(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005615
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】管拡径工具
(51)【国際特許分類】
B29C 57/04 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
B29C57/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105879
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢加部 晃一
(72)【発明者】
【氏名】生田 洋規
【テーマコード(参考)】
4F209
【Fターム(参考)】
4F209AG08
4F209AG23
4F209AH11
4F209NA22
4F209NB01
4F209NG03
4F209NM07
4F209NN02
(57)【要約】
【課題】前後方向にコンパクトに設けられた管拡径工具が必要とされている。
【解決手段】合成樹脂製の流体管の端部を拡径する管拡径工具1は、電動モータ20によって回転するモータ軸20aを有する。管拡径工具1は、モータ軸20aの回転を出力軸27の前後動に変換する送りねじ機構25を有する。管拡径工具1は、出力軸27の前部に設けられた楔3に押されて径方向外方に相互に開く複数のジョー4を有する。管拡径工具1は、モータ軸20aの回転に連動して軸回転するシャフト31を具備し、シャフト31によって複数のジョー4を軸回転させるジョー回転機構30を有する。出力軸27とモータ軸20aとジョー回転機構30のシャフト31は、相互に並列で、かつ前後方向にオーバーラップして配設される。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製の流体管の端部を拡径する管拡径工具であって、
電動モータによって回転するモータ軸と、
前記モータ軸の回転を出力軸の前後動に変換する動力変換機構と、
前記出力軸の前部に設けられた楔に押されて径方向外方に相互に開く複数のジョーと、
前記モータ軸の回転に連動して軸回転するシャフトを具備し、前記シャフトによって前記複数のジョーを軸回転させるジョー回転機構を有し、
前記出力軸と前記モータ軸と前記ジョー回転機構の前記シャフトは、相互に並列で、かつ前後方向にオーバーラップして配設される管拡径工具。
【請求項2】
請求項1に記載の管拡径工具であって、
前記ジョー回転機構の前記シャフトと前記電動モータは、それぞれの軸方向長さの8割以上が後端位置の前記出力軸に対して前後方向にオーバーラップするように配置されている管拡径工具。
【請求項3】
請求項2に記載の管拡径工具であって、
前記ジョー回転機構の前記シャフトと前記電動モータは、それぞれの軸方向全長において後端位置の前記出力軸に対して前後方向にオーバーラップするように配置されている管拡径工具。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載の管拡径工具であって、
前記モータ軸の回転出力を変速させる変速機構と、
前記変速機構と前記動力変換機構の間に設けられたアイドルギヤを有する管拡径工具。
【請求項5】
請求項4に記載の管拡径工具であって、
前記出力軸と前記モータ軸は、前後方向と直交する上下方向にオフセットして配置され、
前記ジョー回転機構は、前記出力軸の軸方向視において前記出力軸と前記モータ軸の上下方向の間に位置する管拡径工具。
【請求項6】
請求項5に記載の管拡径工具であって、
前記ジョー回転機構は、前記モータ軸と前記出力軸の両方を含む仮想平面に対してオフセットして配置されている管拡径工具。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1つに記載の管拡径工具であって、
前記ジョー回転機構は、ワンウェイクラッチを有し、前記ワンウェイクラッチは、前記シャフトの第1回転に連動して回転して前記複数のジョーを回転させ、かつ前記シャフトの前記第1回転と反対の第2回転に連動せず、
前記ジョー回転機構の前記シャフトは、後シャフトと、前記後シャフトの前部に螺合される前シャフトを有する管拡径工具。
【請求項8】
請求項7に記載の管拡径工具であって、
前記前シャフトは、前記後シャフトに対して前記第1回転の方向で締まるように螺合されている管拡径工具。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1つに記載の管拡径工具であって、
前記動力変換機構は、前記出力軸の外周に設けられた雄ねじと、前記雄ねじが挿通されるナットを具備する送りねじ機構である管拡径工具。
【請求項10】
請求項9に記載の管拡径工具であって、
前記出力軸の軸方向と交差する方向に延出するグリップを有し、
前記送りねじ機構の前記ナットの少なくとも一部と、前記電動モータの少なくとも一部が前記グリップと前後方向にオーバーラップする管拡径工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば合成樹脂製の流体管の端部を被接続体に接続するために拡径する管拡径工具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばPEX(Crоss-linked pоlyethylene:架橋ポリエチレン)を材料とする流体管を樹脂製のパイプ等の被接続体に接続する場合がある。PEX管の端部の内径を拡げる管拡径工具が従来提供されている。PEX管の端部を、管拡径工具を用いて拡径して被接続体に装着する。PEX管の端部は、弾性変形によって次第に元の径に戻るように縮径する。端部が縮径したPEX管は、被接続体に対して密に接続される。接続されたPEX管は、自身の弾性を利用して被接続体に強固に保持される。
【0003】
特許文献1には、電動モータを駆動源としてPEX管を拡径する管拡径工具が記載されている。管拡径工具は、前端が先端である略円錐状の楔と、楔の前方で楔の周方向に並ぶ複数のジョーが設けられる。楔は、管拡径工具の内部において前後動する出力軸の前端に取付けられる。楔が出力軸と共に前進する際、複数のジョーは楔に押されて楔の径方向外方に相互に開く。複数のジョーをPEX管の端部開口に進入させた状態で径方向外方に開くことで、PEX管の端部を拡げることができる。
【0004】
例えば管拡径工具が6つのジョーを有する場合、PEX管の端部は周方向等間隔に6箇所で各ジョーから径方向外方に開く力を受ける。そのため1回の拡径動作では、PEX管の端部が略六角形に拡径される。PEX管の端部を円形に拡径するためには、拡径動作と、複数のジョーを楔の周方向に所定の角度(例えば15°~30°)で回転させる回転動作とを交互に繰り返し行う。これにより各ジョーがPEX管の内周面と接触する位置が回転動作によって移動する。そのためPEX管の端部は、均一に拡径されて円形に近づく。
【0005】
例えば互いに対向しかつ間隔の狭い2つの壁の間でPEX管を配設する場合がある(
図2参照)。狭い場所に配設されたPEX管の端部を拡径する作業性を良好にするため、管拡径工具は前後方向にコンパクトであることが好ましい。管拡径工具は、電動モータの回転駆動を出力軸の前後動に変換する動力変換機構と、ジョーを回転させるジョー回転機構を有する。特許文献1に記載されるように従来の管拡径工具では、ジョー回転機構が出力軸と同軸上に配置されていた。そのため管拡径工具を前後方向にコンパクトに設けることが難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって前後方向にコンパクトに設けられた管拡径工具が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の1つの特徴によると合成樹脂製の流体管の端部を拡径する管拡径工具は、電動モータによって回転するモータ軸を有する。管拡径工具は、モータ軸の回転を出力軸の前後動に変換する動力変換機構を有する。管拡径工具は、出力軸の前部に設けられた楔に押されて径方向外方に相互に開く複数のジョーを有する。管拡径工具は、モータ軸の回転に連動して軸回転するシャフトを具備し、シャフトによって複数のジョーを軸回転させるジョー回転機構を有する。出力軸とモータ軸とジョー回転機構のシャフトは、相互に並列で、かつ前後方向にオーバーラップして配設される。
【0009】
したがって出力軸とモータ軸とジョー回転機構のシャフトを前後方向にオーバーラップして配設することで、管拡径工具を前後方向にコンパクトに設けることができる。しかも出力軸とモータ軸とシャフトは、相互に並列に配設される。そのため前後方向と交差する方向(上下方向または左右方向)についても管拡径工具をコンパクトに設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の実施例に係る管拡径工具の斜視図である。
【
図2】PEX管の端部を拡径する管拡径工具の斜視図である。
【
図3】本体ハウジングを取り外した状態の工具本体を前側右方から見た斜視図である。
【
図5】本体ハウジングを取り外した状態の工具本体を後側右方から見た斜視図である。
【
図6】本体ハウジングを取り外した状態の工具本体を前側左方から見た斜視図である。
【
図7】本体ハウジングを取り外した状態の工具本体を後側左方から見た斜視図であって、出力軸が後端位置に位置する状態を示す斜視図である。
【
図8】本体ハウジングを取り外した状態の工具本体を後側左方から見た斜視図であって、出力軸が前端位置に位置する状態を示す斜視図である。
【
図9】工具本体の本体ハウジングを取り外した状態の後面図である。
【
図10】後シャフトを含むアッセンブリの分解斜視図である。
【
図11】工具本体と後シャフトを含むアッセンブリを示す斜視図である。
【
図12】
図9中のXII-XII線断面矢視図である。
【
図14】出力軸が後端位置に位置する場合の
図13中XIV-XIV線断面矢視図である。
【
図15】出力軸が前端位置に位置する場合の
図13中XIV-XIV線断面矢視図である。
【
図16】出力軸が後端位置に位置する場合の
図13中XVI-XVI線断面矢視図である。
【
図17】出力軸が前端位置に位置する場合の
図13中XVI-XVI線断面矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の他の特徴によるとジョー回転機構のシャフトと電動モータは、それぞれの軸方向長さの8割以上が後端位置の出力軸に対して前後方向にオーバーラップするように配置されている。したがってジョー回転機構のシャフトと電動モータは、出力軸に対する前後方向の突出量が抑制され、特に後端位置の出力軸に対する後方への突出量が抑制される。これにより管拡径工具の前後方向のコンパクト性を高めることができる。
【0012】
本開示の他の特徴によるとジョー回転機構のシャフトと電動モータは、それぞれの軸方向全長において後端位置の出力軸に対して前後方向にオーバーラップするように配置されている。したがってジョー回転機構のシャフトと電動モータは、後端位置に位置する出力軸に対して前後方向に突出しない。これにより管拡径工具の前後方向のコンパクト性をさらに高めることができる。
【0013】
本開示の他の特徴によると管拡径工具は、モータ軸の回転出力を変速させる変速機構を有する。管拡径工具は、変速機構と動力変換機構の間に設けられたアイドルギヤを有する。したがってアイドルギヤを間に設けることで、変速機構を動力変換機構に対して軸方向(前後方向)にオーバーラップさせて配設できる。そのため変速機構の近傍に設けられる電動モータを動力変換機構に近づけて配設できる。これにより管拡径工具を前後方向にコンパクトに設けることができる。
【0014】
本開示の他の特徴によると出力軸とモータ軸は、前後方向と直交する上下方向にオフセットして配置される。ジョー回転機構は、出力軸の軸方向視において出力軸とモータ軸の上下方向の間に位置する。したがって出力軸とジョー回転機構と電動モータを、前後方向のみでなく、前後方向と直交する上下方向においてもコンパクトに配設できる。そのため管拡径工具が上下方向に長くなることを抑制できる。
【0015】
本開示の他の特徴によるとジョー回転機構は、モータ軸と出力軸の両方を含む仮想平面に対してオフセットして配置されている。したがってモータ軸と出力軸が並ぶ仮想平面の延出方向(上下方向)において、出力軸とジョー回転機構と電動モータをコンパクトに配置できる。これにより管拡径工具を上下方向にコンパクトに設けることができる。
【0016】
本開示の他の特徴によるとジョー回転機構は、ワンウェイクラッチを有する。ワンウェイクラッチは、シャフトの第1回転に連動して回転して複数のジョーを回転させ、かつシャフトの第1回転と反対の第2回転に連動しない。ジョー回転機構のシャフトは、後シャフトと、後シャフトの前部に螺合される前シャフトを有する。したがってジョー回転機構のシャフトは、シャフトを回転させるためのアッセンブリに組付けられる後シャフトと、シャフトの回転駆動を複数のジョーに伝達させるために工具本体に組付けられる前シャフトとに分離可能である。前シャフト側の工具本体と後シャフト側のアッセンブリをそれぞれ別々に組付け、組付け後に前シャフトと後シャフトを螺合によって前後方向に連結させる。これによりシャフトの組付け性を向上させることができる。
【0017】
本開示の他の特徴によると前シャフトは、後シャフトに対して第1回転の方向で締まるように螺合されている。したがって前シャフトが第1回転をする場合、ワンウェイクラッチを介して前シャフトから複数のジョーへトルクが伝達され、かつ後シャフトが前シャフトに対して締まる方向にトルクが働く。そのため後シャフトと前シャフトの締結力はより強くなる。一方、前シャフトが第2回転をする場合、前シャフトから複数のジョーへ伝達されるトルクは微小量である。そのため前シャフトは、ほとんど抵抗を受けずに空転して第2回転をする。後シャフトは、前シャフトに対して緩まる方向に回転するが、前シャフトに抵抗が働かないため、前シャフトとの締結力が緩まることなく回転する。かくしてジョー回転機構の動作によって前シャフトと後シャフトの螺合が緩まることを抑制できる。
【0018】
本開示の他の特徴によると動力変換機構は、出力軸の外周に設けられた雄ねじと、雄ねじが挿通されるナットを具備する送りねじ機構である。したがって動力変換機構を出力軸の軸回りに設けることができる。そのため動力変換機構が出力軸に対して軸方向(前後方向)に突出することを抑制できる。これにより管拡径工具を前後方向にコンパクトに設けることができる。
【0019】
本開示の他の特徴によると管拡径工具は、出力軸の軸方向と交差する方向に延出するグリップを有する。送りねじ機構のナットの少なくとも一部と、電動モータの少なくとも一部がグリップと前後方向にオーバーラップする。したがって使用者がグリップを把持して管拡径工具を支持する際の支持中心の近くに送りねじ機構のナットと電動モータを配置できる。これにより管拡径工具の前後方向の重量バランスを良好にできる。
【0020】
次に本開示の1つの実施例を
図1~17に基づいて説明する。
図1に示すように本実施例の管拡径工具1は、本体ハウジング11に収容される工具本体10と、本体ハウジング11の下部から下方に延出するグリップ5を有する。使用者は、管拡径工具1の概ね後方(
図1において左方奥側)に位置してグリップ5を把持する。以下の説明において、使用者の手前側を後方、使用者の手前側と反対側を前方とする。上下左右方向については使用者を基準とする。
【0021】
図1,4,12に示すように工具本体10の前部には、リング状のキャップ2が装着される。工具本体10の中央には、前後方向に延出する円柱状の出力軸27が設けられる。出力軸27の前端には、略円錐状の楔3が装着される。楔3は、キャップ2の径方向内方に位置する。出力軸27と楔3は、工具本体10の中央で前後方向に延出する出力軸線K上に配置される。出力軸27と楔3は、出力軸線Kに沿って後端位置と前端位置の間で前後方向に移動可能である。楔3の径方向外方かつキャップ2の径方向内方には、前後方向に延出する複数のジョー4が設けられる。複数のジョー4は、楔3の周方向に等間隔に並ぶ。管拡径工具1は、例えば6つのジョー4を有し、各ジョー4が楔3の周方向に60°間隔で配置される。複数のジョー4は、周方向に互いに密接して楔3を覆う閉じ位置と、径方向外方に相互に開いて楔3の先端を露出する開き位置の間で径方向に開閉可能である。
【0022】
図1,12に示すようにグリップ5の前面には、トリガ式のスイッチレバー6が設けられる。使用者は、グリップ5を把持した状態でスイッチレバー6を引いて操作することができる。グリップ5の内部には、スイッチレバー6の操作と連動してオンオフが切り替えられるスイッチ本体6aが設けられる。スイッチ本体6aは、スイッチレバー6を引いていない場合にオフ状態であり、スイッチレバー6を引いた場合にオン状態になる。グリップ5の下端には、前後方向および左右方向に拡径する略矩形箱形の拡径部7が設けられる。拡径部7には、コントローラ9が収容される。コントローラ9は、底浅の矩形箱形のケースと、ケース内に収容されかつ樹脂モールドされた制御基板を有する。コントローラ9は、厚み方向(ケースの最短辺が延びる方向)が上下方向に沿った姿勢で拡径部7に収容される。コントローラ9は、主として後述する電動モータ20の駆動を制御する。
【0023】
図1に示すように拡径部7の下面には、矩形箱形のバッテリ8を取り外し可能に装着できるバッテリ取付部7aが設けられる。バッテリ8は、前方へスライドさせることでバッテリ取付部7aから取り外すことができる。バッテリ8は、バッテリ取付部7aの前方から後方へスライドさせることでバッテリ取付部7aに装着できる。バッテリ8は、バッテリ取付部7aから取り外して別途用意した充電器で繰り返し充電して使用できる。バッテリ8は、他の電動工具の電源として流用することができる。バッテリ8は、電動モータ20に電力を供給する電源として動作する。
【0024】
図2に示すように管拡径工具1を使用する際、使用者は、グリップ5を把持して複数のジョー4を合成樹脂製のPEX管(流体管)51の端部51aに挿入する。スイッチレバー6を引くことで複数のジョー4が径方向に開閉する。これによりPEX管51の端部51aが拡径される。PEX管51は、例えば互いに対向する2つの壁52の間に配管される。そのため管拡径工具1は2つの壁52の間に収まる前後長さであることが好ましい。
【0025】
図4に示すように工具本体10には、前側機構ハウジング12と第1中央機構ハウジング13と第2中央機構ハウジング14と後側機構ハウジング15が前側から後方に順に収容される。前側機構ハウジング12と第1中央機構ハウジング13と第2中央機構ハウジング14は、前後方向に貫通する中空路を中央に有する略円筒形状である。後側機構ハウジング15は、前後方向を板厚方向とする板状に設けられる。前側機構ハウジング12と第1中央機構ハウジング13と第2中央機構ハウジング14と後側機構ハウジング15は、協働して機構ハウジングを形成する。機構ハウジングには、後述するギヤ軸23とアイドルギヤ24とナット26が収容される。
【0026】
図3,4に示すように前側機構ハウジング12の前部外周面には、雄ねじ12aが設けられる。キャップ2の後部内周面には、雄ねじ12aと螺合する雌ねじ2bが設けられる。雄ねじ12aと雌ねじ2bを螺合させることで、キャップ2が前側機構ハウジング12の前部に連結される。
【0027】
図3,4に示すように前側機構ハウジング12の外周面には、径方向外方に張り出した略円筒形状の4つのボス部12cが設けられる。ボス部12cには、前後方向に貫通するねじ孔12dが形成される。第1中央機構ハウジング13と第2中央機構ハウジング14は、径方向外方に張り出す略円筒形状の4つのボス部13g,14jをそれぞれ有する。各ボス部13g,14jには、前後方向に貫通する透孔13h,14kが設けられる。後側機構ハウジング15の4つの角部には、前後方向に貫通する透孔15bが設けられる。ボス部12c,13g,14jと透孔15bを前後方向に並べることにより、ねじ孔12dと透孔13h,14k,15bが前後方向に連通する。4本のボルト16を、連通した各透孔15b,14k,13hに後方から前方へ挿通させ、ねじ孔12dに締結させる。これにより前側機構ハウジング12,第1中央機構ハウジング13,第2中央機構ハウジング14,後側機構ハウジング15は前後方向に並んで連結される。
【0028】
図3,4に示すように第1中央機構ハウジング13は、円筒形状の下方に延出する外形略U字状の下方延出部13bを有する。第2中央機構ハウジング14は、円筒形状の下方に延出する外形略U字状の下方延出部14bを有する。下方延出部13bと下方延出部14bが前後方向に連結されることでギヤ軸23とアイドルギヤ24を収容するスペースが形成される。下方延出部13bには、前後方向に貫通する2つの透孔が前後に並列して設けられる。下側の透孔には、後述するギヤ軸23を支持するための凹部13cが設けられる。上側の透孔13dには、アイドルギヤ24を支持する軸部材24aが圧入される。下方延出部14bには、前後方向に貫通する2つの透孔が前後に並列して設けられる。下側の透孔には、ギヤ軸23を支持するための凹部14cが設けられる。上側の透孔14dには、軸部材24aが挿入される。
【0029】
図3,12に示すように本体ハウジング11の後方下部には、略円柱形状の電動モータ20が収容される。電動モータ20には、例えばDCブラシレスモータと称されるモータが用いられる。電動モータ20は、後端位置に位置する出力軸27の下方かつグリップ5の上方に位置する。電動モータ20は、後端位置に位置する出力軸27に対して軸方向(前後方向)長さの8割以上がオーバーラップする。本実施例において電動モータ20は、後端位置に位置する出力軸27に対して軸方向の全長がオーバーラップする。電動モータ20のモータ軸20aは、モータ軸線Jに沿って出力軸27の中心を通る出力軸線Kと平行に前後方向に延出する。モータ軸線Jは、上下方向に延出する仮想平面S上で出力軸線Kと上下に並列する(
図13参照)。モータ軸20aは、軸受20e,20fによってモータ軸線Jを中心に回転可能に支持される。軸受20eは、電動モータ20と後述する遊星減速機構22との間に設けられる。軸受20fは、本体ハウジング11の後面の内壁に支持される。
【0030】
図12に示すように電動モータ20は、本体ハウジング11に対して回転不能に支持された固定子20bを有する。固定子20bは、モータ軸20aの径方向外方に配置される。電動モータ20の回転子20cは、固定子20bの内周側でモータ軸20aと一体に回転可能にモータ軸20aに取付けられる。回転子20cの前方には、回転数検知センサ20dが設けられる。回転数検知センサ20dは、回転子20cの回転角度を検知することでモータ軸20aの回転数を検知する。回転子20cと後方の軸受20fの前後方向の間には、電動モータ20に冷却風を導入するためのファン21がモータ軸20aに一体に取付けられる。モータ軸20aとともにファン21が回転すると、冷却風が電動モータ20の前方から後方に向けて流れる。
【0031】
図12に示すように電動モータ20の前方には、モータ軸20aの出力を減速するための遊星減速機構(変速機構)22が設けられる。遊星減速機構22は、モータ軸線Jを中心としかつ電動モータ20と略同じ径の略円柱形状である。遊星減速機構22は、電動モータ20と前後方向に並んで本体ハウジング11に収容される。遊星減速機構22の第1サンギヤ22aは、軸受20eの前方においてモータ軸20aの前端と一体に設けられる。第1サンギヤ22aの径方向外方には、モータ軸線Jを中心とするリング状の第1インターナルギヤ22bが設けられる。第1サンギヤ22aと第1インターナルギヤ22bの間に複数の第1遊星ギヤ22cが噛み合う。第1遊星ギヤ22cは、第1サンギヤ22aの前方の第1キャリヤ22dと連結される。モータ軸20aの回転駆動は、第1サンギヤ22aと第1遊星ギヤ22cを介して第1キャリヤ22dに減速して伝達される。
【0032】
図12に示すように第1キャリヤ22dは、前方の第2サンギヤ22eと一体に設けられ、かつ第2サンギヤ22eとともにモータ軸線Jを中心に回転可能である。第2サンギヤ22eの径方向外方には、モータ軸線Jを中心とするリング状の第2インターナルギヤ22fが設けられる。第2サンギヤ22eと第2インターナルギヤ22fの間に複数の第2遊星ギヤ22gが噛み合う。第2遊星ギヤ22gは、第2サンギヤ22eの前方に配置された第2キャリヤ22hと連結される。第2キャリヤ22hは、前方のギヤ軸23の後端と一体に設けられ、モータ軸線Jを中心に回転可能である。したがって第1キャリヤ22dの回転駆動は、第2サンギヤ22e、第2遊星ギヤ22g、第2キャリヤ22hを介してギヤ軸23に減速して伝達される。かくしてモータ軸20aの回転駆動が遊星減速機構22を介してギヤ軸23に減速して伝達される。
【0033】
図12に示すようにギヤ軸23は、軸受23b,23cによってモータ軸線Jを中心に回転可能に支持される。前方の軸受23bは、第1中央機構ハウジング13の下部に凹設された凹部13cに圧入される。後方の軸受23cは、第2中央機構ハウジング14の下部に凹設された凹部14cに圧入される。ギヤ軸23は、軸受23b,23cの前後方向の間に駆動側ギヤ23aを有する。駆動側ギヤ23aは、ギヤ軸23と一体になってモータ軸線Jを中心に回転する。
【0034】
図12に示すようにギヤ軸23と出力軸27の上下方向の間には、アイドルギヤ24が設けられる。アイドルギヤ24は、前後方向に延出する円柱状の軸部材24aによって軸部材24aの軸回りに回転可能に支持される。軸部材24aは、第1中央機構ハウジング13の下方延出部13bに設けられた透孔13dと、第2中央機構ハウジング14の下方延出部14bに設けられた透孔14dに挿入される。軸部材24aの軸線は、モータ軸線Jと出力軸線Kを含む仮想平面S上に位置する(
図9参照)。軸部材24aとアイドルギヤ24の径方向の間にはラジアル軸受24bが設けられる。アイドルギヤ24は、下方の駆動側ギヤ23aと噛合し、かつ上方の従動側ギヤ26aと噛合する。
【0035】
図12に示すように工具本体10には、ボールねじ機構と称される送りねじ機構(動力変換機構)25が設けられる。送りねじ機構25は、出力軸27とナット26を有する。出力軸27の外周面には雄ねじ27aが設けられる。ナット26は、出力軸27を周方向に覆う略円筒形状に形成される。ナット26の内周面には雌ねじ26bが設けられる。雌ねじ26bは、出力軸27の雄ねじ27aとの間に複数のボール27bを介して雄ねじ27aに螺合される。ナット26の外周には、径方向外方に突出してアイドルギヤ24と噛み合う従動側ギヤ26aが設けられる。駆動側ギヤ23aとアイドルギヤ24との噛み合いと、アイドルギヤ24と従動側ギヤ26aとの噛み合いによって、ギヤ軸23の回転駆動がナット26に減速して伝達される。
【0036】
図12に示すようにナット26は、工具本体10内に収容された軸受26c,26dによって出力軸線Kを中心にして回転可能に支持される。前方の軸受26cは、第1中央機構ハウジング13の内周面13aに圧入される。後方の軸受26dは、第2中央機構ハウジング14の内周面14aに圧入される。ナット26の後面と後側機構ハウジング15の前面15aとの間には、ナット26を後方に押すスラスト荷重を受けるためのスラスト軸受26eが設けられる。
【0037】
図3,5に示すように出力軸27の後部には、出力軸27の回り止めをしかつ出力軸27の前後動をガイドする出力軸ガイド28が取付けられる。出力軸ガイド28は、出力軸27の後端に連結されかつ左右方向に延出するローラシャフト28aを有する。出力軸ガイド28は、ローラシャフト28aの左右両端に一対のローラ28bを有する。第2中央機構ハウジング14の左右側部には、前後方向に延出するループ形状の一対のレール28cが取付けられる。ローラ28bは、レール28cと係合してレール28cに沿って前後方向に移動可能である。出力軸27は、ローラ28bに案内されて出力軸ガイド28とともに前後方向に移動する。
【0038】
図6,12に示すように工具本体10は、複数のジョー4を回転させるジョー回転機構30を有する。複数のジョー4は、出力軸線Kの軸回りに回転する。ジョー回転機構30は、モータ軸20aの回転に連動して前後動するプッシュプレート34と、プッシュプレート34の前後動に連動して回転するシャフト31を有する。シャフト31は、前後方向に延出するシャフト軸線L上に配置される。シャフト31は、シャフト軸線Lの軸回りに回転する。シャフト軸線Lは、上下方向において出力軸線Kの下方かつモータ軸線Jの上方に位置する。シャフト軸線Lは、左右方向において出力軸線Kとモータ軸線Jを含む仮想平面Sよりも左方にオフセットして配置される(
図13参照)。ジョー回転機構30のシャフト31は、上下方向においてアイドルギヤ24と一部がオーバーラップする。シャフト31は、後端位置に位置する出力軸27に対して軸方向(前後方向)長さの8割以上がオーバーラップする。本実施例においてシャフト31は、後端位置に位置する出力軸27に対して軸方向の全長がオーバーラップする。
【0039】
図5,14に示すようにジョー回転機構30は、シャフト31に取付けられたボールリテーナ36を有する。ボールリテーナ36は、シャフト軸線Lに沿って前後方向に移動可能である。シャフト31の右方には、シャフト31と平行に延出するガイドシャフト41が設けられる。第2中央機構ハウジング14は、出力軸27の下方かつ遊星減速機構22の上方にガイドシャフト支持部14eを有する。ガイドシャフト支持部14eには、前後方向に貫通する透孔14fが設けられる。ガイドシャフト41は、透孔14fに圧入されて第2中央機構ハウジング14に固定される。
【0040】
図4,5に示すようにボールリテーナ36は、略円筒状のスリーブ装着部36aと、スリーブ装着部36aの右方に延出する側方延出部36eを有する。スリーブ装着部36aの中央には、前後方向に貫通するシャフト挿通孔36cが設けられる。シャフト挿通孔36cには、シャフト31がボールリテーナ36に対してスライド可能に挿通される。側方延出部36eには、前後方向に貫通する透孔36fが設けられる。透孔36fには、ガイドシャフト41がボールリテーナ36に対してスライド可能に挿通される。かくしてボールリテーナ36は、シャフト31とガイドシャフト41に案内されて前後方向にスライド可能であり、かつシャフト31の軸回りの回転が規制される。
【0041】
図5,14に示すようにジョー回転機構30は、ボールリテーナ36を後方から押すプッシュプレート34を有する。板状のプッシュプレート34は、板厚方向を前後方向とする姿勢でローラシャフト28aに一体に取付けられる。プッシュプレート34は、ローラシャフト28aから下方に延出してスリーブ装着部36aの後方に配置される。プッシュプレート34は、前後方向に貫通する透孔34aを有する。透孔34aには、スリーブ装着部36aから後方へ突出したシャフト31が貫通可能である。プッシュプレート34は、出力軸27とともに前方へ移動する際、ボールリテーナ36の後面を前方へ押圧する。プッシュプレート34は、出力軸27とともに後方へ移動する際にはボールリテーナ36から離間するように移動する。そのためプッシュプレート34がボールリテーナ36を移動させる力は作用しない。
【0042】
図10,14に示すようにスリーブ装着部36aには、上下方向に貫通してシャフト挿通孔36cと連通するボール保持孔36bが設けられる。シャフト挿通孔36cに対して上下に位置する一対のボール保持孔36bには、それぞれボール39が挿入される。スリーブ装着部36aには、ボール保持孔36bを径方向外方から覆うスリーブ37が装着される。スリーブ37をスリーブ装着部36aに装着することで、ボール39がボール保持孔36b内で保持される。スリーブ装着部36aの前部には、周方向に延出する凹溝36dが設けられる。凹溝36dには、スリーブ37の脱落を防止するためのOリング38が装着される。
【0043】
図14,15に示すようにシャフト31は、前シャフト32と後シャフト33を前後方向に組付けることで構成される。前シャフト32は、第1中央機構ハウジング13に軸回りに回転可能に支持される。後シャフト33は、第2中央機構ハウジング14に軸回りに回転可能に支持される。後シャフト33は、ボールリテーナ36に挿通される。後シャフト33の前端には、雄ねじ33aが設けられる。前シャフト32には、雄ねじ33aと螺合する雌ねじ32aが設けられる。雄ねじ33aを雌ねじ32aに螺合させることで後シャフト33が前シャフト32に一体に取付けられる。後シャフト33を前シャフト32に対して後方から見て時計回り方向(
図8に示す第1回転R1の方向)に回転させることで、雄ねじ33aと雌ねじ32aが相互に締め付けられる。後シャフト33を前シャフト32に対して後方から見て反時計回り方向(
図7に示す第2回転R2の方向)に回転させることで、雄ねじ33aと雌ねじ32aが相互に緩められる。
【0044】
図10,14,15に示すように後シャフト33の外周面には、一対のボール溝33bが設けられる。ボール溝33bは、概ね後シャフト33の長手方向に延出し、かつ後方から前方に向けてねじ溝のように周方向に延出する。ボール溝33bは、後部33cから前部33eに向けて第1回転R1(
図8参照)の方向に延出する。一対のボール溝33bは、後シャフト33の軸中心に対して点対称の位置関係で配置される。ボール溝33bには、ボールリテーナ36のボール保持孔36bからシャフト挿通孔36cへと径方向内方へ突出したボール39が係合する。
【0045】
図14,15に示すようにボール39は、ボール溝33bの延出方向に沿ってボール溝33b内を移動する。また、ボール39は、シャフト軸線Lの軸回りの回転が規制されたボールリテーナ36に保持されている。ボールリテーナ36を後シャフト33に対して前方へ移動させる場合、ボール39がボール溝33bの後部33cから前部33eへ移動する。そのため後シャフト33は、ボールリテーナ36に対して第2回転R2の方向に回転する。ボールリテーナ36を後シャフト33に対して後方へ移動させる場合、ボール39がボール溝33bの前部33eから後部33cへ移動する。そのため後シャフト33は、ボールリテーナ36に対して第1回転R1の方向に回転する。
【0046】
図14,15に示すように第2中央機構ハウジング14は、前シャフト32と後シャフト33の螺合された領域を支持するシャフト支持部14hを有する。シャフト支持部14hには、径方向に張り出したリブ状のばね受け部14gと、前後方向に貫通してシャフト31を挿通可能な透孔14iが設けられる。ばね受け部14gとボールリテーナ36の前後方向の間には、圧縮ばね40が介装される。圧縮ばね40の中央には、後シャフト33が挿通される。圧縮ばね40は、ボールリテーナ36を後方に向けて付勢する。
【0047】
図14,15に示すように第1中央機構ハウジング13は、前シャフト32を支持するシャフト支持部13eを有する。シャフト支持部13eの中央には、前後方向に貫通して前シャフト32を挿通可能な透孔13fが設けられる。
【0048】
図14,15に示すようにジョー回転機構30は、円筒形状のワンウェイクラッチ42と駆動側ギヤ43を有する。ワンウェイクラッチ42と駆動側ギヤ43は、シャフト支持部13eの前方において前シャフト32の前部に装着される。ワンウェイクラッチ42は、前シャフト32と駆動側ギヤ43の径方向の間に設けられる。ワンウェイクラッチ42は、例えばスプラグ式と称される構造で径方向内周面側の一方向の回転のみを径方向外周面側へ伝達する。ワンウェイクラッチ42は、前シャフト32の第1回転R1(
図8参照)を駆動側ギヤ43へ伝達する。ワンウェイクラッチ42は、前シャフト32の第2回転R2(
図7参照)を駆動側ギヤ43へ伝達せず前シャフト32を空転させる。
【0049】
図11に示すように後シャフト33、ボールリテーナ36、ボール39、スリーブ37は、アッセンブリ35として一体に組付け可能である。アッセンブリ35は、後シャフト33の雄ねじ33aを前シャフト32の雌ねじ32aに螺合させることで工具本体10に組付けることができる。アッセンブリ35を工具本体10に組付ける際には、圧縮ばね40をアッセンブリ35で圧縮するようにして組付ける。
【0050】
図7,8,11に示すように前シャフト32の後部には、前後方向に相互に平行に延出する一対の平面を具備する二面幅部32bが設けられる。二面幅部32bは、第1中央機構ハウジング13と第2中央機構ハウジング14の間で機構ハウジングの外側へ露出する。後シャフト33の後端には、前後方向に相互に平行に延出する一対の平面を具備する二面幅部33fが設けられる。二面幅部32bをスパナ等で保持して前シャフト32の回り止めをした状態で、二面幅部33fをスパナ等で保持して後シャフト33を第1回転R1の方向へ回転させる。これにより後シャフト33が前シャフト32に螺合される。かくして後シャフト33を具備するアッセンブリ35を、前シャフト32を支持する工具本体10に一体に組付けることができる。
【0051】
図4,12,16,17に示すようにジョー回転機構30は、略円筒形状の回転駆動リング44と、略円筒形状のジョイント45を有する。回転駆動リング44とジョイント45は、前側機構ハウジング12の内周面12bの径方向内側に支持されて、出力軸線Kを中心にして軸回りに回転する。ジョイント45と前側機構ハウジング12の径方向の間には、Oリング45dが設けられる。回転駆動リング44の中央には、前後方向に貫通して出力軸27を挿通可能な挿通孔44bが設けられる。回転駆動リング44の後部外周には、径方向外方へ張出した従動側ギヤ44aが設けられる。従動側ギヤ44aは、駆動側ギヤ43と螺合される。駆動側ギヤ43の回転動力は、従動側ギヤ44aへ減速して伝達される。回転駆動リング44の前端には、前方へ突出しかつ周方向に並んだ複数の係合凸部44cが設けられる。
【0052】
図4,16,17に示すようにジョイント45の中央には、前後方向に貫通して出力軸27を挿通可能な挿通孔45aが設けられる。ジョイント45の後端には、回転駆動リング44の複数の係合凸部44cと係合する複数の係合凹部45bが設けられる。係合凸部44cが係合凹部45bに篏合することによって、ジョイント45が回転駆動リング44と一体で回転する。ジョイント45の前端には、前方へ突出しかつ周方向に並んだ複数の係合凸部45cが設けられる。
【0053】
図4,16,17に示すようにジョー4の後端には、ジョイント45の複数の係合凸部45cと係合する係合凹部4bが設けられる。複数の係合凸部45cが各ジョー4の係合凹部4bに篏合することによって、ジョー4がジョイント45と一体で出力軸線Kの軸回りに回転する。ジョー4の後部の径方向外周には、断面円弧状のリング収容溝4aが設けられる。複数のジョー4のリング収容溝4aは、周方向に連なって円環状の溝を形成する。複数のジョー4は、リング収容溝4aに挿入されかつ弾性的に伸縮可能なリング4cによって周方向に連結される。キャップ2の内周面には、リング4cを収容可能なジョー支持溝2aが径方向外方および周方向に延出して設けられる。ジョー支持溝2aは、リング4cの径方向の移動は許容するが、リング4cの前後方向の移動は規制する。複数のジョー4は、ジョー支持溝2aに支持されたリング4cを中心にして径方向に開閉する。
【0054】
図14,15に示すようにローラシャフト28aの上部には、磁石46が取付けられる。本体ハウジング11の上部内周面には、後端位置センサ47と前端位置センサ48が設けられる。後端位置センサ47と前端位置センサ48は、ホールICと称される磁界を検知するセンサである。後端位置センサ47は、出力軸27が後端位置に位置する際の磁石46の直上位置に配置される。後端位置センサ47は、磁石46と前後方向にオーバーラップした時に出力軸27の後端位置を検知し、コントローラ9(
図1参照)に信号を送信する。前端位置センサ48は、出力軸27が前端位置に位置する際の磁石46の直上位置に配置される。前端位置センサ48は、磁石46と前後方向にオーバーラップした時に出力軸27の前端位置を検知し、コントローラ9に信号を送信する。
【0055】
図7~8,12,14~17を参照して送りねじ機構25とジョー回転機構30の駆動について説明する。先ず電動モータ20のモータ軸20aが回転する。モータ軸20aの回転駆動が遊星減速機構22で減速されてギヤ軸23に伝わる。ギヤ軸23が回転すると、駆動側ギヤ23aと噛合したアイドルギヤ24が回転する。さらにアイドルギヤ24と噛合した従動側ギヤ26aとともにナット26が出力軸線Kの軸回りに回転する。ナット26が回転すると、雌ねじ26bが雄ねじ27aと螺合し、かつ出力軸ガイド28が出力軸27を回り止めすることによって、出力軸27が前後方向に移動する。出力軸27が前進する際、出力軸27の前端に装着された楔3が複数のジョー4とリング4cを径方向外方の開き位置に移動するように押圧する。出力軸27が後退する際には、楔3の押圧力が解消されるため、リング4cが収縮して複数のジョー4が径方向内方の閉じ位置に戻る。
【0056】
電動モータ20は、コントローラ9によって正転と逆転が切り替えられる。出力軸27は、電動モータ20が正転する際に前進し、電動モータ20が逆転する際に後退する。コントローラ9は、後端位置センサ47から送信される信号と前端位置センサ48から送信される信号に基づいて電動モータ20の正転と逆転を切り替える。
【0057】
出力軸27が前進する際、ローラシャフト28aに装着されたプッシュプレート34も一体に前進する。プッシュプレート34は、ボールリテーナ36を圧縮ばね40の付勢力に抗して前方へ押圧する。ボールリテーナ36が前進すると、ボール39がボール溝33bと係合し、かつガイドシャフト41がボールリテーナ36を回り止めすることによって、後シャフト33が第2回転R2の方向に回転する。後シャフト33が螺合された前シャフト32も第2回転R2の方向に回転する。この時、ワンウェイクラッチ42は、前シャフト32の回転動力を駆動側ギヤ43に伝達しない。そのため前シャフト32は、後シャフト33との螺合が緩まる第2回転R2の方向に回転するが、空転するため螺合を緩めるトルクの発生は抑制される。従動側ギヤ44aを具備する回転駆動リング44は、駆動側ギヤ43から回転動力が伝達されないため回転しない。そのため回転駆動リング44と連結されるジョイント45と複数のジョー4は回転しない。かくして複数のジョー4は、出力軸線Kの軸回りに回転せず、楔3に押されて径方向外方に開く。
【0058】
出力軸27が後退する際、ローラシャフト28aに装着されたプッシュプレート34も一体に後退する。ボールリテーナ36は、プッシュプレート34の押圧力が解除されることで、圧縮ばね40に付勢されて後方へ移動する。ボールリテーナ36が後退すると、ボール39がボール溝33bと係合し、かつガイドシャフト41がボールリテーナ36を回り止めすることによって、後シャフト33が第1回転R1の方向に回転する。後シャフト33が螺合された前シャフト32も第2回転R2の方向に回転する。この時、ワンウェイクラッチ42は、前シャフト32の回転動力を駆動側ギヤ43に伝達する。そのため前シャフト32は、後シャフト33との螺合がさらに締まる第1回転R1の方向に回転する。従動側ギヤ44aを具備する回転駆動リング44は、駆動側ギヤ43から回転動力が伝達されることで前方から見て時計回り方向に回転する。ジョイント45と複数のジョー4も、回転駆動リング44と一体に回転する。かくして複数のジョー4は、出力軸線Kの軸回りに前方から見て時計回り方向に回転しながら径方向内方へ閉じる。
【0059】
上述するように合成樹脂製の流体管の端部を拡径する管拡径工具1は、
図12に示すように電動モータ20によって回転するモータ軸20aを有する。管拡径工具1は、モータ軸20aの回転を出力軸27の前後動に変換する送りねじ機構(動力変換機構)25を有する。管拡径工具1は、出力軸27の前部に設けられた楔3に押されて径方向外方に相互に開く複数のジョー4を有する。管拡径工具1は、モータ軸20aの回転に連動して軸回転するシャフト31を具備し、シャフト31によって複数のジョー4を軸回転させるジョー回転機構30を有する。出力軸27とモータ軸20aとジョー回転機構30のシャフト31は、相互に並列で、かつ前後方向にオーバーラップして配設される。
【0060】
したがって出力軸27とモータ軸20aとジョー回転機構30のシャフト31を前後方向にオーバーラップして配設することで、管拡径工具1を前後方向にコンパクトに設けることができる。しかも出力軸27とモータ軸20aとシャフト31は、相互に並列に配設される。そのため前後方向と交差する上下方向または左右方向についても管拡径工具1をコンパクトに設けることができる。
【0061】
図12,14に示すようにジョー回転機構30のシャフト31と電動モータ20は、それぞれの軸方向長さの8割以上が後端位置の出力軸27に対して前後方向にオーバーラップするように配置されている。したがってジョー回転機構30のシャフト31と電動モータ20は、出力軸27に対する前後方向の突出量が抑制され、特に後端位置の出力軸27に対する後方への突出量が抑制される。これにより管拡径工具1の前後方向のコンパクト性を高めることができる。
【0062】
図12,14に示すようにジョー回転機構30のシャフト31と電動モータ20は、それぞれの軸方向全長において後端位置の出力軸27に対して前後方向にオーバーラップするように配置されている。したがってジョー回転機構30のシャフト31と電動モータ20は、後端位置に位置する出力軸27に対して前後方向に突出しない。これにより管拡径工具1の前後方向のコンパクト性をさらに高めることができる。
【0063】
図12に示すように管拡径工具1は、モータ軸20aの回転出力を変速させる遊星減速機構(変速機構)22を有する。管拡径工具1は、遊星減速機構22と送りねじ機構25の間に設けられたアイドルギヤ24を有する。したがってアイドルギヤ24を間に設けることで、遊星減速機構22を送りねじ機構25に対して前後方向にオーバーラップさせて配設できる。そのため遊星減速機構22の近傍に設けられる電動モータ20を送りねじ機構25に近づけて配設できる。これにより管拡径工具1を前後方向にコンパクトに設けることができる。
【0064】
図13に示すように出力軸27とモータ軸20aは、前後方向と直交する上下方向にオフセットして配置される。ジョー回転機構30は、出力軸27の軸方向視において出力軸27とモータ軸20aの上下方向の間に位置する。したがって出力軸27とジョー回転機構30と電動モータ20を、前後方向のみでなく、前後方向と直交する上下方向においてもコンパクトに配設できる。そのため管拡径工具1が上下方向に長くなることを抑制できる。
【0065】
図13に示すようにジョー回転機構30は、モータ軸20aと出力軸27の両方を含む仮想平面Sに対してオフセットして配置されている。したがってモータ軸20aと出力軸27が並ぶ仮想平面Sが延出する上下方向において、出力軸27とジョー回転機構30と電動モータ20をコンパクトに配置できる。これにより管拡径工具1を上下方向にコンパクトに設けることができる。
【0066】
図10,11,14に示すようにジョー回転機構30は、ワンウェイクラッチ42を有する。ワンウェイクラッチ42は、シャフト31の第1回転R1(
図8参照)に連動して回転して複数のジョー4を回転させ、かつシャフト31の第1回転R1と反対の第2回転R2(
図7参照)に連動しない。ジョー回転機構30のシャフト31は、後シャフト33と、後シャフト33の前部に螺合される前シャフト32を有する。したがってジョー回転機構30のシャフト31は、シャフト31を回転させるためのアッセンブリ35に組付けられる後シャフト33と、シャフト31の回転駆動を複数のジョー4に伝達させるために工具本体10に組付けられる前シャフト32とに分離可能である。前シャフト32側の工具本体10と後シャフト33側のアッセンブリ35をそれぞれ別々に組付け、組付け後に前シャフト32と後シャフト33を螺合によって前後方向に連結させる。これによりシャフト31の組付け性を向上させることができる。
【0067】
図14,15に示すように前シャフト32は、後シャフト33に対して第1回転R1の方向で締まるように螺合されている。したがって前シャフト32が第1回転R1をする場合、ワンウェイクラッチ42を介して前シャフト32から複数のジョー4へトルクが伝達され、かつ後シャフト33が前シャフト32に対して締まる方向にトルクが働く。そのため後シャフト33と前シャフト32の締結力はより強くなる。一方、前シャフト32が第2回転R2をする場合、前シャフト32から複数のジョー4へ伝達されるトルクは微小量である。そのため前シャフト32は、ほとんど抵抗を受けずに空転して第2回転R2をする。後シャフト33は、前シャフト32に対して緩まる方向に回転するが、前シャフト32に抵抗が働かないため、前シャフト32との締結力が緩まることなく回転する。かくしてジョー回転機構30の動作によって前シャフト32と後シャフト33の螺合が緩まることを抑制できる。
【0068】
図12に示すように動力変換機構は、出力軸27の外周に設けられた雄ねじ27aと、雄ねじ27aが挿通されるナット26を具備する送りねじ機構25である。したがって送りねじ機構25を出力軸27の軸回りに設けることができる。そのため送りねじ機構25が出力軸27に対して前後方向に突出することを抑制できる。これにより管拡径工具1を前後方向にコンパクトに設けることができる。
【0069】
図12に示すように管拡径工具1は、出力軸27の軸方向と交差する方向に延出するグリップ5を有する。送りねじ機構25のナット26の少なくとも一部と、電動モータ20の少なくとも一部がグリップ5と前後方向にオーバーラップする。したがって使用者がグリップ5を把持して管拡径工具1を支持する際の支持中心の近くに送りねじ機構25のナット26と電動モータ20を配置できる。これにより管拡径工具1の前後方向の重量バランスを良好にできる。
【0070】
以上説明した本実施例の管拡径工具1には様々な変更を加えることができる。ジョー4を6つ有する管拡径工具1を例示した。これに代えて、例えば5つ以下または7つ以上のジョー4を有していても良い。
【0071】
後端位置の出力軸27に対してジョー回転機構30のシャフト31と電動モータ20が前後方向の全長でオーバーラップする構成を例示した。これに代えてジョー回転機構30のシャフト31と電動モータ20は、例えば前後方向の全長の80%,90%の長さで後端位置の出力軸27に対してオーバーラップしていても良い。シャフト軸線Lがモータ軸線Jと出力軸線Kを含む仮想平面Sの左方にオフセットして配置される構成を例示した。これに代えてシャフト軸線Lを、モータ軸線Jと出力軸線Kを含む仮想平面Sの右方にオフセットして配置しても良い。モータ軸線Jと出力軸線Kを含む仮想平面Sは、上下方向に対して傾斜して延出していても良い。モータ軸線Jと出力軸線Kとシャフト軸線Lが相互に平行である構成を例示した。これに代えてモータ軸線Jと出力軸線K、出力軸線Kとシャフト軸線L、モータ軸線Jとシャフト軸線Lのいずれかの組み合わせにおいて相互に傾斜する構成が含まれていても良い。相互に傾斜する軸線の傾斜角は、例えば5°以下、10°以下であっても良い。
【0072】
前方から見て複数のジョー4を時計回り方向に回転させるジョー回転機構30を例示した。これに代えて、前方から見て複数のジョー4を反時計回り方向に回転させる構成としても良い。この場合、ワンウェイクラッチ42が駆動側ギヤ43に動力を伝達する前シャフト32の回転方向は、前方から見て反時計回り方向(
図7に示す第2回転R2の方向)である。また、後シャフト33が第2回転R2の方向に回転する時に前シャフト32に対して締まるように、雄ねじ33aと雌ねじ32aが設けられる。
【0073】
後シャフト33の前端に雄ねじ33aを設け、前シャフト32の後端に雄ねじ33aと螺合する雌ねじ32aを設ける構成を例示した。これに代えて、前シャフト32の後端に雄ねじ32aを設け、後シャフト33の前端に雄ねじ32aと螺合する雌ねじ33aを設ける構成としても良い。
【0074】
出力軸27の雄ねじ27aとナット26の雌ねじ26bの間にボール27bが介装されるボールねじ機構と称される送りねじ機構25を例示した。これに代えて、例えば雄ねじ27aと雌ねじ26bが直接螺合してボールが介装されない送りねじ機構であっても良い。
【符号の説明】
【0075】
1…管拡径工具
2…キャップ、2a…ジョー支持溝、2b…雌ねじ
3…楔
4…ジョー、4a…リング収容溝、4b…係合凹部、4c…リング
5…グリップ
6…スイッチレバー、6a…スイッチ本体
7…拡径部、7a…バッテリ取付部
8…バッテリ
9…コントローラ
10…工具本体
11…本体ハウジング
12…前側機構ハウジング、12a…雄ねじ、12b…内周面、12c…ボス部
12d…ねじ孔
13…第1中央機構ハウジング、13a…内周面、13b…下方延出部、13c…凹部
13d…透孔、13e…シャフト支持部、13f…透孔、13g…ボス部、13h…透孔
14…第2中央機構ハウジング、14a…内周面、14b…下方延出部、14c…凹部
14d…透孔、14e…ガイドシャフト支持部、14f…透孔、14g…ばね受け部
14h…シャフト支持部、14i…透孔、14j…ボス部、14k…透孔
15…後側機構ハウジング、15a…前面、15b…透孔
16…ボルト
20…電動モータ、20a…モータ軸、20b…固定子、20c…回転子
20d…回転数検知センサ、20e,20f…軸受
21…ファン
22…遊星減速機構(変速機構)、22a…第1サンギヤ
22b…第1インターナルギヤ、22c…第1遊星ギヤ、22d…第1キャリヤ
22e…第2サンギヤ、22f…第2インターナルギヤ、22g…第2遊星ギヤ
22h…第2キャリヤ
23…ギヤ軸、23a…駆動側ギヤ、23b,23c…軸受
24…アイドルギヤ、24a…軸部材、24b…ラジアル軸受
25…送りねじ機構(動力変換機構)
26…ナット、26a…従動側ギヤ、26b…雌ねじ、26c,26d…軸受
26e…スラスト軸受
27…出力軸、27a…雄ねじ、27b…ボール
28…出力軸ガイド、28a…ローラシャフト、28b…ローラ、28c…レール
30…ジョー回転機構
31…シャフト
32…前シャフト、32a…雌ねじ、32b…二面幅部
33…後シャフト、33a…雄ねじ、33b…ボール溝、33c…後部、33e…前部
33f…二面幅部
34…プッシュプレート、34a…透孔
35…アッセンブリ
36…ボールリテーナ、36a…スリーブ装着部、36b…ボール保持孔
36c…シャフト挿通孔、36d…凹溝、36e…側方延出部、36f…透孔
37…スリーブ
38…Oリング
39…ボール
40…圧縮ばね
41…ガイドシャフト
42…ワンウェイクラッチ
43…駆動側ギヤ
44…回転駆動リング、44a…従動側ギヤ、44b…挿通孔、44c…係合凸部
45…ジョイント、45a…挿通孔、45b…係合凹部、45c…係合凸部
45d…Oリング
46…磁石
47…後端位置センサ
48…前端位置センサ
51…PEX管(流体管)、51a…端部
52…壁
J…モータ軸線
K…出力軸線
L…シャフト軸線
S…仮想平面
R1…第1回転
R2…第2回転