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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056115
(43)【公開日】2024-04-22
(54)【発明の名称】堆肥製造方法
(51)【国際特許分類】
   C05F 3/00 20060101AFI20240415BHJP
   C05F 17/00 20200101ALI20240415BHJP
   C05F 11/00 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
C05F3/00 ZAB
C05F17/00
C05F11/00
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162858
(22)【出願日】2022-10-10
(71)【出願人】
【識別番号】505135346
【氏名又は名称】有限会社バイオ肥料
(72)【発明者】
【氏名】松元信嘉
【テーマコード(参考)】
4H061
【Fターム(参考)】
4H061AA02
4H061CC37
4H061CC38
4H061CC42
4H061CC47
4H061CC51
4H061EE02
4H061GG12
4H061GG19
4H061GG41
4H061GG43
4H061GG49
4H061GG52
4H061HH42
4H061JJ01
4H061LL05
4H061LL07
4H061LL15
4H061LL25
(57)【要約】
【課題】畜産事業者としての廃棄物の処理ではなく、化学肥料の代替えとなる、肥料含有量の高く取扱いの容易な堆肥が求められており、少量の散布で肥料、土壌改良剤として農産物の生産現場に歓迎される堆肥の製造方法を提供することにある。
【解決手段】通常は混合することのない畜種のうち、炭素率の離れている肉用牛の牛糞と採卵鶏の鶏糞の炭素率を鑑みての混合作業に容易な1:1の体積比で混合し、それに微生物の添加として適度に戻し堆肥を混合することを製造の始まりとし、上記以外の近隣未利用有機質資源の炭素率を鑑みて適切な時期に混合することも可能とし、その堆積物の発酵に適切な水分量に水分を補給しながら、多くの撹拌移動を行い、全工程110日以上の時間をかけて製造を行うことで、小さな篩を通過できる比重の重い完熟堆肥になり、輸入化学肥料の代替えとなる、完熟した堆肥を大量生産できる堆肥製造方法。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素率の高い敷料の混合した肉用牛の牛糞と、石灰窒素のような窒素と石灰を有する炭素率の低い採卵鶏の鶏糞と、発酵分解を促進させる微生物添加の為にすでに生産された製品堆肥を戻し堆肥として体積比、3:3:0.5~2で混合し、山型で且つ、底辺幅4.5m以上、高さ2m以上3m未満、長さ12m以上で堆積させることを生産の始まりとする堆肥製造方法。
【請求項2】
請求項1の製造方法の適切な製造期間中に、全体の15%以下の体積比で有機質資源に限って、請求項1で使用された以外の畜種の糞尿、食品残差、廃菌床などを混合することも行なうことができ、且つ、その混合時期は炭素率13以下の低い資材は最初に、炭素率15以上の高い資材は4週間後に混合することを行った堆肥の製造方法。
【請求項3】
請求項1の製造方法または、請求項2の有機質資源の混合も行なった、堆肥製造方法で製造された堆肥に、適切な加水分解による好気性発酵が進行するような水分含有量に適宜潅水を行い、且つ5日以上~12日未満の堆積期間で必ず撹拌移動を行う堆肥製造方法。
【請求項4】
請求項3の製造方法で製造された堆肥を適切な水分含有量で、15回以上の撹拌移動と、110日以上の製造期間を経過する堆肥の製造方法
【請求項5】
請求項4の製造方法と期間で製造された堆肥を堆積高さ5cm以上10cm未満で平面に敷詰め、トラクター、ロータリー式撹拌装置等で、肥料及び土壌改良剤として散布しやすい水分含有量に乾燥させ、且つ、8mm以下の粒径に篩分けを行なった堆肥を製品とする堆肥製造方法
【請求項6】
請求項5の製造方法で生産された堆肥が堆肥成分等検査報告書による検査結果が水分30%未満、炭素率(C/N比)10未満、粗灰分50%以上、カリウム4%以上、発芽率95%以上となる堆肥の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本校案は、畜産糞尿の堆肥化を行う際の、堆肥製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
畜産糞尿の堆肥化は、畜舎と同じ敷地内で行われ、肉用牛では敷料としてオガ屑の混合を行い、採卵鶏であれば戻し堆肥を混合して好気性発酵を促進し、タイヤショベル等の重機での撹拌移動、ロータリー式撹拌機での撹拌などを行い、水分減少、悪臭減少などにより農地、公園、一般家庭などで利用しやすい形状にすることが行われている。
【0003】
通常であれば、牛舎であれば牛糞、鶏舎であれば鶏糞等の単独の糞尿で堆肥化しており、撹拌発酵を行っている。近隣に例えば畜種の違う畜糞尿の排出が見受けられても、一般的に産業廃棄物である畜糞尿を他の施設から移動して混合することはあまり見受けられない。
【0004】
堆肥化とは、用語の正確性では、稲わらや落ち葉などの堆積物が堆肥で、畜産糞尿などは厩肥と言われる。昨今では、稲藁堆肥を作る人は少なく、一般的に大量の畜糞尿を処理している観点から、前述のすべてを堆肥と言われるようになり、むしろ稲わらは稲藁堆肥と称されるようである。
【0005】
古来には、稲わらや落ち葉、松葉などをかき集め人糞尿や、路上に落ちている馬糞、牛糞を混合したりしていたように、60年前には、稲藁や松葉に石灰窒素を混合し、40年前には牛糞(オガ屑混合)に石灰窒素などを混合して堆肥化を行っていたようで、炭素率の高い木質残差と、窒素含有量の多い人糞尿、石灰窒素を混合することが堆肥製造の基本であった。
【0006】
また、鶏糞などを農家自前の堆肥舎で堆肥化を行う場合には、米糠、もみ殻、オガ屑などをトラクターの前に装着したバケット装置で、鶏糞と混合したり、撹拌移動したりして、自家製の堆肥を製造していた。
【0007】
昨今では、農家ごとの堆肥製造は随分少なくなり、稲藁や牛糞による堆肥化を行っている農家はまれになり石灰窒素を利用しての堆肥化はほとんど忘れられるようになった。ここ35年では大規模化した畜産業の堆肥をダンプで安価に購入する他、形状、品質の優秀な堆肥などは袋詰の製品として販売流通されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許6976627号
【0009】
【特許文献2】特許4940444号
【0010】
【特許文献3】特許4087743号
【0011】
【特許文献4】特開昭54-085960号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
令和4年になり、フラット化する世界情勢に拍車をかける形でのウクライナ情勢と、中国の自国内農業保護の輸出規制などにより、鉱物原料肥料の高騰と日本商社の買負けが発生し、農薬、ビニールなどの農業資材の高騰も合わせ、農業の経営に対し消耗資材の経費増となっています。
【0013】
考案に関わる原料である畜産糞尿は、日本国内に8000万トン以上(採卵鶏790万トン、肉用牛2360万トン)あるとされ、その中に含有するリン酸、カリウムが輸入化学肥料以上の賦存量が実在しているようです。畜産糞尿には、その他にカルシウム、マグネシウムの5大要素、マンガン、ホウ素などの微量要素、ケイ酸、鉄などの土つくり成分、腐植酸など土壌化学性の根本となる成分、多様な微生物菌体、植物栽培の基本である肥料成分のおそらく全てが含有されています。
【0014】
リン酸とカリウムを中心にそれらの有効成分を如何に高濃度に凝縮し、且つ、農業現場の求める簡便な作業性で、且つ安価に生産できる高品質な堆肥を作る必要があります。
【0015】
その中で、政府が通称“みどり法”を令和3年5月に成立させ、2050年までに輸入化学肥料の使用量を30%以上削減する法律を成立させ、畜産糞尿、食品残差、し尿などの未利用有機物資源の有効利用を促進することに成りました。中でも畜産糞尿の有効利用が注目され、特に鶏糞に含まれている窒素、リン酸、特にカリウムの利用を推奨しているようです。
【0016】
高濃度で高品質な畜産糞尿堆肥を作るために必要な基本概念は、糞尿を発酵分解することで、有機質成分すなわち、窒素と特に炭素が減少し、無機質の肥料成分となる、灰分が多くなることにあります。
【0017】
ほとんどの有機質材料は、タンパク質、繊維質(セルロース、リグニン)の分子構造に炭素を含有し、通常は水分を除いた乾燥物としては、45%以上を炭素として含有しており、タンパク質に由来する窒素との比率により、炭素率(C/N比)として認識できます。
【0018】
畜産糞尿の原料は、飼料から始まりますが、その飼料により糞尿の性質は違い、鶏糞、牛糞、豚糞其々に特徴を有しており、それが糞尿の炭素率の違いに現れます。各畜種の標準的な炭素率は鶏糞6、豚糞11、牛糞16、稲藁70、オガ屑200であり、肉用牛の牛糞は畜舎内の床面にオガ屑を敷料として用いる為。実際の炭素率は30程度になります。
【0019】
畜産糞尿の堆肥化の目的は、土壌に散布利用し、肥料及び土壌改良剤として有効利用することが目的であり、廃棄物として畜舎外に持ち出すことが目的ではないはずです。法律としては、肥料取締法上で特殊肥料として、その成分を分析表示する必要があり、事業者は、所在地である都道府県に肥料販売、肥料製造の届出書を提出します。
【0020】
先行特許文献1(特許6976627号)では、アミノ酸の含有量や、特定の微生物の存在を特許として考察していますが、公的に認められた項目ではなく、窒素、リン酸、カリウム、石灰、苦土の5要素、炭素率、水分含有量、Ph、のほかに過剰であれば生育阻害物質である、銅と亜鉛の含有量の表示を肥料取締法として義務付けています。
【0021】
堆肥は、肥料であり、3要素の窒素、リン酸、カリウムの含有量でその優劣を判断すべきであり、その完熟度合い、発酵過程の品質などは関係のないことに思えますが、3要素の含有量を高濃度にするためには、完熟度、発酵過程の環境なども影響を与えています。
【0022】
炭素率の表示が平成12年10月から義務つけられたことの経緯は、その当時、バーク堆肥や未熟な牛糞などを大量投入し、土壌の過剰害による、塩基障害、窒素飢餓が各地で発生し、堆肥の標準的な分析表示に採用された経緯があります。
【0023】
また、過去には肥飼料検査所が各県に行政機関として存在し、肥料としての窒素、リン酸、カリウム、石灰に銅と亜鉛、炭素率、水分、PHの9要素の収去肥料の分析(無料)を行っていましたが、平成23年以降に廃止され、堆肥製品の分析を行わなくなりました。その後、畜産環境整備機構が、堆肥の成分分析を有料で行うようになり、弊社でも平成27年から分析を依頼しています。
【0024】
畜産環境整備機構の堆肥成分等検査報告書は、全国の畜産堆肥の分析を行っておりますが、その基本的な分析内容には、上記9要素に苦土、鉄、マンガン、発芽率、酸素消費量の分析を行っており、堆肥の製品上の優劣を分析から認識できるようになっています。
【0025】
農産物の生産現場においては、堆肥成分の優劣に対する製品が実在しておらず、それを販売のツールとして利用する傾向は現在までにありませんでしたが、肥料の高騰は、農産物の生産の経費として見逃せなくなり、畜産糞尿などの国内資源を如何に有意義に利用するかが、今後の日本の農業に大きな影響を与えると思われます。
【0026】
畜産糞尿堆肥、上記分析15項目において、実際の農産物生産に対する肥料としての効果は、一般的には、第一に窒素を思い浮かべますが、有機物の分解には窒素が不可欠であり、繊維質の分解に窒素を消費する為と、その分解時に炭酸ガスとともに窒素もアンモニア、酸化窒素などの気体として放出されるため、堆肥化が進行すると窒素は減少します。
【0027】
また、完熟堆肥の窒素における肥効率(肥料の利用率)は、その堆肥の炭素率に左右され、その指針も確定できており、炭素率の高い堆肥の窒素肥効率は10%程度、炭素率が低い資材でも35%程度になります。したがって、窒素の含有量の多寡はその堆肥製品の優劣を表す指針には利用できません。また窒素の含有量を鑑みる場合に炭素率の低さが重要になりますが、それは上記の肥効率を高めることになると共に、堆肥化の熟度の指針として炭素率が重要になります。
【0028】
次にリン酸では、堆肥製品の肥効率は80%とされておりますが、実際の農地でのリン酸の投入量は、以前から過剰投入されており、それは過リン酸石灰などの化学肥料は、我が国の平均的なリン酸吸収係数の高くなる、ケイバン比(ケイ酸/アルミナ)の低い土壌では、水溶性リン酸の肥効率が非常に悪いためで、水溶性リン酸は、その土壌のPHにより、暫時、土壌中のアルミナや、酸化鉄と結合し不溶化するためで、その不溶化分も含めて必要以上に投入していた為です。
【0029】
農産物栽培において、実際に吸収される肥料成分は明らかになっておりますが、吸収されるリン酸の量は、農産物全般で平均して窒素の1/7で、カリウムの1/10以下であります。完熟堆肥のリン酸成分は、すべての畜種においても窒素及びカリウム以上の含有量を示しており、カリウムの投入量に対しては、リン酸量は畜産完熟堆肥の投入においては、十分であることが認識できますし、有機由来の水溶性ではないリン酸は不溶化するとされていませんので、化学肥料よりも肥効率の良い優秀なリン酸肥料であります。
【0030】
上記から、窒素、リン酸、カリの三要素中でカリウムの含有量が本考案の課題である、輸入化学肥料の代替えとしての肥料成分であり、畜産糞尿を原料とした堆肥製造の農産物栽培の為に貢献できることを目指すべきとなります。
【0031】
カリウムの含有量に対する、土壌散布での肥効率は90%とされており、作物には不可欠の肥料となり、肥料が高価で国際的に購入できない地域などでは、焼き畑などによる、植物灰のカリウム利用がアマゾン地域、東南アジアなどで行われ国際的な環境問題になりました。
【0032】
カリウムは、地政学的には、カナダ、ベラルーシに偏在し、それ以上に、温暖化の問題から焼き畑農業を禁止する国際世論も働いて、フラット化したすべての国家が自国の農産物、輸出農産物の生産のために必要とされ、今後もカリウム鉱石の高騰と日本商社の買負けが問題となってくると思われます。
【0033】
したがって、畜産糞尿の堆肥化による未来の農業への最重要課題は、カリウム含有量の多い堆肥を製造することであり、その成分には必ず必要以上のリン酸が含有することで、リン酸の問題も解決します。また、窒素成分を有効に利用するためには、炭素率ができるだけ低くなるまで分解する必要があります。
【0034】
畜産事業者としての廃棄物の処理ではなく、化学肥料の代替えとなる、肥料含有量の高く取扱いの容易な堆肥が求められており、少量の散布で肥料、土壌改良剤として農産物の生産現場に歓迎される堆肥の製造方法と生産された堆肥の成分含有量において、カリウム含有量が多く、炭素率が低く、発芽率が95%以上の堆肥を製造する方法の提供が本発明の課題であります。
【課題を解決するための手段】
【0035】
畜産糞尿の堆肥生産において、カリウム含有量が高く、炭素率が低く、発芽率が100%を目指す堆肥を生産する手段について解説する。
【0036】
究極を求める完熟堆肥は、リグニンクラスの硬質な炭素有機物まで、木材腐朽菌等の微生物により分解し、炭素含有量は減少できます。またその完熟の指針となるものが、発芽率と、酸素消費量の数値に現れており、理想値は発芽率100%、酸素消費量0.0であります。
【0037】
上記完熟堆肥を完全でないまでも実現するための手段では、第一に炭素率を鑑みて、畜産糞尿の畜種による混合を行うことであり、次に良好な発酵に必要な環境を提供するために、適切な気相を有し、且つ温度保持に十分な比表面積を確保できる堆積形状、良好な加水分解を行うための適切な水分含有量、究極まで発酵分解を経過させる、撹拌回数と、できる限り長い堆積期間を経過することです。
【0038】
一定の条件となり得るのは、炭素率が高い資材である肉用牛の牛糞に対し、石灰窒素のような窒素と石灰を含有する採卵鶏の鶏糞を最終的に炭素率が10以下になる混合が理想ではありますが、混合時点の数値的な炭素率ではなく、最終的な完熟堆肥の製品として10以下ということです。現実の作業としては、タイヤショベルを利用することが最良であり、その大きさは問題ではなく、それぞれのタイヤショベルのバケット満載の体積を利用することが簡便であります。
【0039】
オガ屑の混合している牛糞と、タンパク質と石灰の多い鶏糞では、見かけ比重が違うこととなり、重量比での混合は、その畜種の水分含有量で変わってくる為、その重量を予想することは不可能で、台秤でタイヤショベルのバケット内の糞尿の重さを計測、同重量にすることは、その精度にもよりますが逐一計測しスコップ等を使用して人力で調整する必要が生じ非常に不便であると思われます。
【0040】
特許文献1(特許6976627号)では、鶏糞と牛糞を利用していますが、重量比での混合としていますが、上記から実際に行うことは困難と思われますが、文献内の鶏糞:牛糞=1:1~15(重量比)は、鶏糞の見かけ比重が牛糞より一般的には重いことから、体積比では、0.8:1~12と換算されることから、本発明の体積比1:1とは違うことが認識できます。
【0041】
また、上記の特許文献の発明の目的が牛糞内のクロピラリドを減少させることが目的のため、その牛糞量を多く処理する必要から、本発明の炭素率の考察がなく、それが鶏糞量を牛糞より少なく混合することの緒言に現れております。因みに本発明に近い方式で行われた、弊社以前の堆肥において、クロピラリドは、<0.01mg/kgであることを報告できます。 (つくば分析センター平成29年3月分析、受付番号17001051-001)
【0042】
肉用牛の牛糞と採卵鶏の混合は、1:1の体積比が理想的で、例えば10:9で正確に行うには、19杯の作業が必要となり、利便性が悪いことになります。理想的な炭素率の追及は良いことですが、軽油などの車両費の高騰や人件費を鑑みると、無駄な追及は不要であり牛糞に鶏糞に含有する窒素成分とカルシウム成分を最初に混合することが重要なのです。
【0043】
次に、発酵期間中の水分含有量ですが、これは、水分計の利用のほか、見かけ比重を測定することにより、計測器で管理も可能ですが、撹拌移動時の水分含有量を鑑みる以前に、適正な水分量では、堆積堆肥内(表面から30~5cm)に菌糸による白い層が必ず確認でき、また堆積堆肥の色合いによる違いなど、その経験から水分含有量の適切であるかが判断できます。
【0044】
毎日のように作業としてタイヤショベルで撹拌移動を行っている作業者であれば、容易に学習し実施できるようになり、温度計を利用し堆肥内部の温度変化を監視する方法も有効であり、潅水設備を設置し水分含有量が不足する場合には必要量を潅水します。
【0045】
撹拌移動の期間についても同様で、経験からも5日以内の3日程度では上記の菌糸の増殖は非常に少なく、12日以上では、逆に菌糸が時間経過で少なくなり堆肥内部の温度も低下します。その経験と周辺気温、季節、堆肥舎の密閉度、採光性などにおいて、これも、作業者は菌糸と堆肥温度によって容易に学習し実施できますが、7曜制である現在の暦であれば、作業員の福利面からも7日間隔での撹拌移動が理想と思われます。
【0046】
最終的に、その堆肥製造の理想的完熟堆肥になり得るかの問題は、その堆積撹拌期間であると結論できます。期間中に7日おきに撹拌移動した上での期間であり静置期間ではありません。自然界においては、森林の枯葉が堆積した腐葉土が、土との接触面から順次土となりますが、1cmの土が形成されるのに60年~100年とされており、悠久の時間があれば理想の堆肥になることは、大自然の摂理であります。またその自然も動物に踏まれたり、風雨で移動したり常に静置できない筈です。
【0047】
原生林では、枯葉の堆積に対して、昆虫の遺骸や、動物の糞尿、特に鳥類の飛び立つ瞬間に排泄される糞尿は、枯葉の上に落下します。セミですら飛び立つ時に尿を出しますが、これは炭素率の高い枯葉や樹木の倒伏物に、糞尿の窒素を添加することになり、大自然の摂理においても、炭素率の高い植物残差と窒素の多い糞尿、動物、昆虫遺骸の混合が行われていることが認識できます。
【0048】
堆肥製造作業には、人件費と燃料費が必要となることから、撹拌移動回数、撹拌期間をいつまでも行なえる物ではなく、目標である炭素率、カリウム含有量、発芽率、酸素消費量の中で、一定の期間で完全になれるのは発芽率と酸素消費量であります。それを100%と0.0にすることが究極であります。
【0049】
その時点での炭素含有量、カリウム含有量の結果の現れは、最初の牛糞と鶏糞と戻し堆肥の混合、その後に混合された、牛糞、鶏糞、有機物資源に含有する窒素、炭素、カリウムによる結果論であり、それ以上を求めることはできないと思われます。
【0050】
この論理的展開から、製造期間の終了の見極めは、発芽率95%以上の堆肥が経済的と思われます。牛糞や稲藁堆肥のように、肥料成分が非常にすくないものでは意味がありませんので、可能であれば多くのカリウムを含有する肥料の製造を追求すべきと思っております。その目標数値はカリウム4%以上になります。
【0051】
因みに、有機質肥料では、カリウムを含有している資材は、油粕の2%程度が最大値であり、一般的な有機質肥料は、血粉、フェザーミール、油粕、漁粕、骨粉などの窒素、リン酸の混合資材ですが、血粉、フェザーミール、魚粕にはカリウムはありません。混合有機質肥料では、有機JAS法でも認められている、硫酸カリウム,塩化カリウムの混合された資材となっております。このカリウム原料は、輸入鉱物資源由来の化学肥料であります。
【0052】
本発明での課題を解決する手段として、上記までの考察から、製造初めに採卵鶏の鶏糞と、肉用牛で敷料にオガ屑を利用している牛糞に戻し堆肥を体積比3:3:1に混合し、その他の近隣に混合できる有機質資源があれば体積比7~15%を適切な時期に混合し、その堆肥を5日~12日間隔で撹拌移動を12回以上行うことで、課題を解決できることになります。
【発明の効果】
【0053】
本発明の堆肥製造方法によれば、従来までに廃棄物としての取扱いとその原因である安定した成分の保証がない畜産糞尿堆肥を水分30%未満、炭素率(C/N比)10未満、粗灰分50%以上、カリウム4%以上、発芽率95%以上の肥料成分が多く、且つ安定した肥効率を実現し、土壌散布による障害を発生させない堆肥使用者から信頼される堆肥を大量に製造できるようになります。
【0054】
本発明の製造方法によって生産された堆肥の使用方法として、粗配分50%以上になる、見掛け比重の重い土のような性状であるために、8mm以下の大きさに篩分けを行った高品質な製品を提供することができることになり、販売単価を高価にするペレット化や造粒化をする必要なく、背負い散布機、ライムソアー等で堆肥使用者である耕種農家などが散布できる、使いやすく安価な堆肥を大量に製造できるようになる。
【0055】
本発明の製造方法によって生産された堆肥の使用方法として、栽培目的の農産物などに対し、必要なカリウムの含有量を基準に、その投入量を明確にすることができ、且つ、カリウム以外の、リン酸、石灰、苦土、マンガン等の特定の成分の過剰がなく必要十分量の施肥が行われるため、不足する窒素以外のすべての肥料施肥をすることになり、輸入鉱物資源である化学肥料の置換えを進めることができるようになった。
【0056】
本発明の製造方法によって生産された堆肥によって、堆肥を投入する目的と散布量が明確になるため、地域の有機性資源の循環利用システムが構築され、且つ、適正投入持続可能な農業を実現できることになり、みどりの食料システム戦略の策定された目標の実現に貢献できるようになる。
【発明を実施するための形態】
【実施例0057】
採卵鶏の鶏糞と肉用牛で敷料にオガ屑を利用している牛糞をそれぞれの畜舎から堆肥センターの原料置き場に4トンダンプで搬入する。タイヤショベルのバケット満載で交互に重ね合わせ、バケット満載で山型に3回ずつ積み重ねた後、従前に製造されている完熟堆肥を戻し堆肥としてバケット満載で積み重ね、それを混合する。ここでは、採卵鶏鶏糞:肉用牛牛糞:戻し堆肥=3:3:1となる。
【0058】
4トンダンプそれぞれ4台計8台分を、上記方法で混合したのち、幅5m、長さ16m、高さ2.5mの山型状に堆積する。これが一次処理であり、本発明の堆肥製造方法の始まりになり、鶏糞に空間率の高いオガ屑混合牛糞が混合されることで、床面から強制通気を必要としない、易分解性有機物の好気性発酵が促進される
【0059】
この最初の混合は、炭素率を念頭に混合され、戻し堆肥は微生物の添加剤として利用されています。先行特許で炭素率を採用する堆肥方法は、特許文献4の特開昭54-085960号がありますが、これは炭素率の高い植物残差に、牛糞も含めた畜糞を混合した上に過酸化物の混合をすることで好気性発酵を促進し短時間の堆肥化を目指しているが、過酸化物が高価であること、植物残差との混合が肥料成分を低下させることから、現在には有効でないと思われる。
【0060】
また、特許文献3の特許4087743号は、弊社が発明した特許であるが、その当時の堆肥製造方法は鶏糞と牛糞の混合比率は体積比で1:1であるが、水分含有量の多い嫌気性腐敗分解を利用している為か、窒素とカリウムの溶脱を起こしており、その成分が少ない堆肥となっており(表1)戻し堆肥の添加、好気性発酵の利用など、本発明に於いては、20年前より新規性が採用されていることがわかる。
【0061】
炭素率を有機物資材の混合に利用した方法に、特許文献2の特許4940444があるが、生ごみを脱脂する方法で炭素率を考察しており、畜産糞尿の考察に利用するものではない、また発明品の成分について記載があるが、窒素肥料として有効であるが、炭素率10程度であることから肥効率は20~30%程度であれば、実際に肥料としての利用は油粕の1/4程度と思われる。またリン酸、カリウムは肥料としては微量すぎる。
【0062】
この畜産糞尿において利用される炭素率の考察による堆積発酵状態では、鶏糞独特、牛糞独特の悪臭は軽減され、強烈なアンモニア臭も認識できないほどになる為、食糞昆虫やハエの発生は非常に少ない。この時、鶏糞の性状で特に乾燥した水分含有量により、適正な水分量でない場合が多いが、好気性発酵による易分解性有機物の発酵には、過剰な水分量が悪臭を誘発する為、混合後及び、7日後の一回目の撹拌移動時には、混合することを主眼に置き、水分含有量が少ないとしても水分の添加は行わない。
【0063】
食品残差なども同様に混合することが可能と思われるが、混合可能であるかの判断は、次回及び3回目の撹拌移動時の堆肥の菌糸の発生具合、水分含有量、悪臭の性質により判断し、最終的な堆肥成分の目標数値を逸脱する場合には、その混合割合を再検討するか考察する。
【0064】
経験から、4回目の撹拌移動時までに易分解性有機物の分解は、継続されるが主体ではなくなり、セルロースなどの繊維質の分解に移行していく、従来までの堆肥生産方法では、4回~6回程度の撹拌移動により終了しつつある、易分解性有機物の大まかな終了による悪臭の低減、堆肥の色、水分含有量の低下により、一定の堆肥化の終了として製品化され、肉用牛糞のトラックバラ販売などでは、表のように水分50%程度(表1)で譲渡、販売される。
【0065】
【表1】
【0066】
鶏糞や豚糞などでは、上記程度の撹拌回数では、悪臭が残る為、ロータリー式撹拌装置などに移動し、水分含有量が30%程度になるまで撹拌乾燥させる(表1)、5回以下の堆積撹拌移動が一般的であり、ロータリー式攪拌装置に移動した後は、乾燥目的で毎日攪拌移動する為、難分解性有機物の発酵分解が進まなくなる様で、それが、採卵鶏堆肥、豚糞堆肥の発芽率を低くしている。(表1)
【0067】
近隣の違う有機質資源としてブナシメジの廃菌床が弊社袋詰め工場と堆肥センターに位置する為、添加剤的に利用しています。混合時期は、炭素率が高いオガ屑主体であることから、4回目の撹拌移動時の4週間後に行います。この時点では易分解性有機物主体の好気性発酵は終了しつつあり、木材腐朽菌等のリグニン分解を可能とする難分解性有機物分解に移行していると思われます。
【0068】
初期混合比率3:3:1が発酵により体積は減容していますが、タイヤショベルバケット満載でここでも牛糞、鶏糞、戻し堆肥混合堆肥6バケットに、廃菌床1バケットの6:1で混合しました。この廃菌床には、肉用牛、採卵鶏が給餌しない、有機質資源も含まれており、この作業によりあらゆる未利用有機資源が混合され且つ、キノコ菌由来の木材腐朽菌の添加による難分解性有機質分解が期待できます。
【0069】
その後に撹拌移動を繰り返しますが、まぜた君ネオ(令和3年5月)までの生産では、水分を添加することなく10回程度の撹拌移動と、その後のトラクター撹拌による乾燥を行ったためか、炭素率13.5、発芽率84%の良質とは云えない堆肥となっていました。(表1)
【0070】
本発明の堆肥生産の重要作業はここからで、実際に4回目以降の撹拌時に、菌糸の発生具合、実際の見た目の水分含有量により、次回撹拌前に必要量の水分を補給するために、スプリンクラー、潅水チューブ等の農業用の潅水資材を利用して必要量を潅水する。この時の堆肥堆積表面積によるが、20~30mmの降水に相当する散布が適当のようである。
【0071】
従前の作業も、7日間隔の撹拌移動を行ってきたが、これ以降も7日間隔の為に毎日撹拌移動をタイヤショベルで行うが、現状では16回の撹拌移動を行うため、施設では20か所の堆積場所を設置し、毎日3か所の撹拌移動を行っている。初期の仕込みの4トンダンプ7立米としては、60立米になり、廃菌床の混合で70立米に相当しますが、撹拌移動するたびに体積は減容し一か所の撹拌移動は、1時間前後で終了します。
【0072】
堆積堆肥の水分含有量は、夏季では早く乾燥する為、3回の撹拌で水分が減少することもあり、その時点で必要であれば上記方法で潅水します。8回目以降の堆肥の見かけの性状の変化は実際には認識が難しく、その必要性も疑わしい部分もありました。令和3年5月のまぜた君ネオの試験成績からとにかく16回の撹拌と120日以上の期間を行うことに決め、翌年令和4年6月のまぜた君neoの分析を行いその試験結果から、一見無駄に思える作業が、むしろ必ず必要な必須事項であるとの認識からです。
【0073】
毎週1回の全工程で16回の水分含有量が適切な撹拌移動を4か月以上行った本発明の実施により、良質な堆肥の目標である、(表1)のまぜた君neoの分析結果は水分27.4%、炭素率9.2、粗灰分58.7%、カリウム4.4%、発芽率97%を実現でき、本発明の全ての作業に意味がある事が明確になりました。
【0074】
弊社では、20年以上、牛糞鶏糞混合堆肥を生産販売してきましたが、堆肥の品質のバラつきから、経営農業顧客からは、ペレット化の要望やライムソアーでは散布できない等、不可能と思われた製品品質が要求されていましたが、本年令和4年月からの製品(まぜた君neo)では、背負の散布機による散布が容易になり、ライムソアーでも散布ができるようになりました。
【0075】
従来までの肉用牛を原料とした堆肥では、オガ屑の残差や牛の毛髪などが分解できず、見掛け比重の軽い製品であったため、小さな篩を通過させることが難しく、軽い大きな粒や繊維質が入る為、マニュアスプレッターやブレンドキャスターなどで、1000平米あたりに500kg以上の散布が行われてきました。
【0076】
その為に、ペレット化などの製品化が行われ、そのシステムのために高価な設備投資、動力費を必要とし高価な販売単価になっていました。本発明の完熟堆肥では、繊維質成分や毛髪が明確に分解され、比重の重い堆肥なりました。通常の牛糞堆肥はホームセンターなどで8kg/20リットルで販売されていますが、本発明の完熟堆肥は、12kg/20リットルで袋詰めされております。
【0077】
炭素率が低く、炭素含有量が21.2%であることは、比重の重いケイ酸、カリウム等の粗灰分が多くなる土のような性状になる為に、実際に7.4mm間隔のステンレス金網を通過させることができるようになり、背負いの散布機、ライムソアーでの散布が高価なペレット化を行うことなく実現できました。