(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056215
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】ブレーキディスクロータ及びそれを備える車両
(51)【国際特許分類】
F16D 65/12 20060101AFI20240416BHJP
F16D 65/00 20060101ALI20240416BHJP
F16D 65/807 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
F16D65/12 U
F16D65/00 A
F16D65/807
F16D65/12 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162951
(22)【出願日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 慧
【テーマコード(参考)】
3J058
【Fターム(参考)】
3J058AA43
3J058AA48
3J058AA53
3J058AA62
3J058AA69
3J058AA87
3J058BA37
3J058CB24
3J058CB25
3J058CB27
3J058DE02
3J058DE05
3J058DE08
3J058EA04
3J058EA05
3J058EA08
3J058EA17
(57)【要約】
【課題】製造方法や素材等の大きな制約を受けずに、冷却性能を向上させたブレーキ用ディスクロータを提供する。
【解決手段】第1面と第2面とを有するディスク部と、前記ディスク部の前記第1面及び前記第2面の少なくとも一方の面に、前記ディスクの回転中心から前記ディスク外縁に向かって形成された複数の略放射状のフィン、及び、前記フィンに形成される摺動面となる頂部、を有する、ブレーキディスクロータ。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と第2面とを有するディスク部と、
前記第1面及び前記第2面の少なくとも一方の面に、前記ディスク部の回転中心から外縁に向かって形成された複数の放射状のフィンと、
前記フィンに形成される摺動面となる頂部と、
を有する、ブレーキディスクロータ。
【請求項2】
前記フィンが、前記第1面及び前記第2面の両面に形成される、請求項1に記載のブレーキディスクロータ。
【請求項3】
前記第1面に形成された前記フィンと、前記第2面に形成された前記フィンとの位相が相互に異なる、請求項2に記載のブレーキディスクロータ。
【請求項4】
前記フィンと対向して配置されるダストカバーを有し、
前記フィンと前記ダストカバーとの間に冷却風流路が形成される、請求項3に記載のブレーキディスクロータ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項のブレーキディスクロータを備える車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ブレーキディスクロータ及びそれを備える車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冷却性等の各種性能を向上させるためのブレーキディスクロータの構成が種々提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、摩擦減衰と冷却性能を両立するため、フィン部を有するディスクを複数組み合わせて構成されたブレーキディスクの構成が開示されている。
【0004】
また特許文献2には、ディスク部とハット部とから構成されるソリッド型ディスクロータにおいて、ディスク部とフランジ部とを連結する略円筒状の連結部に大きさの異なる切り欠きを作る構成が開示されている。
【0005】
特許文献3には、ディスクブレーキ用ロータにおいて、ロータの外側面から内側面にかけて貫通する穴を複数箇所設ける構成が開示されている。
【0006】
特許文献4には、ソリッドタイプのディスクロータにおいて、摺動部と連結部との境界部に低剛性部を設けることにより、ディスクロータに軸方向振動が発生した場合に低剛性部が振動の腹として大きな変位を示し、ブレーキパッドの圧接に伴う振動を早期に減衰させて、ブレーキ鳴きを有効に抑制する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-021614号公報
【特許文献2】特開2001-234956号公報
【特許文献3】特開2000-145842号公報
【特許文献4】特開昭10-089388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
冷却性能を向上させるために、ベンチレーテッドディスクと称されるブレーキ用ロータが知られている。一般的にはベンチレーテッドディスクは、2枚のディスク内部に冷却経路を備えた中空構造を有している。ベンチレーテッドディスクのデメリットとしては、冷却性能と熱容量とのバランスから、冷却経路の大きさに上限があることが挙げられる。さらには、ベンチレーテッドディスクは、コストと形状との兼ね合いの観点から、鋳鉄にて一体成形で製造されており、使用できる素材に制約があるというデメリットも有している。
【0009】
一方で、上述の先行技術文献に挙げたような、従来のソリッドタイプのディスクロータには、未だ解決すべき問題が存在していた。言い換えれば、従来のソリッドタイプのディスクロータは、冷却性能に関して、未だ需要者の要求を満たすものではなかった。
【0010】
本開示は、上記した課題を一例に鑑みて為されたものであり、製造方法や素材等の大きな制約が少なく、且つ、冷却性能に優れたブレーキ用ディスクロータを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本開示の一実施形態におけるブレーキディスクロータは、第1面と第2面とを有するディスク部と、前記ディスク部の前記第1面及び前記第2面の少なくとも一方の面に、回転中心から前記ディスク外縁に向かって形成された複数の放射状のフィンと、前記フィンに形成される摺動面となる頂部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、製造方法や素材等の大きな制約を受けずに、冷却性能を向上させたブレーキ用ディスクロータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態におけるブレーキディスクロータを車両内側から見た斜視図である。
【
図2】本実施形態におけるブレーキディスクロータを車両外側から見た斜視図である。
【
図3】本実施形態におけるブレーキディスクロータにブレーキキャリパ及びダストカバーを取り付けた場合の車両外側から見た正面図である。
【
図6】他の実施形態におけるブレーキディスクロータを車両内側から見た斜視図である。
【
図7】他の実施形態におけるブレーキディスクロータを車両外側から見た斜視図である。
【
図8】他の実施形態におけるブレーキディスクロータにブレーキキャリパ及びダストカバーを取り付けた場合の車両外側から見た正面図である。
【
図10】
図8におけるA-A’断面図の他の例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に本開示の好適な実施形態について説明する。なお、以下の実施形態の全図においては、同一又は対応する部分には同一の符号を付す。また、本開示は以下に説明する実施形態によって限定されるものではない。
【0015】
<第一実施形態>
本開示におけるブレーキディスクロータ100について説明する。
図1~
図5に、本開示の一実施形態に係るブレーキディスクロータ100を示している。
図1はブレーキディスクロータ100を車両1内側から見た斜視図である。
図2はブレーキディスクロータ100を車両1外側から見た斜視図である。
図3はブレーキディスクロータ100にブレーキキャリパ及びダストカバーを取り付けた場合の車両1外側から見た正面図である。
図4は
図3におけるA-A’断面図であり、
図5は
図3におけるB-B’断面図である。なお
図3は、紙面手前が車両外側を示す。また
図3のA-A’線は、回転中心Oを通る直径と重なり、さらに回転中心Oを中心に対向する2つのフィン溝22dの断面を形成する線である。
図4及び
図5は、紙面の上が車両外側、紙面の下が車両内側を示す。
【0016】
ブレーキディスクロータ100は、車両ホイールの内側において、図示しない車両ハブに固定されるようになっている。ブレーキディスクロータ100は、車両用のディスクブレーキに用いられ、車両ハブに公知のボルト等を介して取り付けられるハット部21と、ハット部21の周囲にリング状に延在する平板のディスク部22と、を有する。なおハット部21とディスク部22とは、一体的に成形されていてもよいし、図示しない固定ピンやボルト等で相互に連結される構成であってもよい。ディスク部22は、第1面22aと第2面22bを有する。
図1に示されるように、第1面22aが車両内側、第2面22bが車両外側となるように、ブレーキディスクロータ100が車両に取付可能である。
【0017】
ブレーキディスクロータ100の制動機能に関して、ハット部21が車両ハブに接続され、車両側に取り付けられたブレーキキャリパのブレーキパッドを、ディスク部22の車両内側面(第1面)22a及び車両外側面(第2面)22bに押し付けることで、ブレーキパッドと第1面22a及び第2面22bとの間に摩擦力を生じさせて、車両の制動力を得る。
【0018】
ディスク部22は、鋳鉄又はカーボンを用いて形成される。ハット部21は、ディスク部22と同種の金属材料で形成されていてもよいし、アルミやステンレス等のディスク部22とは異なる金属を用いて形成されていてもよい。ブレーキディスクロータ100のサイズは、一例として、ディスク部22の外形(直径)が300~400mm、ハット部21の直径(内径)が250mm程度、ディスク部22の厚みが4~30mmであるが、これに限定されるものではない。
【0019】
本実施形態において、ディスク部22の両面は、異なる平面形状を有している。すなわち
図1に示されるように、車両内側の面22a(第1面)には、凹凸が形成されている。一方で車両外側の面22b(第2面)には、凹凸が形成されない。
【0020】
ディスク部22の車両内側の面22aの形状について、より具体的に説明すると、ディスク部22の回転中心Oから外縁に向かって形成された、複数の放射状のフィン22cが形成される。各々のフィン22cの頂点は、フィン摺動面22eを成している。複数の隣り合うフィン22cの間には、フィン溝22dが形成される。
【0021】
(フィン22c)
本実施形態において、上述したように、フィン22cは、ディスク部22において、回転中心Oから外縁に向かって、放射状に、複数形成される。フィン22cは、伝熱面積を広げることにより、ディスク部22表面の熱を放熱する機能を有する。なお、図においては、24本のフィン22cが形成されているが、これに限られるものではない。また、図においては、フィン22cはそれぞれ等間隔に形成されているが、不均等であってもよい。さらには、フィン22cは、半径方向に沿って直線形状に形成されるが、これに限られるものではなく、螺旋等の曲線や波形等の形状を有していてもよい。フィン22cの幅は、回転中心Oから外縁に向かって同じ幅であってもよいし、幅の太さが異なっていてもよい。
【0022】
(フィン摺動面22e)
上述のとおり、フィン22cの頂点は、所定の幅を有する面とすることにより、フィン摺動面22eを成している。フィン摺動面22eは、ブレーキキャリパのブレーキパッドに接触し、摩擦により運動エネルギーを熱エネルギーに変換することにより、車両を制動する機能を有する。フィン摺動面22eは、
図5にも示されるように、ディスク部22の第2面22bと略平行の面である。フィン摺動面22eの幅や、1つのフィン摺動面22eにおける弧の両端と、ディスク部22の回転中心Oの成す中心角の角度θ
1は、上記フィン22cの形成数等によって適宜変更可能である。
【0023】
(フィン溝22d)
上述のとおり、フィン溝22dは、複数の隣り合うフィン22cの間に形成される。具体的にフィン溝22dは、隣り合うフィン22cの側面と、当該側面同士の最下端をつなぐ面により、形成される。フィン溝22dの長手方向に直交する断面は、
図5等に示されるように、上に凸のコの字形状を呈しているが、これに限られず、ドーム形状等であってもよい。第1面22aにおけるフィン溝22dの形成数は、特に制限されるものではなく、フィン22cの形成数等に応じて適宜設定できる。図において、フィン溝22dはそれぞれ等間隔に形成されているが、不均等であってもよい。さらに、図において、フィン溝22dの幅は、ディスク部22の回転中心Oから外縁に向けて、等しい幅となっているが、これに制限されない。フィン溝22dの深さについて、特に制限はなく、フィン22cの高さ等に応じて、適宜設定できる。
【0024】
なお、ブレーキディスクロータ100の制動時には、ブレーキキャリパのブレーキパッドは、上述のフィン摺動面22e、及び、摺動面22b(第2面)、の両面に接触することができる。一方で、ブレーキパッドは、フィン溝22dには直接的には接触しない。
【0025】
フィン溝22dは、ブレーキディスクロータ100の回転により周囲の空気が入り込み、冷却風の流路として機能する。具体的には、フィン溝22dは、ブレーキディスクロータ100の回転により発生する風を冷却風として、フィン溝22d内部をディスク部22の回転中心Oから外縁に向かって流通させることを可能とする(
図4参照)。
【0026】
(第一実施形態:ロータ回転時における空気の流れ)
本実施形態のブレーキディスクロータ100の回転時における、冷却風の流れを以下に説明する。
【0027】
車両の走行に伴って、ブレーキディスクロータ100は進行方向に回転する。ブレーキディスクロータ100の周囲に存在する空気は、ブレーキディスクロータ100の回転に伴って移動する。特に、フィン溝22dの内部に存在する空気は、回転の遠心力により、外縁方向に放出される。そうすると、次いで、ディスク部22の回転中心O付近の気圧が低下するので、車両内側からディスク部22の回転中心O付近に向けて空気が流れ込む。このようにして、フィン溝22dの内部を、ディスク部22の回転中心O付近から外縁に向けて空気が流通する。なお、フィン溝22dの内部を流通する空気は、ディスク部22の熱を奪いながら移動し車両外部に放出されるため、本実施形態のブレーキディスクロータ100を効果的に冷却することができる。
【0028】
なお、
図3~5に示されるように、本実施形態のブレーキディスクロータ100は、ダストカバーDCと組み合わせて使用することができる。この場合、冷却風の流路は、フィン溝22d及びダストカバーDCにより囲まれる。そして、ブレーキディスクロータ100の回転により、フィン溝22d内の空気(冷却風)は、流路を回転中心側から外縁方向に移動する。
【0029】
(第一実施形態の効果)
本実施形態のブレーキディスクロータ100を単独で使用した場合の効果は以下のとおりである。フィン溝22dの内部を流通する空気は、ディスク部22の熱を奪いながら移動し車両外部に放出されるため、冷却性能を向上させることができる。また、ブレーキディスクロータ100の冷却性能向上により、車両エンジンのピストン側への伝熱が減るため、ペーパーロック現象を抑制することができる。さらには、本実施形態のブレーキディスクロータ100は、ブレーキパッド摩擦材の熱分解で発生したガスを、上記冷却風と共に、ディスク部22外縁方向に放出させることが可能となる。よって、フェード現象を抑制することが可能となる。
【0030】
また、本実施形態のブレーキディスクロータ100は、ソリッドディスクであるため、中空構造と比較し、より低コストで製造することが出来る。また、中空である必要が無い事から、鋳造以外の製法も適用出来る。さらには、上述のとおり、ブレーキパッド摩擦材の熱分解で発生したガスを、上記冷却風と共に、車両外部に放出させることが可能であるため、フェード現象後のパッド表面のクリーニング効果が得られる。
【0031】
本実施形態のブレーキディスクロータ100を、ダストカバーDCと組み合わせて使用した場合の効果は以下のとおりである。ブレーキディスクロータ100をダストカバーDCと組み合わせて使用することにより、ブレーキディスクロータ100をダストカバーDCとの間に冷却風の流路が形成される。すなわち、中空構造を有しないソリッドディスクを用いて、従来のベンチレーテッドタイプのディスクと同様の冷却効果を得る事ができるという利点がある。また本実施形態において、ブレーキディスクロータ100の熱を奪ったフィン溝22d内の空気は、ダストカバーDCの表面にも接触する。それ故、ブレーキディスクロータ100の熱を、間接的にダストカバーDCにも伝えることができ、ダストカバー自体がヒートシンクとして機能する。このように、ブレーキディスクロータ100を、ダストカバーDCと組み合わせることにより、冷却性能をより高めることができる。
【0032】
以上、ブレーキディスクロータ100を、車両内側の面22a(第1面)にフィン22cが形成される例により説明したが、本実施形態はこれに限られない。すなわち、本実施形態のブレーキディスクロータ100は、車両外側の面22b(第2面)にフィン22cが形成されると共に、車両内側の面22a(第1面)にはフィンが形成されないものであってもよい。しかしながら、ブレーキディスクロータの車両内側に通常配置されるダストカバーと協働して冷却風流路を形成する観点からは、車両内側の面にフィン22cが形成されることが、より好適である。
【0033】
<第二実施形態>
次に、本開示の第二実施形態に係るブレーキディスクロータ200について
図6~10を用いて説明する。なお第二実施形態に係るブレーキディスクロータ200は、ディスク部22の両面にフィンが形成されている点において、上述の第一実施形態と相違する。そのため、上記相違点について主に説明し、既述した第一実施形態と共通する部材については共通の符号を付してその説明を省略する。
【0034】
図6は、第二実施形態のブレーキディスクロータ200を車両内側から見た斜視図である。
図7は第二実施形態のブレーキディスクロータ200を車両外側から見た斜視図である。
図8は第二実施形態のブレーキディスクロータ200にブレーキキャリパ及びダストカバーを取り付けた場合の車両外側から見た正面図である。
図9は
図8におけるA-A’断面図である。
図10は
図8におけるB-B’断面図である。なお
図8は、紙面手前が車両外側を示す。また
図8のA-A’線は、回転中心Oを通る直径と重なり、さらに回転中心Oを中心に対向する2つのフィン溝22oの断面を形成する線である。
図9及び
図10は、紙面の上が車両外側、紙面の下が車両内側を示す。
【0035】
図6に示されるように、車両内側の第1面22aは、上述の第1実施形態と同様に、ディスク部22の回転中心Oから外縁に向かって形成された複数の略放射状のフィン22cが形成される。フィン22cの頂点は、フィン摺動面22eを成している。
【0036】
一方で
図7に示されるように、車両外側の第2面22bには、ディスク部22の回転中心Oから外縁に向かって形成された複数の略放射状のフィン22mが形成される。フィン22mの頂点は、フィン摺動面22nを成している。複数の隣り合うフィン22mの間には、フィン溝22oが形成される。
【0037】
(フィン22m)
本実施形態のブレーキディスクロータ200において、フィン22mは、第1面のフィン22cと同様、ディスク部22において、回転中心Oから外縁に向かって、略放射状に、複数形成される。フィン22mもフィン22cと同様に、伝熱面積を広げることにより、ディスク部22表面の熱を放熱する機能を有する。なお、図においては、24本のフィン22mが形成されているが、これに限られるものではない。また、図においては、フィン22mはそれぞれ等間隔に形成されているが、不均等であってもよい。さらには、フィン22mは、半径方向に沿って直線形上に形成されるが、これに限られるものではなく、螺旋曲線や波形等の形状を有していてもよい。フィン22mの幅は、回転中心Oから外縁に向かって同じ幅であってもよいし、幅の太さが異なっていてもよい。なお、フィン22cとフィン22mは、同じ形状であってもよいし、異なる形状であってもよい。
【0038】
本実施形態において、車両外側の面22b(第2面)に形成されたフィン22mは、反対側の面22a(第1面)に形成されるフィン22cとは、その位相が相互に異なる。すなわち
図7で示されるとおり、任意のフィン22mの逆側(第1面側)には、フィン溝22dが配置されている。なお本実施形態において、フィン22mの全てにおいて、第1面のフィン22cと位相が異なっている必要はなく、少なくとも1つのフィン22mにおいて、フィン22cとの位相が異なっていればよい。
【0039】
(フィン摺動面22n)
フィン22mの頂点は、所定の幅を有する面とすることにより、フィン摺動面22nを成している。フィン摺動面22nは、車両の制動時に、ブレーキキャリパのブレーキパッドに接触し、摩擦により運動エネルギーを熱エネルギーに変換することにより、車両を制動する機能を有する。フィン摺動面22nは、
図7に示されるように、ディスク部22の第2面22bに形成されるフィン22cのフィン摺動面22eと略平行を成す面となっている。フィン摺動面22nの幅や、個々のフィン摺動面22nにおける弧の両端と、ディスク部22における回転中心Oの成す中心角の角度θ
2は、フィン22mの形成数等によって適宜変更可能である。
【0040】
(フィン溝22o)
フィン溝22oは、複数の隣り合うフィン22mの間に形成される。フィン溝22oは、隣り合うフィン22mの側面と、当該側面同士の最下端をつなぐ面により、形成される。フィン溝22oの長手方向に直交する断面は、
図10等に示されるように、略V字形状を呈しているが、これに限られず、U字形状等であってもよい。第2面22bにおけるフィン溝22oの形成数は、特に制限されるものではなく、フィン22mの形成数等に応じて適宜設定できる。図において、フィン溝22dはそれぞれ等間隔に形成されているが、不均等であってもよい。さらに、図において、フィン溝22dの幅は、ディスク部22の回転中心Oから外縁に向けて、等しい幅となっているが、これに制限されない。フィン溝22oの深さ(フィン22mの高さ)について、特に制限はなく、適宜設定できる。フィン溝22oとフィン溝22dとは同形状であってもよいし、異なる形状であってもよい。
【0041】
なお、本実施形態において、フィン溝22oは、反対側の面22a(第1面)に形成されるフィン溝22dとは、その位相が相互に異なる。すなわち
図7で示されるとおり、任意のフィン溝22oの逆側(第1面側)には、フィン22cが配置されている。
なお本実施形態において、フィン溝22oの全てにおいて、第1面のフィン溝22dと位相が異なっている必要はなく、少なくとも1つのフィン溝22oにおいて、フィン溝22dとの位相が異なっていればよい。
【0042】
本実施形態において、ディスク部22の両面におけるフィンやフィン溝の位相を相互に異ならせることによる効果は、以下のとおりである。すなわち、位相が相互に異なることにより、ディスク部22の全体的な厚みを均一化しつつ、両方の面におけるフィン溝の深さを深くすることが可能である。ディスク部22の全体的な厚みを均一化できることで、熱影響によるロータの歪みやクラック発生を回避できると共に、フィン溝を深くすることで、冷却性能を向上させることが可能となる。
【0043】
(第二実施形態:ロータ回転時における空気の流れ)
本実施形態のブレーキディスクロータ200の回転時における、冷却風の流れを以下に説明する。
【0044】
車両の走行に伴って、ブレーキディスクロータ200は進行方向に回転する。ブレーキディスクロータ200の周囲に存在する空気は、回転の遠心力により、ディスク部22の回転中心O付近から、フィン溝22d及びフィン溝22oを通り、外縁方向に放出される。すなわち、この空気は、ブレーキディスクロータ200が保有する熱をディスク部22の両面から奪いながら、フィン溝22d及びフィン溝22oを通過し、外縁部から車両外に放出される。よって、本実施形態のブレーキディスクロータ200は、ロータの冷却性能をより向上させることができる。なお、本実施形態において、冷却風は
図9の矢印に示されるように、車両の中心からフィン溝22oに流れ込み、外縁方向に放出される。
図9に示されるようにフィン溝22oの回転中心O側(すなわち、ハット部21とフィン22cとの連結部付近)には、冷却風を流すための貫通孔が形成されている。しかしながら本実施形態において、貫通孔は必須の構成ではない。すなわち、ディスク部22の両面にフィンが形成されている限りにおいて、本実施形態のブレーキディスクロータ200は、冷却性能をより向上させることができる。
【0045】
なお
図9の断面図では、フィン22c及びフィン溝22oは各々、回転中心Oから外縁に至るまで、それらの厚みが均一となっている。しかしながらこれに限られず、回転中心Oから外縁に至るまでの厚みを異ならせてもよい。すなわち
図10に示すように、回転中心O付近のフィン溝22oの深さよりも、ロータ外縁におけるフィン溝22oの深さを深くして負圧を発生させることにより、より冷却風がフィン溝22oに流れ込みやすくなり、冷却性能を向上させることができる。
【0046】
本実施形態のブレーキディスクロータ200は、公知のダストカバーDCと組み合わせて使用してもよい。具体的には、
図8~10に示されるように、本実施形態におけるブレーキディスクロータ200の第1面22a、及び、第2面22bの両面に対向して、間隙を隔ててダストカバーDC
1及びダストカバーDC
2を配置して使用可能である。
図10に示されるとおり、車両内側の面22a(第1面)では、フィン溝22dとダストカバーDC
1とで囲まれた空間が冷却風の流路となる。一方で、車両外側の面22b(第2面)では、フィン溝22o内とダストカバーDC
2とで囲まれた空間が冷却風の流路となる。
【0047】
(第二実施形態の効果)
本実施形態のブレーキディスクロータ200を単独で使用した場合の効果は以下のとおりである。すなわち、本実施形態においても、ブレーキディスクロータ200とダストカバーDC1及びダストカバーDC2との間に冷却風の流路が形成されるため、中空構造を有しないソリッドディスクを用いて、従来のベンチレーテッドタイプのディスクと同様の冷却効果を得る事ができる。また、ブレーキディスクロータ200の周囲に存在する空気は、ブレーキディスクロータ200が保有する熱を、ディスク部22の両面から奪いながら、フィン溝22d及びフィン溝22oを通過し、外縁部から車両外に放出される。よって、本実施形態のブレーキディスクロータ200は、ロータの冷却性能をより向上させることができる。また、第一実施形態と同様の効果として、ベンチレーテッドタイプのディスクよりも低コストで製造できる点、フェード現象後のパッド表面のクリーニングが出来る点、等の効果も挙げられる。
【0048】
また、本実施形態のブレーキディスクロータ200を、2枚のダストカバーDC1及びダストカバーDC2と組み合わせて使用した場合、その効果は以下のとおりである。すなわち、フィン溝22dを流通する冷却風は、ブレーキディスクロータ200から奪った熱を間接的にダストカバーDC1に伝達する。同様に、フィン溝22oを流通する冷却風は、ブレーキディスクロータ200から奪った熱を間接的にダストカバーDC2に伝達する。このようにして、本実施形態のブレーキディスクロータ200が内部に保有する熱は、その両面を流通する冷却風に伝達されてロータ外縁方向に放出されると共に、2枚のダストカバーにも伝達される。よって、さらにロータの冷却性能を向上させることができる。
【0049】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について説明したが、かかる例に限定されるものではない。すなわち当業者であれば上記した実施形態に対して更なる修正を試みることは明らかであるものと了解される。
【符号の説明】
【0050】
100:ブレーキディスクロータ、200:ブレーキディスクロータ、21:ハット部、22:ディスク部、22a:車両内側面(第1面)、22b:車両外側面(第2面)、O:回転中心、22c:フィン、22e:フィン摺動面、22d:フィン溝、22m:フィン、22n:フィン摺動面、22o:フィン溝、DC:ダストカバー、DC1:ダストカバー、DC2:ダストカバー