(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055989
(43)【公開日】2024-04-19
(54)【発明の名称】複合中空糸膜モジュールおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 63/02 20060101AFI20240412BHJP
B01D 71/76 20060101ALI20240412BHJP
B01D 61/00 20060101ALI20240412BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240412BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20240412BHJP
B01D 71/56 20060101ALI20240412BHJP
B01D 71/54 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
B01D63/02
B01D71/76
B01D61/00 500
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/56
B01D71/54
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024033341
(22)【出願日】2024-03-05
(62)【分割の表示】P 2022534051の分割
【原出願日】2021-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2020111895
(32)【優先日】2020-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020129100
(32)【優先日】2020-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】高田 諒一
(72)【発明者】
【氏名】久保田 昇
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 慶太郎
(72)【発明者】
【氏名】大崎 剛裕
(57)【要約】
【課題】有機溶媒を含む液状混合物に対する正浸透技術において、支持膜側からの圧力に対する実用上十分な耐久性(逆圧耐久性)と、高い透水量とが両立された正浸透複合中空糸膜モジュールを提供すること。
【解決手段】中空糸糸束を有する正浸透複合中空糸膜モジュールであって、中空糸が、ポリケトンを含む高分子重合体から成る微細孔性中空糸支持膜の内表面に、高分子重合体薄膜の分離活性層を設けた中空糸であり、 中空糸糸束の膜面積が100cm
2以上であり、分離活性層の厚さ方向の断面を撮影した走査型電子顕微鏡画像における分離活性層部分の質量を測定する方法により算出された、中空糸糸束の半径方向および長さ方向における分離活性層の平均厚さの変動係数が0~60%である、モジュール。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の中空糸で構成される中空糸糸束を有する正浸透複合中空糸膜モジュールであって、
前記中空糸が、ポリケトンを含む高分子重合体から成る微細孔性中空糸支持膜の内表面に高分子重合体薄膜の分離活性層を設けた中空糸であり、 前記中空糸糸束の膜面積が100cm2以上であり、
前記分離活性層の厚さ方向の断面を撮影した走査型電子顕微鏡画像における分離活性層部分の質量を測定する方法により算出された、前記中空糸糸束の半径方向および長さ方向における分離活性層の平均厚さの変動係数が0%以上60%以下である、
モジュール。
【請求項2】
前記分離活性層の厚さ方向の断面を撮影した走査型電子顕微鏡画像において、該分離活性層と中空糸支持膜との界面の長さL1、および該分離活性層表面の長さL2の比L2/L1が、1.1以上5.0以下である、請求項1に記載のモジュール。
【請求項3】
前記比L2/L1が1.2以上3.0以下である、請求項2に記載のモジュール。
【請求項4】
前記変動係数が0%以上50%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のモジュール。
【請求項5】
前記変動係数が0%以上30%以下である、請求項4に記載のモジュール。
【請求項6】
前記高分子重合体が、
多官能アミンから選択される少なくとも1種から成る第1モノマーと、
多官能酸ハライドおよび多官能イソシアネートから成る群より選択される少なくとも1種から成る第2モノマーと、
の重縮合生成物である、
請求項1~5のいずれか一項に記載のモジュール。
【請求項7】
前記高分子重合体が、ポリアミドおよびポリウレアより選択される少なくとも1種である、請求項6に記載のモジュール。
【請求項8】
請求項6に記載のモジュールの製造方法であって、
微細孔性中空糸支持膜の内表面に、前記第1モノマーおよび第2モノマーのうちの一方を含有する第1溶液の液膜を形成する、第1溶液液膜形成工程、
前記微細孔性中空糸支持膜の内側と外側とが、(内側圧力)>(外側圧力)となるように、圧力差を設ける、圧力差設定工程、ならびに
前記第1モノマーおよび第2モノマーのうちの他方を含有する第2溶液を、前記第1溶液の液膜と接触させる、第2溶液接触工程
を経る、モジュールの製造方法。
【請求項9】
前記圧力差設定工程を行った後、前記第2溶液接触工程を行うまでの時間が、10分以内である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記圧力差を、前記中空糸支持膜の外側を減圧することにより生じさせる、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記圧力差を、前記中空糸支持膜の内側に加圧することにより生じさせる、請求項8または9に記載の方法。
【請求項12】
前記圧力差を、前記中空糸支持膜の外側および内側を相異なる圧力で加圧することにより生じさせる、請求項8または9に記載の方法。
【請求項13】
前記圧力差が1~100kPaである、請求項8~12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶媒を含む液状混合物から、溶質などとその他とを分離するために用いられる、選択的な透過性を有する複合中空糸膜モジュール、およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、選択透過性を有する分離活性層を、所謂界面重合法により支持膜の内表面に形成させることによって製造される、複合中空糸膜モジュール、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
分離プロセスにおいて画期的な省エネルギー化が見込める技術として、有機溶媒を含む液状混合物を対象とする正浸透技術が知られている(非特許文献1および2)。
この技術は、有機溶媒を含んだ分離すべき液状混合物(供給溶液)と、それより高い浸透圧を有する溶液(駆動溶液)とを、半透膜を介して接触させ、前記液状混合物から有機溶媒、水、目的物質以外の溶質などを除き、目的物質が高濃度化された溶液を得る技術である。
【0003】
前記技術において、半透膜を介して行われる物質の移動は、供給溶液と駆動溶液との浸透圧差によって駆動される。したがって、機械的な圧力差を人為的に創出する必要がないことが前記技術の特徴である。しかし実際は、まったく圧力差がない状態を長時間制御することは技術上困難であるから、前記の二つの溶液は、しばしば一方が他方より加圧された状態となる。したがって、前記技術に用いられる半透膜は、供給溶液、駆動溶液のどちら側から圧力を印可された場合でも、これによって機能を損なわない耐久性を有する必要がある。
【0004】
一般に、前記技術においては、微細孔性の支持膜上に、分離を担う薄い分離活性層が形成された複合膜が用いられる。このような複合膜において、実用上最も重要な問題は、支持膜側から印加された圧力に対する耐久性である。前述のとおり、複合膜は、支持膜の上に分離活性層が形成された膜であるから、支持膜側から圧力が印加されると、分離活性層が剥離し、複合膜はその機能を失ってしまう場合がある。
これを防ぐためには、例えば、支持膜と分離活性層とを強固に接着させることが有効であると考えられる。例えば、支持膜と分離活性層とを化学結合を介して強固に接着させた複合膜が提案されている(特許文献2)。しかしながら、これだけでは、支持膜側からの圧力に対する耐久性は十分とはいえない。
一方、分離活性層を、極端に厚くした場合は、支持膜側からの圧力に対して十分な耐久性が得られるが、著しく透過性能が低下してしまうと考えられる。
【0005】
なお、分離活性層は、その表面に微細な凹凸を有している方が、表面積がより大きくなるため、より大きな透過性能が得られることが、一般的に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-213559号公報
【特許文献2】国際公開第2016/024573号
【特許文献3】特開2017-144390号公報
【特許文献4】国際公開第2016/027869号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nat. Mater. 16, 276-279(2017)
【非特許文献2】NATURE COMMUNICATIONS(2018)91426
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、有機溶媒を含む液状混合物に対する正浸透技術において、支持膜側からの圧力に対する実用上十分な耐久性(逆圧耐久性)と、高い透水量とが両立された正浸透複合中空糸膜モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、支持膜側から圧力がかかったとき、分離活性層の中でも最も薄く、脆弱な部分が破壊の起点となって、複合膜が破壊に至ると考えた。
本発明者らは、この考察のもと、本発明の上記課題を解決すべく鋭意検討を重ね、本発明を完成させた。
上記の目的を達成する本発明は、以下のとおりである。
【0010】
《態様1》複数の中空糸で構成される中空糸糸束を有する正浸透複合中空糸膜モジュールであって、
前記中空糸が、ポリケトンを含む高分子重合体から成る微細孔性中空糸支持膜の内表面に高分子重合体薄膜の分離活性層を設けた中空糸であり、 前記中空糸糸束の膜面積が100cm2以上であり、
前記分離活性層の厚さ方向の断面を撮影した走査型電子顕微鏡画像における分離活性層部分の質量を測定する方法により算出された、前記中空糸糸束の半径方向および長さ方向における分離活性層の平均厚さの変動係数が0~60%である、
モジュール。
《態様2》前記分離活性層の厚さ方向の断面を撮影した走査型電子顕微鏡画像において、該分離活性層と中空糸支持膜との界面の長さL1、および該分離活性層表面の長さL2の比L2/L1が、1.1以上5.0以下である、態様1に記載のモジュール。
《態様3》前記比L2/L1が1.2以上3.0以下である、態様2に記載のモジュール。
《態様4》前記変動係数が0~50%である、態様1~3のいずれか一項に記載のモジュール。
《態様5》前記変動係数が0%以上30%以下である、態様4に記載のモジュール。
《態様6》前記高分子重合体が、
多官能アミンから選択される少なくとも1種から成る第1モノマーと、
多官能酸ハライドおよび多官能イソシアネートから成る群より選択される少なくとも1種から成る第2モノマーと、
の重縮合生成物である、
態様1~5のいずれか一項に記載のモジュール。
《態様7》前記高分子重合体が、ポリアミドおよびポリウレアより選択される少なくとも1種である、態様6に記載のモジュール。
《態様8》態様6に記載のモジュールの製造方法であって、
微細孔性中空糸支持膜の内表面に、前記第1モノマーおよび第2モノマーのうちの一方を含有する第1溶液の液膜を形成する、第1溶液液膜形成工程、
前記微細孔性中空糸支持膜の内側と外側とが、(内側圧力)>(外側圧力)となるように、圧力差を設ける、圧力差設定工程、ならびに
前記第1モノマーおよび第2モノマーのうちの他方を含有する第2溶液を、前記第1溶液の液膜と接触させる、第2溶液接触工程
を経る、モジュールの製造方法。
《態様9》前記圧力差設定工程を行った後、前記第2溶液接触工程を行うまでの時間が、10分以内である、態様8に記載の方法。
《態様10》前記圧力差を、前記中空糸支持膜の外側を減圧することにより生じさせる、態様8または9に記載の方法。
《態様11》前記圧力差を、前記中空糸支持膜の内側に加圧することにより生じさせる、態様8または9に記載の方法。
《態様12》前記圧力差を、前記中空糸支持膜の外側および内側を相異なる圧力で加圧することにより生じさせる、態様8または9に記載の方法。
《態様13》前記圧力差が1~100kPaである、態様8~12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の複合中空糸膜モジュールは、支持膜側からの圧力に対する耐久性が顕著に向上しているともに、十分に高い透過性能を有する。
したがって、本発明の複合中空糸膜モジュールは、有機溶媒を含む液状混合物に対する正浸透技術に好適に適用することができる。
また、本発明の複合中空糸膜モジュールは、システムの堅牢性が高いので、正浸透技術のみならず、供給溶液側に単純に圧力を印加してろ過する技術(例えば、逆浸透技術、ナノフィルトレーション技術など)にも、好適に適用することができる。
本発明の複合中空糸膜モジュールは、このようなプロセスにおいて、例えば、医薬品、食品などの濃縮、排水の減容などに、好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の複合中空糸膜モジュールの構造を示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の方法によって微細孔中空糸支持膜モジュールに分離活性層を形成させる装置の構成を示す概略図である。
【
図3】
図3は、本発明の方法にしたがって、界面重合を実施した場合に得られる複合中空糸膜モジュールの一例における、中空糸の断面の走査型電子顕微鏡画像である。
【
図4】
図4は、本発明の方法にしたがって、
図3の走査型電子顕微鏡画像を、二値化した画像である。
【
図5】
図5(A)は、
図4の二値化画像において、断面閉塞率を計算する方法を説明するための概略図である。
図5(B)は、
図5(A)で得られた断面閉塞率を、分離活性層の深さ方向にプロットして得られたグラフである。
【
図6】
図6は、
図4の二値化画像における、分離活性層と支持膜との界面を強調して示した図である。
【
図7】
図7は、
図4の二値化画像において、本発明の方法にしたがって比L2/L1を計算する方法を説明するための概略図である。
【
図8】
図8は、L2/L1の評価をするための走査型電子顕微鏡写真の視野を定める基準を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。なお、以下の説明は本発明の一例に関するものであり、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0014】
《正浸透複合中空糸膜モジュール》
本発明の正浸透複合中空糸膜モジュールは、
複数の中空糸で構成される中空糸糸束を有する正浸透複合中空糸膜モジュールであって、
前記中空糸が、ポリケトンを含む高分子重合体から成る微細孔性中空糸支持膜の内表面に、高分子重合体薄膜の分離活性層を設けた中空糸であり、前記中空糸糸束の膜面積が100cm2以上であり、
前記分離活性層の厚さ方向の断面を撮影した走査型電子顕微鏡画像における分離活性層部分の質量を測定する方法により算出された、前記中空糸糸束の半径方向および長さ方向における分離活性層の平均厚さの変動係数が0~60%である。
【0015】
本発明では、支持膜として、耐有機溶剤性に優れるポリケトン製の微細孔性支持膜を用い、かつ、分離活性層として、ポリケトンと化学的に反応し得る化学物質を用いている。そのため、本発明の正浸透複合中空糸膜モジュールでは、分離活性層と支持膜との間が、化学結合によって強固に接着しているので、支持膜側からの圧力に対する耐性が高い。
さらに、本発明の正浸透複合中空糸膜モジュールでは、分離活性層の膜厚が均一であり、かつ、その表面に微細な凹凸を有するので、十分に高い透過性能を示す。
以上のことが相俟って、本発明の正浸透複合中空糸膜モジュールは、十分に高い透過性能と、支持膜側からの圧力に対して、飛躍的に高い耐久性とが両立されている。
【0016】
〈微細孔性中空糸支持膜〉
まず、本発明の正浸透複合中空糸膜の微細孔性中空糸支持膜は、ポリケトンを含む高分子重合体から構成されるポリケトン支持膜である。
支持膜を構成するポリケトンは、一酸化炭素とオレフィンとの共重合体から成る。
正浸透膜の支持膜を、ポリケトンを含む高分子重合体で構成することにより、次のような利点を享受することが可能となる。
第一に、強度を確保しつつ、空隙率の高い支持膜を形成することが可能となる。
第二に、ポリケトンは成形性が高い。そのため、平板状、中空糸状などの任意の形状の支持膜を容易に形成することができるから、従来公知の形状を有する所望の膜モジュールに適用することが容易である。
第三に、ポリケトンが有するケトン基は、分離活性層を形成するときに使用する多官能アミンと化学的に反応することができるため、支持膜と分離活性層とが強固に接着した複合膜を得ることができる。
【0017】
ポリケトン支持膜は、一酸化炭素と1種類以上のオレフィンとの共重合体であるポリケ
トンを、10質量%以上100質量%以下含むことが好ましい。ポリケトン支持膜におけるポリケトンの含有率は、支持膜と分離活性層との接着の観点と、強度を確保しつつ空隙率の高い支持膜を形成する観点とから、多いほど好ましい。例えば、ポリケトン支持膜中のポリケトン含有率は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、100質量%であることが特に好ましい。ポリケトン支持膜中のポリケトンの含有率は、支持膜を構成する成分のうちポリケトンのみを溶解する溶媒によってポリケトンを溶解除去する方法、ポリケトン以外を溶解する溶媒によってポリケトン以外を溶解除去する方法などによって確認することができる。
【0018】
ポリケトンの合成において、一酸化炭素と共重合させるオフィンとしては、目的に応じて任意の種類の化合物を選択できる。オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン、デセンなどの鎖状オレフィン;
スチレン、α-メチルスチレンなどのアルケニル芳香族化合物;
シクロペンテン、ノルボルネン、5-メチルノルボルネン、テトラシクロドデセン、トリシクロデセン、ペンタシクロペンタデセン、ペンタシクロヘキサデセンなどの環状オレフィン;
塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化アルケン;
エチルアクリレート、メチルメタクリレートなどのアクリル酸エステル;
酢酸ビニルなどが挙げられる。ポリケトン支持膜の強度を確保する点からは、共重合させるオレフィンの種類は、1~3種類であることが好ましく、1~2種類であることがより好ましく、1種類であることがさらに好ましい。
【0019】
ポリケトンは、下記式(1)で表される繰り返し単位を有するものが好ましい。
-R-C(=O)- (1)
{式(1)中、Rは置換基を有してもよい炭素数2~20の2価の炭化水素基を表す。}
Rの炭化水素基としては、炭素数2~20の2価の脂肪族基が好ましく、例えば、1,2-エチレン基、1,2-プロピレン基、1,2-ブチレン基、2-メチル-1,2-ブチレン基、1,2-ヘキセン基、3-メチル-1,2-ペンテン基、4-メチル-1,2-ペンテン基、2-エチル-1,2-ブチレン基などが挙げられる。
Rにおける置換基としては、例えば、ハロゲン、水酸基、アルコキシル基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、4級アンモニウム基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、リン酸基、リン酸エステル基、チオール基、スルフィド基、アルコキシシリル基、シラノール基などを挙げることができ、これらよりなる群から選ばれる1種以上であることができる。
上記式(1)において、ポリケトンの繰り返し単位(すなわちケトン繰り返し単位)は1種類のみから構成されていてもよく、2種類以上の組み合わせであってもよい。
上記式(1)の炭化水素基Rの炭素数は2~8がより好ましく、2~3がさらに好ましく、2が最も好ましい。ポリケトンを構成する繰り返し単位は、特に、下記式(2)で表される1-オキソトリメチレン繰り返し単位を多く含むことが好ましい。
-CH2-CH2-C(=O)- (2)
【0020】
ポリケトン支持膜の強度を確保する点から、ポリケトンを構成する繰り返し単位中の1-オキソトリメチレン繰り返し単位の割合は、70モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましい。1-オキソトリメチレン繰り返し単位の割合は100モル%でもよい。ここで「100モル%」とは、元素分析、NMR(核磁気共鳴)、ガスクロマトグラフィーなどの公知の分析方法において、ポリマー末端基を除いて1-オキソトリメチレン以外の繰り返し単位が観測されないことを意味する。典型的には、ポリケトンを構成する繰り返し単位の構造および各構造の量は、NMRによって確認される。
【0021】
ポリケトンを含む高分子重合体から構成される支持膜は多孔性構造であり、内部の貫通空隙を経由して、溶質、有機溶媒および水が該支持膜を通り抜けることができる。支持膜内における溶質の内部濃度分極を効果的に抑えるためには、支持膜内に大きな孔径の細孔が形成されていることが好ましい。
この観点から、ポリケトン支持膜は、最大孔径が50nm以上の細孔が形成されていることが好ましい。最大孔径は、バブルポイント法(ASTM F316-86またはJIS K3832に準拠)により測定される。バブルポイント法によって測定された最大孔径が50nm以上である細孔を有するポリケトン多孔膜を正浸透膜の支持膜として用いた場合、支持膜内における溶質の内部濃度分極を低減することが可能であるため、正浸透膜の高性能化が可能となる。最大孔径を増大させるにしたがって、溶質の内部濃度分極が低減されることから、ポリケトン支持膜の最大孔径は、80nm以上がより好ましく、130nm以上がさらに好ましい。一方、最大孔径を過度に大きくすると、分離活性層を支えることが困難になり、耐圧性が悪くなるおそれがある。この観点から、ポリケトン支持膜の最大孔径は、2μm以下が好ましく、1.5μm以下がより好ましく、1μm以下がさらに好ましく、最も好ましくは0.6μm以下である。
【0022】
ポリケトン支持膜の空隙率は特に限定されない。しかしながら、空隙率が高くなるほど支持膜内における溶質の拡散が起こり易くなり、支持膜における溶質の内部濃度分極を抑えて、正浸透膜の透水量を高めることが可能になる。反面、空隙率が過度に高くなると、耐圧性が損なわれる。これらの観点から、ポリケトン支持膜の空隙率は、60%以上95%以下が好ましく、70%以上95%以下がより好ましく、80%以上95%以下がさらに好ましい。
ポリケトン支持膜(多孔膜)の空隙率は、下記数式(1)により算出される。
空隙率(%)=(1-G/ρ/V)×100 (1)
{数式(1)中、Gはポリケトン支持膜の質量(g)であり、ρはポリケトン支持膜を構成するすべての樹脂の質量平均密度(g/cm3)であり、Vはポリケトン支持膜の体積(cm3)である。}
【0023】
ポリケトン支持膜は、ポリケトンの他に、他の高分子重合体を含んでいてもよい。
ポリケトン支持膜が、ポリケトンとは密度の異なる高分子重合体と、ポリケトンとの複合化によって構成されている場合、上記数式(1)における質量平均密度ρは、各々の樹脂の密度にその構成質量比率を乗じた値の和である。例えば、ρAおよびρBの密度をそれぞれ持つ繊維がGAおよびGBの質量比率で含有されて構成された不織布に、密度ρpのポリケトンがGpの質量比率で複合されているときには、質量平均密度ρは、下記数式(2)で表される。
質量平均密度ρ=(ρA・GA+ρB・GB+ρp・Gp)/(GA+GB+Gp) (2)
本発明のポリケトン支持膜の形状は、従来公知の膜モジュールへの適用の容易さから中空糸状である。
【0024】
中空糸形状(繊維状)のポリケトン支持膜は、その内部に繊維軸方向に貫通する空隙を有する膜である。ポリケトン中空糸膜の外径は、用途によって異なるが、50μm以上5,000μm以下の範囲が好適に用いられる。中空糸支持膜を膜モジュールに加工した場合の、単位膜面積あたりの装置の体積などを考慮すると、ポリケトン中空糸膜の外径は小さい(細い)方が好ましい。他方、中空糸膜モジュールの単位時間あたりの処理能力を考慮すると、ある程度の外径および内径を有していた方がよい。これら両方を考慮すると、ポリケトン中空糸膜の外径のより好ましい範囲は100μm以上3,000μm以下であり、さらに好ましくは200μm以上1,500μm以下である。
【0025】
支持膜の内部における溶質の内部濃度分極を抑制する観点から、ポリケトン中空糸膜の膜部の厚さは、その強度が確保される限りにおいて、できるだけ薄く形成されることが好ましい。他方、製造し易さの観点から、ポリケトン中空糸の膜部としてはある程度の厚さが必要である。以上の観点から、ポリケトン中空糸膜における膜部の適正な厚さの範囲は、5μm以上400μm以下が好ましく、10μm以上200μm以下がより好ましい。ポリケトン中空糸膜の膜部の厚さは、断面をSEMで観察することにより測定することができる。ポリケトン中空糸膜の断面形状は、例えば、円、楕円、多角形などの適宜の形状を適用できるが、対称性からは真円状またはこれに近い形状であることが望ましい。
ポリケトン中空糸膜の膜部の断面構造は、外側から内側まで均一な多孔構造を有する対称膜であってもよいし、外側と内側との多孔構造が異なり、緻密性が異なる非対称膜であってもよい。ポリケトン中空糸膜が非対称膜である場合は、半透膜の性能を有する薄膜層は、ポリケトン多孔膜の緻密面上に設けられることが好ましい。
【0026】
このようなポリケトン支持膜は、公知の方法により製造することができる。例えば、ポリケトンをハロゲン化金属塩(例えば、ハロゲン化亜鉛、ハロゲン化アルカリ金属など)を含有する溶液に溶解してポリケトンドープを調製し、このドープをフィルムダイ、二重管オリフィスなどの適宜の紡糸口を通して凝固浴中に吐出して、中空糸状に成形し、さらに洗浄および乾燥することにより、ポリケトン多孔膜が得られる。このとき、例えば、ドープ中のポリマー濃度および凝固浴の温度を変更することにより、ポリケトン多孔膜の空隙率、孔径などを調整することができる。
【0027】
ポリケトン支持膜の製造方法の別法として、ポリケトンを良溶媒(例えば、レソルシノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、m-クレゾール、o-クロルフェノールなど)に溶解させ、得られた溶液を基板上にキャストして非溶媒(例えば、メタノール、イソプロパノール、アセトン、水など)中に浸漬し、さらに洗浄および乾燥することにより、ポリケトン多孔膜を得ることもできる。この場合、例えば、ポリケトンと良溶媒との混合比率、非溶媒の種類を適宜に選択することにより、ポリケトン多孔膜の空隙率、孔径などを調整することができる。
【0028】
ポリケトンは、例えば、パラジウム、ニッケルなどを触媒として用いて、一酸化炭素とオレフィンとを重合させることにより、得ることができる。ポリケトン支持膜の製造は、例えば、特開2002-348401号公報、特開平2-4431号公報などを参考にして行うことができる。
【0029】
本実施形態に用いられるポリケトン支持膜モジュールは、前記ポリケトン支持膜を、複数本束ねてモジュールハウジング内に収納して、モジュール化することにより得られる。モジュールハウジングとしては、0.5インチ~20インチ径の円筒状ハウジングなどを用いることができる。円筒状ハウジング内に、複数本のポリケトン支持膜を収納し、例えば、ウレタン系、エポキシ系などの接着剤を用いて、モジュールハウジング内にポリケトン支持膜を固定することにより、モジュールとすることができる。
したがって、ポリケトン支持膜モジュールは、ポリケトン支持膜から成る中空糸の糸束をモジュール内に収納し、糸束端部を前記の接着剤で固定した構造を有する。ここで接着剤は、各中空糸の孔を閉塞しないように固化される。このことにより、中空糸の流通性を確保することができる。さらに前記モジュールは、中空糸束の内側(中空部)に連通し、外側には連通しない導管と、中空糸束の外側に連通し、内側には連通しない導管とを備えることが好ましい。このような構成とすることにより、中空糸束の内側と外側とを、相異なる圧力下に置くことが可能となり、本実施形態における分離活性層の形成(後述)に好適に使用することができる。
【0030】
〈分離活性層およびその形成方法〉
本実施形態において、ポリケトンを含む高分子重合体薄膜から成る分離活性層は、実質的に分離性能を有するものである。
分離活性層の厚さは、ピンホールがない限りで、薄いほど好ましい。しかし、機械的強度および耐薬品性を維持するためには、適当な厚さを持たせることが好ましい。これらの観点と、製膜安定性、透過性能などとを合わせて考慮すると、分離活性層の厚さは、0.1μm以上5μm以下が好ましく、より好ましくは0.2μm以上4μm以下である。
【0031】
前記分離活性層を構成する重合体としては、例えば、多官能アミンから選択される少なくとも1種以上の第1モノマーと、多官能酸ハライドおよび多官能イソシアネートから成る群より選択される少なくとも1種以上の第2モノマーと、の重縮合生成物であることが好ましい。より具体的には、例えば、多官能性アミンと多官能性酸ハロゲン化物との界面重合反応により得られるポリアミド、多官能性アミンと多官能性イソシアネートとの界面重合反応により得られるポリウレアなどが挙げられる。分離活性層としてこれらの物質を用いる場合の分離性能とは、溶媒(例えば有機溶媒、純水など)と、この溶媒に溶解している溶質とを分離する性能を指す。
【0032】
前記第1モノマーおよび第2モノマーの種類、組合せ、および使用溶媒(後述)の種類は、両モノマーが界面で直ちに重合反応を起こして高分子重合体薄膜を形成するものであればよく、それ以外は特に限定されない。しかしながら、前記第1モノマーおよび第2モノマーのうちの少なくとも一方には、3つ以上の反応性基を持つ反応性化合物を含むことが好ましい。このことにより、3次元高分子重合体からなる薄膜が形成されるから、膜強度が高くなる点でより好ましい。
【0033】
前記他官能アミンとしては、多官能性芳香族アミン、多官能性脂肪族アミン、複数の反応性アミノ基を有するモノマーなど、およびこれらのプレポリマーを挙げることができる。
【0034】
前記多官能性芳香族アミンとは、一分子中に2個以上のアミノ基を有する芳香族アミノ化合物であり、具体的には、例えば、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルアミン、3,5-ジアミノ安息香酸、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、1,3,5,-トリアミノベンゼン、1,5-ジアミノナフタレンなどを挙げることができ、これらの単独または混合物を用いることができる。本発明においては、特に、m-フェニレンジアミンおよびp-フェニレンジアミンから選ばれる1種以上が好適に用いられる。
【0035】
前記多官能性脂肪族アミンとは、一分子中に2個以上のアミノ基を有する脂肪族アミノ化合物であり、具体的には、例えば、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-ビス(パラアミノシクロヘキシル)メタン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、2,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3,5,-トリアミノシクロヘキサンなどの、シクロヘキサン環を持つ第1級アミン;
ピペラジン、2-メチルピペラジン、エチルピペラジン、2,5-ジメチルピペラジンなどの、ピペラジン環を持つ第2級アミン;
1,3-ビス(4-ピペリジル)メタン、1,3-ビス(4-ピペリジル)プロパン、4,4’-ビピペリジンなどの、ピペリジン環を持つ第2級アミン;
4-(アミノメチル)ピペリジンなどの、第1級および第2級の両方のアミノ基を持つアミンなどの他;
エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,2-ジアミノ-2-メチルプロパン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、トリス(2-アミノエチル)アミン、N,N’-ジメチルエチレンジアミン、N,N’-ジメチルプロパンジアミンなどを挙げることができ、これらの単独または混合物を用いることが可能である。
これら多官能脂肪族アミンと、上記した多官能性芳香族アミンとの混合物を用いてもよい。
【0036】
前記複数の反応性アミノ基を有するモノマーとしては、例えば、ポリエチレンイミン、アミン変性ポリエピクロロヒドリン、アミノ化ポリスチレンなどを挙げることができる。
前記プレポリマーとしては、例えば、ピペラジン、4-(アミノメチル)ピペリジン、エチレンジアミン、および1,2-ジアミノ-2-メチルプロパンから選ばれる1種以上からなるプレポリマーが好適に用いられる。
【0037】
前記多官能ハライドとしては、例えば、多官能性芳香族酸ハライド、多官能性脂肪族酸ハライドなどを挙げることができる。これらは、前記多官能性アミンと反応して重合体を形成し得るように、2官能以上であればよい。
【0038】
前記多官能性芳香族酸ハライドとは、一分子中に2個以上の酸ハライド基を有する芳香族酸ハライド化合物である。具体的には、例えば、トリメシン酸ハライド、トリメリット酸ハライド、イソフタル酸ハライド、テレフタル酸ハライド、ピロメリット酸ハライド、ベンゾフェノンテトラカルボン酸ハライド、ビフェニルジカルボン酸ハライド、ナフタレンジカルボン酸ハライド、ピリジンジカルボン酸ハライド、ベンゼンジスルホン酸ハライドなどを挙げることができ、これらの単独または混合物を用いることができる。本実施形態においては、特にトリメシン酸クロリド単独、またはトリメシン酸クロリドとイソフタル酸クロリドとの混合物、もしくはトリメシン酸クロリドとテレフタル酸クロリドとの混合物が好ましく用いられる。
【0039】
前記多官能性脂肪族酸ハライドとは、一分子中に2個以上の酸ハライド基を有する脂肪族酸ハライド化合物である。具体的には、例えば、シクロブタンジカルボン酸ハライド、シクロペンタンジカルボン酸ハライド、シクロペンタントリカルボン酸ハライド、シクロペンタンテトラカルボン酸ハライド、シクロヘキサンジカルボン酸ハライド、シクロヘキサントリカルボン酸ハライドなどの脂環式多官能性酸ハライド化合物などの他;
プロパントリカルボン酸ハライド、ブタントリカルボン酸ハライド、ペンタントリカルボン酸ハライド、こはく酸ハライド、グルタル酸ハライドなどを挙げることができる。これらは、単独または混合物も用いることが可能であり、これら多官能脂肪族ハライドと、上記した多官能性芳香族酸ハライドとの混合物を用いてもよい。
【0040】
前記多官能性イソシアナートとしては、例えば、エチレンジイソシアナート、プロピレンジイソシアナート、ベンゼンジイソシアナート、トルエンジイソシアナート、ナフタレンジイソシアナート、メチレンビス(4-フェニルイソシアナート)などを挙げることができる。
上記のような第1モノマーおよび第2モノマーは、それぞれ、これらを適当な溶媒に溶解した溶液として界面重合に供される。
【0041】
本明細書において、
第1溶液とは微細孔性中空糸支持膜が先に接触するモノマーを含有する溶液をいい、
第2溶液とは、前記第1溶液が接触した後の支持膜と接触し、前記第1溶液中のモノマーと反応して、高分子重合体を形成するモノマーを含有する溶液をいう。
前記第1モノマーおよび第2モノマーのうちの片方が第1溶液に含有され、他方が第2溶液に含有されることになる。どちらのモノマーがどちらの溶液に含有されていてもよいが、片方の溶液に両モノマーが含有されている態様は好ましくない。
【0042】
これら第1溶液の溶媒および第2溶液の溶媒としては、それぞれが含有するモノマーを溶解し、互いに相溶せず、両溶液が接した場合に液-液界面を形成し、かつ、微細孔性中空糸支持膜を損傷しないものであれば、特に限定されない。
かかる溶媒としては、第1溶液の溶媒として、例えば、水およびアルコールから選択される1種または2種以上の混合物が、第2溶液の溶媒としては、例えば、n-ヘキサン、シクロヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカンなどの炭化水素系溶剤から選択される1種または2種以上の混合物を挙げることができる。
上記のような溶媒を選択することにより、第1溶液と第2溶液とが非混和となり、界面重合が、所期するとおりに進行することとなる。
第1溶液に含有されるモノマーとしては第1モノマーを選択することが、第2溶液に含有されるモノマーとしては第2モノマーを選択することが、それぞれ好ましい。
第1溶液および第2溶液中に含まれるこれら反応性化合物の濃度は、モノマーの種類、溶媒に対する分配係数などにより異なり、特に限定されるものではない。当業者により適宜に設定されるべきである。
【0043】
例えば、m-フェニレンジアミン水溶液を第1溶液とし、トリメシン酸クロリドのn-ヘキサン溶液を第2溶液として用いる場合を例に示すと、以下のとおりである:
m-フェニレンジアミンの濃度は0.1~10質量%が好ましく、0.5~5質量%がより好ましい。トリメシン酸クロリドの濃度は、0.01~10質量%が好ましく、0.1~5質量%がより好ましい。これらの溶液の濃度が低すぎると、界面重合による薄膜の
形成が不完全で欠点が生じ易くなり、分離性能の低下を招く。逆に高すぎると、形成される薄膜が厚くなりすぎて、透過性能の低下を来たすことの他、膜中の残留未反応物量が増加して膜性能へ悪影響を及ぼす可能性がある。
界面重合反応の進行中に酸が発生する場合には、第1溶液中もしくは第2溶液中、またはこれらの双方に、酸捕捉剤としてのアルカリを添加することもできる。また、微細孔性中空糸支持膜との濡れ性を向上させるなどのための界面活性剤、反応を促進するための触媒などを、必要に応じて添加してもよい。
【0044】
前記酸捕捉剤の例としては、例えば、
水酸化ナトリウムなどのカ性アルカリ;
リン酸三ナトリウムなどのリン酸ソーダ;
炭酸ナトリウムなどの炭酸ソーダ;
トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエチレンジアミンなどの3級アミンなどが挙げられる。
前記界面活性剤の例としては、例えば、ラウリルスルホン酸ナトリウム、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
前記触媒の例としては、例えば、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。
これらは、予め上記第1溶液中もしくは第2溶液中、またはこれらの双方に含ませることが可能である。
【0045】
本実施形態における複合中空糸膜モジュールの構造の一例を
図1に示す。
複合中空糸膜モジュール1は、筒状のモジュールハウジングに中空糸4の複数から成る糸束を充填し、前記中空糸4の糸束の両端を、それぞれ、接着剤固定部5および6で筒に固定した構造を有している。前記モジュールハウジングは、その側面にシェル側導管2および3を有し、ヘッダー7および8により、密閉されている。ここで接着剤固定部5および6は、それぞれ、中空糸の孔を閉塞しないように固化されている。前記ヘッダー7および8は、それぞれ、中空糸4の内側(中空部)に連通し、外側には連通しないコア側導管9および10を有する。これらの導管により、中空糸4の内側に、液を導入し、または液を取り出すことができる。前記シェル側導管2および3は、それぞれ、中空糸4の外側に連通し、内側には連通していない。
【0046】
本明細書において、中空糸の内側をコア側と称し、中空糸の外側と筒との空間をシェル側と称する。本実施形態における複合中空糸膜モジュールは、コア側を流れる液体とシェル側を流れる液体とは、中空糸の膜を介してのみ接する構造になっている。また、シェル側導管2および3と、コア側導管9および10とに、それぞれ異なる圧力を印加することにより、中空糸の内側と外側に圧力差を設けることができる。
本実施形態における複合中空糸膜モジュールの製造は、例えば、以下の工程を順次に経る方法によって行われる:
微細孔性中空糸支持膜の内表面に、前記第1モノマーおよび第2モノマーのうちの一方を含有する第1溶液の液膜を形成する、第1溶液液膜形成工程、
前記微細孔性中空糸支持膜の内側と外側とが、(内側圧力)>(外側圧力)となるように、圧力差を設ける、圧力差設定工程、ならびに
前記第1モノマーおよび第2モノマーのうちの他方を含有する第2溶液を、前記第1溶液の液膜と接触させる、第2溶液接触工程。
【0047】
第1溶液液膜形成工程では、中空糸支持膜モジュールのコア側に、前記第1モノマーおよび第2モノマーのうちの一方を含有する第1溶液を充填する。
続いて、圧力差設定工程において、コア側とシェル側とに圧力差を設ける。
その後、第2溶液接触工程において、中空糸支持膜モジュールのコア側に、第1モノマーおよび第2モノマーのうちの他方を含有し、しかも前記第1溶液と非混和性の第2溶液を通すことにより、前記微細孔性中空糸支持膜の内表面上で、第1モノマーと第2モノマーとの反応を行って、高分子重合体薄膜から成る分離活性層を形成させ、目的とする複合中空糸モジュールを製造するのである。
【0048】
圧力差設定工程において、コア側とシェル側とに圧力差を設ける方法は、任意である。例えば、
コア側およびシェル側の両方を減圧する方法;
シェル側を減圧し、コア側は大気圧とする方法;
シェル側を大気圧としてコア側を加圧する方法;
コア側およびシェル側の両方を加圧する方法
などを挙げることができ、どの方法を選択することも可能である。
しかしながら本実施の形態においては、コア側に対してシェル側の圧力を低く設定することが好ましい。
【0049】
コア側への第1溶液充填後に、前記のような圧力差を設ける(コア側圧力>シェル側圧力)ことにより、余剰の、第1溶液が支持膜の微細孔内に入り込み、支持膜内表面上にモジュール内全体にわたって比較的均一な厚さの第1溶液の薄膜が形成されると考えられる。
本実施形態において、複合中空糸膜モジュールの微細孔性中空糸支持膜の内表面に形成される高分子重合体薄膜からなる分離活性層の厚さは、第1溶液の液膜の厚さに密接に関連している。この液膜の厚さは、モジュールにかけるコア側とシェル側との圧力差、圧力差を維持する時間、第1溶液に添加する界面活性剤の添加量などにより、調整することができる。
分離活性層の厚さは、前記したとおり、0.1μm以上5μm以下が好ましく、より好ましくは0.2μm以上4μm以下である。分離活性層が5μmを超えると、耐久性は向上するが、透過性を損なうことがある。好ましい厚さの分離活性層を形成させるためには、コア側とシェル側との圧力差を、1kPa以上500kPa以下とすることが好ましく、5KPa以上300kPa以下とすることがより好ましく、10KPa以上100kPa以下とすることがさらに好ましい。圧力差を維持する時間は、0.1分以上100分以下が好ましく、より好ましくは1分以上50分以下である。第1溶液に添加する界面活性剤の添加量は、第1溶液の全量に対して、0.01質量%以上1質量%以下が好ましく、0.05質量%以上0.5質量%以下がより好ましい。
【0050】
コア側とシェル側との圧力差が大きいほど、またこの圧力差を維持する時間が長いほど、第1溶液の液膜の厚さは薄くなり、その逆では厚くなる。液膜の厚さが小さすぎると、わずかな膜厚むらによって液膜が形成されない箇所が発生し、分離活性層の欠陥の原因になる。また、液膜の厚さが大きすぎると、十分な透過性能が得られない場合がある。
本実施形態における正浸透複合中空糸膜モジュールの製造方法では、コア側とシェル側とに設ける圧力差は、モジュール内の中空糸の最外周部から中心部にわたって均一であり、かつモジュール内の中空糸の片末端からもう一方の片末端にわたって均一である。このことによって、各々の箇所で形成される第1溶液の液膜の厚さは均一になり、これを基にして形成される高分子重合体分離活性層の厚さも均一になる。したがって、各々の箇所における液の透水量のばらつきは小さくなり、複合中空糸膜モジュールとして安定した高い性能を発揮できるようになる。
【0051】
上記のような方法を用いて界面重合を実施せず、単に高圧空気を通して中空糸内側に第1溶液の液膜を形成した場合、前記の各々の箇所における分離活性層の平均厚さのばらつきは大きくなる。モジュールの長さが長ければ長いほど、またモジュールの径が大きければ大きいほど、分離活性層の平均厚さのばらつきは、より大きくなる傾向にある。
これに対して、本実施形態の複合中空糸膜モジュールの製造方法では、圧力差設定工程により、第1溶液の液膜の厚さは、各々の箇所において実質的に均一となる。モジュールのサイズが大きいほど、本発明の効果は顕著に表れる。しかしながら、実用的には、モジュールの長さが5cm以上300cm以下、モジュールの径が0.5インチ以上20インチ以下のサイズとすることが便利である。もちろん、これ未満またはこれを超える長さおよび径のモジュールとしても、本発明の効果は発揮される。
【0052】
したがって、圧力差設定工程にて得られた、均一な厚さの第1溶液の液膜は、時間の経過によって厚さの均一性を失う前に、第2溶液と接触させることが好ましい。この観点から、圧力差設定工程を行った後、第2溶液接触工程を行うまでの時間は、短いほど好ましく、例えば、10分以内とすることができる。
【0053】
本発明では、複合中空糸膜モジュール内の中空糸のモジュール内各箇所における分離活性層の平均厚さのばらつきを、変動係数で表す。変動係数とは、各測定箇所の値の標準偏差を平均値で除した値であり、百分率(%)で示される。各測定箇所はモジュールの半径方向の外周部、中間部および中心部の3か所についてそれぞれモジュールの各両端と中央部を取った計9か所それぞれにつき、n数1以上(各箇所のn数は同一にする)である。
各測定箇所における厚さは、長さ5μm以上100μm以下程度の測定範囲における平均厚さとして表される。この測定範囲の長さは、好ましくは5μm以上50μm以下であり、より好ましくは5μm以上20μm以下であり、最も好ましくは13μmである。本実施形態の複合中空糸膜モジュールにおける分離活性層は、後述するように、好ましくはその表面に微細な凹凸形状を有する。したがって、該分離活性層の厚さを評価する際には、各測定箇所において上記測定範囲の平均厚さによって評価することが適切である。
本実施形態の複合中空糸膜モジュールにおける分離活性層は、複数の測定箇所において測定された平均値厚さを比較したときに、そのばらつきが小さいものである。平均厚さの評価における上記測定範囲の長さの方向は、中空糸の長さ方向であってもよいし、中空糸の円周方向であってもよいし、中空糸の長さ方向に対して斜めの方向であってもよい。
平均値の算出に用いる複数の走査型電子顕微鏡画像における測定範囲の長さの方向は、それぞれ同一方向であってもよいし、互いに異なる方向であってもよい。
【0054】
本発明において、複合中空糸膜モジュール内の中空糸の最外周部から中心部にわたる分離活性層の平均厚さの変動係数、およびモジュール内の中空糸の片末端からもう一方の片末端にわたる分離活性層の平均厚さの変動係数は、それぞれ、0%以上60%以下が好ましく、より好ましくは0%以上50%以下であり、さらに好ましくは0%以上40%以下である。最も好ましくは0以上30%以下である。
本発明では、複合中空糸膜の支持膜として、ポリケトンを含む高分子重合体から構成されるポリケトン支持膜を用い、かつ、分離活性層の平均厚さの変動係数を上記の範囲とすることにより、高い透水量を損なわずに、逆圧耐久性が顕著に向上する。
【0055】
本発明において、分離活性層の厚さは、分離活性層の厚さ方向の断面を撮影した走査型電子顕微鏡画像における分離活性層部分の質量を測定する方法によって算出される。具体的には、中空糸断面の走査型電子顕微鏡の画像を印刷し、分離活性層に相当する部分を切り出してその質量を測定し、予め作成しておいた検量線を用いて面積を算出する手法により、平均厚さを算出する。
本実施形態における複合中空糸膜モジュールは、モジュール内の各箇所における分離活性層の平均厚さのばらつきが小さい。そのため、モジュール毎の性能のばらつきも小さく、良好な性能を示す。ここでいう性能とは、透水量および塩の逆拡散である。
【0056】
本実施形態の複合中空糸膜モジュールにおける分離活性層は、その表面に多数の微細な凹凸を有する。この分離活性層表面の凹凸の程度は、該分離活性層の厚さ方向の断面を撮影した走査型電子顕微鏡画像において、分離活性層と中空糸支持膜との界面の長さL1、および該分離活性層表面の長さL2の比L2/L1によって見積もることができる。本実施形態の複合中空糸膜モジュールは、分離活性層の断面画像における比L2/L1が、好ましくは1.1以上5.0以下であり、より好ましくは1.15以下4.0以下であり、さらに好ましくは1.2以上3.0以下である。比L2/L1は、中空糸膜サンプルの断面の走査型電子顕微鏡画像を用いて評価することができる。
【0057】
以下、
図3~
図7を参照しつつ、比L2/L1の評価方法について説明する。
図3は、一般的な方法で界面重合を実施した場合に得られる複合中空糸膜モジュールにおける中空糸の断面を、走査型電子顕微鏡によって撮影した画像である。
走査型顕微鏡画像の撮影は、
図8に示したように、長方形の視野(F)の長辺(水平方向の辺)が、中空糸膜の軸方向に垂直な断面の中心(C)から内壁(W)に降ろした直線(S1)に垂直な直線(S2)と平行となるような視野(F)にて行う。
比L2/L1の算出には、5,000倍以上30,000倍以下の範囲、例えば10,000倍で撮影された走査型電子顕微鏡画像を使用する。倍率は、分離活性層の厚さ方向の全部が一枚の画像に収まる倍率とし、界面の長さL1の値と、分離活性層の平均厚さとの比が、1.5以上100以下となるように設定する。このとき、比L2/L1値の算出の正確を期すために、分離活性層の表面を示す線が、画像視野の長辺(横辺)とできるだけ平行に近くなるように、撮影の角度を調節する。具体的には、
図3に示したように、視野の左辺における上端から分離活性層表面までの距離d
1と、視野の右辺における上端から分離活性層表面までの距離d
2との差が、0.5μm未満となるような角度で撮影した画像を使用する。
次に、得られた画像を二値化する。画像の二値化は、撮影された電子顕微鏡画像に応じて、判別分析、p-タイル法、モード法などの公知の手法から、適宜に選択された方法によって行われてよい。
【0058】
図4は、
図3の走査型電子顕微鏡画像を、二値化した画像の一例である。
図6に、
図4の二値化画像において、分離活性層と中空糸支持膜との界面に相当する部分を破線で示すことにより、強調して描画した図である。
図6のうち、画像の左右両端0.5μmずつについては、画像処理による界面の決定が困難なため、破線が描かれていない。分離活性層と中空糸支持膜との界面の決定は、適当な画像解析法、例えば、後述の実施例に示した方法によって行うことができる。
図7では、さらに、分離活性層表面が、点線で示されて強調されている。分離活性層表面を示す点線の描画範囲は、分離活性層と中空糸支持膜との界面を示す破線の描画範囲と同じく、画像のうちのの左右両端0.5μmずつを除く範囲である。
図7において、分離活性層と中空糸支持膜との界面を示す破線の長さをL1とし、分離活性層表面を示す点線の長さをL2として、それぞれ測定し、両者の比L2/L1を算出してこれを分離活性層表面凹凸の指標とする。
【0059】
そして、モジュールの半径方向の外周部、中間部、および中心部の3か所について、それぞれモジュールの各両端部および中央部から採取した計9個のサンプルについて撮影した走査型電子顕微鏡画像を用いてそれぞれ算出した値の平均値として、比L2/L1を求める。
比L2/L1の評価に使用する走査型電子顕微鏡画像において、左端から右端へ至る線の方向は、中空糸の長さ方向であってもよいし、中空糸の円周方向であってもよいし、中空糸の長さ方向に対して斜めの方向であってもよい。平均値の算出に用いる複数の走査型電子顕微鏡画像における左端から右端へ至る線の方向は、それぞれ同一方向であってもよいし、互いに異なる方向であってもよい。
【0060】
本実施形態の複合中空糸膜モジュールにおける分離活性層の表面が、このような微細凹凸形状となる機構につき、本発明者らは以下のように推察している。ただし本発明は、以下の理論に拘束されるものではない。
本実施形態の複合中空糸膜モジュールにおける分離活性層は、好ましくは界面重合によって形成される。界面重合においては、中空糸表面に形成された第1モノマー溶液の液膜が、第2モノマー溶液と接触した際、両者が相溶せずに界面において重合が進行して重合層を形成すると考えられる。その結果、形成された分離活性層は、表面に微細凹凸の多い形状となるものと考えられる。分離活性層の形成を界面重合以外の手法によると、表面微細凹凸の多い形状の分離活性層を形成することはできない。
【0061】
以下に、本実施形態の複合中空糸膜モジュールの製造方法について、
図2を参照しつつ説明する。
図2の装置において、微細孔性中空糸支持膜の内側(コア側)に第1溶液を充填させた中空糸支持膜モジュール11には、コア側の入り口に第2溶液貯蔵タンク14からの配管が繋ぎ込まれ、途中に第2溶液を圧送する第2溶液送液ポンプ16が繋がれている。コア側の出口には、第2溶液排液タンク17に連通する第2溶液排液配管18が繋ぎ込まれている。第2溶液排液タンク17には、中空糸支持膜モジュール11の中空糸内側の圧力を制御するコア側圧力調整装置12が接続されている。中空糸支持膜モジュール11のシェル側の下部導管にはエンドキャップ19がはめ込まれ、上部導管にはシェル圧を制御するシェル側圧力調整装置13が繋ぎ込まれている。
【0062】
本実施形態における複合中空糸膜モジュールの製造は、例えば、以下の手順で行われる:
先ず、第1溶液液膜形成工程を経て、コア側(微細孔性中空糸支持膜の内側)に第1溶液を充填させた中空糸支持膜モジュール11に各配管を繋ぎ込む。次に、コア側圧力調整装置12およびシェル側圧力調整装置13により、コア側とシェル側とに圧力差を設ける(コア側圧力>シェル側圧力)、圧力差設定工程を行う。このとき、コア側の中空糸内の余分な第1溶液は、前記圧力差により微細孔に入り(シェル側にまで浸みだす場合もある)、中空糸内側に均一な厚さの液膜が形成される。次に、第2溶液貯蔵タンク14内の第2溶液を、ポンプにより中空糸内側に送液し、第1溶液の液膜と接触させる、第2溶液接触工程を行う。この接触により、両モノマーの界面重合が起こり、微細孔性中空糸支持膜の内側に高分子重合体薄膜から成る分離活性層が形成される。ここで、第2溶液接触工程の最中に、コア側の圧が変動するおそれがあるが、コア側圧力調整装置12の機能により、この圧力変動は抑えられる。
このように、界面重合を行う際には、事前に設定したコア側とシェル側との圧力差を維持することが好ましい。
界面重合は、1回のみ行うことが、透水量を高くする観点から、好ましい。
【0063】
以上のようにして、第1モノマーと第2モノマーとの界面重合によって微細孔性中空糸支持膜の内側に高分子重合体薄膜が形成され、本実施形態の複合中空糸モジュールが製造される。
本発明の複合中空糸モジュールは、界面重合により高分子重合体を形成させるための第1モノマー溶液の液膜の厚さが、モジュールの外周部と中央部、およびモジュールの上部と下部とで均一になるため、モジュール全体にわたって均一な高分子重合体層を有することになる。上記の界面重合は、第1モノマー溶液と第2モノマー溶液との界面において進行するから、形成される高分子重合体層の表面は微細凹凸の多い形状となる。
【0064】
〈複合膜および複合膜モジュール〉
本実施形態において、膜面積とは、モジュール内の接着部を除く中空糸の長さ、内径、および本数から、下記数式(3)によって定義される値である。ここでaは膜面積(m2)、bは接着部を除いた中空糸の長さ(m)、cは中空糸の内径(m)、nは中空糸の本数である。
a=c×π×b×n (3)
モジュールの膜面積は、実用に供する観点から、100cm2以上であることが好ましく、150cm2以上であることがより好ましい。
【0065】
本実施形態の複合中空糸膜モジュールの透過量は、大きければ大きいほど好ましい。現在市販されている膜と同等の空間占有体積のモジュールにより、これと同程度またはそれ以上の透過量を確保するためには、0.1kg/(m2×hr)以上の透過量が目安となる。しかしながら、処理すべき液状混合物が急速に濃縮されて沈殿が発生することを回避するため、透過量は、200kg/(m2×hr)以下であることが好ましい。
本明細書における複合中空糸膜モジュールの透過量とは、処理する液状混合物と、これより浸透圧の高い誘導溶液とを、膜を挟んで対向配置したときに、浸透圧によって液状混合物から誘導溶液に移動する物質の量を意味しており、下記数式(4)により定義される。
F=Lp/(M×H) (4)
ここで、Fは透過量(kg/(m2×hr))、Lpは透過した物質の量(kg)、Mは膜の内表面積(m2)、Hは時間(hr)である。
【0066】
本実施形態の複合中空糸膜モジュールで処理可能な液状混合物に含まれる成分としては、例えば、
水;
酢酸、アクリル酸、プロピオン酸、蟻酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸、安息香酸などのカルボン酸;
アセトニトリル、プロピオンニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;
スルホン酸、スルフィン酸、ハビツル酸、尿酸、フェノール、エノール、ジケトン型化合物、チオフェノール、イミド、オキシム、芳香族スルフォンアミド、第1級ニトロ化合物、第2級ニトロ化合物などの有機酸;
メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールなどの低級アルコール;
炭素数6以上の高級アルコール;
エチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール;
ペンタン、ヘキサン、デカン、ウンデカン、シクロオクタンなどの脂肪族炭化水素;
ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;
アセトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン;
アセトアルデヒドなどのアルデヒド;
ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル;
ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンなどのアミド;
ピリジンなどの窒素を含む有機化合物;
酢酸エステル、アクリル酸エステルなどのエステルの他;
ジメチルスルホキシドなどの、産業用または試験研究用に使用される一般的な有機溶剤;
糖、肥料、酵素、鉱物油など、並びに、
ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールなどのポリオール;
ポリアミン;
ポリスルホン酸;
ポリアクリル酸などのポリカルボン酸;
ポリアクリル酸エステルなどのポリカルボン酸エステル;
グラフト重合などによって変性された変性高分子化合物;
オレフィンなどの非極性モノマーとカルボキシル基などの極性基を有する極性モノマーとの共重合によって得られる共重合高分子化合物;
などが挙げられる。
【0067】
本実施形態の複合中空糸膜モジュールの阻止率は、高ければ高いほど好ましい。阻止率が低いと、正浸透技術によって濃縮した場合に、目的とする溶質が誘導溶液側に漏洩してロスする量が増大することにつながる。このような観点から、本実施形態の複合中空糸膜モジュールの阻止率は、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、さらに好ましくは99%以上である。
本明細書における複合中空糸膜モジュールの阻止率とは、液状混合液から膜を介して誘導溶液に物質が移動する際、より大きな溶質分子の通過を遅延させる程度を意味しており、下記数式(5)により定義される。
Ri=(1-Cpi/Cfi) (5)
ここで、Riは化学種iの阻止率(%)、Cpiは透過液中の化学種iの濃度(重量%)、Cfiは液状混合物中の化学種iの濃度(重量%)である。
【0068】
本実施形態の複合中空糸膜モジュールの繰り返し耐圧性は、高ければ高いほど好ましい。繰り返し耐圧性が低いと、正浸透技術によって有機溶媒を含む液状混合物を濃縮する過程において、膜が破壊に至ることがある。このような観点から、圧力40kPaGにおける繰り返し耐圧性は、100回以上が好ましく、1,000回以上がより好ましい。
本明細書における複合中空糸膜モジュールの繰り返し耐圧性とは、有機溶媒または有機溶媒を含む液状混合物と接触した状態において、支持膜側から所定の圧力を繰り返し印加した場合に、膜が破壊に至るまでの繰り返し回数である。
【実施例0069】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
〈測定方法〉
以下の実施例において用いられる各測定値の測定方法は、次のとおりである。
[1]中空糸の内径、外径、および膜厚
中空糸膜の長手方向の任意の5か所について、該長手方向に垂直な断面をキーエンス社製のデジタルマイクロスコープ(型式:VHX-5000)で撮影し、各断面画像における任意の2点の内径および外径をそれぞれ計測した。そして、計10点の計測値の数平均値として得られる平均内径r(μm)および平均外径R(μm)を、それぞれ該中空糸膜の内径および外径とした。求めた中空糸膜の平均内径rおよび平均外径Rを用いて、数式Lh=(R-r)/2にしたがって得られる中空糸膜の平均厚さLh(μm)を、該中空糸膜の膜厚とした。
【0070】
[2]中空糸膜における膜部の空隙率は、下記数式(1)を用いて算出した。
空隙率(%)=(1-G/ρ/V)×100 (1)
上記数式中のGは、中空糸膜の質量(g)であり、長さ70cmの中空糸膜を10本束ねて測定した。ρは、中空糸膜を構成するポリマーの密度(g/cm3)であり、ポリケトン中空糸膜の場合は1.30g/cm3、およびポリエーテルスルホン中空糸膜の場合は1.37g/cm3の値を、それぞれ用いた。Vは、中空糸膜の膜部の体積(cm3)であり、上記[1]の方法で測定した中空糸膜の外径、上記[1]の方法で測定した中空糸膜の膜部の平均厚さ、ならびに中空糸の長さ(70cm)および本数(10本)から算出した。
【0071】
[3]支持膜の最大孔径
支持膜の最大孔径は、測定装置としてPMI社製のパームポロメーター(型式:CFP
-1200AEX)を用い、浸液としてPMI社製のガルウィック(表面張力=15.6
dynes/cm)を用いて、JIS K3832(バブルポイント法)に準拠して測定した。
【0072】
[4]分離活性層の走査型電子顕微鏡観察、および平均厚さの測定
各実施例および比較例で得られた複合中空糸膜モジュールを分解し、モジュールの半径方向の中心、半径の50%の位置、および最外周部の3箇所から、中空糸をそれぞれ1本ずつサンプリングした。各中空糸を長さ方向に3等分し、9つのサンプルを得た。
これらの中空糸サンプルのそれぞれについて、精製水を用いて凍結乾燥し、剃刀により中空糸の長さ方向に対して垂直方向に粗切断した。次に、イオンミリング装置((株)日立ハイテク製、E-3500)を用いて、イオンビームが中空糸の外表面側から入射し、中空糸内表面側へ貫通するセッティングにて加工することにより、中空糸内表面の断面サンプルを作製した。イオンミリングの加工条件は、加速電圧3kV、ビーム電流約20mA、加工時間15時間とした。
上記断面サンプルのそれぞれについて、走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行った。
前処理として、断面サンプルをカーボンペーストにより断面観察用SEM試料台に固定し、乾燥した後、オスミウムコーター((株)真空デバイス製、HPC-30W)にて、オスミウムを2秒(換算厚さ:約1.5nm)コーティングし、試料に導通処理を施した。
走査型電子顕微鏡((株)日立ハイテク製、S-4800)を使用し、加速電圧1.0kV、ワーキングディスタンス5mm基準±0.7mm、エミッション電流設定10±1μA、Upper検出器(SE:二次電子)の条件で観察した。観察視野は、中空糸内表面およびその近傍とし、分離活性層および基材が含まれ、かつ、視野の左辺における上端から分離活性層表面までの距離d1と、視野の右辺における上端から分離活性層表面までの距離d2との差が、0.5μm未満となる領域とした。
【0073】
図3に、代表的なSEM像を示した。このSEM像は、10,000倍の倍率で測定した画像であり、画像(サンプル)の長さは、横幅が約13μmに相当する長さである。
このような画像について、分離活性層と中空糸支持膜との界面を、以下のように決定した。
得られた画像を、アメリカ合衆国衛生研究所からオープンソースで配布されているソフトウェア、「ImageJ」で開き、長辺(画像の横方向の全幅)が600ピクセルになるようリサイズした。次いで、同ソフトウェアの「Brightness/Contrast」機能をAuto設定で用いて、コントラストを修正した。その後、同ソフトウェアの「Make Binary」機能をAuto設定で用いて二値化した。
図4に、
図3の画像を上記の方法で二値化した画像の例を示す。
次に、得られた二値化画像の任意の一点において、この位置を中心とする1μm×1μmの矩形中の白の占める面積の割合(白の占める面積/矩形全面積)を、この位置における「断面閉塞率」と定義した。
図5(A)の黒点の周りの破線の矩形は、この黒点の断面閉塞率を計算する際の計算対象となる矩形を示す。
図5(A)のSEM像において、黒点の位置を、分離活性層の表面から、順次基材方向(分離活性層の深さ方向)に移動しながら、当該黒点位置についての断面閉塞率を計算した。次に、断面閉塞率を、分離活性層の表面から深さ方向に向かってプロットした得られたグラフの一例を、
図5(B)に示す。
そして、
図5(B)のプロットにおいて、断面閉塞率が最大の値をとる位置より基材側において、はじめて最大値の90%を下回る位置を、分離活性層と中空糸支持膜との界面と定義する。
【0074】
図4の二値化画像について、上記のようにして得られた、分離活性層と支持膜との界面の一例を、
図6中に破線で示す。
図6のような画像をプリンターで用紙に印刷し、断面閉塞率が定義できない画像両端の0.5μmずつの領域を切り落とした。
その後、印刷図の分離活性層部分を切り取り、その質量を精密天秤で測定した。この質量を、予め作成したおいた検量線により、分離活性層の厚さ(μm)に換算した。そして、9つのサンプルの平均値を分離活性層の平均厚さとし、標準偏差および変動係数を算出した。
【0075】
[5]比L2/L1の測定
上記[4]で得られた二値化画像において、上記のように決定された分離活性層と中空糸支持膜との界面(
図7の破線)の長さを計測してL1とした。一方、分離活性層の表面(中空糸支持膜に接していない側の膜表面、
図7の点線)の長さを計測してL2とした。これらの値を用いて、比L2/L1を計算により求めた。
L1およびL2の長さの計測は、以下のようにして行った。
走査型電子顕微鏡画像の計測対象部分に透明な両面テープを貼付した。次いで、長さの測定対象である界面および表面それぞれの線(例えば
図7における破線および点線)に沿って、上記画像の端から端までワイヤーを貼り付け、ワイヤーの余った部分は切断した。しかる後に、ワイヤーを剥がして長さを計測した。ここで使用したワイヤーは、使用時の伸縮性が無視でき、かつ屈曲性に優れる、0.1mmφの樹脂または金属製のワイヤーである。
測定は、9つのサンプルから得られた画像のすべてについて行い、これらの値の平均値を、比L2/L1の測定値として採用した。
【0076】
[6]中空糸糸束の膜面積
本実施形態において、膜面積とは、モジュール内の接着部を除く中空糸の長さ、内径、および本数から、下記数式(3)によって定義される値である。ここで、aは膜面積(m2)、bは接着部を除いた中空糸の長さ(m)、cは中空糸の内径(m)、nは中空糸の本数である。
a=c×π×b×n (3)
【0077】
[7]有機溶媒を含む混合物からの透過量、阻止率の測定
各実施例および比較例で得られた複合中空糸膜モジュールのコア側導管(
図1の複合中空糸膜モジュール1では、9および10)に、処理液0.4kgを入れた1Lのタンクを配管で繋ぎ、ポンプで該処理溶液を循環させた。一方、シェル側導管(
図1の複合中空糸膜モジュール1では、2および3)には、誘導溶液0.1kgを入れた0.5Lのタンクを配管で繋ぎ、ポンプで該誘導溶液を循環させた。コア側とシェル側のタンクは、それぞれ天秤の上に設置されている。コア側の線速を1cm/秒、シェル側の線速を2.5cm/秒として同時に運転し、天秤によって測定した重量変化から、透過量を測定した。
複合膜の阻止率を同定するために、供給溶液には阻止率評価用の溶質として、ブリリアントブルーR(和光純薬(株)製)が含まれている。運転前後の供給溶液中のマーカー物質濃度、運転後の誘導溶液中のブリリアントブルーRの濃度を、島津製作所製の紫外可視分光高度計(型式:UV-2400PC)を用いて測定し、下記数式(6)によって阻止率を測定した。
R=100×(1-Cp/Cf) (6)
ここで、Rは溶質の阻止率(%)、Cfは運転前後の供給溶液中の溶質濃度の平均値(重量%)である。
Cpは複合中空糸膜を透過した溶液の溶質濃度(重量%)であり、下記数式(7)によって計算できる。
Cp=Cd×(Ld+Lp)/Lp (7)
ここで、Lpは複合中空糸膜を透過した溶液の量(kg)、Ldは運転前にタンクに導入した誘導溶液の量(kg)、Cdは運転後の誘導溶液の溶質濃度(重量%)である。
【0078】
[8]繰り返し耐圧試験
各実施例および比較例で得られた複合中空糸膜モジュールのシェル側導管(
図1の複合中空糸膜モジュール1では、2および3)に、試験用溶媒0.4kgを入れた1Lのタンクを配管で繋ぎ、ポンプで該供給溶媒を循環させた。一方、コア側導管(
図1の複合中空糸膜モジュール1では、9および10)は開放した。この状態で、ポンプを操作して膜のシェル側に40kPaGの圧力を1秒間加え、その圧力を開放して1秒間静置するサイクルを繰り返した。このとき、コア側導管からの試験用溶媒の漏出が、1サイクル当たり、膜面積1cm
2当たりの漏出量として、0.05g/cm
2以上確認された場合に、膜が破壊されたとし、破壊に至ったときのサイクル数を、繰り返し耐圧性とした。ただし、総サイクル数が1,000回に達しても膜の破壊が確認されなかった場合は、その時点で試験を打ち切り、繰り返し耐圧性は「1000回以上」とし、表2には「>1,000回」と表記した。
【0079】
なお、膜が破壊されていなくても、複合中空糸膜の両側の圧力差を駆動力として、試験用溶媒は膜を通過し得る。しかしながら、実施例1~12における漏出量は、いずれも、0.05g/cm2に至らず、0.01g/cm2以下であったため、膜は破壊されていないと判断した。実施例13の678回目のサイクルまで、及び比較例1の10回目のサイクルまでについても、漏出量は、いずれも、0.05g/cm2に至らず、0.01g/cm2以下であり、膜は破壊されていないと判断した。
【0080】
〈実施例1〉
(1)正浸透複合中空糸膜モジュールの作製
エチレンと一酸化炭素とが完全交互共重合した極限粘度2.2dl/gのポリケトンを、ポリマー濃度が15質量%となるように65質量%レゾルシン水溶液に添加し、80℃において2時間攪拌溶解し、脱泡を行って、均一透明なドープを得た。
二重紡口を装備した湿式中空糸紡糸機に上記のドープを充填し、二重紡口の内側から25重量%のメタノール水溶液を、外側から上記のドープ液を、それぞれ、40重量%メタノール水溶液を満たした凝固槽中に押し出して、相分離により中空糸膜を形成した。
得られた中空糸膜を、長さ70cmに切断して糸束にして、水洗した。水洗後の中空糸膜束を、アセトンで溶媒置換し、さらにヘキサンで溶媒置換した後、50℃において乾燥を行った。
このようにして得られたポリケトン中空糸膜の外径は0.8mm、内径は0.5mm、空隙率は78%であり、膜壁の最大孔径は130nmであった。
上記ポリケトン中空糸膜100本から成る糸束を、2cm径、10cm長の円筒状のプラスチック製のモジュールハウジング(筒状ケース)内に収納し、糸束の両端部を接着剤で固定することにより、膜面積100cm2のポリケトン中空糸支持膜モジュールを作製した。
【0081】
得られたポリケトン中空糸支持膜モジュールを用い、各中空糸膜の内側表面上において、下記のとおりに界面重合を実施した。
1L容器に、m-フェニレンジアミン20.216gおよびラウリル硫酸ナトリウム1.52gを入れ、さらに純水991gを加えて溶解させ、界面重合に用いる第1溶液を調製した。別の1L容器に、トリメシン酸クロリド0.6gを入れ、n-ヘキサン300gを加えて溶解させ、界面重合に用いる第2溶液を調製した。
中空糸支持膜モジュールのコア側(中空糸の内側)に第1溶液を充填し、5分静置した後に、コア側に窒素ガスを流して液を抜いた。次いで、中空糸の内側が第1溶液で濡れた状態で、中空糸支持膜モジュールを
図2に示す装置に装着した。
コア側圧力調整装置12によりコア側圧力を常圧に設定し、シェル側圧力調整装置13によりシェル側圧力を、絶対圧として10kPaの減圧に設定し、コア側圧力>シェル側圧力の圧力差を設定した。この状態で2分間静置した後、この圧力を維持したまま、第2溶液送液ポンプ16により第2溶液をコア側に40cc/分の流量で3分送液し、界面重合を行った。重合温度は25℃とした。
次いで、中空糸支持膜モジュール11を装置から外して、50℃に設定した恒温槽内に5分静置させ、n-ヘキサンを気化させて除去した。さらに、シェル側およびコア側の双方を純水によって洗浄することにより、正浸透複合中空糸膜モジュールを作製した。
【0082】
(2)評価
(2-1)初期性能の評価
この正浸透複合中空糸膜モジュールを用いて、処理液の濃縮操作を行い、透過量および阻止率を測定した。ここで、処理液(液状混合物)および誘導溶液としては、それぞれ、以下のものを用いた。
[処理液]
溶質:ブリリアントブルーR
溶媒:メタノール
溶質の濃度:50ppmw
[誘導溶液]
誘導物質:PEG2000(東京化成工業(株)製)
溶媒:メタノール(処理液の溶媒と同種のもの)
誘導物質濃度:濃度356.8g/L
評価の結果、透過量は0.92kg/(m2×hr)であり、阻止率は99.9%であった。
【0083】
(2-1)繰り返し耐圧試験
透過量および阻止率の測定後、試験用溶媒としてメタノール(処理液および誘導溶液の溶媒と同種のもの)を用いて、繰り返し耐圧試験を実施した。その結果、繰り返し耐圧性は、1,000回以上であった。
(2-3)分離活性層の測定
次に、上記モジュールを分解し、前述の9か所から中空糸のサンプリングを行い、分離活性層の平均厚さ、およびその変動係数の測定を行った。結果を表2に示した。さらに、上述の方法によって、得られた分離活性層における、比L2/L1の値を測定した。その結果を表3に示した。
【0084】
〈実施例2~12〉
実施例1と同様に作製した正浸透複合中空糸膜モジュールを作製した。
得られた正浸透複合中空糸膜モジュールを用い、処理液および誘導溶液の溶媒、ならびに繰り返し耐圧試験の試験用溶媒として、それぞれ、表2に記載の溶媒を用いた他は、実施例1と同様にして、初期性能の評価(透過量および阻止率)、繰り返し耐圧試験、および分離活性層の測定(平均厚さ、およびその変動係数)を行った。結果を表2に示した。
【0085】
(実施例13)
「正浸透複合中空糸膜モジュールの作製」の界面重合の際、第1溶液を充填及び抜液した後、第2溶液送液前に、コア側圧力>シェル側圧力の圧力差を設定した後の静置時間を10秒間とした他は、実施例1と同様にして、正浸透複合中空糸膜モジュールを作製し、評価した。結果を表2に示した。
【0086】
〈比較例1〉
(1)正浸透複合中空糸膜モジュールの作製
実施例1と同様にしてポリケトン中空糸支持膜モジュールを作製した。
得られたポリケトン中空糸支持膜モジュールを用い、中空糸支持膜モジュールのコア側に第1溶液を充填、静置、および抜液後の圧力、ならびに第2溶液導入後(界面重合時)の圧力を、コア側およびシェル側とも常圧として、「コア側圧力=シェル側圧力」に設定した他は、実施例1と同様にして、各中空糸膜の内側表面上で界面重合を実施して、正浸透複合中空糸膜モジュールを作製した。
(2)評価
得られた正浸透複合中空糸膜モジュールを用いた他は、実施例1と同様にして、初期性能の評価(透過量および阻止率)、繰り返し耐圧試験、および分離活性層の測定(平均厚さ、およびその変動係数)を行った。結果を表2に示した。
【0087】
〈比較例2〉
(1)正浸透複合中空糸膜モジュールの作製
ポリエーテルスルホン(BASF社製、商品名Ultrason)をN-メチル-2-ピロリドンに溶解して20重量%の均一透明なドープを得た。
二重紡口を装備した湿式中空糸紡糸機に上記のドープを充填し、二重紡口の内側から水を、外側から上記のドープ液を、それぞれ、水を満たした凝固槽に押し出して、相分離により中空糸膜を形成した。
得られた中空糸膜を、長さ70cmに切断して糸束にして水洗した。水洗後の中空糸膜束を、アセトンで溶媒置換し、次いでヘキサンで溶媒置換した後、50℃において乾燥を行った。
このようにして得られたポリエーテルスルホン中空糸膜の外径は1.0mm、内径は0.7mm、膜壁の最大孔径は50nmであった。
上記ポリエーテルスルホン中空糸膜130本から成る糸束を、2cm径、10cm長の円筒状プラスチック製のモジュールハウジング(筒状ケース)内に収納し、糸束の両端部を接着剤で固定することにより、
図1に示した構造を有する、膜面積200cm
2のポリエーテルスルホン中空糸支持膜モジュールを作製した。
得られたポリエーテルスルホン中空糸支持膜モジュールを用いた他は、実施例1と同様にして界面重合を実施し、正浸透複合中空糸膜モジュールを作製した。
【0088】
(2)評価
得られた正浸透複合中空糸膜モジュールを用いた他は、実施例1と同様にして、初期性能の評価(透過量および阻止率)、繰り返し耐圧試験、および分離活性層の測定(平均厚さ、およびその変動係数)を行った。結果を表2に示した。
【0089】
(比較例3)
比較例2と同様にして得られたポリエーテルスルホン中空糸支持膜モジュールを用いた他は、実施例1と同様にして界面重合を行った。次いで、界面重合後のモジュールを
図2の装置から外し、再度、同じ界面重合の操作を繰り返し、合計2回の界面重合を行って、正浸透複合中空糸膜モジュールを作製した。 得られた正浸透複合中空糸膜モジュールを用いた他は、実施例1と同様にして、評価を行った。結果を表2に示した。
【0090】
【0091】
【0092】
表1および表2を参照すると、以下のことが理解される。
中空糸支持膜モジュールに収納された中空糸膜の内側表面上で界面重合を行うときに、コア側とシェル側との間に、コア側>シェル側となるような圧力差を設けた本実施形態の複合中空糸膜モジュールは、界面重合時に圧力差を設けずに作製した比較例1のモジュールよりも、分離活性層の平均厚さの変動係数が小さくなり、透水量に優れ、かつ、繰り返し耐圧性が良好であった。また、中空糸支持膜としてポリケトンから成る支持膜を用いた本実施形態の複合中空糸膜モジュールは、例えば、ポリエーテルスルホンを用いた比較例2のモジュールと比較して、繰り返し耐圧性が良好であった。
【0093】
〈参考例1〉
芳香族ポリスルホン(商品名:ユーデルポリスルホン P-1700、ユニオン・カーバイド社製)100質量部、およびポリビニルピロリドンK90(和光純薬(株)製)100質量部を、ジメチルホルムアミド(和光純薬(株)製)の500質量部中に溶解し、充分脱泡して、ポリマー溶液を得た。次いで、得られたポリマー溶液3mlを、大きさが10cm×10cm、厚さ3mmのガラス板上に滴下し、幅50mm、ギャップ100μmのドクターブレードで流延した後、80℃の温風を2時間当てて脱溶媒することにより、芳香族ポリスルホン100質量部およびポリビニルピロリドンK90 100質量部が極めて均一に混合されて成る、膜厚30μmの非多孔性平膜状基材を得た。
一方、常温硬化型のシリコーンゴム(商品名:シルポツト184W/C、ダウコーニング社製)と、その1/10質量の硬化触媒とを、n-ペンタンに溶解して1質量%のシリコーン溶解液を調製した。
上記の非多孔性平膜状基材の表面に、上記のシリコーン溶解液を約30ml/minの供給速度で約3分間供給した後、空気を30m/secの線速で約1分間通過させた。その後、100℃×1hrの加熱による架橋処理を行った後、60℃のエタノール中に16時間浸漬してポリビニルピロリドンの抽出除去を行うことにより、芳香族ポリスルホンより成る多孔性平膜状基材の表面に、シリコーンゴム薄膜が形成されて成る複合分離膜を得た。この複合分離膜におけるシリコーンゴム薄膜は、厚さむらが極めて少なく、かつ基材表面の細孔内に実質的に浸透していない。
得られた複合分離膜について、上記[5]に記載の方法によって求めた比L2/L1は、1.01であった。
上記の結果を、実施例1における比L2/L1の結果とともに、表3に示す。
【0094】
【0095】
表3から明らかなように、分離活性層の形成を界面重合によった実施例1では、表面の微小凹凸の多い分離活性層が得られたのに対し、分離活性層の形成をポリマー溶液の塗布法によった参考例1では、得られた分離活性層は表面の微小凹凸の少ないものであった。
本発明の複合中空糸膜モジュールは、有機溶媒を含む液状混合物に対する正浸透技術に好適に適用することができ、例えば、医薬品や食品の濃縮、排水の減容などに好適に用いることができる。
前記分離活性層の厚さ方向の断面を撮影した走査型電子顕微鏡画像において、該分離活性層と中空糸支持膜との界面の長さL1、および該分離活性層表面の長さL2の比L2/L1が、1.1以上5.0以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載のモジュール。