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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056216
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】放射温度計
(51)【国際特許分類】
   G01J 5/00 20220101AFI20240416BHJP
   G01J 5/70 20220101ALI20240416BHJP
【FI】
G01J5/00 B
G01J5/70 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162953
(22)【出願日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】000133526
【氏名又は名称】株式会社チノー
(74)【代理人】
【識別番号】100109553
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 一郎
(72)【発明者】
【氏名】寺田 大亮
(72)【発明者】
【氏名】井内 徹
【テーマコード(参考)】
2G066
【Fターム(参考)】
2G066AB02
2G066AB03
2G066AC11
2G066AC20
2G066BA25
2G066BA31
2G066BA34
2G066BA38
2G066BC12
2G066BC15
(57)【要約】
【課題】放射率が未知の温度測定対象の温度を測定する場合には、まず放射率を求めるために光源や反射ミラーを別に設けるといった、特別な仕組みを設け、温度を得るための測定の前に都度放射率を求める測定が必要だった。
【課題を解決するための手段】別の光源や、別の反射ミラーを設けることなく、予め算出用情報を取得しておくことにより、実際の温度測定対象からの放射輝度測定によって、放射率未知の温度測定対象であっても、温度を求めることができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度測定対象側に反射面を設け三以上の立体角にて温度測定対象からの放射光を反射するように構成される反射ミラーを有する反射ミラー構造体(J)と、
温度測定対象から見て反射ミラー構造体(J)の反射ミラーの後方に配置され放射輝度を測定する一以上の放射輝度測定部(C)と、
温度測定対象側からの放射光を放射輝度測定部(C)に導くための一以上の反射ミラー構造体(J)の反射ミラーの一部に設けられた透光部(D)と、
からなる放射温度計。
【請求項2】
反射ミラー構造体(J)は、
温度測定対象側に反射面を設けた一以上の反射ミラー(A)と、
反射ミラー(A)と温度測定対象間に配置され、反射ミラー(A)の温度測定対象に対する立体角を三以上の複数段階に分けることが可能な一以上の採光部(B)と、
からなる請求項1に記載の放射温度計。
【請求項3】
反射ミラー構造体(J)は、
それぞれ異なる立体角に対応した三以上の反射ミラー(A)
からなる請求項1に記載の放射温度計。
【請求項4】
前記三以上の立体角は、放射輝度測定部(C)中心、透光部(D)中心、を通る線を中心として線対称相似形である請求項3に記載の放射温度計。
【請求項5】
反射ミラー(A)の温度測定対象に対する三以上の複数段階の立体角ごとに放射輝度測定部(C)にて測定された放射輝度を保持する放射輝度保持部(E)と、
保持されている三以上の複数段階の立体角ごとの放射輝度に基づいて温度測定対象の温度を算出するための算出用情報を保持する算出用情報保持部(F)と、
三以上の複数段階の立体角ごとに測定され保持されている三以上の放射輝度と、保持されている算出用情報と、に基づいて温度測定対象の温度を演算するための測定対象温度演算部(G)と、
をさらに有する請求項2から請求項4のいずれか一に記載の放射温度計。
【請求項6】
温度測定対象を載置する温度測定対象載置部(H)と、請求項5に記載の放射温度計と、からなる加熱物システム。
【請求項7】
反射ミラー(A)と温度測定対象間に配置され、反射ミラー(A)の温度測定対象に対する立体角を三以上の複数段階に分ける採光ステップ(b)と、
温度測定対象から見て反射ミラー(A)の後方から、採光ステップ(b)の立体角の段階ごとに温度測定対象からの放射輝度を測定する放射輝度測定ステップ(c)と、
反射ミラー(A)の温度測定対象に対する三以上の複数段階の立体角ごとに放射輝度測定ステップ(c)にて測定された放射輝度を保持する放射輝度保持ステップ(e)と、
保持されている三以上の複数段階の立体角ごとの放射輝度に基づいて温度測定対象の温度を算出するための算出用情報を保持する算出用情報保持ステップ(f)と、
三以上の複数段階の立体角ごとに測定され保持されている三以上の放射輝度と、保持されている算出用情報と、に基づいて温度測定対象の温度を演算する測定対象温度演算ステップ(g)と、
をさらに有する計算機である放射温度計の動作方法。
【請求項8】
反射ミラー(A)と温度測定対象間に配置され、反射ミラー(A)の温度測定対象に対する立体角を三以上の複数段階に分ける採光ステップ(b)と、
温度測定対象から見て反射ミラー(A)の後方から、採光ステップ(b)の立体角の段階ごとに温度測定対象からの放射輝度を測定する放射輝度測定ステップ(c)と、
反射ミラー(A)の温度測定対象に対する三以上の複数段階の立体角ごとに放射輝度測定ステップ(c)にて測定された放射輝度を保持する放射輝度保持ステップ(e)と、
保持されている三以上の複数段階の立体角ごとの放射輝度に基づいて温度測定対象の温度を算出するための算出用情報を保持する算出用情報保持ステップ(f)と、
三以上の複数段階の立体角ごとに測定され保持されている三以上の放射輝度と、保持されている算出用情報と、に基づいて温度測定対象の温度を演算する測定対象温度演算ステップ(g)と、
をさらに有する計算機である放射温度計に読み取り動作可能なプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体角を3段階以上に変えて温度測定対象と反射ミラーにより多重反射させた光の放射輝度測定結果から、測定対象の放射率を求め、温度を求めるために用いられる放射率補正測温法とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非接触にて温度測定ができる放射温度計は、鋼板製造プロセスや半導体製造プロセスのRTP(RapidThermalProcessing)などにおいてよく使われている。放射温度計は対象からの熱放射の強度(分光放射輝度)を測定し、熱放射の強度から温度への換算を、黒体の熱放射の強度と温度との関係に基づいて行う。ここで、測温対象の放射率が黒体の放射率(ε=1.0)と近い値である場合には問題はないが、アルミニウムのように非酸化面で約0.2、酸化面で約0.4といったように、放射率が黒体の放射率に対して著しく小さい値である物質の温度測定においては補正の必要が生じる。
【0003】
適切に補正をするためには、測温対象の実際の放射率を知る必要がある。主な物質の放射率は概ね知られているが、例えば、アルミニウム板の製造プロセスの温度管理のための測温において、プロセス中のアルミニウム板表面の酸化の進み具合により放射率は変化し、補正のために予め設定した放射率と実際の測温対象の放射率とが異なり、正確な補正をすることができないという問題が生じる。
【0004】
特許文献1には、測温対象の測定面の上方空間に余裕のない場合であっても、多重反射をした放射光と多重反射をしなかった放射光との比に基づいて、測温対象の放射率と温度を求めることが可能な温度測定装置が記載されている。
【0005】
特許文献2には、赤外線検出素子と、積分球と、測定対象物と積分球間に配される絞りと、赤外線を放出する参照熱源と、参照熱源からの赤外線に強度変調をかけるチョッパーとからなる放射温度計が開示されている。特許文献2に記載の技術では、測定対象物の温度を測定する前に、参照熱源からの赤外線をチョッパーで強度変調をかけたうえで測定対象物へ照射する。絞りの開口を変化させ異なる立体角で積分球へ入射させ、赤外線検出素子で検出を行い、測定対象物の放射率を求める。その後、参照熱源からの赤外線を遮断し、測定対象物から放射されて積分球に入射した赤外線を正規外線受光素子で検出し、温度を検出できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-189020号
【特許文献2】特開平7-333064号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の技術は、受光部と測定対象間の間に配置する受光側反射ミラーの他に、もう一つ反射ミラーを、測定対象を中心とした逆側に配置する必要性があり、装置自体の小型化に難がある。
【0008】
特許文献2に記載の技術では、測定時に測定対象物へ参照熱源から赤外線を照射し放射率を求めるため、参照熱源と、参照熱源からの光を遮断するシャッターが必要となる。
【0009】
そこで本発明では、受光側以外のミラーや参照熱源などの外部光源などが不要であって、測定対象と受光側反射ミラー間に立体角を3段階以上にすることができる反射ミラー構造体を設けることにより、測定対象の放射率を求め、温度を求めることができる放射率補正測温法とその装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上のような放射温度計に関する課題を解決するために、本願では第一の発明として、
温度測定対象側に反射面を設け三以上の立体角にて温度測定対象からの放射光を反射するように構成される反射ミラーを有する反射ミラー構造体(J)と、
温度測定対象から見て反射ミラー構造体(J)の反射ミラーの後方に配置され放射輝度を測定する一以上の放射輝度測定部(C)と、
温度測定対象側からの放射光を放射輝度測定部(C)に導くための一以上の反射ミラー構造体(J)の反射ミラーの一部に設けられた透光部(D)と、
からなる放射温度計を提供する。
【0011】
第二の発明として、第一の発明を基礎として、
反射ミラー構造体(J)は、
温度測定対象側に反射面を設けた一以上の反射ミラー(A)と、
反射ミラー(A)と温度測定対象間に配置され、反射ミラー(A)の温度測定対象に対する立体角を三以上の複数段階に分けることが可能な一以上の採光部(B)と、
からなる放射温度計を提供する。
【0012】
第三の発明として、第一の発明を基礎として、
反射ミラー構造体(J)は、
それぞれ異なる立体角に対応した三以上の反射ミラー(A)
からな放射温度計を提供する。
【0013】
第四の発明として、第三の発明を基礎として、
前記三以上の立体角は、放射輝度測定部(C)中心、透光部(C)中心、を通る線を中心として線対称相似形である放射温度計を提供する。
【0014】
第五の発明として、第二の発明から第四の発明を基礎として、
反射ミラー(A)の温度測定対象に対する三以上の複数段階の立体角ごとに放射輝度測定部(C)にて測定された放射輝度を保持する放射輝度保持部(E)と、
保持されている三以上の複数段階の立体角ごとの放射輝度に基づいて温度測定対象の温度を算出するための算出用情報を保持する算出用情報保持部(F)と、
三以上の複数段階の立体角ごとに測定され保持されている三以上の放射輝度と、保持されている算出用情報と、に基づいて温度測定対象の温度を演算するための測定対象温度演算部(G)と、
をさらに有す放射温度計を提供する。
【0015】
さらに第六の発明として、
温度測定対象を載置する温度測定対象載置部(H)と、第五の発明の放射温度計と、からなる加熱物システムを提供する。
【0016】
さらに第七の発明として、
反射ミラー(A)と温度測定対象間に配置され、反射ミラー(A)の温度測定対象に対する立体角を三以上の複数段階に分ける採光ステップ(b)と、
温度測定対象から見て反射ミラー(A)の後方から、採光ステップ(b)の立体角の段階ごとに温度測定対象からの放射輝度を測定する放射輝度測定ステップ(c)と、
反射ミラー(A)の温度測定対象に対する三以上の複数段階の立体角ごとに放射輝度測定ステップ(c)にて測定された放射輝度を保持する放射輝度保持ステップ(e)と、
保持されている三以上の複数段階の立体角ごとの放射輝度に基づいて温度測定対象の温度を算出するための算出用情報を保持する算出用情報保持ステップ(f)と、
三以上の複数段階の立体角ごとに測定され保持されている三以上の放射輝度と、保持されている算出用情報と、に基づいて温度測定対象の温度を演算する測定対象温度演算ステップ(g)と、
をさらに有する計算機である放射温度計の動作方法を提供する。
【0017】
さらに第八の発明として、
反射ミラー(A)と温度測定対象間に配置され、反射ミラー(A)の温度測定対象に対する立体角を三以上の複数段階に分ける採光ステップ(b)と、
温度測定対象から見て反射ミラー(A)の後方から、採光ステップ(b)の立体角の段階ごとに温度測定対象からの放射輝度を測定する放射輝度測定ステップ(c)と、
反射ミラー(A)の温度測定対象に対する三以上の複数段階の立体角ごとに放射輝度測定ステップ(c)にて測定された放射輝度を保持する放射輝度保持ステップ(e)と、
保持されている三以上の複数段階の立体角ごとの放射輝度に基づいて温度測定対象の温度を算出するための算出用情報を保持する算出用情報保持ステップ(f)と、
三以上の複数段階の立体角ごとに測定され保持されている三以上の放射輝度と、保持されている算出用情報と、に基づいて温度測定対象の温度を演算する測定対象温度演算ステップ(g)と、
をさらに有する計算機である放射温度計に読み取り動作可能なプログラムを提供する。
【0018】
さらに、第八の発明の計算機である放射温度計に読取り動作可能なプログラムは記録媒体に記録されたものであってもよい。
【発明の効果】
【0019】
主に以上のような構成をとる本発明によって、受光側以外のミラーや参照熱源などの外部光源などが不要な、定対象の放射率を求め、温度を求めることができる放射率補正測温法とその装置、および温度測定対象を載置する温度測定対象載置部を有する加熱物システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態1にかかわる発明の構成を示す図
図2】実施形態2にかかわる発明の機能ブロック図
図3】実施形態2にかかわる発明の動作フローチャート図
図4】実施形態2にかかわる発明のハードウェア図
図5】本発明の実施形態2に係る事前実験用の構成を示す図
図6】本発明の実施形態2に係る事前実験の結果を示す図1
図7】本発明の実施形態2に係る事前実験の結果を示す図2
図8】実施形態3にかかわる発明の構成を示す図1
図9】実施形態3にかかわる発明の構成を示す図2
図10】変形例1にかかわる発明の構成を示す図1
図11】変形例1にかかわる発明の構成を示す図2
図12】変形例2にかかわる発明の構成を示す図1
図13】変形例2にかかわる発明の構成を示す図2
図14】変形例3にかかわる発明の構成を示す図1
図15】変形例3にかかわる発明の構成を示す図2
図16a】変形例4にかかわる発明の構成を示す図1
図16b】変形例4にかかわる発明の反射ミラー(A)の配置を示す図
図17a】変形例4にかかわる発明の構成を示す図2
図17b】変形例4にかかわる発明の反射ミラー(A)の配置を示す図
図18a】本発明にかかわる採光部(B)の構成例を示す図1
図18b】本発明にかかわる採光部(B)の構成例を示す図2
図18c】本発明にかかわる採光部(B)の構成例を示す図3
図19】実施形態4にかかわる発明の構成を示す図1
図20】実施形態4にかかわる発明の構成を示す図2
図21a】実施形態4の変形例にかかわる発明の構成を示す図1
図21b】実施形態4の変形例にかかわる発明反射ミラー(A)の配置を示す図
図22a】実施形態4の変形例にかかわる発明の構成を示す図2
図22b】実施形態4の変形例にかかわる発明反射ミラー(A)の配置を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
<全実施形態の説明の前提>
<本発明を構成し得るハードウェアについて>
本件発明は、原則的に電子計算機を利用する発明であるが、少なくとも一部はソフトウェアによって実現され、ハードウェアによっても実現され、ソフトウェアとハードウェアの協働によっても実現される。この場合に、ソフトウェアはハードウェア資源を利用して各種演算を行い求められるデータや情報を通じて諸機能を実現する。ソフトウェアによる情報処理が、ハードウェア資源を用いて具体的に実現されていると言える。
【0022】
本件発明の各構成要件の全部又は一部を実現するハードウェアでは、計算機の基本的構成であるCPU、メモリ、バス、入出力装置、各種周辺機器、ユーザーインターフェイスなどによって構成される。各種周辺機器には、記憶装置、インターネット等インターフェイス、インターネット等機器、LAN機器、Wifi(登録商標)機器、ディスプレイ、ディスプレイインターフェイス、キーボード、マウス、スピーカ、マイク、カメラ、ビデオ、テレビ、CD装置、DVD装置、ブルーレイ装置、USBメモリ、USBメモリインターフェイス、着脱可能タイプのハードディスク、一般的なハードディスク、プロジェクタ装置、SSD、電話、ファックス、コピー機、印刷装置、ムービー編集装置、各種センサ装置などが含まれうる。
【0023】
また、本システムは、必ずしも一つの筐体によって構成されている必要はなく、複数の筐体を通信で結合して構成されるものであってもよい。また、通信は、LANであってもWAN、Wifi(登録商標)、ブルートゥース(登録商標)、赤外線通信、超音波通信であってもよく、さらに、一部が国境を跨いで設置されていてもよい。
【0024】
<全実施形態における本願発明の自然法則の利用性の充足>
【0025】
本発明は、計算機とソフトウェアとの協働で機能するものである。本発明は、反射ミラー(A)と、立体角を三以上の複数段階に分けることが可能な採光部(B)と、放射輝度測定部(C)と、透光部(D)といったハードウェアを構成する要件と、放射輝度保持部(E)と、算出用情報保持部(F)と、測定対象温度演算部(G)と、温度測定対象載置部(H)といったハードウェアで取得したデータを処理する計算機とその計算機上で動作するソフトウェアの協働で機能するものである。放射輝度測定部(C)で放射輝度を測定する際に、ハードウェアの構成によっては採光部(B)の立体角を調整する指示を計算機上のソフトウェアから行い、計算機上のソフトウェアが放射輝度測定部(C)で取得した放射輝度を放射輝度保持部(E)で対応する立体角毎に保持し、算出用情報保持部(F)に保持した温度算出のための算出用情報に基づいて、測定対象温度演算部(G)が温度測定対象の温度を演算するといった一連の動作や、データのやり取りを行う。物体が熱を持つときの輻射による放射輝度を元に物体の温度を算出することに係る発明であり、本願は物理法則を利用した発明である。
【0026】
<ハードウェア構成>
【0027】
図4は本発明の実施形態2における計算機部分のハードウェア構成の一例を示す図である。図4を用いて説明する。なお、本発明の放射温度計の反射ミラー(A)、採光部(B)、放射輝度測定部(C)、透光部(D)に関しては後記実施形態1にて説明する。
【0028】
<本発明の計算機部分のハードウェア構成>
この図4にあるように、計算機は、マザーボード上に構成される、チップセット、CPU、不揮発性メモリ、メインメモリ、各種バス、BIOS、USBやLANなどの各種インターフェイス、リアルタイムクロック等からなる。これらはオペレーティングシステムやデバイスドライバ(USBやRS-485などの各種インターフェイス、カメラ、マイク、スピーカ又はヘッドホン、ディスプレイ、放射輝度計などの各種機器組込み用)、各種プログラムなどと協働して動作する。本発明を構成する各種プログラムや各種データはこれらのハードウェア資源を効率的に利用して各種の処理を実行するように構成されている。
【0029】
≪チップセット≫
【0030】
「チップセット」は、計算機のマザーボードに実装され、CPUの外部バスと、メモリや周辺機器を接続する標準バスとの連絡機能、つまりブリッジ機能を集積した大規模集積回路(LSI)のセットである。2チップセット構成を採用する場合と、1チップセット構成を採用する場合とがある。CPUやメインメモリに近い側をノースブリッジ、遠い側で比較的低速な外部I/Oとのインターフェイスの側にサウスブリッジが設けられる。
【0031】
(ノースブリッジ)
ノースブリッジには、CPUインターフェイス、メモリコントローラ、グラフィックインターフェイスが含まれる。従来のノースブリッジの機能のほとんどをCPUに担わせてもよい。ノースブリッジは、メインメモリのメモリスロットとはメモリバスを介して接続し、グラフィックカードのグラフィックカードスロットとは、ハイスピードグラフィックバス(AGP、PCI Express)で接続される。
【0032】
(サウスブリッジ)
サウスブリッジには、PCIインターフェイス(PCIスロット)とはPCIバスを介して接続し、ATA(SATA)インターフェイス、USBインターフェイス、EthernetインターフェイスなどとのI/O機能やサウンド機能を担う。高速な動作が必要でない、あるいは不可能であるようなPS/2ポート、フロッピーディスクドライブ、シリアルポート、パラレルポート、ISAバスをサポートする回路を組み込むことは、チップセット自体の高速化の足かせとなるためサウスブリッジのチップから分離させ、スーパーI/Oチップと呼ばれる別のLSIに担当させることとしてもよい。CPU(MPU)と、周辺機器や各種制御部を繋ぐためにバスが用いられる。バスはチップセットによって連結される。メインメモリとの接続に利用されるメモリバスは、高速化を図るために、これに代えてチャネル構造を採用してもよい。バスとしてはシリアルバスかパラレルバスを採用できる。パラレルバスは、シリアルバスが1ビットずつデータを転送するのに対して、元データそのものや元データから切り出した複数ビットをひとかたまりにして、同時に複数本の通信路で伝送する。クロック信号の専用線がデータ線と平行して設け、受信側でのデータ復調の同期を行う。CPU(チップセット)と外部デバイスをつなぐバスとしても用いられ、GPIB、IDE/(パラレル)ATA、SCSI、PCIなどがある。高速化に限界があるため、PCIの改良版PCI ExpressやパラレルATAの改良版シリアルATAでは、データラインはシリアルバスでもよい。
【0033】
≪CPU≫
【0034】
CPUはメインメモリ上にあるプログラムと呼ばれる命令列を順に読み込んで解釈・実行することで信号からなる情報を同じくメインメモリ上に出力する。CPUは計算機内での演算を行なう中心として機能する。なお、CPUは演算の中心となるCPUコア部分と、その周辺部分とから構成され、CPU内部にレジスタ、キャッシュメモリや、キャッシュメモリとCPUコアとを接続する内部バス、DMAコントローラ、タイマー、ノースブリッジとの接続バスとのインターフェイスなどが含まれる。なお、CPUコアは一つのCPU(チップ)に複数備えられていてもよい。また、CPUに加えて、グラフィックインターフェイス(GPU)若しくはFPUによって、処理を行っても良い。なお、実施形態での説明は2コアタイプのものであるが、これに限定されない。またCPU内にプログラムを内蔵することもできる。
【0035】
≪不揮発性メモリ≫
【0036】
(HDD)
【0037】
ハードディスクドライブの基本構造は、磁気ディスク、磁気ヘッド、および磁気ヘッドを搭載するアームから構成される。外部インターフェイスは、SATA(過去ではATA)を採用することができる。高機能なコントローラ、例えばSCSIを用いて、ハードディスクドライブ間の通信をサポートする。例えば、ファイルを別のハードディスクドライブにコピーする時、コントローラがセクタを読み取って別のハードディスクドライブに転送して書き込むといったことができる。この時ホストCPUのメモリにはアクセスしない。したがってCPUの負荷を増やさないで済む。
【0038】
(フラッシュメモリ)
現在、NAND型フラッシュメモリとNOR型フラッシュメモリの2種が一般に使われている。読み出し書き出し速度は一長一短あるが、NAND型の方が高集積化には有利であり、データストレージ用途に使われる。ハードディスクドライブと比較し、可動部がないため小型で、稼動時の振動や音が発生しない。但し容量単価はハードディスクドライブを置き換えるようなところまで下がってはいない。記憶させるデータ容量が多くなければ、装置が小型化でき、衝撃などにも強くなるという利点がある。
【0039】
≪メインメモリ≫
【0040】
CPUが直接アクセスしてメインメモリ上の各種プログラムを実行する。メインメモリは揮発性のメモリでDRAMが用いられる。メインメモリ上のプログラムはプログラムの起動命令を受けて不揮発性メモリからメインメモリ上に展開される。その後もプログラム内で各種実行命令や、実行手順に従ってCPUがプログラムを実行する。
【0041】
≪オペレーティングシステム(OS)≫
【0042】
オペレーティングシステムは計算機上の資源をアプリケーションに利用させるための管理をしたり、各種デバイスドライバを管理したり、ハードウェアである計算機自身を管理するために用いられる。小型の計算機ではオペレーティングシステムとしてファームウェアを用いることもある。
【0043】
≪BIOS≫
【0044】
BIOSは、計算機のハードウェアを立ち上げてオペレーティングシステムを稼働させるための手順をCPUに実行させるもので、最も典型的には計算機の起動命令を受けるとCPUが最初に読取りに行くハードウェアである。ここには、ディスク(不揮発性メモリ)に格納されているオペレーティングシステムのアドレスが記載されており、CPUに展開されたBIOSによってオペレーティングシステムが順次メインメモリに展開されて稼働状態となる。なお、BIOSは、バスに接続されている各種デバイスの有無をチェックするチェック機能をも有している。チェックの結果はメインメモリ上に保存され、適宜オペレーティングシステムによって利用可能な状態となる。なお、外部装置などをチェックするようにBIOSを構成してもよい。なおBIOSの代わりに同様の機能を有する後継のUEFI(Unified Extensible Firmware Interface)を用いて計算機を起動するように構成してもよい。以上については、すべての実施形態でも同様である。
【0045】
図に示すように、本発明は基本的に汎用計算機プログラム、各種デバイスで構成することが可能である。計算機の動作は基本的に不揮発性メモリに記録されているプログラムを主メモリにロードして、主メモリとCPUと各種デバイスとで処理を実行していく形態をとる。デバイスとの通信はバス線と繋がったインターフェイスを介して行われる。インターフェイスには、ディスプレイインターフェイス、キーボード、通信バッファ、各種外部機器と接続するためのUSBやRS-485等が考えられる。
【0046】
以下に記載する放射温度計または加熱物システムを構成する各機能ブロックは、いずれもハードウェア、ソフトウェア、又はハードウェア及びソフトウェアのいずれによっても実現され得る。具体的には、コンピュータを利用するものであれば、CPUやメインメモリ、GPU、画像メモリ、グラフィックボード、バス、あるいは二次記憶装置(ハードディスクや不揮発性メモリ、CDやDVDなどの記憶媒体とそれらの媒体の読取ドライブなど)、情報入力に利用される操作ボタン等の入力デバイス、マウス、タッチパネル、専らタッチパネルをタッチする目的で利用する電子ペン、ジョイスティック又はジョイスティック類似のポインタ位置入力装置その他の外部周辺装置などのハードウェア構成部、またその外部周辺装置用のインターフェイス、GPS受信インターフェイス、GPS用演算装置、ジャイロセンサ、加速度センサ、回転検知センサ、これらセンサの信号の処理装置、カメラ、放射輝度計、画像ファイル処理回路、スピーカ、マイク、音声ファイル処理回路、通信用インターフェイス、バーコードリーダー、電子カードリーダー、POS端末、顔認証装置、暗号化装置、指紋認証装置、掌紋認証装置、網膜認証装置などの生体認証装置や、それらハードウェアを制御するためのドライバプログラムやその他アプリケーションプログラムなどが挙げられる。特にスマートフォン、タブレット端末、携帯電話、スマートウォッチ、パーソナルコンピュータ、データセンターのサーバ装置、有線・無線ネットワーク及びインターフェイスなどを利用する。
【0047】
メインメモリ上に展開したプログラムに従ったCPUの演算処理によって、入力デバイスやその他インターフェイスなどから入力されメモリやハードウェア上に保持されているデータなどが加工、蓄積されたり、前記各ハードウェアやソフトウェアを制御するための命令が生成されたりする。ここで、上記プログラムは、モジュール化された複数のプログラムとして実現されてもよいし、二以上のプログラムを組み合わせて一のプログラムとして実現されても良い。
【0048】
また、本発明は、その一部をソフトウェアとして構成することも可能である。さらに、そのようなソフトウェアが記録された記憶媒体も当然に本発明の技術的な範囲に含まれる(本実施形態に限らず、本明細書の全体を通じて同様である。)。
【0049】
<本願発明において使う用語について>
【0050】
「識別情報」とは、何らかを識別するために用いられる記号、文字、符号などである。ただし、識別情報そのものが識別される情報そのものである場合があってもよい。例えば、文字列記録Aを識別する情報である識別情報が、文字列記録A自身である場合があってよい。または、例えば本願発明での立体角が数値である場合、三以上の複数段階の立体角を識別する立体角識別情報が、立体角の数値であってもよい。従って立体角識別情報の意味は単なる記号、文字、符号である場合とその記号、文字、符号などで識別される立体角の値そのものである場合が同時に成立してもよい。
【0051】
「関連付け」とは、二以上の情報が直接的に関連付けられている場合の他、二以上の情報が他の一以上の情報を介して間接的に関連付けられている場合も含む意味で本願明細書においては用いられる。間接的な関連付けは、必ずしも一の装置(筐体が一の筐体である装置)内での関連付けに限定されず、複数の装置にわたって関連付けられている場合も含まれる。
【0052】
以下、本発明の実施の形態を図示例と共に説明する。
【0053】
<実施形態1 概要>主に請求項1
実施形態1の放射温度計は、温度測定対象側に反射面を設け三以上の立体角にて温度測定対象からの放射光を反射するように構成される反射ミラーを有する反射ミラー構造体(J)と、温度測定対象から見て反射ミラー構造体(J)の反射ミラーの後方に配置され放射輝度を測定する一以上の放射輝度測定部(C)と、温度測定対象側からの放射光を放射輝度測定部(C)に導くための一以上の反射ミラー構造体(J)の反射ミラーの一部に設けられた透光部(D)と、を有するように構成されている。
【0054】
<実施形態1 構成>
図1は、本実施形態の放射温度計の構成の一例を示す図である。同図に示すように、実施形態1の放射温度計(0100)は、反射ミラー構造体(J)(0109)と、放射輝度測定部(C)(0103)と、透光部(D)(0104)と、からなる。本実施形態1では、反射ミラー(A)(0101)と採光部(B)(0102)から反射ミラー構造体(J)(0109)が構成される。
【0055】
なお、上記構成を示す図は本発明を実施するための一例であって、本発明が克服すべき課題及びその効果と矛盾しない範囲において適宜その構成を省略したり、新たな構成を付加したりしてよい。後記実施形態2以降の説明でも同様である。
【0056】
<実施形態1 構成の説明>
<実施形態1 反射ミラー構造体(J)(0109)>
「反射ミラー構造体(J)」は、温度測定対象側に反射面を設け三以上の立体角にて温度測定対象からの放射光を反射するように構成される反射ミラーを有するように構成される。三以上の立体角とするために、一つの反射ミラーと、立体角を三以上の複数段階に分けることが可能な一以上の採光部とからなる構成の例を本実施形態1では説明する。反射ミラー構造体(J)の構成はこの構成に限定されない、別の構成については、後記別実施形態で説明する。
【0057】
「立体角」とは、反射ミラーの反射面側と対向する温度測定対象の表面上の1点から前記反射面へ向かう放射光のうち、反射面へ到達する放射光が含まれる角度である。反射ミラーが球面の一部である凹面鏡であって、温度測定対象の1点が前記球面の中心(凹面鏡の焦点)であるように構成した場合には、図1に示すように曲率半径Rの凹面鏡である反射ミラー(A)(0101)の左右端それぞれと温度測定対象上の1点を結ぶ線で挟まれた角度φが立体角に当たる。この例では、円錐状となり、温度測定対象状の1点から反射ミラー(A)へ向かう放射光(反射ミラー(A)の反射面で反射し測定対象表面へ向かい、温度測定対象表面で反射される光も含む)は、前記立体角内の光が反射ミラー(A)へ入射する可能性がある光であり、反射ミラー(A)の反射面で反射した光は前記立体角内で温度測定対象表面へ向かう。後記するように立体角を複数段階に分ける採光部(B)を有する構成の場合には、立体角は反射ミラー(A)だけではなく採光部(B)によって決定される。
<実施形態1 反射ミラー構造体(J):反射ミラー(A)(0101)>
「反射ミラー(A)」(0101)は、温度測定対象側に反射面を設け、温度測定対象からの放射光を反射するように構成される。なお本明細書中では「自発光する」という表記を持って、熱放射により赤外線を放射することをも含むようにも使用することがある。
【0058】
反射ミラー(A)の一例は、曲率半径Rの凹面鏡であり、例えばアルミニウム膜などの金属膜からなる反射面を温度測定対象に向け、凹面鏡の焦点が温度測定対象表面の測定点に来るように構成するものである。本明細書にて反射ミラー(A)や反射ミラーやミラーと表記しているものは少なくとも赤外線を反射するように構成されているものである。反射面表面には保護のために赤外線帯域に最適化した耐久性の高い誘電体多層膜を適宜積層してもよい。凹面鏡は複数、例えば3個の凹面鏡を使用するように構成することもできる。また、凹面鏡に限定せず、小型の平面ミラーを複数曲率半径Rの球面に接するように配置して構成してもよい。その場合でも1の反射ミラー(A)を構成するミラーは温度測定対象表面上の同一の1点に焦点が来るように構成される。反射ミラー(A)は一般にはガラスが用いられるが、測定対象又は測定環境が高温の場合は、耐熱ガラスを使用したり、より耐熱性の高い金属等の材料からなる鏡を用いたりする。なお、以上凹面鏡の例で説明したが、平面鏡であってもよい。
【0059】
本発明では、後記実施形態2で温度算出方法を説明するように、立体角が3段階(3種類)以上の各段階で放射輝度を測定する。反射ミラー構造体(J)を構成する反射ミラー(A)と後記採光部(B)の組を立体角の段階ごとに備えた複数組を有する構成とすることもできるし、採光部(B)が立体角を可変できる場合は採光部(B)と反射ミラー(A)を1ずつ備える構成としてもよい。これらの例を以下説明する。最初に一以上の反射ミラー(A)と温度測定対象との間に立体角を三以上の複数段階に分けることが可能な採光部(B)を設ける構成例、次にそれぞれ異なる立体角に対応した三以上の反射ミラー(A)を有する構成例について説明する(請求項2、3対応)。
【0060】
<実施形態1 反射ミラー構造体(J):反射ミラー(A)>請求項2対応
「反射ミラー(A)」は、温度測定対象側に反射面を設けた一以上であるように構成される。
【0061】
図1、または後記する図10図13の変形例のように、一つの凹面鏡からなる反射ミラー(A)と、立体角を三以上の段階に分けることが可能な1以上の後記採光部(B)からなる場合と、後記する図14図17の変形例のように略同一の3つの凹面鏡からなる反射ミラー(A)と、それぞれに異なる立体角の段階に対応する採光部(B)を有する場合が、構成例として考えられる。前者は1つの凹面鏡からなる反射ミラー(A)と、三以上の複数段階に立体角を分けることができる、図18に例示するようなスライダーやチョッパーや彩光絞りなどからなる後記採光部(B)を有する構成である。後者は略同一の凹面鏡からなる反射ミラー(A)を三以上有し、反射ミラー(A)1つにつき一つの立体角の異なる段階を割り振った構成である。図14図17においては3つの反射ミラー(A)に対応する採光部(B)はそれぞれ異なる立体角の段階となっている。
【0062】
<実施形態1 反射ミラー構造体(J):採光部(B)(0102)>請求項2対応
「採光部(B)」(0102)は、反射ミラー(A)と温度測定対象間に配置され、反射ミラー(A)の温度測定対象に対する立体角を三以上の複数段階に分けることが可能で、一以上であるように構成される。
【0063】
本明細書において「採光部(B)」は、温度測定対象から放射される光又は反射される光(赤外線等)が反射ミラー(A)へ向かう立体角を調整するためのものである。立体角を変えるための採光部(B)の例としては、カメラの絞りに相当するものであり、図18に示すように板に異なる大きさの穴を複数直線上に設け、板をずらして選択する穴の大きさを変える方式(図18a)や、異なる大きさの穴を同一円周上に設けた円板を回転させることで選択する穴の大きさを変える方式(図18b)や、複数枚の板(絞り羽根)を組み合わせて作成した虹彩絞りを使用し中心位置の変わらない略円状の穴の径を自由に変える方式(図18c)などによって、立体角を変えることができる。
【0064】
または、例えば立体角を3段階に分ける場合、穴の大きさの違う板を3枚用意し(採光部(B)は穴の大きさの違う3枚の板から構成される)、各々に対し反射ミラー(A)(透光部(D)含む)と放射輝度測定部(C)を備えた3組をもって一つの放射温度計として構成することもできる(例:図14、15、16、17)。いずれの場合でも、採光部(B)の穴は、測定対象表面の測定点と反射ミラー(A)の中心、透光部(D)の中心と、放射輝度測定部(C)で光を受光する受光素子とを結ぶ線上に穴の中心又は重心が位置するように配するのが好ましい。光路途中にミラーが配され光路を折り曲げた場合も同様である。透光部(D)を通った光をミラーなどで反射させたり、レンズで収束したりして放射輝度測定部(C)の受光素子へ光を導くような構成としてもよい(レンズは少なくとも赤外線を透過する材質から構成される)。ただし、これに限定されるものではない。なお上記の3組ずつ用意する例において、放射輝度測定部(C)を一つとする代わりに、透光部(D)を通ってきた光を光ファイバーで受けて、光スイッチ等によって3つの光ファイバーを順次選択して放射輝度を測定するように構成してもよい。
【0065】
採光部(B)の穴の大きさを変化させる機構に関しては既知の技術を用いて達成できる。採光部(B)の複数の穴に対し、反射ミラー(A)と放射輝度測定部(C)の数が少ない(例:1つの)場合、穴径の選択は自動で行えるように構成することが望ましい。板に複数の穴があけられた場合には板を押し引きして選択したり(図18a)、または円板状の穴を回転させて選択したり(図18b)、または虹彩絞りを構成する絞り羽根を動かすための機構を設け、所定の立体角を指定すると自動で絞り羽根が動いて所定の大きさの開口(図18c)となったりするように適宜構成できる。放射温度計の測定開始ボタンを押すと、採光部(B)の立体角の段階の選択が行われ放射輝度測定が行われる一連の流れが、所望の立体角の段階数分自動で行われ、最終的に温度が演算されて表示されるように構成するとよい。
【0066】
採光部(B)の穴の形状は円形が最も望ましいが、立体角を変えるための物であるので、四角形や六角形など他の形状であってもよい。後記するように測定対象表面からの光の反射は、測定対象表面粗さによる影響を受けた角度分布をもつため、立体角を変えた際には立体角の増減に応じた反射率の増減とはなりにくい。そのため、測定対象表面反射率分布と、採光部(B)の穴形状の2重の影響を避けるために、立体角の段階を変えた場合でも、穴形状は相似形であることが好ましい。また採光部(B)にて立体角を変えるための穴を設けた板や絞り羽根は、光を反射せずに吸収するように黒色に塗装したり、リン酸塩処理や黒染めのような化成処理やメッキなどにより表面処理したりしておくことが望ましい。測定対象が高温物体であって連続して測定する場合には、採光部(B)を構成する黒色に塗装した前記穴を設けた板や絞り羽根が光を吸収し加熱されてしまうために、採光部(B)には冷却機構を設けておくことが好ましい。
【0067】
<実施形態1 反射ミラー構造体(J):反射ミラー(A)>請求項3対応
「反射ミラー(A)」は、それぞれ異なる立体角に対応した三以上であるように構成される。
【0068】
後記する図19図22に示す変形例のように、例えば3つの立体角それぞれに対応した曲率半径が同一だが大きさが異なるように切り出された球面である凹面鏡である3つの反射ミラー1、反射ミラー2、反射ミラー3から構成される。それぞれの反射ミラーは、担当する段階の立体角に対応する大きさとなっているために、前記請求項2対応で説明した反射ミラー(A)のように、採光部(B)がなくともよい。立体角の段階に合わせた専用の反射ミラーを用意する必要はあるが、採光部(B)を省略することができるため構成を簡素化できる。なお採光部(B)を有しないため、測定対象からの余計な放射光(測定対象表面での反射光も含む)が反射ミラー1、2、3等複数の反射ミラー間の隙間から反射ミラーの後方へ回り込まないように、遮光するための遮光板などを有する遮光部を設けることが好ましい。
【0069】
<実施形態1 放射輝度測定部(C)(0103)>
「放射輝度測定部(C)」(0103)は、温度測定対象から見て反射ミラーの後方に配置され放射輝度を測定し、一以上であるように構成されている。
【0070】
温度測定のため、放射輝度測定部(C)は赤外線領域を測定する。鉄の融点は1536℃(約1800K)、アルミニウムの融点は660℃(約930K)であるため、それぞれ理論上の分光放射輝度のピーク波長はそれぞれ1.6μm、3.1μmほどとなり、近赤外、赤外領域の光を放射する。100℃(373K)では放射光の波長は7.8μmとなる。温度測定対象の想定温度範囲および想定される測定可能時間によって適宜受光素子の種別(量子型や熱型。量子型でもInSbやInGaAsやSiなどの種別)を選択することが望ましい。一般に熱型は冷却が不要だが応答速度が量子型より遅く、量子型の応答速度は速いが冷却機構が必要となる。生産現場等での使用が想定される本発明には素早い応答速度が得られる量子型が好ましい。また、受光素子自体が温度測定対象からの輻射などによって加熱されないように冷却機構や、遮熱板などを設置したり、受光素子を離れた場所に起き、光ファイバーに入射させて受光素子まで光を導いたりするなど熱対策を講じることが好ましい。
【0071】
<実施形態1 透光部(D)(0104)>
【0072】
「透光部(D)」(0104)は温度測定対象側からの放射光を放射輝度測定部(C)(0103)に導くための一以上の反射ミラー構造体(J)(0109)の一部に設けるように構成されている
【0073】
「透光部(D)」は、好ましい例としては反射ミラー(A)の中心に設ける。透光部(D)の中心は1の反射ミラー(A)の焦点に位置する温度測定対象表面上の1点と透光部(D)中心と放射輝度測定部(C)で光を受光する受光素子とを結ぶ線上に位置するようにすることが好ましい(請求項7対応)。光路途中にミラーが配され光路を折り曲げた場合も同様である。透光部(D)を通った光をミラーなどで反射させたり、レンズで収束したりして放射輝度測定部(C)の受光素子へ光を導くような構成としてもよい(レンズは少なくとも赤外線を透過する材質から構成される)。透光部(D)は原則として温度測定対象からの赤外線を透過するように構成される。原則的には反射ミラーに設けられた穴であることが好ましいが、穴でなく、赤外線を透過させる材料で構成されるものであってもよい。例えば赤外線透過ガラスであってもよい。前記赤外線透過材料は、対象とする赤外線波長領域に応じて選定されることが望ましい。可視光から近赤外線領域であれば可視光と同様の樹脂やガラスや石英を使用できるが、遠赤外線領域であればゲルマニウム等材料を選定する必要がある。赤外線透過ガラスなどを利用する場合には、そのガラスの透過率を用いて、放射輝度測定部の測定値を補正するのが好ましい。反射ミラー(A)の少なくとも透光部(D)付近を赤外線透過材料により形成し、透光部(D)の領域を除いて反射面を形成してもよい。
【0074】
透光部(D)の大きさは、図1中で示す測定対象表面の法線に対して反射ミラー(A)や採光部(D)などが角度θ傾けて配置しているが、測定対象表面から法線方向に出射される光が直接透光部(D)に入らないような大きさとすることが好ましい。
【0075】
<実施形態1 放射温度計(0100)>
【0076】
「放射温度計」(0100)は、温度測定対象側に反射面を設け三以上の立体角にて温度測定対象からの放射光を反射するように構成される反射ミラーを有する反射ミラー構造体(J)(0109)と、温度測定対象から見て反射ミラー構造体(J)(0109)の反射ミラー(A)(0109)の後方に配置され放射輝度を測定する一以上の放射輝度測定部(C)(0103)と、温度測定対象側からの放射光を放射輝度測定部(C)(0103)に導くための一以上の反射ミラー構造体(J)(0109)の反射ミラー(A)(0101)の一部に設けられた透光部(D)(0104)と、から構成される。本発明の放射温度計は、図1に示すように温度測定対象表面の測定点における法線からやや傾けた(角度θ)構成とする。傾けた角度θは、法線に対し0から5度くらいまでの範囲が好ましく、最も好ましい角度は2度である。測定対象表面から法線方向へ出射される光や、反射ミラー(A)後方の光学系などと測定対象間の多重反射(透光部(D)が穴ではなく赤外線透過材料を用いた窓として形成されている場合は透光部(D)表面での反射も含む)の影響を除くには0度ではないほうが好ましく、図1では傾けた構成を示した。が、透光部(D)の径が反射ミラー(A)に比べ十分小さく、前記の影響を許容できるような場合には、0度としても本発明は有効である。
【0077】
本発明の放射温度計は、1つの反射ミラー(A)の中心に一つの透光部(D)が設けられる。反射ミラー(A)、採光部(B)、放射輝度測定部(C)、透光部(D)が各1つずつでもよいし、例えば後記実施形態のようにすべて3つずつ有するように構成してもよい(例:図14、15)。3つずつ以上でもよい。採光部(B)が1の場合は、例えば1枚の板に形の違う穴が三以上あけられているように構成される(例:図12、13、図18b)、または3段階に開度調整が行えるように虹彩絞りが調整されているような態様である(例:図10、11)。後者の3つずつ有する場合の一例は、採光部(B)は反射ミラー(A)1つにつき一つの穴の開いた板を3つ使用するような態様である(例:図16a、17a)。
【0078】
本実施形態により、反射ミラーを有する反射ミラー構造体(J)(反射ミラーのほかに採光部(B)を有してもよい)と放射輝度測定部(C)と透光部(D)という簡易な構成で、試料の温度を測定出来る。
【0079】
<実施形態2 概要>主に請求項5、7、8
実施形態2は、実施形態1,後記実施形態4の構造的構成を有する放射温度計において、分光放射率が未知の試料の温度を得るための機能的構成を示す。放射輝度測定部(C)で測定した放射輝度を保持する放射輝度保持部(E)と、放射輝度から温度を算出するための算出用情報を保持する算出用情報保持部(F)と、温度を演算する測定対象温度演算部(G)を有する。
【0080】
<実施形態2 機能的構成>
図2は、実施形態1を基礎とする本実施形態の放射温度計の機能ブロック図である。放射温度計(0200)は、反射ミラー(A)(0201)と採光部(B)(0202)とからなる反射ミラー構造体(0209)と、放射輝度測定部(C)(0203)と、透光部(D)(0204)と、放射輝度保持部(E)(0205)と、算出用情報保持部(F)(0206)と、測定対象温度演算部(G)(0207)と、を有するように構成されている。反射ミラー(A)から透光部(D)までは前記実施形態1の所で説明済みの為、ここでは説明を省略し、以下、放射輝度保持部(E)、算出用情報保持部(F)、測定対象温度演算部(G)を説明する。本実施形態2では、一つの反射ミラー(A)と、立体角を三以上の複数段階に分けることが可能な一つの採光部(B)から反射ミラー構造体(J)を構成する。なお、反射ミラー構造体(J)が実施形態1で説明した他の構成(3以上の反射ミラーと採光部の組合せ、またはそれぞれ異なる立体角に対応した3以上の反射ミラーなどの構成)であっても同様の効果を有する(例:後記実施形態3、4及びそれらの変形例)。
【0081】
<実施形態2 構成の説明>請求項5対応
<実施形態2 放射輝度保持部(E)(0205)>
「放射輝度保持部(E)」(0205)は、反射ミラー(A)の温度測定対象に対する三以上の複数段階の立体角ごとに放射輝度測定部(C)(0203)にて測定された放射輝度を保持するように構成されている。
【0082】
立体角を3段階以上変えて、各々の立体角ごとに放射輝度を測定した結果を保持する。その際、立体角を識別する情報である立体角識別情報と関連付けて保持するように構成するとよい。後程、後記算出用情報に基づいて、測定対象温度演算部(G)(0207)で演算する際に、放射輝度測定結果を識別しやすくなる。
【0083】
さらに、日付と時刻を示す情報である時間情報と、測定対象を識別する情報である測定対象識別情報と、を関連付けて時系列的に保持する放射輝度測定履歴保持手段を放射輝度保持部(E)に設けてもよい。測定対象識別情報には、測定対象の属性を示す情報(例:材質、組成、目標温度範囲、メンテ後の何ロット目かなど)や、製造や加工の場所を示す情報(工場や設備を示す識別情報や、測定位置など)をさらに関連付けて保持するように構成してもよい。
【0084】
本発明の放射温度計で、炉から取り出した金属を帯状に流して徐々に板へ熱間圧延するような場合に、温度分布を測るには、帯状に流れる金属を横断する方向に複数の放射温度計を配置する。少なくとも両端又は両端からやや内側に入った近傍と中央の3点が好ましい。前記の放射輝度測定履歴保持手段には測定対象識別情報と関連付けて、測定点の位置情報(例:帯状金属の先端から測定点までの距離の、帯状金属全長に対しての割合)と測定時間を示す時間情報と関連付けて保持するように構成すると、製造工程中の温度測定結果と出来上がった製品の品質を関連付けて把握できる。
【0085】
<実施形態2 算出用情報保持部(E)(0206)>
「算出用情報保持部(E)」(0206)は、保持されている三以上の複数段階の立体角ごとの放射輝度に基づいて温度測定対象の温度を算出するための算出用情報を保持するように構成されている。
【0086】
後記する算出方法に基づいて、対象となる放射温度計の構成毎に予め実験から求めておく実験式を算出用情報として保持する。放射温度計の製造が均質に行えるならば、放射温度計のモデル(型式)ごとに実験式を求め、個々の放射温度計ごとには実験式を求めないでおくことにしてもよい。個々の製造バラツキによる誤差を含むことが予想されるため、より精度を求める場合には、個々の放射温度計ごとに実際の測定前に実験式を求め、製造時に保持された算出用情報を更新することが好ましい。事前実験式を求める、いわゆる校正のための測定は、自動で、装置の指示に従って行えるように構成しておくこともできる。
【0087】
<実施形態2 測定対象温度演算部(G)(0207)>
「測定対象温度演算部(G)」(0207)は、三以上の複数段階の立体角ごとに測定され保持されている三以上の放射輝度と、保持されている算出用情報と、に基づいて温度測定対象の温度を演算するように構成されている。
【0088】
<実施形態2:温度算出のための手順>
予め同じ装置を用いて実験式(算出用情報)を求めたうえで、三以上の複数段階の立体角ごとに測定された放射輝度と、保持している算出用情報に基づいて演算を行い、温度を算出する。以下、その方法について説明する。まず、本番測定時に測定する予定の情報について説明し、その後予め行う算出用情報を得るための実験について説明する。そのうえで得られた算出用情報を用いて、どのように放射率未知の測定対象の温度を算出するかを説明する。この温度算出手順は反射ミラー構造体(J)が、一つの反射ミラー(A)と、立体角を三以上の複数段階に分けることが可能な一つの採光部(B)から構成されている場合でも、三以上の反射ミラー(A)と採光部(B)とで構成される場合でも同様の効果を奏する。
【0089】
<実施形態2:本番測定情報L:反射ミラー(A)と測定対象間に多重反射がない>
反射ミラー(A)と温度測定対象間に多重反射がない場合、すなわちほぼ反射ミラー(A)の透光部(D)にのみ、温度測定対象表面からの光が届くように、採光部(B)の立体角を狭めた条件で測定される放射輝度Lは、次のような式1となる。
<式1>
【数1】
ここでελは温度測定対象の分光放射率、Lbλ(T)は黒体分光放射輝度である。L測定時の採光部(B)の立体角の段階をDとする。Dは例えば採光部(B)の穴の径や穴の面積などの数値であってもよいし、その数値を識別するための単なる呼称であってもよい(以下、D、Dについても同様)。
【0090】
<実施形態2:本番測定情報L:反射ミラー(A)と測定対象間に多重反射がある>
反射ミラー(A)と温度測定対象間に多重反射がある場合、例えば採光部(B)の立体角を大きくした。即ち温度測定対象表面から反射ミラー(A)すべてに向かう立体角となるように絞りを大きくあけた条件で測定される放射輝度Lは、次のような式2となる。
<式2>
【数2】
ここでεeffは実効分光放射率、ρは反射ミラー(A)から温度測定対象表面へ戻る率(反射率のような意)、γは温度測定対象表面の粗さを表したパラメータ(0~1)。γが1に近いほど鏡面的反射特性を示し、0に近いほど拡散的反射特性を示す。ελ、ρ、γ共に0から1の値をとる。そのため等比級数の公式を使用することができ、式2の前半から後半への式変形を行った。L時の採光部(B)の立体角の段階をDとする。
【0091】
<実施形態2:本番測定情報L:式2の説明>
式2の前半部の第1項は測定対象表面から直接放射輝度測定部(C)へ入射する光であり、第2項は測定対象表面から放射された光が一度反射ミラー(A)の反射面で反射され、測定対象表面で反射して放射輝度測定部(C)へ入射した光である。以降の項は反射ミラー(A)と測定対象表面間の反射による往復の回数が順次増えた場合を表している。第2項のελργ(1-ελ)Lbλ(T)において、ελは最初に測定対象表面から放射された光を表し、ρは反射ミラー(A)の反射面で反射して測定対象表面に向かって返ってくる率(反射率相当)を表し、γ(1-ελ)は反射ミラー(A)から返ってきた光が測定対象表面で反射し反射ミラー(A)へ向かう率を表す。
【0092】
エネルギー保存則から、光が物体に当たった時、反射率、透過率、吸収率の和は1になる。もし物体が十分に厚く光が透過しないならば、透過率は0となる。そのため上記のエネルギー保存則は反射率と吸収率の和が1となると見なせる。一方で、キルヒホッフの法則によると、放射率と吸収率は等しい。従って反射率と吸収率の和が1とみなせるということは、反射率と放射率の和が1とみなせるということができる。
【0093】
前記式2前半の第2項目においてγ(1-ελ)の(1-ελ)は測定対象表面の鏡面的な反射率を意味し、表面粗さを表すパラメータであるγを乗じることにより表面粗さを持つ測定対象表面からの反射率を表す。
【0094】
<実施形態2:本番測定情報L:置き換え>
下記のように、立体角を変えたLとLの比L/LをRと置き(式3)、ρとγの式をαとおく(式4)。
<式3>
【数3】
<式4>
【数4】
式3や式4のように置くと、分光放射率ελ、実効分光放射率εeffは次の式5や式6のように書ける。
<式5>
【数5】
<式6>
【数6】
は、採光部(B)の立体角の段階DとDで測定した放射輝度測定結果を用いて算出可能であることから、式5より、分光放射率ελは、αを得ることで算出できることが分かる。次にαの決定のため、Lの測定と、立体角の段階をDから変えDとした条件で放射輝度Lの測定とを行う。
【0095】
<実施形態2:本番測定情報L:反射ミラー(A)と測定対象間に多重反射>
測定対象表面は鏡面に近ければ、入射光に対し反射光は正反射方向を中心になる程度の範囲に集中し、粗い表面であれば半球状に拡散する。表面粗さを考慮するために、立体角の段階を変えたD、Dの時の放射輝度L、Lを測定し、表面粗さの効果を取り込み、αを決定する。本明細書の説明では、Lは測定対象表面から反射ミラー(A)ほぼすべてに向かう立体角が通るように絞りを大きくあけた場合(立体角の段階D)とし、Lは反射ミラー(A)のほぼ透光部(D)にのみ測定対象表面からの光が届くように採光部(B)の絞りの開口を小さくした場合(立体角の段階D)とし、立体角の段階DとDの間の立体角の段階をDとし、Lを測定した場合について説明する。なお、Dは反射ミラー(A)ほぼすべてに向かう立体角よりも小さくてもよい。またDとDの立体角の大小が逆であってもよい。その場合Dは反射ミラー(A)ほぼすべてに向かう立体角よりも小さくてもよい。
【0096】
立体角の段階D、Dにて測定した放射輝度をL、Lとすると、その比Rは次の式7のように表せる。
<式7>
【数7】
測定対象表面で鏡面反射の傾向が強ければ、LとLはほぼ同等の値となると考えられ、1に近くなる。表面が粗く拡散反射する傾向が強い場合は、立体角の段階に応じてLはLに対し変化する。
【0097】
<実施形態2:事前実験:進め方>
事前実験では本番測定に用いる放射温度計(反射ミラー(A)(透光部(D)を含む)、採光部(B)、放射輝度測定部(C)など)を用いて測定を行う。次に事前実験の進め方を示す。
(1)分光放射率ελが既知であって、表面粗さが異なる試料を複数(できれば5種以上)用意し、L、L、Lを測定する。
(2)用意したすべての試料に対し、L、LからRを算出し、式5を用いてRとελからαを算出する。αの算出には、式5を変形した次の式8を用いる。
<式8>
【数8】
(3)用意したすべての試料に対し、L、LからR'を算出する。
(4)求めたαと、R'の値の関係をモデル式に当てはめ、最小二乗法によって関係式を決定する。
【0098】
<実施形態2:事前実験:実験装置構成>
図5に事前実験に用いる構成例を示す。図1の構成とは異なり、測定対象下にヒーター(0510)を配置し、測定対象表面の測定点付近に熱電対(0511)を取付け、熱電対の起電力から温度を実測できるようにしている。事前実験用の試料の例として、厚さ1mmのアルミニウム(A1050:アルミニウム純度99.50%以上)の表面を鏡面研磨した試料、粗さの異なる研磨シートを用いて表面粗さを変化させた試料を使用する。ヒーター(0510)により試料を加熱し熱電対(0511)による測定温度が500℃で一定となるように管理した。立体角の段階は、採光部(B)の穴の径を変化させる(立体角の段階:D<D<D)ことで行い、L測定時の開口はL測定時の開口の18%の開口となるようにした。なお実験式算出のための分光放射率は熱電対の温度とLの測定によって求めた。
【0099】
<実施形態2:事前実験:モデル式と結果>
図6に測定したRと分光放射率ελの関係を示し、図7にR'と式8によって求めたαの関係を示すグラフを示す。図7中の直線は最小二乗法によって求めた実験式を記載したものである。この実験式を求めるためのモデル式は、実験結果から次の式9のような式を用いた。
<式9>
【数9】
最初二乗法で求めた係数a、bは、
a=-2.678346
b=3.975886
であった。上記係数を求めた際の決定係数R2は0.986であり良好に近似できている。
【0100】
<実施形態2:実験式を用いた温度算出>
<実施形態2:実験式を得る>
以上のような準備方法を、改めて下記に示す。
(準備1)分光放射率既知の材質を用い、表面粗さの異なる複数の試料を用意する(5種以上が望ましい)。
(準備2)放射輝度測定点付近に熱電対を取り付けて、ヒーターを用い温度を一定に保ち、採光部(B)にて立体角を3段階に変えて、反射ミラー(A)と試料表面間の多重反射の有無と程度を変えて、透光部(D)を通った光を放射輝度測定部(C)で測定し、L、L、Lを全試料分得る。
(準備3)全試料分、R、R'を算出する。
(準備4)Rと既知のελから、式8を用いαを算出する。
(準備5)求めたαと、R'から関係式を最小二乗法によって求める。
(準備6)求めたR'からαを求める関係式と、αとRから分光放射率ελを求める式5と、分光放射率が1に近い材質の試料の放射輝度と温度の関係式(式1に準じた式)と、を算出用情報として算出用情報保持部(F)へ保持する。
【0101】
<実施形態2:実験式を用いた温度算出>
<実施形態2:求めた実験式に基づいて、本番測定結果から温度を得る>
分光放射率未知の測定対象に対して、本番測定での温度算出は次のように行う。
(1)事前実験と同じ立体角の段階にて、放射輝度L、L、Lを測定する。
採光部(B)にて事前実験と同じ立体角の段階D、D、Dとなるように調整し、反射ミラー(A)の透光部(D)を通って放射輝度測定部(C)に入射する光を測定する。測定した結果L、L、Lの値を放射輝度保持部(E)にて保持する。
(2)算出用情報保持部(F)に保持された算出用情報である実験式(R'からαを算出する式)に基づいて、測定結果から算出したR'を用いてαを、測定対象温度演算部(G)にて求める。
(3)算出用情報保持部(F)に保持された式5(算出用情報)に基づいて、αと、測定結果から算出したRを用いて、分光放射率ελを測定対象温度演算部(G)にて求める。
(4)算出用情報保持部(F)に保持された、算出用情報である、分光放射率が1に近い材質の試料の放射輝度と温度の関係式(式1に準じた式)へ、求めた分光放射率ελを測定対象温度演算部(G)が適用し、温度を算出する。
このようなやり方で分光放射率未知の測定対象の温度を算出することができる。なお、実際に使用現場に設置して測定に使用するにあたっては、事前に実験式の再確認と、本番を模擬した試験使用を行い、精度を確認することが望ましい。
【0102】
<実施形態2 処理の流れ>請求項7対応
図3は、実施形態2の実施形態1を基礎とする放射温度計の動作処理のフローチャートである。この図で示すように実施形態2の計算機である放射温度計では、算出用情報保持ステップステップ(f)(S0301)、採光ステップ(b)(S0302)と、放射温度測定ステップ(c)(S0303)と、放射輝度保持ステップ(d)(S0304)と、測定対象温度演算ステップ(g)(S0305)と、を有する。
【0103】
ここで計算機である放射温度計の動作方法は、
算出用情報保持ステップ(f)(S0301)は、保持されている三以上の複数段階の立体角ごとの放射輝度に基づいて温度測定対象の温度を算出するための算出用情報を保持する処理を行い、
複数段階nの立体角ごとの放射輝度を測定する測定回数Mを初期化(M=1)する処理を行い、
採光ステップ(b)(S0302)は、反射ミラー(A)と温度測定対象間に配置され、反射ミラー(A)の温度測定対象に対する立体角を三以上の複数段階に分ける処理を行い
放射温度測定ステップ(c)(S0303)は、温度測定対象から見て反射ミラー(A)の後方から、採光ステップ(b)(S0302)の立体角の段階ごとに温度測定対象からの放射輝度を測定する処理を行い
放射輝度保持ステップ(e)(S0304)は、反射ミラー(A)の温度測定対象に対する三以上の複数段階の立体角ごとに放射輝度測定ステップ(c)(S0303)にて測定された放射輝度を保持する処理を行い
所定数nの段階の放射輝度測定でなければ、測定回数Mに1を加えたうえで採光ステップ(b)(S0302)の前に処理を戻して放射輝度測定を繰り返し、所定数nの段階の放射輝度測定を終えた場合は次のステップへ移す処理を行い、
測定対象温度演算ステップ(g)(S0305)は、三以上の複数段階の立体角ごとに測定され保持されている三以上の放射輝度と、保持されている算出用情報と、に基づいて温度測定対象の温度を演算するための処理を行う。
このような一連の処理を計算機である放射温度計に実行させる動作方法である。
【0104】
なお、算出用情報保持ステップ(f)(S0301)は、前記の放射率未知の測定対象の温度を測定するためにあらかじめ求めておく実験式などの算出用情報を保持するためのステップであり、通常は本番測定を実施する前に一度行っておけば、装置設定を変えない限り再度行わなくともよい。例えば装置電源を入れ直すたびに再度算出用情報を保持するように構成してもよいし、連続作動の場合は毎日決まった時刻や毎週決まったタイミングで再度算出用情報を保持し直すように構成してもよい。経時変化が生じていた場合にずれを防ぐことができる。
【0105】
また、測定と結果の保持を所定回数n回行ってから測定対象温度演算ステップ(g)(S0305)へ進むように説明したが、同時に複数段階nの立体角ごとの放射輝度測定が行える場合には、繰り返しループ(放射輝度保持ステップ(e)(S0304)の後に採光ステップ(b)(S0302)の前に処理を戻す)を行わないように構成することができる。
【0106】
<実施形態2 ハードウェアの説明>請求項8対応
図4は、実施形態2の計算機である放射温度計のメインボードやその周辺機器によって構成されるハードウェアを説明するための図である。「CPU」、ノースブリッジとサウスブリッジからなる「チップセット」、「不揮発性メモリ」、「メインメモリ」、「I/Oコントローラ」、「USB、IEEE1394、LAN端子、etc」、「BIOS」、「PCIスロット」、「リアルタイムクロック」、「放射輝度計」、などから構成される。
【0107】
不揮発性メモリに蓄積されている各種プログラム、データ(情報)は、本システムの起動によって、メインメモリに展開され、実行命令を受け付けることでCPUによって順次プログラムがデータを利用した演算をするように構成されている。
【0108】
すなわち、不揮発性メモリにはOS(オペレーティングシステム)とデバイスドライバのほかに、算出用情報保持プログラム(f)と、採光プログラム(b)、放射輝度測定プログラム(c)と、放射輝度保持プログラム(e)と、測定対象温度演算プログラム(g)と、を有し、データとして、放射輝度と、算出用情報と、温度が保持されている。これらは、本システムがコンピュータ上で起動されることにより、メインメモリに展開されて、起動命令を受け付けることによって、CPUが順次プログラムとデータを利用した演算を行って行く。
【0109】
本実施形態にて、予め本実施形態の放射温度計にて演算用情報を得ておくことにより、未知の分光放射率の測定対象の温度を演算し、得ることができる。
【0110】
<実施形態3 概要>主に請求項6
実施形態3の加熱物システムは、実施形態1または2の放射温度計と、温度測定対象を載置する温度測定対象載置部(H)とからなる。
【0111】
<実施形態3 機能的構成>
図8図9に実施形態3の加熱物システムの構成例を各1例ずつ示す。図8は、コンベアに載せられて平型加熱炉の出口付近にて搬送される加工品の温度を測定する例を示す。図9は、錬鉄や合金を連続鋳造した際に流動する金属体の温度を測定する例を示す。図8図9では、三以上の複数段階に立体角を分けることが可能な一の採光部(B)と一の反射ミラー(A)からなる反射ミラー構造体(J)を用いた例を示す。
【0112】
図8の例を説明する。平型加熱炉内で加熱された加工品を、炉の出口付近に設置した放射温度計にて温度測定する例である。温度測定対象載置部(H)(0808)としてはベルトコンベアなどが該当する。炉の出口直後では、加工品はまだ冷めきっておらず、平型加熱炉内で加工品が所定温度に達したかどうかを知ることができる。
【0113】
図9の例を説明する。錬鉄や合金などの連続鋳造の例である。温度測定対象載置部(H)(0908)としては、炉から引き出した合金を載せたローラーなどが該当する。炉から出された合金を、カーボンダイスを通すなどして徐々に成形しながら冷却していく。鉄の場合、鉄種にもよるが冷却途中の700度から900度の領域で延性が低下することが知られている。この種の欠陥は矯正温度を高温側又は低温側にすることで軽減されるため、冷却工程での温度管理は、製品の機械的特性を管理するうえで重要である。要所要所で適宜合金の温度を把握する必要があるが、常に移動している合金に対しては非接触で温度を測定する必要がある。そのため、放射温度計を用いる。測定対象が合金の場合、合金成分の析出などによって表面形状が温度によって変化する可能性があるため、温度測定対象である合金表面の分光放射率は未知の状態といえる。そのような場面では、本発明が有効である。
【0114】
特に後記変形例3で説明する図14、15のように、異なる立体角とした3つの採光部(B)と組となる反射ミラー(A)と透光部(D)と放射輝度測定部(C)を有する放射温度計を設ける場合、合金の移動速度と放射輝度測定部(C)などの間隔を合わせておけば、移動した先で同じ測定点にて温度を測定するようにも構成できる。
【0115】
温度測定対象載置部(H)に合わせて本発明の放射温度計を構成することにより、移動中の測定対象物であっても温度を測定できる。
【0116】
<放射温度計の変形例>
以下、放射温度計の構成の変形例を4例説明する。各変形例とも図中では反射ミラーの中心が測定対象表面の法線上にあるように描かれているが、前記実施形態1から3のように法線から若干傾けた構成とすることができる。また各々、温度測定対象から見て反射ミラー(A)の後ろ側に配置される放射輝度測定部(C)を受光素子そのものとした態様と、透光部(D)を通した光を光ファイバーにて取込み、少し離れた場所の受光素子へ導く態様の2つの態様をもつ。前者は、透光部(D)を通った温度測定対象からの光をすぐに受光素子で受けるために受光する光のロスが少ないが、測定対象から熱を受光素子が受けて高温となる可能性がある。後者は光ファイバーを使用するため、光ファイバーへ入射させる際とファイバー中を伝送する際のロスが生じるが、例えば連続鋳造される合金の温度測定の場合、流れる合金の直上に設置しても近くに受光素子がないため合金の熱を受けて高温となる可能性が低い。以下の説明で受光素子と光ファイバーの配置の長所短所について前記のような光のロスと、熱の影響はどの変形例も同様の為、以下の説明には個々には書かず省略する。以下の説明では、「反射ミラー(A)の後ろに」配置する、のような表記は、温度測定対象から見て反射ミラー(A)の後ろに配置するの意で使用する。各変形例には反射ミラー(A)と放射輝度測定部(C)の受光素子(又は光ファイバー)との間に光学系(レンズ)を配して透光部(D)を通った光を集光している。光学系は適宜設計出来る。光学系なしでも構成可能だが、光学系を備えたほうが透光部(D)を通った光を無駄なく利用できる。図中のレンズや光ファイバーは少なくとも赤外線を透過する材質から構成される。
【0117】
<変形例1:採光部(B):虹彩絞り>
図10、11を用いて変形例1(採光部(B)に虹彩絞りを使用した例)を示す。図10が受光素子を反射ミラー(A)の後ろに配置した例、図11が反射ミラー(A)の後ろに光ファイバーを配置し、離れた受光素子へ導く例である。透光部(D)を有する反射ミラー(A)の後ろに、レンズを少なくとも1枚有する光学系を配し、受光素子又は光ファイバーへ光を集光するように構成している。図に示すように、変形例1では、反射ミラー(A)と採光部(B)が反射ミラー構造体(J)を構成している。
【0118】
虹彩絞りは、金属等で作成された絞り羽根を複数枚組合せることにより、開口が変化しても開口部の中心が移動しない略円形とした絞り機構である(図18c参照)。絞り羽根の移動を電動化など動力で駆動することにより、放射輝度測定の際、対応する立体角の段階へ自動調整するように構成することができる。
【0119】
例えば、
放射輝度測定時の立体角の段階などの測定条件の情報である放射輝度測定条件情報を保持する放射輝度測定条件情報保持部と、
放射輝度測定を制御する制御部をさらに有し、
放射輝度測定する際に制御部は放射輝度測定条件情報保持部から放射輝度測定条件情報を取得して、前記取得した放射輝度測定条件情報に含まれる立体角の段階の測定条件情報を採光部(B)へ出力し、
立体角の段階の情報を受けた採光部(B)は取得した測定条件情報に応じて立体角を変更し、
制御部は測定を放射輝度測定部(C)へ指示し、放射輝度測定部(C)が放射輝度を測定するように構成することで達成できる。
【0120】
虹彩絞りは一つの立体角の段階へ移動させるのに10msほどかかる。一つの放射輝度の測定、LやLまたはLといった測定自体は一般に1回3msほどかかる。立体角3段階の測定であれば(10ms+3ms)×3が放射輝度測定自体に必要な時間となる。測定で得られた放射輝度から温度を算出するまでの処理時間が約5msかかるとすると、全体で44msが1回の温度測定に要する時間となる。虹彩絞りは開口を変えても中心が動かず一定という特長があるため、反射ミラー(A)の中心と虹彩絞りの中心を合わせれば、立体角が中心線に対し非対称となることを容易に防止できる。
【0121】
<変形例2:採光部(B):円板上の開口を回転選択>
図12、13を用いて変形例2(採光部(B)に、回転する円板に異なる開口を設けた例)を示す。図12が受光素子を反射ミラー(A)の後ろに配置した例、図13が反射ミラー(A)の後ろに光ファイバーを配置し、離れた受光素子へ導く例である。図に示すように、変形例2では、反射ミラー(A)と採光部(B)が反射ミラー構造体(J)を構成する。
【0122】
本実施形態の採光部(B)は図18bに示すように、円板状の板に、一の円周上に中心が載る異なる径の穴を三以上あけた態様である。孔をあけた円板を反射ミラー(A)と測定対象表面との間で回転させる。放射輝度測定部(C)の受光素子と、反射ミラー(A)の中心、及び透光部(D)の中心と測定対象表面の測定点を結ぶ直線上に、円板に開けられた複数の穴の各中心が位置することが可能であり、円板は反射ミラー(A)反射面と測定対象の間に配置されるように構成される。
【0123】
採光部(B)を構成する穴が開いた円板を、電動モーターなどで回転させる。モーターの回転による穴の変更(立体角の段階の変更)は、放射輝度測定部(C)の測定時間約3msよりも短くすることが容易である(円板の回転数を上げることは容易)。仮に円板の回転数を10万rpmとした場合には、1回転に要する時間は0.6ms程度であるため、3回の各測定位置に円板を回転させるために要する時間は1ms程度と考えられる。従って、放射輝度の測定に要する時間:3ms×3回と、得られた3つの放射輝度から温度を算出するために要する5msとの合計から、本変形例では温度を1回算出するために要する時間は3×3+1+5=15ms程度と考えられる。
【0124】
<変形例3:採光部(B):直線上に開口を複数設置>
図14、15を用いて変形例3(採光部(B)と反射ミラー(A)(透光部(D)を含む)と放射輝度測定部(C)の複数組を直線上に配置した例)を示す。図14が受光素子を反射ミラー(A)の後ろに配置した例、図15が反射ミラー(A)の後ろに光ファイバーを配置し、離れた受光素子へ導く例である。本変形例は一定速度で移動する測定対象の温度を測定する場合などに適する(例:連続鋳造される帯状金属の温度測定など)。図に示すように、変形例3では、複数の反射ミラー(A)とそれに対応する採光部(B)が反射ミラー構造体(J)を構成する。
【0125】
本変形例では採光部(B)は大きさを変えた穴(絞り)を3つ直線上に配置した板状材で構成される(例:図18a)。穴は3より多くてもよい。穴の大きさを変えた絞り一つに対して反射ミラー(A)と受光素子を一つずつ有するように構成する。本変形例では受光素子と反射ミラー(A)は3個必要となる。各々は一つの直線上に配置され、採光部(B)の穴の中心間隔は、測定対象の移動速度と放射輝度測定部(C)での測定時間に基づく。立体角の1段階での放射輝度測定に要する時間内に測定対象が移動する距離と同等の間隔を少なくとも、前記の採光部(B)の穴の中心間隔が離れていなければならない。図14図15では移動する測定対象の上流側から絞りの開口をほぼ透光部の穴と同等の大きさ、透光部の大きさと反射ミラー(A)の大きさの中間の大きさ、ほぼ反射ミラー(A)と同等の大きさといった下流に行くにしたがって大きくなるように配置している。穴のサイズの順番は適宜変えて配置してもよい。
【0126】
測定対象の移動方向の最も上流側に配された放射輝度測定部(C)で測定した測定点が、上流から2つ目の放射輝度測定部(C)の測定点の位置に来た時に2回目の測定を行う。以下3回目以降の測定も同様に、間隔とタイミングを合わせることにより、すべての測定でほぼ同じ測定点を測ることができる。前記変形例1、2では採光部(B)の穴の大きさを変えながら測定するが、測定対象が移動していると測定毎に異なる測定点を測ることとなる。測定対象が合金など均質な組成の物ではない場合には、表面状態が場所によって変わり表面粗さパラメータγが測定点によって変わってしまい、温度算出時に誤差を含むこととなる。
【0127】
放射輝度の測定時間は約3ms/回かかるため、測定対象が3msで移動する距離以上の間隔を、各組(反射ミラー(A)、絞り(採光部(B))、放射輝度測定部(C))の間に設ける。測定時間は3回の放射輝度測定後の温度算出時間5msを含めて、3ms+移動時間+3ms+移動時間+3ms+5msとなり14ms+移動時間×2となる。鉄の熱間圧延時の移動速度は時速3kmから70km程度であるため、立体角の1段階の測定時間3msと測定間の移動時間は同等と考えられる。
【0128】
図14、15に示した例では3つの反射ミラー(A)、採光部(B)、放射輝度測定部(C)(図15では光ファイバー)が一つの筐体に収めた態様としているが、一つずつ別々の筐体に収め、放射輝度測定部(C)で測定した放射輝度の情報のみを別ケースの演算ボードへ送信するように構成してもよい。反射ミラー(A)等を一つずつ収めた筐体は移動可能なように構成することにより、測定対象である帯状金属の速さが変わった場合には対応した間隔へ変えることができる。測定時に帯状金属と同速度で移動し相対的に静止した状態で測定し、測定が終了すると初期状態へ戻るように構成すれば、3ms程度の短い時間であっても測定点がずれずに測定を行うこともできる。また、図14、15に示した例では採光部(B)が3つの反射ミラー(A)にまたがって連続する態様となっているが、個々の反射ミラー用に分離されていてもよい。分離した場合は、少なくとも各立体角の段階に相当する反射ミラー間には、受光素子や光ファイバーなどの放射輝度測定部(C)へ意図しない光が入射することを防止する遮光部を有するように構成することが好ましい。
【0129】
<変形例4:反射ミラー(A)や採光部(B)等複数組で温度測定対象の同一点を測定>
図16、17を用いて変形例4(採光部(B)と反射ミラー(A)(透光部(D)を含む)と放射輝度測定部(C)の受光部分の複数組分を、温度測定対象の同一点を測定するように配置した例)を示す。図16が受光素子を反射ミラー(A)の後ろに配置した例、図17が反射ミラー(A)の後ろに光ファイバーを配置し、離れた受光素子へ導く例である。
【0130】
反射ミラー(A)を3つ以上、受光素子を3つ以上、おのおのに一つずつ立体角の段階を反映した絞りの穴を有する採光部(B)を配した例である。反射ミラー(A)を3個有する場合について以下説明するが、4個や5個や6個など数を増やしてもよい。例えば図16aの構成では、真ん中の黒く見えている反射ミラー(A)は反射面側に一番開口の小さいほぼ透光部(D)に近い立体角の段階D相当の絞り穴を有する採光部(B)がつけられており、採光部(B)によって反射面がほぼおおわれているため黒く示されている。左の反射ミラー(A)の反射面側には立体角の段階D相当の開口の絞り穴を有する採光部(B)が付けられているが、反射ミラー(A)によって採光部(B)は隠されており図中では見えていない。右の反射ミラー(A)の反射面側には立体角の段階D相当の開口の絞り穴を有する採光部(B)が付けられているが、同様に反射ミラー(A)によって採光部(B)は隠されており図中では見えていない。この配置に限定されるものではなく配置は適宜変更できる。図17aの表記も図16aと同様である。変形例4では、反射ミラー(A)と採光部(B)により、反射ミラー構造体(J)が構成される(反射ミラー構造体(J)は名称と符号を図示せず)。
【0131】
反射ミラー(A)を3個配する場合は、測定対象の測定点の法線上に中心を有する一の円の円周上に反射ミラー(A)の中心3個を均等配置する(図16b、図17b)。絞りの大きさを変える時間が不要となり、1回の測定時間で同時に3段階の立体角の放射輝度を測定できるためにより短時間で温度を得ることができる。測定時間1回が3ms、演算時間を5msとすると、3msと5msの和の8ms、約10ms以内で結果を得ることができる。測定対象表面に対し方位の違う3個の放射輝度測定部(C)で測定するため、測定対象表面からの反射光が異方性を有していると、誤差が生じやすい。そのため、表面が鏡面ではなく荒れていて反射が拡散しやすい試料の測定に適する。
【0132】
なお、少なくとも各立体角の段階に相当する反射ミラー間には、受光素子や光ファイバーなどの放射輝度測定部(C)へ意図しない光が入射することを防止する遮光部を有するように構成することが好ましい。なお本実施形態3と変形例の動作方法と動作プログラムは実施形態2を基礎とする。
【0133】
<実施形態4 概要>主に請求項3
実施形態1から3のいずれか一を基礎とする実施形態4の放射温度計は、反射ミラー構造体(J)が、それぞれ異なる立体角に対応した三以上の反射ミラー(A)を有することが特徴である。
【0134】
<実施形態4 機能的構成>
図19は、実施形態1を基礎とする本実施形態4の放射温度計の構成の一例を示す図である。放射温度計(1900)は、反射ミラー構造体(J)(1909)と、放射輝度測定部(C)(1903)と、透光部(D)(1904)と、を有するように構成されている。
【0135】
<実施形態4 構成の説明>
<実施形態4 反射ミラー構造体(J)(1909)>
「反射ミラー構造体(J)」(1909)は、それぞれ異なる立体角に対応した三以上の反射ミラー(A)を有するように構成される。
【0136】
「反射ミラー構造体(H)」(1909)は、一の反射ミラーからのみなる場合は立体角を制限する機構を有し、複数の反射ミラーからなる場合(例:3つの反射ミラー)は3以上の立体角となるように割り振られた反射ミラーから構成される。反射ミラー構造体(H)が一の反射ミラーからなる場合には、前記各実施形態のように採光部(B)を設けて立体角を変えられるように構成してもよいし、反射ミラーの反射面の大きさを変化させるように構成してもよい。反射面を分割し回転し角度変更可能とし、立体角を変える際には反射方向を変えて測定点に戻らないようにするなどの方法でも達成できる。
【0137】
反射ミラー構造体(H)が複数の反射ミラーから構成される場合には、反射ミラーごとに異なる開口を有した採光部(B)を対応させて有するように構成してもよいし、採光部(B)を有さずに、立体角に対応して大きさを変えた反射ミラーを立体角ごとに有するように、反射ミラー構造体(H)を構成してもよい。以下、複数の反射ミラーを立体角の大きさごとに有する構成について説明する。
【0138】
実施形態2などで説明した、立体角の段階D、D、D(採光部(B)の開度:D<D<D)に対応し、立体角の段階Dに相当するほぼ透光部(D)の穴の大きさ相当の反射ミラーのみを有する反射ミラー1と、立体角の段階Dに相当する立体角のみの反射ミラーを有する反射ミラー2と、立体角の段階Dに相当する立体角のみの反射ミラーを有する反射ミラー3と、から構成される例が、反射ミラー構造体(H)の一例である。前記変形例3では採光部(B)を3種設けて、反射ミラー(A)のサイズは同じものを使用した構成としていたが、本実施形態4の場合は、図19または図20図19に対し光ファイバを使用した例)に示すように採光部(B)は有せず、サイズの異なる反射ミラーを有するように構成される。図19、20では3つの反射ミラー1、2、3から構成される。少なくとも各立体角の段階に相当する反射ミラー間には、受光素子や光ファイバーなどの放射輝度測定部(C)へ意図しない光が入射することを防止する遮光部を有するように構成することが好ましい。
【0139】
<実施形態4の変形例>
前記変形例4に対しても同様に本実施形態4を適用することができる。実施形態4の変形例4では、図21a、図22a(図21に対し光ファイバーを使用した例)に示すように、3つの反射ミラーは同一円周上にその中心が配され、同じ測定点を狙うように設定される。実施形態4の変形例でも実施形態4と同様に3つの反射ミラー1、2、3から反射ミラー構造体が構成される。反射ミラーの配置は図21b、図22bに示す。前記変形例4の反射ミラーを、立体角の段階Dに相当するほぼ透光部(D)の穴の大きさ相当の反射ミラーのみを有する反射ミラー1と、立体角の段階Dに相当する立体角のみの反射ミラーを有する反射ミラー2と、立体角の段階Dに相当する立体角のみの反射ミラーを有する反射ミラー3と、なるように構成することができる。
【0140】
さらに前記反射ミラー構造体が有する反射ミラーが対応する、三以上の立体角は、放射輝度測定部(C)中心、透光部(C)中心、を通る線を中心として線対称相似形であるように構成することにより、測定対象表面の粗さによる反射率分布の影響を考慮することができる(請求項4対応)。前記実施形態1~4、変形例1~4も同様に構成することが好ましい。図21a、22aには図示していないが、本変形例についても前記のように、少なくとも各立体角の段階に相当する反射ミラー間には、受光素子や光ファイバーなどの放射輝度測定部(C)へ意図しない光が入射することを防止する遮光部を有するように構成することが好ましい。
【0141】
本実施形態では反射ミラー構造体(H)を構成する反射ミラーのサイズを変えることにより、採光部(B)を省略した構成とすることができる。採光部(B)を有した構成よりも簡素化できる。なお本実施形態4及び変形例の動作方法と動作プログラムは、実施形態2を基礎とする。
【0142】
<5.効果>
以上の構成を有する放射温度計または加熱物システムは、温度測定対象の放射率が未知であっても、予め取得し保持した算出用情報に基づいて、非接触で測定した放射輝度の結果を演算することにより温度を求めることができる。
【符号の説明】
【0143】
放射温度計・・・0200
反射ミラー(A)・・・0201
採光部(B)・・・0202
放射輝度測定部(C)・・・0203
透光部(D)・・・0204
放射輝度保持部(E)・・・0205
算出用情報保持部(F)・・・0206
測定対象温度演算部(G)・・・0207
反射ミラー構造体(J)・・・0209
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16a
図16b
図17a
図17b
図18a
図18b
図18c
図19
図20
図21a
図21b
図22a
図22b