(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056262
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】RFタグ状態推定システム
(51)【国際特許分類】
G01S 13/75 20060101AFI20240416BHJP
G06K 7/10 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
G01S13/75
G06K7/10 136
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163017
(22)【出願日】2022-10-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年5月17日から19日にThe 16thIEEE Internation-al Conference on RFID(IEEE RFID 2022)にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】515067262
【氏名又は名称】学校法人名古屋電気学園
(74)【代理人】
【識別番号】100111095
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 光男
(72)【発明者】
【氏名】内藤 克浩
(72)【発明者】
【氏名】水野 虹太
(72)【発明者】
【氏名】三輪 悠季奈
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB15
5J070AC17
5J070AD05
5J070AE09
5J070AF01
5J070AH19
5J070AK22
5J070BC06
5J070BC08
5J070BC16
5J070BC23
(57)【要約】
【課題】RFタグの状態をより精度よく推定すること可能なRFタグ状態推定システムを提供する。
【解決手段】RFタグ状態推定システム2は、RFタグからの応答信号についての受信信号強度の時系列データであるRSSI時系列データと、RFタグに係る所定の位相値の時系列データであるPAV時系列データとを取得可能に構成される。また、RFタグ移動方向推定システム2は、RFタグの通過が想定される対象領域内をRFタグが移動する際に、受信信号強度及び位相値の各変化態様に異なる特徴を生じさせるべく、対象領域内において、場所による電波環境の特徴を生じさせるように構成される。そして、RSSI時系列データに基づくRSSI統計値と、PAV時系列データに基づくPAV統計値とを特徴値として学習させて生成してなる学習モデルを用いて、RFタグの状態が推定される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RFタグの移動及び静止と、RFタグが移動した場合におけるRFタグの移動方向とを、RFタグの状態として推定するためのRFタグ状態推定システムであって、
所定の対象領域に向けて配置され、当該対象領域に向けた信号の送信と、当該信号を受信したことに応答してRFタグから発信される応答信号の受信とが可能に構成された指向性アンテナと、
前記指向性アンテナによって受信される前記応答信号についての受信信号強度を取得することで、当該受信信号強度の時系列データであるRSSI時系列データを取得するRSSI取得手段と、
前記指向性アンテナによって前記対象領域に向けて送信される信号と前記指向性アンテナによって受信される前記応答信号との位相差に対応する値である位相値を取得することで、当該位相値の時系列データであるPAV時系列データを取得するPAV取得手段と、
少なくとも前記対象領域内をRFタグが移動する際に、RFタグの位置による前記受信信号強度の変化態様と、RFタグの位置による前記位相値の変化態様とに異なる特徴を生じさせるべく、前記対象領域内に位置するRFタグと前記指向性アンテナとの間の通信に係る電波環境に不均一性を生成することで、少なくとも前記対象領域内において、場所による電波環境の特徴を生じさせる不均一性生成手段と、
前記RSSI時系列データに基づく統計値であるRSSI統計値を算出するRSSI統計値算出手段と、
前記PAV時系列データに基づく統計値であるPAV統計値を算出するPAV統計値算出手段と、
前記RSSI統計値と前記PAV統計値とを特徴値として学習させて生成してなる学習モデルを用いて、RFタグの状態を推定可能な状態推定手段とを有することを特徴とするRFタグ状態推定システム。
【請求項2】
前記状態推定手段は、ランダムフォレストを用いて構成された学習モデルを用いて、RFタグの状態を推定可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載のRFタグ状態推定システム。
【請求項3】
前記RSSI統計値は、前記RSSI時系列データ又はこれに基づくデータを、時間で分割してなる複数の分割RSSI時系列データに基づく統計値を含み、
前記PAV統計値は、前記PAV時系列データ又はこれに基づくデータを、時間で分割してなる複数の分割PAV時系列データに基づく統計値を含むことを特徴とする請求項1に記載のRFタグ状態推定システム。
【請求項4】
前記PAV取得手段により取得可能な前記位相値は、所定の最小値から所定の最大値までの範囲のものであり、
前記PAV時系列データに含まれる1の前記位相値が、当該位相値の1つ前に取得された前記位相値に対し、予め設定された所定の閾値以上変動している場合に、前記位相値を補正して、補正後PAV時系列データを生成するPAV補正手段を備え、
前記PAV統計値算出手段は、前記補正後PAV時系列データに基づき、前記PAV統計値を算出することを特徴とする請求項1に記載のRFタグ状態推定システム。
【請求項5】
前記RSSI統計値として、前記RSSI時系列データに係る平均値、最大値、最小値及び分散を用い、
前記PAV統計値として、前記PAV時系列データに係る平均値、最大値、最小値及び分散を用いることを特徴とする請求項1に記載のRFタグ状態推定システム。
【請求項6】
前記指向性アンテナは、前記対象領域に対応して1つのみ設けられており、
前記不均一性生成手段は、前記対象領域における前記RFタグの想定移動方向に対し傾いた状態で設置された前記指向性アンテナによって構成されていることを特徴とする請求項1に記載のRFタグ状態推定システム。
【請求項7】
前記指向性アンテナは、前記想定移動方向に対し30°以上70°以下傾いた状態で設置されていることを特徴とする請求項6に記載のRFタグ状態推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RFタグの移動及び静止と、RFタグが移動した場合におけるRFタグの移動方向とを、RFタグの状態として推定するためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物流業界やアパレル業界などでは、在庫管理や商品の精算管理などを行うべく、UHF(Ultra High Frequency)帯などの電波を利用したRFID(Radio Frequency I-dentification)が用いられている。RFIDは、リーダーとRFタグとが無線通信を行うことにより、RFタグの個体識別を可能とする技術である。
【0003】
近年では、リーダーによるRFタグの読み取り精度が向上しており、これに伴いRFタグにおける移動や停止といった状態を推定することが可能となっている。
【0004】
RFタグの状態を推定するシステムとしては、例えば、複数のアンテナを面状に配置するとともに、これら複数のアンテナを介してRFタグを順次読み取り、RFタグの読み取りを行ったアンテナの位置に基づき、RFタグの移動及び静止と、RFタグが移動した場合における当該RFタグの移動方向とを検出する技術が提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、RFタグの状態を推定するシステムにおいては、RFタグの状態推定に係る精度をより高めることが求められている。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、RFタグの状態をより精度よく推定することが可能なRFタグ状態推定システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記目的を解決するのに適した各手段につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する手段に特有の作用効果を付記する。
【0009】
手段1.RFタグの移動及び静止と、RFタグが移動した場合におけるRFタグの移動方向とを、RFタグの状態として推定するためのRFタグ状態推定システムであって、
所定の対象領域に向けて配置され、当該対象領域に向けた信号の送信と、当該信号を受信したことに応答してRFタグから発信される応答信号の受信とが可能に構成された指向性アンテナと、
前記指向性アンテナによって受信される前記応答信号についての受信信号強度を取得することで、当該受信信号強度の時系列データであるRSSI時系列データを取得するRSSI取得手段と、
前記指向性アンテナによって前記対象領域に向けて送信される信号と前記指向性アンテナによって受信される前記応答信号との位相差に対応する値である位相値を取得することで、当該位相値の時系列データであるPAV時系列データを取得するPAV取得手段と、
少なくとも前記対象領域内をRFタグが移動する際に、RFタグの位置による前記受信信号強度の変化態様と、RFタグの位置による前記位相値の変化態様とに異なる特徴を生じさせるべく、前記対象領域内に位置するRFタグと前記指向性アンテナとの間の通信に係る電波環境に不均一性を生成することで、少なくとも前記対象領域内において、場所による電波環境の特徴を生じさせる不均一性生成手段と、
前記RSSI時系列データに基づく統計値であるRSSI統計値を算出するRSSI統計値算出手段と、
前記PAV時系列データに基づく統計値であるPAV統計値を算出するPAV統計値算出手段と、
前記RSSI統計値と前記PAV統計値とを特徴値として学習させて生成してなる学習モデルを用いて、RFタグの状態を推定可能な状態推定手段とを有することを特徴とするRFタグ状態推定システム。
【0010】
上記手段1によれば、不均一性生成手段によって、対象領域内に位置するRFタグと指向性アンテナとの間の通信に係る電波環境に不均一性が生成されることで、少なくとも対象領域内において、場所による電波環境の特徴を生じさせることができる。これにより、少なくとも対象領域内をRFタグが移動する際に、RFタグの位置による受信信号強度の変化態様と、RFタグの位置による位相値の変化態様とに異なる特徴を生じさせることができる。そして、状態推定手段により、RSSI統計値とPAV統計値とを特徴値として学習させてなる学習モデルを用いて、RFタグの状態が推定される。ここで、上記のような不均一性生成手段を備えることで、RSSI統計値とPAV統計値とで異なる特徴をより明確に生じさせることができる。そのため、状態推定手段によって、RFタグの状態をより精度よく推定することができる。
【0011】
尚、指向性アンテナの周囲に多数のRFタグが存在している場合などには、単位時間当たりに取得される、1つのRFタグに係る受信信号強度や位相値のデータ数が比較的少ないものとなることがある。この点、上記手段1によれば、統計値(RSSI統計値及びPAV統計値)を用いるため、1つのRFタグに係る受信信号強度や位相値のデータ数が比較的少なくなるような場合であっても、指向性アンテナの周囲に位置する多数(例えば30個以上)のRFタグのそれぞれの状態を十分に精度よく推定することができる。換言すれば、上記手段1の構成は、指向性アンテナの周囲に多数のRFタグが存在し得る環境において、特に有効であるといえる。
【0012】
尚、不均一性生成手段は、後述する手段6のように指向性アンテナによって構成されていてもよい。従って、不均一性生成手段及び指向性アンテナは、必ずしも別々のものである必要はない。
【0013】
手段2.前記状態推定手段は、ランダムフォレストを用いて構成された学習モデルを用いて、RFタグの状態を推定可能に構成されていることを特徴とする手段1に記載のRFタグ状態推定システム。
【0014】
上記手段2によれば、RFタグの状態をより精度よく推定することができる。
【0015】
手段3.前記RSSI統計値は、前記RSSI時系列データ又はこれに基づくデータを、時間で分割してなる複数の分割RSSI時系列データに基づく統計値を含み、
前記PAV統計値は、前記PAV時系列データ又はこれに基づくデータを、時間で分割してなる複数の分割PAV時系列データに基づく統計値を含むことを特徴とする手段1に記載のRFタグ状態推定システム。
【0016】
上記手段3によれば、RSSI統計値として、RSSI時系列データ等を時間で分割してなる複数の分割RSSI時系列データに基づく統計値が用いられ、PAV統計値として、PAV時系列データ等を時間で分割してなる複数の分割PAV時系列データに基づく統計値が用いられる。例えば、前半の時間と後半の時間とでRSSI時系列データを分割することで、2つの分割RSSI時系列データを得る場合には、RSSI統計値として、前半の時間に対応する分割RSSI時系列データに基づく統計値と、後半の時間に対応する分割RSSI時系列データに基づく統計値とが用いられる。
【0017】
このように時系列データ又はこれに基づくデータを時間で分割した分割時系列データの統計値を利用することで、統計値において、受信信号強度や位相値の各変化態様における特徴がより明確に表れやすくなる。従って、RFタグの状態を一層精度よく推定することが可能となる。
【0018】
尚、「これに基づくデータ」としては、例えば、次述する手段4における「補正後PAV時系列データ」や、RSSI時系列データを補正(例えば誤差修正)してなる時系列データなどを挙げることができる。
【0019】
手段4.前記PAV取得手段により取得可能な前記位相値は、所定の最小値から所定の最大値までの範囲のものであり、
前記PAV時系列データに含まれる1の前記位相値が、当該位相値の1つ前に取得された前記位相値に対し、予め設定された所定の閾値以上変動している場合に、前記位相値を補正して、補正後PAV時系列データを生成するPAV補正手段を備え、
前記PAV統計値算出手段は、前記補正後PAV時系列データに基づき、前記PAV統計値を算出することを特徴とする手段1に記載のRFタグ状態推定システム。
【0020】
上記手段4によれば、PAV取得手段により取得可能な位相値は、所定の最小値から所定の最大値までの範囲のものとされている。従って、RFタグが移動しているときにおいて、位相値が実際には前記最小値を下回る、或いは、前記最大値を上回るような段階になると、PAV取得手段により取得される位相値が、当該位相値の1つ前に取得された位相値に対し、大幅に変動する。そのため、取得された位相値をそのまま用いて、位相値のピークタイミングを求めることが比較的困難となり得る。
【0021】
この点、上記手段4によれば、PAV統計値を算出するにあたって、位相値の補正を行ってなる補正後PAV時系列データが用いられる。従って、PAV統計値をより容易にかつより正確に得ることができる。その結果、RFタグの状態をより一層精度よく推定することができる。
【0022】
手段5.前記RSSI統計値として、前記RSSI時系列データに係る平均値、最大値、最小値及び分散を用い、
前記PAV統計値として、前記PAV時系列データに係る平均値、最大値、最小値及び分散を用いることを特徴とする手段1に記載のRFタグ状態推定システム。
【0023】
上記手段5によれば、受信信号強度や位相値の各変化態様における特徴をより適切に把握することが可能となり、RFタグの状態推定に関する精度をより高めることができる。
【0024】
手段6.前記指向性アンテナは、前記対象領域に対応して1つのみ設けられており、
前記不均一性生成手段は、前記対象領域における前記RFタグの想定移動方向に対し傾いた状態で設置された前記指向性アンテナによって構成されていることを特徴とする手段1に記載のRFタグ状態推定システム。
【0025】
上記手段6によれば、指向性アンテナは対象領域に対応して1つのみ設けられており、この1の指向性アンテナをRFタグの想定移動方向に対し傾けることで、電波環境に不均一性を生成している。従って、比較的簡便な手法により、比較的低コストで、かつ、指向性アンテナの設置スペースとしてさほど大きなスペースを要することなく、電波環境に不均一性を生成することができる。これにより、システムの導入に係る作業負担やコストの低減、設置自由度の向上を図ることができる。
【0026】
手段7.前記指向性アンテナは、前記想定移動方向に対し30°以上70°以下傾いた状態で設置されていることを特徴とする手段6に記載のRFタグ状態推定システム。
【0027】
上記手段7によれば、少なくとも対象領域内をRFタグが移動する際に、RFタグの位置による受信信号強度の変化態様の特徴と、RFタグの位置による位相値の変化態様の特徴とをより大きく異ならせることができる。そのため、RFタグの状態推定精度を一層高めることができる。
【0028】
尚、上記各手段に係る技術事項を適宜組み合わせてもよい。従って、例えば、上記手段2に係る技術事項と、上記手段3,4,5又は6に係る技術事項とを組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】店舗及び店舗内の商品などを概略的に示す斜視模式図である。
【
図2】店舗及び店舗内の商品などを概略的に示す平面模式図である。
【
図3】盗難防止システムの機能構成を示すブロック図である。
【
図4】指向性アンテナの位置などを示すための斜視模式図である。
【
図5】指向性アンテナの位置などを示すための平面模式図である。
【
図7】指向性アンテナのゲインを示すグラフである。
【
図8】PAV時系列データの一例を示すグラフである。
【
図9】RSSI時系列データの一例を示すグラフである。
【
図10】位相値の補正について説明するためのグラフである。
【
図11】位相値の補正について説明するためのグラフである。
【
図12】補正後PAV時系列データなどの一例を示すグラフである。
【
図14】試験装置の概略構成を示す斜視模式図である。
【
図15】傾斜角度などを説明するための平面模式図である。
【
図16】ランダムフォレストを用いて構成した学習モデルによって、Place Aに位置するRFタグの状態推定を行ったときの試験結果を示す表図である。
【
図17】ランダムフォレストを用いて構成した学習モデルによって、Place Bに位置するRFタグの状態推定を行ったときの試験結果を示す表図である。
【
図18】SVMを用いて構成した学習モデルによって、Place Aに位置するRFタグの状態推定を行ったときの試験結果を示す表図である。
【
図19】SVMを用いて構成した学習モデルによって、Place Bに位置するRFタグの状態推定を行ったときの試験結果を示す表図である。
【
図20】決定木を用いて構成した学習モデルによって、Place Aに位置するRFタグの状態推定を行ったときの試験結果を示す表図である。
【
図21】決定木を用いて構成した学習モデルによって、Place Bに位置するRFタグの状態推定を行ったときの試験結果を示す表図である。
【
図22】別の実施形態において、不均一性生成手段を構成する指向性アンテナについて説明するための斜視模式図である。
【
図23】別の実施形態において、不均一性生成手段を構成する指向性アンテナについて説明するための平面模式図である。
【
図24】別の実施形態において、指向性アンテナの配置位置を説明するための平面模式図である。
【
図25】別の実施形態において、指向性アンテナの配置位置を説明するための斜視模式図である。
【
図26】別の実施形態において、指向性アンテナの配置位置を説明するための斜視模式図である。
【
図27】別の実施形態において、指向性アンテナの配置位置を説明するための斜視模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1及び
図2に示すように、盗難防止システム1は、例えばアパレルショップなどの店舗100に適用されており、当該店舗100内から衣服などの各種商品101が持ち出されて盗難されることを防止するためのシステムである。尚、各商品101のそれぞれには、所定のRFタグ102(
図6参照)が1つずつ予め取付けられている。まず、盗難防止システム1の説明に先立って、RFタグ102について説明する。
【0031】
図6に示すように、RFタグ102は、情報を記憶するための集積回路102aと、当該集積回路102aに接続されたアンテナ102bとを有している。集積回路102aには、RFタグ102を識別するためのタグ識別用情報〔例えば、Electronic Production Code(EPC)など〕や、RFタグ102が取付けられた商品101を識別するための商品識別用情報などが記憶されている。
【0032】
アンテナ102bは、集積回路102aに記憶された情報の読み取り及び集積回路102aに対する情報の書き込みを非接触で外部から行うために設けられている。アンテナ102bは、後述する指向性アンテナ22から送信された信号を受信するとともに、当該信号に応答して所定の応答信号を送信(発信)する機能を有する。応答信号には、少なくとも前記タグ識別用情報が含まれる。
【0033】
次いで、盗難防止システム1について説明する。
図3に示すように、盗難防止システム1は、RFタグ状態推定システム2及び管理システム3を備えている。
【0034】
RFタグ状態推定システム2は、商品101に取付けられたRFタグ102の移動及び静止(滞在)と、RFタグ102が移動した場合におけるRFタグ102の移動方向(特に後述するゲート100aを通過するRFタグ102の移動方向)とをRFタグ102の状態として推定するためのシステムである。RFタグ状態推定システム2は、リーダーライター21、指向性アンテナ22及びデータ処理システム23を備えている。本実施形態では、リーダーライター21が「RSSI取得手段」及び「PAV取得手段」を構成する。
【0035】
リーダーライター21は、RFタグ102の集積回路102aに対する情報の書込み及び集積回路102aに記憶された情報の読み取りを行うための装置である。リーダーライター21としては、例えば、Impinj社製のSpeedway Revolution R420などを採用することができる。リーダーライター21は、後述する制御モジュール231によって制御されており、RFタグ102(集積回路102a)に記憶された情報を取得するための信号(Queryコマンド)を所定の短時間ごと(例えば数ms~数十msごと)に送信するように指向性アンテナ22を制御する。信号(Queryコマンド)の送信に応答してRFタグ102から発信された応答信号は、指向性アンテナ22によって受信される。上記の通り、RFタグ102から発信された応答信号にはタグ識別用情報(EPC)などが含まれる。
【0036】
また、リーダーライター21は、前記応答信号に関する受信信号強度〔Received Sign-al Strength Indicator(RSSI)〕及び位相値(Phase Angle Values)を取得する。位相値とは、指向性アンテナ22から後述の対象領域100bに向けて送信される信号と、この信号への応答としてRFタグ102から発信されて、指向性アンテナ22によって受信される応答信号との位相差に対応する値である。リーダーライター21により取得された受信信号強度及び位相値は、タグ識別用情報と関連付けられた上で、制御モジュール231を介して後述する読取情報記憶装置232へと順次記憶される。
【0037】
尚、リーダーライター21は、指向性アンテナ22から比較的遠い位置に存在するRFタグ102との間においても信号の送受信が可能である。そして、本実施形態において、指向性アンテナ22の周囲には、多数の商品101ひいては多数のRFタグ102が存在している。従って、リーダーライター21によって、指向性アンテナ22の周囲に位置する多数のRFタグ102に係る受信信号強度や位相値が、RFタグ102ごとに取得される。但し、指向性アンテナ22の周囲にRFタグ102が多数存在しているため、1つのRFタグ102について、単位時間当たりに取得される受信信号強度及び位相値のデータ数は、比較的少ないものとなる。従って、それぞれ後述するRSSI時系列データ及びPAV時系列データにおいては、単位時間当たりのデータ数はそれぞれ比較的少ないものとなる。
【0038】
尚、本実施形態において、リーダーライター21により取得される位相値は、反転させた位相差に対応するものである。勿論、リーダーライター21によって、非反転の位相差に対応するものを取得する構成としてもよい。また、本実施形態において、リーダーライター21により取得可能な位相値は、所定の最小値(例えば0)から所定の最大値(例えば2π)までの範囲のものである。
【0039】
指向性アンテナ22は、対象領域100bに向けた信号(電波)の送信及び当該信号を受信したことに応答してRFタグ102から発信される応答信号の受信などを行う平面型のアンテナである。指向性アンテナ22としては、例えば、Yeon社製のYap-101Pなどを採用することができる。指向性アンテナ22を利用しているのは、リーダーライター21によって取得される受信信号強度を十分に大きなものとする等の理由による。尚、受信信号強度は、指向性アンテナ22からの受信電力に関係するパラメータであるため、指向性アンテナ22のゲイン(利得)によって変動する。
【0040】
指向性アンテナ22は、
図1,4,5等に示すように、店舗100の出入り口を構成するゲート100aの側方において、所定の対象領域100bに向けて配置されている。本実施形態において、対象領域100bは、ゲート100aを構成する一対の柵の間に位置する領域であって、商品101に取付けられたRFタグ102の通過が想定される領域である。尚、
図4等では、対象領域100bを大まかに示している。また、本実施形態において、指向性アンテナ22は、対象領域100bに対応して1つのみ設けられている。
【0041】
指向性アンテナ22は、指向性正面方向(0°方向)にてゲイン(利得)が最大となり、指向性正面方向を基準としてゲインが左右でほぼ対称となるものである(
図7参照)。そして、指向性アンテナ22は、対象領域100bにおけるRFタグ102の想定移動方向AD(
図4,5等において黒塗り矢印で示す方向)に対し傾いた状態で設置されている。本実施形態において、想定移動方向ADに対する指向性アンテナ22の傾斜角度αは、30°以上70°以下とされている。
【0042】
上記のように指向性アンテナ22を傾けることで、少なくとも対象領域100bにおいて指向性アンテナ22の左右でゲインの不均衡が生じ、対象領域100b内に位置するRFタグ102と指向性アンテナ22との間の通信に係る電波環境に不均一性が生成される。その結果、少なくとも対象領域100b内において、場所による電波環境(特に受信信号強度)の特徴が生じる。本実施形態では、想定移動方向ADに対し傾いた状態で設置された指向性アンテナ22によって「不均一性生成手段」が構成される。
【0043】
上記のような場所による電波環境の特徴が生じることにより、対象領域100b内をRFタグ102が移動する際に、RFタグ102の位置による受信信号強度の変化態様と、RFタグ102の位置による位相値の変化態様とで異なる特徴が生じる。本実施形態では、例えば、位相値のピークタイミングと受信信号強度のピークタイミングとで時間差を生じさせることができ、また、その時間差を比較的大きなものとすることができる。
【0044】
より詳しくは、位相値は、信号の波長と指向性アンテナ22及びRFタグ102間の距離とに関するパラメータであるため、指向性アンテナ22及びRFタグ102の相対位置関係の影響を強く受ける。そのため、対象領域100bをRFタグ102が通過したとき、位相値の変化態様に対応する後述の補正後PAV時系列データ(
図12参照)において、位相値は、指向性アンテナ22及びRFタグ102が最も接近したときにピークとなるような変化態様となる。尚、本実施形態において、位相値は反転した位相差に対応するものであるため、位相値のピークは上向きとなるが、位相値が非反転の位相差に対応するものであれば、位相値のピークは下向きとなる。但し、どちらの態様のピークであっても、ピークとなるタイミング自体に変わりはない。
【0045】
一方、上記の通り、受信信号強度は、指向性アンテナ22のゲインによって変動する。そのため、対象領域100bをRFタグ102が通過したとき、後述するRSSI時系列データにおいて、受信信号強度は、RFタグ102が指向性アンテナ22の指向性正面を通過するときにピークとなるような変化態様となる。
【0046】
このように場所による電波環境の特徴を生じさせることで、RFタグ102の位置による受信信号強度の変化態様と、RFタグ102の位置による位相値の変化態様とで異なる特徴を生じさせることができる。
【0047】
データ処理システム23は、所定の演算処理を実行するCPU(Central Processing Unit)、各種プログラムや固定値データ等を記憶するROM(Read Only Memory)、各種演算処理の実行に際して各種データが一時的に記憶されるRAM(Random Access Memory)、情報を記憶するための記憶装置及びこれらの周辺回路等を含んだコンピュータや、入出力装置及び表示装置などからなる。
【0048】
データ処理システム23は、制御モジュール231、読取情報記憶装置232、PAV補正部233、PAV統計値算出部234、RSSI統計値算出部235及び状態推定部236を備えている。本実施形態では、PAV補正部233が「PAV補正手段」を構成し、同様に、PAV統計値算出部234が「PAV統計値算出手段」を、RSSI統計値算出部235が「RSSI統計値算出手段」を、状態推定部236が「状態推定手段」を、それぞれ構成する。尚、制御モジュール231、PAV補正部233、PAV統計値算出部234、RSSI統計値算出部235及び状態推定部236による各種機能は、上記CPU、ROM、RAMなどの各種ハードウェアと前記記憶装置に予め記憶されたソフトウェアとが協働することで実現される。
【0049】
制御モジュール231は、リーダーライター21の動作を制御するとともに、リーダーライター21により取得された受信信号強度及び位相値を、同様にリーダーライター21により取得されたタグ用識別情報と関連付けて読取情報記憶装置232に記憶する。これにより、指向性アンテナ22の周囲に位置するRFタグ102に関して、受信信号強度及び位相値の経時的な遷移を把握することができる。
【0050】
読取情報記憶装置232は、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等で構成されており、受信信号強度や位相値を順次記憶する。これにより、読取情報記憶装置232には、位相値(Phase Angle Values)の時系列データであるPAV時系列データ(
図8参照)や、受信信号強度(RSSI)の時系列データであるRSSI時系列データ(
図9参照)が記憶された状態となる。
【0051】
尚、上記の通り、リーダーライター21により取得可能な位相値は、所定の最小値から所定の最大値までの範囲のものであるため、実際の位相値が前記最小値を下回る又は前記最大値を上回る場合には、PAV時系列データにおける位相値が大幅に変動することになる。
【0052】
また、読取情報記憶装置232は、PAV補正部233で生成される、次述する補正後PAV時系列データや、各統計値算出部234,235で算出される、後述するRSSI統計値やPAV統計値を記憶可能とされている。
【0053】
PAV補正部233は、読取情報記憶装置232に記憶されたPAV時系列データを補正することで、補正後PAV時系列データを生成する。より詳しくは、PAV補正部233は、PAV時系列データに含まれる1の位相値が、当該位相値の1つ前に取得された位相値(直前位相値)に対し、予め設定された所定の閾値P(th)(例えば1.0π)以上増大している場合に、前記1の位相値以降に取得された各位相値に対し、それぞれ所定の補正値(例えば2π)を減算する補正を行う。つまり、PAV補正部233は、前記1の位相値から前記直前位相値を減算した値P(diff)が閾値+P(th)以上となる場合、前記1の位相値以降に取得された各位相値に対し、それぞれ所定の補正値を減算する補正を行う(
図10参照)。
【0054】
一方、PAV補正部233は、PAV時系列データに含まれる1の位相値が直前位相値に対し、前記閾値P(th)(例えば1.0π)以上減少している場合に、前記1の位相値以降に取得された各位相値に対し、それぞれ所定の補正値を加算する補正を行う。つまり、PAV補正部233は、前記1の位相値から前記直前位相値を減算した値P(diff)が-P(th)以下となる場合、前記1の位相値以降に取得された各位相値に対し、それぞれ所定の補正値を加算する補正を行う(
図11参照)。
【0055】
上記のように位相値の補正を行うことで、位相値が比較的滑らかに変動する補正後PAV時系列データ(
図12参照)を生成することができる。
【0056】
PAV統計値算出部234は、PAV時系列データに基づく統計値であるPAV統計値を算出する。本実施形態において、PAV統計値算出部234は、PAV統計値として、補正後PAV時系列データ全体に基づく統計値と、補正後PAV時系列データを時間で分割してなる複数の分割PAV時系列データに基づく統計値とを算出する。
【0057】
より詳しくは、PAV統計値算出部234は、補正後PAV時系列データ全体に基づく統計値として、補正後PAV時系列データ全体に係る平均値(Phase_average)、最大値(Phase_Max)、最小値(Phase_Min)及び分散(Phase_variance)を算出する。
【0058】
また、PAV統計値算出部234は、分割PAV時系列データに基づく統計値として、補正後PAV時系列データを時間で2分割(2等分)したデータ(2分割データ)に係る統計値と、補正後PAV時系列データを時間で3分割(3等分)したデータ(3分割データ)に係る統計値とを算出する。
【0059】
2分割データに係る統計値としては、前半データに係る平均値(Phase_first_half_av-erage)及び分散(Phase_first_half_variance)と、後半データに係る平均値(Phase_l-atter_half_average)及び分散(Phase_latter_half_variance)とが算出される。
【0060】
また、3分割データに係る統計値としては、初期の1/3分のデータに係る平均値(P-hase_one_third_average)及び分散(Phase_one_third_variance)と、中期の1/3分のデータに係る平均値(Phase_two_third_average)及び分散(Phase_two_third_variance)と、後期の1/3分のデータに係る平均値(Phase_three_third_average)及び分散(Phase_three_third_variance)とが算出される。算出された統計値は、読取情報記憶装置232に記憶される。
【0061】
RSSI統計値算出部235は、RSSI時系列データに基づく統計値であるRSSI統計値を算出する。本実施形態において、RSSI統計値算出部235は、RSSI統計値として、RSSI時系列データ全体に基づく統計値と、RSSI時系列データを時間で分割してなる複数の分割RSSI時系列データに基づく統計値とを算出する。
【0062】
より詳しくは、RSSI統計値算出部235は、RSSI時系列データ全体に基づく統計値として、RSSI時系列データ全体に係る平均値(RSSI_average)、最大値(RSSI_M-ax)、最小値(RSSI_Min)及び分散(RSSI_variance)を算出する。
【0063】
また、RSSI統計値算出部235は、分割RSSI時系列データに基づく統計値として、RSSI時系列データを時間で2分割(2等分)したデータ(2分割データ)に係る統計値と、RSSI時系列データを時間で3分割(3等分)したデータ(3分割データ)に係る統計値とを算出する。
【0064】
2分割データに係る統計値としては、前半データに係る平均値(RSSI_first_half_ave-rage)及び分散(RSSI_first_half_variance)と、後半データに係る平均値(RSSI_latt-er_half_average)及び分散(RSSI_latter_half_variance)とが算出される。
【0065】
また、3分割データに係る統計値としては、初期の1/3分のデータに係る平均値(R-SSI_one_third_average)及び分散(RSSI_one_third_variance)と、中期の1/3分のデータに係る平均値(RSSI_two_third_average)及び分散(RSSI_two_third_variance)と、後期の1/3分のデータに係る平均値(RSSI_three_third_average)及び分散(RSSI_ three_third_variance)とが算出される。算出された統計値は、読取情報記憶装置232に記憶される。
図13に、各統計値算出部234,235によって算出される統計値の一覧などを示す。
【0066】
状態推定部236は、RSSI統計値とPAV統計値とを特徴値として学習させて生成してなる学習モデルを用いて、RFタグ102の状態、すなわち、RFタグ102の移動及び静止(滞在)と、RFタグ102が移動した場合におけるRFタグ102の移動方向を推定する。本実施形態において、状態推定部236は、ランダムフォレスト(Random forest)を用いて予め構成された学習モデルを用いて、RFタグ102の状態を推定する。
【0067】
学習モデルの生成には、ランダムフォレストを用いたアンサンブル学習を使用することができる。アンサンブル学習は、複数の弱分類器の分類結果を統合することにより、高精度な分類を行う分類器を構築するための手法である。
【0068】
学習モデルの生成にあたっては、まず、予め取得した受信信号強度や位相値の各時系列データに基づく統計値(平均値、最大値、最小値及び分散)に関するデータからブートストラップ法によるサンプリングで複数の教師用データを作成する。さらに、各教師用データにおいて、機械学習によって決定木(回帰木)を作成する際に使用する特徴量をランダムで選択する。機械学習を行う際には、決定木の深さに制限は設けない。
【0069】
その上で、各教師用データにおける各特徴量から、機械学習によって弱分類器としての決定木を複数構築することで、学習モデルを生成する。生成された学習モデル(構築された複数の決定木に係る情報)は、所定の記憶装置(不図示)に記憶される。
【0070】
状態推定部236は、各統計値算出部234,235により算出された上述の各種統計値を学習モデルへと入力する。そして、状態推定部236は、決定木による推定結果の多数決に基づき、RFタグ102の状態として、静止(滞在)、左方向(店舗100内から店舗100外に向けた方向)への移動又は右方向(店舗100外から店舗100内に向けた方向)への移動を推定する。
【0071】
尚、学習モデルとしては、SVM(Support Vector Machine)や決定木(Decision tree)、kNN(k最近傍法)などを用いて構成されたものを利用してもよい。
【0072】
状態推定部236によるRFタグ102の状態に係る推定結果は、状態の推定対象となったRFタグ102のタグ識別情報に関連付けて、管理システム3(特に後述する判定部33へと送られる。
【0073】
尚、PAV補正部233、PAV統計値算出部234、RSSI統計値算出部235及び状態推定部236による、補正後PAV時系列データの生成、各種統計値の算出、RFタグ102の状態推定は、所定の条件を満たしたときに行われる。所定の条件としては、状態の推定対象となるRFタグ102に関し、通信圏外に出た状態になったこと、信号の送受信開始から所定時間が経過したこと、受信信号強度や位相値のデータ数が所定個数以上となったこと、取得した受信信号強度や位相値が所定の閾値を上回ってから所定時間が経過したことなどを挙げることができる。勿論、所定の条件として、上記以外の条件を採用してもよい。
【0074】
次いで、管理システム3などについて説明する。管理システム3は、店舗100内から店舗100外へと持ち出された商品101が適切に精算処理のなされたものであるか否かを確認するとともに、当該商品101の精算処理が適切に行われていない場合に、所定の報知処理を行うシステムである。管理システム3は、CPU、ROM、RAM等を有するコンピュータシステムによって構成することができる。管理システム3の詳細な説明に先立って、まず、商品101の精算に利用される商品情報記憶装置4及び精算装置5について説明する。
【0075】
図3に示すように、商品情報記憶装置4及び精算装置5は、各種情報を送受信可能に構成されている。商品情報記憶装置4は、少なくとも商品識別用情報及び商品価格を関連付けて記憶している。商品情報記憶装置4は、精算装置5から商品識別用情報が送信されると、当該商品識別用情報に関連付けられた商品価格に関する情報を精算装置5へと返信する。尚、管理システム3が、商品情報記憶装置4を有する構成としてもよい。
【0076】
精算装置5は、店舗100内に設置されており(
図1等参照)、商品101を購入する際に商品101の代金支払いに用いられる装置である。本実施形態における精算装置5は、いわゆるセルフレジであり、所定の商品収容スペース、RFタグ102に記憶された情報の読取装置、情報の表示装置及び代金の受領装置などを具備している。精算装置5は、前記商品収容スペースに商品101が収容されると、当該商品101に取付けられたRFタグ102の情報を読み取る。そして、精算装置5は、読み取った情報に含まれる商品識別用情報を商品情報記憶装置4に送信するとともに、商品情報記憶装置4から商品価格に関する情報を受信する。この商品価格は、情報の読取対象となったRFタグ102が取付けられている商品101の価格を示す。そして、精算装置5は、商品収容スペースに収容された全ての商品101についての商品価格を取得すると、取得した商品価格を合算すること等により、支払金額を算出する。また、精算装置5は、支払金額を前記表示装置にて表示する。
【0077】
そして、精算装置5は、前記受領装置を用いて現金やクレジットカード等により商品101の代金が支払われると、代金支払いが完了した商品101に取付けられたRFタグ102に係るタグ識別用情報を、管理システム3における次述する精算情報記憶装置31へと送信する。
【0078】
次いで、管理システム3についてより詳しく説明する。管理システム3は、RFタグ状態推定システム2及び精算装置5との間で各種信号を送受信可能に構成されており、精算情報記憶装置31、報知部32及び判定部33を備えている。
【0079】
精算情報記憶装置31は、精算装置5から送信されたタグ識別用情報を記憶する。つまり、精算情報記憶装置31は、代金支払いの完了した商品101に取付けられているRFタグ102を識別するための情報を記憶する。
【0080】
報知部32は、盗難の疑いのある事態が発生したことを外部に報知する機能を具備する。本実施形態において、報知部32は、従業員などが携帯する端末装置などに対し前記事態の発生を示す情報を送信することで、前記事態の発生を外部(従業員など)に報知する。尚、報知部32は、前記事態の発生を外部に報知可能なものであればよく、例えば音声や視覚情報などを利用して、前記事態の発生を外部に報知するものであってもよい。
【0081】
判定部33は、状態推定部236から送信された情報と、精算情報記憶装置31に記憶された情報とに基づき、盗難の疑いのある事態が発生したか否かを判定する。より詳しくは、判定部33は、状態推定部236から、RFタグ102の状態の推定結果として、左方向(店舗100内から店舗100外に向けた方向)への移動という情報を受信すると、所定の確認処理を実行する。つまり、判定部33は、店舗100内から店舗100外へと持ち出されるようにして商品101及びRFタグ102が移動しているものと状態推定部236によって推定された場合、所定の確認処理を実行する。
【0082】
確認処理では、推定結果に関連付けられたRFタグ102のタグ識別用情報を用いて、当該RFタグ102が取付けられた商品101の代金支払いが完了しているか否かが判定される。すなわち、判定部33は、精算情報記憶装置31に記憶されたタグ識別用情報を参酌し、推定結果に関連付けられたRFタグ102のタグ識別用情報と同一のタグ識別用情報が精算情報記憶装置31に記憶されているか否かを判定する。そして、推定結果に関連付けられたRFタグ102のタグ識別用情報と同一のタグ識別用情報が精算情報記憶装置31に記憶されている場合、判定部33は、当該RFタグ102が取付けられた商品101の代金支払いが完了していると判定する。
【0083】
一方、推定結果に関連付けられたRFタグ102のタグ識別用情報と同一のタグ識別用情報が精算情報記憶装置31に記憶されていない場合、判定部33は、当該RFタグ102が取付けられた商品101の代金支払いが完了していないと判定するとともに、報知部32を動作させる。これにより、盗難の疑いのある事態が発生したことが外部に報知される。
【0084】
また、本実施形態において、判定部33は、状態推定部236から、RFタグ102の状態の推定結果として、静止(滞在)又は右方向(店舗100外から店舗100内に向けた方向)への移動という情報を受信した場合には、前記確認処理を実行しないようになっている。
【0085】
以上詳述したように、本実施形態によれば、想定移動方向ADに対し傾いた状態で設置された指向性アンテナ22によって、対象領域100b内に位置するRFタグ102と指向性アンテナ22との間の通信に係る電波環境に不均一性が生成されることで、少なくとも対象領域100b内において、場所による電波環境の特徴を生じさせることができる。これにより、少なくとも対象領域100b内をRFタグ102が移動する際に、RFタグ102の位置による受信信号強度の変化態様と、RFタグ102の位置による位相値の変化態様とに異なる特徴を生じさせることができる。そして、状態推定部236により、RSSI統計値とPAV統計値とを特徴値として学習させてなる学習モデルを用いて、RFタグの状態が推定される。ここで、上記のような電波環境の不均一性を生じさせることで、RSSI統計値とPAV統計値とで異なる特徴をより明確に生じさせることができる。そのため、状態推定部236によって、RFタグ102の状態をより精度よく推定することができる。
【0086】
また、統計値(RSSI統計値及びPAV統計値)を用いるため、1つのRFタグ102に係る受信信号強度や位相値のデータ数が比較的少なくなるような場合であっても、指向性アンテナ22の周囲に位置する多数(例えば30個以上)のRFタグ102のそれぞれの状態を十分に精度よく推定することができる。換言すれば、RFタグ状態推定システム2は、指向性アンテナ22の周囲に多数のRFタグが存在し得る環境において、特に有効であるといえる。
【0087】
さらに、判定部33は、状態推定部236から静止(滞在)という情報を受信した場合には、前記確認処理を実行しない。従って、指向性アンテナ22の周囲に置かれた商品101のRFタグ102を検知した(当該RFタグ102に係るデータを得た)としても、そのRFタグ102の存在に起因する、報知部32による外部への報知などは行われない。そのため、指向性アンテナ22の周囲に位置する静止状態のRFタグ102の存在によって、報知部32による外部への報知が不適切に行われることをより確実に防止でき、ひいては盗難防止システム1の運用に係る利便性や安定性を高めることができる。
【0088】
加えて、本実施形態では、ランダムフォレストを用いて構成した学習モデルによって、RFタグ102の状態が推定される。従って、RFタグ102の状態をより精度よく推定することができる。
【0089】
さらに、RSSI統計値として、RSSI時系列データを時間で分割してなる複数の分割RSSI時系列データに基づく統計値が用いられ、PAV統計値として、補正後PAV時系列データを時間で分割してなる複数の分割PAV時系列データに基づく統計値が用いられる。このように時系列データを時間で分割した分割時系列データの統計値を利用することで、統計値において、受信信号強度や位相値の各変化態様における特徴がより明確に表れやすくなる。従って、RFタグ102の状態を一層精度よく推定することが可能となる。
【0090】
また、PAV統計値を算出するにあたって、位相値の補正を行ってなる補正後PAV時系列データが用いられる。従って、PAV統計値をより容易にかつより正確に得ることができる。その結果、RFタグ102の状態をより一層精度よく推定することができる。
【0091】
加えて、RSSI統計値として、RSSI時系列データに係る平均値、最大値、最小値及び分散が用いられ、PAV統計値として、PAV時系列データに係る平均値、最大値、最小値及び分散が用いられる。従って、受信信号強度や位相値の各変化態様における特徴をより適切に把握することが可能となり、RFタグ102の状態推定に関する精度をより高めることができる。
【0092】
さらに、指向性アンテナ22は対象領域100bに対応して1つのみ設けられており、この1の指向性アンテナ22をRFタグ102の想定移動方向ADに対し傾けることで、電波環境に不均一性を生成している。従って、比較的簡便な手法により、比較的低コストで、かつ、指向性アンテナ22の設置スペースとしてさほど大きなスペースを要することなく、電波環境に不均一性を生成することができる。これにより、RFタグ状態推定システム2の導入に係る作業負担やコストの低減、設置自由度の向上を図ることができる。
【0093】
また、傾斜角度αが30°以上70°以下とされているため、少なくとも対象領域100b内をRFタグ102が移動する際に、RFタグ102の位置による受信信号強度の変化態様の特徴と、RFタグ102の位置による位相値の変化態様の特徴とをより大きく異ならせることができる。そのため、RFタグ102の状態推定精度を一層高めることができる。
【0094】
次いで、上記実施形態により奏される作用効果を確認すべく、RFタグ102の状態推定の精度を確認する試験を行った。
【0095】
すなわち、
図14に示すように、指向性アンテナ22と、それぞれ複数のRFタグ102を取付可能な移動板T1及び固定板T2とを備える試験装置を用意した。そして、移動板T1に5個のRFタグ102を取付ける一方、固定板T2に30個のRFタグ102を取付けた上で、移動板T1を想定移動方向ADに沿って、左から右へと移動させること(Left to Right)、及び、右から左へと移動させること(Right to Left)をそれぞれ50回ずつ行った。これにより、移動するRFタグ102に係るRSSI時系列データ及びPAV時系列データをそれぞれ500個(=5×50×2)ずつ取得し、静止するRFタグ102に係る両時系列データをそれぞれ3000個(=30×50×2)ずつ取得した。
【0096】
また、移動板T1に30個のRFタグ102を取付ける一方、固定板T2に5個のRFタグ102を取付けた上で、移動板T1を想定移動方向ADに沿って、左から右へと移動させること(Left to Right)、及び、右から左へと移動させること(Right to Left)をそれぞれ50回ずつ行った。そして、移動するRFタグ102に係る両時系列データをそれぞれ3000個(=30×50×2)ずつ取得し、静止するRFタグ102に係る両時系列データをそれぞれ500個(=5×50×2)ずつ取得した。
【0097】
上記のようにデータを取得することで、結果的に、静止状態にあるRFタグ102に係るRSSI時系列データ及びPAV時系列データをそれぞれ3500個ずつ取得し、また、移動状態にあるRFタグ102に係る両時系列データをそれぞれ3500個ずつ取得した。但し、多数のRFタグ102に係るデータを一度に取得しているため、それぞれのRFタグ102に関し、RSSI時系列データやPAV時系列データを構成するデータの数は比較的少ないものである。
【0098】
次いで、取得したデータを基に、K-foldクロスバリデーション(K=5)を利用した評価を行った。すなわち、取得したデータのうちの80%を学習用データとし、取得したデータのうちの20%を評価用データとすることで、計5組のデータセットを準備した。その上で、データセットごとに、学習用データを基にランダムフォレスト(Random forest)、SVM又は決定木(decision tree)を用いた学習モデルの生成を行うとともに、生成された学習モデルにより、評価用データを用いてRFタグ102の状態推定を行った。尚、学習モデルの生成及び状態推定にあたっては、上記実施形態で挙げたRSSI統計値及びPAV統計値(
図13に示す統計値)を用いた。
【0099】
そして、データセットごとに、正解率(accuracy)、適合率(precision)、再現率(recall)及びF値(f1-score)をそれぞれ求めた。つまり、正解率、適合率、再現率及びF値をそれぞれ5つずつ求めた。その上で、正解率、適合率、再現率及びF値のそれぞれの平均値を算出した。F値は、適合率及び再現率の調和平均である。
【0100】
尚、この試験は、指向性アンテナ22の周囲に存在するモノの数が比較的少ない場所(Place A)、及び、指向性アンテナ22の周囲に存在するモノの数が比較的多い場所(Pla-ce B)のそれぞれで行った。また、この試験では、想定移動方向AD(移動板T1の移動方向)に対する指向性アンテナ22の傾斜角度α(
図15参照)を0°~70°の範囲で10°ずつ変更した。
【0101】
さらに、RFタグ102の移動速度を0.5m/sとし、床面から指向性アンテナ22(の中心)までの高さを0.6mとし、床面からRFタグ102までの高さを0.6m~1.0mとした。また、指向性アンテナ22の中心から移動板T1までの最短距離が0.5mとなり、指向性アンテナ22の中心から固定板T2までの最短距離が1.0mとなるように各板T1,T2の位置を設定した。
【0102】
図16~21に、ランダムフォレスト(Random forest)、SVM又は決定木(decision tree)を用いた場合における、正解率、適合率、再現率及びF値のそれぞれの平均値を示す。尚、
図16,18,20は、Place Aにおける試験結果であり、
図17,19,21は、Place Bにおける試験結果である。また、各図では、正解率などとともに、標準誤差(平均値の標準偏差)を合わせて示す。
【0103】
尚、正解率が高く、かつ、正解率及びF値の各値が近いほど、RFタグ102の状態を精度よく推定可能であると言える。
【0104】
図16~21に示すように、想定移動方向ADに対し指向性アンテナ22を傾けて、場所による電波環境の特徴を生じさせた場合には、指向性アンテナ22を傾けていない(傾斜角度αが0°である)場合と比べて、正解率がより高く、また、正解率及びF値の各値がより近くなることが確認された。
【0105】
さらに、ランダムフォレストを用いて構成した学習モデルを利用した場合には、正解率が非常に高く、かつ、正解率及びF値の各値が極めて近い値になることが明らかとなった。
【0106】
また、傾斜角度αを30°以上70°以下とした場合には、正解率が90%を超えるとともに、正解率及びF値の各値がより一層近くなることが分かった。
【0107】
以上の試験結果から、指向性アンテナ22の周囲に多数のRFタグ102が存在する環境下であっても、RFタグ102の状態を精度よく推定可能とするためには、指向性アンテナ22を傾けること等によって場所による電波環境の特徴を生じさせるとともに、RSSI統計値とPAV統計値とを特徴値として学習させて生成してなる学習モデルを用いて、RFタグ102の状態を推定することが好ましいといえる。
【0108】
また、RFタグ102の状態をより精度よく推定可能とするという点では、ランダムフォレストを用いて構成した学習モデルを利用したり、傾斜角度αを30°以上70°以下としたりすることが好ましいといえる。
【0109】
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
【0110】
(a)上記実施形態において、1の指向性アンテナ22は、対象領域100bの側方に配置されているが、対象領域100bの上方又は下方に配置されていてもよい。
【0111】
(b)上記実施形態で挙げたRSSI統計値やPSV統計値は一例であって、これら統計値を適宜変更してもよい。従って、例えば、RSSI時系列データや補正後PSV時系列データを4又は5分割してなる分割RSSI時系列データや分割RSV時系列データに基づく統計値を利用してもよい。
【0112】
また、分割RSSI時系列データや分割RSV時系列データに基づく統計値を用いることなく、RSSI時系列データ全体や補正後PSV時系列データ全体に基づく統計値のみを利用してもよい。勿論、その逆に、分割RSSI時系列データや分割RSV時系列データに基づく統計値のみを利用してもよい。
【0113】
加えて、RSSI時系列データそのものではなく、RSSI時系列データに基づくデータ(例えば、RSSI時系列データに対し誤差を補正するための処理を行ってなる時系列データなど)を時間で分割することによって、分割RSSI時系列データを得てもよい。また、補正後PAV時系列データではなく、PAV時系列データを時間で分割することによって、分割PAV時系列データを得てもよい。
【0114】
さらに、統計値として、平均値、最大値、最小値及び分散を挙げているが、これらのうちの一部のみを用いてもよい。勿論、これら以外の統計値(例えば中央値など)を用いてもよい。
【0115】
(c)上記実施形態では、想定移動方向ADに対し傾いた状態で設置された指向性アンテナ22によって「不均一性生成手段」が構成されているが、「不均一性生成手段」は、これに限定されるものではない。すなわち、「不均一性生成手段」は、少なくとも対象領域100b内において場所による電波環境の特徴を生じさせて、少なくとも対象領域100b内をRFタグ102が移動する際に、RFタグ102の位置による受信信号強度の変化態様と、RFタグ102の位置による位相値の変化態様とに異なる特徴を生じさせるものであればよい。
【0116】
従って、例えば、
図22,23に示すように、対象領域100b内にて、送信される信号同士を干渉させる位置関係で配置され、受信信号強度及び位相値の各変化態様に異なる特徴を生じさせるように構成された複数の指向性アンテナ221,222によって「不均一性生成手段」を構成してもよい。この場合、各指向性アンテナ221,222から同一信号を送信して、これら信号を干渉させる構成としてもよいし、各指向性アンテナ221,222から位相や振幅の異なる信号を送信することで、信号同士の干渉をより確実に発生させて、少なくとも対象領域100b内において、場所による電波環境の特徴をより確実に(より意識的に)生じさせる構成としてもよい。
【0117】
加えて、交互に切換えて使用されることで、受信信号強度及び位相値の各変化態様に異なる特徴を生じさせるように構成された複数の指向性アンテナ221,222によって「不均一性生成手段」を構成してもよい。この場合、各指向性アンテナ221,222から同一チャネルの信号を送信する構成とすることで、場所の相違による電波環境の特徴が生じるように構成してもよい。また、各指向性アンテナ221,222から異なるチャネルの信号を送信する構成とすることで、場所及び周波数のそれぞれの相違による電波環境の特徴が生じるように構成してもよい。
【0118】
さらに、それぞれから送信される信号の位相や振幅が動的に制御されることで、対象領域100b内における特定範囲に対し信号(電波)をビーム状に(集中的に)送ることにより、受信信号強度及び位相値の各変化態様に異なる特徴を生じさせるように構成された複数の指向性アンテナによって「不均一性生成手段」を構成してもよい。この場合、複数の指向性アンテナに代えて、スマートアレーアンテナを用いてもよい。
【0119】
加えて、少なくとも対象領域100b内において、場所による電波環境の特徴を生じさせて、受信信号強度及び位相値の各変化態様に異なる特徴が生じるような加工の施された指向性アンテナによって「不均一性生成手段」を構成してもよい。このような指向性アンテナとしては、例えば、指向性正面方向を基準として、左右でゲインの傾向が異なる(例えば、右側ではゲインが比較的高い一方、左側ではゲインが比較的低い)ものなどを挙げることができる。
【0120】
尚、複数の指向性アンテナ221,222を用いる場合、
図22,23に示すように、各指向性アンテナ221,222を想定移動方向ADに沿って並べて配置してもよいし、
図24に示すように、各指向性アンテナ221,222を対象領域100bを挟む位置に配置してもよい。
【0121】
さらに、
図25に示すように、対象領域100bを上下に挟む位置に各指向性アンテナ221,222を配置してもよい。この場合、1の指向性アンテナ222を、床下などに配置してもよい。また、
図26に示すように、一方の指向性アンテナ221を対象領域100bの側方に配置し、他方の指向性アンテナ222を対象領域100bの上方又は下方に配置してもよい。さらに、
図27に示すように、一方の指向性アンテナ221を対象領域100bの側方に配置し、他方の指向性アンテナ222を想定移動方向ADに沿って対象領域100bの前方又は後方に配置してもよい。
【0122】
また、複数の指向性アンテナ221,222を用いる場合、リーダーライター21は、複数の指向性アンテナ221,222のうちのいずれかが受信した信号に基づき、受信信号強度及び位相値を取得するものであってもよいし、複数の指向性アンテナ221,222によって受信した各信号を合成して得た信号に基づき、受信信号強度及び位相値を取得するものであってもよい。
【0123】
勿論、指向性アンテナの数は、1つ又は2つに限定されず、3つ以上であってもよい。
【0124】
(d)上記実施形態において、RFタグ状態推定システム2は、盗難防止システム1に適用されているが、RFタグ状態推定システムの適用対象はこれに限定されるものではない。
【0125】
従って、例えば、倉庫における在庫管理、従業員などの出退勤管理、従業員などの在室管理などにRFタグ状態推定システムを適用してもよい。
【0126】
倉庫における在庫管理にRFタグ状態推定システムを適用する場合には、例えば、倉庫の出入口に対応して指向性アンテナを配置し、指向性アンテナを介して取得された位相値及び受信信号強度に基づき、当該出入口における、商品に付されたRFタグの移動方向を推定するといった構成とする。そして、この構成において、商品ひいてはRFタグが左方向(倉庫内から倉庫外へと向けた方向)に移動したことが推定された場合には、当該商品についての在庫数を1つ減少させる一方、商品ひいてはRFタグが右方向(倉庫外から倉庫内へと向けた方向)に移動したことが推定された場合には、当該商品についての在庫数を1つ増加させるなどの処理を行うことで、倉庫における在庫管理を行うことができる。
【0127】
尚、倉庫における在庫管理を行うにあたっては、指向性アンテナ22(出入口)の周辺に多数の商品及びRFタグ102が存在し、ひいては、1つのRFタグ102について取得される受信信号強度及び位相値のデータ数が比較的少ないものとなり得る。しかしながら、統計値(RSSI統計値及びPAV統計値)を用いてRFタグ102の状態を推定することで、指向性アンテナ22の周囲に位置する多数のRFタグ102のそれぞれの状態を十分に精度よく推定することができる。
【0128】
また、従業員などの出退勤管理にRFタグ状態推定システムを適用する場合には、例えば、従業員等の出入口ゲートに対応して指向性アンテナを配置し、指向性アンテナを介して取得された位相値及び受信信号強度に基づき、当該出入口ゲートにおける、従業員などが携帯するRFタグの移動方向を推定するといった構成とする。そして、この構成において、従業員等ひいてはRFタグが左方向(例えば、社屋内から社屋外へと向けた方向)に移動したことが推定された場合には、当該従業員等が退勤したものとする一方、従業員等ひいてはRFタグが右方向(例えば、社屋外から社屋内へと向けた方向)に移動したことが推定された場合には、当該従業員等が出勤したものとするといった処理を行うことで、従業員などの出退勤管理を行うことができる。
【0129】
さらに、従業員などの在室管理にRFタグ状態推定システムを適用する場合には、例えば、部屋の出入口に対応して指向性アンテナを配置し、指向性アンテナを介して取得された位相値及び受信信号強度に基づき、当該出入口における、従業員などの携帯するRFタグの移動方向を推定するといった構成とする。そして、この構成において、従業員等ひいてはRFタグが左方向(例えば、部屋内から部屋外へと向けた方向)に移動したことが推定された場合には、当該従業員等が退室したとする一方、従業員等ひいてはRFタグが右方向(例えば、部屋外から部屋内へと向けた方向)に移動したことが推定された場合には、当該従業員等が入室したものとするといった処理を行うことで、従業員などの在室管理を行うことができる。
【0130】
また、RFタグ状態推定システムを用いて、店舗内における忘れ物の有無を推定可能としてもよい。
【0131】
例えば、上記実施形態のようにゲート100aの周辺に指向性アンテナ22を設置するとともに、判定部33によって、所定時間ごとに、状態推定部236によって左方向(店舗100内から店舗100外に向けた方向)に移動したと推定されたRFタグ102のタグ識別用情報と、精算情報記憶装置31に記憶されたタグ識別用情報とを比較することで、代金支払いが完了しているにも関わらず、店舗100外へと持ち出されていない商品101(つまり忘れ物)が存在しているか否かを推定可能に構成してもよい。
【0132】
さらに、例えば、精算装置5の周辺に指向性アンテナ22を設置するとともに、判定部33によって、所定時間ごとに、状態推定部236によって静止(滞在)と推定されたRFタグ102のタグ識別用情報と、精算情報記憶装置31に記憶されたタグ識別用情報とを比較することで、代金支払いが完了しているにも関わらず、精算装置5の近傍に置かれたままとなっている商品101(忘れ物)が存在しているか否かを推定可能に構成してもよい。
【0133】
勿論、上述の用途以外の用途にRFタグ状態推定システムを適用してもよい。
【符号の説明】
【0134】
2…RFタグ状態推定システム、21…リーダーライター(RSSI取得手段、PAV取得手段)、22…指向性アンテナ(不均一性生成手段)、100b…対象領域、102…RFタグ、233…PAV補正部(PAV補正手段)、234…PAV統計値算出部(PAV統計値算出手段)、235…RSSI統計値算出部(RSSI統計値算出手段)、236…状態推定部(状態推定手段)。