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  • 特開-化合物、硬化性組成物および硬化膜 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056244
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】化合物、硬化性組成物および硬化膜
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/53 20060101AFI20240416BHJP
   C08F 30/02 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
C07F9/53 CSP
C08F30/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162988
(22)【出願日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】一二三 遼祐
(72)【発明者】
【氏名】冨田 育義
(72)【発明者】
【氏名】藤冨 晋太郎
(72)【発明者】
【氏名】丸山 洋一郎
【テーマコード(参考)】
4H050
4J100
【Fターム(参考)】
4H050AA01
4H050AB49
4H050AC90
4H050WA11
4H050WA28
4J100AP07P
4J100BA54P
4J100BC43P
4J100FA02
4J100FA03
4J100FA19
4J100JA43
4J100JA44
(57)【要約】      (修正有)
【課題】低い誘電率および誘電正接の値を有し、かつ、耐熱性および金属等との接着性に優れる硬化物を形成することができる化合物を提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物。

[R~R15の内の少なくとも二つ以上はエチレン性不飽和結合を有する。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物。
【化1】
[式(1)中、R~R15はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1~20の炭化水素基であり、この内の少なくとも二つ以上はエチレン性不飽和結合を有する。R~R15は、二つ以上が結合して環を形成していてもよい。]
【請求項2】
下記式(2)で表される化合物である、請求項1に記載の化合物。
【化2】
【請求項3】
請求項1または2に記載の化合物を含む、硬化性組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の硬化性組成物から得られた硬化膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物、硬化性組成物および硬化膜に関する。
【背景技術】
【0002】
通信システムの高度化・高速化の進展に伴い、より高周波数の電磁波を使いこなす技術が求められている。具体的には、電気信号伝送の遅延・損失を抑制するため、回路基板やアンテナ配線を形成する絶縁材料には、低誘電率・低誘電正接等の電気特性を有することが必要となっている。このような電気特性を有する絶縁材料としては、電子的な分極がより小さい分子構造の材料が好適な材料として挙げられる。
【0003】
また、配線を形成する金属材料には、人体への有害性や自然環境に対する悪影響を排除するため、鉛を含有しない半田への置き換えが進められているが、鉛不含有半田は融点が高いため、回路を形成する材料には、これまでより高い耐熱性(耐熱変形性、ガラス転移温度)が求められている。このため、このような材料としては、剛直性が高く、自由度の少ない分子構造の材料であることが求められる。
【0004】
回路中の絶縁層を形成するプロセスとしては、架橋性部位を有するオリゴマーおよび架橋剤を含む硬化性組成物を、回路形成の際に、加熱または光照射することによって架橋・硬化する手法が一般的である。
しかし、既存のエポキシ系架橋剤を含む硬化性組成物では、分極の大きなエーテル結合で架橋され、またエポキシ基の開環に伴って水酸基が生じるため、得られる硬化物(絶縁層)は、前記電気特性を満たすことができない。一方、電気特性の面では良好な値が得られる、既存のオレフィン系架橋剤を含む硬化性組成物では、十分なガラス転移温度を有する硬化物(絶縁層)を得ることができなかった。また、例えば、特許文献1には、スチレン系化合物を含む硬化性組成物によれば、電気特性の面では良好な値が得られることが記載されている。
【0005】
また、分子中の分極が小さくなると、銅などの金属等との接着性が悪化することにもつながることから、硬化物(絶縁層)には、従来と同レベルの接着性を維持することも求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-83680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記電気特性、耐熱性および接着性を同時に満足する既存材料は無かったことから、新たな分子設計に基づく化合物が求められていた。
【0008】
本発明は以上のことに鑑みてなされたものであり、低い誘電率および誘電正接の値を有し、かつ、耐熱性および金属等との接着性に優れる硬化物を形成することができる化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、下記構成例によれば、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の構成例は、以下の通りである。
【0010】
[1] 下記式(1)で表される化合物。
【0011】
【化1】
[式(1)中、R~R15はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1~20の炭化水素基であり、この内の少なくとも二つ以上はエチレン性不飽和結合を有する。R~R15は、二つ以上が結合して環を形成していてもよい。]
【0012】
[2] 下記式(2)で表される化合物である、[1]に記載の化合物。
【0013】
【化2】
【0014】
[3] [1]または[2]に記載の化合物を含む、硬化性組成物。
[4] [3]に記載の硬化性組成物から得られた硬化膜。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低い誘電率・誘電正接、高い耐熱性(高いガラス転移温度)、および金属等との実用的な接着性を併せ持つ硬化物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、下記式(2)で表される化合物(化合物(2))のH-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
≪化合物≫
本発明に係る化合物(以下「本化合物」ともいう。)は、下記式(1)で表される化合物である。
本化合物は、例えば、架橋剤として好適に使用され、この場合、ホスフィンスルフィド基含有架橋剤ということもできる。
【0018】
本化合物によれば、前記効果を奏する理由は必ずしも明らかではないが、以下のように推測することができる。
リン(P)と硫黄(S)、および炭素(C)の電気陰性度は、C:2.55、P:2.19、S:2.58であり、近い値を有することより、酸素(O:電気陰性度3.44)などを含む化合物に比べて、小さい分極となり、低い誘電率・誘電正接となると考えられる。また、芳香環を基本骨格とする自由度の低い構造を有する本化合物によって架橋された硬化物は、高いガラス転移温度を有すると考えられる。さらに、金属種との接着性に優れる硫黄元素を有することより、金属等との実用的な接着性も併せ持つと考えられる。
【0019】
【化3】
[式(1)中、R~R15はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1~20の炭化水素基であり、この内の少なくとも二つ以上はエチレン性不飽和結合を有する。R~R15は、二つ以上が結合して環を形成していてもよい。]
【0020】
~R15における炭素数1~20の炭化水素基としては、例えば、炭素数1~20の1価の鎖状炭化水素基、炭素数3~20の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~20の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0021】
炭素数1~20の1価の鎖状炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基;エテニル基、プロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基、ブチニル基等のアルキニル基が挙げられる。
【0022】
炭素数3~20の1価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の1価の単環の脂環式飽和炭化水素基;シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等の1価の単環の脂環式不飽和炭化水素基;ノルボルニル基、アダマンチル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デシル基、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデシル基等の1価の多環の脂環式飽和炭化水素基;ノルボルネニル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デセニル基、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデセニル基等の1価の多環の脂環式不飽和炭化水素基が挙げられる。
【0023】
炭素数6~20の1価の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アントリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、アントリルメチル基等のアラルキル基が挙げられる。
【0024】
前述のR~R15の内の少なくとも二つ以上はエチレン性不飽和結合を有する。
エチレン性不飽和結合を有する炭化水素基の具体例としては、前記アルケニル基、アルキニル基、1価の単環の脂環式不飽和炭化水素基、1価の多環の脂環式不飽和炭化水素基が挙げられる。
【0025】
本化合物としては、下記式(2)で表される化合物(以下「化合物(2)」ともいう。)が好ましい。
【0026】
【化4】
【0027】
<本化合物の合成方法>
本化合物、特に化合物(2)の合成方法としては、例えば、トリス(4-スチリル)ホスフィンと硫黄とを反応させる工程(以下「工程1」ともいう。)を含む方法が挙げられる。
なお、トリス(4-スチリル)ホスフィンは、従来公知の方法、例えば、トリクロロホスフィンとp-ビニルフェニルマグネシウムクロリドとを、THFなどの溶媒の存在下で反応させることで得ることができ、市販品を用いてもよい。
【0028】
【化5】
【0029】
前記工程1を行う際の雰囲気としては特に制限されないが、酸化反応等の副反応を抑制することができる等の点から、例えば、アルゴン雰囲気等の不活性ガス雰囲気下が好ましい。
【0030】
前記工程1は、通常、溶媒中で行われる。該溶媒としては、例えば、炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒が挙げられる。
炭化水素系溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、メシチレンが挙げられる。
ハロゲン化炭化水素系溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼンが挙げられる。
エーテル系溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンが挙げられる。
これらの中でも、溶媒としては、トルエンが好ましい。トリス(4-スチリル)ホスフィンおよび硫黄は、トルエンに対する溶解性が高く、工程1をトルエンの存在下で行うことで、工程1の反応を比較的高濃度で行うことができる。
【0031】
前記工程1は、加熱下で行ってもよいが、室温で行うことが好ましい。
前記工程1で得られた本化合物、特に化合物(2)は、必要により精製した後、硬化性組成物等に用いてもよい。
【0032】
≪硬化性組成物≫
本発明に係る硬化性組成物(以下「本組成物」ともいう。)は、前記本化合物を含有すれば特に制限されず、本化合物以外のその他の成分を含有していてもよい。
本組成物に用いる本化合物は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0033】
本組成物における本化合物の含有割合は、本組成物中の固形分全体を100質量%とした場合に、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは20質量%以上、好ましくは99.95質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
本化合物の含有割合が前記範囲にあると、本組成物から得られた硬化物の硬化度や機械特性をより向上させることができる等の点から好ましい。
【0034】
本組成物は、本化合物および必要に用いられる前記その他の成分を混合することで調製することができ、本化合物および必要に用いられる前記その他の成分を、例えば、溶剤のない状態で混錬することで調製してもよく、本化合物および必要に用いられる前記その他の成分を、溶剤に溶解または分散させて混合することで調製してもよい。
【0035】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、例えば、硬化性化合物、硬化助剤、溶剤、安定性を増すための重合禁止剤、酸化防止剤、無機充填剤、有機充填剤、密着助剤、滑剤、難燃剤、抗菌剤、着色剤、離型剤、発泡剤が挙げられる。
これらのその他の成分はそれぞれ、1種単独で使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。
【0036】
〔硬化性化合物〕
前記硬化性化合物は、本化合物以外の化合物であり、熱や光(例:可視光、紫外線、近赤外線、遠赤外線)の照射により硬化する化合物であり、後述する硬化助剤を必要とするものであってもよい。このような硬化性化合物としては、例えば、ビニル化合物、マレイミド化合物、アリル化合物、メタクリル化合物、ベンゾシクロブテン化合物、シラン化合物が挙げられる。これらの中でも、本化合物との相容性、反応性等の点から、特に、スチレン化合物、アリル化合物の少なくとも1種であることが好ましい。
【0037】
前記ビニル化合物としては、例えば、下記式(3-1)~(3-3)で表されるスチレン基を有する化合物、ULL-950S(LONZA社製)、2-ビニル-4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン、スチレンブタジエンスチレン共重合体(SBS)、水添スチレンブタジエンスチレン共重合体、ブタジエン重合体等のビニル基を有する化合物が挙げられる。
【0038】
【化6】
[式(3-2)および(3-3)中、l、mおよびnはそれぞれ独立して、1~5000である。]
【0039】
前記マレイミド化合物としては、例えば、下記式(3-4)~(3-5)で表されるマレイミド基を含む化合物、BMI6895、BMI1500、BMI2500(Designer molecules社製)が挙げられる。
【0040】
【化7】
[式(3-5)中、nは、1~5000である。]
【0041】
前記アリル化合物としては、例えば、トリアリルイソシアネート、1,2,4-トリビニルシクロヘキサン、L-DAIC、TA-G(四国化成工業(株)製)が挙げられる。
【0042】
前記メタクリル化合物としては、例えば、SA-9000(SABIC社製)のメタクリル基を含む化合物が挙げられる。
【0043】
前記ベンゾシクロブテン化合物としては、例えば、特開2005-60507号公報に記載の化合物が挙げられる。
【0044】
前記シラン化合物としては、例えば、KF-99(信越化学工業(株)製)、KF-9901(信越化学工業(株)製)、ジメチルフェニルシラン、トリエトキシシラン、オクタヒドロオクタシルセスキオキサンが挙げられる。
【0045】
本組成物が硬化性化合物を含有する場合、該硬化性化合物の含有割合は、本組成物中の固形分全体を100質量%とした場合に、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、好ましくは99.95質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
硬化性化合物の含有割合が前記範囲にあると、本組成物から得られる硬化物の強度、耐熱性、耐薬品性をより向上させることができる等の点から好ましい。
【0046】
〔硬化助剤〕
前記硬化助剤としては、例えば、熱または光ラジカル開始剤、カチオン硬化剤等の重合開始剤が挙げられる。
【0047】
熱ラジカル開始剤としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、ジ(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物;アゾビスブチロニトリル、1,1'-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルエタン)]、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1'-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、ジメチル-2,2'-アゾビス(イソブチレート)、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)等のアゾ化合物が挙げられる。
【0048】
光ラジカル開始剤としては、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン等のベンジルメチルジメチルケタールやヒドロキシアルキルフェノン類;2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジルメチル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン等のα-アミノケトン化合物;ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキシド化合物;2-メチル-9,10-ビス(メトキシカルボニルオキシ)アントラセン、2-メチル-9,10-ビス(エトキシカルボニルオキシ)アントラセン等のアントラセン化合物が挙げられる。
【0049】
カチオン硬化剤としては、例えば、(株)ADEKA製のSP70、SP172,CP66、日本曹達(株)製のCI2855、CI2823、三新化学工業(株)製のSI100、SI150等の、BF4、PF6、SbF6を対アニオンとするジアリルヨ-ドニウム塩、トリアルキルスルホニウム塩、ブチルトリフェニルホスホニウムチオシアネートなどのホスホニウム塩、三フッ化ホウ素が挙げられる。
【0050】
前記シラン化合物を用いる場合における硬化助剤としては、例えば、白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒;パラジウム系触媒;ロジウム系触媒;等の白金族金属触媒、安息香酸亜鉛、オクチル酸亜鉛が挙げられる。
【0051】
本組成物が硬化助剤を含有する場合、該硬化助剤の含有割合は、本組成物が良好に硬化して、硬化物が得られる範囲であることが好ましい。具体的には、本化合物および硬化性化合物の固形分の合計100質量部に対して、好ましくは0.000001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、好ましくは20質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。
【0052】
≪硬化物≫
本発明に係る硬化物(以下「本硬化物」ともいう。)は、前述の本組成物の硬化物であり、前述の本組成物を硬化させて得られる。
本硬化物は、例えば、本組成物から溶剤を乾燥させて得られる本組成物の部分硬化物であってもよい。
【0053】
本組成物の硬化方法は特に限定されないが、通常、加熱により熱硬化させる方法や、光の照射により光硬化させる方法が用いられる。なお、これらの方法は併用することもできる。
【0054】
熱硬化させる場合、加熱温度は、好ましくは50℃以上、より好ましくは150℃以上、好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下である。加熱時間は、好ましくは0.1時間以上、より好ましくは1時間以上であり、好ましくは36時間以下、より好ましくは3時間以下である。
【0055】
光硬化させる場合、照射する光としては、例えば、可視光、紫外線、近赤外線、遠赤外線が挙げられる。
【0056】
なお、本組成物を硬化させる際の雰囲気としては特に制限されないが、窒素雰囲気等の不活性ガス雰囲気や真空等の雰囲気が好ましい。
【0057】
本硬化物の形状は特に限定されず、用途や目的等に応じて適した形状とすればよいが、例えば、フィルムが挙げられる。
本硬化物は、本組成物のみからなる単独の硬化物でもよく、金属材料、樹脂材料および無機材料から選ばれる少なくとも1種に、片面または両面が接した積層体であってもよい。
【0058】
本硬化物のガラス転移温度(Tg)の下限は、好ましくは185℃、より好ましくは200℃であり、上限は、例えば300℃である。
Tgが前記範囲にあることで、溶融成形をより容易に行うことができ、また、耐熱性に優れる硬化物となる。
該Tgは、具体的には、下記実施例に記載の方法で測定される。
【0059】
本硬化物の誘電率は、伝送損失を低減できる等の点から、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.5以下であり、その下限は特に制限されないが、好ましくは1.5以上である。
本硬化物の誘電正接(tanδ)は、伝送損失を低減できる等の点から、好ましくは0.004以下、より好ましくは0.003以下であり、その下限は特に制限されないが、好ましくは0.0005以上である。
該誘電率および誘電正接は、具体的には、下記実施例に記載の方法で測定される。
【実施例0060】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
[NMRスペクトル測定]
合成例1で得られた化合物のNMRスペクトルは、重溶媒である重クロロホルムに化合物を溶解させ、核磁気共鳴スペクトル測定装置(日本電子(株)製の「ECP-300」)を用いて測定した。
【0062】
[合成例1]化合物(2)の合成
磁気回転子を入れた200mL二口ナス型フラスコに、トリス(4-スチリル)ホスフィン(北興化学工業(株)製、10.21g、30.0mmol)、硫黄(1.92g、60mmol)を秤量し、アルゴン雰囲気下にした後、蒸留トルエン(90mL)を加えた。得られた混合物を、室温下で20時間攪拌した後、溶媒を留去した。溶媒を留去した後の濃縮残を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=9/1vol/vol)で精製し、化合物(2)を得た。得られた化合物(2)の収率は98.9%であった。
【0063】
得られた化合物(2)のH-NMRスペクトルを図1に示し、H-NMR測定結果を以下に示す。
H-NMR(300MHz,CDCl):δ=5.37(d, J=10.5Hz,3H),5.84(d, J=17.4Hz,3H),6.73(dd,J=16.1Hz,J=11.9Hz,3H),7.47(6H),7.67(6H).
【0064】
[実施例1]
合成例1で得た化合物(2)、OPE-2St(三菱ガス化学(株)製、末端変性ポリフェニレンエーテル)およびDCP(ジクミルパーオキサイド、東京化成工業(株)製)を表1に示す固形分比率で秤量した後、トルエンを用いて、固形分濃度が20質量%となるように希釈し、ミックスローターで混合することで、均一な溶液である硬化性組成物を作製した。
【0065】
[実施例2]
OPE-2Stの代わりに、SA-9000(SABIC社製、末端メタクリル基変性ポリフェニレンエーテル)を用いた以外は、実施例1と同様にして、硬化性組成物を作製した。
【0066】
[比較例1~2]
化合物(2)の代わりに、表1に示すTAIC(三菱ケミカル(株)製、トリアリルイソシアヌレート)またはDVB(日鉄ケミカル&マテリアルズ(株)製、96%ジビニルベンゼン)を用いた以外は、実施例1と同様にして、硬化性組成物を作製した。
【0067】
[比較例3]
化合物(2)の代わりに、DVBを用いた以外は、実施例2と同様にして、硬化性組成物を作製した。
【0068】
<硬化膜の作製>
実施例1~2および比較例1~3で得られた硬化性組成物を、ベーカ式アプリケータ(隙間:125μm)を用いて、福田金属(株)製の銅箔(CF-V9S-SV)のマッド面上に塗工し、100℃で5分間、さらに130℃で5分間乾燥し、銅箔上に厚さ50μm程度の塗膜を形成した。得られた塗膜付き銅箔と銅箔(CF-V9S-SV)とを、150℃で5分間真空プレスすることで貼り合わせ、窒素下200℃で2時間焼成することで、銅箔積層板を作製した。作製した銅箔積層板を、40質量%の塩化鉄溶液中に浸漬し、銅箔積層板から銅箔を除去した後、水で洗浄し、オーブンを用いて80℃で30分間乾燥することで、硬化膜を作製した。
【0069】
<硬化膜の外観>
作製した硬化膜の外観を目視で観察し、該硬化膜に目視での相分離がなければ「○」とした。結果を表1に示す。
【0070】
<誘電率および誘電正接>
作製した硬化膜から試験片(幅:6cm×長さ:6cm)を切り出し、空洞共振器法((株)エーイーティー製、誘電率測定システム TEモード共振器)を用いて、該試験片の10GHzにおける誘電率および誘電正接を測定した。結果を表1に示す。
【0071】
<ガラス転移温度(Tg)>
実施例1~2および比較例1~3で得られた硬化性組成物を、スピンコーターを用いて、厚さ525μmのシリコンウエハ上に塗工し、100℃で5分間、130℃で5分間乾燥して、Bステージ膜(厚さ:50μm)を得た。得られたBステージ膜を、DSC測定用アルミパン中に充填した後、窒素下200℃で2時間硬化させ、得られたアルミパンを、DSC(NETZSCH製、DSC 204F1 Phoenix、示差走査熱量計)にセットし、窒素条件下20℃/分で昇温し、ガラス転移温度(Tg)を測定した。なお、Tgは、相転移の開始温度とした。結果を表1に示す。
【0072】
<ピール強度>
前記硬化膜の作製と同様の方法で作製した銅箔積層板から、試験片(幅:5mm×長さ:10cm)を切り出し、インストロン社製の「Instron 5567」を用い、500mm/分の条件で銅箔を90度方向に引っ張り、「IPC-TM-650 2.4.9」に準拠して、銅箔と、実施例1~2または比較例1~3で得られた硬化性組成物から得られた層(硬化層)とのピール強度(N/mm)を測定した。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
図1