(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056221
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】体感音響システムおよび信号生成装置
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20240416BHJP
H04R 1/00 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
H04R3/00 310
H04R1/00 310G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162960
(22)【出願日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】308036402
【氏名又は名称】株式会社JVCケンウッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 真巳
【テーマコード(参考)】
5D017
5D220
【Fターム(参考)】
5D017AA14
5D220AA34
(57)【要約】
【課題】より臨場感のある音響体験を実現できる技術を提供する。
【解決手段】体感音響システム1において、第1フィルタ20aは、入力される音響信号から、人体の所定部位の共鳴周波数の成分を抽出する。第1信号生成部22aは、第1フィルタ20aで抽出された信号の残響信号を含み、かつ、当該抽出された信号が除去または減衰された音響振動信号を生成する。第1加振器12aは、所定部位に対応する位置に配置され、第1信号生成部22aで生成された音響振動信号に基づいて振動を生成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される音響信号から、人体の所定部位の共鳴周波数の成分を抽出するフィルタと、
前記フィルタで抽出された信号の残響信号を含み、かつ、当該抽出された信号が除去または減衰された音響振動信号を生成する信号生成部と、
前記所定部位に対応する位置に配置され、前記信号生成部で生成された前記音響振動信号に基づいて振動を生成する加振器と、
を備えることを特徴とする体感音響システム。
【請求項2】
前記フィルタ、前記信号生成部、および前記加振器は、複数組設けられ、
複数の加振器のそれぞれは、前記人体の異なる所定部位に対応する位置に配置され、
複数のフィルタのそれぞれは、前記音響信号から、前記人体の異なる所定部位の共鳴周波数の成分を抽出し、
前記複数の加振器のうちの2つの加振器の間の距離は、当該2つの加振器のそれぞれから発生した振動の前記人体における干渉を抑制する条件を満たす、
ことを特徴とする請求項1に記載の体感音響システム。
【請求項3】
前記2つの加振器の間の距離は、当該2つの加振器に供給される2つの音響振動信号の周波数の差の逆数と、当該2つの加振器の間の振動の伝達速度との積とは異なる、
ことを特徴とする請求項2に記載の体感音響システム。
【請求項4】
前記フィルタ、前記信号生成部、および前記加振器は、複数組設けられ、
複数の加振器のそれぞれは、前記人体の異なる所定部位に対応する位置に配置され、
複数のフィルタのそれぞれは、前記音響信号から、前記人体の異なる所定部位の共鳴周波数の成分を抽出し、
或るフィルタにより或る共鳴周波数の成分が抽出されたタイミングと、別のフィルタにより別の共鳴周波数の成分が抽出されたタイミングとが同等である場合、当該或る共鳴周波数の成分が供給される信号生成部は、当該別の共鳴周波数の成分が供給される信号生成部で生成される音響振動信号よりも、音響振動信号を遅延させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の体感音響システム。
【請求項5】
人体の所定部位に対応する位置に配置され、音響振動信号に基づいて振動を生成する加振器に対して、当該音響振動信号を供給する信号生成装置であって、
入力される音響信号から、前記所定部位の共鳴周波数の成分を抽出するフィルタと、
前記フィルタで抽出された信号の残響信号を含み、かつ、当該抽出された信号が除去または減衰された前記音響振動信号を生成する信号生成部と、
を備えることを特徴とする信号生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体感音響システムおよび信号生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のフロント席とリア席のシート下等に埋め込まれたシート加振器を備え、音声信号の低音部分を抽出しシート加振器に伝達し、シート加振器を振動させる車載用音響再生装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、ユーザはシート加振器による振動を感じることはできるが、音楽によってはむずがゆく感じるだけの可能性があり、臨場感を得られない可能性がある。そのため、幅広い音響体験のニーズを満たすには不十分である。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、より臨場感のある音響体験を実現できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の体感音響システムは、入力される音響信号から、人体の所定部位の共鳴周波数の成分を抽出するフィルタと、フィルタで抽出された信号の残響信号を含み、かつ、当該抽出された信号が除去または減衰された音響振動信号を生成する信号生成部と、所定部位に対応する位置に配置され、信号生成部で生成された音響振動信号に基づいて振動を生成する加振器と、を備える。
【0007】
本発明の別の態様は、信号生成装置である。この装置は、人体の所定部位に対応する位置に配置され、音響振動信号に基づいて振動を生成する加振器に対して、当該音響振動信号を供給する信号生成装置であって、入力される音響信号から、所定部位の共鳴周波数の成分を抽出するフィルタと、フィルタで抽出された信号の残響信号を含み、かつ、当該抽出された信号が除去または減衰された音響振動信号を生成する信号生成部と、を備える。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、より臨場感のある音響体験を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態の体感音響システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1の加振器が内蔵されたシートを概略的に示す側面図である。
【
図3】人体の骨の各位置の共鳴周波数を示す図である。
【
図4】
図1の信号生成部の構成の一例を示すブロック図である。
【
図5】
図4の信号生成部から出力される音響振動信号の振幅と時間の関係を概略的に示す図である。
【
図6】第1変形例の体感音響システムの構成を示すブロック図である。
【
図7】第2変形例の音響振動信号の振幅と時間の関係を概略的に示す図である。
【
図8】第3変形例の体感音響システムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、実施の形態の体感音響システム1の構成を示すブロック図である。体感音響システム1は、既存の音響信号出力装置(図示せず)から供給される音響信号を音波に変換して出力するとともに、その音響信号に基づいて発生させた振動をユーザの身体に加える。音響信号出力装置は、例えば、音楽再生装置であってよい。音楽再生装置は、例えば、カーステレオ、CDプレーヤ、スマートフォン、DAP(Digital Audio Player)等ソース音源に使用することができる。以下、体感音響システム1は、車両に搭載される車載システムである一例を説明するが、これに限らない。体感音響システム1は、屋内などで利用されてもよい。
【0012】
図1に示すように、体感音響システム1は、信号生成装置10、第1加振器12a、第2加振器12b、および音響出力装置14を備える。第1加振器12a、第2加振器12bを総称して加振器12と呼ぶ。信号生成装置10の複数の機能ブロックは、ハードウェア的には、回路ブロック、メモリ、その他のLSIで構成することができ、ソフトウェア的には、メモリにロードされたプログラムをCPUが実行すること等により実現される。したがって、これらの機能ブロックがハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは当業者には理解されるところであり、いずれかに限定されるものではない。
【0013】
音響信号出力装置から出力された音響信号は、信号生成装置10と音響出力装置14に供給される。音響出力装置14は、例えば、車室内に設置された複数のスピーカーを含み、供給された音響信号を音波に変換して出力する。これにより、ユーザは、再生された音楽を聞くことができる。
【0014】
信号生成装置10は、供給された音響信号に基づいて、第1音響振動信号と第2音響振動信号を生成し、第1音響振動信号を第1加振器12aに供給し、第2音響振動信号を第2加振器12bに供給する。第1音響振動信号、第2音響振動信号を総称して音響振動信号と呼ぶ。
【0015】
加振器12は、車両のシートに内蔵され、供給された音響振動信号に基づいて振動を生成する。加振器12には、動電型、圧電型、静電型などの既存の加振器のいずれを用いてもよい。
【0016】
図2は、
図1の加振器12が内蔵されたシート30を概略的に示す側面図である。複数の加振器12は、例えば、シート30の背もたれに配置される。複数の加振器12のそれぞれは、人体の異なる所定部位に対応する位置に配置される。第1加振器12aは、例えば、人体の第1所定部位である第4胸椎に対応する位置に配置される。つまり、第1加振器12aは、シート30にユーザが座った場合に第4胸椎の近くに位置することが想定される位置に設置される。第2加振器12bは、例えば、人体の第2所定部位である第3腰椎に対応する位置に配置される。つまり、第2加振器12bは、シート30にユーザが座った場合に第3腰椎の近くに位置することが想定される位置に設置される。
【0017】
図3は、人体の骨の各位置の共鳴周波数を示す。加振器12が所定の周波数の振動を発生する場合、振動が加わる人体の部位に応じて、体感できる振動レベルが大きく異なる。これは、骨振動の共鳴周波数(共振周波数とも呼べる)の影響であると考えられる。アルフレッド・トマティス博士の研究によれば、
図3に示すように、骨振動の共鳴周波数は、背骨より頭蓋骨の方が高いとされている。背骨の共鳴周波数は仙骨、腰椎、胸椎、頚椎と上に上がるほど高くなる。頭蓋骨の共鳴周波数も、後頭骨より、頭頂骨の方が高くなる。従って、低域の振動ほど背骨の低い位置に加えた方が、体感できる振動レベルが大きくなる。
【0018】
図2の例では、第1加振器12aから発生する振動の周波数は、1500Hzであることを想定する。そのため、ユーザは、第4胸椎付近で1500Hzの比較的大きな振動レベルを体感できる。第2加振器12bから発生する振動の周波数は、500Hzであることを想定する。そのため、ユーザは、第3腰椎付近で500Hzの比較的大きな振動レベルを体感できる。
【0019】
加振器12が音響振動信号を振動に変換することで、その振動がシート30の背もたれを介して人体に伝わり、スピーカーから聞こえる音楽との相乗効果を伴う迫力ある音楽体験を実現することができる。身体、特に骨の共鳴を利用するため、耳からだけでなく身体全体で臨場感を得ることができる。実施の形態では、効率よく身体を共鳴させるために、以下の構成を備える。
【0020】
図1に戻る。信号生成装置10は、第1フィルタ20a、第2フィルタ20b、第1信号生成部22a、および第2信号生成部22bを有する。第1フィルタ20a、第2フィルタ20bを総称してフィルタ20と呼ぶ。第1信号生成部22a、第2信号生成部22bを総称して信号生成部22と呼ぶ。
【0021】
加振器12、フィルタ20、および信号生成部22は、1組設けられてもよいし、2組以上設けられてもよい。例えば、低域などの1つの周波数の振動だけを利用する場合、これらを1組設ければよい。低域、中域、広域などの3つの周波数の振動を利用する場合、これらを3組設ければよい。
【0022】
第1フィルタ20aは、入力される音響信号から、例えば人体の第1所定部位である第4胸椎の共鳴周波数である1500Hzの成分を抽出し、抽出した信号を第1信号生成部22aに供給する。
【0023】
第2フィルタ20bは、入力される音響信号から、例えば人体の第2所定部位である第3腰椎の共鳴周波数である500Hzの成分を抽出し、抽出した信号を第2信号生成部22bに供給する。
【0024】
つまり、複数のフィルタ20のそれぞれは、音響信号から、人体の異なる所定部位の共鳴周波数の成分を抽出する。フィルタ20は、例えば、共鳴周波数を中心とする所定の周波数帯域の成分を抽出するバンドパスフィルタを含む。
【0025】
第1信号生成部22aは、第1フィルタ20aで抽出された信号の残響信号を含み、かつ、第1フィルタ20aで当該抽出された信号が除去された第1音響振動信号を生成し、生成した第1音響振動信号を第1加振器12aに供給する。
【0026】
第2信号生成部22bは、第2フィルタ20bで抽出された信号の残響信号を含み、かつ、第2フィルタ20bで当該抽出された信号が除去された第2音響振動信号を生成し、生成した第2音響振動信号を第2加振器12bに供給する。
【0027】
つまり、複数の信号生成部22のそれぞれは、対応するフィルタ20で抽出された信号の残響信号を含み、かつ、当該抽出された信号が除去された音響振動信号を生成し、生成した音響振動信号を対応する加振器12に供給する。
【0028】
第1信号生成部22aは、第1ディレイ回路24a、および第1リバーブ回路26aを有する。第2信号生成部22bは、第2ディレイ回路24b、および第2リバーブ回路26bを有する。第1ディレイ回路24a、第2ディレイ回路24bを総称してディレイ回路24と呼ぶ。第1リバーブ回路26a、第2リバーブ回路26bを総称してリバーブ回路26と呼ぶ。
【0029】
ディレイ回路24は、フィルタ20で抽出された信号を予め設定された遅延量で遅延させる。これにより、音響出力装置14から耳に伝達される音波と、加振器12から人体に伝達される振動との時間差を調整することができる。なお、ディレイ回路24を省略してもよい。
【0030】
リバーブ回路26は、ディレイ回路24で遅延された信号に対してリバーブ効果を加え、音響振動信号を出力する。リバーブ回路26は、ディレイ回路24の出力信号を所定時間遅延すると共に減衰させた残響信号を生成して元の信号に加算することで、ディレイ回路24の出力信号と同じ周波数の信号を、振幅を徐々に小さくしながら繰り返し出力する。リバーブ回路26は、ディレイ回路24の出力信号を遅延すると共に減衰させるので、出力される音響振動信号は、フィルタ20で抽出された信号を含まない。そのため、リバーブ回路26は、フィルタ20で抽出された信号を除去していると言える。リバーブ回路26として、公知の各種の回路を利用できる。
【0031】
図4は、
図1の信号生成部22の構成の一例を示すブロック図である。
図4は、信号生成部22がデジタル信号処理で実現される例を示す。ディレイ回路24は、フィルタ20で抽出された信号をn(nは自然数)サンプル遅延させる。
【0032】
リバーブ回路26は、加算器40、第1ゲイン部42、ディレイ部44、および第2ゲイン部46を含む。加算器40は、ディレイ回路24の出力信号と第2ゲイン部46の出力信号とを加算し、加算結果を第1ゲイン部42に供給する。第1ゲイン部42は、加算器40の出力信号を1より小さい第1ゲインで減衰させ、得られた信号をディレイ部44に供給する。ディレイ部44は、第1ゲイン部42の出力信号をm(mは自然数)サンプル遅延させ、得られた信号を加振器12と第2ゲイン部46に供給する。第2ゲイン部46は、ディレイ部44の出力信号を1より小さい第2ゲインで減衰させ、得られた信号を加算器40に供給する。第1ゲイン、第2ゲイン、m、nは、実験またはシミュレーションにより適宜定めることができる。
【0033】
図5は、
図4の信号生成部22から出力される音響振動信号の振幅と時間の関係を概略的に示す。時刻t0において、共鳴周波数を有するパルス状の信号がフィルタ20から信号生成部22に供給されたことを想定する。音響振動信号は、時刻t0においてフィルタ20から供給された信号、即ち直接波を含まない。時刻t0から所定期間が経過すると、リバーブ回路26から残響信号が出力され、残響信号は、時間の経過とともに徐々に振幅が小さくなる。音響振動信号の振幅は、時刻t0においてフィルタ20から供給された信号の振幅より小さい。
【0034】
上記構成により、人体の所定部位の共鳴周波数の信号の残響信号を含む音響振動信号に基づいて、所定部位に対応する位置に配置された加振器12が振動を生成するので、所定部位に残響が生じやすくなり、所定部位が共鳴しやすくなる。つまり、第1加振器12aは、
図5に示すように、例えば時刻t0で音響信号から1500Hzの成分が抽出されると、所定期間が経過してから、1500Hzの振動の振幅を徐々に小さくしながら繰り返し出力する。そのため、ユーザの第4胸椎に振動の余韻が生じ、第4胸椎が共鳴しやすくなる。第2加振器12bは、
図5に示すように、例えば時刻t0で音響信号から500Hzの成分が抽出されると、所定期間が経過してから、500Hzの振動の振幅を徐々に小さくしながら繰り返し出力する。そのため、ユーザの第3腰椎に振動の余韻が生じ、第3腰椎が共鳴しやすくなる。よって、残響信号を利用せずにフィルタ20から出力される直接波のみにより振動を生成する場合と比較して、身体共鳴を起こしやすくなり、より効果的に臨場感と没入感を得ることができる。
【0035】
また、音響振動信号において、フィルタ20で抽出された信号、即ち直接波が除去されているので、特に比較的高い周波数において、加振器12で生成された振動が音として聞こえることを抑制できる。また、残響信号を用いることにより、加振器12で生成された振動が空気中を伝わりユーザの耳に届いたとしても、ぼやけた音となるため、直接波のみにより振動を生成する場合と比較して、音として聞こえ難くなる。よって、音響出力装置14から出力される音の定位を乱し難くできる。
【0036】
以上から、音響出力装置14だけでは得られない、より臨場感のある音響体験を実現できる。
【0037】
また、音響出力装置14からの音波出力と加振器12からの振動出力との時間差もディレイ回路24などにより調整できる。従って、個人の嗜好に応じた柔軟な調整が可能であり、没入感を更に高めることができる。また、個人の体格や体重などに応じてフィルタ20の抽出する共鳴周波数や加振器12からの出力レベルを調整してもよい。
【0038】
ここで、本発明者は、2つの加振器12の間の距離と、2つの加振器12が発生する振動の周波数との関係によっては、2つの加振器12のそれぞれから発生した振動の人体における干渉が大きくなる可能性があることを認識した。干渉が大きくなると、ユーザが不要な振動を感じたり、振動が打ち消されて必要な振動を感じ難くなったりする可能性がある。
【0039】
そこで、第1加振器12aと第2加振器12bとの間の距離は、当該2つの加振器12のそれぞれから発生した振動の人体における干渉を抑制する条件を満たしてもよい。具体的には、当該2つの加振器12の間の距離は、当該2つの加振器12に供給される2つの音響振動信号の周波数の差の逆数と、当該2つの加振器12の間の振動の伝達速度との積とは異なる。振動の伝達速度は、シートの材質などに応じて定められる。
【0040】
3つ以上の加振器12を備える場合、複数の加振器12のうちの2つの加振器12の間の距離は、当該2つの加振器12のそれぞれから発生した振動の人体における干渉を抑制する条件を満たす。
【0041】
これにより、2つの周波数の振動の干渉が大きいことでユーザが不要な振動を感じたり、必要な振動を感じ難くなったりすることを抑制できるので、臨場感の低下を抑制できる。
【0042】
具体的には、設計段階にて、上記条件を満たすようにシート30に内蔵する第1加振器12aと第2加振器12bの配置位置を設定してもよい。あるいは、設計段階にて、上記条件を満たすように、第1加振器12aと第2加振器12bのいずれかに供給される音響振動信号の周波数、即ち第1フィルタ20aと第2フィルタ20bのいずれかの通過帯域の周波数を設定してもよい。
【0043】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0044】
(第1変形例)
第1変形例では、振動の干渉を抑制する必要がある場合に振動の遅延を制御することが実施の形態と異なる。以下、各変形例において、実施の形態との相違点を中心に説明する。
【0045】
図6は、第1変形例の体感音響システム1の構成を示すブロック図である。信号生成装置10は、
図1の構成に対して制御部28をさらに備える。制御部28は、信号生成装置10全体を制御する。
【0046】
制御部28は、フィルタ20の出力信号を監視し、フィルタ20の出力信号の振幅が所定値以上になった場合、共鳴周波数の成分が抽出されたと判定する。制御部28は、第1フィルタ20aで第1所定部位の共鳴周波数の成分が抽出されたタイミングと、第2フィルタ20bで第2所定部位の共鳴周波数の成分が抽出されたタイミングとが同等である場合、第1音響振動信号と第2音響振動信号のうち、一方を他方より遅延させるように第1信号生成部22aと第2信号生成部22bを制御する。
【0047】
つまり、例えば、音響信号に同等のタイミングの500Hzの成分と1500Hzの成分とが含まれる場合、制御部28は、第1加振器12aによる500Hzの振動の発生タイミングと、第2加振器12bによる1500Hzの振動の発生タイミングとを異ならせる。2つの加振器12のそれぞれにおける振動の発生タイミングがずれるので、これらの振動の干渉を抑制できる。2つの加振器12の間の距離は、既述の干渉を抑制する条件を満たさなくてもよい。
【0048】
また、例えば、3つ以上の加振器12を備える場合、或るフィルタ20により或る共鳴周波数の成分が抽出されたタイミングと、別のフィルタ20により別の共鳴周波数の成分が抽出されたタイミングとが同等である場合、当該或る共鳴周波数の成分が供給される信号生成部22は、当該別の共鳴周波数の成分が供給される信号生成部22で生成される音響振動信号よりも、音響振動信号を遅延させる。
【0049】
(第2変形例)
第2変形例では、残響信号として、初期反射信号も音響振動信号に加える。
図7は、第2変形例の音響振動信号の振幅と時間の関係を概略的に示す。音響振動信号は、いずれも残響信号である初期反射信号S2および後部残響信号S1を含む。音響振動信号の振幅は、時刻t0においてフィルタ20から供給された信号の振幅より小さい。後部残響信号S1は、
図4のリバーブ回路26で生成される。初期反射信号S2は、後部残響信号S1より早いタイミングで発生する信号である。初期反射信号S2は、公知の技術で生成できる。例えば、信号生成部22は、FIR(Finite Impulse Response)フィルタで構成された初期反射信号生成部を有し、フィルタ20の出力信号を初期反射信号生成部に通過させることにより、初期反射信号S2を生成し、生成した初期反射信号S2をリバーブ回路26の出力信号に加算してよい。
【0050】
この変形例では、実施の形態とは異なる身体共鳴を生じさせることができ、異なる音響体験を実現できる。
【0051】
(第3変形例)
第3変形例では、音響振動信号が減衰された直接波も含むことが実施の形態と異なる。
図8は、第3変形例の体感音響システム1の構成を示すブロック図である。第1信号生成部22aは、
図1の構成に対して第1減衰回路50aをさらに有する。第2信号生成部22bは、
図1の構成に対して第2減衰回路50bをさらに有する。
【0052】
第1減衰回路50aは、第1フィルタ20aで抽出された信号を1より小さい第3ゲインで減衰させ、減衰させた信号を第1リバーブ回路26aの出力信号に加算する。これにより、第1信号生成部22aは、第1フィルタ20aで抽出された信号の残響信号を含み、かつ、当該抽出された信号が減衰された第1音響振動信号を生成する。
【0053】
第2減衰回路50bは、第2フィルタ20bで抽出された信号を1より小さい第3ゲインで減衰させ、減衰させた信号を第2リバーブ回路26bの出力信号に加算する。これにより、第2信号生成部22bは、第2フィルタ20bで抽出された信号の残響信号を含み、かつ、当該抽出された信号が減衰された第2音響振動信号を生成する。
【0054】
図示は省略するが、この変形例の音響振動信号は、
図5の波形において、時刻t0に、フィルタ20から供給された信号が減衰した信号、即ち減衰した直接波を含む。
【0055】
この変形例でも、第3ゲインを適切に設定することで、比較的高い周波数において、加振器12で生成された振動が音として聞こえることを抑制できる。
【0056】
(第4変形例)
第4変形例では、ユーザに応じて複数の加振器12の中からいくつかの加振器12が選択されることが、実施の形態と異なる。体感音響システム1の構成は、
図6に基づく。
【0057】
例えば、シートの背もたれに、座ったユーザの頭部から腰部に至る方向に複数の加振器12を予め内蔵しておく。車室内のカメラなどでシートに座ったユーザを撮像し、制御部28は、撮像された画像からユーザの肩などの身体の特定部分を認識し、認識された特定部分の位置に基づいて、複数の加振器12の中から所定位置、および所定数の加振器12を選択する。信号生成装置10は、選択された加振器12に音響振動信号を供給する。例えば、1500Hzと500Hzの振動を発生させる場合、制御部28は、画像認識されたユーザの肩の位置に対応する加振器12を第1加振器12aとして選択し、腰の位置に対応する加振器12を第2加振器12bとして選択してもよい。これにより、身体の大きさに合わせて、より適切な身体の位置に所定の周波数の振動を加えやすくなる。
【0058】
あるいは、それぞれのユーザは、好みの音響体験を実現できる加振器12の位置を予め特定しておき、その加振器12を特定するための情報を体感音響システム1の図示しない記憶部に登録しておいてもよい。ユーザは、シートに座るときに、登録しておいた情報を選択する。制御部28は、選択された情報に従って複数の加振器12の中から所定数の加振器12を選択する。ユーザは選択操作を行うだけで、容易に自分に合った音響体験を実現できる。
【0059】
この変形例において、選択された複数の加振器12のうちの2つの加振器12の間の距離が、既述の干渉を抑制する条件を満たさない場合、制御部28は、当該2つの加振器12のうちの一方に替えて別の加振器12を選択する処理と、当該2つの加振器12のうちの一方に対応するフィルタ20の通過帯域の周波数を変更する処理との少なくとも一方を実行してもよい。この場合、例えば、制御部28は、ユーザの肩の位置に対応する加振器12に替えて、当該加振器12の上隣りまたは下隣りの加振器12を第1加振器12aとして選択してもよい。制御部28は、ユーザの肩の位置に対応する第1加振器12aに対応するフィルタ20の通過帯域の周波数を、例えば1450Hzなどに変更してもよい。これにより、干渉を抑制でき、臨場感の低下を抑制できる。
【0060】
(他の変形例)
体感音響システム1が屋内で利用される場合、加振器12は、ソファーや椅子の背もたれに内蔵されてもよいし、ユーザが横たわることができるマットレスに内蔵されてもよい。
【0061】
音響信号は、例えば、サーバ、ゲーム機、ディスクレコーダ、ディスクプレーヤ、テレビジョン装置、パーソナルコンピュータなどの電子機器から体感音響システム1に供給されてもよい。
【0062】
上記の変形例のうち少なくとも2つを組み合わせてもよい。組合せによって生じる新たな変形例は、組み合わされる変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0063】
1…体感音響システム、10…信号生成装置、12…加振器、12a…第1加振器、12b…第2加振器、20…フィルタ、20a…第1フィルタ、20b…第2フィルタ、22…信号生成部、22a…第1信号生成部、22b…第2信号生成部、24…ディレイ回路、24a…第1ディレイ回路、24b…第2ディレイ回路、26…リバーブ回路、26a…第1リバーブ回路、26b…第2リバーブ回路。