(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056214
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】食品のレコメンドするレコメンド装置、レコメンド方法およびレコメンドプログラム
(51)【国際特許分類】
G16H 20/60 20180101AFI20240416BHJP
【FI】
G16H20/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162950
(22)【出願日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】000000228
【氏名又は名称】江崎グリコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三瓶 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 康雄
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA15
(57)【要約】
【課題】ユーザーの健康状態に対応した食品を適切にレコメンドする。
【解決手段】ユーザーが摂取する食品をレコメンドするレコメンド装置1であって、ユーザーの健康状態に関するユーザー情報を取得する情報取得部11と、前記ユーザー情報に基づいて、前記食品をレコメンドするレコメンド部14と、を備え、レコメンド部14は、人間の健康状態に関する情報および所定の食品を説明変数とし、前記人間が前記所定の食品を摂取した場合の体感を目的変数として機械学習された体感予測モデルM1~Mnを用いてレコメンドする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザーが摂取する食品をレコメンドするレコメンド装置であって、
ユーザーの健康状態に関するユーザー情報を取得する情報取得部と、
前記ユーザー情報に基づいて、前記食品をレコメンドするレコメンド部と、
を備え、
前記レコメンド部は、人間の健康状態に関する情報および所定の食品を説明変数とし、前記人間が前記所定の食品を摂取した場合の体感を目的変数として機械学習された体感予測モデルを用いて、前記レコメンドすることを特徴とするレコメンド装置。
【請求項2】
前記ユーザー情報は、前記ユーザーの腸内細菌に関する菌叢情報を含むことを特徴とする請求項1に記載のレコメンド装置。
【請求項3】
前記体感予測モデルは、レコメンドされる候補となる食品ごとに対応して用意されており、
前記レコメンド部は、出力された前記体感が所定以上である体感予測モデルに対応する食品をレコメンドすることを特徴とする請求項2に記載のレコメンド装置。
【請求項4】
前記情報取得部によって取得された前記ユーザー情報を、前記体感予測モデルに入力するための演算用情報に加工する情報加工部をさらに備え、
前記情報加工部は、前記体感予測モデルのそれぞれの機械学習に用いられた学習用データにおいて、当該体感予測モデルに対応する食品を摂取した被験者を体感の有無で分類した群の間で保有率に有意差のあった腸内細菌を前記ユーザーの腸内細菌から選択し、選択した腸内細菌を前記演算用情報に紐づけることを特徴とする請求項3に記載のレコメンド装置。
【請求項5】
ユーザーが摂取する食品をレコメンドするレコメンド方法であって、
ユーザーの健康状態に関するユーザー情報を取得する情報取得ステップと、
前記ユーザー情報に基づいて、前記食品をレコメンドするレコメンドステップと、
を備え、
前記レコメンドステップでは、人間の健康状態に関する情報および所定の食品を説明変数とし、前記人間が前記所定の食品を摂取した場合の体感を目的変数として機械学習された体感予測モデルを用いて、前記レコメンドすることを特徴とするレコメンド方法。
【請求項6】
前記ユーザー情報は、前記ユーザーの腸内細菌に関する菌叢情報を含むことを特徴とする請求項5に記載のレコメンド方法。
【請求項7】
前記体感予測モデルは、レコメンドされる候補となる食品ごとに対応して用意されており、
前記レコメンドステップでは、出力された前記体感が所定以上である体感予測モデルに対応する食品をレコメンドすることを特徴とする請求項6に記載のレコメンド方法。
【請求項8】
前記情報取得ステップによって取得された前記ユーザー情報を、前記体感予測モデルに入力するための演算用情報に加工する情報加工ステップをさらに備え、
前記情報加工ステップでは、前記体感予測モデルのそれぞれの機械学習に用いられた学習用データにおいて、当該体感予測モデルに対応する食品を摂取した被験者を体感の有無で分類した群の間で保有率に有意差のあった腸内細菌を前記ユーザーの腸内細菌から選択し、選択した腸内細菌を前記演算用情報に紐づけることを特徴とする請求項7に記載のレコメンド方法。
【請求項9】
請求項5~8のいずれかに記載のレコメンド方法の各ステップをコンピュータに実行させるためのレコメンドプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザーが摂取する食品をレコメンドするレコメンド装置、レコメンド方法およびレコメンドプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この数年の研究により「プロバイオティクス」、「プレバイオティクス」を訴求される素材が多種類見出されている。また、それらの素材を含む非常に多種類な食品も発売されている。ユーザーは、それらの食品の中から自己が求める機能を持つ食品を選択し摂取している。
【0003】
しかし腸内菌叢には個人差があり、また宿主の健康状態や生活環境の変化によってもその構成は変化する。その結果、「プロバイオティクス」、「プレバイオティクス」の体感も個人の持つ腸内菌叢の特徴によって享受しやすい場合としにくい場合があることが報告されている(非特許文献1)。
【0004】
特許文献1、2には、ユーザーが入力した情報と腸内菌叢データに基づいて、サプリメントなどのレコメンドを行う発明が開示されている。特許文献1に記載の発明では、ユーザーが保有する腸内細菌データに基づき、ユーザーが高く保有する腸内細菌と相互作用があることが一般的に知られている素材やサプリメントがレコメンドされる。特許文献2に記載の発明では、腸内細菌データ、アンケートデータと各素材との関連度からレコメンドするサプリや素材を算出し、さらにレコメンドされた当該ユーザーの評価結果に基づいて関連度が補正され、次回のレコメンド時には反映される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許6907394号
【特許文献2】特許6801837号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Keisuke Yoshida、外9名、「Bifidobacterium response to lactulose ingestion in the gut relies on a solute-binding protein-dependent ABC transporter」、Communications Biology 4、Article number: 541 (2021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の発明では、サプリメントなどのレコメンドにおいて、ユーザーが保有する他の腸内細菌データ、アンケートデータからの影響は加味されておらず、また実際のユーザーの評価結果には基づいていない。また、特許文献2に記載の発明では、各データと素材間の関連度に基づいてレコメンドを行うに過ぎず、複数のユーザーデータの相互作用による素材との関連度については考慮されない。
【0008】
多種類の「プレバイオティクス」、「プロバイオティクス」の素材の機能性(例えば、整腸作用や抗肥満、抗炎症、免疫機能改善、動脈硬化予防、認知機能改善など)に対する享受のしやすさ、しにくさは個人の持つ腸内菌叢や体質等により異なり、さらには体質と腸内菌叢は相互に作用しあう。そのためグルーピングや各項目を評価するだけでは個人の腸内菌叢と体質を配慮しきれず、ある項目の類似度だけで一律に同程度の推奨度合で食品がレコメンドされることになる。そのため、ユーザーの多くは「プレバイオティクス」、「プロバイオティクス」の食品の中から、自分がその効果を享受しやすい食品を判別するためには、レコメンドされた食品の中から自身で選択、摂取して効果を確認することを、好ましい実感を得るまで繰り返さなくてはいけない。
【0009】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、ユーザーの健康状態に対応した食品を適切にレコメンドすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は以下の態様を含む。
項1.
ユーザーが摂取する食品をレコメンドするレコメンド装置であって、
ユーザーの健康状態に関するユーザー情報を取得する情報取得部と、
前記ユーザー情報に基づいて、前記食品をレコメンドするレコメンド部と、
を備え、
前記レコメンド部は、人間の健康状態に関する情報および所定の食品を説明変数とし、前記人間が前記所定の食品を摂取した場合の体感を目的変数として機械学習された体感予測モデルを用いて、前記レコメンドすることを特徴とするレコメンド装置。
項2.
前記ユーザー情報は、前記ユーザーの腸内細菌に関する菌叢情報を含むことを特徴とする項1に記載のレコメンド装置。
項3.
前記体感予測モデルは、レコメンドされる候補となる食品ごとに対応して用意されており、
前記レコメンド部は、出力された前記体感が所定以上である体感予測モデルに対応する食品をレコメンドすることを特徴とする項2に記載のレコメンド装置。
項4.
前記情報取得部によって取得された前記ユーザー情報を、前記体感予測モデルに入力するための演算用情報に加工する情報加工部をさらに備え、
前記情報加工部は、前記体感予測モデルのそれぞれの機械学習に用いられた学習用データにおいて、当該体感予測モデルに対応する食品を摂取した被験者を体感の有無で分類した群の間で保有率に有意差のあった腸内細菌を前記ユーザーの腸内細菌から選択し、選択した腸内細菌を前記演算用情報に紐づけることを特徴とする項3に記載のレコメンド装置。
項5.
ユーザーが摂取する食品をレコメンドするレコメンド方法であって、
ユーザーの健康状態に関するユーザー情報を取得する情報取得ステップと、
前記ユーザー情報に基づいて、前記食品をレコメンドするレコメンドステップと、
を備え、
前記レコメンドステップでは、人間の健康状態に関する情報および所定の食品を説明変数とし、前記人間が前記所定の食品を摂取した場合の体感を目的変数として機械学習された体感予測モデルを用いて、前記レコメンドすることを特徴とするレコメンド方法。
項6.
前記ユーザー情報は、前記ユーザーの腸内細菌に関する菌叢情報を含むことを特徴とする項5に記載のレコメンド方法。
項7.
前記体感予測モデルは、レコメンドされる候補となる食品ごとに対応して用意されており、
前記レコメンドステップでは、出力された前記体感が所定以上である体感予測モデルに対応する食品をレコメンドすることを特徴とする項6に記載のレコメンド方法。
項8.
前記情報取得ステップによって取得された前記ユーザー情報を、前記体感予測モデルに入力するための演算用情報に加工する情報加工ステップをさらに備え、
前記情報加工ステップでは、前記体感予測モデルのそれぞれの機械学習に用いられた学習用データにおいて、当該体感予測モデルに対応する食品を摂取した被験者を体感の有無で分類した群の間で保有率に有意差のあった腸内細菌を前記ユーザーの腸内細菌から選択し、選択した腸内細菌を前記演算用情報に紐づけることを特徴とする項7に記載のレコメンド方法。
項9.
項5~8のいずれかに記載のレコメンド方法の各ステップをコンピュータに実行させるためのレコメンドプログラム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ユーザーの健康状態に対応した食品を適切にレコメンドすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係るレコメンド装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るレコメンド方法の処理手順を示すフローチャートである。
【
図3】リコメンドする候補となる食品と、解析対象となった腸内細菌(一部)の一覧である。
【
図4】リコメンドステップのさらに具体的な処理手順を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の一実施形態に係るモデル生成装置の構成を示すブロック図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係るモデル生成方法の処理手順を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の変形例に係るレコメンド装置の構成を示すブロック図である。
【
図8】本発明の変形例に係るモデル生成装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
(レコメンド装置)
図1は、本発明の一実施形態に係るレコメンド装置1の構成を示すブロック図である。レコメンド装置1は、ユーザーが摂取する食品をレコメンド(推奨)する装置であり、本実施形態では、特に、ユーザーの整腸作用に適した食品をレコメンドする。つまり、ユーザーは、レコメンド装置1により整腸作用に適した食品のレコメンドが行われる対象者である。例えば、レコメンド装置1は、食品を製造または販売する企業によって管理されており、当該企業は、食品の購入を検討しているユーザーに対して、各ユーザーに適した食品をレコメンドする食品レコメンドサービスを提供する。
【0015】
なお、食品とは、人間が摂取可能なものであればよい。すなわち、食品は、固体状のものに限らず、ゲル状や液体状のものであってもよい。本実施形態では、食品として、特に整腸作用を有する素材として製造されたプレバイオティクスおよびプロバイオティクスを対象としている。また、食品は、整腸作用を有する素材そのものであってもよいし、当該素材を含む食材や加工食品であってもよい。
【0016】
レコメンド装置1は、汎用のコンピュータで構成することができ、ハードウェア構成として、CPUやGPUなどのプロセッサ、DRAMやSRAMなどの主記憶装置(図示省略)、および、HDDやSSDなどの補助記憶装置10を備えている。補助記憶装置10には、菌叢情報データベースD1、n(nは1以上の自然数)の体感予測モデルM1~Mnの他、レコメンドプログラムP等のレコメンド装置1を動作させるための各種プログラムが格納されている。
【0017】
レコメンド装置1は、機能ブロックとして、情報取得部11と、菌叢解析部12と、情報加工部13と、レコメンド部14と、結果出力部15とを備えている。本実施形態において、これらの各部は、レコメンド装置1のプロセッサがレコメンドプログラムPを主記憶装置に読み出して実行することによってソフトウェア的に実現される。
【0018】
体感予測モデルM1~Mnは、人間の健康状態に関する情報および所定の食品を説明変数とし、前記人間が前記所定の食品を摂取した場合の体感を目的変数として機械学習されている。体感予測モデルM1~Mnは、レコメンドされる候補となる食品ごとに対応して用意されており、特定の1つの食品を摂取した場合の体感を、0(体感なし)~1(体感あり)の範囲で出力する。
【0019】
本実施形態では、n=5であり、体感予測モデルM1は、ビフィズス菌BifiXを摂取した場合の体感を出力し、体感予測モデルM2は、酪酸菌を摂取した場合の体感を出力し、体感予測モデルM3は、イヌリンを摂取した場合の体感を出力し、体感予測モデルM4は、マンノオリゴ糖(MOS)を摂取した場合の体感を出力し、体感予測モデルM5は、小麦ブランを摂取した場合の体感を出力する。体感予測モデルM1~Mnの機械学習については、後述する。
【0020】
(レコメンド方法)
レコメンド装置1の機能について、
図2に基づいて説明する。
図2は、本実施形態に係るレコメンド方法の処理手順を示すフローチャートである。該レコメンド方法は、ステップS1~S4を有しており、レコメンド装置1の上記機能ブロックがステップS1~S4を実行する。すなわち、レコメンドプログラムPがレコメンド装置1にステップS1~S4を実行させる。
【0021】
ステップS1(情報取得ステップ)では、情報取得部11が、ユーザーの健康状態に関するユーザー情報を取得する。本実施形態では、ユーザー情報は、ユーザーの年齢および性別等の基礎情報、および腸内細菌に関する菌叢情報を含んでいる。基礎情報は、年齢および性別の他、排便習慣、習慣的に摂取している食品(例えばヨーグルト、乳酸菌飲料、オリゴ糖入り食品、食物繊維入り食品、納豆、キムチ等)、習慣的に摂取している薬またはサプリメント(例えば、整腸剤、胃腸薬、抗生物質、乳酸菌サプリ等)、睡眠時間、飲酒習慣の有無、朝食をとる習慣の有無、幼少期の居住地域、現在の居住地域などを含んでもよい。
【0022】
情報取得部11は、これらの情報のうち、菌叢情報以外の基礎情報を、ユーザーが管理するユーザー端末2から取得する。具体的には、ユーザー端末2にアンケートを表示し、ユーザーがアンケートに回答してレコメンド装置1に送信することにより、情報取得部11は、ユーザー基礎情報を取得する。
【0023】
また、情報取得部11は、菌叢情報を補助記憶装置10に格納された菌叢情報データベースD1から取得する。ユーザーは、食品レコメンドサービスを提供する企業に自身の糞便を郵送し、菌叢解析部12が、糞便に含まれる腸内細菌の種類およびその割合を解析して、解析結果をユーザーの識別子に対応付けて菌叢情報データベースD1に記録する。情報取得部11は、菌叢情報データベースD1からユーザーに対応する菌叢情報を取得する。
【0024】
ステップS2では、情報加工部13が、情報取得部11によって取得されたユーザー情報を、同一の識別子が付いているデータで統合することにより、体感予測モデルM1~Mnに入力するための演算用情報に加工する。本実施形態では、情報加工部13は、体感予測モデルM1~Mnのそれぞれに対応した演算用情報に加工する。具体的には、情報加工部13は、体感予測モデルM1~Mnのそれぞれの機械学習に用いられた学習用データにおいて、当該体感予測モデルに対応する食品を摂取した被験者を体感の有無で分類した群の間で保有率(腸内細菌を保有している被験者の割合)に有意差のあった腸内細菌を選択し、選択した腸内細菌を前記演算用情報に紐づける。
【0025】
図3を参照して説明する。
図3は、後述するモデル生成方法において、体感予測モデルM1~Mnを機械学習するための学習用データを生成するために、複数の被験者に対して行われたアンケートから取得された情報に基づいて作成されたものであり、リコメンドする候補となる食品と、解析対象となった腸内細菌(一部)の一覧である。アンケートでは被験者に対し、基礎情報の他、複数の食品のそれぞれを摂取した際の整腸作用に対する被験者の実感度合いを、「好ましい変化だった・好ましくない変化だった・どちらでもない」という選択肢の中から選択して回答させる。
【0026】
図3において、〇印は、対応する食品について、「好ましい変化だった」と回答した被験者群と、「好ましくない変化だった」または「どちらでもない」と回答した被験者群との間で、保有率に有意差のあった腸内細菌を示している。例えば、ビフィズス菌BifiXの列で〇印が付されている腸内細菌(g_acidaminococcus、g_adlercreutzia等)は、ビフィズス菌BifiXを摂取して「好ましい変化だった」と回答した被験者群の当該腸内細菌の保有率と、「好ましくない変化だった」または「どちらでもない」と回答した被験者群の当該腸内細菌の保有率との間に有意差があった腸内細菌である。有意差検定(Welchのt検定)は、Pylum、Class、Order、Family、Genus、Speciesのすべてのレベルで行う。ビフィズス菌BifiXの列で〇印が付されている腸内細菌のみがビフィズス菌BifiXと紐づけされる。他の腸内細菌についても同様である。
【0027】
情報加工部13は、例えば、ビフィズス菌BifiXに対応する体感予測モデルM1に入力するための演算用情報には、
図3において、ビフィズス菌BifiXの列で〇印が付されている腸内細菌の割合を紐づける。このように、演算用情報に紐づける腸内細菌を限定することにより、体感予測モデルM1~Mnを機械学習するための演算量を低減するとともに、体感予測モデルM1~Mnの予測精度を向上させることができる。
【0028】
図2に戻り、ステップS3(レコメンドステップ)では、レコメンド部14が、ユーザー情報(加工された演算用情報)に基づいて、ユーザーが摂取する食品をレコメンドする。本実施形態では、レコメンド部14は、体感予測モデルM1~Mnを用いて食品をレコメンドする。
【0029】
ステップS3の処理について、
図4を参照して説明する。
図4は、ステップS3のさらに具体的な処理手順を示すフローチャートである。
【0030】
ステップS3-1では、レコメンド部14は、体感予測モデルM1~Mnから1の体感予測モデルを選択する。
【0031】
ステップS3-2では、レコメンド部14は、選択した体感予測モデルに対し、当該体感予測モデルに対応する演算用情報を入力する。体感予測モデルは、演算用情報が入力されると、対応する食品をユーザーが摂取した場合の体感を予測結果として出力する。
【0032】
ステップS3-3では、レコメンド部14は、体感予測モデルから予測結果を取得する。
【0033】
予測結果を取得していない体感予測モデルが存在する場合(ステップS3-4においてNO)、レコメンド部14は、体感予測モデルM1~Mnから選択していない他の体感予測モデルを選択して(ステップS3-5)、ステップS3-2およびS3-3を実行する。すなわち、レコメンド部14は、全ての体感予測モデルM1~Mnから予測結果を取得するまで(ステップS3-4においてYES)、ステップS3-2およびS3-3を繰り返す。
【0034】
ステップS3-6では、レコメンド部14は、予測結果が所定以上、すなわち、ユーザーが摂取した場合の体感が所定以上に良好であると予測された食品を、ユーザーが摂取する食品としてリコメンドする。本実施形態では、予測結果が0(体感なし)~1(体感あり)の範囲で出力され、その値が0.5以上となる食品がリコメンドされる。
【0035】
【0036】
続いて、ステップS4では、結果出力部15が、レコメンド部14によってリコメンドされた食品を出力する。本実施形態では、結果出力部15は、予測結果をユーザー端末2に送信する。これにより、ユーザー端末2には、リコメンドされた食品が、「整腸作用の体感が得られる可能性のある食品素材」として表示される。このとき、「体感あり」となる可能性が高い食品の順に並べて表示してもよい。
【0037】
(小括)
以上のように、本実施形態では、人間の健康状態に関する情報および所定の食品を説明変数とし、前記人間が前記所定の食品を摂取した場合の体感を目的変数として機械学習された体感予測モデルM1~Mnを用いて、ユーザーが摂取する食品をレコメンドしている。すなわち、人間の健康状態および食品と、その食品を摂取した場合の体感との関連性を機械学習によって見出しており、そのような関連性は、従来の解析では見出すことはできないため、本実施形態では、先行技術に比べ、ユーザーの健康状態に対応した食品を適切にレコメンドすることができる。
【0038】
(モデル生成装置)
続いて、体感予測モデルM1~Mnを生成する装置および方法について説明する。
【0039】
図5は、本発明の一実施形態に係るモデル生成装置3の構成を示すブロック図である。モデル生成装置3は、機械学習によって
図1に示す体感予測モデルM1~Mnを生成する装置である。
【0040】
モデル生成装置3は、汎用のコンピュータで構成することができ、ハードウェア構成として、CPUやGPUなどのプロセッサ、DRAMやSRAMなどの主記憶装置(図示省略)、および、HDDやSSDなどの補助記憶装置30を備えている。補助記憶装置30には、菌叢情報データベースD2よびアンケート情報データベースD3が格納されている。
【0041】
モデル生成装置3は、機能ブロックとして、情報取得部31と、菌叢解析部32と、情報加工部33と、学習部34とを備えている。本実施形態において、これらの各部は、モデル生成装置3のプロセッサが所定のプログラムを主記憶装置に読み出して実行することによってソフトウェア的に実現される。
【0042】
なお、モデル生成装置3は、単一のコンピュータで構成してもよいし、複数のコンピュータで構成してもよい。例えば、モデル生成装置3を、モデル生成のための学習用データを生成する機能ブロックである情報取得部31、菌叢解析部32および情報加工部33を備えるコンピュータと、機械学習によってモデルを生成する機能ブロックである学習部34を備えるコンピュータとで構成してもよい。
【0043】
(モデル生成方法)
モデル生成装置3の機能について、
図6に基づいて説明する。
図6は、本実施形態に係るモデル生成方法の処理手順を示すフローチャートである。
【0044】
ステップS11では、多数の被験者から糞便を採取し、菌叢解析部32が、糞便に含まれる腸内細菌の種類およびその割合を解析して、解析結果を被験者の識別子に対応付けて菌叢情報データベースD2に記録する。被験者はモデル生成のためにサンプルを提供した者である。モデル生成後は被験者が上記のレコメンド方法におけるユーザーとなってもよいし、当該ユーザーも後述する学習用データD4の蓄積によりモデル生成成のための被験者となってもよい。菌叢の解析手法は特に限定されないが、例えば16Sメタゲノム解析により実施することができる。なお、ある被験者の腸内細菌について、他の被験者でのみ抽出が確認された細菌は、その構成割合を0として菌叢情報データベースD2に追記される。
【0045】
ステップS12では、上記の被験者に健康状態に関するアンケートを行い、アンケート情報を収集する。アンケートでは、被験者の年齢、性別、排便習慣、習慣的に摂取している食品(例えばヨーグルト、乳酸菌飲料、オリゴ糖入り食品、食物繊維入り食品、納豆、キムチ等)、習慣的に摂取している薬またはサプリメント(例えば、整腸剤、胃腸薬、抗生物質、乳酸菌サプリ等)、睡眠時間、飲酒習慣の有無、朝食をとる習慣の有無、幼少期の居住地域および現在の居住地域等の基礎情報の他、複数の食品のそれぞれを摂取した際の整腸作用に対する被験者の実感度合いを被験者に回答させる。本実施形態において、上記の複数の食品は、ビフィズス菌BifiX、酪酸菌、イヌリン、マンノオリゴ糖(MOS)および小麦ブランの5つの食品である。被験者の実感度合いは、例えば、「好ましい変化だった・好ましくない変化だった・どちらでもない」という選択肢の中から選ばれる。アンケート情報は、アンケート情報データベースD3に記録される。
【0046】
ステップS13では、情報取得部31が、被験者の健康状態に関する被験者情報を取得する。本実施形態では、情報取得部31は、一人の被験者の菌叢情報およびアンケート情報を菌叢情報データベースD2およびアンケート情報データベースD3から取得する。
【0047】
ステップS14では、情報加工部33が、情報取得部31によって取得された被験者情報を、学習用データの生成用に加工する。具体的には、情報加工部33は、菌叢情報から、腸内細菌名および各細菌の構成割合を示す情報を抽出し、アンケート情報から、基礎情報の他、摂取した食品から選択された1つの食品、ならびに、その食品を摂取した際の整腸作用に対する被験者の実感度合い示す情報を抽出する。さらに、情報加工部33は、被験者の識別子の下に、抽出した各情報を紐づけ、学習用データD4として補助記憶装置30に蓄積する。
【0048】
なお、紐づけされる腸内細菌は、解析対象となった全ての腸内細菌であってもよいが、各食品について、「好ましい変化だった」と回答した被験者群と、「好ましくない変化だった」または「どちらでもない」と回答した被験者群との間で、保有率に有意差のあった腸内細菌のみを紐づけてもよい。例えば、
図3において、ビフィズス菌BifiXの列で〇印が付されている腸内細菌のみがビフィズス菌BifiXと紐づけされる。
【0049】
図6に戻り、ステップS14の終了後、学習用データD4のデータ量が機械学習を行うために十分な一定数以上になるまで(ステップS15においてYES)、被験者を変えながらステップS13およびS14を繰り返す。
【0050】
ステップS16では、学習部34が学習用データD4を用いて教師あり機械学習を行い、体感予測モデルMk(kは1以上n以下の自然数)を生成する。具体的には、学習部34は、各被験者の基礎情報および選択された1つの食品を説明変数とし、その食品を摂取した際の整腸作用に対する各被験者の実感度合いを目的変数として、機械学習を行う。機械学習の方法は特に限定されないが、例えばランダムフォレストを用いることができ、機械学習のツールとしては、統計解析用オープンソース「R」の「caret」パッケージの「train」関数を用いることができる。
【0051】
ステップS16の終了後、全ての食品について体感予測モデルを生成するまで(ステップS17においてYES)、情報加工部33が学習用データD4に紐づけする食品を変えながら、ステップS13~16を繰り返す。これにより、体感予測モデルM1~Mnが生成される。生成された体感予測モデルM1~Mnは、
図1に示すレコメンド装置1に送信される。
【0052】
(付記事項)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0053】
例えば、上記実施形態では、体感予測モデルに入力されるユーザー情報は、年齢および性別等の基礎情報、および腸内細菌に関する菌叢情報の両方を含んでおり、同様に、体感予測モデルの機械学習に用いられる学習用データは、年齢および性別等の基礎情報、および腸内細菌に関する菌叢情報の両方を含んでいる。しかし、本発明はこれに限定されず、ユーザー情報および学習用データは、基礎情報および菌叢情報のいずれか一方を含んでもよい。すなわち、被験者の基礎情報および菌叢情報のいずれか一方を用いて機械学習を行い、生成された体感予測モデルにユーザーの基礎情報および菌叢情報のいずれか一方を入力することにより、ユーザーの体感を予測してもよい。
【0054】
図7および
図8はそれぞれ、変形例に係るレコメンド装置1’およびモデル生成装置3’の構成を示すブロック図である。レコメンド装置1’は、
図1に示すレコメンド装置1において、菌叢解析部12および菌叢情報データベースD1を省略した構成であり、モデル生成装置3’は、
図5に示すモデル生成装置3において、菌叢解析部32および菌叢情報データベースD2を省略した構成である。すなわち、モデル生成装置3’は、被験者の基礎情報のみを含んだ学習用データD4’を用いて機械学習を行うことにより、体感予測モデルMk’を生成し、レコメンド装置1’は、モデル生成装置3’によって生成された体感予測モデルM1’~Mn’に、ユーザー端末2から取得されたユーザーの基礎情報のみを入力することにより、食品をレコメンドする。
【0055】
また、上記実施形態では、食品を摂取した場合の体感は、主に整腸作用に対する実感度合いを意味しているが、本発明では、これに限定されず、抗肥満、抗炎症、免疫機能改善、動脈硬化予防、認知機能改善などに対する体感であってもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 レコメンド装置
1’ レコメンド装置
10 補助記憶装置
11 情報取得部
12 菌叢解析部
13 情報加工部
14 レコメンド部
15 結果出力部
2 ユーザー端末
3 モデル生成装置
3’ モデル生成装置
30 補助記憶装置
31 情報取得部
32 菌叢解析部
33 情報加工部
34 学習部
D1 菌叢情報データベース
D2 菌叢情報データベース
D3 アンケート情報データベース
D4 学習用データ
D4’ 学習用データ
M1~Mn 体感予測モデル
M1’~Mn’ 体感予測モデル
P レコメンドプログラム