(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005620
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
A01B 69/00 20060101AFI20240110BHJP
A01B 71/02 20060101ALI20240110BHJP
A01B 63/08 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
A01B69/00 303M
A01B71/02 T
A01B63/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105885
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫻本 睦貴
【テーマコード(参考)】
2B041
2B043
2B304
【Fターム(参考)】
2B041AA11
2B041AB05
2B041AC02
2B043AA04
2B043AB07
2B043BA09
2B043BB01
2B043DA17
2B043DB06
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2B043DB20
2B043DC03
2B043EA03
2B043EA15
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2B043EB09
2B043EB14
2B043EB15
2B043EB17
2B043EB22
2B043EB29
2B043EC02
2B043EC12
2B043EC14
2B043EC15
2B043ED05
2B043ED12
2B043ED13
2B043ED14
2B043ED15
2B304KA13
2B304LA03
2B304LA07
2B304LB05
2B304LB09
2B304MA03
2B304MA07
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2B304QA05
2B304QA08
2B304QA15
2B304QA25
2B304QB03
2B304QC03
2B304QC12
2B304QC14
2B304QC16
2B304RA08
2B304RA28
(57)【要約】
【課題】作業車両に作業機から過大な偏荷重が加わった場合に、作業車両の走行位置の設計経路からズレを抑制して、自動操舵の制御系を安定に維持することができる作業車両を提供する。
【解決手段】作業車両の後部に作業機を装着する左右一対の左ロワリンク(7L)と右ロワリンク(7R)を設け、左ロワリンク(7L)に作業機から加わる荷重を測定する左センサ(64L)を設け、右ロワリンク(7R)に作業機から加わる荷重を測定する右センサ(64R)を設け、コントローラ(50)は、左センサ(64L)で測定された左荷重と右センサ(64R)で測定された右荷重の偏荷重が、予め設定された設定偏荷重以上であった場合には、作業車両の操舵装置(73L,73R)を介して前輪(2)の切込みを操作する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場内に設定された設定経路(61)に沿って作業車両を自動走行させるコントローラ(50)と、測位衛星から作業車両の走行位置の情報を受信するアンテナ(23B)を備えた作業車両において、
前記作業車両の後部に作業機を装着する左右一対の左ロワリンク(7L)と右ロワリンク(7R)を設け、
該左ロワリンク(7L)に作業機から加わる荷重を測定する左センサ(64L)を設け、
前記右ロワリンク(7R)に作業機から加わる荷重を測定する右センサ(64R)を設け、
前記コントローラ(50)は、前記左センサ(64L)で測定された荷重と右センサ(64R)で測定された荷重の偏荷重が、予め設定された設定偏荷重以上であった場合には、前記作業車両の操舵装置(73L,73R)を介して前輪(2)の切込みを操作することを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記左センサ(64L)で測定された荷重が右センサ(64R)で測定された荷重よりも大きい場合には、前記前輪(2)を時計方向に切込み、
前記右センサ(64R)で測定された荷重が左センサ(64L)で測定された荷重よりも大きい場合には、前記前輪(2)を反時計方向に切込む請求項1記載の作業車両。
【請求項3】
前記前輪(2)の切込み操作の後、前記コントローラ(50)は、前記作業車両の走行位置と設定経路(61)の偏差が予め設定された設定偏差以上の場合には、前記作業車両の制動装置(46L,46R)を介して左後輪(3L)と右後輪(3R)の制動を操作する請求項1記載の作業車両。
【請求項4】
前記作業車両の走行位置が設定経路(61)の左側に偏移した場合には、前記右後輪(3R)を制動し、
前記作業車両の走行位置が設定経路(61)の右側に偏移した場合には、前記左後輪(3L)を制動する請求項3記載の作業車両。
【請求項5】
前記前輪(2)の切込み操作の後、又は、前記左後輪(3L)と右後輪(3R)の制動操作の後、前記コントローラ(50)は、前記作業車両の前部が後部よりも上昇してピッチング角度が予め設定した設定ピッチング角度以上の場合には、前記作業車両のオイル昇圧装置(42)を介して左後輪(3L)と右後輪(3R)の制動を大きくする請求項1又は3記載の作業車両。
【請求項6】
前記前輪(2)の切込み操作の後、又は、前記左後輪(3L)と右後輪(3R)の制動操作の後、前記コントローラ(50)は、前記作業車両の前部が後部よりも上昇してピッチング角度が予め設定した設定ピッチング角度以上の場合には、前記作業車両の昇降装置(9)を介して作業機を上昇させる請求項1又は3記載の作業車両。
【請求項7】
平面視において、前記作業機の中心が、前記作業車両の左右方向のいずれかの方向に偏移して設けられている請求項1記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場内に設定された設定経路を自動走行する作業車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
進行方向に対して直交する左右方向にオフセットして設けられた作業機を牽引する作業車両を自動操舵しながら予め設定された設定経路に沿って自動走行させる技術が知られている。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の技術では、作業車両にオフセットして設けられた作業機から過大な偏荷重が加わった場合には、作業車両の走行位置が設計経路から大きくズレたり、作業車両を自動操舵する制御系が不安定になる恐れがあった。
【0005】
そこで、本発明は、作業車両に作業機から過大な偏荷重が加わった場合に、作業車両の走行位置の設計経路からズレを抑制して、自動操舵の制御系を安定に維持することができる作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決した本発明は次のとおりである。
すなわち、請求項1記載の発明は、圃場内に設定された設定経路(61)に沿って作業車両を自動走行させるコントローラ(50)と、測位衛星から作業車両の走行位置の情報を受信するアンテナ(23B)を備えた作業車両において、
前記作業車両の後部に作業機を装着する左右一対の左ロワリンク(7L)と右ロワリンク(7R)を設け、該左ロワリンク(7L)に作業機から加わる荷重を測定する左センサ(64L)を設け、前記右ロワリンク(7R)に作業機から加わる荷重を測定する右センサ(64R)を設け、前記コントローラ(50)は、前記左センサ(64L)で測定された荷重と右センサ(64R)で測定された荷重の偏荷重が、予め設定された設定偏荷重以上であった場合には、前記作業車両の操舵装置(73L,73R)を介して前輪(2)の切込みを操作することを特徴とする作業車両である。
【0007】
請求項2記載の発明は、前記左センサ(64L)で測定された荷重が右センサ(64R)で測定された荷重よりも大きい場合には、前記前輪(2)を時計方向に切込み、前記右センサ(64R)で測定された荷重が左センサ(64L)で測定された荷重よりも大きい場合には、前記前輪(2)を反時計方向に切込む請求項1記載の作業車両である。
【0008】
請求項3記載の発明は、前記前輪(2)の切込み操作の後、前記コントローラ(50)は、前記作業車両の走行位置と設定経路(61)の偏差が予め設定された設定偏差以上の場合には、前記作業車両の制動装置(46L,46R)を介して左後輪(3L)と右後輪(3R)の制動を操作する請求項1記載の作業車両である。
【0009】
請求項4記載の発明は、前記作業車両の走行位置が設定経路(61)の左側に偏移した場合には、前記右後輪(3R)を制動し、前記作業車両の走行位置が設定経路(61)の右側に偏移した場合には、前記左後輪(3L)を制動する請求項3記載の作業車両である。
【0010】
請求項5記載の発明は、前記前輪(2)の切込み操作の後、又は、前記左後輪(3L)と右後輪(3R)の制動操作の後、前記コントローラ(50)は、前記作業車両の前部が後部よりも上昇してピッチング角度が予め設定した設定ピッチング角度以上の場合には、前記作業車両のオイル昇圧装置(42)を介して左後輪(3L)と右後輪(3R)の制動を大きくする請求項1又は3記載の作業車両である。
【0011】
請求項6記載の発明は、前記前輪(2)の切込み操作の後、又は、前記左後輪(3L)と右後輪(3R)の制動操作の後、前記コントローラ(50)は、前記作業車両の前部が後部よりも上昇してピッチング角度が予め設定した設定ピッチング角度以上の場合には、前記作業車両の昇降装置(9)を介して作業機を上昇させる請求項1又は3記載の作業車両である。
【0012】
請求項7記載の発明は、平面視において、前記作業機の中心が、前記作業車両の左右方向のいずれかの方向に偏移して設けられている請求項1記載の作業車両である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明によれば、作業車両の後部に作業機を装着する左右一対の左ロワリンク(7L)と右ロワリンク(7R)を設け、左ロワリンク(7L)に作業機から加わる荷重を測定する左センサ(64L)を設け、右ロワリンク(7R)に作業機から加わる荷重を測定する右センサ(64R)を設け、コントローラ(50)は、左センサ(64L)で測定された荷重と右センサ(64R)で測定された荷重の偏荷重が、予め設定された設定偏荷重以上であった場合には、作業車両の操舵装置(73L,73R)を介して前輪(2)の切込みを操作するので、作業車両の走行位置の設定経路(61)からズレを抑制することができる。また、前輪(2)のグリップ力が小さくなる前に操舵を行うので自動操作の制御系が不安定なることも抑制することができる。
【0014】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の発明による効果に加えて、左センサ(64L)で測定された荷重が右センサ(64R)で測定された荷重よりも大きい場合には、前輪(2)を時計方向に切込み、右センサ(64R)で測定された荷重が左センサ(64L)で測定された荷重よりも大きい場合には、前輪(2)を反時計方向に切込むので、作業車両の走行位置の設定経路(61)からズレを効率良く抑制することができる。
【0015】
請求項3記載の発明によれば、請求項1記載の発明による効果に加えて、前輪(2)の切込み操作の後、コントローラ(50)は、作業車両の走行位置と設定経路(61)の偏差が予め設定された設定偏差以上の場合には、作業車両の制動装置(46L,46R)を介して左後輪(3L)と右後輪(3R)の制動を操作するので、作業車両の走行位置の設定経路(61)からズレをより抑制することができる。
【0016】
請求項4記載の発明によれば、請求項3記載の発明による効果に加えて、作業車両の走行位置が設定経路(61)の左側に偏移した場合には、右後輪(3R)を制動し、作業車両の走行位置が設定経路(61)の右側に偏移した場合には、左後輪(3L)を制動するので、作業車両の走行位置の設定経路(61)からズレを効率良く抑制することができる。
【0017】
請求項5記載の発明によれば、請求項1又は2記載の発明による効果に加えて、前輪(2)の切込み操作の後、又は、左後輪(3L)と右後輪(3R)の制動操作の後、コントローラ(50)は、作業車両の前部が後部よりも上昇してピッチング角度が予め設定した設定ピッチング角度以上の場合には、作業車両のオイル昇圧装置(42)を介して左後輪(3L)と右後輪(3R)の制動を大きくするので、作業車両の前部と後部を水平に維持することができる。
【0018】
請求項6記載の発明によれば、請求項1又は2記載の発明による効果に加えて、前輪(2)の切込み操作の後、又は、左後輪(3L)と右後輪(3R)の制動操作の後、コントローラ(50)は、作業車両の前部が後部よりも上昇してピッチング角度が予め設定した設定ピッチング角度以上の場合には、作業車両の昇降装置(9)を介して作業機を上昇させるので、左ロワリンク(7L)と右ロワリンク(7R)に加わる荷重の偏荷重が過度に大きくなるのを防止して、作業車両の走行位置の設定経路(61)からズレをさらに抑制することができる。
【0019】
請求項7記載の発明によれば、請求項1記載の発明による効果に加えて、平面視において、作業機の中心が、作業車両の左右方向のいずれかの方向に偏移して設けられているので、左ロワリンク(7L)と右ロワリンク(7R)に加わる荷重が大きく異なる恐れがある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】作業機を牽引した作業車両の左側面図である。
【
図4】エンジンの出力回転と作動オイルの伝動図である。
【
図9】前輪を時計方向に切込んだ作業車両の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に示すように、トラクタ等の作業車両は、機体フレーム1の下側の前部に左右一対の前輪2が設けられ、機体フレーム1の下側の後部に左右一対の後輪3が設けられている。
【0022】
機体フレーム1の上側の前部にエンジンEを搭載するボンネット4が設けられ、ボンネット4の後側に作業者が搭乗する操縦部5が設けられている。操縦部5の後方下側には、作業車両に牽引される作業機10にエンジンEの出力回転を伝動する前後方向に延在するPTO軸6と、作業機10の前部を装着する左右一対のロワリンク7が設けられている。ロワリンク7には、連結アーム8を介してロワリンク7の後部を上下方向に昇降させる昇降シリンダ(請求項の「昇降装置」)9が設けられている。
【0023】
操縦部5は、操縦席11の前方にステアリングホイール12が設けられ、ステアリングホイール12はステアリングシャフトを介してステアリングコラム13に支持されている。ステアリングコラム13の下部に左側にはクラッチペダル14が設けられ、右側にはアクセルペダル15が設けられ、操縦席11等はキャビン16で覆われている。
【0024】
作業機10は、圃場面を耕耘する耕耘機(プラウ)、圃場の穀物を収穫する収穫機、圃場の牧草を刈取る刈取気機等があり、
図1,2には作業機として耕耘機を図示している。
【0025】
図2に示すように、機体フレーム1の前後方向の中間部には、機体フレーム1の前後方向の傾斜角度であるピッチング角度と、機体フレーム1の左右方向の傾斜角度であるローリング角度と、機体フレーム1のピッチング角度とローリング角度に直交するヨー角度を計測するジャイロセンサ63が設けられている。これにより、機体フレーム1のピッチング角度等を容易に測定することができる。なお、左前輪2Lを支持する左ドライブシャフトに、圃場面が左ドライブシャフトに加える荷重を測定する歪ゲージ等の荷重センサを設け、右前輪2Rを支持する右ドライブシャフトに、圃場面が右ドライブシャフトに加える荷重を測定する歪ゲージ等の荷重センサを設けるのが好ましい。これにより、作業機10から作業車両に過度の荷重が加わり左前輪2L又は右前輪2Rが圃場面から離間、すなわち、作業車両の前部が圃場面から離間する状態を速やかに測定することができる。
【0026】
左ロワリンク7Lには、作業機10が左ロワリンク7Lに加える荷重を測定する歪ゲージ等の左荷重センサ(請求項の「左センサ」)64Lが設けられ、右ロワリンク7Rには、作業機10が右ロワリンク7Rに加える荷重を測定する歪ゲージ等の右荷重センサ(請求項の「右センサ」)64Rが設けられている。これにより、左ロワリンク7Lと右ロワリンク7Rに加わる荷重を合計した総荷重と、左ロワリンク7Lに加わる荷重と右ロワリンク7Rに加わる荷重の荷重差である偏荷重を算出することができる。なお、本明細書では、左荷重センサ64Lと右荷重センサ64Rを総称して荷重センサ64という。
【0027】
図3に示すように、RTK-GPS測位方式である測位ユニット20は、測位衛星21と、既知の位置に設けられた基地局22と、作業車両に設けられた移動局23で構成されている。これにより、測位衛星21から移動局23に送信されてくる位置情報と基地局22から移動局23に送信されてくる補正用の位置情報から移動局23の位置、すなわち作業車両の位置を正確に得ることができる。
【0028】
基地局22は、固定用通信機22Aと、測位衛星21からの位置情報を受信する固定用GPSアンテナ22Bと、移動局23に補正用の位置情報を送信する固定用データ送信アンテナ22Cで構成されている。
【0029】
移動局23は、移動用通信機23Aと、測位衛星21からの位置情報を受信する移動用GPSアンテナ(請求項の「アンテナ」)23Bと、基地局22からの補正用の位置情報を受信する移動用データ送信アンテナ23Cで構成されている。移動用GPSアンテナ23Bと移動用データ送信アンテナ23Cは、操縦部5のキャビン16の上壁に設けられている。
【0030】
図4に示すように、エンジンEの出力回転は前後進クラッチ30を介して油圧式無段変速装置31に伝動され、油圧式無段変速装置31で増減速や出力回転方向の切替えが行われる。油圧式無段変速装置31の出力回転はギヤボックス32に伝動され、ギヤボックス32で増減速される。ギヤボックス32の出力回転は出力軸33に伝動され、出力軸334の出力回転は後輪用ディファレンシャルギア34を介して左右一対の後輪3に伝動される。
【0031】
出力軸33の出力回転は一対のギヤ35を介して後出力軸36Bに伝動され、後出力軸36Bの出力回転は4WDクラッチ37を介して前出力軸36Aに伝動される。前出力軸36Aの出力回転は前輪用ディファレンシャルギア38を介して左右一対の前輪2に伝動される。なお、符号39Aは操舵角度を測定する角度センサを示し、符号39Bは出力軸33の出力回転速度を測定する車速センサを示している。
【0032】
左前輪2Lの内側には、略前後方向に延在する左操舵アーム70Lが設けられ、左操舵アーム70Lの前部は、左右方向に延在するタイロッド71の左部に連結されている。また、右前輪2Rの内側には、略前後方向に延在する右操舵アーム70Rが設けられ、右操舵アーム70Rの前部は、左右方向に延在するタイロッド71の右部に連結されている。
【0033】
左操舵アーム70Lには、ステアリングホイール12の回動に応じて伸縮するロッドを有する左操舵シリンダ(請求項の「操舵装置」)73Lが連結されている。また、右操舵アーム70Rには、ステアリングホイール12の回動に応じて伸縮するロッドを有する右操舵シリンダ(請求項の「操舵装置」)73Rが連結されている。なお、本明細書では、左操舵シリンダ73Lと右操舵シリンダ73Rを総称して操舵シリンダ73という。
【0034】
オイルタンク40に貯留された作動オイルはポンプ41を介して圧力比例弁(請求項の「オイル昇圧装置」)42に給油され、圧力比例弁42で所定の圧力に昇圧される。昇圧された作動オイルは上流側の第1電磁弁43と下流側の第2電磁弁44を介して左後輪3Lを制動する左ブレーキ45Lを駆動する左ブレーキシリンダ(請求項の「制動装置」)46Lと右後輪3Rを制動する右ブレーキ45Rを駆動する右ブレーキシリンダ(請求項の「制動装置」)46Rに給油される。なお、本実施形態では、第1電磁弁43は5ポート3位置方向電磁弁を使用し、第2電磁弁44には4ポート2位置方向電磁弁を使用している。なお、本明細書では、左ブレーキ45Lと右ブレーキ45Rを総称してブレーキ45といい、左ブレーキシリンダ46Lと右ブレーキシリンダ46Rを総称してブレーキシリンダ46という。
【0035】
左ブレーキシリンダ46Lには、作業者が左ブレーキシリンダ46Lを操作する左ブレーキペダル47Lが設けられ、右ブレーキシリンダ46Rには、作業者が右ブレーキシリンダ46Rを操作する右ブレーキペダル47Rが設けられている。これにより、通常の作業時には、作業者は、左ブレーキペダル47Lや右ブレーキシリンダ46Rを踏込んで左後輪3Lと右後輪3Rを制動することができる。なお、本明細書では、左ブレーキペダル47Lと右ブレーキペダル47Rを総称してブレーキペダル47という。
【0036】
左後輪3Lと右後輪3Rを制動する場合には、後述するコントローラ50は、第1電磁弁43の左側ソレノイドに通電して第1電磁弁43の左側ソレノイドを励磁し、第2電磁弁44のソレノイドに通電して第2電磁弁44のソレノイドを励磁させる。これにより、圧力比例弁42で昇圧された作動オイルは、第1電磁弁43と第2電磁弁44を流通して左ブレーキシリンダ46Lと右ブレーキシリンダ46Rに給油され、左ブレーキ45Lと右ブレーキ45Rが駆動して左後輪3Lと右後輪3Rを制動することができる。
【0037】
左後輪3Lを制動して右後輪3Rの制動を解除する場合には、コントローラ50は、第1電磁弁43の左側ソレノイドに通電して第1電磁弁43の左側ソレノイドを励磁し、第2電磁弁44のソレノイドに通電を行なわず第2電磁弁44のソレノイドを励磁させない。これにより、圧力比例弁42で昇圧された作動オイルは、第1電磁弁43と第2電磁弁44を流通して左ブレーキシリンダ46Lに給油され、左ブレーキ45Lが駆動して左後輪3Lを制動することができる。また、右ブレーキシリンダ46R内の作動オイルは、第2電磁弁44と第1電磁弁43を流通してオイルタンク40に排油され、右ブレーキ45Rの駆動は停止して右後輪3Rの制動は解除することができる。
【0038】
右後輪3Rを制動して左後輪3Lの制動を解除する場合には、コントローラ50は、第1電磁弁43の右側ソレノイドに通電して第1電磁弁43の右側ソレノイドを励磁し、第2電磁弁44のソレノイドに通電を行なわず第2電磁弁44のソレノイドを励磁させない。これにより、圧力比例弁42で昇圧された作動オイルは、第1電磁弁43と第2電磁弁44を流通して右ブレーキシリンダ46Rに給油され、右ブレーキ45Rが駆動して右後輪3Rを制動することができる。また、左ブレーキシリンダ46L内の作動オイルは、第2電磁弁44と第1電磁弁43を流通してオイルタンク40に排油され、左ブレーキ45Lの駆動は停止して左後輪3Lの制動は解除することができる。
【0039】
左後輪3Lと右後輪3Rの制動を解除する場合には、コントローラ50は、第1電磁弁43の左側ソレノイドと右側ソレノイドに通電を行わず第1電磁弁43の左側ソレノイドと右側ソレノイドを励磁させず、第2電磁弁44のソレノイドに通電を行なわず第2電磁弁44のソレノイドを励磁させない。これにより、圧力比例弁42で昇圧された作動オイルは、第1電磁弁43を流通することができない。また、左ブレーキシリンダ46Lと右ブレーキシリンダ46R内の作動オイルは、第2電磁弁44と第1電磁弁43を通過してオイルタンク40に排油され、左ブレーキ45Lと右ブレーキ45Rの駆動が停止して左後輪3Lと右後輪3Rの制動が解除される。なお、符号48Aは圧力比例弁42に給油される所定以上の作動オイルをオイルタンク40に排油するリリーフバルブを示し、符号48Bは作動オイル内の不純物を除去するフィルタを示している。
【0040】
図5に示すように、コントローラ50は、CPU等からなる処理部51と、ROM、RAM、ハードディスクドライブ、フラッシュメモリ等からなる記憶部52と、外部とのデータ通信用の通信部53から形成されている。
【0041】
処理部51は、と基準経路60に基づいて設定経路61の設定、作業車両が自動走行している走行経路と設定経路の偏差に基づいて左前輪2Lと右前輪2Rの操舵、ヨー角度や偏荷重に基づいて左後輪3Lと右後輪3Rの制動、ピッチング角度や総荷重に基づいて昇降シリンダ9の伸縮等の駆動を行う。
【0042】
記憶部52は、基準経路60、設定経路61、設定偏差、設定編荷重、及び設定ピッチング角度等の情報が保存されている。
【0043】
通信部53は、移動用通信機23Aを介して基地局22に基準経路60等の情報を通信を行う。
【0044】
コントローラ50の入力側には、測位衛星21からの位置情報を受信する移動用GPSアンテナ23Bと、基地局22からの補正用の位置情報を受信する移動用データ送信アンテナ23Cと、基準経路60を設定する基準経路スイッチ60Sと、基準経路60に基づいて作業車両を自動走行させる設定経路61を設定する設定経路スイッチ61Sと、作業車両を自動走行に切替える切替スイッチ62Sと、機体フレーム1に設けられたジャイロセンサ63と、左ロワリンク7Lに設けられた左荷重センサ64Lと、右ロワリンク7Rに設けられた右荷重センサ64Rが所定の入力インターフェース回路を介して接続されている。
【0045】
コントローラ50の出力側には、作業車両の前輪2を自動操舵する自動操舵スイッチ65Sと、第1電磁弁43の左側ソレノイドを励磁する第1左第1左励磁スイッチ66Sと、第1電磁弁43の右側ソレノイドを励磁する第1右第1右励磁スイッチ67Sと、第2電磁弁44のソレノイドを励磁する第2励磁スイッチ68Sと、作業機10を昇降させる昇降シリンダ9を駆動する伸縮スイッチ69Sが設けられている。
【0046】
図6に示すように、設定経路61は、基準経路60に平行に、操縦部5のタッチパネル式のモニタから入力された作業幅を隔てて設けられている。作業者がステアリングホイール12を操作して作業車両を走行させる基準経路60等は実線で示し、コントローラ50の処理部51が作業車両を自動走行させる設定経路61は破線で示している。
【0047】
図7に示すように、作業者による作業車両の走行時には、ステアリングホイール12の回転角度がコントローラ50に入力されて、コントローラ50は、ステアリングホイール12の回転角度に基づいて電磁弁72のソレノイドを励磁して左操舵シリンダ73Lと右操舵シリンダ73Rのロッドを伸縮させて左操舵アーム70Lと右操舵アーム70Rを介してタイロッド71を左右方向に移動させて左前輪2Lと右前輪2Rを操舵する。なお、電磁弁72は、第1電磁弁43と同様の5ポート3位置方向電磁弁が使用されている。
【0048】
コントローラ50による作業車両の自動走行時には、測位衛星21と基地局22からの作業車両の走行位置情報がコントローラ50に入力されて、コントローラ50は、設定経路61と作業車両の走行位置の偏差に基づいて電磁弁72のソレノイドを励磁して左操舵シリンダ73Lと右操舵シリンダ73Rのロッドを伸縮させて左操舵アーム70Lと右操舵アーム70Rを介してタイロッド71を左右方向に移動させて左前輪2Lと右前輪2Rを操舵する。
【0049】
これにより、作業者による作業車両の走行とコントローラ50による作業車両の自動走行を容易に切替えることができ、部品点数の増加も抑制することができる。
【0050】
<作業車両の自動走行方法>
図8に示すように、コントローラ50の処理部51による作業車両の自動走行中であるステップS1で、処理部51は、左ロワリンク7Lに加わる荷重と右ロワリンク7Rに加わる荷重の荷重差である偏荷重が予め設定した設定偏荷重以上であるか否か判断する。偏荷重が設定偏荷重以上の場合にはステップS2に進み、偏荷重が設定偏荷重未満の場合にはステップS1を繰返す。なお、左ロワリンク7Lに加わる荷重は左荷重センサ64Lで測定され、右ロワリンク7Rに加わる荷重は右荷重センサ64Rで測定されている。
【0051】
ステップS2で、処理部51は、左ロワリンク7Lに加わっている荷重が右ロワリンク7Rに加わっている荷重よりも大きいと判断した場合には、電磁弁72の左側ソレノイドに通電して左側ソレノイドを励磁して左操舵シリンダ73Lのロッドを伸ばして、右操舵シリンダ73Rのロッドを短くしてステップS3に進む。これにより、
図9に示すように、左前輪2Lと右前輪2Rが進行方向に対して時計方向に切込まれて作業車両の自動走行位置が設定経路61から左側に偏移するのを抑制することができる。
【0052】
一方、処理部51は、右ロワリンク7Rに加わっている荷重が左ロワリンク7Lに加わっている荷重よりも大きいと判断した場合には、電磁弁72の右側ソレノイドに通電して右側ソレノイドを励磁して右操舵シリンダ73Rのロッドを伸ばして、左操舵シリンダ73Lのロッドを短くしてステップS3に進む。これにより、左前輪2Lと右前輪2Rが進行方向に対して反時計方向に切込まれて作業車両の自動走行位置が設定経路61から右側に偏移するのを抑制することができる。
【0053】
ステップS3で、処理部51は、作業車両の自動走行位置と設定経路61の偏差が予め設定した設定偏差以上であるか否か判断する。偏差が予め設定した設定偏差以上の場合にはステップS4に進み、偏差が予め設定した設定偏差未満の場合にはステップS1に戻る。
【0054】
ステップS4で、処理部51は、作業車両の自動走行位置が設定経路61よりも左側に位置していると判断した場合、すなわち、左ロワリンク7Lに加わっている荷重が右ロワリンク7Rに加わっている荷重よりも大きいと判断した場合には、第1電磁弁43の右側ソレノイドに通電して右側ソレノイドを励磁し、第2電磁弁44のソレノイドに通電を行なわずソレノイドを励磁させずにステップS5に進む。これにより、圧力比例弁42で昇圧された作動オイルが右ブレーキシリンダ46Rに給油されて右ブレーキ45Rが駆動して右後輪3Rを制動し、作業車両の自動走行位置が設定経路61の左側に偏差するのを抑制することができる。
【0055】
一方、処理部51は、作業車両の自動走行位置が設定経路61よりも右側に位置していると判断した場合、すなわち、右ロワリンク7Rに加わっている荷重が左ロワリンク7Lに加わっている荷重よりも大きいと判断した場合には、第1電磁弁43の左側ソレノイドに通電して左側ソレノイドを励磁し、第2電磁弁44のソレノイドに通電を行なわずソレノイドを励磁させずにステップS5に進む。これにより、圧力比例弁42で昇圧された作動オイルが左ブレーキシリンダ46Lに給油されて左ブレーキ45Lが駆動して左後輪3Lを制動し、作業車両の自動走行位置が設定経路61の右側に偏差するのを抑制することができる。
【0056】
ステップS5で、処理部51は、上下方向において作業車両の前部が後部よりも高くなり前後方向のピッチング角度が予め設定した設定ピッチング角度以上であるが否か判断する。ピッチング角度が設定ピッチング角度以上の場合にはステップS6に進み、ピッチング角度が設定ピッチング角度未満の場合にはステップS1に戻る。
【0057】
ステップS6で、処理部51は、圧力比例弁42を駆動して、作動オイルを昇圧してステップS7に進む。これにより、左後輪3Lや右後輪3Rの制動力を大きくして作業車両のピッチング角度の増加を抑制することができる。
【0058】
ステップS7で、処理部51は、上下方向において作業車両の前部が後部よりも高くなり前後方向のピッチング角度が予め設定した設定ピッチング角度以上であるが否か判断する。ピッチング角度が設定ピッチング角度以上の場合にはステップS8に進み、ピッチング角度が設定ピッチング角度未満の場合にはステップS1に戻る。
【0059】
ステップS8で、処理部51は、昇降シリンダ9を駆動して連結アーム8を介して作業機10を上方に移動させてステップS1に戻る。これにより、圃場に潜り込んだ作業機10の下部が圃場面に移動して圃場から作業機10に加わる荷重が減少して、作業機10から左ロワリンク7Lと右ロワリンク7Rに加わる荷重が減少するので、作業車両のピッチング角度の増加を抑制することができる。
【符号の説明】
【0060】
2 前輪
7L 左ロワリンク
7R 右ロワリンク
9 昇降シリンダ(昇降装置)
23B 移動用GPSアンテナ(アンテナ)
42 圧力比例弁(オイル昇圧装置)
46L 左ブレーキシリンダ(制動装置)
46R 左ブレーキシリンダ(制動装置)
50 コントローラ
61 設定経路
64L 荷重センサ(左センサ)
64R 荷重センサ(右センサ)
73L 左操舵シリンダ(操舵装置)
73R 右操舵シリンダ(操舵装置)