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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056063
(43)【公開日】2024-04-19
(54)【発明の名称】ハイドロゲルにおける放出速度の調整
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/06 20060101AFI20240412BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20240412BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240412BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20240412BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20240412BHJP
   C07K 16/00 20060101ALN20240412BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20240412BHJP
【FI】
A61K9/06
A61K38/16
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K47/34
C07K19/00
C07K16/00
C07K14/705
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024035153
(22)【出願日】2024-03-07
(62)【分割の表示】P 2021500516の分割
【原出願日】2019-07-09
(31)【優先権主張番号】62/695,472
(32)【優先日】2018-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】ハンター チェン
(72)【発明者】
【氏名】エリカ スレシンジャー
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ フェイント
(57)【要約】
【課題】ハイドロゲル中に配置された生物製剤の放出プロファイルを調整する方法の提供。
【解決手段】本開示は、ハイドロゲル中に配置された生物製剤の放出プロファイルを調整する方法を目的とする。調整に使用され得るパラメーターとしては、求核基と求電子基のモル比、第一の前駆体中の求核基の数、第二の前駆体中の求電子基の数、第一の前駆体の分子量、第二の前駆体の分子量、ハイドロゲルに対する、生物製剤と賦形剤の重量比、固形状態製剤中の生物製剤の重量百分率、およびハイドロゲルの表面積と体積の比率が挙げられる。本明細書に記載される方法は、様々な治療応用に適した様々な放出プロファイルを有するハイドロゲルの形成を可能にする。
【選択図】図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
その中に配置される生物製剤および賦形剤に対して望ましい放出プロファイルを有するハイドロゲルを作製する方法であって、前記生物製剤および賦形剤は、前記ハイドロゲル中に配置される前は固形状態製剤中にあり、前記方法は、
ハイドロゲルに対する生物製剤および賦形剤の重量比を60%~90%の範囲に予め決定すること、
以下のパラメーターのうちの少なくとも1つを予め決定すること:
(a)第一の前駆体中の求核基の数、
(b)第二の前駆体中の求電子基の数、
(c)前記第一の前駆体の分子量、
(d)前記第二の前駆体の分子量、
(e)前記固形状態製剤中の前記生物製剤の重量百分率、および
(f)前記ハイドロゲルの表面積と体積の比率、
前記望ましい放出プロファイルが得られるまで、単独で、または予め決定されていない上述のパラメーターのうちのいずれか1つ以上との組み合わせで、前記求電子基に対する前記求核基のモル比を決定し、ここで前記求電子基に対する前記求核基のモル比が1.1~2の範囲であること、ならびに
無水条件下で、前記固形状態製剤の周囲に、前記決定されたモル比で前記第一の前駆体と前記第二の前駆体を架橋すること、を含む方法。
【請求項2】
前記第一の前駆体の分子量は、約1kDa~約100kDaの範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第二の前駆体の分子量は、約1kDa~約100kDaの範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
その中に配置される生物製剤および賦形剤を有するハイドロゲルを作製する方法であって、前記生物製剤および賦形剤は、前記ハイドロゲル中に配置される前は固形状態製剤中にあり、および前記ハイドロゲルは、少なくとも90%の生物製剤の放出に対し、約1週間~約6カ月の望ましい放出プロファイルにより特徴づけられ、
2個以上の求核基を含む第一の前駆体を選択することであって、前記第一の前駆体は、約1kDa~約100kDaの範囲の分子量を有すること、
2個以上の求電子基を含む第二の前駆体を選択することであって、前記第二の前駆体は、約1kDa~約100kDaの範囲の分子量を有すること、
ハイドロゲルに対する生物製剤および賦形剤の重量比を60%~90%の範囲で選択すること、
前記望ましい放出期間が得られるまで、以下のパラメーターのうちの少なくとも1つを単独で、または組み合わせて決定すること、
(a)前記求電子基に対する前記求核基のモル比、
(b)前記ハイドロゲルに対する、前記生物製剤と賦形剤の重量比、
(c)前記固形状態製剤中の前記生物製剤の重量百分率、および
(d)前記ハイドロゲルの表面積と体積の比率、ならびに
無水条件下で、前記固形状態製剤の周囲に、前記決定されたモル比で前記第一の前駆体と前記第二の前駆体を架橋し、ここで前記求電子基に対する前記求核基のモル比が1.1~2の範囲であること、を含む方法。
【請求項5】
前記求電子基に対する前記求核基の前記モル比が、1.5~2の範囲である、請求項1または請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記求電子基に対する前記求核基の前記モル比が、1.3~1.8の範囲である、請求項1または請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記生物製剤が、組み換えタンパク質である、請求項1または請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記組み換えタンパク質が、抗体またはTrapタンパク質(デコイ受容体ドメインとの融合タンパク質)である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記求核基が、一級アミンまたは一級チオールを含む、請求項1または請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記求電子基は、スクシンイミド、スクシンイミドエステル、n-ヒドロキシスクシンイミド、マレイミド、スクシネート、ニトロフェニルカーボネート、アルデヒド、ビニルスルホン、アジド、ヒドラジド、イソシアネート、ジイソシアネート、トシル、トレシル、またはカルボニルジイミダゾールを含む、請求項1または請求項4に記載の方法。
【請求項11】
前記第一の前駆体中の求核基の数が、
(i)約2個~約10個の範囲、
(ii)4個、または
(iii)8個
である、請求項1または請求項4に記載の方法。
【請求項12】
前記第二の前駆体中の求電子基の数が、
(i)約2個~約10個の範囲、
(ii)4個、または
(iii)8個
である、請求項1または請求項4に記載の方法。
【請求項13】
前記第一の前駆体は、(アミノプロピル)ポリオキシエチレンを含み、式中、mは、約2~約10の範囲であり、および/または前記第二の前駆体は、(スクシンイミジルオキシグルタリル)ポリオキシエチレンを含み、式中、nは、約2~約10の範囲である、請求項1または請求項4に記載の方法。
【請求項14】
前記固形状態製剤中の前記生物製剤の前記重量百分率は、約30%~約95%である、請求項1または請求項4に記載の方法。
【請求項15】
噴霧乾燥、ミル粉砕、結晶化、沈殿、噴霧凍結、超臨界液体乾燥、電気噴霧および微小鋳型からなる群から選択される方法により前記固形状態製剤を作製することをさらに含む、請求項1または請求項4に記載の方法。
【請求項16】
前記固形状態製剤を作製する前記方法は、噴霧乾燥である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記固形状態製剤は、20μm以下の直径の粒子を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記望ましい放出期間は、少なくとも90%の生物製剤の放出に対して、約2カ月~6カ月の放出プロファイルを含む、請求項1または請求項4に記載の方法。
【請求項19】
前記望ましい放出期間は、少なくとも90%の生物製剤の放出に対して、約1週間~2カ月の放出プロファイルを含む、請求項1または請求項4に記載の方法。
【請求項20】
前記望ましい放出プロファイルは、近直線的な前記生物製剤の放出を示す、請求項1または請求項4に記載の方法。
【請求項21】
前記望ましい放出プロファイルは、遅延型放出部分、S字状、直線的部分、近直線的部分、対数的部分、指数関数的部分、またはそれらの組み合わせを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項22】
前記架橋は、無水および疎水性の有機溶媒の存在下で発生する、請求項1または請求項4に記載の方法。
【請求項23】
前記有機溶媒は、塩化メチレン、酢酸エチル、炭酸ジメチル、クロロホルム、またはそれらの組み合わせである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記決定工程は、予測モデルを用いて実施される、請求項1または請求項4に記載の方法。
【請求項25】
(i)前記モル比は、前記予測モデルにおいて放出期間に対し連続的な効果を有している、
および/または
(ii)前記第一と前記第二の前駆体の分子量は、前記予測モデルにおいて放出期間に対し、非連続的な効果を有している、
請求項24に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年7月9日出願の米国仮出願第62/695,472号の優先権の利益を主張するものであり、その内容は参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、生物製剤を担持したハイドロゲル、およびハイドロゲルにおける放出速度を調整する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
治療剤は、効力を発揮するための送達手段を必要とする。薬剤送達は、医薬化合物を投与してヒトまたは動物において治療効果を発揮させることと関連する。徐々に剤を放出させる送達機序が有用である。薬剤送達技術は、薬剤の放出プロファイル、吸収、分布または薬剤排出の改変に役立ち、医薬品の有効性と安全性ならびに患者の利便性とコンプライアンスの利益となり得る。
【発明の概要】
【0004】
本開示の1つの態様は、その中に配置される生物製剤に対して望ましい放出プロファイルを有するハイドロゲルを作製する方法に関するものであり、当該生物製剤は、当該ハイドロゲル中に配置される前は固形状態の製剤中にあり、当該方法は、(i)以下のパラメーターのうちの少なくとも1つを予め決定すること:(a)第一の前駆体中の求核基の数、(b)第二の前駆体中の求電子基の数、(c)第一の前駆体の分子量、(d)第二の前駆体の分子量、(e)ハイドロゲルに対する、生物製剤と賦形剤の重量比、(f)固形状態製剤中の生物製剤の重量百分率、および(g)ハイドロゲルの表面積と体積の比率;(ii)単独、または予め決定されなかった上述のパラメーターのうちのいずれか1つ以上との組み合わせで、求核基と求電子基のモル比を決定すること;ならびに(iii)無水条件下で固形状態製剤の周囲に決定されたモル比で第一の前駆体と第二の前駆体を架橋すること、を含む。
【0005】
一部の実施形態では、求核基と求電子基のモル比は、1よりも大きい。
【0006】
一部の実施形態では、求核基と求電子基のモル比は、1よりも小さい。
【0007】
一部の実施形態では、求核基と求電子基のモル比は、約1.1~約2の範囲である。
【0008】
一部の実施形態では、生物製剤は、例えば抗体やTrapタンパク質(デコイ受容体ドメインとの融合タンパク質)などの組み換えタンパク質である。
【0009】
一部の実施形態では、求電子基は、スクシンイミド、スクシンイミドエステル、n-ヒドロキシスクシンイミド、マレイミド、コハク酸塩、ニトロフェニル炭酸塩、アルデヒド、ビニルスルホン、アジド、ヒドラジド、イソシアン酸塩、ジイソシアン酸塩、トシル、トレシル、またはカルボニルジイミダゾールを含む。
【0010】
一部の実施形態では、求核基は、一級アミンまたは一級チオールを含む。
【0011】
一部の実施形態では、第一の前駆体中の求核基の数は、約2~約10の範囲、例えば4または8である。
【0012】
一部の実施形態では、第二の前駆体中の求電子基の数は、約2~約10の範囲、例えば4または8である。
【0013】
一部の実施形態では、第一の前駆体は、(アミノプロピル)ポリオキシエチレンを含み、式中、mは、約2~約10の範囲である。
【0014】
一部の実施形態では、第一の前駆体の分子量は、約1kDa~約100kDaの範囲である。
【0015】
一部の実施形態では、第二の前駆体は、(スクシンイミジルオキシグルタリル)ポリオキシエチレンを含み、式中、nは、約2~約10の範囲である。
【0016】
一部の実施形態では、第二の前駆体の分子量は、約1kDa~約100kDaの範囲である。
【0017】
一部の実施形態では、ハイドロゲルに対する生物製剤の重量比は、約10%~約90%である。一部の実施形態では、固形状態製剤中の生物製剤の重量百分率は、約30%~約95%である。
【0018】
一部の実施形態では、当該方法はさらに、噴霧乾燥、ミル粉砕、結晶化、沈殿、噴霧凍結、超臨界液体乾燥、電気噴霧または微小鋳型により固形状態製剤を作製することを含む。
【0019】
一部の実施形態では、固形状態製剤を作製する方法は、噴霧乾燥である。
【0020】
一部の実施形態では、固形状態製剤は、20μm以下の直径の粒子を含む。
【0021】
一部の実施形態では、放出プロファイルは、少なくとも90%の生物製剤の放出に対して、約2か月~6カ月の放出期間を含むことが望ましい。
【0022】
一部の実施形態では、放出プロファイルは、少なくとも90%の生物製剤の放出に対して、約1週~2カ月の放出期間を含むことが望ましい。
【0023】
一部の実施形態では、放出プロファイルは、少なくとも1週間にわたり、近直線的な放出を呈することが望ましい。
【0024】
一部の実施形態では、放出プロファイルは、遅延型放出部分、S字状、直線的部分、近直線的部分、対数的部分、指数関数的部分、またはそれらの組み合わせを含むことが好ましい。
【0025】
一部の実施形態では、架橋は、無水および疎水性の有機溶媒の存在下で発生する。
【0026】
一部の実施形態では、有機溶媒は、塩化メチレン、酢酸エチル、炭酸ジメチル、クロロホルム、またはそれらの組み合わせである。
【0027】
一部の実施形態では、決定工程は、予測モデルを用いて実施される。
【0028】
一部の実施形態では、モル比は、予測モデルの放出プロファイルに対し、連続的な効果を有している。一部の実施形態では、放出プロファイルの放出期間は、モル比が1よりも大きい、例えば約1.3~約1.8の範囲にあるとき、モル比の変化によって、約-41日の比率で調整され得る。一部の実施形態では、放出プロファイルの放出期間は、モル比が1よりも小さい、例えば約0.77~約0.56の範囲にあるとき、モル比の変化によって、約103日の比率で調整され得る。
【0029】
一部の実施形態では、第一の前駆体と第二の前駆体の分子量は、予測モデルの放出プロファイルに対し、非連続的な効果を有している。
【0030】
別の態様では、本開示は、その中に生物製剤が配置されるハイドロゲルの作製方法に関するものであり、当該生物製剤は、当該ハイドロゲル中に配置される前は固形状態の製剤中にあり、および当該ハイドロゲルは、少なくとも90%の生物製剤放出に対し、約1週~約6カ月の望ましい放出期間であることを特徴とし、当該方法は、(i)2個以上の求核基を含む第一の前駆体を選択することであって、当該第一の前駆体は、約1kDa~約100kDaの範囲の分子量を有すること;(ii)2個以上の求電子基を含む第二の前駆体を選択することであって、当該第二の前駆体は、約1kDa~約100kDaの範囲の分子量を有すること;(iii)単独で、または組み合わせで、所望の放出期間が得られるまで、以下のパラメーターのうちの少なくとも1つを判定すること:(a)求核基と求電子基のモル比、(b)ハイドロゲルに対する、生物製剤と賦形剤の重量比、(c)固形状態製剤中の生物製剤の重量百分率、および(d)ハイドロゲルの表面積と体積の比率;ならびに(iv)無水条件下で固形状態製剤の周囲に決定されたモル比で第一の前駆体と第二の前駆体を架橋すること、を含む。
【0031】
一部の実施形態では、求核基と求電子基のモル比は、1よりも大きい。
【0032】
一部の実施形態では、求核基と求電子基のモル比は、1よりも小さい。
【0033】
一部の実施形態では、求核基と求電子基のモル比は、約1.1~約2の範囲である。
【0034】
一部の実施形態では、生物製剤は、例えば抗体やTrapタンパク質などの組み換えタンパク質である。
【0035】
一部の実施形態では、求電子基は、スクシンイミド、スクシンイミドエステル、n-ヒドロキシスクシンイミド、マレイミド、コハク酸塩、ニトロフェニル炭酸塩、アルデヒド、ビニルスルホン、アジド、ヒドラジド、イソシアン酸塩、ジイソシアン酸塩、トシル、トレシル、またはカルボニルジイミダゾールを含む。
【0036】
一部の実施形態では、求核基は、一級アミンまたは一級チオールを含む。
【0037】
一部の実施形態では、第一の前駆体は、約2~約10個の求核基、例えば4または8個の求核基を含む。
【0038】
一部の実施形態では、第二の前駆体は、約2~約10個の求電子基、例えば4または8個の求電子基を含む。
【0039】
一部の実施形態では、第一の前駆体は、(アミノプロピル)ポリオキシエチレンを含み、式中、mは、約2~約10の範囲である。
【0040】
一部の実施形態では、第二の前駆体は、(スクシンイミジルオキシグルタリル)ポリオキシエチレンを含み、式中、nは、約2~約10の範囲である。
【0041】
一部の実施形態では、ハイドロゲルに対する生物製剤の重量比は、約10%~約90%である。一部の実施形態では、固形状態製剤中の生物製剤の重量百分率は、約30%~約95%である。
【0042】
一部の実施形態では、当該方法はさらに、噴霧乾燥、ミル粉砕、結晶化、沈殿、噴霧凍結、超臨界液体乾燥、電気噴霧または微小鋳型からなる群から選択される方法により固形状態製剤を作製することを含む。
【0043】
一部の実施形態では、固形状態製剤を作製する方法は、噴霧乾燥である。
【0044】
一部の実施形態では、固形状態製剤は、20μm以下の直径の粒子を含む。
【0045】
一部の実施形態では、放出期間は、少なくとも90%の生物製剤の放出に対して、約2か月~6カ月の放出期間を含むことが望ましい。
【0046】
一部の実施形態では、放出期間は、少なくとも90%の生物製剤の放出に対して、約1週~2カ月の放出期間を含むことが望ましい。
【0047】
一部の実施形態では、望ましい放出期間の間、ハイドロゲルは近直線的な生物製剤放出を生じさせる。
【0048】
一部の実施形態では、放出期間は、遅延型放出部分、S字状、直線的部分、近直線的部分、対数的部分、指数関数的部分、またはそれらの組み合わせを含むことが好ましい。
【0049】
一部の実施形態では、架橋は、例えば塩化メチレン、酢酸エチル、炭酸ジメチル、クロロホルム、またはそれらの組み合わせなどの無水および疎水性の有機溶媒の存在下で発生する。
【0050】
一部の実施形態では、決定工程は、予測モデルを用いて実施される。
【0051】
一部の実施形態では、モル比は、予測モデルの放出期間に対し、連続的な効果を有している。一部の実施形態では、放出プロファイルの放出期間は、モル比が1よりも大きい、例えば約1.3~約1.8の範囲にあるとき、モル比の変化によって、約-41日の比率で調整され得る。一部の実施形態では、放出プロファイルの放出期間は、モル比が1よりも小さい、例えば約0.77~約0.56の範囲にあるとき、モル比の変化によって、約103日の比率で調整され得る。
【0052】
一部の実施形態では、第一の前駆体と第二の前駆体の分子量は、予測モデルの放出期間に対し、非連続的な効果を有している。
【0053】
別の態様では、本開示は、本明細書に記載される方法により作製された生物製剤を含むハイドロゲルに関する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1図1は、ハイドロゲルからのモノクローナル抗体(mAb)の特徴的なS字状の放出プロファイルを説明する図である。
図2図2は、放出プロファイルに対するモル比の影響を示すグラフである。実験的放出プロファイルは、ロジスティックな5パラメーター(L5P)曲線に適合される。この図において示される全てのタンパク質を担持した架橋PEG(XPEG)ハイドロゲルは、噴霧乾燥製剤中、81.9%w/wのタンパク質含有量のmAb IgG1-XPEG、40kDa PEG-NHS HGEO、および15kDa PEG-NH HGEOのPEG構成要素であり、それぞれモル比は1.1、1.3および1.8、ならびに固形担持量は60%、60%、および70%である。
図3図3は、放出プロファイルに対して分子の影響が最小であることを示すグラフである。実験的放出プロファイルは、L5P曲線に適合される。この図において示される全てのタンパク質を担持したハイドロゲルは、90%w/wタンパク質含有量の噴霧乾燥製剤、40 kDa PEG-NHS HGEO、および15 kDa PEG-NH HGEOのPEG構成要素を含有し、固形担持量は60%w/w、モル比はおよそ1.8~1.9、および表面積と体積の比はおよそ3mm-1~4mm-1である。mAb IgG4-XPEGからの放出は、白い円で示されており、mAb IgG1-XPEGからの放出は黒円で示されている。多孔質マトリクスを通じた拡散に影響を与える主要特性であるサイズが両方のmAbで類似していることから、ハイドロゲルからの放出速度は分子依存性であることが予測される。
図4図4は、放出プロファイルに対する、噴霧乾燥製剤中のタンパク質含有量の影響を示すグラフである。この図において示される全てのタンパク質を担持したハイドロゲルは、90重量%のタンパク質含有量、表面積と体積の比率は4mm-1(四角)、または50重量%のタンパク質含有量、表面積と体積の比率は35mm-1(菱形)で、mAb IgG1、60%担持量、1.5モル比の40kDa PEG-NHS HGEOと15kDa PEG-NH HGEOのPEG構成要素を含有する。表面積と体積の比率に関してデータは正規化されていないが、このデータセットと図6を比較すると、傾向が正反対であるため、放出プロファイルにおいて観察された差異は表面積と体積の比率が単独での原因ではないことが明白である。ゆえにこのデータセットで観察された差異は、噴霧乾燥製剤中のタンパク質含有量、ならびに/または表面積と体積の比率および噴霧乾燥製剤中のタンパク質含有量の混合効果が原因である。
図5図5は、放出プロファイルに対する固形担持量の影響を示すグラフである。この図において示される全てのタンパク質を担持したハイドロゲルは、1.5モル比の40kDa PEG-NHS HGEO、および15kDa PEG-NH HGEOのPEG構成要素、ならびに50%タンパク質含有量のmAb IgG4、30%固形担持量、および79mm-1の表面積と体積の比率(四角)、またはmAb IgG1、60%固形担持量、および35mm-1の表面積と体積の比率(菱形)を含有する。図3は、放出プロファイルに対して分子の影響が最小であることを示す。図5図6は、表面積と体積の比率が増すことで、初期バースト放出に直接的な影響があることを示す。したがって、この図で示されるデータセットに関する放出プロファイルの溶解フェーズにおける差異は、固形担持量の影響が原因である。放出プロファイルに対する全体的な影響は、固形担持量、および表面積と体積の比率の混合的な影響の結果である。
図6図6は、放出プロファイル、特に初期バースト放出に対する、表面積と体積の比率により説明される形態因子の影響を示すグラフである。この図において示される全てのタンパク質を担持したハイドロゲルは、40kDa PEG-NHS HGEO、および15kDa PEG-NH HGEOのPEG構成要素、mAb IgG1、80%タンパク質含有量、80%固形担持量、および1.7モル比を含有し、スラブ形態における表面積と体積の比率は低く、12mm-1(四角)、または微粒子形態における表面積と体積の比率は高く、>30mm-1(菱形)である。
図7図7は、どのように複数の因子をまとめて調節して、放出プロファイルを調整し、1~3カ月間の近直線的放出を実現するかを示すグラフである。この図において示される全てのタンパク質を担持したハイドロゲルは、スラブ形態で40kDa PEG-NHS HGEO、および15kDa PEG-NH HGEOのPEG構成要素、mAb IgG1、82%のタンパク質含有量を含有し、1.8モル比、および60%固形担持量(菱形)、1.7モル比、および80%固形担持量(四角)、または1.5モル比、および90%固形担持量(三角)である。
図8図8は、5種の異なるタンパク質を担持したハイドロゲル製剤の近直線的放出を示すグラフであり、タンパク質の内訳は4種の異なるmAbと、1種のTrapタンパク質(すなわちデコイ受容体ドメインとの融合タンパク質)である。この図において示される全てのタンパク質を担持したハイドロゲル製剤は、40kDa PEG-NHS HGEO、および15kDa PEG-NH HGEOのPEG構成要素を含有する。
図9図9は、表面積と体積の比率が高い微粒子形式において、モル比、タンパク質含有量、および固形担持量を含む因子の組み合わせを調節することにより、どのように放出プロファイルを調整してより長い間、より直線的にさせることができるかを示すグラフである。この図において示される全てのタンパク質を担持したハイドロゲル製剤は、40kDa PEG-NHS HGEO、および15kDa PEG-NH HGEOのPEG構成要素、ならびにmAb IgG1を含有し、微粒子として作製される。
図10図10は、実施例2で行われた試験のモデル解析を示す。AC<6での検出力>0.95は、モデルの強い予測力を示す。
図11図11は、放出が3つの主要機序:拡散、溶解および枯渇、により誘導されることを示している。初期放出(バースト)は主に、ゲルの水和と、マトリクスの外側部分からのタンパク質の拡散により誘導されるであろう。拡散は、マトリクス内に封入されたタンパク質の水和を阻害する架橋により制限されるであろう。溶解に関しては、水性媒体により架橋が加水分解されることで、担持薬剤が枯渇するまでさらにタンパク質が暴露され、水和され、そしてマトリクスから放出される。PEG MWとモル比の組み合わせを調節することによって、放出速度を標的とする期間、および望ましい形状に調整することができる。
図12図12は、99%放出までの実測時間と、モデルパラメーターに基づく99%放出までの予測時間を比較した実測値と予測値の散布図を示す。99%放出に対する予測モデルの適合度は、調整決定係数(RSquare Adj)により示される(>96%)。
図13図13は、3つすべての主要因子が、総放出(99%)までの時間に対して統計的に有意な影響を有していることを示す(p<0.05)。ランク順における各効果の強さは以下である:1. モル比(連続的な否定的要素の相関);2. PEG-NHSの分子量(カテゴリー因子。すなわち非連続的または個別的);および3. PEG-NHの分子量(カテゴリー因子)。40kDa PEG-NH(灰色の円で強調)は、検証されたPEG-NH試薬のなかで最も大きな効果を有している。15kDa PEG-NHS(白い円で強調)は、検証されたPEG-NHS試薬のなかで最も大きな効果を有している。
図14図14は、予測モデルに従い、1.6のモル比、10kDaのPEG-NH分子量(MW)、および10kDaのPEG-NHS MWの組み合わせが、99%放出に対し42.5日の放出期間を伴うハイドロゲルを生成し得ることを示すグラフである。
図15図15は、予測モデルに従い、1.71のモル比、40kDaのPEG-NH MW、および15kDaのPEG-NHS MWの組み合わせが、99%放出に対し14日の放出期間を伴うハイドロゲルを生成し得ることを示すグラフである。
図16図16は、予測モデルに従い、1.54のモル比、40kDaのPEG-NH MW、および15kDaのPEG-NHS MWの組み合わせが、99%放出に対し21日の放出期間を伴うハイドロゲルを生成し得ることを示すグラフである。
図17図17は、予測モデルに従い、1.68のモル比、10kDaのPEG-NH MW、および15kDaのPEG-NHS MWの組み合わせが、99%放出に対し21日の放出期間を伴うハイドロゲルを生成し得ることを示すグラフである。図16~17は、様々な組み合わせのPEG試薬とモル比を選択することによって、同じ放出期間を対象とし得ることを示す。
図18図18は、予測モデルに従い、1.84のモル比、40kDaのPEG-NH MW、および15kDaのPEG-NHS MWの組み合わせが、99%放出に対し8.88日の放出期間を伴うハイドロゲルを生成し得ることを示すグラフである。
図19図19は、予測モデルに従い、1.30のモル比、15kDaのPEG-NH MW、および10kDaのPEG-NHS MWの組み合わせが、99%放出に対し58.9日の放出期間を伴うハイドロゲルを生成し得ることを示すグラフである。図18~19は、モル比とPEG試薬の両方を調節することによって、約8日~59日の放出期間が実現し得ることを示す。
図20図20は、予測モデルに従い、1.30のモル比、40kDaのPEG-NH MW、および15kDaのPEG-NHS MWの組み合わせが、99%放出に対し30.9日の放出期間を伴うハイドロゲルを生成し得ることを示すグラフである。図18および20は、モル比のみを調節することによって、所与のPEGの組み合わせに対し、許容可能な範囲内の放出期間が標的となり得ることを示す。
図21図21は、予測モデルに従い、1.83のモル比、20kDaのPEG-NH MW、および20kDaのPEG-NHS MWの組み合わせが、99%放出に対し30日の放出期間を伴うハイドロゲルを生成し得ることを示すグラフである。
図22図22は、予測モデルに従い、1.46のモル比、10kDaのPEG-NH MW、および15kDaのPEG-NHS MWの組み合わせが、99%放出に対し30日の放出期間を伴うハイドロゲルを生成し得ることを示すグラフである。図21および22は、様々な組み合わせのPEG試薬とモル比を選択することによって、同じ放出期間を標的とし得ることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0055】
微紛化された固形状態のタンパク質を封入する架橋PEGハイドロゲルは、数週間から数カ月の単位で、良好なタンパク質安定性で持続性放出することが期待されている。最大で88重量%の総固形担持量の担持能力が実証されていることに基づけば、本方法は、数カ月単位、例えば約1週間~6カ月間の期間、低用量分子と中用量分子の両方で実現可能である。様々な標的製品プロファイルに適した持続性放出に調整可能なプラットフォーム送達システムとして本システムを開発する試みにおいて、多因子実験にて、放出速度に影響を与える重要な製剤パラメーターが特定され、調査された。分解性ハイドロゲルの放出プロファイルの典型的な形状を捕捉する放出プロファイルの非直線的モデリング法を導入し、タンパク質放出に対する製剤パラメーターの影響の評価に利用した。
【0056】
本発明は、ハイドロゲル中に配置される生物製剤の放出プロファイルへの影響において、以下のパラメーターが重要であるという発見に部分的に基づいている:(a)求核基と求電子基のモル比であって、第一の前駆体は2個以上の求核基を含み、第二の前駆体は2個以上の求電子基を含むこと、(b)第一の前駆体中の求核基の数、(c)第二の前駆体中の求電子基の数、(d)第一の前駆体の分子量、(e)第二の前駆体の分子量、(f)ハイドロゲルに対する生物製剤と賦形剤の重量比、(g)固形状態製剤中の生物製剤の重量百分率、および(h)ハイドロゲルの表面積と体積の比率。これらパラメーターのうちの少なくとも1つを調節しつつ、他のパラメーターは予め決定しておくことで、様々な放出プロファイルを有する生物製剤を担持したハイドロゲル製剤のアレイが生成され得る。
【0057】
一部の実施形態では、定量的な予測モデルを使用して、望ましい放出プロファイルに関してこれらパラメーターを判定することができる。例えば予測モデルを使用して、上述のパラメーターのうちの1つ以上を予め決定し、そして対象の1つ以上のパラメーターを調節して、放出プロファイルに対するその効果を評価することができる。対象のパラメーターは、望ましい放出プロファイルが得られるまで調節されることができる。なかでも予測モデルは、(1)前駆体とモル比の様々な組み合わせを選択することによって、同じ放出期間を標的とする能力、(2)モル比と前駆体の両方を調節することによって、例えば8~59日などの放出期間を標的とする能力、および(3)モル比のみを調節することによって、所与の前駆体の組み合わせに関して許容可能な範囲内の放出期間を標的とする能力、を提供する。
【0058】
本開示の1つの態様は、その中に配置される生物製剤に対して望ましい放出プロファイルを有するハイドロゲルを作製する方法に関するものであり、当該生物製剤は、当該ハイドロゲル中に配置される前は固形状態の製剤中にあり、当該方法は、(i)以下のパラメーターのうちの少なくとも1つを予め決定すること:(a)第一の前駆体中の求核基の数、(b)第二の前駆体中の求電子基の数、(c)第一の前駆体の分子量、(d)第二の前駆体の分子量、(e)ハイドロゲルに対する、生物製剤と賦形剤の重量比、(f)固形状態製剤中の生物製剤の重量百分率、および(g)ハイドロゲルの表面積と体積の比率;(ii)単独、または予め決定されなかった上述のパラメーターのうちのいずれか1つ以上との組み合わせで、求核基と求電子基のモル比を決定すること;ならびに(iii)無水条件下で固形状態製剤の周囲に決定されたモル比で第一の前駆体と第二の前駆体を架橋すること、を含む。
【0059】
本開示の別の態様は、その中に生物製剤が配置されるハイドロゲルの作製方法に関するものであり、当該生物製剤は、当該ハイドロゲル中に配置される前は固形状態の製剤中にあり、および当該ハイドロゲルは、少なくとも90%の生物製剤放出に対し、約1週~約6カ月の望ましい放出期間であることを特徴とし、当該方法は、(i)2個以上の求核基を含む第一の前駆体を選択することであって、当該第一の前駆体は、約1kDa~約100kDaの範囲の分子量を有すること;(ii)2個以上の求電子基を含む第二の前駆体を選択することであって、当該第二の前駆体は、約1kDa~約100kDaの範囲の分子量を有すること;(iii)単独で、または組み合わせで、望ましい放出期間が得られるまで、以下のパラメーターのうちの少なくとも1つを判定すること:(a)求核基と求電子基のモル比、(b)ハイドロゲルに対する、生物製剤と賦形剤の重量比、(c)固形状態製剤中の生物製剤の重量百分率、および(d)ハイドロゲルの表面積と体積の比率;ならびに(iv)無水条件下で固形状態製剤の周囲に決定されたモル比で第一の前駆体と第二の前駆体を架橋すること、を含む。
【0060】
前駆体はハイドロゲルではないが、互いに架橋してハイドロゲルを形成することができる。架橋は共有結合または物理的結合により形成されることができる。物理的結合の例は、イオン結合、前駆体分子セグメントの疎水性会合、および前駆体分子セグメントの結晶化である。前駆体は反応を誘発されて、架橋ハイドロゲルを形成することができる。前駆体は重合可能であり、架橋剤を含むことができる。架橋剤は常にではないが重合可能な前駆体であることが多い。したがって重合可能な前駆体は互いに反応して、反復単位から構成されるマトリクスおよび/またはポリマーを形成することができる官能基を有する前駆体である。前駆体はポリマーであってもよい。
【0061】
共有結合的に架橋されたハイドロゲルを形成するために、前駆体は互いに共有結合的に架橋される。概して、ポリマー前駆体は、2つ以上の点で他のポリマー前駆体と連結されるポリマーであり、それぞれの点は、同じ、または別のポリマーへの結合点である。少なくとも2つの反応中心を有する前駆体(例えば、フリーラジカル重合)は、各反応基が異なる伸長ポリマー鎖の形成に関与し得ることから、架橋剤としての役割も果たし得る。反応中心がない官能基の場合には特に、架橋は、前駆体型のうちの少なくとも1つに3個以上のそうした官能基を必要とする。例えば、多くの求電子-求核反応は求電子官能基と求核官能基を消費することから、前駆体が架橋を形成するためには第三の官能基が必要となる。したがってそうした前駆体は3個以上の官能基を有してもよく、2個以上の官能基を有する前駆体により架橋されてもよい。架橋分子はイオン結合もしくは共有結合、物理的な力、または他の引力を介して架橋されてもよい。しかし、共有結合的な架橋が、反応産物の構造において安定性と予測可能性をもたらすことが多い。
【0062】
一部の実施形態では、各前駆体は多官能性である。つまり、各前駆体は2個以上の求電子官能基または求核官能基を含み、それによって1つの前駆体上の求核官能基が、別の官能基上の求電子官能基と反応して共有結合を形成し得ることを意味する。前駆体のうちの少なくとも1つは3個以上の官能基を含み、求電子-求核反応の結果として前駆体が結合し、架橋ポリマー産物が形成される。
【0063】
前駆体は例えばアクリル酸またはビニルカプロラクタムなどの低分子であってもよく、例えばアクリル酸キャップ化ポリエチレングリコール(PEG-ジアクリル酸塩)などの重合可能な基を含有する大きな分子、または例えばDunnらの米国特許第4,938,763号、Cohnらの米国特許第5,100,992号および第4,826,945号、またはDelucaらの米国特許第4,741,872号および第5,160,745号などのエチレン性不飽和基を含有する他のポリマーであってもよい。それら各特許の内容は、本明細書に明白に開示される内容と矛盾しない限り、その全体で本明細書に参照により援用される。
【0064】
一部の実施形態では、求核前駆体と求電子前駆体の両方が架橋反応に使用されている限りにおいて、各前駆体は、求核官能基のみ、または求電子官能基のみを含む。したがって例えば架橋剤が例えばアミンなどの求核官能基を有する場合、官能性ポリマーは、例えばN-ヒドロキシスクシンイミドなどの求電子官能基を有してもよい。他方で、架橋剤が例えばスルホスクシンイミドなどの求電子官能基を有する場合、官能性ポリマーは、例えばアミンまたはチオールなどの求核官能基を有してもよい。したがって例えばタンパク質、ポリ(アリルアミン)、またはアミン末端化された二官能性もしくは多官能性のポリ(エチレングリコール)などの官能性ポリマーを使用することができる。
【0065】
前駆体は生物的に不活性で親水性の部分、例えばコアなどを有してもよい。分岐ポリマーの場合には、コアとは、アームに連結された分子の連続的部分を指し、アームはコアから伸長して、各アームの末端は官能基を有している。親水性の前駆体または前駆体部分は、水溶液中、少なくとも1g/100mLの溶解度を有する。親水性部分は例えば、ポリエーテルであってもよく、例えばポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリオキシエチレン、ポリエチレンオキシド-コ-ポリプロピレンオキシド(PPO)、コ-ポリエチレンオキシドのブロックまたはランダムなコポリマーなどのポリアルキレンオキシド、およびポリビニルアルコール(PVA)、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)、ポリ(アミノ酸)、デキストラン、またはタンパク質であってもよい。前駆体はポリアルキレングリコール部分を有してもよく、およびポリマーの少なくとも約80重量%または90重量%は、ポリエチレンオキシドリピートを含むポリエチレングリコール系であってもよい。ポリエーテル、より具体的にはポリ(オキシアルキレン)またはポリ(エチレングリコール)またはポリエチレングリコールが一般的に親水性である。これら分野においては慣習的なことであるが、PEGという用語は、ヒドロキシル末端基を含む、または含まないPEOを指すために使用される。
【0066】
前駆体は、疎水性部分を含み作製されてもよいが、ただし作製されたハイドロゲルは必要量の水を保持するものとする。一部の例では、それでも親水性部分も有しているため、前駆体は水溶性である。他の例では、前駆体は分散水溶液(懸濁液)を生成するが、それでも反応して架橋物質を形成することができる。一部の疎水性部分は、複数のアルキル、ポリプロピレンまたは他の基を含んでもよい。疎水性部分を有するいくつかの前駆体は、PLURONIC(登録商標)F68、JEFFAMINE(登録商標)、またはTECTRONIC(登録商標)という商品名で販売されている。疎水性分子、またはコポリマーの疎水性部分などは、分子(例えばポリマーまたはコポリマー)を凝集させて、水性の連続相に疎水性ドメインを含むミセルまたはミクロ相を形成させるのに充分に疎水性のものであり、またはそれ自体で検証されたときに、約7~約7.5のpH、約30℃~約50℃の温度で水溶液から凝集する、または水溶液内にありながら別手段により相を変化させるのに充分に疎水性のものである。
【0067】
前駆体は複数のアーム、例えば2~100個のアームを有してもよく、各アームは末端を有する。ただし一部の前駆体はデンドリマーまたは他の高度に分岐状の物質であり得ることに留意する。各アームの末端は、求核基または求電子基を含むことができる。ハイドロゲル前駆体上のアームとは、架橋可能な官能基をポリマーのコアに結合させる化学基の直鎖部分を指す。一部の実施形態では、3~300個のアームを有する前駆体である。当業者であれば直ちに明白に記述された範囲内のすべての範囲および値、例えば4~16、8~100、または少なくとも6個のアームなどを予期することを認識されたい。
【0068】
一部の実施形態では、第一の前駆体は、約2~30個の求核基、例えば約2~25個、約2~20個、約2~15個、約2~10個、約5~30個、約5~25個、約5~20個、または約5~15個の求核基を含むことができる。一部の実施形態では、第一の前駆体は、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30個の求核基を含む。
【0069】
一部の実施形態では、第二の前駆体は、約2~30個の求電子基、例えば約2~25個、約2~20個、約2~15個、約2~10個、約5~30個、約5~25個、約5~20個、または約5~15個の求電子基を含むことができる。一部の実施形態では、第二の前駆体は、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30個の求電子基を含む。
【0070】
ゆえにハイドロゲルは例えば、第一の官能基セットを有する複数アームの前駆体と、第二の官能基セットを有する別の複数アームの前駆体から作製されることができる。例えば6個のアームの前駆体または8個のアームの前駆体は、例えば末端が一級アミンのポリエチレングリコールの親水性アームを有してもよく、当該アームの分子量は、約1,000~約40,000ダルトン(Da)である。当業者であれば直ちに明白に記述された境界内の全ての範囲および値を予期することを認識されたい。そうした前駆体は、比較的小さな前駆体、例えば少なくとも約3個の官能基を有する、または約3~16個の官能基を有する、約100Da~約5000Daの分子量、または約800Da以下、約1000Da以下、約2000Da以下、もしくは約5000Da以下の分子量の分子と混合されてもよい。当業者であれば、これら明白に記載された値の間の全ての範囲および値が予期されることを認識するであろう。そうした低分子は、ポリマーであっても、非ポリマーであってもよく、および天然または合成であってもよい。
【0071】
一部の実施形態では、前駆体は、デンドリマーであり得る。デンドリマーは高度に分岐状で、放射対称性のポリマーである。デンドリマーにおいて原子は中心コアから放射状に伸びる多くのアームおよびサブアーム中に配置される。一部の実施形態では、前駆体はデンドリマーではない。
【0072】
ペプチドを前駆体として使用してもよい。概して、約10残基未満のペプチドが好ましいが、より大きな配列(例えば、タンパク質)が使用されてもよい。当業者であれば直ちに、これら明白な境界内の全ての範囲および値、例えば1~10、2~9、3~10、1、2、3、4、5、6、または7が含まれることを認識するであろう。いくつかのアミノ酸は求核基(例えば一級アミンまたはチオール)を有し、または必要に応じて誘導体化され、求核基または求電子基(例えばカルボキシルまたはヒドロキシル)を組み込むことができる基を有する。
【0073】
一部のハイドロゲルは、ポリエチレングリコール含有前駆体で作製される。ポリエチレングリコール(PEG、高分子量で存在する場合にはポリエチレンオキシドとも呼称される)とは、反復基(CHCHO)を伴うポリマーを指し、nは少なくとも3である。したがってポリエチレングリコールを有するポリマー前駆体は、これら反復基を少なくとも3個有し、これら反復基は線形に互いに結合する。ポリマーまたはアームのポリエチレングリコール含量は、当該ポリマーまたはアーム上のすべてのポリエチレングリコール基を合計することにより計算され、たとえ他の基により中断されていてもよい。したがって少なくとも1000Da MWのポリエチレングリコールを有するアームは、合計で少なくとも1000Da MWまで充分なCHCHO基を有する。これら分野においては通常の専門用語であるが、ポリエチレングリコールポリマーとは必ずしもヒドロキシル基で終わる分子を指してはいない。分子量は記号kを使用して千単位で略されており、15kDaとは15,000Daの分子量を意味する。スクシンイミジルコハク酸塩、スクシンイミジルグルタル酸塩、スクシンイミジルアジピン酸塩、およびスクシンイミジルアゼライン酸塩は、水中で加水分解により分解するエステル基を有するスクシンイミジルエステルである。したがって加水分解可能とは、分解を介在するいずれの酵素または細胞も存在しない、過剰量の水中で、インビトロで自然に分解する物質を指す。分解のときとは、裸眼で判断したときの物質の事実上の消失を指す。PEGおよび/またはハイドロゲル、ならびにそれらを含む組成物は、高度に純粋で、例えば発熱物質などの混入物が無いことを意味する薬学的に受容可能な形態で提供されてもよい。
【0074】
求核基の例の非限定的な例としてはアミン、ヒドロキシル、カルボキシルおよびチオールが挙げられる。一部の実施形態では、求核基はアミンである。アミンは一級アミン、二級アミン、三級アミンまたは環状アミンであり得る。一部の実施形態では、第一の前駆体は、(アミノプロピル)ポリオキシエチレンを含み、式中、mは、約2~約10の範囲である。例えばmは、2、3、4、5、6、7、8、9または10である。一部の実施形態では、第一の前駆体は、ペンタエリスリトールテトラ(アミノプロピル)ポリオキシエチレン、ヘキサグリセロールオクタ(アミノプロピル)ポリオキシエチレン、またはそれらの組み合わせであり得る。第一の前駆体の分子量は、約1kDa~約100kDaの範囲、例えば約5kDa~約100kDaの範囲、約10kDa~約100kDaの範囲、または約20kDa~約100kDaの範囲であり得る。
【0075】
求電子基の非限定的な例としては、塩化スルホニル、クロロ炭酸塩、n-ヒドロキシスクシンイミジルエステル、スクシンイミジルエステル、スルファスクシンイミジルエステル、スクシンイミド、スクシンイミドエステル、n-ヒドロキシスクシンイミド、マレイミド、コハク酸塩、ニトロフェニル炭酸塩、アルデヒド、ビニルスルホン、アジド、ヒドラジド、イソシアン酸塩、ジイソシアン酸塩、トシル、トレシル、またはカルボニルジイミダゾール、ならびに米国特許第5,410,016号および第6,149,931号に記載されているものが挙げられる。当該特許は、本明細書に明白に開示される内容と矛盾しない限り、その全体で本明細書に参照により援用される。一部の実施形態では、求電子基は、n-ヒドロキシスクシンイミジルエステルまたはn-ヒドロキシスクシンイミドである。一部の実施形態では、第二の前駆体は、(スクシンイミジルオキシグルタリル)ポリオキシエチレンを含み、式中、nは、約2~約10の範囲である。例えばnは、2、3、4、5、6、7、8、9または10である。一部の実施形態では、第二の前駆体は、ペンタエリスリトールテトラ(スクシンイミジルオキシグルタリル)ポリオキシエチレン、ペンタエリスリトールテトラ(スクシンイミジルオキシスクシニル)ポリオキシエチレン、ペンタエリスリトールテトラ(スクシンイミジルカルボキシペンチル)ポリオキシエチレン、ヘキサグリセロールオクタ(スクシンイミジルオキシグルタリル)ポリオキシエチレン、ヘキサグリセロールオクタ(スクシンイミジルオキシスクシニル)ポリオキシエチレン、またはそれらの組み合わせであり得る。第二の前駆体の分子量は、約1kDa~約100kDaの範囲、例えば約5kDa~約100kDaの範囲、約10kDa~約100kDaの範囲、または約20kDa~約100kDaの範囲であり得る。
【0076】
一部の実施形態では、求電子基は、n-ヒドロキシスクシンイミジルエステルまたはn-ヒドロキシスクシンイミドであり、求核基は一級アミンである。
【0077】
例えばアルコールまたはカルボン酸などの特定の官能基は通常、生理学的条件下(例えば、pH7.2~11.0、37℃)では、例えばアミンなどの他の官能基と反応しない。しかしそうした官能基は、例えばN-ヒドロキシスクシンイミドなどの活性化基を使用することにより、反応性が高められ得る。特定の活性化基としては、カルボニルジイミダゾール、塩化スルホニル、ハロゲン化アリール、スルファスクシンイミジルエステル、N-ヒドロキシスクシンイミジルエステル、スクシンイミジルエステル、エポキシド、アルデヒド、マレイミド、イミドエステルなどが挙げられる。
【0078】
官能基は、例えば求核剤と反応する求電子剤、特定の求核剤、例えば一級アミンと反応する基、生物学的な液体中で物質とアミド結合を形成する基、カルボキシルとアミド結合を形成する基、活性化された酸官能基、またはそれらの組み合わせであってもよい。官能基は、例えば強求電子性官能基であってもよく、すなわちpH9.0、室温、および大気圧力で水溶液中、一級アミンと共有結合を効率的に形成する求電子性官能基、および/またはマイケル型反応により反応する求電子基を意味する。強求電子剤は、マイケル型反応に関与しないタイプのものであってもよく、またはマイケル型反応に関与するタイプのものであってもよい。マイケル型反応に関与しない強求電子剤の例は、スクシンイミド、スクシンイミドエステル、またはNHS-エステルである。マイケル型求電子剤の例は、アクリル酸塩、メタアクリル酸塩、メチルメタアクリル酸塩、および他の不飽和重合性基である。より多くの前駆体および官能基の実施形態は、米国特許第9,205,150号に見出すことができる。当該特許は、その全体で参照によりその内容が援用される。
【0079】
求核基と求電子基のモル比は、架橋密度を決定することができる。モル比が1であれば、最も高い架橋密度となる。モル比が1よりも大きい、または1よりも小さければ、モル比が1よりも架橋密度が低いこととなり得る。値が1に到達するまでモル比が増加するにつれ、架橋密度も増加する。次いでモル比が1を超えて増加するにつれ、架橋密度は減少する。ハイドロゲル中に包埋される生物製剤は、架橋密度が低いとき、より速く放出され得る。例えば、図2に示される結果を参照のこと。結果として、求核基と求電子基のモル比を調節することにより、生物製剤の放出速度を調整することができる。理論に拘束されることは望まないが、モル比は、ハイドロゲルマトリクス内の架橋密度(すなわちネットワークを形成する共有結合性架橋の数)とネットワーク孔の大きさの両方を効率的に調節する。架橋密度を減少させることで、マトリクスの有効孔サイズを増加させることができ、マトリクスを通じたタンパク質の拡散が早くなる。さらに架橋密度を減少させることによって、タンパク質粒子周囲のPEGの局所濃度が不充分となり、水和の際にタンパク質が固形状態に保持されないハイドロゲル中のドメインを増加させることができる。これによりバースト放出が増加し、ならびに質量基準での拡散速度が上昇する。ゆえにモル比が増加するにつれ、拡散制御レジームにおいてバースト放出と放出速度も上昇すると予測される。さらに、モル比が増加した溶解制御レジームにおいて、放出プロファイルの傾きの増加が観察されている。これは、モル比の増加と架橋度の低下により説明することができ、反応および架橋に利用可能な求核基と求電子基の数の間にミスマッチが多かったことが原因である。架橋の加水分解速度により増殖速度が決定され、これはハイドロゲル膨張の増加と同時に、タンパク質粒子のさらなる溶解を生じさせるPEG局所濃度の低下をももたらす。さらにハイドロゲルの膨張は、ハイドロゲルの多孔性とも相関しており、多孔性はタンパク質溶解が発生するにつれ増加する。モル比が増加し、水和の際のタンパク質溶解が増加すると、ハイドロゲルの有効多孔性も増加するため、溶解制御レジームにおいて膨張の増大、加水分解の加速、および増殖速度の加速がもたらされる。さらに拡散制御レジームと溶解制御レジームの間の推移を識別する転換点は、モル比と逆相関するであろう。有効拡散速度はモル比の増加とともに上昇するため、もはや律速段階ではない程度にまで拡散が増加するためにかかる時間は減り、それに伴い転換点も早い時点にシフトする。包括的に考察すると、モル比単独で変化させることにより、所望の結果に応じて放出プロファイルを近直線的からS字状へと調整することが可能になる。
【0080】
一部の実施形態では、求核基と求電子基のモル比は、1よりも大きい。一部の実施形態では、求核基と求電子基のモル比は、1よりも小さい。一部の実施形態では、求核基と求電子基のモル比は、約0.1~3.0の範囲、例えば約0.1~0.9、約0.1~0.8、約0.1~0.7、約0.1~0.6、約0.2~0.9、約0.2~3.0、約0.2~2.8、約0.2~2.5、約0.5~2.5、約0.5~2.0、約0.8~2.5、約0.8~2.0、約1.1~2.0、約1.1~2.5、約1.1~3.0、約1.5~3.0、約1.5~2.5、約1.5~2.0、または約1.3~1.8の範囲であり得る。一部の実施形態では、求核基と求電子基のモル比は、約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9または3.0であり得る。一部の実施形態では、求核基と求電子基のモル比は、1ではない。
【0081】
予測モデルにおいて、モル比は放出プロファイルに対し連続的な効果を有している。本明細書において使用される場合、「連続的」という用語は、レベル間を補完することができることを意味する。そのため、モル比を連続的に調節して、放出期間における増分変動を得ることができる。一部の実施形態では、放出プロファイルの放出期間は、モル比が1よりも大きい、例えば約1.3~約1.8の範囲にあるとき、モル比の変化によって、約-41日の比率で調整され得る。一部の実施形態では、放出プロファイルの放出期間は、モル比が1よりも小さい、例えば約0.77~約0.56の範囲にあるとき、モル比の変化によって、約103日の比率で調整され得る。
【0082】
モル比に関連して、第一の前駆体における求核基の数、および/または第二の前駆体における求電子基の数も、架橋密度を決定することができる。概して、所与のモル比で、求核基の数または求電子基の数が多くなると、架橋密度も高くなる。一部の実施形態では、方法は、8-アームのPEG NH試薬と8-アームのPEG NHS試薬を、60日以上の放出期間に対して選択することを含む。一部の実施形態では、方法は、4-アームのPEG NH試薬と4-アームのPEG NHS試薬を、60日未満の放出期間に対して選択することを含む。
【0083】
放出速度の調整に使用することができるもう1つのパラメーターは、第一の前駆体および/または第二の前駆体の分子量である。所与のモル比で、前駆体の分子量が小さくなると、ネットワーク孔のサイズも小さくなる。第一の前駆体と第二の前駆体の分子量は、本明細書に記載される予測モデルの放出プロファイルに対し、非連続的な、または個別的な効果を有している。本明細書において使用される場合、「非連続的」または「個別的」という用語は、レベル間を補完することができないことを意味する。例えば既定の分子量を有する第一の前駆体および第二の前駆体(例えば、PEG試薬)の組み合わせは、可能性のある放出期間の範囲を規定することができる。例えばモル比などの他の因子を使用して、放出プロファイルまたは放出期間を微調整することができる。例えば表9に示されるように、10kDa PEG NHと15kDa PEG NHSの組み合わせは、9~31日の範囲に放出期間を規定する。モル比を1.3~1.8の範囲で変化させることで、放出期間を31日から9日に連続的に調整することができる。予測モデルにおいて、モル比、第一の前駆体の分子量、および第二の前駆体の分子量は、独立したパラメーターである。
【0084】
一部の実施形態では、方法は、(a)最小として第一のモル比、および最大として第二のモル比により規定されるモル比の範囲を選択し、および第一の前駆体と第二の前駆体の分子量を選択することによって、最大として第一の放出期間、および最小として第二の放出期間により規定される放出期間の範囲が得られることであって、当該第一のモル比は1以上であり、望ましい放出期間は放出期間の範囲内にあること、および(b)以下の式のうちのいずれか1つに従い望ましいモル比を決定すること、を含む。
望ましいモル比=第一のモル比+(第一の放出期間-望ましい放出期間)/41、および
望ましいモル比=第二のモル比+(第二の放出期間-望ましい放出期間)/41。
【0085】
一部の実施形態では、モル比の範囲は、約1.3~約1.8、またはそれらの下位範囲である。一部の実施形態では、第一のモル比は約1.3であり得、第二のモル比は、約1.3よりも大きく、および約1.8以下であり得、例えば約1.4、約1.5、約1.6、約1.7、または約1.8であり得る。一部の実施形態では、第一のモル比は約1.4であり得、第二のモル比は、約1.4よりも大きく、および約1.8以下であり得、例えば約1.5、約1.6、約1.7、または約1.8であり得る。一部の実施形態では、第一のモル比は約1.5であり得、第二のモル比は、約1.5よりも大きく、および約1.8以下であり得、例えば約1.6、約1.7、または約1.8であり得る。一部の実施形態では、第一のモル比は約1.6であり得、第二のモル比は、約1.6よりも大きく、および約1.8以下であり得、例えば約1.7、または約1.8であり得る。一部の実施形態では、第一のモル比は約1.7であり得、第二のモル比は、約1.7よりも大きく、および約1.8以下であり得、例えば約1.8であり得る。
【0086】
一部の実施形態では、方法は、(a)最大として第一のモル比、および最小として第二のモル比により規定されるモル比の範囲を選択し、および第一の前駆体と第二の前駆体の分子量を選択することによって、最大として第一の放出期間、および最小として第二の放出期間により規定される放出期間の範囲が得られることであって、当該第一のモル比は1以下であり、望ましい放出期間は放出期間の範囲内にあること、および(b)以下の式のうちのいずれか1つに従い望ましいモル比を決定すること、を含む。
望ましいモル比=第一のモル比-(第一の放出期間-望ましい放出期間)/103、および
望ましいモル比=第二のモル比-(第二の放出期間-望ましい放出期間)/103。
【0087】
一部の実施形態では、モル比の範囲は、約0.77~約0.56、またはそれらの下位範囲である。一部の実施形態では、第一のモル比は約0.77であり得、第二のモル比は、約0.77よりも小さく、および約0.56以上であり得、例えば約0.7、約0.65、約0.6、または約0.56であり得る。一部の実施形態では、第一のモル比は約0.7であり得、第二のモル比は、約0.7よりも小さく、および約0.56以上であり得、例えば約0.65、約0.6、または約0.56であり得る。一部の実施形態では、第一のモル比は約0.65であり得、第二のモル比は、約0.65よりも小さく、および約0.56以上であり得、例えば約0.6、または約0.56であり得る。一部の実施形態では、第一のモル比は約0.6であり得、第二のモル比は、約0.6よりも小さく、および約0.56以上であり得、例えば約0.56であり得る。
【0088】
放出速度の調整に使用することができるもう1つのパラメーターは、ハイドロゲルに対する生物製剤と賦形剤の重量比である。ハイドロゲルに対する生物製剤と賦形剤の重量比は、本明細書において、「固形担持量」とも呼称される。固形担持量とは、生物製剤、賦形剤、およびタンパク質担持ハイドロゲルを含むポリマーの総重量に対する、生物製剤と賦形剤の重量比を指す。固形担持量が増加すると、放出プロファイルの形状が変化し得ること、これは主に転換点前の初期拡散フェーズ中の放出が早くなったことに起因することが見いだされた。溶解フェーズの発生(すなわち転換点)と固形担持量の間に逆相関が存在する可能性も高い。理論に拘束されることは望まないが、固形担持量が増加するにつれ、初期拡散フェーズ中の放出も早くなることが予測される。これはタンパク質の溶解性があまり制限されない、PEG濃度が比較的低い微小環境中に、多くのタンパク質が存在するためである。そうした領域のタンパク質はマトリクスの初期水和の際に溶解されるため、濃度依存性の拡散速度も増加する。さらに初期水和の際に溶解されるタンパク質粒子が増加すると、マトリクス内に隙間が形成され、マトリクスの多孔性も増加する。多孔性の高いマトリクスはさらにバルクマトリクスを通り、表面に到達した際に放出される有効拡散速度も増加させる。理論に拘束されることは望まないが、転換点と固形担持量の間の逆相関も、仮説ではあるが、固形担持量の増加で観察された拡散速度の増加によって説明することができる。転換点は、拡散制御レジームと溶解制御レジームの間の推移を示している。固形担持量が増加すると、拡散速度は上昇し始め、より早くなる。これによって、拡散がもはや律速ではなくなるまでの期間が短くなる。拡散制御レジームにおいて、マトリクスを通じた溶解タンパク質の拡散は、タンパク質放出の律速段階である。より多くのタンパク質粒子が溶解するにつれ、マトリクス内の隙間も生成され、マトリクスの多孔性が増大し、拡散速度の増加がもたらされる。溶解制御レジームにおいて、マトリクスを通じた拡散はもはや律速段階ではない。固形担持量が増加すると、より早くこの点に到達する。例えば図5は、放出速度と放出プロファイルに対する固形担持量の影響を示している。
【0089】
一部の実施形態では、生物製剤は、例えば組み換えタンパク質などのペプチドまたはタンパク質であり得る。組み換えタンパク質は、抗体もしくはその断片、短鎖可変断片(scFv)、増殖因子、血管新生因子、またはインスリンであり得る。他の水溶性の生物製剤は、炭水化物、多糖、核酸、アンチセンス核酸、RNA、DNA、低分子干渉RNA(siRNA)、およびアプタマーである。一部の実施形態では、生物製剤は、抗血管内皮増殖因子剤、例えばアフリベルセプト(aflibercept)、ベバシズマブ(bevacizumab)、およびラニビズマブ(ranibizumab)である。一部の実施形態では、生物製剤は、例えばIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4などの免疫グロブリンGである。一部の実施形態では、生物製剤は、二特異性モノクローナル抗体である。多くの二特異性モノクローナル抗体の形式があるが、2つの主要カテゴリーは、IgG様か、非IgG様である。一部の実施形態では、生物製剤は、デコイ受容体ドメインとの融合タンパク質である。
【0090】
水溶性生物製剤は、粒子として調製され、その後、ハイドロゲル内に拡散されることができる。例えば噴霧乾燥または沈殿など複数のタンパク質粒子化技術が存在し、採用してもよいが、ただし対象のタンパク質と当該処理との間に適合性があるものとする。粒子沈殿の実施形態には、実質的な変性を伴わずに生物製剤を、例えばサプライヤーまたは動物源または組み換え源から受領することを含む。固相は、タンパク質にとって安定的な形態である。タンパク質は受領時に凍結乾燥され、または濃縮され、または使用される。次いでタンパク質は、固形状態で処理され、高温、多湿を回避し、および任意で無酸素環境下に置くことで、変性を伴わずに微細粉末として調製される。粉末は例えば、噴霧乾燥、製粉、ボールミル粉砕、凍結粉砕、微小溶液化、または乳棒と乳鉢の処理後に固形タンパク質を篩うなどにより調製されてもよい。タンパク質は、固形形態で対象タンパク質が維持されながら、対象タンパク質が溶解しない適合性のある無水有機溶媒中で処理されてもよい。望ましい範囲への粒子サイズの低下は、例えば適合性のある有機溶媒中の固形タンパク質懸濁液の製粉、ボールミル粉砕、ジェットミル粉砕などにより実現されてもよい。
【0091】
普遍的な賦形剤としては限定されないが、スクロース、プロリン、トレハロース、トリロイシン、マンニトール、イソロイシン、例えばヒスチジン、リン酸塩、酢酸塩およびポリソルベートなどの緩衝剤が挙げられる。
【0092】
固形担持量は、0.1~0.9の範囲、例えば、0.1~0.8、0.1~0.7、0.1~0.6、0.2~0.9、0.2~0.8、0.2~0.7、0.2~0.6、0.3~0.9、0.3~0.8、0.3~0.7または0.3~0.6の範囲であり得る。一部の実施形態では、固形担持量は、約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8または0.9であり得る。
【0093】
放出速度の調整に使用することができる、さらに別のパラメーターは、固形状態製剤中の生物製剤の重量百分率である。本明細書に記載される固形状態製剤は、本開示の脱水ハイドロゲルとは組成的に異なる。脱水ハイドロゲルは、第一の前駆体と第二の前駆体を固形状態製剤の周囲で架橋させることにより形成される。固形状態製剤中の生物製剤の重量百分率は、本明細書において「タンパク質含有量」とも呼称される。タンパク質含有量が高くなると、放出速度も速くなることが判明した。さらにタンパク質含有量は、転換点と、転換点に至るまでの放出速度を変えることにより、放出プロファイルの形状にも影響を与えることができる。微小化粒子のタンパク質含有量は、マトリクス内で粒子が溶解した時の微小環境中の有効タンパク質濃度を決定することができる。PEGハイドロゲル内の拡散は、マトリクス全体での微小環境内のかかる濃度勾配により誘導される。ゆえにタンパク質含有量が高い固形状態製剤に関して、溶解時の局所濃度は、低タンパク質含有量の製剤の局所濃度よりも高くなり、高い拡散推進力が生じている。この現象は、転換点前の拡散制御レジームにおける放出速度とタンパク質含有量の間の相関により観察される。理論に拘束されることは望まないが、転換点とタンパク質含有量の間の逆相関は、濃度依存性の拡散速度が上昇し、溶解が放出の律速段階となる時間フレームの短縮により説明することができる。例えば図4は、放出速度と放出プロファイルに対するタンパク質含有量の影響を示している。
【0094】
固形状態製剤は、生物製剤と1つ以上の賦形剤を含む。固形状態製剤は、例えば沈殿、結晶化、凍結乾燥、噴霧乾燥、ミル粉砕、微小鋳型、噴霧凍結、可逆沈殿、超臨界液体乾燥、および電気噴霧などの方法により製造され得る。凍結乾燥、噴霧乾燥、または別手段により処理されたタンパク質はしばしば、例えばトレハロースまたはスクロースなどのタンパク質を安定化させる糖類とともに製剤化され、またはタンパク質を調製するために使用される他の処理で製剤化される。これら糖類は、ハイドロゲル製剤処理を通じて粒子中に存続する場合がある。タンパク質含有量は10重量%~95重量%の範囲、例えば、10%~90重量%、10%~80重量%、10%~70重量%、10%~60重量%、20%~90重量%、20%~80重量%、20%~70重量%、30%~90重量%、30%~80重量%、または30重量%~70重量%の範囲であり得る。一部の実施形態では、タンパク質含有量は、約10重量%、20重量%、30重量%、40重量%、50重量%、60重量%、70重量%、80重量%、または90重量%であり得る。
【0095】
固形状態製剤は、20μm以下の平均直径を有する粒子を含み得る。一部の実施形態では、固形状態製剤は、約10nm~20μmの平均直径を有する粒子を含み得る。例えば粒子は、約10nm~15μm、10nm~10μm、50nm~20μm、50nm~15μm、50nm~10μm、100nm~15μm、100nm~10μm、200nm~10μm、400nm~10μm、600nm~10μm、1μm~10μm、2μm~10μm、100nm~1μm、または200nm~800nmの平均直径を有し得る。
【0096】
放出速度の調整に使用することができる、さらに別のパラメーターは、ハイドロゲルの表面積と体積の比率である。表面積と体積の比率が高くなると、放出速度が速くなることが判明した。例えば図6は、2つの異なる形態(スラブ形態と微粒子形態)の放出速度における差異を示している。比率は、ハイドロゲルの形態因子を変えることで変化し得る。例示的な形態因子としては限定されないが、スラブ、微小片、微粒子および粉末が挙げられる。物質の表面積を測定する方法は当分野において公知であり、Brunauer Emmett Teller(BET)モデルが挙げられる。表面積と体積の比率は、約1~150mm-1の範囲、例えば、約2~100mm-1、約5~100mm-1、または約10~75mm-1の範囲であり得る。
【0097】
8つのパラメーターのうちの1つが予め決定されている場合、残りの7つのパラメーターのうちの少なくとも1つを調節して、望ましい放出プロファイルを実現することができる。例えば、ハイドロゲルに対する生物製剤と賦形剤の重量比が予め決定されている場合、以下のパラメーターのうちの少なくとも1つを調節することができる:(a)求核基と求電子基のモル比、(b)第一の前駆体中の求核基の数、(c)第二の前駆体中の求電子基の数、(d)第一の前駆体の分子量、(e)第二の前駆体の分子量、(f)固形状態製剤中の生物製剤の重量百分率、および(g)ハイドロゲルの表面積と体積の比率。
【0098】
一部の実施形態では、8つのパラメーターのうちの2つが予め決定されている場合、残りの6つのパラメーターのうちの少なくとも1つを調節して、望ましい放出プロファイルを実現することができる。
【0099】
一部の実施形態では、8つのパラメーターのうちの3つが予め決定されている場合、残りの5つのパラメーターを調節して、望ましい放出プロファイルを実現することができる。
【0100】
一部の実施形態では、8つのパラメーターのうちの4つが予め決定されている場合、残りの4つのパラメーターのうちの少なくとも1つを調節して、望ましい放出プロファイルを実現することができる。
【0101】
一部の実施形態では、8つのパラメーターのうちの5つが予め決定されている場合、残りの3つのパラメーターのうちの少なくとも1つを調節して、望ましい放出プロファイルを実現することができる。
【0102】
一部の実施形態では、8つのパラメーターのうちの6つが予め決定されている場合、残りの2つのパラメーターのうちの少なくとも1つを調節して、望ましい放出プロファイルを実現することができる。
【0103】
一部の実施形態では、8つのパラメーターのうちの7つが予め決定されている場合、残りのパラメーターを調節して、望ましい放出プロファイルを実現することができる。
【0104】
パラメーターのうちの1つ以上の決定に、予測モデルを使用することができる。一部の実施形態では、望ましい放出期間、ならびに第一の前駆体および第二の前駆体の分子量を決定した後、予測モデルは、当該望ましい放出期間をもたらすモル比を提供することができる。
【0105】
望ましい放出プロファイルは、限定されないが、生物製剤、治療される疾患または状態、および投与経路をはじめとする様々な因子に依存し得る。一部の実施形態では、望ましい放出プロファイルは、少なくとも90%の生物製剤の放出に対して、約1週~6カ月、例えば約2カ月~6カ月、または約1週~2カ月の放出期間を含む。眼球への適用に関しては、望ましい放出プロファイルは、約14日間の制御放出を含み得る。一部の実施形態では、放出プロファイルは、約1週~6カ月の近直線的な放出を呈することが望ましい。一部の実施形態では、放出プロファイルは、少なくとも1週間にわたり、近直線的な放出を呈することが望ましい。一部の実施形態では、放出プロファイルは、少なくとも2週間にわたり、近直線的な放出を呈することが望ましい。一部の実施形態では、放出プロファイルは、少なくとも1カ月にわたり、近直線的な放出を呈することが望ましい。一部の実施形態では、放出プロファイルは、少なくとも2カ月にわたり、近直線的な放出を呈することが望ましい。一部の実施形態では、放出プロファイルは、少なくとも6カ月にわたり、近直線的な放出を呈することが望ましい。
【0106】
望ましい放出プロファイルは、遅延型放出部分、S字状、直線的部分、非直線的部分、対数的部分、指数関数的部分、またはそれらの組み合わせを含み得る。一部の実施形態では、望ましい放出プロファイルはS字状の放出プロファイルであってもよく、最小の放出または放出が無く遅延延長され、その後に枯渇するまで持続的な放出が為される。そうした放出プロファイルは液体負荷投与との組み合わせにおいて望ましい場合があり、初期負荷投与が有効レベルを下回って身体から排泄されたときに持続放出を開始するように調整される場合がある。別の望ましい放出プロファイルは、パルス放出プロファイルを実現するよう調整されたS字状プロファイルを伴う2つ以上のハイドロゲルの同時投与を介して実現されてもよい。さらに別の望ましい放出プロファイルは、1つは早く(例えば近直線的放出、対数的放出、または指数関数的放出)、もう1つはゆっくり/遅延(S字状)の異なる放出プロファイルを伴う2つ以上のハイドロゲルの同時投与を介して実現されてもよい。
【0107】
ハイドロゲル製剤
無水および疎水性の溶媒の存在下で、ハイドロゲルは、生物製剤を有する固形状態製剤の周囲で、既定のモル比で第一の前駆体と第二の前駆体を架橋することにより形成されることができる。一部の実施形態では、無水および疎水性の有機溶媒は、塩化メチレン、酢酸エチル、炭酸ジメチル、クロロホルム、またはそれらの組み合わせである。
【0108】
一部の前駆体は、開始剤を使用して反応する。開始剤の基は、フリーラジカル重合反応を開始する能力を有する化学基である。当該基は、例えば、別個の構成要素として存在してもよく、または前駆体上の懸垂基として存在してもよい。開始剤の群には、熱開始剤、光励起性開始剤、および酸化-還元(レドックス)系が含まれる。長波UVおよび可視光の光励起性開始剤には例えば、エチルエオシン群、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン群、他のアセトフェノン誘導体、チオキサントン群、ベンゾフェノン群、およびカンファーキノン群が挙げられる。熱反応性開始剤の例としては、4,4’アゾビス(4-シアノペンタン酸)群、およびベンゾイルペルオキシド群のアナログが挙げられる。いくつかの市販の低温フリーラジカル開始剤、例えばWako Chemicals USA,Inc.、(バージニア州リッチモンド)から入手可能なV-044を使用して、体温でフリーラジカル架橋反応を開始させ、前述のモノマーを含むハイドロゲルコーティングを形成させてもよい。
【0109】
金属イオンは、レドックス誘発システムにおいて酸化剤または還元剤のいずれかとして使用され得る。例えば第一鉄イオンは、重合を開始させるためのペルオキシドまたはヒドロペルオキシドとの組み合わせで使用されてもよく、または重合系の一部として使用されてもよい。この場合、第一鉄イオンは、還元剤としての役割を果たす。あるいは金属イオンは酸化剤としての役割も果たし得る。例えばセリウムイオン(セリウムの4+価状態)は、カルボン酸やウレタンをはじめとする様々な有機基と相互作用して、金属イオンに対する電子イオンを取り除き、有機基上に開始ラジカルを残す。そうした系では、金属イオンは酸化剤として作用する。いずれかの役割に適合する可能性がある金属イオンは、遷移金属イオン、ランタニド、およびアクチニドのいずれかであり、それらは少なくとも2個の容易にアクセス可能な酸化状態を有している。特に有用な金属イオンは、電荷におけるたった1つの差異によって少なくとも2つの状態を分けている。これらのうち、最も普遍的に使用されているのは第二鉄/第一鉄、第二銅/第一銅、コバルト(cobaltic/cobaltous)、バナジウム酸塩IVに対するV、過マンガン酸塩、およびマンガン(manganic/manganous)である。過酸化水素、t-ブチルヒドロペルオキシド、t-ブチルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、クミルペルオキシドを含む、例えばペルオキシドおよびヒドロペルオキシドなどの過酸化物(peroxygen)含有化合物が使用されてもよい。
【0110】
開始システムの例は、1つの溶液中での過酸化化合物と、別の溶液中での例えば遷移金属などの反応性イオンとの組み合わせである。この場合、重合の外部開始剤は必要ではなく、重合は、2つの相補的反応性官能基含有部分が適用部位で相互作用するとき、外部エネルギーの適用や、外部エネルギー源を使用することなく、自発的に進む。
【0111】
可視化剤を、ハイドロゲル中で粉末として使用してもよい。可視化剤はヒトの目で検出可能な波長の光を反射または放射するため、ハイドロゲルを適用しているユーザーは、目的物が有効量の剤を含有しているときに観察することができるようになる。画像化に機械の補助を必要とする剤は、本明細書において画像化剤と呼称され、例としては、放射線不透過性造影剤と超音波造影剤が挙げられる。
【0112】
いくつかの生体適合性のある可視化剤は、FD&C BLUE #1、FD&C BLUE #2、およびメチレンブルーである。これらの剤は、0.05mg/mlよりも高い濃度で、好ましくは少なくとも0.1~約12mg/mlの濃度範囲で、さらに好ましくは0.1~4.0mg/mlの範囲で、最終求電子-求核反応性前駆体種ミックス中に存在することが好ましいが、可視化剤の溶解限界までのさらに高い濃度も潜在的に使用され得る。可視化剤はハイドロゲルの分子ネットワークに共有結合してもよく、それによって患者への適用後、ハイドロゲルが加水分解して溶解するまで可視化状態が保持される。
【0113】
可視化剤は、例えばFD&C BLUE染料3および6、エオシン、メチレンブルー、インドシアニングリーン、または合成外科縫合糸で通常に存在する有色染料など、医療用移植型医療デバイスでの使用に適した様々な非毒性の有色物質のいずれかから選択されてもよい。例えばNHS-フルオレセインなどの反応性可視化剤を使用して、可視化剤をハイドロゲルの分子ネットワーク内に組み込むこともできる。可視化剤は、例えば架橋剤または官能性ポリマー溶液などの反応性前駆体種のいずれかとともに存在してもよい。好ましい有色物質は、ハイドロゲルに化学的に結合されても、されなくてもよい。可視化剤は少量で使用されてもよい。例えば1%w/vで、より好ましくは0.01%w/v未満で、最も好ましくは0.001%w/v未満の濃度で使用されてもよい。当業者であれば、明白に記載された範囲内の全ての範囲および値が予期されることを直ちに認識するであろう。当該剤は、粒子の位置に印をつけるのに役立ち、その存在と分解速度に関する指標を提供する。
【0114】
脱水ハイドロゲルは架橋ハイドロゲルから形成されてもよく、それによって、生理学的溶液中での水和反応で、水分解性のハイドロゲルが形成される。水分解性は、過剰量の水の存在下で水分解性基の加水分解によりハイドロゲルがインビトロでその機械的強度を失い、最終的には消散することにより測定可能である。この検証は、加水分解性のインビボ溶解を予測させるものであり、細胞またはプロテアーゼ誘導性の分解とは対照的なプロセスである。しかし重大なことに、ポリ酸無水物、または他の慣習的に使用されている、酸性成分に分解する分解性物質は、組織に炎症を起こす傾向がある。しかしハイドロゲルはそのような物質を除外してもよく、およびポリ酸無水物、無水結合、または酸もしくは二酸に分解する前駆体を含まなくてもよい。
【0115】
例えば、N-ヒドロキシスクシンイミジルグルタル酸塩、N-ヒドロキシスクシンイミジルコハク酸塩、N-ヒドロキシスクシンイミジル炭酸塩、N-ヒドロキシスクシンイミジルアジピン酸塩、またはN-ヒドロキシスクシンイミジルアゼライン酸塩などの求電子基を使用してもよく、それらは加水分解を受けやすいエステル結合を有している。例えばピメリン酸塩結合、スベリン酸塩結合、アゼライン酸塩結合またはセバシン酸塩結合などのより直線的な親水性結合を使用してもよく、これら結合はコハク酸塩結合、グルタル酸塩結合、またはアジピン酸塩結合よりも分解性が低い。分岐した環状または他の疎水性結合を使用してもよい。ポリエチレングリコールおよび他の前駆体を、これらの群を用いて調製してもよい。架橋ハイドロゲルの分解は、水分解性物質を使用する場合、生分解性セグメントの水誘導性加水分解により進行する場合がある。望ましい分解速度を提供するために、エステル結合を含むポリマーが含有されてもよく、ポリマーは分解速度を上げる、または下げるために、エステルの近くで基が付加または置換される。したがって数日から数カ月の望ましい分解プロファイルを有するハイドロゲルを、分解性セグメントを使用して構築することが可能である。ポリグリコール酸塩を生分解性セグメントとして使用する場合、例えば架橋ポリマーは、ネットワークの架橋密度に応じて約1日~約30日で分解するように作製され得る。同様に、ポリカプロラクトンを基にした架橋ネットワークは、約1~8カ月で分解するように作製され得る。分解時期は概して、以下の順序で、使用される分解性セグメントの対応に従い変化する:ポリグリコール酸塩<ポリ乳酸塩<ポリトリメチレン炭酸塩<ポリカプロラクトン。したがって数日から数カ月の望ましい分解プロファイルを有するハイドロゲルを、分解性セグメントを使用して構築することが可能である。
【0116】
ハイドロゲルおよび/または前駆体中の生分解性結合は、水分解性であっても、または酵素分解性であってもよい。例示的な水分解性の生分解性結合としては、グリコリド、dl-ラクチド、1-ラクチド、ジオキサノン、エステル、炭酸塩、および炭酸トリメチレンのポリマー、コポリマーならびにオリゴマーが挙げられる。例示的な酵素分解性の生分解性結合としては、メタロプロテアーゼおよびコラゲナーゼにより切断可能なペプチド結合が挙げられる。生分解性結合の例としては、ポリ(ヒドロキシ酸)、ポリ(オルト炭酸塩)、ポリ(無水物)、ポリ(ラクトン)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(炭酸塩)、およびポリ(リン酸塩)のポリマーならびにコポリマーが挙げられる。
【0117】
生体適合性架橋マトリクスが生分解性または吸収性であることが望ましい場合、官能基の間に生分解性結合を有する1つ以上の前駆体を使用してもよい。生分解性結合は任意で、マトリクスを作製するために使用される前駆体のうちの1つ以上の水溶性コアとしての役割を果たしてもよい。それぞれの方法に関し、生分解性結合は、作製される生分解性生体適合性架橋ポリマーが望ましい期間で分解または吸収されるように選択されてもよい。
【0118】
マトリクス物質は、分解産物が循環系に吸収されるように、および原則として腎ろ過を介して身体から排出されるように選択されてもよい。マトリクス物質は、生理学的溶液中のハイドロゲルであってもよい。1つの方法は、前駆体間の結合が分解されて、前駆体、または共有結合架橋プロセスによって生じた小さな変化を伴う前駆体を戻す、身体中で分解されない前駆体を選択することである。この方法は、酵素処理により破壊される生物マトリクス物質、および/もしくはマクロファージにより排除される物質、または効率的に水に溶けない副産物を生じさせる物質を選択することとは対照的である。腎ろ過により身体から排泄される物質は、当業者に公知の技術を使用して標識および尿中で検出することができる。これら物質のいくらかは少なくとも理論的には他の身体系へと失われるだろうが、この物質の通常の運命は、腎クリアランスのプロセスである。ゆえに「原則として排泄される」という用語は、腎臓を通じて通常に排泄される物質を指す。
【0119】
適用
一部の実施形態では、ハイドロゲル物質は患者内に、例えば眼球内、硝子体内、上脈絡膜腔、粘膜下、局所、皮下、筋肉内、腹腔内、身体の潜在的腔内、または自然の空洞もしくは開口部内を含む、組織または器官内に配置されてもよい。物質は、治療剤(例えば、生物製剤)の経時的な放出のためのデポを提供する。ゆえに実施形態は、配置のために約0.05~約500mlの体積(粒子集合が送達される場合には総体積を指す)を含む。当業者であれば、明白に記載された範囲内の全ての範囲および値、例えば1~10ml、または5~50mlが予期されることを直ちに認識するであろう。例えば腹腔内注射または筋肉内注射は、数時間、数日、または数週にわたる長期的な剤の制御放出に有用な領域である。
【0120】
本明細書に記載される物質を使用して、薬剤または他の治療剤(例えば画像化剤またはマーカー)を送達してもよい。適用の1つの様式は、ハイドロゲル粒子と他の物質(例えば治療剤、緩衝剤、加速剤、開始剤)の混合物を、針、カニューレ、カテーテルまたは中空のワイヤを通して部位へと適用することである。混合物は例えば、手動制御シリンジまたは機械制御シリンジ、例えばシリンジポンプを使用して送達されてもよい。あるいはデュアルシリンジまたは多連銃型のシリンジまたは多ルーメン型システムを使用して、部位で、または部位近傍で、水和液および/または他の剤と、ハイドロゲル粒子を混合してもよい。
【0121】
脱水ハイドロゲルは、例えば流動性粒子などの流動性のある形態で部位へと提供されてもよい。ハイドロゲルは液体中で懸濁され、部位へと適用されてもよい。ハイドロゲル粒子は、3~5フレンチカテーテル、または10~30ゲージ針を手で押してシリンジを通過する最大直径を有するよう作製されてもよい。当業者であれば、明白に記載される範囲内の全ての範囲および値、例えば25~30ゲージなどを直ちに認識するであろう。小さな針を使用することは、敏感な器官である眼において特に有益である。例えば出血を制御する、または他の損傷を制御するために、他の器官へ適用することも有益である。粒子は、ハイドロゲルを生成し、次いでそれを小片へと破壊することにより形成されてもよい。ハイドロゲルは例えば、ボールミルで粉砕されてもよく、または乳鉢と乳棒を用いて粉砕されてもよく、またはナイフもしくはワイヤを用いて切り刻まれてもよく、もしくは四角く切られてもよい。またはハイドロゲルは、ブレンダーやそれに似た装置で切断されてもよい。ハイドロゲルはメッシュを通されてもよく、または望ましいサイズと形状の鋳型へと流し込まれてもよい。ハイドロゲルは、治療剤担持粒子を含有してもよい。ハイドロゲル粒子の一部または全てが、治療剤担持粒子を含有してもよい。一部の実施形態では、第一の治療剤を担持した治療剤担持粒子の第一セットは、ハイドロゲル粒子の第一セットの内部に含まれ、第二の治療剤を担持した治療剤担持粒子の第二セットは、ハイドロゲル粒子の第二セットの内部に含まれる。この方法で、複数の治療剤が1つのインプラントから放出にされ得る。当該粒子の実施形態は、 例えば球、棒、またはディスクなどの特定の形状のものを含む。
【0122】
実施形態は、複数のハイドロゲル粒子の配置を含む。ハイドロゲル粒子は、治療剤を含んでもよい。粒子は、25ゲージ以下の直径の針を手で押して通過させるサイズで作製されてもよい。針に粒子を通過させる圧力は、手でもたらされてもよい。
【0123】
粒子送達の代替法は、造形品として前もってゲルを形成し、次いで身体内に物質を導入することである。例えばハイドロゲルは、球、棒、円柱、または他の形状として形成されてもよい。実施形態は、皮下移植、および1つ以上の治療剤の送達のためのハイドロゲルの固形棒を含む。
【0124】
本明細書に記載されるハイドロゲルは、組織増強に使用されてもよい。皮膚増強のためのコラーゲンの使用は公知である。例えばハイドロゲルは、皮膚充填剤または組織増強に使用されてもよい。実施形態は、組織中に複数の粒子を注入または別手段により配置すること、または原位置でハイドロゲルを形成させることを含む。物質は目的の部位で注入または別手段により配置されてもよい。
【0125】
本明細書に記載されるハイドロゲルを使用して組織を分離させ、当該組織のうちの1つが受ける放射線の線量を低下させてもよい。米国特許第7,744,913号に記載されるように、スペーサー物質を患者に配置してもよい。当該特許は、本明細書とともに全ての目的に対し本明細書において参照により援用され、矛盾が生じた場合には本明細書が統制する。特定の実施形態は、第一の組織の場所と第二の組織の場所の間の位置にスペーサーを導入し、当該第一の組織の場所と当該第二の組織の場所の間の距離を増大させることを含む。さらに少なくとも当該第一の組織の場所または当該第二の組織の場所に、放射線の線量を与える工程があってもよい。例えば方法は、生体適合性で生分解性の粒子状ハイドロゲル、例えば任意で放射線不透過性の内容物を含む粒子の集まりを、第一の組織の場所と第二の組織の場所の間に導入して、当該第一の組織の場所と当該第二の組織の場所の間の距離を増大させること、および治療線量の放射線で当該第二の組織の場所を治療することによって、充填デバイスの存在が、当該第一の組織の場所が受ける放射線の線量を、スペーサーの非存在下で当該第一の場所が受けるであろう放射線の線量と比較して低くさせることを含む、治療線量の放射線を患者に送達することである。スペーサーは、患者中でハイドロゲルを形成する脱水ハイドロゲルとして導入されてもよく、当該脱水ハイドロゲルは当該患者中で、スペーサー-ハイドロゲルの生分解により除去される。例は、第一の組織の場所が直腸と関連する場合、および第二の組織の場所が前立腺と関連する場合である。放射線の低下量は変化し得る。実施形態は、少なくとも約10%~約90%を含む。当業者であれば、明白に記載される範囲内の全ての範囲および値、例えば少なくとも約50%などを直ちに認識するであろう。あるいは放射線は第三の組織へと向けられてもよく、他の組織から離された結果として、第一の組織または第二の組織の受ける放射線量は低くなる。第一の組織および第二の組織は身体中で互いに隣接してもよく、または他の組織により互いに離れていてもよい。組織分離用のスペーサーの量は、治療される組織の構造に依存し、および互いに離される組織の構造に依存する。多くの場合において、約20立方センチメートル(ccまたはml)の量が適切である。他の実施形態では、わずか約1ccが必要とされ得る。他の量は、約5~1000ccの範囲である。当業者であれば、明白に記載される範囲内の全ての範囲および値、例えば10~30ccなどを直ちに認識するであろう。一部の実施形態では、スペーサーは異なるときに2つの用量で投与され、それによって組織は広げられてスペーサーのための空間があけられ、より簡単に可能な別手段で行うよりも多量のスペーサーが入れられる。スペーサーにより離される組織としては例えば、直腸、前立腺、および胸部のうちの少なくとも1つ、またはそれらの一部が挙げられる。例えば胸部の第一部分は、第二の部分から離されてもよい。
【0126】
本発明の詳細は、以下の添付の記載において説明される。本明細書に記載されるものと類似した、または均等の方法および材料を、本発明の実施または検証に使用することができるが、ここでは実例としての方法および材料を記載する。本発明の他の特性、目的および利点は、明細書および請求の範囲から明らかであろう。明細書および添付の請求の範囲において、文脈から別段であることが明白でない限り、単数形は複数形も含む。別段の規定がない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって普遍的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に置いて引用される全ての特許および公開文献は、参照によりその全体で本明細書に援用される。
【0127】
定義
本明細書において定義され、および使用される全ての定義は、辞書による定義、参照により援用される文書における定義、および/または定義される用語の通常の意味を超えて統制することを理解されたい。
【0128】
明細書および請求の範囲において使用される場合、1つ以上の要素の列記に関連した「少なくとも1つ」という文言は、当該要素の列記中の要素のうちのいずれか1つ以上から選択される少なくとも1つの要素を意味すると理解されたい。しかし当該要素の列記内に具体的に列記される各要素および全要素のうちの少なくとも1つを必ずしも含むものではなく、および当該要素の列記中の要素のいずれか組み合わせを除外するものではないことを理解されたい。この定義はさらに、当該文言の「少なくとも1つ」が言及する要素の列記内で具体的に特定される要素以外の要素が、当該具体的に特定される要素に関連または非関連であろうと、任意で存在し得ることを許容する。ゆえに非限定的な例として、「AおよびBのうちの少なくとも1つ」(または同等に、「AまたはBのうちの少なくとも1つ」または同等に、「Aおよび/またはBのうちの少なくとも1つ」)とは、1つの実施形態では、Bを含まない(および任意でB以外の要素を含む)、任意で複数を含む少なくとも1つのAを指す場合がある。別の実施形態では、Aを含まない(および任意でA以外の要素を含む)、任意で複数を含む少なくとも1つのBを指す場合がある。さらに別の実施形態では、任意で複数のAを含む少なくとも1つ、および任意で複数のBを含む少なくとも1つ(および任意で他の要素を含む)を指す場合がある。
【0129】
請求の範囲ならびに上述の明細書において、例えば「含有する」、「含む」、「持つ」、「有する」、「包含する」、「伴う」、「保持する」、「~から構成される」などの全ての移行句は、制限がないと理解されたい。すなわち、以下を含むがそれらに限定されないことを意味すると理解されたい。「~からなる」および「本質的に~からなる」という移行句のみがそれぞれ制限的または半制限的な移行句であるものとし、このことについては米国特許庁の米国特許審査便覧、セクション2111.03に記載されている。
【0130】
本明細書において使用される場合、「放出プロファイル」および「放出速度」は相互交換可能に使用されて、生理学的条件下でハイドロゲルから生物製剤が放出される時間関数としての様態を指す。放出プロファイルは、放出期間と、当該放出期間中の1つ以上の放出速度により特徴付けられる。放出プロファイルは、X軸に時間、Y軸に生物製剤放出の測定尺度(例えば、百分率、放出された生物製剤の累積質量、または放出された生物製剤の累積質量と総ハイドロゲル質量の比率)をおいたグラフにより可視化することができる。
【0131】
本明細書において使用される場合、「近直線的放出」という用語は、tに比例した放出速度を指し、式中、tは時間であり、nは0.5~1の範囲である。当業者であれば、明白に記載された範囲内の全ての範囲および値、例えば0.5~0.95、0.5~0.9、0.5~0.85、0.5~0.8、0.6~0.95、0.6~0.9、0.6~0.85、0.6~0.8、0.7~0.95、0.7~0.9、0.7~0.85、または0.7~0.8などが予期されることを直ちに認識するであろう。一部の実施形態では、nは、0.5である。一部の実施形態では、nは、0.55である。一部の実施形態では、nは、0.6である。一部の実施形態では、nは、0.65である。一部の実施形態では、nは、0.7である。一部の実施形態では、nは、0.75である。一部の実施形態では、nは、0.8である。一部の実施形態では、nは、0.85である。一部の実施形態では、nは、0.9である。一部の実施形態では、nは、0.95である。一部の実施形態では、nは、1である。
【0132】
「約」という用語は、指定される値よりも15%、10%、8%、5%、3%、2%、1%もしくは0.5%大きい、または小さい可能性がある値の範囲を指す。例えば、「約10%」は、8.5%~11.5%である可能性がある。1つの実施形態では、「約」という用語は、指定される値よりも5%大きい、または小さい値の範囲を指す。別の実施形態では、「約」という用語は、指定される値よりも2%大きい、または小さい値の範囲を指す。別の実施形態では、「約」という用語は、指定される値よりも1%大きい、または小さい値の範囲を指す。
【0133】
「a」および「an」といった冠詞は、本開示において、当該冠詞の文法上の対象の1つまたは複数(すなわち少なくとも1つ)を指すために使用される。例示として、「an element」とは、1つの要素または複数の要素を意味する。
【0134】
「および/または」という用語は、本開示において、別段の示唆が無い限り、「および」または「または」のいずれかを意味するために使用される。
【0135】
請求の範囲は、当該影響に関して言及されないかぎり、記載される順序または要素に限定されると理解されないものとする。添付の請求の範囲の主旨および範囲から逸脱することなく、当業者によって、形態および詳細において様々な変化が為され得ることを理解されたい。以下の請求の範囲の主旨および範囲内にある全ての実施形態、およびその均等が、権利請求される。
【実施例0136】
本開示は、以下の実施例および合成実施例によってさらに解説されるが、それらは、本明細書に記載される特定の手順に対し、範囲または主旨において本開示を限定するものとはみなされないものとする。実施例は、特定の実施形態を解説するために提示されるものであり、実施例により本開示の範囲を限定する意図はないことを理解されたい。さらに本開示の主旨、および/または添付の請求の範囲から逸脱することなく、当業者に示唆され得る様々な他の実施形態、改変および均等が再分類され得ることを理解されたい。
【0137】
実施例1
本実施例において、これらパラメーターが独立して、ならびに組み合わせて、どのように放出速度に影響を与えるのか、およびそれらをどのように活用して特定の標的産物プロファイルを達成させ得るのか、についての例示を記載する。mAb IgG1およびmAb IgG4は、データセットを用いて本報告において提示される結果の大部分に対してモデル的なモノクローナル抗体として使用され、さらに二特異性mAbとTrapタンパク質も含まれる。概して、本実施例に提示される結果は、他のモノクローナル抗体(mAb)または本実施例で使用されるmAbに大きさが似たタンパク質に拡張され得る。
【0138】
タンパク質ハイドロゲル送達システムは、2つの分岐PEG試薬と、相補的反応性末端基とを、有機溶媒中に懸濁された噴霧乾燥タンパク質の存在下で反応させることにより組み立てられる。反応が行われると、PEG試薬は噴霧乾燥タンパク質を捕捉した架橋ネットワークを形成し、タンパク質は固形状態を維持する。次いで得られたmAb担持ポリマーマトリクスから、固形脱水mAbハイドロゲル医薬品を残して、溶媒を除去する。これをmAb-XPEGと名付けた。有機溶媒は、溶媒に不溶性で安定的であることを必要とする噴霧乾燥タンパク質との適合性、および処理の懸念事項に関して選択される。本実施例に提示される全ての実験において、ジクロロメタン(DCM)が反応溶媒として使用され、選択されたタンパク質との適合性、ならびに室温、真空下でmAb-XPEGマトリクスの乾燥を容易にするための揮発性に関して選択された。mAb-XPEGマトリクスは、スラブとして形成されることができ、またはフィルムとして成形されることができ、または鋳型内で成形されることができる。乾燥した後、固形マトリクスはさらに特定の幾何配置を有する形状および/または粒子へと切断されることができる。
【0139】
mAb-XPEG医薬品が水和される場合、ハイドロゲルであるマトリクスは膨張する。水和されると、担持された噴霧乾燥mAbの一部は溶解し、マトリクスから拡散する。この初期フェーズにおいて、マトリクスからのタンパク質放出は拡散ベースであり、時間平方根への依存を呈する。残りのタンパク質は、ポリマーマトリクス内の局所微小環境中で高濃度のPEGに曝され、ハイドロゲル溶解が進行し、局所微小環境中のPEG濃度があるレベルに低下するまで固形状態で維持される。そのレベルになると、タンパク質が溶解される。ゆえに水和環境中で時間が経過するにつれ、PEGマトリクス中の架橋は加水分解により崩壊し、タンパク質の溶解と、続いてポリマーマトリクスからの拡散が生じる。この放出フェーズにおいては、マトリクスの溶解が律速段階であり、タンパク質放出は時間関数として指数関数的である。最終的にマトリクスが、固形タンパク質が残らない点まで崩壊したとき、マトリクス内の溶液中の残存タンパク質の放出は再度、残存マトリクスを介した拡散により制御される。これらのマトリクスからのタンパク質放出フェーズによって、放出プロファイルの特徴的なS字の形状が生じる(図1)。
【0140】
図1のフェーズIにおいて、水和の際に、表面に露出した担持タンパク質の一部、または低PEG密度領域中の担持タンパク質の一部が可溶化される。表面上または表面近くのタンパク質粒子は直ちに「バースト」放出として放出される。この現象は、バースト放出の増加と、体積(質量)に対する表面積の増加が相関することから明白である。水和時に溶解されるタンパク質は、表面ではなく低PEG密度領域中にあったと推測され、「拡散」フェーズでの放出に利用される。この現象は、NH:NHSのモル比の増加に伴う、拡散フェーズ中に放出されるタンパク質量の増加により明白である。理論に拘束されることは望まないが、モル比が増加することによって、形成される架橋が少なくなり、タンパク質粒子を溶解させる低PEG密度の領域が広くなる。このフェーズにおいて、拡散はFickian拡散に従う。拡散の駆動力は可溶化されたタンパク質の濃度であるが、PEG架橋により生成された多孔ネットワークによる減速を受ける。したがってこの拡散フェーズ中の放出速度は、PEG架橋の程度と構造に影響を受け得る。
【0141】
図1のフェーズIIにおいて、PEG架橋の切断が、マトリクスからのタンパク質放出の律速段階となる程度にまで達したときに、溶解フェーズが始まる。理論に拘束されることは望まないが、PEG架橋の切断が一次的プロセスであり、そして切断が発生すると、マトリクス内のPEG密度が低下しタンパク質粒子が可溶化され、ならびに多孔ネットワークが広くなると、PEGマトリクスを通じたタンパク質の拡散速度が上昇すると予測される。溶解制御放出が観察される放出プロファイル中の点は、マトリクスからのタンパク質拡散の全体的な速度が、架橋の有効溶解よりも早くなったときに発生する。溶解フェーズ中の放出プロファイルの形状は、溶解の一次的プロセスとの正相関である。溶解フェーズの放出速度と期間は、架橋の程度(NH:NHSのモル比)、切断速度、およびこのフェーズの開始時にマトリクス中に残存しているタンパク質の総量に依存すると予測される。
【0142】
図1のフェーズIIIにおいて、枯渇フェーズは、再度Fickian拡散が律速となったときに発生する。このフェーズでは、全てのタンパク質がマトリクス内で溶解したと推測され、放出拡散の駆動力は、残存タンパク質がマトリクスから枯渇するにつれ低下する。この現象は、枯渇を示すプラトーの直前の放出プロファイルの特徴的な形状(時間平方根に対して直線的)により明白である。タンパク質担持量、ならびに拡散フェーズおよび溶解フェーズ中の放出速度および放出期間に応じて、このフェーズはゲル全体が溶解するよりずっと前に発生する場合がある。
【0143】
表1は、タンパク質担持ハイドロゲル医薬品送達システムにおいて、理論的には放出速度と関連する製剤パラメーターを列記したものである。これらのパラメーターは以下の3つのカテゴリーに分けられる:ポリマー試薬の選択に依存する因子、噴霧乾燥タンパク質製剤に関連する因子、およびmAb-XPEGの製造において決定される因子。このリストは製剤化に関連したパラメーターのみを検討しており、例えば溶媒、試薬濃度、反応条件などのプロセスパラメーターは含まれていない。本実施例に含まれるすべての実験に関し、当該プロセスパラメーターは、一定に維持されている。
【0144】
【表1】
【0145】
タンパク質担持ハイドロゲルの製造および噴霧乾燥タンパク質製剤の活用に焦点を当てることの論拠、およびポリマー試薬の選択を制限する論拠(すなわち、MW、および同じ官能末端基の化学構造)は、CMC(化学(Chemistry)、製造(manufacturing)および制御(control))および規制上の目的から、PEG試薬の数を2に限定することによりプラットフォームの複雑性をシンプルにすることである。しかしながら、マトリクス内のタンパク質拡散、およびハイドロゲルマトリクスの溶解速度に影響を与える様々なポリマーの特性(例えば官能末端基の化学構造)を活用することにより、本システムにおいて同様の調整を実現し得ることに留意されたい。
【0146】
放出速度の理解において噴霧乾燥製剤パラメーターの検討は、本送達システムのプラットフォーム開発において重要なファクターである。噴霧乾燥製剤を活用して望ましい放出速度を実現し得る一方で、製剤化もタンパク質の安定性に応じて影響を受け得る。放出速度に関して、ハイドロゲルマトリクス内に担持されたとき分子は同じように振舞う場合があるが、タンパク質の安定性は分子特異的であることが知られており、異なるタンパク質は、製造プロセスまたは保存中のいずれかで、中間原薬またはタンパク質担持ハイドロゲルとして安定性を維持するために噴霧乾燥製剤に変更を必要とする場合がある。したがっていずれの場合でも、どのように噴霧乾燥製剤が放出速度に影響を与えるかを理解することが重要である。同様に、ハイドロゲル作製パラメーターとしての表面積と体積の比率にもこれは当てはまる。一部の例では、表面積と体積の比率を活用して望ましい放出速度が実現される場合があるが、投与に必要とされる形状因子(例えばシリンジ型であるか、またはインプラントとしてであるか)による影響または制限を受ける場合もある。
【0147】
材料および方法
【0148】
【表2】
【0149】
【表3】
【0150】
表3における、タンパク質放出速度に対する、タンパク質担持ハイドロゲル製剤パラメーターの影響に関する多因子解析に含まれる範囲および因子。表面積と体積の比率は、本評価において制御されない。サンプルは表4に記載される。
【0151】
【表4】
【0152】
【表5】
【0153】
表5における、mAb放出速度に対する、タンパク質担持ハイドロゲル製剤パラメーターの影響に関する多因子解析に含まれる範囲および因子。試験Iから拡張された範囲、および因子として含まれる表面積:体積の比率 サンプルは表6に記載される。
【0154】
【表6】
【0155】
mAb-XPEG作製プロトコールを以下に示す。
【0156】
I.試薬調製:
PEG試薬を別々の管に加える。
DCMを加える。
PEG試薬が溶けるまでしっかりと混合する。
PEG-NH溶液を各バイアルの噴霧乾燥タンパク質に加える。
くるくると回し、ソニケートして、タンパク質をPEG-NH溶液中に懸濁する。および
各工程後の重量を記録する。
【0157】
II.架橋反応:
PEG-NH/タンパク質懸濁液を加え、分注しながら混合する。
モル比(NH:NHS)は、均質な溶液/懸濁液と仮定して、製造中に加えられたPEG-NHS溶液とPEG-NH/タンパク質懸濁液の重量に基づき決定される。
真空チャンバーまたはドラフト中、蓋を外して室温に一晩置き、溶媒を蒸発させる。
【0158】
結論
図2~6は、放出プロファイルに対する独立因子の影響の例を示す。
【0159】
図7~8は、重要な製剤パラメーターを活用して放出プロファイルを調整した例を示す。
【0160】
図9は、因子を調整して、スラブから微粒子への形態因子の変化が放出速度に与える影響を弱めたことの例を示す。微粒子は、ミル粉砕と篩い分けを介して製造され、非均一である。目的はバースト放出を減らすこと、および45~56日間の放出を実現することである。
【0161】
実施例2.
本実施例は、ハイドロゲルの放出プロファイルに対する以下の3つの因子の影響を調査するものである:NH:NHSのモル比、PEG-NHの分子量、およびPEG-NHSの分子量。モル比は、<60日の標的期間を達成するように、>1.0であり、1.3~1.8の範囲となるように選択される。市販の4-アーム型のPEG NHおよびNHSを本試験に含めた。モル比は、連続的因子として処理され、一方でPEG-NHまたはPEG-NHSの分子量はカテゴリー別に処理される。パラメーター設計に関しては表7を参照のこと。
【0162】
【表7】
【0163】
表7において、定数パラメーター:50%タンパク質担持量(mAb IgG1)、60%固形担持量、およびSA:V 約23mm-1
【0164】
以下の表8は、予測モデルを作成するために実施された様々な実験を示す。
【0165】
【表8】
【0166】
図10は、モデル解析を示す。AC<6での検出力>0.95は、モデルの強い予測力を示す。
【0167】
【表9】
【0168】
以下の表10に示されるように、4つの選択された点に対するモデルの精度は、>99.8%である。予測式の全体的な精度は、本実施例の式において>99.9%である。本モデルにおいて使用された式の全適合に対する予測精度(すなわち、決定係数(R-squared))は、>98%である。
【0169】
【表10】
【0170】
表11において、モル比、PEG NH分子量、およびPEG NHS分子量を変え、一定のタンパク質(IgG1 mAb1)、賦形剤担持量および表面積:体積(SA:V)比率を使用して、指定の放出期間の<60日を実現した4-アーム型XPEG製剤を要約する。
【0171】
【表11】
【0172】
実施例3.
表12は、溶媒混合物の組み合わせと比率を調整して、XPEG反応時間を変えることで、製造の規模拡大が可能となることを示す。反応時間は、溶媒/PEG溶液の最初の混合から、ハイドロゲルが一つの固形構造となるまでの時間として規定される。
【0173】
【表12】
【0174】
均等
本発明は上述の特定の実施形態を併せて記載されているが、多くのそれらの変更、改変、および他の変動が当業者には明白であろう。そうした変更、改変および変動のすべてが、本発明の主旨および範囲の内にあることが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
【手続補正書】
【提出日】2024-04-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
その中に配置される生物製剤対して望ましい放出プロファイルを有するハイドロゲルを作製する方法であって、前記生物製剤、前記ハイドロゲル中に配置される前は固形状態製剤中にあり、前記方法は、
以下のパラメーターのうちの少なくとも1つを予め決定すること:
(a)第一の前駆体中の求核基の数、
(b)第二の前駆体中の求電子基の数、
(c)前記第一の前駆体の分子量、
(d)前記第二の前駆体の分子量、
(e)前記ハイドロゲルに対する、前記生物製剤と賦形剤の重量比、
(f)前記固形状態製剤中の前記生物製剤の重量百分率、および
g)前記ハイドロゲルの表面積と体積の比率、
前記望ましい放出プロファイルが得られるまで、単独で、または予め決定されていない上述のパラメーターのうちのいずれか1つ以上との組み合わせで、前記求電子基に対する前記求核基のモル比を決定し、ここで前記求電子基に対する前記求核基のモル比が1.1~2の範囲であること、ならびに
無水条件下で、前記固形状態製剤の周囲に、前記決定されたモル比で前記第一の前駆体と前記第二の前駆体を架橋すること、
を含み、ここで、
前記第一の前駆体は、(アミノプロピル) ポリオキシエチレンを含み、式中、mは、約2~約10の範囲であり、かつ
前記第二の前駆体は、(スクシンイミジルオキシグルタリル) ポリオキシエチレンを含み、式中、nは、約2~約10の範囲である、方法。
【請求項2】
その中に配置される生物製剤有するハイドロゲルを作製する方法であって、前記生物製剤、前記ハイドロゲル中に配置される前は固形状態製剤中にあり、および前記ハイドロゲルは、少なくとも90%の生物製剤の放出に対し、約1週間~約6カ月の望ましい放出期間により特徴づけられ、前記方法は、
2個以上の求核基を含む第一の前駆体を選択することであって、前記第一の前駆体は、約1kDa~約100kDaの範囲の分子量を有すること、
2個以上の求電子基を含む第二の前駆体を選択することであって、前記第二の前駆体は、約1kDa~約100kDaの範囲の分子量を有すること、
前記望ましい放出期間が得られるまで、以下のパラメーターのうちの少なくとも1つを単独で、または組み合わせて決定すること、
(a)前記求電子基に対する前記求核基のモル比、
(b)前記ハイドロゲルに対する、前記生物製剤と賦形剤の重量比、
(c)前記固形状態製剤中の前記生物製剤の重量百分率、および
(d)前記ハイドロゲルの表面積と体積の比率、ならびに
無水条件下で、前記固形状態製剤の周囲に、前記決定されたモル比で前記第一の前駆体と前記第二の前駆体を架橋し、ここで前記求電子基に対する前記求核基のモル比が1.1~2の範囲であること、
を含み、ここで、
前記第一の前駆体は、(アミノプロピル) ポリオキシエチレンを含み、式中、mは、約2~約10の範囲であり、かつ
前記第二の前駆体は、(スクシンイミジルオキシグルタリル) ポリオキシエチレンを含み、式中、nは、約2~約10の範囲である、方法。
【請求項3】
前記求電子基に対する前記求核基の前記モル比が、1.5~2の範囲であるまたは 前記求電子基に対する前記求核基の前記モル比が、1.3~1.8の範囲である、請求項1または請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記生物製剤が
(a)組み換えタンパク質である;または
(b)組み換えタンパク質であって、抗体またはTrapタンパク質(デコイ受容体ドメインとの融合タンパク質)である組み換えタンパク質である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記第一の前駆体が、4個または8個の求核基を含む、請求項1または請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記第二の前駆体が、4個または8個の求電子基を含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記第一の前駆体および/または前記第二の前駆体の分子量は、約1kDa~約100kDaの範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
a)ハイドロゲルに対する前記生物製剤の前記重量比は、約10%~約90%である;または
b)前記固形状態製剤中の前記生物製剤の前記重量百分率は、約30%~約95%である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項9】
a)前記望ましい放出期間は、少なくとも90%の生物製剤の放出に対して、約2カ月~6カ月の放出期間を含む
b)前記望ましい放出期間は、少なくとも90%の生物製剤の放出に対して、約1週間~2カ月の放出期間を含む
c)前記望ましい放出期間の間、前記ハイドロゲルは近直線的な前記生物製剤の放出を生じさせる;または
d)前記望ましい放出期間は、遅延型放出部分、S字状、直線的部分、近直線的部分、対数的部分、指数関数的部分、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1または請求項に記載の方法。
【請求項10】
a)前記架橋は、無水および疎水性の有機溶媒の存在下で発生する;または
b)前記架橋は、無水および疎水性の有機溶媒の存在下で発生し、かつ前記有機溶媒は、塩化メチレン、酢酸エチル、炭酸ジメチル、クロロホルム、またはそれらの組み合わせである、請求項1または請求項に記載の方法。
【請求項11】
a)前記決定工程は、予測モデルを用いて実施される
b)前記決定工程は、予測モデルを用いて実施され、ここで、前記モル比は、前記予測モデルにおいて放出期間に対し連続的な効果を有している;または
c)前記決定工程は、予測モデルを用いて実施され、ここで、前記第一と前記第二の前駆体の分子量は、前記予測モデルにおいて放出期間に対し、非連続的な効果を有している、請求項1または請求項2に記載の方法。