚さは、消火剤層を加圧することも考慮し、所望の厚さの消火剤層が得られるよう適宜調整すればよい。
消火剤層のみを樹脂基材から剥がして消火材として用いてもよく、その場合樹脂基材上には離型処理が施されていることが好ましい。
【0045】
塗布はウェットコーティング法にて行うことができる。ウェットコーティング法としては、グラビアコーティング法、コンマコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコート法、スピンコート法、スポンジロール法、ダイコート法、刷毛による塗装等が挙げられる。
【0046】
消火材の製造方法は、消火剤層を加圧することをさらに備えていてもよい。これにより空隙率をより低減し易くなる。所望の空隙率を得易い観点から、加圧条件は0.2MPa以上とすることができ、2.0MPa以上であってもよい。加圧条件の上限は、塗膜の柔軟性の観点から2.5MPa以下とすることができる。
【0047】
<消火材パッケージ>
消火材パッケージは、上記の消火材と、消火材を封入する包装袋を備える。消火材を包装袋に封入することで消火剤層の性状安定性をより向上することができ、消火材の優れた消火性能を維持し易い。消火材は、包装袋内に減圧して封入されてもよい。
【0048】
包装袋は、例えば2枚の樹脂フィルムの4辺をヒートシールすることにより形成することができる。樹脂フィルムを構成する樹脂としては、ポリオレフィン(LLDPE、PP、COP、CPP等)、ポリエステル(PET等)、フッ素樹脂(PTFE、ETFE、EFEP、PFA、FEP、PCTFE等)、PVC、PVA、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド等が挙げられる。これらの樹脂であれば炎の熱(一般的に700~900℃程度)により融解し、内部の消火材を露出させ易い。また、これら透明性のある材質を選択することで、消火材の外観検査や、交換時期の確認がし易くなる。樹脂フィルムには、上記消火剤が含まれていてもよい。
【0049】
樹脂フィルムの水蒸気透過度(JIS K 7129準拠 40℃/90%RH条件下)は、消火剤の種類に応じ設計できるため特に制限されないが、10.0g/(m・day)以下とすることができ、1.0g/(m・day)以下であってよい。
【0050】
水蒸気透過度の調整の観点から、樹脂フィルムには水蒸気バリア性を有する蒸着層(アルミナ蒸着層やシリカ蒸着層)が設けられていてもよい。蒸着層は、樹脂フィルムの一面に設けられていてもよく、両面に設けられていてもよい。
【0051】
消火材及び消火材パッケージは、発火する虞のある対象物或いはその近辺に設置することができる。設置方法としては貼付や載置、同梱等が挙げられる。発火する虞のあるものとしては、例えば、電線、配電盤、分電盤、制御盤、蓄電池(リチウムイオン電池等)、建材用壁紙、天井材等の建材、リチウムイオン電池回収用箱、ごみ箱、自動車関連部材、コンセント、コンセントカバーなどの各部材が挙げられる。
例えば、消火材又は消火材パッケージが設置された装置では、装置における発火に対し自動的に初期消火が行われるため、そのような装置を自動消火機能を有する装置ということができる。
【0052】
<本実施形態の概要>
[発明1]
消火剤及びバインダ樹脂を含む消火剤層を備え、
前記消火剤が有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含み、
前記消火剤層の断面における空隙率が37%以下である、消火材。
[発明2]
前記消火剤層が、前記消火剤及び前記バインダ樹脂の全量を基準として、前記消火剤を70~97質量%含む、発明1に記載の消火材。
[発明3]
前記塩がカリウム塩を含む、発明1又は2に記載の消火材。
[発明4]
前記塩の平均粒子径が1~100μmである、発明1~3のいずれか一に記載の消火材。
[発明5]
前記バインダ樹脂がポリビニルアセタール系樹脂を含む、発明1~4のいずれか一に記載の消火材。
[発明6]
前記消火剤層の厚さが80~600μmである、発明1~5のいずれか一に記載の消火材。
[発明7]
前記消火剤層が配置された樹脂基材を更に備える、発明1~6のいずれか一に記載の消火材。
[発明8]
発明1~7のいずれか一に記載の消火材と、前記消火材を封入する包装袋を備える、消火材パッケージ。
【実施例0053】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
塩素酸カリウム(KClO)とクエン酸三カリウムとを、メノウ乳鉢にて平均粒子径D50が12μm以下となるように粉砕した。クエン酸三カリウムは潮解性を有する塩である。これを87質量部準備し、ポリビニルブチラール樹脂(大日精化工業株式会社製)9質量部及びシランカップリング剤(X―12―1287A、信越化学工業株式会社製)4質量部と共に、エタノール148質量部及びイソプロピルアルコール7質量部を含む液状媒体に添加して混合することで、消火剤層形成用組成物を調製した。
【0055】
ポリエチレンテレフタレート(PET)基材(商品名:E7002、東洋紡株式会社製、厚さ50μm)の一方の面に、消火剤層形成用組成物をアプリケータを用いて乾燥後の消火剤層厚さが150μmとなるように塗布し、75℃で7分間乾燥することにより、消火材を形成した。
【0056】
(実施例2)
消火剤層厚さを300μmとしたこと以外は、実施例1と同様に消火材を作製した。
【0057】
(実施例3)
実施例2で得られた消火材を5cm角に切り出した後、油圧成型機(東邦インターナショナル製 型式:TT―5-2)を用いて消火材をその積層方向に0.4MPaの条件でプレスし、消火材を作製した。
【0058】
(実施例4)
プレス条件を2.0MPaとしたこと以外は、実施例3と同様に消火材を作製した。
【0059】
(比較例1)
ポリエチレンテレフタレート(PET)基材(商品名:E7002、東洋紡株式会社製、厚さ50μm)の一方の面に、消火剤層形成用組成物をスプレーを用いて乾燥後の消火剤層厚さが200μmとなるように塗布し、75℃で7分間乾燥することにより、消火材を形成した。
【0060】
<各種評価>
各例で得られた消火材について、以下のとおり評価を行った。結果を表1に示す。
【0061】
(消火剤層の断面における空隙率算出)
消火材を鋭利な刃物で切断して消火剤層の厚さ方向の切断面を得て、当該切断面をマイクロスコープVHX-1000(株式会社キーエンス製)にて観察した。観察倍率は1000倍とした。観察した切断面の画像を、画像解析ソフトImageJを用いて16-bit画像に変更した。変更後の画像に対し二値化処理を行い、消火剤層の断面積を基準としたときの空隙の占める面積割合を算出した。この作業を異なる5面の切断面について行い、その面積割合の平均を、消火剤層の断面における空隙率とした。
【0062】
(消火性能)
下記鉄製容器の底部中央に設けた台座上に着火剤を置いた。また、容器の天面内側に、消火剤層側が着火剤に対向するようにして、各例で得られた消火材(面積:50mm×50mm)を貼り付けた。この状態で着火剤に火をつけて消火の様子を観察し、以下の基準で評価した。消火材と着火剤との距離は台座の高さを変えることにより調整した。
-鉄製容器-
容器形状:縦20cm、横30cm、高さ40cmの直方体。火が自然消火しないよう、容器側面(4面)の天面から5、12.5、20.0、27.5、35.0cmの高さ位置に、直径8.5mmの通気口を各5つあけた。
着火剤:固形燃料1.5g(縦15mm、横15mm、高さ10mm、キャプテンスタッグ M-6710 ファイアブロック)。
-評価基準-
A:消火材から着火剤までの距離が20cmで消火できる。
B:消火材から着火剤までの距離が20cmで消火できないが、10cmで消火できる。
C:消火材から着火剤からの距離が10cmで消火できない。
【0063】
(屈曲性)
各例で得られた消火材(面積:50mm×50mm)に対し、JIS K5600-5-1に準拠してマンドレル試験を実施した。試験実施後の消火材の外観を目視にて観察し、以下の基準で評価した。なお、消火剤層のクラック及びPET基材からの剥がれが無い場合を、屈曲性ありとした。
-評価基準-
A:マンドレルの直径が20mmにおいて屈曲性あり。
【0064】
(保存安定性)
シーラント層(L-LDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)樹脂、厚さ30μm)及び基材層(シリカ蒸着層を有するPET(ポリエチレンテレフタラート)樹脂、厚さ12μm)を備えるバリアフィルム(水蒸気透過率は0.2~0.6g/(m・day)、JIS K 7129準拠 40℃/90%RH条件下)を準備した。このバリアフィルムを2枚用いて、各例で得られた消火材(50mm×50mm)を覆い、バリアフィルムの4辺をヒートシールすることで、消火材を封入した。ヒートシール条件は140℃、2秒間とした。これを評価サンプルとした。
【0065】
85℃/85%RH条件下で評価サンプルを10時間静置保管し、保管前後の消火材の全光線透過率から全光線透過率変化率を算出した。全光線透過率の測定にはヘイズメーターBYK-Gardner Haze-Guard Plus(BYK社製)を用いた。
測定は、光源から積分球に入る光が消火材を通過するように消火材を固定した状態で行った。
全光線透過率変化率(%)=(保管後の全光線透過率-保管前の全光線透過率)/保管前の全光線透過率×100
-評価基準-
A:全光線透過率変化率が50%以下であった。
B:全光線透過率変化率が50%超70%以下であった。
【0066】
【表1】
【符号の説明】
【0067】
1…消火剤層、2…樹脂基材、10…消火材。
図1
【手続補正書】
【提出日】2024-04-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
消火剤、バインダ樹脂及び液状媒体を含む消火剤層形成用組成物を、樹脂基材上に塗布することで、前記樹脂基材上に消火剤層を形成する工程を備え、
前記消火剤層が前記消火剤及び前記バインダ樹脂を含
前記消火剤が有機カリウム塩を含み、前記有機カリウム塩の平均粒子径D50が1~100μmであり、
前記消火剤層が、前記消火剤及び前記バインダ樹脂の全量を基準として、前記消火剤を70~97質量%含み、
前記消火剤層の断面における空隙率が37%以下である、消火材の製造方法
【請求項2】
前記塗布がウェットコーティング法により行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
形成された前記消火剤層を加圧する工程をさらに備える、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法により製造された消火材を、包装袋に封入する工程を備える、消火材パッケージの製造方法。
【請求項5】
前記包装袋が樹脂フィルムをヒートシールしてなるものである、請求項4に記載の製造方法。