(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056245
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】ケーブルトレイ
(51)【国際特許分類】
H02G 3/04 20060101AFI20240416BHJP
F16L 3/22 20060101ALI20240416BHJP
F16L 3/26 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
H02G3/04 056
F16L3/22 B
F16L3/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162990
(22)【出願日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小杉 慎司
【テーマコード(参考)】
3H023
5G357
【Fターム(参考)】
3H023AA04
3H023AC09
3H023AC31
3H023AC42
3H023AC71
3H023AE03
5G357BA01
5G357BB04
5G357BC05
(57)【要約】
【課題】配置性に優れるとともに高い耐震性を有するケーブルトレイを提供する。
【解決手段】本発明によるケーブルトレイは、ケーブル1を収納可能な複数のトレイ2と、複数のトレイ2を支持し、設置場所5に固定されているサポート部材4と、剛性を有する弾性部材である弾性支承部材3とを備える。複数のトレイ2のうち、少なくとも1つのトレイ2Aが弾性支承部材3を介してサポート部材4に固定され、他の全てのトレイ2B、2Bがサポート部材4に直接固定されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーブルを収納可能な複数のトレイと、
複数の前記トレイを支持し、設置場所に固定されているサポート部材と、
剛性を有する弾性部材である弾性支承部材と、
を備え、
複数の前記トレイのうち、少なくとも1つの前記トレイが前記弾性支承部材を介して前記サポート部材に固定され、他の全ての前記トレイが前記サポート部材に直接固定されている、
ことを特徴とするケーブルトレイ。
【請求項2】
複数の前記トレイのうち、少なくとも、前記サポート部材が固定されている部分から最も離れた位置にある前記トレイが、前記弾性支承部材を介して前記サポート部材に固定され、他の全ての前記トレイが前記サポート部材に直接固定されている、
請求項1に記載のケーブルトレイ。
【請求項3】
前記弾性支承部材を介して前記サポート部材に固定されている前記トレイを第1のトレイとし、
前記サポート部材に直接固定されている前記トレイを第2のトレイとし、
主振動系が、前記サポート部材、前記第2のトレイ、及び前記第2のトレイに収納された前記ケーブルで構成されており、
副振動系が、前記第1のトレイ、前記第1のトレイに収納された前記ケーブル、及び前記弾性支承部材で構成されおり、
前記弾性支承部材は、前記主振動系の固有振動数に対する前記副振動系の固有振動数の比の値が予め定められた範囲内にあるような剛性を有する、
請求項1に記載のケーブルトレイ。
【請求項4】
前記弾性支承部材は、前記トレイに収納された前記ケーブルの延伸方向に垂直な方向と平行な方向で、剛性が互いに異なる、
請求項1に記載のケーブルトレイ。
【請求項5】
前記弾性支承部材は、打撃試験で測定された前記トレイと前記サポート部材の固有振動数を用いて設定された剛性を有する、
請求項1に記載のケーブルトレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力や信号などを伝達するケーブルが敷設されるケーブルトレイに関する。
【背景技術】
【0002】
ケーブルトレイは、電力、制御信号、又は通信信号を電気機器や計装機器へ伝達するケーブル(例えば、電力ケーブル、制御ケーブル、及び通信ケーブルなど)が敷設される設備である。ケーブルトレイは、工場や発電所などのプラント設備、駅、及びビルなどの施設において天井、床、又は壁に設置され、ケーブルと、ケーブルを収納するトレイと、設置場所に固定されてトレイを支持するサポート部材を備える。
【0003】
トレイは、鋼製の容器であり、収納したケーブルの延伸方向(軸方向)に延伸する形状を有し、軸方向に直交する断面での形状は上部が開口しているコの字型である。トレイは、サポート部材により軸方向に一定間隔で支持されて、施設の天井、床、又は壁などに固定される。特に、工場や発電所などの、数多くの機器類が稼働しているプラント設備では、これらの機器類に電力や制御信号を送るための多くのケーブルが必要である。このため、このような設備では、ケーブルトレイは、複数のトレイを支持する多段のサポート部材を備えることがある。
【0004】
工場や発電所などのプラント設備に強大な地震動が作用し、ケーブルトレイが損傷した場合には、これらの設備が適切な稼働状態を維持することが困難となる可能性がある。また、地震によりケーブルトレイが損傷した場合には、地震後の修復に時間を要してしまい、修復までの間はプラント設備が稼働できなくなることがあり得る。このため、ケーブルトレイには、耐震性の向上が望まれている。
【0005】
ケーブルトレイの耐震性の向上に関する従来技術は、例えば、特許文献1に記載されている。特許文献1に記載されたケーブル支持装置は、複数のケーブルが収容されておりサポート部材を含むケーブル収容構造体と、サポート部材の側壁と構造物とを接続し側壁に弾性力を付与する2つの支持機構を備え、これらの支持機構により、地震によりケーブル収容構造体が揺れた際、サポート部材の両側から交互に弾性力を付与して、ケーブル収容構造体の揺れを小さくし、ケーブル収容構造体の耐震性を向上させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のケーブルトレイには、耐震性を向上させる機構を設置すると、ケーブルトレイの設置に必要なスペースが増大し配置性が低下するという課題がある。例えば、特許文献1に記載されたケーブル支持装置では、支持機構は、サポート部材の側壁と構造物とを接続するため、サポート部材の外側に位置する。すなわち、1つの支持機構は、サポート部材の一方の外側に位置し、他の1つの支持機構は、サポート部材の他方の外側に位置する。このため、支持機構を構造物に接続するスペースが必要であり、配置性が低下することがある。ケーブルトレイの配置性が低下すると、ケーブルトレイの設置場所が限られ、耐震性の高いケーブルトレイが必要な施設に、必要なケーブルトレイを設置するのが困難なこともある。
【0008】
本発明の目的は、配置性に優れるとともに高い耐震性を有するケーブルトレイを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるケーブルトレイは、ケーブルを収納可能な複数のトレイと、複数の前記トレイを支持し、設置場所に固定されているサポート部材と、剛性を有する弾性部材である弾性支承部材とを備える。複数の前記トレイのうち、少なくとも1つの前記トレイが前記弾性支承部材を介して前記サポート部材に固定され、他の全ての前記トレイが前記サポート部材に直接固定されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、配置性に優れるとともに高い耐震性を有するケーブルトレイを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例によるケーブルトレイの、収納したケーブルの延伸方向に垂直な面での断面図(立断面図)である。
【
図2】本実施例によるケーブルトレイの斜視図である。
【
図3】本実施例によるケーブルトレイの振動モデルを示す図である。
【
図4】本実施例によるケーブルトレイの、収納したケーブルの延伸方向に平行な面での断面図(立断面図)である。
【
図5A】本実施例によるケーブルトレイの、収納したケーブルの延伸方向に垂直な面での断面図であり、弾性支承部材の付近を拡大して示す図である。
【
図5B】本実施例によるケーブルトレイの、収納したケーブルの延伸方向に平行な面での断面図であり、弾性支承部材の付近を拡大して示す図である。
【
図6】床に固定されている本実施例によるケーブルトレイの、収納したケーブルの延伸方向に垂直な面での断面図(立断面図)である。
【
図7】壁に固定されている本実施例によるケーブルトレイの、収納したケーブルの延伸方向に垂直な面での断面図(立断面図)である。
【
図8】水平方向に複数のトレイを備える本実施例によるケーブルトレイの、収納したケーブルの延伸方向に垂直な面での断面図(立断面図)である。
【
図9】高さ方向の複数のトレイに弾性支承部材が設置されている本実施例によるケーブルトレイの、収納したケーブルの延伸方向に垂直な面での断面図(立断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明によるケーブルトレイは、ケーブルを収納可能な複数のトレイと、複数のトレイを支持するサポート部材と、弾性支承部材を備え、複数のトレイのうち、少なくとも1つのトレイが弾性支承部材を介してサポート部材に固定され、他の全てのトレイが弾性支承部材を介さずにサポート部材に直接固定されている。本発明によるケーブルトレイでは、強大な地震動が作用しても、弾性支承部材を介してサポート部材に固定されたトレイが動吸振器として動作することで、サポート部材に直接固定されたトレイとサポート部材の地震時の応答(振動)を抑制でき、ケーブルトレイの耐震性を向上させることができる。
【0013】
本発明によるケーブルトレイでは、ケーブルトレイの耐震性を向上させるために、サポート部材の外側に位置する支持機構や新たな補強材をサポート部材に追加しなくてもよいので、ケーブルトレイに必要なスペースが増大しない。このため、本発明によるケーブルトレイは、高い耐震性を有して配置性に優れ、例えば狭い場所にも容易に設置できる。
【0014】
以下、本発明の実施例によるケーブルトレイを、図面を参照して説明する。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【実施例0015】
本実施例によるケーブルトレイは、天井、床、及び壁などの設置場所に固定することができる。初めに、本実施例によるケーブルトレイが天井に固定された例について説明する。
【0016】
図1は、本実施例によるケーブルトレイの、収納したケーブルの延伸方向に垂直な面での断面図(立断面図)である。
図2は、本実施例によるケーブルトレイの斜視図である。
【0017】
本実施例によるケーブルトレイは、ケーブル1、複数のトレイ2、サポート部材4、及び弾性支承部材3を備える。
図1と
図2に示すケーブルトレイは、設置場所である天井5に固定されている。
【0018】
ケーブル1は、例えば電力や信号を送信するケーブルである。
【0019】
トレイ2は、ケーブル1を収納可能な容器である。本実施例によるケーブルトレイは、任意の複数の数のトレイ2を備えることができる。複数のトレイ2は、高さ方向(上下方向)に並んで配置されてサポート部材4に支持されており、それぞれが1本または複数本のケーブル1を収納する。
図1と
図2に示す例では、ケーブルトレイは、3つのトレイ2A、2B、2Cを備える。トレイ2A、2B、2Cは、この順で下から上に並んでサポート部材4に支持されており、それぞれが4本のケーブル1を収納している。
【0020】
サポート部材4は、複数のトレイ2を支持する部材であり、設置場所に固定されている。
図1と
図2に示す例では、設置場所が天井5であるので、サポート部材4の上端部は、天井5に接続されて固定されている。サポート部材4は、高さ方向に並置された複数の載置部41を備え、載置部41のそれぞれにトレイ2を載置してトレイ2を支持する。載置部41は、水平方向(
図1の左右方向)に延伸する部材であり、棒状又は板状の部材で構成することができる。
【0021】
3つのトレイ2A、2B、2Cのうち、サポート部材4が固定されている部分(
図1と
図2では設置場所である天井5)から最も離れた位置にあるトレイ2Aには、トレイ2Aとサポート部材4との間に弾性支承部材3が設置されている。すなわち、トレイ2Aは、弾性支承部材3を介してサポート部材4に固定されている。他の全てのトレイ2B、2Cは、弾性支承部材3を介さずにサポート部材4に直接固定されている。弾性支承部材3は、トレイ2Aの振動を抑制する。
【0022】
本実施例によるケーブルトレイでは、複数のトレイ2のうち、少なくとも1つのトレイ2が弾性支承部材3を介してサポート部材4に固定され、他の全てのトレイ2が弾性支承部材3を介さずにサポート部材4に直接固定されている。より好ましい構成では、複数のトレイ2のうち、少なくとも、サポート部材4が固定されている部分から最も離れた位置にあるトレイ2(2A)が、弾性支承部材3を介してサポート部材4に固定され、他の全てのトレイ2(トレイ2B、2C)が、サポート部材4に直接固定されている。さらに好ましい構成では、複数のトレイ2のうち、サポート部材4が固定されている部分から最も離れた位置にあるトレイ2のみが、弾性支承部材3を介してサポート部材4に固定され、他の全てのトレイ2が、サポート部材4に直接固定されている。
【0023】
弾性支承部材3は、剛性を有する弾性部材であり、所望の剛性と減衰特性を有する。弾性支承部材3は、所望の剛性と減衰特性を設定可能であれば、任意の部材で構成することができ、例えば、高減衰ゴム、すべり支承、及びコイルばねとダンパなどで構成することができる。弾性支承部材3の数は、任意に定めることができるが、1つのトレイ2に対して複数であるのが好ましい。弾性支承部材3は、サポート部材4の載置部41に設置される。
【0024】
弾性支承部材3は、上述したように、必ずしも全てのトレイ2A、2B、2Cに対して設置されていなくてもよい。複数のトレイ2A、2B、2Cのうち、サポート部材4が固定されている部分から最も離れた位置にあるトレイ2Aは、最も振動が大きい。そこで、複数のトレイ2A、2B、2Cのうちトレイ2Aに対して弾性支承部材3が設置されていると、トレイ2Aの振動を抑制することでケーブルトレイ全体の振動を効果的に抑制することができる。但し、弾性支承部材3は、複数のトレイ2のうち任意の1つ又は複数のトレイ2に対して、トレイ2とサポート部材4との間に設置することができる。例えば、弾性支承部材3は、トレイ2Aだけに対して設置されてもよく、全てのトレイ2A、2B、2Cに対して設置されてもよい。
【0025】
図3は、本実施例によるケーブルトレイの振動モデルを示す図である。この振動モデルは、主振動系12と副振動系13とで構成されている。
【0026】
主振動系12は、並置されて固定部11に固定されたばね9Aとダッシュポット10Aと、ばね9Aとダッシュポット10Aに接続された質量8Aを備える。副振動系13は、並置されて主振動系12の質量8Aに固定されたばね9Bとダッシュポット10Bと、ばね9Bとダッシュポット10Bに接続された質量8Bを備え、動吸振器として動作する。固定部11は、
図1と
図2に示した本実施例によるケーブルトレイでは、設置場所である天井5である。
【0027】
図1と
図2に示した本実施例によるケーブルトレイでは、主振動系12は、サポート部材4、トレイ2B、トレイ2C、及びトレイ2B、2Cに収納されたケーブル1で構成されており、副振動系13は、トレイ2A、トレイ2Aに収納されたケーブル1、及び弾性支承部材3で構成されている。弾性支承部材3は、副振動系13では、ばね9Bとダッシュポット10Bに表されている。
【0028】
副振動系13は、振動すると動吸振器として作用し、主振動系12の振動を吸収する。すなわち、主振動系12の振動は、副振動系13が振動することにより抑制される。本実施例によるケーブルトレイでは、副振動系13が振動して主振動系12の振動を抑制することにより、ケーブルトレイ全体の振動が抑制されて耐震性が向上する。
【0029】
本実施例によるケーブルトレイでは、副振動系13の固有振動数が主振動系12の固有振動数に近いと、動吸振器である副振動系13がより効果的に主振動系12の振動を抑制できて、ケーブルトレイの耐震性を向上させることができる。このため、主振動系12の固有振動数に対する副振動系13の固有振動数の比の値は、副振動系13の固有振動数と主振動系12の固有振動数とが互いにほぼ等しいとみなせるとして予め定められた特定の範囲内であるのが好ましい。この範囲は、副振動系13が主振動系12の振動を効果的に吸収して抑制するような、固有振動数の比の値の範囲である。
【0030】
従って、弾性支承部材3は、主振動系12の固有振動数に対する副振動系13の固有振動数の比の値が予め定められた範囲内にあるような剛性を有するのが好ましい。この範囲は、副振動系13の固有振動数と主振動系12の固有振動数とが互いにほぼ等しいとみなせるとして予め定められた特定の範囲である。
【0031】
例えば、主振動系12の固有振動数に対する副振動系13の固有振動数の比の値は、0.9以上1.1以下である、すなわち、副振動系13の固有振動数は、主振動系12の固有振動数の±10%以内であるのが好ましい。従って、弾性支承部材3は、副振動系13の固有振動数が主振動系12の固有振動数の±10%以内となるような剛性を有するのが好ましい。
【0032】
ここで、ケーブルトレイが地震で振動したときの挙動について説明する。ケーブルトレイが設置されている建物に地震動が作用すると、ケーブルトレイには、水平方向(
図1の左右方向)に作用する振動である水平地震動が天井5から入力される。
【0033】
従来のケーブルトレイ(すなわち、弾性支承部材3を備えないケーブルトレイ)は、天井5から水平地震動が入力されると、水平方向に変位や加速度を生じるといった応答をする。特に、固定部11である天井5から離れた部位であるサポート部材4の下端部で応答が大きくなり、サポート部材4の天井5との接続部での応力が増大する。強大な地震動が作用すると、サポート部材4の天井5との接続部の付近で許容値を超える応力が生じ、サポート部材4が損傷する可能性がある。
【0034】
本実施例によるケーブルトレイは、天井5から水平地震動が入力されると、従来のケーブルトレイと同様に応答をし、特にサポート部材4の下端部で応答が大きくなる。しかし、本実施例によるケーブルトレイでは、副振動系13(トレイ2A、トレイ2Aに収納されたケーブル1、及び弾性支承部材3)が動吸振器として作用するので、主振動系12と副振動系13の相互作用によって主振動系12の応答が抑制され、ケーブルトレイ全体の振動を抑制することができる。
【0035】
以上説明したように、本実施例によるケーブルトレイでは、サポート部材4が固定されている部分から最も離れた位置にあるトレイ2Aは、弾性支承部材3が設置されており、弾性支承部材3を介してサポート部材4に固定されている。このため、本実施例によるケーブルトレイでは、副振動系13であるトレイ2A、トレイ2Aに収納されたケーブル1、及び弾性支承部材3は、地震時に動吸振器として動作し、主振動系12であるサポート部材4、トレイ2B、トレイ2C、及びトレイ2B、2Cに収納されたケーブル1の地震時の応答を抑制することができ、高い耐震性を有する。
【0036】
また、本実施例によるケーブルトレイでは、トレイ2Aと、トレイ2Aに収納されたケーブル1を副振動系13の質量8Bとして扱うので、動吸振器である副振動系13に質量を付加する場合には、サポート部材4を変更せずに質量を付加することができる。このため、既設のケーブルトレイを本実施例によるケーブルトレイに容易に変更することができる。すなわち、本実施例によるケーブルトレイは、既設のケーブルトレイに容易に適用することができる。
【0037】
本実施例によるケーブルトレイでは、トレイ2Aとサポート部材4との間に、所望の剛性と減衰特性を有する弾性支承部材3が設置されており、動吸振器である副振動系13が構成されている。このため、ケーブルトレイに必要なスペースが増大せずに、高い耐震性を有して配置性に優れている。
【0038】
図4は、本実施例によるケーブルトレイの、収納したケーブル1の延伸方向に平行な面での断面図(立断面図)である。
図4には、ケーブルトレイのうち、トレイ2A、2B、2Cが4本のサポート部材4A、4B、4C、4Dに支持されている部分を示している。
【0039】
サポート部材4A~4Dの上端部は、天井5に固定されている。トレイ2Aとサポート部材4A、4B、4C、4Dとの間には、弾性支承部材3A、3B、3C、3Dがそれぞれ設置されている。トレイ2Aは、サポート部材4A~4Dが固定されている部分(天井5)から最も離れた位置にあるトレイ2である。トレイ2Aは、弾性支承部材3A~3Dを介してサポート部材4A~4Dに固定されている。トレイ2B、2Cは、弾性支承部材3を介さずにサポート部材4A~4Dに直接固定されている。
【0040】
図5Aは、本実施例によるケーブルトレイの、収納したケーブル1の延伸方向に垂直な面での断面図であり、弾性支承部材3の付近を拡大して示す図である。
図5Bは、本実施例によるケーブルトレイの、収納したケーブル1の延伸方向に平行な面での断面図であり、弾性支承部材3の付近を拡大して示す図である。
【0041】
弾性支承部材3は、トレイ2Aとサポート部材4の載置部41とにボルト14で締結されて固定されている。
【0042】
弾性支承部材3は、トレイ2に収納されたケーブル1の延伸方向に垂直な方向と平行な方向で、剛性が互いに異なるのが好ましい。本実施例によるケーブルトレイでは、トレイ2に収納されたケーブル1の延伸方向に垂直な方向と平行な方向とで、サポート部材4の剛性が互いに異なり、ケーブルトレイの固有振動数も互いに異なる。このため、これらのそれぞれの方向に対して、副振動系13の固有振動数が主振動系12の固有振動数の±10%以内となるような剛性を弾性支承部材3が有するようにすると、弾性支承部材3は、トレイ2に収納されたケーブル1の延伸方向に垂直な方向の剛性と平行な方向の剛性が互いに異なる。
【0043】
弾性支承部材3は、トレイ2に収納されたケーブル1の延伸方向に垂直な方向と平行な方向で剛性が互いに異なると、この延伸方向に垂直な面での断面積と平行な面での断面積が互いに異なる。どちらの断面積が大きいかは、サポート部材4の剛性に応じて決まる。本実施例では、垂直な面での断面積(
図5A)は、平行な面での断面積(
図5B)よりも小さい。
【0044】
弾性支承部材3は、トレイ2に収納されたケーブル1の延伸方向に垂直な方向と平行な方向で剛性(又は断面積)が互いに異なることで、これらの方向のそれぞれ対して、副振動系13が、主振動系12の応答低減効果の大きい固有振動数を持つようにすることができ、主振動系12の振動をより効果的に抑制できて、ケーブルトレイの耐震性を向上させることができる。
【0045】
弾性支承部材3の剛性は、例えば、トレイ2とサポート部材4の固有振動数を打撃試験にて測定することで、設定することができる。打撃試験は、例えば、複数のサポート部材4にわたるケーブルトレイの部分について(例えば、
図4のサポート部材4A~4Cの部分について)実施する。弾性支承部材3は、例えば、打撃試験で測定されたトレイ2とサポート部材4の固有振動数、トレイ2の質量、及びトレイ2に収納されたケーブル1の質量などを用いて設定された剛性を持つことができる。
【0046】
続いて、本実施例によるケーブルトレイが床に固定された例について説明する。
【0047】
図6は、本実施例によるケーブルトレイの、収納したケーブル1の延伸方向に垂直な面での断面図(立断面図)である。
図6に示すケーブルトレイは、設置場所である床6に固定されている。
【0048】
サポート部材4は、下端部が床6に接続されて固定されている。
【0049】
3つのトレイ2A、2B、2Cのうち、サポート部材4が固定されている部分(
図6では設置場所である床6)から最も離れた位置にあるトレイ2Cには、サポート部材4との間に弾性支承部材3が設置されている。すなわち、トレイ2Cは、弾性支承部材3を介してサポート部材4に固定されている。他の全てのトレイ2A、2Bは、弾性支承部材3を介さずにサポート部材4に直接固定されている。弾性支承部材3は、トレイ2Cの振動を抑制する。
【0050】
床6に固定された本実施例によるケーブルトレイ(
図6)の振動モデルは、天井5に固定された本実施例によるケーブルトレイの振動モデル(
図3)において、上下を反転させた構成を有する。主振動系12は、サポート部材4、トレイ2A、トレイ2B、及びトレイ2A、2Bに収納されたケーブル1で構成されており、固定部11である床6に固定されている。副振動系13は、トレイ2C、トレイ2Cに収納されたケーブル1、及び弾性支承部材3で構成されている。
【0051】
床6に固定されたケーブルトレイ(
図6)において、地震時にケーブルトレイの振動を抑制する原理は、天井5に固定されたケーブルトレイ(
図1~
図3)と同じである。このため、本実施例によるケーブルトレイは、床6に固定されていても、配置性に優れ、高い耐震性を有する。
【0052】
続いて、本実施例によるケーブルトレイが壁に固定された例について説明する。
【0053】
図7は、本実施例によるケーブルトレイの、収納したケーブル1の延伸方向に垂直な面での断面図(立断面図)である。
図7に示すケーブルトレイは、設置場所である壁7に固定されている。
【0054】
サポート部材4は、水平方向(
図7の左右方向)の一端部が壁7に接続されて固定されている。
【0055】
3つのトレイ2A、2B、2Cのうち、トレイ2Aには、サポート部材4との間に弾性支承部材3が設置されている。すなわち、トレイ2Aは、弾性支承部材3を介してサポート部材4に固定されている。他の全てのトレイ2B、2Cは、弾性支承部材3を介さずにサポート部材4に直接固定されている。弾性支承部材3は、トレイ2Aの振動を抑制する。
【0056】
壁7に固定されたケーブルトレイでは、トレイ2A~2Cが高さ方向(
図7の上下方向)に並んで配置されており、サポート部材4が固定されている部分(
図7では設置場所である壁7)から最も離れた位置にあるトレイ2を定めることが困難である。すなわち、壁7に固定されたケーブルトレイでは、サポート部材4との間に弾性支承部材3を設置するトレイ2を決めることが難しい。
【0057】
しかし、複数のトレイ2のうち少なくとも1つのトレイ2(
図7では、トレイ2A)が弾性支承部材3を介してサポート部材4に固定され、他の全てのトレイ2(
図7では、トレイ2B、2C)が弾性支承部材3を介さずにサポート部材4に直接固定されていることで、ケーブルトレイの振動を抑制することができる。
図7に示すケーブルトレイでは、主振動系12は、サポート部材4、トレイ2B、トレイ2C、及びトレイ2B、2Cに収納されたケーブル1で構成され、副振動系13は、トレイ2A、トレイ2Aに収納されたケーブル1、及び弾性支承部材3で構成されている。地震時には、副振動系13が動吸振器として動作することで、主振動系12の振動を抑制することができ、ケーブルトレイ全体の振動を抑制して耐震性を向上させることができる。
【0058】
なお、ケーブルトレイが壁7に固定された場合には、複数のトレイ2のうち、どのトレイ2に弾性支承部材3が設置されてもよい。すなわち、壁7に固定されたケーブルトレイでは、複数のトレイ2のうち、任意の少なくとも1つのトレイ2が弾性支承部材3を介してサポート部材4に固定され、他の全てのトレイ2が弾性支承部材3を介さずにサポート部材4に直接固定されていればよい。
【0059】
次に、本実施例によるケーブルトレイが、水平方向に複数のトレイ2を備える例について説明する。このケーブルトレイは、天井5、床6、及び壁7などの設置場所に固定することができるが、以下では、このケーブルトレイが天井5に固定された例について説明する。
【0060】
図8は、水平方向に複数のトレイ2を備える本実施例によるケーブルトレイの、収納したケーブル1の延伸方向に垂直な面での断面図(立断面図)である。
図8に示すケーブルトレイは、6つのトレイ2A、2B、2C、2D、2E、2Fを備える。ケーブルトレイが多くのトレイ2を備える場合には、
図8に示すように、水平方向(
図8の左右方向)に複数のトレイ2を並べて設置することがある。
【0061】
トレイ2A、2B、2Cは、この順で下から上に並んでサポート部材4に支持されている。トレイ2D、2E、2Fは、この順で下から上に並んでサポート部材4に支持されている。トレイ2A、2B、2Cとトレイ2D、2E、2Fは、それぞれ水平方向に並んで設置されている。
【0062】
サポート部材4は、水平方向に並んだトレイ2A、2B、2Cとトレイ2D、2E、2Fを支持し、上端部が天井5に接続されて固定されている。
【0063】
6つのトレイ2A~2Fのうち、サポート部材4が固定されている部分(
図8では設置場所である天井5)から最も離れた位置にあるトレイ2A、2Dには、トレイ2A、2Dとサポート部材4との間に弾性支承部材3が設置されている。すなわち、トレイ2A、2Dは、弾性支承部材3を介してサポート部材4に固定されている。他の全てのトレイ2B、2C、2E、2Fは、弾性支承部材3を介さずにサポート部材4に直接固定されている。弾性支承部材3は、トレイ2A、2Dの振動を抑制する。
【0064】
図8に示すケーブルトレイでは、主振動系12は、サポート部材4、トレイ2B、トレイ2C、トレイ2E、トレイ2F、及びトレイ2B、2C、2E、2Fに収納されたケーブル1で構成され、副振動系13は、トレイ2A、トレイ2D、トレイ2A、2Dに収納されたケーブル1、及び弾性支承部材3で構成されている。地震時には、副振動系13が動吸振器として動作することで、主振動系12の振動を抑制することができ、ケーブルトレイ全体の振動を抑制して耐震性を向上させることができる。
【0065】
以上の説明(
図7に示すケーブルトレイの説明を除く)では、複数のトレイ2のうち、サポート部材4が固定されている部分から最も離れた位置にあるトレイ2にのみ弾性支承部材3が設置されているケーブルトレイについて述べた。本実施例によるケーブルトレイでは、サポート部材4が固定されている部分から最も離れた位置にあるトレイ2以外のトレイ2にも、弾性支承部材3を設置することができる。以下では、本実施例によるケーブルトレイとして、サポート部材4が固定されている部分から最も離れた位置にあるトレイ2と、このトレイ2以外のトレイ2に、弾性支承部材3が設置されているケーブルトレイの例を説明する。以下の説明では、一例として、天井5に固定されたケーブルトレイについて述べる。
【0066】
図9は、本実施例によるケーブルトレイの、収納したケーブルの延伸方向に垂直な面での断面図(立断面図)であり、高さ方向(
図9の上下方向)の複数のトレイ2に弾性支承部材3が設置されているケーブルトレイを示す図である。
図9に示すケーブルトレイは、
図1に示したケーブルトレイと同様の構成を備えるが、トレイ2Aだけでなくトレイ2Bにも弾性支承部材3が設置されている点で構成が異なる。
【0067】
3つのトレイ2A、2B、2Cのうち、サポート部材4が固定されている部分(
図9では設置場所である天井5)から最も離れた位置にあるトレイ2Aと、トレイ2Aの上方にあるトレイ2Bには、サポート部材4との間に弾性支承部材3が設置されている。すなわち、トレイ2A、2Bは、弾性支承部材3を介してサポート部材4に固定されている。他のトレイ2Cは、弾性支承部材3を介さずにサポート部材4に直接固定されている。弾性支承部材3は、トレイ2A、2Bの振動を抑制する。
【0068】
図9に示すケーブルトレイでは、サポート部材4、トレイ2C、及びトレイ2Cに収納されたケーブル1が、主振動系12を構成する。そして、トレイ2A、トレイ2Aに収納されたケーブル1、及びトレイ2Aに設置された弾性支承部材3が第1の副振動系13を構成し、トレイ2B、トレイ2Bに収納されたケーブル1、及びトレイ2Bに設置された弾性支承部材3が第2の副振動系13を構成する。第1の副振動系13と第2の副振動系13は、主振動系12に並列に接続されている。
【0069】
地震時には、これら2つの副振動系13が動吸振器として動作して主振動系12と相互作用を起こすことで、主振動系12の振動を抑制する。このため、
図9に示すケーブルトレイは、例えば
図1に示した1つの副振動系13を備えるケーブルトレイよりも、主振動系12の振動を抑制する効果が大きく高い耐震性を有し、より強大な地震動に対しても効果的にケーブルトレイの振動を抑制することができる。
【0070】
以上の実施例では、3つ又は6つのトレイ2を備えるケーブルトレイを説明したが、本実施例によるケーブルトレイは、任意の複数のトレイ2を備えることができる。また、以上の実施例では、サポート部材4が基本的な構成要素(例えば載置部41)を備える例を説明したが、サポート部材4は、斜材や耐震サポート部材などの補強部材を備えてもよい。サポート部材4が補強部材を備えていると、本実施例によるケーブルトレイは、より高い耐震性を有することができる。
【0071】
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能である。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、削除したり、他の構成を追加・置換したりすることが可能である。
1…ケーブル、2、2A~2F…トレイ、3、3A~3D…弾性支承部材、4、4A~4D…サポート部材、5…天井、6…床、7…壁、8A、8B…質量、9A、9B…ばね、10A、10B…ダッシュポット、11…固定部、12…主振動系、13…副振動系、14…ボルト、41…載置部。