(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056256
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】排水処理方法および排水処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20240416BHJP
B01D 61/02 20060101ALI20240416BHJP
B01D 53/50 20060101ALI20240416BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20240416BHJP
C02F 1/04 20230101ALI20240416BHJP
【FI】
C02F1/44 E ZAB
B01D61/02 500
B01D53/50 230
B01D53/78
C02F1/04 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163004
(22)【出願日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】000143972
【氏名又は名称】株式会社ササクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110001597
【氏名又は名称】弁理士法人アローレインターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】早水 基頼
【テーマコード(参考)】
4D002
4D006
4D034
【Fターム(参考)】
4D002AA02
4D002AA09
4D002AA12
4D002AC01
4D002AC02
4D002BA02
4D002CA07
4D002DA02
4D002DA12
4D002EA13
4D002FA10
4D002GB09
4D006GA03
4D006JA58Z
4D006KA01
4D006KA02
4D006KA72
4D006KB11
4D006KB14
4D006KB18
4D006KB19
4D006KE15Q
4D006PA01
4D006PB08
4D006PB28
4D006PC80
4D034AA14
4D034CA12
4D034CA13
(57)【要約】
【課題】 排水に含まれる硫酸イオンの分離を効率良く行うことができる排水処理装置を提供する。
【解決手段】 硫酸イオンを含有しアルカリの添加によりpH調整された排水が貯留される容器10と、容器10に貯留された排水が通水されるナノろ過膜20とを備え、ナノろ過膜20のNF膜透過水の少なくとも一部が容器10に還流するように構成された排水処理装置1である。容器10には、例えば、排ガスを洗浄して再利用される排水に水酸化ナトリウムを添加して貯留することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸イオンを含有しアルカリの添加によりpH調整された排水を容器に貯留する貯留工程と、
前記容器に貯留された排水をナノろ過膜に通水してNF膜透過水を生成するNF膜通水工程と、
生成されたNF膜透過水の少なくとも一部を前記容器に還流させる第1の還流工程とを備える排水処理方法。
【請求項2】
前記貯留工程は、排ガスを洗浄して再利用される排水に水酸化ナトリウムを添加して前記容器に貯留する工程を備える請求項1に記載の排水処理方法。
【請求項3】
前記NF膜通水工程で生成されたNF膜透過水の少なくとも一部を蒸発濃縮して蒸留水と蒸発濃縮水とに分離する蒸発濃縮工程と、
前記蒸発濃縮工程で分離された蒸留水を前記容器に還流させる第2の還流工程とを更に備える請求項1または2に記載の排水処理方法。
【請求項4】
硫酸イオンを含有しアルカリの添加によりpH調整された排水が貯留される容器と、
前記容器に貯留された排水が通水されるナノろ過膜とを備え、
前記ナノろ過膜のNF膜透過水の少なくとも一部が前記容器に還流するように構成された排水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理方法および排水処理装置に関し、より詳しくは、硫酸イオンを含有する排水を処理する排水処理方法および排水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
排水中に含まれる硫酸イオンを低減する装置として、例えば、特許文献1に開示された排ガス処理装置が知られている。この排ガス処理装置は、排煙脱硫部および膜処理部を備えている。排煙脱硫部は、燃焼排ガスを洗浄水で洗浄して、硫酸イオンを含有する脱硫排水を排出する。膜処理部は、排煙脱硫部から排出された脱硫排水を、硫酸イオンが低減された透過水と、硫酸イオンが濃縮された濃縮水とに膜分離する分離膜を備えており、濃縮水は排煙脱硫部に供給される一方、透過水は排水として排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の排煙脱硫部としては、湿式スクラバーが従来から広く知られている。湿式スクラバーは、排ガスと洗浄水とを気液接触させるように構成されており、排ガスを洗浄した脱硫排水は、湿式スクラバーの容器内に貯留され、循環されて排ガスの洗浄に再利用される。再利用を繰り返し行うことで脱硫排水のpH値が低下した場合には、水酸化ナトリウム等のアルカリ剤を添加してpH調整が行われる。
【0005】
ところが、添加した水酸化ナトリウムは、脱硫排水に含まれる硫酸イオンと反応して、芒硝(Na2SO4・10H2O)を主成分とする固形分を生じさせるため、脱硫排水を再利用することでこの固形分が蓄積されて、脱硫効率が低下し易いという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、排水に含まれる硫酸イオンの分離を効率良く行うことができる排水処理方法および排水処理装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の前記目的は、硫酸イオンを含有しアルカリの添加によりpH調整された排水を容器に貯留する貯留工程と、前記容器に貯留された排水をナノろ過膜に通水してNF膜透過水を生成するNF膜通水工程と、生成されたNF膜透過水の少なくとも一部を前記容器に還流させる第1の還流工程とを備える排水処理方法により達成される。
【0008】
この排水処理方法において、前記貯留工程は、排ガスを洗浄して再利用される排水に水酸化ナトリウムを添加して前記容器に貯留する工程を備えることが好ましい。
【0009】
更に、前記NF膜通水工程で生成されたNF膜透過水の少なくとも一部を蒸発濃縮して蒸留水と蒸発濃縮水とに分離する蒸発濃縮工程と、前記蒸発濃縮工程で分離された蒸留水を前記容器に還流させる第2の還流工程とを備えることが好ましい。
【0010】
また、本発明の前記目的は、硫酸イオンを含有しアルカリの添加によりpH調整された排水が貯留される容器と、前記容器に貯留された排水が通水されるナノろ過膜とを備え、前記ナノろ過膜のNF膜透過水の少なくとも一部が前記容器に還流するように構成された排水処理装置により達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の排水処理方法および排水処理装置によれば、排水に含まれる硫酸イオンの分離を効率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る排水処理装置の概略構成図である。
【
図2】本発明の他の実施形態に係る排水処理装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る排水処理装置の概略構成図である。
図1に示すように、排水処理装置1は、排水が貯留される容器10と、容器10に貯留された排水が通水されるNF膜(ナノろ過膜)20とを備えている。
【0014】
容器10は、充填物11を内部に備える湿式スクラバーである。容器10内に貯留された排水は、循環ポンプ12の作動により循環されて充填物11に散布される。一方、外部から導入された排ガスは下方より充填物11に供給され排水と気液接触した後、外部に排出される。充填物11は、効率よく気液接触できれば特に限定されず、ラシヒリング、ポールリングなどを用いることができる。容器10内の排水には、アルカリ添加ライン14から水酸化ナトリウム等のアルカリを添加して、例えば弱酸性から中性の範囲にpH調整することができる。pH調整された排水は、循環ポンプ12の作動により循環されて再利用される。
【0015】
容器10に導入される排ガスは、例えば、焼却炉、溶融炉、ボイラ、ガスタービン、エンジン等から排出される排ガスであり、燃料や原料等に由来して、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)、ホウ素(B)、二酸化炭素(CO2)などが含まれているため、排ガスが充填物11を通過することにより、これらの成分が排水に吸収されて、排ガスから除去することができる。
【0016】
一方、容器10内の排水は、排ガス中の成分が溶解して循環することにより、硫酸イオン等の濃度が徐々に増加するため、廃液ポンプ13の作動により、一部が廃液として外部に排出される。容器10には、廃液として排出される分の洗浄水を適宜補充することができる。洗浄水は、例えば工業用水からなり、ろ過装置51によりカルシウム等の硬度成分や鉄・マンガン等が除去された後、容器10に導入されて、容器10に貯留されている排水に混合される。
【0017】
容器10は、例えば排ガスを別工程で溶解させた排水を貯留する水槽等であってもよく、本実施形態の湿式スクラバーには限定されない。また、必ずしも排ガス処理に使用される容器に限定されるものではなく、硫酸イオンを含有してアルカリの添加によりpH調整される排水を貯留する容器であれば、本発明を好適に適用することができる。
【0018】
NF膜20は、平膜や中空糸膜等からなり、ケーシング21内に設けられてNF膜モジュールを構成する。容器10に貯留された排水は、給水ポンプ52の作動により、熱交換器53、イオン交換樹脂54および保安フィルタ55を経て高圧ポンプ56に送水され、高圧ポンプ56により昇圧されて、NF膜20に通水される。熱交換器53は、冷却水との熱交換により排水を冷却する。冷却水は、例えば工業用水を使用することができ、熱交換後の工業用水を容器10に導入してもよい。イオン交換樹脂54は、排水に含まれる重金属等を除去する。
【0019】
排水がNF膜20を透過して生成されたNF膜透過水は、タンク57に貯留された後、還流ポンプ58の作動により一部が容器10に循環され、残部が外部に排出される。容器10へのNF膜透過水の循環量は、開閉弁59の開度調整により制御することができる。排水がNF膜20を透過せずに濃縮されたNF膜濃縮液は、外部に排出される。NF膜20を透過したNF膜透過水は、全量を容器10に戻してもよい。
【0020】
次に、上記の排水処理装置1を用いた排水処理方法を説明する。容器10に貯留される排水は、排ガスとの接触により硫黄酸化物等が溶解して硫酸イオンを含有する。この排水は、アルカリ添加ライン14から水酸化ナトリウム等のアルカリを添加することによりpH調整されて、容器10内に貯留される。こうして、貯留工程が行われる。
【0021】
ついで、容器10に貯留された排水を、給水ポンプ52および高圧ポンプ56の作動によりNF膜20に通水して、NF膜透過水を生成するNF膜通水工程を行う。NF膜通水工程は、容器10において排ガス処理が行われている間、連続的あるいは断続的に行うことができ、あるいは、排ガス処理の終了後に行うことができる。
【0022】
この後、NF膜通水工程により生成されたNF膜透過水を、還流ポンプ58の作動により容器10に還流させる第1の還流工程を行う。第1の還流工程も、容器10において排ガスの処理が行われている間、連続的あるいは断続的に行うことができ、あるいは、排ガス処理の終了後に行うことができる。
【0023】
上記のNF膜通水工程においては、NF膜20が、排水に含まれる1価イオンを透過し易い一方で、硫酸イオン等の2価以上のイオンの透過を抑制するため、生成されたNF膜透過水を第1の還流工程により容器10に戻すことで、容器10内の排水に含まれる硫酸イオンの濃度を低下させることができる。このように、排水に含まれる硫酸イオンの分離を効率良く行うことで、排水への水酸化ナトリウムの添加に伴う容器10内での芒硝(Na2SO4・10H2O)の発生を確実に防止することができる。これにより、容器10内での排ガス処理を、良好且つ継続的に行うことができる。
【0024】
図2は、本発明の他の実施形態に係る排水処理装置の概略構成図である。
図2に示す排水処理装置101は、
図1に示す排水処理装置1において、NF膜透過水を蒸発濃縮する蒸発濃縮装置30と、蒸発濃縮装置30で生成された蒸発濃縮水を冷却晶析する冷却晶析装置31と、冷却晶析装置31で生成された析出物を固液分離してろ液を生成する固液分離装置32とを更に備えている。
図2において、
図1と同様の構成部分には同一の符号を付して、繰り返しの説明を省略する。
【0025】
蒸発濃縮装置30は、還流ポンプ58の作動により容器10に循環されないNF膜透過水の一部を蒸発濃縮する。蒸発濃縮装置30は、NF膜透過水を蒸発させて蒸留水と蒸発濃縮水とに分離可能であれば、具体的な構成は特に限定されるものではなく、管外蒸発式、管内蒸発式、フラッシュ式蒸発式などのプロセスに蒸気圧縮器や機械圧縮器(ターボ式、ルーツ式)を組み合わせたものなどを例示することができる。蒸発濃縮装置30へのNF膜透過水の供給量は、開閉弁33の開度調整により制御することができる。あるいは、開閉弁59の操作により容器10へのNF膜透過水の還流量を調整することで、蒸発濃縮装置30へのNF膜透過水の供給量を制御することもできる。更に、2つの開閉弁33,59の操作を組み合わせて、容器10への還流量および蒸発濃縮装置30への供給量をそれぞれ制御してもよい。蒸発濃縮装置30には、容器10に循環されないNF膜透過水の全量を供給してもよい。
【0026】
蒸発濃縮装置30で発生した蒸留水の一部は、容器10に供給される。容器10への蒸留水の供給量は、開閉弁34の開度調整により制御することができる。容器10には、蒸発濃縮装置30で発生した蒸留水の全量を供給してもよい。
【0027】
冷却晶析装置31は、例えば、ジャケット式や真空式などの公知の構成であり、蒸発濃縮装置30で分離された蒸発濃縮水を冷却晶析する。排ガスとの接触により排水に硫酸イオン以外にホウ素が含まれている場合、排水中のホウ素の一部がNF膜20を透過して硫酸イオンから分離されることにより、蒸発濃縮水にはホウ素が含有されるので、冷却晶析装置31においてホウ酸を晶析させることができる。冷却晶析装置31の冷却晶析温度は、例えば45℃以下である。
【0028】
固液分離装置32は、冷却晶析装置31で冷却晶析が行われた蒸発濃縮水からホウ酸を主体とする析出物を分離して、ろ液を生じさせる。固液分離装置32の具体的な構成は、加圧ろ過(フィルタープレス)、真空ろ過、遠心ろ過などの各種ろ過装置や、デカンター型のような遠心分離装置などを例示することができる。
【0029】
図2に示す排水処理装置101を用いた排水処理方法は、上記の貯留工程、NF膜通水工程および第1の還流工程に加えて、NF膜透過水を蒸発濃縮装置30で蒸発濃縮して蒸留水と蒸発濃縮水とに分離する蒸発濃縮工程と、蒸発濃縮装置30で分離された蒸留水を容器10に還流させる第2の還流工程とを備えることができる。蒸発濃縮工程で発生する蒸留水を第2の還流工程で容器10に戻すことにより、容器10に供給する洗浄水の量を低減することができる。
【0030】
第1の還流工程および第2の還流工程において、それぞれがNF膜透過水および蒸留水を容器10に戻す量は、排ガスの成分等によって変化するため、容器10内の排水の硫酸イオン濃度やホウ素濃度をセンサにより常時検出しながら、開閉弁33,34,59の操作をリアルタイムに制御してもよい。
【符号の説明】
【0031】
1,101 排水処理装置
10 容器
20 ナノろ過膜
30 蒸発濃縮装置