(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056090
(43)【公開日】2024-04-19
(54)【発明の名称】組織癒着を防止するための低濃縮タンパク質組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/36 20060101AFI20240412BHJP
A61K 38/48 20060101ALI20240412BHJP
A61K 38/38 20060101ALI20240412BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240412BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20240412BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20240412BHJP
A61P 41/00 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
A61K38/36
A61K38/48 100
A61K38/38
A61K9/06
A61L31/04 120
A61L31/14 300
A61P41/00
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024037064
(22)【出願日】2024-03-11
(62)【分割の表示】P 2021533575の分割
【原出願日】2019-12-11
(31)【優先権主張番号】263679
(32)【優先日】2018-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IL
(31)【優先権主張番号】62/778,331
(32)【優先日】2018-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】511203455
【氏名又は名称】オムリックス・バイオファーマシューティカルズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Omrix Biopharmaceuticals Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】ヌル・イスラエル
(72)【発明者】
【氏名】グリンバーグ・エレナ
(72)【発明者】
【氏名】ポドラー・イタイ
(72)【発明者】
【氏名】ガハリ-サス・インバー
(72)【発明者】
【氏名】イラン・エレツ
(72)【発明者】
【氏名】イーブリ・ローネン
(57)【要約】
【課題】フィブリノーゲン及びトロンビンを含むキット、並びに組織癒着を低減及び防止するためのその使用に関する。
【解決手段】混合物は、フィブリノーゲン、トロンビン、カルシウムイオン、及びアルブミンを含み、約2.5mg/mL~約30mg/mLの範囲の総タンパク質と、総タンパク質の約50重量%~約80重量%の範囲のフィブリノーゲンと、0.65mg/mL超~約3mg/mLの範囲のアルブミンと、を含む。
【選択図】無し
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィブリノーゲン、トロンビン、カルシウムイオン、及びアルブミンを含む混合物であって、前記混合物が、約2.5mg/mL~約30mg/mLの濃度範囲の総タンパク質と、前記総タンパク質の約50重量%~約80重量%の濃度範囲のフィブリノーゲンと、0.65mg/mL超~約3mg/mLの濃度範囲のアルブミンと、を含む、混合物。
【請求項2】
アルブミンが、約1.20mg/mL~約3mg/mLの前記濃度範囲内である、請求項1に記載の混合物。
【請求項3】
フィブリン及びカルシウムイオンを含むヒドロゲル材料であって、総タンパク質の濃度範囲が約2.5mg/mL~約30mg/mLであり、フィブリンは、前記総タンパク質の50~80重量%の濃度範囲で存在する、ヒドロゲル材料。
【請求項4】
0.65mg/mL超~約3mg/mLの濃度範囲のアルブミンを更に含む、請求項3に記載のヒドロゲル材料。
【請求項5】
アルブミンが、約1.2mg/mL~約3mg/mLの前記濃度範囲である、請求項3又は4に記載のヒドロゲル材料。
【請求項6】
前記総タンパク質の前記濃度範囲が、約7.5mg/mL~約20mg/mLである、請求項3~5のいずれか一項に記載のヒドロゲル材料。
【請求項7】
フィブリンが、架橋フィブリンである、請求項3又は6に記載のヒドロゲル材料。
【請求項8】
抗癒着特性を有する、請求項3~7のいずれか一項に記載のヒドロゲル材料。
【請求項9】
ヒドロゲル材料であって、ヒドロゲルの形成を可能にする条件下で、(i)約5mg/mL~約30mg/mLの濃度範囲のフィブリノーゲンと、約15mg/mL~約40mg/mLの濃度範囲の総タンパク質と、を含み、フィブリノーゲンが、前記総タンパク質の約50重量%~約80重量%の濃度範囲である、フィブリノーゲン含有溶液と、(ii)トロンビン含有溶液と、を含む混合物を、組織上に適用することによって得られる、架橋フィブリンを含む、ヒドロゲル材料。
【請求項10】
前記混合物が、エックスビボで前記フィブリノーゲン含有溶液と前記トロンビン含有溶液とを組み合わせることによって得られる、請求項9に記載のヒドロゲル材料。
【請求項11】
組織癒着の防止に使用するための2成分組成物であって、
成分Aであって、約5mg/mL~約30mg/mLの濃度範囲のフィブリノーゲンと、約15mg/mL~約40mg/mLの濃度範囲の総タンパク質と、を含み、フィブリノーゲンが、前記総タンパク質の約50重量%~約80重量%の濃度範囲である、フィブリノーゲン含有溶液を含む、成分Aと、トロンビンを含む成分Bと、を含む、2成分組成物。
【請求項12】
前記フィブリノーゲン含有溶液が、約10mg/mL~約25mg/mLの前記濃度範囲のフィブリノーゲンと、約20mg/mL~約40mg/mLの前記濃度範囲の前記総タンパク質と、を含む、請求項11に記載の2成分組成物。
【請求項13】
前記成分Bが、約100IU/mL~約300IU/mLの濃度範囲のトロンビンを含む、請求項11又は12に記載の2成分組成物。
【請求項14】
前記成分A及び/又は前記成分Bが、遊離カルシウムイオンを含む、請求項11~13のいずれか一項に記載の2成分組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本開示は、フィブリノーゲン及びトロンビンを含むキット、並びに組織癒着を低減及び防止するためのその使用に関する。
【0002】
(関連技術)
本開示の主題の背景として関連性があると見なされる参照文献を以下に列記する。
-国際公開第9855140号
-米国特許第6,965,014号
-米国特許出願公開第2002/001584号
-米国特許第6,613,325号
-Wiseman et al., The effect of tranexamic acid in fibrin sealant on adhesion formation in the rat.J. Biomed.Mater.Res.B Appl. Biomater.(2004); 68(2): 222-30。
【0003】
本明細書において上記参照文献を承認することは、これらが本開示の主題の特許性と何らかの形で関連すると解釈することを示唆するものではない。
【背景技術】
【0004】
侵襲的処置後の組織癒着は、疼痛、不快感をもたらすことが多く、また場合によっては、生命を脅かすことさえある。したがって、このような組織癒着の低減又は防止は非常に重要である。
【0005】
国際公開第9855140号では、総タンパク質の80%未満のフィブリノーゲン濃度範囲を有し、かつフィブロネクチン、第VIII因子、フォン・ヴィレブランド因子、第XIII因子、及びビトロネクチンなどの、自然発生血漿タンパク質を総タンパク質の少なくとも20%有するフィブリノーゲン濃縮物を開示している。
【0006】
米国特許出願公開第2002/001584号は、液体中又は凍結状態で安定化し、カオトロープ物質を添加したフィブリノーゲン製剤中に保存されている布地癒着剤を開示しており、トロンビン調製物は、術後布地癒着疾患を低減又は防止する。
【0007】
米国特許第6,965,014号は、カルシウムを含まない特定の高強直性強度培地で再構成又は希釈したフィブリノーゲン及びトロンビンを混合することによって得られる生体分解性フィブリン材料を開示している。かかるフィブリン系生体材料は、抗癒着バリアとして使用するのに好適な細い繊維及び小さい孔径を有する緊密な構造を生じる。
【0008】
米国特許第6,613,325号は、天然凝固材料に最もよく似た材料を外科癒着形成に適用することによって形成されたフィブリンポリマーフィルムを開示している。
【0009】
Wiseman Dらは、トラネキサム又はアプロチニンのいずれかを含有するフィブリンは、癒着の発生及び重症度を低減させることを記載している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、いくつかの態様によると、(i)約5mg/mL~約30mg/mLの濃度範囲のフィブリノーゲンを含み、約15mg/mL~約40mg/mLの総タンパク質濃度範囲を有するフィブリノーゲン含有成分の溶液を含む第1の容器と、(ii)トロンビン含有成分の溶液を含む第2の容器と、を備える、キットを提供する。
【0011】
本開示は、いくつかの態様によると、フィブリノーゲン含有成分、及びトロンビン含有成分、カルシウムイオン、及びアルブミンを含む混合物であって、この混合物が、約10mg/mL~約30mg/mLの範囲の総タンパク質と、総タンパク質の約50%~約80%の範囲のフィブリノーゲンと、0.65mg/mL超~約3mg/mLの範囲のアルブミンと、を含む、混合物を提供する。
【0012】
本開示は、いくつかの他の態様によると、フィブリン及びカルシウムイオンを含むヒドロゲル材料であって、総タンパク質濃度が約2.5mg/mL~約30mg/mLの範囲であり、フィブリンは、総タンパク質の50~80重量%の濃度範囲で存在する、ヒドロゲル材料を提供する。
【0013】
本開示は、いくつかの更なる態様によると、ヒドロゲル材料であって、凝固の形成を可能にする条件下で、(i)約5mg/mL~約30mg/mLの濃度範囲のフィブリノーゲンと、約15mg/mL~約40mg/mLの総タンパク質濃度範囲と、を含む、フィブリノーゲン含有溶液と、(ii)トロンビンと、を、組織上に適用することによって得られる、架橋フィブリンを含む、ヒドロゲル材料、を提供する。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有溶液及びトロンビンは、組織上に適用される前に混合される。いくつかの他の実施形態では、フィブリノーゲン含有溶液及びトロンビンは、組織上に別々に適用される(連続的に又は同時に)。
【0014】
本開示は、いくつかの更なる態様によると、組織癒着の防止に使用するための2成分組成物であって、成分Aであって、約5mg/mL~約30mg/mLの濃度範囲のフィブリノーゲンと、約15mg/mL~約40mg/mLの総タンパク質濃度範囲と、を含む、フィブリノーゲン含有溶液を含む、成分Aと、(ii)トロンビンを含む成分Bと、を含む、2成分組成物、を提供する。
【0015】
キット、混合物、ヒドロゲル、及び2成分組成物は、それぞれ、組織癒着の低減に使用するためのいくつかの態様に従う。
【0016】
本開示は、いくつかの更なる態様によると、組織癒着を低減、防止、又は阻害する方法であって、この方法が、フィブリノーゲン含有成分及びトロンビン含有成分を、被験体の組織の少なくとも一部に適用することを含み、フィブリノーゲン含有成分は、約15mg/mL~約40mg/mLの範囲の総タンパク質濃度範囲と、約5mg/mL~約30mg/mLの濃度範囲のフィブリノーゲンと、を含み、フィブリノーゲン含有成分及びトロンビン含有成分の量は、組織と接触させたときに組織癒着を低減/防止/阻害するのに有効である、方法、を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
組織癒着は、侵襲的処置後の治癒プロセスの自然な部分である。しかしながら、組織癒着は、疼痛に関連する炎症及び更なる重篤な影響を引き起こすことが多い。したがって、侵襲的処置後の癒着を低減又は阻害することは、非常に望ましい。
【0018】
本発明は、組織癒着を低減又は防止又は阻害するために、例えば、侵襲的処置後に組織上に投与され得るキットの開発に基づく。キットは、少なくともフィブリノーゲン成分を含み、以下に詳述するように、追加のトロンビン成分を含むことができる。したがって、本明細書に記載されるキットは、2つの成分、フィブリノーゲン成分及びトロンビン成分を含んでもよい。
【0019】
フィブリノーゲン系のキットが知られている。例えば、FDA承認キット、EVICEL(登録商標)は、約55~85mg/mLのフィブリノーゲンを含む、80~120mg/mLの総タンパク質を含むフィブリノーゲン成分を含む。
【0020】
本発明者らは、驚くべきことに、低量のフィブリノーゲン、より驚くべきことに、低量の総タンパク質を含むキットは、既知のフィブリノーゲン製剤と比較して、侵襲的処置後の癒着を低減/防止するのに有効であることを見出した。具体的には、以下の実施例に示されるように、本開示の製剤は、術後癒着を低減し、並びに形成されたヒドロゲルの保水能力に影響を及ぼす。これに基づいて、本発明者らは、血漿成分の量が低減し、続いて形成された物理的バリアの程度(例えば、ヒドロゲルの形態)が低減している間、本発明のキットが、例えば、癒着を防止/低減/阻害する上で優れた抗癒着特性を呈することを示唆した。
【0021】
本明細書に記載のキットは、少量の原料を含み、具体的には、フィブリノーゲンを含み、かつ40mg/mL未満の総タンパク質濃度を有するフィブリノーゲン含有成分の溶液を含む。したがって、その最も広い態様によると、本開示は、約5mg/mL~約30mg/mLの濃度範囲のフィブリノーゲンを含み、約15mg/mL~約40mg/mLの総タンパク質濃度範囲を有するフィブリノーゲン含有成分の溶液を含む容器を備えるキットを提供する。キットは、追加のトロンビン成分を含むことができる。
【0022】
したがって、本開示は、いくつかの態様によると、(i)約5mg/mL~約30mg/mLの濃度範囲のフィブリノーゲンを含み、約15mg/mL~約40mg/mLの総タンパク質濃度範囲を有するフィブリノーゲン含有成分の溶液を含む第1の容器と、(ii)トロンビン含有成分の溶液を含む第2の容器と、を備える、キットを提供する。いくつかの実施形態では、キットは、抗癒着キットであり、すなわち、癒着防止/低減/阻害特性を有する。
【0023】
本明細書及び当該技術分野において使用する場合、用語「フィブリノーゲン」は、血液凝固マトリックスの前駆体タンパク質を指す。フィブリノーゲンは、約340,000ダルトンの分子量を有し、ジスルフィド結合によって一緒に結合される、3つの対の異なるポリペプチド鎖Aα、Bβ、及びγからなる。典型的には、フィブリノーゲンは、2つの同一のD末端球状ドメイン及び1つの中央E球状ドメインが、高次コイルα-螺旋体によって結合した三節構造を有する。
【0024】
「フィブリノーゲン含有成分」は、アプリオリフィブリノーゲンを含む製剤として理解されるべきである。フィブリノーゲン含有成分は、水性製剤である。「水性製剤」は、水分子を含有する液体形態又は凍結形態の成分のブレンドを包含する。いくつかの実施形態では、水性製剤は液体形態である。液体形態であるとき、液体キャリアが本質的に中性のpH、例えば、pH7.0±0.5を有するバッファであるのは、いくつかの実施形態に係る。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、凍結される。使用前に、フィブリノーゲン含有成分を解凍し、それによって室温で液体形態にしてよい。製剤は、溶液の形態であり得る。
【0025】
用語「液体」は、流動し得、固定形状ではなく、固体又は気体ではない物質に関する。用語「溶液」は、分散若しくは溶解した物質(複数可)、及びそれが分散若しくは溶解される媒体、又はその成分が混合物全体にわたって均一に分布している混合物である単一の均質な液相に関する。
【0026】
用語「成分(component)」は、薬物製品などの製品中に存在し得る任意の要素(ingredient)に関する。
【0027】
いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、約15mg/mL~約40mg/mLの濃度範囲の総タンパク質を含む。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、約30mg/mL~約40mg/mLの濃度範囲の総タンパク質を含む。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、約20mg/mL~約25mg/mLの濃度範囲の総タンパク質を含む。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、約35mg/mL~約40mg/mLの濃度範囲の総タンパク質を含む。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、約15~36mg/mLの濃度範囲の総タンパク質を含む。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、約20~36mg/mLの濃度範囲の総タンパク質を含む。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、約20~40mg/mLの濃度範囲の総タンパク質を含む。
【0028】
総タンパク質は、当技術分野で周知の任意の方法によって決定することができる。例えば、280nm(UVレンジ)での吸光度を測定することによって。
【0029】
いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、又は30mg/mL(それらの間の任意の値及び範囲を含む)の濃度でフィブリノーゲンを含む。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、約8mg/mL~約25mg/mLの濃度範囲のフィブリノーゲンを含む。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、約11mg/mL~約25mg/mLの濃度範囲のフィブリノーゲンを含む。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、約11mg/mL~約15mg/mLの濃度範囲のフィブリノーゲンを含む。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、約20mg/mL~約25mg/mLの濃度範囲のフィブリノーゲンを含む。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、約11mg/mL~約23mg/mLの濃度範囲のフィブリノーゲンを含む。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、約9mg/mL~約14mg/mLの濃度範囲のフィブリノーゲンを含む。
【0030】
いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、限定されるものではないが、第XIII因子、第VIII因子、フィブロネクチン、フォン・ヴィレブランド因子(vWF)、及びビトロネクチンから選択される1つ以上の追加因子を含む。
【0031】
いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、総タンパク質の約50%~約80%の範囲の重量濃度でフィブリノーゲンを含む。
【0032】
フィブリノーゲン含有成分中のフィブリノーゲンは、血漿から精製及び単離することができる。フィブリノーゲン含有成分は、ヒト血漿を含む溶液からの、フィブリノーゲン濃縮ウイルス不活性化寒冷沈降物などの生物的に活性な構成成分(BAC)であり得る。BACは、血漿由来タンパク質を含む。用語「由来」は、ソースからの受け取りに関する。例えば、「から由来する」は、そこから取る、そこから得る、そこから受け取ることに関する。
【0033】
いくつかの実施形態では、フィブリノーゲンは、血漿寒冷沈降したフィブリノーゲンを含む。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲンは、血漿寒冷沈降したフィブリノーゲンから生ずる(又は由来する)。本開示の状況において、用語「寒冷沈降したフィブリノーゲン」は、凍結血漿から得られたフィブリノーゲンを指し、典型的には、後者は全血から調製される(フィブリノーゲンとも呼ばれ、血漿寒冷沈降反応によって得られる)。
【0034】
いくつかの実施形態では、寒冷沈降したフィブリノーゲンは、凍結血漿を低温、典型的には0~4℃の温度で解凍し、その結果、当該フィブリノーゲンを主に含有する沈殿物が形成されたときに得られる。いくつかの実施形態では、寒冷沈降物は、例えば遠心分離によって収集され、次いで、120mMの塩化ナトリウム、10mMのクエン酸三ナトリウム、120mMのグリシン、又は95mMのアルギニン塩酸塩を含有するバッファなどの好適なバッファに溶解される。
【0035】
いくつかの実施形態では、寒冷沈降したフィブリノーゲンは、血漿の生物学的活性成分(biologically active component、BAC)と見なされる。いくつかの実施形態では、BACは、ウイルス不活性である。いくつかの種類のBACが存在する。一部の実施形態では、BACは、抗線維素溶解剤としてトラネキサム酸を含有する、生物的に活性な構成成分である。
【0036】
一部の実施形態では、フィブリノーゲンは、生物的に活性な構成成分(BAC)の一部として提供される。BACの非限定的な調製経路は、それらの内容が参照により組み込まれる、米国特許第6,121,232号及び/又は国際公開第98/033533号に記載されている。
【0037】
いくつかの実施形態では、BAC組成物は、1つ以上の抗線維素溶解剤(例えば、トラネキサム酸)及びアルギニン塩酸塩を含む。
【0038】
いくつかの実施形態では、BAC中のトラネキサム酸などの抗線維素溶解剤の濃度範囲は、約80~約110mg/mLの範囲である。
【0039】
いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、トラネキサム酸を含有しない。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、アプロチニンを含有しない。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、トラネキサム酸又はアプロチニンを含有しない生物的に活性な構成成分である。BAC2の調製中に、プラスミノゲン(フィブリノーゲン及びフィブリンを分解するプラスミンの酵素前駆体)及び/又はプラスミンが除去され、したがって、BAC2は、トラネキサム酸又はアプロチニンを含有しない。
【0040】
いくつかの実施形態では、BACは生物的に活性な構成成分2(BAC2)、即ち、トラネキサム酸を欠如している生物的に活性な構成成分である。BAC2は、主にフィブリノーゲン(約85%)からなり、プラスミノゲンが枯渇しており(プラスミノゲンの除去は、典型的には、欧州特許第1,390,485号に記載されているように実施される)、抗線維素溶解剤が添加されていない、ヒト血漿の濃縮されたウイルス不活性化寒冷沈降物である(この寒冷沈降物は、典型的には、欧州特許第534,178号に記載されているように調製される)。寒冷沈降物からプラスミン/プラスミノゲンを除去することを考慮すると、トラネキサム酸、アプロチニン等の抗線維素溶解剤を添加する必要はない。
【0041】
したがって、いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン成分は、プラスミン(ノゲン)が枯渇し、トラネキサム酸又はアプロチニンを含まないBAC2由来である。
【0042】
一部の実施形態では、フィブリノーゲンは、抗血友病因子調製物に由来する血漿寒冷沈降物の生物的に活性な構成成分である。抗血友病因子は、血液の凝固を補助する血液中の自然発生タンパク質である。
【0043】
いくつかの実施形態では、フィブリノーゲンは、国際公開第2013/001524(A1)号に開示されているように、第VIII因子(FVIII)の製造プロセスにおける副生成物からの水酸化アルミニウム沈殿物から精製される。
【0044】
BAC溶液は、当分野において公知の、アルギニン、リシンなどの安定剤、及び他のシーラント用添加物を更に含むことができる。いくつかの実施形態では、BAC、及び好ましくはBAC2は、血漿寒冷沈降物(具体的には濃縮寒冷沈降物)に由来し得る。
【0045】
フィブリノーゲン源の例には、以下に限定されないが、EVICEL(登録商標)のフィブリノーゲン成分(すなわち、BAC2)、Tisseel(アプロチニンを含有する、抗線維素溶解剤)のフィブリノーゲン成分を含めた、組換えフィブリノーゲン、血漿精製フィブリノーゲンが挙げられる。
【0046】
いくつかの実施形態では、血液由来のフィブリノーゲン濃縮物は、第VIII因子の製造プロセスの副生成物であり、酸沈殿物、寒冷沈殿物、水酸化アルミニウム沈殿物(例えば、その内容が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第4,455,300号を参照されたい)、グリシン沈殿物(例えば、その内容が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第4,297,344号を参照されたい)、エタノール沈殿物、及びヘパリン沈殿ペーストから選択され得る。
【0047】
いくつかの実施形態では、血漿寒冷沈降したフィブリノーゲンは、これに限定されないが、30~60mg/mLの範囲の総タンパク質;総生菌数(TVC)<1000CFU/mL;第XIII因子、2~9IU/mL;フィブロネクチン-0.5~6mg/mL;及びColttableフィブリノーゲン-18~39mg/mLを含有する遠心分離後の新鮮な凍結血漿沈殿物を意味する。
【0048】
更にいくつかの他の実施形態では、血液由来のフィブリノーゲン濃縮物は、時に「ペーストI」とも呼ばれる、懸濁又は沈殿したコーン画分Iを含むか又はその画分である。
【0049】
いくつかの他の実施形態では、コーン分画法は、様々な血漿タンパク質の等電特性の違いを利用するプロセスであり、沈殿によってタンパク質を5つの「画分」(I~V)に分離するために、pH、エタノール濃度、及び温度を変化させることを伴う一連の精製工程を含む。コーンプロセスは、低温エタノール沈殿法としても知られており、例えば、米国特許第2,390,074号、及びCohnら(J.Am.Chem.Soc.68:459,1945、J.Am.Chem.Soc.72:465-474,1950)に記載されている。特に、本開示の状況において、「懸濁又は沈殿したコーン画分F」に言及するとき、それは、本明細書で上記に言及されたコーンプロセスだけではなく、それによって少なくともフィブリノーゲンが沈殿するエタノール分画の任意の生成物を包含すると理解されるべきである。
【0050】
いくつかの実施形態では、懸濁又は沈殿したコーン画分Iを得るために、血漿をエタノール濃縮に供する。具体的には、コーン沈殿物I(画分I)は、例えば、8~10%のエタノール濃度において-3℃~-5℃及び中性のpHで沈殿させることによって、解凍されたプール血漿から得ることができる。
【0051】
フィブリノーゲン濃縮物は、商業的に入手することもできる。フィブリノーゲンの例としては、EVICEL(登録商標)のフィブリノーゲン成分(すなわち、BAC2)、Tisseel(アプロチニンを含有する、抗線維素溶解剤)のフィブリノーゲン成分が挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、希釈されたBAC2である。上述したように、BAC2は、トラネキサム酸又はアプロチニンを含まない。トラネキサム酸及び/又はアプロチニンは、組織抗癒着を低減するために必要であると考えられていた。驚くべきことに、フィブリノーゲン含有成分(すなわち、希釈されたBAC2)はトラネキサム酸又はアプロチニンを含有しないが、効率的な抗癒着活性が観察されたことが見出された。
【0053】
いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、少なくとも2倍に希釈されたBAC2を含む。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、少なくとも2~10倍に希釈されたBAC2を含む。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、2倍に希釈されたBAC2を含む。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、4倍に希釈されたBAC2を含む。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、8倍に希釈されたBAC2を含む。
【0054】
フィブリノーゲン含有成分の希釈には、様々なバッファが使用されてもよい。いくつかの実施形態では、バッファは、塩化ナトリウム、クエン酸三ナトリウム二水和物、グリシン、アルギニン塩酸塩、及び塩化カルシウム二水和物のうちの少なくとも1つを含む。いくつかの実施形態では、バッファは、約120mMの塩化ナトリウム、約10mMのクエン酸三ナトリウム二水和物、約120mMのグリシン、約9.5mMのアルギニン塩酸塩、及び約1mMの塩化カルシウム二水和物を含む。いくつかの実施形態では、バッファは、7.0~7.2のpH値を有する。例示的なバッファは、以下の表2に示すとおりである。
【0055】
いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分(溶液)の希釈バッファは、アルブミンを含まない。
【0056】
理解されるように、希釈バッファ中のアルブミンの非存在下でのBAC2では、フィブリノーゲン含有成分中のアルブミンの量は、BAC2の希釈倍率によって決定される。
【0057】
いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、本質的にアルブミンを含まない。このような実施形態では、トロンビン含有成分は、アルブミンを含んでもよい。
【0058】
いくつかの実施形態では、トロンビン含有成分は、本質的にアルブミンを含まない。このような実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、アルブミンを含んでもよい。
【0059】
このようないくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、総タンパク質の20重量%未満のアルブミン濃度範囲を有する。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、総タンパク質の15重量%未満のアルブミン濃度範囲を有する。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、総タンパク質の10重量%未満のアルブミン濃度範囲を有する。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、総タンパク質の11重量%未満のアルブミン濃度範囲を有する。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、総タンパク質の5重量%未満のアルブミン濃度範囲を有する。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、総タンパク質の約2重量%~約17重量%、時には総タンパク質の約10重量%~15重量%、時には総タンパク質の約5重量%~約15重量%、時には総タンパク質の約8重量%~約10重量%、時には総タンパク質の約8重量%~約12重量%のアルブミン濃度範囲を有する。
【0060】
いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、本質的にアルブミンを含まない。「本質的にアルブミンを含まない」とは、アルブミンを0.65mg/mL未満の量で含むことを意味する。
【0061】
フィブリノーゲン含有成分は、フィブリノーゲン及びアルブミン以外の血漿タンパク質を含んでもよい。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン以外の血漿タンパク質が存在してもよい。フィブリノーゲン及びアルブミン以外の血漿タンパク質の非限定的な例としては、フィブロネクチン、第VIII因子、フォン・ヴィレブランド因子、第XIII因子、及びビトロネクチンなどの自然発生血漿タンパク質が挙げられる。
【0062】
本明細書に記載されるように、キットは、トロンビンを含む第2の区画を含む。トロンビンは、血液凝固カスケードの一部であり、フィブリノーゲンをフィブリンの不溶性鎖に変換するとともに、他の凝固関連反応を触媒する、哺乳類セリンプロテアーゼである。本開示の文脈において、用語「トロンビン」はまた、トロンビンの機能的類似体を包含することを意味する。用語「トロンビンの機能性的似体」は、フィブリノーゲンを少なくとも切断してフィブリンを形成することができる実体を指す。
【0063】
「トロンビン含有成分」は、アプリオリトロンビンと、所望によりアルブミンなどの追加のタンパク質とを含む製剤として理解されるべきである。トロンビン含有成分は、液体形態又は凍結形態であってもよい。トロンビン含有成分は、使用前に、例えば凍結形態で存在する場合に解凍することによって操作されてもよい。
【0064】
いくつかの実施形態では、トロンビン含有成分は、トロンビンを約100IU/mL~約300IU/mL含む。いくつかの実施形態では、トロンビン含有成分は、トロンビンを約100IU/mL~約200IU/mL含む。いくつかの実施形態では、トロンビン含有成分は、トロンビンを約150IU/mL~約200IU/mL含む。本発明で使用する場合、用語「IU」は「国際単位(International Units)」を示し、例えば、世界保健機関(WHO)のトロンビンに関する第2国際規格01/580に対して較正された、効力濃度測定のための内部参照標準に対して、凝固アッセイによって測定され得る。単位(U)は、国際単位(IU)と同等である。
【0065】
いくつかの実施形態では、トロンビン含有成分は、EVICEL(登録商標)の希釈トロンビン成分を含む。いくつかの実施形態では、トロンビン含有成分は、少なくとも2倍に希釈されたEVICEL(登録商標)のトロンビン成分を含む。いくつかの実施形態では、トロンビン含有成分は、少なくとも2~10倍に希釈されたEVICEL(登録商標)のトロンビン成分を含む。いくつかの実施形態では、トロンビン含有成分は、2倍に希釈されたEVICEL(登録商標)のトロンビン成分を含む。いくつかの実施形態では、トロンビン含有成分は、4倍に希釈されたEVICEL(登録商標)のトロンビン成分を含む。いくつかの実施形態では、トロンビン含有成分は、8倍に希釈されたEVICEL(登録商標)のトロンビン成分を含む。
【0066】
トロンビン含有成分の希釈には、様々なバッファが使用されてもよい。いくつかの実施形態では、バッファは、酢酸ナトリウム三水和物、D-マンニトール、塩化カルシウム二水和物、及び塩化ナトリウムのうちの少なくとも1つを含む。いくつかの実施形態では、バッファは、約20mMの酢酸ナトリウム三水和物、約0.1mMのD-マンニトール、約40mMの塩化カルシウム二水和物、及び約90mMの塩化ナトリウムを含む。いくつかの実施形態では、バッファは、6.8~7.2のpH値を有する。例示的なバッファは、以下の表3に示すとおりである。
【0067】
いくつかの実施形態では、トロンビン含有成分の希釈バッファは、アルブミンを含まない。
【0068】
いくつかの実施形態では、トロンビン含有成分は、本質的にアルブミンを含まない。「本質的にアルブミンを含まない」とは、アルブミンを0.65mg/mL未満の量で含むことを意味する。
【0069】
理解されるように、希釈バッファ中のアルブミンの非存在下では、トロンビン含有成分中のアルブミンの量は、トロンビンの希釈倍率によって決定される。
【0070】
いくつかの実施形態では、トロンビン含有成分は、アルブミンを含む。このような実施形態では、トロンビン含有成分は、アルブミンを含んでもよい。いくつかの実施形態では、トロンビン含有成分は、最大約6mg/mLのアルブミンを含む。いくつかの実施形態では、トロンビン含有成分は、1~最大約6mg/mLのアルブミンを含む。トロンビンは、フィブリノーゲンを自然重合するフィブリンに変換する。このように、2つの成分、フィブリノーゲン含有成分及びトロンビン含有成分を接触させて、抗癒着活性を可能にする。
【0071】
2つの成分は、組織の適用前に混合されてもよく、あるいは2つの成分のうちの各1つは、組織上で2つの混合が行われるように、同じ組織上に別々に適用されてもよい。
【0072】
いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分及びトロンビン含有は、それぞれ0.8:1.2~約1:2:0.8、時には約1:1の比で混合される。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分及びトロンビン含有は、組織上に適用される前に混合される。適用前に2つの成分を混合することは、本明細書では、抗癒着混合物として示される。これらの2つの構成成分を混合することにより、ヒドロゲルが形成され(後述するように)、使用を可能にする時間枠内、典型的には最大1又は1.5分までに組織上に適用されることが理解される。また理解されるように、この混合物は、凝固形成を可能にするために組織上に適用される。
【0073】
いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分及びトロンビン含有成分は、組織上に別々に適用され、組織上で混合されてゲルを形成する。また理解されるように、組織上への2つの成分の適用により、凝固形成が可能となる。
【0074】
フィブリノーゲン含有成分及びトロンビン含有(本明細書では、「複合成分」とも呼ばれる)の混合物(すなわち、適用前に混合)又は形成されたヒドロゲル(すなわち、混合により又は組織上に直接適用されたとき)は、0.65mg/mL超~約3mg/mL、時には1.2mg/mL以上、時には1.25mg/mL以上、時には3mg/mL以下、時には1.5mg/mL以上、時には3mg/mL以下のアルブミン濃度を含む。
【0075】
いくつかの実施形態では、複合成分中のアルブミンは、複合成分中の総タンパク質の20重量%未満である。いくつかの実施形態では、複合フィブリノーゲン含有成分及びトロンビン含有成分は、総タンパク質の約6.5重量%~20重量%未満のアルブミン、例えば、総タンパク質の6.5重量%~最大17重量%に等しいアルブミンを含む。
【0076】
いくつかの実施形態では、複合フィブリノーゲン含有成分及びトロンビン含有成分の総アルブミンは、約1.5~3mg/mLである。
【0077】
いくつかの実施形態では、複合フィブリノーゲン含有成分及びトロンビン含有成分の総アルブミンは、約1.5、2、2.5、又は3mg/mL(それらの間の任意の値及び範囲を含む)である。
【0078】
いくつかの実施形態では、複合フィブリノーゲン含有成分及びトロンビン含有成分の総アルブミンは、0.65超~3mg/mLの範囲である。
【0079】
いくつかの実施形態では、複合フィブリノーゲン含有成分及びトロンビン含有成分の総アルブミンは、約0.7、1、1.2、1.25、1.5、2、2.5、又は3mg/mL(それらの間の任意の値及び範囲を含む)である。
【0080】
いくつかの実施形態では、複合フィブリノーゲン含有成分及びトロンビン含有成分は、本質的にアルブミンを含まない。「本質的にアルブミンを含まない」とは、アルブミンを0.65mg/mL未満の量で含むことを意味する。
【0081】
複合成分については、適用前に混合されるか、又は組織上に直接適用されるかのいずれでも、安定な凝固を形成するために、重合したフィブリンの架橋が必要である。このような重合フィブリンの架橋は、カルシウムイオンなどの二価イオンの存在下で、トロンビンによって活性化される第XIII因子の作用によって起こる。換言すれば、安定した凝固の形成のために、カルシウムイオンの存在が必要とされる。フィブリノーゲン含有成分及び/又はトロンビン含有成分は、遊離カルシウムイオンを含む。いくつかの実施形態では、遊離カルシウムイオンは、イオン化され、キレート化されていないカルシウムである。
【0082】
いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、約0.5~約2μMの濃度範囲の可溶化カルシウムを含む。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、約0.5~約1μMの濃度範囲の可溶化カルシウムを含む。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分は、約1~約2μMの濃度範囲の可溶化カルシウムを含む。
【0083】
いくつかの実施形態では、トロンビン含有成分は、約30~約50μMの濃度範囲の可溶化カルシウムを含む。いくつかの実施形態では、トロンビン含有成分は、約30~約40μMの濃度範囲の可溶化カルシウムを含む。いくつかの実施形態では、トロンビン含有成分は、約40~約50μMの濃度範囲の可溶化カルシウムを含む。
【0084】
カルシウムは、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、炭酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、リン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、又はこれらの任意の組み合わせを含むがこれらに限定されない、1つ以上のカルシウム塩で存在するか、又はそれらから生じ得る。いくつかの実施形態では、カルシウム塩は、塩化カルシウムである。いくつかの実施形態では、カルシウムカチオンは塩化カルシウムから生じる、すなわち、製剤は塩化カルシウムを用いて調製される。
【0085】
いくつかの実施形態では、カルシウムは、キレート化されていないカルシウムである。本明細書で使用する場合、キレート化されていないカルシウムの文脈における用語「キレート化された」又は「キレート化」は、キレート剤及びカルシウム種内の2つ以上の結合部位の間の、1つ以上の結合、又は他の誘引相互作用の形成又は存在を指す。本明細書で使用する場合、用語「キレート剤」は、カルシウム沈殿剤を包含することも意味する。いくつかの実施形態では、沈殿剤は、カルシウムイオンの不溶性塩を生成する。例示的な実施形態では、「キレート化されていないカルシウム」とは、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などの沈殿剤を含まない媒体中に存在するカルシウムイオンを指すことを意味する。典型的には、PBSは、リン酸水素二ナトリウム、塩化ナトリウム、並びにいくつかの配合においては、塩化カリウム及びリン酸二水素カリウムを含有する水性の食塩水を含む。例示的な実施形態では、フィブリノーゲン及び/又はトロンビンの成分は、PBSなどのキレート剤を含まない。
【0086】
本発明によるキットは、互いに分離されている2つの成分を含む。換言すれば、2つの成分のうちの各1つは、分離された容器内に閉じ込められる。いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分及び/又はトロンビン含有成分は、アプリケータの形態であってもよい。いくつかの実施形態では、アプリケータは、本明細書に開示されるフィブリノーゲン含有成分及び/又はトロンビン含有成分を保持するバレルと、フィブリノーゲン含有成分及び/又はトロンビン含有成分をそこを通して送達するための再封止可能な開口部と、を含む。
【0087】
いくつかの実施形態では、アプリケータは、シリンジである。適用は、成分のうちの各成分をシリンジから押し出すことによって、例えば、共通の導管に混入されて組成物(混合物)を形成し、この混合物が、その後、共通の導管から組織に直接適用されてもよく、あるいは、成分のうちの各成分をシリンジから押し出すことによって所望の標的部位に直接適用されても、又は直接組織上に直接適用されてもよい。
【0088】
フィブリノーゲン含有成分及び/又はトロンビン含有成分は、液体形態、凍結乾燥形態、又は乾燥形態にあってもよく、後者の乾燥形態は、適用前に湿潤させる(例えば、生理食塩水により)ことになる。
【0089】
いくつかの実施形態では、フィブリノーゲン含有成分及び/又はトロンビン含有成分は、例えば、噴霧又は滴下によって使用されて治療される組織に適用されてもよい。
【0090】
アプリケータは、単回使用向けであり得る、すなわち、フィブリノーゲン含有成分及び/又はトロンビン含有成分の全部又は一部を使用した後に廃棄することができる。あるいは、アプリケータは、その開口部が使用と使用との間に、再封止されるように、複数回使用向けに設計されていてもよい。
【0091】
複合成分(フィブリノーゲン及びトロンビン)を接触させると(混合物又は直接適用)、凝固が開始し、フィブリン凝固系組織接着剤が形成される。したがって、フィブリノーゲン含有成分及びトロンビン含有成分(混合物又は直接適用)の適用は、シーラント製剤の形成をもたらす。本発明の文脈において、用語「シーラント製剤」は、接触時に反応して、その後、組織接着剤を形成する成分を有する製剤として理解されるべきである。
【0092】
したがって、本開示は、いくつかの態様では、組織癒着の防止に使用するための2成分組成物であって、約5mg/mL~約30mg/mLの濃度範囲のフィブリノーゲンと、約15mg/mL~約40mg/mLの総タンパク質濃度範囲と、を含む、フィブリノーゲン含有溶液を含む第1の成分(成分A)と、トロンビンを含む第2の成分(成分B)と、を含む、2成分組成物に関する。
【0093】
標的組織上へのフィブリノーゲン含有成分及びトロンビン含有組成物の適用(上記のように、アプリオリを混合するか、又はそうでないかのいずれか)により、個々の成分の各々と比較して粘度が増加したゲルが形成される。このような粘度の増加は、「硬化」の結果であり、組成物中のタンパク質成分(例えば、フィブリン)の重合及び/又は架橋を含む相互作用によって得ることができる。硬化反応が実施され得る温度は、室温(例えば、15~30°)あたりであり得る。いくつかの実施形態では、数秒~最大600秒の範囲であってもよい。用語「硬化時間」は、硬化の終点に達するまでの時間を意味する。
【0094】
用語「ゲル」は、固体中に分散された、実質的な液体を指す。典型的には、ゲルは固体状態の特性を有し、特定の条件下(例えば、温度、pH)で液体状態の特性を示す。いくつかの実施形態では、ゲルは、ヒドロゲルである。用語「ヒドロゲル」は、含水量を有する親水性ポリマーネットワークを指すことを意図する。
【0095】
いくつかの実施形態では、硬化は、周囲条件で自発的に実施される。
【0096】
いくつかの実施形態では、硬化は、活性化剤(触媒など)の使用による、熱、又は紫外線(UV)放射などの物理的活性化剤によることを含むがこれらに限定されない、1つ以上の方法によって実施される。したがって、本開示は、いくつかの態様によると、フィブリン、カルシウムを含むヒドロゲル材料であって、総タンパク質濃度が約2.5mg/mL~約30mg/mLの範囲であり、フィブリンは、総タンパク質の50~80重量%の濃度範囲で存在する、ヒドロゲル材料を提供する。
【0097】
いくつかの実施形態では、ヒドロゲル中のフィブリンは架橋フィブリンである。
【0098】
いくつかの実施形態では、ヒドロゲル中の総タンパク質濃度は、約7.5mg/mL~約20mg/mLの範囲である。
【0099】
いくつかの実施形態では、ヒドロゲル中の総タンパク質濃度は、約5.5mg/mL~約10mg/mLの範囲である。
【0100】
本明細書に記載されるように、形成されたヒドロゲルは、抗癒着特性を有する。
【0101】
いくつかの実施形態では、アルブミンは、約1.5~3mg/mLの濃度でヒドロゲルに存在する。いくつかの実施形態では、アルブミンは、1.25mg/mL以上~3mg/mL以下の濃度でヒドロゲルに存在する。いくつかの実施形態では、アルブミンは、1.20mg/mL以上~3mg/mL以下の濃度でヒドロゲルに存在する。いくつかの実施形態では、アルブミンは、0.65mg/mL超~3mg/mL以下の濃度でヒドロゲルに存在する。
【0102】
以下の実施例に示されるように、ヒドロゲル中の保水は、本発明のキットの影響を受ける。本発明のキットによって形成されるヒドロゲルは、現在入手可能なフィブリン材料よりも高い割合の水を保持する。より高い程度の保水は、ヒドロゲルの治療的使用に特に有益である。いずれの特定の機構にも束縛されるものではないが、保水の程度がより高いことは、ゲル又はバリアの構造が強いことを示す。このようなゲルは、例えば、隣接する組織によって、高圧、圧縮、又は衝撃応力にさらされても水を保持することができる。水の保持は、フィブリンヒドロゲル内に含有され得る治療薬の濃度の制御、並びにこれらの治療薬及び添加剤の有効放出のために有益である。フィブリンヒドロゲルが圧縮力を受けながらも水を保持する能力を試験し、従来のフィブリン材料の保水力と比較した。具体的には、様々な回転速度で材料を遠心分離することによって圧縮を適用し、保持された水の量を測定した。冷蔵遠心分離機(Sorvall RT 6000 B)は、フィブリンハイドロゲルを様々な速度で回転させた。
【0103】
いくつかの実施形態では、ヒドロゲルは、その表面上に約400~500PSIの圧力を適用すると、初期含水量を少なくとも70%保持することを特徴とする。
【0104】
いくつかの実施形態では、ヒドロゲルは、その表面上に約400~500PSIの圧力を適用すると、初期含水量を少なくとも70%~80%保持することを特徴とする。
【0105】
いくつかの実施形態では、ヒドロゲルは、その表面上に約400~500PSIの圧力を適用すると、初期含水量を少なくとも70%保持することを特徴とする。
【0106】
いくつかの実施形態では、ヒドロゲルは、その表面上に約400~500PSIの圧力を適用すると、初期含水量を少なくとも約80%~95%保持することを特徴とする。
【0107】
いくつかの更なる態様によると、本開示は、ヒドロゲル材料であって、組織内/組織上で架橋重合フィブリンを形成できる条件下で、(i)約5mg/mL~約30mg/mLの濃度範囲のフィブリノーゲンと、約15mg/mL~約40mg/mLの総タンパク質濃度範囲と、を含む、フィブリノーゲン含有溶液と、(ii)トロンビンと、を含む混合物を、組織上に適用することによって得られる、架橋フィブリンを含む、ヒドロゲル材料、を提供する。いくつかの実施形態では、混合物は、遊離カルシウムイオンを含む。いくつかの実施形態では、混合物は、エックスビボでフィブリノーゲン含有溶液とトロンビンとを組み合わせることによって得られる。
【0108】
上述したように、本開示のキットは、標的組織に適用されたときに、顕著に改善された抗癒着効果を有する。
【0109】
したがって、更に別の態様では、本発明は、組織における癒着を低減又は防止又は阻害する方法であって、この方法が、フィブリノーゲン含有成分及びトロンビン含有成分を、被験体の組織の少なくとも一部に適用することを含み、フィブリノーゲン含有成分は、約15mg/mL~約40mg/mLの範囲の総タンパク質濃度範囲と、約5mg/mL~約30mg/mLの濃度範囲のフィブリノーゲンと、を含み、フィブリノーゲン含有成分及びトロンビン含有成分の量は、組織と接触させたときに組織癒着を低減又は防止するのに有効である、方法、を提供する。本明細書で使用する場合、用語「有効量」は、当業者に既知である考慮事項によって決定されるものである。
【0110】
いくつかの実施形態では、組織は、創傷組織/損傷組織である。損傷組織は、手術、外傷、感染、又は放射線によるものであり得る。組織の損傷は、例えば、治癒プロセスのために、マクロファージ及び/又は線維芽細胞をトリガし得る任意の生理学的プロセスに関連し得る。
【0111】
キットによって低減/防止される癒着は、侵襲的処置の後であり得る。本明細書で使用する場合、用語「抗癒着」は、組織内又は組織付近における癒着を防止又は低減することを指す。抗癒着組成物は、癒着を防止又は低減することができる組成物を指し、そのような癒着(例えば術後癒着)は、組織内又は組織付近において侵襲的処置後に現れた合併症から生じ得る。
【0112】
本方法のいくつかの実施形態では、抗癒着剤を標的領域に適用し、任意に、抗癒着剤を用いて癒着領域又は癒着の恐れがある領域を被覆して癒着を阻害することによって、抗接着効果を発揮することができる。いくつかの実施形態では、抗癒着剤は、標的領域に適用されてもよく、他の所望の領域が抗癒着剤に取り付けられ、次いで、一定の時間にわたって放置又は押圧してもよい。
【0113】
典型的には、標的部位、例えば、手術部位における抗癒着用途のために、開示される組成物は、手術部位の異なる臓器間に耐久性のある物理障壁を提供することを可能にする。「耐久性のある」という用語は、抗癒着用途の文脈において、上記のような頑丈な物理障壁を、少なくとも1日、少なくとも2日、少なくとも3日、少なくとも4日、少なくとも5日、少なくとも6日、少なくとも7日、少なくとも8日、少なくとも9日、少なくとも10日、少なくとも11日、少なくとも12日、少なくとも13日、又は少なくとも14日、例えば、1~14日の期間提供することを意味する。
【0114】
「癒着」という用語は、一般に、1つの組織内から別の組織まで、通常は腹腔などの事実上の空間にわたって広がる瘢痕の形成を説明するために適用される。侵襲的処置後の癒着形成は、通常、2つの損傷した表面が互いに近接している場合に発生し、これによって炎症を引き起こし、損傷した組織上にフィブリン沈着を引き起こす場合がある。癒着形成は、多くの場合、互いに接合しない組織間に界面を形成し得る。癒着自体は無痛であるが、癒着に関連した合併症が発生し、例えば、痛み及び閉塞などを引き起こす場合がある。上述したように、本発明者らは、驚くべきことに、低量のフィブリノーゲンを含む本発明のキットが、組織癒着を低減/阻害するのに有効であることを見出した。
【0115】
本開示は、特定の損傷/創傷組織に限定されない。組織の非限定的な例は、例えば、腹部の組織、心臓組織、胸部組織、頭部の組織、頸部の組織、骨盤組織、皮膚組織であり得る。いくつかの実施形態では、本方法は、腹部手術、心臓血管手術、又は骨盤手術後の組織癒着を低減/防止するためのものである。
【0116】
いくつかの実施形態では、損傷組織は、出血組織ではない。
【0117】
いくつかの他の実施形態では、本方法は、侵襲的処置中の組織癒着を防止又は低減するためのものである。
【0118】
侵襲的処置は、いくつかの実施形態によれば、外科的処置であり得る。
【0119】
これらに限定されるものではないが、腹部手術、心臓血管手術、胸部手術、頭部及び頸部手術、骨盤手術、皮膚及び皮下組織処置などの、本開示の方法及びキットを使用することができる多くの外科的処置が存在する。いくつかの実施形態では、本方法は、腹部手術、心臓血管手術、又は骨盤手術後の組織癒着を低減/防止するためのものである。
【0120】
腹部手術という用語は、腹部を開くこと(開腹術)を伴う外科的処置を包含する。腹部手術の非限定的な例としては、虫垂切除術、帝王切開術、試験開腹術、又は腹腔鏡検査を挙げることができる。
【0121】
侵襲的処置は、いくつかの他の実施形態によれば、診断処置であり得る。
【0122】
いくつかの実施形態では、本方法は、ヒト被験体用である。
【0123】
フィブリノーゲン含有成分及びトロンビン含有成分は、標的組織へ上の適用前に混合されてもよく、又は標的組織上に同時に投与されてもよい。いくつかの実施形態では、標的組織上への適用は、噴霧若しくは滴下噴霧、スミアリング、ブラッシング、又は注入を含む。用語「阻害」、「緩和」、「低減」、「減少」、又は「減衰」又は「防止」又は「漸減」という用語は、本明細書で言及されるように、プロセス(例えば、組織癒着など)が現象又は表現型に少なくとも約1%~100%、約5%~95%、約10%~90%、約15%~85%、約20%~80%、約25%~75%、約30%~70%、約35%~65%、約40%~60%、又は約45%~55%関連することを理解しなければならない。プロセス、現象、又は表現型(組織癒着など)の阻害、緩和、減衰、制限、防止、阻止、減少、低減、又は漸減はまた、少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は約100%であってもよい。
【0124】
本明細書で使用する場合、「約」という用語は、言及された値よりも、最大で1%、より具体的には5%、より具体的には10%、より具体的には15%、場合によっては、最大20%高く又は低く逸脱する可能性のある値を示し、偏差範囲は、整数値及び該当する場合は非整数値も含み、連続範囲を構成する。
【0125】
用語「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(having)」及びそれらの複合体は、「含むが、これらに限定されない(including but not limited to)」を意味する。用語「~からなる(consisting of)」は、「包含し、限定される(including and limited to)」ことを意味する。用語「~から本質的になる(consisting essentially of)」とは、組成物、方法又は構成が、追加の成分、工程及び/又は部分を含み得ることを意味するが、追加の成分、工程及び/又は部分が、特許請求される組成物、方法又は構成の基本的かつ新規の特性を実質的に変えない場合に限る。
【0126】
単語「代表的な」とは、本明細書では、「実例、事例又は例証としての役割を果たす」ことを意味する。「代表的な」として記載される任意の実施形態は、他の実施形態よりも好ましい又は有利であると必ずしも解釈される必要はない、及び/又はその他の実施形態からの特徴の組み込みを必ずしも排除する必要はない。
【0127】
本明細書では、単語「任意選択で(optionally)」は、「いくつかの実施形態では提供され、他の実施形態では提供されない」ことを意味する。本発明の任意の特定の実施形態は、このような特徴が矛盾しない限り、複数の「任意の(optional)」特徴を含んでもよい。
【0128】
本発明で使用する場合、その内容に別段の明確な指示がない限り、単数形「a」、「an」及び「the」は複数の指示物を含むものとする。例えば、用語「化合物(compound)」又は「少なくとも1つの化合物(at least one compound)」は、これらの混合物を含む複数の化合物を含んでよい。
【0129】
本出願全体を通して、本発明の種々の実施形態が範囲形式にて提示されてもよい。範囲形式の説明は単に便宜上及び簡潔さのためのものであり、本発明の範囲上の確固とした制限として解釈されるべきではない、と理解すべきである。したがって、範囲の説明は、全ての可能な部分範囲、並びにその範囲内の個々の数値を具体的に開示していると見なされるべきである。例えば、1~6などの範囲の説明は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの具体的に開示される部分範囲、並びにその範囲内の個々の数、例えば、1、2、3、4、5、及び6を有すると見なされるべきである。これは、範囲の広さにかかわらず適用される。
【0130】
数値範囲が本明細書に示される場合はいつでも、示された範囲内の任意の引用された数字(分数又は整数)を含むことを意味する。用語、第1の表示番号と第2の表示番号との「間の範囲(ranging)/範囲(ranges)」、及び第1の表示番号「から」第2の表示番号「までの範囲(ranging)/範囲(ranges)」が本明細書で互換的に使用されるが、これは、第1及び第2の表示番号並びにこれらの間の全ての分数及び整数を含むことを意味する。
【0131】
本発明で使用する場合、用語「方法」とは、所与のタスクを達成するための方法、手段、技術及び手順を意味し、化学的、薬理学的、生物学的、生化学的及び医学的分野の施術者による周知の方法、手段、技術及び手順として、知られるか又は容易に開発されるか、のいずれかの方法、手段、技術及び手順のようなものを含むが、これらに限定されない。
【0132】
本発明で使用する場合、用語「治療する(treating)」は、病状の進行を抑制すること、実質的に阻害すること、緩徐化すること、若しくは逆行させること、状態の臨床症状若しくは審美的症状を実質的に改善すること、又は状態の臨床症状若しくは審美的症状の外観を実質的に予防することを含む。
【0133】
「A、B、及びCなどのうちの少なくとも1つ」に類する表記が用いられる場合、一般に、このような構文は、当業者がその表記を理解するであろう意味で意図されている(例えば、「A、B、及びCのうちの少なくとも1つを有する組成物」は、限定するものではないが、Aのみ、Bのみ、Cのみ、AとBの両方、AとCの両方、BとCの両方及び/又はAとBとCの全てなどを有する組成物を含む)。明細書、特許請求の範囲、又は図面のいずれにおいても、2つ以上の代替用語を提示する事実上全ての分離語及び/又は句は、用語のうちの1つ、用語のいずれか、又は両用語を含む可能性を考慮すると理解されるべきであることを当業者は更に理解するだろう。例えば、語句「A又はB」は、「A」若しくは「B」又は「A及びB」の可能性を含むものと理解されよう。
【0134】
本発明の特定の特徴は、明確性のために別個の実施形態の文脈において記載されているが、これはまた、単一の実施形態において組み合わせて提示されてもよいことが理解されている。逆に、本発明の種々の特徴は、簡潔さのために、単一の実施形態の文脈において記載されているが、これはまた、別個に、若しくは任意の好適な部分的組み合わせで、又は本発明の任意のその他の記載される実施形態において好適にもたらされてもよい。種々の実施形態の文脈において記載される特定の特徴は、その実施形態がそれらの要素なしには動作不可能である場合を除き、それらの実施形態の必須特徴であるとして考慮されるべきではない。
【0135】
本明細書の上記で詳述され、以下の特許請求の範囲において特許請求されるような、本発明の種々の実施形態及び態様は、以下の実施例において実験的な裏付けを見出す。
【0136】
ここで、本発明を、本発明に基づいて実施された実験の以下の説明文にて例示する。これらの実施例は、限定というよりも例示という性質を帯びたものであることが意図されていると理解すべきである。明らかなことに、上の教示に照らし合わせて、これらの実施例の多数の修正及び改変が可能である。
【0137】
非限定的な実施例
実施例:様々な条件下での保水
この研究は、様々な製剤を使用して形成された凝固における保水率(%)を定量し、保水率(%)に対するアルブミンの効果を評価することを目的とした。各実験は、本明細書でフィブリノーゲン成分及びトロンビン成分として示される2つの異なる成分を組み合わせる(各成分0.5mL)ことを含んだ。
【0138】
2つの成分、BAC2及びトロンビン(希釈なし)は、まとめて製品EVICEL(登録商標)の成分として知られる。表1に試験した製剤を要約する。フィブリノーゲン成分及びトロンビン成分は、これらの成分のそれぞれを別々に指すが、ヒドロゲルは、複合された2つの成分中のアルブミン濃度(mg/mL)を指す(組織への適用前又は適用後のいずれか)。
【0139】
【0140】
この実験では、使用されたフィブリノーゲン材料は、表1に示されるように希釈されたBAC2として示されるFDA認可された市販材料である。BAC2(生物的に活性な構成成分2)は、Omrix Biopharmaceuticals Ltd.により供給されるフィブリノーゲン含有製品である。BAC2は、約70mg/mLのフィブリノーゲンと、80~120mg/mL(約100mg/mL)の総タンパク質濃度とを含む。この研究の目的のために、BAC-2サンプルを解凍し、アルブミン系バッファ溶液又はアルブミンを含まないバッファ溶液のいずれかを用いて、1:4=約14mg/mLのフィブリノーゲン、又は1:8=約8mg/mLのフィブリノーゲンに希釈した。これらのフィブリノーゲン溶液をトロンビン成分で1:1に希釈して、約7mg/mL(1:4)及び4mg/mL(1:8)の混合最終溶液を得た。アルブミンを含まないバッファで希釈するため、トロンビンと混合する前の総タンパク質濃度は、約20mg/mL(1:4)及び11mg/mL(1:8)であった。トロンビンと1:1で混合した後の総タンパク質は、約10及び5.5であった。表2は、それぞれ、BAC-2の希釈に使用されたアルブミン系バッファ溶液及びアルブミンを含まないバッファ溶液の成分を詳細に詳述する。
【0141】
BAC-2中のアルブミンの濃度は約12mg/mLであり、トロンビン中のアルブミンの濃度は約6mg/mLであり(TH04ではアルブミンが存在しない)、アルブミンを含まない溶液で希釈した製剤の場合、アルブミン濃度は表5に示されるとおりである。
【0142】
【表2】
*アルブミンの代わりに注射用水(WFI)を添加した。これはBACIIに関連する。
【0143】
2つの異なるトロンビン材料を研究に使用した。「トロンビン」として示される第1のものは、Omrix Biopharmaceuticals Ltd.から供給される。トロンビンは、1000IU/mLのトロンビン、6mg/mLの塩化カルシウム、及び6mg/mLのアルブミンを含み、この研究の目的のために、溶液をアルブミン系バッファ溶液又はアルブミンを含まないバッファ溶液のいずれかで約4倍(1:4)に希釈して、表1に詳述される最終溶液を得た。
【0144】
表3は、それぞれ、トロンビンの希釈に使用されたアルブミン系バッファ溶液及びアルブミンを含まないバッファ溶液の成分を詳細に詳述する。
【0145】
【表3】
*アルブミンの代わりに注射用水(WFI)を添加した。
【0146】
本明細書で「TH04」として示されるトロンビンの第2の供給源は、100~300IU/mLのトロンビンを含む。TH04は、トロンビン源がアルブミン及びカルシウムイオンを含まないトロンビン製造におけるプロセス画分である。
【0147】
カルシウムイオンを含まない製剤(カルシウム無)を調製するために、カルシウムキレート剤であるEDTAを5mM添加した。
【0148】
実施例1A:周囲条件
ヒドロゲル形成の1~2時間後に、保水率(%)を、周囲条件下で評価した(ヒドロゲル形成は目視検査により判定した)。ヒドロゲル形成後1時間~最大2時間後に、表面積は約1cm2で30分間、セントリコンチューブ内で1mLのヒドロゲルを630gの穏やかな遠心分離にかけ、ヒドロゲル中の保持水の量を評価した。表4は、異なる凝固の保水能力の結果を要約している。
【0149】
【0150】
実施例1B:高圧
ヒドロゲル形成後すぐに、ヒドロゲルの保水率(%)を、高圧条件下で評価した(ヒドロゲル形成は目視検査により判定した)。ヒドロゲル形成後、1mLのヒドロゲルを、エッペンドルフチューブ0.7~1cm2中で、31,514g(約457PSIの圧力)で30分間遠心分離し、ヒドロゲル中の保持水の量を評価した。表5は、異なるヒドロゲルの保水能力の結果を要約している。
【0151】
【0152】
結果は、凝固(1:4及び1:8に希釈し、フィブリノーゲンの濃度をそれぞれ14mg/mLと8mg/mLとしたフィブリノーゲンと、トロンビンとを1:1の比率で形成した)フィブリノーゲンの1:1混合物(7mg/mL及び4mg/mL)は、総タンパク質の70又は73%であり(混合物中の総タンパク質はそれぞれ10及び5.5mg/mL)、アルブミンが、0.67mg/mL超(総タンパク質の12%)、又は1.2mg/mL以上(総タンパク質の12%)、1.8mg/mL以下(総タンパク質の18%)の場合、より多くの水分を保持することができることを示す。
【0153】
結果は更に、ヒドロゲル又は凝固(1:4及び1:8に希釈し、フィブリノーゲンの濃度を14mg/mLと8mg/mLとし、トロンビンで1:1の比率に希釈したフィブリノーゲンで形成した)フィブリノーゲンは、総タンパク質の70又は73%であり、アルブミンが、1.25mg/mLに等しい(総タンパク質の6.5%)、及び1.8mg/mL以下(総タンパク質の18%(実施例3))の場合、最大量の水分を保持することができることを示す。
【0154】
結果は更に、低い濃度(例えば、混合物(トロンビン:フィブリノーゲンが1:1)中でのフィブリノーゲンの濃度が約7mg/mL未満(例えば、3.9mg/mL)のフィブリノーゲンで調製されたヒドロゲル中の少量のアルブミンの存在(例えば、45.2mg/mL未満、1.2、1.25、1.8mg/mL)の重要性を示す。
【0155】
結果はまた、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)の存在、又は遊離カルシウムの不在下では、水を保持するための凝固能力を変化させなかったこと、すなわち、水損失の傾向が、群1~4(遊離カルシウムの存在下)において同じであったことも示す。
【0156】
実施例3:ウサギ子宮角モデルにおけるフィブリノーゲン及びアルブミンの影響
この研究の目的は、ウサギ子宮角癒着モデルにおける、異なる濃度のフィブリノーゲン及びアルブミンを有する様々な製剤の有効性を特徴付けることであった。
【0157】
材料及び方法
試験システム
若年/若年成人(手術時13~15週齢)雌ニュージーランド白色ウサギ(Oryctolagus cuniculus)を研究に使用した。ウサギは、Western Oregon Rabbit Co.(PO Box 653, Philomath, OR USA)から入手し、供給元によって適用された固有の耳タグによって個別に識別した。
試験施設に到着した直後に、経験豊富な動物管理担当者によって動物を検査した。
【0158】
動物を、研究開始前に最低5日間順応させ、経験豊富な動物管理担当者が毎日モニターした。この研究に供給された動物は、全体的に正常に見えた場合にのみ使用された(すなわち、毛羽立ちのないきれいな毛並み、明澄な目、身体の開口部からの異常な滲出物がない、警戒し活発な姿勢を示す)。
【0159】
環境及び飼育:
動物を個別にステンレス鋼ケージに収容し、それぞれ研究番号及び個々の動物番号を示す個別のカードで標識した。室内環境を、約68°F(約20℃)、相対湿度30~70%、及び12時間/12時間の光/暗サイクルで維持した。
【0160】
Purina Prolab Rabbitダイエット15%タンパク質(LabDiet,St.Louis,MO)及び水道水は、研究期間中、動物に自由に与えられ、ニンジン及びアルファルファのキューブが与えられた。
【0161】
手術前の準備 癒着を手術を用いて研究した。動物を手術当日に秤量した。麻酔は、イソフルランの吸入によって誘導され、維持された(それぞれ5%及び3.5%濃度)。手術部位の脱毛は、電気動物用クリッパーを用いて行われた。この領域を掃除機で吸って切り取った毛髪及びくずを除去し、次いでイソプロピルアルコール70%ですすいだ。膀胱を搾り出した(すなわち、外部から操作して尿を押し出した)。領域全体に、1%有効ヨウ素の水性ヨードフォア溶液(ヨウ素スクラブ)をで塗った。次いで、この領域を70%イソプロピルアルコール溶液で拭いた。
【0162】
無菌生存手術のために確保された室内で、無菌様式で処置を実施した。滅菌タオル、ドレープ、及び器具を使用した。麻酔をかけ、外科的に準備されたウサギを手術台に運び、肢部を拘束して所望の横臥位に置いた。無菌の切開ドレープを、準備された領域に適用した。動物の体重と子宮角のサイズにはおおよその相関関係があるため、範囲外の小さめの又は大きめの子宮角を有する動物での手術を避けるために、また、連続する2週間のそれぞれに2日間の連続手術日があるため、動物は、それらの体重に基づいて順番に手術に割り当てられた。研究群のうちの1つに対する動物の割り当ては、その連続手術の割り当てに従って行われた。
【0163】
試験システムの正当性:
ウサギの子宮角単純擦過モデルは、本質的にWiseman 1992(Effect of thrombin induced hemostasis on the efficacy of an absorbable adhesion barrier. The journal of reproductive medicine vol 37 No 9, September 1992)に記載されているように実施される。
【0164】
群当たり6匹の動物を研究に参加させる。歴史的に観察された分散を考慮すると、これらの群サイズは、治療群と対照群との間の統計的差異を検出するのに十分な検出力を研究に提供するのに十分である。
【0165】
このモデルは、推定抗癒着剤の有効性の決定に広く使用されており、動物で得られたデータと臨床的に得られたデータとの間には良好な相関関係がある(Wiseman, 1999 Effect of different barriers of oxidized regenerated cellulose (ORC)on cecal and sidewall adhesions in the presence and absence of bleeding. Journal of Investigative Surgery 12:141-146)。
【0166】
42匹の連続的に割り当てられた動物を、無関係な個人による抽選で7ブロックにランダム化し、研究群のそれぞれを各ブロックで表すようにした。
【0167】
ウサギの子宮角単純擦過モデルは、Wisemanら(1992)に記載されているように行った。
【0168】
手術中の手順:長さ約6cmの正中線開腹切開によって腹部に入った。膀胱及び子宮に創傷をつけた。
【0169】
直径が9以上かつ16フレンチ以下の子宮角を2つ持つ動物のみが研究に参加した。10番メスの刃を使用して、子宮分岐部から約1cmの長さの5cm長の子宮角を、片側40回ずつ擦り取った。止血はガーゼを有するタンポンによって制御された。必要に応じて、小さな血管を結紮した。臓器を解剖学的に再配置した。処置中、動物を慎重に観察して、麻酔処置に対する予想外の応答を有するあらゆる動物を除去した。対照は、全ての外科的処置が行われたが、試験材料の適用なしの動物で構成された。
【0170】
試験した処方を、動物1匹当たり各成分5mLのバイアル中で使用し、麻酔導入前に室温で解凍した。各製品は、製造業者の使用説明書に従って取り扱い、Omrixアプリケーションエアレス噴霧装置を使用して噴霧することによって送達した。外傷を受けた表面を薄膜で覆うのに十分な量の製品を適用した。適用された体積を記録した。
【0171】
術後の手順 腹部切開を、連続的なバイクリル4-0縫合糸を使用して閉じた。筋膜は4-0バイクリルで緩く閉じ、皮膚は未染色の4-0バイクリル(切断針)で皮下縫合法を使用して閉じた。
【0172】
ブプレノルフィン(ブプレネックス)(0.03mg/kg、0.4mLx0.3mg/mL)の3回の投与(手術の朝に1回、6~8時間後に1回、翌朝に1回)が皮下注射によって行われた。獣医が必要と判断した場合は、追加の投与量を与えた。
【0173】
動物の臨床的徴候:全ての動物を、それらがケージに戻されたときに垂直に横たわる状態が再開されるまで注意深く観察した。この術後の最初の期間、ウサギを加熱ランプの下又は加熱ブランケットの上に置いた。
【0174】
手術後、各ウサギを毎日観察して、一般的な姿勢及び外見、摂食量、体重減少、糞便及び尿排泄、並びに異常な排泄物の有無に基づいてその健康状態を判断した。動物は、切開部の完全性、過度のあざ及び感染、痛み及び/又は不快感の評価について毎日観察され、上記標準投与量に加えて鎮痛剤が与えられた。担当獣医師が必要と判断した場合、動物を安楽死させ、分析から除外した。
【0175】
毎日のモニタリング記録を維持した。異常な所見は研究監督者及び/又は獣医に報告され、動物を治療するか、又は瀕死の動物の場合は安楽死させる決定を行った。瀕死の動物を安楽死させ、記録した。
【0176】
動物飼育担当者は、群の割り当てについて知らされていなかった。
【0177】
癒着及び着強度の検出:手術の11~16日後に癒着の評価を行い、1.5mLのBeuthanasia-D(ペントバルビタールナトリウム390mg/mL;フェニトインナトリウム50mg/mL)(Merck Animal Health, Madison, NJ)を静脈内注射することによって動物を安楽死させた。動物の体重を記録した。
【0178】
腹部を開け、手術部位を検査した。癒着は、盲検観察者によって等級付けされた。
【0179】
実施された試験
癒着の程度及び発生率:癒着のある各子宮角の長さを推定する。結果は、癒着の発生率(癒着を伴う子宮角の数/総数)及び癒着の程度(癒着を伴う子宮角の長さ%)として表される。
【0180】
癒着の着強度:癒着(等級)の着強度(重症度)を0(なし)、1(膜状の癒着)、2(強粘着性、鋭利な切開が必要)として等級付けする。
【0181】
子宮の回旋の程度:癒着による臓器の解剖学的歪みの尺度である子宮の回旋の程度は、次の尺度に従って記録される。
・回旋なし:癒着した又は癒着していない子宮角の直線長さがはっきりと見える。
・部分的な回旋:子宮角には癒着があり、子宮角の長さの50%~75%が絡み合い直線部分の識別を妨げる。
・完全に回旋子宮:角が完全に絡み合っているため、子宮の解剖学的構造を見ることは不可能である。
【0182】
癒着のデータ分析:各動物について、2つの子宮角の癒着の平均範囲を計算する。この平均値を使用して、群の癒着の平均範囲(関与する子宮の長さのパーセント)(±SEM)を計算し、小数点以下第1位まで表示する。対照群(処置なし)との全ての群の比較は、ダネットの検定(Dunnett,1964)を使用して行われる。各群の癒着の発生率はフィッシャーの正確確率検定を使用して対照群と比較され、着強度及び子宮回旋の程度はカイ二乗検定を使用して比較される。全ての試験について、統計的有意性のレベルはp<0.05である。
【0183】
分析からの除外:剖検での動物の検査時、ただし手術部位の検査及び癒着の評価の前に、その動物を一次分析から除外するべきかどうかの判定が行われる。結果に影響を及ぼし得る異常な発生の兆候がある場合、動物は一次分析から除外されるべきである。そのような徴候には、通常、腹腔内の感染の存在、又は過剰な体重減少(体重の>10%)を含む。動物を除外する任意の決定は、群の割り当て、又は癒着の有無若しくは程度を知ることなく行われる。
【0184】
以下の表6は実験の詳細を要約し、以下の表7は、癒着形成に対するフィブリン系製剤の効果の評価に関する結果概要を示す。
【0185】
【0186】
【表7】
1 癒着のある子宮角の長さの%、左右の子宮角の平均
2 対照に対するスチューデントt検定のp値
3 癒着のない子宮角の%(癒着のない子宮角の数/総数)
4 癒着なし/等級1癒着/等級2癒着を有する子宮角の数
5 回旋なし/部分的な回旋/完全な回旋を有する子宮角の数
* p<0.05ダネットのt検定対対照
# p値χ2試験,対対照)。<0.1の値のみを示す。
【0187】
改善された抗癒着活性が実験3で観察され、本明細書に記載のキットが優れた抗癒着活性を有することを示している。
【0188】
表8及び表9は、各組成物(フィブリノーゲン成分-表8;並びに表9のフィブリノーゲン及びトロンビン)について試験した抗癒着実験に使用した6~8個のサンプルの個別データ統計の要約を示す。
【0189】
【表8】
*FGBACII=BACII中のフィブリノーゲン
**FG純粋フィブリノーゲン=純粋フィブリノーゲン中のフィブリノーゲン
***癒着%
【0190】
【0191】
最も効果的な癒着防止効果は、サンプル3及び4で得られた。サンプル3及び4中の総タンパク質は、それぞれ、約18及び10mg/mLであり、フィブリノーゲンは、総タンパク質の67%及び55%であり、アルブミンは、3mg/mL(総タンパク質の16.7%)及び1.5mg/mL(総タンパク質の15%)である。
【0192】
比較統計分析により、癒着範囲閾値が35%超に設定されていると、実験3で最高の抗癒着活性が観察され、閾値を超えるサンプルがないことを更に確認した。
【0193】
本発明は、その特定の実施形態と共に記載されてきたが、多くの代替、変更及び変形形態が当業者には明白となることは明らかである。したがって、これは、添付の特許請求の趣旨及び広義の範囲内にある、このような代替、変更及び変形形態の全てを包含することを目的としている。
【0194】
〔実施の態様〕
(1) キットであって、
(i)約5mg/mL~約30mg/mLの濃度範囲のフィブリノーゲンを含み、約15mg/mL~約40mg/mLの総タンパク質濃度範囲を有するフィブリノーゲン含有成分の溶液を含む第1の容器と、
(ii)トロンビン含有成分の溶液を含む第2の容器と、を備える、キット。
(2) 前記フィブリノーゲン含有成分が、トラネキサム酸又はアプロチニンを含まない、実施態様1に記載のキット。
(3) 前記フィブリノーゲン含有成分が、約20mg/mL~約40mg/mLの濃度範囲の総タンパク質を含む、実施態様1又は2に記載のキット。
(4) 前記フィブリノーゲン含有成分が、約8mg/mL~約25mg/mLの濃度範囲のフィブリノーゲンを含む、実施態様1~3のいずれかに記載のキット。
(5) 前記フィブリノーゲン含有成分が、約10mg/mL~約25mg/mLの濃度範囲のフィブリノーゲンと、約20mg/mL~約40mg/mLの総タンパク質濃度と、を含む、実施態様1~4のいずれかに記載のキット。
【0195】
(6) 前記トロンビン含有成分が、約100IU/mL~約300IU/mLの濃度範囲のトロンビンを含む、実施態様1~5のいずれかに記載のキット。
(7) 前記フィブリノーゲン含有成分が、20重量%未満の濃度範囲のアルブミンを含む、実施態様1~6のいずれかに記載のキット。
(8) 前記フィブリノーゲン含有成分及び/又は前記トロンビン含有成分が、遊離カルシウムイオンを含む、実施態様1~7のいずれかに記載のキット。
(9) 前記フィブリノーゲンが、血漿寒冷沈降反応によって得られる、実施態様1~8のいずれかに記載のキット。
(10) 前記フィブリノーゲンが、生物的に活性な構成成分2(BAC2)に由来する、実施態様1~8のいずれかに記載のキット。
【0196】
(11) 前記フィブリノーゲンが、抗血友病因子調製物に由来する血漿寒冷沈降物の生物的に活性な構成成分である、実施態様1~9のいずれかに記載のキット。
(12) 前記フィブリノーゲン含有成分及び/又は前記トロンビン含有成分が、液体又は凍結形態である、実施態様1~11のいずれかに記載のキット。
(13) 組織癒着の防止/低減に使用するための使用説明書を含む、実施態様1~12のいずれかに記載のキット。
(14) 抗癒着混合物の製造に使用するための、実施態様1~12のいずれかに記載のキット。
(15) 侵襲的処置後の組織癒着の防止/低減に使用するための、実施態様13及び14のいずれかに記載のキット。
【0197】
(16) 前記侵襲的処置が、外科的処置又は診断処置である、実施態様15に記載のキット。
(17) 前記溶液を組織に噴霧又は滴下することによって投与される、実施態様1~16のいずれかに記載のキット。
(18) 前記第1の容器及び/又は前記第2の容器が、アプリケータである、実施態様1~17のいずれかに記載のキット。
(19) 前記アプリケータが、シリンジである、実施態様18に記載のキット。
(20) フィブリノーゲン、トロンビン、カルシウムイオン、及びアルブミンを含む混合物であって、前記混合物が、約2.5mg/mL~約30mg/mLの範囲の総タンパク質と、総タンパク質の約50重量%~約80重量%の範囲のフィブリノーゲンと、0.65mg/mL超~約3mg/mLの範囲のアルブミンと、を含む、混合物。
【0198】
(21) 前記アルブミンが、約1.20mg/mL~約3mg/mLの範囲内である、実施態様20に記載の混合物。
(22) フィブリン及びカルシウムイオンを含むヒドロゲル材料であって、前記総タンパク質濃度が約2.5mg/mL~約30mg/mLの範囲であり、前記フィブリンは、総タンパク質の50~80重量%の濃度範囲で存在する、ヒドロゲル材料。
(23) 前記ヒドロゲル材料が、0.65mg/mL超~約3mg/mLの範囲のアルブミンを更に含む、実施態様22に記載のヒドロゲル材料。
(24) 前記アルブミンが、約1.2mg/mL~約3mg/mLの範囲である、実施態様22又は23に記載のヒドロゲル材料。
(25) 前記総タンパク質濃度範囲が、約7.5mg/mL~約20mg/mLである、実施態様22~24のいずれかに記載のヒドロゲル材料。
【0199】
(26) 前記フィブリンが、架橋フィブリンである、実施態様22又は25に記載のヒドロゲル材料。
(27) 抗癒着特性を有する、実施態様22~26のいずれかに記載のヒドロゲル材料。
(28) ヒドロゲル材料であって、ヒドロゲルの形成を可能にする条件下で、(i)約5mg/mL~約30mg/mLの濃度範囲のフィブリノーゲンと、約15mg/mL~約40mg/mLの総タンパク質濃度範囲と、を含み、前記フィブリノーゲンが、総タンパク質の約50重量%~約80重量%の範囲である、フィブリノーゲン含有溶液と、(ii)トロンビン含有溶液と、を含む混合物を、組織上に適用することによって得られる、架橋フィブリンを含む、ヒドロゲル材料。
(29) 前記混合物が、エックスビボで前記フィブリノーゲン含有溶液と前記トロンビン含有溶液とを組み合わせることによって得られる、実施態様28に記載のヒドロゲル材料。
(30) 組織癒着の防止に使用するための2成分組成物であって、
成分Aであって、約5mg/mL~約30mg/mLの濃度範囲のフィブリノーゲンと、約15mg/mL~約40mg/mLの総タンパク質濃度範囲と、を含み、前記フィブリノーゲンが、総タンパク質の約50重量%~約80重量%の範囲である、フィブリノーゲン含有溶液を含む、成分Aと、トロンビンを含む成分Bと、を含む、2成分組成物。
【0200】
(31) 前記フィブリノーゲン含有溶液が、約10mg/mL~約25mg/mLの濃度範囲のフィブリノーゲンと、約20mg/mL~約40mg/mLの範囲の総タンパク質濃度と、を含む、実施態様30に記載の2成分組成物。
(32) 前記成分Bが、約100IU/mL~約300IU/mLの濃度範囲のトロンビンを含む、実施態様30又は31に記載の2成分組成物。
(33) 成分A及び/又は成分Bが、遊離カルシウムイオンを含む、実施態様30~32のいずれかに記載の2成分組成物。
(34) 組織癒着を防止又は低減する方法であって、前記方法は、フィブリノーゲン含有成分及びトロンビン含有成分を、被験体の前記組織の少なくとも一部に適用することを含み、前記フィブリノーゲン含有成分が、約15mg/mL~約40mg/mLの範囲の総タンパク質濃度と、約5mg/mL~約30mg/mLの濃度範囲のフィブリノーゲンと、を含み、前記フィブリノーゲンが、総タンパク質の約50重量%~約80重量%の範囲である、方法。
(35) フィブリノーゲン含有成分及びトロンビン含有成分を、被験体の前記組織の少なくとも一部に同時に適用することを含む、実施態様34に記載の方法。
【0201】
(36) 前記組織への前記適用前に、エックスビボで前記フィブリノーゲン含有成分とトロンビン含有成分とを組み合わせることを含む、実施態様34又は35に記載の方法。
(37) 適用することが、噴霧若しくは滴下噴霧、スミアリング、ブラッシング、又は注入を含む、実施態様34~36のいずれかに記載の方法。
(38) 前記組織が、創傷組織であり、前記方法が、侵襲的処置中の組織癒着を防止するためのものである、実施態様34~37のいずれかに記載の方法。
(39) 前記侵襲的処置が、外科的処置である、実施態様38に記載の方法。
(40) 前記外科的処置が、腹部手術、心臓血管手術、胸部手術、頭部及び頸部手術、骨盤手術、皮膚及び皮下組織処置のうちの少なくとも1つである、実施態様39に記載の方法。
【0202】
(41) 前記組織が、出血組織ではない、実施態様34~40のいずれかに記載の方法。
(42) 前記被験体が、ヒト被験体である、実施態様34~41のいずれかに記載の方法。
(43) 前記フィブリノーゲン含有成分が、約15mg/mL~約40mg/mLの濃度範囲の総タンパク質と、約8mg/mL~約25mg/mLの濃度範囲のフィブリノーゲンと、を含む、実施態様34~42のいずれかに記載の方法。
(44) 前記トロンビン含有成分が、約100IU/mL~約300IU/mLの濃度範囲のトロンビンを含む、実施態様34~43のいずれかに記載の方法。
(45) 前記フィブリノーゲン含有成分及び/又は前記トロンビン含有成分が、遊離カルシウムイオンを含む、実施態様34~44のいずれかに記載の方法。
【0203】
(46) 前記フィブリノーゲンが、血漿寒冷沈降反応によって得られる、又は生物的に活性な構成成分2(BAC2)若しくは寒冷沈降物由来抗血友病因子調製物の生物的に活性な構成成分に由来する、実施態様34~45のいずれかに記載の方法。
【外国語明細書】