(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056264
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】発光織物及びその製造方法並びに乗物用内装材
(51)【国際特許分類】
D03D 15/547 20210101AFI20240416BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20240416BHJP
D06B 19/00 20060101ALI20240416BHJP
D01F 8/04 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
D03D15/547
D03D1/00 Z
D06B19/00 Z
D01F8/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163022
(22)【出願日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】山口 剛
【テーマコード(参考)】
3B154
4L041
4L048
【Fターム(参考)】
3B154AA09
3B154AB07
3B154AB20
3B154BA17
3B154BB33
3B154BB58
4L041BA21
4L041BC06
4L041BD08
4L041CA47
4L041CA49
4L048AA47
4L048AB06
4L048AC02
4L048BA01
4L048CA00
4L048DA24
4L048DA25
4L048EB00
(57)【要約】
【課題】所望領域の輝度が拡大された発光織物、所望領域の輝度を拡大することができる発光織物の製造方法、並びに、このような発光織物を用いた乗物用内装材を提供する。
【解決手段】発光織物1は、導光糸2が織り込まれた発光織物1であって、導光糸2は、コア・クラッド構造を有する側面発光型導光糸であり、発光織物1の意匠面1a側に露出された少なくとも一部の導光糸2のクラッドがブラスト研削されている。乗物用内装材は、発光織物1を備える。発光織物の製造方法は、発光織物となる織物の意匠面側に露出された少なくとも一部の導光糸のクラッドをブラスト研削するブラスト工程を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導光糸が織り込まれた発光織物であって、
前記導光糸は、コア・クラッド構造を有する側面発光型導光糸であり、
本発光織物の意匠面側に露出された少なくとも一部の前記導光糸のクラッドがブラスト研削されていることを特徴とする発光織物。
【請求項2】
前記導光糸は、非導光糸と共に製織されており、
前記非導光糸の間から露出された露出部が前記ブラスト研削されている請求項1に記載の発光織物。
【請求項3】
前記導光糸の導光方向に直交された略円形断面における中心をPとした場合に、
前記Pから広がる前記ブラスト研削された領域の角度をθ1とし、前記Pから広がる前記ブラスト研削されていない領域の角度をθ0とした場合に、θ1≧θ0である請求項1に記載の発光織物。
【請求項4】
前記非導光糸が、マルチフィラメントである請求項2に記載の発光織物。
【請求項5】
請求項1に記載の発光織物を備えることを特徴とする乗物用内装材。
【請求項6】
導光糸が織り込まれた発光織物の製造方法であって、
前記導光糸は、コア・クラッド構造を有する側面発光型導光糸であり、
本発光織物となる織物の意匠面側に露出された少なくとも一部の前記導光糸のクラッドをブラスト研削するブラスト工程を備えることを特徴とする発光織物の製造方法。
【請求項7】
前記ブラスト工程で用いる投射材が、水溶性無機化合物からなる請求項6に記載の発光織物の製造方法。
【請求項8】
前記投射材は、平均粒径が0.01~0.6mmである請求項7に記載の発光織物の製造方法。
【請求項9】
前記ブラスト工程後に、本発光織物となる織物を水洗する水洗工程を備える請求項6又は7に記載の発光織物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光織物及びその製造方法並びに乗物用内装材に関する。さらに詳しくは、構成糸として導光糸を含んだ発光織物及びその製造方法並びに乗物用内装材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、構成糸として導光糸(光ファイバ)を用いた発光織物が知られている。発光織物は、一端から光を入射すると、その入射光が他端に至るまでの間に、構成糸である導光糸の側面から漏洩されることにより、発光織物の表面が発光して見えるよう構成される。このような発光織物に関する技術が下記特許文献1に開示されている。また、このような導光糸側面からの発光を実現する加工方法としてレーザー光を用いた方法が下記特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-267573号公報
【特許文献2】国際公開第2018-008781号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発光織物に利用される導光糸は、本来は一端から入射した光を他端まで到達させることが目的の糸であるため、例えば、入射光を短距離で全て漏洩させ切り、他端まで光を到達させることができない仕様としては供給されていない。このため、ユーザは、規格化された導光糸を用いて発光織物を形成し又は購入し、その側面発光性能(漏光性能)をそのまま利用している実情がある。
しかしながら、発光意匠としては、導光糸への光の入射位置からどの程度の距離においてどの程度に発光(漏光)させるかを制御することができれば、発光意匠の自由度を飛躍的に向上させることが可能と考えられる。この点、例えば、入射光量の調節によって発光意匠の自由度を向上させることも可能であるが、大きな光量を扱うには、使用エネルギーの増大に対応する必要があり、付随するパーツも大型化することになる。更に、導光糸の出射端部からの余剰光量も多くなるため、この余剰光の処理にも工夫を要することになる。このように、現状の発光織物では、その利用箇所や目的に応じて側面発光性能(漏光性能)を拡大することができないという課題がある。
【0005】
上記特許文献1には、光ファイバ織物の発光ムラを低減することを目的とした光ファイバ照明装置が開示されているが、側面発光性能(漏光性能)の制御に関しては、その必要性及び手段・構成について何らの記載及び示唆はない。
上記特許文献2には、光ファイバのクラッドを均一且つ精密にエッチングをすることができ、更に、そのエッチング深さを精密に調節することができ、尚且つ、他の構成糸を損傷させないレーザーエッチング法を用いた高輝度発光織物の製造方法の開示がある。この技術は、側面発光性能の拡大に利用できる可能性があるものの、レーザーエッチング法は、レーザー光の焦点を絞って行う加工であるため、加工範囲はスポット状の非常に狭い範囲に限られる。このため、レーザーエッチング法を用いて、発光織物の側面発光性能(漏光性能)を制御するには膨大な加工時間を要することになり、加工時間及びコストの観点から現実的ではない。また、レーザーエッチング法を用いた場合、前述の通り、スポット状に加工されて、クラッドが点状又は線状に除去され、加工部と非加工部との境界が明瞭になるという特性がある。このため、各導光糸が各々点状や線状に発光する意匠となり、連続的な広がりを有する発光意匠を形成できないことも問題となる。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、所望領域の輝度が拡大された発光織物、所望領域の輝度を拡大することができる発光織物の製造方法、並びに、このような発光織物を用いた乗物用内装材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明には、以下が含まれる。
[1]導光糸が織り込まれた発光織物であって、
前記導光糸は、コア・クラッド構造を有する側面発光型導光糸であり、
本発光織物の意匠面側に露出された少なくとも一部の前記導光糸のクラッドがブラスト研削されていることを特徴とする発光織物。
[2]前記導光糸は、非導光糸と共に製織されており、
前記非導光糸の間から露出された露出部が前記ブラスト研削されている上記[1]に記載の発光織物。
[3]前記導光糸の導光方向に直交された略円形断面における中心をPとした場合に、
前記Pから広がる前記ブラスト研削された領域の角度をθ1とし、前記Pから広がる前記ブラスト研削されていない領域の角度をθ0とした場合に、θ1≧θ0である上記[1]又は上記[2]に記載の発光織物。
[4]前記非導光糸が、マルチフィラメントである上記[2]に記載の発光織物。
[5]上記[1]乃至上記[4]のうちのいずれかに記載の発光織物を備えることを特徴とする乗物用内装材。
[6]導光糸が織り込まれた発光織物の製造方法であって、
前記導光糸は、コア・クラッド構造を有する側面発光型導光糸であり、
本発光織物となる織物の意匠面側に露出された少なくとも一部の前記導光糸のクラッドをブラスト研削するブラスト工程を備えることを特徴とする発光織物の製造方法。
[7]前記ブラスト工程で用いる投射材が、水溶性無機化合物からなる上記[6]に記載の発光織物の製造方法。
[8]前記投射材は、平均粒径が0.01~0.6mmである上記[7]に記載の発光織物の製造方法。
[9]前記ブラスト工程後に、本発光織物となる織物を水洗する水洗工程を備える上記[6]乃至上記[8]のうちのいずれかに記載の発光織物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の発光織物によれば、所望領域の輝度が拡大された発光織物とすることができる。より詳しくは、意匠面側に露出された導光糸のクラッドがブラスト研削により除去又は薄化された発光織物であるため、ブラスト研削された領域では、導光糸のうちの意匠面側に露出された領域の全体を広く効率的に発光させることができる。このため、ブラスト研削前に比べて当該領域の発光が均一に拡大した発光織物とすることができる。また、これにより、広がり性及び連続性に優れた発光意匠を得ることができる。
本発明の乗物用内装材によれば、上記発光織物を備えるため、広がり性及び連続性に優れた発光意匠を得ることができる。
本発光織物の製造方法によれば、発光織物の所望領域の輝度を拡大することができる。より詳しくは、意匠面側に露出された導光糸のクラッドをブラスト研削により除去又は薄化することができるため、ブラスト研削した領域では、導光糸のうちの意匠面側に露出された領域の全体を広く効率的に発光させることができる。このため、ブラスト研削前に比べて当該領域の発光を均一に拡大した発光織物を得ることができる。また、これにより、広がり性及び連続性に優れた発光意匠を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述にて更に説明するが、同様の参照符号は図面のいくつかの図を通して同様の部品を示す。
【
図2】ブラスト研削された導光糸を説明する説明図である。
【
図3】レーザーエッチングされた導光糸を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ここで示される事項は例示的なものおよび本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0011】
[1]発光織物
本発明の発光織物(1)は、導光糸(2)が織り込まれた発光織物(1)であって、
導光糸(2)は、コア・クラッド構造を有する側面発光型導光糸であり、
本発光織物(1)の意匠面(1a)側に露出された少なくとも一部の導光糸のクラッド(21)がブラスト研削されていることを特徴とする(
図1参照)。
【0012】
発光織物1は、導光糸2のみから形成されてもよいが、通常、非導光糸3を有する。即ち、非導光糸3を有する場合、発光織物1は、導光糸2と非導光糸3とから製織されてなる。導光糸2は、経糸として含まれてもよく、緯糸として含まれてもよく、経糸及び緯糸の両方として含まれてもよいが、これらのうちでは、経糸又は緯糸として含まれることが好ましく、緯糸として含まれることがより好ましい。一方、非導光糸3は、経糸として含まれてもよく、緯糸として含まれてもよく、経糸及び緯糸の両方として含まれてもよい。これらのうちでは、経糸及び緯糸の両方として含まれることが好ましい。
【0013】
導光糸2は、一端から入斜された光を他端へ導光させながら、その側面から光を漏洩させることができる糸である。具体的には、芯(コア)と鞘(クラッド)とを有した芯鞘構造、即ち、「コア・クラッド構造」を有し、これら芯と鞘との屈折率差に基づき導光を行うことができる糸である。導光糸2は、コア・クラッド構造を有すればよく、1つのクラッドに対して1つのコアを有するコア・クラッド構造であってもよいし、1つのクラッドに対して2つ以上の複数のコアを有するコア・クラッド構造であってもよい(
図1参照)。
【0014】
また、導光糸2は、マルチフィラメントであってもよいが、通常、モノフィラメントである。マルチフィラメントである場合、フィラメントを構成する構成糸は、その全てが導光性能を有する糸であってもよいが、一部の糸のみが導光性能を有してもよい。
また、導光糸2は、製織性の観点から、樹脂製であることが好ましい。具体的には、〈1〉芯鞘界面(コア・クラッド界面)で全反射されない屈折率関係となるようにコア用樹脂とクラッド用樹脂とが組合せられた導光糸2、〈2〉コア用樹脂に光散乱物質が配合された導光糸2などを利用できる。
【0015】
即ち、上記〈1〉は、芯内を導光する光が芯鞘界面で全反射されず、鞘から外部へ漏光される現象を利用した側面発光型の導光糸2である。一方、上記〈2〉は、散乱物質の配合により、導光過程で光散乱物質により散乱された散乱光が側面から漏光される現象を利用した側面発光型の導光糸2である。上記〈2〉の導光糸2では、配合する光散乱物質の濃度の調整により輝度をコントロールできる。更には、これら以外の構成による側面発光型の導光糸2であってもよい。これらの導光糸2は、1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0016】
導光糸2の直径は特に限定されないが、製織性を好適に得る観点から、例えば、0.01mm以上2.0mm以下とすることができ、0.05mm以上1.5mm以下が好ましく、0.1mm以上1.0mm以下がより好ましい。
また、経糸又は緯糸に占める導光糸2の割合は限定されないが、経糸全本数を100%、又は、緯糸全本数を100%、とした場合に、通常、各々の方向の糸に対して10%以上であり、10%以上90%以下が好ましく、20%以上80%以下がより好ましく、30%以上70%以下が更に好ましい。特に導光糸2が緯糸としてのみ含まれる場合、経糸全本数100%に対して導光糸は0%であるとともに、緯糸全本数100%に対して、10%以上であり、10%以上90%以下が好ましく、20%以上80%以下がより好ましく、30%以上70%以下が更に好ましい。
【0017】
本発明の発光織物1では、その意匠面1a側に露出された少なくとも一部の導光糸2のクラッド21がブラスト研削されている。「ブラスト研削されている」とは、投射材の投射によってクラッド21が研削されていることを意味する。ブラスト研削に関する詳細については別途後述する。
ブラスト研削された導光糸2(
図2参照)は、そのクラッド21が除去されてコア22が露出されているか、又は、クラッド21の厚さがブラスト研削されていない箇所のクラッド21よりも薄くなっている(薄化されている)。これらの態様は、混在されていてもよい。このような構成により、ブラスト研削されていない箇所に比べて、ブラスト研削された箇所25からの漏光量を多くすることができる。通常、導光糸2は、その断面形状において、ブラスト研削された箇所25の外形が、ブラスト研削されていない箇所の外形よりも、中心側へ位置される。このため、その断面形状は円形ではなくなる。
【0018】
また、クラッド21の除去又は薄化をブラスト研削によって行うことで、所望の領域に存在する意匠面から露出された導光糸2を一括して研削できるとともに、導光糸2の露出面を広く研削できる。即ち、意匠面1a側に露出された導光糸2は、意匠面1aにおいて、通常、非導光糸3の間から露出された導光糸2といえる。このように、導光糸2のうち非導光糸3の間から露出された部位(即ち、露出部)は、発光織物1の意匠面1aに多数存在するが、互いに隣接された複数の露出部が一括して研削された構成とすることができる。このため、隣接する露出部間における発光の落ち込みを抑えることができ、発光意匠の連続性が得られやすく、広がりのある発光意匠を形成できる。
【0019】
即ち、レーザーエッチング法(
図3参照)を用いてクラッドを除去又は薄化すると、隣接する非導光糸3を損傷させないように処理を行う必要があるため、導光糸2の露出面の全面のクラッド21を除去又は薄化することは困難である。そのため、レーザーエッチング法を用いてクラッドを除去又は薄化した場合には、処理部26は、輝点や輝線のように狭く発光することになり、隣接する導光糸2との間で発光意匠の連続性が得られ難く、広がりのある発光意匠を形成し難い。これに対して、本発明の発光織物1では、前述の通り、導光糸2の露出部を一括して研削できるとともに、隣接する非導光糸3との境界領域まで導光糸2の露出面を広く研削できる。このため、隣接する導光糸2との間における発光の落ち込みを小さく抑えることができ、発光意匠の連続性が得られやすく、広がりのある発光意匠を形成できる。
【0020】
より具体的には、ブラスト研削された導光糸2では、導光糸2の導光方向に直交された略円形断面における中心をPとした場合に、Pから広がるブラスト研削された領域の角度をθ1とし、Pから広がるブラスト研削されていない領域の角度をθ0とした場合に、θ1≧θ0とすることができる。この構成は、とりわけ、発光織物1の意匠面1a側において上糸となっている導光糸2において顕著に得ることができる。
【0021】
また、非導光糸3は、導光特性を有さない糸である。非導光糸3は、モノフィラメントであってもよいが、マルチフィラメントであることが好ましい。非導光糸3が、マルチフィラメントであることにより、ブラスト研削によって非導光糸3が研削されることを防止又は抑制することができる。即ち、非導光糸3がマルチフィラメントである場合には、投射材の衝突衝撃を吸収又は緩和することができる。これにより、発光織物1の強度を維持することができる。即ち、非導光糸3が、モノフィラメントであると、ブラスト研削によって導光糸2と同様に研削されてしまう場合があり、研削による発光織物1の強度低下が懸念される。この点、非導光糸3の研削が防止又は抑制されることで、発光織物1の強度低下を防ぐことができる。
【0022】
非導光糸3を構成する材料は限定されず、天然繊維であってもよいし、合成繊維であってもよい。合成繊維である場合、その構成樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリアクリル系樹脂等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0023】
非導光糸3の繊度は限定されないが、例えば、10dtex以上2000dtex以下とすることができ、20dtex以上1000dtex以下が好ましく、30dtex以上700dtex以下がより好ましい。
また、非導光糸3がマルチフィラメントである場合、その構成糸数は限定されないが、例えば、10本以上とすることができ、100本以上が好ましく、200本以上がより好ましい。構成糸数の上限は限定されないが、例えば、10000本以下とすることができ、5000本以下とすることができ、2500本以下とすることができる。
【0024】
また、非導光糸3は、透光阻害成分を含まなくてもよいが、透光阻害成分を含むことができる。非導光糸3が、透光阻害成分を含む場合は、導光糸2に対する遮光性を向上させることができる。
透光阻害成分は、透光を阻害できる成分であればよく、例えば、反射・分散により透光阻害してもよく、吸光により透光阻害してもよく、その他の作用により透光阻害してもよい。具体的には、着色剤(顔料、染料等)、吸光剤、増量剤(各種フィラー類等)等が挙げられる。
【0025】
本発明の発光織物1における織組織は限定されず、従来公知の織組織を適宜利用できる。具体的には、例えば、平織り、綾織り、朱子織りなどを用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。また、本発明の発光織物1における織組織は限定されず、従来公知の織構造を適宜利用できる。具体的には、単層織にされていてもよいし、多層織にされていてもよいし、これらが複合されていてもよい。
【0026】
本発明の発光織物1では、その意匠面の全面が、ブラスト研削されていてもよいが、一部のみがブラスト研削されていてもよい。一部のみがブラスト研削されている場合としては、例えば、発光織物1にブラスト研削による模様が形成されている場合が挙げられる。この場合、当該模様の発光を、他部よりも拡大することができる。即ち、発光織物1のうちブラスト研削された領域の輝度を、ブラスト研削されていない領域の輝度よりも大きくすることができる。これにより、ブラスト研削された領域と、ブラスト研削されていない領域と、の輝度差を利用したデザインを形成できる。上記の模様としては、例えば、絵、文字、パターン(繰返しパターン、ラインパターン等)などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0027】
また、本発明の発光織物1では、所望の領域における輝度が拡大されるため、光源のパワーを抑えて用いることができる。このため、発光織物1の発光に用いるエネルギー量を抑制できる。また、光源のパワーを抑制できることから、光源の発熱量を良くすることができ、付随する部品の大きさを小さく抑えることができる。
本発明の発光織物1は、光源との接続のために導光糸2を束ねて、その端面を揃えた収束端を備えることができる。収束端は、1つのみを備えてもよいし、発光意匠に合わせて適宜の本数の導光糸2を束ねた複数の収束端を備えてもよい。
【0028】
[2]乗物用内装材
本発明の乗物用内装材は、本発明の発光織物1を備えることを特徴とする。
乗物用内装材において、発光織物1は室内側の表皮として利用できる。即ち、乗物内装材の意匠を形成できる。
また、乗物用内装材は発光織物1以外に他構成部を備えることができる。他構成部としては、基材、光源(LED光源等)などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0029】
基材は、その表面に発光織物1が固定される部品である。基材はどのような材料から形成されてもよく、例えば、樹脂材料から形成できる。樹脂材料としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。また、基材としては、バインダ樹脂を用いて強化繊維を結着してなる繊維質成形体を用いることができる。この場合、バインダ樹脂としては、ポリオレフィンを用いることができる。また、強化繊維としては、植物繊維、樹脂繊維(ポリエステル繊維、ポリアミド繊維等)、無機繊維(ガラス繊維、炭素繊維等)等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。上記のうち、植物繊維としては、ケナフ、ヘンプ、ジュート麻等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。繊維質成形体において、バインダ樹脂量と強化繊維量との割合は限定されないが、バインダ樹脂量と強化繊維量との合計を100質量%とした場合に、強化繊維の割合は、10~90質量%、25~75質量%、35~65質量%等とすることができる。
【0030】
乗物用内装材としては、自動車等の車両に適用した場合、ドアトリム、アームレスト、アッパートリム、加飾パネル、オーナメントパネル、ロアトリム、ポケット(ドアトリムポケット)、クォータートリム、デッキサイドトリム等のトリム系部品;ピラーガーニッシュ;カウルサイドガーニッシュ(カウルサイドトリム);サイドエアバッグ周辺部品等のシート系部品;センタークラスター、レジスター、センターボックス(ドア)、グラブドア、エアバッグ周辺部品等のインストルメントパネル系部品;センターコンソール;オーバヘッドコンソール;サンバイザー;デッキボード(ラゲージボード)、アンダートレイ;パッケージトレイ;CRSカバー;シートサイドガーニッシュ;アシストグリップ等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
また、乗物としては、自動車等の車両以外に、鉄道車両、航空機、船舶等が挙げられる。
【0031】
[3]発光織物の製造方法
本発明の発光織物の製造方法は、導光糸2が織り込まれた発光織物1の製造方法であって、
導光糸2は、コア・クラッド構造を有する側面発光型導光糸であり、
発光織物1となる織物10の意匠面10a側に露出された少なくとも一部の導光糸2のクラッド21をブラスト研削するブラスト工程R1を備えることを特徴とする(
図4参照)。
【0032】
本方法において、導光糸、コア・クラッド構造及び側面発光型導光糸については前述の通りである。また、織物10は、発光織物1となる織物10であり、完成品である発光織物1に対してブラスト工程R1を経ていない点では異なるが、その構成については前述の通りである。
【0033】
上記「ブラスト工程(R1)」は、織物10の意匠面10a側に露出された少なくとも一部の導光糸2のクラッド21をブラスト研削する工程である。即ち、ブラスト工程R1は、投射材の投射によってクラッド21を研削する工程である。この工程は、ブラスト装置15を用いて行うことができる。この研削によって、織物10の意匠面10a側に露出された導光糸2のクラッド21を除去又は薄化することができる。
【0034】
即ち、本方法では、発光織物1の意匠面1a側に露出された導光糸2のクラッド21をブラスト研削により除去又は薄化することができる。「ブラスト研削する」とは、投射材の投射によってクラッド21を研削することを意味する。ブラスト研削することにより、加工前に備えられていた導光糸2のクラッド21は除去されるか、又は、クラッド21の厚さを薄くする(薄化する)ことができる。これらの態様は、混在されていてもよい。これにより、ブラスト研削した箇所からの漏光量を多くすることができる。
【0035】
また、ブラスト研削によって、クラッド21の除去又は薄化を行うことにより、所望の領域に存在する意匠面から露出された導光糸2を一括して研削できるとともに、導光糸2の露出面を広く研削できる。そのため、隣接する露出部間における発光の落ち込みを抑えることができ、発光意匠の連続性が得られやすく、広がりのある発光意匠を形成できる。また、広く研削できることに加えて、連続的に研削を行うことができる。このため、発光織物となる織物の原反をブラスト装置内に流し入れて連続的にブラスト加工することができ、量産性に優れる。
【0036】
ブラスト工程R1において、用いる投射材は限定されない。即ち、投射材の材質、投射材の硬度、投射材の形状等は限定されない。また、投射方法も限定されない。即ち、機械式投射であってもよいし、空気式投射であってもよいし、湿式投射であってもよい。また、投射速度、投射角度、投射量、投射圧等の投射条件も限定されない。
【0037】
上述のなかでも、投射材の材質は、水溶性(湯溶性を含む)であることが好ましい。投射材の材質が水溶性を呈する場合には、ブラスト工程R1においてブラストを行った後に、加工後の織物10に付着したり、構成糸間に入り込んだりした投射材やその残渣を水洗(湯洗)により除去できる。水溶性の程度は限定されないが、水に対する溶解度として5g/100g(20℃)以上であることが好ましい。
【0038】
水溶性の材質は、水溶性樹脂やショ糖等の水溶性有機物であってもよいが、より高い洗浄性を得るという観点から水溶性無機化合物が好ましい。水溶性無機化合物としては、炭酸水素ナトリウム[9.6g/100g(20°C)]、炭酸ナトリウム[21.6g/100g(20°C)]、硝酸カリウム[31.6g/100g(20°C)]、炭酸水素カリウム[33.3g/100g(20°C)]、塩化カリウム[34.2g/100g(20°C)]、塩化マグネシウム[35.3g/100g(20°C)]、塩化ナトリウム[35.8g/100g(20°C)]、塩化カルシウム[42.7g/100g(20°C)]、臭化カリウム[60.0g/100g(20°C)]、硝酸ナトリウム[88.0g/100g(20°C)]等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0039】
上述のなかでも、投射材の硬度は、新モース硬度において1以上であることが好ましく、1.5以上がより好ましく、2以上が更に好ましい。新モース硬度の上限は限定されないが、6以下が好ましく、4以下がより好ましい。
また、投射材の形状は、粒状であることが好ましく、更には、球状、多角形状等とすることができる。
更に、投射材の平均粒径は、0.01mm以上であることが好ましく、0.03mm以上がより好ましく、0.05mm以上が更に好ましく、0.07mm以上が特に好ましい。平均粒径の上限は限定されないが、0.6以下が好ましく、0.5以下がより好ましく、0.4以下が更に好ましく、0.3以下が特に好ましい。尚、投射材の平均粒径は、レーザー回折/散乱式粒子径測装置を用いて計測されるd50の値とする。
また、投射方法は、前述の通り、水溶性を呈する投射材を投射するという観点からは、機械式投射及び/又は空気式投射が好ましい。
【0040】
本方法では、ブラスト工程R1以外の工程を備えてもよく備えなくてもよいが、ブラスト工程R1後に、発光織物1となる織物10を水洗する水洗工程R2(
図5参照)を備えることができる。この工程は水洗槽16を用いて行うことができる。更に、水洗工程R2後に、水洗された織物10を乾燥させる乾燥工程R3(
図6参照)を備えることができる。この工程は乾燥装置17を用いて行うことができる。
前述の通り、投射材として、水溶性の投射材(水溶性投射材)を用いた場合には、織物10内に投射材やその破砕物が残存しやすいが、水洗工程R2を設けることにより、投射材の残渣を水溶させて容易に除去することができる。
【0041】
水洗工程R2は、どのように行ってもよく、例えば、織物10に対して水を噴射することにより水洗してもよいし、水を貯めた水槽内に織物10を潜らせることにより水洗してもよいし、更には、その他の方法を用いてもよい。これらの方法は、1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
また、当然ながら、用いる水は温度25℃以下(水)であってもよく、25℃超の水(湯)であってもよい。水洗で用いる水の温度は、一般に、高温になる程、除去対象物の溶解度が大きくなるため好ましい。
【0042】
尚、本発明の発光織物1は、その意匠面1a側に露出された少なくとも一部の導光糸2のクラッド21がブラスト研削されているが、このブラスト研削された発光織物は、その構造又は特性によって直接特定することが不可能又はおよそ実際的でないという事情が存在する。即ち、ブラスト研削は、多量の投射材の粒子を発光織物となる織物に吹き付けることで行うが、投射材の粒子は、全てが一定の形状ではないうえ、不規則に導光糸に衝突しながら、導光糸のクラッドを除去又は薄化するため、除去又は薄化された部位は特定の形状を有しておらず一概に文言により特定することは不可能である。
また、ブラスト研削された領域では輝度拡大を生じるが、前述の通り、例えば、レーザーエッチングにより輝度拡大された場合と比較して、その見え方が全くことなったものとなる。これは、ブラスト研削した場合には、隣接する非導光糸との境界領域まで導光糸の露出面が広く研削されるため、隣接する導光糸との間における発光の落ち込みを小さく抑えることが原因であると考えられるが、ミクロにみると各研削部によってまちまちである。このため、当該作用の機序の解明には、ブラスト研削によって除去又は薄化された個々の部位を1つずつ観察し、その形状の平均値を算出することにより可能となるかもしれないが、その測定には、膨大な時間とコストを要する。このように、機序の解明には、膨大な時間とコストを要し、特許出願の性質上、迅速性等を必要とすることに鑑みてもおよそ実際的ではない。
【実施例0043】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
[1]前駆織物の用意
下記の導光糸を緯糸のうちの一部に、下記の非導光糸を緯糸の他部と縦糸とに用いて得た織物(前駆織物)を用意した。
導光糸:側面発光型導光糸(ポリメチルメタクリレート製コア、フッ素化樹脂クラッド、直径250μm)
非導光糸:ポリエステル製マルチフィラメント(黒色)
【0044】
[2]ブラスト工程
(1)下記に示す投射材1~3、投射圧1~4、ノズル移動速度1~2の各条件の全組合せにより上記[1]の織物のブラスト加工を行った後、水洗工程及び乾燥を行って発光織物を得た。
【0045】
投射材1:重曹(純度99%以上の炭酸水素ナトリウム)、平均粒径0.1mm、新モース硬度2.5、多角形状の粒子形状
投射材2:重曹(純度99%以上の炭酸水素ナトリウム)、平均粒径0.2mm、新モース硬度2.5、多角形状の粒子形状
投射材3:重曹(純度99%以上の炭酸水素ナトリウム)、平均粒径0.3mm、新モース硬度2.5、多角形状の粒子形状
【0046】
噴射圧1:0.2MPa、ノズル先端から投射面まで150mm
噴射圧2:0.3MPa、ノズル先端から投射面まで150mm
噴射圧3:0.4MPa、ノズル先端から投射面まで150mm
噴射圧4:0.5MPa、ノズル先端から投射面まで150mm
【0047】
ノズル移動速度1:200mm/分
ノズル移動速度2:300mm/分
【0048】
[3]発光織物の評価
上記[2](1)により得られた各発光織物に対して、同条件でLED光を入射させた際に変化を観察した。その結果、いずれの発光織物でも、加工前の織物に対して、加工後の織物は発光拡大が認められた。また、いずれの発光織物でも、非導光糸に損傷は認められず、導光糸のみが研削されていた。更に、輝点は認められず、隣接する導光糸間の発光の落ち込みが目立たず、発光意匠の連続性が得られ、広がりのある発光意匠が形成された。更に、導光方向に直交する断面を160倍に拡大した画像において、クラッドの研削状態を確認したところ、θ1≧θ0であることが認められた。
【0049】
また、これらの例の間では、投射材の平均粒径が大きい程、また、投射圧が高い程、光源側における輝度が強くなる傾向が認められた。そして、発光織物における発光意匠の連続性及び広がりのある発光意匠の観点からは、投射材3よりも投射材2が好ましく、更には、投射材1がより好ましかった。また、噴射圧4よりも噴射圧3が好ましく、更には噴射圧2がより好ましかった。尚、ノズル移動速度はいずれの条件も問題なく利用できた。
【0050】
尚、前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本発明の記述及び図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的及び例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲又は精神から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料及び実施例を参照したが、本発明をここに掲げる開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。