(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056261
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】RFタグ移動方向推定システム
(51)【国際特許分類】
G01S 13/75 20060101AFI20240416BHJP
G06K 7/10 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
G01S13/75
G06K7/10 268
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163016
(22)【出願日】2022-10-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年5月17日から19日にThe 16thIEEE Internation-al Conference on RFID(IEEE RFID 2022)にて発表 〔刊行物等〕 令和4年5月26日から27日に第191回マルチメディア通信と分散処理・第103回モバイルコンピューティングと新社会システム・第89回高度交通システムとスマートコミュニティ合同研究発表会にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】515067262
【氏名又は名称】学校法人名古屋電気学園
(74)【代理人】
【識別番号】100111095
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 光男
(72)【発明者】
【氏名】内藤 克浩
(72)【発明者】
【氏名】三輪 悠季奈
(72)【発明者】
【氏名】水野 虹太
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB10
5J070AC17
5J070AE09
5J070AF01
5J070AK24
5J070BC13
(57)【要約】
【課題】RFタグの移動方向をより精度よく推定すること可能なRFタグ移動方向推定システムを提供する。
【解決手段】RFタグ移動方向推定システム2は、RFタグからの応答信号についての受信信号強度の時系列データであるRSSI時系列データと、RFタグに係る所定の位相値の時系列データであるPAV時系列データとを取得可能に構成される。また、RFタグ移動方向推定システム2は、PAV時系列データに基づく位相値のピークタイミングと、RSSI時系列データに基づく受信信号強度のピークタイミングとで時間差を生じさせるべく、少なくともRFタグの通過が想定される対象領域内において、場所による電波環境の特徴を生じさせるように構成される。そして、両ピークタイミングの時間差を用いて、RFタグの移動方向が推定される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RFタグの移動方向を推定するためのRFタグ移動方向推定システムであって、
所定の対象領域に向けて配置され、当該対象領域に向けた信号の送信と、当該信号を受信したことに応答してRFタグから発信される応答信号の受信とが可能に構成された指向性アンテナと、
前記指向性アンテナによって受信される前記応答信号についての受信信号強度を取得することで、当該受信信号強度の時系列データであるRSSI時系列データを取得するRSSI取得手段と、
前記指向性アンテナによって前記対象領域に向けて送信される信号と前記指向性アンテナによって受信される前記応答信号との位相差に対応する値である位相値を取得することで、当該位相値の時系列データであるPAV時系列データを取得するPAV取得手段と、
前記PAV時系列データに基づく前記位相値のピークタイミングと、前記RSSI時系列データに基づく前記受信信号強度のピークタイミングとで時間差を生じさせるべく、前記対象領域内に位置するRFタグと前記指向性アンテナとの間の通信に係る電波環境に不均一性を生成することで、少なくとも前記対象領域内において、場所による電波環境の特徴を生じさせる不均一性生成手段と、
前記PAV時系列データに基づく前記位相値のピークタイミングと、前記RSSI時系列データに基づく前記受信信号強度のピークタイミングとの時間差を用いて、前記対象領域におけるRFタグの移動方向を推定する移動方向推定手段とを備えることを特徴とするRFタグ移動方向推定システム。
【請求項2】
前記指向性アンテナは、前記対象領域に対応して1つのみ設けられており、
前記不均一性生成手段は、前記対象領域における前記RFタグの想定移動方向に対し傾いた状態で設置された前記指向性アンテナによって構成されていることを特徴とする請求項1に記載のRFタグ移動方向推定システム。
【請求項3】
前記指向性アンテナは、前記想定移動方向に対し30°以上50°以下傾いた状態で設置されていることを特徴とする請求項2に記載のRFタグ移動方向推定システム。
【請求項4】
前記PAV取得手段により取得可能な前記位相値は、所定の最小値から所定の最大値までの範囲のものであり、
前記PAV時系列データに含まれる1の前記位相値が、当該位相値の1つ前に取得された前記位相値に対し、予め設定された所定の閾値以上変動している場合に、前記位相値を補正して、補正後PAV時系列データを生成するPAV補正手段を備え、
前記補正後PAV時系列データに基づき、前記位相値のピークタイミングを得ることを特徴とする請求項1に記載のRFタグ移動方向推定システム。
【請求項5】
前記RSSI時系列データに基づき、当該RSSI時系列データにおける前記受信信号強度の変化態様に近似する二次近似式を生成する近似式算出手段を有し、
前記近似式算出手段は、最小二乗法を用いて前記二次近似式を生成し、
前記二次近似式に基づき、前記受信信号強度のピークタイミングを得ることを特徴とする請求項1に記載のRFタグ移動方向推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RFタグの移動方向を推定するためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物流業界やアパレル業界などでは、在庫管理や商品の精算管理などを行うべく、UHF(Ultra High Frequency)帯などの電波を利用したRFID(Radio Frequency I-dentification)が用いられている。RFIDは、リーダーとRFタグとが無線通信を行うことにより、RFタグの個体識別を可能とする技術である。
【0003】
近年では、リーダーによるRFタグの読み取り精度が向上しており、これに伴いRFタグにおける移動や停止といった状態を推定することが可能となっている。
【0004】
RFタグの移動方向を推定するシステムとしては、例えば、複数のアンテナを面状に配置するとともに、これら複数のアンテナを介してRFタグを順次読み取り、RFタグの読み取りを行ったアンテナの位置に基づき、RFタグの移動方向を検出する技術が提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、RFタグの移動方向を推定するシステムにおいては、移動方向の推定精度をより高めることが求められている。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、RFタグの移動方向をより精度よく推定することが可能なRFタグ移動方向推定システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記目的を解決するのに適した各手段につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する手段に特有の作用効果を付記する。
【0009】
手段1.RFタグの移動方向を推定するためのRFタグ移動方向推定システムであって、
所定の対象領域に向けて配置され、当該対象領域に向けた信号の送信と、当該信号を受信したことに応答してRFタグから発信される応答信号の受信とが可能に構成された指向性アンテナと、
前記指向性アンテナによって受信される前記応答信号についての受信信号強度を取得することで、当該受信信号強度の時系列データであるRSSI時系列データを取得するRSSI取得手段と、
前記指向性アンテナによって前記対象領域に向けて送信される信号と前記指向性アンテナによって受信される前記応答信号との位相差に対応する値である位相値を取得することで、当該位相値の時系列データであるPAV時系列データを取得するPAV取得手段と、
前記PAV時系列データに基づく前記位相値のピークタイミングと、前記RSSI時系列データに基づく前記受信信号強度のピークタイミングとで時間差を生じさせるべく、前記対象領域内に位置するRFタグと前記指向性アンテナとの間の通信に係る電波環境に不均一性を生成することで、少なくとも前記対象領域内において、場所による電波環境の特徴を生じさせる不均一性生成手段と、
前記PAV時系列データに基づく前記位相値のピークタイミングと、前記RSSI時系列データに基づく前記受信信号強度のピークタイミングとの時間差を用いて、前記対象領域におけるRFタグの移動方向を推定する移動方向推定手段とを備えることを特徴とするRFタグ移動方向推定システム。
【0010】
上記手段1によれば、不均一性生成手段によって、対象領域内に位置するRFタグと指向性アンテナとの間の通信に係る電波環境に不均一性が生成されることで、少なくとも対象領域内において、場所による電波環境の特徴を生じさせることができる。これにより、位相値のピークタイミングと受信信号強度のピークタイミングとの時間差をより確実に生じさせることができる。そして、位相値のピークタイミングと受信信号強度のピークタイミングとの時間差を用いて、RFタグの移動方向が推定される。そのため、RFタグの移動方向をより精度よく推定することができる。
【0011】
また、上記手段1によれば、各環境に合わせた面倒な設定を行う必要がなくなり、システムの導入に係る容易性を向上させることができるといった作用効果をも奏される。すなわち、対象領域内におけるRFタグの位置が同一であっても、周囲環境に存在するモノの材質や電波環境などの影響により、受信信号強度や位相値に変動が生じることがある。そのため、仮に受信信号強度及び位相値のうちの一方のみを用いてRFタグの移動方向を精度よく推定可能とするためには、各環境に合わせて細かな設定を行う必要がある。これに対し、位相値及び受信信号強度の各ピークタイミングの時間差については、周囲環境による値の変動がほとんど生じない。従って、上記手段1によれば、各環境に合わせた面倒な設定を行う必要がなくなり、システムの導入に係る容易性を向上させることが可能となる。
【0012】
尚、不均一性生成手段は、次述する手段2のように指向性アンテナによって構成されていてもよい。従って、不均一性生成手段及び指向性アンテナは、必ずしも別々のものである必要はない。
【0013】
手段2.前記指向性アンテナは、前記対象領域に対応して1つのみ設けられており、
前記不均一性生成手段は、前記対象領域における前記RFタグの想定移動方向に対し傾いた状態で設置された前記指向性アンテナによって構成されていることを特徴とする手段1に記載のRFタグ移動方向推定システム。
【0014】
上記手段2によれば、指向性アンテナは対象領域に対応して1つのみ設けられており、この1の指向性アンテナをRFタグの想定移動方向に対し傾けることで、電波環境に不均一性を生成している。従って、比較的簡便な手法により、比較的低コストで、かつ、指向性アンテナの設置スペースとしてさほど大きなスペースを要することなく、電波環境に不均一性を生成することができる。これにより、システムの導入に係る作業負担やコストの低減、設置自由度の向上を図ることができる。
【0015】
手段3.前記指向性アンテナは、前記想定移動方向に対し30°以上50°以下傾いた状態で設置されていることを特徴とする手段2に記載のRFタグ移動方向推定システム。
【0016】
上記手段3によれば、位相値及び受信信号強度の各ピークタイミングをより容易に取得することができるとともに、各ピークタイミングに大きな時間差を生じさせることがより確実に可能となる。そのため、RFタグの移動方向の推定精度を一層高めることができる。
【0017】
手段4.前記PAV取得手段により取得可能な前記位相値は、所定の最小値から所定の最大値までの範囲のものであり、
前記PAV時系列データに含まれる1の前記位相値が、当該位相値の1つ前に取得された前記位相値に対し、予め設定された所定の閾値以上変動している場合に、前記位相値を補正して、補正後PAV時系列データを生成するPAV補正手段を備え、
前記補正後PAV時系列データに基づき、前記位相値のピークタイミングを得ることを特徴とする手段1に記載のRFタグ移動方向推定システム。
【0018】
上記手段4によれば、PAV取得手段により取得可能な位相値は、所定の最小値から所定の最大値までの範囲のものとされている。従って、RFタグが移動しているときにおいて、位相値が実際には前記最小値を下回る、或いは、前記最大値を上回るような段階になると、PAV取得手段により取得される位相値が、当該位相値の1つ前に取得された位相値に対し、大幅に変動する。そのため、取得された位相値をそのまま用いて、位相値のピークタイミングを求めることが比較的困難となり得る。
【0019】
この点、上記手段4によれば、位相値のピークタイミングを得るにあたって、位相値の補正を行ってなる補正後PAV時系列データが用いられる。従って、位相値のピークタイミングをより容易にかつより正確に得ることができる。その結果、RFタグの移動方向を一層精度よく推定することができる。
【0020】
手段5.前記RSSI時系列データに基づき、当該RSSI時系列データにおける前記受信信号強度の変化態様に近似する二次近似式を生成する近似式算出手段を有し、
前記近似式算出手段は、最小二乗法を用いて前記二次近似式を生成し、
前記二次近似式に基づき、前記受信信号強度のピークタイミングを得ることを特徴とする手段1に記載のRFタグ移動方向推定システム。
【0021】
実際の計測値に基づき受信信号強度のピークタイミングを求めようとすると、ピークタイミング又はそれに近いタイミングにて同一値の受信信号強度が連続的に計測されたときに、正確なピークタイミングを得ることが困難となり得る。
【0022】
この点、上記手段5によれば、最小二乗法を用いて生成された二次近似式に基づき、受信信号強度のピークタイミングが得られる。従って、受信信号強度のピークタイミングをより正確に得ることができる。その結果、RFタグの移動方向をより一層精度よく推定することができる。
【0023】
尚、上記各手段に係る技術事項を適宜組み合わせてもよい。従って、例えば、上記手段2又は3に係る技術事項と、上記手段4又は5に係る技術事項とを組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】店舗及び店舗内の商品などを概略的に示す斜視模式図である。
【
図2】店舗及び店舗内の商品などを概略的に示す平面模式図である。
【
図3】盗難防止システムの機能構成を示すブロック図である。
【
図4】指向性アンテナの位置などを示すための斜視模式図である。
【
図5】指向性アンテナの位置などを示すための平面模式図である。
【
図7】指向性アンテナのゲインを示すグラフである。
【
図8】PAV時系列データの一例を示すグラフである。
【
図9】RSSI時系列データの一例を示すグラフである。
【
図10】位相値の補正について説明するためのグラフである。
【
図11】位相値の補正について説明するためのグラフである。
【
図12】補正後PAV時系列データなどの一例を示すグラフである。
【
図13】RSSI時系列データに対応する二次近似式の一例を示すグラフである。
【
図14】RFタグが左方向に移動する場合において、それぞれ簡略化した補正後PAV時系列データ及び二次近似式を示すグラフである。
【
図15】RFタグが右方向に移動する場合において、それぞれ簡略化した補正後PAV時系列データ及び二次近似式を示すグラフである。
【
図16】試験装置の概略構成を示す斜視模式図である。
【
図17】傾斜角度などを説明するための平面模式図である。
【
図19】別の実施形態において、不均一性生成手段を構成する指向性アンテナについて説明するための斜視模式図である。
【
図20】別の実施形態において、不均一性生成手段を構成する指向性アンテナについて説明するための平面模式図である。
【
図21】別の実施形態において、指向性アンテナの配置位置を説明するための平面模式図である。
【
図22】別の実施形態において、指向性アンテナの配置位置を説明するための斜視模式図である。
【
図23】別の実施形態において、指向性アンテナの配置位置を説明するための斜視模式図である。
【
図24】別の実施形態において、指向性アンテナの配置位置を説明するための斜視模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1及び
図2に示すように、盗難防止システム1は、例えばアパレルショップなどの店舗100に適用されており、当該店舗100内から衣服などの各種商品101が持ち出されて盗難されることを防止するためのシステムである。尚、各商品101のそれぞれには、所定のRFタグ102(
図6参照)が1つずつ予め取付けられている。まず、盗難防止システム1の説明に先立って、RFタグ102について説明する。
【0026】
図6に示すように、RFタグ102は、情報を記憶するための集積回路102aと、当該集積回路102aに接続されたアンテナ102bとを有している。集積回路102aには、RFタグ102を識別するためのタグ識別用情報〔例えば、Electronic Production Code(EPC)など〕や、RFタグ102が取付けられた商品101を識別するための商品識別用情報などが記憶されている。
【0027】
アンテナ102bは、集積回路102aに記憶された情報の読み取り及び集積回路102aに対する情報の書き込みを非接触で外部から行うために設けられている。アンテナ102bは、後述する指向性アンテナ22から送信された信号(電波)を受信するとともに、当該信号に応答して所定の応答信号を送信(発信)する機能を有する。応答信号には、少なくとも前記タグ識別用情報が含まれる。
【0028】
次いで、盗難防止システム1について説明する。
図3に示すように、盗難防止システム1は、RFタグ移動方向推定システム2及び管理システム3などを備えている。
【0029】
RFタグ移動方向推定システム2は、商品101に取付けられたRFタグ102の移動方向、特に後述するゲート100aを通過するRFタグ102の移動方向を推定するためのシステムである。RFタグ移動方向推定システム2は、リーダーライター21、指向性アンテナ22及びデータ処理システム23を備えている。本実施形態では、リーダーライター21が「RSSI取得手段」及び「PAV取得手段」を構成する。
【0030】
リーダーライター21は、RFタグ102の集積回路102aに対する情報の書込み及び集積回路102aに記憶された情報の読み取りを行うための装置である。リーダーライター21としては、例えば、Impinj社製のSpeedway Revolution R420などを採用することができる。リーダーライター21は、後述する制御モジュール231によって制御されており、RFタグ102(集積回路102a)に記憶された情報を取得するための信号(Queryコマンド)を所定の短時間ごと(例えば数ms~数十msごと)に送信するように指向性アンテナ22を制御する。信号(Queryコマンド)の送信に応答してRFタグ102から発信された応答信号は、指向性アンテナ22によって受信される。上記の通り、RFタグ102から発信された応答信号にはタグ識別用情報(EPC)などが含まれる。
【0031】
また、リーダーライター21は、前記応答信号に関する受信信号強度〔Received Sign-al Strength Indicator(RSSI)〕及び位相値(Phase Angle Values)を取得する。位相値とは、指向性アンテナ22から後述の対象領域100bに向けて送信される信号と、この信号への応答としてRFタグ102から発信されて、指向性アンテナ22によって受信される応答信号との位相差に対応する値である。リーダーライター21により取得された受信信号強度及び位相値は、タグ識別用情報と関連付けられた上で、制御モジュール231を介して後述する読取情報記憶装置232へと順次記憶される。
【0032】
尚、本実施形態において、リーダーライター21により取得される位相値は、反転させた位相差に対応するものである。勿論、リーダーライター21によって、非反転の位相差に対応するものを取得する構成としてもよい。また、本実施形態において、リーダーライター21により取得可能な位相値は、所定の最小値(例えば0)から所定の最大値(例えば2π)までの範囲のものである。
【0033】
指向性アンテナ22は、対象領域100bに向けた信号(電波)の送信及び当該信号を受信したことに応答してRFタグ102から発信される応答信号の受信などを行う平面型のアンテナである。指向性アンテナ22としては、例えば、Yeon社製のYap-101Pなどを採用することができる。指向性アンテナ22を利用しているのは、リーダーライター21によって取得される受信信号強度を十分に大きなものとする等の理由による。尚、受信信号強度は、指向性アンテナ22からの受信電力に関係するパラメータであるため、指向性アンテナ22のゲイン(利得)によって変動する。
【0034】
指向性アンテナ22は、
図1,4,5等に示すように、店舗100の出入り口を構成するゲート100aの側方において、所定の対象領域100bに向けて配置されている。本実施形態において、対象領域100bは、ゲート100aを構成する一対の柵の間に位置する領域であって、商品101に取付けられたRFタグ102の通過が想定される領域である。尚、
図4等では、対象領域100bを大まかに示している。また、本実施形態において、指向性アンテナ22は、対象領域100bに対応して1つのみ設けられている。
【0035】
指向性アンテナ22は、指向性正面方向(0°方向)にてゲイン(利得)が最大となり、指向性正面方向を基準としてゲインが左右でほぼ対称となるものである(
図7参照)。そして、指向性アンテナ22は、対象領域100bにおけるRFタグ102の想定移動方向AD(
図4,5等において黒塗り矢印で示す方向)に対し傾いた状態で設置されている。本実施形態において、想定移動方向ADに対する指向性アンテナ22の傾斜角度αは、30°以上50°以下とされている。
【0036】
上記のように指向性アンテナ22を傾けることで、少なくとも対象領域100bにおいて指向性アンテナ22の左右でゲインの不均衡が生じ、対象領域100b内に位置するRFタグ102と指向性アンテナ22との間の通信に係る電波環境に不均一性が生成される。その結果、少なくとも対象領域100b内において、場所による電波環境(特に受信信号強度)の特徴が生じる。本実施形態では、想定移動方向ADに対し傾いた状態で設置された指向性アンテナ22によって「不均一性生成手段」が構成される。
【0037】
上記のような場所による電波環境の特徴が生じることで、RFタグ102の位置による受信信号強度の変化態様と、RFタグ102の位置による位相値の変化態様とに異なる特徴が生じる。その結果、位相値のピークタイミングと受信信号強度のピークタイミングとの時間差を生じさせることができ、また、その時間差を比較的大きなものとすることができる。
【0038】
より詳しくは、位相値は、信号の波長と指向性アンテナ22及びRFタグ102間の距離とに関するパラメータであるため、指向性アンテナ22及びRFタグ102の相対位置関係の影響を強く受ける。そのため、対象領域100bをRFタグ102が通過したとき、位相値の変化態様に対応する後述の補正後PAV時系列データ(
図12参照)において、位相値がピークとなるタイミングは、指向性アンテナ22及びRFタグ102が最も接近したときとなる。尚、本実施形態において、位相値は反転した位相差に対応するものであるため、位相値のピークは上向きとなるが、位相値が非反転の位相差に対応するものであれば、位相値のピークは下向きとなる。但し、どちらの態様のピークであっても、ピークとなるタイミング自体に変わりはない。
【0039】
一方、上記の通り、受信信号強度は、指向性アンテナ22のゲインによって変動する。そのため、対象領域100bをRFタグ102が通過したとき、受信信号強度の変化態様に対応する後述の二次近似式(
図13参照)において、受信信号強度がピークとなるタイミングは、RFタグ102が指向性アンテナ22の指向性正面を通過するときとなる。
【0040】
このように場所による電波環境の特徴を生じさせることで、RFタグ102の位置による受信信号強度の変化態様と、RFタグ102の位置による位相値の変化態様とに異なる特徴を生じさせることができ、ひいては、位相値のピークタイミングと受信信号強度のピークタイミングとの時間差をより確実に生じさせることができる。
【0041】
データ処理システム23は、所定の演算処理を実行するCPU(Central Processing Unit)、各種プログラムや固定値データ等を記憶するROM(Read Only Memory)、各種演算処理の実行に際して各種データが一時的に記憶されるRAM(Random Access Memory)、情報を記憶するための記憶装置及びこれらの周辺回路等を含んだコンピュータや、入出力装置及び表示装置などからなる。データ処理システム23は、制御モジュール231、読取情報記憶装置232、PAV補正部233、近似式算出部234及び移動方向推定部235を備えている。本実施形態では、PAV補正部233が「PAV補正手段」を構成し、近似式算出部234が「近似式算出手段」を構成し、移動方向推定部235が「移動方向推定手段」を構成する。尚、制御モジュール231、PAV補正部233、近似式算出部234及び移動方向推定部235による各種機能は、上記CPU、ROM、RAMなどの各種ハードウェアと前記記憶装置に予め記憶されたソフトウェアとが協働することで実現される。
【0042】
制御モジュール231は、リーダーライター21の動作を制御するとともに、リーダーライター21により取得された受信信号強度及び位相値を、同様にリーダーライター21により取得されたタグ用識別情報と関連付けて読取情報記憶装置232に記憶する。これにより、対象領域100bを通過するRFタグ102について、受信信号強度及び位相値の経時的な遷移を把握することができる。
【0043】
読取情報記憶装置232は、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等で構成されており、受信信号強度や位相値を順次記憶する。これにより、読取情報記憶装置232には、位相値(Phase Angle Values)の時系列データであるPAV時系列データ(
図8参照)や、受信信号強度(RSSI)の時系列データであるRSSI時系列データ(
図9参照)が記憶された状態となる。RSSI時系列データ及びPAV時系列データは、個々のRFタグ102ごとに管理される。
【0044】
尚、上記の通り、リーダーライター21により取得可能な位相値は、所定の最小値から所定の最大値までの範囲のものであるため、実際の位相値が前記最小値を下回る又は前記最大値を上回る場合には、PAV時系列データにおける位相値が大幅に変動することになる。また、RSSI時系列データにおいては、ピークタイミング又はそれに近いタイミングにて連続的に計測された受信信号強度が同一値となることがある。
【0045】
加えて、読取情報記憶装置232は、PAV補正部233で生成される、次述する補正後PAV時系列データや、近似式算出部234で生成される、後述の二次近似式を記憶可能とされている。
【0046】
PAV補正部233は、読取情報記憶装置232に記憶されたPAV時系列データを補正することで、補正後PAV時系列データを生成する。より詳しくは、PAV補正部233は、PAV時系列データに含まれる1の位相値が、当該位相値の1つ前に取得された位相値(直前位相値)に対し、予め設定された所定の閾値P(th)(例えば0.55π)以上増大している場合に、前記1の位相値以降に取得された各位相値に対し、それぞれ所定の補正値(例えば2π)を減算する補正を行う。つまり、PAV補正部233は、前記1の位相値から前記直前位相値を減算した値P(diff)が閾値+P(th)以上となる場合、前記1の位相値以降に取得された各位相値に対し、それぞれ所定の補正値を減算する補正を行う(
図10参照)。
【0047】
一方、PAV補正部233は、PAV時系列データに含まれる1の位相値が直前位相値に対し、前記閾値P(th)(例えば0.55π)以上減少している場合に、前記1の位相値以降に取得された各位相値に対し、それぞれ所定の補正値(例えば2π)を加算する補正を行う。つまり、PAV補正部233は、前記1の位相値から前記直前位相値を減算した値P(diff)が-P(th)以下となる場合、前記1の位相値以降に取得された各位相値に対し、それぞれ所定の補正値を加算する補正を行う(
図11参照)。
【0048】
上記のように位相値の補正を行うことで、位相値が滑らかに変動する補正後PAV時系列データ(
図12参照)を生成することができる。
図12では、補正後PAV時系列データの一例を太線で示している。尚、
図12では、参考として、補正前のPAV時系列データの一例を細線で示している。
【0049】
近似式算出部234は、読取情報記憶装置232に記憶されたRSSI時系列データに基づき、当該RSSI時系列データにおける受信信号強度の変化態様に近似する二次近似式を生成する。より詳しくは、近似式算出部234は、最小二乗法を用いて二次近似式を生成する。最小二乗法とは、モデル関数をf(x)としたとき、次の数式(1)が最小となるようなf(x)を求める手法である。
【0050】
【0051】
近似式算出部234は、RSSI時系列データを構成する複数の受信信号強度を数式(1)におけるyiとして用いて、二次近似式(
図13参照)を生成する。
図13では、二次近似式の一例を示している。
【0052】
移動方向推定部235は、対象領域100bにおけるRFタグ102の移動方向を推定する。本実施形態において、移動方向推定部235は、指向性アンテナ22との間で対象領域100bを挟む位置から見て、RFタグ102の移動方向が左方向(店舗100内から店舗100外に向けた方向)であるか、右方向(店舗100外から店舗100内に向けた方向)であるかを推定する。
【0053】
RFタグ102の移動方向を推定するにあたって、移動方向推定部235は、
図14,15に示すように、補正後PAV時系列データに基づき、位相値のピークタイミングTpを得る。
図14,15では、簡略化した補正後PAV時系列データを細線で示し、簡略化した前記二次近似式を太線で示している。上記の通り、補正後PAV時系列データはPAV時系列データから生成されるため、結果的に、移動方向推定部235は、PAV時系列データに基づき、位相値のピークタイミングTpを得ているといえる。
【0054】
また、移動方向推定部235は、前記二次近似式に基づき、受信信号強度のピークタイミングTrを得る。上記の通り、前記二次近似式はRSSI時系列データから生成されるため、結果的に、移動方向推定部235は、RSSI時系列データに基づき受信信号強度のピークタイミングTrを得ているといえる。
【0055】
次いで、移動方向推定部235は、位相値のピークタイミングTpに対する受信信号強度のピークタイミングTpの時間差T(diff)(=Tp-Tr)を算出する。
【0056】
ここで、対象領域100bにおいてRFタグ102が左方向(店舗100内から店舗100外に向けた方向)に移動する場合、RFタグ102は、まず、指向性アンテナ22の指向性正面を通過した後に、指向性アンテナ22に最も接近することになる。従って、RFタグ102が左方向に移動した場合、受信信号強度のピークタイミングTrの後に位相値のピークタイミングTpが表れるため、Tp>Trを満たすこととなる(
図14参照)。そのため、移動方向推定部235は、算出した時間差T(diff)が正数である場合には、RFタグ102が左方向に移動したと推定する。
【0057】
一方、対象領域100bにおいてRFタグ102が右方向(店舗100外から店舗100内に向けた方向)に移動する場合、RFタグ102は、まず、指向性アンテナ22に最も接近し、その後に指向性アンテナ22の指向性正面を通過することになる。従って、RFタグ102が右方向に移動した場合、位相値のピークタイミングTpの後に受信信号強度のピークタイミングTrが表れるため、Tp<Trを満たすこととなる(
図15参照)。そのため、移動方向推定部235は、算出した時間差T(diff)が負数である場合には、RFタグ102が右方向に移動したと推定する。
【0058】
移動方向推定部235によるRFタグ102の移動方向に係る推定結果は、移動方向の推定対象となったRFタグ102のタグ識別情報に関連付けて、管理システム3(特に後述する判定部33)へと送られる。
【0059】
尚、PAV補正部233、近似式算出部234及び移動方向推定部235による、補正後PAV時系列データや二次近似式の生成、RFタグ102の移動方向の推定は、所定の条件を満たしたときに行われる。所定の条件としては、移動方向の推定対象となるRFタグ102に関し、通信圏外に出た状態になったこと、信号の送受信開始から所定時間が経過したこと、受信信号強度や位相値のデータ数が所定個数以上となったこと、取得した受信信号強度や位相値が所定の閾値を上回ってから所定時間が経過したことなどを挙げることができる。勿論、所定の条件として、上記以外の条件を採用してもよい。
【0060】
次いで、管理システム3などについて説明する。管理システム3は、店舗100内から店舗100外へと持ち出された商品101が適切に精算処理のなされたものであるか否かを確認するとともに、当該商品101の精算処理が適切に行われていない場合に、所定の報知処理を行うシステムである。管理システム3は、CPU、ROM、RAM等を有するコンピュータシステムによって構成することができる。管理システム3の詳細な説明に先立って、まず、商品101の精算に利用される商品情報記憶装置4及び精算装置5について説明する。
【0061】
図3に示すように、商品情報記憶装置4及び精算装置5は、各種情報を送受信可能に構成されている。商品情報記憶装置4は、少なくとも商品識別用情報及び商品価格を関連付けて記憶している。商品情報記憶装置4は、精算装置5から商品識別用情報が送信されると、当該商品識別用情報に関連付けられた商品価格に関する情報を精算装置5へと返信する。尚、管理システム3が、商品情報記憶装置4を有する構成としてもよい。
【0062】
精算装置5は、店舗100内に設置されており(
図1等参照)、商品101を購入する際に商品101の代金支払いに用いられる装置である。本実施形態における精算装置5は、いわゆるセルフレジであり、所定の商品収容スペース、RFタグ102に記憶された情報の読取装置、情報の表示装置及び代金の受領装置などを具備している。精算装置5は、前記商品収容スペースに商品101が収容されると、当該商品101に取付けられたRFタグ102の情報を読み取る。そして、精算装置5は、読み取った情報に含まれる商品識別用情報を商品情報記憶装置4に送信するとともに、商品情報記憶装置4から商品価格に関する情報を受信する。この商品価格は、情報の読取対象となったRFタグ102が取付けられている商品101の価格を示す。そして、精算装置5は、商品収容スペースに収容された全ての商品101についての商品価格を取得すると、取得した商品価格を合算すること等により、支払金額を算出する。また、精算装置5は、支払金額を前記表示装置にて表示する。
【0063】
そして、精算装置5は、前記受領装置を用いて現金やクレジットカード等により商品101の代金が支払われると、代金支払いが完了した商品101に取付けられたRFタグ102に係るタグ識別用情報を、管理システム3における次述する精算情報記憶装置31へと送信する。
【0064】
次いで、管理システム3についてより詳しく説明する。管理システム3は、RFタグ移動方向推定システム2及び精算装置5との間で各種信号を送受信可能に構成されており、精算情報記憶装置31、報知部32及び判定部33を備えている。
【0065】
精算情報記憶装置31は、精算装置5から送信されたタグ識別用情報を記憶する。つまり、精算情報記憶装置31は、代金支払いの完了した商品101に取付けられているRFタグ102を識別するための情報を記憶する。
【0066】
報知部32は、盗難の疑いのある事態が発生したことを外部に報知する機能を具備する。本実施形態において、報知部32は、従業員などが携帯する端末装置などに対し前記事態の発生を示す情報を送信することで、前記事態の発生を外部(従業員など)に報知する。尚、報知部32は、前記事態の発生を外部に報知可能なものであればよく、例えば音声や視覚情報などを利用して、前記事態の発生を外部に報知するものであってもよい。
【0067】
判定部33は、移動方向推定部235から送信された情報と、精算情報記憶装置31に記憶された情報とに基づき、盗難の疑いのある事態が発生したか否かを判定する。より詳しくは、判定部33は、移動方向推定部235から、RFタグ102の移動方向に係る推定結果として、左方向(店舗100内から店舗100外に向けた方向)への移動という情報を受信すると、所定の確認処理を実行する。つまり、判定部33は、店舗100内から店舗100外へと持ち出されるようにして商品101及びRFタグ102が移動しているものと移動方向推定部235によって推定された場合、所定の確認処理を実行する。
【0068】
確認処理では、推定結果に関連付けられたRFタグ102のタグ識別用情報を用いて、当該RFタグ102が取付けられた商品101の代金支払いが完了しているか否かが判定される。すなわち、判定部33は、精算情報記憶装置31に記憶されたタグ識別用情報を参酌し、推定結果に関連付けられたRFタグ102のタグ識別用情報と同一のタグ識別用情報が精算情報記憶装置31に記憶されているか否かを判定する。そして、推定結果に関連付けられたRFタグ102のタグ識別用情報と同一のタグ識別用情報が精算情報記憶装置31に記憶されている場合、判定部33は、当該RFタグ102が取付けられた商品101の代金支払いが完了していると判定する。
【0069】
一方、推定結果に関連付けられたRFタグ102のタグ識別用情報と同一のタグ識別用情報が精算情報記憶装置31に記憶されていない場合、判定部33は、当該RFタグ102が取付けられた商品101の代金支払いが完了していないと判定するとともに、報知部32を動作させる。これにより、盗難の疑いのある事態が発生したことが外部に報知される。
【0070】
また、本実施形態において、判定部33は、移動方向推定部235から、RFタグ102の移動方向に係る推定結果として、右方向(店舗100外から店舗100内に向けた方向)への移動という情報を受信した場合には、前記確認処理を実行しないようになっている。
【0071】
以上詳述したように、本実施形態によれば、想定移動方向ADに対し傾いた状態で設置された指向性アンテナ22によって、対象領域100b内に位置するRFタグ102と指向性アンテナ22との間の通信に係る電波環境に不均一性が生成されることで、少なくとも対象領域100b内において、場所による電波環境の特徴を生じさせることができる。これにより、位相値のピークタイミングと受信信号強度のピークタイミングとの時間差をより確実に生じさせることができる。そして、移動方向推定部235により、位相値のピークタイミングに対する受信信号強度のピークタイミングの時間差を用いて、RFタグ102の移動方向が推定される。そのため、RFタグ102の移動方向をより精度よく推定することができる。
【0072】
また、本実施形態によれば、各環境に合わせた面倒な設定を行う必要がなくなり、RFタグ移動方向推定システム2の導入に係る容易性を向上させることができるといった作用効果をも奏される。すなわち、対象領域100b内におけるRFタグ102の位置が同一であっても、周囲環境に存在するモノの材質や電波環境などの影響により、受信信号強度や位相値に変動が生じることがある。そのため、仮に受信信号強度及び位相値のうちの一方のみを用いてRFタグ102の移動方向を精度よく推定可能とするためには、各環境に合わせて細かな設定を行う必要がある。これに対し、位相値及び受信信号強度の各ピークタイミングの時間差については、周囲環境による値の変動がほとんど生じない。従って、本実施形態によれば、各環境に合わせた面倒な設定を行う必要がなくなり、RFタグ移動方向推定システム2の導入に係る容易性を向上させることが可能となる。
【0073】
加えて、指向性アンテナ22は対象領域100bに対応して1つのみ設けられており、この1の指向性アンテナ22をRFタグ102の想定移動方向ADに対し傾けることで、電波環境に不均一性を生成している。従って、比較的簡便な手法により、比較的低コストで、かつ、指向性アンテナ22の設置スペースとしてさほど大きなスペースを要することなく、電波環境に不均一性を生成することができる。これにより、RFタグ移動方向推定システム2の導入に係る作業負担やコストの低減、設置自由度の向上を図ることができる。
【0074】
また、想定移動方向ADに対する指向性アンテナ22の傾斜角度αが30°以上50°以下とされているため、位相値及び受信信号強度の各ピークタイミングをより容易に取得することができるとともに、各ピークタイミングに大きな時間差を生じさせることがより確実に可能となる。そのため、RFタグ102の移動方向の推定精度を一層高めることができる。
【0075】
加えて、本実施形態では、位相値のピークタイミングを得るにあたって、位相値の補正を行ってなる補正後PAV時系列データが用いられる。従って、位相値のピークタイミングをより容易にかつより正確に得ることができる。その結果、RFタグ102の移動方向を一層精度よく推定することができる。
【0076】
さらに、本実施形態では、最小二乗法を用いて生成された二次近似式に基づき、受信信号強度のピークタイミングが得られる。従って、受信信号強度のピークタイミングをより正確に得ることができる。その結果、RFタグ102の移動方向をより一層精度よく推定することができる。
【0077】
次いで、上記実施形態によって奏される作用効果を確認すべく、次のような試験を行った。すなわち、
図16に示すように、想定移動方向ADに対する指向性アンテナ22の傾斜角度α(
図17参照)を10°~70°の範囲で10°ずつ変更しながら、RFタグ102が取付けられた所定のスライダSLを想定移動方向ADに沿って移動させることで、RFタグ102を左から右へと移動させること(Left to Right)、及び、RFタグ102を右から左へと移動させること(Right to Left)をそれぞれ100回ずつ行った。そして、移動方向推定部235により推定されたRFタグ102の移動方向が、RFタグ102の実際の移動方向と一致した回数(正答数)を求めるとともに、この正答数に基づき移動方向の推定精度(=正答数/100)を算出した。
【0078】
尚、この試験は、指向性アンテナ22の周囲に存在するモノの数が比較的少ない場所(Place A)、及び、指向性アンテナ22の周囲に存在するモノの数が比較的多い場所(Pla-ce B)のそれぞれで行った。また、RFタグ102の移動速度を0.5m/sとし、床面から指向性アンテナ22(の中心)までの高さ、及び、床面からRFタグ102までの高さをそれぞれ0.6mとした。さらに、指向性アンテナ22からRFタグ102までの最短距離が0.9mとなるように、スライダSLの位置を設定した。
図18に、Place A及びPlace Bのそれぞれにおいて、RFタグ102を左から右へと移動させたときの推定精度と、RFタグ102を右から左へと移動させたときの推定精度とをそれぞれ示す。
【0079】
図18に示すように、全ての傾斜角度αにおいて、推定精度が90%以上となり、RFタグ102の移動方向を精度よく推定可能であることが確認された。
【0080】
また、傾斜角度αを30°以上50°以下に設定した場合には、推定精度が100%となり、RFタグ102の移動方向を非常に精度よく推定可能であることが分かった。これは、位相値のピークタイミングと受信信号強度のピークタイミングとの時間差がより大きく表れやすくなったことによると考えられる。
【0081】
以上の試験結果より、RFタグ102の移動方向を精度よく推定可能とするためには、指向性アンテナ22を傾けること等によって場所による電波環境の特徴を生じさせるとともに、位相値及び受信信号強度の各ピークタイミングの時間差を用いて、RFタグ102の移動方向を推定することが好ましいといえる。
【0082】
また、RFタグ102の移動方向の推定精度を一層向上させるという点では、想定移動方向ADに対する指向性アンテナ22の傾斜角度αを30°以上50°以下とすることが好ましいといえる。
【0083】
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
【0084】
(a)上記実施形態において、1の指向性アンテナ22は、対象領域100bの側方に配置されているが、対象領域100bの上方又は下方に配置されていてもよい。
【0085】
(b)上記実施形態では、想定移動方向ADに対し傾いた状態で設置された指向性アンテナ22によって「不均一性生成手段」が構成されているが、「不均一性生成手段」は、少なくとも対象領域100b内において、場所による電波環境の特徴を生じさせて、位相値のピークタイミングと受信信号強度のピークタイミングとの時間差を生じさせるものであればよい。
【0086】
従って、例えば、
図19,20に示すように、対象領域100b内にて、送信される信号同士を干渉させる位置関係で配置され、受信信号強度及び位相値の各ピークタイミングに時間差が生じるように構成された複数の指向性アンテナ221,222によって「不均一性生成手段」を構成してもよい。この場合、各指向性アンテナ221,222から同一信号を送信して、これら信号を干渉させる構成としてもよいし、各指向性アンテナ221,222から位相や振幅の異なる信号を送信することで、信号同士の干渉をより確実に発生させて、少なくとも対象領域100b内において、場所による電波環境の特徴をより確実に(より意識的に)生じさせる構成としてもよい。
【0087】
さらに、それぞれから送信される信号の位相や振幅が動的に制御されることで、対象領域100b内における特定範囲に対し信号(電波)をビーム状に(集中的に)送ることにより、受信信号強度及び位相値の各ピークタイミングに時間差が生じるように構成された複数の指向性アンテナによって「不均一性生成手段」を構成してもよい。この場合、複数の指向性アンテナに代えて、スマートアレーアンテナを用いてもよい。
【0088】
加えて、少なくとも対象領域100b内において、場所による電波環境の特徴を生じさせて、受信信号強度及び位相値の各ピークタイミングに時間差を生じさせるような加工が施された指向性アンテナによって「不均一性生成手段」を構成してもよい。このような指向性アンテナとしては、例えば、指向性正面方向を基準として、左右でゲインの傾向が異なる(例えば、右側ではゲインが比較的高い一方、左側ではゲインが比較的低い)ものなどを挙げることができる。
【0089】
尚、複数の指向性アンテナ221,222を用いる場合、
図19,20に示すように、各指向性アンテナ221,222を想定移動方向ADに沿って並べて配置してもよいし、
図21に示すように、各指向性アンテナ221,222を対象領域100bを挟む位置に配置してもよい。
【0090】
さらに、
図22に示すように、対象領域100bを上下に挟む位置に各指向性アンテナ221,222を配置してもよい。この場合、1の指向性アンテナ222を、床下などに配置してもよい。また、
図23に示すように、一方の指向性アンテナ221を対象領域100bの側方に配置し、他方の指向性アンテナ222を対象領域100bの上方又は下方に配置してもよい。さらに、
図24に示すように、一方の指向性アンテナ221を対象領域100bの側方に配置し、他方の指向性アンテナ222を想定移動方向ADに沿って対象領域100bの前方又は後方に配置してもよい。
【0091】
また、複数の指向性アンテナ221,222を用いる場合、リーダーライター21は、複数の指向性アンテナ221,222のうちのいずれかが受信した信号に基づき、受信信号強度及び位相値を取得するものであってもよいし、複数の指向性アンテナ221,222によって受信した各信号を合成して得た信号に基づき、受信信号強度及び位相値を取得するものであってもよい。
【0092】
勿論、指向性アンテナの数は、1つ又は2つに限定されず、3つ以上であってもよい。
【0093】
(c)上記実施形態において、RFタグ移動方向推定システム2は、盗難防止システム1に適用されているが、RFタグ移動方向推定システムの適用対象はこれに限定されるものではない。
【0094】
従って、例えば、倉庫における在庫管理、従業員などの出退勤管理、従業員などの在室管理などにRFタグ移動方向推定システムを適用してもよい。
【0095】
倉庫における在庫管理にRFタグ移動方向推定システムを適用する場合には、例えば、倉庫の出入口に対応して指向性アンテナを配置し、指向性アンテナを介して取得された位相値及び受信信号強度に基づき、当該出入口における、商品に付されたRFタグの移動方向を推定するといった構成とする。そして、この構成において、商品ひいてはRFタグが左方向(倉庫内から倉庫外へと向けた方向)に移動したことが推定された場合には、当該商品についての在庫数を1つ減少させる一方、商品ひいてはRFタグが右方向(倉庫外から倉庫内へと向けた方向)に移動したことが推定された場合には、当該商品についての在庫数を1つ増加させるなどの処理を行うことで、倉庫における在庫管理を行うことができる。
【0096】
また、従業員などの出退勤管理にRFタグ移動方向推定システムを適用する場合には、例えば、従業員等の出入口ゲートに対応して指向性アンテナを配置し、指向性アンテナを介して取得された位相値及び受信信号強度に基づき、当該出入口ゲートにおける、従業員などが携帯するRFタグの移動方向を推定するといった構成とする。そして、この構成において、従業員等ひいてはRFタグが左方向(例えば、社屋内から社屋外へと向けた方向)に移動したことが推定された場合には、当該従業員等が退勤したものとする一方、従業員等ひいてはRFタグが右方向(例えば、社屋外から社屋内へと向けた方向)に移動したことが推定された場合には、当該従業員等が出勤したものとするといった処理を行うことで、従業員などの出退勤管理を行うことができる。
【0097】
さらに、従業員などの在室管理にRFタグ移動方向推定システムを適用する場合には、例えば、部屋の出入口に対応して指向性アンテナを配置し、指向性アンテナを介して取得された位相値及び受信信号強度に基づき、当該出入口における、従業員などの携帯するRFタグの移動方向を推定するといった構成とする。そして、この構成において、従業員等ひいてはRFタグが左方向(例えば、部屋内から部屋外へと向けた方向)に移動したことが推定された場合には、当該従業員等が退室したとする一方、従業員等ひいてはRFタグが右方向(例えば、部屋外から部屋内へと向けた方向)に移動したことが推定された場合には、当該従業員等が入室したものとするといった処理を行うことで、従業員などの在室管理を行うことができる。
【0098】
また、RFタグ移動方向推定システムを用いて、購入された商品が店舗内から店舗外に移動したか否かを判定することで、店舗内における忘れ物の有無を推定可能としてもよい。例えば、判定部33により、所定時間ごとに、移動方向推定部235によって左方向(店舗100内から店舗100外に向けた方向)に移動したと推定されたRFタグ102のタグ識別用情報と、精算情報記憶装置31に記憶されたタグ識別用情報とを比較する処理がなされることで、代金支払いが完了しているにも関わらず、店舗100外へと持ち出されていない商品101(つまり忘れ物)が存在しているか否かを推定可能に構成してもよい。
【0099】
勿論、上述の用途以外の用途にRFタグ移動方向推定システムを適用してもよい。
【符号の説明】
【0100】
2…RFタグ移動方向推定システム、21…リーダーライター(RSSI取得手段、PAV取得手段)、22…指向性アンテナ(不均一性生成手段)、100b…対象領域、102…RFタグ、233…PAV補正部(PAV補正手段)、234…近似式算出部(近似式算出手段)、235…移動方向推定部(移動方向推定手段)。