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特開2024-56122重希土類スラリー及び当該重希土類スラリーを用いたR-Fe-B系磁性体の製造方法
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  • 特開-重希土類スラリー及び当該重希土類スラリーを用いたR-Fe-B系磁性体の製造方法 図1
  • 特開-重希土類スラリー及び当該重希土類スラリーを用いたR-Fe-B系磁性体の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056122
(43)【公開日】2024-04-22
(54)【発明の名称】重希土類スラリー及び当該重希土類スラリーを用いたR-Fe-B系磁性体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20240415BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20240415BHJP
   C04B 35/40 20060101ALI20240415BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240415BHJP
   B22F 1/12 20220101ALI20240415BHJP
   B22F 1/107 20220101ALI20240415BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20240415BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20240415BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20240415BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20240415BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 170
C04B35/40
B22F1/00 R
B22F1/12
B22F1/107
B22F3/24 L
B22F3/24 K
B22F3/00 F
B22F9/00 B
B22F1/05
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023121441
(22)【出願日】2023-07-26
(31)【優先権主張番号】202211239979.9
(32)【優先日】2022-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】310005618
【氏名又は名称】煙台東星磁性材料株式有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100139033
【弁理士】
【氏名又は名称】日高 賢治
(72)【発明者】
【氏名】楊昆昆
(72)【発明者】
【氏名】彭衆傑
(72)【発明者】
【氏名】王伝申
(72)【発明者】
【氏名】丁開鴻
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K017AA02
4K017AA08
4K017BA08
4K017CA07
4K017DA04
4K017DA07
4K018AA27
4K018AB01
4K018AB03
4K018AB10
4K018AC01
4K018BA20
4K018BB04
4K018BC12
4K018BD04
4K018FA08
4K018FA11
4K018FA12
4K018KA45
5E040AA04
5E040BD01
5E040CA01
5E040HB17
5E040NN01
5E062CD05
5E062CG02
5E062CG05
(57)【要約】
【課題】拡散処理に用いる重希土類スラリー塗布層の硬度・強度不足、摩耗し易さ、拡散工程における収縮、重希土類元素の短時間での過剰な供給による拡散のばらつき、重希土類元素の浪費を防止する。
【解決手段】R-Fe-B系磁性体の拡散処理に用いる重希土類スラリーであって、重希土類粉末、有機接着剤、球状耐熱セラミック粉末及び有機溶剤を含み、前記球状耐熱セラミック粉末の平均粒子径は、前記重希土類粉末の平均粒子径の5~10倍であり、前記球状耐熱セラミック粉末の重量は、前記重希土類粉末の重量の10~30%である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
R-Fe-B系磁性体の拡散処理に用いる重希土類スラリーであって、
重希土類粉末、有機接着剤、球状耐熱セラミック粉末及び有機溶剤を含み、
前記球状耐熱セラミック粉末の平均粒子径は、前記重希土類粉末の平均粒子径の5~10倍であり、前記球状耐熱セラミック粉末の重量は、前記重希土類粉末の重量の10~30%である、
ことを特徴とする重希土類スラリー。
【請求項2】
前記重希土類粉末は、純テルビウム粉末、純ジスプロシウム粉末、水素化ジスプロシウム粉末、水素化テルビウム粉末の少なくとも一つであり、平均粒子径は2~10μmである、
ことを特徴とする請求項1に記載の重希土類スラリー。
【請求項3】
前記有機接着剤は、樹脂系接着剤又はゴム系接着剤である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の重希土類スラリー。
【請求項4】
前記球状耐熱セラミック粉末は、球状アルミナセラミック粉末、球状ジルコニアセラミック粉末、球状窒化ホウ素セラミック粉末の少なくとも一つであり、平均粒子径は10~100μmである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の重希土類スラリー。
【請求項5】
前記有機溶剤は、ケトン、ベンゼン又は脂質溶剤である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の重希土類スラリー。
【請求項6】
前記重希土類粉末と前記球状耐熱セラミック粉末の合計重量は、前記重希土類スラリーの40~80%であり、
前記有機接着剤の重量は、前記重希土類スラリーの5~10%であり、
残部は前記有機溶剤である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の重希土類スラリー。
【請求項7】
R-Fe-B系磁性体の製造方法であって、
(ステップ1)請求項1ないし6のいずれか1項に記載の前記重希土類スラリーを拡散処理前のR-Fe-B系磁性体の表面に塗布・乾燥させて重希土類塗布層を形成し、
(ステップ2)真空又はアルゴンガス雰囲気下において、前記重希土類塗布層で覆われた前記拡散処理前のR-Fe-B系磁性体に、拡散処理及び時効処理を行う、
ことを特徴とするR-Fe-B系磁性体の製造方法。
【請求項8】
前記重希土類スラリーの塗布方法は、シルクスクリーン印刷法又はスプレーコーティング法である、
ことを特徴とする請求項7に記載のR-Fe-B系磁性体の製造方法。
【請求項9】
前記重希土類塗布層における前記重希土類粉末の重量は、前記拡散処理前のR-Fe-B系磁性体の0.3~1.5%である、
ことを特徴とする請求項7又は8に記載のR-Fe-B系磁性体の製造方法。
【請求項10】
前記拡散処理の温度は850~950℃、処理時間は3~48時間であり、前記時効処理の温度は450~650℃、処理時間は3~10時間である、
ことを特徴とする請求項7又は8に記載のR-Fe-B系磁性体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R-Fe-B系磁性体の技術分野に属し、特にR-Fe-B系磁性体を拡散処理するために用いる重希土類スラリー、及び当該重希土類スラリーを用いたR-Fe-B系磁性体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
R-Fe-B系焼結磁性体は、空調、自動車、医療機器を始めとする各種技術分野で広く応用されており、更なる小型化及び薄片化と共に、残留磁気及び保磁力の更なる向上が求められている。
【0003】
R-Fe-B系焼結磁性体の合金では、テルビウムやジスプロシウム元素を添加することで、いずれもR-Fe-B系焼結磁性体の保磁力を向上させることができるが、従来の配合方法では、主相結晶粒界にジスプロシウムやテルビウム元素が入り込んでしまうことから、その残留磁気が顕著に低下し、かつ大量の重希土類元素を浪費していた。
【0004】
中国特許公開番号CN107578912Aには、高い保磁力を備えるR-Fe-B系磁性体の製造方法が開示されており、重希土類粉末に酸化防止剤、接着剤、有機溶剤を混合して懸濁液を形成した後にR-Fe-B系磁性体の表面に塗布し、乾燥した後に拡散処理及び時効処理を行うことで、磁性体の保磁力を向上させている。当該方法は、製造効率が高く、材料の利用率も高いことから広く用いられているが、この方法で製造された重希土類塗布層は、硬度と強度が低く、傷つき摩耗し易いことから、重希土類元素が局所的に欠損し、拡散効果に影響を及ぼす。しかも、塗布層は拡散処理工程で不規則な収縮が生じ易く、R-Fe-B系磁性体の表面で重希土類元素が局所的に欠損し、一部の領域で重希土類元素が過度に集中し、拡散処理後のR-Fe-B系磁性体の磁気特性は不均一性であった。
【0005】
R-Fe-B系磁性体表面の塗布層は、高温で拡散処理すると重希土類元素が短時間で過剰に供給され、R-Fe-B系磁性体表面と重希土類元素とが過度に反応して大量の重希土類元素を浪費してしまい、重希土類元素の供給不足となり、R-Fe-B系磁性体内部への拡散が不足してしまう。最終的に拡散処理後の磁性体表層と中心部とで大きな性能差が生じ、重希土類元素の浪費も甚大であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】中国特許CN107578912A公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明は、従来技術に存在する重希土類スラリーを用いた塗布層の硬度・強度不足、摩耗し易さ、拡散工程における収縮、重希土類元素の短時間での過剰な供給による拡散のばらつき、重希土類元素の浪費といった問題を解消することが可能なR-Fe-B系磁性体の拡散処理に用いる重希土類スラリー、及び当該重希土類スラリーを用いたR-Fe-B系磁性体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するため、本願の第一発明は、R-Fe-B系磁性体の拡散処理に用いる重希土類スラリーであって、
重希土類粉末、有機接着剤、球状耐熱セラミック粉末及び有機溶剤を含み、
前記球状耐熱セラミック粉末の平均粒子径は、前記重希土類粉末の平均粒子径の5~10倍であり、前記球状耐熱セラミック粉末の重量は、前記重希土類粉末の重量の10~30%である、ことを特徴とする。
【0009】
前記重希土類粉末は、純テルビウム粉末、純ジスプロシウム粉末、水素化ジスプロシウム粉末、水素化テルビウム粉末の少なくとも一つであり、平均粒子径は2~10μmである、ことを特徴とする。
【0010】
前記有機接着剤は、樹脂系接着剤又はゴム系接着剤である、ことを特徴とする。
【0011】
前記球状耐熱セラミック粉末は、球状アルミナセラミック粉末、球状ジルコニアセラミック粉末、球状窒化ホウ素セラミック粉末の少なくとも一つであり、平均粒子径は10~100μmである、ことを特徴とする。
【0012】
前記有機溶剤は、ケトン、ベンゼン又は脂質溶剤である、ことを特徴とする。
【0013】
前記重希土類粉末と前記球状耐熱セラミック粉末の合計重量は、前記重希土類スラリーの40~80%であり、前記有機接着剤の重量は、前記重希土類スラリーの5~10%であり、残部は前記有機溶剤である、ことを特徴とする。
【0014】
また上記した目的を達成するため、本願の第二発明は、R-Fe-B系磁性体の製造方法であって、(ステップ1)上記した前記重希土類スラリーを拡散処理前のR-Fe-B系磁性体の表面に塗布・乾燥させて重希土類塗布層を形成し、
(ステップ2)真空又はアルゴンガス雰囲気下において、前記重希土類塗布層で覆われた前記拡散処理前のR-Fe-B系磁性体に、拡散処理及び時効処理を行う、ことを特徴とする。
【0015】
前記重希土類スラリーの塗布方法は、シルクスクリーン印刷法又はスプレーコーティング法である、ことを特徴とする。
【0016】
前記重希土類塗布層における前記重希土類粉末の重量は、前記拡散処理前のR-Fe-B系磁性体の0.3~1.5%である、ことを特徴とする。
【0017】
前記拡散処理の温度は850~950℃、処理時間は3~48時間であり、前記時効処理の温度は450~650℃、処理時間は3~10時間である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の重希土類スラリー及びこれを用いたR-Fe-B系磁性体の製造方法によって、以下の技術的効果を実現することができる。
(1)重希土類スラリーに所定の大きさの球状耐熱セラミック粉末を所定の割合で添加することで、これを吹き付けて乾燥させた後に形成された重希土類塗布層は、球状耐熱セラミック粉末を構成の基礎とする骨格構造及び骨格構造の隙間に三次元網目構造状に連続して分布する重希土類を含む構造となる。重希土類塗布層中の球状耐熱セラミック粉末は基本的な骨格を形成し、膜層全体の硬度及び強度を高めて膜層の耐摩耗性及び耐スクラッチ性を向上させる一方、拡散処理工程における重希土類膜層の収縮を防止し、拡散処理工程における重希土類元素の分布をより均等化することができる。
【0019】
(2)重希土類塗布層は、重希土類拡散源が球状耐熱セラミック粉末で形成される骨格構造の隙間に三次元網目構造状に連続して存在することから、重希土類塗布層中の重希土類は、拡散処理工程において、セラミック粉末間の隙間に沿って安定して持続的にR-Fe-B系磁性体に拡散する。これによって重希土類の一時的な過剰供給が解消され、拡散性能と拡散均一性が向上し、重希土類元素の浪費を防ぐことができる。更に、球状耐熱セラミック粉末が存在することで、重希土類塗布層中の重希土類元素が均等且つ連続した網目構造の内部にとどまり、重希土類塗布層表面から内部への大気中の酸素の浸入を軽減することができ、重希土類塗布層の抗酸化性が向上する。
【0020】
(3)重希土類スラリーの塗布工程において、球状耐熱セラミック粉末の添加によりスラリーの流動性及び懸濁性が増大し、コーティングの精度と安定性が向上する。更に、球状耐熱セラミック粉末を添加することで、重希土類元素の脱気経路が改善され、重希土類スラリー中の有機溶剤等の揮発が促進され、製造上の安定性も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】拡散処理前のR-Fe-B系磁性体表面に重希土類塗布層を形成した状態を示す模式図。
図2】拡散処理後のR-Fe-B系磁性体を拡散方向に沿って切断した状態を示す模式図。
【0022】
図1において、符号1は拡散処理前のR-Fe-B系磁性体、符号2は重希土類スラリー塗布層、符号3は球状耐熱セラミック粉末、符号4は重希土類粉末を含む樹脂層を示す。
【0023】
図2において、1#及び5#は拡散方向に沿った最も外側の切断サンプルを示し、3#は最も中央の切断サンプルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図1及び図2を用いて本願発明の原理及び特徴を詳細に説明する。下記実施例は、本発明の解釈のみに用いるものであり、本願発明に係る構成を限定するものではない。
【0025】
実施例1
(ステップ1)平均粒子径2.0μmの純Tb粉末、ゴム系接着剤、ケトン系有機溶剤及び平均粒子径10.0μmの球状アルミナセラミック粉末の四つを重希土類スラリーの原料とした。まず、純Tb粉末と球状アルミナセラミック粉末とを混合し、球状アルミナセラミック粉末の重量は純Tb粉末の重量の10%であり、混合後の粉末を拡散源中間体とした。拡散源中間体、ゴム系接着剤及びケトン系有機溶剤をそれぞれ40%、5%、55%の割合で混合し、均一に撹拌し、実施例1に係る重希土類スラリーを作成した。
【0026】
(ステップ2)作成した重希土類スラリーを、シルクスクリーン印刷法で平面10mm×10mm、厚さ5mmの拡散処理前のR-Fe-B系磁性体の上下二つの平面に塗布し、スラリーを乾燥させて重希土類塗布層を形成した。塗布層中の重希土類元素の重量を拡散処理前のR-Fe-B系磁性体の重量の0.8%とした。R-Fe-B系磁性体は、溶錬、製粉、成型、焼結及び時効処理工程を経て作成したN48Hグレードの磁性体であり、これを10mm×10mm×5mmに加工したものである。
【0027】
実施例1に係る重希土類塗布層は、図1の模式図に示すとおり、球状アルミナセラミック粉末を基礎とする骨格構造を有しており、重希土類粉末は、この球状アルミナセラミック粉末によって構成される骨格構造の隙間に分布し、かつ三次元網目構造を構成している。
【0028】
(ステップ3)重希土類塗布層を有するR-Fe-B系磁性体を、真空中で拡散処理及び時効処理した。拡散処理は850℃で48時間、時効処理は500℃で5時間であった。拡散処理完了後の磁性体の磁気特性を測定した。測定結果を表1に示す。
【0029】
実施例1と対比するため、以下の比較例1を作成した。
【0030】
比較例1
(ステップ1)平均粒子径2.0μmの純Tb粉末、ゴム系接着剤及びケトン系有機溶剤の三つを重希土類スラリーの原料とした。純Tb粉末、ゴム系接着剤及びケトン系有機溶剤をそれぞれ40%、5%、55%の割合で混合し、均一に撹拌して比較例1に係る重希土類スラリーを作成した。
【0031】
(ステップ2)上記重希土類スラリーをシルクスクリーン印刷法で平面10mm×10mm、厚さ5mmのR-Fe-B系磁性体の上下二つの平面に塗布し、スラリーを乾燥させ、重希土類塗布層を形成した。塗布層中の重希土類元素の重量をR-Fe-B系磁性体の重量の0.8%とした。R-Fe-B系磁性体は、溶錬、製粉、成型、焼結及び時効処理工程を経て作成したN48Hグレードの磁性体であり、これを10mm×10mm×5mmに加工したものである。
【0032】
(ステップ3)重希土類塗布層を有するR-Fe-B系磁性体を真空中で拡散及び時効処理した。拡散処理は850℃で48時間、時効処理は500℃で5時間であった。拡散処理完了後の磁性体の磁気特性を測定した。測定結果を表1に示す。
【0033】
実施例1及び比較例1における重希土類塗布層の耐スクラッチ性を対比するために、実施例1の重希土類塗布層を有するサンプルの塗布面と、比較例1の重希土類塗布層を有するサンプルの塗布面とを接触させ相互摩擦試験を行った。
【0034】
実施例1のサンプル表面と比較例1のサンプル表面とが擦れて削れ落ちた重希土類塗布層の面積が塗布面の総面積に占める比率を算出した。算出結果を表1に示す。ここでは、その比率を「削れ率」として定義する(以下、実施例2~4、比較例2~4も同様)。
【0035】
実施例1及び比較例1の重希土類塗布層の拡散処理工程における耐収縮性を対比するために、実施例1及び比較例1からそれぞれ100枚の拡散処理後の磁性体を選択し、拡散処理後の重希土類塗布層に収縮現象が生じたサンプルの数量とサンプルの総数とを比較して収縮率を算出した。算出結果を表1に示す。
【0036】
表1
【0037】
表1に示すとおり、実施例1の重希土類塗布層を有するサンプルの塗布面は、比較例1の重希土類塗布層を有するサンプルの塗布面と接触し摩擦し合っても傷は付かなかったが、比較例1のサンプルは傷が付き、その削れ率は20%であり、実施例1の重希土類塗布層の耐スクラッチ性が比較例1より強いことを示している。
【0038】
また、拡散処理工程における比較例1のサンプル表面の重希土類塗布層の収縮率は7%であったが、実施例1のサンプル表面の重希土類塗布層は拡散処理工程においても収縮しなかった。これは、実施例1の重希土類塗布層が、比較例1の重希土類塗布層に比べてより高い耐収縮性を有することを示している。
【0039】
表1に示すとおり、重希土類元素の総量が同一の場合、実施例1の磁性体は、拡散処理後に残留磁気Brが0.18kGs低下し、保磁力Hcjが10.4kOe増加し、角型比Hk/Hcjが0.007低下したことが分かる。比較例1の磁性体は、拡散処理後にBrが0.20kGs低下し、Hcjが9.8kOe増加し、Hk/Hcjが0.014低下したことが分かる。
【0040】
上記結果から、実施例1及び比較例1は、いずれも重希土類元素の総量が同一であり、R-Fe-B系磁性体の磁気特性が向上しているものの、実施例1の方が残留磁気の低下幅がより低く、保磁力の増加幅が大きく、角形比の低下幅がより小さくなっていることが分かる。
【0041】
拡散処理前のR-Fe-B系磁性体、実施例1の拡散完了後のR-Fe-B系磁性体及び比較例1の拡散完了後のR-Fe-B系磁性体を、図2に示すように拡散方向(厚み方向)に沿って5等分に切断し、拡散方向に沿って異なる位置の磁気特性を測定した。測定結果を表2に示す。

【0042】
表2
【0043】
表2に示すとおり、重希土類元素の総量と拡散処理工程の条件が同一の実施例1と比較例2とを対比すると、実施例1の磁性体の拡散方向の最も外側に位置する第1層サンプルと第3層サンプルの保磁力の差は2.20kOeであり、且つ第3層サンプルの保磁力は第3層拡散処理前よりも8.70kOe向上しているのに対し、比較例1の磁性体の拡散方向の最も外側に位置する第1層サンプルと第3層サンプルの保磁力の差は2.9kOeであり、且つ第3層サンプルの保磁力は第3層拡散処理前よりも8.00kOeの増加であった。
【0044】
更に、拡散処理後の実施例1の磁性体の第3層における磁気特性は、拡散処理後の比較例1の磁性体の第3層における磁気特性と対比して、0.70kOe向上した。上記対比の結果、実施例1の磁性体は、比較例1に比べて拡散深さがより深く、拡散もより均等であることが分かる。
【0045】
実施例2
(ステップ1)平均粒子径5.0μmの水素化ジスプロシウム粉末及び純Dy粉末の1:1混合物、樹脂系接着剤、エステル系有機溶剤及び平均粒子径35.0μmの球状ジルコニアセラミック粉末の四つを重希土類スラリーの原料とした。まず、重希土類拡散源粉末と球状ジルコニアセラミック粉末とを混合し、球状ジルコニアセラミック粉末の重量は重希土類拡散源粉末の重量の15%であり、混合後の粉末を拡散源中間体とした。拡散源中間体、樹脂系接着剤及びエステル系有機溶剤をそれぞれ60%、10%、30%の割合で混合し、均一に撹拌して重希土類スラリーを作成した。
【0046】
(ステップ2)作成した重希土類スラリーを、シルクスクリーン印刷法で平面10mm×10mm、厚さ3mmの拡散処理前のR-Fe-B系磁性体の上下二つの平面に塗布し、スラリーを乾燥させて重希土類塗布層を形成した。塗布層中の重希土類元素の重量をR-Fe-B系磁性体の重量の0.3%とした。R-Fe-B系磁性体は、溶錬、製粉、成型、焼結及び時効処理工程を経て作成したN55Hグレードの磁性体であり、これを10mm×10mm×3mmに加工したものである。
【0047】
実施例2に係る重希土類塗布層は、図1の模式図に示すとおり、球状ジルコニアセラミック粉末を基礎とする骨格構造を有しており、重希土類粉末は、この球状ジルコニアセラミック粉末によって構成される骨格構造の隙間に分布し、かつ三次元網目構造を構成している。
【0048】
(ステップ3)重希土類塗布層を有するR-Fe-B系磁性体をアルゴンガス雰囲気中で拡散処理及び時効処理した。拡散処理は900℃で3時間、時効処理は450℃で3時間であった。拡散処理完了後の磁性体の磁気特性を測定した。測定結果を表3に示す。
【0049】
実施例1と対比するため、以下の比較例2を作成した。
【0050】
比較例2
(ステップ1)平均粒子径5.0μmの水素化ジスプロシウム粉末及び純Dy粉末の1:1混合物、樹脂系接着剤及びエステル系有機溶剤の三つを重希土類スラリーの原料とした。重希土類粉末、樹脂系接着剤及びエステル系有機溶剤をそれぞれ60%、10%、30%の割合で混合し、均一に撹拌して比較例2に係る重希土類スラリーを作成した。
【0051】
(ステップ2)上記重希土類スラリーをシルクスクリーン印刷法で平面10mm×10mm、厚さ3mmのR-Fe-B系磁性体の上下二つの平面に塗布し、スラリーを乾燥させ、重希土類塗布層を形成した。塗布層中の重希土類元素の重量をR-Fe-B系磁性体の重量の0.3%とした。R-Fe-B系磁性体は、溶錬、製粉、成型、焼結及び時効処理工程を経て作成したN55Hグレードの磁性体であり、これを10mm×10mm×3mmに加工したものである。
【0052】
(ステップ3)重希土類塗布層を有するR-Fe-B系磁性体をアルゴンガス雰囲気中で拡散及び時効処理した。拡散処理は900℃で3時間、時効処理は450℃で3時間であった。拡散処理完了後の磁性体の磁気特性を測定した。測定結果を表3に示す。
【0053】
実施例2及び比較例2における重希土類塗布層の耐スクラッチ性を対比するために、実施例2の重希土類塗布層を有するサンプルの塗布面と、比較例2の重希土類塗布層を有するサンプルの塗布面とを接触させ相互摩擦試験を行った。
【0054】
実施例2のサンプル表面と比較例2のサンプル表面とが擦れて削れ落ちた重希土類塗布層の面積が塗布面の総面積に占める削れ率を算出した。算出結果を表3に示す。
【0055】
実施例2及び比較例2の重希土類塗布層の拡散工程における耐収縮性を対比するために、実施例2及び比較例2からそれぞれ100枚の拡散処理後の磁性体を選択し、拡散処理後の重希土類塗布層に収縮現象が生じたサンプルの数量とサンプルの総数とを比較して収縮率を算出した。算出結果を表3に示す。

【0056】
表3
【0057】
表3に示すとおり、実施例2の重希土類塗布層を有するサンプルの塗布面は、比較例2の重希土類塗布層を有するサンプルの塗布面と接触し摩擦し合っても傷は付かなかったが、比較例2のサンプルは傷が付き、その削れ率は10%であり、実施例2の重希土類塗布層の耐スクラッチ性が比較例2より強いことを示している。
【0058】
また、拡散処理工程における比較例2のサンプル表面の重希土類塗布層の収縮率は11%であったが、実施例2のサンプル表面の重希土類塗布層は拡散処理工程においても収縮しなかった。これは、実施例2の重希土類塗布層が、比較例2の重希土類塗布層と比べてより高い耐収縮性を有することを示している。
【0059】
表3に示すとおり、重希土類元素の総量が同一の場合、実施例2の磁性体は、拡散処理後に残留磁気Brが0.09kGs低下し、保磁力Hcjが3.81kOe増加し、角型比Hk/Hcjが0.008低下したことが分かる。比較例2の磁性体は、拡散処理後にBrが0.10kGs低下し、Hcjが3.3kOe増加し、Hk/Hcjが0.009低下したことが分かる。
【0060】
上記結果から、実施例2及び比較例2は、いずれも重希土類元素の総量が同一であり、R-Fe-B系磁性体の磁気特性が向上しているものの、実施例2の方が保磁力の増加幅がより大きいことが分かる。
【0061】
拡散処理前のR-Fe-B系磁性体、実施例2の拡散完了後のR-Fe-B系磁性体及び比較例2の拡散完了後のR-Fe-B系磁性体を、拡散方向(厚み方向)に沿って3等分に切断し、拡散方向に沿って異なる位置の磁気特性を測定した。測定結果を表4に示す。
【0062】
表4
【0063】
表4に示すとおり、重希土類元素の総量と拡散処理工程の条件が同一の実施例2と比較例2とを対比すると、実施例2の磁性体の拡散方向の最も外側に位置する第1層サンプルと第2層サンプルの保磁力の差は0.79kOeであり、サンプルの第2層におけるHcjは3.0kOe増加しているのに対し、比較例2の磁性体の拡散方向の最も外側に位置する第1層サンプルと第2層サンプルの保磁力の差は1.33kOeであり、且つ第2層サンプルの保磁力は第2層拡散処理前よりも2.06kOeの増加であった。
【0064】
更に、拡散処理後の実施例2の磁性体の第2層における磁気特性は、拡散処理後の比較例2の磁性体の第2層における磁気特性と対比して、0.94kOe増加した。上記対比の結果、実施例2の磁性体は、比較例2に比べて拡散深さがより深く、拡散もより均等であることが分かる。
【0065】
実施例3
(ステップ1)平均粒子径10.0μmの水素化テルビウム粉末、ゴム系接着剤、ベンゼン系有機溶剤及び平均粒子径100μmの球状窒化ホウ素セラミック粉末の四つを重希土類スラリーの原料とした。まず、水素化テルビウム粉末と球状窒化ホウ素セラミック粉末とを混合し、球状窒化ホウ素粉末の重量は水素化テルビウム粉末の重量の10%であり、混合後の粉末を拡散源中間体とした。拡散源中間体、ゴム系接着剤及びベンゼン系有機溶剤をそれぞれ80%、6%、14%の割合で混合し、均一に撹拌し、実施例3に係る重希土類スラリーを作成した。
【0066】
(ステップ2)作成した重希土類スラリーを、スプレーコーティング法で平面10mm×10mm、厚さ6mmの拡散処理前のR-Fe-B系磁性体の二つの平面に塗布し、スラリーを乾燥させて重希土類塗布層を形成した。塗布層中の重希土類元素の重量を拡散処理前のR-Fe-B系磁性体の重量の1.0%とした。R-Fe-B系磁性体は、溶錬、製粉、成型、焼結及び時効処理工程を経て作成したN55Hグレードの磁性体であり、これを加工して10mm×10mm×6mmに加工したものである。
【0067】
実施例3に係る重希土類塗布層は、図1の模式図に示すとおり、球状窒化ホウ素セラミック粉末を基礎とする骨格構造を有しており、重希土類粉末は、この球状窒化ホウ素セラミック粉末によって構成される骨格構造の隙間に分布し、かつ三次元網目構造を構成している。
【0068】
(ステップ3)重希土類塗布層を有するR-Fe-B系磁性体をアルゴンガス雰囲気中で拡散処理及び時効処理した。拡散処理は950℃で30時間、時効処理は600℃で10時間であった。拡散処理完了後の磁性体の磁気特性を測定した。測定結果を表5に示す。
【0069】
実施例3と対比するため、以下の比較例3を作成した。
【0070】
比較例3
(ステップ1)平均粒子径10.0μmの水素化テルビウム粉末、ゴム系接着剤及びベンゼン系有機溶剤の三つを重希土類スラリーの原料とした。水素化テルビウム粉末、ゴム系接着剤及びベンゼン系有機溶剤をそれぞれ80%、6%、14%の割合で混合し、均一に撹拌して比較例3に係る重希土類スラリーを作成した。
【0071】
(ステップ2)上記重希土類スラリーをスプレーコーティング法で平面10mm×10mm、厚さ6mmのR-Fe-B系磁性体素の上下二つの平面に塗布し、乾燥した後に特殊な構造を備える重希土類塗布層を形成し、塗布層中の重希土類元素の重量をR-Fe-B系磁性体素地の重量の1.0%とした。R-Fe-B系磁性体は、溶錬、製粉、成型、焼結及び時効処理工程を経て作成したN55Hグレードの磁性体であり、これを10mm×10mm×6mmに加工したものである。
【0072】
(ステップ3)重希土類塗布層を有するR-Fe-B系磁性体をアルゴンガス雰囲気中で拡散及び時効処理した。拡散処理は950℃で30時間、時効処理は600℃で10時間であった。拡散処理完了後の磁性体の磁気特性を測定した。測定結果を表5に示す。
【0073】
実施例3及び比較例3における重希土類塗布層の耐スクラッチ性を対比するために、実施例3の重希土類塗布層を有するサンプルの塗布面と、比較例3の重希土類塗布層を有するサンプルの塗布面とを接触させ相互摩擦試験を行った。
【0074】
実施例3のサンプル表面と比較例3のサンプル表面とが擦れて削れ落ちた重希土類塗布層の面積が塗布面の総面積に占める削れ率を算出した。算出結果を表5に示す
【0075】
実施例3及び比較例3の重希土類塗布層の拡散処理工程における耐収縮性を対比するために、実施例3及び比較例3からそれぞれ100枚の拡散処理後の磁性体を選択し、拡散処理後の重希土類塗布層に収縮現象が生じたサンプルの数量とサンプルの総数とを比較して収縮率を算出した。算出結果を表5に示す。

【0076】
表5
【0077】
表5に示すとおり、実施例3の重希土類塗布層を有するサンプルの塗布面は、比較例3の重希土類塗布層を有するサンプルの塗布面と接触し摩擦し合っても傷は付かなかったが、比較例3のサンプルは傷が付き、その削れ率は9%であり、実施例3の重希土類塗布層の耐スクラッチ性が比較例3より強いことを示している。
【0078】
また、拡散処理工程における比較例3のサンプル表面の重希土類塗布層の収縮率は6%であったが、実施例3のサンプル表面の重希土類塗布層は拡散処理工程においても収縮しなかった。これは、実施例3の重希土類塗布層が、比較例3の重希土類塗布層と比べてより高い耐収縮性を有することを示している。
【0079】
表5に示すとおり、重希土類元素の総量が同一の場合、実施例3の磁性体は、拡散処理後に残留磁気Brが0.23kGs低下し、保磁力Hcjが11.28kOe増加し、角型比Hk/Hcjが0.009低下したことが分かる。比較例3の磁性体は、拡散処理後にBrが0.25kGs低下し、Hcjが10.48kOe増加し、Hk/Hcjが0.014低下したことが分かる。
【0080】
上記結果から、実施例3及び比較例3は、いずれも重希土類元素の総量が同一であり、R-Fe-B系磁性体の磁気特性が向上しているものの、実施例3の方が保磁力の増加幅がより大きいことが分かる。
【0081】
拡散処理前のR-Fe-B系磁性体、実施例3の拡散完了後のR-Fe-B系磁性体及び比較例3の拡散完了後のR-Fe-B系磁性体を、図2に示すように拡散方向(厚み方向)に沿って5等分に切断し、拡散方向に沿って異なる位置の磁気特性を測定した。測定結果を表6に示す。
【0082】
表6
【0083】
表6に示すとおり、重希土類元素の総量と拡散処理工程の条件が同一の実施例3と比較例3を対比すると、実施例3の磁性体の拡散方向の最も外側に位置する第1層サンプルと中心に位置する第3層サンプルの保磁力の差は1.70kOeであり、且つ第3層サンプルの保磁力は第3層拡散処理前よりも9.99kOe向上しているのに対し、比較例3の磁性体の拡散方向の最も外側に位置する第1層サンプルと中心に位置する第3層サンプルの保磁力の差は2.55kOeであり、且つ第3層サンプルの保磁力は第3層拡散処理前よりも8.79kOeの増加であった。
【0084】
更に、拡散処理後の実施例3の磁性体の第3層における磁気特性は、拡散処理後の比較例3の磁性体の第3層における磁気特性と対比して、1.20kOe向上した。上記対比の結果、実施例3の磁性体は、比較例3に比べて拡散深さがより深く、拡散もより均等であることが分かる。
【0085】
実施例4
(ステップ1)平均粒子径5.0μmの水素化テルビウム粉末、樹脂系接着剤、エステル系有機溶剤及び平均粒子径500μmの球状酸化ジルコニウムセラミック粉末の四つを重希土類スラリーの原料とした。まず、水素化テルビウム粉末と球状酸化ジルコニウムセラミック粉末とを混合し、球状酸化ジルコニウム粉末の重量は水素化テルビウム粉末の重量の30%であり、混合後の粉末を拡散源中間体とした。その後、拡散源中間体、樹脂系接着剤及びエステル系有機溶剤をそれぞれ60%、8%、32%の割合で混合し、均一に撹拌し、実施例4に係る重希土類スラリーを作成した。
【0086】
(ステップ2)作成した重希土類スラリーを、スプレーコーティング法で平面10mm×10mm、厚さ8mmの拡散処理前のR-Fe-B系磁性体の上下二つの平面に塗布し、スラリーを乾燥させて重希土類塗布層を形成した。塗布層中の重希土類元素の重量を拡散処理前のR-Fe-B系磁性体の重量の1.5%とした。R-Fe-B系磁性体は、溶錬、製粉、成型、焼結及び時効処理工程を経て作成したN42Hグレードの磁性体であり、これを10mm×10mm×8mmに加工したものである。
【0087】
実施例4に係る重希土類塗布層は、図1の模式図に示すとおり、球状酸化ジルコニウム粉末を基礎とする骨格構造を有しており、重希土類粉末は、この球状酸化ジルコニウム粉末によって構成される骨格構造の隙間に分布し、かつ三次元網目構造を構成している。
【0088】
(ステップ3)重希土類塗布層を有するR-Fe-B系磁性体を真空中で拡散処理及び時効処理した。拡散処理は900℃で40時間、時効処理は650℃で8時間であった。拡散処理完了後の磁性体の磁気特性を測定した。測定結果を表7に示す。
【0089】
実施例4と対比するため、以下の比較例4を作成した。
【0090】
比較例4
(ステップ1)平均粒子径5.0μmの水素化テルビウム粉末、樹脂系接着剤及びエステル系有機溶剤の三つを重希土類スラリーの原料とした。水素化テルビウム粉末、樹脂系接着剤及びエステル系有機溶剤をそれぞれ60%、8%、32%の割合で混合し、均一に撹拌して比較例4に係る重希土類スラリーを作成した。
【0091】
(ステップ2)上記重希土類スラリーをスプレーコーティング法で平面10mm×10mm、厚さ8mmのR-Fe-B系磁性体素の二つの平面に塗布し、乾燥させて重希土類塗布層を形成した。塗布層中の重希土類元素の重量をR-Fe-B系磁性体の重量の1.5%とした。R-Fe-B系磁性体は、溶錬、製粉、成型、焼結及び時効処理工程を経て作成したN42Hグレードの磁性体であり、これを10mm×10mm×8mmに加工したものである。
【0092】
(ステップ3)重希土類塗布層を有するR-Fe-B系磁性体を真空中で拡散及び時効処理した。拡散処理は900℃で40時間、時効処理は650℃で8時間であった。拡散処理完了後の磁性体の磁気特性を測定した。測定結果を表7に示す。
【0093】
実施例4及び比較例4における重希土類塗布層の耐スクラッチ性を対比するために、実施例4の重希土類塗布層を有するサンプルの塗布面と、比較例4の重希土類塗布層を有するサンプルの塗布面とを接触させ相互摩擦試験を行った。
【0094】
実施例4のサンプル表面と比較例4のサンプル表面とが擦れて素地から削れ落ちた重希土類塗布層の面積が塗布面の総面積に占める削れ率を算出した。算出結果を表7に示す。
【0095】
実施例4及び比較例4の重希土類塗布層の拡散処理工程における耐収縮性を対比するために、実施例4及び比較例4からそれぞれ100枚の拡散処理後の磁性体を選択し、拡散処理後の重希土類塗布層に収縮現象が生じたサンプルの数量とサンプルの総数とを比較して収縮率を算出した。算出結果を表7に示す。
【0096】
表7
【0097】
表7に示すとおり、実施例4の重希土類塗布層を有するサンプルの塗布面は、比較例4の重希土類塗布層を有するサンプルの塗布面と接触し摩擦し合っても傷は付かなかったが、比較例4のサンプルは傷が付き、その削れ率は21%であり、実施例4の重希土類塗布層の耐スクラッチ性が比較例4より強いことを示している。
【0098】
また、拡散処理工程における比較委例4のサンプル表面の重希土類塗布層の収縮率は13%であったが、実施例4のサンプル表面の重希土類塗布層は拡散処理工程においても収縮しなかった。これは、実施例4の重希土類塗布層が、比較例4の重希土類塗布層と比べてより高い耐収縮性を有することを示している。
【0099】
表7に示すとおり、重希土類元素の総量が同一の場合、実施例4の磁性体は、拡散処理後に残留磁気Brが0.28kGs低下し、保磁力Hcjが11.95kOe増加し、角型比Hk/Hcjが0.009低下したことが分かる。比較例4の磁性体は、拡散処理後にBrが0.32kGs低下し、Hcjが11.40kOe増加し、Hk/Hcjが0.013低下したことが分かる。
【0100】
上記結果から、実施例4及び比較例4は、いずれも重希土類元素の総量が同一であり、R-Fe-B系磁性体の磁気特性が向上しているものの、実施例4の方が重保磁力の増加幅がより大きいことが分かる。
【0101】
拡散処理前のR-Fe-B系磁性体、実施例4の拡散完了後のR-Fe-B系磁性体及び比較例4の拡散完了後のR-Fe-B系磁性体を、図2に示すように拡散方向(厚み方向)に沿って5等分に切断し、拡散方向に沿って異なる位置の磁気特性を測定した。測定結果を表8に示す。
【0102】
表8
【0103】
表8に示すとおり、重希土類元素の総量と拡散処理工程の条件が同一の実施例4と比較例4を対比すると、実施例4の磁性体の拡散方向の最も外側に位置する第1層サンプルと中心に位置する第3層サンプルの保磁力の差は2.81kOeであり、且つ第3層サンプルの保磁力は第3層拡散処理前よりも10.20kOe向上した一方、比較例4の磁性体の拡散方向の最も外側に位置する第1層サンプルと中心に位置する第3層サンプルの保磁力の差は3.70kOeであり、且つ第3層サンプルの保磁力は第3層拡散処理前よりも9.09kOeの増加であった。
【0104】
更に、拡散処理後の実施例4の磁性体の第3層における磁気特性は、拡散処理後の比較例4の磁性体の第3層における磁気特性と対比して、1.11kOe向上した。上記対比の結果、実施例4の磁性体は、比較例4に比べて拡散深さがより深く、拡散もより均等であることが分かる。
【符号の説明】
【0105】
1 拡散処理前のR-Fe-B系磁性体
2 重希土類スラリー塗布層
3 球状耐熱セラミック粉末
4 重希土類粉末を含む樹脂層

図1
図2